ペプチド合成のための修飾された酵素およびその使用方法
【課題】 エステラーゼ活性およびアミダーゼ活性を有する修飾されたサブチリシン酵素の提供。
【解決手段】 エステラーゼ活性およびアミダーゼ活性を有する修飾されたサブチリシン酵素であって、残基62、166、217および222からなる群より選択されるアミノ酸残基に置換されたシステイン残基を有し、アミノ酸残基が、バチルスアミロリクエファシエンスサブチリシンBPN’のアミノ酸残基中の等価物に従って番号付けされ、システイン残基が、システイン残基中のチオール水素を、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)および-SCH2C6F5からなる群より選択されるチオール側鎖で置換されることにより修飾されることを特徴とする修飾酵素に関する。
【解決手段】 エステラーゼ活性およびアミダーゼ活性を有する修飾されたサブチリシン酵素であって、残基62、166、217および222からなる群より選択されるアミノ酸残基に置換されたシステイン残基を有し、アミノ酸残基が、バチルスアミロリクエファシエンスサブチリシンBPN’のアミノ酸残基中の等価物に従って番号付けされ、システイン残基が、システイン残基中のチオール水素を、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)および-SCH2C6F5からなる群より選択されるチオール側鎖で置換されることにより修飾されることを特徴とする修飾酵素に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ここに引用される、1998年1月23日に出願された米国仮特許出願第60/072,351号、および1998年1月23日に出願された米国仮特許出願第60/072,265号に優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
部位定方向突然変異誘発による酵素特性の修飾は、制限を克服するための分子生物学的方法が最近得られた(Cornish et al.,Angew.Chem.,Int.Ed.Engl.,34:621-633(1995))とはいえ、天然アミノ酸の置換に限られてきた。しかしながら、最近の方法はたいていの実験室では行うのが難しい。対照的に、酵素のコントロールされた化学的修飾は、酵素構造の容易で柔軟な修飾のために広い可能性を提供し、それにより酵素特異性のコントロールされた調整のために広い可能性を開く。
【0003】
化学的修飾による酵素特性の変化は、サブチリシンBPNの活性部位セリン残基をシステインに化学的に形質転換(CH2OH→CH2SH)することによりチオールサブチリシンを産生したBender(Polgar et al.,J.Am.Chem.Soc.,88:3153-3514(1996))およびKoshland(Neet et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,56:1606-1611(1966))のグループにより1966年にされた最初の報告とともに、以前に広がった。Wu(Wu et al.,J.Am.Chem.Soc.,111:4514-4515(1989);Bell et al.,Biochemistry,32:3754-3762(1993))およびPeterson(Peterson et al.,Biochemistry,34:6616-6620(1995))、およびより最近は、Suckling(Suckling et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,3:531-534(1993))により、合成の可能性を有するものを含む、化学的に産生された人工酵素への関心が復活した。
【0004】
酵素は現在では、有機物の合成において有用な触媒として広く認識されている。しかしながら、天然の、野生型の酵素は、合成化学的に関心がもたれる全ての構造を取ると期待することはできず、また合成に必要な所望の鏡像異性的に純粋な物質に立体特異的に形質転換することは常にはできない。酵素の合成適用可能性におけるこの潜在的な制限がこれまで認識され、タンパク質工学の部位定方向およびランダム突然変異誘発技術を使用するコントロールされた方法で酵素の特異性を変化させることにおいて進歩がなされた。しかしながら、タンパク質工学による酵素特性の修飾は、天然アミノ酸の置換に制限され、この制限を克服するために案出された分子生物学的方法は、ごく普通の用途またはラージスケールの合成に容易に従わない。酵素の化学的修飾により得られる新しい特異性または活性の産生は、長年化学者の興味をそそってきたしこれからもそうであろう。
【0005】
Bech et al.の米国特許第5,208,158号(“Bech”)には、1つ以上のメチオニンがシステインに突然変異されている化学的に修飾された洗剤酵素が記載されている。その後システインを修飾して、酸化剤に対して改良された安定性を酵素に与える。請求された化学的修飾は、C1-6アルキルによるチオール水素の置換である。
【0006】
Bechには、突然変異誘発および化学的修飾による酵素の酸化的安定性の変化が記載されているが、例えば洗剤または有機物合成において使用するための、活性、球核特異性、基質特異性、立体選択性、熱安定性、pH活性特性、および表面結合特性のような特性が変化した1つ以上の酵素を開発することもまた所望である。特に、サブチリシンのようにペプチド合成のために作成された酵素が所望である。ペプチド合成に有用な酵素は、高エステラーゼおよび低アミダーゼ活性を有する。通常、サブチリシンはこれらの必要条件を満たさず、サブチリシンのエステラーゼ対アミダーゼの選択性の改良が所望である。しかしながら、アミダーゼ活性を低下させることによりペプチド合成のための酵素を作成する以前の試みは、通常、エステラーゼおよびアミダーゼ活性の両方を劇的に減少させることとなった。アミダーゼ活性を低下させるための以前の方法には、水混和性の有機溶媒 (Barbas et al.J.Am.Chem.Soc.,110:5162-5166(1988);Wong et al.,J.Am.Chem.Soc.,112:945-953(1990);and Sears et al.,Biotechnol.Prog.,12:423-433(1996))および部位定方向突然変異誘発(Abrahamsen et al.,Biochemistry,30:4151-4159(1991);Bonneau et al.,J.Am.Chem.Soc.,113:1026-1030(1991); and Graycar et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,67:71-79(1992))の使用が含まれる。しかしながら、エステラーゼ対アミダーゼ活性の割合がこれらの方法により改良されると同時に、絶対的なエステラーゼ活性が低下した。Abrahamsen et al.,Biochemistry,30:4151-4159(1991)。非天然アミノ酸成分の取込みを可能にする化学的修飾技術(Neet et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.,56:1606(1966);Polgar et al.,J.Am.Chem.Soc.,88:3153-3154(1966);Wu et al.,J.Am.Chem.Soc.,111:4514-4515(1989); and West et al.,J.Am.Chem.Soc.,112:5313-5320(1990))もまた、サブチリシンのエステラーゼ対アミダーゼの選択性の改良に使用されてきた。例えば、サブチリシンの触媒三構造セリン(Ser221)のシステインへの化学的変換(Neet et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.,56:1606(1996);Polgar et al.,J.Am.Chem.Soc.,88:3153-3154(1996);and Nakatsuka et al.,J.Am.Chem.Soc.,109:3808-3810(1987))またはセレノシステインへの化学的変換(Wu et al.,J.Am.Chem.Soc.,111:4514-4515(1989))、およびキモトリプシンの触媒三構造ヒスチジン(His57)のメチル化(West et al.,J.Am.Chem.Soc.,112:5313-5320(1990))は、エステラーゼ対アミダーゼの選択性に実質的な改良をもたらした。しかしながらあいにく、これらの修飾もまた、絶対的なエステラーゼ活性の50倍から1000倍までの減少を伴った。
【0007】
本発明は、これらの欠点の克服を目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,208,158号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換されており、該システイン残基が、修飾された酵素を形成するためにシステイン残基の少なくともいくつかの中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されている、修飾酵素に関する。修飾された酵素は、高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する。本発明はまた、ペプチド合成における修飾された酵素の使用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様は、酵素からの1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基の少なくともいくつかが、修飾された酵素を形成するためにシステイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されており、該修飾された酵素が高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有することを特徴とする修飾酵素に関する。
【0011】
本発明の別の態様は、修飾された酵素を産生する方法に関する。この方法は、酵素中の1つ以上のアミノ酸がシステイン残基で置換されている酵素を提供し、修飾された酵素を形成するためにシステイン残基の少なくともいくつかの中のチオール水素をチオール側鎖で置換する、各工程を含む。修飾された酵素は、高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する。
【0012】
本発明はまた、ペプチド合成の方法に関する。この方法は、酵素中の1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基の少なくともいくつかが、システイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されており、該修飾された酵素が高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を示す修飾酵素を提供する工程を含む。その後アシル供与対、アシル受容体、および修飾された酵素を、ペプチド産物の産生に有効な条件下で化合する。
【0013】
本発明の修飾された酵素は、タンパク質中への非天然アミノ酸の導入について部位定方向突然変異誘発および化学的修飾に代わるものを提供する。さらに、これらの修飾された酵素は、野生型酵素と比較してエステラーゼ対アミダーゼの割合が増加した結果として、より有効にペプチド合成に触媒作用を及ぼす。さらに、本発明の修飾された酵素は、アシル供与対としてD-アミノ酸エステルをペプチド合成に、およびアシル受容体としてα-分枝アミドをペプチド合成に組み込んで、野生型(“WT”)酵素では産生できない様々のジペプチドを産生できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】酵素により触媒されるペプチド結合を示す図
【図2】サブチリシンバチルスレンタス(Bacillus lentus)突然変異体の化学的修飾を示す図
【図3A】エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示すグラフ
【図3B】エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示すグラフ
【図3C】エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示すグラフ
【図3D】エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示すグラフ
【図4】sucAAPF(太い黒線)が結合されているサブチリシンバチルスレンタスの活性部位を示す図
【図5】サブチリシンバチルスレンタス修飾された酵素を使用するL-アミノ酸のペプチドライゲーションを示す図
【図6】サブチリシンバチルスレンタス修飾された酵素を使用するD-アミノ酸のペプチドライゲーションを示す図
【図7】サブチリシンバチルスレンタスを有するZ-D-Phe-OBnのZ-保護基の考えられる結合を示す図
【図8】サブチリシンバチルスレンタスのS166C突然変異体の化学的修飾を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、酵素により触媒されるペプチド結合を示す。
【0016】
図2は、化学的に修飾された突然変異体酵素を産生するためのサブチリシンバチルスレンタス(Bacillus lentus)突然変異体の化学的修飾を示す。
【0017】
図3は、エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示す。エステラーゼおよびアミダーゼ活性は、それぞれ、スクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン−チオベンジルエステル(“suc-AAPF-SBn”)およびスクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン−パラ−ニトロアナリド(“suc-AAPF-pNA”)基質で測定した。全ての化学的に修飾された突然変異体は、酵素-CH2-S-Rの構造を有し、調査した様々のR基の構造が示されている。N62Cファミリーにおいては、中間の長さの直鎖アルキル基はヘキシル(c)であり、L217Cファミリーにおいては、ペンチル(d)であった;n.d.=測定されなかった。比較のために、WT酵素についての割合は17であった。
【0018】
図4は、sucAAPF(太い黒線)が結合されているサブチリシンバチルスレンタスの活性部位を示す。調査した触媒性の三連構造および4つの活性部位残基が示されている。残基62はS2 ポケットの一部であり、残基217はS1’(遊離基)ポケットの開口部にあり、残基166はS1ポケットの底部にあり、残基222はS1ポケットとS1’ポケットとの間にある。
【0019】
図5は、サブチリシンバチルスレンタス修飾された酵素を使用するL-アミノ酸のペプチドライゲーションを示す。
【0020】
図6は、サブチリシンバチルスレンタス修飾された酵素を使用するD-アミノ酸のペプチドライゲーションを示す。
【0021】
図7は、サブチリシンバチルスレンタスを有するZ-D-Phe-OBnのZ-保護基の考えられる結合を示す。大きい疎水性カルボベンゾキシ保護(Z)基は、D-フェニルアラニン側鎖の代わりにS1ポケット中で結合している。
【0022】
図8は、修飾された酵素を産生するためのサブチリシンバチルスレンタスのS166C突然変異体の化学的修飾を示す。
【0023】
本発明は、酵素からの1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基の少なくともいくつかが、修飾された酵素を形成するためにシステイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されている、修飾酵素に関する。修飾された酵素は、高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する。
【0024】
好ましくは、酵素はプロテアーゼである。より好ましくは、酵素はバチルスサブチリシンである。サブチリシンは、生体触媒作用、特にキラルの分解能、多機能化合物の部位選択性アシル化、ペプチド結合、およびグリコペプチド合成における使用が増加しているアルカリ性セリンプロテアーゼである。後者の2つの使用方法は、部位定方向突然変異誘発および非天然アミノ酸をタンパク質中へ導入する化学的修飾を提供するので、特に関心がもたれている。図1に示されるように、サブチリシンは、次いで第一アミンと反応してペプチド産物を形成するアシル酵素中間体を最初に形成することにより、エステル基質から始まるペプチド結合形態に触媒作用を及ぼすことができる。従って、この用途には、アシル酵素形態を促進するためには高エステラーゼ活性が、所望の産物のペプチド結合の加水分解を最小にするためには低アミダーゼ活性が必要である。通常、サブチリシンはこれらの必要条件を満たさず、サブチリシンのエステラーゼ対アミダーゼの選択性の改良が長い間求められてきた。
【0025】
また、好ましくは、システインにより酵素中で置換されたアミノ酸は、アスパラギン、ロイシン、メチオニン、またはセリンからなる群より選択される。より好ましくは、置換されるアミノ酸は、酵素のサブサイト(subsite)、好ましくはS1、S1’、またはS2サブサイト中に位置する。最も好ましくは、置換されるアミノ酸は、N62、L217、M222、およびS166であり、番号のついた位置は、バチルスアミロリクエファシエンス(amyloliquefaciens)からの天然発生サブチリシンまたはバチルスレンタスサブチリシンのような他のサブチリシン中の等価アミノ酸残基に対応する。
【0026】
特に好ましい実施の形態において、酵素はバチルスレンタスサブチリシンである。別の特に好ましい実施の形態において、システインにより置換されるアミノ酸はN62、L217、S166、またはM222であり、チオール側鎖基は、
-SCH3;
-SCH2CH3;
-SCH2CH(CH3)2;
-S(CH2)4CH3;
-S(CH2)5CH3;
-S(CH2)9CH3;
-SCH2C6H5;
-SCH2CH2NH3+;および
-SCH2CH2SO3−
からなる群より選択される、または
システインにより置換されるアミノ酸はS166またはM222であり、チオール側鎖基は、
-SCH2C6H5;
-SCH2(p-COOH-C6H4);
-SCH2C6F5;および
-SCH2CH2NH3+
からなる群より選択される。
【0027】
好ましくは、本発明の修飾された酵素は、約3.5s-1mM-1から約1110000s-1mM-1までのエステラーゼ活性および約0.056s-1mM-1から約35500s-1mM-1までのアミダーゼ活性を有する。最も好ましくは、本発明の修飾された酵素は、約350s-1mM-1から約11100s-1mM-1までのエステラーゼ活性および約5.6s-1mM-1から約355s-1mM-1までのアミダーゼ活性を有する。
【0028】
「修飾された酵素」とは、アスパラギン、セリン、メチオニン、またはロイシンのようなアミノ酸残基をシステイン残基により置換し、次いで少なくともいくつかの該システインのチオール水素をチオール側鎖(例えば、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)、および-SCH2C6F5)により置換することによって変化された酵素である。修飾の後、酵素の特性、すなわち活性または基質特異性が変化され得る。好ましくは、酵素の活性が増加される。
【0029】
「酵素」という用語には、自分自身は変化されずに他の基質中の化学的変化に触媒作用を及ぼすことができるタンパク質が含まれる。酵素は、野生型酵素または突然変異酵素でもよい。本発明の範囲内の酵素には、プルラナーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、イソメラーゼ、リパーゼ、オキシダーゼ、およびレダクターゼが含まれる。酵素は、野生型または突然変異体プロテアーゼでもよい。野生型プロテアーゼは、例えばバチルスレンタスまたはバチルスアミロリクエファシエンスから単離されてもよい(BPN’とも称される)。突然変異体プロテアーゼは、例えば、ここに引用される国際特許出願公開第95/10615号および同第91/06637号により作成できる。
【0030】
様々の種類の成分を、システイン残基のチオール水素を置換するために使用できる。これらには、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)、および-SCH2C6F5が含まれる。
【0031】
「チオール側鎖基」、「チオール含有基」、および「チオール側鎖」という用語は、互いに交換して使用できる用語であり、酵素中のアミノ酸の1つを置換するのに使用されるシステインのチオール水素を置換するために使用される基を含む。通常、チオール側鎖基には、上述で定義されたチオール側鎖基がシステインのチオール硫黄に付加される際の硫黄が含まれる。
【0032】
酵素の結合部位は、酵素の表面を横切る一連のサブサイトからなる。サブサイトに対応する基質残基は標識されたPであり、サブサイトは標識されたSである。慣例より、サブサイトは標識されたS1、S2、S3、S4、S1’およびS2’である。サブサイトについては、ここに引用されるSiezen et al.,Protein Engineering,4:719-737(1991)およびFersht,EnzyMEtructure and Mechanism,2 ed.,Freeman:New York,29-30(1985)に見ることができる。好ましいサブサイトは、S1、S1’およびS2である。
【0033】
本発明の別の態様は、修飾された酵素を産生する方法に関する。この方法は、酵素中の1つ以上のアミノ酸がシステイン残基により置換されている酵素を提供し、少なくともいくつかの該システイン残基中のチオール水素をチオール側鎖により置換して修飾された酵素を形成する、各工程を含む。修飾された酵素は、高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する。
【0034】
本発明のアミノ酸残基は、部位定方向突然変異誘発法または当該技術においてよく知られる他の方法を使用して、システイン残基により置換できる。例えば、ここに引用される国際特許出願公開第95/10615号参照。システイン残基のチオール水素を修飾する1つの方法は、実施例に示されている。
【0035】
本発明はまた、ペプチド合成の方法に関する。この方法は、酵素中の1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基の少なくともいくつかが、システイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されており、該修飾された酵素が高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を示す修飾酵素を提供する工程を含む。アシル供与体、アシル受容体、および修飾された酵素を、ペプチド産物の産生に有効な条件下で化合する。
【0036】
酵素によるペプチド結合は、様々のペプチドの調製に魅力のある方法である、なぜならこの方法は、基質の保護を最小限しか必要とせず、穏やかな条件下で進行し、ラセミ化を引き起こさないからである。ここに引用される、Wong et al.,EnzyME in Synthetic Organic Chemistry,Pergamon Press:Oxford,41-130(1994)。これらの利点にもかかわらず、2つの重大な問題が、ペプチド合成におけるセリンプロテアーゼの使用を制限してきた。1つは、結合産物の加水分解を引き起こす有効なタンパク分解(アミダーゼ)活性であり、もう1つはストリンジェントな構造特異性および立体特異性である。
【0037】
本発明の修飾された酵素は、前駆体酵素と比較してエステラーゼ対アミダーゼ活性を変化させた。エステラーゼ対アミダーゼの割合を増加することにより、酵素を使用してより有効にペプチド合成に触媒作用を及ぼすことができる。特に、サブチリシンは、図1に示されるように、次いで第一アミン(すなわちアシル受容体)と反応してペプチド産物を形成するアシル酵素中間体を最初に形成することにより、エステル基質(すなわちアシル供与体)から始まるペプチド結合形態に触媒作用を及ぼすことができる。従って、この反応には、アシル酵素形態を促進するためには高エステラーゼ活性が、所望の産物のペプチド結合の加水分解を最小にするためには低アミダーゼ活性が必要である。本発明の修飾された酵素は、酵素の絶対的なエステラーゼ活性を減少させずに、エステラーゼ対アミダーゼの割合が増加したことを示す。さらに、本発明のある修飾された酵素は、同時に絶対的なエステラーゼ活性の増加を示す。
【0038】
さらに、本発明の修飾された酵素は、ペプチド合成においてサブチリシンバチルスレンタスの化学的に修飾された突然変異体の適用性が大きく広がったことを示す。本発明の化学的に修飾された突然変異体酵素は、アシル供与体としてD-アミノ酸エステルをペプチド合成にまたはアシル受容体としてα-分枝アミノ酸アミドをペプチド合成に組み込んで、様々のジペプチドを与えることができる。これらの反応は、サブチリシンバチルスレンタスの野生型(WT)では不可能である。
【0039】
従って、本発明の修飾された酵素は、有機物合成に使用して、例えば所望の反応に触媒作用を及ぼすおよび/またはある立体選択性を選択することができる。例えば、ここに引用されるNoritomi et al.Biotech.Bioeng.51:95-99(1996);Dabulis et al.Biotech.Bioeng.41:566-571(1993),and Fitzpatrick et al.J.Am.Chem.Soc.113:3166-3171(1991)参照。
【0040】
本発明の修飾された酵素は、重量で約0.01%から5%まで(好ましくは0.1%から0.5%まで)の濃度で6.5から12.0までの範囲のpHを有する既知の粉末状または液体状洗剤に調製できる。これらの洗剤洗浄組成物または添加物にはまた、既知のプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、またはエンドグリコシダーゼのような他の酵素、並びに研磨剤および安定剤が含まれてもよい。
【0041】
本発明の修飾された酵素、特にサブチリシンは、様々の洗剤組成物の調製において有用である。多くの既知の化合物は、本発明の修飾された酵素を含む組成物において有用な、適切な界面活性剤である。これらには、ここに引用されるAndersonの米国特許第4,404,128号およびFlora et al.の同第4,261,868号に開示されているような、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、または両性イオン性の洗剤が含まれる。適切な洗剤製剤は、ここに引用されるCaldwell et al.の米国特許第5,204,015号の実施例7に記載されるものである。この技術は、洗浄組成物として使用できる異なる製剤でよく知られている。通常の洗浄組成物に加えて、本発明の修飾された酵素は、天然のまたは野生型の酵素が使用される任意の目的のために使用できることが容易に理解される。従って、これらの修飾された酵素は、例えば、棒状または液状石鹸の用途において、食器洗浄用製剤において、コンタクトレンズ洗浄溶液または製品において、ペプチド合成において、食物添加物または食物添加物の調製のような食物の用途において、廃棄物処理において、織物の処理のような織物用途において、およびタンパク質産生における融合−開裂酵素として、使用できる。本発明の修飾された酵素は、洗剤組成物中において改良された洗浄能力を達成し得る(先駆物質と比較して)。ここで用いたように、洗剤中の改良された洗浄能力とは、標準の洗浄サイクルの後、光反射評価により測定すると、草または血液のようなある酵素感受性の汚れの洗浄力の増加として定義される。
【0042】
従来の洗浄組成物に本発明の修飾された酵素を加えても特別な使用上の制限は何ら生じない。いいかえれば、洗剤に適切な任意の温度およびpHは、pHが上述の範囲内で温度が記載される修飾された酵素の変成温度以下である限り、本発明の組成物にも適切である。さらに、本発明による修飾された酵素は、単独でまたは研磨剤および安定剤と組み合わせて、洗剤を含有しない洗浄組成物中で使用できる。
【0043】
本発明の別の態様において、修飾された酵素は、動物用飼料、例えば穀物を基礎とした飼料の調製に使用される。穀物は、小麦、大麦、トウモロコシ、モロコシ、ライ麦、エンバク、ライコムギ、および米の少なくとも1つでよい。穀物を基礎とした飼料の穀物成分はタンパク質の供給源を構成するが、通常は飼料中に、魚粉、肉、または野菜に由来するような補足的なタンパク質の供給源が含まれる必要がある。野菜タンパク質の供給源には、脂肪の多い大豆、菜種、カノラ、大豆粉、菜種粉、およびカノラ粉の少なくとも1つが含まれる。
【0044】
動物用飼料中に本発明の修飾された酵素を含むことにより、飼料の粗タンパク質値および/または消化性および/またはアミノ酸含有量および/または消化率を増加させることが可能になり、これにより、以前は動物用飼料の必須成分であった代替タンパク質供給源および/またはアミノ酸補足剤の量が減少する。
【0045】
本発明により提供される飼料にはまた、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、マンナナーゼ、α−ガラクトシダーゼ、フィターゼ、リパーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、キシラナーゼ、α−アミラーゼ、エステラーゼ、オキシダーゼ、オキシドレダクターゼ、およびペクチナーゼの1つ以上のような、他の補足酵素が含まれてもよい。バチルス属に由来するサブチリシンのようなさらなる補足酵素としてキシラーゼを含むことが特に好ましい。そのようなキシラーゼは、例えば、ここに引用される国際特許出願公開第97/20920号に詳細に記載されている。
【0046】
本発明の別の態様は、織物を処理する方法である。この方法は、酵素からの1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基が、少なくともいくつかのシステイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されて修飾された酵素を形成し、該修飾された酵素が高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する修飾酵素を提供する工程を含む。ある酵素感受性の汚れに抵抗力のある織物の産生に有効な条件下で、修飾された酵素を、織物と接触させる。そのような酵素感受性の汚れには、草または血液が含まれる。好ましくは、織物は突然変異体酵素を含む。この方法は、ここに引用されるリサーチディスクロージャー(Research Disclosure)第216,034番、欧州特許出願第134,267号、米国特許第4,533,359号、および欧州特許出願第344,259号のような刊行物に記載されているように、例えば、シルクまたはウールの処理に使用できる。
【実施例1】
【0047】
シス突然変異体の産生
バチルスレンタスからのサブチリシン(“SBL”)に対する遺伝子を、突然変異誘発のためにバクテリオファージM13mp19ベクター中にクローニングした(ここに引用される米国特許第5,185,258号)。オリゴヌクレオチド有向突然変異誘発を、ここに引用されるZoller et al.,Methods Enzymol.,100:468-500(1983)に記載されるように行った。突然変異された配列をクローン化し、取り出し、バチルスサブチリス宿主中で発現プラスミドGG274中に再び導入した。PEG(50%)を安定剤として加えた。得られた粗タンパク質濃縮液を、小さい分子量の不純物を除去するために、まずpH5.2の緩衝剤(20mMのアセテートナトリウム、5mMのCaCl2)とともにSaphadex(商標) G-25脱塩基質を通すことにより精製した。次に脱塩カラムについてたまった分画を、アセテートナトリウム緩衝剤(上述)中で強い陽イオン交換カラム(SP Sepharose(商標) FF)にかけ、pH5.2のNaClアセテート緩衝剤の0mMから200mMまでの一段階の勾配でSBLを溶出した。ミリポア精製水に対する溶出液の透析および続く凍結乾燥の後に、無塩の酵素粉末を得た。0℃で30分間0.1MのHClでインキュベートすることにより変成された突然変異体酵素および野生型酵素の純度を、Pharmacia(Uppsala,Sweden)からのPhast(商標) Systemを使用して均質のゲル上でSDS-PAGEにより確かめた。SBLの濃度を、ここに引用されるBradford,Analytical Biochemistry,72:248-254(1976)の方法に基づくBio-Rad(Hercules,CA)色素試薬キットを使用して測定した。酵素の特異的な活性を、実施例3に記載される方法を使用してpH8.6の緩衝剤中で測定した。
【実施例2】
【0048】
ある成分の調製
2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジルメタンチオスルホネートの調製
【化1】
【0049】
2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジルメタンチオスルホネートを、実施例1および実施例3の一般的な方法により、88%の収率でα-ブロモ-2,3,4,5,6-ペンタフルオロトルエンから調製した。m.p.:64.2-64.7℃(95% EtOH);IR(KBr):3030,3009,2961,2930,2920,1514,1314,1132,980,880,and 748cm-1;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ4.46(br s,2H,SCH2),3.36(s,3H,CH3SO2);MS(E1):292(M+),212(+S=CHC6F5);HRMS(E1):291.9648(M+,calc’d for C8H5F5O2S2:291.9651)。
【0050】
4-カルボキシベンジルメタンチオスルホネートの調製
【化2】
【0051】
4-カルボキシベンジルメタンチオスルホネートを、実施例1および実施例3の一般的な方法により、95%のEtOHからの再結晶後60%の収率でα−ブロモ−p−トルイル酸から調製した。m.p.:187.6- 187.8℃;IR(KBr):3300-2200,1683,1608,1577,1422,1301,1180,1121,957,863,750,716,and 551cm-1;1H NMR(200MHz,DMSO-d6 and 10%D2O):δ7.90(d,J=8.0Hz,2H,aromatic),7.51(d,J=8.0Hz,2H,aromatic),4.47(s,2H,SCH2),3.23(3H,CH3SO2S);13C NMR(50 MHz,DMSO-d6 and 10%D2O):δ167.87,141.55,130.56,130.45,130.07,51.01,39.37;MS(E1):246(M+),229(M+)-OH),166(base peak, +S=CH-Ar);HRMS(E1):246.0031(M+,calc’d for C9H10O4S2:246.0021)。
【実施例3】
【0052】
アルキル成分により修飾された酵素を使用するペプチド合成
原料
スクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン−パラ−ニトロアナリド(“suc-AAPF-pNA”)およびスクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン−チオベンジルエステル(“suc-AAPF-SBn”)はともにBachem Inc.(Torrance,CA)からであり、Ellman’s試薬(5,5’-ジチオビス-2,2’-ニトロ安息香酸,DTNB)およびフェニルメタンスルホニルフッ化物(“PMSF”)はSigma-Aldrich Inc.(Milwaukee,WI)からであった。メタンチオスルホネート(“MTS”)試薬の供給源および合成は、ここに引用されるBerglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997) に記載されている。緩衝剤である、2-[N-シクロヘキシルアミノ]エタンスルホン酸(CHES)、4-モルホリンエタンスルホン酸(ME)およびトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)は、Sigma-Aldrich Inc.(Milwaukee,WI)からであった。野生型のSBLおよびシステイン突然変異体N62C、S166C、L217C、およびM222Cは、Genencor International Inc.,Rochester,New Yorkにより提供され、実施例1およびここに引用されるStabile et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2501-2506(1996)に記載されるように精製された。
【0053】
化学的修飾
アルキルMTS試薬による化学的修飾を、ここに引用されるBerglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997)およびDeSantis et al.,Biochemistry,37:5968-5973(1988)に記載されるように行った。簡単に言えば、適切な溶媒中のMTS試薬の1M溶液200μLを、70mMのCHES、5mMのME、pH9.5で2mMのCaCl2中のシステイン突然変異体の溶液(5-10mg/mL,3.5mL)に加えた。MTS試薬は、二つに分けて30分間隔を開けて加えた。反応混合物を、20℃に保ち回転しながら混合を続けた。反応を、suc-AAPF-pNAによる特異的活性の追随によりおよびEllman’s試薬による残存遊離チオールについてのテストにより観察した。反応が終了した後、反応混合物を、pH6.5で5mMのMEおよび2mMのCaCl2とともにSephadex PD-10 G25カラム上に加えた。タンパク質分画を1mMのCaCl2に対して透析し、透析物を凍結乾燥した。
【0054】
修飾された酵素の特徴付け
それぞれの修飾された酵素(“ME”)の分子量を、電気スプレーイオン化質量分析法(ここに引用されるBerglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997);DeSantis et al.,Biochemistry,37:5968-5973(1988))により測定した。MEの純度を、Pharmacia(Uppsala,Sweden)からのPhastシステムを使用して8-25%のゲル上で天然PAGEにより確かめた。62、217および166突然変異体についてはDTNBによるチオール滴定およびDTNBと反応しないより立体障害のある222突然変異体についてはI2(ここに引用されるCunningham et al.,J.Biol.Chem.,234:1447-1451(1959))によるチオール滴定により、システイン突然変異体の化学的修飾の程度を測定した。ここに引用されるHsia et al.,J.Anal.Biochem.,242:221-227(1996)に記載されるように、酵素へのフェニルメタンスルホニルフッ化物の付加により放出されたフッ化物のバーストの観察により、全ての酵素において活性部位滴定を行った。
【0055】
マイクロタイタープレート上の急速なスクリーニング
ここに引用されるPlettner et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,8:2291-2296(1998)に、この分析の方法および実証が詳細に記載されている。簡単に言えば、2mMのCaCl2を含む5mMのME中で、pH6.5、アミダーゼについて約10-7Mおよびエステラーゼについて約10-8Mに酵素溶液を調製した。DMSO中の基質溶液は、1.6mM(アミダーゼ)および1.0mM(エステラーゼ)であった。分析は、速度論について使用したのと同じ緩衝剤中でpH8.6で行った(以下参照)。酵素溶液を、カラムに沿ってマイクロタイタープレート(ローディングプレート)上に配置し、それぞれのカラムの最後のウェルは緩衝剤のブランクとした。分離プレート(分析プレート)上で、10μLの基質および180μLの緩衝剤をそれぞれのウェルに加えた。ローディングプレート上の適切なカラムから分析プレートに10μLの酵素を移すことにより、反応を開始した。反応を、運動モード、414nm、時間のずれなし、1分間(アミダーゼ)および30秒間(エステラーゼ)の全時間に対して5秒間のインターバルにプログラムされたMultiscan MCC 340 96穴読み取り装置上で観察した。バックグラウンドの加水分解は、自動的に差し引かれた。kcat/KMは、低基質近似:
【数1】
を使用して基質の加水分解の速度(v)から求めた。
【0056】
速度論
分析は、0.005%のTweenを含有するpH8.6の0.1M Tris中で行った。基質溶液はDMSO中で調製した。エステラーゼ分析において、基質溶液はまた、0.0375MのDTNB(ここに引用されるBonneau et al.,J.Am.Chem.Soc.,113:1026-1030(1991))を含有していた。基質保存溶液の濃度は、アミダーゼについて0.013Mから0.3Mまで、エステラーゼについて0.0015Mから0.3Mまでの範囲であり、それぞれの酵素について9-10の異なる濃度を二重にテストした。酵素溶液を、20mMのME、1mMのCaCl2中で、pH5.8、アミダーゼについて10-6Mおよびエステラーゼについて10-7Mの濃度に調製した。反応を、恒温細胞室を備えたPerkin Elmer Lambda 2装置上で分光光度法により観察した。
【0057】
分析の前に、キュベット中の980μLのTris緩衝剤を25℃に平衡させた。基質保存溶液(10μL)を緩衝剤に加え、読み取りを0にセットした。10μLの酵素溶液を加えることにより反応を開始し、410nm(アミダーゼ)および412nm(エステラーゼ)において観察した。発色団に対する吸光率は、0.005%のTweenを有するpH8.6の0.1M Tris中において、p-ニトロアニリン(ここで引用されるBonneau et al.,J.Am.Chem.Soc.,113:1026-1030(1991))について8800M-1 cm-1および3-カルボキシレート-4-ニトロチオフェノレートについて13470 M-1 cm-1であった。初速度は、5%の転換までの直線の傾きにより得た;r値は0.9996を超えた。エステラーゼの場合には、酵素の存在下での速度は、チオベンジルエステルの触媒されないバックグラウンドの加水分解について補正した。Grafit(登録商標)(Erithacus Software Ltd.,Staines,Middlesex,United Kingdom)を使用してミカエリス−メンテンの式に速度データを当てはめることにより、速度定数を得た。
【0058】
DTNBとのシステイン突然変異体の反応
【数2】
であるので、N62C、L217CおよびS166C突然変異体のDTNBとの反応についての見かけの一次速度定数を、10-6Mから10-4Mまでの酵素濃度を使用して、分析において使用したのと同じ条件下で測定した。エステラーゼ分析条件下でのN62C、L217C、およびS166CのDTNBとの反応の見かけの一次速度定数は、それぞれ、1.8×10-4s-1(0.5%=エステラーゼ分析の時間を超えてDTNBと反応したシステイン突然変異体の最大量)、1.4×10-3s-1(4.2%が反応した)、および1.4×10-4s-1(0.4%が反応した)であった。M222C突然変異体は、DTNBと検出可能な反応をしなかった。
【0059】
結果
SBLのN62C、L217C、S166C、およびM222C突然変異体をそれぞれ調製し精製して、前記のように(ここに引用されるBerglund et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2507-2512(1996);Berglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997);DeSantis et al.,Biochemistry,37:5968-5973(1998);and DeSantis et al.,J.Am.Chem.Soc.,120:8582-8586(1998))、導入された-CH2SH側鎖を、アルキル成分の-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−を有するMTS試薬により特異的におよび量的に化学的に修飾した。産生されたMEの純度を、それぞれの場合においてバンドを1つだけ示した天然ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により証明し、これによりMEが純粋であり二量体化が起こらなかったことが示された。電気スプレー質量分析法によるMEの質量分析は、単一部位の修飾について計算された質量と矛盾しなかった(±6Da)。Berglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997)およびDeSantis et al.,Biochemistry,37:5968-5973(1988)。Ellman’s試薬によるN62C、S166C、およびL217C MEの滴定により、全ての場合において2%未満の残留チオール含量が示され、これによりMTS反応が実質的に定量的であったことが確認された。ここに引用されるEllman et al.,Biochem.Pharmacol.,7:88-95(1961)。Ellman’s試薬と反応しなかった、より立体障害のあるM222C MEについての残留遊離チオール含量を、I2(Cunningham et al.,J.Biol.Chem.,234:1447-1451(1959))により測定した。3%の残留チオール基を含有したM222C-SCH2CH2SO3−(-i)を除いては、M222C MEは<2% の遊離チオールを含有した。活性酵素の濃度を、フェニルメタンスルホニルフッ化物(PMSF)による活性部位滴定により測定した。Hsia et al.,J.Anal.Biochem.,242:221-227(1996)。活性酵素を4%しか含有せず、従ってそれ以上調べなかったM222C-SCH2CH2SO3−(-i)を除いては、全てのMEは重量で60-80%の活性であった。
【0060】
初めに、図2に略述される酵素についてのアミダーゼおよびエステラーゼに対するkcat/KMを概算するためにマイクロタイタープレート上での急速スクリーニング(ここに引用されるPlettner et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,8:2291-2296(1998)) を使用した。スクリーニングされた36のMEおよび4つのシステイン突然変異体のうち、さらなる速度分析のために25の酵素を選択した。これらには、全ての有望なエステラーゼ、並びに比較のためにエステラーゼ活性がひどく損傷された少数の突然変異体が含まれた。それぞれ標準的なアミドおよびエステル基質としてsuc-AAPF-pNAおよびsuc-AAPF-SBnを使用する速度分析の結果は、以下の表1に示される。修飾されていないシステイン突然変異体N62C、L217C、S166C、およびM222Cのシステインチオールは、速度分析においてエステラーゼ反応のチオールベンジル加水分解産物の検出に使用されるDTNBと反応できることが認識された。この可能性は、DTNBが、使用された濃度において分析に干渉可能な速度で反応しないことが証明された非障害チオールについてのモデルとしてのN62C、S166C、L217C,およびβ−メルカプトエタノールと反応する速度を調べることにより減少された。
【表1】
【0061】
絶対的なエステラーゼ活性を減少させずにエステラーゼ対アミダーゼの選択性を改良する目的を達成するための化学的修飾法の広い適用性は、数値を求められた25のMEおよびシステイン突然変異体のうち、少なくとも19がエステラーゼ対アミダーゼの選択性が改良されたことを示す、表1のデータから明らかである。さらに、20がWTより高いエステラーゼ活性を示した(図3参照)。
【0062】
N62 MEのうち、N62C-S(CH2)9CH3(-f)を除く全てが、WTに関して改良されたエステラーゼ活性を示した。システイン自身に対するN62C突然変異体でさえ、WTより高いエステラーゼおよび低いアミダーゼを産生した。N62Cの化学的修飾は、絶対的なエステラーゼ活性をさらに、N62C-S-CH3,(-a)およびN62C-SCH2CH3,(-b)についてWTより約3倍まで増加させた。実際に、11100±2300s-1mM-1のkcat/KMを有するN62C-SCH2CH3,(-b)は、調べた全てのMEのうち最も高い絶対的なエステラーゼ活性を有していた。しかしながら、N62C-SCH2CH(CH3)2(-c)からN62C-SCH2C6H5(-g)までのより大きいR基は、エステラーゼ触媒作用についてkcatおよびkcat/KMを減少させ、アミダーゼについてkcatおよびkcat/KMの両方を安定して増加させた。従って、エステラーゼ対アミダーゼ活性についてのkcat/KMの割合は、N62C-S-CH3(-a)からN62C-S(CH2)9CH3(-f)まで-Rの鎖長が増加するとともに10倍減少した(図3)。陽性および陰性に帯電したME、N62C-SCH2CH2NH3+(-h)およびN62C-SCH2CH2SO3−(-i)はそれぞれ、どれもWTより高いエステラーゼ活性および低いアミダーゼ活性を示し、導入された電荷の符号にかかわらずエステラーゼ対アミダーゼの割合が約3倍改良された。さらに、N62C-SCH2CH(CH3)2からN62C-SCH2C6H5(-cから-gまで)のより大きいR基は、エステルおよびアミド基質の両方についてKMを減少させた。これにより、62部位における疎水性相互作用が結合に有益であることが示される。
【0063】
産生された全てのL217C CMMsはまた、WTと比較してエステラーゼのkcat/KMが改良されたことを示す。この部位において、システインに対する突然変異体だけが再び、WTより1.5倍高いエステラーゼ活性および4倍低いアミダーゼ活性を有する優れた触媒を産生した。しかしながら、L217C-S-CH3(-a)への修飾により、L217自身と比較してエステラーゼのkcatおよびkcat/KMの両方が減少した。L217C-SCH2CH(CH3)2(-c)は最も活性のある217エステラーゼであり、7900±800s-1mM-1のkcat/KMを示した。全ての217 MEはWTより大きいエステラーゼ活性を示すと同時に、さらに-S(CH2)4CH3から-S(CH2)9CH3まで,(-dから-fまで)の-Rの鎖長の増加によりkcatおよびkcat/KMが減少した。これは、同じMEについての数値であるアミダーゼのkcatおよびkcat/KMについて観察された傾向と対照的である。ここに引用されるBerglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997)。結果として、L217C-S(CH2)9CH3(-f)を除く全てのL217 MEは、WTより高いエステラーゼ対アミダーゼの選択性を有した(図3)。陽性に帯電したL217C-SCH2CH2NH3+(-h)および陰性に帯電したL217C-SCH2CH2SO3−(-i)MEもまたWTより高いエステラーゼ活性を示し、L217C-SCH2CH2SO3−(-i)はWTより2.6倍高いエステラーゼkcatを有した。さらに、5060s-1において、これが、調べた全てのMEのうち最高のエステラーゼkcatであった。L217C-SCH2CH2NH3+(-h)は、WTについての17と比較して、134の(kcat/KM)ester/(kcat/KM)amide比を有した。-Rの鎖長の増加に伴うエステラーゼ活性の減少およびアミダーゼ活性の増加と、帯電修飾について改良されたエステラーゼおよび減少したアミダーゼとの間の相関関係は、L217CおよびN62C MEの両方について互いに一致した。これらの等しい傾向は、触媒三構造のHis64から等距離にある残基217および62と矛盾しない(図4参照)。
【0064】
触媒三構造からおよびエステルおよびアミド基質の両方のS1’遊離基部位から非常に離れているS1ポケットのS166C残基の修飾は、エステラーゼ対アミダーゼの選択性に大きな効果を及ぼした。350s-1mM-1のkcat/KMを有するS166C突然変異体自身は、評価された全てのMEのうち最も低いエステラーゼ活性を有した。しかしながら、これはまた、WTについての17と比較して、4のエステラーゼ対アミダーゼの選択比を与えるやや減少したアミダーゼ活性を有した。エステラーゼについて最低のkcatを有することに加えて、S166Cは、エステラーゼについてWTより非常に大きいKMを有し、KM(エステラーゼ)>KM(アミダーゼ)である少数の突然変異体の1つであった。対照的に、S166C-S-CH3(-a)を産生するためのS166Cの修飾は、WTと比較して約3倍の改良である、45までエステラーゼ対アミダーゼの選択性を増加した。S166C-S-CH2C6H5(-g)の大きい疎水性のベンジル基は、WTより14倍高い、245までエステラーゼ対アミダーゼの選択性をさらに増加し、一方S166C-SCH2CH2NH3+(-h)およびS166C-SCH2CH2SO3-(i)の帯電した疎水基は、エステラーゼ対アミダーゼの割合をほとんど改良しなかった。S166C-S-CH2C6H5(-g)MEについてのWTと比較して、エステラーゼKMが減少し、同時にアミダーゼKMが大きく増加したことにより、S1とS1’ポケットとの間の長距離の相互作用および異なる速度測定工程が示された。これらの結果は、どちらもWTと比較して改良されたエステラーゼおよびエステラーゼ対アミダーゼ活性をもたらした、サブチリシンBPN’のより疎水性のG166NおよびG166S突然変異体について先に観察された結果を補足する。ここに引用されるBonneau et al.,J.Am.Chem.Soc.,113:1026-1030(1991)。
【0065】
Met222部位においては、M222C-SCH2CH2NH3+(-h)およびM222Cの両方が、1.5までの改良されたエステラーゼkcat/KMを示し、同時にM222C-S-CH3(-a)、M222C-SCH2CH2NH3+(-h)、およびM222Cの全ては37倍まで減少したアミダーゼ活性を示した。4倍改良された、システイン母体であるM222Cのエステラーゼ対アミダーゼ活性は、それ自身WTより非常に高かった。M222C突然変異体は、WTより立体的に密集していないS1’遊離基を有する。これは、しばしばエステル基質についての速度測定工程である、アシル−酵素加水分解の速度を増加させるかもしれない。硫黄によるメチオニン側鎖のメチレン(CH2)の1つの置換においてのみWTと異なる、M222C-S-CH3(-a)は、WTと同じkcatを有したが、KMは増加した。この部位において、最も改良されたMEはM222C-SCH2CH2NH3+(-h)であり、WTの17と比較して、879のエステラーゼ対アミダーゼの選択性を示した。エステラーゼ対アミダーゼの割合におけるこの52倍の改良は、大部分は31倍低くなったアミダーゼkcatから生じたが、エステラーゼkcatのWTのレベルは保持していた。この結果は、サブチリシンBPN’のM222K突然変異体はエステラーゼ活性を改良しアミダーゼ活性を大きく減少させ、従ってエステラーゼ対アミダーゼの特異性が非常に改良された酵素を産生したという観察と矛盾しない。ここに引用されるGraycar et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,672:71-79(1992)。
【0066】
評価された25のMEのうち19が絶対的なエステラーゼの割合を減少させずにエステラーゼ対アミダーゼの選択性をWTより高くするという目的を達成したので、MEの方法は広く適用できることが明らかである。全体的に、エステラーゼ対アミダーゼの特異性は、S166CについてWTより4倍低くから、M222C-SCH2CH2NH3+についてWTより52倍高くまで変化する。調べた突然変異体の4つのファミリーのそれぞれから少なくとも1つのメンバーが、優れたエステラーゼ活性および高いエステラーゼ対アミダーゼの選択性の両方の基準を満たした:WT酵素に比較してエステラーゼ対アミダーゼの割合に関して、N62C-SCH3,(-a)は3倍、L217C-SCH2CH2NH3+(-h)およびL217C-SCH2CH2SO3−(-i)は6から8倍、S166C-SCH2C6H5(-g)は14倍、およびM222C-SCH2CH2NH3+(-h)は52倍改良された。MEの方法によりエステラーゼ対アミダーゼの選択性が880倍まで達成可能であるので、ペプチド合成に対する化学的に修飾された突然変異体サブチリシンの可能性は非常に広がった。
【実施例4】
【0067】
S166C-SCH2C6H5、S166C-SCH2(p-COOH-C6H4)、S166C-SCH2C6F5、S166C-SCH2CH2NH3+、およびM222C-SCH2CH2NH3+を使用するペプチド合成。
【0068】
一般的方法
WT-サブチリシンバチルスレンタスおよび突然変異体酵素であるS166CおよびM222Cを精製し(ここに引用されるStabile et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2501-2506(1996);Berglund et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2507-2512(1996);and DeSantis et al.,Biochemistry,37:5698-5973(1998))、ここに引用されるDeSantis et al.,Biochemistry,37:5698-5973(1998)に以前報告されているように調製した。保護されたアミノ酸をSigmaまたはBachemから購入し、そのまま使用した。全ての溶媒は試薬グレードであり使用前に精製した。薄層クロマトグラフィ分析および精製を、予め被覆したMerck Silica ゲル(60F-254)プレート(250μm)上で行い、紫外線またはヨウ素で視覚化した。1Hおよび13C NMRスペクトルを、Varian Gemini 200(1Hに対して200MHzおよび13Cに対して50.3MHz)またはUnity 400(1Hに対して400MHzおよび13Cに対して100MHz)および分光計上で記録し、内標準としてCDCl3またはDMSO-d6を使用して化学シフトをppm(δ)で与えた。Micromass ZAB-SE(FAB+)を使用して高解像度質量スペクトル(HRMS)を記録した。旋光度をPerkin-Elmer 243B偏光計により測定した。
【0069】
ペプチドライゲーションのための一般的方法
塩酸グリシンアミド(0.3mmol)または塩酸アラニンアミド(0.2mmol)およびEt3N(0.083-0.125mL,0.3-0.4mmol)をDMF(0.4mL)および水(0.4mL)中のアミノ酸アシル供与体(0.1mmol)の溶液に加え、続いて緩衝剤溶液(10mmol ME,1mmol CaCl2,pH5.8)中で、フェニルメタンスルホニルフッ化物(PMSF)(ここに引用されるHsia et al.,Anal.Biochem.,242:221-227(1996))を使用する滴定により測定した1mgの活性酵素の溶液(0.0037mmol,0.037eq.)を加えた。生じた反応物の全量は、1.0mL−1.2mLであった。以下の表2から表4までに示される時間、反応物を室温で攪拌し続けた。アシル供与体としてD-アミノ酸を使用した場合には、24時間後、1mg以上の活性酵素並びに等量のDMFを加えた。反応が終了した後、混合物をvacuo中で濃縮し、調製したTLC(CH2Cl2中5-10%のMeOH)を使用して精製した。
【0070】
L-アミノ酸のペプチドライゲーション
アシル供与体Z-L-Phe-OBn、Z-L-Ala-OBn、Z-L-Glu-OMe、およびZ-L-Lys-SBn(1-4)とアシル受容体Gly-NH2およびL-Ala-NH2(5,6)を、図5に示されるように結合反応に使用した。アシル供与体Z-L-Phe-OBn、Z-L-Ala-OBn、Z-L-Glu-OMe、およびZ-L-Lys-SBn(1-4)は、それぞれ大きいおよび小さい疎水性の、陰性に帯電したおよび陽性に帯電したP1側鎖の代表例を提供し、様々のアミノ酸に対するこれらの酵素のS1ポケットの親和性の大まかな評価を与えた。サブチリシンのS1’ポケットが狭いので、小さいアミノ酸アミドであるGly-NH2およびL-Ala-NH2(5,6)をアシル受容体として選択し(ここに引用されるMoree et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:3942-3947(1997);Betzel et al.,J.Mol.Biol.,223:427-445(1992);Sears et al.,J.Am.Chem.Soc.,116:6521-6530(1994);and Jackson et al.,Science,266:243-247(1994))、従ってこれはα-分枝アミノ酸を不十分にしか受容しなかった。S1’ポケットが狭いという性質は、M222の巨大側鎖を原因とし、この残基はサブチリシン中で保存される残基である。ここに引用される、Siezen et al.,Protein Eng.,4:719-737(1991)。このことにより、ペプチドライゲーションの用途における使用が制限される。
【0071】
SBLの好ましいフェニルアラニンP1残基を含有するZ-L-Phe-OBn(1)とGly-NH2(5)との結合は、1時間後に触媒としてSBL-WTおよび4つの全てのS166-ME(以下の表2)を使用して、非常に良い収率でジペプチドZ-L-Phe-Gly- NH2(7)を産生した。酵素の非存在下では反応は観察されなかった。最も高いエステラーゼ/アミダーゼ比を有したM222C-SCH2CH2NH3+は、5時間後に33%の収率でしか産物を与えず、開始物質であるZ-Phe-OBn(1)が41%の収率で回収された。M222CはS1ポケットとS1’ポケットとの間の境界線に位置するので、その修飾は、S1ポケット中の基質結合部位を除く活性部位において立体障害を引き起こすようである。
【表2】
【0072】
高収率はまた、WTおよびそれぞれのMEとともにアシル供与体としてZ-L-Ala-OBn(2)を使用して得られたが、5時間のより長い反応時間が必要とされた。1時間反応を行った後得られた収率は全て低く、全ての場合において開始物質が回収された。アシル供与体としてZ-L-Phe-OBn(1)を使用する場合と比較して、この場合のより長い反応時間の必要性は、S1サブサイト中の小さいP1置換基上に大きい疎水基を結合する基質にSBL-WTが好ましいことと矛盾しない。ここに引用されるGron et al.,Biochemistry,31:6011-6018(1992)。
【0073】
陰性に帯電したP1残基を有するZ-Glu-OMe(3)をアシル供与体として使用する場合、全ての場合において1時間後に穏やかな収率でしかZ-Glu-Gly-NH2(9)が得られなかった。アシル供与体Z-L-Ala-OBn(2)の反応と違い、反応時間を延ばすと、S166C-SCH2C6H5、-SCH2(p-COOH-C6H4)、および-SCH2CH2NH3+の場合において収率が改善された。5時間後触媒としてSBL-WTおよびS166C-SCH2C6F5を使用した収率は、1時間についてと実質的に同じであった。しかしながら、相補的に帯電したS1ポケットを有するS166C-SCH2CH2NH3+を使用して、定量的な収率でZ-L-Glu-Gly-NH2(9)を単離できた。触媒としてM222C- SCH2CH2NH3+を使用する場合には、SBL-WT触媒反応に関して収率の増加は観察されなかった。この反応は、5時間後にZ-L-Glu-Gly-NH2(9) を33%しか産生せず、さらに開始物質Z-L-Glu-OMe(3)を32%回収した。上述のように、M222残基は酵素のS1ポケット中の結合基質P1残基を抑制するようである。このことは、このMEを使用する場合の低い収率の原因である可能性があり、開始物質の回収と相関する。Z-L-Glu-Gly-NH2(9)はまた、触媒としてS166C-SCH2C6H5を使用して非常によい収率(96%)で得られる。
【0074】
帯電したMEである166C-SCH2(p-COOH-C6H4)を有する陽性に帯電したZ-L-Lys-SBn(4)アシル供与体の増加したターンオーバーが、最も良い結果である、99%のZ-L-Lys-Gly-NH2(10)という結果で観察された。また、93%という良い収率のZ-L-Lys-Gly-NH2(10)もまた、触媒としてS166C-SCH2C6H5を使用して観察された。これは、おそらくこの酵素の高いエステラーゼ/アミダーゼ比による。S166C-SCH2C6F5を使用する反応は、触媒としてWTを使用する反応より低い、71%の収率の産物しか与えなかった。WTに関してより高い収率は、修飾された酵素とLysの側鎖との間の電位静電反発にもかかわらず、S166C-SCH2CH2NH3+を使用しても得られる。
【0075】
Gly-NH2以外の他のアシル受容体を使用する選択されたMEの合成能力をさらに研究した。サブチリシンのS1’ポケットは小さく制限されているので、最も小さいα-分枝アミノ酸であるAla-NH2(6)はこのサブサイトを調べるために使用された(表3参照)。
【表3】
【0076】
全ての場合において、L-Ala-NH2(6)とZ-L-Phe-OBn(1)との反応は、Gly-NH2(5)とZ-L-Phe-OBn(1)との反応より遅かった。さらに、24時間後、Z-L-Phe-Ala-NH2(11)は、触媒としてWT、S166C-SCH2C6H5、-SCH2C6F5、および-SCH2(p-COOH-C6H4)を使用して穏やかな収率で(33-57%)得られた。しかしながら、Z-L-Phe-Ala-NH2(11)は、S166C-SCH2CH2NH3+の場合に88%の収率で得られた。S166C-SCH2CH2NH3+と違い、M222C-SCH2CH2NH3+の使用は、WTにより触媒される反応と比較してジペプチド産物の収率を改善しなかった;低い22%の収率のZ-L-Phe-Ala-NH2(11)しか得られなかった。これはおそらく、上述のようなP1基質を有する結合部位であるS1ポケットにおける、この残基の立体障害による。
【0077】
アシル供与体としてZ-L-Ala-OBn(2)またはZ-L-Glu-OMe(3)を使用した場合、使用された6つの酵素のうち5つについてL-Ala-NH2(6)との反応が観察されなかった。しかしながら、触媒としてS166C-SCH2CH2NH3+を使用した場合、ジペプチドZ-Ala-Ala-NH2(12)およびZ-Glu-Ala-NH2(13)はそれぞれ、16%および14%で産生された。これらの収率は低いが、WTを超えた劇的な改善が示された。
【0078】
相補的な静電相互作用が予測される場合である、陰性に帯電したMEであるS166C-SCH2(p-COOH-C6H4)の使用を含む、WTおよび全てのMEによるZ-L-Lys-SBn(4)およびL-Ala-NH2(6)の処理によって、反応は観察されなかった。
【0079】
これらの結果は、サブチリシンバチルスレンタスのS1’ポケットにおいてGlyよりもAlaが選択されるという以前の報告と対照を成す。ここに引用される、Gron et al.,Biochemistry,31:6011-6018(1992)。この選択性は、観察されなかった:アシル受容体としてグリシンアミド(5)を使用して得られた収率は全ての場合においてより高く、反応時間はアシル受容体としてアラニンアミド(6)を使用する場合(表3)と比較して、より短かった(表2)。
【0080】
D-アミノ酸ライゲーション
次に、SBLにより触媒されるペプチドライゲーションの用途の範囲を、ME方法論によりアシル供与体としてD-アミノ酸エステルであるZ-D-Phe-OBn、Z-D-Ala-OBn、Z-D-Glu-OMe、Z-D-Lys-OBn、およびAc-D-Phe-OBn(15-19)を含むまでに広げた(図6)が、これはSBL-WTによると不可能であった。結果は表4に示される。
【表4】
【0081】
正確な比較のために、先にライゲーションの実施例において調べた代表例のL-アミノ酸であるZ-L-Phe-OBn、Z-L-Ala-OBn、Z-L-Glu-OMe、およびZ-L-Lys-SBn(1-4)のD-イソメラーゼであるZ-D-Phe-OBn、Z-D-Ala-OBn、Z-D-Glu-OMe、Z-D-Lys-OBn、およびAc-D-Phe-OBn(15-19)を使用した。評価されたD-アミノ酸エステルはどれも触媒としてのWTによりジペプチド産物を与えなかったので、L-アミノ酸についてのSBL-WTの立体選択性は明確であった(表4)。全てのS166C-MEは、D-アミノ酸であるZ-D-Phe-Gly-NH2、Z-D-Ala-Gly-NH2、Z-D-Glu-Gly-NH2、Z-D-Lys-Gly-NH2、およびAc-D-Phe-Gly-NH2(20-24)を含有するジペプチド産物を産生した。これらの酵素はそれぞれL-アミノ酸に対する選択性を示しながら、WTについての0%を超えて、S166C-SCH2C6H5を使用して66%までのZ-D-Phe-Gly-NH2を産生し、D-アミノ酸のSBLの受容において劇的な改良を示した。
【0082】
アシル受容体としてZ-D-Ala-OBn(16)を使用して4つの全てのS166C-MEにより触媒された反応から、Z-D-Ala-Gly-NH2(21)の同様の収率が得られた。これにより、この残基における化学的修飾は、一般にS1ポケットの立体特異性を広げることが示された。
【0083】
アシル供与体としてZ-D-Glu-OMe(17)を使用する場合、全てのME触媒反応において低収率のジペプチドZ-D-Glu-Gly-NH2(22)しか得られなかった。最も高い収率である、10%のZ-D-Glu-Gly-NH2(22)は、S166C-SCH2CH2NH3+を使用して生じた。これはおそらく、S166C-SCH2CH2NH3+の側鎖とグルタミン酸アシル供与体の側鎖との間の相補的静電相互作用が原因である。対照的に、Z-L-Lys-SBnの反応において収率の大きな改良が観察された場合である、触媒としてS166C-SCH2(p-COOH-C6H4)を使用する場合を含む、全てのWTおよびME触媒反応についてZ-D-Lys-OBn(18)をアシル供与体として使用した場合に、産物は観察されなかった。
【0084】
アシル供与体としてのZ-D-Phe-OBn(15)は評価されたMEのそれぞれにより35-66%の産物およびWTにより0%の収率を与え、さらにアシル供与体Ac-D-Phe-OBn(19)中のアセチル基によるZ-D-Phe-OBn(15)のカルボベンゾキシ(Z)基の置換により低収率が生じた(表4)ので、Z-D-Phe-OBn(15)中のカルボベンゾキシ基は、図7に示されるようにS1ポケット中の結合を支配すると考えられ、これはAc-D-Phe-OBn(19)中で観察されない工程である。
【0085】
産生されたジペプチド
Z-Phe-Gly-NH2(7)(ここに引用される、Moree et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:3942-3947(1997)and Morihara et al.,Biochem.J.,163:531-542(1997)):1H NMR(CDCl3)δ3.10(m,2H,CH2ph),3.85(2×d,J=2,5Hz,2H,NHCH2CO),4.40(m,1H,NHCHCO),5.05(s,2H,OCH2Ph),5.50,5.70,6.25,6.90(4×brs,4H,NH),7.20-7.40(m,10H,2×Ph);13C NMR(CDCl3)δ38.2,42.7,56.6,67.3,127.2,128.1,128.3,128.6,128.8,129.2,135.8,136.0,156.3,171.2,171.6。HRMS(FAB+)MH+ calcd 356.1610,found 356.1613。[α]30D=−4.3(c0.81,MeOH)。
【0086】
Z-Ala-Gly-NH2(8)(ここに引用される、Bodanszky et al.,Int.J.Peptide Protein Res.,26:550-556(1985)):1H NMR(CDCl3)δ1.40(d,J=7Hz,3H,CH3),3.85(dd,J=1.7,5Hz,2H,NCH2CO),4.20(m,1H,NHCHCO),5.10(dd,J=1.6,2Hz,2H,OCH2Ph),5.80,6.60,7.20(3×brs,4H,NH),7.30-7.40(m,5H,Ph);13C NMR(CDCl3)δ17.7,42.2,50.6,66.2,127.6,128.0,136.0,155.9,171.3,172.8。HRMS(FAB+)MH+calcd 280.1297,found 280.1310。[α]26D=−8.44(c0.97,MeOH);lit。[α]23D=−8.5(c2,MeOH)。
【0087】
Z-Glu-Gly-NH2(9)(ここに引用される、Schon et al.,Int.J.Peptide Protein Res.,22:92-109(1983)):1H NMR(DMSO-d6)δ1.75-1.95(m,2H,CH2CH2COOH),2.30(m,2H,CH2CH2COOH),3.65(dd,J=0.5,1.7Hz,2H,NHCH2CO),4.10(m,1H,NHCHCO),5.00(s,2H,OCH2Ph),7.20-7.40(m,5H,Ph),12.40(brs,1H,COOH);13C NMR(DMSO-d6)δ27.2,30.3,41.9,54.2,65.6,128.4,128.5,128.7,128.8,136.9,156.2,170.8,171.7,174.0HRMS(FAB+)MH+calcd338.1352,found 338.1332。[α]28D=−10.2(c 1.16,MeOH);lit。[α]25D=−10.2(c 1.0,MeOH)。
【0088】
Z-L-Lys-Gly-NH2(10):1H NMR(DMSO-d6)δ1.50(m,2H,CH2(CH2)3NH2),1.60-1.85(m,4H,CH2CH2CH2CH2NH2),2.00-2.18(m,2H,(CH2) 3CH2NH2)3.30(m,2H,NHCH2CO),4.40(m,1H,NHCHCO),5.10(s,2H,OCH2Ph),6.05,6.20(2×brs,2H,NH),7.20-7.40(m,5H,Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ28.1,29.0,32.2,42.3,45.9,53.8,66.7,128.1,128.6,136.7,155.6,172.2,175.3。HRMS(FAB+)MH+calcd 337.1876,found 337.1842。[α]28D=+6.97(c0.55,MeOH)。
【0089】
Z-L-Phe-L-Ala-NH2(11)(ここに引用される、Morihara et al.,Biochem.J.,163:531-542(1997)and Brubacher et al.,Can J.Biochem.,57:1054-1072(1979)):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(d,J=7Hz,3H,CH3),2.90(m,2H,CH2Ph),4.30(m,2H,2×NHCHCO),4.90(s,2H,OCH2Ph),5.75,6.10,6.45(3×brs,4H,NH),6.90-7.40(m,10H,2×Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ18.5,37,4,48.1,56.2,66.2,126.3,127.4,127.7,128.1,128.3,129.2,137.1,138.2,155.9,171.2,174.1。HRMS(FAB+)MH+calcd 370.1766,found 370.1753。[α]29D=−8.86(c0.57,MeOH)。
【0090】
Z-L-Ala-L-Ala-NH2(12)(ここに引用される、Katakai et al.,Macromolecules,6:827-831(1973)):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(2×d,J=7Hz,6H,2×CH3),4.10,4.20(m,2H,2×NHCHCO),5.00(s,2H,OCH2Ph),7.20-7.40(m,5H,Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ18.1,18.4,47.9,50.1,65.4,127.7,128.4,137.0,155.8,172.0,174.1。HRMS(FAB+)MH+calcd 294.1454 found 294.1457。[α]25D=−20.4(c0.77,MeOH)。
【0091】
Z-L-Glu-L-Ala-NH2(13):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(d,J=7Hz,3H,CH3),1.82-2.00(m,2H,CH2CH2COOH),2.30(m,2H,CH2CH2COOH),4.00,4.20(m,2H,2×NHCHCO),5.00(s,2H,OCH2Ph),6.20-7.40(m,5H,Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ18.4,26.2,30.2,47.9,53.1,65.4,126.5,127.7,127.8,128.1,128.4,137.0,156.2,173.6,173.8,174.1。HRMS(FAB+)MH+calcd 352.1509,found 352.1478。[α]25D=−16.7(c0.76,MeOH)。
【0092】
Z-D-Phe-Gly-NH2(20):1H and 13C NMRデータは(7)と同一である。HRMS(FAB+)MH+calcd 356.1610 found 356.1608;[α]30D=+4.12(c 1.17,MeOH)。
【0093】
Z-D-Ala-Gly-NH2 (21)(ここに引用される、Richman et al.,Int.Peptide Protein Res.,25:648-662(1985)):1Hおよび13C NMRデータは(8)と同一である。HRMS(FAB+)MH+calcd 280.1297 found 280.1298;[α]27D+10.5(c0.72,MeOH);lit。[α]D=+10.5。
【0094】
Z-D-Glu-Gly-NH2 (22): 1Hおよび13C NMRデータは(9)と同一である。HRMS(FAB+)MH+calcd 338.1352 found 338.1348;[α]28D+10.77(c 1,MeOH)。
【0095】
Ac-D-Phe-Gly-NH2(24)(ここに引用される、Thompson et al.,J.Med.Chem.,29:104-111(1986)):1H NMR(DMSO-d6)δ1.90(S,3H,CH3),3.05(m,2H,NHCH2CO),3.65(2×d,J=7,15Hz,2H,CHCH2Ph),4.40(q,J=7Hz,1H NHCHCO),7.15-7.25(m,5H,Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ22.4,29.1,45.9,54.7,126.1,127.9,128.9,137.3,155.2,171.2,171.5。HRMS(FAB+)MH+calcd 264.1348 found 264.1321。[α]30D=−4.38(c 0.80,MeOH)。
【実施例5】
【0096】
オキサゾリジノン、陽性電荷を有するアルキルアミノ基、およびサッカリドのような極性置換基により化学的に修飾された突然変異体酵素を使用するペプチド合成
一般的方法
1Hおよび13C NMRスペクトルを、内標準としてDMSO-d6を使用して、Varian Unity(1Hに対して400MHzおよび13Cに対して100MHz)上で測定した。Micromass ZAB-SE(FAB+)を使用して高解像度質量スペクトル(“HRMS”)を記録した。旋光度をPerkin-Elmer 243B偏光計により測定した。分析TLCに、ALUGRAM(登録商標)SIL G/UV254 Art.-Nr.818 133(Macherey-Nagel GmbH & Co.,Duren,Germany)を使用した。調製したTLCを、予め被覆されたシリカゲルプレートArt.5744(Merck,Gibbstown,NJ)上で行い、紫外線により視覚化した。WT-サブチリシンバチルスレンタスおよび突然変異体酵素を、ここに引用されるStabile et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2501-2506(1996)およびDeSantis et al.,Biochemistry,37:5698-5973(1998)に報告されているように、および実施例1に記載されているように精製し、調製した。保護された酸をSigma-Aldrich Inc.(Milwaukee,WI)またはBachem Inc.(Torrance,CA)から購入し、そのまま使用した。全ての溶媒は試薬グレードであり使用前に精製した。
【0097】
ペプチドライゲーションのための一般的方法
塩酸グリシンアミド(31,17mg,0.15mmol)およびEt3N(0.15mmol,0.0625mL)をDMF(0.25mL)および水(0.144mL)中のZ-L-Phe-OBn(25,19.2mg,0.05mmol)の溶液に加え、続いてS166C-S-inden-oxaz(S,R)(ME-n,0.106mL,1mMのCaCl2を含む10mMのME緩衝剤(pH5.8)中0.5mgの活性酵素)を加えた。反応物を室温で1時間攪拌した。混合物をAcOEtで希釈し、1MのKHSO4(1mL×1)およびブライン(1mL×1)で洗浄し、有機層をMgSO4で乾燥させた。蒸発の後、残基を調製したTLC(CH2Cl2/MeOH=90/10)により精製してZ-L-Phe-Gly-NH2(33,17.8mgの量)を産生した。
【0098】
他の酵素を使用して他の基質のペプチドライゲーションを、反応時間を除き同じ方法に従って行った。アシル供与体としてD-アミノ酸を使用する場合には、24時間後に反応容器に0.5mg多く活性酵素を加え、その後混合物をさらに24時間攪拌した。
【0099】
L-アミノ酸のペプチドライゲーション
まず、L-アミノ酸であるZ-L-Phe-OBn(25)、Z-L-Ala-OBn(26)、およびZ-L-Glu-OMe(27)とグリシンアミド(31)との結合反応を、標準反応として調べた(図1および図8、表5参照)。
【表5】
【0100】
反応を、50%のDMFを含有する水溶液中でEt3Nを有する活性酵素を0.5mgを使用して行った。酵素の活性を、フェニルメタンスルホニルフッ化物(PMSF)を使用する滴定により測定した。ここに引用されるHsia et al.,Anal.Biochem.,242:221-227(1996)。全ての場合において、反応は円滑に進み、高い収率で対応するジペプチドを産生した。これらの結果により、これらの置換基によるS166C部位の修飾は、ペプチド結合においてL-アミノ酸を受容する実質的な能力に影響を及ぼさないことが示された。
【0101】
D-アミノ酸のペプチドライゲーション
次に、アシル供与体としてのD-アミノ酸である、Z-D-Phe-OBn(28)、Z-D-Ala-OBn(29)、およびZ-D-Glu-OMe(30)とZ-L-Phe-OBn(1)との結合反応にMEの使用を拡張することを調べた。WT酵素はアシル供与体としてD-アミノ酸を受容しなかったが、全てのMEは、D-アミノ酸とZ-L-Phe-OBn(1)との結合に触媒作用を及ぼすことが可能であった。全ての場合においてZ-D-Phe-OBn(28)の反応は遅く、低収率(最高は、M-nの使用による14%)のZ-D-Phe-Gly-NH2(39)を与えたが、Z-D-Ala-OBn(29)またはZ-D-Glu-OMe(30)とGly-NH2(31)とのペプチド結合は、基質を残さずに進んだ。Z-D-Ala-OBn(29)の場合にME-kおよび-mを使用しZ-D-Glu-OBn(30)の場合にME-oを使用したことにより、非常に高い収率でそれぞれZ-D-Ala-Gly-NH2(37,86%)およびZ-D-Glu-Gly-NH2(38,74%)が与えられたことは、注目すべきことである。おそらくCMMsは、L-アミノ酸と異なる方法でD-アミノ酸を認識した、すなわち、α−位置のカルボキシベンゾキシ基はS1ポケットに結合すると考えられる。他方、3種類の基質のうち最大の置換基を有するZ-D-Phe-OBn(28)のフェニルメチル基とMEの活性部位のポケット中の他の部分との間の相反により、低反応性のZ-D-Phe-OBn(28)が生じた。
【0102】
S1’ポケットが小さいにもかかわらず、全ての選択されたMEはまた、L-アミノ酸とα−分枝アシル受容体であるL-アラニンアミド(32)との結合にも利用可能であった。WT酵素は、Z-L-Phe-OBn(25)をアシル供与体とする場合のみアシル受容体としてL-アラニンアミド(32)を受容することができたが、MEはまた、Z-L-Phe-OBn(25)だけでなくZ-L-Ala-OBn(26)およびZ-L-Glu-OMe(27)の場合も反応に触媒作用を及ぼし、それぞれ対応するジペプチドであるZ-L-Phe-L-Ala-NH2(39)、Z-L-Ala-L-Ala-NH2(40)、およびZ-L-Glu-L-Ala-NH2(41)を産生した。Z-L-Ala-OBn(26)の場合には、エステルの主要な競合的加水分解が観察された(最高はME-mの使用による21%であった)。これらの結果により、WTの特異性の劇的な改良が示された。Z-L-Glu-OMe(27)とAla-NH2(32)との結合の収率は、アシル受容体としてGly-NH2(31)を使用したものと同様であり、ME-jの使用により最高の結果が与えられた(64%)。理論に縛られたくないが、Z-L-Glu-OMe(27)のカルボキシル基とMEのS166C部位の側鎖との間の強い相互作用により、水により容易に破壊されないより安定なES複合体が提供され、従ってZ-L-Glu-L-Ala-NH2(41)が高い収率で得られることが考えられる。
【0103】
産生されたジペプチド
Z-L-Phe-Gly-NH2(33):1H NMR(DMSO-d6)δ2.74(dd,J=11.0,14.0Hz,1H,CH2Ph),3.04(dd,J=4.0,14.0Hz,1H,CH2Ph),3.59-3.72(m,2H,NHCH2CO),4.21-4.35(m,1H,NHCHCO),4.93(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph),4.94(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph)7.12(brs,2H,NH),7.16-7.38(m,5H,Ph),7.60(d,J=8.5Hz,1H,NH),8.27(t,J=5.5Hz,1H,NH);13C NMR(DMSO-d6)δ37.3,42.0,56.3,65.3,126.3,127.5,127.8,128.1,128.4,129.3,137.0,138.2,156.0,170.8,171.8;HRMS(FAB+)calcd for C19H22N3O4(M+H)+356.1610,found 356.1639;[α]21D=−3.94(c1.04,MeOH)。
【0104】
Z-L-Ala-Gly-NH2(34):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(d,J=7.0Hz,3H,CH3),3.60(dd,J=5.5,16.0Hz,1H,CH2NH),3.62(dd,J=5.5,16.0Hz,1H,CH2NH),4.03(dq,J=7.0,7.0Hz,1H,CH3CHNH),5.00(d,J=12.5Hz,1H,OCH3Ph),5.03(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph),7.11(brs,1H,NH2),7.27-7.42(m,5H,Ph),7.57(d,J=7.0Hz,1H,NH),8.11(t,J=5.5Hz,1H,NH);13C NMR(DMSO-d6)δ17.9,42.0,50.3,65.5,127.85,127.89,128.4,136.9,155.9,170.9,172.7;HRMS(FAB+)calcd for C13H18N3O4(M+H)+280.1297,found 280.1307;[α]25D=−8.44(c0.64,MeOH)。
【0105】
Z-L-Glu-Gly-NH2(35):1H NMR(DMSO-d6)δ1.66-1.79(m,1H,CH2CH2COOH),1.83-1.95(m,1H,CH2CH2COOH),2.26(t,J=7.5Hz,2H,CH2COOH),3.62(d,J=5.5Hz,2H,NHCH2CO),3.95-4.05(m,1H,NHCHCO),5.01(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph), 5.03(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph),7.07(brs,1H,NH), 7.20(brs,1H,NH),7.25-7.40(m,5H,Ph),7.55(d,J=7.5Hz,1H,NH),8.11(t,J=5.5Hz,1H,NH);12.20(brs,1H,COOH);13C NMR(DMSO-d6)δ27.0,30.2,41.9,54.1,65.6,127.8,127.9,128.4,136.9,156.2,170.8,171.7,174.0;HRMS(FAB+)calcd for C15H20N3O6(M+H)+338.1352,found 338.1364;[α]25D=−9.28(c 0.69,MeOH)。
【0106】
Z-D-Phe-Gly-NH2(36):HRMS calcd for C19H22N3O4(M+H)+ 356.1610 ,found 356.1592;[α]21D=+3.42(c 1.17,MeOH)。
【0107】
Z-D-Ala-Gly-NH2(37):HRMS calcd for C13H18N3O4(M+H)+280.1297 found 280.1303;[α]24D+8.49(c0.86,MeOH)。
【0108】
Z-D-Glu-Gly-NH2(38):HRMS calcd for C15H20N3O6(M+H)+338.1352 found 338.1353;[α]24D+9.07(c 1.08,MeOH)。
【0109】
Z-L-Phe-L-Ala-NH2(39):1H NMR(DMSO-d6)δ1.22(d,J=7.0Hz,3H,CH3),2.71(dd,J=13.5,13.5Hz,1H,CH2Ph),3.03(dd,J=3.5,13.5Hz,1H,CH2Ph),4.18-4.31(m,2H,NHCHCO×2),4.93(s,2H,OCH2Ph),7.04(brs,1H,NH),7.14-7.22(m,1H,NH),7.55(d,J=8.5Hz,1H,NH),8.08(d,J=7.5Hz,1H,NH);13C NMR(DMSO-d6)δ18.5,37,4,48.1,56.2,65.2,126.3,127.4,127.7,128.1,128.4,129.3,137.1,138.2,155.9,171.1,174.1;HRMS(FAB+) calcd for C20H24N3O4(M+H)+ 370.1767,found 370.1769;[α]24D=−8.86(c0.44,MeOH)。
【0110】
Z-L-Ala-L-Ala-NH2(40):1H NMR(DMSO-d6)δ1.19(d,J=7.0Hz,3H,CH3),1.24(d,J=7.5Hz,3H,CH3),3.90-4.26(m,2H,NHCHCO×2),5.01(s,2H,CH2OPh),7.02(brs,1H,NH),7.13(brs,1H,NH), 7.25-7.45(m,5H,Ph)7.51(d,J=6.5Hz,1H,NH),7.88(d,J=7.5Hz,1H,NH);13C NMR(DMSO-d6)δ18.1,18.5,47.9,50.2,65.4,127.78,127.84,128.4,137.1,155.8,172.0,174.2;HRMS(FAB+)calcd for C14H20N3O4(M+H)+294.1454 ,found 294.1457;[α]21D=−20.4(c0.77,MeOH)。
【0111】
Z-L-Glu-L-Ala-NH2(41):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(d,J=8.0Hz,3H,CH3),1.68-1.82(m,1H,CH2CH2COOH),1.82-2.03(m,1H,CH2CH2COOH),2.21-2.40(m,2H, CH2CH2COOH),3.93-4.25(m,2H,NHCHCO×2),5.02(s,2H,OCH2Ph),7.02(brs,1H,NH),7.18-7.46(m,5H,Ph),7.54(dd,J=7.5,24.0Hz,2H,NH2),7.92(d,J=7.5Hz,1H,NH),12.40(brs,1H,COOH);13C NMR(DMSO-d6)δ18.4,26.2,30.3,48.0,53.1,65.4,127.0,127.7,127.8,127.9,128.4,129.3,137.0,156.2,173.7,173.8,174.1;HRMS(FAB+)calcd for C16H22N3O6(M+H)+ 352.1509,found 352.1502;[α]25D=−16.7(c0.76,MeOH)。
【0112】
本発明は説明のために詳細に記載されてきたが、そのような詳細な記載は単に説明のためであり、請求の範囲に定義される本発明の意図および範囲から離れずに変更できることは当業者にとって自明であることが理解される。
【技術分野】
【0001】
本出願は、ここに引用される、1998年1月23日に出願された米国仮特許出願第60/072,351号、および1998年1月23日に出願された米国仮特許出願第60/072,265号に優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
部位定方向突然変異誘発による酵素特性の修飾は、制限を克服するための分子生物学的方法が最近得られた(Cornish et al.,Angew.Chem.,Int.Ed.Engl.,34:621-633(1995))とはいえ、天然アミノ酸の置換に限られてきた。しかしながら、最近の方法はたいていの実験室では行うのが難しい。対照的に、酵素のコントロールされた化学的修飾は、酵素構造の容易で柔軟な修飾のために広い可能性を提供し、それにより酵素特異性のコントロールされた調整のために広い可能性を開く。
【0003】
化学的修飾による酵素特性の変化は、サブチリシンBPNの活性部位セリン残基をシステインに化学的に形質転換(CH2OH→CH2SH)することによりチオールサブチリシンを産生したBender(Polgar et al.,J.Am.Chem.Soc.,88:3153-3514(1996))およびKoshland(Neet et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,56:1606-1611(1966))のグループにより1966年にされた最初の報告とともに、以前に広がった。Wu(Wu et al.,J.Am.Chem.Soc.,111:4514-4515(1989);Bell et al.,Biochemistry,32:3754-3762(1993))およびPeterson(Peterson et al.,Biochemistry,34:6616-6620(1995))、およびより最近は、Suckling(Suckling et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,3:531-534(1993))により、合成の可能性を有するものを含む、化学的に産生された人工酵素への関心が復活した。
【0004】
酵素は現在では、有機物の合成において有用な触媒として広く認識されている。しかしながら、天然の、野生型の酵素は、合成化学的に関心がもたれる全ての構造を取ると期待することはできず、また合成に必要な所望の鏡像異性的に純粋な物質に立体特異的に形質転換することは常にはできない。酵素の合成適用可能性におけるこの潜在的な制限がこれまで認識され、タンパク質工学の部位定方向およびランダム突然変異誘発技術を使用するコントロールされた方法で酵素の特異性を変化させることにおいて進歩がなされた。しかしながら、タンパク質工学による酵素特性の修飾は、天然アミノ酸の置換に制限され、この制限を克服するために案出された分子生物学的方法は、ごく普通の用途またはラージスケールの合成に容易に従わない。酵素の化学的修飾により得られる新しい特異性または活性の産生は、長年化学者の興味をそそってきたしこれからもそうであろう。
【0005】
Bech et al.の米国特許第5,208,158号(“Bech”)には、1つ以上のメチオニンがシステインに突然変異されている化学的に修飾された洗剤酵素が記載されている。その後システインを修飾して、酸化剤に対して改良された安定性を酵素に与える。請求された化学的修飾は、C1-6アルキルによるチオール水素の置換である。
【0006】
Bechには、突然変異誘発および化学的修飾による酵素の酸化的安定性の変化が記載されているが、例えば洗剤または有機物合成において使用するための、活性、球核特異性、基質特異性、立体選択性、熱安定性、pH活性特性、および表面結合特性のような特性が変化した1つ以上の酵素を開発することもまた所望である。特に、サブチリシンのようにペプチド合成のために作成された酵素が所望である。ペプチド合成に有用な酵素は、高エステラーゼおよび低アミダーゼ活性を有する。通常、サブチリシンはこれらの必要条件を満たさず、サブチリシンのエステラーゼ対アミダーゼの選択性の改良が所望である。しかしながら、アミダーゼ活性を低下させることによりペプチド合成のための酵素を作成する以前の試みは、通常、エステラーゼおよびアミダーゼ活性の両方を劇的に減少させることとなった。アミダーゼ活性を低下させるための以前の方法には、水混和性の有機溶媒 (Barbas et al.J.Am.Chem.Soc.,110:5162-5166(1988);Wong et al.,J.Am.Chem.Soc.,112:945-953(1990);and Sears et al.,Biotechnol.Prog.,12:423-433(1996))および部位定方向突然変異誘発(Abrahamsen et al.,Biochemistry,30:4151-4159(1991);Bonneau et al.,J.Am.Chem.Soc.,113:1026-1030(1991); and Graycar et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,67:71-79(1992))の使用が含まれる。しかしながら、エステラーゼ対アミダーゼ活性の割合がこれらの方法により改良されると同時に、絶対的なエステラーゼ活性が低下した。Abrahamsen et al.,Biochemistry,30:4151-4159(1991)。非天然アミノ酸成分の取込みを可能にする化学的修飾技術(Neet et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.,56:1606(1966);Polgar et al.,J.Am.Chem.Soc.,88:3153-3154(1966);Wu et al.,J.Am.Chem.Soc.,111:4514-4515(1989); and West et al.,J.Am.Chem.Soc.,112:5313-5320(1990))もまた、サブチリシンのエステラーゼ対アミダーゼの選択性の改良に使用されてきた。例えば、サブチリシンの触媒三構造セリン(Ser221)のシステインへの化学的変換(Neet et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.,56:1606(1996);Polgar et al.,J.Am.Chem.Soc.,88:3153-3154(1996);and Nakatsuka et al.,J.Am.Chem.Soc.,109:3808-3810(1987))またはセレノシステインへの化学的変換(Wu et al.,J.Am.Chem.Soc.,111:4514-4515(1989))、およびキモトリプシンの触媒三構造ヒスチジン(His57)のメチル化(West et al.,J.Am.Chem.Soc.,112:5313-5320(1990))は、エステラーゼ対アミダーゼの選択性に実質的な改良をもたらした。しかしながらあいにく、これらの修飾もまた、絶対的なエステラーゼ活性の50倍から1000倍までの減少を伴った。
【0007】
本発明は、これらの欠点の克服を目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,208,158号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換されており、該システイン残基が、修飾された酵素を形成するためにシステイン残基の少なくともいくつかの中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されている、修飾酵素に関する。修飾された酵素は、高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する。本発明はまた、ペプチド合成における修飾された酵素の使用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様は、酵素からの1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基の少なくともいくつかが、修飾された酵素を形成するためにシステイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されており、該修飾された酵素が高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有することを特徴とする修飾酵素に関する。
【0011】
本発明の別の態様は、修飾された酵素を産生する方法に関する。この方法は、酵素中の1つ以上のアミノ酸がシステイン残基で置換されている酵素を提供し、修飾された酵素を形成するためにシステイン残基の少なくともいくつかの中のチオール水素をチオール側鎖で置換する、各工程を含む。修飾された酵素は、高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する。
【0012】
本発明はまた、ペプチド合成の方法に関する。この方法は、酵素中の1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基の少なくともいくつかが、システイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されており、該修飾された酵素が高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を示す修飾酵素を提供する工程を含む。その後アシル供与対、アシル受容体、および修飾された酵素を、ペプチド産物の産生に有効な条件下で化合する。
【0013】
本発明の修飾された酵素は、タンパク質中への非天然アミノ酸の導入について部位定方向突然変異誘発および化学的修飾に代わるものを提供する。さらに、これらの修飾された酵素は、野生型酵素と比較してエステラーゼ対アミダーゼの割合が増加した結果として、より有効にペプチド合成に触媒作用を及ぼす。さらに、本発明の修飾された酵素は、アシル供与対としてD-アミノ酸エステルをペプチド合成に、およびアシル受容体としてα-分枝アミドをペプチド合成に組み込んで、野生型(“WT”)酵素では産生できない様々のジペプチドを産生できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】酵素により触媒されるペプチド結合を示す図
【図2】サブチリシンバチルスレンタス(Bacillus lentus)突然変異体の化学的修飾を示す図
【図3A】エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示すグラフ
【図3B】エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示すグラフ
【図3C】エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示すグラフ
【図3D】エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示すグラフ
【図4】sucAAPF(太い黒線)が結合されているサブチリシンバチルスレンタスの活性部位を示す図
【図5】サブチリシンバチルスレンタス修飾された酵素を使用するL-アミノ酸のペプチドライゲーションを示す図
【図6】サブチリシンバチルスレンタス修飾された酵素を使用するD-アミノ酸のペプチドライゲーションを示す図
【図7】サブチリシンバチルスレンタスを有するZ-D-Phe-OBnのZ-保護基の考えられる結合を示す図
【図8】サブチリシンバチルスレンタスのS166C突然変異体の化学的修飾を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、酵素により触媒されるペプチド結合を示す。
【0016】
図2は、化学的に修飾された突然変異体酵素を産生するためのサブチリシンバチルスレンタス(Bacillus lentus)突然変異体の化学的修飾を示す。
【0017】
図3は、エステラーゼ対アミダーゼ活性について一定のkcat/KMの割合を示す。エステラーゼおよびアミダーゼ活性は、それぞれ、スクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン−チオベンジルエステル(“suc-AAPF-SBn”)およびスクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン−パラ−ニトロアナリド(“suc-AAPF-pNA”)基質で測定した。全ての化学的に修飾された突然変異体は、酵素-CH2-S-Rの構造を有し、調査した様々のR基の構造が示されている。N62Cファミリーにおいては、中間の長さの直鎖アルキル基はヘキシル(c)であり、L217Cファミリーにおいては、ペンチル(d)であった;n.d.=測定されなかった。比較のために、WT酵素についての割合は17であった。
【0018】
図4は、sucAAPF(太い黒線)が結合されているサブチリシンバチルスレンタスの活性部位を示す。調査した触媒性の三連構造および4つの活性部位残基が示されている。残基62はS2 ポケットの一部であり、残基217はS1’(遊離基)ポケットの開口部にあり、残基166はS1ポケットの底部にあり、残基222はS1ポケットとS1’ポケットとの間にある。
【0019】
図5は、サブチリシンバチルスレンタス修飾された酵素を使用するL-アミノ酸のペプチドライゲーションを示す。
【0020】
図6は、サブチリシンバチルスレンタス修飾された酵素を使用するD-アミノ酸のペプチドライゲーションを示す。
【0021】
図7は、サブチリシンバチルスレンタスを有するZ-D-Phe-OBnのZ-保護基の考えられる結合を示す。大きい疎水性カルボベンゾキシ保護(Z)基は、D-フェニルアラニン側鎖の代わりにS1ポケット中で結合している。
【0022】
図8は、修飾された酵素を産生するためのサブチリシンバチルスレンタスのS166C突然変異体の化学的修飾を示す。
【0023】
本発明は、酵素からの1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基の少なくともいくつかが、修飾された酵素を形成するためにシステイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されている、修飾酵素に関する。修飾された酵素は、高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する。
【0024】
好ましくは、酵素はプロテアーゼである。より好ましくは、酵素はバチルスサブチリシンである。サブチリシンは、生体触媒作用、特にキラルの分解能、多機能化合物の部位選択性アシル化、ペプチド結合、およびグリコペプチド合成における使用が増加しているアルカリ性セリンプロテアーゼである。後者の2つの使用方法は、部位定方向突然変異誘発および非天然アミノ酸をタンパク質中へ導入する化学的修飾を提供するので、特に関心がもたれている。図1に示されるように、サブチリシンは、次いで第一アミンと反応してペプチド産物を形成するアシル酵素中間体を最初に形成することにより、エステル基質から始まるペプチド結合形態に触媒作用を及ぼすことができる。従って、この用途には、アシル酵素形態を促進するためには高エステラーゼ活性が、所望の産物のペプチド結合の加水分解を最小にするためには低アミダーゼ活性が必要である。通常、サブチリシンはこれらの必要条件を満たさず、サブチリシンのエステラーゼ対アミダーゼの選択性の改良が長い間求められてきた。
【0025】
また、好ましくは、システインにより酵素中で置換されたアミノ酸は、アスパラギン、ロイシン、メチオニン、またはセリンからなる群より選択される。より好ましくは、置換されるアミノ酸は、酵素のサブサイト(subsite)、好ましくはS1、S1’、またはS2サブサイト中に位置する。最も好ましくは、置換されるアミノ酸は、N62、L217、M222、およびS166であり、番号のついた位置は、バチルスアミロリクエファシエンス(amyloliquefaciens)からの天然発生サブチリシンまたはバチルスレンタスサブチリシンのような他のサブチリシン中の等価アミノ酸残基に対応する。
【0026】
特に好ましい実施の形態において、酵素はバチルスレンタスサブチリシンである。別の特に好ましい実施の形態において、システインにより置換されるアミノ酸はN62、L217、S166、またはM222であり、チオール側鎖基は、
-SCH3;
-SCH2CH3;
-SCH2CH(CH3)2;
-S(CH2)4CH3;
-S(CH2)5CH3;
-S(CH2)9CH3;
-SCH2C6H5;
-SCH2CH2NH3+;および
-SCH2CH2SO3−
からなる群より選択される、または
システインにより置換されるアミノ酸はS166またはM222であり、チオール側鎖基は、
-SCH2C6H5;
-SCH2(p-COOH-C6H4);
-SCH2C6F5;および
-SCH2CH2NH3+
からなる群より選択される。
【0027】
好ましくは、本発明の修飾された酵素は、約3.5s-1mM-1から約1110000s-1mM-1までのエステラーゼ活性および約0.056s-1mM-1から約35500s-1mM-1までのアミダーゼ活性を有する。最も好ましくは、本発明の修飾された酵素は、約350s-1mM-1から約11100s-1mM-1までのエステラーゼ活性および約5.6s-1mM-1から約355s-1mM-1までのアミダーゼ活性を有する。
【0028】
「修飾された酵素」とは、アスパラギン、セリン、メチオニン、またはロイシンのようなアミノ酸残基をシステイン残基により置換し、次いで少なくともいくつかの該システインのチオール水素をチオール側鎖(例えば、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)、および-SCH2C6F5)により置換することによって変化された酵素である。修飾の後、酵素の特性、すなわち活性または基質特異性が変化され得る。好ましくは、酵素の活性が増加される。
【0029】
「酵素」という用語には、自分自身は変化されずに他の基質中の化学的変化に触媒作用を及ぼすことができるタンパク質が含まれる。酵素は、野生型酵素または突然変異酵素でもよい。本発明の範囲内の酵素には、プルラナーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、イソメラーゼ、リパーゼ、オキシダーゼ、およびレダクターゼが含まれる。酵素は、野生型または突然変異体プロテアーゼでもよい。野生型プロテアーゼは、例えばバチルスレンタスまたはバチルスアミロリクエファシエンスから単離されてもよい(BPN’とも称される)。突然変異体プロテアーゼは、例えば、ここに引用される国際特許出願公開第95/10615号および同第91/06637号により作成できる。
【0030】
様々の種類の成分を、システイン残基のチオール水素を置換するために使用できる。これらには、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)、および-SCH2C6F5が含まれる。
【0031】
「チオール側鎖基」、「チオール含有基」、および「チオール側鎖」という用語は、互いに交換して使用できる用語であり、酵素中のアミノ酸の1つを置換するのに使用されるシステインのチオール水素を置換するために使用される基を含む。通常、チオール側鎖基には、上述で定義されたチオール側鎖基がシステインのチオール硫黄に付加される際の硫黄が含まれる。
【0032】
酵素の結合部位は、酵素の表面を横切る一連のサブサイトからなる。サブサイトに対応する基質残基は標識されたPであり、サブサイトは標識されたSである。慣例より、サブサイトは標識されたS1、S2、S3、S4、S1’およびS2’である。サブサイトについては、ここに引用されるSiezen et al.,Protein Engineering,4:719-737(1991)およびFersht,EnzyMEtructure and Mechanism,2 ed.,Freeman:New York,29-30(1985)に見ることができる。好ましいサブサイトは、S1、S1’およびS2である。
【0033】
本発明の別の態様は、修飾された酵素を産生する方法に関する。この方法は、酵素中の1つ以上のアミノ酸がシステイン残基により置換されている酵素を提供し、少なくともいくつかの該システイン残基中のチオール水素をチオール側鎖により置換して修飾された酵素を形成する、各工程を含む。修飾された酵素は、高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する。
【0034】
本発明のアミノ酸残基は、部位定方向突然変異誘発法または当該技術においてよく知られる他の方法を使用して、システイン残基により置換できる。例えば、ここに引用される国際特許出願公開第95/10615号参照。システイン残基のチオール水素を修飾する1つの方法は、実施例に示されている。
【0035】
本発明はまた、ペプチド合成の方法に関する。この方法は、酵素中の1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基の少なくともいくつかが、システイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されており、該修飾された酵素が高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を示す修飾酵素を提供する工程を含む。アシル供与体、アシル受容体、および修飾された酵素を、ペプチド産物の産生に有効な条件下で化合する。
【0036】
酵素によるペプチド結合は、様々のペプチドの調製に魅力のある方法である、なぜならこの方法は、基質の保護を最小限しか必要とせず、穏やかな条件下で進行し、ラセミ化を引き起こさないからである。ここに引用される、Wong et al.,EnzyME in Synthetic Organic Chemistry,Pergamon Press:Oxford,41-130(1994)。これらの利点にもかかわらず、2つの重大な問題が、ペプチド合成におけるセリンプロテアーゼの使用を制限してきた。1つは、結合産物の加水分解を引き起こす有効なタンパク分解(アミダーゼ)活性であり、もう1つはストリンジェントな構造特異性および立体特異性である。
【0037】
本発明の修飾された酵素は、前駆体酵素と比較してエステラーゼ対アミダーゼ活性を変化させた。エステラーゼ対アミダーゼの割合を増加することにより、酵素を使用してより有効にペプチド合成に触媒作用を及ぼすことができる。特に、サブチリシンは、図1に示されるように、次いで第一アミン(すなわちアシル受容体)と反応してペプチド産物を形成するアシル酵素中間体を最初に形成することにより、エステル基質(すなわちアシル供与体)から始まるペプチド結合形態に触媒作用を及ぼすことができる。従って、この反応には、アシル酵素形態を促進するためには高エステラーゼ活性が、所望の産物のペプチド結合の加水分解を最小にするためには低アミダーゼ活性が必要である。本発明の修飾された酵素は、酵素の絶対的なエステラーゼ活性を減少させずに、エステラーゼ対アミダーゼの割合が増加したことを示す。さらに、本発明のある修飾された酵素は、同時に絶対的なエステラーゼ活性の増加を示す。
【0038】
さらに、本発明の修飾された酵素は、ペプチド合成においてサブチリシンバチルスレンタスの化学的に修飾された突然変異体の適用性が大きく広がったことを示す。本発明の化学的に修飾された突然変異体酵素は、アシル供与体としてD-アミノ酸エステルをペプチド合成にまたはアシル受容体としてα-分枝アミノ酸アミドをペプチド合成に組み込んで、様々のジペプチドを与えることができる。これらの反応は、サブチリシンバチルスレンタスの野生型(WT)では不可能である。
【0039】
従って、本発明の修飾された酵素は、有機物合成に使用して、例えば所望の反応に触媒作用を及ぼすおよび/またはある立体選択性を選択することができる。例えば、ここに引用されるNoritomi et al.Biotech.Bioeng.51:95-99(1996);Dabulis et al.Biotech.Bioeng.41:566-571(1993),and Fitzpatrick et al.J.Am.Chem.Soc.113:3166-3171(1991)参照。
【0040】
本発明の修飾された酵素は、重量で約0.01%から5%まで(好ましくは0.1%から0.5%まで)の濃度で6.5から12.0までの範囲のpHを有する既知の粉末状または液体状洗剤に調製できる。これらの洗剤洗浄組成物または添加物にはまた、既知のプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、またはエンドグリコシダーゼのような他の酵素、並びに研磨剤および安定剤が含まれてもよい。
【0041】
本発明の修飾された酵素、特にサブチリシンは、様々の洗剤組成物の調製において有用である。多くの既知の化合物は、本発明の修飾された酵素を含む組成物において有用な、適切な界面活性剤である。これらには、ここに引用されるAndersonの米国特許第4,404,128号およびFlora et al.の同第4,261,868号に開示されているような、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、または両性イオン性の洗剤が含まれる。適切な洗剤製剤は、ここに引用されるCaldwell et al.の米国特許第5,204,015号の実施例7に記載されるものである。この技術は、洗浄組成物として使用できる異なる製剤でよく知られている。通常の洗浄組成物に加えて、本発明の修飾された酵素は、天然のまたは野生型の酵素が使用される任意の目的のために使用できることが容易に理解される。従って、これらの修飾された酵素は、例えば、棒状または液状石鹸の用途において、食器洗浄用製剤において、コンタクトレンズ洗浄溶液または製品において、ペプチド合成において、食物添加物または食物添加物の調製のような食物の用途において、廃棄物処理において、織物の処理のような織物用途において、およびタンパク質産生における融合−開裂酵素として、使用できる。本発明の修飾された酵素は、洗剤組成物中において改良された洗浄能力を達成し得る(先駆物質と比較して)。ここで用いたように、洗剤中の改良された洗浄能力とは、標準の洗浄サイクルの後、光反射評価により測定すると、草または血液のようなある酵素感受性の汚れの洗浄力の増加として定義される。
【0042】
従来の洗浄組成物に本発明の修飾された酵素を加えても特別な使用上の制限は何ら生じない。いいかえれば、洗剤に適切な任意の温度およびpHは、pHが上述の範囲内で温度が記載される修飾された酵素の変成温度以下である限り、本発明の組成物にも適切である。さらに、本発明による修飾された酵素は、単独でまたは研磨剤および安定剤と組み合わせて、洗剤を含有しない洗浄組成物中で使用できる。
【0043】
本発明の別の態様において、修飾された酵素は、動物用飼料、例えば穀物を基礎とした飼料の調製に使用される。穀物は、小麦、大麦、トウモロコシ、モロコシ、ライ麦、エンバク、ライコムギ、および米の少なくとも1つでよい。穀物を基礎とした飼料の穀物成分はタンパク質の供給源を構成するが、通常は飼料中に、魚粉、肉、または野菜に由来するような補足的なタンパク質の供給源が含まれる必要がある。野菜タンパク質の供給源には、脂肪の多い大豆、菜種、カノラ、大豆粉、菜種粉、およびカノラ粉の少なくとも1つが含まれる。
【0044】
動物用飼料中に本発明の修飾された酵素を含むことにより、飼料の粗タンパク質値および/または消化性および/またはアミノ酸含有量および/または消化率を増加させることが可能になり、これにより、以前は動物用飼料の必須成分であった代替タンパク質供給源および/またはアミノ酸補足剤の量が減少する。
【0045】
本発明により提供される飼料にはまた、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、マンナナーゼ、α−ガラクトシダーゼ、フィターゼ、リパーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、キシラナーゼ、α−アミラーゼ、エステラーゼ、オキシダーゼ、オキシドレダクターゼ、およびペクチナーゼの1つ以上のような、他の補足酵素が含まれてもよい。バチルス属に由来するサブチリシンのようなさらなる補足酵素としてキシラーゼを含むことが特に好ましい。そのようなキシラーゼは、例えば、ここに引用される国際特許出願公開第97/20920号に詳細に記載されている。
【0046】
本発明の別の態様は、織物を処理する方法である。この方法は、酵素からの1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基により置換された修飾された酵素であって、該システイン残基が、少なくともいくつかのシステイン残基中のチオール水素をチオール側鎖で置換することにより修飾されて修飾された酵素を形成し、該修飾された酵素が高エステラーゼ活性および低アミダーゼ活性を有する修飾酵素を提供する工程を含む。ある酵素感受性の汚れに抵抗力のある織物の産生に有効な条件下で、修飾された酵素を、織物と接触させる。そのような酵素感受性の汚れには、草または血液が含まれる。好ましくは、織物は突然変異体酵素を含む。この方法は、ここに引用されるリサーチディスクロージャー(Research Disclosure)第216,034番、欧州特許出願第134,267号、米国特許第4,533,359号、および欧州特許出願第344,259号のような刊行物に記載されているように、例えば、シルクまたはウールの処理に使用できる。
【実施例1】
【0047】
シス突然変異体の産生
バチルスレンタスからのサブチリシン(“SBL”)に対する遺伝子を、突然変異誘発のためにバクテリオファージM13mp19ベクター中にクローニングした(ここに引用される米国特許第5,185,258号)。オリゴヌクレオチド有向突然変異誘発を、ここに引用されるZoller et al.,Methods Enzymol.,100:468-500(1983)に記載されるように行った。突然変異された配列をクローン化し、取り出し、バチルスサブチリス宿主中で発現プラスミドGG274中に再び導入した。PEG(50%)を安定剤として加えた。得られた粗タンパク質濃縮液を、小さい分子量の不純物を除去するために、まずpH5.2の緩衝剤(20mMのアセテートナトリウム、5mMのCaCl2)とともにSaphadex(商標) G-25脱塩基質を通すことにより精製した。次に脱塩カラムについてたまった分画を、アセテートナトリウム緩衝剤(上述)中で強い陽イオン交換カラム(SP Sepharose(商標) FF)にかけ、pH5.2のNaClアセテート緩衝剤の0mMから200mMまでの一段階の勾配でSBLを溶出した。ミリポア精製水に対する溶出液の透析および続く凍結乾燥の後に、無塩の酵素粉末を得た。0℃で30分間0.1MのHClでインキュベートすることにより変成された突然変異体酵素および野生型酵素の純度を、Pharmacia(Uppsala,Sweden)からのPhast(商標) Systemを使用して均質のゲル上でSDS-PAGEにより確かめた。SBLの濃度を、ここに引用されるBradford,Analytical Biochemistry,72:248-254(1976)の方法に基づくBio-Rad(Hercules,CA)色素試薬キットを使用して測定した。酵素の特異的な活性を、実施例3に記載される方法を使用してpH8.6の緩衝剤中で測定した。
【実施例2】
【0048】
ある成分の調製
2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジルメタンチオスルホネートの調製
【化1】
【0049】
2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジルメタンチオスルホネートを、実施例1および実施例3の一般的な方法により、88%の収率でα-ブロモ-2,3,4,5,6-ペンタフルオロトルエンから調製した。m.p.:64.2-64.7℃(95% EtOH);IR(KBr):3030,3009,2961,2930,2920,1514,1314,1132,980,880,and 748cm-1;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ4.46(br s,2H,SCH2),3.36(s,3H,CH3SO2);MS(E1):292(M+),212(+S=CHC6F5);HRMS(E1):291.9648(M+,calc’d for C8H5F5O2S2:291.9651)。
【0050】
4-カルボキシベンジルメタンチオスルホネートの調製
【化2】
【0051】
4-カルボキシベンジルメタンチオスルホネートを、実施例1および実施例3の一般的な方法により、95%のEtOHからの再結晶後60%の収率でα−ブロモ−p−トルイル酸から調製した。m.p.:187.6- 187.8℃;IR(KBr):3300-2200,1683,1608,1577,1422,1301,1180,1121,957,863,750,716,and 551cm-1;1H NMR(200MHz,DMSO-d6 and 10%D2O):δ7.90(d,J=8.0Hz,2H,aromatic),7.51(d,J=8.0Hz,2H,aromatic),4.47(s,2H,SCH2),3.23(3H,CH3SO2S);13C NMR(50 MHz,DMSO-d6 and 10%D2O):δ167.87,141.55,130.56,130.45,130.07,51.01,39.37;MS(E1):246(M+),229(M+)-OH),166(base peak, +S=CH-Ar);HRMS(E1):246.0031(M+,calc’d for C9H10O4S2:246.0021)。
【実施例3】
【0052】
アルキル成分により修飾された酵素を使用するペプチド合成
原料
スクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン−パラ−ニトロアナリド(“suc-AAPF-pNA”)およびスクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン−チオベンジルエステル(“suc-AAPF-SBn”)はともにBachem Inc.(Torrance,CA)からであり、Ellman’s試薬(5,5’-ジチオビス-2,2’-ニトロ安息香酸,DTNB)およびフェニルメタンスルホニルフッ化物(“PMSF”)はSigma-Aldrich Inc.(Milwaukee,WI)からであった。メタンチオスルホネート(“MTS”)試薬の供給源および合成は、ここに引用されるBerglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997) に記載されている。緩衝剤である、2-[N-シクロヘキシルアミノ]エタンスルホン酸(CHES)、4-モルホリンエタンスルホン酸(ME)およびトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)は、Sigma-Aldrich Inc.(Milwaukee,WI)からであった。野生型のSBLおよびシステイン突然変異体N62C、S166C、L217C、およびM222Cは、Genencor International Inc.,Rochester,New Yorkにより提供され、実施例1およびここに引用されるStabile et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2501-2506(1996)に記載されるように精製された。
【0053】
化学的修飾
アルキルMTS試薬による化学的修飾を、ここに引用されるBerglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997)およびDeSantis et al.,Biochemistry,37:5968-5973(1988)に記載されるように行った。簡単に言えば、適切な溶媒中のMTS試薬の1M溶液200μLを、70mMのCHES、5mMのME、pH9.5で2mMのCaCl2中のシステイン突然変異体の溶液(5-10mg/mL,3.5mL)に加えた。MTS試薬は、二つに分けて30分間隔を開けて加えた。反応混合物を、20℃に保ち回転しながら混合を続けた。反応を、suc-AAPF-pNAによる特異的活性の追随によりおよびEllman’s試薬による残存遊離チオールについてのテストにより観察した。反応が終了した後、反応混合物を、pH6.5で5mMのMEおよび2mMのCaCl2とともにSephadex PD-10 G25カラム上に加えた。タンパク質分画を1mMのCaCl2に対して透析し、透析物を凍結乾燥した。
【0054】
修飾された酵素の特徴付け
それぞれの修飾された酵素(“ME”)の分子量を、電気スプレーイオン化質量分析法(ここに引用されるBerglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997);DeSantis et al.,Biochemistry,37:5968-5973(1988))により測定した。MEの純度を、Pharmacia(Uppsala,Sweden)からのPhastシステムを使用して8-25%のゲル上で天然PAGEにより確かめた。62、217および166突然変異体についてはDTNBによるチオール滴定およびDTNBと反応しないより立体障害のある222突然変異体についてはI2(ここに引用されるCunningham et al.,J.Biol.Chem.,234:1447-1451(1959))によるチオール滴定により、システイン突然変異体の化学的修飾の程度を測定した。ここに引用されるHsia et al.,J.Anal.Biochem.,242:221-227(1996)に記載されるように、酵素へのフェニルメタンスルホニルフッ化物の付加により放出されたフッ化物のバーストの観察により、全ての酵素において活性部位滴定を行った。
【0055】
マイクロタイタープレート上の急速なスクリーニング
ここに引用されるPlettner et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,8:2291-2296(1998)に、この分析の方法および実証が詳細に記載されている。簡単に言えば、2mMのCaCl2を含む5mMのME中で、pH6.5、アミダーゼについて約10-7Mおよびエステラーゼについて約10-8Mに酵素溶液を調製した。DMSO中の基質溶液は、1.6mM(アミダーゼ)および1.0mM(エステラーゼ)であった。分析は、速度論について使用したのと同じ緩衝剤中でpH8.6で行った(以下参照)。酵素溶液を、カラムに沿ってマイクロタイタープレート(ローディングプレート)上に配置し、それぞれのカラムの最後のウェルは緩衝剤のブランクとした。分離プレート(分析プレート)上で、10μLの基質および180μLの緩衝剤をそれぞれのウェルに加えた。ローディングプレート上の適切なカラムから分析プレートに10μLの酵素を移すことにより、反応を開始した。反応を、運動モード、414nm、時間のずれなし、1分間(アミダーゼ)および30秒間(エステラーゼ)の全時間に対して5秒間のインターバルにプログラムされたMultiscan MCC 340 96穴読み取り装置上で観察した。バックグラウンドの加水分解は、自動的に差し引かれた。kcat/KMは、低基質近似:
【数1】
を使用して基質の加水分解の速度(v)から求めた。
【0056】
速度論
分析は、0.005%のTweenを含有するpH8.6の0.1M Tris中で行った。基質溶液はDMSO中で調製した。エステラーゼ分析において、基質溶液はまた、0.0375MのDTNB(ここに引用されるBonneau et al.,J.Am.Chem.Soc.,113:1026-1030(1991))を含有していた。基質保存溶液の濃度は、アミダーゼについて0.013Mから0.3Mまで、エステラーゼについて0.0015Mから0.3Mまでの範囲であり、それぞれの酵素について9-10の異なる濃度を二重にテストした。酵素溶液を、20mMのME、1mMのCaCl2中で、pH5.8、アミダーゼについて10-6Mおよびエステラーゼについて10-7Mの濃度に調製した。反応を、恒温細胞室を備えたPerkin Elmer Lambda 2装置上で分光光度法により観察した。
【0057】
分析の前に、キュベット中の980μLのTris緩衝剤を25℃に平衡させた。基質保存溶液(10μL)を緩衝剤に加え、読み取りを0にセットした。10μLの酵素溶液を加えることにより反応を開始し、410nm(アミダーゼ)および412nm(エステラーゼ)において観察した。発色団に対する吸光率は、0.005%のTweenを有するpH8.6の0.1M Tris中において、p-ニトロアニリン(ここで引用されるBonneau et al.,J.Am.Chem.Soc.,113:1026-1030(1991))について8800M-1 cm-1および3-カルボキシレート-4-ニトロチオフェノレートについて13470 M-1 cm-1であった。初速度は、5%の転換までの直線の傾きにより得た;r値は0.9996を超えた。エステラーゼの場合には、酵素の存在下での速度は、チオベンジルエステルの触媒されないバックグラウンドの加水分解について補正した。Grafit(登録商標)(Erithacus Software Ltd.,Staines,Middlesex,United Kingdom)を使用してミカエリス−メンテンの式に速度データを当てはめることにより、速度定数を得た。
【0058】
DTNBとのシステイン突然変異体の反応
【数2】
であるので、N62C、L217CおよびS166C突然変異体のDTNBとの反応についての見かけの一次速度定数を、10-6Mから10-4Mまでの酵素濃度を使用して、分析において使用したのと同じ条件下で測定した。エステラーゼ分析条件下でのN62C、L217C、およびS166CのDTNBとの反応の見かけの一次速度定数は、それぞれ、1.8×10-4s-1(0.5%=エステラーゼ分析の時間を超えてDTNBと反応したシステイン突然変異体の最大量)、1.4×10-3s-1(4.2%が反応した)、および1.4×10-4s-1(0.4%が反応した)であった。M222C突然変異体は、DTNBと検出可能な反応をしなかった。
【0059】
結果
SBLのN62C、L217C、S166C、およびM222C突然変異体をそれぞれ調製し精製して、前記のように(ここに引用されるBerglund et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2507-2512(1996);Berglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997);DeSantis et al.,Biochemistry,37:5968-5973(1998);and DeSantis et al.,J.Am.Chem.Soc.,120:8582-8586(1998))、導入された-CH2SH側鎖を、アルキル成分の-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−を有するMTS試薬により特異的におよび量的に化学的に修飾した。産生されたMEの純度を、それぞれの場合においてバンドを1つだけ示した天然ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により証明し、これによりMEが純粋であり二量体化が起こらなかったことが示された。電気スプレー質量分析法によるMEの質量分析は、単一部位の修飾について計算された質量と矛盾しなかった(±6Da)。Berglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997)およびDeSantis et al.,Biochemistry,37:5968-5973(1988)。Ellman’s試薬によるN62C、S166C、およびL217C MEの滴定により、全ての場合において2%未満の残留チオール含量が示され、これによりMTS反応が実質的に定量的であったことが確認された。ここに引用されるEllman et al.,Biochem.Pharmacol.,7:88-95(1961)。Ellman’s試薬と反応しなかった、より立体障害のあるM222C MEについての残留遊離チオール含量を、I2(Cunningham et al.,J.Biol.Chem.,234:1447-1451(1959))により測定した。3%の残留チオール基を含有したM222C-SCH2CH2SO3−(-i)を除いては、M222C MEは<2% の遊離チオールを含有した。活性酵素の濃度を、フェニルメタンスルホニルフッ化物(PMSF)による活性部位滴定により測定した。Hsia et al.,J.Anal.Biochem.,242:221-227(1996)。活性酵素を4%しか含有せず、従ってそれ以上調べなかったM222C-SCH2CH2SO3−(-i)を除いては、全てのMEは重量で60-80%の活性であった。
【0060】
初めに、図2に略述される酵素についてのアミダーゼおよびエステラーゼに対するkcat/KMを概算するためにマイクロタイタープレート上での急速スクリーニング(ここに引用されるPlettner et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,8:2291-2296(1998)) を使用した。スクリーニングされた36のMEおよび4つのシステイン突然変異体のうち、さらなる速度分析のために25の酵素を選択した。これらには、全ての有望なエステラーゼ、並びに比較のためにエステラーゼ活性がひどく損傷された少数の突然変異体が含まれた。それぞれ標準的なアミドおよびエステル基質としてsuc-AAPF-pNAおよびsuc-AAPF-SBnを使用する速度分析の結果は、以下の表1に示される。修飾されていないシステイン突然変異体N62C、L217C、S166C、およびM222Cのシステインチオールは、速度分析においてエステラーゼ反応のチオールベンジル加水分解産物の検出に使用されるDTNBと反応できることが認識された。この可能性は、DTNBが、使用された濃度において分析に干渉可能な速度で反応しないことが証明された非障害チオールについてのモデルとしてのN62C、S166C、L217C,およびβ−メルカプトエタノールと反応する速度を調べることにより減少された。
【表1】
【0061】
絶対的なエステラーゼ活性を減少させずにエステラーゼ対アミダーゼの選択性を改良する目的を達成するための化学的修飾法の広い適用性は、数値を求められた25のMEおよびシステイン突然変異体のうち、少なくとも19がエステラーゼ対アミダーゼの選択性が改良されたことを示す、表1のデータから明らかである。さらに、20がWTより高いエステラーゼ活性を示した(図3参照)。
【0062】
N62 MEのうち、N62C-S(CH2)9CH3(-f)を除く全てが、WTに関して改良されたエステラーゼ活性を示した。システイン自身に対するN62C突然変異体でさえ、WTより高いエステラーゼおよび低いアミダーゼを産生した。N62Cの化学的修飾は、絶対的なエステラーゼ活性をさらに、N62C-S-CH3,(-a)およびN62C-SCH2CH3,(-b)についてWTより約3倍まで増加させた。実際に、11100±2300s-1mM-1のkcat/KMを有するN62C-SCH2CH3,(-b)は、調べた全てのMEのうち最も高い絶対的なエステラーゼ活性を有していた。しかしながら、N62C-SCH2CH(CH3)2(-c)からN62C-SCH2C6H5(-g)までのより大きいR基は、エステラーゼ触媒作用についてkcatおよびkcat/KMを減少させ、アミダーゼについてkcatおよびkcat/KMの両方を安定して増加させた。従って、エステラーゼ対アミダーゼ活性についてのkcat/KMの割合は、N62C-S-CH3(-a)からN62C-S(CH2)9CH3(-f)まで-Rの鎖長が増加するとともに10倍減少した(図3)。陽性および陰性に帯電したME、N62C-SCH2CH2NH3+(-h)およびN62C-SCH2CH2SO3−(-i)はそれぞれ、どれもWTより高いエステラーゼ活性および低いアミダーゼ活性を示し、導入された電荷の符号にかかわらずエステラーゼ対アミダーゼの割合が約3倍改良された。さらに、N62C-SCH2CH(CH3)2からN62C-SCH2C6H5(-cから-gまで)のより大きいR基は、エステルおよびアミド基質の両方についてKMを減少させた。これにより、62部位における疎水性相互作用が結合に有益であることが示される。
【0063】
産生された全てのL217C CMMsはまた、WTと比較してエステラーゼのkcat/KMが改良されたことを示す。この部位において、システインに対する突然変異体だけが再び、WTより1.5倍高いエステラーゼ活性および4倍低いアミダーゼ活性を有する優れた触媒を産生した。しかしながら、L217C-S-CH3(-a)への修飾により、L217自身と比較してエステラーゼのkcatおよびkcat/KMの両方が減少した。L217C-SCH2CH(CH3)2(-c)は最も活性のある217エステラーゼであり、7900±800s-1mM-1のkcat/KMを示した。全ての217 MEはWTより大きいエステラーゼ活性を示すと同時に、さらに-S(CH2)4CH3から-S(CH2)9CH3まで,(-dから-fまで)の-Rの鎖長の増加によりkcatおよびkcat/KMが減少した。これは、同じMEについての数値であるアミダーゼのkcatおよびkcat/KMについて観察された傾向と対照的である。ここに引用されるBerglund et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:5265-5266(1997)。結果として、L217C-S(CH2)9CH3(-f)を除く全てのL217 MEは、WTより高いエステラーゼ対アミダーゼの選択性を有した(図3)。陽性に帯電したL217C-SCH2CH2NH3+(-h)および陰性に帯電したL217C-SCH2CH2SO3−(-i)MEもまたWTより高いエステラーゼ活性を示し、L217C-SCH2CH2SO3−(-i)はWTより2.6倍高いエステラーゼkcatを有した。さらに、5060s-1において、これが、調べた全てのMEのうち最高のエステラーゼkcatであった。L217C-SCH2CH2NH3+(-h)は、WTについての17と比較して、134の(kcat/KM)ester/(kcat/KM)amide比を有した。-Rの鎖長の増加に伴うエステラーゼ活性の減少およびアミダーゼ活性の増加と、帯電修飾について改良されたエステラーゼおよび減少したアミダーゼとの間の相関関係は、L217CおよびN62C MEの両方について互いに一致した。これらの等しい傾向は、触媒三構造のHis64から等距離にある残基217および62と矛盾しない(図4参照)。
【0064】
触媒三構造からおよびエステルおよびアミド基質の両方のS1’遊離基部位から非常に離れているS1ポケットのS166C残基の修飾は、エステラーゼ対アミダーゼの選択性に大きな効果を及ぼした。350s-1mM-1のkcat/KMを有するS166C突然変異体自身は、評価された全てのMEのうち最も低いエステラーゼ活性を有した。しかしながら、これはまた、WTについての17と比較して、4のエステラーゼ対アミダーゼの選択比を与えるやや減少したアミダーゼ活性を有した。エステラーゼについて最低のkcatを有することに加えて、S166Cは、エステラーゼについてWTより非常に大きいKMを有し、KM(エステラーゼ)>KM(アミダーゼ)である少数の突然変異体の1つであった。対照的に、S166C-S-CH3(-a)を産生するためのS166Cの修飾は、WTと比較して約3倍の改良である、45までエステラーゼ対アミダーゼの選択性を増加した。S166C-S-CH2C6H5(-g)の大きい疎水性のベンジル基は、WTより14倍高い、245までエステラーゼ対アミダーゼの選択性をさらに増加し、一方S166C-SCH2CH2NH3+(-h)およびS166C-SCH2CH2SO3-(i)の帯電した疎水基は、エステラーゼ対アミダーゼの割合をほとんど改良しなかった。S166C-S-CH2C6H5(-g)MEについてのWTと比較して、エステラーゼKMが減少し、同時にアミダーゼKMが大きく増加したことにより、S1とS1’ポケットとの間の長距離の相互作用および異なる速度測定工程が示された。これらの結果は、どちらもWTと比較して改良されたエステラーゼおよびエステラーゼ対アミダーゼ活性をもたらした、サブチリシンBPN’のより疎水性のG166NおよびG166S突然変異体について先に観察された結果を補足する。ここに引用されるBonneau et al.,J.Am.Chem.Soc.,113:1026-1030(1991)。
【0065】
Met222部位においては、M222C-SCH2CH2NH3+(-h)およびM222Cの両方が、1.5までの改良されたエステラーゼkcat/KMを示し、同時にM222C-S-CH3(-a)、M222C-SCH2CH2NH3+(-h)、およびM222Cの全ては37倍まで減少したアミダーゼ活性を示した。4倍改良された、システイン母体であるM222Cのエステラーゼ対アミダーゼ活性は、それ自身WTより非常に高かった。M222C突然変異体は、WTより立体的に密集していないS1’遊離基を有する。これは、しばしばエステル基質についての速度測定工程である、アシル−酵素加水分解の速度を増加させるかもしれない。硫黄によるメチオニン側鎖のメチレン(CH2)の1つの置換においてのみWTと異なる、M222C-S-CH3(-a)は、WTと同じkcatを有したが、KMは増加した。この部位において、最も改良されたMEはM222C-SCH2CH2NH3+(-h)であり、WTの17と比較して、879のエステラーゼ対アミダーゼの選択性を示した。エステラーゼ対アミダーゼの割合におけるこの52倍の改良は、大部分は31倍低くなったアミダーゼkcatから生じたが、エステラーゼkcatのWTのレベルは保持していた。この結果は、サブチリシンBPN’のM222K突然変異体はエステラーゼ活性を改良しアミダーゼ活性を大きく減少させ、従ってエステラーゼ対アミダーゼの特異性が非常に改良された酵素を産生したという観察と矛盾しない。ここに引用されるGraycar et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,672:71-79(1992)。
【0066】
評価された25のMEのうち19が絶対的なエステラーゼの割合を減少させずにエステラーゼ対アミダーゼの選択性をWTより高くするという目的を達成したので、MEの方法は広く適用できることが明らかである。全体的に、エステラーゼ対アミダーゼの特異性は、S166CについてWTより4倍低くから、M222C-SCH2CH2NH3+についてWTより52倍高くまで変化する。調べた突然変異体の4つのファミリーのそれぞれから少なくとも1つのメンバーが、優れたエステラーゼ活性および高いエステラーゼ対アミダーゼの選択性の両方の基準を満たした:WT酵素に比較してエステラーゼ対アミダーゼの割合に関して、N62C-SCH3,(-a)は3倍、L217C-SCH2CH2NH3+(-h)およびL217C-SCH2CH2SO3−(-i)は6から8倍、S166C-SCH2C6H5(-g)は14倍、およびM222C-SCH2CH2NH3+(-h)は52倍改良された。MEの方法によりエステラーゼ対アミダーゼの選択性が880倍まで達成可能であるので、ペプチド合成に対する化学的に修飾された突然変異体サブチリシンの可能性は非常に広がった。
【実施例4】
【0067】
S166C-SCH2C6H5、S166C-SCH2(p-COOH-C6H4)、S166C-SCH2C6F5、S166C-SCH2CH2NH3+、およびM222C-SCH2CH2NH3+を使用するペプチド合成。
【0068】
一般的方法
WT-サブチリシンバチルスレンタスおよび突然変異体酵素であるS166CおよびM222Cを精製し(ここに引用されるStabile et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2501-2506(1996);Berglund et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2507-2512(1996);and DeSantis et al.,Biochemistry,37:5698-5973(1998))、ここに引用されるDeSantis et al.,Biochemistry,37:5698-5973(1998)に以前報告されているように調製した。保護されたアミノ酸をSigmaまたはBachemから購入し、そのまま使用した。全ての溶媒は試薬グレードであり使用前に精製した。薄層クロマトグラフィ分析および精製を、予め被覆したMerck Silica ゲル(60F-254)プレート(250μm)上で行い、紫外線またはヨウ素で視覚化した。1Hおよび13C NMRスペクトルを、Varian Gemini 200(1Hに対して200MHzおよび13Cに対して50.3MHz)またはUnity 400(1Hに対して400MHzおよび13Cに対して100MHz)および分光計上で記録し、内標準としてCDCl3またはDMSO-d6を使用して化学シフトをppm(δ)で与えた。Micromass ZAB-SE(FAB+)を使用して高解像度質量スペクトル(HRMS)を記録した。旋光度をPerkin-Elmer 243B偏光計により測定した。
【0069】
ペプチドライゲーションのための一般的方法
塩酸グリシンアミド(0.3mmol)または塩酸アラニンアミド(0.2mmol)およびEt3N(0.083-0.125mL,0.3-0.4mmol)をDMF(0.4mL)および水(0.4mL)中のアミノ酸アシル供与体(0.1mmol)の溶液に加え、続いて緩衝剤溶液(10mmol ME,1mmol CaCl2,pH5.8)中で、フェニルメタンスルホニルフッ化物(PMSF)(ここに引用されるHsia et al.,Anal.Biochem.,242:221-227(1996))を使用する滴定により測定した1mgの活性酵素の溶液(0.0037mmol,0.037eq.)を加えた。生じた反応物の全量は、1.0mL−1.2mLであった。以下の表2から表4までに示される時間、反応物を室温で攪拌し続けた。アシル供与体としてD-アミノ酸を使用した場合には、24時間後、1mg以上の活性酵素並びに等量のDMFを加えた。反応が終了した後、混合物をvacuo中で濃縮し、調製したTLC(CH2Cl2中5-10%のMeOH)を使用して精製した。
【0070】
L-アミノ酸のペプチドライゲーション
アシル供与体Z-L-Phe-OBn、Z-L-Ala-OBn、Z-L-Glu-OMe、およびZ-L-Lys-SBn(1-4)とアシル受容体Gly-NH2およびL-Ala-NH2(5,6)を、図5に示されるように結合反応に使用した。アシル供与体Z-L-Phe-OBn、Z-L-Ala-OBn、Z-L-Glu-OMe、およびZ-L-Lys-SBn(1-4)は、それぞれ大きいおよび小さい疎水性の、陰性に帯電したおよび陽性に帯電したP1側鎖の代表例を提供し、様々のアミノ酸に対するこれらの酵素のS1ポケットの親和性の大まかな評価を与えた。サブチリシンのS1’ポケットが狭いので、小さいアミノ酸アミドであるGly-NH2およびL-Ala-NH2(5,6)をアシル受容体として選択し(ここに引用されるMoree et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:3942-3947(1997);Betzel et al.,J.Mol.Biol.,223:427-445(1992);Sears et al.,J.Am.Chem.Soc.,116:6521-6530(1994);and Jackson et al.,Science,266:243-247(1994))、従ってこれはα-分枝アミノ酸を不十分にしか受容しなかった。S1’ポケットが狭いという性質は、M222の巨大側鎖を原因とし、この残基はサブチリシン中で保存される残基である。ここに引用される、Siezen et al.,Protein Eng.,4:719-737(1991)。このことにより、ペプチドライゲーションの用途における使用が制限される。
【0071】
SBLの好ましいフェニルアラニンP1残基を含有するZ-L-Phe-OBn(1)とGly-NH2(5)との結合は、1時間後に触媒としてSBL-WTおよび4つの全てのS166-ME(以下の表2)を使用して、非常に良い収率でジペプチドZ-L-Phe-Gly- NH2(7)を産生した。酵素の非存在下では反応は観察されなかった。最も高いエステラーゼ/アミダーゼ比を有したM222C-SCH2CH2NH3+は、5時間後に33%の収率でしか産物を与えず、開始物質であるZ-Phe-OBn(1)が41%の収率で回収された。M222CはS1ポケットとS1’ポケットとの間の境界線に位置するので、その修飾は、S1ポケット中の基質結合部位を除く活性部位において立体障害を引き起こすようである。
【表2】
【0072】
高収率はまた、WTおよびそれぞれのMEとともにアシル供与体としてZ-L-Ala-OBn(2)を使用して得られたが、5時間のより長い反応時間が必要とされた。1時間反応を行った後得られた収率は全て低く、全ての場合において開始物質が回収された。アシル供与体としてZ-L-Phe-OBn(1)を使用する場合と比較して、この場合のより長い反応時間の必要性は、S1サブサイト中の小さいP1置換基上に大きい疎水基を結合する基質にSBL-WTが好ましいことと矛盾しない。ここに引用されるGron et al.,Biochemistry,31:6011-6018(1992)。
【0073】
陰性に帯電したP1残基を有するZ-Glu-OMe(3)をアシル供与体として使用する場合、全ての場合において1時間後に穏やかな収率でしかZ-Glu-Gly-NH2(9)が得られなかった。アシル供与体Z-L-Ala-OBn(2)の反応と違い、反応時間を延ばすと、S166C-SCH2C6H5、-SCH2(p-COOH-C6H4)、および-SCH2CH2NH3+の場合において収率が改善された。5時間後触媒としてSBL-WTおよびS166C-SCH2C6F5を使用した収率は、1時間についてと実質的に同じであった。しかしながら、相補的に帯電したS1ポケットを有するS166C-SCH2CH2NH3+を使用して、定量的な収率でZ-L-Glu-Gly-NH2(9)を単離できた。触媒としてM222C- SCH2CH2NH3+を使用する場合には、SBL-WT触媒反応に関して収率の増加は観察されなかった。この反応は、5時間後にZ-L-Glu-Gly-NH2(9) を33%しか産生せず、さらに開始物質Z-L-Glu-OMe(3)を32%回収した。上述のように、M222残基は酵素のS1ポケット中の結合基質P1残基を抑制するようである。このことは、このMEを使用する場合の低い収率の原因である可能性があり、開始物質の回収と相関する。Z-L-Glu-Gly-NH2(9)はまた、触媒としてS166C-SCH2C6H5を使用して非常によい収率(96%)で得られる。
【0074】
帯電したMEである166C-SCH2(p-COOH-C6H4)を有する陽性に帯電したZ-L-Lys-SBn(4)アシル供与体の増加したターンオーバーが、最も良い結果である、99%のZ-L-Lys-Gly-NH2(10)という結果で観察された。また、93%という良い収率のZ-L-Lys-Gly-NH2(10)もまた、触媒としてS166C-SCH2C6H5を使用して観察された。これは、おそらくこの酵素の高いエステラーゼ/アミダーゼ比による。S166C-SCH2C6F5を使用する反応は、触媒としてWTを使用する反応より低い、71%の収率の産物しか与えなかった。WTに関してより高い収率は、修飾された酵素とLysの側鎖との間の電位静電反発にもかかわらず、S166C-SCH2CH2NH3+を使用しても得られる。
【0075】
Gly-NH2以外の他のアシル受容体を使用する選択されたMEの合成能力をさらに研究した。サブチリシンのS1’ポケットは小さく制限されているので、最も小さいα-分枝アミノ酸であるAla-NH2(6)はこのサブサイトを調べるために使用された(表3参照)。
【表3】
【0076】
全ての場合において、L-Ala-NH2(6)とZ-L-Phe-OBn(1)との反応は、Gly-NH2(5)とZ-L-Phe-OBn(1)との反応より遅かった。さらに、24時間後、Z-L-Phe-Ala-NH2(11)は、触媒としてWT、S166C-SCH2C6H5、-SCH2C6F5、および-SCH2(p-COOH-C6H4)を使用して穏やかな収率で(33-57%)得られた。しかしながら、Z-L-Phe-Ala-NH2(11)は、S166C-SCH2CH2NH3+の場合に88%の収率で得られた。S166C-SCH2CH2NH3+と違い、M222C-SCH2CH2NH3+の使用は、WTにより触媒される反応と比較してジペプチド産物の収率を改善しなかった;低い22%の収率のZ-L-Phe-Ala-NH2(11)しか得られなかった。これはおそらく、上述のようなP1基質を有する結合部位であるS1ポケットにおける、この残基の立体障害による。
【0077】
アシル供与体としてZ-L-Ala-OBn(2)またはZ-L-Glu-OMe(3)を使用した場合、使用された6つの酵素のうち5つについてL-Ala-NH2(6)との反応が観察されなかった。しかしながら、触媒としてS166C-SCH2CH2NH3+を使用した場合、ジペプチドZ-Ala-Ala-NH2(12)およびZ-Glu-Ala-NH2(13)はそれぞれ、16%および14%で産生された。これらの収率は低いが、WTを超えた劇的な改善が示された。
【0078】
相補的な静電相互作用が予測される場合である、陰性に帯電したMEであるS166C-SCH2(p-COOH-C6H4)の使用を含む、WTおよび全てのMEによるZ-L-Lys-SBn(4)およびL-Ala-NH2(6)の処理によって、反応は観察されなかった。
【0079】
これらの結果は、サブチリシンバチルスレンタスのS1’ポケットにおいてGlyよりもAlaが選択されるという以前の報告と対照を成す。ここに引用される、Gron et al.,Biochemistry,31:6011-6018(1992)。この選択性は、観察されなかった:アシル受容体としてグリシンアミド(5)を使用して得られた収率は全ての場合においてより高く、反応時間はアシル受容体としてアラニンアミド(6)を使用する場合(表3)と比較して、より短かった(表2)。
【0080】
D-アミノ酸ライゲーション
次に、SBLにより触媒されるペプチドライゲーションの用途の範囲を、ME方法論によりアシル供与体としてD-アミノ酸エステルであるZ-D-Phe-OBn、Z-D-Ala-OBn、Z-D-Glu-OMe、Z-D-Lys-OBn、およびAc-D-Phe-OBn(15-19)を含むまでに広げた(図6)が、これはSBL-WTによると不可能であった。結果は表4に示される。
【表4】
【0081】
正確な比較のために、先にライゲーションの実施例において調べた代表例のL-アミノ酸であるZ-L-Phe-OBn、Z-L-Ala-OBn、Z-L-Glu-OMe、およびZ-L-Lys-SBn(1-4)のD-イソメラーゼであるZ-D-Phe-OBn、Z-D-Ala-OBn、Z-D-Glu-OMe、Z-D-Lys-OBn、およびAc-D-Phe-OBn(15-19)を使用した。評価されたD-アミノ酸エステルはどれも触媒としてのWTによりジペプチド産物を与えなかったので、L-アミノ酸についてのSBL-WTの立体選択性は明確であった(表4)。全てのS166C-MEは、D-アミノ酸であるZ-D-Phe-Gly-NH2、Z-D-Ala-Gly-NH2、Z-D-Glu-Gly-NH2、Z-D-Lys-Gly-NH2、およびAc-D-Phe-Gly-NH2(20-24)を含有するジペプチド産物を産生した。これらの酵素はそれぞれL-アミノ酸に対する選択性を示しながら、WTについての0%を超えて、S166C-SCH2C6H5を使用して66%までのZ-D-Phe-Gly-NH2を産生し、D-アミノ酸のSBLの受容において劇的な改良を示した。
【0082】
アシル受容体としてZ-D-Ala-OBn(16)を使用して4つの全てのS166C-MEにより触媒された反応から、Z-D-Ala-Gly-NH2(21)の同様の収率が得られた。これにより、この残基における化学的修飾は、一般にS1ポケットの立体特異性を広げることが示された。
【0083】
アシル供与体としてZ-D-Glu-OMe(17)を使用する場合、全てのME触媒反応において低収率のジペプチドZ-D-Glu-Gly-NH2(22)しか得られなかった。最も高い収率である、10%のZ-D-Glu-Gly-NH2(22)は、S166C-SCH2CH2NH3+を使用して生じた。これはおそらく、S166C-SCH2CH2NH3+の側鎖とグルタミン酸アシル供与体の側鎖との間の相補的静電相互作用が原因である。対照的に、Z-L-Lys-SBnの反応において収率の大きな改良が観察された場合である、触媒としてS166C-SCH2(p-COOH-C6H4)を使用する場合を含む、全てのWTおよびME触媒反応についてZ-D-Lys-OBn(18)をアシル供与体として使用した場合に、産物は観察されなかった。
【0084】
アシル供与体としてのZ-D-Phe-OBn(15)は評価されたMEのそれぞれにより35-66%の産物およびWTにより0%の収率を与え、さらにアシル供与体Ac-D-Phe-OBn(19)中のアセチル基によるZ-D-Phe-OBn(15)のカルボベンゾキシ(Z)基の置換により低収率が生じた(表4)ので、Z-D-Phe-OBn(15)中のカルボベンゾキシ基は、図7に示されるようにS1ポケット中の結合を支配すると考えられ、これはAc-D-Phe-OBn(19)中で観察されない工程である。
【0085】
産生されたジペプチド
Z-Phe-Gly-NH2(7)(ここに引用される、Moree et al.,J.Am.Chem.Soc.,119:3942-3947(1997)and Morihara et al.,Biochem.J.,163:531-542(1997)):1H NMR(CDCl3)δ3.10(m,2H,CH2ph),3.85(2×d,J=2,5Hz,2H,NHCH2CO),4.40(m,1H,NHCHCO),5.05(s,2H,OCH2Ph),5.50,5.70,6.25,6.90(4×brs,4H,NH),7.20-7.40(m,10H,2×Ph);13C NMR(CDCl3)δ38.2,42.7,56.6,67.3,127.2,128.1,128.3,128.6,128.8,129.2,135.8,136.0,156.3,171.2,171.6。HRMS(FAB+)MH+ calcd 356.1610,found 356.1613。[α]30D=−4.3(c0.81,MeOH)。
【0086】
Z-Ala-Gly-NH2(8)(ここに引用される、Bodanszky et al.,Int.J.Peptide Protein Res.,26:550-556(1985)):1H NMR(CDCl3)δ1.40(d,J=7Hz,3H,CH3),3.85(dd,J=1.7,5Hz,2H,NCH2CO),4.20(m,1H,NHCHCO),5.10(dd,J=1.6,2Hz,2H,OCH2Ph),5.80,6.60,7.20(3×brs,4H,NH),7.30-7.40(m,5H,Ph);13C NMR(CDCl3)δ17.7,42.2,50.6,66.2,127.6,128.0,136.0,155.9,171.3,172.8。HRMS(FAB+)MH+calcd 280.1297,found 280.1310。[α]26D=−8.44(c0.97,MeOH);lit。[α]23D=−8.5(c2,MeOH)。
【0087】
Z-Glu-Gly-NH2(9)(ここに引用される、Schon et al.,Int.J.Peptide Protein Res.,22:92-109(1983)):1H NMR(DMSO-d6)δ1.75-1.95(m,2H,CH2CH2COOH),2.30(m,2H,CH2CH2COOH),3.65(dd,J=0.5,1.7Hz,2H,NHCH2CO),4.10(m,1H,NHCHCO),5.00(s,2H,OCH2Ph),7.20-7.40(m,5H,Ph),12.40(brs,1H,COOH);13C NMR(DMSO-d6)δ27.2,30.3,41.9,54.2,65.6,128.4,128.5,128.7,128.8,136.9,156.2,170.8,171.7,174.0HRMS(FAB+)MH+calcd338.1352,found 338.1332。[α]28D=−10.2(c 1.16,MeOH);lit。[α]25D=−10.2(c 1.0,MeOH)。
【0088】
Z-L-Lys-Gly-NH2(10):1H NMR(DMSO-d6)δ1.50(m,2H,CH2(CH2)3NH2),1.60-1.85(m,4H,CH2CH2CH2CH2NH2),2.00-2.18(m,2H,(CH2) 3CH2NH2)3.30(m,2H,NHCH2CO),4.40(m,1H,NHCHCO),5.10(s,2H,OCH2Ph),6.05,6.20(2×brs,2H,NH),7.20-7.40(m,5H,Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ28.1,29.0,32.2,42.3,45.9,53.8,66.7,128.1,128.6,136.7,155.6,172.2,175.3。HRMS(FAB+)MH+calcd 337.1876,found 337.1842。[α]28D=+6.97(c0.55,MeOH)。
【0089】
Z-L-Phe-L-Ala-NH2(11)(ここに引用される、Morihara et al.,Biochem.J.,163:531-542(1997)and Brubacher et al.,Can J.Biochem.,57:1054-1072(1979)):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(d,J=7Hz,3H,CH3),2.90(m,2H,CH2Ph),4.30(m,2H,2×NHCHCO),4.90(s,2H,OCH2Ph),5.75,6.10,6.45(3×brs,4H,NH),6.90-7.40(m,10H,2×Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ18.5,37,4,48.1,56.2,66.2,126.3,127.4,127.7,128.1,128.3,129.2,137.1,138.2,155.9,171.2,174.1。HRMS(FAB+)MH+calcd 370.1766,found 370.1753。[α]29D=−8.86(c0.57,MeOH)。
【0090】
Z-L-Ala-L-Ala-NH2(12)(ここに引用される、Katakai et al.,Macromolecules,6:827-831(1973)):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(2×d,J=7Hz,6H,2×CH3),4.10,4.20(m,2H,2×NHCHCO),5.00(s,2H,OCH2Ph),7.20-7.40(m,5H,Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ18.1,18.4,47.9,50.1,65.4,127.7,128.4,137.0,155.8,172.0,174.1。HRMS(FAB+)MH+calcd 294.1454 found 294.1457。[α]25D=−20.4(c0.77,MeOH)。
【0091】
Z-L-Glu-L-Ala-NH2(13):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(d,J=7Hz,3H,CH3),1.82-2.00(m,2H,CH2CH2COOH),2.30(m,2H,CH2CH2COOH),4.00,4.20(m,2H,2×NHCHCO),5.00(s,2H,OCH2Ph),6.20-7.40(m,5H,Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ18.4,26.2,30.2,47.9,53.1,65.4,126.5,127.7,127.8,128.1,128.4,137.0,156.2,173.6,173.8,174.1。HRMS(FAB+)MH+calcd 352.1509,found 352.1478。[α]25D=−16.7(c0.76,MeOH)。
【0092】
Z-D-Phe-Gly-NH2(20):1H and 13C NMRデータは(7)と同一である。HRMS(FAB+)MH+calcd 356.1610 found 356.1608;[α]30D=+4.12(c 1.17,MeOH)。
【0093】
Z-D-Ala-Gly-NH2 (21)(ここに引用される、Richman et al.,Int.Peptide Protein Res.,25:648-662(1985)):1Hおよび13C NMRデータは(8)と同一である。HRMS(FAB+)MH+calcd 280.1297 found 280.1298;[α]27D+10.5(c0.72,MeOH);lit。[α]D=+10.5。
【0094】
Z-D-Glu-Gly-NH2 (22): 1Hおよび13C NMRデータは(9)と同一である。HRMS(FAB+)MH+calcd 338.1352 found 338.1348;[α]28D+10.77(c 1,MeOH)。
【0095】
Ac-D-Phe-Gly-NH2(24)(ここに引用される、Thompson et al.,J.Med.Chem.,29:104-111(1986)):1H NMR(DMSO-d6)δ1.90(S,3H,CH3),3.05(m,2H,NHCH2CO),3.65(2×d,J=7,15Hz,2H,CHCH2Ph),4.40(q,J=7Hz,1H NHCHCO),7.15-7.25(m,5H,Ph);13C NMR(DMSO-d6)δ22.4,29.1,45.9,54.7,126.1,127.9,128.9,137.3,155.2,171.2,171.5。HRMS(FAB+)MH+calcd 264.1348 found 264.1321。[α]30D=−4.38(c 0.80,MeOH)。
【実施例5】
【0096】
オキサゾリジノン、陽性電荷を有するアルキルアミノ基、およびサッカリドのような極性置換基により化学的に修飾された突然変異体酵素を使用するペプチド合成
一般的方法
1Hおよび13C NMRスペクトルを、内標準としてDMSO-d6を使用して、Varian Unity(1Hに対して400MHzおよび13Cに対して100MHz)上で測定した。Micromass ZAB-SE(FAB+)を使用して高解像度質量スペクトル(“HRMS”)を記録した。旋光度をPerkin-Elmer 243B偏光計により測定した。分析TLCに、ALUGRAM(登録商標)SIL G/UV254 Art.-Nr.818 133(Macherey-Nagel GmbH & Co.,Duren,Germany)を使用した。調製したTLCを、予め被覆されたシリカゲルプレートArt.5744(Merck,Gibbstown,NJ)上で行い、紫外線により視覚化した。WT-サブチリシンバチルスレンタスおよび突然変異体酵素を、ここに引用されるStabile et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,6:2501-2506(1996)およびDeSantis et al.,Biochemistry,37:5698-5973(1998)に報告されているように、および実施例1に記載されているように精製し、調製した。保護された酸をSigma-Aldrich Inc.(Milwaukee,WI)またはBachem Inc.(Torrance,CA)から購入し、そのまま使用した。全ての溶媒は試薬グレードであり使用前に精製した。
【0097】
ペプチドライゲーションのための一般的方法
塩酸グリシンアミド(31,17mg,0.15mmol)およびEt3N(0.15mmol,0.0625mL)をDMF(0.25mL)および水(0.144mL)中のZ-L-Phe-OBn(25,19.2mg,0.05mmol)の溶液に加え、続いてS166C-S-inden-oxaz(S,R)(ME-n,0.106mL,1mMのCaCl2を含む10mMのME緩衝剤(pH5.8)中0.5mgの活性酵素)を加えた。反応物を室温で1時間攪拌した。混合物をAcOEtで希釈し、1MのKHSO4(1mL×1)およびブライン(1mL×1)で洗浄し、有機層をMgSO4で乾燥させた。蒸発の後、残基を調製したTLC(CH2Cl2/MeOH=90/10)により精製してZ-L-Phe-Gly-NH2(33,17.8mgの量)を産生した。
【0098】
他の酵素を使用して他の基質のペプチドライゲーションを、反応時間を除き同じ方法に従って行った。アシル供与体としてD-アミノ酸を使用する場合には、24時間後に反応容器に0.5mg多く活性酵素を加え、その後混合物をさらに24時間攪拌した。
【0099】
L-アミノ酸のペプチドライゲーション
まず、L-アミノ酸であるZ-L-Phe-OBn(25)、Z-L-Ala-OBn(26)、およびZ-L-Glu-OMe(27)とグリシンアミド(31)との結合反応を、標準反応として調べた(図1および図8、表5参照)。
【表5】
【0100】
反応を、50%のDMFを含有する水溶液中でEt3Nを有する活性酵素を0.5mgを使用して行った。酵素の活性を、フェニルメタンスルホニルフッ化物(PMSF)を使用する滴定により測定した。ここに引用されるHsia et al.,Anal.Biochem.,242:221-227(1996)。全ての場合において、反応は円滑に進み、高い収率で対応するジペプチドを産生した。これらの結果により、これらの置換基によるS166C部位の修飾は、ペプチド結合においてL-アミノ酸を受容する実質的な能力に影響を及ぼさないことが示された。
【0101】
D-アミノ酸のペプチドライゲーション
次に、アシル供与体としてのD-アミノ酸である、Z-D-Phe-OBn(28)、Z-D-Ala-OBn(29)、およびZ-D-Glu-OMe(30)とZ-L-Phe-OBn(1)との結合反応にMEの使用を拡張することを調べた。WT酵素はアシル供与体としてD-アミノ酸を受容しなかったが、全てのMEは、D-アミノ酸とZ-L-Phe-OBn(1)との結合に触媒作用を及ぼすことが可能であった。全ての場合においてZ-D-Phe-OBn(28)の反応は遅く、低収率(最高は、M-nの使用による14%)のZ-D-Phe-Gly-NH2(39)を与えたが、Z-D-Ala-OBn(29)またはZ-D-Glu-OMe(30)とGly-NH2(31)とのペプチド結合は、基質を残さずに進んだ。Z-D-Ala-OBn(29)の場合にME-kおよび-mを使用しZ-D-Glu-OBn(30)の場合にME-oを使用したことにより、非常に高い収率でそれぞれZ-D-Ala-Gly-NH2(37,86%)およびZ-D-Glu-Gly-NH2(38,74%)が与えられたことは、注目すべきことである。おそらくCMMsは、L-アミノ酸と異なる方法でD-アミノ酸を認識した、すなわち、α−位置のカルボキシベンゾキシ基はS1ポケットに結合すると考えられる。他方、3種類の基質のうち最大の置換基を有するZ-D-Phe-OBn(28)のフェニルメチル基とMEの活性部位のポケット中の他の部分との間の相反により、低反応性のZ-D-Phe-OBn(28)が生じた。
【0102】
S1’ポケットが小さいにもかかわらず、全ての選択されたMEはまた、L-アミノ酸とα−分枝アシル受容体であるL-アラニンアミド(32)との結合にも利用可能であった。WT酵素は、Z-L-Phe-OBn(25)をアシル供与体とする場合のみアシル受容体としてL-アラニンアミド(32)を受容することができたが、MEはまた、Z-L-Phe-OBn(25)だけでなくZ-L-Ala-OBn(26)およびZ-L-Glu-OMe(27)の場合も反応に触媒作用を及ぼし、それぞれ対応するジペプチドであるZ-L-Phe-L-Ala-NH2(39)、Z-L-Ala-L-Ala-NH2(40)、およびZ-L-Glu-L-Ala-NH2(41)を産生した。Z-L-Ala-OBn(26)の場合には、エステルの主要な競合的加水分解が観察された(最高はME-mの使用による21%であった)。これらの結果により、WTの特異性の劇的な改良が示された。Z-L-Glu-OMe(27)とAla-NH2(32)との結合の収率は、アシル受容体としてGly-NH2(31)を使用したものと同様であり、ME-jの使用により最高の結果が与えられた(64%)。理論に縛られたくないが、Z-L-Glu-OMe(27)のカルボキシル基とMEのS166C部位の側鎖との間の強い相互作用により、水により容易に破壊されないより安定なES複合体が提供され、従ってZ-L-Glu-L-Ala-NH2(41)が高い収率で得られることが考えられる。
【0103】
産生されたジペプチド
Z-L-Phe-Gly-NH2(33):1H NMR(DMSO-d6)δ2.74(dd,J=11.0,14.0Hz,1H,CH2Ph),3.04(dd,J=4.0,14.0Hz,1H,CH2Ph),3.59-3.72(m,2H,NHCH2CO),4.21-4.35(m,1H,NHCHCO),4.93(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph),4.94(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph)7.12(brs,2H,NH),7.16-7.38(m,5H,Ph),7.60(d,J=8.5Hz,1H,NH),8.27(t,J=5.5Hz,1H,NH);13C NMR(DMSO-d6)δ37.3,42.0,56.3,65.3,126.3,127.5,127.8,128.1,128.4,129.3,137.0,138.2,156.0,170.8,171.8;HRMS(FAB+)calcd for C19H22N3O4(M+H)+356.1610,found 356.1639;[α]21D=−3.94(c1.04,MeOH)。
【0104】
Z-L-Ala-Gly-NH2(34):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(d,J=7.0Hz,3H,CH3),3.60(dd,J=5.5,16.0Hz,1H,CH2NH),3.62(dd,J=5.5,16.0Hz,1H,CH2NH),4.03(dq,J=7.0,7.0Hz,1H,CH3CHNH),5.00(d,J=12.5Hz,1H,OCH3Ph),5.03(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph),7.11(brs,1H,NH2),7.27-7.42(m,5H,Ph),7.57(d,J=7.0Hz,1H,NH),8.11(t,J=5.5Hz,1H,NH);13C NMR(DMSO-d6)δ17.9,42.0,50.3,65.5,127.85,127.89,128.4,136.9,155.9,170.9,172.7;HRMS(FAB+)calcd for C13H18N3O4(M+H)+280.1297,found 280.1307;[α]25D=−8.44(c0.64,MeOH)。
【0105】
Z-L-Glu-Gly-NH2(35):1H NMR(DMSO-d6)δ1.66-1.79(m,1H,CH2CH2COOH),1.83-1.95(m,1H,CH2CH2COOH),2.26(t,J=7.5Hz,2H,CH2COOH),3.62(d,J=5.5Hz,2H,NHCH2CO),3.95-4.05(m,1H,NHCHCO),5.01(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph), 5.03(d,J=12.5Hz,1H,OCH2Ph),7.07(brs,1H,NH), 7.20(brs,1H,NH),7.25-7.40(m,5H,Ph),7.55(d,J=7.5Hz,1H,NH),8.11(t,J=5.5Hz,1H,NH);12.20(brs,1H,COOH);13C NMR(DMSO-d6)δ27.0,30.2,41.9,54.1,65.6,127.8,127.9,128.4,136.9,156.2,170.8,171.7,174.0;HRMS(FAB+)calcd for C15H20N3O6(M+H)+338.1352,found 338.1364;[α]25D=−9.28(c 0.69,MeOH)。
【0106】
Z-D-Phe-Gly-NH2(36):HRMS calcd for C19H22N3O4(M+H)+ 356.1610 ,found 356.1592;[α]21D=+3.42(c 1.17,MeOH)。
【0107】
Z-D-Ala-Gly-NH2(37):HRMS calcd for C13H18N3O4(M+H)+280.1297 found 280.1303;[α]24D+8.49(c0.86,MeOH)。
【0108】
Z-D-Glu-Gly-NH2(38):HRMS calcd for C15H20N3O6(M+H)+338.1352 found 338.1353;[α]24D+9.07(c 1.08,MeOH)。
【0109】
Z-L-Phe-L-Ala-NH2(39):1H NMR(DMSO-d6)δ1.22(d,J=7.0Hz,3H,CH3),2.71(dd,J=13.5,13.5Hz,1H,CH2Ph),3.03(dd,J=3.5,13.5Hz,1H,CH2Ph),4.18-4.31(m,2H,NHCHCO×2),4.93(s,2H,OCH2Ph),7.04(brs,1H,NH),7.14-7.22(m,1H,NH),7.55(d,J=8.5Hz,1H,NH),8.08(d,J=7.5Hz,1H,NH);13C NMR(DMSO-d6)δ18.5,37,4,48.1,56.2,65.2,126.3,127.4,127.7,128.1,128.4,129.3,137.1,138.2,155.9,171.1,174.1;HRMS(FAB+) calcd for C20H24N3O4(M+H)+ 370.1767,found 370.1769;[α]24D=−8.86(c0.44,MeOH)。
【0110】
Z-L-Ala-L-Ala-NH2(40):1H NMR(DMSO-d6)δ1.19(d,J=7.0Hz,3H,CH3),1.24(d,J=7.5Hz,3H,CH3),3.90-4.26(m,2H,NHCHCO×2),5.01(s,2H,CH2OPh),7.02(brs,1H,NH),7.13(brs,1H,NH), 7.25-7.45(m,5H,Ph)7.51(d,J=6.5Hz,1H,NH),7.88(d,J=7.5Hz,1H,NH);13C NMR(DMSO-d6)δ18.1,18.5,47.9,50.2,65.4,127.78,127.84,128.4,137.1,155.8,172.0,174.2;HRMS(FAB+)calcd for C14H20N3O4(M+H)+294.1454 ,found 294.1457;[α]21D=−20.4(c0.77,MeOH)。
【0111】
Z-L-Glu-L-Ala-NH2(41):1H NMR(DMSO-d6)δ1.20(d,J=8.0Hz,3H,CH3),1.68-1.82(m,1H,CH2CH2COOH),1.82-2.03(m,1H,CH2CH2COOH),2.21-2.40(m,2H, CH2CH2COOH),3.93-4.25(m,2H,NHCHCO×2),5.02(s,2H,OCH2Ph),7.02(brs,1H,NH),7.18-7.46(m,5H,Ph),7.54(dd,J=7.5,24.0Hz,2H,NH2),7.92(d,J=7.5Hz,1H,NH),12.40(brs,1H,COOH);13C NMR(DMSO-d6)δ18.4,26.2,30.3,48.0,53.1,65.4,127.0,127.7,127.8,127.9,128.4,129.3,137.0,156.2,173.7,173.8,174.1;HRMS(FAB+)calcd for C16H22N3O6(M+H)+ 352.1509,found 352.1502;[α]25D=−16.7(c0.76,MeOH)。
【0112】
本発明は説明のために詳細に記載されてきたが、そのような詳細な記載は単に説明のためであり、請求の範囲に定義される本発明の意図および範囲から離れずに変更できることは当業者にとって自明であることが理解される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステラーゼ活性およびアミダーゼ活性を有する修飾されたサブチリシン酵素であって、該修飾された酵素が、残基62、166、217および222からなる群より選択されるアミノ酸残基に置換されたシステイン残基を有し、
前記アミノ酸残基が、バチルスアミロリクエファシエンスサブチリシンBPN’のアミノ酸残基中の等価物に従って番号付けされ、
前記システイン残基が、該システイン残基中のチオール水素を、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)および-SCH2C6F5からなる群より選択されるチオール側鎖で置換されることにより修飾される、
ことを特徴とする修飾酵素。
【請求項2】
前記エステラーゼ活性が、約350s-1mM-1から約11100s-1mM-1までであることを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項3】
前記アミダーゼ活性が、約5.6s-1mM-1から約355s-1mM-1までであることを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項4】
請求項1記載の前記修飾された酵素を含む洗剤添加物。
【請求項5】
請求項1記載の前記修飾された酵素を含む食物添加物。
【請求項6】
前記システイン残基が、残基62に置換され、
前記チオール側鎖が、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-SCH2CH2NH3+および-SCH2CH2SO3−からなる群より選択される、
ことを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項7】
前記チオール側鎖が、-SCH3であることを特徴とする請求項6記載の修飾酵素。
【請求項8】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH3であることを特徴とする請求項6記載の修飾酵素。
【請求項9】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH2NH3+であることを特徴とする請求項6記載の修飾酵素。
【請求項10】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH2SO3−であることを特徴とする請求項6記載の修飾酵素。
【請求項11】
前記システイン残基が、残基166に置換され、
前記チオール側鎖が、-SCH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)および-SCH2C6F5からなる群より選択される、
ことを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項12】
前記チオール側鎖が、-SCH2C6H5であることを特徴とする請求項11記載の修飾酵素。
【請求項13】
前記チオール側鎖が、-SCH2(p-COOH-C6H4)であることを特徴とする請求項11記載の修飾酵素。
【請求項14】
前記チオール側鎖が、-SCH2C6F5であることを特徴とする請求項11記載の修飾酵素。
【請求項15】
前記システイン残基が、残基217に置換され、
前記チオール側鎖が、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-SCH2CH2NH3+および-SCH2CH2SO3−からなる群より選択される、
ことを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項16】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH2NH3+であることを特徴とする請求項15記載の修飾酵素。
【請求項17】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH2SO3−であることを特徴とする請求項15記載の修飾酵素。
【請求項18】
前記システイン残基が、残基222に置換され、前記チオール側鎖が、-SCH2CH2NH3+であることを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項19】
前記サブチリシンが、サブチリシンバチルスレンタスであることを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項1】
エステラーゼ活性およびアミダーゼ活性を有する修飾されたサブチリシン酵素であって、該修飾された酵素が、残基62、166、217および222からなる群より選択されるアミノ酸残基に置換されたシステイン残基を有し、
前記アミノ酸残基が、バチルスアミロリクエファシエンスサブチリシンBPN’のアミノ酸残基中の等価物に従って番号付けされ、
前記システイン残基が、該システイン残基中のチオール水素を、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-S(CH2)9CH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)および-SCH2C6F5からなる群より選択されるチオール側鎖で置換されることにより修飾される、
ことを特徴とする修飾酵素。
【請求項2】
前記エステラーゼ活性が、約350s-1mM-1から約11100s-1mM-1までであることを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項3】
前記アミダーゼ活性が、約5.6s-1mM-1から約355s-1mM-1までであることを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項4】
請求項1記載の前記修飾された酵素を含む洗剤添加物。
【請求項5】
請求項1記載の前記修飾された酵素を含む食物添加物。
【請求項6】
前記システイン残基が、残基62に置換され、
前記チオール側鎖が、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-SCH2CH2NH3+および-SCH2CH2SO3−からなる群より選択される、
ことを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項7】
前記チオール側鎖が、-SCH3であることを特徴とする請求項6記載の修飾酵素。
【請求項8】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH3であることを特徴とする請求項6記載の修飾酵素。
【請求項9】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH2NH3+であることを特徴とする請求項6記載の修飾酵素。
【請求項10】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH2SO3−であることを特徴とする請求項6記載の修飾酵素。
【請求項11】
前記システイン残基が、残基166に置換され、
前記チオール側鎖が、-SCH3、-SCH2C6H5、-SCH2CH2NH3+、-SCH2CH2SO3−、-SCH2(p-COOH-C6H4)および-SCH2C6F5からなる群より選択される、
ことを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項12】
前記チオール側鎖が、-SCH2C6H5であることを特徴とする請求項11記載の修飾酵素。
【請求項13】
前記チオール側鎖が、-SCH2(p-COOH-C6H4)であることを特徴とする請求項11記載の修飾酵素。
【請求項14】
前記チオール側鎖が、-SCH2C6F5であることを特徴とする請求項11記載の修飾酵素。
【請求項15】
前記システイン残基が、残基217に置換され、
前記チオール側鎖が、-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH(CH3)2、-S(CH2)4CH3、-S(CH2)5CH3、-SCH2CH2NH3+および-SCH2CH2SO3−からなる群より選択される、
ことを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項16】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH2NH3+であることを特徴とする請求項15記載の修飾酵素。
【請求項17】
前記チオール側鎖が、-SCH2CH2SO3−であることを特徴とする請求項15記載の修飾酵素。
【請求項18】
前記システイン残基が、残基222に置換され、前記チオール側鎖が、-SCH2CH2NH3+であることを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【請求項19】
前記サブチリシンが、サブチリシンバチルスレンタスであることを特徴とする請求項1記載の修飾酵素。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−29195(P2010−29195A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211777(P2009−211777)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2000−528304(P2000−528304)の分割
【原出願日】平成11年1月21日(1999.1.21)
【出願人】(398056506)ジェネンコア インターナショナル インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2000−528304(P2000−528304)の分割
【原出願日】平成11年1月21日(1999.1.21)
【出願人】(398056506)ジェネンコア インターナショナル インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】
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