説明

ベンゾクロメノン化合物

【課題】蛍光官能基を含む新規な化合物、特に、溶媒の極性増加など、周囲の環境の変化に伴ってΦ値が変動する環境応答性の蛍光特性を有する化合物、ならびに当該化合物を含む蛍光標識化試薬、および蛍光試薬の提供。
【解決手段】式(I):


[Rは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、−SO、C1−6アルキル等;Xは、OまたはS;Rは、水素原子またはC1−6アルキル;Qは、C1−10アルキレン基;Yは、ハロゲン原子、ヒドロキシ等]で表される化合物またはその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾクロメノン化合物、および当該化合物を含む蛍光標識化用試薬に関する。さらに、本発明は、当該化合物より調製されるポリマー、当該ポリマーを含む蛍光試薬、および当該ポリマーの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光法は一分子でも検出可能なほど高感度であり、現在までに多くの蛍光試薬が開発されている。最近、蛍光試薬の新しい利用例として、外部刺激に伴うタンパク質や合成高分子の構造変化を環境応答性の蛍光団のラベルによって追跡する報告や、その蛍光応答から外部刺激の程度を測定する報告がなされている(非特許文献1〜4)。現在のところ、これらの研究には、溶媒の極性低下に伴い蛍光量子収率(Φ)が増加する環境応答性の蛍光団が用いられており、高分子の局所的な極性が低下する場合に蛍光シグナルが得られる。逆に局所的な極性の増加に対しては、それに伴ってΦ値が増加する蛍光団の適用が望ましい。
【0003】
溶媒の極性増加に伴ってΦ値が上昇する環境応答性の蛍光団としては、ピレン−3−カルボキサルデヒドおよび7−メトキシ−4−メチルクマリンの二例が報告されている(非特許文献5および6)。しかし、前者は安定性の面からさらなる官能基の導入に制約があり標識化試薬としての利用が難しい。後者は吸収、蛍光波長が318、380nm程度と短波長であるため、測定系に共存する芳香環により検出妨害を受けやすいという欠点を有している。
【0004】
【非特許文献1】Cohen,B.E.;McAnaney,T.B.;Park,E.S.;Jan,Y.N.;Boxer,S.G.;Jan,L.Y.Science 2002年,第296巻,第1700〜1703頁
【非特許文献2】Wada,A.;Mie,M.;Aizawa,M.;Lahoud,P.;Cass,A.E.G.;Kobatake,E.J.Am.Chem.Soc.2003年,第125巻,第16228〜16234頁
【非特許文献3】Uchiyama,S.;Kawai,N.;de Silva,A.P.;Iwai,K.J.Am.Chem.Soc.2004年,第126巻,第3032〜3033頁
【非特許文献4】Kalyanasundaram,K.;Thomas,J.K.J.Phys.Chem.1977年,第81巻,第2176〜2180頁
【非特許文献5】de Melo,J.S.S.;Becker,R.S.;Macanita,A.L.J.Phys.Chem.1994年,第98巻,第6054〜6058頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、蛍光官能基を含む新規な化合物、特に、溶媒の極性増加など、周囲の環境の変化に伴ってΦ値が変動する環境応答性の蛍光特性を有する化合物、ならびに当該化合物を含む蛍光標識化試薬、および蛍光試薬を提供することである。さらに、本発明の目的は、蛍光官能基を含む新規なポリマーおよび当該ポリマーの新規な用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究を進めたところ、溶媒の極性増加に伴ってΦ値が上昇する環境応答性の蛍光特性を有する2H−ベンゾ[g]クロメン−2−オン化合物を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の1つの側面によれば、式(I):
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、Rは、独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、−SO、C1−6アルキル(当該アルキルは、独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシ、−NR1112、−SOOHから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい)、C1−6アルコキシ、C1−6アルキルチオ、−NR1314およびC1−6アルコキシカルボニルから選択され;
qは1〜2の整数から選択され;
は、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アミノ、C1−6アルキルアミノまたはジ(C1−6アルキル)アミノであり;
nは1〜6の整数から選択され;
Xは、OまたはSであり;
は、水素原子またはC1−6アルキル(当該アルキル基は、独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシ、−NR1516、−SOOHから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい)であり;
Qは、C1−10アルキレン基であり;
Yは、ハロゲン原子、ヒドロキシ、メルカプト、−NCS、−NCO、ハロカルボニル、カルボキシ、C1−6アルコキシカルボニル、−NR1718、マレイミド、C2−6アルケニルチオ、C2−6アルケニルスルホニル、−CH(NHR21)COOR22または−X−Zであり;
は、OまたはNR19であり;
Zは、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C2−6アルケニルカルボニル、C2−6アルキニルカルボニル、または−(CHCH(NHR23)COOR24であり;
mは1〜6の整数から選択され;
11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は、独立に、水素原子およびC1−6アルキルから選択され;
21およびR23は、独立に、水素原子、C1−6アルキルカルボニル、C1−6アルコキシカルボニル、C7−14アラルキルオキシカルボニルおよびフルオレン−9−イルメチルオキシカルボニルから選択され;
22およびR24は、独立に、水素原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシC1−6アルキル、C7−14アラルキル、C7−14アラルキルオキシC1−6アルキルから選択される]
で表される化合物またはその塩が提供される。
【0010】
式(I)において、基−Q−YおよびRは、ベンゾクロメノン環に含まれる置換可能ないずれの炭素原子に連結していてもよい。
本発明の別の側面によれば、式(Ia):
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、R、n、X、R、Q、Yは既に定義したとおりである]
で表される、上記の化合物またはその塩が提供される。
本発明の1つの態様において、上記式(I)または(Ia)においてXはOであってもよい。また本発明の1つ態様において、Rは、独立に、水素原子およびC1−6アルキルから選択されてもよい。
【0013】
本発明の1つの態様において、Yは、ハロゲン原子またはヒドロキシであってもよい。また、本発明の別の態様において、Yがアクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシであってもよい。
【0014】
本発明の別の側面によれば、 式(II):
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、R、n、X、R、QおよびXは既に定義したとおりであり;
は水素原子またはC1−6アルキル(例えば、メチル)である]
で表される繰り返し単位を含むポリマーが提供される。本発明の1つの態様において、本発明のポリマーは、式(III):
【0017】
【化4】

【0018】
[式中、R31は水素原子またはC1−6アルキル(例えば、メチル)であり;
32はヒドロキシ、アミノ、C1−10アルコキシ、C1−10アルキルアミノまたはジ(C1−10アルキル)アミノであり、ここで当該C1−10アルコキシ、C1−10アルキルアミノ、ジ(C1−10アルキル)アミノは、それぞれ独立に、ヒドロキシ、アミノ、C1−10アルコキシ、C1−10アルキルアミノまたはジ(C1−10アルキル)アミノから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい]
で表される繰り返し単位をさらに含んでいてもよい。本発明の1つの態様において、式(II)で表される繰り返し単位および式(III)で表される繰り返し単位からなるポリマーもまた提供される。
【0019】
本発明の1つの側面によれば、式(IIa):
【0020】
【化5】

【0021】
[式中、R、n、X、R、R、QおよびXは既に定義したとおりである]
で表されるモノマー、および式(IIIa):
【0022】
【化6】

【0023】
(IIIa)
[式中、R31およびR32は既に定義したとおりである]
で表されるモノマーから調製されうるポリマーが提供される。
【0024】
本発明のポリマーにおいて、分子中に含まれる全繰り返し単位数に対する、式(II)で表される繰り返し単位数の比は、特に限定はされないが、例えば0.001〜10%、好ましくは0.01〜1%であってもよい。また、本発明のポリマーの重量平均分子量は、特には限定されないが、例えば5000〜1000000、好ましくは10000〜200000である。
【0025】
本発明の別の側面によれば、上記式(I)または(Ia)で表される化合物を含む、蛍光標識化用試薬が提供される。
さらに、本発明の別の側面によれば、上記のポリマーを含む蛍光試薬が提供される。当該蛍光試薬の用途は特には限定されないが、例えば液体の温度の測定に使用されうる。
【0026】
さらに、本発明の別の側面によれば、式(Ib):
【0027】
【化7】

【0028】
[式中、Rは、独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、−SO、C1−6アルキル(当該アルキルは、独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシ、−NR1112、−SOOHから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい)、C1−6アルコキシ、C1−6アルキルチオ、−NR1314およびC1−6アルコキシカルボニルから選択され;
qは1〜2の整数から選択され;
は、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アミノ、C1−6アルキルアミノまたはジ(C1−6アルキル)アミノであり;
nは1〜6の整数から選択され;
Xは、OまたはSであり;
は、水素原子またはC1−6アルキル(当該アルキル基は、独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシ、−NR1516、−SOOHから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい)であり;
Qは、C1−10アルキレン基であり;
は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ、メルカプト、−NCS、−NCO、ハロカルボニル、カルボキシ、C1−6アルコキシカルボニル、−NR1718、マレイミド、C2−6アルケニルチオ、C2−6アルケニルスルホニル、−CH(NHR21)COOR22または−X−Zであり;
は、OまたはNR19であり;
Zは、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C2−6アルケニルカルボニル、C2−6アルキニルカルボニル、または−(CHCH(NHR23)COOR24であり;
mは1〜6の整数から選択され;
11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は、独立に、水素原子およびC1−6アルキルから選択され;
21およびR23は、独立に、水素原子、C1−6アルキルカルボニル、C1−6アルコキシカルボニル、C7−14アラルキルオキシカルボニルおよびフルオレン−9−イルメチルオキシカルボニルから選択され;
22およびR24は、独立に、水素原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシC1−6アルキル、C7−14アラルキル、C7−14アラルキルオキシC1−6アルキルから選択される]
で表される化合物またはその塩を含む、蛍光試薬が提供される。
【0029】
さらに、本発明の別の側面によれば、式(Id):
【0030】
【化8】

【0031】
[式中、R、n、X、R、Q、Yは既に定義したとおりである]
で表される化合物またはその塩を含む、既に記載の蛍光試薬が提供される。上記蛍光試薬は、例えば溶液の極性の変化の測定に使用されうる。
【0032】
さらに、本発明の別の側面によれば、液体に前記蛍光試薬を溶解する工程;および励起光照射下、蛍光強度を測定する工程、を含む、液体の温度測定方法もまた提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の化合物は、蛍光標識化試薬または蛍光試薬として好適な特性を有する。特に本発明の化合物に含まれる蛍光官能基であるベンゾクロメノンイル基は、酸性条件下およびアルカリ性条件下でも安定であり、官能基導入のための種々の反応に適用可能である。また、本発明の化合物の蛍光波長は極性溶媒中で約460nm以上であり、蛍光の検出について測定系に共存する芳香環による影響を受けにくいという特性を有する。さらに、本発明の化合物は、溶媒の極性増加などの環境応答に伴って蛍光量子収率(Φ)が増加するという蛍光特性を有するので、当該化合物を含む溶液中の環境変化または当該化合物で標識化した分子の変化を追跡するための蛍光試薬としても使用することができる。
【発明の実施の形態】
【0034】
以下、本発明を更に具体的に説明する。
本明細書において「C1−6アルキル」とは、炭素数1〜6の直鎖状、分岐鎖状、環状または部分的に環状のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、3−メチルブチル、2−メチルブチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、4−メチルペンチル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、3−エチルブチル、および2−エチルブチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロプロピルメチルなどが含まれ、例えば、C1−4アルキルおよびC1−3アルキルなども含まれる。
【0035】
本明細書において「C2−6アルケニル」とは、炭素数2〜6の直鎖状、分岐鎖状、環状または部分的に環状のアルケニル基を意味し、例えば、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル(アリル)、1−メチルビニル、シクロペンテニル、およびシクロヘキセニルなどが含まれ、例えば、C2−4アルケニルおよびC2−3アルケニルなども含まれる。
【0036】
本明細書において「C2−6アルキニル」とは、炭素数2〜6の直鎖状、分岐鎖状、環状または部分的に環状のアルケニル基を意味し、例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル(プロパルギル)、2−シクロプロピルエチニルなどが含まれ、例えば、C2−4アルキニルおよびC2−3アルキニルなども含まれる。
【0037】
本明細書において「C1−6アルコキシ」とは、アルキル部分として既に定義した炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルオキシ基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、i−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、3−メチルブトキシ、2−メチルブトキシ、1−メチルブトキシ、1−エチルプロポキシ、n−ヘキシルオキシ、4−メチルペントキシ、3−メチルペントキシ、2−メチルペントキシ、1−メチルペントキシ、3−エチルブトキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロプロピルメチルオキシなどが含まれ、例えば、C1−4アルコキシおよびC1−3アルコキシなども含まれる。また、本明細書において「C1−4アルコキシ」には、例えばC1−3アルコキシなども含まれる。
【0038】
本明細書において「C1−6アルキルカルボニル」とは、アルキル部分として既に定義したC1−6アルキル基を有するアルキルカルボニル基を意味し、例えばC1−6アルキルカルボニルが含まれる。
【0039】
本明細書において「C1−6アルコキシカルボニル」とは、アルコキシ部分として既に定義したC1−6アルキル基を有するアルコキシカルボニル基を意味し、例えばC1−3アルコキシカルボニルが含まれる。
【0040】
本明細書において「C7−14アラルキル」とはアリール基を含む炭素数が7〜14のアリールアルキル基を意味し、例えば、ベンジル、1−フェネチル、2−フェネチル、1−ナフチルメチル、2−ナフチルメチルなどが含まれる。
【0041】
本明細書においてハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子などが挙げられる。
本明細書において「C1−10アルキレン」とは、炭素数1〜10の直鎖状、分岐鎖状、環状または部分的に環状のアルキレン基を意味し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが含まれる。
【0042】
本明細書において「C2−6アルケニルチオ」とは、アルケニル部分として既に定義したC2−6アルケニル基を有するアルケニルチオ基を意味し、例えばビニルチオ、アリルチオなどが含まれる。
【0043】
本明細書において「C2−6アルケニルスルホニル」とは、アルケニル部分として既に定義したC2−6アルケニル基を有するアルケニルスルホニル基を意味し、例えばビニルスルホニル、アリルスルホニルなどが含まれる。
【0044】
本明細書において「C2−6アルケニルカルボニル」とは、アルケニル部分として既に定義したC2−6アルケニル基を有するアルケニルカルボニル基を意味し、例えばアクリロイル、メタクリロイルなどが含まれる。
【0045】
本明細書において「C2−6アルキニルスルホニル」とは、アルキニル部分として既に定義したC2−6アルキニル基を有するアルキニルカルボニル基を意味し、例えばエチニルカルボニルなどが含まれる。
【0046】
本明細書における「C7−14アラルキルオキシC1−6アルキル」には、例えばベンジルオキシメチルなどが含まれる。
本明細書における「C1−6アルコキシC1−6アルキル」には、例えばメトキシメチル、エトキシメチル、2−メトキシエチル、1−メトキシエチルなどが含まれる。
【0047】
本明細書における「C7−14アラルキルオキシカルボニル」には、例えばベンジルオキシカルボニルなどが含まれる。
本明細書における「ハロカルボニル」には、例えばクロロカルボニルなどが含まれる。
【0048】
本明細書において「−SO」には、例えば、−SOOH、C1−6アルキルスルフィニル、C1−6アルキルスルホニル、C1−6アルコキシスルフィニル、C1−6アルコキシスルホニル、スルファモイル、C1−6アルキルスルファモイル、ジ(C1−6アルキル)スルファモイルなどが含まれる。
【0049】
本明細書において「C1−6アルキルチオ」とは、アルキル部分として既に定義した炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルチオ基を意味し、例えば、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、i−プロピルチオ、n−ブチルチオ、s−ブチルチオ、i−ブチルチオ、t−ブチルチオなどが含まれる。
【0050】
上記式(I)および(Ia)で表される化合物に関する本発明には、互変異性体、幾何異性体、光学異性体等の各種の立体異性体、およびそれらの混合物が含まれる。
本発明の化合物の塩とは、有機化学において通常使用されうる塩であれば特に限定されない。本発明化合物が塩基と形成する塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩などが挙げられる。当該塩は、酸付加塩であってもよく、かかる塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;および、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸酸との酸付加塩が挙げられる。
【0051】
更に、本発明化合物には、水和物、各種溶媒和物や結晶多形等も含まれる。
本発明に係る式(I)および(Ia)の化合物は、例えば、以下のスキームに示す工程により合成することができる。
【0052】
【化9】

【0053】
[式中、R、X、R、QおよびYは既に定義したとおりであるか、または含まれる官能基が適切な保護基により保護されていてもよく、pは1〜5から選択される整数であり、R41はC1−6アルキルである]
本発明の化合物は、化合物1−1とアセト酢酸エステルを酸性条件下で縮合させることにより調製することができる。ここで、化合物1−1に反応性の官能基が含まれる場合はこれを適当な保護基で保護した後に上記反応を行い、その後適当な脱保護条件に付すことにより、目的の化合物1−2を得ることもできる。使用する酸としては、例えば硫酸、スルファミン酸、過塩素酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。上記工程は、特に限定はされないが、例えば0〜100℃、好ましくは20〜30℃の反応温度、および例えば0.1〜24時間、好ましくは1〜8時間の反応時間で行うことができる。
【0054】
【化10】

【0055】
[式中、R、X、R、QおよびYは既に定義したとおりであるか、または含まれる官能基が適切な保護基により保護されていてもよく、pは1〜5から選択される整数であり、R42はC1−6アルキルである]
本発明の化合物は、化合物2−1とβ−ケトカルボン酸エステルを酸性条件下で縮合させることによっても調製することができる。ここで、化合物1−1またはβ−ケトカルボン酸エステルに反応性の官能基が含まれる場合はこれを適当な保護基で保護した後に上記反応を行い、その後適当な脱保護条件に付すことにより、目的の化合物2−2を得ることもできる。使用する酸としては、例えば硫酸、スルファミン酸、過塩素酸、トルエンスルホン酸などが挙げられる。上記工程は、特に限定はされないが、例えば0〜100℃、好ましくは20〜30℃の反応温度、および例えば0.1〜24時間、好ましくは1〜8時間の反応時間で行うことができる。
【0056】
本発明のポリマーは、上記式(II)で表される繰り返し単位を有する限りにおいて、特に限定はされないが、例えば、ポリエチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリスチレン誘導体などとのコポリマーであってもよい。
【0057】
本発明のポリマーは、当業者に周知の通常の重合条件、好ましくはラジカル重合の条件を使用して調製することができる。使用する反応溶媒としては、例えば、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ベンゼン、メタノールなどが挙げられる。使用するラジカル開始剤としては、例えば、α,α−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNとも称する)、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウムを使用することができる。該重合反応の条件は使用するモノマーおよびの量などに依存して決定されるが、例えば0〜100℃、好ましくは50〜70℃の反応温度、および例えば1〜24時間、好ましくは8〜12時間の反応時間で行うことができる。
【0058】
本発明に係る式(I)および(Ia)の化合物は、蛍光標識化試薬および当該試薬を調製するための合成中間体として使用されうる。例えば、式(I)および(Ia)においてYが−NCS、−NCO、ハロカルボニルである化合物は、ヒドロキシ基またはアミノ基を含む化合物の蛍光標識化に使用することができる。特にYが−NCSである化合物はペプチドまたはタンパク質中のリシン残基などの修飾による蛍光標識化に使用することができる。同様に、Yがカルボキシである化合物を、適当な試薬を用いて活性エステルに変換し、ペプチドまたはタンパク質の蛍光標識化に使用することができる。ここで、用いられ得る活性エステル化試薬としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、N−エチル−N′−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド、p−ニトロフェノール、N−ヒドロキシサクシンイミド、ペンタフルオロフェノールなどが挙げられる。
【0059】
Yにメルカプト基を含む化合物は、二重結合への付加反応による分子中に二重結合を含む化合物の蛍光標識化に使用することができる。また、システイン残基などとS−S結合を形成することによるペプチドまたはタンパク質の蛍光標識化に使用することもできる。
【0060】
Yに二重結合または三重結合を含む化合物(例えば、Yがマレイミド、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシである化合物)は、システイン残基などとの付加反応によりペプチドまたはタンパク質の標識化に使用することができる。
【0061】
Yにアミノ酸構造を有する化合物は、蛍光標識化されたペプチドまたはタンパク質の合成に使用することができる。
蛍光標識化試薬は、本発明の化合物に加えて、任意の添加物(例えば、溶媒、安定化剤など)を含んでいてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
試薬およびデータ測定
試薬は特に言及がない限り購入したものをさらに精製することなく使用した。H−NMRは、BRUKER AVANCE400スペクトロメーター(400MHz)を使用して測定し、ケミカルシフトはppmで表示した。質量分析はBRUKER micrOTOF−05スペクトロメーターを使用し、元素分析はYanaco MT−6 CHN CORDERスペクトロメーターを使用して行った。融点の測定はYanaco Micro Melting Point Apparatus MP−J3を使用して測定し、補正は行わなかった。数平均分子量、重量平均分子量はJASCO GPC system(JASCO PU−2080ポンプ、JASCO RI−2031示差屈折計、JASCO CO−2060カラムオーブン、Shodex GPC KD−806Mカラム)を使用し、ポリスチレン標準試料により得られる較正曲線を用いて算出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーには、関東化学silica gel 60N(40−50μm)を使用した。
【0063】
[実施例1]8−メトキシ−4−メチル−2H−ベンソ[g]クロメン−2−オン
【0064】
【化11】

【0065】
7−メトキシ−2−ナフトール(200mg、1.15mmol)を80%硫酸水溶液(1.5mL)に懸濁させ、氷浴下3−オキソブタン酸エチル(0.4mL)を加えた後、室温にて14時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を水(100mL)に注ぎ、塩化メチレン(200mL)を用いて抽出操作を行った。得られた塩化メチレン層を水(100mL)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。塩化メチレン溶液を減圧乾固させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒として塩化メチレン−ヘキサン=1:1→塩化メチレンを使用)にて精製を行い、表題の化合物を白色結晶(84mg,30%)として得た。
【0066】
融点 222〜223℃;H−NMR(CDCl)δ7.97(1H,s),7.79(1H,d,J=9.1Hz),7.55(1H,s),7.13(1H,d,J=9.1Hz),7.09(1H,s),6.27(1H,s),3.95(3H,s),2.51(3H,s);ESI−MS:m/z 241[M+H];元素分析:計算値(C1512) C:74.99、H:5.03;測定値 C:74.83、H:5.31。
【0067】
[実施例2]4−クロロメチル−8−メトキシ−2H−ベンソ[g]クロメン−2−オン
【0068】
【化12】

【0069】
7−メトキシ−2−ナフトール(1g,5.74mmol)を80%硫酸水溶液(8mL)に懸濁させ、氷浴下4−クロロアセト酢酸エチル(2mL)を加えた後、室温にて14時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を水(100mL)に注ぎ、塩化メチレン(200mL)を用いて抽出操作を行った。得られた塩化メチレン層を水(100mL)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。塩化メチレン溶液を減圧乾固させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒として塩化メチレンを使用)にて精製を行い、表題の化合物を黄色結晶(71mg,4.5%)として得た。
【0070】
融点 234−235℃;H−NMR(CDCl)δ8.07(1H,s),7.84(1H,d,J=9.1Hz),7.64(1H,s),7.17(1H,dd,J=9.1,2.4Hz),7.13(1H,d,J=2.4Hz),6.58(1H,s),4.78(2H,s),3.97(3H,s);HR−ESI−MS:m/z;元素分析:計算値(C1512ClO)[M+H]275.0475;測定値275.0486;元素分析:計算値(C1511ClO) C:65.58、H:4.04;測定値 C:65.01、H:4.17。
【0071】
[実施例3](8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンソ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート
【0072】
【化13】

【0073】
4−クロロメチル−8−メトキシ−2H−ベンソ[g]クロメン−2−オン(50mg、0.182mmol)をアセトニトリル(1mL)とトリエチルアミン(1mL)の混合液に懸濁させ、アクリル酸(1mL)を加えた後、80℃にて13時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を水(100mL)に注ぎ、塩化メチレン(200mL)を用いて抽出操作を行った。得られた塩化メチレン層を水(100mL)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。塩化メチレン溶液を減圧乾固させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒として塩化メチレンを使用)にて精製を行い、表題の化合物を黄色結晶(45mg,80%)として得た。
【0074】
融点 237−238℃;H−NMR(CDCl)δ7.95(1H,s),7.81(1H,d,J=9.1Hz),7.64(1H,s),7.17(1H,dd,J=9.1,2.4),7.13(1H,d,J=2.4Hz),6.58(1H,d,J=17.4Hz),6.52(1H,s),6.27(1H,dd,J=17.4,10.4Hz),6.00(1H,d,J=10.4Hz),5.51(2H,s),3.96(3H,s);HR−ESI−MS:m/z 計算値(C1815)[M+H] 311.0920、測定値311.0919。
【0075】
[実施例4]4−ヒドロキシメチル−8−メトキシ−2H−ベンソ[g]クロメン−2−オン
【0076】
【化14】

【0077】
(8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンソ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート(10mg,0.0322mmol)をエタノール(15mL)に溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液(0.1mol/L、5mL)を加えた後、60℃にて1時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を減圧乾固させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒として塩化メチレン−メタノール=10:1を使用)にて精製を行い、表題の化合物を白色結晶(5.9mg,71%)として得た。
【0078】
融点 210℃;H−NMR(アセトン−d)δ8.24(1H,s),7.96(1H,d,J=9.1Hz),7.70(1H,s),7.39(1H,d,J=2.4Hz),7.18(1H,dd,J=9.1,2.4Hz),6.57(1H,s),5.06(2H,s),3.98(3H,s);HR−ESI−MS:m/z 計算値(C1513)[M+H] 257.0814;測定値257.0851。
【0079】
[実施例5]8−メトキシ−4−[メチル(オクチル)アミノ]メチル−2H−ベンソ[g]クロメン−2−オン
【0080】
【化15】

【0081】
4−クロロメチル−8−メトキシ−2H−ベンソ[g]クロメン−2−オン(10mg,0.0364mmol)をアセトニトリル(10mL)に溶解させ、N−メチル−n−オクチルアミン(500μL)、トリエチルアミン(4.4mg)を加えた後40℃にて3時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を減圧乾固させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は塩化メチレン-メタノール=10:1)にて精製を行い、白色結晶(13.2mg,95%)を得た。
【0082】
融点99−100℃;H−NMR(CDCl)δ8.31(1H,s),7.79(1H,d,J=8.9Hz),7.60(1H,s),7.13(1H,dd,J=8.9,2.4Hz),7.10(1H,d,J=2.4Hz),6.52(1H,s),3.95(3H,s),3.70(2H,s),2.50(2H,t,J=7.2Hz),2.29(3H,s),1.56(2H,m),1.30(10H,m),0.87(3H,t,J=6.9Hz);HR−ESI−MS:m/z 計算値(C2432NO)[M+H] 382.2382;測定値382.2374。
【0083】
[実施例6]9−ブロモ−8−メトキシ−4−メチル−2H−ベンソ[g]クロメン−2−オン
【0084】
【化16】

【0085】
8−メトキシ−4−メチル−2H−ベンゾ[g]クロメン−2−オン(30mg,0.125mmol)を四塩化炭素(2mL)に溶解させ、N−ブロモコハク酸イミド(25mg,1.1eq)、α,α−アゾビスイソブチロニトリル(1mg)を加えた。溶液の溶存酸素を除去した後、70℃にて2時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を減圧乾固させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒として塩化メチレン:n−ヘキサン=3:1を使用)にて精製を行い、表題の化合物を黄色結晶(25mg,63%)として得た。
【0086】
融点 >280℃;H−NMR(CDCl)δ8.12(1H,s),8.04(1H,s),7.93(1H,d,J=9.0Hz),7.30(1H,d,J=9.0Hz),6.33(1H,s),4.07(3H,s),2.54(3H,s);HR−ESI−MS:m/z 計算値(C1512BrO)[M+H] 318.9970;測定値318.9952;元素分析:計算値(C1511BrO) C:56.45、H:3.47;測定値 C:56.72、H:3.73。
【0087】
[実施例7](8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンゾ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート/N−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)アクリルアミド/N−n−プロピルアクリルアミド共重合体
【0088】
【化17】

【0089】
(8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンゾ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート(776μg、2.5μmol;以下、BCとも称する)、N−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)アクリルアミド(39.1mg、0.25mmol;以下、DMAPAMとも称する)、N−n−プロピルアクリルアミド(255mg、2.25mmol;以下、NNPAMとも称する)、α,α−アゾビスイソブチロニトリル(4.11mg、25μmol、以下、AIBNとも称する)をジオキサン(5mL)に溶解し、30分間窒素ガスを通じることにより溶存酸素を除去した。その後、60℃にて8時間反応させ、反応溶液をジエチルエーテル(100mL)に注いだ。得られた結晶を濾取し、再沈操作(アセトン5mL−ジエチルエーテル100mL)にて精製を行い、表題の共重合体を白色結晶(168mg、56%)として得た。
【0090】
数平均分子量:39100、重量平均分子量:96100、共重合体の各ユニットの組成比 BC:DMAPAM:NNPAM=0.058:10:90。なお、共重合体におけるDMAPAMユニットとNNPAMユニットの割合はH−NMR測定における積分値より、BCユニットの割合はメタノール中の吸光度を8−メトキシ−4−メチル−2H−ベンソ[g]クロメン−2−オンの吸光度(343nmにおいてモル吸光係数18400M−1cm−1)と比較することにより算出した。
【0091】
[実施例8](8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンゾ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート/N−n−プロピルアクリルアミド共重合体
【0092】
【化18】

【0093】
(8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンゾ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート(776μg、2.5μmol)、N−n−プロピルアクリルアミド(NNPAM、283mg、2.5mmol)、AIBN(4.11mg、25μmol)をジオキサン(5mL)に溶解し、30分間窒素ガスを通じることにより溶存酸素を除去した。その後、60℃にて8時間反応させ、反応溶液をジエチルエーテル(100mL)に注いだ。得られた結晶を濾取し、再沈操作(アセトン5mL−ジエチルエーテル100mL)にて精製を行い、表題の共重合体を白色結晶(194mg、68%)として得た。
【0094】
数平均分子量;37800,重量平均分子量;87100,共重合体の各ユニットの組成比 BC:NNPAM=0.050:100。
【0095】
[実施例9](8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンゾ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート/N−イソプロピルアクリルアミド共重合体
【0096】
【化19】

【0097】
(8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンゾ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート(776μg、2.5μmol)、N−イソプロピルアクリルアミド(283mg、2.5mmol;以下、NIPAMとも称する)、AIBN(4.11mg、25μmol)をジオキサン(5mL)に溶解し、30分間窒素ガスを通じることにより溶存酸素を除去した。その後、60℃にて8時間反応させ、反応溶液をジエチルエーテル(100mL)に注いだ。得られた結晶を濾取し、再沈操作(ジオキサン5mL−ジエチルエーテル100mL)にて精製を行い、表題の共重合体を白色結晶(219mg、76%)として得た。
【0098】
数平均分子量:51500,重量平均分子量:148000,共重合体の各ユニットの組成比 BC:NIPAM=0.049:100。
【0099】
[実施例10](8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンゾ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート/N−イソプロピルメタクリルアミド共重合体
【0100】
【化20】

【0101】
(8−メトキシ−2−オキソ−2H−ベンゾ[g]クロメン−4−イル)メチル アクリレート(776μg、2.5μmol)、N−イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAM、318mg、2.5mmol)、AIBN(4.11mg,25μmol)をジオキサン(5mL)に溶解し、30分間窒素ガスを通じることにより溶存酸素を除去した。その後、60℃にて16時間反応させ、反応溶液をジエチルエーテル(100mL)に注いだ。得られた結晶を濾取し、再沈操作(アセトン5mL−n−ヘキサン100mL)にて精製を行い、表題の共重合体を白色結晶(150mg、47%)を得た。
【0102】
数平均分子量:15600、重量平均分子量:299000、共重合体の各ユニットの組成比 BC:NIPMAM=0.14:100。
【0103】
蛍光特性測定
実施例1で製造した化合物(以下、化合物1と称する)の吸光および蛍光特性を以下の手順により測定した。吸光特性の試験には、JASCO V−550紫外可視光分光光度計を使用した。紫外部吸収スペクトル用純溶媒を用い、25℃、濃度10μMの条件で測定を行った。蛍光特性の試験には、JASCO FP−6500分光蛍光光度計を使用した。蛍光分析用純溶媒を用い、25℃、濃度1〜10μMの条件で測定を行った。各溶媒を用いた際の励起波長は、最大吸収波長とし、蛍光量子収率の算出には硫酸キニーネを標準試料(蛍光量子収率:0.546)として用いた。
【0104】
測定結果を表1および図1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
化合物1は非極性溶媒であるヘキサン中では全く蛍光を示さない一方で、極性溶媒であるメタノールや、水−メタノールの混合液中では強い蛍光性を示した。さらに、極性溶媒中における蛍光波長は約460nm以上であり、溶媒の極性増加に伴ってΦ値が上昇する性質が知られている他の蛍光試薬と比較しても長波長であることが判明した。吸収波長と蛍光波長の差であるストークスシフトは、極性溶媒中において100nm以上であった。また、化合物1は、上記の溶媒中で光照射下、安定に存在しうることを確認した。
【0107】
安定性試験
化合物1のアルカリ条件下における安定性試験を以下の手順で行った。JASCO FP−6500分光蛍光光度計を使用し、溶媒として0.01Mほう酸緩衝液(pH9)を用いた。化合物2の初期濃度は10μMとし、測定中、化合物1の最大励起波長である347nmの光を連続照射した。
【0108】
試験結果を図2に示す。pH9、60℃の条件下、化合物1は少なくとも2.5時間蛍光強度に認められず、塩基性条件下における光照射に対しても化合物1は安定であることが確認された。
【0109】
感熱応答性試験
実施例7、8、9および10で製造した共重合体(それぞれ以下、化合物2、3、4および5と称する)の感熱応答性試験を以下の手順で行った。JASCO FP−6500分光蛍光光度計を使用し、溶媒として0.05Mフタル酸緩衝液(pH4)を用いた。化合物2、3,4および5の初期濃度は0.01w/v%とし、励起波長は345nmとした。溶液の温度制御にはJASCO ETC−273T水冷ペルチェ式恒温セルホルダを使用し、付属の熱電対により温度を測定した。

試験結果を図3に示す。いずれの化合物も、低温領域で強い蛍光を示し、温度の変化に鋭敏に反応して蛍光強度が変化することが確認された。この挙動は、本発明により導入された蛍光性官能基が、温度上昇に伴う高分子の構造変化による官能基近傍の極性低下を感知していることによると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】化合物1のメタノール中における吸収スペクトル、および酢酸エチル、アセトニトリルおよびメタノールの各溶媒中における蛍光スペクトルの測定結果の一例を示す図である。
【図2】化合物1のアルカリ条件下における安定性試験結果の一例を示す図である。
【図3】化合物2〜5の蛍光強度の感熱応答性の試験結果の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、Rは、独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、−SO、C1−6アルキル(当該アルキルは、独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシ、−NR1112、−SOOHから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい)、C1−6アルコキシ、C1−6アルキルチオ、−NR1314およびC1−6アルコキシカルボニルから選択され;
qは1〜2の整数から選択され;
は、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アミノ、C1−6アルキルアミノまたはジ(C1−6アルキル)アミノであり;
nは1〜6の整数から選択され;
Xは、OまたはSであり;
は、水素原子またはC1−6アルキル(当該アルキル基は、独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシ、−NR1516、−SOOHから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい)であり;
Qは、C1−10アルキレン基であり;
Yは、ハロゲン原子、ヒドロキシ、メルカプト、−NCS、−NCO、ハロカルボニル、カルボキシ、C1−6アルコキシカルボニル、−NR1718、マレイミド、C2−6アルケニルチオ、C2−6アルケニルスルホニル、−CH(NHR21)COOR22または−X−Zであり;
は、OまたはNR19であり;
Zは、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C2−6アルケニルカルボニル、C2−6アルキニルカルボニル、または−(CHCH(NHR23)COOR24であり;
mは1〜6の整数から選択され;
11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は、独立に、水素原子およびC1−6アルキルから選択され;
21およびR23は、独立に、水素原子、C1−6アルキルカルボニル、C1−6アルコキシカルボニル、C7−14アラルキルオキシカルボニルおよびフルオレン−9−イルメチルオキシカルボニルから選択され;
22およびR24は、独立に、水素原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシC1−6アルキル、C7−14アラルキル、C7−14アラルキルオキシC1−6アルキルから選択される]
で表される化合物またはその塩。
【請求項2】
式(Ia):
【化2】

[式中、R、n、X、R、Q、Yは請求項1に定義したとおりである]
で表される、請求項1に記載の化合物またはその塩。
【請求項3】
XがOである、請求項1または2に記載の化合物またはその塩。
【請求項4】
が、独立に、水素原子およびC1−6アルキルから選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその塩。
【請求項5】
Yが、ハロゲン原子またはヒドロキシである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物またはその塩。
【請求項6】
Yがアクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物またはその塩。
【請求項7】
式(II):
【化3】

[式中、R、n、X、R、QおよびXは請求項1に定義したとおりであり;
は水素原子またはC1−6アルキルである]
で表される繰り返し単位を含むポリマー。
【請求項8】
式(III):
【化4】

[式中、R31は水素原子またはC1−6アルキルであり;
32はヒドロキシ、アミノ、C1−10アルコキシ、C1−10アルキルアミノまたはジ(C1−10アルキル)アミノであり、ここで当該C1−10アルコキシ、C1−10アルキルアミノ、ジ(C1−10アルキル)アミノは、それぞれ独立に、ヒドロキシ、アミノ、C1−10アルコキシ、C1−10アルキルアミノまたはジ(C1−10アルキル)アミノから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい]
で表される繰り返し単位をさらに含む、請求項7に記載のポリマー。
【請求項9】
分子中に含まれる全繰り返し単位数に対する、式(II)で表される繰り返し単位数の比が0.001〜10%である請求項7または8に記載のポリマー。
【請求項10】
数平均分子量が5000〜1000000である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物を含む、蛍光標識化用試薬。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか1項に記載のポリマーを含む、蛍光試薬。
【請求項13】
式(Ib):
【化5】

[式中、Rは、独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、−SO、C1−6アルキル(当該アルキルは、独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシ、−NR1112、−SOOHから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい)、C1−6アルコキシ、C1−6アルキルチオ、−NR1314およびC1−6アルコキシカルボニルから選択され;
qは1〜2の整数から選択され;
は、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アミノ、C1−6アルキルアミノまたはジ(C1−6アルキル)アミノであり;
nは1〜6の整数から選択され;
Xは、OまたはSであり;
は、水素原子またはC1−6アルキル(当該アルキル基は、独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシ、−NR1516、−SOOHから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい)であり;
Qは、C1−10アルキレン基であり;
は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ、メルカプト、−NCS、−NCO、ハロカルボニル、カルボキシ、C1−6アルコキシカルボニル、−NR1718、マレイミド、C2−6アルケニルチオ、C2−6アルケニルスルホニル、−CH(NHR21)COOR22または−X−Zであり;
は、OまたはNR19であり;
Zは、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C2−6アルケニルカルボニル、C2−6アルキニルカルボニル、または−(CHCH(NHR23)COOR24であり;
mは1〜6の整数から選択され;
11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は、独立に、水素原子およびC1−6アルキルから選択され;
21およびR23は、独立に、水素原子、C1−6アルキルカルボニル、C1−6アルコキシカルボニル、C7−14アラルキルオキシカルボニルおよびフルオレン−9−イルメチルオキシカルボニルから選択され;
22およびR24は、独立に、水素原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシC1−6アルキル、C7−14アラルキル、C7−14アラルキルオキシC1−6アルキルから選択される]
で表される化合物またはその塩を含む、蛍光試薬。
【請求項14】
式(Id):
【化6】

[式中、R、n、X、R、Q、Yは請求項13に定義したとおりである]
で表される化合物またはその塩を含む、請求項13に記載の蛍光試薬。
【請求項15】
液体の温度の測定に使用する、請求項12に記載の蛍光試薬。
【請求項16】
溶液の極性の変化の測定に使用する、請求項13または14に記載の蛍光試薬。
【請求項17】
液体に請求項12の蛍光試薬を溶解する工程;および励起光照射下、蛍光強度を測定する工程、を含む、液体の温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−238467(P2007−238467A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59802(P2006−59802)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】