説明

ホログラム光学素子の作製方法、およびホログラム光学素子の作製装置

【課題】リレーレンズを用いることなく二光束干渉露光により精度の高いホログラム光学素子を作製することが可能なホログラム光学素子の作製方法を提供する。
【解決手段】レーザ装置からレーザ光91を出射する。レーザ光91を回折格子20によって回折し、回折方向が互いに異なる複数の回折光92,93を生成する。各回折光92,93は、互いに異なる位置に焦点を結ぶ集束光であり、回折格子の外部領域において互いに干渉する。回折光が互いに干渉する外部領域に配置された光記録媒体41に対して、干渉した回折光を照射する。回折格子20に入射するレーザ光のうち回折格子を透過する透過光を、反射面23aによって光記録媒体41の方向とは異なる方向に反射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム光学素子の作製方法、およびその作製装置に関するものである。特に、本発明は、光ディスク等の光情報記録媒体に対し、光学的に情報を記録または再生するための光ピックアップ用のホログラム光学素子の作製方法、およびその作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc)といった、複数規格の光ディスクが普及している。これらの光ディスクは、光情報記録再生用の光源の波長が異なる。これらの光ディスク用の記録再生機器をノートパソコンなどの電子機器に組み込む際には、小型化および薄型化が求められる。このため、記録再生機器における各波長に対応した光ピックアップ装置も同様に小型化および薄型化が求められている。
【0003】
また、上記全ての光ディスク用の記録再生機器を一体化して、上記全ての光ディスクの記録再生を行なうことが可能な記録再生機器も知られている。当該記録再生機器を電子機器に組み込む際には、光ピックアップの薄型化がより一層求められる。
【0004】
薄型化した光ピックアップ装置を提供するために、回折光学素子を用いて、光ディスクからの戻り光をフォーカス信号用の受光素子とトラック信号用の受光素子とに回折させる手法が提案されている。
【0005】
図10は、光ピックアップ装置の概略構成を示した図である。図10を参照して、光ピックアップ装置100は、たとえば次のように構成される。光ピックアップ装置100は、光源である半導体レーザ装置131,141と、ダイクロイックミラー142と、コリメータレンズ132と、回折格子133と、ビームスプリッタ134と、1/4波長板135と、対物レンズ136と、センサレンズ138と、回折光学素子139と、受光素子140とを含む。
【0006】
半導体レーザ装置131から出射される光は、コリメータレンズ132によって略平行光にされる。コリメータレンズ132から出射した光は、回折格子133によって、少なくとも透過0次光と1次回折光とに回折される。回折格子133から出射した光は、ビームスプリッタ134を透過し、1/4波長板135によって円偏光に変換される。当該円偏光は、対物レンズ136によって集光され、光ディスク137上に照射される。
【0007】
半導体レーザ装置141は、半導体レーザ装置131とは異なる波長のレーザ光を出射する。半導体レーザ装置141が出射するレーザ光は、ダイクロイックミラー142によって半導体レーザ装置131が出射したレーザ光の光軸と結合する。半導体レーザ装置141が出射するレーザ光は、半導体レーザ装置131が出射するレーザ光と同様に光ディスク137上に照射される。
【0008】
光ディスク137からの反射光は、再び1/4波長板135によって入射時から90°位相が回転した直線偏光に変換される。当該直線偏光は、ビームスプリッタ134によって反射され、その後、回折光学素子139により受光素子140に入射する。受光素子140の受光素子140b,140cは、フォーカス信号用もしくはトラック信号用の素子である。
【0009】
より薄型の光ピックアップ装置を提供するためには、光束分離に係る回折光学素子139の回折角を大きくする必要がある。しかしながら、短波長の戻り光を大きい回折角で回折するためには回折格子のピッチを微小化することが必要となる。このため、回折格子をフォトリソグラフィ技術により製作することは、非常に困難となる。
【0010】
それゆえ、特許文献1および特許文献2に示すとおり、二光束干渉法により回折格子パターンを光記録媒体に記録したホログラム光学素子を、光ピックアップ装置の回折光学素子として用いることが注目されている。二光束干渉法で作製したホログラム光学素子は、回折角の自由度が高く、高い回折効率を実現することも可能である。また、フォトリソグラフィ技術で作製したレリーフ型ホログラム素子を用いた場合には、多層ディスク利用時において、非再生層からの反射光がレリーフ型ホログラム素子上で回折される。このため、レリーフ型ホログラム光学素子を用いると迷光が発生してしまう。しかしながら、二光束干渉法で作製した体積型ホログラム光学素子を用いると、非再生層からの反射光は再生層からの反射光と位相状態が異なる。したがって、非再生層からの反射光は、体積型ホログラム光学素子上で回折されない。それゆえ、上記体積型ホログラム光学素子を用いることにより、記録再生時の迷光を抑制することも可能である。
【0011】
このようなホログラム光学素子の作製は、フォーカス信号用やトラック信号用の光束に分離するためのセクターマスクを介し、光ピックアップの基となる透過0次光と同等の光束と、各受光素子へ入射する1次回折光と同等な光束との二光束を光記録媒体上で干渉させることにより行なう。特許文献1では上記マスクパターンを記録材(感光材)の直前に配置し、二光束干渉露光を行っている。ホログラム光学素子を大量に作製、もしくは複製するためには、マスターとなるホログラム光学素子に対して上記透過0次光と同等の光束を入射し、0次光と0次光から生じる1次回折光との二光束を光記録媒体上で干渉させることにより行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−11478号公報
【特許文献2】特開2005−293815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように二光束干渉法を用いてホログラム光学素子を作製するためには、作製に用いる二光束を光記録媒体内において重ね合わせる必要がある。しかしながら、二光束はいずれも集束光であり、セクターマスクで切り欠いた光束である。このため、所望のホログラム光学素子となるように、二光束を重ね合わせることは困難である。
【0014】
たとえば特許文献1においては、セクターマスクを記録材料の直前に配置している。しかしながら、セクターマスクと光記録媒体とを略密着状態とし、かつセクターマスク側の記録媒体の基板を十分に薄くしなくては、光記録媒体上での二光束干渉が十分に行なえない。さらには、回折角を大きくするよう二光束間の角度を大きくとると、光記録媒体上での二光束干渉が一層困難となる。
【0015】
また、特許文献1においては、ホログラム光学素子の複製において、マスターとなるホログラム光学素子とホログラム光学素子を複製するための光記録媒体とを略密着させている。さらに、同文献においては、マスターとなるホログラム光学素子に透過0次光を入射させて回折光を生成することにより、透過0次光と1次回折光とを光記録媒体上で二光束干渉露光する方法が記載されている。この方法についても、マスターとなるホログラム光学素子と光記録媒体との密着度、およびマスターとなるホログラム光学素子と光記録媒体との基板の厚み、回折角の制限が問題となる。また、当該方法ではホログラム光学素子を大量生産するためにレンズアレイを用いている。このため、レンズアレイとマスターとなるホログラム光学素子との光軸合わせが容易でない。
【0016】
また、上記の複製方法とは異なる複製方法として、特許文献1には、マスターとなるホログラム光学素子と光記録媒体との間にリレーレンズ系を組むことにより、マスターとなるホログラム光学素子の透過0次光と1次回折光とを光記録媒体上で二光束干渉露光する方法が記載されている。当該方法においても、リレーレンズとマスターホログラム光学素子との光軸調整が容易でない。また、1つのホログラム光学素子の複製につき1対のリレーレンズを要するため、複製が非効率である。
【0017】
また、特許文献2に記載されている複製方法においてはマスターとなるホログラム光学素子と複製するための光記録媒体とが十分に密着していないために、マスターとなるホログラム光学素子の透過0次光と1次回折光とが光記録媒体上で十分重なっていない。このようにホログラム光学素子の作製においてセクターマスクを光記録媒体の直前に配置する方法、および複製において透過0次光を用いる方法では、十分な二光束干渉露光を行なうことができない。
【0018】
本発明は上記問題点を鑑みなされたものであって、その目的は、リレーレンズを用いることなく二光束干渉露光により精度の高いホログラム光学素子を作製するためのホログラム光学素子の作製方法、およびホログラム光学素子の作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のある局面に従うと、ホログラム光学素子の作製方法は、二光束干渉法を用いて感光材に干渉縞を記録することにより、ホログラム光学素子を作製するホログラム光学素子の作製方法である。ホログラム光学素子の作製方法は、レーザ光を出射するステップと、レーザ光を回折格子によって回折し、回折方向が互いに異なる複数の回折光を生成するステップとを備える。各前記回折光は、互いに異なる位置に焦点を結ぶ集束光であり、前記回折格子の外部領域において互いに干渉する。ホログラム光学素子の作製方法は、回折光が互いに干渉する外部領域に配置された感光材に対して、干渉した回折光を照射するステップと、回折格子に入射するレーザ光のうち回折格子を透過する透過光を、当該感光材の方向とは異なる方向に反射するステップとをさらに備える。
【0020】
好ましくは、複数の回折光は、第1の回折光と、第2の回折光とを含む。第1の回折光は、回折方向が回折格子の格子面に対して垂直であり、当該回折方向に垂直な断面が円形状である。第2の回折光は、回折方向が第1の回折光の回折方向に対して斜めの方向であり、当該第2の回折光の回折方向に垂直な断面が円形の一部を切り欠いた形状である。
【0021】
好ましくは、回折光を生成するステップは、複数の回折光を複数組生成する。
好ましくは、ホログラム光学素子の作製方法は、感光材に回折光を照射する前後にインコヒーレントな光を感光材に照射するステップをさらに備える。
【0022】
本発明の他の局面に従うと、ホログラム光学素子の作製装置は、二光束干渉法を用いて感光材に干渉縞を記録することにより、ホログラム光学素子を作製するホログラム光学素子の作製装置である。ホログラム光学素子の作製方法は、レーザ光を出射する第1の光源と、レーザ光を回折し、回折方向が互いに異なる複数の回折光を生成する回折格子とを備える。各回折光は、互いに異なる位置に焦点を結ぶ集束光であり、回折格子の外部領域において互いに干渉する。ホログラム光学素子の作製装置は、回折光が互いに干渉する外部領域に感光材を配置する配置手段と、回折格子に入射するレーザ光のうち回折格子を透過する透過光を、当該感光材の方向とは異なる方向に反射する反射面とを備える。
【0023】
好ましくは、複数の回折光は、第1の回折光と、第2の回折光とを含む。第1の回折光は、回折方向が回折格子の格子面に対して垂直であり、当該回折方向に垂直な断面が円形状である。第2の回折光は、回折方向が第1の回折光の回折方向に対して斜めの方向であり、当該第2の回折光の回折方向に垂直な断面が円形の一部を切り欠いた形状である。
【0024】
好ましくは、ホログラム光学素子の作製装置は、前記レーザ光をコリメートすることにより、当該レーザ光を平面波とする光学素子をさらに備える。回折格子は、複数の回折光を生成する格子パターンを複数組有する。平面波は、各格子パターンに照射される。格子パターンの各々は、平面波の入射方向が互いに同じとなる位置に配置されている。
【0025】
好ましくは、回折格子の格子パターンは体積型ホログラムであり、当該格子パターンの各々は互いに多重された領域を有する。
【0026】
好ましくは、ホログラム光学素子の作製装置は、感光材に対してインコヒーレントな光を照射する第2の光源と、感光材に回折光を照射する前後に、感光材に対してインコヒーレントな光を第2の光源に照射させる制御装置とを備える。
【発明の効果】
【0027】
上記ホログラム光学素子の作製方法およびホログラム光学素子の作製装置によれば、リレーレンズを用いることなく二光束干渉露光により精度の高いホログラム光学素子を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ホログラム光学素子の作製方法を説明するための図である。
【図2】ホログラム光学素子を一度に複数生産する方法を説明するための図である。
【図3】ホログラム光学素子の作製装置の概略構成を示した図である。
【図4】回折格子を作製する際に用いるセクターマスクを示した図である。
【図5】回折格子の作製方法における第1工程を説明するための図である。
【図6】回折格子の作製方法における第2工程を説明するための図である。
【図7】回折格子の作製方法における第3工程を説明するための図である。
【図8】回折格子の作製方法における第4工程を説明するための図である。
【図9】カップリングプリズムを用いた、回折格子の作製方法を説明するための図である。
【図10】光ピックアップ装置の概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る、ホログラム光学素子の作成方法、ホログラム光学素子の作製装置、およびホログラム光学素子の作製に用いる回折格子の作製方法について説明する。
【0030】
具体的には、まず、光ピックアップに用いられるホログラム光学素子の作製方法について、図1,2に基づいて説明する。次いで、ホログラム光学素子の作製装置について、図3に基づいて説明する。最後に、ホログラム光学素子の作製に用いる回折格子の作製方法について、図4〜8に基づいて説明する。
【0031】
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0032】
<ホログラム光学素子の作製方法>
図1は、ホログラム光学素子の作製方法を説明するための図である。図1を参照して、回折格子20に対して、予め定められた方向から平面波である参照光91を入射させる。なお、参照光91は、レーザ光をコリメートすることにより得られたレーザ光である。回折格子20の感光材22には、干渉縞22a,22bが記録されている。回折格子20は、干渉縞22a,22bにより参照光91を回折し、集束光である回折光92,93を出射する。なお、感光材22は、透明な基板21,23により挟持されている。
【0033】
回折光92は、光ピックアップにおけるホログラム光学素子を透過する透過0次光と同等な光束である。回折光92は、回折方向が回折格子20の格子面に対して垂直であり、当該回折方向に垂直な断面が円形状である。
【0034】
回折光93は、光ピックアップの受光素子に入射する1次回折光と同等な光束である。回折光93は、回折方向が回折光92の回折方向に対して斜めの方向であり、回折光93の回折方向に垂直な断面が円形の一部を切り欠いた形状である。なお、回折光93は、1つである必要はなく、光ピックアップ作製時の受光素子の数と同じだけあることが好ましい。
【0035】
なお、以下では、ホログラム光学素子の元となる材料を「ホログラム材40」と称する。ホログラム材40は、透明な基板42上に感光材41が形成されている。
【0036】
感光材41を回折光92,93が重なる領域に配置することで、感光材41に干渉縞(ホログラム)41aが記録される。なお、ホログラム材40において、回折格子20に近い表面には、ガラスやポリカーボネイトなどの透明基板が設けられていてもよい。あるいは、感光材41の表面は、感光材41を保護する保護膜で覆われていてもよい。また、感光材41の表面は、感光材41を整形した際の離型剤が塗付された状態でもよい。
【0037】
回折格子20に入射する参照光91のうち回折格子20を透過する透過光(0次回折光)は、反射面23aにより反射される。なお、反射面23aは、基板23における感光材41側の表面である。また、回折格子20に反射面23aを設ける代わりに、回折格子20とホログラム材40との間に透過光のみを反射する反射板を挿入しても、同様の効果を得られる。
【0038】
したがって、上記透過光は、ホログラム材40に入射しない。それゆえ、感光材41の不要な露光を防ぐことができる。特に、回折格子20を、体積型ホログラム材を用い格子パターンを記録することが好ましい。体積型ホログラムとすることで、ホログラム光学素子の作製において不要な光である、回折格子20からの−1次回折光の発生を抑制することができる。すなわち、回折格子20は、参照光91が入射することにより、ホログラム光学素子の作製に必要な全光束を生成し、不要な光束を反射するマスクとして機能する。このとき、参照光91の回折格子20に対する入射角は、回折光93の回折格子20に対する回折角の最大値よりも大きいことが好ましい。また、参照光91の回折格子20に対する入射角を反射面23aの全反射角とすることが、より好ましい。
【0039】
図2は、ホログラム光学素子を一度に複数生産する方法を説明するための図である。図2を参照して、回折格子120においては、回折格子20と同様、感光材122が基板21と基板23とで挟持されている。感光材122には、干渉縞22aおよび複数の干渉縞22bが複数組記録されている。つまり、干渉縞22aと干渉縞22bとからなる格子パターンが複数組記録されている。回折格子120に対して予め定められた方向から参照光91を入射させる。回折格子120の複数の干渉縞2aおよび複数の干渉縞2bによって、互いに等しい複数の集束光である回折光92と互いに等しい複数の回折光93とが生成される。回折光92,93が重なる領域において感光材41を配置することにより、互いに等しい複数の干渉縞5aを感光材41に一度に記録することができる。
【0040】
<ホログラム光学素子の作製装置>
図3は、ホログラム光学素子の作製装置の概略構成を示した図である。詳しくは、図3は、ホログラム光学素子を一度に複数生産するための作製装置を示した図である。図3を参照して、ホログラム光学素子の作製装置1(以下、「作製装置1」と称する)は、レーザ装置11と、ミラー12と、エキスパンダレンズ13と、アパーチャ14と、カップリングプリズム15と、制御装置16と、搬送装置17と、回折格子120とを備える。さらに、作製装置1は、スペイシャルフィルタ(図示せず)と、コリメータレンズ(図示せず)とを備える。
【0041】
レーザ装置11から出射されたレーザ光は、スペイシャルフィルタおよびコリメータレンズによってコリメートされて、略平行光となる。コリメートされたレーザ光は、ミラー12によって、エキスパンダレンズ13へ導かれる。エキスパンダレンズ13から出射したレーザ光(つまり、参照光91)は、アパーチャ14およびカップリングプリズム15を透過し、回折格子120に入射する。回折格子120に参照光91が入射することにより、上述したように複数の回折光92,93が生成され、回折光同士による干渉縞がホログラム光学素子として感光材41に記録される。
【0042】
なお、感光材41に対して二光束干渉露光をする際、感光材41内に含まれる酸素が光重合反応を妨げる。このため、作製装置1は、露光前にLED(Light Emitting Diode)などによりインコヒーレントな光をホログラムが記録される領域に一時照射する。
【0043】
たとえば、作製装置1は、レーザ装置11が発振するレーザ光をコヒーレント長以上離し、上記インコヒーレントな光を生成してもよい。ただし、レーザ装置11を用いてインコヒーレントな光を生成する場合、コヒーレント長以上の光路長とするため、複数のミラーによりレーザ装置11が発振したレーザ光を反射する必要がある。このため、迷光が生じる原因にもなる。このため、作製装置1は、第1の光源であるレーザ装置11とは異なる第2の光源(図示せず)を用いて、上記インコヒーレントな光を生成することが好ましい。
【0044】
また、ホログラム光学素子の二光束干渉露光後、さらなる光重合反応を抑制するために、上記インコヒーレント光をホログラムが記録される領域に照射する。この照射により、記録した干渉縞を固定することができる。
【0045】
上記第2の光源は、たとえば、回折格子120から出射した回折光がホログラム材40から出射する出射面の直前に配置すればよい。なお、二光束干渉露光する際には、回折光の妨げとならないよう、第2の光源を移動させればよい。また、たとえば、回折格子120から出射した回折光の妨げとならない位置に第2の光源を配置し、当該回折光の妨げとならない位置に配置したミラーを介し、反射面23a側からホログラムが記録される領域に照射してもよい。
【0046】
制御装置16は、レーザ装置11、搬送装置17、および上記第2の光源といった作製装置1に含まれる制御対象物の動作を制御する。
【0047】
搬送装置17は、ホログラム材40を予め定められたレーザ照射位置(図3のホログラム材40の位置)に搬送する。つまり、搬送装置17は、回折光が互いに干渉する領域に感光材41を配置する。また、搬送装置17は、露光されたホログラム材40を当該レーザ照射位置から外部へ搬送する装置である。
【0048】
以上、説明したようなホログラム光学素子の作製方法および作製装置1によれば、リレーレンズを用いることなく二光束干渉露光により精度の高いホログラム光学素子を作製することが可能となる。さらに、当該作製方法および作製装置1によれば、回折角が大きい場合においても十分な二光束干渉露光が可能となる。
【0049】
<回折格子の作製方法>
図1に示した回折格子20の作製方法について、図4〜9に基づいて説明する。一例として、3方向の回折光束を生成可能なホログラム光学素子を作製するための回折格子の作製方法について説明する。つまり、互いに異なる方向の1次回折光を3つ生成する場合を例に挙げて説明する。
【0050】
図4は、回折格子20を作製する際に用いるセクターマスクを示した図である。図4(a)は、回折格子20の作製方法における第1工程で用いられるセクターマスク61aを示した図である。図4(b)は、回折格子20の作製方法における第2工程で用いられるセクターマスク61bを示した図である。図4(c)は、回折格子20の作製方法における第3工程で用いられるセクターマスク61cを示した図である。図4(d)は、回折格子20の作製方法における第4工程で用いられるセクターマスク61dを示した図である。
【0051】
図4(a)〜(d)を参照して、各セクターマスク61a〜61dは、光ピックアップの各受光素子に導きたい1次回折光における進行方向と垂直な断面形状と略相似する開口部を有する。
【0052】
図4(a)を参照して、セクターマスク61aの開口部610は円形である。つまり、セクターマスク61aは、透過0次光における上記断面形状と相似する形状の切り欠きがなされたマスクである。図4(b)を参照して、セクターマスク61bは、上記開口部として、互いに隣接する切り欠き部612と切り欠き部615とを備える。なお、切り欠き部612と切り欠き部615は、Y軸に対して対象な形状である。図4(c)を参照して、セクターマスク61cは、上記開口部として、切り欠き部611と切り欠き部613とを備える。なお、切り欠き部611と切り欠き部613は、X軸に対して対象な形状である。図4(d)を参照して、セクターマスク61dは、上記開口部として、切り欠き部614と切り欠き部616とを備える。なお、切り欠き部614と切り欠き部616は、X軸に対して対象な形状である。セクターマスク61b〜dは、セクターマスクの一例であり、当該軸に対称でなくてもよい。なお、回折格子20の作製方法における第1工程では、セクターマスクを使用しなくてもよい。
【0053】
以下では、回折格子20の元となる材料を「回折格子材50」と称する。回折格子材50は、透明な基板51上に感光材52が形成されている。
【0054】
図5は、回折格子20の作製方法における第1工程を説明するための図である。図5(a)は、第1工程における、各部材と利用する光との関係を示した図である。図5(b)は、第1工程によって感光材52に記録される干渉縞の形状を説明するための図である。
【0055】
図5(a),(b)を参照して、第1の記録光81aと参照光82aとの二光束干渉露光により、感光材52に第1の干渉縞52aを記録する。第1の記録光81aは、レーザ光をセクターマスク61aおよび対物レンズ62を透過させることで生成する。第1の記録光81aは、たとえば、光ピックアップにおけるホログラム光学素子を透過する透過0次光と同等な光束である。感光材52におけるレーザ光の入射面が第1の記録光81aの光軸に対し垂直となるように、回折格子材50を配置している。参照光82aは、ホログラム光学素子の作製時と同じ入射角度で回折格子材50に入射する平行光である。
【0056】
なお、感光材52における上記入射面は、ガラスやポリカーボネイトなどの透明基板が設けられていてもよい。あるいは、当該入射面は、感光材52を保護する保護膜で覆われていてもよい。また、当該入射面は、感光材52を整形した際の離型剤が塗付された状態でもよい。
【0057】
図6は、回折格子20の作製方法における第2工程を説明するための図である。図6(a)は、第2工程における、各部材と利用する光との関係を示した図である。図6(b)は、第1工程および第2工程によって感光材52に記録される干渉縞の形状を説明するための図である。
【0058】
図6(a),(b)を参照して、第2の記録光81bと参照光82bとの二光束干渉露光により、感光材52に第2の干渉縞52bを記録する。第2の記録光81bは、レーザ光をセクターマスク61bおよび対物レンズ62を透過させることで生成する。第2の記録光81bは、たとえば、光ピックアップにおけるホログラム光学素子から出射する1次回折光と同等な光束である。
【0059】
また、第1の記録光81aと第2の記録光81bとが感光材52の上記入射面に対して平行な面99において集光し、かつ光ピックアップにおける透過0次光の集光位置と受光素子との間隔とが等しくなるように、以下の処理を行なう。すなわち、図5(a)の状態から回折格子材50を第1の記録光81aの光軸に対して垂直な方向にシフトさせるとともに、回折格子材50を傾斜させる。なお、「透過0次光の集光位置と受光素子との間隔」とは、たとえば図1においては、回折光92の集光位置と回折光93の集光位置との間隔である。また、「傾斜」とは、図5(b)におけるY軸に平行な或る軸を中心に回転させることである。
【0060】
参照光82bは、ホログラム光学素子の作製時と同じ入射角度で回折格子材50に入射する平行光である。すなわち、感光材52の上記入射面に対して図5(a)に示した方向と同方向に参照光82bが入射するよう、参照光82bは、参照光82aの方向に対して回折格子材50の傾斜と同じ角度および方向に傾斜している。
【0061】
図7は、回折格子20の作製方法における第3工程を説明するための図である。図7(a)は、第3工程における、各部材と利用する光との関係を示した図である。図7(b)は、第1工程から第3工程によって感光材52に記録される干渉縞の形状を説明するための図である。
【0062】
図7(a),(b)を参照して、第3の記録光81cと参照光82cの二光束干渉露光により、感光材52に第3の干渉縞52cを記録する。第3の記録光81cは、レーザ光をセクターマスク61cおよび対物レンズ62を透過させることで生成する。第3の記録光81cは、たとえば、光ピックアップにおけるホログラム光学素子から回折する1次回折光と同等な光束であって、かつ第2工程における第2の記録光81bと異なる光束である。
【0063】
また、第1の記録光81aと第2の記録光81bと第3の記録光81cとが図7(a)の状態における感光材52の上記入射面に対して平行な面において集光し、かつ光ピックアップにおける透過0次光の集光位置と受光素子との間隔が等しくなるように、以下の処理を行なう。すなわち、まず、図6(a)の状態から回折格子材50を第2の記録光81bの光軸に対して垂直な方向にシフトさせる。次いで、回折格子材50をさらに傾斜させ、上記光軸または当該光軸に平行な軸を中心に、回折格子材50を回転させる。なお、シフトと傾斜と回転との順番は特に限定されない。また、図6(a)の状態から回折格子材50を回転するのみでもよい。
【0064】
参照光82cは、ホログラム光学素子の作製時と同じ入射角度で回折格子材50に入射する平行光である。すなわち、感光材52の上記入射面に対して図5(a),図6(a)に示した方向と同方向に参照光82cが入射するよう、参照光82cは、参照光82bの方向に対して、回折格子材50の傾斜と同じ角度および方向、ならびに回転と同じ方向および角度だけ、傾斜および回転している。
【0065】
図8は、回折格子20の作製方法における第4工程を説明するための図である。図8(a)は、第4工程における、各部材と利用する光との関係を示した図である。図8(b)は、第1工程から第4工程によって感光材52に記録される干渉縞の形状を説明するための図である。
【0066】
図8(a),(b)を参照して、第4の記録光81dと参照光82dの二光束干渉露光により、感光材52に第4の干渉縞52dを記録する。第4の記録光81dは、レーザ光をセクターマスク61dおよび対物レンズ62を透過させることで生成する。第4の記録光81dは、たとえば、光ピックアップにおけるホログラム光学素子から回折する1次回折光と同等の光束であって、かつ第2工程における第2の記録光81bおよび第3工程における第3の記録光81cとは異なる光束である。
【0067】
また、第1の記録光81aと第2の記録光81bと第3の記録光81cと第4の記録光81dとが図8(a)の状態における感光材52の上記入射面に対して平行な面において集光し、かつ光ピックアップにおける透過0次光の集光位置と受光素子との間隔が等しくなるように、以下の処理を行なう。すなわち、まず、図7(a)の状態から回折格子材50を第3の記録光81cの光軸に対して垂直な方向にシフトさせる。次いで、回折格子材50をさらに傾斜させ、上記光軸または当該光軸に平行な軸を中心に、回折格子材50を回転させる。なお、シフトと傾斜と回転との順番は特に限定されない。また、図7(a)の状態から回折格子材50を回転するのみでもよい。
【0068】
参照光82dは、ホログラム光学素子の作製時と同じ入射角度で回折格子材50に入射する平行光である。すなわち、すなわち、感光材52の上記入射面に対して図5(a),図6(a),図7(a)に示した方向と同方向に参照光82dが入射するよう、参照光82dは、参照光82cの方向に対して、回折格子材50の傾斜と同じ角度および方向、ならびに回転と同じ方向および角度だけ、傾斜および回転している。
【0069】
なお、第2工程における傾斜の方向および角度、第3工程および第4工程における、傾斜の方向および角度ならびに回転の方向および角度は、作製装置1の仕様に沿うように、予め定められている。なお、第1工程から第4工程の順番は特に限定されない。
【0070】
以上の第1工程から第4工程によって、回折格子材50から回折格子20が作製される。なお、図5〜図8においては、対物レンズ62をセクターマスク61a〜61dと回折格子材50との間に配置している。しかしながら、これに限定されず、セクターマスク61a〜61dが対物レンズ62と回折格子材50との間に配置されるように、対物レンズ62を配置してもよい。
【0071】
また、上記手法を用いることにより、4方向以上の回折光束を出射できるホログラム光学素子、および2方向以下の回折光束を出射できるホログラム光学素子を作製することができる。たとえば、4方向以上の回折光束を出射できるホログラム光学素子を作成する場合には、図8に示す感光材52に対してシフト、傾斜、および回転を行なった後に、図示しないセクターマスクを用いて、当該感光材52に第5の記録光と参照光とを照射すればよい。
【0072】
なお、感光材52に対して二光束干渉露光をする際、感光材52内に含まれる酸素が光重合反応を妨げる。このため、露光前にLED(Light Emitting Diode)などによりインコヒーレントな光をホログラムが記録される領域に一時照射する。また、ホログラム光学素子の二光束干渉露光後、さらなる光重合反応を抑制するために、上記インコヒーレント光をホログラムが記録される領域に照射する。この照射により、記録した干渉縞を固定することができる。
【0073】
ホログラム光学素子の作製時においては、上述した反射面23a(図1参照)を設ける必要がある。このため、回折格子の製造における二光束干渉露光後に、基板51に反射面を形成する処理を行なう。なお、当該反射面が形成された基板51が、図1の基板23に該当する。
【0074】
反射面23aは、回折格子20の露光工程後に当該反射面が形成される面(図8の面51a)に対し、コーティング処理を施すことにより生成する。もしくは、特定の入射角度に対し反射率の高い反射板を別途用意し、露光工程後の回折格子20に重ね貼りすることで、当該反射板の反射面を反射面23aとする。なお、反射板を用いる方法では、反射板を回折格子20に重ね貼りせずとも、回折格子20とホログラム材40との間に挿入することで、同等の効果が得られる。
【0075】
図9は、カップリングプリズムを用いた、回折格子の作製方法を説明するための図である。図9を参照して、カップリングプリズム71を用いる方法は、参照光82aの入射角がもともと基板51の反射角に相当する場合、および基板51の下面51aに反射面が設けられている場合に限られる。当該反射面は特定の入射角(出射角)に対して強く反射が生じる。したがって、図9に示すとおりカップリングプリズムを回折格子材50の露光工程において密着させることにより、カップリングプリズム71の入射面、出射面が上記特定の角度から逸れる。このため、参照光81aを透過させることができる。
【0076】
今回開示された実施の形態は例示であって、上記内容のみに制限されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
1 作製装置、2a,2b,5a,22a,22a,22b,22b 干渉縞、22,41,52,122 感光材、11 レーザ装置、12 ミラー、13 エキスパンダレンズ、14 アパーチャ、15 カップリングプリズム、16 制御装置、17 搬送装置、20,120 回折格子、21,21,23,23,42,51 基板、23a 反射面、40 ホログラム材、50 回折格子材、51a 表面、52a 第1の干渉縞、52b 第2の干渉縞、52c 第3の干渉縞、52d 第4の干渉縞、61a,61b,61c,61d セクターマスク、62 対物レンズ、71 カップリングプリズム、81a 第1の記録光、81b 第2の記録光、81c 第3の記録光、81d 第4の記録光、82a,82b,82c,82d,91 参照光、92,93 回折光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二光束干渉法を用いて感光材に干渉縞を記録することにより、ホログラム光学素子を作製するホログラム光学素子の作製方法であって、
レーザ光を出射するステップと、
前記レーザ光を回折格子によって回折し、回折方向が互いに異なる複数の回折光を生成するステップとを備え、
各前記回折光は、互いに異なる位置に焦点を結ぶ集束光であり、前記回折格子の外部領域において互いに干渉し、
前記ホログラム光学素子の作製方法は、
前記回折光が互いに干渉する前記外部領域に配置された前記感光材に対して、前記干渉した回折光を照射するステップと、
前記回折格子に入射するレーザ光のうち前記回折格子を透過する透過光を、当該感光材の方向とは異なる方向に反射するステップとをさらに備える、ホログラム光学素子の作製方法。
【請求項2】
二光束干渉法を用いて感光材に干渉縞を記録することにより、ホログラム光学素子を作製するホログラム光学素子の作製装置であって、
レーザ光を出射する第1の光源と、
前記レーザ光を回折し、回折方向が互いに異なる複数の回折光を生成する回折格子とを備え、
各前記回折光は、互いに異なる位置に焦点を結ぶ集束光であり、前記回折格子の外部領域において互いに干渉し、
前記ホログラム光学素子の作製装置は、
前記回折光が互いに干渉する前記外部領域に前記感光材を配置する配置手段と、
前記回折格子に入射するレーザ光のうち前記回折格子を透過する透過光を、当該感光材の方向とは異なる方向に反射する反射面とを備える、ホログラム光学素子の作製装置。
【請求項3】
前記複数の回折光は、第1の回折光と、第2の回折光とを含み、
前記第1の回折光は、前記回折方向が前記回折格子の格子面に対して垂直であり、当該回折方向に垂直な断面が円形状であり、
前記第2の回折光は、前記回折方向が前記第1の回折光の回折方向に対して斜めの方向であり、当該第2の回折光の回折方向に垂直な断面が円形の一部を切り欠いた形状である、請求項2に記載のホログラム光学素子の作製装置。
【請求項4】
前記ホログラム光学素子の作製装置は、前記レーザ光をコリメートすることにより、当該レーザ光を平面波とする光学素子をさらに備え、
前記回折格子は、前記複数の回折光を生成する格子パターンを複数組有し、
前記平面波は、各前記格子パターンに照射され、
前記格子パターンの各々は、前記平面波の入射方向が互いに同じとなる位置に配置されている、請求項2または3に記載のホログラム光学素子の作製装置。
【請求項5】
前記回折格子の格子パターンは体積型ホログラムであり、当該格子パターンの各々は互いに多重された領域を有する、請求項4に記載のホログラム光学素子の作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−221346(P2011−221346A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91414(P2010−91414)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】