説明

ホタテ貝加工残滓の処理加工と利用法

【課題】ホタテ貝の加工残滓は焼却又は土中に埋めて処理されていた。しかし焼却は粘性が強いためと炉内の熱によって炉内へ継続的且つスム−スにその送り込みが出来ない等,又土中に埋める処理方法では腐敗臭による臭い公害が生じ焼却処理は現在も行われているが、中腸腺にカドミュウムの蓄積があり焼却・土中処理以前にそれを除去することが要求されている。
【解決手段】加工残滓に水を加えPHを調整して強く攪拌粉砕し,粉砕できない紐(外套膜)を分離回収し,加温して凝集剤を加えPHを微調整して反応剤を添加し,凝集が始まったら攪拌を中止すると加工残滓を包含しながら凝集沈澱が本格的になって水と分離する。カドミュウムの濃度をチェックし,基準値以下を示すまで抽出作業を繰り返し,乾燥して製品化する。カドミュウムを含んだ抽出水は既知の方法によって適法に処理し,分離回収した紐は食品の加工材料として利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ホタテ貝の増・養殖事業には古い歴史があり,多くの関係者の弛まぬ努力によって特に昭和40年代頃から採苗技術が飛躍的に発達し,種苗の量産確保が可能になった事を契機にして養殖・増殖技術が長足の進歩を遂げ総生産量で平成17年には日本全国でおよそ53万トン/年(その内養殖生産が21.5万トン)の水揚げ量が得られるまでになった。
【0002】
このように飛躍的に生産量は増大し安定したが,反面生物学的にも社会学的にも問題が顕在化した。しかしそれなりに一応の対応がなされてきた。
その中で餌(植物性プランクトン)起源の貝毒(急性毒で麻痺性、下痢性,神経毒性等がある)の存在が知られているが地方公共団体等が常に監視してそれらの毒性が麻痺性で4MU/g,下痢性で0,05MU/gに達すると出荷停止にするなどのシステムが構築済みで厳守されている。
【0003】
その毒物はいずれもホタテ貝の内臓特に中腸腺に濃度が高く主たる可食部の所謂貝柱には殆ど含有しない事から「認可された施設」では貝柱のみに加工して内臓を分離すれば貝柱の出荷が許されるために規制期間には認可を持つ生産者は自家加工するか認可を持たない生産者は認可を持つ加工業者等宛に出荷して貝柱のみに加工されて輸出を含め流通しているようである。
【0004】
それらの加工残滓となる全内臓はその過程で強い粘液を生じ,しかも腐敗しやすいので生産量が増大し手剥きではなく機械剥きが導入されて以来,中腸腺のみを手動によって時間をかけて分別することは技術的にも経営的にも不可能に近い状態にある。このような事をうけて中腸腺を含めて内臓は焼却,土中に埋める(以下単に土中処理という)等によって処分されていたようであるが何れの方法によるにしても季節的に増減はするが中腸腺には慢性毒となるカドミュウムを含有しているので処理方法によっては環境汚染等社会問題となる内容を含むものである。
【0005】
本特許は,このようなホタテ貝の内臓等加工残滓の処理とその加工残滓の有効利用すなわち再資源化に関するものである。
【背景技術】
【0006】
俗に「うろ」と呼ばれている中腸腺にはカドミュウムが沈積し季節によって濃度は変化するが夏期8〜9月には30mg/kg以上の値が計測された例があると言われ冬季には減少するとも云われているが概ね基準値2mg/kg(米は玄米中1mg/kg以上を含むと加工販売を禁止し焼却処分している)以上のカドミュウムが含まれていると云う。従って焼却処分は勿論土中処理によっても,特に焼却するとCOの排出による環境汚染の外に煙と共に拡散して広い範囲の環境を無差別にカドミュウムによって汚染する恐れのあることである。
【0007】
又土中処理は土を厚く被せても腐敗した強烈な悪臭がガスとして噴出し,悪臭公害をもたらす。それだけでなくなお重大なのは,内臓が貝毒と共に腐敗分解しても,カドミュウムは元素なので確実に残留し地下水を経ていずれ環境汚染に繋がる恐れが充分にあるということである。
【0008】
なお「段落0002〜0004」に述べた貝毒についてはそれが規制値以上を示す期間が海域によっても年度によっても変動はあるが比較的に短期間なので,現在施行しているように出荷を禁止するか貝柱を分離した内臓はカドミュウムを除外した上で焼却する以外に処理の方法がないと言うことである。現在は困難を排してそれなりに処理されていると聞くがその実態は必ずしも明確でない。
【0009】
このように焼却,土中処理その他のいずれにしてもその処理は合法でなければならない。現在は大部分が廃棄物処理業者に委託されているらしく、その費用は経営を圧迫し兼ねない程高価なのでその費用の低廉化を含めて加工残滓の処理法とその再資源化が強く望まれている。
【0010】
【特許文献1】 特願平11−253424
【非特許文献1】 調査した範囲では見当たらなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記に述べたようにホタテ貝の貝柱を採取した後の粘性の強い所謂加工残滓は,処理に必要とする経費が高いだけでなく,過去に行われてきた処理の方法では内臓中に含むカドミュウムや内臓腐敗による悪臭によって環境汚染の恐れがある。
【0012】
また生物処理は一般的には環境汚染が少ないとされてきたが,分解速度が遅くそれを補う一つの方法として施設を拡大しなければならない。また季節によって変化する気温にも影響され,そのため処理時間や処理結果が安定せず,特にホタテ貝が分布し生産されている親潮の影響が強い沿岸域では気温の低い季節が長く尚更であるが、臭気の発生は黒潮流域に比較して気温は低いがその事は余り関係なく悪臭は宿命的であり露天での生物処理の可能性は零に近く有蓋の施設の建設,維持運営には共に膨大な経費を必要とするため容易でない。
【0013】
また高分子凝集剤による凝集処理も行われていると聞くが飼料等再資源化には不向きである。
【0014】
ところで,重要なのは処理後に於いてそれらを資源として再利用出来るかであるが,焼却による方法ではCOの排出量を増加させるのみで再資源化は不可能である。再資源としての利用にはその加工に必要とする費用の低廉化と共に再生した製品(飼料,肥料や食品)の高価値化も課題となる。至難ではあるが総処理経費を補えるほどの高価値の創出品が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では,人類が食品としても利用している脱脂大豆あるいはカゼインやそれらを含有している食材を凝集させることによってそれに包含させて処理するので家畜等に対して益はあっても害は無い。又合成した高分子凝集剤と異なり本発明によって創出した再資源は飼料またはその材料としての条件を充分に満たす。
【0016】
凝集反応を促進するために加熱を必要とするがCOの排出量は焼却処理等に比較して加熱時間が短く処理適温度も低いことからして燃料は格段に少なくてすみ,処理コストに係わる燃料費についても生での焼却に比較して燃油節減量に見合う分その経費も減額することが出来る。又貝毒を含む加工残滓は焼却以外に処理方法はないが焼却してもその事によって環境を汚染するカドミュウムはその事前にそれを抽出して後脱水するので生での焼却処理に比較して燃料・燃費やCO排出量をかなり抑制することが結果的に生じる。
【0017】
加工残滓の処理装置は,原則的には残滓排出量に見合う規模となるが反応時間は短いので処理作業を何回/1日か同一装置で繰り返す等運用を工夫することによって更に小型化は可能で,他の加工施設と一体化も不可能ではなく設置スペ−スは小さくてすみ生物処理のように膨大な面積や施設を必要としない。
【0018】
なお処理(反応)速度は速く,凝集に係わる時間は温度にもよるが一般に高温ほど速く,それは「時間」の単位ではなくむしろ「分」の単位で終了する。処理結果も生物処理による方法に比較して気温等に影響されることはなく各処理条件は意図的に定めることが出来るので極めて安定である。
【0019】
宿命的であると云われている臭気に於いても凍結保存等処理前の取扱いが適切であればバクテリヤの利用ではなく,必要であれば閉鎖したタンク内での凝集処理も可能なので処理施設の機能をそのような機構とすれば臭気の拡散は充分に防げる。
【0020】
なお凝集して常法によって脱水,乾燥するので腐敗することはなく,飼料として加工或いはその原料として提供することは容易であり,飼料として要求される諸栄養素,保存性維持のための酸化防止剤等々の添加は処理過程で容易に可能であり,製品の形状についてはその後に於いて必要があれば大きさを含めて成型を行えばよい。
【0021】
なお処理過程で分離したカドミュウムを含んだ抽出水は,防腐剤等を添加して自然蒸発させるか減圧して蒸発を促進させる等常法で凝縮し,凝縮したカドミュウムを含む抽出水は法の定めに従って別に処理することによって完結する。
【発明の効果】
【0022】
以上の内容を含む本発明は次に述べるような効果を有する。
1.ホタテ貝は季節的に発生する毒を持つ植物プランクトンを摂餌すことによって麻痺性又は下痢性等の毒性を示す物質を主に中腸腺に蓄積して毒化する。それらは毒性の内容によって値は異なるがあるMU/g以上になると原則出荷が禁止され,その間は毒性の殆ど無い貝柱のみに認可施設が加工して出荷流通する。従って中腸腺を含む内臓は産業廃棄物として専門業者によって処理されるためもあってその処理経費が高額となり,生産者・加工業者共に間接・直接に経営が圧迫されている。本特許の方法では既存の方法に比較して処理経費が低廉となる効果がある。
【0023】
その貝毒は熱にも安定で,貝毒を含有している期間に於いてはその処理は焼却以外にないが,厄介なことにカドミュウムを主に同じ臓器の中腸腺に蓄積しているので本特許ではそれを抽出し,その後乾燥又は脱水した後に焼却するのでカドミュウムの環境への拡散の防除は勿論,生であるための焼却し難さから派生するCO排出量の増大を,処理後は水分が生のおよそ1/3以下となるので燃焼時間が短くなることによる燃費の節減とCOによる環境への影響を抑制することの効果がある。
【0024】
2.ホタテ貝は季節により増減はあるが上記プランクトン由来の毒物と同様に主に中腸腺に基準値2mg/kg以上の生活圏(海)由来のカドミュウムを蓄積しており,環境保全上現在行われているという焼却,土中処理共にその処理方法についは疑問もあり焼却することも技術的には容易でないという。特に飼料等への資源化についてはその焼却は論外であるが,いずれにしてもカドミュウムの濃度を基準値以下に減少させることが求められている。
本特許では,処理過程で大量にしかも安価に最も容易に入手出来る水を使用してカドミュウムを抽出し,それらの抽出物は常法によって容易に処理が可能となる等の効果をもたらす。
【0025】
ねらいである内臓あるいはその加工残滓の凝集物即ち飼料化は,目的に応じて必要があれば対象とする動物の栄養要求に合致した飼料としての強化剤や酸化防止剤等の添加がし易く乾燥もし易いので略均一な飼料原料が容易に製造できまた比較的に長期間に渡って保管出来る効果がある。
【0026】
3.内臓には容易に粉砕できない器官,ここでは紐(外套膜)が混ざり,その生重量は重量比で総内臓重量のおよそ20%に相当し,その分は粗い網目で濾別すること等で分離回収が可能でしかも容易なのでその加工品販売によって総処理経費の一部あるいは全額を補うことが可能となる。それが仮に一部としてもその分の売却代金は内臓の総処理経費の一部を補うことになるのでその分処理経費の低廉効果がある。
【0027】
4.本発明による処理施設は,小型化が可能なので既存諸加工施設との一体化も可能であり小規模の企業体や個人に於いても導入できる等の効果がある。
【0028】
5.紐を含め加工残滓が再資源化出来て製品化することによってそれらの材料と認定されれば廃棄物ではなくなるので移動等の規制を排除できる効果があり,他の行政管内の加工残滓も対象と出来るので再資源化経費の節減効果が望める。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明による実施の実際を図1に示した流れ図によって説明する
【0030】
貝類の内臓を含む軟体部は腐敗しやすく,腐敗すると強烈な臭気を発し腐敗個体が少しでも混入するとその臭気は全体に及び,それらの価値は限りなく零に近くなる。
【0031】
貝柱を剥きとって分離した内臓部は分離直後に処理加工するもの以外は原則凍結(又は冷蔵)して保管し,腐敗しないように解凍しながら処理加工する。
【0032】
中腸腺を含む内臓の容積と略同量若しくはその1/2容量の水を加え,ミキサ−で強く攪拌しながら粘性を制御するためにPHをアルカリ側に調整し,内臓の粉砕が完了した後「紐」を分離し,別のル−トに於いて食品への加工あるいはその材料として提供する。
【0033】
紐を分離した後の処理主対象の内臓を粉砕したその懸濁液は,静かに攪拌しながら処理対象との重量比で3〜5%若しくは5%超の凝集剤を溶解して加温して添加し,静かに攪拌を続けながら60〜80℃あるいはそれ以上に加温して後「にがり」あるいはその主成分の反応剤をPHを微調整しながら凝集剤との重量比にして0.3〜0.5%程度添加して静かに攪拌すると,粉砕されて懸濁している加工残滓を抱き込みながら沈澱凝集が起こり水と分離し始めるので攪拌を中止する。なお処理経費を節減するために脱脂大豆を煮沸して凝集剤として使用しても同じ結果が得られる。
【0034】
その沈澱凝集物を回収して第2工程に送りカドミゥウム抽出のため再度水を加えて粉砕し,続いて第一工程と同じ操作を1回乃至必要によって2回繰り返し,その事例は図2に示したようにカドミュウムを水によって抽出して基準値2mg/kg以下の値を得ることはそれ程至難ではない。その都度カドミュウム濃度をチェックするのも簡易な測定器が市販され操作も容易なので基準値以下になった加工残滓等凝集物は分離脱水して乾燥し再資源化の目的が飼料であれば対象の動物によって栄養要求は異なるだろうからそれらを添加して製品化することも可能である。
【0035】
抽出によってカドミュウムを含んだ水の濃度は図2に示すように加工残滓の濃度に伴って減少するがこの事例では合計2.48mg/lを抽出したことになる。これらは纏めて別ル−トにおいて適法に処理する事によって一連の操作は総て完了する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】 ホタテ貝加工残滓の処理加工のフロ−チャ−トである。
【図2】 ホタテ貝加工残滓中に含むカドミュウムの水による抽出例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテ貝等水産物の内臓やそれらの加工残滓に適当量の水を添加あるいは未添加のままPHを調節してミキサ−等で液状になるまで攪拌粉砕して外套膜(俗称:紐,以下単に紐という)等のように粉砕が不可で原形を留める部位は他目的の加工食材等とするため既知の方法で分離除外し,その上で温度を調整し,PHを再度微調整して攪拌しながら煮沸した適当量の脱脂大豆又はカゼイン等を凝集剤として加え更に「にがり」あるいはその主成分を単独に又は複数種を混合しその適当量を反応剤として添加し液状になって懸濁している加工残滓等を包含させながら凝集剤を析出凝集せしめて後沈澱させ,常法によって脱水・乾燥させる一連のことを特徴とする貝類等の内臓やそれらの加工残滓の再資源化に係わる処理加工と利用法。
【請求項2】
「請求項1」におけるホタテ貝の加工残滓には有害なカドミュウムを含むが,その処理過程において,適当回の水洗によってカドミュウムを抽出分離して脱水し,カドミュウムの濃度をチェックし基準値以下に減少した加工残滓のうち貝毒を持つ残滓は焼却、貝毒を持たない残滓は飼料化することを特徴とするホタテ貝等の加工残滓の再資源化に係わる処理加工と利用法。
【請求項3】
「請求項1」において分離した「紐」は食品の加工食材として利用し,また「請求項2」におけるカドミユウムを抽出含有した水は減圧乾燥等の既知常法によって濃縮し定めに従って処分することを処理工程に付加したホタテ貝等の加工残滓の再資源化に係わる処理加工と利用法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−301797(P2008−301797A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175618(P2007−175618)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(592245100)
【出願人】(598131443)
【出願人】(507225953)
【Fターム(参考)】