説明

ベーカリー製品用湯種生地、ベーカリー生地、ベーカリー製品、及び、ベーカリー製品用湯種生地の製造方法

【課題】もっちりした食感でありながら、老化が遅く、硬くなりにくいベーカリー製品を製造することができ、それ自身従来に比べて飛躍的に長期間保存することができる耐老化性を有するベーカリー製品用湯種生地を提供すること。
【解決手段】穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として0.5質量%以上である乳原料を、固形分として0.05〜7質量部含有することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それ自身老化耐性を有し、且つ、もっちりした食感でありながら、老化が遅く、硬くなりにくいベーカリー製品を製造するためのベーカリー製品用湯種生地、及びこれを用いたベーカリー製品、並びに、ベーカリー製品用湯種生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、もっちりとした食感のパンや洋菓子等のベーカリー製品を得る方法の1種として、湯種法が最近多く用いられるようになってきている。湯種法とは、ベーカリー製品の製造にあたり、その一部の穀粉材料を高温の水の存在下で混捏して湯種生地とし、これに更に残りの穀粉材料、イースト、常温の水、その他の副原料を加えて混捏してベーカリー生地とし、或いは、湯種生地とは別に、一部の穀粉材料、イースト、常温の水、その他の副原料を加えて混捏した生地を発酵させた中種生地を製造し、湯種生地、残りの穀粉原料、イースト、常温の水、その他の副原料を加えて混捏してベーカリー生地とし、常法によりベーカリー製品を得る方法である。(たとえば特許文献1又は特許文献2参照)
【0003】
しかし、このような湯種生地は、高温の水の存在下で混捏されることにより、穀粉原料に含まれる澱粉質の多くが糊化されているため、この湯種生地を長期間保存しておくと老化が著しく、特に、冷蔵温度に保存すると急激に老化が進み、極端な場合には離水を起こし、かびが発生したりする。このため、湯種法によってベーカリー製品を製造する場合、製造した湯種生地は製造後直ちに、若しくは、必要最小限の保存期間の後に直ちに使用する必要があり、産業上効率的な生産をする上で大きな問題となっていた。
【0004】
そこで、湯種生地に油脂を添加する方法(例えば特許文献3参照)や、湯種生地に乳化剤を配合する方法(例えば特許文献4参照)などの方法により湯種生地の老化防止に関する試みが行なわれている。
【0005】
しかし、これらの方法では効果が十分ではないことに加え、分割丸目時の生地がべとつき、また、得られたパンの食感がねちゃつく傾向があった。
【0006】
【特許文献1】特許第3080368号公報
【特許文献2】特開2000−262205号公報
【特許文献3】特開2003−265093号公報
【特許文献4】特開2003−023955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、もっちりした食感でありながら、老化が遅く、硬くなりにくいベーカリー製品を製造することができ、それ自身従来に比べて飛躍的に長期間保存することができる耐老化性を有するベーカリー製品用湯種生地、該湯種生地を用いたベーカリー製品、及び、該特徴を有するベーカリー製品用湯種生地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究した結果、ある特定の乳原料を、「乳原料は本捏生地に添加する」という通例に反し、以外にも湯種生地に添加することにより、上記目的を達成し得ることを知見した。すなわち、従来の湯種法製パンの通例に従い、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として0.5質量%以上である乳原料を、本捏生地に添加したところ、風味は良好であるが、分割丸目時の生地がべとつき、また、食感もねちゃつき、評価の低いパンしか得られなかった。ところが、湯種生地に該乳原料を使用すると、分割丸目時の生地がべとつかず扱いやすいことに加え、ソフトでウェットな食感でありながら、ねちゃつきもなく、もっちりした弾力のある新規な食感を示すきわめて良好なパンが得られること、さらに、該乳原料を含有する湯種生地は、優れた耐老化性をも有していることを知見した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として0.5質量%以上である乳原料を、固形分として0.05〜7質量部含有することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記ベーカリー製品用湯種生地を使用したことを特徴とするベーカリー生地を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記ベーカリー生地を焼成及び/又はフライしたベーカリー製品を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として0.5質量%以上である乳原料を、固形分として0.05〜7質量部含有する種生地材料を、80〜100℃の水の存在下に混捏することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のベーカリー製品用湯種生地は、ねちゃつきもなく、もっちりした食感を示し、且つ、老化が遅く、硬くなりにくいベーカリー製品を得ることができ、また、従来に比べて飛躍的に長期間保存することができる耐老化性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のベーカリー製品用湯種生地について詳細に説明する。
【0015】
本発明に使用される穀粉類及び/又は澱粉類は、ベーカリー製品用湯種生地における主成分であり、穀粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、フランス粉、薄力粉、デュラム粉、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等が挙げられ、また、本発明で使用される澱粉類としては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉等の澱粉や、それらの化工澱粉等が挙げられるが、本発明では特に強力粉が好ましく用いられる。
【0016】
本発明のベーカリー製品用湯種生地は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上、好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5〜40質量%である乳原料を含むことを特徴とする。乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%未満である乳原料を用いると、本発明の効果が得られない。
【0017】
上記の乳由来の固形分中のリン脂質とは、乳由来の固形分中に含まれる乳由来のリン脂質のことを示す。
【0018】
また、上記の乳原料は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。但し、溶剤を用いて乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上となるように濃縮した乳原料は、風味上の問題から本発明における乳原料として用いないのが好ましい。
【0019】
乳原料のリン脂質の定量方法は、例えば以下のような方法にて測定することができる。但し、抽出方法などについては乳原料の形態などによって適正な方法が異なるためこの定量方法に限定されるものではない。
【0020】
まず、乳原料の脂質をFolch法を用いて抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から以下の計算式を用いて乳原料100g中のリン脂質の含有量gを求める。
【0021】
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/乳原料採取量(g)〕×25.4×(0.1/1000)
【0022】
上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上である乳原料としては、例えば、クリームからバターを製造する際に生じる水相成分(バターミルク)や、クリームまたはバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分があげられる。
【0023】
上記のクリームからバターを製造する際に生じる水相成分は、その製法の違いにより組成が大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常0.5〜1.5質量%程度である。一方、クリームまたはバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、大凡2〜15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0024】
すなわち本発明では、上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上である乳原料として、クリームまたはバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分を使用することが好ましい。
【0025】
次に上記のクリームからバターを製造する際に生じる水相成分の製造方法について説明する。
【0026】
クリームからバターを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30〜40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70〜95質量%まで高める。次いで乳化破壊機で脂肪球を破壊して凝集させ、バター粒を形成させる工程でバターの副産物として発生するものである。
【0027】
上記のクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30〜40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70〜95質量%まで高める。次いで乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0028】
一方、バターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まずバターを溶解機で溶解し熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0029】
また、本発明においては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上であれば、上記水相成分をそのまま用いてもよく、また噴霧乾燥、濃縮、冷凍などの処理を施したものを用いてもよい。
【0030】
また、本発明では、上記乳原料中の乳原料の一部または全部をそのままリゾ化してもよく、また濃縮した後にリゾ化してもよい。またさらに得られたリゾ化物をさらに濃縮、あるいは、噴霧乾燥処理等を施してもよい。これらの操作を加えることにより、さらにベーカリー製品用湯種生地の乳化安定性が高まり、また、乳風味の発現性が改良される。
【0031】
乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上である乳原料中の、リン脂質をリゾ化するにはホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置き換える作用を有する酵素である。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。ホスホリパーゼAは作用する部位の違いによってA1、A2に分かれるが、A2が好ましい。
【0032】
本発明のベーカリー製品用湯種生地は、湯種生地に含まれる穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量0.5質量%以上である乳原料を、固形分として0.05〜7質量部、好ましくは0.07〜3質量部、さらに好ましくは0.1〜2質量部含有することを特徴とする。
【0033】
上記乳原料を本捏生地製造時に添加した場合は、本発明の効果は得られない。なぜ湯種生地に添加した場合にのみ効果があるかについては詳細は不明であるが、おそらく該乳原料が湯種生地製造時の穀粉類及び/又は澱粉類の糊化性に影響を与えているためと考えられる。
【0034】
本発明のベーカリー製品用湯種生地においては食用油脂を含有することが好ましい。食用油脂を含有することで、ベーカリー製品用湯種生地の老化耐性がより向上し、かつ、ベーカリー生地の機械耐性も高まり、且つ、得られるベーカリー製品の食感がソフトで良好な口溶けを有し老化耐性も高いものとなる。
【0035】
本発明のベーカリー製品用湯種生地において使用される食用油脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油、バターオイル等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。さらに食用油脂を含有する乳化物、例えば、バター、マーガリン、クリーム、牛乳、濃縮乳等や、ショートニング、流動ショートニング等の加工油脂製品も用いることもできる。
【0036】
本発明のベーカリー製品用湯種生地における食用油脂の含有量は、穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して1〜250質量部である。食用油脂の量が1質量部未満であると耐老化性を得る効果が十分でなく、好ましくは5質量部以上である。一方、食用油脂の含有量が多いほど湯種生地の耐老化性、及び、得られるベーカリー製品の耐老化性は向上するが、250質量部を超えると湯種生地として製造することが困難となる。また、作業性及び出来上がるベーカリー製品の食味の点から、食用油脂の含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。従って、上記食用油脂の含有量は、穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して5〜150質量部が好ましく、5〜50質量部がより好ましい。
【0037】
また、本発明のベーカリー製品用湯種生地が食用油脂を含有する場合、上記乳原料を含有した乳化油脂を使用すると、ベーカリー製品用湯種生地での上記乳原料の分散性がよいため好ましい。このときの乳化油脂の乳化状態としては、油中水型或いは水中油型のいずれでもよいが、生地への分散性がより良好である点において水中油型のものが好ましい。また、該乳化油脂における該乳原料の使用量は、好ましくは乳化油脂中1〜20質量%、より好ましくは2〜20質量%、食用油脂の使用量は好ましくは乳化油脂中5〜65質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
【0038】
なお上記乳化油脂は、その他の成分として必要により、乳化剤、酸化防止剤、糖類及び糖アルコール、澱粉、小麦粉、無機塩及び有機酸塩、ゲル化剤、乳製品、乳蛋白、酵素、卵製品、着香料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、pH調整剤等を用いることができる。
【0039】
なお、本発明のベーカリー製品用湯種生地における水の含有量は、上記食用油脂の乳化物、上記乳化油脂をはじめ下記のその他に含まれる水の含量も含め、穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して好ましくは50〜150質量部、より好ましくは70〜130質量部である。
【0040】
また、本発明のベーカリー製品用湯種生地において、上記以外に必要に応じて、従来ベーカリー製品用湯種生地に用いられているその他の原料を使用することができる。
【0041】
該その他の原料としては、増粘安定剤、乳化剤、金属イオン封鎖剤、糖類、甘味料、上記乳原料以外の乳や乳製品、卵製品、無機塩、有機酸塩、キモシン等の蛋白質分解酵素、トランスグルタミナーゼ、ラクターゼ(βガラクトシダーゼ)、αアミラーゼ、グルコアミラーゼ等の糖質分解酵素、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・分枝デキストン・環状デキストン等のデキストリン類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤等が挙げられる。
【0042】
次に、本発明のベーカリー製品用湯種生地の製造方法について述べる。
【0043】
本発明のベーカリー製品用湯種生地の製造方法は、穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として0.5質量%以上である乳原料を、固形分として0.05〜7質量部含有する種生地材料を、80〜100℃、好ましくは90〜100℃の水の存在下に混捏するものである。
【0044】
混捏方法は、従来湯種法に用いられている方法であれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、種生地材料に熱湯を加えて混捏する方法、あるいは種生地材料に常温の水又は温湯を加え、加熱しながら混捏する方法等が挙げられ、混捏後の生地温度(捏上温度)が50〜80℃、好ましくは55〜70℃となるようにすれば良い。混捏時間は何ら限定されるものではなく、従来の湯種法において通常用いられている範囲であればよく、例えば、2〜20分である。
【0045】
また、上記食用油脂を含有する乳化物や上記乳原料を含有した乳化油脂を使用する場合、それらを80〜100℃に加熱して、該乳化物や乳化油脂に含まれる水分を混捏の際に用いる80〜100℃の水として用いることができる。
【0046】
本発明のベーカリー生地は、上記ベーカリー製品用湯種生地を使用したものである。
【0047】
本発明のベーカリー生地における、上記ベーカリー製品用湯種生地の使用量は、ベーカリー生地中の全穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対し、ベーカリー製品用湯種生地に含まれる穀粉類及び/又は澱粉類の割合が好ましくは10〜90質量部、より好ましくは10〜50質量部となる量である。
【0048】
なお、上記ベーカリー生地の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、食パン、バラエティブレッド、菓子パン、フランスパン、イギリスパン、ライ麦パン、デニッシュ・ペストリー、イングリッシュマフィン、グリッシーニ、コーヒーケーキ、ブリオッシュ、シュトーレン、パネトーネ、クロワッサン、イーストパイ、ピタ、ナン、マフィン、蒸しパン、イーストドーナツ、ワッフル、パイ等のパン類生地や、スナックカステラ、バターケーキ、スポンジケーキ、シフォンケーキ、サンドケーキ等のケーキ生地、さらにはこれらの冷凍品や冷蔵品が挙げられる。
【0049】
なかでも本発明では、湯種生地を使用することで大きな食感改良効果が得られることからパン類生地であることが好ましく、より好ましくは、食パン生地、バラエティブレッド生地、菓子パン生地、フランスパン生地である。
【0050】
なお、該ベーカリー生地の製造方法は、一般的なベーカリー生地の製造方法に従って得ることができ、パン類であれば中種法、ストレート法等、ケーキ類であれば、オールインミックス法、シュガーバッター法、フラワーバッター法等を適宜選択可能である。
【0051】
たとえば、パン類の製造方法を例に挙げると、従来公知の湯種法によるパン類の製造方法において用いられている方法は全て用いることができる。例えば、ベーカリー製品用湯種生地に、小麦粉、イースト、その他副原料、常温の水を加えて常法により混捏する方法、ベーカリー製品用湯種生地とは別に、小麦粉、イースト、その他副原料、常温の水を加えて常法により混捏した中種生地を得、ベーカリー製品用湯種生地と中種生地とを(必要に応じて、更に小麦粉、その他副原料とともに)混合して常法により混捏する方法等を挙げることができる。
【0052】
本発明のベーカリー製品は上記ベーカリー生地を焼成及び/又はフライしてなるものであり、もっちりした食感でありながら、老化が遅く、硬くなりにくいという特徴を有するものである。
【0053】
焼成方法やフライ方法は、とくに制限されず、一般的なベーカリー生地の製造方法に従って得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕
小麦粉100質量部に、大豆油20質量部、食塩10質量部、砂糖10質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質含量9.8質量%)1質量部、及び熱水(95℃)100質量部を加えて混捏(90rpm×3分+180rpm×2分)し、ベーカリー製品用湯種生地(A)を得た。捏上温度は65℃であった。このベーカリー製品用湯種生地(A)を5℃下に2週間保存したが、ベーカリー製品用湯種生地(A)に老化の兆候は見られず、実用性の高いものであった。尚、更に5℃下に1週間保存したが、ベーカリー製品用湯種生地(A)に老化の兆候は見られなかった。5℃下に3週間保存後のベーカリー製品用湯種生地(A)に小麦粉400質量部、砂糖25質量部、イースト15質量部、イーストフード0.5質量部、食塩5質量部、及び水(常温)280質量部を加えて混捏(90rpm×4分+180rpm×8分)し、ここでマーガリン25質量部を加え、更に混捏(90rpm×3分+180rpm×5分)してベーカリー生地(A)(本捏生地)を得た。得られたベーカリー生地(A)を、フロアタイム60分とった後、220gに分割・丸めをおこない、ベンチタイム15分とった後、モルダーを使用して成形を行い、4個を2斤パン型に入れてホイロ60分として発酵させ、200℃で30分焼成してベーカリー製品(A)を得た。
成形時の分割・丸め時や成形時に生地のべたつきは感じられず、また、得られたベーカリー製品(A)は、ベーカリー製品用湯種生地を長期間保存したにもかかわらず老化による食感の悪化が全く無く、独特のもっちりとした食感を有する食パンであった。
【0056】
〔実施例2〕
実施例1で使用した、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物1質量部を3質量部に変更以外は、実施例1と同様にして、実施例2のベーカリー製品用湯種生地(B)、ベーカリー生地(B)、およびベーカリー製品(B)を得た。
【0057】
ベーカリー製品用湯種生地(B)を5℃下に2週間保存したが、ベーカリー製品用湯種生地(B)に老化の兆候は見られず、実用性の高いものであった。尚、更に5℃下に1週間保存したが、ベーカリー製品用湯種生地(B)に老化の兆候は見られなかった。
成形時の分割・丸め時や成形時に生地のべたつきは感じられず、また、得られたベーカリー製品(B)は、ベーカリー製品用湯種生地を長期間保存したにもかかわらず老化による食感の悪化が全く無く、独特のもっちりとした食感を有する食パンであった。
【0058】
〔実施例3〕
実施例1で使用した、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物1質量部を、下記の水中油型の形態である乳化油脂A30質量部に変更し、ベーカリー製品用湯種生地の水を84質量部に減じ、さらに本捏生地の上白糖を5質量部に減じた以外は、実施例1と同様にして、実施例3のベーカリー製品用湯種生地(C)、ベーカリー生地(C)およびベーカリー製品(C)を得た。
【0059】
ベーカリー製品用湯種生地(C)を5℃下に2週間保存したが、ベーカリー製品用湯種生地(C)に老化の兆候は見られず、実用性の高いものであった。尚、更に5℃下に1週間保存したが、ベーカリー製品用湯種生地(C)に老化の兆候は見られなかった。
成形時の分割・丸め時や成形時に生地のべたつきは感じられず、また、得られたベーカリー製品(C)は、ベーカリー製品用湯種生地を長期間保存したにもかかわらず老化による食感の悪化が全く無く、独特のもっちりとした食感を有する食パンであった。
【0060】
(乳化油脂Aの配合と製造法)
ホエイパウダー2.5質量部、トータルミルクプロテイン1.5質量部、水飴30質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)5質量部、大豆油10質量部、及び水39.2質量部を混合し、45℃に加熱し、イズミフードマシナリ製2段式ホモゲナイザーにて1段目100MPa、2段目0MPaの均質化圧力にて均質化を行い水中油型乳化物(1)を調製した。この水中油型乳化物(1)に、低粘度アルギン酸ナトリウム0.5質量部、菜種油10質量部、乳酸0.3質量部、澱粉1.0質量部を添加し、配合槽で混合し、これを掻取式熱交換器にて90℃で5分間加熱殺菌し、掻き取り式熱交換器にて45℃に冷却する。次いでイズミフードマシナリ製2段式ホモゲナイザーにて1段目2MPa、2段目10MPaの均質化圧力にて均質化後、ポリエチレン袋に密封し、5℃に冷却し、乳化油脂Aを得た。
【0061】
〔比較例1〕
実施例1で使用した、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物1質量部を無添加とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1のベーカリー製品用湯種生地(D)、ベーカリー生地(D)およびベーカリー製品(D)を得た。
ベーカリー製品用湯種生地(D)を5℃下に2週間保存すると、ベーカリー製品用湯種生地(D)に老化の兆候が認められ、尚、更に5℃下に1週間保存すると、ベーカリー製品用湯種生地(D)は老化し若干の水分離が認められた。
【0062】
成形時の分割・丸め時や成形時に生地のべたつきは感じられないが生地の伸展性が悪く、また、得られたベーカリー製品(D)は、ベーカリー製品用湯種生地の老化による食感の悪化が認められ、硬いぱさついた食感を有する食パンであった。
【0063】
〔比較例2〕
実施例2で使用した、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物3質量部を脱脂粉乳2質量部に変更した以外は、実施例2と同様にして、比較例2のベーカリー製品用湯種生地(E)、ベーカリー生地(E)およびベーカリー製品(E)を得た。
【0064】
ベーカリー製品用湯種生地(E)を5℃下に2週間保存すると、ベーカリー製品用湯種生地(E)に老化の兆候が認められ、尚、更に5℃下に1週間保存すると、ベーカリー製品用湯種生地(E)は老化し若干の水分離が認められた。
【0065】
成形時の分割・丸め時や成形時に生地のべたつきは感じられないが生地の伸展性が悪く、また、得られたベーカリー製品(E)は、ベーカリー製品用湯種生地の老化による食感の悪化が認められ、硬いぱさついた食感を有する食パンであった。
【0066】
〔比較例3〕
実施例2で使用した、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物3質量部を大豆レシチン0.02質量部に変更した以外は、実施例2と同様にして、比較例3のベーカリー製品用湯種生地(F)、ベーカリー生地(F)およびベーカリー製品(F)を得た。
【0067】
ベーカリー製品用湯種生地(F)を5℃下に2週間保存すると、ベーカリー製品用湯種生地(F)に老化の兆候が認められ、尚、更に5℃下に1週間保存すると、ベーカリー製品用湯種生地(F)は老化し若干の水分離が認められた。
【0068】
成形時の分割・丸め時や成形時に生地のべたつきは感じられないが生地の伸展性が悪く、また、得られたベーカリー製品(F)は、ベーカリー製品用湯種生地の老化による食感の悪化が認められ、硬いぱさついた食感を有する食パンであった。
【0069】
〔比較例4〕
比較例1で得られたベーカリー製品用湯種生地(D)の5℃での保存期間を1晩とし、本捏生地製造時に、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物1.5質量部を添加した以外は、実施例2と同様にして、ベーカリー生地(G)およびベーカリー製品(G)を得た。
【0070】
ベーカリー製品用湯種生地(D)を5℃下に1晩保存した場合は、老化の兆候は見られず、実用性の高いものであった。
【0071】
しかし、成形時の分割・丸め時や成形時に生地のべたつきが強く感じられ、また、得られたベーカリー製品(G)は、もっちりした食感ではあるが、べたついた食感の食パンであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として0.5質量%以上である乳原料を、固形分として0.05〜7質量部含有することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地。
【請求項2】
穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、食用油脂を1〜250質量部含有することを特徴とする請求項1記載のベーカリー製品用湯種生地。
【請求項3】
上記乳原料を含有する乳化油脂を使用したことを特徴とする請求項1又は2記載のベーカリー製品用湯種生地。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のベーカリー製品用湯種生地を使用したことを特徴とするベーカリー生地。
【請求項5】
請求項4記載のベーカリー生地を焼成及び/又はフライしたベーカリー製品。
【請求項6】
穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として0.5質量%以上である乳原料を、固形分として0.05〜7質量部含有する種生地材料を、80〜100℃の水の存在下に混捏することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地の製造方法。

【公開番号】特開2009−201469(P2009−201469A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49706(P2008−49706)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】