説明

ペンタメチレンジアミンの製造方法

【課題】製造工程で副生塩がほとんど無く、安価な製品が供給可能なペンタメチレンジアミンの製造方法を提供する。
【解決手段】リジン水溶液に炭酸ガスを吹き込むことによりリジン炭酸塩水溶液を調製し、該 リジン炭酸塩水溶液にL−リジン脱炭酸酵素を作用させて、該酵素の反応によりペンタメチレンジアミン炭酸塩を生成させることを含むペンタメチレンジアミンの製造方法であって、反応溶液の攪拌動力、温度および圧力から選ばれる少なくとも一つの条件を調節することにより、反応溶液に中和剤を添加せずに、反応が完結するまで該酵素の反応に適したpHに維持することを特徴とするペンタメチレンジアミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペンタメチレンジアミンの製造方法、該方法により得られるペンタメチレンジアミンを原料として用いるポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックの原料としては、主にナフサ等の化石原料が用いられている。しかし、プラスチックを廃棄する場合、再生利用する場合を除くと、焼却等の手法で廃棄せざるを得ないが、これは炭酸ガスの放出を招くこととなる。そこで、地球温暖化防止及び循環型社会の形成に向けて、プラスチックの製造原料をバイオマス由来の原料に置き換えることが嘱望されている。このようなニーズは、フィルム、自動車部品、電気・電子部品、機械部品等の射出成型品、繊維、モノフィラメント等、多岐にわたる。
【0003】
プラスチックの中でも、ポリアミド樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性等に優れており、いわゆるエンジニアリングプラスチックスの1つとして多くの分野で用いられている。中でもフィルムは、二軸延伸ポリプロピレンフィルムや二軸延伸ポリエステルフィルム等に比べ、優れた機械的特性、耐熱性、透明性、ガスバリア性などの特徴を有しており、食品、医薬品、雑貨などの包装用フィルムとして広く利用されている。
【0004】
バイオマス由来の原料を使用して製造されるポリアミド樹脂としては、ペンタメチレンジアミン及びジカルボン酸からなる塩(ペンタメチレンジアミン・ジカルボン酸塩)を原料とし、これらを重合させて得られるものが知られている。例えば、5,6−ナイロンは、ペンタメチレンジアミン及びアジピン酸からなる塩(ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩)を重合することにより製造される。
【0005】
ポリアミド樹脂の原料となるペンタメチレンジアミン及び/又はペンタメチレンジアミン塩(ペンタメチレンジアミン類)を製造する方法として、例えば、特許文献1〜3には、リジン及び/又はリジン塩(リジン類)の溶液を原料とし、これにリジン脱炭酸酵素(Lysine Decarboxylase:LDC)を作用させ、酵素的脱炭酸反応をさせることにより、ペンタメチレンジアミン類の溶液を得る方法が開示されている。リジン脱炭酸酵素としては、微生物由来のものが用いられる。
【0006】
ここで、リジンの酵素的脱炭酸の至適pHは中性付近にあり、このpHに反応溶液を維持するように酸を中和剤として添加しながら、脱炭酸反応を行う方法が知られている。しかしながら、無機酸や有機酸を中和剤として用いる場合、ペンタメチレンジアミンを精製する際に添加した酸由来の塩が副生する等の問題があった。
【0007】
これを解決する方法としてポリアミド樹脂の原料であるアジピン酸で中和する方法がある(特許文献4)。この場合は精製工程における副生塩の削減は可能であるが、晶析による精製になるため、高純度にするためには収率を下げるか、有機溶媒等を用いる必要があった。また、中和に炭酸ガスを用いる方法もある。この場合も副生塩を削減は可能であるが、反応中に炭酸ガスを通気しているため、多くの炭酸ガスを必要とする問題があった(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−223770号公報
【特許文献2】特開2002−223771号公報
【特許文献3】特開2004−114号公報
【特許文献4】特開2005−006650号公報
【特許文献5】WO2006/123778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、製造工程で副生塩がほとんど無く、安価な製品が供給可能なペンタメチレンジアミンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、リジン炭酸塩水溶液にL−リジン脱炭酸酵素を作用させる際に、攪拌、温度、圧力を調整して反応により生成する炭酸ガスを反応系内に可能な限りとどめれば、反応溶液のpHを反応に適した値に維持でき、反応溶液中に無機酸、有機酸、炭酸ガス等の中和剤を添加しなくても精製の容易なペンタメチレンジアミン炭酸塩が製造できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、下記[1]〜[6]に存する。
[1]リジン水溶液に炭酸ガスを吹き込むことによりリジン炭酸塩水溶液を調製し、該リジン炭酸塩水溶液にL−リジン脱炭酸酵素を作用させて、該酵素の反応によりペンタメチレンジアミン炭酸塩を生成させることを含むペンタメチレンジアミンの製造方法であって、反応溶液の攪拌動力、温度および圧力から選ばれる少なくとも一つの条件を調節することにより、反応溶液に中和剤を添加せずに、反応が完結するまで該酵素の反応に適したpHに維持することを特徴とするペンタメチレンジアミンの製造方法。
[2]反応に適したpHが、pH6.5〜8.5の範囲内である、上記[1]に記載の方法。
[3]攪拌動力が1w/L以下である、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]反応溶液からペンタメチレンジアミン炭酸塩を分離し、分離したペンタメチレンジアミン炭酸塩を熱分解することによりペンタメチレンジアミンを得る、上記[1]ないし[3]のいずれかに記載の方法。
[5]熱分解により発生する炭酸ガスを、リジン炭酸塩水溶液の調製に用いる、上記[4]に記載の方法。
[6]上記[1]ないし[5]のいずれかに記載の方法で得られるペンタメチレンジアミンとジカルボン酸とを重縮合させることを特徴とするポリアミドの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無機酸、有機酸、炭酸ガス等の中和剤を反応溶液中に添加することなくペンタメチレンジアミンを製造することができるので、生成する副生塩の削減が可能となり、安価なペンタメチレンジアミンを効率的に供給することができる。さらにバイオマス由来の原料を用いることが可能であるため、地球温暖化の防止や循環型社会を形成する上で極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例で用いたcad遺伝子増幅株が有するプラスミドpCAD1の構築方法とその物理地図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
【0015】
本発明のペンタメチレンジアミンの製造方法は、リジン水溶液に炭酸ガスを吹き込むことによりリジン炭酸塩水溶液を調製し、該リジン炭酸塩水溶液にL−リジン脱炭酸酵素を作用させて、該酵素の反応によりペンタメチレンジアミン炭酸塩を生成させることを含む方法であって、反応溶液の攪拌動力、温度および圧力から選ばれる少なくとも一つの条件を調節することにより、反応溶液に中和剤を添加せずに、反応が完結するまで該酵素の反応に適したpHに維持することに特徴をもつものである。
【0016】
反応に用いるリジン炭酸塩は、100%の炭酸塩である必要は無く、部分的に他のリジン塩、具体的にはリジン塩酸塩、リジン硫酸塩等を含んでいても良い。
【0017】
リジン炭酸塩はリジン水溶液に炭酸ガスを吹き込むことで調製される。この炭酸ガスとして、後述するペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解で発生する炭酸ガスを利用することが好ましい。
炭酸ガスの吹き込みは、加圧下で行っても良い。これにより、溶液をより低いpHとすることができる。
【0018】
反応に用いるリジン炭酸塩の溶液は、酵素的脱炭酸反応に際し、それに適したpHとなるように調整する。具体的には、pHとしては、通常6.0以上、好ましくは6.5以上、より好ましくは7.0以上であり、上限は、通常8.5以下、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.5以下である。
【0019】
リジンの酵素的脱炭酸によりペンタメチレンジアミンを生成する反応は、例えば、上記のようにして中和されたリジン溶液にL−リジン脱炭酸酵素(以下これを「LDC」と略称することがある)を添加することによって行うことができる。
【0020】
LDCとしては、リジンに作用してペンタメチレンジアミンを生成し得るものであれば特に制限はない。LDCとしてはLDCを産生する微生物、植物細胞又は動物細胞等の細胞を用いてもよい。LDC又はそれを産生する細胞は、1種でもよく、2種以上の混合物であってもよい。また、細胞をそのまま用いてもよく、LDCを含む細胞処理物を用いてもよい。細胞処理物としては、細胞破砕液、及びその分画物が挙げられる。また、精製された酵素であっても構わない。
【0021】
前記微生物としては、大腸菌(E. coli)等のエシェリヒア属細菌、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)等のコリネ型細菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtills)等のバチルス属細菌等の細菌、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の真核細胞が挙げられる。これらの中では細菌、特に大腸菌(E. coli)が好ましい。
【0022】
前記微生物は、LDCを産生する限り、野生株でもよく、変異株であってもよい。また、LDC活性が上昇するように改変された組換え株であってもよい。植物細胞又は昆虫細胞等の動物細胞も、LDC活性が上昇するように改変された組換え細胞として用いることができる。
【0023】
次に、LDC活性が上昇するように微生物や細胞を改変する方法について説明する。
LDC活性は、遺伝子のコピー数を高めること、遺伝子の転写調節領域の改良などによって上昇させることができる。これらの手法は単独、あるいは組み合わせて行うことができる。
【0024】
LDCをコードする遺伝子(LDC遺伝子)のコピー数を高めることは、LDC遺伝子を多コピー型のベクターと連結して、該遺伝子を宿主細胞に導入して形質転換すうことにより達成できる。また、LDC遺伝子のコピー数を高めるには、染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。微生物の染色体DNA上に遺伝子を多コピー存在させるには、相同組換え用プラスミド等を用いることにより達成できる。
【0025】
転写調節領域の改良によるLDC活性の上昇は、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることである。例えば、宿主内で強力に発現するプロモーターを導入しても良く、大腸菌においては、例えばlac、tac、trp等のプロモーターの導入が好適である。また、プロモーターに変異を導入することによってプロモーター強化を行い、下流にある遺伝子の転写量を増加させることもできる。
【0026】
LDC遺伝子としては、コードされるLDCが、リジンの脱炭酸反応に有効利用できるものであれば特に制限されないが、大腸菌(E. coli)等の細菌や、特開2002−223770号公報に記載の微生物のLDC遺伝子が挙げられる。
【0027】
大腸菌(E. coli)のLDC遺伝子としては、cadA遺伝子及びldc遺伝子(米国特許第5,827,698号)が知られている。これらの中ではcadA遺伝子が好ましい。大腸菌(E. coli)のcadA遺伝子は既に配列が知られている(N. Watson et al., Journal of bacteriology (1992), vo.174, p.530-540; S. Y. Meng et al., Journal of bacteriology (1992) vo.174, p.2659-2668; GenBank accession No.M76411)、その配列に基づいて作成したプライマーを用いてPCRにより遺伝子を増幅させることにより、大腸菌(E. coli)染色体DNAから単離することができる。このようなプライマーとしては、配列番号1及び2に示す塩基配列を有するプライマーが挙げられる。
【0028】
LDC遺伝子は、野生型であってもよいし、変異型であってもよい。変異部位はLDC活性が保存されていれば良い。遺伝子に変異を生じさせるには、当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法以外に、部位特異的変異法(Kramer,W. and Frita,H.J., Methods in Enzymology, vol.154,P.350(1987))リコンビナントPCR法(PCR Technology, Stockton Press(1989))等がある。
【0029】
前記LDCを産生する微生物や細胞、好ましくはLDC活性が上昇するように改変された微生物又は細胞を、それら微生物又は細胞の特性に応じて、それ自体既知のLDCの産生に適した方法で培養することにより、本発明で用いるL−リジン脱炭酸酵素(LDC)を調製することができる。
【0030】
培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地でよい。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物等の糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトール等のアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン、大豆加水分解物等の有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有また、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。これらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0031】
培養条件も制限は無く、例えば大腸菌(E. coli)の場合は、好気的条件下で16〜72時間程度実施するのがよく、培養温度は30〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御する。pH調整には無機或いは有機の酸性又はアルカリ性物質、更にアンモニア等を使用することができる。
【0032】
なお、LDC遺伝子が、誘導可能なプロモーターによって発現が調節されている場合には、誘導剤を培地に添加すると効果的である。
【0033】
培養後、細胞は、遠心分離機や膜分離を用いて、培養液から回収することができる。回収した細胞は、そのまま用いてもよいが、破砕抽出物を用いても良い。LDCを含む破砕抽出物は、細胞を、超音波、フレンチプレス、ダイナミル又は酵素処理することにより得ることができる。また、破砕抽出物から定法に従って精製した酵素を用いることもできる。
【0034】
本発明においては、上記のとおり、リジン炭酸塩水溶液にL−リジン脱炭酸酵素(LDC)を作用させて、該酵素の反応により、リジンを脱炭酸させてペンタメチレンジアミンを生成させる。このとき、水溶液(反応溶液)中に存在する炭酸が対イオンとなり、ペンタメチレンジアミン炭酸塩が生成する。
【0035】
ここで、リジン脱炭酸反応の際には、生産速度および反応収率向上のため、反応溶液にピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサルおよびピリドキサルリン酸から選ばれる少なくとも1種のビタミンB6を添加することが好ましく、なかでもピリドキサルリン酸を添加することが特に好ましい。ビタミンB6を添加する方法には特に制限はなく、反応中に適宜添加すれば良い。
【0036】
酵素の添加量を多くすれば生産速度は速くなるが、酵素作成のコストが高くなる。また、多量の酵素添加により、酵素たんぱく質由来の不純物がペンタメチレンジアミンとジカルボン酸の重縮合を阻害する場合がある。このため、酵素の添加量は、反応が良好に進む範囲内でできるだけ少量にすることが好ましい。具体的には、1Lあたりの酵素量は通常100〜50,000Uであり、より好ましくは500〜30,000Uである。なお、Uは酵素(LDC)活性の単位、即ちpH6.5、温度37度の条件で1分間に1マイクロモルのリジンをペンタメチレンジアミンに変換することができる酵素量である。
【0037】
リジン炭酸塩の溶液にLDCを添加して反応を開始した後は、反応の進行に伴い、リジンから遊離される炭酸ガスが反応溶液から放出され、pHが上昇する。従って、反応溶液のpHがLDCによる脱炭酸反応に適したpHに維持可能なように、温度、圧力および攪拌から選ばれる少なくとも一つの条件を調節して生成する炭酸ガスをできる限り系内にとどめておく必要がある。
【0038】
温度は低いほど炭酸ガスが溶液中に溶解するため好ましいが、低くなるほど反応速度が低下し、また冷却コストがかかることになる。具体的には、通常30℃〜45℃であり、より好ましくは35〜40℃である。
【0039】
攪拌はしないほうが好ましいが、菌体等の固体を含んだ反応の場合は、均一な混合状態となる程度に攪拌することが好ましい。攪拌はLDCによる脱炭酸反応に適したpHに保持されればよい。単位体積当たりの攪拌動力に特に限定は無いが、通常0.01W/L以上であり、またその上限は、通常7W/L未満、好ましくは1W/L以下である。
【0040】
ここで、溶液の撹拌にともない撹拌翼の軸に負荷トルクが生ずる。トルクとは軸中心からの距離[m]と接線方向の力の積であり、その慣用単位は力に重量キログラムを用いた[kgf・m]である。負荷トルクT[kgf・m]が求まると、撹拌の動力P’[kgf・m/s]=2πNT/60で求めることができる(N:軸回転速度[r.p.m.])。これをP[W]単位に換算(1kgf・m/s=9.80×10-6W)し、反応液1Lあたりの値を、本発明における撹拌動力とする。
【0041】
攪拌翼、反応槽、邪魔板の形状などはほぼ均一な混合状態ができれば特に限定されないが、攪拌翼は低粘性流体の混合に適したタービンやマリンプロペラ翼が好ましい。また、低回転でも十分な混合を得るために、攪拌翼の直径は、通常、反応槽直径の3分の一以上にすること、また、攪拌翼を高さの異なる位置に複数枚をとりつけることが好ましい。
【0042】
圧力は常圧でも構わないが、高いほうが炭酸ガスの溶液中に溶解するため好ましい。
特に攪拌動力を多く必要な場合は圧力が高いほうがpHを維持するために有利である。具体的には、通常、大気圧(98kPa)〜1MPaであり、より好ましくは大気圧(98kPa)〜0.3MPaである。
【0043】
pHは、反応が進行する範囲、すなわち酵素の反応に適した範囲であれば特に限定されないが、反応中のpHは炭酸ガスの形態と酵素の至摘pHによって決定される。反応に適したpHは、通常6.0〜8.5の範囲内、好ましくは6.5〜8.5の範囲内、より好ましくは7.0〜8.5の範囲内である。なお、pH6.0程度の反応溶液を調製するためには、加圧下で炭酸ガスを吹き込む必要がある。
【0044】
本発明において、反応の完結は、反応溶液中のリジン残存量で決められる。リジンの残存量が少ないほど好ましく、リジン残存量が通常10%未満、好ましくは2%以下となった時を反応の完結と見なす。
ここで、反応溶液中のリジン残存量は、アミノ酸分析計や酵素電極を利用したリジン分析計で分析できる。
【0045】
本発明において、反応溶液のpHは、上記のとおり、反応溶液に中和剤を添加することなく、反応の完結まで酵素の反応に適したpHに維持される。
【0046】
反応により得られるペンタメチレンジアミンの分離・精製の方法は特に限定されず、それ自体既知の何れの方法を用いても良いが、ペンタメチレンジアン炭酸塩を熱分解し、得られる粗ペンタメチレンジアミンを蒸留により精製するのが好ましい。熱分解により発生する炭酸ガスは、リジン炭酸塩水溶液の調製に用いることができる。
【0047】
次に、反応溶液からのペンタメチレンジアミンの分離・精製について、さらに詳細に説明する。
ペンタメチレンジアミン炭酸塩は、上記のとおり、加熱することにより熱分解する。そのため、熱分解は、加熱を伴う濃縮、還流、脱水蒸留、蒸留等のいずれの行程においても起こり得る。従って、本願における熱分解温度は、加熱を伴う全行程における温度と等しい。
【0048】
ペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解温度は、通常110℃以上、好ましくは120℃以上、さらに好ましくは130℃以上、特に好ましくは150℃以上であり、また上限は、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは220℃以下、特に好ましくは200℃以下である。
ペンタメチレンジアミン炭酸塩の加熱温度が過度に低いと、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解が進行せず、その後に行われる蒸留操作による収率が低下する傾向がある。また、加熱温度が過度に高いと、ペンタメチレンジアミンが分解する可能性がある。
ペンタメチレンジアミン炭酸塩の加熱時間は、特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上である。
【0049】
ペンタメチレンジアミン炭酸塩を含む反応溶液は、通常、水溶液として得られる。この場合、加熱処理により蒸発する水の蒸発潜熱のため、そのまま加熱した場合、水溶液の温度が上昇しにくい。このため、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解が進行せずに、脱水後にペンタメチレンジアミン炭酸塩が析出する可能性がある。
このため、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を、必要に応じて濃縮操作を施し、所定の濃度に調製した後、水溶液を還流等の操作により、水溶液中に含まれる大部分のペンタメチレンジアミン炭酸塩を分解し、その後、脱水蒸留等を行うことが好ましい。
【0050】
還流の温度は水溶液中の水分により異なり、水分濃度が低い場合はより高温での還流が可能である。還流温度は、通常100℃〜180℃の範囲であり、又還流時間は通常1時間以上、好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上である。
【0051】
また、同様な効果が得られる操作として、水溶液に含まれるペンタメチレンジアミン炭酸塩が析出しない条件で、脱水蒸留を行いながら大部分のペンタメチレンジアミン炭酸塩を分解することが好ましい。この場合、バッチ式では、先ず、100℃〜120℃で脱水蒸留を行う。水分量の減少と共に内温が上昇し、160℃〜180℃付近になるとペンタメチレンジアミンが留去し始め、脱水はほぼ完了する。また、その時の温度はペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解に十分な温度に到達しており、粗ペンタメチレンジアミンが得られる。
【0052】
なお、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の熱分解を、連続運転装置を使用して行う場合、熱分解に必要な温度に保たれた反応槽に、所定量のペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を供給し、脱水を行いながら分解する方法が好ましい。
【0053】
また、連続運転装置を使用する場合は、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解を効率よく行うために、次のような2つのステージが考えられる。
第1ステージとして、先ず、蒸留塔にて減圧下、加熱により、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の脱水を行う。水分が少なく、さらに脱水条件下での加熱によりペンタメチレンジアミン炭酸塩の一部が分解した缶出部の溶液を、次の第2ステージへ移送する。
第2ステージとして、第1ステージから移送された溶液を、各種条件を制御して加熱分解させる。このとき、ペンタメチレンジアミン炭酸塩をほぼ完全に分解することが好ましい。次に、缶出部より得られた粗ペンタメチレンジアミンを、減圧下、蒸留してペンタメチレンジアミンを得る。
【0054】
さらに、上記の方法とは別に、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の脱水や熱分解、ペンタメチレンジアミンの蒸留を1つの装置で行うこともできる。例えば、多段蒸留塔等を使用し、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を蒸留塔の中央付近より供給し、蒸留塔の缶出部を高温にすることにより、ペンタメチレンジアミン炭酸塩がほぼ完全に分解する。蒸留塔の最上部からは、水と二酸化炭素を回収し、蒸留塔中段からは蒸留したペンタメチレンジアミンを回収する。
【0055】
上述した熱分解により、水溶液中のペンタメチレンジアミン炭酸塩が、ペンタメチレンジアミンと二酸化炭素とに分解する。熱分解処理後の水溶液に含まれるペンタメチレンジアミンの濃度は、ペンタメチレンジアミンと分解せずに残存するペンタメチレンジアミン炭酸塩との合計濃度を100mol%として、通常75mol%以上、好ましくは90mol%以上、さらに好ましくは95mol%以上、特に好ましくは99mol%以上である。
水溶液中に残存するペンタメチレンジアミン炭酸塩量が過度に多いと、蒸留によりペンタメチレンジアミンを精製する際、蒸留塔ボトムに炭酸塩として析出し、収率が低下する場合がある。
【0056】
上記熱分解や、後述する蒸留精製にかける前に、遠心分離、膜分離等により、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液から、微生物(菌体)等に由来する固形分を除き、必要に応じて濃縮しておくことが好ましい。さらに、濃縮前に脱炭酸を行うと濃縮中の発泡が抑えられて効率的である。
また、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液には、通常、未反応のリジン、LDC反応により副生するアルギニン酸等のアミノ酸や、りんご酸、クエン酸等の有機酸、タンパク質、核酸、多糖類等の高分子物質等の不純物が含まれている。このような不純物が残存した状態で、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の加熱、蒸留操作を行うと、蒸留塔の塔底等に不純物が原因と考えられる高粘度物質が堆積し、伝熱低下等の諸種のトラブルの原因となる可能性がある。
このため、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中の不純物を、少なくとも後述する蒸留精製の前に、好ましくは熱分解処理を行う前に、予め低減させることが好ましい。
【0057】
ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中に存在するアミノ酸や有機酸は、LDCとして用いる微生物(菌体)に由来する。このため、リジンのLDC反応時に使用する菌体の量を所定範囲内に抑えることによりこれら不純物を低減することができる。さらにリジンは、LDC反応の転化率が約100%になるまでLDC反応を行うことにより、リジン濃度を検出限界以下にすることが可能である。
上述した操作により、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中に含まれるアミノ酸や有機酸の合計含有量を、水溶液に含まれるペンタメチレンジアミンに対するモル比率で、通常0.003以下、好ましくは0.0025以下、さらに好ましくは0.002以下、特に好ましくは0.0015以下に低減する。
【0058】
ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中に存在する高分子物質は、通常、水溶液中に吸着剤を添加して吸着させる方法、水溶液を所定のサイズの膜により濾過する方法等により、除去することができる。中でも簡便性と除去効果の観点から、水溶液を限外濾過膜(UF膜)で処理する方法が好ましい。
【0059】
水溶液をUF膜で処理することにより、水溶液中に含まれる分子量12,000以上、好ましくは分子量5,000以上、特に好ましくは分子量1,000以上の高分子不純物を除去する。
UF膜の材質は、例えば、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、アクリロニトリル共重合体、ポリアミド12等が挙げられる。中でもアクリロニトリル共重合体が好ましい。
UF膜の膜形状は、平膜、中空糸、板、管、スパイラル巻き等が挙げられる。中でも中空糸が好ましい。また、種々のUF膜モジュールが各社から販売されており、操作のしやすさからモジュール化したものが好ましい。
【0060】
熱分解により得られる粗ペンタメチレンジアミンを、蒸留により、さらに高純度に精製することができる。
蒸留に際し、水溶液中に含まれるペンタメチレンジアミンの濃度は、ペンタメチレンジアミンと分解せずに残存するペンタメチレンジアミン炭酸塩との合計を100mol%として、75mol%以上、好ましくは90mol%以上、さらに好ましくは95mol%以上、特に好ましくは99mol%以上である。
蒸留温度は、通常50℃〜180℃、好ましくは60℃〜150℃、さらに好ましくは70℃〜120℃である。蒸留圧は、通常5Torr(0.7kPa)〜760Torr(101kPa)、好ましくは10Torr(1.3kPa)〜400Torr(53kPa)、さらに好ましくは15Torr(2kPa)〜100Torr(13.3kPa)である。
なお、蒸留により得られる精製ペンタメチレンジアミンには、一部、ペンタメチレンジアミン炭酸塩が含まれる可能性がある。しかし、この炭酸塩は容易にジカルボン酸と塩交換をするため、ポリアミドの製造に供する単量体として問題なく使用することができる。
【0061】
かくして得られるペンタメチレンジアミンとジカルボン酸とを単量体成分とし、これらを重縮合触媒の存在下に重縮合させることによりポリアミドを製造することができる。
単量体成分として用い得るジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
これらのジカルボン酸の中でも、脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸が特に好ましい。また、ジカルボン酸としてアジピン酸を用いる場合、ジカルボン酸中のアジピン酸の濃度は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは100重量%である。
さらに、ポリアミド樹脂としての特性を損なわない程度において、それ自体既知の他の単量体成分を併用して重縮合することもできる。
【0062】
ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸との重縮合方法は特に限定されず、従来公知の方法から適宜選択することができる。また、重縮合触媒は、従来公知のものの中から適宜選択して使用することができ、特に限定されない。一般的なポリアミド樹脂の製造方法としては、例えば、「ポリアミド樹脂ハンドブック」(日刊工業株式会社出版:福本修編)等に開示されている。
重縮合方法の一例としては、例えば、ペンタメチレンジアミン及びジカルボン酸を含む水溶液を高温高圧下で、脱水反応を進行させる加熱重縮合法が挙げられる。ここで、加熱重縮合法において、重縮合反応の最高温度は200℃以上、通常300℃以下である。重縮合方式には、特に制限は無く、回分式または連続方式が採用できる。
なお、加熱重縮合法により得られたポリアミド樹脂を、例えば、真空中または不活性ガス中で100℃以上、融点以下の温度で加熱することにより、ポリアミドの分子量を高くすることができる。
また、ペンタメチレンジアミン及びジカルボン酸を高温高圧下で重縮合して得られたオリゴマーを高分子量化する方法、ペンタメチレンジアミンを溶解した水溶液とジカルボン酸塩を水性溶媒又は有機溶媒に溶解させた溶液とを接触させ、これらの界面で重縮合反応させる界面重縮合法等が挙げられる。
【0063】
ペンタメチレンジアミン及びジカルボン酸の重縮合により得られるポリアミドの分子量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。実用性の観点から、通常、ポリアミド樹脂の25℃における98%硫酸溶液(ポリアミド樹脂濃度:0.01g/ml)の相対粘度の下限が、通常1.5、好ましくは1.8、特に好ましくは2.2であり、上限は、通常8.0、好ましくは5.5、特に好ましくは3.5である。相対粘度が過度に小さいと実用的強度が得られない傾向がある。相対粘度が過度に大きいと、ポリアミド樹脂の流動性が低下し、成形加工性が損なわれる傾向がある。
【0064】
本発明の方法で得られるポリアミドは、必要に応じて各種の添加剤や他の樹脂と配合し、ポリアミド樹脂組成物として用いることができる。
本発明の方法で得られるポリアミドやその組成物は、所望の形状に成形し、各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0066】
[リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA遺伝子)増強株の作製]
cadA遺伝子増強株を次のとおり作製した。
(A)大腸菌DNAの抽出
LB培地[組成:トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl 5gを蒸留水1Lに溶解]10mLに、大腸菌(E. coli)JM109株を対数増殖期後期まで培養し、得られた菌体を10mg/mLのリゾチームを含む10mM NaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。
【0067】
次に、上記懸濁液にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15,000×g、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
【0068】
(B)cadA遺伝子のクローニング
大腸菌cadA遺伝子の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されている大腸菌K12−MG1655株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.U00096)を基に設計した合成DNA(配列番号1および配列番号2)を用いたPCRによって行った。
【0069】
反応液組成:鋳型DNA 1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO4、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。
反応温度条件:DNAサーマルサイクラーPTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で2.5分からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は10分とした。
【0070】
PCR反応終了後、増幅産物をエタノール沈殿により精製した後、制限酵素KpnIおよび制限酵素SphIで切断後した。このDNA標品を、0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts社製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することによりcadAを含む約2.6kbの断片を検出し、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて目的DNA断片の回収を行った。
【0071】
回収したDNA断片を、大腸菌プラスミドベクターpUC18(宝酒造社製)を制限酵素KpnIおよび制限酵素SphIで切断して調製したDNA断片と混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造社製)を用いて連結後、得られたプラスミドDNAを用いて大腸菌(JM109株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLアンピシリン、0.2mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)および50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。
【0072】
この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素KpnIおよび制限酵素SphIで切断することにより、約2.5kbの挿入断片が認められることを確認し、このプラスミドをpCAD1と命名し、pCAD1を含む大腸菌株をJM109/pCAD1と命名した。
プラスミドpCAD1の構築方法とその物理地図を図1に示す。
【0073】
[リジンの測定]
反応中の溶液におけるリジンの残存濃度の測定は、王子計測機器社製BF−5バイオセンサにL−リジン測定用酵素電極を取り付け、フローインジェクション方式により行なった。反応用液中のリジン残存濃度からペンタメチレンジアミンの転換率(%)を求めた。
【0074】
実施例1
(1)cadA遺伝子増幅株の培養
大腸菌JM109/pCAD1株をLB培地入りフラスコで前培養した後、5mlの培養液を500mLのLB培地が入った1L容ジャーファーメンターに接種し、通気量0.5vvm、35℃、600rpmで通気攪拌培養を行った。培養4時間目に、滅菌したIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を終濃度で0.5mMになるように添加し、その後14時間培養を継続した。これを10000gの10分で遠心分離し、10倍に濃縮し、酵素液とした。
【0075】
(2)リジン炭酸塩の製造
30%(w/v)リジンベース(リジン塩基)溶液500mLを1L容ジャーファーメンターにいれ、炭酸ガス0.5vvm、35℃、600rpmでpHの調整を行った。pHは炭酸ガスの通気とともに低下し6時間後に7.2まで低下した。これを反応に用いるリジン炭酸塩水溶液とした。
【0076】
(3)ペンタメチレンジアミンの製造
リジン炭酸塩水溶液にピリドキサル燐酸を0.1mMになるように加え、さらに酵素液を5ml添加し(反応液1LあたりのLDC添加量:5000U)、反応を開始した。37℃、300rpm(攪拌動力:0.28W/L)、常圧の条件で反応を行った。反応開始とともにpHは上昇したが、pH8を超えることは無かった。24時間後には98%のリジンがペンタメチレンジアミンに転換されていた。このとき、反応溶液はpH7.8であった。
【0077】
実施例2
実施例1で攪拌数を100rpm(攪拌動力:0.09W/L)にした以外は実施例1と同様に実施した。その結果、24時間後には99%のリジンがペンタメチレンジアミンに転換されていた。このとき、反応溶液はpH7.7であった。
【0078】
比較例1
実施例1で攪拌数を800rpm(攪拌動力:7W/L)にした以外は実施例1と同様に実施した。その結果、24時間後には90%のリジンがペンタメチレンジアミンに転換されていた。さらに反応を4時間続けたが転換率はほとんど変わらず、反応が完結しなかった。このとき、反応溶液はpH8.7であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明より、ペンタメチレンジアミンの製造において生成する副生塩を削減し、ペンタメチレンジアミンを効率的かつ安価に提供することが可能となる。また、本発明で得られるペンタメチレンジアミンを用いてポリアミドの製造が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リジン水溶液に炭酸ガスを吹き込むことによりリジン炭酸塩水溶液を調製し、該リジン炭酸塩水溶液にL−リジン脱炭酸酵素を作用させて、該酵素の反応によりペンタメチレンジアミン炭酸塩を生成させることを含むペンタメチレンジアミンの製造方法であって、反応溶液の攪拌動力、温度および圧力から選ばれる少なくとも一つの条件を調節することにより、反応溶液に中和剤を添加せずに、反応が完結するまで該酵素の反応に適したpHに維持することを特徴とするペンタメチレンジアミンの製造方法。
【請求項2】
反応に適したpHが、pH6.5〜8.5の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
攪拌動力が1w/L以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応溶液からペンタメチレンジアミン炭酸塩を分離し、分離したペンタメチレンジアミン炭酸塩を熱分解することによりペンタメチレンジアミンを得る、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
熱分解により発生する炭酸ガスを、リジン炭酸塩水溶液の調製に用いる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法で得られるペンタメチレンジアミンとジカルボン酸とを重縮合させることを特徴とするポリアミドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−178672(P2010−178672A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25021(P2009−25021)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】