説明

ペグ化第VIII因子

本発明は、Bドメインの少なくとも一部が無傷であり、10,000ダルトンより大きな分子量を有する、ポリエチレングリコールのような水溶性ポリマーに結合した第VIII因子分子を含む、タンパク質性構築体である。この構築体は、未改変第VIII因子の生物学的活性の少なくとも80%の生物学的活性を有し、該構築体のインビボでの半減期は、未改変因子FVIIIのインビボでの半減期と比較して少なくとも1.5倍延長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ポリエチレングリコールのようなポリ(アルキレンオキシド)のような、少なくとも一つの可溶性ポリマーと結合した凝固第VIII因子(FVIII)を含む、タンパク質性構築体に関する。更に、本発明は、FVIIIの機能欠陥またはFVIII欠損に関係する出血障害を有する哺乳動物の血液中におけるFVIIIのインビボでの半減期を延長するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
凝固第VIII因子(FVIII)因子は、血漿中を非常に低濃度で循環しており、フォン・ビルブラント因子(VWF)と非共有的に結合している。止血の間FVIIIは、VWFから分離して、カルシウムおよびリン脂質または細胞膜の存在下での活性化の速度を高めることによって、活性化された第IX因子(FIXa)が仲介する第X(FX)因子の活性化の補因子として働く。
【0003】
FVIIIは、ドメイン構造A1−A2−B−A3−C1−C2を持つ、約270〜330kDの単鎖の前駆体として合成される。血漿から精製した場合、FVIIIは重鎖(A1−A2−B)および軽鎖(A3−C1−C2)から構成されている。軽鎖の分子量は80kDであるのに対し、Bドメイン内でタンパク質分解を受けるため、重鎖は、90〜220kDの範囲内にある。
【0004】
FVIIIは、出血障害での治療使用を目的とする組換え体タンパク質としても合成される。治療薬としての組換え体FVIII(rFVIII)の潜在的効力を決定するために様々なインビトロアッセイが工夫されている。これらのアッセイは、内因性のFVIIIのインビボでの作用を模倣するものである。インビトロアッセイで測定した場合、FVIIIをインビトロでトロンビン処理すると、その凝固促進活性は急速に上昇し、続いて低下する。この活性化および不活性化は、重鎖および軽鎖両方の特異的で限定的なタンパク質分解と一致しており、それら分解はFVIII内の各種結合エピトープの利用可能性を変化させ、例えばFVIIIをVWFから解離させ、リン脂質表面に結合させるか、または特定のモノクローナル抗体への結合能力を変化させる。
【0005】
FVIIIの欠如または機能異常は、最も頻度の高い出血性障害である血友病Aと関連する。血友病Aの管理に選択される処理は、血漿由来の、またはrFVIIIの濃縮製剤を用いた代償療法である。FVIIIレベルが1%未満の重症の血友病A患者には、一般的には投与間のFVIIIを1%より高く維持することを目的とした予防療法が行われる。各種FVIII製品の血液循環中の平均半減期を考慮に入れると、これは、1週間に2〜3回FVIIIを与えることにより、通常、達成できる。
【0006】
血友病Aの治療を目的として、多くの濃縮製剤が販売されている。これら濃縮製剤の一つは、組換え体製品Advate(登録商標)であり、この製剤はCHO細胞で産生され、Baxter Healthcare Corporationが製造している。この製品の細胞培養プロセス、精製、または最終製剤化では、ヒトまたは動物の血漿タンパク質またはアルブミンのいずれも、加えられることはない。
【0007】
FVIII濃縮製剤および治療ポリペプチド薬の多くの製造業者の目標は、他の全ての製品特性を維持しながら、薬力学特性および薬物動態特性を高めた次世代製品を開発することである。
【0008】
治療ポリペプチド薬は、タンパク質分解酵素によって急速に分解され、抗体によって中和される。このことは、それらの半減期および循環時間を短縮し、その結果、その治療有効性を制限している。ポリペプチドへの可溶性ポリマーまたは炭水化物の付加は、分解を阻止し、ポリペプチドの半減期を延長することが示されている。例えばポリペプチド薬のPEG化(PEGylation)は、それらを保護し、それらの薬物動態プロフィールおよび薬力学的プロフィールを改善する(非特許文献1)。PEG化のプロセスは、ポリペプチド薬にポリエチレングリコール(PEG)の反復単位を付着させる。分子のPEG化は、酵素分解に対する薬物の耐性を高めることができ、インビボでの半減期を延長することができ、投与頻度を減らすことができ、免疫原性を低下させることができ、物理的安定性および熱安定性を高めることができ、可溶性を高めることができ、脂質安定性を高めることができ、凝集を減らすことができる。
【0009】
このように、(例えば、PEG化による)可溶性ポリマーの付加は、FVIII製品の特性を改良する一つのアプローチである。従来技術の状態は、様々な特許および特許出願によって文書化されている:
特許文献1は、ポリ(アルキレンオキシド)−FVIII結合体またはポリ(アルキレンオキシド)−FIX結合体を記載する。ここでは、このタンパク質は該FVIIIのカルボニル基を通してポリ(アルキレンオキシド)に共有結合する。
【0010】
特許文献2は、FVIIIと生体適合性ポリマーとの結合体(conjugate)を調製する方法を記載する。この特許は、非特許文献2の刊行物によって補完されている。この結合体は、モノメトキシポリエチレングリコールで改変された、Bドメインが欠失した組換え体FVIIIを含む。この結合体は、低下したFVIII機能を有し、改変の度合いに応じて凝固活性が急激に低下した。
【0011】
特許文献3は、複数の結合体を含むポリマー−FVIII分子結合体であって、各結合体がFVIII分子に共有結合している1〜3つの水溶性ポリマーを有する、ポリマー−FVIII分子結合体を記載する。このFVIII分子は、B−ドメインを欠失している。
【0012】
特許文献4は、FVIII活性を有するタンパク質を含む注入可能な結合体が非抗原性リガンドに共有結合している改変FVIIIを記載する。
【0013】
特許文献5は、ポリペプチドと生体適合性ポリマーとの結合体を記載する。
【0014】
特許文献6は、5,000ダルトン以下の好ましい分子量を有するポリエチレングリコールに結合したFVIIIを記載する。
【特許文献1】米国特許第6037452号明細書
【特許文献2】欧州特許第1258497号明細書
【特許文献3】国際公開第04/075923号パンフレット
【特許文献4】米国特許第4970300号明細書
【特許文献5】米国特許第6048720号明細書
【特許文献6】国際公開第94/15625号パンフレット
【非特許文献1】Harris JM et Chess RB, Nat Rev Drug Discov 2003;2:214−21
【非特許文献2】Roestinら,Bioconj Chem 2000;11:387−96
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
非PEG化FVIIIと比べた時にインビボでの半減期は延長されるが、機能活性は維持されている、インビボでのFVIII半減期を延長するために可溶性ポリマーが結合されたFVIII(例えば、10,000ダルトンを超えるPEGが結合している完全長FVIIIのようなPEG化FVIII)は今も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキサゾリン、ポリアクリロリルモルホリン、またはポリシアル酸(PSA)のような炭水化物である水溶性ポリマーに結合した、Bドメインの少なくとも一部が無傷であるFVIII分子を含むタンパク質性構築体である。本発明の一つの実施形態では、水溶性ポリマーは、10,000ダルトンより大きな分子量を有するポリエチレングリコール分子である。この構築体は、標準的な治療用FVIII製品の完全な機能活性を維持し、且つ標準的な治療用FVIII製品に比較して、延長されたインビボでの半減期を提供する。
【0017】
本発明の出発材料はFVIIIであり、これはヒト血漿に由来してもよく、または米国特許第4757006号;米国特許第5733873号;米国特許第5198349号;米国特許第5250421号;米国特許第5919766号;欧州特許第306968号に記載されているような組換え体操作技術によって生成されてもよい。
【0018】
本明細書においては、用語「第VIII因子」または「FVIII」とは、Bドメインの少なくとも一部が無傷であり、且つ未改変(native)FVIIIに付随する生物学的活性を示す、任意のFVIII分子を指す。本発明の一つの実施形態では、FVIII分子は完全長の第VIII因子である。FVIII分子は、第VIII因子:CをコードするDNAにハイブリダイゼーションできるDNA配列によってコードされているタンパク質である。このようなタンパク質は、ドメインA1−A2−B−A3−C1−C2(米国特許第4868112号)間またはその中の各種部位にアミノ酸欠失を含んでもよい。FVIII分子はまた、一つまたは複数のアミノ酸残基が部位特異的変異誘発によって置換されている、未改変FVIIIの類似体であってもよい。
【0019】
例をあげると、FVIII分子は、様々な化学的方法によってPEG化できる(Roberts JM et al.,Advan Drug Delivery Rev 2002;54:459−76)。例えばFVIIIは、マレイミド化学を用いて遊離SH基にPEGを結合させることによって、または前もって酸化させた後にFVIIIの炭水化物部分にPEGヒドラジドもしくはPEGアミンを結合させることによってPEG化できる。
【0020】
本発明の一つの実施形態では、FVIIIは、スクシンイミジルスクシナート、スクシンイミジルグルタラート、またはスクシンイミジルプロピオナートのような活性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を含むポリエチレングリコール誘導体を用いて、リジン残基を介して改変された。これら誘導体は、安定したアミド結合を形成することにより、穏和な条件下でFVIIIのリジン残基と反応する。本発明の一つの実施形態では、PEG誘導体の鎖長は5,000Daである。直鎖状構造および分枝状構造を含め、500〜2,000Da、2,000〜5,000Da、5,000より大きく10,000Daまで、または10,000より大きく20,000Daまで、または20,000より大きく150,000Daまでの鎖長を有する別のPEG誘導体を用いることができる。
【0021】
アミノ基をPEG化する別の方法は、ウレタン結合を形成させることによるPEGカルボネートとの化学的結合、または二次アミド結合を形成する還元的アミノ化によるアルデヒドもしくはケトンとの反応である。
【0022】
本発明では、FVIII分子は、市販されているPEG誘導体を用いて化学的に改変される。これらPEG誘導体は、直鎖状構造または分枝状構造を有してよい。NHS基を含むPEG誘導体の例を以下に挙げる。
【0023】
以下のPEG誘導体は、Nektar Therapeutics(Huntsville,Al;www.nektar.com/PEG reagent catalog;Nektar Advanced PEGlyation,価格表2005−2006を見よ)から販売されているPEG誘導体の例である:
【0024】
【化1】

この分枝状構造を持つ試薬は、Kozlowskiらによって、より詳細に記載されている(BioDrugs 2001;5:419−29)。
【0025】
PEG誘導体の他の例は、NOF Corporation(Tokyo,Japan;www.nof.co.jp/english:Catalogue 2005を見よ)から市販されている。
【0026】
直鎖状PEG誘導体(NOF Corp.)の一般構造:
【0027】
【化2】

分枝状PEG誘導体(NOF Corp.)の構造:
【0028】
【化3】

これらプロパン誘導体は、1,2置換パターンを有するグリセロール骨格を示す。本発明では、1,3置換を有する分枝状グリセロール構造または米国特許2003/0143596A1に記載されている他の分枝状構造に基づく分枝状PEG誘導体も用いることができる。
【0029】
Tsuberyら(J Biol Chem 2004;279:38118−24)およびShechterら(国際公開第04089280A3号)が記載するような分解可能なもの(例えば加水分解可能なリンカー)を有するPEG誘導体も、本発明に用いることができる。
【0030】
驚くべきことに、本発明のPEG化FVIIIは、延長されたインビボでのFVIII半減期と合わせて、完全な機能活性も示す。これに加えて本PEG化rFVIIIは、トロンビン不活性化に対してより抵抗性であるようである。このことは様々なインビトロでの方法およびインビボでの方法によって示された。そしてこのことは、以下の実施例により例示される。
【実施例】
【0031】
実施例1:mPEGスクシンイミジルスクシナートを用いたrFVIII内リジン残基のPEG化
Advate製造プロセスに由来するrFVIIIのバルク溶液(3,400U/ml)を、0.5%のショ糖および0.1%のPolysorbate 80を含有する20mM Hepes緩衝液、150mM NaCl、pH 7.4を用いたEcono−Pac 10DGカラム(Bio−Rad)を使用してゲル濾過した。次に鎖長5,000DaのmPEGスクシンイミジルスクシナート(Abuchowski et al.Cancer Biochim Biophys 1984;7:175−86)(PEG−SS 5000)をこの溶液に、ゆっくり攪拌しながら加え(5mg PEG−SS/mgタンパク質)、0.5MのNaOHを滴下して加えてpH値を7.4に調整した。次に、ゆっくり攪拌しながら、1時間、室温でPEG化を実施した。
【0032】
続いて反応混合液を、0.5%のショ糖および0.1%のPolysorbate 80を含有する20mM Hepes緩衝液、150mM NaCl、pH 7.4で平衡化したイオン交換クロマトグラフィー樹脂(Fractogel EMD TMAE 650M/Pharmacia XK−10カラム、ベッド高:15.0cm)にかけた。次にカラムを20CVの平衡化緩衝液で洗浄して過剰の試薬を取り除き、溶出緩衝液(20mM Hepes、1.0M NaCl、0.5%ショ糖、0.1%Polysorbate 80、pH 7.4)を用いてPEG化rFVIIIを溶出した。溶出液を、20mM Hepes、150mM NaCl、0.5%ショ糖、pH 7.4からなる緩衝液系を用い、分子量カットオフが30kDの再生セルロースから成る膜を利用した限外濾過/ダイアフィルトレーションによって濃縮した。
【0033】
実施例2:インビトロでのPEG化rFVIIIの生化学的特徴付け
Advate製造プロセスに由来するrFVIIIを実施例1に従ってPEG化し、PEG化したFVIII製品を生化学的に特徴付けした。PEG−rFVIIIの機能活性を、FVIII色素形成アッセイ(Rosen S,Scand J Haematol 1984;33(Suppl 40):139−45)を用いて決定した。この方法は、Ph.Eur.第5版(5.05)2.7.4 Assay of Blood Coagulation Factor VIIIに基づく。
【0034】
第VIII因子を含有するサンプル(FVIII:C)を、カルシウム含有緩衝液の中で、トロンビン、活性化された第IX因子(FIXa)、リン脂質、および第X因子(FX)と混合した。FVIIIはトロンビンにより活性化され、続いてリン脂質、FIXa、およびカルシウムイオンと複合体を形成する。この複合体は第X因子を第Xa因子に活性化し、これが次に色素形成基質FXa−1(AcOHCH3OCO−D−CHA−Gly−Arg−pNA)を切断する。放出されるパラ−ニトロアニリン(pNA)の時間経過をマイクロプレートリーダーを使って405nmで測定する。反応の傾きは、サンプル中の第VIII因子の濃度に比例する。FVIII抗原値を、市販のELISAシステム(Cedarlane, Hornby, Ontario, Canada)を若干変更して使用して測定した。これらの値から、FVIII色素原/FVIII抗原比を計算した。調製物中のタンパク質含有量を、280nmでの光学密度を測定することによって決定した。これらのデータからタンパク質含有量を計算し(Hoyer LW:Human Protein Data. Installments 1−6;Heberli Ed.;Wiley VCH,Weinheim,Germany,1998)、mg/mlで表した。
【0035】
【表1】

表1のデータは、PEG化したrFVIII調製物では、生物学的活性(FVIII色素形成活性の、FVIII抗原に対する比として表した)は、未改変rFVIIIの生物学的活性(100%)と比較して、90%を上回って回収されることを示す。
【0036】
実施例3:SDS−PAGEおよび免疫ブロッティング技術によるPEG化rFVIIIの特徴付け
未改変のrFVIIIを、Invitrogen(Carlsbad,California,USA)より得た4〜12%ポリアクリルアミド勾配ゲルを製造業者の指示書に従って使用し、還元条件下でSDS PAGEによって特徴付けした。分子量マーカー(MW)としてはBio−Rad(Hercules,CA,USA)より得たPrecision Plusマーカー(10kD〜250kD)を用いた。次にタンパク質をBio−Rad(Hercules,CA,USA)より得たPVDF膜上にエレクロトブロッティングによって移し、続いてCedarlane(Hornby,Ontario,Canada)より得たポリクローナルヒツジ抗ヒトFVIII:C抗体とともにインキュベーションした。免疫ブロッティング手順の最後の工程は、Accurate(Westbury,NY,USA)より得たアルカリホスファターゼ(ALP)標識抗ヒツジ抗体とインキュベーションし、続いてALP基質キット(Bio−Rad、Hercules,CA,USA)を用い最終的に視覚化することであった。結果は、図1にまとめている。ブロットは、未改変rFVIIIおよびPEG化したrFVIIIのドメイン構造を明らかにしている。PEG化されたrFVIIIは、未改変の組換え体タンパク質に比べ、バンドがより広範囲であり、より高い分子量を有していることが示されている。
【0037】
実施例4:FVIII欠損ノックアウトマウスモデルにおけるPEG化rFVIIIの薬物動態
Biら(Nat Genet 1995;10:119−21)が詳細に記載したFVIII欠損マウスを、重症のヒト血友病Aのモデルとして用いた。5匹のマウスから成る群に、実施例1に従って調製されたPEG−rFVIII(PEG−SS、5K)または未改変のrFVIIIのいずれかを200IU FVIII/kg体重の用量で尾静脈からボーラス注射(10ml/kg)を与えた。注射の5分後、3時間後、6時間後、9時間後、および24時間後に、麻酔後に心臓穿刺によって各群からクエン酸血漿を調製した。血漿サンプルのFVIII活性レベルを測定した。この実験の結果を、図2にまとめている。平均半減期は、1.9時間(未改変rFVIIIの場合)から4.9時間(PEG化rFVIIIの場合)延長され、曲線下面積(AUC)は13.0から25.2時間*IU/mlに増加した。半減期の計算を、薬物動態ライブラリーからのMicroMath Scientist、モデル1(MicroMath,Saint Louis,MO,USA)を用いて行った。
【0038】
実施例5:SDS−PAGEおよび免疫ブロッティング技術による、rFVIIIのPEG化の詳細な分析
未改変rFVIIIおよびPEG化したrFVIIIを1nMのトロンビンを用いて60分間、60℃で消化した結果、FVIII分子は特異的に切断されて良く規定された消化産物を生じた。これらの重鎖および軽鎖の断片を、実施例3に記載したようにしてSDS−PAGEによって分離し、続いてエレクトロブロッティングを行った。切断断片を視覚化するために、重鎖のA1ドメインおよびA2ドメイン、ならびにBドメインおよび軽鎖N末端A3ドメインに対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を適用した。
【0039】
図3に見られるように、全てのドメインは、程度に差はあるがPEG化されていた。Bドメインは強くPEG化されていた。重鎖のA1およびA2両ドメインは部分的にPEG化された。軽鎖A3ドメインでは、様々な程度(モノ−、ジ−、トリ−等)のPEG化が観察できた。実施例6と同様、PEG化されたFVIIIはトロンビンに対してより耐性であるようであった。
【0040】
実施例6:PEG化rFVIIIのトロンビン抵抗性
インビトロでFVIIIをトロンビン処理すると、その凝固促進活性は急速に上昇し、続いて低下する。活性化および不活性化の速度は、トロンビンの濃度およびFVIIIの完全性に依存し、これを、以下のようにしてFIXa補因子アッセイによってモニタリングした:
FVIIIを37℃で0.5nMまたは1nMのトロンビンとともにインキュベーションした。0.5分〜40分の間に、一定間隔でサンプルの一部を抜取り、更なるトロンビン仲介反応を停止させるための特異的トロンビン阻害剤も含有するFIXa、FX、PL−小胞およびCaClの混合液に加えて、3分間インキュベーションした。サンプルの一部を色素形成基質に加えた。この色素形成基質は、FXaによって選択的に切断され、且つ更なるXa活性化を停止するためのEDTAも含有した。15分間インキュベーションした後、酢酸により反応を停止させた。FXa濃度に比例する吸光度(A405)の値を、ELISAリーダーで測定し、精製したFXaの参照曲線を利用してFXa濃度に変換した。算出されたFXa濃度を、トロンビンとのインキュベーション時間に対してプロットした。
【0041】
FVIIIの偽一次不活性化速度を、曲線の下降部分を一指数関数当てはめにあてはめるることによって決定した。
【0042】
【表2】

図4および表2に示すように、PEG化されたrFVIIIは、適用した両方のトロンビン濃度において、より遅い不活性化速度を示した。
【0043】
実施例7:分枝状2,3−ビス(メチルポリオキシエチレン−オキシ)−1−(1,5−ジオキソ−5−スクシンイミジルオキシ,ペンチルオキシ)プロパンを用いたrFVIII中のリジン残基のPEG化
150mM NaCl、0.5%ショ糖、および0.1% Polysorbate 80を含有する20mM Hepes緩衝液(pH7.4)中のrFVIIIの溶液を、Advate製造プロセスからの489IU FVIII/mlを含有するバルク材料から調製した。NOF Corporation(Tokyo,Japan)より得た分子量20kDの分枝状PEGスクシンイミジルグルタラート(PEG−SG)試薬(2,3−ビス(メチルポリオキシエチレン−オキシ)−1−(1,5−ジオキソ−5−スクシンイミジルオキシ、ペンチルオキシ)プロパン)を、153mlのこの溶液にゆっくりと攪拌しながら加え(5mg試薬/mgタンパク質)、10分後に0.5MのNaOHを滴下して加えてpH値を7.4に調整した。次にrFVIIIのPEG化を、ゆっくり攪拌しながら1時間、室温で実施した。
【0044】
続いて、反応混合液を、0.5%ショ糖および0.1%Polysorbate 80を含有する20mM Hepes緩衝液、150mM NaCl(pH7.4)中の平衡化したイオン交換クロマトグラフィー樹脂(Fractogel EMD TMAE 650M/Pharmacia XK−50カラム、ベッド高:14.5cm)に、1cm/分の線形流速を用いて適用した。カラムを25CV平衡化緩衝液を用いて洗浄して過剰の試薬を取り除き(線形流速:2cm/分)、PEG化したrFVIIIを溶出緩衝液(20mM Hepes、1.0M NaCl、0.5%ショ糖、0.1%Polysorbate 80、pH 7.4)を用いて線形流速0.5cm/分で溶出した。次に溶出液を、20mM Hepes、150mM NaCl、0.5%ショ糖、pH7.4からなる緩衝液系を用いて、分子量カットオフが30kDの再生セルロースからなる膜を利用した限外濾過/ダイアフィルトレーションによって濃縮した。
【0045】
実施例8:分枝状PEG−SG 20kDでPEG化されたrFVIIIのインビトロでの特徴付け
Advate製造プロセスに由来するrFVIIIを、実施例7に従って、分枝状PEG−SG試薬を用いてリジン残基を介してPEG化し、PEG化したrFVIII製品を実施例2に記載したように生化学的に特徴付けした。
【0046】
【表3】

表3のデータは、PEG化したrFVIII調製物では、生物学的活性(FVIII色素形成活性の、FVIII抗原に対する比として表された)が、未改変のrFVIIIの生物学的活性(100%)と比較して、完全に回収されていることを示す。
【0047】
PEG化したrFVIIIを、実施例3に記載されているように、還元条件下、4〜12%のポリアクリルアミド勾配ゲルを用いたSDS−PAGEおよび免疫ブロッティング技術によって特徴付けした。結果を図5にまとめている。ブロットは、未改変rFVIIIおよびPEG化したrFVIIIのドメイン構造を明らかにしている。PEG化したrFVIIIは、未改変の組換え体タンパク質に比べると、より広範囲のバンドおよびより高い分子量を有することが示される。
【0048】
SDS−PAGEおよび免疫ブロッティング技術によってrFVIII調製物のPEG化をより詳細に解析するために、未改変rFVIIIおよびPEG化したrFVIIIを1nMのトロンビンで60分間、60℃で消化し、その結果、実施例5に記載したように良く規定されたFVIII分子の特異的切断が起こった。断片をSDS−PAGEによって分離し、続いてエレクトロブロッティングし、各種抗FVIII抗体によって視覚化した。図6からわかるように、程度の差はあるが、全てのドメインがPEG化されていた。Bドメインは強くPEG化されていた。軽鎖A3−ドメインでは、様々な程度(モノ−PEG化、ジ−PEG化、トリ−PEG化、等)のPEG化が観察できた。結果は、PEG化されたrFVIIIはトロンビンに対してより耐性であるようであることを示している。
【0049】
トロンビンによる活性化および不活性化の速度を、実施例6に記載したとおりのFIXa補因子アッセイによってモニタリングした。FVIIIの偽一次不活性化速度を、曲線の下降部分を一指数関数当てはめに当てはめることによって決定した。
【0050】
【表4】

図7および表4に示すように、PEG化されたrFVIIIは、適用した両方のトロンビン濃度において、より遅い不活性化速度を示した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、PEG結合後にrFVIIIの範囲が広がることおよび質量が増すことを、SDS−PAGEとその後の免疫ブロッティングによって測定して示す。
【図2】図2は、血友病マウスにおける、非結合FVIIIと比較したPEG−rFVIII結合体の薬物動態を示す。中抜きの四角:PEGrVIII、用量200IU FVIII/kg。塗りつぶし菱形:未改変rFVIII、用量200IU FVIII/kg。
【図3】図3は、様々な抗FVIII抗体を用いたSDS−PAGEによるPEG化部位の詳細な分析を示す。
【図4】図4は、未改変rFVIIIおよびPEG化したrFVIIIのトロンビンで誘発した活性化および不活性化を示す。
【図5】図5は、未改変rFVIIIおよびPEG化したrFVIIIのドメインを表すバンドを示す。
【図6】図6は、未改変rFVIIIおよびPEG化したrFVIIIの各種ドメインのPEG化の程度を示す。
【図7】図7は、未改変rFVIIIおよびPEG化したrFVIIIのトロンビン不活性化速度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質性構築体であって、該タンパク質性構築体は、
(a)Bドメインの少なくとも一部が無傷である第VIII因子分子;および
(b)該第VIII因子分子に結合した少なくとも一つのポリエチレングリコール分子であって、10,000ダルトンより大きな分子量を有する、ポリエチレングリコール分子;
を含み、
該構築物は、未改変第VIII因子の生物学的活性の少なくとも80%の生物学的活性を有し、該構築体および未改変第VIII因子の生物学的活性は、色素形成活性の、FVIII抗原値に対する比(FVIII:Chr/FVIII:Ag)によって決定され、且つ該構築体のインビボでの半減期は、未改変第VIII因子のインビボでの半減期と比較して少なくとも1.5倍まで延長するタンパク質構築体。
【請求項2】
前記構築体は、未改変第VIII因子の生物学的活性の少なくとも90%の生物学的活性を有する、請求項1に記載のタンパク質性構築体。
【請求項3】
前記第VIII因子分子は、組換え体第VIII因子である、請求項1に記載のタンパク質性構築体。
【請求項4】
前記第VIII因子分子は、完全長第VIII因子である、請求項1に記載のタンパク質性構築体。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール分子は、10,000Daより大きく、約125,000Daまでの分子量を有する、請求項1に記載のタンパク質性構築体。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコール分子は、約15,000Daから約20,000Daまでの分子量を有する、請求項1に記載のタンパク質性構築体。
【請求項7】
前記ポリエチレングリコール分子は、約18,000Daから約25,000Daまでの分子量を有する、請求項1に記載のタンパク質性構築体。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコール分子は、約20,000Daの分子量を有する、請求項1に記載のタンパク質性構築体。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコール分子は、約20,000Daから約150,000Daまでの分子量を有する、請求項1に記載のタンパク質性構築体。
【請求項10】
前記ポリエチレングリコール分子は、直鎖状構造または分枝状構造を有する、請求項1に記載のタンパク質性構築体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−532351(P2009−532351A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502944(P2009−502944)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際出願番号】PCT/US2007/007560
【国際公開番号】WO2007/126808
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】