説明

ホトクロミックベンゾピラン

本発明は、ホトクロミックベンゾピラン、及びそれらの、あらゆる種類のプラスチックにおける、特に眼科目的における使用に関する。本発明の化合物は、ベンゾピランの5及び6位置に多環式芳香族が結合しており、6位置における結合が直接結合であり、5位置における結合が、単原子または二原子ブリッジを経由しているホトクロミックベンゾピラン化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホトクロミックベンゾピラン、及びそれらの、あらゆる種類のプラスチックにおける、特に眼科目的における使用に関する。本発明の化合物は、ベンゾピランの5及び6位置に多環式芳香族が結合しており、6位置における結合が直接結合であり、5位置における結合が、単原子または二原子ブリッジを経由しているホトクロミックベンゾピラン化合物である。
【背景技術】
【0002】
特定波長の光、特に太陽光、で照射した時に、それらの色を可逆的に変化させる様々な種類の染料が以前から公知である。これは、これらの染料分子が光エネルギーにより励起された状態に転化され、その励起状態が、エネルギー供給が中断された時に失われ、それらの初期状態に戻るためである。これらのホトクロミック染料には、先行技術で様々な基本系及び置換基と共にすでに開示されている様々なピラン系が挙げられる。
【0003】
ピラン、特にナフトピラン及びそこから誘導された、より大きな環系が、現在、ほとんどの研究の課題になっている種類のホトクロミック化合物である。すでに1966年には最初に特許として提出されている(米国特許第3,567,605号)が、眼鏡レンズ用に好適であると考えられる化合物が開発されたのは1990年代になってからである。好適な群のピランは、例えば2,2-ジアリール-2H-ナフト[1,2-b]ピランまたは3,3-ジアリール-3H-ナフト[2,1-b]ピランであり、これらの化合物は、励起形態で、様々な色、例えば黄、オレンジまたは赤-オレンジ、を呈する。
【0004】
重要な別の群のホトクロミック化合物は、環系が大きいために、より長い波長で吸収し、赤、紫及び青の色合いを示す、より高度に級縮合したピランである。これらの化合物は、2H-ナフト[1,2-b]ピランまたは3H-ナフト[2,1-b]ピランから誘導された系であり、特定のナフトピラン系からf側に縮合することにより得られる。
【0005】
ベンゾピランの6位置でフェニル環または、より一般的には、芳香族または複素芳香族環で置換され、さらにベンゾピランの5位置を経由して少なくとも一個の炭素原子、酸素原子または窒素原子を介してブリッジ形成されているジアリールクロメン、特にナフトピランまたは複素環状に縮合したベンゾピラン、が、現在最も有望なホトクロミック化合物である。
【0006】
このブリッジが、ただ1個の原子を経由して形成される場合、ベンゾピランに縮合した五員環が得られる。1個の炭素原子に関する例は、米国特許第5,645,767号、第5,723,072号及び第5,955,520号に、1個の酸素原子に関する例は、米国特許第6,018,059号に記載されている。
【0007】
米国特許第5,723,072号では、置換されていない、一置換された、または二置換された複素環を、この基本系に対して、インデノナフトピランのg、h、i、n、oまたはp側でさらに縮合させることができる。従って、非常に広範囲な、可能な置換基を伴うインデノ[1,2-f]ナフト[1,2-b]ピランが開示されている。
【0008】
WO 96/14596号、WO 99/15518号、米国特許第5,645,767号、WO 98/32037号及び米国特許第5,698,141号は、2H-ナフト[1,2-b]ピランから誘導されたホトクロミックインデノ-縮合したナフトピラン染料、これらの染料を含んでなる組成物及びそれらの製造方法を開示している。米国特許第5,698,141号では、置換されていない、一置換された、または二置換された複素環を、この基本系に対して、インデノナフトピランのg、h、i、n、oまたはp側でさらに縮合させることができる。置換基のリストは、それぞれの場合に非常に広範囲であり、極めて特殊なスピロ化合物、より詳しくは、スピロ複素環基を含む系も包含し、そこでは、スピロ原子を含めて基本系の13-位置に、常に2個の酸素原子を含む5-〜8-員環が存在する。スピロ環の別の実施態様は、日本国特許出願第344762/2000号に開示されている。
【0009】
このブリッジが2個の原子を介して形成される場合、C、O及びNのみに関して様々な選択性がある縮合した6員環が得られる。C=O及びN−R(ラクタムブリッジ)を含む化合物は、米国特許第6,379,591号に記載されている。置換されていないCH−CHブリッジ及び親ベンゾピランの7,8-位置における縮合複素環を含む化合物は、米国特許第6,426,023号に開示されている。
【0010】
米国特許第6,506,538号は、類似の炭素環式化合物を開示しているが、そこでは、ブリッジ中の水素原子をOH、(C〜C)アルコキシで置換できるか、または炭素原子上の2個の水素原子を=Oにより置換することができる。あるいは、2員ブリッジ中の炭素原子の一方を酸素により置換することもできる。これらの化合物は、特に、WO 00/02884号に記載されている。
【0011】
このブリッジを3個の原子により形成する場合、異原子の挿入により、非常に多くの変形が可能な縮合した7員環が得られる。CH-CH-CHブリッジを含む化合物は、米国特許第6,558,583号に記載されている。ここでも、ブリッジ中の水素原子をOH、(C〜C)-アルキルまたは(C〜C)-アルコキシで置換することができるか、もしくは炭素原子上の2個の水素原子を=Oで置換することができる。これらの化合物は、同じ置換パターンで、縮合6員環より短い波長で吸収する。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0094753号は、2原子及び3原子ブリッジを含む両方の化合物を記載している。2原子(炭素)ブリッジは、炭素環または複素環に、さらに縮合されている。3原子ブリッジは、3個の炭素原子または2個の炭素原子と1個の酸素原子を含んでなり、さらなる縮合は無い。両方の環は、様々な置換基を有することができる。
【0013】
しかし、現状技術水準で使用できる様々なホトクロミック染料には、サングラスに使用した場合、着用者の快適性を著しく損なう欠点がある。第一に、これらの染料は、励起状態及び非励起状態における長波吸収が不十分である。第二に、暗色化の熱的感度が過度に高いことが多く、同時に明色化が過度に遅くなることがある。さらに、先行技術で使用できる染料は、耐用寿命が不十分であり、従って、サングラスを短期間しか使用できないことが多い。後者は、急速な性能低下及び/または強い黄色化により知覚できる。
【発明の概要】
【0014】
従って、本発明の目的は、可視波長領域に対する縁部が急な、閉鎖形態の長波吸収極大、高い暗色化性能、非常に速い明色化反応及び非常に良好な光安定性の組合せを特徴とする、さらなるホトクロミック化合物を提供することである。
【0015】
この目的は、請求項に特徴を規定する主題により達成される。
【0016】
より詳しくは、一般式(I)のホトクロミックベンゾピランを提供する。
【化1】

[式中、R、R、R、R、R及びRラジカルは、それぞれ独立して、水素原子、(C〜C)アルキルラジカル、(C〜C) チオアルキルラジカル、(C〜C)シクロアルキルラジカル、該ラジカルは一種以上の異原子、例えばOまたはSを含むことができる、(C〜C)アルコキシラジカル、ヒドロキシルグループ、トリフルオロメチルグループ、臭素、塩素、フッ素、置換されていない、一置換された、または二置換されたフェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、ナフチルまたはナフトキシラジカルからなるグループαから選択された置換基であり、該置換基は、該グループαから選択することができ、
及びRまたはR及びR(互いにオルト位置にある場合)またはR及びR(互いにペリ位置にある場合)またはR及びR(互いにオルト位置にある場合)ラジカルが、それぞれ独立して、芳香族環に結合した-A-(CH)-D-または-A-(C(CH))-D-グループを形成し、k=1または2であり、A及びDは、それぞれ独立して、酸素、硫黄、CH、C(CH)またはC(C)から選択され、ベンゾ環は、やはりこの-A-(CH)-D-グループに縮合することができるか、または
及びRまたはR及びRまたはR及びRラジカルが、それぞれ独立して、置換されていない、一置換された、または二置換された、縮合ベンゾ、ピリド、ナフト、ベンゾフロまたはベンゾチエノ環であり、それらの置換基をそれぞれ該グループαから選択することができ、
Xは単または二原子ブリッジであり、
ここで、単原子ブリッジの場合におけるXはO及びCRから選択され、R及びRラジカルは、それぞれ独立して、該グループαから選択されるか、またはスピロ炭素原子を包含して3〜8員の炭素単環または複素単環であり、該環は、所望により該グループαから選択された一個以上の置換基を有し、そこに1〜3個の芳香族または複素芳香族環系を縮合させることができ、該環系は、独立して、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール及びカルバゾールからなるグループβから選択され、該グループβは、やはり該グループαから選択された一個以上の置換基で置換することができるか、またはスピロ炭素原子を包含して7〜12員の炭素二環または7〜12員の炭素三環であり、該環は、該グループαから選択された1、2、3または4個の置換基を有することができるか、
あるいはXは、二原子ブリッジの場合、-Y-Z-部分から形成され、ここでY及びZは、それぞれ独立して、O、CR10及びCR1112から選択され、該R〜R12ラジカルは、それぞれ独立して、該グループαから選択されるか、またはR及びR10またはR11及びR12がスピロ炭素原子を包含して3〜8員の炭素単環または複素単環であり、該環は、所望により該グループαから選択された一個以上の置換基を有し、そこに1〜3個の芳香族または複素芳香族環系を縮合させることができ、該環系は、独立して、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール及びカルバゾールからなるグループβから選択され、該グループβは、やはり該グループαから選択された一個以上の置換基で置換することができるか、またはR及びR10またはR11及びR12がスピロ炭素原子を包含して7〜12員の炭素二環または7〜12員の炭素三環であり、該環は、該グループαから選択された1、2、3または4個の置換基を有することができるか、
あるいはY及びZは、ラジカルを介して互いに結合し、それぞれの場合に4〜8員の炭素環を形成し、該環員が、それぞれ独立して、該グループαから選択された一個以上の置換基を有することができるが、
但し、二原子ブリッジの場合、最大1個の炭素二環または炭素三環系だけが存在し、Y及びZは、両方共、Oではなく、
B及びB’は、それぞれ独立して、下記のグループa)、b)及びc)から選択され、
a)一、二及び三置換されたアリールラジカルであり、該アリールラジカルは、フェニル、ナフチルまたはフェナントリルである、
b)置換されていない、一置換された、及び二置換されたヘテロアリールラジカルであり、該ヘテロアリールラジカルは、ピリジル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニル、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリルまたはジュロリジニルであり、
a)及びb)におけるアリールまたはヘテロアリールラジカルの置換基は、上記のグループαまたはグループχから選択された置換基であり、該グループχは、ヒドロキシル、フェニル環上で置換されていない、一置換された、または二置換された2-フェニルエテニル、フェニル環上で置換されていない、一置換された、または二置換された(フェニルイミノ)メチレン、フェニル環上で置換されていない、一置換された、または二置換された(フェニルメチレン)イミノ、アミノ、モノ(C〜C)アルキルアミノ、ジ(C〜C)アルキルアミノ、フェニル環上で置換されていない、一置換された、または二置換されたモノ-及びジフェニルアミノ、ピペリジニル、N-置換されたピペラジニル、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、インドリニル、モルホリニル、2,6-ジメチルモルホリニル、チオモルホリニル、アザシクロヘプチル、アザシクロオクチル、置換されていない、一置換された、または二置換されたフェノチアジニル、置換されていない、一置換された、または二置換されたフェノキサジニル、置換されていない、一置換された、または二置換された1,2,3,4-テトラヒドロキノリニル、置換されていない、一置換された、または二置換された2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾオキサジニル、置換されていない、一置換された、または二置換された1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリニル、置換されていない、一置換された、または二置換されたフェナジニル、置換されていない、一置換された、または二置換されたカルバゾリル、置換されていない、一置換された、または二置換された1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリル及び置換されていない、一置換された、または二置換された10,11-ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピニルからなり、該置換基は、それぞれ独立して、やはり(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ、臭素、塩素及びフッ素から選択することができるか、または2個の直接隣接する置換基が-U-(CV)-W-部分であり、p=1、2または3であり、Vは水素、CHまたはCでよく、U及びWは、それぞれ独立して、酸素、硫黄、N-(C〜C)アルキル、N-C、CH、C(CH)またはC(C)でよく、この-U-(CV)-W-部分における2個以上の隣
接する炭素原子が、それぞれ独立して、そこに縮合したベンゾ環系の一部であることもでき、該ベンゾ環系は、それぞれの場合に、該グループαまたは該グループχから選択された一個以上の置換基を有することができる、または
c)B及びB’が、該ピラン環の隣接する炭素原子と共に、置換されていない、一置換された、または二置換された9,10-ジヒドロアントラセン、フルオレン、チオキサンテン、キサンテン、ベンゾ[b]フルオレン、5H-ジベンゾ[a,d]シクロヘプテンまたはジベンゾスベロンラジカル、または(C〜C12)スピロ単環式、(C〜C12)スピロ二環式または(C〜C12)スピロ三環式である飽和炭化水素ラジカルを形成し、不飽和環の置換基は、それぞれ独立して、該グループαまたは該グループχから選択することができる。]
【0017】
本発明のベンゾピランから誘導される、多環式芳香族がベンゾピランの5及び6位置に結合しており、6位置における結合が直接結合であり、5位置における結合が単または二原子ブリッジを経由しているホトクロミック化合物は、耐用寿命が非常に良く、明色化速度が高いのが特徴である。本発明の化合物は、そのような多環式芳香族が5及び6位置に付加していない化合物と比較して、非常に大きな長波吸収極大を示す。本発明の化合物は、長波吸収極大、高い暗色化性能、非常に速い明色化反応及び非常に良好な光安定性のバランスが特徴である。400 nmあたりの可視光の短波領域における高いモル吸収を特に強調すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】
【図2】
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましいホトクロミックベンゾピランは、下記の一般式(II)及び(III)で表される。
【化2】

式中、XはOまたはCRであり、Y及びZはそれぞれ上に規定した通りであり、B、B’、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ上に規定した通りであり、R13は、該グループαから選択され、nは0、1、2、3または4である。
【0020】
B及びB’が、C〜C12スピロ単環、C〜C12スピロ二環またはC〜C12スピロ三環である飽和炭化水素ラジカルである場合、C〜C12スピロ単環は、当業者には良く知られているように、3〜12員環を意味する。C〜C12スピロ二環系も当業者には良く知られている。例としては、ノルボルナン、ノルボルネン、2,5-ノルボルナジエン、ノルカラン及びピナンが挙げられる。代表的なC〜C12スピロ三環系は、アダマンタンである。
【0021】
別の好ましい実施態様では、B及びB’ラジカルを、互いに独立して、上に規定するグループa)から選択する。
【0022】
グループχの、窒素原子を有するか、またはアミングループを含む置換基は、これらを介して、グループa)のフェニル、ナフチルまたはフェナントリルラジカルに結合している。
【0023】
χグループの、グループa)のフェニル、ナフチルまたはフェナントリルラジカルに結合できる置換基またはBまたはB’ラジカルに関して、この-U-(CV)-W-部分の2個以上の隣接する炭素原子が、それぞれ独立して、そこに縮合したベンゾ環系の一部になり得る場合、これは、2個のメチレン炭素原子(-CH-CH-)が、縮合環系の一部になり得ることを意味する。例えば、2または3個(there)のベンゾ環が縮合する場合、例えば、以下に記載するように、下記の構造的単位がここで存在することができる。
【化3】

【0024】
しかし、無論、-U-(CV)-W-部分の2個の隣接する炭素原子を介して縮合した、ただ1個のベンゾ環が存在することも可能である。
【0025】
上記の式(I)及び(III)におけるY及びZがラジカルを介して互いに結合し、それぞれの場合に4〜8員の炭素環を形成する場合、例えば、下記の式(IV)の、B、B’、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ上に規定した通りであり、R13及びR14が、それぞれ独立して、グループαから選択され、nがそれぞれの場合に独立して0、1、2、3または4である化合物が存在できる。
【化4】

【0026】
本発明の好ましい実施態様では、式(I)におけるXが、O、CH及びCMeから選択された単原子ブリッジである。
【0027】
本発明の別の好ましい実施態様では、式(I)におけるXが、CH-CH、O-CH、CH-O及びベンゾ縮合から選択された二原子ブリッジY-Zである。
【0028】
(置換された)ベンゼンラジカルがベンゾピラン基本構造にブリッジされている先行技術(炭素環式ブリッジに関する米国特許第6,506,538号または第6,558,583号及び酸素を含むブリッジに関するWO 00/02884号)と比較して、本発明の化合物−同じ置換基B及びB’であると仮定して−は、非励起及び励起状態の両方で、非常に大きな長波吸収帯を有する。非励起状態における長波吸収には、ホトクロミック染料を、例えばプラスチック眼鏡レンズに導入する場合に、2つの重要な利点がある。第一に、本発明の化合物は、好ましくない大気条件で、非常に長い波長のUV/日光(380 nmから)だけが入射しても、反応する。図1から、本発明の化合物が、非励起形態で、先行技術の化合物と比較して、370 nmより大きい波長で、より強く吸収することは明らかである。そのため、本発明のホトクロミック化合物は、好ましくない条件でも、非常に良好な暗色化性能を示す。第二に、このために、本発明の化合物は入射UV光を完全に吸収するので、400 nmまでの完璧なUV保護が自動的に達成され、サングラス製造で、UV吸収剤を添加する必要が無い。添加したUV吸収剤は常に入射光の一部を吸収し、そのためにUV吸収剤を含むレンズは、常に、UV吸収剤を含まない場合よりも暗色化の程度が低いので、これは大きな利点である。
【0029】
図1に示す本発明の化合物の構造及びその励起形態における最長波吸収極大を、下記の表1に示す(米国特許第6,558,583号に開示されている先行技術と比較して)。
【0030】
表1 励起状態における最長波吸収極大
【化5】

【表1】

本発明の化合物1)のベンゾ縮合は、7員環ブリッジに対してオルト位置にもメトキシ置換基を、本発明の化合物2)のベンゾ縮合はメチル置換基を有する。
【0031】
本発明のホトクロミック染料及び先行技術の化合物(上記参照)の特性を測定するために、各500 ppmの染料をアクリレートモノマーマトリックス中に溶解させ、重合開始剤を加えた後、温度プログラムを使用して熱的に重合させた。続いて、このようにして製造したプラスチックレンズ(厚さ2 mm)の透過特性をDIN EN ISO 8980-3により測定した。
【0032】
本発明の化合物は、あらゆる種類及び形態の重合体材料またはプラスチック製品で、ホトクロミック挙動が重要である様々な最終用途に、使用できる。本発明の染料またはそのような染料の混合物を使用することができる。例えば、本発明のホトクロミックベンゾピラン染料は、レンズ、特に眼科用レンズ、あらゆる種類の眼鏡及びゴーグル、例えばスキーゴーグル、サングラス、モーターサイクルゴーグル、保護ヘルメットのバイザー、等、用のレンズ、に使用することができる。さらに、本発明のホトクロミックベンゾピランは、例えば車両及び居住空間における日光保護として、窓、保護スクリーン、カバー、屋根、等の形態で使用することができる。
【0033】
そのようなホトクロミック製品を製造するには、先行技術で開示されている、例えばWO 99/15518号にすでに記載されている、様々な製法により、本発明のホトクロミックベンゾピランを重合体材料、例えば有機プラスチック材料、に塗布するか、またはその中に埋め込むことができる。
【0034】
バルク着色方法と表面着色方法を区別する。バルク着色方法は、例えば、本発明のホトクロミック化合物を重合体材料中に、例えばホトクロミック化合物を単量体状材料に加えて溶解または分散させてから、重合させることを含んでなる。ホトクロミック製品を製造するための別の方法は、本発明のホトクロミック染料の高温溶液中に重合体材料を浸漬することにより、重合体材料にホトクロミック染料を浸透させる方法、または例えば熱転写製法である。ホトクロミック化合物は、例えば隣接する重合体材料層同士の間の、例えば重合体フィルムの一部として、別の層の形態で与えることもできる。さらに、重合体材料の表面上に位置する被覆の一部としてホトクロミック化合物を施すことも可能である。これに関して、「浸透」の表現は、例えばホトクロミック化合物を溶剤の支援により重合体マトリックス中に移動させること、気相移動または他の、この種の表面拡散方法により、ホトクロミック化合物を重合体材料中に移行させることを意味する。有利なことに、そのようなホトクロミック製品、例えば眼鏡レンズ、は、通常のバルク着色の使用のみならず、表面着色を使用しても、同様に製造することができ、後者の変形の場合、驚く程低い相対的移行傾向を達成することができる。これは、例えば減圧下における低い逆拡散による反射防止被覆では、被覆の分離及び類似の欠陥が劇的に低減されるので、後に続く仕上げ工程で特に有利である。
【0035】
全体として、本発明のホトクロミックベンゾピランにより、相容性がある(化学的観点から、および色に関して相容性がある)着色剤、すなわち染料、を重合体材料に施すか、またはその中に埋め込み、美的及び医学的または流行の面の両方を満足させることができる。従って、特別に選択する染料を、意図する効果及び必要条件に応じて変えることができる。
【0036】
本発明のホトクロミック化合物は、下記の代表的な、図2に示すような合成スキームにより製造することができる。
【0037】
第一工程で、対応する無水コハク酸誘導体を、適切に置換された1,2-エチレンでフリーデル−クラフツ反応にかける(工程(i))。続いて、得られた中間体の−COOH基を保護し、この中間体を、対応して置換されたナフタレン誘導体でMichael付加にかける(工程(ii))。カルボン酸保護基を除去した後、リン酸を使用する分子内環化により、対応して置換された中間体を形成する(工程(iii))。続いて、これらの置換された中間体を、工程(iv)で、適切に置換した2-プロピン-1-オール誘導体と反応させ、本発明の化合物を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

[式中、R、R、R、R、R及びRラジカルは、それぞれ独立して、水素原子、(C〜C)アルキルラジカル、(C〜C) チオアルキルラジカル、一種以上の異原子(例えばOまたはS)を含むことができる(C〜C)シクロアルキルラジカル、 (C〜C)アルコキシラジカル、ヒドロキシルグループ、トリフルオロメチルグループ、臭素、塩素、フッ素、置換されていない、一置換された、または二置換されたフェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、ナフチルまたはナフトキシラジカルからなるグループαから選択された置換基であり、前記置換基は、前記グループαから選択することができるか、
または
前記R及びRまたはR及びRまたはR及びRまたはR及びRラジカルが、それぞれ独立して、芳香族環に結合した-A-(CH)-D-または-A-(C(CH))-D-グループを形成し、k=1または2であり、A及びDは、それぞれ独立して、酸素、硫黄、CH、C(CH)またはC(C)から選択され、ベンゾ環は、この-A-(CH)-D-グループに縮合することができるか、または
前記R及びRまたはR及びRまたはR及びRラジカルが、それぞれ独立して、置換されていない、一置換された、または二置換された、縮合ベンゾ、ピリド、ナフト、ベンゾフロまたはベンゾチエノ環であり、それらの置換基をそれぞれ前記グループαから選択することができ、
Xは単または二原子ブリッジであり、
ここで、単原子ブリッジの場合におけるXはO及びCRから選択され、前記R及びRラジカルは、それぞれ独立して、前記グループαから選択されるか、またはスピロ炭素原子を包含して3〜8員の炭素単環または複素単環であり、前記環は、所望により前記グループαから選択された一個以上の置換基を有し、そこに1〜3個の芳香族または複素芳香族環系を縮合させることができ、前記環系は、独立して、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール及びカルバゾールからなるグループβから選択され、前記グループβは、前記グループαから選択された一個以上の置換基で置換することができるか、またはスピロ炭素原子を包含して7〜12員の炭素二環または7〜12員の炭素三環であり、前記環は、前記グループαから選択された1、2、3または4個の置換基を有することができるか、
あるいはXは、二原子ブリッジの場合、-Y-Z-部分から形成され、ここでY及びZは、それぞれ独立して、O、CR10及びCR1112から選択され、前記R〜R12ラジカルは、それぞれ独立して、前記グループαから選択されるか、またはR及びR10またはR11及びR12がスピロ炭素原子を包含して3〜8員の炭素単環または複素単環であり、前記環は、所望により前記グループαから選択された一個以上の置換基を有し、そこに1〜3個の芳香族または複素芳香族環系を縮合させることができ、前記環系は、独立して、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール及びカルバゾールからなるグループβから選択され、前記グループβは、前記グループαから選択された一個以上の置換基で置換することができるか、またはR及びR10またはR11及びR12がスピロ炭素原子を包含して7〜12員の炭素二環または7〜12員の炭素三環であり、前記環は、前記グループαから選択された1、2、3または4個の置換基を有することができるか、
あるいはY及びZは、ラジカルを介して互いに結合し、それぞれの場合に4〜8員の炭素環を形成し、前記環員が、それぞれ独立して、前記グループαから選択された一個以上の置換基を有することができるが、
但し、二原子ブリッジの場合、最大1個の炭素二環または炭素三環系だけが存在し、Y及びZは、両方共、Oではなく、
B及びB’は、それぞれ独立して、下記のグループa)、b)及びc)から選択され、
a)一、二及び三置換されたアリールラジカルであり、前記アリールラジカルは、フェニル、ナフチルまたはフェナントリルである、
b)置換されていない、一置換された、及び二置換されたヘテロアリールラジカルであり、前記ヘテロアリールラジカルは、ピリジル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニル、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリルまたはジュロリジニルであり、
a)及びb)におけるアリールまたはヘテロアリールラジカルの置換基は、上記のグループαまたはグループχから選択された置換基であり、前記グループχは、ヒドロキシル、フェニル環上で置換されていない、一置換された、または二置換された2-フェニルエテニル、フェニル環上で置換されていない、一置換された、または二置換された(フェニルイミノ)メチレン、フェニル環上で置換されていない、一置換された、または二置換された(フェニルメチレン)イミノ、アミノ、モノ(C〜C)アルキルアミノ、ジ(C〜C)アルキルアミノ、フェニル環上で置換されていない、一置換された、または二置換されたモノ-及びジフェニルアミノ、ピペリジニル、N-置換されたピペラジニル、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、インドリニル、モルホリニル、2,6-ジメチルモルホリニル、チオモルホリニル、アザシクロヘプチル、アザシクロオクチル、置換されていない、一置換された、または二置換されたフェノチアジニル、置換されていない、一置換された、または二置換されたフェノキサジニル、置換されていない、一置換された、または二置換された1,2,3,4-テトラヒドロキノリニル、置換されていない、一置換された、または二置換された2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾオキサジニル、置換されていない、一置換された、または二置換された1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリニル、置換されていない、一置換された、または二置換されたフェナジニル、置換されていない、一置換された、または二置換されたカルバゾリル、置換されていない、一置換された、または二置換された1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリル及び置換されていない、一置換された、または二置換された10,11-ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピニルからなり、前記置換基は、それぞれ独立して、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ、臭素、塩素及びフッ素から選択することができるか、
または2個の直接隣接する置換基が-U-(CV)-W-部分であり、p=1、2または3であり、Vは水素、CHまたはCでよく、U及びWは、それぞれ独立して、酸素、硫黄、N-(C〜C)アルキル、N-C、CH、C(CH)またはC(C)でよく、この-U-(CV)-W-部分における2個以上の隣接する炭素原子が、それぞれ独立して、そこに縮合したベンゾ環系の一部であることもでき、前記ベンゾ環系は、それぞれの場合に、前記グループαまたは前記グループχから選択された一個以上の置換基を有することができる、
または
c)B及びB’が、前記ピラン環の隣接する炭素原子と共に、置換されていない、一置換された、または二置換された9,10-ジヒドロアントラセン、フルオレン、チオキサンテン、キサンテン、ベンゾ[b]フルオレン、5H-ジベンゾ[a,d]シクロヘプテンまたはジベンゾスベロンラジカル、または(C〜C12)スピロ単環式、(C〜C12)スピロ二環式または(C〜C12)スピロ三環式である飽和炭化水素ラジカルを形成し、不飽和環の置換基は、それぞれ独立して、前記グループαまたは前記グループχから選択することができる]
を有するホトクロミックベンゾピラン。
【請求項2】
下記一般式(II)及び(III) :
【化2】

[式中、XはOまたはCRであり、Y及びZはそれぞれ上に規定した通りであり、B、B’、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ上に規定した通りであり、R13は、前記グループαから選択され、nは0、1、2、3または4である]
を有する、請求項1に記載のホトクロミックベンゾピラン。
【請求項3】
Xが、O、CHまたはCMeから選択された単原子ブリッジである、請求項1または2に記載のホトクロミックベンゾピラン。
【請求項4】
Xが、CH-CH、O-CH、CH-Oまたはベンゾ縮合から選択された二原子ブリッジY−Zである、請求項1または2に記載のホトクロミックベンゾピラン。
【請求項5】
前記R及びRまたはR及びR10またはR11及びR12ラジカルが、スピロ炭素原子を包含して5〜8員の炭素環であり、前記炭素環が、前記グループαから選択された1、2、3または4個の置換基を有することができ、1〜3個のベンゾ環を前記炭素環に縮合させることができ、前記炭素環が、前記グループαから選択された1または2個の置換基を有することができる、請求項1または2に記載のホトクロミックベンゾピラン。
【請求項6】
〜R12及びB及びB’に関して規定したC〜C12スピロ二環系が、ノルボルナン、ノルボルネン、2,5-ノルボルナジエン、ノルカラン及びピナンから選択され、スピロ三環系がアダマンタンから選択され、前記スピロ系が、それぞれ前記グループαから選択された1、2、3または4個の置換基を有することができる、請求項1に記載のホトクロミックベンゾピラン。
【請求項7】
B及びB’が、それぞれ独立して、グループαから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のホトクロミックベンゾピラン。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のホトクロミックベンゾピランの、重合体材料の中及び上における使用。
【請求項9】
前記重合体材料が眼科用レンズである、請求項8に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−504512(P2011−504512A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535279(P2010−535279)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009991
【国際公開番号】WO2009/068247
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(503279013)ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング (34)
【Fターム(参考)】