説明

ホログラムメモリ装置及びホログラムの消去方法。

【課題】 小型・簡易かつ安価な光学系により高精度な多重ホログラムの選択的消去を可能にして、ひいては小型・簡易かつ安価なホログラムメモリ装置を実現する。
【解決手段】 物体光19と参照光20とをホログラムメモリ11に照射するための光学系として、ビームスプリッタ14の両方の面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系25を備えている。該光学系25におけるビームスプリッタ14の記録時に物体光19及び参照光20の照射に用いた面とは異なるもう一方の面から入射した光より該ホログラムの記録時の物体光19と参照光20とを照射することで、多重ホログラムを選択的に消去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムメモリとして例えばフォトリフラクティブ結晶を用い、該結晶中へのホログラムの記録・再生・消去を行うホログラムメモリ装置に関するもので、特に、多重ホログラムの選択的消去を可能にする消去方法、及びホログラムメモリ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラムメモリ(ホログラフィックメモリ)は、2次元的なデータをホログラムの形で記録・再生するものである。そのため、従来の光メモリと比較して高速なデータ転送が可能であり、かつ、ホログラムをホログラム媒質中の同一個所に多重記録することで大容量化が実現される。特に、ホログラム媒質としてフォトリフラクティブ媒質(フォトリフラクティブ結晶)を用いたホログラムメモリでは、一旦記録されたホログラムを消去することが可能であり、書き換え型メモリへの応用が期待されている。
【0003】
フォトリフラクティブ媒質とは、光の照射によって屈折率が変化する媒質群を指し、鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO3:Fe)や、セリウムを不純物として含むストロンチウムバリウムニオブ酸(SrxBa1...xNb26:Ce)等、数多くの媒質が知られている。
【0004】
このようなフォトリフラクティブ媒質中に多重に記録されたホログラム(多重ホログラム)は、一様なインコヒーレント光の照射や熱処理により、一括消去可能である。しかしながら、1cm角程度の記録領域に1テラバイトものデータを多重記録するホログラムメモリにおいては、一括消去に加え多重ホログラム中の任意の一枚のホログラムみを選択的に消去することが実用上重要である。
【0005】
ホログラムは、フォトリフラクティブ媒質中に、二次元的なデータが付加された物体光と参照光の干渉縞として記録されるようになっているが、あるホログラムに対し、該ホログラムを記録した時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞を上書きすることで、一様なインコヒーレント消去光を該ホログラムに照射した場合と比較して、格段に高速で該ホログラムを消去できることが知られている。記録時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞は、物体光或いは参照光のいずれか一方の位相を、移相器によりπ変位することによって得ることができる。
【0006】
以下、図9を参照して、フォトリフラクティブ媒質に対するホログラムの多重記録及び上記した記録時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞を上書きすることによる多重ホログラムの選択的消去について説明する。
【0007】
図9において、第1光波51を参照光、第2光波52を2次元画像データを有する物体光とすると、ホログラムはこれら参照光と物体光との干渉縞54によりフォトリフラクティブ媒質中に記録される。ここで、参照光の光路上に配された移相器53は、参照光の位相を0かπかで切り換えて変化させるものであるが、記録時の移相量(位相を変化させる量)は0であり、参照光の位相を変化させることはない。また、ホログラムの多重記録は、通常、ホログラムごとに参照光の角度、或いは波長、或いは位相分布等を変化させることにより行われる。
【0008】
このように記録された多重ホログラムの選択的消去に際しては、多重記録されたホログラムのうちの消去したいホログラム(消去対象のホログラム)に対して、該消去対象のホログラムの記録時と同一の角度、同一波長、或いは同一位相分布を有する参照光(言い換えると消去対称のホログラムの再生条件を満たす参照光)と、記録時と同一の物体光とをフォトリフラクティブ媒質へ入射させる。ここで、参照光の位相は、参照光の光路上に配された移相器53により、記録時の位相に対してpだけ変位されており、記録時と空間的にπだけ変位した干渉縞54’が消去対象のホログラムに上書きされることとなり、該消去対象のホログラムが消去される。
【0009】
この場合、他の多重ホログラムに対しては、これらの選択消去光(物体光及びpだけ変位した参照光)はインコヒーレント消去光として働く。しかしながら、上述のように選択的消去の速度はインコヒーレント消去のそれと比較し格段に高速なため、消去対象のホログラムのみが選択的に消去され、他の多重ホログラムが同時に消去されることはない。
【0010】
そして、従来、上記移相器53としては、液晶位相変調器を参照光の光路上に配置し、その電子的な制御により参照光の位相をπだけ遅らせる構成や、ピエゾミラーを参照光或いは物体光の光路上に配置し、その機械的移動により半波長の光路差を作ることで干渉縞の位相を変位させる構成のものがある(例えば、非特許文献1,2)。
【非特許文献1】H. Sasaki, J. Ma, Y. Fainman, and S. Lee, “Fast update of dynamic holographic memory,” Opt. Lett. 17, 20, pp.1468-1470, 1992.
【非特許文献2】J.V. Alvarez-Bravo, L. Arizmendi, “Coherent erasure and updating of holograms in LiNbO3,” Opt. Mater. 4, pp.419-422, 1995.
【非特許文献3】P. Yeh, Introduction to Photorefractive Nonlinear Optics, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1993.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記移相器53として液晶位相変調器を用いた電子的制御やピエゾミラーを用いた機械的制御を使用した従来のホログラムメモリ装置の構成では、以下のような問題がある。
【0012】
まず、液晶位相変調器やピエゾミラーを用いた移相器では、光学系の大型化・複雑化を招来し、しかも、液晶位相変調器及びピエゾミラーは素子自体が高価であるため、ホログラムメモリ装置自体の価格高騰に繋がる。
【0013】
また、液晶位相変調器やピエゾミラーを用いた移相器では、液晶位相変調器の電圧誤差や、ピエゾミラーのバックラッシュ等によって移相量に誤差が発生してしまい、多重ホログラムの選択的消去の性能が劣化する可能性がある。
【0014】
さらに、多重ホログラムの選択的消去に使用される移相量は、記録時或いは再生時の0と、消去時のπのみであるのに、液晶位相変調器やピエゾミラーを用いた移相器では、本応用に不必要である連続的な中間値も採り得るため、これも移相量の誤差の原因となり、多重ホログラムの選択的消去の性能を劣化させる惧れがある。
【0015】
なお、多重ホログラムの消去のみに関わらず、このような記録時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞を上書きすることによる消去法は、多重記録でないホログラムの消去においても、インコヒーレント消去光に比べて高速に消去可能であるので有用であるが、上記と同様の問題がある。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、電子的あるいは機械的制御による移相器の使用により生じるホログラムメモリ装置の大型化・複雑化を回避し、小型・簡易かつ安価な光学系により高精度なホログラムの消去を可能にして、ひいては小型・簡易かつ安価なホログラムメモリ装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のホログラムの消去方法は、上記課題を解決するために、ホログラムメモリに物体光と参照光とが照射され、これらの干渉縞によって多重に記録されたホログラムのうちのあるホログラムを、該ホログラムの記録時の物体光と参照光とをこれらの干渉縞が記録時の干渉縞とπだけ変位するように上記ホログラムメモリに照射することで消去するホログラムの消去方法であって、ホログラムメモリに対して物体光と参照光とを照射する光学系として、ビームスプリッタの両面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を用い、該光学系のビームスプリッタにおける消去対象のホログラムの記録時に物体光と参照光との生成に用いられた方とは異なる方の面からの入射光にて消去時の物体光と参照光とを生成することにより、記録時の干渉縞とπだけ変位した干渉縞を得ることを特徴としている。
【0018】
2重マッハツェンダ−干渉光学系は、詳細については後述するが、ビームスプリッタの一方の面から入射された光波が分波された光波が交差領域に形成する干渉縞と、ビームスプリッタのもう一方の面から入射した光波が、上記光波と同一光路を伝搬して交差領域に形成する干渉縞との間には、空間的にpの位相差があるといった特性を有している。
【0019】
したがって、上記のように、2重マッハツェンダ−干渉光学系を用い、参照光と物体光となる光波の入射を、記録時と消去時とで切り換えるだけで、記録時の干渉縞とπだけ変位した干渉縞を得ることができるので、多重ホログラムを選択的に消去可能でありながら、移相器の類が必要なくなる。
【0020】
それゆえ、該消去方法を用いることで、多重ホログラムを選択的に高精度に消去できると共に、該方法を実現する装置構成としても、小型・簡易かつ安価にて実現できるので、ホログラムメモリ装置に採用することで、小型・簡易かつ安価なホログラムメモリ装置を実現することができる。
【0021】
本発明のホログラムの消去方法は、上記課題を解決するために、ホログラムメモリに物体光と参照光とが照射され、これらの干渉縞によって記録されたホログラムを、該ホログラムの記録時の物体光と参照光とをこれらの干渉縞が記録時の干渉縞とπだけ変位するように上記ホログラムメモリに照射することで消去するホログラムの消去方法であって、ホログラムメモリに対して物体光と参照光とを照射する光学系として、ビームスプリッタの両面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を用い、該光学系のビームスプリッタにおけるホログラムの記録時に物体光と参照光との生成に用いられた方とは異なる方の面からの入射光にて消去時の物体光と参照光とを生成することにより、記録時の干渉縞とπだけ変位した干渉縞を得ることを特徴としている。
【0022】
多重ホログラムの選択的消去と同様に、多重記録でないホログラムについても、このように、2重マッハツェンダ−干渉光学系を用い、参照光と物体光となる光波の入射を、記録時と消去時とで切り換えるだけで、記録時の干渉縞とπだけ変位した干渉縞を得ることができるので、高速にホログラムを消去可能でありながら、移相器の類が必要なくなる。
【0023】
それゆえ、該消去方法を用いることで、ホログラムを高速に高精度に消去できると共に、該方法を実現する装置構成としても、小型・簡易かつ安価にて実現できるので、ホログラムメモリ装置に採用することで、小型・簡易かつ安価なホログラムメモリ装置を実現することができる。
【0024】
本発明のホログラムメモリ装置は、上記課題を解決するために、ホログラムメモリに物体光と参照光とを照射し、これらの干渉縞によってホログラムを記録するもので、かつ、同一箇所に複数のホログラムを多重に記録する記録手段と、多重記録されたホログラムのうちの任意のホログラムを参照光を照射して選択的に再生する再生手段とを備えたホログラムメモリ装置において、上記物体光と参照光とをホログラムメモリに照射するための光学系として、ビームスプリッタの両方の面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を備えていることを特徴としている。
【0025】
より好ましくは、上記ホログラムメモリに多重記録されているホログラムのうちの任意のホログラムを選択的に消去する消去手段を備え、該消去手段は、上記光学系を用い、該光学系におけるビームスプリッタの上記記録手段が消去対象のホログラムの記録時に物体光及び参照光の照射に用いた面とは異なるもう一方の面から入射した光より該ホログラムの記録時の物体光と参照光とを照射することで消去するようになっていることである。
【0026】
上述したように、2重マッハツェンダ−干渉光学系を用いることで、移相器の類を必要とすることなく、多重ホログラムを選択的に消去できるので、上記のような消去手段の構成とすることで、移相器として液晶位相変調器やピエゾミラーを配置し、電子的或いは機械的制御を介して行っていた構成に比して、非常に小型・簡易かつ安価な光学系で多重ホログラムの選択的消去が可能となる。
【0027】
また、ピエゾミラーを用いた場合のバックラッシュや、液晶位相変調器を用いた場合の電圧誤差等、従来の移相器を用いる構成では、ホログラムを記録した時の干渉縞と空間的に正確にπだけ位相の変位した干渉縞とはならずに、上書きすることによるホログラム消去の性能が劣化する可能性があるが、本発明において消去時の位相変位に用いる素子はビームスプリッタのみであり、誤差の少ない高精度なホログラムの選択的消去を実現でき、また、経時劣化も起こらない。
【0028】
また、2重マッハツェンダ−干渉光学系による干渉縞の位相変位は、ホログラムの消去に不必要である連続的な中間値を採り得ないため、移相量の誤差の原因となることがなく、これによっても、誤差の少ない高精度な多重ホログラムの選択的消去を実現できる。
【0029】
本発明のホログラムメモリ装置は、上記課題を解決するために、ホログラムメモリに物体光と参照光とを照射し、これらの干渉縞によってホログラムを記録する記録手段と、記録されたホログラムに参照光を照射して再生する再生手段とを備えたホログラムメモリ装置において、上記物体光と参照光とをホログラムメモリに照射するための光学系として、ビームスプリッタの両方の面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を備えていることを特徴としている。
【0030】
この場合も、より好ましくは、上記ホログラムメモリに記録されているホログラムを消去する消去手段を備え、該消去手段は、上記光学系を用い、該光学系におけるビームスプリッタの上記記録手段が該ホログラムの記録時に物体光及び参照光の照射に用いた面とは異なるもう一方の面から入射した光より該ホログラムの記録時の物体光と参照光とを照射することで消去するようになっていることである。
【0031】
上述したように、2重マッハツェンダ−干渉光学系を用いることで、移相器の類を必要とすることなく、ホログラムを高速消去できるので、上記のような消去手段の構成とすることで、移相器として液晶位相変調器やピエゾミラーを配置し、電子的或いは機械的制御を介して行っていた構成に比して、非常に小型・簡易かつ安価な光学系でホログラムの高速消去が可能となる。
【0032】
また、ピエゾミラーを用いた場合のバックラッシュや、液晶位相変調器を用いた場合の電圧誤差等、従来の移相器を用いる構成では、ホログラムを記録した時の干渉縞と空間的に正確にπだけ位相の変位した干渉縞とはならずに、上書きするこホログラム消去の性能が劣化する可能性があるが、本発明において消去時の位相変位に用いる素子はビームスプリッタのみであり、誤差の少ない高精度なホログラムの高速消去を実現でき、また、経時劣化も起こらない。
【0033】
また、2重マッハツェンダ−干渉光学系による干渉縞の位相変位は、ホログラムの選択的消去に不必要である連続的な中間値を採り得ないため、移相量の誤差の原因となることがなく、これによっても、誤差の少ない高精度なホログラムの高速消去を実現できる。
【0034】
上記した各本発明のホログラムメモリ装置において、上記ホログラムメモリとしては、例えば、フォトリフラクティブ媒質を含んでいるものを用いることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のホログラムの消去方法は、以上のように、ホログラムメモリに物体光と参照光とが照射され、これらの干渉縞によって多重に記録されたホログラムのうちのあるホログラムを、該ホログラムの記録時の物体光と参照光とをこれらの干渉縞が記録時の干渉縞とπだけ変位するように上記ホログラムメモリに照射することで消去するホログラムの消去方法であって、ホログラムメモリに対して物体光と参照光とを照射する光学系として、ビームスプリッタの両面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を用い、該光学系のビームスプリッタにおける消去対象のホログラムの記録時に物体光と参照光との生成に用いられた方とは異なる方の面からの入射光にて消去時の物体光と参照光とを生成することにより、記録時の干渉縞とπだけ変位した干渉縞を得るものである。
【0036】
これにより、参照光と物体光となる光波の入射を、記録時と消去時とで切り換えるだけで、記録時の干渉縞とπだけ変位した干渉縞を得ることができるので、多重ホログラムを選択的に消去可能でありながら、移相器の類が必要なくなる。
【0037】
それゆえ、該消去方法を用いてホログラムメモリ装置を構成すれば、多重ホログラムを選択的に消去可能ホログラムメモリ装置を、移相器の類を構成要素とすることなく実現することができる。
【0038】
つまり、電子的あるいは機械的制御による移相器の使用により生じるホログラムメモリ装置の大型化・複雑化を回避し、小型・簡易かつ安価な光学系により高精度なホログラムの消去を可能にして、ひいては小型・簡易かつ安価なホログラムメモリ装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の一実施形態について、図1〜図8に基づいて説明すると以下の通りである。
【0040】
本発明は、ビームスプリッタ及びミラーにより構成される2重マッハツェンダ−干渉光学系を利用する。図2に、2重マッハツェンダ−干渉光学系を示す。通常のマッハツェンダ−干渉光学系と異なり、ビームスプリッタ5の両面からの入射光を利用するため、2重マッハツェンダ−干渉光学系と呼ばれる。
【0041】
該光学系において、第1ポート1から入射された光波(実線にて示す)10は、ビームスプリッタ5の一方の面に入射し、第2ポート2から入射された光波(実線にて示す)11は、ビームスプリッタ5の他方の面に入射する。これら光波10・11は、それぞれビームスプリッタ5にて、光波10a・10b、光波11a・11bにそれぞれ分波される。光波10が分波された光波10a・10bは、第2ミラー4・第1ミラー3を介して交差し、同様に、光波11が分波された光波11a・11bも、分波光10a・10bと同じ光路を伝搬して交差する。
【0042】
そして、このとき、第1ポート1から入射された光波10が分波された光波10a・10bが交差領域に形成する干渉縞(実線にて示す)6と、第2ポート2から入射された光波11が分波された光波11a・11bが上記光波10a・10bと同一光路を伝搬して交差領域に形成する干渉縞(破線にて示す)7との間には、空間的にpの位相差があることが知られている(例えば、非特許文献3)。
【0043】
本願発明者らは、このような特性に着目し、該光学系の交差領域に、フォトリフラクティブ媒質を配置し、上記位相差により、片方のポートからの入射光により記録されたホログラムを、異なるポートからの入射光により形成される干渉縞で上書きすることにより、多重記録されたホログラムを選択的に消去できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0044】
図1に、2重マッハツェンダ−干渉光学系を利用した、本発明の実施の一形態であるホログラムメモリ装置を示す。基本構成は、第1及び第2の2つの光源12・13と、2重マッハツェンダ−干渉光学系25を構成する第1及び第2の2つのミラー16・17並びにビームスプリッタ(図中:BS)14と、ホログラムメモリであるフォトリフラクティブ媒質(フォトリフラクティブ結晶)11と、シャッター15と、空間光変調器(図中:SLM)18と、すりガラス21と、光検出器24とを備えている。
【0045】
ここで、上記第1及び第2の2つの光源12・13は、図2で示した2重マッハツェンダ−干渉光学系における第1及び第2の2つの入力ポート1・2の位置関係を満足するように、2重マッハツェンダ−干渉光学系25に対して配置されている。
【0046】
なお、図1では、ホログラムの多重記録手法の一例として、ホログラムごとに参照光の波面を変えるスペックル多重記録手法を用いている。そのため、後述する参照光の光路上にすりガラス21が配置されているが、ホログラムごとに参照光の波長を変える波長多重記録手法や、ホログラムごとに参照光の角度を変える角度多重記録法、ホログラムごとに参照光の位相を変化させる位相コード多重記録法、参照光として球面波を用い、ホログラムごとに記録媒質(ホログラムメモリ)を微小距離移動する球面参照光シフト多重記録法など他のホログラム多重記録手法を用いることができる。
【0047】
以下、図3〜図5を参照しながら、本ホログラムメモリ装置におけるホログラムの記録・再生・選択的消去の各手順について説明する。
【0048】
ホログラムの記録時には、図3に示すように、第1光源12からの光波のみを入射する。ビームスプリッタ14により、この光波が2つに分波され、片方は物体光19として、片方は参照光20として、フォトリフラクティブ媒質11中で干渉し、ホログラム22を記録する。ここで、記録データはSLM18により物体光19に与えられる。複数のホログラム(♯1,♯2,…♯n)を多重記録する際には、すりガラス21を微小距離移動することにより参照光20の波面を変化させ、これを新たな参照光20として異なるホログラムをフォトリフラクティブ媒質11の同一個所に多重記録する(記録手段の動作)。
【0049】
次に、ホログラムの再生時には、図4に示すように、第1光源12からのみ光波を入射し、更に、物体光19の光路上の配されたシャッター15を閉じることにより、フォトリフラクティブ媒質11に参照光20のみを入射し、ホログラムを再生する。多重記録されたホログラムのうち、再生時のすりガラス21の位置が記録時の位置と一致するホログラムからのみ回折光が発生し、これを出力光23として光検出器24で検出する(再生手段の動作)。
【0050】
そして、ホログラムの選択的消去時には、図5に示すように、記録時及び再生時には使用されていない第2光源13からのみ光波を入射する。この時、参照光20の光路上のすりガラス21は、消去するホログラムに対する再生条件を満足するように配置し、また、物体光19には消去するホログラムに対応する入力画像をSLM18により与える。これにより、このホログラムは、記録時とちょうどpだけ変位した干渉縞により上書きされることになり、選択的に消去されることになる(消去手段の動作)。
【0051】
なお、以上の手順において、第1光源12と第2光源13の用途は可換である。つまり、第2光源13からの光波によりホログラムの多重記録及び再生を行い、第1光源12からの光波によりホログラムの選択的消去を行うことも可能である。
【0052】
また、ホログラムの記録とホログラムの選択的消去とは、互いに異なる光源からの光波で行う必要があるが、再生については記録用或いは選択的消去用のいずれの光源からの光波でも行うことが可能である。したがって、ここでは第1光源12からの光波により再生を行うようにしたが、第2光源13からの光波により再生を行うようにしてもよい。
【0053】
さらに、図1のホログラムメモリ装置では、第1及び第2の光源12・13として光源を2つ設けたが、一つの光源からの光波を2本に分波し、これを第1光源12及び第2光源13として用いることも可能である。
【0054】
以上のように、本実施の形態のホログラムメモリ装置では、ビームスプリッタの第1の面から入射された光波が分波されて交差領域に形成する干渉縞と、ビームスプリッタの第2の面から入射した光波が、上記第1の面からの入射光が分波された光波と同一光路を伝搬して交差領域に形成する干渉縞との間には、空間的にpの位相差があるといった特性を有する2重マッハツェンダ−干渉光学系を利用し、該光学系にて参照光と物体光とをフォトリフラクティブ媒質11に照射するようになっている。
【0055】
したがって、参照光と物体光となる光波の入射を、記録時と選択的消去時とで切り換えることで、参照光或いは物体光の光路上に選択的消去時の光波の位相を変位させるための移相器を別途配置する必要がなく移相器として液晶位相変調器やピエゾミラーを配置し、電子的或いは機械的制御を介して行っていた構成に比して、非常に小型・簡易かつ安価な光学系でホログラムの選択的消去が可能となる。
【0056】
また、ピエゾミラーを用いた場合のバックラッシュや、液晶位相変調器を用いた場合の電圧誤差等、従来の移相器を用いる構成では、ホログラム選択的消去の性能が劣化する可能性があるが、本発明において選択的消去時の位相変位に用いる素子はビームスプリッタのみであり、誤差の少ない高精度なホログラムの選択的消去を実現でき、また、経時劣化も起こらない。
【0057】
しかも、2重マッハツェンダ−干渉光学系による干渉縞の位相変位は、ホログラムの選択的消去に不必要である連続的な中間値を採り得ないため、移相量の誤差の原因となることがなく、これによっても、誤差の少ない高精度なホログラムの選択的消去を実現できる。
【0058】
そして、上述したように、本発明における多重ホログラムの選択的消去手法は角度多重記録法や球面参照光シフト多重記録法、位相コード多重記録法等、他の多重記録手法にも適用することが可能である。
【0059】
以下、実施例にて本発明をさらに説明する。
〔実施例1〕
まず、図2に示した2重マッハツェンダ−干渉光学系により多重記録されたホログラムの選択的消去が行えることを、実験的に確認した実施例について記載する。
【0060】
図6に、図2における光波10a・10b、11a・11bの交差領域に、フォトリフラクティブ媒質として、鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO:Fe)結晶を配置し、第1ポート1からの入射光による干渉縞6で記録されたホログラムを、第2ポート2からの入射光による干渉縞7で上書きした場合の規格化回折効率を示す。
【0061】
ここでは、ホログラム記録光の1/10程度の強度の光波により、ホログラムを位相共役再生し回折効率を測定している。位相共役再生とは参照光と対向伝搬する光波によりホログラムを通常の反対側から再生することであり、これにより記録過程にあるホログラムの回折効率の動的な振る舞いを観測することが可能である。また、比較のために第2ポート2からの入射光と同一強度のインコヒーレント消去光を結晶に照射した場合の規格化回折効率もプロットしている。
【0062】
図6より、第2ポート2からの入射光(選択的消去光)によるホログラム消去(選択的消去)は、インコヒーレント消去と比較して格段に高速であることが分かる。また、選択的消去光は他の多重ホログラムに対しインコヒーレント消去光として働くため、この性質がホログラムの選択的消去を可能とする。図6中、選択的消去の場合にはおよそ260秒程度で、規格化回折効率が極小値をとっている。規格化回折効率が極小値をとるときに第2ポート2からの光波による干渉縞7の上書きを終了することで、ホログラムの選択的消去が実現される。
〔実施例2〕
次に、フォトリフラクティブ媒質として、鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO:Fe)結晶を用い、この結晶中に実際にホログラムを多重記録し、多重ホログラムのうちの一枚を選択的に消去できることを、実験的に確認した実施例について記載する。
【0063】
図7に実験に用いた系を示す。ここでM波ミラー、BSはビームスプリッタ、HWPは半波長板、PBSは偏光ビームスプリッタ、Lはレンズである。本実験ではフォトリフラクティブ結晶として、7×7×5[mm3]の鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO:Fe)結晶33を用い、光源として波長514nmのArレーザを用いた。
【0064】
Arレーザからのレーザ光は、ミラーM1、半波長板HWP1を介して偏光ビームスプリッタPBS1で2つに分割され、そのうちの一方の光がミラーM2、ミラーM3を介してビームスプリッタBSに第1ポート31からの光波として導かれ、他方の光が半波長板HWP2、偏光ビームスプリッタPBS2、ミラーM4を介してビームスプリッタBSに第2ポート32からの光波として導かれる。なお、図中、S1、S2にて示すのは、第1ポート31及び第2ポート32からの光波の入射を選択的に制御するためのシャッターである。
【0065】
このような実験系を用いて、ホログラムの多重記録、その後のホログラムの選択的消去、及び選択的消去部分への追記を行った。図8に、最初の記録後、選択的消去後、並びに追記後の再生像を示す。
【0066】
まずは、第1ポート31から光波を入射し、これをビームスプリッタBSにより分波してそれぞれ物体光、参照光として、結晶33中にホログラムを形成した。詳細には、分波光のうち、ミラーM5に照射された方は、物体光として、入力マスク34にて画像データが付加され、レンズL1を介してLiNbO:Fe結晶33中に集光され、ミラーM6に照射された方は、参照光として、すりガラス35を経てレンズL2を介してLiNbO:Fe結晶33中に集光される。ここでは、すりガラス35の水平方向移動により、3枚のホログラムをスペックル多重記録した。記録した3枚のホログラムの各画像データを、図8に記録画像として示す。
【0067】
次に、第2ポート32から光波を入射し、3枚目のホログラムの一部であるアルファベット“C”のみを選択的に消去した。ここでホログラムを選択的に消去する際には、参照光の光路上のすりガラス35は、消去するホログラム(ここでは3枚目)に対する再生条件を満足するように配置し、また、物体光については消去するホログラム(ここでは3枚目)に対応する入力マスク34(ここでは“C”)を記録時と同一位置に配置している。
【0068】
その後、第1ポート31から光波を入射して、消去された3枚目のホログラムの“C”の位置に、“C”の画像データを有する入力マスク34を用いて、新たに“E”を追記した。
【0069】
図8より、本手法により任意のホログラム内の任意部位を選択的に消去・更新できていることがわかる。
【0070】
なお、上記実施の形態及び実施例では、多重ホログラムの選択的消去として説明したが、多重記録でないホログラムについても、このような2重マッハツェンダ−干渉光学系を用いることで、移相器の類を必要とすることなく、高速にホログラムを消去することができるようになる。
【0071】
なお、上記した具体的な実施の形態と実施例とは、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求の範囲に記載した範囲内で、種々変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
大容量光メモリとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の一形態を示すものであり、ホログラムメモリ装置の要部構成を示す図面である。
【図2】2重マッハツェンダ−干渉光学系の構成を示す図面である。
【図3】図1のホログラムメモリ装置における記録時の手順を示す図面である。
【図4】図1のホログラムメモリ装置における再生時の手順を示す図面である。
【図5】図1のホログラムメモリ装置における選択的消去時の手順を示す図面である。
【図6】本発明の一実施例を示すものであり、図2の2重マッハツェンダ−干渉光学系における交差領域に、フォトリフラクティブ媒質としてLiNbO:Fe結晶を配置し、第1ポートからの入射光による干渉縞で記録されたホログラムを、第2ポートからの入射光による干渉縞で上書きした場合の規格化回折効率を示す図面である。
【図7】本発明のその他の実施例を示すものであり、フォトリフラクティブ媒質としてLiNbO:Fe結晶を用い、この結晶中に実際にホログラムを多重記録し、多重ホログラムのうちの一枚を選択的に消去できることを確認した実験系の構成を示す図面である。
【図8】図7の実験系にて3枚のホログラムを記録し、そのうちの1つを選択的消去し、さらに消去した部分に追記を行った各工程におけるホログラムの再生像を示す図面である。
【図9】従来の移相器を用いて記録時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞を生成して該干渉縞を上書きすることによる多重ホログラムの選択的消去を説明する図面である。
【符号の説明】
【0074】
11 フォトリフラクティブ媒質(ホログラムメモリ)
12 第1光源
13 第2光源
14 ビームスプリッタ
15 シャッター
16 第1ミラー
17 第2ミラー
18 空間光変調器
19 物体光
20 参照光
21 すりガラス
22 ホログラム
24 光検出器
25 2重マッハツェンダ−干渉光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラムメモリに物体光と参照光とが照射され、これらの干渉縞によって多重に記録されたホログラムのうちのあるホログラムを、該ホログラムの記録時の物体光と参照光とをこれらの干渉縞が記録時の干渉縞とπだけ変位するように上記ホログラムメモリに照射することで消去するホログラムの消去方法であって、
ホログラムメモリに対して物体光と参照光とを照射する光学系として、ビームスプリッタの両面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を用い、該光学系のビームスプリッタにおける消去対象のホログラムの記録時に物体光と参照光との生成に用いられた方とは異なる方の面からの入射光にて消去時の物体光と参照光とを生成することにより、記録時の干渉縞とπだけ変位した干渉縞を得ることを特徴とするホログラムの消去方法。
【請求項2】
ホログラムメモリに物体光と参照光とが照射され、これらの干渉縞によって記録されたホログラムを、該ホログラムの記録時の物体光と参照光とをこれらの干渉縞が記録時の干渉縞とπだけ変位するように上記ホログラムメモリに照射することで消去するホログラムの消去方法であって、
ホログラムメモリに対して物体光と参照光とを照射する光学系として、ビームスプリッタの両面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を用い、該光学系のビームスプリッタにおけるホログラムの記録時に物体光と参照光との生成に用いられた方とは異なる方の面からの入射光にて消去時の物体光と参照光とを生成することにより、記録時の干渉縞とπだけ変位した干渉縞を得ることを特徴とするホログラムの消去方法。
【請求項3】
ホログラムメモリに物体光と参照光とを照射し、これらの干渉縞によってホログラムを記録するもので、かつ、同一箇所に複数のホログラムを多重に記録する記録手段と、多重記録されたホログラムのうちの任意のホログラムを参照光を照射して選択的に再生する再生手段とを備えたホログラムメモリ装置において、
上記物体光と参照光とをホログラムメモリに照射するための光学系として、ビームスプリッタの両方の面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を備えていることを特徴とするホログラムメモリ装置。
【請求項4】
上記ホログラムメモリに多重記録されているホログラムのうちの任意のホログラムを選択的に消去する消去手段を備え、
該消去手段は、上記光学系を用い、該光学系におけるビームスプリッタの上記記録手段が消去対象のホログラムの記録時に物体光及び参照光の照射に用いた面とは異なるもう一方の面から入射した光より該ホログラムの記録時の物体光と参照光とを照射することで消去するようになっていることを特徴とするホログラムメモリ装置。
【請求項5】
ホログラムメモリに物体光と参照光とを照射し、これらの干渉縞によってホログラムを記録する記録手段と、記録されたホログラムに参照光を照射して再生する再生手段とを備えたホログラムメモリ装置において、
上記物体光と参照光とをホログラムメモリに照射するための光学系として、ビームスプリッタの両方の面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を備えていることを特徴とするホログラムメモリ装置。
【請求項6】
上記ホログラムメモリに記録されているホログラムを消去する消去手段を備え、
該消去手段は、上記光学系を用い、該光学系におけるビームスプリッタの上記記録手段が該ホログラムの記録時に物体光及び参照光の照射に用いた面とは異なるもう一方の面から入射した光より該ホログラムの記録時の物体光と参照光とを照射することで消去するようになっていることを特徴とするホログラムメモリ装置。
【請求項7】
上記ホログラムメモリが、フォトリフラクティブ媒質を含んでいることを特徴とする請求項3〜6の何れか1項に記載のホログラムメモリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−126642(P2006−126642A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316831(P2004−316831)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】