説明

ベーンポンプ

【課題】 相隣るベーンにより区画されるポンプ室内のサージ圧を緩和するためのひげ溝を備えている複数の吐出ポートを有するベーンポンプにおいて、各吐出ポートの吐出圧力が互いに相違するとき、各吐出ポート内の油圧の脈動の位相を互いに同期化し、異音の発生を抑えること。
【解決手段】 ベーンポンプ10において、各吐出ポート51M、51Sの吐出圧力が互いに相違するとき、高吐出圧力側の吐出ポート51Mに設けられるひげ溝V1の延在長Aが、低吐出圧力側の吐出ポート51Sに設けられるひげ溝V2の延在長Bより長く設定されてなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ベーンポンプとして、特許文献1に記載の如く、ハウジングの内部に枢支した回転軸に結合されて回転するロータと、ハウジングの内部でロータを囲むように配設されるカムリングと、ロータの放射方向に複数設けたベーン溝に摺動自在に配設された複数のベーンと、ロータの周囲で相隣るベーンにより区画される複数のポンプ室と、圧縮行程を行なうポンプ室に対応し、ロータの直径方向で対向して設けられる複数の吐出ポートと、各吐出ポートのロータ回転進み方向と逆方向の孔縁から該逆方向に延在されるひげ溝とを有してなるものがある。このベーンポンプでは、ひげ溝によって各ポンプ室と各吐出ポートとの連通開始点が早くなり、ベーンの回転速度に対して該ポンプ室と該吐出ポートとの連通時間が長くなる。従って、該吐出ポート内の作動油圧のポンプ室への移動時間が長くなるので、ポンプ室内での作動流体の油圧変化が小さくなる。この結果、ポンプ室内のサージ圧を緩和し、異音の発生を低減できる。
【0003】
また、ベーンポンプとして、特許文献2に記載の如く、複数の吐出ポートが常に吐出を行なうメイン吐出ポートと、その他のサブ吐出ポートとに分けてなるものがある。例えば、車両のパワーステアリング装置に用いられるベーンポンプは、低回転域ではステアリングの流体機器に十分な流量を供給し、高回転域では無駄な消費馬力を低減するために不必要に大きな流量を抑えることが望まれる。そこで、低回転域では、メイン吐出ポートとサブ吐出ポートの双方から十分な流量の圧力流体を流体機器に供給する。そして、高回転域では、メイン吐出ポートのみから圧力流体を流体機器に供給し、サブ吐出ポートの吐出油は余剰油としてタンク側(又は同じサブ吐出ポートに対応する吸入ポート)へ還流し、消費馬力の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2005/005837
【特許文献2】特許3573242
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7、図8は前述した従来のベーンポンプを示すものであり、1はロータ、1Aはベーン溝、1Bはベーン、1Cは相隣るベーン1B、1Bが区画するポンプ室、2は回転軸、3はカムリング、4Mはメイン吐出ポート、V1はひげ溝、4Sはサブ吐出ポート、V2はひげ溝、5、6は吸入ポートである。メイン吐出ポート4Mのひげ溝V1の延在長Aとサブ吐出ポート4Sのひげ溝V2の延在長Bは同一長に設定されている。
【0006】
前述した従来のベーンポンプにおいて、メイン吐出ポート4Mのみから圧力流体を流体機器に供給する場合には、流体機器への供給流路につながるメイン吐出ポート4Mの作動油圧は高く、タンク側(又は吸入ポート)につながるサブ吐出ポート4S内の作動油圧は低くなる。この結果、図7に示す如く、ロータ1の中心を通ってメイン吐出ポート4Mとサブ吐出ポート4Sとを結ぶ該ロータ1の直径上で、メイン吐出ポート4M内の作動油圧がポンプ室1Cを介してロータ1に加える圧力Faと、サブ吐出ポート4S内の作動油圧がポンプ室1Cを介してロータ1に加える圧力FbはFa>Fbになる。このFa/Fbの圧力差は、ロータ1の中心Kを図8(A)から図8(B)の如くにロータ1が回転軸2に結合しているセレーションのガタ分だけカムリング3の中心Lからサブ吐出ポート4S寄りに変位させる。これにより、ロータ1の中心Kがカムリング3の中心Lからオフセットし、ロータ1の中心Kを挟んで相対する2つのベーン1B、1Bにおいて、一方のベーン1Bがメイン吐出ポート4Mのひげ溝V1に至るタイミングよりも、他方のベーン1Bがサブ吐出ポート4Sのひげ溝V2に至るタイミングの方が早くなる。従って、それらの各ベーン1Bにより区画される各ポンプ室1Cがメイン吐出ポート4Mとサブ吐出ポート4Sのそれぞれに連通するタイミングが互いにずれ、ひいては各吐出ポート4M、4S内の油圧の脈動の位相が互いにずれ、異音の発生を引き起こすものになる。
【0007】
本発明の課題は、相隣るベーンにより区画されるポンプ室内のサージ圧を緩和するためのひげ溝を備えている複数の吐出ポートを有するベーンポンプにおいて、各吐出ポートの吐出圧力が互いに相違するとき、各吐出ポート内の油圧の脈動の位相を互いに同期化し、異音の発生を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、ハウジングの内部に枢支した回転軸に結合されて回転するロータと、ハウジングの内部でロータを囲むように配設されるカムリングと、ロータの放射方向に複数設けたベーン溝に摺動自在に配設された複数のベーンと、ロータの周囲で相隣るベーンにより区画される複数のポンプ室と、圧縮行程を行なうポンプ室に対応し、ロータの直径方向で対向して設けられる複数の吐出ポートと、各吐出ポートのロータ回転進み方向と逆方向の孔縁から該逆方向に延在されるひげ溝とを有してなるベーンポンプにおいて、各吐出ポートの吐出圧力が互いに相違するとき、高吐出圧力側の吐出ポートに設けられるひげ溝の延在長が、低吐出圧力側の吐出ポートに設けられるひげ溝の延在長より長く設定されてなるようにしたものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記ロータの中心を挟む両側に位置して相対する2つのベーンが該ロータの直径上に設けられ、該ロータの中心が回転軸とのガタ分だけ低吐出圧力側の吐出ポート寄りに変位したとき、一方のベーンが高吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の先端に至るタイミングと、他方のベーンが低吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の先端に至るタイミングとが同時に設定されてなるようにしたものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記複数の吐出ポートが常に吐出油の供給を行なうメイン吐出ポートと、その他のサブ吐出ポートとからなるとき、メイン吐出ポートが高吐出圧力側の吐出ポートであり、サブ吐出ポートが低吐出圧力側の吐出ポートであるようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1)
(a)ベーンポンプの各吐出ポートの吐出圧力が互いに相違するとき、高吐出圧力側の吐出ポートに設けられるひげ溝の延在長が、低吐出圧力側の吐出ポートに設けられるひげ溝の延在長より長く設定される。この結果、ロータの中心Kを通って高吐出圧力側の吐出ポートと低吐出圧力側の吐出ポートとを結ぶロータの直径上で、高吐出圧力側の吐出ポート内の作動油圧がポンプ室を介してロータに加える圧力Faと、低吐出圧力側の吐出ポート内の作動油圧がポンプ室を介してロータに加える圧力FbはFa>Fbになる。このFa/Fbの圧力差は、ロータの中心Kを図6(A)から図6(B)の如くに、ロータが回転軸に結合しているセレーションのガタ分だけカムリングの中心Lから変位させ、ロータを図6(B)のオフセット位置に維持し続ける。そして、このようにロータの中心Kがカムリングの中心Lからオフセットしても、高吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の延在長Aが低吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の延在長Bより長い(A>B)から、ロータの中心Kを挟んで相対する2つのベーンにおいて、一方のベーンが高吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の先端に至るタイミングと、他方のベーンが低吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の先端に至るタイミングとが同じになる。従って、それらの各ベーンにより区画される各ポンプ室が高吐出圧力側の吐出ポートと低吐出圧力側の吐出ポートのそれぞれに連通するタイミングが互いに同時になり、各吐出ポート内の油圧の脈動の位相を互いに同期化するものになり、異音の発生を抑えることができる。
【0012】
(請求項2)
(b)前述(a)のベーンポンプにおいて、前記ロータの中心を挟む両側に位置して相対する2つのベーンが該ロータの直径上に設けられ、該ロータの中心が回転軸とのガタ分だけ低吐出圧力側の吐出ポート寄りに変位したとき、一方のベーンが高吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の先端に至るタイミングと、他方のベーンが低吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の先端に至るタイミングとが同時に設定される。
【0013】
(請求項3)
(c)前述(a)、(b)のベーンポンプにおいて、前記複数の吐出ポートが常に吐出油の供給を行なうメイン吐出ポートと、その他のサブ吐出ポートとからなるとき、メイン吐出ポートが高吐出圧力側の吐出ポートであり、サブ吐出ポートが低吐出圧力側の吐出ポートであるものとすることにより、上述(a)、(b)を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はベーンポンプを示す側断面図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図3は図1のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図4は図3のIV−IV線に沿う矢視図である。
【図5】図5は図3のV−V線に沿う矢視図である。
【図6】図6は本発明例においてロータが高吐出圧力側の吐出ポートの油圧により変位する前後の状態を示す模式図である。
【図7】図7は高吐出圧力側の吐出ポートの油圧によりロータが変位する原理を示す模式図である。
【図8】図8は従来例においてロータが高吐出圧力側の吐出ポートの油圧により変位する前後の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図5に示したベーンポンプ10は、固定容量型ベーンポンプである。ベーンポンプ10は、例えば内燃機関の動力により駆動され、流体としての作動油を、流体機器、例えば車両用の油圧式パワーステアリングや油圧式無段変速機の流体機器に供給するためのオイルポンプとして起用される。
【0016】
ベーンポンプ10は、ポンプユニット20を収容する凹部(収容室)11Aを備えたハウジング11と、ハウジング11の凹部11Aの開口部を覆うカバープレート12と、ハウジング11とカバープレート12の間に挟み込まれるシールプレート13とを有する。ハウジング11とカバープレート12とシールプレート13は複数のボルト14により締結されて固定される。シールプレート13はハウジング11とカバープレート12に形成された複数の通路用溝、又は肉抜用溝を覆ってシールする。
【0017】
ベーンポンプ10は、ハウジング11とカバープレート12に設けた軸受15、16にポンプユニット20の回転軸21を枢支し、この回転軸21にセレーションを介して固定的に結合されるロータ22をハウジング11の凹部11Aに配設している。回転軸21及びロータ22は、内燃機関の動力により回転される。
【0018】
ロータ22は、図5に示す如く、周方向に沿う多数位置のそれぞれにおいて、放射方向(径方向)に複数設けたベーン溝23に複数のベーン24を出没自在に収容し、各ベーン24をベーン溝23に沿う半径方向に摺動自在に配設している。ロータ22は外周面及び両側面にベーン溝23を開口している。
【0019】
ポンプユニット20は、ハウジング11の凹部11Aに、該凹部11Aの奥側から順にインナサイドプレート31、カムリング30、アウタサイドプレート32が積層されるように嵌着する。これらのインナサイドプレート31、カムリング30、アウタサイドプレート32は、該アウタサイドプレート32に添設されるシールプレート13とともに、位置決めピン33A、33Bにより串差しされて周方向に位置決めされた状態で、カバープレート12により側方から固定保持される。尚、サイドプレート31、32は、孔空き円板状をなし、ロータ22の回転軸21が挿通される中心孔31A、32Aを有する。
【0020】
カムリング30は、円形の外周面と、楕円に近似するカム曲線によりカム面30Aを形成する内周面とを有する筒状をなし、ハウジング11の凹部11Aに嵌着され、ロータ22を囲む。
【0021】
インナサイドプレート31とアウタサイドプレート32は、ロータ22及びベーン24並びにカムリング30を両側から挟む一対のプレートを構成する。従って、カムリング30は、両サイドプレート31、32の間で、ロータ22及びベーン24を囲み、ロータ22の外周面と相隣るベーン24の間にポンプ室40を形成する。
【0022】
ポンプユニット20において、ロータ22の回転進み方向上流側で、吸込行程を行なうポンプ室40に対応する吸込領域では、カムリング30及びインナサイドプレート31に設けた吸込ポート41(吸込ポート41A、吸込ポート41B)が開口し、この吸込ポート41にはハウジング11に設けた吸込通路42を介して、ポンプ10の吸込口43が連通せしめられている。ロータ22の回転とともにポンプ室40が拡張される吸込領域に油が吸込まれる。
【0023】
本実施例では、ロータ22の中心K(カムリング30及びインナサイドプレート31の中心L)を通る直径方向で対向する2位置のそれぞれに吸込ポート41を設け、2個の吸込ポート41の一方を吸込ポート41Mとし、他方を吸込ポート41Sとする。2個の吸込ポート41M、41Sは上記中心K、Lに関し、点対称配置されるものになる。
【0024】
他方、ロータ22の回転進み方向下流側で、圧縮行程を行なうポンプ室40に対応する吐出領域には、カムリング30及びアウタサイドプレート32に設けた吐出ポート51が開口し、この吐出ポート51(吐出ポート51A、吐出ポート51B)にはカバープレート12に設けた吐出通路52を介して、ポンプ10の吐出口53が連通せしめられている。ロータ22の回転とともにポンプ室40が圧縮される吐出領域から油が吐出される。
【0025】
尚、ロータ22の1回転中で、このロータ22とともに回転するベーン24が上述の吐出領域から吸込領域に向かう間の回転角度位置(ベーン24の最大押込回転位置という)にあるとき、当該ベーン24はカムリング30のカム面30Aによりベーン溝23内に最も深く押し込まれる。また、ベーン24が上述の吸込領域から吐出領域に向かう間の回転角度位置(ベーン24の最大押出回転位置という)にあるとき、当該ベーン24はカムリング30のカム面30Aによりベーン溝23外に最も大きく押し出される。
【0026】
ポンプユニット20は、ハウジング11の凹部11Aの最奥部に、インナサイドプレート31により区画される高圧力室54を設けてある。インナサイドプレート31はカムリング30に設けた吐出ポート51を高圧力室54に連通する高圧油供給ポート55を有し、ロータ22の回転により吐出ポート51から吐出される油が高圧力室54に供給される。
【0027】
インナサイドプレート31は、図4、図5に示す如く、高圧力室54の高圧吐出油をロータ22の周方向で一部のベーン溝23の底部寄り空間23Aに導く円弧状の高圧油導入ポート56Aを、該インナサイドプレート31の同一直径上で中心孔31Aまわりにて相対する2位置に設けている。また、アウタサイドプレート32は、ロータ22の他側面に接する面に、ロータ22の全部のベーン溝23の底部寄り空間23Aに連通するとともに、インナサイドプレート31の上述の高圧油導入ポート56Aを介して高圧力室54に連通する環状の背圧溝57が設けられている。尚、インナサイドプレート31は、ロータ22の一側面に接する面上で相隣る2個の高圧油導入ポート56A、56Aに挟まれる2位置に、ロータ22の周方向で一部のベーン溝23の底部寄り空間23Aに連通する円弧状の連通溝56Bを設けている。
【0028】
ここで、インナサイドプレート31の高圧油導入ポート56A、連通溝56B及びアウタサイドプレート32の背圧溝57は、ロータ22が回転進み方向Nのいかなる回転位置Ni(i=1, 2, 3・・・)にあっても、ベーン溝23内でベーン24の基端Ei(i=1, 2, 3・・・)が区画する該ベーン溝23の底部寄り空間23Aに連通するように設定される。尚、図5において、N1はベーン24の最大押込回転位置、N3はベーン24の最大押出回転位置に相当する。
【0029】
これにより、ロータ22の回転により吐出ポート51から吐出されて高圧力室54に供給された高圧吐出油が、インナサイドプレート31の高圧油導入ポート56A、更には該高圧油導入ポート56Aが連通しているロータ22の一部のベーン溝23の底部寄り空間23Aを介して、アウタサイドプレート32の環状の背圧溝57に供給される。そして、アウタサイドプレート32の環状の背圧溝57に供給された高圧吐出油は、該背圧溝57が連通しているロータ22の全部のベーン溝23の底部寄り空間23Aに同時に導入され、このベーン溝23の底部寄り空間23Aに導入された高圧吐出油の圧力によりベーン24の先端をカムリング30の内周のカム面30Aに押し当てて当接させる。尚、インナサイドプレート31の高圧油導入ポート56Aに連通していないロータ22のベーン溝23の底部寄り空間23Aに導入された高圧吐出油は、インナサイドプレート31の連通溝56Bに押込み充填されるものになる。
【0030】
従って、ベーンポンプ10にあっては、内燃機関によって回転軸21を回転し、ロータ22のベーン24の先端がカムリング30の内周のカム面30Aに押当て回転されると、ロータ22の回転進み方向上流側の吸込領域で、ロータ22の回転とともに拡張されるポンプ室40に吸込ポート41からの油が吸込まれる。同時に、ロータ22の回転進み方向下流側の吐出領域では、ロータ22の回転に伴って圧縮されるポンプ室40からの油が吐出ポート51に吐出される。
【0031】
本実施例では、ロータ22の中心K(カムリング30及びアウタサイドプレート32の中心L)を通る直径方向で対向する2位置のそれぞれに吐出ポート51を設け、2個の吐出ポート51の一方をメイン吐出ポート51Mとし、他方をサブ吐出ポート51Sとする。2個の吐出ポート51M、51Sは上記中心K、Lに関し、点対称配置されるものになる。
【0032】
メイン吐出ポート51Mは常に吐出油を流体機器に供給するべく吐出通路52、吐出口53に接続される。サブ吐出ポート51Sは不図示の連通路により吐出通路52、吐出口53に連通されるが、同連通路に流路切換弁を設け、該流路切換弁から分岐するタンク側通路(又はサブ吐出ポート51Sに対応する吸込ポート41S)にも切換え連通する。
【0033】
内燃機関及びロータ22の低回転域では、メイン吐出ポート51Mとサブ吐出ポート51Sの双方から十分な流量の圧力油を流体機器に供給する。そして、高回転域では、メイン吐出ポート51Mのみが圧力油を流体機器に供給し、サブ吐出ポート51Sの吐出油は余剰油としてタンク側(又は吸込ポート41S)へ還流し、消費馬力の低減を図るものである。
【0034】
また、ベーンポンプ10にあっては、メイン吐出ポート51Mとサブ吐出ポート51Sに、ロータ22の回転進み方向と逆方向の孔縁から該逆方向に漸次狭幅となるように延在される、V字状ひげ溝V1、V2を有している。これにより、ポンプユニット20において、各ポンプ室40と各吐出ポート51M、51Sとの連通開始点がひげ溝V1、V2の存在によって早くなり、ベーン24の回転速度に対して該ポンプ室40と該吐出ポート51M、51Sとの連通時間が長くなる。従って、該吐出ポート51M、51S内の作動油圧のポンプ室40への移動時間が長くなるので、ポンプ室40内での作動流体の油圧変化が小さくなる。この結果、ポンプ室40内のサージ圧を緩和し、異音の発生を低減できるものになる。
【0035】
更に、ベーンポンプ10にあっては、メイン吐出ポート51Mが常に吐出油を流体機器に供給するべく吐出通路52、吐出口53に接続され、このメイン吐出ポート51Mは吐出圧力が高い高吐出圧力側の吐出ポート51とされる。他方、サブ吐出ポート51Sは、流路切換弁によりタンク側(又は吸込ポート41S)に接続されるとき、吐出圧力が低い低吐出圧力側の吐出ポート51になる。ベーンポンプ10では、このように各吐出ポート51M、51Sの吐出圧力が互いに相違することがあることに鑑み、高吐出圧力側のメイン吐出ポート51Mに設けられるひげ溝V1の延在長Aを、低吐出圧力側のサブ吐出ポート51Sに設けられるひげ溝V2の延在長Bより長く設定してある。
【0036】
そして、ベーンポンプ10では、ロータ22の中心Kを挟む両側に位置して相対する2つのベーン24、24が該ロータ22の直径上に設けられ、該ロータ22の中心Kが図6(A)から図6(B)の如くに回転軸21とのセレーション結合のガタ分だけ低吐出圧力側のサブ吐出ポート51S寄りに変位したとき、一方のベーン24が高吐出圧力側のメイン吐出ポート51Mのひげ溝V1の先端に至るタイミングと、他方のベーン24が低吐出圧力側のサブ吐出ポート51Sのひげ溝V2の先端に至るタイミングとが同時になるように設定される。
【0037】
メイン吐出ポート51Mのひげ溝V1の延在長Aとサブ吐出ポート51Sのひげ溝V2の延在長Bは、回転軸21とロータ22のセレーション結合のガタ量と、メイン吐出ポート51Mとサブ吐出ポート51Sの吐出圧力の圧力差に応じて設定される。
【0038】
従って、ベーンポンプ10がメイン吐出ポート51Mのみから圧力油を流体機器に吐出し、メイン吐出ポート51Mを高吐出圧力側の吐出ポート51とし、サブ吐出ポート51Sを低吐出圧力側の吐出ポート51とするとき、ベーンポンプ10は以下の如くに動作する。
【0039】
即ち、ベーンポンプ10の各吐出ポート51M、51Sの吐出圧力が互いに相違するとき、高吐出圧力側のメイン吐出ポート51Mに設けられるひげ溝V1の延在長Aが、低吐出圧力側のサブ吐出ポート51Sに設けられるひげ溝V2の延在長Bより長く設定される。この結果、ロータ22の中心Kを通って高吐出圧力側のメイン吐出ポート51Mと低吐出圧力側のサブ吐出ポート51Sとを結ぶロータ22の直径上で、高吐出圧力側のメイン吐出ポート51M内の作動油圧がポンプ室40を介してロータ22に加える圧力Faと、低吐出圧力側のサブ吐出ポート51S内の作動油圧がポンプ室40を介してロータ22に加える圧力FbはFa>Fbになる。このFa/Fbの圧力差は、ロータ22の中心Kを図6(A)から図6(B)の如くに、ロータ22が回転軸21に結合しているセレーションのガタ分だけカムリング30の中心Lから変位させ、ロータ22を図6(B)のオフセット位置に維持し続ける。そして、このようにロータ22の中心Kがカムリング30の中心Lからオフセットしても、高吐出圧力側のメイン吐出ポート51Mのひげ溝V1の延在長Aが低吐出圧力側のサブ吐出ポート51Sのひげ溝V2の延在長Bより長い(A>B)から、ロータ22の中心Kを挟んで相対する2つのベーン24、24において、一方のベーン24が高吐出圧力側のメイン吐出ポート51Mのひげ溝V1の先端に至るタイミングと、他方のベーン24が低吐出圧力側のサブ吐出ポート51Sのひげ溝V2の先端に至るタイミングとが同じになる。従って、それらの各ベーン24、24により区画される各ポンプ室40が高吐出圧力側のメイン吐出ポート51Mと低吐出圧力側のサブ吐出ポート51Sのそれぞれに連通するタイミングが互いに同時になり、各吐出ポート51M、51S内の油圧の脈動の位相を互いに同期化するものになり、異音の発生を抑えることができる。
【0040】
尚、ベーンポンプ10がメイン吐出ポート51Mとサブ吐出ポート51Sの双方から圧力油を流体機器に吐出するときには、メイン吐出ポート51Mとサブ吐出ポート51Sの両者が同圧の高吐出圧力側の吐出ポート51になり、ベーンポンプ10は以下の如くに動作する。
【0041】
即ち、ロータ22の中心Kを挟む両側に位置して相対する2つのベーン24、24のうち、一方のベーン24がメイン吐出ポート51Mの長いひげ溝V1の先端に至っても、他方のベーン24がサブ吐出ポート51Sの短いひげ溝V2の先端には未だ至っていないとき、メイン吐出ポート51M内の作動油圧が一方のベーン24により区画されるポンプ室40の全域を介してロータ22に加わる。このメイン吐出ポート51M内の作動油圧の圧力により、ロータ22の中心Kはロータ22が回転軸21に結合しているセレーションのガタ分だけ図6(A)から図6(B)の如くにカムリング30の中心Lから変位し、ロータ22を図6(B)のオフセット位置に位置付ける。ロータ22の中心Kのこのオフセットにより、他方のベーン24も直ちにサブ吐出ポート51Sの短いひげ溝V2の先端に至るものになり、サブ吐出ポート51S内の作動油圧も他方のベーン24により区画されるポンプ室40の全域を介してロータ22に加わる。従って、それらの各ベーン24、24により区画される各ポンプ室40がメイン吐出ポート51Mとサブ吐出ポート51Sのそれぞれに連通するタイミングが互いに同時になり、各吐出ポート51M、51S内の油圧の脈動の位相を互いに同期化するものになり、異音の発生を抑えることができる。
【0042】
各ベーン24、24が各吐出ポート51M、51Sのひげ溝V1、V2の先端を通過した後、各吐出ポート51M、51S内を回転しているときにも、各ベーン24により区画される各ポンプ室40を介してロータ22に作用する両吐出ポート51M、51Sの吐出圧力は同圧であり、ロータ22の中心Kを図6(B)のオフセット位置からカムリング30の中心L寄りに押し戻すことがなく、ロータ22を図6(B)のオフセット位置に維持し続ける。
【0043】
尚、本発明は、複数の吐出ポートが上述の実施例の如くの高吐出圧力側のメイン吐出ポート51Mと低吐出圧力側のサブ吐出ポート51Sからなるベーンポンプに限らず、各吐出ポートの吐出経路の流路抵抗の差等により一方が高吐出圧力側の吐出ポートになり、他方が低吐出圧力側の吐出ポートになる如くのベーンポンプにも適用できる。
【0044】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ハウジングの内部に枢支した回転軸に結合されて回転するロータと、ハウジングの内部でロータを囲むように配設されるカムリングと、ロータの放射方向に複数設けたベーン溝に摺動自在に配設された複数のベーンと、ロータの周囲で相隣るベーンにより区画される複数のポンプ室と、圧縮行程を行なうポンプ室に対応し、ロータの直径方向で対向して設けられる複数の吐出ポートと、各吐出ポートのロータ回転進み方向と逆方向の孔縁から該逆方向に延在されるひげ溝とを有してなるベーンポンプにおいて、各吐出ポートの吐出圧力が互いに相違するとき、高吐出圧力側の吐出ポートに設けられるひげ溝の延在長が、低吐出圧力側の吐出ポートに設けられるひげ溝の延在長より長く設定されてなるものにした。これにより、相隣るベーンにより区画されるポンプ室内のサージ圧を緩和するためのひげ溝を備えている複数の吐出ポートを有するベーンポンプにおいて、各吐出ポートの吐出圧力が互いに相違するとき、各吐出ポート内の油圧の脈動の位相を互いに同期化し、異音の発生を抑えることができる。
【符号の説明】
【0046】
10 ベーンポンプ
11 ハウジング
21 回転軸
22 ロータ
23 ベーン溝
24 ベーン
30 カムリング
40 ポンプ室
51 吐出ポート
51M メイン吐出ポート
51S サブ吐出ポート
V1、V2 ひげ溝
A、B 延在長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に枢支した回転軸に結合されて回転するロータと、
ハウジングの内部でロータを囲むように配設されるカムリングと、
ロータの放射方向に複数設けたベーン溝に摺動自在に配設された複数のベーンと、
ロータの周囲で相隣るベーンにより区画される複数のポンプ室と、
圧縮行程を行なうポンプ室に対応し、ロータの直径方向で対向して設けられる複数の吐出ポートと、
各吐出ポートのロータ回転進み方向と逆方向の孔縁から該逆方向に延在されるひげ溝とを有してなるベーンポンプにおいて、
各吐出ポートの吐出圧力が互いに相違するとき、高吐出圧力側の吐出ポートに設けられるひげ溝の延在長が、低吐出圧力側の吐出ポートに設けられるひげ溝の延在長より長く設定されてなることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ロータの中心を挟む両側に位置して相対する2つのベーンが該ロータの直径上に設けられ、該ロータの中心が回転軸とのガタ分だけ低吐出圧力側の吐出ポート寄りに変位したとき、一方のベーンが高吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の先端に至るタイミングと、他方のベーンが低吐出圧力側の吐出ポートのひげ溝の先端に至るタイミングとが同時に設定されてなる請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記複数の吐出ポートが常に吐出油の供給を行なうメイン吐出ポートと、その他のサブ吐出ポートとからなるとき、メイン吐出ポートが高吐出圧力側の吐出ポートであり、サブ吐出ポートが低吐出圧力側の吐出ポートである請求項1又は2に記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−50067(P2013−50067A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188182(P2011−188182)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】