説明

ベーンポンプ

【課題】ベーンが軸方向に移動可能な範囲をより精度良く設定することが可能なベーンポンプを得る。
【解決手段】回転部4の一部としてのガイド壁部(天壁部5dおよび底壁部17)によって、スリット7の軸方向両側を塞いだ。各部品の寸法誤差や組み付けばらつき等によらず、回転部4の寸法のみでスリット7の軸方向の高さを規定することができ、ベーン8の可動範囲が大きくなることによる当該ベーン8の振動増大、ひいてはベーンポンプ1の振動や騒音の増大を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のベーンポンプとして、回転部としてのロータに形成されたスリット内にベーンが径方向に突没可能に収容され、スリットとしてのベーン溝の軸方向両端部が、ケーシングを成すサイドブロックに開放されたものが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭64−3295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるベーンポンプでは、スリットの軸方向両端部が開放されているため、各部品の寸法ばらつきや組み付け誤差等によって、ベーンが軸方向に移動可能な範囲が大きくなり、ベーンの振動が増大して、ベーンポンプの振動や騒音の一因となる虞があった。
【0004】
そこで、本発明は、ベーンが軸方向に移動可能な範囲をより精度良く設定することが可能なベーンポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明にあってはケーシング内で回転する回転部の基体部に当該回転部の回転軸に対して放射状に伸びて径外方向に開口する複数のスリットを形成し、各スリットにベーンを突没可能に収容し、ケーシング内で上記基体部の周囲に形成された環状室を上記複数のベーンで区画して複数のポンプ室を形成し、回転部を回転させることで上記ポンプ室の容積を周期的に増減させて当該ポンプ室に吸入した流体を吐出するように構成したベーンポンプにおいて、上記回転部に、上記ベーンに対して上記回転軸の軸方向両側に配置されて当該ベーンと摺接するガイド壁部を設けたことを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明にあっては、上記ガイド壁部を上記基体部と一体成形したことを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明にあっては、上記基体部とは別体として形成された上記ガイド壁部を当該基体部に一体化させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、回転部に一体化されたガイド壁部を設けたため、部品の寸法ばらつきや組み付け誤差によらず、ベーンが軸方向に移動可能な範囲をより精度良く設定できるようになる。
【0009】
請求項2の発明によれば、回転部をガイド壁部が当初から一体化されたものとして成形するため、ベーンが軸方向に移動可能な範囲をより精度良く設定することができる。
【0010】
請求項3の発明によれば、ガイド壁部を基体部に後付けするため、回転部をより製作しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの回転軸と直交する断面での断面図、図2は、ベーンポンプの回転軸を含む断面での断面図、図3は、ベーンポンプの分解斜視図、図4は、ベーンポンプに含まれる回転部を示す斜視図、図5は、ベーンポンプに含まれる回転部を示す側面図である。なお、以下では、便宜上、図2〜図5の上側を回転軸Axの軸方向一方側、下側を軸方向他方側とする。
【0012】
まずは、図1を参照して、ベーンポンプ1の作動流体の吸入および吐出に関わる構成について説明する。
【0013】
本実施形態にかかるベーンポンプ1では、図1に示すように、ケーシング2内で、円環状のリング3の略円筒状の内周面3aと回転軸Axを中心に回転する回転部4の略円柱状の基体部5の外周面5aとの間に、作動流体(液体)を収容する環状室6が形成されている。環状室6の幅wは、回転軸Axの周方向に沿って変化している。本実施形態では、内周面3aの中心Cと回転軸Axとを平行にずらして、リング3の内周面3aと回転部4の基体部5とを偏心させてある。このため、環状室6の幅wは、図1の右端の位置で最小となり、当該右端の位置から時計回り方向に徐々に拡がって左端の位置で最大となり、当該左端の位置から右端の位置に向けて時計回り方向に徐々に狭まって最小となっている。
【0014】
基体部5には、回転部4の回転軸Axに対して放射状に伸びて径外方向に開口する複数(本実施形態では4つ)のスリット7が形成されており、各スリット7には略角棒状または略帯板状のベーン8が突没可能に収容されている。ベーン8は、回転部4の回転に伴って生じる遠心力とスリット7内の回転軸Ax側に導入される作動流体の与圧によって、スリット7内で径外方向に付勢されている。このため、ベーン8は内周面3aと摺接しながら回転部4とともに回転することになる。
【0015】
環状室6は、周方向に一定のピッチで配置された複数のベーン8によって、同数(本実施形態では4つ)のポンプ室9に区画されている。回転部4およびベーン8の回転に伴い、ポンプ室9の容積は、環状室6の幅wの変化に従って変化することになる。すなわち、各ポンプ室9の容積は、図1の右端の位置で最小となっている。そして、回転部4の回転方向RD(図1の時計回り方向)への回転に伴って漸増し、左端の位置で最大となる。その位置からさらに回転部4が時計回り方向に回転すると、ポンプ室9の容積は漸減し、右端の位置で最小となる。つまり、本実施形態では、回転部4の1周回のうち図1の下半分の区間でポンプ室9の容積が拡大し、上半分の区間でポンプ室9の容積が縮小する。このため、リング3の内周面3aおよびケーシング2(第1のケーシング10)に、ポンプ室9の容積が拡大する区間に臨ませて吸入開口11を設けるとともに、ポンプ室9の容積が縮小する区間に臨ませて吐出開口12を設けてある。吸入開口11は、第1のケーシング10の側面上に突設された吸入パイプ13内の吸入通路14と連通し、吐出開口12は、吸入パイプ13と平行に突設された吐出パイプ15内の吐出通路16と連通している。
【0016】
したがって、図1において、回転部4が回転方向RDに回転すると、隣接する2枚のベーン8によって区画されるポンプ室9は、右端の位置から容積を拡大させながら左端の位置まで移動する。このため、吸入通路14から吸入開口11を介してポンプ室9内に作動流体が流入する。そして、ポンプ室9は、左端の位置から容積を縮小しながら右端の位置まで移動する。このため、当該ポンプ室9から吐出開口12を介して吐出通路16に作動流体が流出する。複数のポンプ室9についてこのような作動流体の流入および流出が順次行われ、以て、ベーンポンプ1による連続的な作動流体の吸入および吐出が実現されている。
【0017】
次に、図1〜図5を参照して、本実施形態にかかるベーンポンプ1の各部の構成を詳細に説明する。
【0018】
図2に示すように、回転部4の基体部5に形成されたスリット7は、軸方向一方側では天壁部5dによって塞がれるとともに、軸方向他方側では底壁部17によって塞がれており、ベーン8は、これら天壁部5dおよび底壁部17と摺接しながらスリット7内を径方向に往復動するようになっている。すなわち、本実施形態では、この天壁部5dおよび底壁部17がガイド壁部に相当するものである。なお、底壁部17には、スリット7の径内側に連通する連通孔17aが形成されており、この連通孔17aを介してスリット7内に、底壁部17の裏側(軸方向他方側)から作動流体の与圧が導入されるようになっている。
【0019】
なお、本実施形態では、ガイド壁部としての天壁部5dおよび底壁部17は基体部5に後付けしたものではなく、当初から回転部4(基体部5)に一体化されている。すなわち、本実施形態では、天壁部5dおよび底壁部17を、基体部5とともに一体成形してある。
【0020】
底壁部17は、回転軸Axを中心とし当該回転軸Axと直交する円板状に形成されており、基体部5の外周面5aより外側までフランジ状に張り出している。そして、この底壁部17の外周縁に、略円筒状のスカート部18が突設されている。スカート部18は、回転軸Axと同心となっており、基体部5から離間する側(軸方向他方側)に向けて略一定の厚みで突出している。
【0021】
このスカート部18は、回転部4を駆動するモータ19の回転子(ロータ)として機能するものであり、コイルの巻回されたステータコア20の周方向に沿ってN極S極が交互に着磁された着磁部18aを含んでいる。スカート部18のうち少なくとも着磁部18aとして機能する部分は、磁性材料によって構成される。この場合、スカート部18のうちティース20aに対向する部分のみを磁性材料(例えばフェライト磁石やサマリウムコバルト磁石等の硬磁性材料)によって構成してもよいし、スカート部18全体を磁性材料によって構成しても良いし、回転部4全体を磁性材料によって構成してもよい。この場合、樹脂材料に磁性材料からなる粉状や粒状の磁性フィラーを混合して、回転部4やスカート部18を成形することも可能である。
【0022】
また、図1,図3に示すように、基体部5の外周面5aは一定のピッチで径内方向に凹設され、これにより羽根部5bが形成されている。この羽根部5bは、基体部5(回転部4)とともに回転し、吐出開口12と対峙するときにポンプ室9からの作動流体の排出性能を高めている。
【0023】
また、図2に示すように、基体部5(回転部4)の中央部には、シャフト21を回転自在に支持する軸受部22が固定されている。この軸受部22は、メタルブッシュ等の滑り軸受としてもよいし、ニードルベアリング等の転がり軸受としてもよい。
【0024】
そして、回転部4は、ケーシング2によって形成される内部空間2a(図2参照)内で回転軸Ax回りに回転するように構成されている。本実施形態では、ケーシング2は、軸方向一方側(図2および図3の上側)に位置する第1のケーシング10と、軸方向他方側(図2および図3の下側)に位置する第2のケーシング23と、環状室6の外周面(リング3の内周面3a)を形成するリング3と、を備えている。
【0025】
リング3は、図3にも示すように、環状室6の外周面を形成する筒状部3bと、筒状部3bの軸方向他方側から回転軸Axの径外方向に張り出すフランジ部3cとを備え、さらに、吸入通路14および吐出通路16の側壁の一部を成すリブ3dを備えている。円板環状のフランジ部3cから回転軸Axの軸方向に筒状部3bとリブ3dとが略同じ高さで立設された形状となっている。
【0026】
このリング3は、図2に示すように、第1のケーシング10に形成された凹部10b内に収容される。すなわち、この凹部10bは、リング3の筒状部3bとリブ3dを嵌合する形状に凹設されている。また、リング3のフランジ部3cの外周部3eは、凹部10bの反対側で第2のケーシング23の環状壁部23aと接触しており、この部分が第1のケーシング10と第2のケーシング23とによって挟持されることで、リング3が回転軸Axの軸方向に固定されている。
【0027】
第2のケーシング23には、回転部4のスカート部18を収容する略円環状の凹部23bと、回転部4の軸受部22のうち第2のケーシング23側(軸方向他方側、図2および図3の下側)に突出する部分を収容する凹部23cとが形成されている。
【0028】
凹部23bの外周にある環状壁部23aより径外側の領域は、第1のケーシング10との当接面となる。この当接面には、Oリング34用の溝部23dを略円環状に形成し、この溝部23d内に装着したOリング34によって、第1のケーシング10と第2のケーシング23との境界部分でのシールを確保してある。なお、この境界部分以外の部材同士の境界部分(例えばリング3のフランジ部3cと第1のケーシング10との間の境界面等)にも適宜にシール部材(例えばガスケットやOリング等)を介在させ、各境界部分のシール性能を向上させるようにしてもよい。
【0029】
凹部23cの底壁部23eと、第1のケーシング10の突起部10cとの間にはシャフト21が架設され、このシャフト21の中心が回転軸Axとなっている。シャフト21は、回転部4の中心に設けた軸受部22を貫通し、当該軸受部22を回転自在に支持している。
【0030】
また、図2に示すように、凹部23bと凹部23cとの間には、回転部4の反対側(軸方向他方側、図2の下側)から回転部4側に向けて突設された環状の突起部23fが形成されており、この突起部23fの裏側となる環状の凹部23j内にモータ19をなすステータコア20が収容されている。
【0031】
ステータコア20は、図2,図3に示すように、基板24の表面24aの中央に取り付けられており、回転軸Axと同心で中央に位置する円筒部20bと、円筒部20bから放射状に伸びてコイルが巻回された複数のティース20aとを備えている。
【0032】
そして、基板24のステータコア20を設けた表面24aに、各種電子部品(図示せず)が実装され、モータ19の駆動回路やその他の回路が形成されている。本実施形態では、基板24に形成された駆動回路によって各ティース20aに巻回されたコイルの通電状態を適宜に切り替えてティース20aの外周部分における極性を切り替え、これにより、ティース20aに対して径外方向に対向する着磁部18a(スカート部18)に周方向の推力を与え、以て、回転部4を回転させるようになっている。よって、第2のケーシング23のうち、少なくとも、ステータコア20(ティース20a)の外周部とスカート部18との間に介在する隔壁部23gは、透磁性を有するものとする必要がある。このため、隔壁部23gあるいは第2のケーシング23の全体が、透磁性を有する材料(例えばステンレススチールや、樹脂材料等)で形成される。
【0033】
基板24は、凹部23cを回転部4の反対側(軸方向他方側)から塞ぐようにして取り付けられており、さらに、基板24を、基板カバー25によって、回転部4の反対側(軸方向他方側)から覆ってある。基板カバー25には、基板24との間に電子部品を配置する間隔を確保するため、突条25aを設けてある。
【0034】
第1のケーシング10および第2のケーシング23は、いずれも回転軸Axに沿う軸方向視で略正方形状の外形状を呈している。そして、これらケーシング10,23の四隅に、これらを締結するねじ26の貫通孔10a,23kを形成してある。これら貫通孔10a,23kにねじ26を挿通してナット27を螺結し、基板カバー25を貼り付けることで、ベーンポンプ1が組み立てられる。
【0035】
なお、ベーンポンプ1をなす上記各構成部品の材料や製造方法は、上述した着磁性や透磁性の他、耐摩耗性、耐食性、耐膨潤性、成形性、部品精度等を考慮して適宜に選択される。
【0036】
また、本実施形態では、回転部4に、その回転に伴って上記回転軸Axの軸方向一方側(図2〜図5では上側)への流体力を発生させる流体力発生部としての傾斜面28を設け、回転部4を、底壁部17を設けた側と反対側に位置する第1のケーシング10に押し付けるようにしている。
【0037】
図5に示すように、本実施形態では、スカート部18の軸方向他方側の端面18bに、回転部4の回転方向RDに対して傾斜する傾斜面28を設けてある。傾斜面28は、回転方向RDの手前側から先方側にかけて軸方向他方側(図5で下側)から一方側(同上側)に向けて傾斜して設定してある。このため、回転部4の回転に伴ってこの傾斜面28に当たった作動流体は、回転部4に流体力Fを作用させ、軸方向一方側(図5の上側)に押し上げることになる。
【0038】
ここで、本実施形態では、軸方向一方側に向けて作用する流体力F(推力)を受けながら回転する回転部4を摺動可能に支持するため、天壁部5dの軸方向一方側の端面5cには、スパイラル溝35が設けてある。本実施形態では、複数のスパイラル溝35が、周方向に略一定のピッチで、端面5c上で内周側から外周側に向けて回転方向RDと逆方向側に屈曲しながら伸びるように形成されている。深さは、例えば10〜数10[μm(マイクロメートル)]とし、幅は、内周側から外周側に向かうにつれて漸増させてある。また、この天壁部5dの端面5cと摺接する第1のケーシング10の端面10eは、環状の平坦面としてある。かかる形状のスパイラル溝35には、基体部5(回転部4)の回転に伴って適宜な流体圧力が生じる。よって、このスパイラル溝35をスラスト軸受として用いることができる。なお、スパイラル溝35を、第1のケーシング10の端面10eに形成し、天壁部5dの端面5cを略環状または略円形状の平坦面としてもよい。
【0039】
さらに、天壁部5dの外周面5eには、ヘリングボーン溝36を形成してある。本実施形態では、複数のヘリングボーン溝36が、周方向に略一定のピッチで、回転方向RDの手前側に向けて凸となるくの字状に形成されている。また、この外周面5eと摺接するリング3の内周面3aは、滑らかな円筒面状に形成してある。かかる形状のヘリングボーン溝36には、基体部5(回転部4)の回転に伴って適宜な流体圧力が生じる。よって、このヘリングボーン溝36をラジアル軸受として用いることができる。なお、ヘリングボーン溝36を、リング3の内周面3aに形成し、外周面5eを滑らかな円筒面状に形成してもよい。また、基体部5(回転部4)の外周面5eと第1のケーシング10の内周面とを摺接させるようにして、この摺接部分にヘリングボーン溝36を形成してもよい。
【0040】
なお、図2に示すように、底壁部17の軸方向一方側の端面17bとリング3の軸方向他方側の端面3fとの間の隙間31は狭く設定し、これら端面17b,3f間の隙間からのリーク流量を可及的に減らしてある。また、軸受部22の軸方向他方側にはワッシャ30を介在させてある。
【0041】
以上のように、本実施形態では、回転部4の一部としてのガイド壁部(天壁部5dおよび底壁部17)によって、スリット7の軸方向両側を塞いだ。このため、各部品の寸法誤差や組み付けばらつき等によらず、回転部4の寸法のみでスリット7の軸方向の高さを規定することができる。したがって、スリット7の軸方向両端部が開放され、ベーン8の軸方向の可動範囲が複数部品の組み合わせによって定まる構成に比べて、当該可動範囲(すなわち本実施形態ではスリット7の高さ)をより精度良く設定することができるようになり、可動範囲が大きくなることによるベーン8の振動増大、ひいてはベーンポンプ1の振動や騒音の増大を抑制することができる。
【0042】
また、スリット7が軸方向に開放されている場合に比べて流体のリークが少なくなり、吐出効率が向上するという利点もある。
【0043】
また、本実施形態では、ガイド壁部としての天壁部5dおよび底壁部17を、基体部5とともに一体成形してある。すなわち、回転部4をガイド壁部が当初から一体化されたものとして成形するため、ベーン8が軸方向に移動可能な範囲をより精度良く設定することができる。
【0044】
また、本実施形態では、天壁部5dの外周面5eと、その外周面5eと摺接するリング3の内周面3aとのうち少なくともいずれか一方に、全周に亘ってより均等な流体圧力を生じさせるヘリングボーン溝36を形成し、より安定したラジアル軸受として機能させることができる。
【0045】
また、本実施形態では、傾斜面28によって回転部4を回転軸Axの軸方向一方側に押し上げるようにした。かかる構成により、回転部4をケーシング2の軸方向一方側(すなわち第1のケーシング10)に突き当てて、回転部4が回転中に軸方向に往復動するのを抑制することができ、当該往復動によって、振動や騒音が生じるのを抑制することができる。なお、スパイラル溝35による効果は、この傾斜面28によって流体力を生じさせる場合に限定されるものではなく、重力やその他の要因で軸方向に力が作用する場合にも得られる。
【0046】
また、本実施形態では、回転部4の回転方向RDに対して傾斜する傾斜面28を設けたことで、極めて容易に回転部4に対して軸方向一方側への流体力を作用させることができる。特に、本実施形態にかかる傾斜面28を設けたスカート部18の軸方向他方側の端面18bは、面積を比較的広く確保しやすく、かつ第2のケーシング23との隙間を広く確保しやすいため、より容易に所望の流体力を生じさせることができる。なお、軸方向に流体力を発生させる機構としては、上記構成以外にも考えられる。例えば、回転部4の外周面(例えばスカート部18の外周面18c)を径方向に凹設し、その軸方向端部に上記と同様の傾斜面を形成してもよいし、回転部4(例えばスカート部18の軸方向他方側の端面18b)に翼形状を設けてもよいし、回転部4の外周面に軸方向に対して螺旋状に巻回する凹溝あるいは突条を設けてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、図2に示すように、スカート部18と第2のケーシング23との間に、略筒状の隙間(環状隙間)32,33を設けてある。隙間32は、スカート部18の外周面18cと第2のケーシング23の環状壁部23aの内周面23hとの間の隙間であり、隙間33は、隔壁部23gの外周面23iとスカート部18の内周面18dとの間の隙間である。このようにスカート部18を設けて、第2のケーシングとの間に筒状の隙間32,33を回転軸Axの軸方向に所定区間に亘って形成し、クリアランスの大きさを適宜に設定する(比較的微少な隙間とする)ことで、吐出行程にあるポンプ室9(図1で上側にあるポンプ室9)から吸入行程にあるポンプ室9(図1で下側にあるポンプ室9)へ、基体部5の軸方向他方側を経由してリークする作動流体の通流抵抗を大きくしリーク流量を低減することができる。
【0048】
また、これら隙間(微小隙間)32,33は回転軸Axと同心であるため、回転部4が軸方向一方側に移動した場合においても、回転部4の軸方向他方側の部分と第2のケーシング23との間における作動流体のリーク流量を低減することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態および変形例について説明したが、本発明は上記各実施形態や変形例には限定されず、種々の変形が可能である。
【0050】
例えば、図6に示す変形例にかかる回転部4Aでは、基体部5Aに、これとは別体として構成されたガイド壁部としての天壁部5dを、超音波溶着や、接着、その他の手法により、後付けしてものとして構成してある。こうすれば、当初から一体成形した場合に比べて、回転部4Aをより製作しやすくなり、製造の手間が省け、製造コストを低減できる効果がある。また、この変形例のように、一対のガイド壁部のうちいずれか一方(本変形例では天壁部5d)のみを後付けし、他方(本変形例では底壁部17)は当初から一体成形するようにすれば、両方を後付けした場合に比べて寸法精度をより一層向上させやすくなる。なお、この回転部4Aは、勿論、上記実施形態にかかるベーンポンプ1の回転部4に入れ替えて構成し、使用することができる。
【0051】
また、本発明を上記スパイラル溝およびヘリングボーン溝の無いポンプとしても実施することができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの回転軸と直交する断面での断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの回転軸を含む断面での断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの分解斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプに含まれる回転部の斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプに含まれる回転部の側面図である。
【図6】本発明の一実施形態の変形例にかかるベーンポンプに含まれる回転部の回転軸を含む断面での断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ベーンポンプ
2 ケーシング
3 リング(ケーシング)
4,4A 回転部
5,5A 基体部
5d 天壁部(ガイド壁部)
6 環状室
7 スリット
8 ベーン
9 ポンプ室
17 底壁部(ガイド壁部)
Ax 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内で回転する回転部の基体部に当該回転部の回転軸に対して放射状に伸びて径外方向に開口する複数のスリットを形成し、各スリットにベーンを突没可能に収容し、ケーシング内で前記基体部の周囲に形成された環状室を前記複数のベーンで区画して複数のポンプ室を形成し、回転部を回転させることで前記ポンプ室の容積を周期的に増減させて当該ポンプ室に吸入した流体を吐出するように構成したベーンポンプにおいて、
前記回転部に、前記ベーンに対して前記回転軸の軸方向両側に配置されて当該ベーンと摺接するガイド壁部を設けたことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ガイド壁部を前記基体部と一体成形したことを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記基体部とは別体として形成された前記ガイド壁部を当該基体部に一体化させたことを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−228451(P2009−228451A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71624(P2008−71624)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】