説明

ペリンドプリルまたはその誘導体の製造方法

【課題】 保護基の使用を必要とせず、また立体異性体を分離する工程を要しないペリンドプリルの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 化合物(IV)と、化合物(V)で表される化合物を反応させることを特徴とする式(I)で表されるペレンドプリルまたはその誘導体の製造方法。
【化17】


(式中、Raは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、Rbは炭素数1〜4のアルキル基、Rcは炭素数1〜9のアルキル基、Rdは水素原子または保護基を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリンドプリルおよびその誘導体の製造方法に関し、さらに詳細には、保護基の使用や立体異性体の分離工程を必要とせず、簡便かつ高収率でペリンドプリルやその誘導体を製造することが可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペリンドプリル(perindpril)は、次の式(Ia)で表される化合物である。
【化7】

【0003】
このペリンドプリルや、そのtert-ブチルアミン塩であるペリンドプリル・エルブミン(perindpril erbumine)は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害剤として知られている。
【0004】
このペリンドプリルやペリンドプリル・エルブミン(以下、「ペリンドプリル等」という)は、その活性型であるペリンドプリラート・ジアシッド(diacid perindoprilat)のプロドラッグであると考えられている。すなわち、経口投与後、ペリンドプリル等は、速やかに体内に吸収され、広範囲で、主として肝臓内で代謝され、ペリンドプリラートと不活性代謝物質、たとえばグルクロン酸抱合物(glucuronide)になる。
【0005】
ところで、アンジオテンシン変換酵素の阻害剤はアンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害するため、ペリンドプリル等は高血圧および心不全の治療に用いられている。該阻害剤は降圧剤であって、血管拡張剤として働き、末梢血管抵抗を減少させる。また、左心室機能不全に対して有益な効果を発揮し、さらに腎疾患に関係するタンパク尿を減少させる。
【0006】
更に、ペリンドプリルの他の有望な治療分野としては心筋梗塞および糖尿病性腎障害があるが、副作用、たとえば、低血圧、皮膚発疹、血管性浮腫、咳、味覚障害、腎障害、高カリウム血症などが報告されている。
【0007】
ところで、ペリンドプリルは、最初は、特許文献1に記載された方法で合成された。しかし現在では、ペリンドプリルは、通例、以下に詳細に説明する方法によって製造されている。
【0008】
最初の方法は、反応前にまずパーヒドロインドールカルボン酸を保護する工程から始まる4段階の方法である。すなわち、下記スキームに示すように、適切に保護されたパーヒドロインドールカルボン酸と、アラニンのような鏡像異性的に純粋であるアミノ酸の反応性誘導体とを窒素原子に結合させることによって、N側鎖を合成する。その側鎖の残りは、還元的アミノ化によって形成するが、これは通常、金属水素化物、たとえばシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用して達成される。その後、脱保護を実施して目的物を得る(特許文献2参照)。
【0009】
【化8】

【0010】
カルボキシ基の保護および脱保護の両方の工程を含めて、ペリンドプリルのこの合成ルートは4工程を含み、還元的アミノ化の段階で、分離しなければならない2つの可能な立体異性体が形成される。したがって、鏡像異性体的に純粋な薬物を製造するためには、いったんペリンドプリルを合成した後、これから不要な立体異性体を分離するという煩雑な工程が必要とされるという問題があった。
【0011】
ペリンドプリルを製造する代替方法としては、特許文献3に記載された製造方法が知られている。この方法は、予め形成された側鎖と適切に保護したパーヒドロインドールカルボン酸の分子種、たとえば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)との結合を含むものである。さらに、これら保護と脱保護工程の両方を含めて、この方法は3工程を要する。
【0012】
また、上述した両方の合成方法において、最終工程は、パーヒドロインドールに結合しているカルボキシレート基の脱保護を含んでおり、通常は、接触水素化(たとえば、保護基がベンジル基の場合)あるいは酸性条件(たとえば、保護基がtert−ブチルの場合)でおこなわれるため、工程数が増えるという不利益がある。さらに、その脱保護工程は、分子内の立体中心のいくつかをエピマー化させるかもしれない。
【0013】
そこで、保護基の使用を必要とせず、また立体異性体を分離する工程を要しないペリンドプリルやその類似体の製造方法の開発が求められていた。
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0049658号明細書
【特許文献2】国際公開第01/87836号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第0037231号明細書
【特許文献4】国際公開第1996/033984号パンフレット
【特許文献5】特公平05−043717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、上記実情の鑑み鋭意検討を行った結果、環状オキサチアゾリン化合物を使用することによって、単純な工程のみで、問題の多い保護基の使用を要せず、さらに、鏡像異性体等の生成を抑え、工業的に有利にペリンドプリルを製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち本発明は、式(IV)
【化9】

(式中、Raは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、Rbは炭素数1〜4のアルキル基、Rcは炭素数1〜9のアルキル基をそれぞれ示す)
で表される化合物と、式(V)
【化10】

(式中、Rdは水素原子または保護基を示す)
で表される化合物を反応させることを特徴とする式(I)
【化11】

(式中、RaないしRdは前記した意味を有する)
で表されるペレンドプリルまたはその誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明方法は、従来の製造方法に比べ少ない工程で製造することができ、また問題の多い保護基の使用を要しないものであり、さらに、鏡像異性体は合成されないため、立体異性体の分離工程を必要としないものである。したがって、本発明によれば、簡便に高収率でペリンドプリルやその塩などを製造することができる。
【0018】
また、本発明方法によれば、副生成物はCSOのみであり、カップリング剤、例えばDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)の使用を避けることができ、これに対応して、問題のある副生物、たとえば、反応混合物から除去することが困難なことが知られるジシクロヘキシルウレアの形成を回避することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明方法において、ペリンドプリルまたはその誘導体(I)は、次の式に従い、化合物(IV)と化合物(V)を、常法に従って反応させることにより製造することができる。
【化12】

(式中、RaないしRdは前記した意味を有する)
【0020】
この反応は、例えば、酢酸エチルやジクロロメタンなどの有機溶媒中で、たとえばトリエチルアミンなどの弱塩基の存在下で行うことができる。
【0021】
より具体的には、上記条件で化合物(IV)と化合物(V)の反応させた後、必要な場合にはパーヒドロインドールカルボン酸での保護基を除去した後に、生成物の単離を行うことにより、目的とする化合物(I)を得ることができる。この単離においては、反応混合物に水を添加して、15℃に冷却することが好ましい。また、酸、たとえば塩酸を添加して、該反応混合物のpHをおよそ4.2程度に調節することが好ましく、その水相を酢酸エチル、ジクロロメタン等の有機溶媒で抽出し、その後、当該有機溶媒を減圧下40℃未満で乾燥させることによって、油状物として式(I)の化合物を得ることができる。
【0022】
また、前記の油状物を、酢酸エチル等の適当な有機溶媒中でtert−ブチルアミンと単に接触させることにより、tert−ブチルアミン塩(たとえばペリンドプリル・エルブミン)に転換させることができる。このような塩を、70%を超える収率で単離することができる。
【0023】
上記の反応で用いられる化合物(V)は、公知のものであり、例えば、特許文献1に記載された製造方法によって得ることができる。この化合物(V)において、好ましい基Rdとしては、水素原子が挙げられるが、ベンジル基のような保護基であってもよい。特に好ましい化合物(V)としては、下記の(2S,3aS,7aS)−2−カルボキシパーヒドロインドール(Va)を挙げることができる。
【化13】

【0024】
一方、同じく上記反応で用いられる化合物(IV)において、基Raは水素原子または炭素数1ないし4のアルキル基であるが、好ましくはメチル基またはエチル基であり、特に好ましくはエチル基である。また、基Rbは、炭素数1ないし4のアルキル基であるが、好ましくはエチル基、プロピル基またはブチル基であり、特に好ましくはプロピル基である。さらに、Rcは、炭素数1ないし9のアルキル基であるが、好ましくはエチル基またはメチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0025】
上記化合物(IV)は、新規化合物であるが、例えば、次の方法により得ることができる。すなわち、下式に従い、式(II)で表される化合物と式(III)で表される化合物を閉環反応させることにより製造できる。
【化14】

【0026】
上記閉環反応は、化合物(II)の求核性の窒素原子および酸素原子が、求電子性の化合物(III)を攻撃する、5−endo−trig型環化反応である。化合物(III)の有する基の特質に依存して、この反応は様々な溶媒中で行うことが可能であるが、一般的には、最も不活性な低沸点の溶媒が反応溶媒として有用であり、たとえば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン等の溶媒中で反応が行われる。
【0027】
上記反応において、出発原料として用いられる化合物(II)は、公知技術(特許文献4参照)により製造することができる。たとえば、上記式(II)で表される化合物のうち、最も好ましいものは下記式(IIa)で表される化合物であるが、このものは、任意に保護されたアラニンと、適切なペンタン酸エステルとの反応から製造できる。
【0028】
また、化合物(II)の別の製造方法としては、次の式で表されるように、式(VI)で表される化合物と、式(VII)で表される化合物を反応させ、得られた反応生成物(VIII)から、保護基を除去する方法を挙げることができる(特許文献5参照)。
【化15】

(式中、RaないしRcは前記の通りであり、Reはそれが結合している酸素原子と一緒に脱離基、たとえば-SOCFを、Bnはベンジル基を示す)
【0029】
より具体的には、化合物(VI)と化合物(VII)を、塩基存在下縮合反応させ、次いで、水素化によってカルボキシル基を脱保護することにより、化合物(II)を得ることができる。
【0030】
上記反応において使用される化合物(VII)は、公知方法によってD−乳酸から製造できる。一方、化合物(VI)はアミノ酸のエステルであり、化合物(II)を得るためには、その立体構造は、(S)であることが望ましい。
【0031】
一方、前記閉環反応に用いる化合物(III)は、化合物(II)にスルフィニル基を導入し、オキサチアゾリジン骨格の形成するものである。この化合物(III)における基XおよびX’は、それぞれ独立に脱離基であるが、XおよびX’が同じであることが好ましく、さらには、ハロゲンであることが好ましく、特に塩素であることが好ましい。この場合において式(III)の化合物は塩化チオニルである。また、他の好ましいXおよびX’としては、塩素およびイミダゾリル基が挙げられる。
【0032】
このようにして化合物(IV)が生成物として得られるが、このものは反応系中から単離することなく前記の反応を行うことも、また、単離し、更に必要により精製してから前記の反応を行うこともできる。
【0033】
なお、化合物(IV)を反応系から単離する場合には、単離前に、たとえば、ピリジンのような塩基を添加することによって、スルフィニル導入試薬である化合物(III)を中和することが好ましい。そしてその後、公知方法、例えば有機相を洗うことによって化合物(IV)単離することができる。
【0034】
上記反応により、オキサチアゾリジン骨格を有する化合物(IV)を、何ら立体化学的喪失なしに、70%を超えた収率で得ることができ、たとえば80%を超える収率も可能である。
【0035】
式(IV)で表される化合物は新規な化合物であり、式(I)で表される化合物の中間体として有用な化合物である。その中でも、特に下記式(IVa)の化合物はペリンドプリルおよびその塩の中間体として極めて有用な化合物である。
【0036】
【化16】

【0037】
本発明方法においては、化合物(IV)として、上記化合物(IVa)を選択し、化合物(V)として前記化合物(Va)を選択した場合の反応生成物は、ペリンドプリルであり、これを公知の精製方法によって精製するか、あるいは、塩、たとえばtert−ブチルアミン塩として直ちに結晶化させることができる。
【0038】
そして、本発明方法によって製造される化合物である、ペリンドプリルやその塩は、高血圧や心不全などの治療薬に用いられる有用な成分であり、医薬組成物の有効成分として処方することができ、経口、経粘膜などの任意の標準的な経路、あるいは注射によって投与することができるものである。
【0039】
ペリンドプリル等の合成における、オキサチアゾリジン骨格を有する化合物の利用は、他に一例の報告があるのみである(特許文献4参照)。しかし、この報告では、上記化合物(V)に対応するパーヒドロインドールに結合しているカルボキシレート基は保護されているため、保護-脱保護の2工程が加算されることになる。また、脱保護においても通常は、接触水素化(たとえば、保護基がベンジル基の場合)あるいは酸性条件(たとえば、保護基がtert-ブチルの場合)でおこなわれるため、基RaやRdにおける保護基の選択に制限が生じるという問題がある。
【0040】
これに対し、本発明方法では、そのような制約がなく、経済的に優れたものである。
【実施例】
【0041】
次に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0042】
実 施 例 1
(2S,3aS,7aS)−1−(S)−N−(S)−1−カルボキシヘキサ
ヒドロ−2−インド−ル カルボキシレート(ペリンドプリル エルブミン)
の製造方法:
1L容の3頚フラスコに、無水塩化メチレン(モレキュラーシーブ乾燥)810.6mLを入れ−5℃とした。塩化チオニル35.21g(21.6mL−0.296mol)を加え攪拌溶解した。−5℃で、イミダゾ−ル81.6g(1.199mol)を加えた。冷却浴を取りはずし1時間攪拌後、析出した結晶を吸引濾去した。得られた結晶を120mLの無水塩化メチレンで洗い、−5℃とし再度、塩化チオニル35.21g(21.6mL−0.296mol)を加え、冷却浴を取りはずし1時間攪拌した。
【0043】
濾液に無水塩化メチレン(モレキュラーシーブ乾燥)1200mLを加え、−20℃とし、115.8g(95.9%0.533mol)の2(S)−2−[[(S)−1(エトキシカルボニル)ブチル]アミノ]プロピオン酸](PSCII)を7分割し、10分おきに粉末のままゆっくり加えた。添加後65分攪拌し、自然に室温に戻した。吸引濾過し、結晶を無水塩化メチレン120mLで洗浄した。
【0044】
別途、5L容3頚フラスコに攪拌プロペラをセットし、これに1200mL乾燥塩化メチレンに懸濁した(2S,3aS,7aS)−オクタヒドロ-1H−インドール−2−カルボン酸(純度65%)138.76g(0.533mol)を取り、トリエチルアミン146.82ml(1.045mol)を加え、1.5時間、0℃で攪拌した。この溶液に、上記の塩化チオニル−イミダゾール溶液を攪拌下、1.5時間かけ滴下した。液体クロマトグラフィーで生成物を測定し、1時間攪拌した。さらにジエチルアミン9.02g(0.0533mol)を加え0.5時間攪拌した。
【0045】
この溶液から塩化メチレンの懸濁物を吸引ろ過、減圧留去した。次いで酢酸エチル1200mLで溶解し、食塩水(180gのNaClを水600mL)を加え、6N−塩酸(約40mL)でpH4.35付近に調整し、分液した。次いで水相を酢酸エチルで抽出した。このとき界面に生ずる懸濁物は吸引ろ過した。硫酸ナトリウム(約50g)で酢酸エチル相を乾燥、留去し油状物122gを得た。
【0046】
酢酸エチル900mLにこの油状物を溶解し、t−ブチルアミン97.5mLを加え、約3時間攪拌した。攪拌後、析出した結晶を濾取し、これを減圧乾燥して191g(0.519mol)のペリンドプリル・エルブミン粗結晶を得た。収率は81.3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明方法は、ペリンドプリルおよびその誘導体を、簡便な工程により高収率で得ることができるものである。
【0048】
したがって、本発明は、ACE阻害剤として作用し、高血圧や心不全等の疾患の治療剤として有用なペリンドプリルおよびその誘導体を製造する方法として極めて有利に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IV)
【化1】

(式中、Raは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、Rbは炭素数1〜4のアルキル基、Rcは炭素数1〜9のアルキル基をそれぞれ示す)
で表される化合物と、式(V)
【化2】

(式中、Rdは水素原子または保護基を示す)
で表される化合物を反応させることを特徴とする式(I)
【化3】

(式中、RaないしRdは前記した意味を有する)
で表されるペリンドプリルまたはその誘導体の製造方法。
【請求項2】
式(IV)で表される化合物が、式(II)
【化4】

(式中、RaないしRcは前記した意味を有する)
で表される化合物と、式(III)
【化5】

(式中、XおよびX’はそれぞれ独立して脱離基を示す)
で表される化合物とを反応させることにより得られたものである請求項第1項記載のペリンドプリルまたはその誘導体の製造方法。
【請求項3】
基Raが水素原子またはエチル基である請求項1または2に記載のペリンドプリルまたはその誘導体の製造方法。
【請求項4】
基Rbがメチル基である請求項1ないし3の何れかに記載のペリンドプリルまたはその誘導体の製造方法。
【請求項5】
基Rcがプロピル基である請求項1ないし4の何れかに記載のペリンドプリルまたはその誘導体の製造方法。
【請求項6】
基Rdがtert−ブチルアミノ基である請求項1ないし5の何れかに記載のペリンドプリルまたはその誘導体の製造方法。
【請求項7】
式(IV)
【化6】

(式中、Raは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、Rbは炭素数1〜4のアルキル基、Rcは炭素数1〜9のアルキル基をそれぞれ示す)
で表される化合物。

【公開番号】特開2008−19214(P2008−19214A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193134(P2006−193134)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(390028509)シオノケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】