説明

ベータゼオライトおよびYゼオライトを含有する水素化分解触媒ならびに蒸留物を作製するためのその使用方法

ベータゼオライトおよび24.25から24.32オングストロームの単位格子サイズを有するYゼオライトを含有する触媒の使用による水素化分解方法において、中間蒸留物の増加した選択性および/または増加した触媒活性が得られる。触媒は、24.33から24.38オングストロームの単位格子サイズを有する追加のYゼオライトを含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒組成物および炭化水素変換プロセスにおけるその使用、特に水素化分解におけるその使用に関する。より具体的には、本発明は、Yゼオライトおよびベータゼオライトを有効分解成分として含む触媒組成物に関する。本発明は、具体的には、中間蒸留物を生成する水素化分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製所は、多くの場合、原油から得られる炭化水素原料を水素化分解することにより、タービン燃料、ディーゼル燃料、および中間蒸留物として知られる他の炭化水素液体、ならびにナフサおよびガソリン等のより低沸点の液体等の、所望の生成物を生成する。水素化分解はまた、水素処理法による原料からの硫黄や窒素の除去等、他の有益な結果を有する。最も多く水素化分解に供される原料は、蒸留により原油から回収される軽油(ガスオイル)および重質軽油である。
【0003】
一般に水素化分解は、精製所により望まれる炭化水素生成物の分布を含有する、全体的な平均沸点がより低い生成物を生産するために、高温、高圧、および水素の存在を含む適切な条件下で、適切な反応容器内で軽油(ガスオイル)または他の炭化水素原料を適した水素化分解触媒に接触させることにより行われる。水素化分解反応器内の運転条件は生成物の収率に幾分影響するが、そのような収率を決定する主要因は水素化分解触媒である。
【0004】
水素化分解触媒は、まず、触媒の主要な分解成分の性質に基づき分類される。この分類は、水素化分解触媒を、シリカ−アルミナ等の非晶質分解成分に基づくものと、ベータまたはYゼオライト等のゼオライト系分解成分に基づくものに分ける。水素化分解触媒はまた、その意図される主要な生成物に基づき分類され、そのうち2つの主な生成物はナフサおよび「蒸留物(distillate)」(水素化分解精製の技術分野においては、ナフサの沸点よりも高い沸点範囲を有する、蒸留可能な石油起源の留分を指す用語)である。蒸留物は、典型的には、精製所で灯油およびディーゼル燃料として回収される生成物を含む。現在、蒸留物は大きな需要がある。このため、精製所は、蒸留留分を選択的に精製する水素化分解触媒に重点を置いている。
【0005】
蒸留物を作製する水素化分解触媒の性能を評価するための3つの主な触媒特性は、活性、選択性、および安定性である。活性は、様々な触媒が利用されるべき温度(そうでなければ一定の水素化分解条件下)を、蒸留物にとっての所望の範囲、例えば371℃(700°F)未満で沸騰する生成物の所与のパーセント(通常は65%)を生成するための同じ原料と比較することにより決定され得る。所与の触媒に必要とされる温度が低いほど、そのような触媒は、より高い温度を必要とする触媒と比べより活性である。水素化分解触媒の選択性は、前述の活性試験中に決定することができ、所望の蒸留生成物の範囲、例えば149℃(300°F)から371℃(700°F)で沸騰する生成物の留分のパーセントとして測定される。安定性は、活性試験の条件下で所与の炭化水素原料を処理するときに、長期間にわたり触媒がその活性をいかによく維持するかの目安である。安定性は、一般に、65パーセントまたは他の所与の変換率を維持するために1日あたり必要な温度の変化に関して測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,275,720号明細書
【特許文献2】米国特許第5,279,726号明細書
【特許文献3】米国特許第5,350,501号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0152587A1号公報
【特許文献5】米国特許第4,661,239号明細書
【特許文献6】米国特許第4,925,546号明細書
【特許文献7】米国特許第3,308,069号明細書
【特許文献8】米国再発行特許第28341号明細書
【特許文献9】米国特許第5,139,759号明細書
【特許文献10】米国特許第3,130,007号明細書
【特許文献11】米国特許第3,929,672号明細書
【特許文献12】米国特許第4,503,023号明細書
【特許文献13】米国特許第4,597,956号明細書
【特許文献14】米国特許第4,735,928号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.ロブソン(編集)及びK.P.リレルド(X線回折像)著、「ゼオライト材料の確証された合成」、改訂第2版、ISBN 0-444-50703-5、エルゼビア、2001年(H.Robson (editor) and K.P.Lillerud (XRD Patterns), second revised edition, ISBN 0-444-50703-5, Elsevier, 2001)
【非特許文献2】J.シェルザー及びA.J.グルイア著、「水素化分解の科学技術」、ISBN 0-8247-9760-4、マーセルデッカー社、ニューヨーク、1996年(Hydrocracking Science and Technology, by J.Scherzer and A.J.Gruia, ISBN 0-8247-9760-4, Marcel Dekker Inc., New York, 1996)
【非特許文献3】CRC化学物理ハンドブック、ISBN 0-8493-0480-6、CRCプレス、米国フロリダ州ボカラトン、第80版、1999〜2000年(CRC Handbook of Chemistry and Physics, ISBN 0-8493-0480-6, CRC Press, Boca Raton, Florida, U.S.A., 80th Edition, 1999-2000)
【非特許文献4】S.ブルナウアー(S.Brunauer)他、J.Am.Chem.Soc.、60(2)、p.309〜319、1938年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
蒸留物を生成するための分解触媒は既知であり、商業環境において使用されているが、蒸留物を生成するための、所与の活性で優れた選択性を有する、および/または所与の選択性で優れた活性を有する新たな水素化分解触媒の需要が常に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の概要)
24.25オングストロームから24.32オングストロームの単位格子サイズまたは寸法aを有するYゼオライト(以降YゼオライトIとする)を含有し、かつ、好ましくは30未満の全シリカ対アルミナ(SiO対Al)のモル比を有し、少なくとも28重量パーセント(以降重量%とする)のSF吸着容量を有するベータゼオライトを含有する水素化分解触媒が、蒸留物の生成のための水素化分解プロセスにおける使用に現在商業的に利用可能な他の水素化分解触媒と比較して、所与の活性で実質的に向上した選択性、または所与の選択性で実質的に向上した活性を有することが判明した。触媒はまた、ニッケル、コバルト、タングステン、モリブデン、またはそれらの任意の組合せ等の金属水素化成分を含有する。触媒は、ベータゼオライト、YゼオライトI、および支持体の総合乾燥重量を基準として、0.1重量%から2重量%のベータゼオライトを含有し、触媒は、乾燥重量比で、1から10のYゼオライトI対ベータゼオライトの重量比(ベータゼオライトに対するYゼオライトIの重量比)を有する。YゼオライトIは、5.0から11.0の全シリカ対アルミナモル比を有する。一実施形態において、触媒は、YゼオライトIの単位格子サイズよりも大きな単位格子サイズを有する追加のYゼオライトを含有する。
【0010】
そのようなYゼオライトおよびそのようなベータゼオライトを含有する水素化分解触媒は、本技術分野において新規であると考えられる。
高温、高圧、および水素の存在を含む典型的な水素化分解条件下で、そのような触媒は、軽油および他の炭化水素原料を、平均沸点がより低く平均分子量がより小さい生成物に変換するために極めて効果的である。一実施形態において、生成物は、蒸留物範囲(本明細書で定義されるように149℃(300°F)から371℃(700°F))において沸騰する比較的大きな割合の成分を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】いくつかの水素化分解触媒に関する、蒸留物選択性に対する相対触媒活性のグラフである。
【図2】いくつかの水素化分解触媒に関する、重質蒸留物選択性対軽質蒸留物選択性の比(軽質蒸留物選択性に対する重質蒸留物選択性の比)に対する相対触媒活性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(情報開示)
水素化分解のための触媒を含むいくつかの異なる触媒の成分として、ベータゼオライトおよびYゼオライトが組合せとして提案されている。例えば、米国特許第5,275,720号、米国特許第5,279,726号、および米国特許第5,350,501号は、ベータゼオライトおよびYゼオライトを含む触媒を使用した水素化分解プロセスを記載している。米国特許第5,350,501号は、他の成分のうち、24.25から24.35オングストロームの間の単位格子サイズを有し、4.6mm水蒸気分圧および25℃で水蒸気吸着容量がゼオライトの8.0重量%未満である、ベータゼオライトおよびYゼオライトを含む触媒を使用した水素化分解プロセスを記載している。米国特許出願公開第2004/0152587A1号は、24.10から24.40オングストロームの範囲の単位格子サイズ、12を超えるシリカ対アルミナ容積比、および少なくとも850m/gの表面積を有するフォージャサイト構造のゼオライトを含むキャリアを含む水素化分解触媒を記載しており、この触媒は、ベータゼオライト、ZSM−5ゼオライト、またはYゼオライト等の、異なる単位格子サイズを有する第2のゼオライトを含有してもよい。また、米国特許第4,661,239号および米国特許第4,925,546号に記載されているように、水素化分解のための触媒を含むいくつかの異なる触媒の成分として、2種類の異なるYゼオライトが組合せとして提案されている。
【0013】
(発明の詳細な説明)
本明細書において開示される方法および組成物は、特に酸触媒により、有機化合物を含有する原料を生成物に変換するために使用することができ、例えば水素化分解有機化合物、特に炭化水素を、平均沸点がより低く平均分子量がより小さい生成物に変換するために使用することができる。触媒および/または触媒支持体であり得る組成物は、ベータゼオライトおよびYゼオライトIを含む。この組成物はまた、耐熱性の無機酸化物を含んでもよい。水素化分解のための触媒として使用される場合、組成物は、ベータゼオライト、YゼオライトI、耐熱性無機酸化物、および水素化成分を含有する。
【0014】
本明細書で開示される水素化分解方法および組成物は、特定のベータゼオライトおよび特定のYゼオライトを含有する触媒の使用に重点を置いている。組成物は、追加のYゼオライトを任意選択で含有してもよい。ベータゼオライトは、好ましくは、比較的低いシリカ対アルミナモル比、および比較的高いSF吸着容量を有する。YゼオライトIは、24.25から24.32オングストロームの単位格子サイズを有する。存在する場合は、追加のYゼオライトは、YゼオライトIよりも大きい単位格子サイズを有する。そのようなベータゼオライトおよびそのような複数のYゼオライトがこのように水素化分解触媒に組み込まれる場合、異なる性能が得られることが判明している。1種類または2種類のYゼオライトを含有する触媒と比較して、所与の活性において蒸留物範囲で沸騰する生成物の選択性がより高くなるか、または蒸留物範囲で沸騰する生成物の所与の選択性において活性がより高くなる。
【0015】
ベータゼオライトは、水素化分解触媒として当技術分野では周知である。ベータゼオライトは米国特許第3,308,069号および米国再発行特許第28341号に記載されており、その全体は参照することにより本明細書に組み入れられる。本明細書において開示される方法および組成物に使用されるベータゼオライトは、一実施形態において30未満、他の実施形態において25未満、さらに他の実施形態において9より大きく30未満、さらなる実施形態において9より大きく25未満、他の実施形態において20より大きく30未満、またはさらに他の実施形態において15より大きく25未満の、シリカ対アルミナモル比を有する。本明細書で使用される場合、異なるように示されていない限り、ゼオライトのシリカ対アルミナ(SiO対Al)モル比は、ゼオライト中に存在するアルミニウムおよびケイ素(骨格および非骨格)の総量または全体量に基づき決定されるモル比であり、本明細書においては、全シリカ対アルミナ(SiO対Al)モル比と称する場合がある。
【0016】
ベータゼオライトは通常、鋳型剤(templating agent)を含有する反応混合物から合成される。ベータゼオライトを合成するための鋳型剤の使用は、当技術分野では周知である。例えば、米国特許第3,308,069号および米国再発行特許第28341号は、水酸化テトラエチルアンモニウムの使用を記載しており、また米国特許第5,139,759号(その全体は参照することにより本明細書に組み入れられる)は、対応するハロゲン化テトラエチルアンモニウムから得られるテトラエチルアンモニウムイオンの使用を記載している。ベータゼオライトの他の標準的な調製方法は、H.Robson(編集)およびK.P.Lillerud(X線回折像)による、「ゼオライト系材料の検証された合成(Verified Synthesis of Zeolitic Materials)」というタイトルの本(改訂第2版、ISBN0−444−50703−5、エルゼビア(Elsevier)、2001年)に記載されている。特定の鋳型剤の選択は、本明細書に開示される方法の成功には重要ではないと考えられる。一実施形態において、ベータゼオライトは、500℃から700℃(932°Fから1292°F)の温度で、ベータゼオライトから鋳型剤を除去するために十分な時間、空気中で焼成される。鋳型剤を除去するための焼成は、ベータゼオライトが支持体および/または水素化成分と組み合わされる前または後に行うことができる。鋳型剤は、700℃(1292°F)を超える焼成温度で除去可能であると考えられるが、非常に高い焼成温度は、ベータゼオライトのSF吸着容量を著しく減少させる可能性がある。このため、本明細書に開示される方法に使用するためにベータゼオライトを調製する場合は、鋳型剤を除去するための750℃(1382°F)を超える焼成温度は避けるべきであると考えられる。本明細書に開示される方法には、ベータゼオライトのSF吸着容量が少なくとも28重量%であることが重要である。
【0017】
ベータゼオライト等のゼオライトを蒸気処理すると、ゼオライトの実際の結晶構造が変化することが知られているが、現在の分析技術の能力では、ゼオライトの重要な構造細部に関し、これらの変化の正確なモニタリングおよび/または特性決定を行うことは不可能である。それに代わり、表面積等のゼオライトの様々な物理的特性の測定値が、生じた変化および変化の程度の指標として使用される。例えば、蒸気処理後のゼオライトの六フッ化硫黄を(SF)を吸着する容量の低下は、ゼオライトの結晶化度の低下、またはゼオライトの微細孔のサイズもしくは接近性の低下により生じると考えられる。しかしながら、本明細書に開示される方法および組成物に使用される触媒におけるSF吸着容量は比較的高いため、これは望ましくない可能性のあるゼオライトにおける変化の間接的な相関関係である。本明細書に開示される方法および組成物の実施形態において、ベータゼオライトのSF吸着容量は、蒸気処理されたかどうかにかかわらず、少なくとも28重量%であるべきである。
【0018】
したがって、本明細書に開示される方法および組成物のベータゼオライトは、SF吸着の点で特徴付けることができる。これは、ゼオライト等の微細孔材料の特性決定において認められている技術である。これは、吸着質を実質的に含まないように前処理された試料が吸着するSFの量を測定するために重量差を使用するという点で、水容量等の他の吸着容量測定と類似している。この試験ではSFが使用されるが、これはそのサイズおよび形状が、6オングストローム未満の直径を有する細孔への進入を妨げるためである。したがって、これは、利用可能な細孔の口および細孔の直径の収縮の一測定として使用できる。一方で、これはゼオライトに対する蒸気処理の効果の測定である。この測定方法を単純に説明すると、好ましくは、試料をまず300℃(572°F)で1時間、真空中で事前乾燥し、次いで650℃(1202°F)で2時間、大気圧の空気中で加熱し、最後に秤量する。次いで、試料を20℃(68°F)の温度に維持しながらSFに1時間曝露する。SFの蒸気圧は、400トル(53.3kPa(7.7psi))で液体SFが示す蒸気圧に維持される。再び試料を秤量し、吸着したSFの量を測定する。これらのステップを容易化するために、これらのステップの間、試料は秤に吊り下げられてもよい。
【0019】
蒸気処理および加熱等の技術を含むいかなる大量生成手順においても、個々の粒子が異なるレベルの処理に供される可能性がある。例えば、回転窯に沿って移動する積重ねの底にある粒子は、その積重ねの頂部を覆う粒子と同じ雰囲気または温度に曝されない可能性がある。この因子は製造中考慮されなければならず、また完成品の分析および試験中も考慮されなければならない。したがって、個々の粒子または代表的ではない試料に対し行われた測定により誤った方向に導かれることを避けるために、材料に対し行われるいかなる試験手法も、完成品の全体量の代表的な複合試料に対し行うことが推奨される。例えば、吸着容量測定は、代表的な複合試料に対し行われる。
【0020】
本明細書に開示される方法および組成物は、蒸気処理に供されていないベータゼオライトを使用することができるが、本明細書に開示される方法および組成物は、文献におけるベータゼオライトの蒸気処理に比べてその蒸気処理が比較的穏やかである限り、蒸気処理に供されたベータゼオライトをまた使用することもできる。適正な条件下および適正な時間であれば、ベータゼオライトを蒸気処理して、本明細書に開示される方法および組成物に使用可能な触媒を生成することができる。
【0021】
水素化分解触媒における使用のためのゼオライトの熱水処理は、比較的有効でない手法である。所与のゼオライトに対して、蒸気処理はゼオライトの酸性度を低下させる。水素化分解触媒として蒸気処理されたゼオライトを使用すると、見かけ上、全体的な蒸留物の収率が増加するが触媒活性は低下する結果となる。この収率と活性との間の見かけ上の相殺は、高活性を達成することは、ベータゼオライトを蒸気処理せず、より低い生成物収率の犠牲を払うことであることを意味する。この収率と活性との間の見かけ上の相殺は考慮されなければならず、ベータゼオライトの蒸気処理により得られると思われる改善の限界である。本明細書に開示される触媒に蒸気処理されたベータゼオライトが使用されると、Yゼオライトのみを含有する触媒に勝る活性の改善は制限されるようであり、またそのような触媒に勝る収率の改善はより高められるようである。
【0022】
ベータゼオライトが蒸気処理される場合、そのような蒸気処理は、実際に商業的に使用されている方法(これは利用可能な機器の種類および能力に大きく影響されることが多く、またそれにより決定される可能性がある)で、異なる様式で成功裏に行うことができる。蒸気処理は、ベータゼオライトを固定塊として維持するか、またはベータゼオライトを容器内に閉じ込めるかもしくは回転窯内に閉じ込めたまま転倒させて行うことができる。重要な因子は、時間、温度、および蒸気濃度の適切な条件下におけるすべてのベータゼオライト粒子の均一な処理である。例えば、ベータゼオライトは、ベータゼオライト塊の表面および内部に接触する蒸気の量に著しい差異があるように配置されるべきではない。ベータゼオライトは、生蒸気が機器を通過して蒸気濃度が低い雰囲気中で蒸気処理されてもよい。これは、50モル%未満の正の量の蒸気濃度であると言うことができる。蒸気濃度は、小規模な実験室レベルの操作による1モル%から20モル%、または5モル%から10モル%の範囲から、より高い濃度まで拡張することができる。蒸気処理は、1時間もしくは2時間以下の正の期間、または1時間から2時間、600℃(1112°F)以下の温度で、大気圧下、および5モル%以下の正の蒸気含有量で行われてもよい。蒸気処理は、2時間以下の正の期間、650℃(1202°F)以下の温度で、大気圧下、および10モル%以下の正の蒸気含有量で行われてもよい。蒸気含有量は、ベータゼオライトと接触する蒸気の重量に基づく。650℃(1202°F)を超える温度での蒸気処理では、得られるベータゼオライトのSF吸着容量が低すぎるため、本明細書に開示される方法においては有用ではないベータゼオライトとなるようである。650℃(1202°F)未満の温度を用いることができ、蒸気処理温度は、600℃(1112°F)から650℃(1202°F)、または600℃(1112°F)未満であってもよい。通常、蒸気処理の時間と温度との間には相互作用があり、温度を増加すると所要時間が短縮することが当技術分野では教示されている。いずれにしても、蒸気処理が行われる場合、良好な結果のために、0.5時間から2時間または1時間から1.5時間の時間を用いることができるようである。商業規模で蒸気処理を行う方法は、10モル%蒸気の雰囲気を維持する割合で蒸気を噴射させる回転窯を使用することができる。
【0023】
例示的な実験室規模の蒸気処理手順は、クラムシェル型炉内の6.4cm(2と1/2インチ)石英管内に保持されたゼオライトを使用して行われる。炉の温度は制御器により徐々に上昇される。ゼオライトの温度が150℃(302°F)に達したら、フラスコ内に保持された脱イオン水から生成した蒸気を、石英管の底部から進入させて上方に通す。所望の蒸気含有量を達成するために、他のガスを管内に通すことができる。必要に応じてフラスコを再充填する。例示的な手順において、蒸気が流入してからゼオライトが600℃(1112°F)へと上昇するまでの間の時間は1時間である。設定蒸気期間の終わりに、制御器を20℃(68°F)に再設定することにより炉内温度を低下させる。炉を400℃(752°F)に冷却し(2時間)、石英管への蒸気の流入を停止する。100℃(212°F)で試料を取り出し、実験用のオーブン内に、空気でパージしながら110℃(230°F)で一晩静置する。
【0024】
本明細書に開示される方法および組成物のベータゼオライトは、脱アルミニウムを行うために酸性溶液で処理されない。この点に関して、本質的に全ての未処理の(合成されたままの)ベータゼオライトが、合成時から残留するアルカリ金属(ナトリウム等)の濃度を低下させるために酸に曝されることに留意されたい。ベータゼオライト製造手順におけるこのステップは、本明細書に記載されるように製造されたベータゼオライトの処理の一部とみなされない。一実施形態において、処理および触媒製造手順の間、ベータゼオライトは、成形の間または金属含浸の間の解膠等の二次的な製造活動の間にのみ、酸に曝される。他の実施形態において、ベータゼオライトは、蒸気処理手順の後にアルミニウムの「残骸」を細孔から除去するために酸洗浄されない。
【0025】
また、本明細書に開示される方法および組成物には、24.25オングストロームから24.32オングストロームの単位格子サイズを有するYゼオライトも含まれる。このYゼオライトは、異なる単位格子サイズを有する、以下に説明される任意選択の追加のYゼオライトからこのYゼオライトを区別するために、本明細書においてYゼオライトIと呼ばれる場合がある。YゼオライトIは、好ましくは、24.26オングストロームから24.30オングストロームの単位格子サイズを有する。YゼオライトIは、一実施形態において5.0から12.0、他の実施形態において5.0から11.0、さらに他の実施形態において5.0から10.0の全シリカ対アルミナモル比を有することができる。本明細書に開示される方法および組成物は、YゼオライトIを必要とする。
【0026】
任意選択で、YゼオライトIに加え、開示される方法および組成物は、本明細書においてYゼオライトIIと称される場合がある追加のYゼオライトを含んでもよい。YゼオライトIIは、YゼオライトIの単位格子サイズとは異なる単位格子サイズを有する。YゼオライトIIの単位格子サイズは、好ましくは、YゼオライトIの単位格子サイズよりも少なくとも0.04オングストローム大きい。YゼオライトIIの単位格子サイズは、より好ましくは24.33オングストロームから24.38オングストロームであり、さらに好ましくは24.34オングストロームから24.36オングストロームである。YゼオライトIIは、一実施形態において5.0から12.0、他の実施形態において5.0から11.0、さらに他の実施形態において5.0から10.0の全シリカ対アルミナモル比を有することができる。
【0027】
製造プロセス中にYゼオライトIIを追加する選択肢は、水素化分解ユニット操作者の個々の要件を満たす生成物を作製する柔軟性を、触媒生産者に与える。触媒中のYゼオライトIIの存在は、YゼオライトI自体が調製される様式または触媒中に使用されるYゼオライトIの量を変化させる必要なく、触媒の特性を変化させる。しかしながら、ある場合には、YゼオライトIIの添加はYゼオライトIの必要性を低減し、これは相対的なYゼオライトIの生産コストが高い場合や、十分な量のYゼオライトIが利用できない場合には追加の利点となる。水素化分解ユニット操作者、特に蒸留物を生成する者は、水素化分解触媒活性および選択性の特定の要件、また場合によっては独特の要件を満足させるための手法として、YゼオライトIおよびYゼオライトIIの両方を含有する触媒を使用できる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「Yゼオライト」という用語は、米国特許第3,130,007号に記載の必須のX線粉末回折パターンを有するすべての結晶性ゼオライトか、米国特許第3,130,007号のものと類似したX線粉末回折パターンを有するが、当業者には理解されるように、陽イオン交換や焼成等(これらは概して、Yゼオライトを触媒活性で安定な形態に変換するために必要である)に起因して幾分格子面間隔(d-spacings)が変化した改質Yゼオライトを包含するよう意味する。YゼオライトIおよびYゼオライトIIは、米国特許第3,130,007号に教示されるYゼオライトと比較して、改質されたYゼオライトである。本明細書で使用される場合、単位格子サイズとは、X線粉末回折により決定される単位格子サイズを意味する。
【0029】
本明細書に開示される方法および組成物に使用されるYゼオライトは、7.0オングストロームより大きい有効細孔サイズを有する大径細孔ゼオライトである。Yゼオライトの細孔の一部は比較的大きいため、Yゼオライトは、その内部構造に分子を比較的自由に接近させる。Yゼオライトの細孔は、その中にベンゼン分子およびより大きな分子を通過させ、またそこから反応生成物を通過させる。
【0030】
YゼオライトI、YゼオライトII、またはその両方として、本明細書に開示される方法および組成物に使用可能なYゼオライトの1つの群は、超安定性または超疎水性Yゼオライトとも称される場合があるゼオライトを含む。このYゼオライトの群の組成および特性は、本質的に、4つのステップによる手順で調製される。第1に、アルカリ金属(通常ナトリウム)の形態の、典型的には24.65オングストロームの単位格子サイズを有するYゼオライトを、アンモニウムイオンで陽イオン交換する。アンモニウム交換ステップは、典型的には、出発時のナトリウムYゼオライトのナトリウム含有量を、通常8重量%より大きい値、通常10重量%から13重量%(NaOとして計算される)から、0.6重量%から5重量%の範囲の値(NaOとして計算される)まで低下させる。イオン交換を行う方法は、当技術分野では周知である。
【0031】
第2に、第1のステップからのYゼオライトを、水蒸気の存在下で焼成する。例えば、Yゼオライトを、3つの実施形態において、少なくとも1.4kPa(絶対圧)(以降kPa(a)とする)(0.2psi(絶対圧)(以降psi(a)とする))、少なくとも6.9kPa(a)(1.0psi(a))、または少なくとも69kPa(a)(10psi(a))の水蒸気の存在下で焼成する。他の2つの実施形態において、Yゼオライトを、本質的に蒸気からなる、または蒸気からなる雰囲気中で焼成する。Yゼオライトは、24.40から24.64オングストロームの単位格子サイズを生成するために焼成される。
【0032】
第3に、第2のステップからのYゼオライトを、再びアンモニウム交換する。第2のアンモニウム交換により、ナトリウム含有量が、0.5重量%未満、通常0.3重量%未満(NaOとして計算される)にさらに低下する。
【0033】
第4に、YゼオライトIの場合は、24.25から24.32オングストローム、または好ましくは24.26から24.30オングストロームの単位格子サイズを有するYゼオライトを生成するように、第3のステップからのYゼオライトをさらに処理する。YゼオライトIIの場合は、処理により24.33から24.38オングストローム、または好ましくは24.34から24.36オングストロームの単位格子サイズを有するYゼオライトが生成される。第4のステップから得られるゼオライトYは、一実施形態において5.0から12.0、他の実施形態において5.0から11.0、さらに他の実施形態において5.0から10.0の全シリカ対アルミナモル比を有する。第4のステップの処理は、所望の単位格子サイズおよび全シリカ対アルミナモル比をもたらすために、一般にゼオライト、具体的には超安定性Yゼオライトの脱アルミニウムのためのいかなる周知の技術をも含み得る。第4の処理ステップは、全シリカ対アルミナモル比を変化させて、あるいは変化させずに、単位格子サイズおよび/または骨格シリカ対アルミナモル比を変化させることができる。一般に、ゼオライトの脱アルミニウムは、酸(例えばHCl)による処理、揮発性ハロゲン化物(例えばSiCl)による処理、またはキレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等)による処理等の化学的方法により達成される。他の一般的な技術は、所望の単位格子サイズおよび全シリカ対アルミナモル比をもたらすための、純粋な蒸気または空気/蒸気の混合気中でのゼオライトの熱水処理であり、好ましくは、十分な水蒸気中等(例えば本質的に蒸気からなる、最も好ましくは蒸気からなる雰囲気中等)での焼成等である。
【0034】
本明細書に開示される方法および組成物に使用されるYゼオライトの上述の調製手順は、第4の処理ステップを追加している点で、米国特許第3,929,672号で教示されるYゼオライトに対する手順とは異なる。参照することにより全体が本明細書に組み入れられる米国特許第3,929,672号は、超安定性Yゼオライトの脱アルミニウムの方法を開示している。米国特許第3,929,672号は、ナトリウムYゼオライトが部分的にアンモニウムイオンにより交換され、次いで制御された温度および蒸気分圧下での蒸気焼成が行われ、次いでさらに別のアンモニア交換が行われ、次に任意選択の乾燥雰囲気中での焼成ステップが行われる調製手順を教示している。交換および蒸気焼成ステップは、所望の程度の脱アルミニウムおよび単位格子サイズの減少を達成するために繰り返すことができる。米国特許第3,929,672号のゼオライトは、UOP LLC(米国イリノイ州デスプレーンズ)から市販されているY−84またはLZY−84の記号表示のもとで知られている。Y−84またはLZY−84ゼオライトは、上述した最初の3つのステップにより生成することができるが、任意選択で、例えば水および蒸気を含まない空気中における482℃(900°F)以上での焼成等、乾燥雰囲気中でのさらなる焼成ステップを含んでもよい。
【0035】
本明細書に開示される方法および組成物に使用されるYゼオライトの上述の調製手順は、米国特許第5,350,501号で教示されるYゼオライトに関する手順と類似している。しかしながら、YゼオライトIおよび任意選択のYゼオライトIIの単位格子サイズの重要な範囲を生成するために、上述の第4の処理ステップにおける特定の条件を選択することができる。参照することにより全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,350,501号は、水蒸気の吸着容量が比較的低く、24.40オングストローム未満、最も好ましくは24.35オングストローム以下の単位格子サイズを生成するための、十分な水蒸気の存在下(本質的に蒸気からなる、または蒸気からなる雰囲気中)での、第3の処理ステップから得られるゼオライトの焼成を含む、第4のステップを開示している。米国特許第5,350,501号における4つのステップによる手順で生成されたYゼオライトは、米国特許第5,350,501号で定義される超疎水性YゼオライトであるUHP−Yゼオライトである。米国特許第5,350,501号は、「UHP−Y」ゼオライトを、他の特性の中でも、単位格子サイズまたは寸法が24.45オングストローム未満であり、25℃およびp/p値0.10における水蒸気吸着容量が10.00重量%未満であるアルミノケイ酸ゼオライトと定義している。米国特許第5,350,501号における最も好ましいUHP−Yゼオライトは、LZ−10である。
【0036】
YゼオライトI、YゼオライトII、またはその両方として、本明細書に開示される方法および組成物に使用可能なYゼオライトの他の群は、5未満の全シリカ対アルミナモル比を有するYゼオライトの脱アルミニウムにより調製することができ、これは米国特許第4,503,023号、米国特許第4,597,956号、および米国特許第4,735,928号(これらは参照することによりその全体が本明細書に組み入れられる)に詳述されている。米国特許第4,503,023号は、ケイ素置換なしのアルミニウム抽出を避ける、制御された割合、温度、およびpH条件を使用して、Yゼオライトをフルオロケイ酸塩の水溶液と接触させるステップを含む、Yゼオライトの脱アルミニウムの他の手順を開示している。米国特許第4,503,023号は、フルオロケイ酸塩がアルミニウム抽出剤として使用され、また抽出されたアルミニウムのかわりにYゼオライト構造に挿入される外来ケイ素源としても使用されることを明示している。この塩は、一般式:
(A)2/bSiF
を有し、式中、Aは、H以外の価数「b」を有する金属または非金属陽イオンである。「A」で表される陽イオンは、アルキルアンモニウム、NH、Mg2+、Li、Na、K、Ba2+、Cd2+、Cu2+、H、Ca2+、Cs、Fe2+、Co2+、Pb2+、Mn2+、Rb、Ag、Sr2+、Ti、およびZn2+である。
【0037】
この群に含まれる好ましい要素は、UOP LLC(米国イリノイ州デスプレーンズ)から市販されているLZ−210、アルミノケイ酸ゼオライト分子篩である。LZ−210ゼオライトおよびこの群の他のゼオライトは、Yゼオライト開始材料から都合よく調製される。LZ−210ゼオライトは、一実施形態において5.0から12.0、他の実施形態において5.0から11.0、さらに他の実施形態において5.0から10.0の全シリカ対アルミナモル比を有する。単位格子サイズは、YゼオライトIの場合、24.25から24.32オングストロームまで、または好ましくは24.26から24.30オングストロームまでとすることができる。YゼオライトIIの場合、単位格子サイズは、24.33から24.38オングストロームまで、または好ましくは24.34から24.36オングストロームまでとすることができる。本明細書に開示される方法および組成物に使用されるLZ−210クラスのゼオライトは、下記式:
(0.85−1.1)M2/nO:Al:xSiO
のように酸化物のモル比に関して表現される組成を有し、式中、「M」は価数「n」を有する陽イオンであり、「x」は5.0から12.0の値を有する。
【0038】
概して、LZ−210ゼオライトは、フルオロケイ酸塩の水溶液、好ましくはヘキサフルオロケイ酸アンモニウムの溶液を使用したY型ゼオライトの脱アルミニウムにより調製することができる。脱アルミニウムは、Yゼオライト、通常(ただし必須ではない)アンモニウム交換Yゼオライトを、酢酸アンモニウム水溶液等の水性反応媒質に入れ、徐々にフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を添加することにより達成される。反応を進行させた後、全シリカ対アルミナモル比が増加したゼオライトが生成される。増加の程度は、ゼオライトと接触するフルオロケイ酸塩溶液の量、および許容される反応時間に少なくとも部分的に依存する。通常、10時間から24時間の間の反応時間が、平衡に達するために十分である。得られる固体生成物は、従来の濾過技術により水性反応媒質から分離可能であり、LZ−210ゼオライトの形態である。ある場合には、この生成物は、当技術分野では周知の方法により蒸気焼成に供されてもよい。例えば、より大きな結晶安定性を与えるために、1/4時間から3時間の間の期間、482℃(900°F)から816℃(1500°F)の間の温度で、少なくとも1.4kPa(a)(0.2psi(a))の分圧の水蒸気に生成物を接触させてもよい。ある場合には、蒸気焼成の生成物を、当技術分野では周知の方法によりアンモニウム交換に供してもよい。例えば、生成物を水でスラリー化し、その後にそのスラリーにアンモニウム塩を加えてもよい。典型的には、得られる混合物を数時間加熱し、濾過し、水で洗浄する。LZ−210ゼオライトの蒸気処理およびアンモニウム交換の方法は、米国特許第4,503,023号、米国特許第4,735,928号、および米国特許第5,275,720号に記載されている。
【0039】
上述の調製手順により調製され本明細書に開示される方法および組成物に使用されるYゼオライトIは、ゼオライトYの必須のX線粉末回折パターンと、24.25から24.32オングストローム、好ましくは24.26から24.30オングストロームの単位格子サイズまたは寸法aを有する。上述の調製手順により調製され本明細書に開示される方法および組成物に使用される任意選択のYゼオライトIIは、ゼオライトYの必須のX線粉末回折パターンと、24.33から24.38オングストローム、好ましくは24.34から24.36オングストロームの単位格子サイズまたは寸法aを有する。YゼオライトI、YゼオライトII、またはその両方は、一実施形態において5.0から12.0、他の実施形態において5.0から11.0、さらに他の実施形態において5.0から10.0の全シリカ対アルミナモル比を有することができる。YゼオライトIおよび/またはYゼオライトIIは、少なくとも500m/gで800m/g未満、多くの場合700m/g未満、典型的には500m/gから650m/gの表面積(BET)を有することができる。
【0040】
Yゼオライトの安定性および/または酸性度を増加させる他の方法は、Yゼオライトを多価金属陽イオンで、例えば希土類含有陽イオン、マグネシウム陽イオンもしくはカルシウム陽イオン、またはアンモニウムイオンと多価金属陽イオンの組合せ等で交換し、これにより第1または第2のアンモニウム交換ステップの後に、上述の値と同じくらい低い値までナトリウム含有量を低下させることによるものである。イオン交換を行う方法は、当技術分野では周知である。
【0041】
本明細書に開示される方法に使用される触媒は、主として既存の商業用水素化分解ユニットにおける代替触媒としての使用が意図されている。したがって、そのサイズおよび形状は、好ましくは、従来の商業用触媒のものと類似する。好ましくは、0.8〜3.2mm(1/32〜1/8インチ)の直径を有する円筒状押出物の形態で製造される。しかしながら、触媒は、球状またはペレット状等、他のいかなる所望の形態で作製されてもよい。押出物は、減少した拡散距離または圧力降下の点で有利な周知のトリローバル(trilobal)またはその他の形態等、円筒以外の形態であってもよい。
【0042】
商業用水素化分解触媒は、多くの非ゼオライト系材料を含有する。これは、粒子強度、費用、空隙率、および性能等、いくつかの理由による。したがって、他の触媒成分は、たとえ活性分解成分としてではない場合であっても、触媒全体に肯定的に寄与する。これらの他の成分は、本明細書において、支持体と称される。シリカ−アルミナ等の支持体のいくつかの従来の成分は、通常、触媒の分解能力にある程度寄与する。本明細書に開示される方法および組成物の実施形態において、触媒は、比較的少ない含有量のベータゼオライトを含有する。触媒は、ベータゼオライト、YゼオライトI、YゼオライトII(該当する場合)、および支持体の総合重量(全て乾燥重量)を基準として、2重量%未満、好ましくは0.1重量%から2重量%、より好ましくは0.5重量%から0.8重量%の正の量のベータゼオライトを含有する。本明細書で使用される場合、乾燥重量とは、500℃(932°F)で6時間、乾燥空気中で加熱した後の重量とみなされる。触媒は、1から10、好ましくは2.3から5.9の、YゼオライトI対ベータゼオライトの乾燥重量比(ベータゼオライトに対するYゼオライトIの乾燥重量比)を有する。任意選択のYゼオライトIIが存在する場合、触媒は、1.5から6.5、好ましくは2.3から4.7の、YゼオライトI対YゼオライトIIの乾燥重量比(YゼオライトIIに対するYゼオライトIの乾燥重量比)を有する。任意選択のYゼオライトIIが存在する場合、触媒は、ベータゼオライト、YゼオライトI、YゼオライトII、および支持体の総合重量(全て乾燥重量)を基準として、最大5重量%の正の量、好ましくは最大4.3重量%の正の量、より好ましくは最大4.1重量%の正の量のYゼオライトIおよびYゼオライトIIを含有する。
【0043】
ゼオライト系材料以外の触媒粒子の残りは、主としてアルミナおよび/またはシリカ−アルミナ等の従来の水素化分解材料が占める。シリカ−アルミナの存在は、触媒の所望の性能特性を達成するのに役立つ。一実施形態において、触媒は、ともにゼオライトおよび支持体の総合重量(全て乾燥重量)を基準として、少なくとも25重量%のアルミナおよび少なくとも25重量%のシリカ−アルミナを含有する。別の実施形態において、ともにゼオライトおよび支持体の総合重量(全て乾燥重量)を基準として、触媒のシリカ−アルミナ含有量は40重量%を超え、触媒のアルミナ含有量は20重量%を超える。しかしながら、アルミナは、活性分解成分ではなく、バインダーとしてのみ機能すると考えられる。触媒支持体は、支持体の乾燥重量を基準として、50重量%を超えるシリカ−アルミナまたは50重量%を超えるアルミナを含有してもよい。一実施形態において、ほぼ等しい量のシリカ−アルミナおよびアルミナが使用される。シリカ−アルミナおよびアルミナに加え支持体として使用可能な他の無機耐熱材料は、例えば、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、およびジルコニア−アルミナ等を含む。これらの上述の支持体材料は、単独で、または任意の組合せとして使用することができる。
【0044】
ベータゼオライト、Yゼオライト、および他の支持体材料の他に、主題の触媒は、金属水素化成分を含有する。水素化成分は、好ましくは、触媒粒子中に均一に分散した1種または複数種のベースとなる金属として提供される。水素化成分は、周期表の第6、9、および10族からの1種または複数種の元素成分である。白金およびパラジウム等の貴金属を利用することができるが、2種類のベース金属を組み合わせると最良の結果が得られている。具体的には、ニッケルまたはコバルトを、それぞれタングステンまたはモリブデンと組み合わせる。金属水素化成分の好ましい組成は、ニッケルおよびモリブデンの両方か、またはニッケルおよびタングステンの両方である。ニッケルまたはコバルトの量は、好ましくは、最終的な触媒の2重量%から8重量%の間である。タングステンまたはモリブデンの量は、好ましくは、最終的な触媒の8重量%から22重量%の間である。ベース金属水素化成分の総量は、最終的な触媒の10重量%から30重量%である。
【0045】
主題の方法の触媒は、業界標準の技術を使用して配合することができる。これは、大きく一般化すると、ベータゼオライトおよびYゼオライトを、他の無機酸化物成分および水または弱酸等の液体と混合して押出可能な生地を形成した後、多孔ダイプレートを介した押出を行うこととして要約することができる。押出物を回収し、好ましくは高温で焼成して押出物を硬化させる。次いで押し出された粒子をサイズにより篩い分け、ディップ式含浸技術または周知の含浸(incipient wetness)技術により水素化成分を加える。触媒が水素化成分に2種類の金属を含有する場合、これらは順次または同時に加えることができる。触媒粒子は、金属添加ステップ間に焼成することができ、さらに金属が加えられた後に再び焼成することができる。
【0046】
他の実施形態において、多孔質の無機耐熱性酸化物、ベータゼオライトおよびYゼオライト、ならびに金属含有化合物を組み合わせ、次いで組み合わされた材料をともに混錬した後、混錬された材料を押し出し、最後に押し出された材料を焼成することが好都合または好ましい可能性がある。混錬は、七モリブデン酸アンモニウムまたはメタタングステン酸アンモニウム等の金属源、ならびに、硝酸ニッケルまたは硝酸コバルト等の他の金属の他の源を用いて行われ、概してその源の化合物はともに、組み合わされた材料中に、水溶液の形態で、または塩として導入される。他の金属も、溶解した水溶液形態または塩として同様に導入することができる。同様に、リン等の非金属元素も、リン酸等の可溶性成分を、使用時に水溶液中に組み込むことにより導入することができる。
【0047】
さらに他の調製法が、米国特許第5,279,726号および米国特許第5,350,501号に記載されており、その全体は参照することにより本明細書に組み入れられる。
【0048】
上述の手順により調製される触媒は、酸化物形態の水素化金属を含有する。酸化物形態は、一般に水素化分解のために硫化物形態に変換される。これは、水素化分解反応器への触媒の投入前の実験施設内での(ex situ)事前硫化、水素化分解反応器への触媒の投入後であって高温での使用の前の事前硫化、およびその場での(in situ)硫化、すなわち、酸化物形態の触媒を使用して、高温、高圧、および水素の存在を含む水素化分解条件下で、硫黄化合物を含有する炭化水素原料を水素化分解することによる硫化を含む、硫化のためのいかなる周知の技術によっても、達成することができる。
【0049】
本明細書において開示される水素化分解方法は、現在水素化分解プロセスにおいて商業的に使用されている一般的な条件の範囲内で行われる。運転条件は、多くの場合、精製所または処理ユニットに特定のものである。すなわち、その大部分は、既存の水素化分解ユニットの構成および限界により決定され、これは通常、供給物の組成および所望の生成物に関する著しい出費がなければ変更不可能である。触媒床の入口温度は、232℃(450°F)から454℃(850°F)であるべきであり、入口圧力は5171kPa(g)(750psi(g))から24132kPa(g)(3500psi(g))、典型的には6895kPa(g)(1000psi(g))から24132kPa(g)(3500psi(g))であるべきである。供給流は、0℃(32°F)および101.3kPa(a)(14.7psi(a))で測定して、168標準ltr/ltrから1684標準ltr/ltrの単位供給体積当たりの体積水素循環速度(15.6℃(60°F)および101.3kPa(a)(14.7psi(a))で測定して、1000から10000標準ft/barrel(SCFB)の単位供給体積当たりの体積水素循環速度)を提供するために十分な水素と混合され、触媒の固定床を含有する1つまたは複数の反応器に通される。水素は、主として、必須ではないが酸ガスの除去のために精製施設を通過することができる再循環ガス流から得られる。供給物と混合された水素富化ガス、および一実施形態におけるいかなる再循環炭化水素も、通常少なくとも75モルパーセントの水素を含有する。蒸留物を生成するための水素化分解では、LHSVでの供給速度は、通常0.3hr−1から3.0hr−1の広い範囲内にある。本明細書で使用される場合、LHSVは液空間速度(liquid hourly space velocity)を意味し、1時間当たりの液体の体積流量を触媒体積で割った値として定義され、液体の体積および触媒の体積は同じ体積単位である。
【0050】
本明細書に開示される方法への典型的な供給物は、原油から分留により回収された多くの異なる炭化水素および共沸化合物の混合物である。これは通常、蒸留物を生成するために、149℃(300°F)から371℃(700°F)の沸点範囲の上限よりも高い温度で沸騰する成分を有する。多くの場合、340℃(644°F)を超える温度を始点とし、一実施形態においては482℃(900°F)未満、他の実施形態においては540℃(1004°F)未満、また第3の実施形態においては565℃(1049°F)未満を終点とする沸点範囲を有する。そのような石油起源の供給物は、常圧軽油(atmospheric gas oil)、熱分解軽油(coker gas oil)、直留軽油(straight run gas oil)、脱歴軽油(deasphalted gas oil)、減圧軽油(vacuum gas oil)、およびFCC(fluid catalytic cracking;流動接触分解)サイクルオイル等、精製所において生成される流れのブレンドであってもよい。典型的な軽油(ガスオイル)は、166℃(330°F)から566℃(1050°F)の範囲で沸騰する成分を含む。あるいは、本明細書に開示される方法への供給物は、重質減圧軽油(heavy vacuum gas oil)等の単一の留分であってもよい。典型的な重質減圧軽油留分は、371℃(700°F)から566℃(1050°F)で沸騰する、通常少なくとも80重量%の高い割合の炭化水素成分を有する。シェール油または石炭から回収されるような合成炭化水素混合物も、主題の方法において処理することができる。供給物は、硫黄、窒素、または他の不純物、例えばアスファルテンの総量を除去するために、主題の方法に移る前に水素処理に供されてもよく、または溶媒抽出により処理されてもよい。
【0051】
主題の方法は、供給物の大部分を、蒸留物の沸点範囲の炭化水素等の、より揮発性の高い炭化水素に変換することが期待される。典型的な変換率は、供給物の組成に大きく依存して、50体積パーセントから100体積パーセント(以降vol%)まで変動する。変換率は、本明細書に開示される方法の一実施形態においては60vol%から90vol%の間であり、他の実施形態においては70vol%から90vol%の間であり、さらに他の実施形態においては80vol%から90vol%の間であり、さらに他の実施形態においては、65vol%から75vol%の間である。プロセス流出物は、メタンから、任意の所望の生成物の沸点範囲より高い温度で沸騰する本質的に変化しない供給炭化水素まで、実際には広範な炭化水素を含有する。プロセス流出物は、典型的には、触媒を含有する反応器から出て、通常、相分離または蒸留を含む当業者に知られた方法により分離され、任意の所望の最終沸点を有する生成物を生成する。任意の所望の生成物の最終沸点を超える温度で沸騰する炭化水素は、プロセス中にその沸点がある程度低下した場合であっても、未変換生成物と称される。ほとんどの未変換炭化水素は、抵抗流(drag stream)として少量の割合、例えば5重量%が除去されて反応領域に再循環される。蒸留物を生成するために、少なくとも30重量%、および好ましくは少なくとも50重量%の流出物が、371℃(700°F)未満で沸騰する。
【0052】
本明細書に開示される方法および組成物は、当技術分野において、事前の水素処理を施して、または施さずに、1段階式および2段階式プロセスフローと称されるものに使用することができる。これらの用語は、J.ScherzerおよびA.J.Gruiaによる、水素化分解の科学技術(Hydrocracking Science and Technology)というタイトルの本(ISBN0−8247−9760−4、Marcel Dekker Inc.、ニューヨーク、1996)に定義され説明される通りに使用される。2段階式プロセスにおいては、主題の触媒は、第1段階または第2段階で使用することができる。該触媒は、別個の反応器において水素処理触媒が先行してもよく、あるいは水素処理触媒または異なる水素化分解触媒として同じ反応器に投入されてもよい。上流側の水素処理触媒は、供給物前処理ステップとして、または再循環された未変換材料を水素処理するために使用することができる。水素処理触媒は、その後の水素化分解触媒床におけるその変換を促進するために、多核芳香族(PNA)化合物を水素処理する特定の目的に使用することができる。主題の触媒はまた、第2の異なる触媒、例えばYゼオライトに基づく触媒、または主として非晶質分解成分を有する触媒と組み合わせて使用することもできる。
【0053】
本明細書に開示される方法のいくつかの実施形態において、触媒は、供給物とともに使用されるか、または触媒を通過する供給物が未加工供給物であるかもしくは未加工供給物に近い構成で使用される。原油の硫黄含有量、つまりこの方法への供給物は、その源に大きく依存して変動する。本明細書で使用される場合、未加工供給物は、水素処理されていない供給物、または、硫黄レベルが1000重量ppmを超える結果となる有機硫黄化合物を依然として含有する供給物、もしくは窒素レベルが100重量ppm(0.01重量%)を超える結果となる有機窒素化合物を依然として含有する供給物を指すように意図される。
【0054】
本明細書に開示される方法の他の実施形態において、触媒は、水素処理された供給物とともに使用される。炭化水素処理技術における当業者は、本明細書に開示される方法に投入されるべき水素処理された供給物を生成するための、未処理供給物の水素処理を理解し実践することができる。水素処理された供給物の硫黄レベルは、500重量ppmから1000重量ppmの間であってもよいが、水素処理された供給物の硫黄レベルは、本明細書に開示される方法の一実施形態において500重量ppm未満、他の実施形態において5重量ppmから500重量ppmである。水素処理された供給物の窒素レベルは、一実施形態において100重量ppm未満、他の実施形態において1から100重量ppmである。
【0055】
本明細書において、周期表の元素の族に関する全ての言及は、CRC化学物理ハンドブック(CRC Handbook of Chemistry and Physics)というタイトルの本(ISBN0−8493−0480−6、CRCプレス、米国フロリダ州ボカラトン、第80版、1999〜2000)の表紙の内側にある元素周期表上のIUPAC「新表記法(New Notation)」に従う。本明細書において、表面積に関する全ての言及は、ASTM D4365−95、触媒の微細孔容積およびゼオライト領域決定のための標準試験法(Standard Test Method for Determining Micropore Volume and Zeolite Area of a Catalyst)およびJ.Am.Chem.Soc.、60(2)、309〜319(1938)におけるS.Brunauerらによる論文に記載の、窒素吸着技術を使用したBET(Brunauer−Emmett−Teller)法により決定される、窒素分圧p/pが0.03での単点表面積に従う。本明細書において、沸点に関するすべての言及は、ASTM D2887、ガスクロマトグラフィーによる石油留分の沸点範囲分布の標準試験法(Standard Test Method for Boiling Range Distribution of Petroleum Fractions by Gas Chromatography)により決定される沸点に従う。ASTM法は、ASTMインターナショナル(100 Barr Harbor Drive,P.O. Box C700,West Conshohocken,ペンシルベニア州, U.S.A)から利用可能である。
【0056】
以下の実施例は、例示目的で提供され、請求項に定義される方法および組成物を制限しない。
【実施例】
【0057】
実施例1
試料1
UOP LLC(米国イリノイ州デスプレーンズ)により販売され、0.2重量%未満のナトリウム含有量(NaOとして計算)を有する、文献中Y−84と称されるアンモニウム交換Yゼオライトを蒸気処理することにより、改質Yゼオライトを調製した。得られる改質Yゼオライトは、本明細書において試料1と称され、5.0から5.5の全シリカ対アルミナ(SiO対Al)モル比、24.28オングストロームの単位格子サイズ、および540m/gから640m/gの表面積を有していた。YゼオライトIの例である試料1は、表においてY1と称される。
【0058】
試料2
蒸気処理条件が異なる以外、試料1に関して説明されたものと同様の手法で改質Yゼオライトを調製した。得られる改質Yゼオライトは、本明細書において試料2と称され、5.0から5.5の全シリカ対アルミナ(SiO対Al)モル比、24.35オングストロームの単位格子サイズ、および630m/gから730m/gの表面積を有していた。YゼオライトIIの例である試料2は、表においてY2と称される。
【0059】
実施例2
試料1、試料2(存在する場合)、23.8の全シリカ対アルミナ(SiO対Al)モル比および29重量%のSF吸着容量を有し、合成の間使用される鋳型(存在する場合)を含有するベータゼオライト、非晶質シリカ−アルミナ、ならびにHNO解膠Catapal(商標)Cベーマイトアルミナを、混錬器内で混合することにより、8種類の触媒(A〜H)を調製した。非晶質シリカ−アルミナは、75重量%シリカおよび25重量%アルミナの通常の組成を有するCCICシリカ−アルミナか、または40重量%シリカおよび60重量%アルミナの通常の組成を有するSiral 40シリカ−アルミナであった。CCICシリカ−アルミナは、Catalysts&Chemicals Industries Co.Ltd.(CCIC)から入手可能であり、Catapal CアルミナおよびSiral 40シリカ−アルミナは、Sasol Germany GmbHから入手可能である。最終的な触媒それぞれにおけるこれらの成分の乾燥量を表に列挙している。得られる混合物を、直径1.6mm(1/16インチ)、長さ3.2mm(1/8インチ)から12.7mm(1/2インチ)の間の円筒状粒子に押し出した。湿潤している押出物を最低4時間104℃(220°F)で乾燥し、次いで最低90分間550℃(1022°F)を超える温度で焼成した。次いで、触媒A〜FおよびHに対しては、最終的な触媒に4重量%のニッケル(Niとして計算)を提供するために十分な硝酸ニッケル、および最終的な触媒に14重量%のタングステン(Wとして計算)を提供するために十分なメタタングステン酸アンモニウムを、焼成された押出物に加えて含浸(incipient wetness)し、一方触媒Gに対しては、対応する量は5重量%のニッケルおよび17.5重量%のタングステンであった。次いで押出物を乾燥させて自由流動性とした後、最低90分間500℃(932°F)で焼成することにより酸化させた。触媒Iは、平均5.5重量%のニッケルおよび17.5重量%のタングステンを含有する標準的な水素化分解触媒である。ニッケルおよびタングステンの含有量の違いは、これらの実施例に記載される水素化分解活性および選択性の結果には大きな影響を与えないと考えられる。
【0060】
実施例3
10vol%のHSおよびその残りはHからなるガス流を触媒床に通し、最初に149℃(300°F)の温度で、そして徐々に413℃(775°F)に上げて6時間その温度に保持することにより、上述の9種類の触媒のそれぞれを事前硫化した。
【0061】
模擬的な第1段階試験において、9種類の触媒を水素化分解活性および選択性(すなわち生成物収率)について比較した。具体的には、15.6℃(60°F)において0.877の比重(API比重30.05°)を有し、初期沸点107℃(224°F)、5重量%沸点195℃(382°F)、最終沸点550℃(1021°F)、および50重量%沸点24℃(795°F)を有し、13重量%沸点288℃(550°F)未満および26重量%沸点371℃(700°F)未満である、水素処理された軽質Arabian減圧軽油(VGO;vacuum gas oil)供給物を水素化分解するために、9種類の触媒を別個に試験した。
【0062】
1.5hr−1のLHSV、13786kPa(g)(2000psi(g))の全圧、並びに0℃(32°F)および101.3kPa(a)(14.7psi(a))で測定して1684標準ltr/ltrの単位供給体積当たりの体積水素供給速度(15.6℃(60°F)および101.3kPa(a)(14.7psi(a))で測定して10000SCFBの単位供給体積当たりの体積水素供給速度)で原料を実験室サイズの反応器に通すことにより、各触媒を、模擬的な第1段階の操作について試験した。十分なジ−tert−ブチルジスルフィドを供給物に加えて、2.1重量%の硫黄を生成し、それにより、商業的な第1段階の水素化分解反応器に存在するような硫化水素含有雰囲気を模した。さらに、十分なシクロヘキシルアミンを供給物に加えて、780重量ppmの窒素を生成し、それにより、商業的な第1段階の水素化分解反応器に存在するようなアンモニア含有雰囲気を模した。
【0063】
蒸留物を生成するための水素化分解試験に関して、371℃(700°F)未満の温度で沸騰する材料への65重量%の正味変換率を100時間にわたって維持するために、必要に応じて温度条件を調整した。正味変換率とは、供給物のパーセントとしての371℃(700°F)未満の温度で沸騰する流出物の値から、371℃(700°F)未満の温度で沸騰する供給物のパーセントを差し引いたものである。100時間の終わりに、65重量%の正味変換率を維持するために必要な温度を記録し、各触媒の相対活性および選択性を計算した。これらのデータを表にまとめている。各触媒に対する選択性の値は、全蒸留物(すなわち149℃(300°F)から371℃(700°F))、軽質蒸留物(すなわち149℃(300°F)から288℃(550°F))、および重質蒸留物(すなわち288℃(550°F)から371℃(700°F))のものであった。各触媒に対する相対活性値は、65重量%正味変換率を維持するために必要とされる触媒の温度と、9種類の触媒全てに対し同じである参考温度との間の差異として記入される。相対活性の値が低いほど、触媒はより活性である。
【0064】
【表1】

【0065】
図1は、VGOから全蒸留物カットへの65重量%の正味変換率を達成するために必要な参考温度を上回る反応器温度に関して表された相対触媒活性に対してプロットされた、触媒A〜Iの149℃(300°F)〜371℃(700°F)カット蒸留物の選択性のチャートである。触媒A〜F(四角形)は、所与の相対活性における全蒸留物選択性が、触媒G〜I(ダイヤモンド形)よりも大きいことを示している。
【0066】
図2は、相対活性に対する、軽質蒸留物カット選択性に対する重質蒸留物カット選択性の重量比のチャートである。触媒A〜F(四角形)は、触媒G〜I(ダイヤモンド形)と比較して、軽質蒸留物に対する重質蒸留物の選択性が極めて高いことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化成分と、30未満の全シリカ対アルミナモル比および少なくとも28重量%のSF吸着容量を有するベータゼオライトと、24.25から24.32オングストロームの単位格子サイズを有するYゼオライト(YゼオライトI)と、支持体とを含む触媒を含有する物質の組成物であって、
前記YゼオライトIは、5.0から11.0の全シリカ対アルミナモル比を有し、
前記触媒は、前記ベータゼオライト、前記YゼオライトI、および前記支持体の総合乾燥重量を基準として、0.1重量%から2重量%のベータゼオライトを含有し、
前記触媒は、1から10のYゼオライトI対ベータゼオライトの乾燥重量比を有する、
前記組成物。
【請求項2】
前記YゼオライトIが、800m/g未満の表面積を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記水素化成分が、モリブデン、タングステン、ニッケル、コバルト、ならびにそれらの酸化物および硫化物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記YゼオライトIの単位格子サイズが第1の単位格子サイズであり、前記触媒が、24.33から24.38オングストロームであって、前記第1の単位格子サイズより少なくとも0.04オングストローム大きい第2の単位格子サイズを有する、追加のYゼオライト(YゼオライトII)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記YゼオライトIが、24.26から24.30オングストロームの単位格子サイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記YゼオライトI対ベータゼオライトの乾燥重量比が、2.3から5.9である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記YゼオライトIが、
(a)ナトリウムYゼオライトを、部分的にアンモニウム交換するステップ;
(b)ステップ(a)から得られるゼオライトを、水蒸気の存在下で焼成するステップ;
(c)ステップ(b)から得られるゼオライトを、アンモニウム交換するステップ;及び
(d)ステップ(c)から得られるゼオライトを、水蒸気の存在下で焼成するステップ;
を含む方法により調製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記YゼオライトIが、
(a)ナトリウムYゼオライトを、部分的にアンモニウム交換するステップ;
(b)ステップ(a)から得られるゼオライトを、水蒸気の存在下で焼成するステップ;
(c)ステップ(b)から得られるゼオライトを、水溶液の形態のフルオロケイ酸塩と接触させるステップ;及び
(d)ステップ(c)から得られるゼオライトを、水蒸気の存在下で焼成するステップ;
を含む方法により調製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記YゼオライトIが、
(a)ナトリウムYゼオライトを、水溶液の形態のフルオロケイ酸塩と接触させるステップ;及び
(b)ステップ(a)から得られるゼオライトを、水蒸気の存在下で焼成するステップ;
を含む方法により調製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
炭化水素原料を水素化分解するための方法であって、232℃から454℃の温度および5171kPa(g)から24132kPa(g)の圧力で、水素の存在下に、前記請求項1〜9のいずれかに記載の触媒組成物に前記原料を接触させるステップを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−543692(P2009−543692A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520887(P2009−520887)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/073031
【国際公開番号】WO2008/011288
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】