説明

ベーンポンプ

【課題】 両サイドプレートが十分にたわんで、両サイドプレートとロータ及びベーンとのすき間を最適な状態に保つベーンポンプを提供することである。
【解決手段】 ボディbの一側をカバーcでふさぐ一方、ボディbに形成したボディボア5にカムリング7を組み込み、カムリング7に、複数のベーン10を出入自在にしたロータ8を組み入れ、ロータ8の回転にともなってベーン10をカムリング7の内周に沿って出入させる構成にし、かつ、カムリング7の両側にサイドプレート6,15を設け、サイドプート6,15の背面に高圧を作用させるベーンポンプにおいて、両サイドプレート6,15の外径を、カムリング7の内径よりも大きくする一方、両サイドプレート6,15の背面に設けた高圧を作用させる高圧エリア13,26の外径を、カムリング7の内径と等しくするか、あるいはその内径よりも小さくした点に特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロント側サイドプレートとリア側サイドプレートとを備えたベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のベーンポンプとして特許文献1に開示されたものが従来から知られている。この特許文献1に記載された従来のベーンポンプは、ボディ内にカムリングを組み込むとともに、このカムリング内に、複数のベーンを出入自在にしたロータを組み入れている。そして、このロータは駆動軸に連係し、駆動軸の回転にともなって回転するとともに、そのロータに設けた上記ベーンをカムリングの内側に沿って出入させる。このようにロータが回転する過程で、ベーンとベーンとで区画された室が収縮したり、あるいは拡張したりするが、その拡張時が吸い込み行程になり、収縮時が吐出行程になる。
【0003】
さらに、上記カムリングの両側には、サイドプレートを設けているが、ボディ側にフロント側サイドプレートを設け、カバー側にリア側サイドプレートを設けている。そして、これら両サイドプレートの外径は、本体に設けたカムリングの外径と等しくするとともに、フロント側サイドプレートの背面側全面に高圧を作用させ、リア側サイドプレートの背面は、カムリングの内径よりも内側に対応するエリアに高圧を作用させている。
上記のように両サイドプレートの背面に高圧を作用させることによって、両サイドプレートがカムリング側に圧接し、ベーンで区画される上記室のシール性を高めるようにしている。
【0004】
上記のようにした従来のベーンポンプの概略を示したのが図6の説明図である。この図6において、フロント側サイドプレート3の背面全面が高圧エリア3aであり、リア側サイドプレート4の背面はシールsで区画された部分が高圧エリア4aである。そして、上記高圧エリア3aは、カムリング1の外径とほぼ等しく、高圧エリア4aはカムリング1の内径にほぼ等しくしている。
【0005】
さらに、図6からも明らかなように、カムリング1の軸方向の幅h1に対して、ロータ2の軸方向の幅h2は、ほんのわずかであるが狭くしている。もし、ロータ2の幅h2の方が広ければ、ロータ2をカムリング1に組み込んだとき、ロータ2の両端がカムリング1から突出してしまう。しかし、ロータ2の両端がカムリング1の両側から突出してしまえば、その両側のサイドプレート3,4で、カムリング1の両側をシールできなくなるので、ベーンポンプとして機能しなくなる。
【0006】
そこで、上記のようにカムリング1の軸方向の幅h1に対して、ロータ2の軸方向の幅h2は、ほんのわずかであるが狭くしているが、(h1−h2)分のすき間は、両サイドプレート3,4のたわみ量で埋めるようにしている。すなわち、両サイドプレート3,4の背面には、高圧を作用させているので、この高圧の作用で、両サイドプレート3,4がたわんで上記すき間(h1−h2)を埋めるようにしている。
【特許文献1】特開平11−257251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにした従来のベーンポンプでは、リア側サイドプレート4の高圧エリア4aは上記したようにカムリング1の内径にほぼ等しくしているので、そこに高圧が作用したときには、シールsの部分を支点にして、上記すき間を埋める方向に弓なりに湾曲しやすくなっている。しかし、フロント側サイドプレート3は、その高圧エリア3aが当該サイドプレート3の全面に広がっているので、高圧エリア3aに高圧が作用したときには、フロント側サイドプレート3の外周がカムリング1に強く押し付けられて、フロント側サイドプレート3が弓なりに湾曲するのを妨げてしまう。そのために、このすき間(h1−h2)/2から油が漏れてポンプ効率を低下させるという問題があった。
この発明の目的は、両サイドプレートが十分にたわんで、両サイドプレートとロータ及びベーンとのすき間(h1−h2)を最適な状態に保つベーンポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、ボディの一側をカバーでふさぐ一方、ボディに形成したボディボアにカムリングを組み込み、このカムリングに、複数のベーンを出入自在にしたロータを組み入れるとともに、このロータの回転にともなってベーンをカムリングの内周に沿って出入させる構成にし、かつ、上記カムリングの両側にサイドプレートを設け、これらサイドプートの背面に高圧を作用させる構成にしたベーンポンプを前提にするものである。
上記のベーンポンプを前提にしつつ、この発明は、両サイドプレートの外径を、カムリングの内径よりも大きくする一方、両サイドプレートの背面に設けた高圧を作用させる高圧エリアの外径を、カムリングの内径と等しくするか、あるいはその内径よりも小さくした点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
この発明のベーンポンプによれば、両サイドプレートの高圧エリアの外径を、カムリングの内径と等しくするか、あるいはその内径よりも小さくしたので、両サイドプレートは、その高圧エリアに対応する部分が、カムリングの内径側に押し込まれるようになる。このように高圧エリアに対応する部分がカムリングの内径側に押し込まれるということは、上記した両サイドプレートとロータ及びベーンとのすき間(h1−h2)が確実に埋められることになるので、そのシール効果は従来のものよりも飛躍的に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1〜図5に示すこの発明の一実施形態は、ボディbにボディボア5を形成するとともに、このボディボア5をカバーcでふさぐようにしたものである。このようにしたボディbのボディボア5には、フロント側サイドプレート6およびカムリング7を組み込んでいる。上記カムリング7は、その中にロータ8を組み入れるが、このロータ8は、駆動軸9と一体回転するとともに、駆動軸9の軸方向に対しては移動可能にしたものである。このようにしたロータ8には、放射状にかつ等間隔にベーン組み込み用のベーン溝を形成し、これらベーン溝にベーン10を出入自在に組み込んでいる。また、上記ベーン溝は、その基端を背圧室11とし、この背圧室11に吐出圧が導かれるようにしている。
【0011】
したがって、駆動軸9とともにロータ8が回転すると、ベーン10はその先端をカムリング7の内周に接触させながら、カムリング7の内周の軌跡に沿って出入するとともに、各ベーン10間に形成される室が拡張する吸い込み行程と、それが収縮する吐出行程とを繰り返すことになる。
なお、上記フロント側サイドプレート6の外径は、カムリング7の内径よりも大きくしている。
【0012】
そして、上記カムリング7の側面に設けたフロント側サイドプレート6の背面にはシール12で区画された高圧エリア13が形成されているが、この高圧エリア13は、フロント側サイドプレート6に形成した高圧導入孔14を介して吐出側に連通している。
さらに、上記高圧エリア13は、その外径がカムリング7の内径と等しくなるように、シール12で区画形成されている。ただし、高圧エリア13の外径は、カムリング7の内径より等しいかあるいはそれよりも小さければよい。
【0013】
ボディボア5をふさぐカバーcには、リア側サイドプレート15を組み込むための組み付け用凹部16を形成しているが、このリア側サイドプレート15の外径は上記カムリング7の内径よりも大きくしている。そして、上記組み付け用凹部16の底部には、吸い込み溝17を形成しているが、この吸い込み溝17はボディbに設けた吸い込みポート18に連通させている。
【0014】
また、上記吸い込み溝17よりも中心側に、リア側サイドプレート15の背面凸部19をはめ込むための壁面20a,20bを立ち上がらせている。なお、上記背面凸部19は、図4からも明らかなように、平面楕円形にしたもので、上記壁面20a,20bの曲率は、この背面凸部19の長軸方向両側の曲率より少し大きくしている。
【0015】
したがって、上記背面凸部19を壁面20a,20b間にはめ込むことによって、リア側サイドプレート15が回るのをある程度阻止することができる。また、上記のように背面凸部19を壁面20a,20bにはめ込むことによって、この背面凸部19よりも外側のリア側サイドプレート15で、上記吸い込み溝17の開口部分をふさぐようにしている。このように開口部分がふさがれた状態において、吸い込み溝17とリア側サイドプレート15とが相まって吸い込み用通路を構成する。
【0016】
ただし、上記リア側サイドプレート15であって、上記背面凸部19の短軸方向に対応する部分に、吸い込み用の切り欠き部21a,21bを形成しているが、この切り欠き部21a,21bと上記吸い込み溝17の両端部17a,17bとが相まって、当該ポンプの吸い込み行程位置に対応する吸い込み孔を構成するものである。
【0017】
さらに、上記壁面20a,20bの内側には、上記背面凸部19が接触する接触面23を残存させるとともに、組み付け用凹部16の中心に設けた軸受用ボス22と上記接触面23との間に高圧エリア用凹部24を形成している。この高圧エリア用凹部24の周囲にはシール25を設け、上記壁面20a,20b間に組み込んだリア側サイドプレート15の背面凸部19との間でシール機能を発揮するようにしている。
【0018】
上記のようにシール25で区画されたエリアが高圧エリア26ということになるが、この高圧エリア26は、その内径すなわちシール25の内径を、前記カムリング7の内径よりも小さくしている。このようにした高圧エリア26は、図1からも明らかなように、リア側サイドプレート15に形成した高圧導入孔27を介して前記背圧室11に連通させている。したがって、この高圧エリア26には、背圧室11の圧力が導かれることになる。なお、背圧室11の圧力は、当該ポンプの吐出圧以上になることがある。それは、ベーン10がベーン溝に埋没するときに、ベーン10のピストン作用で背圧室11の圧力を上昇させるからである。
【0019】
今、図示していない動力源の動力で駆動軸9を回転すると、それにともなってロータ8が回転する。このようにロータ8が回転すると、ロータ8に設けたベーン10がカムリング7の内周に沿って出入し、それらベーン8で区画された室を拡張したり収縮したりする。そして、その室が拡張するとき、吸い込みポート18および吸い込み溝17等で構成される吸い込み通路から作動油を吸い込む吸い込み行程になり、上記室が収縮するとき吐出行程となる。
【0020】
そして、上記吐出行程時の高圧は、高圧導入孔14を経由してフロント側サイドプート6の背面における高圧エリア13に導かれる。また、上記吐出行程時の高圧は、背圧室11に導かれ、ベーン10の先端をカムリング7の内周に圧接する機能を果たすが、それと同時に、この背圧室11の圧力はリア側サイドプレート15の背面における高圧エリア26にも導かれる。
【0021】
上記のように両サイドプレート6,15の高圧エリア13,26に高圧が導かれると、図5からも明らかなように、両サイドプレート6,15はその高圧の作用でわずかに反り返ることになる。なぜなら、両サイドプレート6,15の高圧エリア13,26の外径は、カムリング7の内径よりも小さくしているので、この高圧エリア13,26の部分がカムリング7の内径に押し込まれた状態になるからである。
【0022】
なお、従来のようにフロント側サイドプレート6の全面に高圧を作用させると、図5における矢印28の位置にその矢印方向の力が作用することになる。このように矢印28の位置にその矢印方向の力が作用すると、その力はフロント側サイドプレート6を反り返らせようとする力とは反対方向の力となってしまう。そのために、従来の場合には、フロント側サイドプレート6が十分に反り返らずに、すき間(h1−h2)/2を埋めることができなかった。
【0023】
しかし、この実施形態では、上記したように両サイドプレート6,15の高圧エリア13,26の外径を、カムリング7の内径よりも小さくしたので、両サイドプレート6,15は、カムリング7の内周縁を支点にしてたわみ、結果的に、高圧エリア13,26の部分がカムリング7の内径に押し込まれた状態になる。このように高圧エリア13,26の部分が、カムリング7に押し込まれた状態になるので、図6に示したすき間(h1−h2)が埋められ、シール機能が向上することになる。
【0024】
なお、この実施形態では、リア側サイドプレート15と、吸い込み溝17とが相まって、吸い込み通路を構成するようにしたので、実質的には、カバーc側に中子を利用して吸い込み通路をトンネル状に形成した場合と同じになる。
また、両サイドプレート6,15は、シリコン含有量の多いアルミ系の燒結金属、鉄系の燒結金属あるいは鉄プレートで形成することによって、焼付性に優れた特性が得られる。特に、リア側サイドプレート15を焼結成形することによって、従来のアルミ鋳物カバーに比べてその寸法精度がよくなる。
【0025】
さらに、上記実施形態では、高圧エリア13,26の外径を、カムリングの内径よりも小さくしたが、この発明においては、高圧エリア13,26の外径を、カムリングの内径と等しくても上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0026】
また、この実施形態では、リア側サイドプレート15の高圧エリア26には背圧室11の高圧を導くようにしたが、この高圧エリア26には当該ポンプの吐出圧を導くようにしてもよい。ただし、この実施形態のように背圧室11の圧力を導いた方が、より高い圧力をリア側サイドプレート15に作用させることができるので、その分、リア側サイドプレート15のたわみ量が多くなり、それだけシール性が向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ベーンポンプの断面図である。
【図2】カバーにリア側サイドプレートを組み込んだ状態の側面図である。
【図3】リア側サイドプレートを取り外したカバーの側面図である。
【図4】リア側サイドプレートの背面図である。
【図5】両サイドプレートの反り具合を示した説明図である。
【図6】従来の両サイドプレートの反り具合を示した説明図である。
【符号の説明】
【0028】
b ボディ
5 ボディボア
c カバー
6 フロント側サイドプレート
7 カムリング
8 ロータ
10 ベーン
13 高圧エリア
15 リア側サイドプレート
26 高圧エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディの一側をカバーでふさぐ一方、ボディに形成したボディボアにカムリングを組み込み、このカムリングに、複数のベーンを出入自在にしたロータを組み入れるとともに、このロータの回転にともなってベーンをカムリングの内周に沿って出入させる構成にし、かつ、上記カムリングの両側にサイドプレートを設け、これらサイドプートの背面に高圧を作用させる構成にしたベーンポンプにおいて、両サイドプレートの外径を、カムリングの内径よりも大きくする一方、両サイドプレートの背面に設けた高圧を作用させる高圧エリアの外径を、カムリングの内径と等しくするか、あるいはその内径よりも小さくしたベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−37906(P2006−37906A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222001(P2004−222001)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】