説明

ホログラム記録装置およびホログラム記録方法。

【課題】 電子的あるいは機械的制御による移相器の使用により生じるホログラム記録装置の大型化・複雑化を回避し、小型・簡易かつ安価な光学系により高精度な2次元画像光演算を行うことが可能なホログラム記録装置を提供する。
【解決手段】 物体光19と参照光20とをフォトリフラクティブ媒質11に照射するための光学系として、ビームスプリッタ14の両方の面からの入射光を利用する2重マッハツェンダ−干渉光学系を備えている。第1の2次元画像を記録した際のビームスプリッタ14に対する光の照射方向とは異なるもう一方の方向から光を入射させた状態で、第2の2次元画像の記録を行う。これにより、第1および第2の2次元画像のXOR演算結果としてのホログラムを記録することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムメモリとして例えばフォトリフラクティブ結晶を用い、該結晶中へのホログラムの記録・再生・消去を行うことにより、2次元光演算を行うホログラム記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラムメモリ(ホログラフィックメモリ)は、物体をレーザ光などの干渉性の高い光で照明し、3次元の立体画像を記録できる技術(ホログラフィー)を応用し、2次元画像として表される情報を何層にも記録できるようにした記憶装置である。情報の再生は、ホログラムメモリに対して、情報を読み書きするための参照光を当てることによって、情報をもった画像が読み出されることによって実現される。
【0003】
例えば従来のCDやDVDなどの光ディスク記録装置は、回転する光ディスクにレーザを当て、ビット単位でデータの読み出し・書き込みを行う一方、ホログラムメモリは、レーザを一度当てるだけで同時に何千ビットもの読み出し・書き込みを行う。すなわち、ホログラムメモリは、従来の光ディスク記録装置と比較して、高速なデータ転送が可能となっている。
【0004】
また、ホログラムメモリは、情報としての2次元画像のホログラムをホログラム媒質中の同一個所に多重記録することが可能である。よって、情報の記録密度を極めて高くすることができるので、大容量化を実現することができる。
【0005】
ホログラム媒質としてフォトリフラクティブ媒質(フォトリフラクティブ結晶)を用いたホログラムメモリでは、一旦記録されたホログラムを消去することが可能であり、書き換え型メモリへの応用が期待されている。
【0006】
フォトリフラクティブ媒質とは、光の照射によって屈折率が変化する媒質群を指し、鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO3:Fe)や、セリウムを不純物として含むストロンチウムバリウムニオブ酸(SrxBa1...xNb26:Ce)等、数多くの媒質が知られている。
【0007】
このようなフォトリフラクティブ媒質中に多重に情報が記録されたホログラムメモリは、一様なインコヒーレント光の照射や熱処理を行うことにより、記録されているデータの一括消去を行うことが可能となっている。しかしながら、1cm角程度の記録領域に1テラバイトものデータを記録するホログラムメモリにおいては、記録データの一括消去のみならず、多重に記録されている複数のホログラムのうち、任意の一枚のホログラムのみを選択的に消去することが実用上重要となる。
【0008】
ホログラムメモリに記録されるホログラムは、フォトリフラクティブ媒質中に、二次元的なデータが付加された物体光と参照光との干渉縞として記録されるようになっている。ここで、あるホログラムに対して、該ホログラムを記録した時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞を上書きすることによって、一様なインコヒーレント消去光を該ホログラムに照射した場合と比較して、格段に高速で該ホログラムを消去できることが知られている。記録時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞は、物体光あるいは参照光のいずれか一方の位相を、移相器によってπだけ変位させることにより得ることができる。
【0009】
以下、図11を参照しながら、ホログラムメモリにおける、フォトリフラクティブ媒質に対するホログラムの多重記録処理、および、記録時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞を上書きすることによる多重ホログラムの選択的消去処理について説明する。
【0010】
図11において、第1光波51を参照光、第2光波52を2次元画像データを有する物体光とする。これら参照光と物体光との干渉縞54がフォトリフラクティブ媒質中に照射されることによって、ホログラムとしてホログラムメモリに情報が記録される。ここで、参照光の光路上に配された移相器53は、参照光の位相を0かπかで切り換えて変化させるものであるが、記録時においては、移相量(位相を変化させる量)は0となっている。また、ホログラムの多重記録は、通常、ホログラムごとに参照光の角度、あるいは波長、あるいは位相分布等を変化させることにより行われる。
【0011】
多重ホログラムの選択的消去処理は次のように行われる。多重記録されたホログラムのうちの消去したいホログラムに対して、該消去対象のホログラムの記録時と同一の角度、同一波長、あるいは同一位相分布を有する参照光、言い換えれば、消去対象のホログラムの再生条件を満たす参照光と、記録時と同一の物体光とをフォトリフラクティブ媒質へ照射する。ここで、参照光の位相は、参照光の光路上に配された移相器53により、記録時の位相に対してπだけ変位される。すなわち、記録時と空間的にπだけ変位した干渉縞54’が消去対象のホログラムに上書きされることとなり、該消去対象のホログラムが消去される。
【0012】
この場合、他の多重ホログラムに対しては、これらの選択消去光(物体光およびπだけ変位した参照光)はインコヒーレント消去光として働く。しかしながら、上述のように選択的消去における消去速度は、インコヒーレント消去における消去速度と比較して格段に高速であるので、消去対象のホログラムのみが選択的に消去され、他の多重ホログラムが同時に消去されることはない。
【0013】
以上のような構成のホログラムメモリ装置において、従来では、上記移相器53として液晶位相変調器を参照光の光路上に配置し、その電子的な制御により参照光の位相をπだけ遅らせる構成や、ピエゾミラーを参照光あるいは物体光の光路上に配置し、その機械的移動により半波長の光路差を作ることで干渉縞の位相を変位させる構成のものがある(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0014】
一方、顔、指紋、光彩等の個人特有の情報を用いて個人認証を行うシステムの開発が行われている。提案されている光学システムの多くは、光学的な2次元画像演算を行うことによって識別を行うことが試みられている。光学的な2次元画像演算は、光が有する空間並列性という特徴によって、従来の電子的な逐次演算処理と比較して、格段の高速化を実現できる可能性を有している。この光学的な2次元画像演算としては、レンズによるフーリエ変換やホログラムを利用した相関演算などが挙げられる。(例えば、非特許文献1、2、3参照)
上記したホログラムメモリ装置は、2次元的なデータをホログラムの形で記録・再生するので、上記のような光学的な2次元画像演算に適したものとなっている。例えば、初めに所定の2次元画像データをホログラムとして記録し、その後πだけ位相の変位した参照光によって別の2次元画像データをホログラムとして上書きした場合、フォトリフラクティブ媒質中に最終的に形成されている結果ホログラムは、2つの画像データの共通部位はホログラムが消去され、非共通部位はホログラムが存在する状態となる。これは2つの2次元画像データのXOR演算を行った結果と同一となる.この結果ホログラムに参照光のみをブラッグ条件を満足するように入射させると、回折光は2つの2次元画像データの2次元XOR演算結果となる。
【0015】
また、上記2つの2次元画像データのうち、どちらか一方を、全ての画素が明部となっている画像データとし、他方を演算対象となる2次元画像データとすると、フォトリフラクティブ媒質内に形成される結果ホログラムは、演算対象となる2次元画像データの反転画像、つまりNOT演算結果となる。
【0016】
また、上記の2次元XOR演算は、片方の画像を鍵画像とすることで画像の暗号化に用いることが可能である。図10に、2次元XOR演算による暗号化処理の概念図を示す。入力画像をI、暗号鍵をK、暗号画像をE、復号画像をDとすると、E=I XOR K、D=E XOR K=Iとなり、暗号鍵と同一の鍵を用いて復号が可能である。2次元XOR演算を画像の暗号化に用いる方式として、液晶偏光変調器および偏光素子を用いたものはこれまでいくつか報告されている(例えば、非特許文献4、5参照)。これらの技術をホログラムの暗号化に適用する場合、上記液晶偏光変調器および偏光素子によって予め記録画像と鍵画像のXOR演算結果を生成し、その後これを参照光と共に媒質へ入射させてホログラムを記録することになる。
【非特許文献1】H. Sasaki, J. Ma, Y. Fainman, and S. Lee, “Fast update of dynamic holographic memory,” Opt. Lett. 17, 20, pp.1468-1470, 1992.
【非特許文献2】J.V. Alvarez-Bravo, L. Arizmendi, “Coherent erasure and updating of holograms in LiNbO3,” Opt. Mater. 4, pp.419-422, 1995.
【非特許文献3】J.P Huignard, J.P. Herriau and F. Micheron, “Selective erasure and processing in volume holograms superimposed in photosensitive ferroelectrics,” Ferroelectrics, vol.11, pp.393-396, 1976.
【非特許文献4】J.W. Hang, C.S. Park, D.H. Ryu and E.S. Kim: “Optical image encryption based on XOR operation,” Opt. Eng., vol.38, no.1, pp.47-54, 1999.
【非特許文献5】S. Fukushima, T. Kurokawa, and Y. Sakai, “Image encipherment based on optical parallel processing using spatial light modulators,” IEEE Photon. Technol. Lett., vol.3, no.12, pp.1133-1135, 1991.
【非特許文献6】P. Yeh, Introduction to Photorefractive Nonlinear Optics, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1993.
【非特許文献7】C.C. Sun, W. Su, B. Wang, Y.O.Yang: “Diffraction Selectivity of holograms with random phase encoding,” Opt. Commun., vol.175, pp.67-74, 2000.
【非特許文献8】O. Matoba and B. Javidi, “Encrypted optical storage with angular multiplexing,” Appl. Opt., vol.38, no.34, pp.7288-7293, 1999.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記移相器53として液晶位相変調器を用いた電子的制御やピエゾミラーを用いた機械的制御を使用した従来のホログラムメモリ装置の構成では、以下のような問題がある。
【0018】
まず、液晶位相変調器やピエゾミラーを用いた移相器では、光学系の大型化・複雑化を招くという問題がある。また、液晶位相変調器およびピエゾミラーは素子自体が高価であるため、ホログラムメモリ装置自体の価格高騰に繋がる。また、液晶位相変調器の電圧誤差や、ピエゾミラーのバックラッシュ等によって移相量に誤差が発生してしまい、多重ホログラムの選択的消去の性能が劣化する可能性がある。
【0019】
さらに、多重ホログラムの選択的消去に使用される移相量は、記録時あるいは再生時の0と、消去時のπのみであるのに対して、液晶位相変調器やピエゾミラーを用いた移相器では、不必要な0とπとの間の中間値も採り得る。よって、これも移相量の誤差の原因となり、多重ホログラムの選択的消去の性能を劣化させる虞がある。
【0020】
なお、記録時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞を上書きすることによる消去法は、多重記録でないホログラムの消去においても、インコヒーレント消去光に比べて高速に消去処理を行うことができる。しかしながら、この場合においても、上記と同様の問題が生じることになる。
【0021】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、電子的あるいは機械的制御による移相器の使用により生じるホログラム記録装置の大型化・複雑化を回避し、小型・簡易かつ安価な光学系により高精度な2次元画像光演算を行うことが可能なホログラム記録装置ならびにホログラム記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
以上の課題を解決するために、本発明に係るホログラム記録装置は、ホログラム記録媒質に対して物体光と参照光とを照射し、これらの干渉縞によってホログラムを記録するホログラム記録装置であって、入射光を2つの方向に分離して出射させるビームスプリッタと、上記ビームスプリッタに対して、第1の方向および第2の方向から光を照射する光源と、上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して物体光として照射するように導光する第1導光手段と、上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して参照光として照射するように導光する第2導光手段と、上記物体光に対して2次元画像情報に基づく空間変調を施す光変調手段と、上記光変調手段、および上記光源の動作を制御する制御手段とを備え、上記制御手段が、第1の2次元画像情報に基づいて上記光変調手段を動作させて、上記第1の方向からの光によってホログラム記録を行わせ、その後、第2の2次元画像情報に基づいて上記光変調手段を動作させて、上記第2の方向からの光によってホログラム記録を行わせることによって、第1および第2の2次元画像の光演算結果画像を上記ホログラム記録媒質にホログラムとして記録させることを特徴としている。
【0023】
また、本発明に係るホログラム記録方法は、ホログラム記録媒質に対して物体光と参照光とを照射し、これらの干渉縞によってホログラムを記録するホログラム記録方法であって、入射光を2つの方向に分離して出射させるビームスプリッタに対して、第1の方向および第2の方向から光を照射し、上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して物体光として照射し、上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して参照光として照射し、第1の2次元画像情報に基づいて、上記第1の方向からの光によってホログラム記録を行わせ、その後、第2の2次元画像情報に基づいて、上記第2の方向からの光によってホログラム記録を行わせることによって、第1および第2の2次元画像の光演算結果画像を上記ホログラム記録媒質にホログラムとして記録することを特徴としている。
【0024】
ビームスプリッタに対して第1の方向から入射された光が分波された光がホログラム記録媒質に形成する干渉縞と、ビームスプリッタに対して第2の方向から入射された光が分波された光がホログラム記録媒質に形成する干渉縞との間には、空間的にπの位相差が生じることになる。
【0025】
上記の構成および方法では、この特性を利用し、第1の2次元画像を記録したホログラムに対して、第1の2次元画像の記録時における干渉縞とπの位相差が生じている第2の2次元画像を上書きすることによって、光演算を行っている。具体的には、第1の2次元画像情報に基づいて、上記第1の方向からの光によってホログラム記録を行わせ、その後、第2の2次元画像情報に基づいて、上記第2の方向からの光によってホログラム記録を行わせることによって、第1および第2の2次元画像の光演算結果画像を上記ホログラム記録媒質にホログラムとして記録している。
【0026】
このような記録が行われると、第1の2次元画像データにおける明部と、第2の2次元画像データの明部とが共通している部分、および、第1の2次元画像データにおける暗部と、第2の2次元画像データの暗部とが共通している部分は、互いに打ち消し合うことによって選択的に消去され、暗部としてホログラムに記録されることになる。一方、第1の2次元画像データにおける明部と、第2の2次元画像データの明部とが共通していない部分、および、第1の2次元画像データにおける暗部と、第2の2次元画像データの暗部とが共通していない部分は、どちらか一方の明部による記録が残されることによって、明部としてホログラムに記録されることになる。すなわち、第1の2次元画像データおよび第2の2次元画像データの記録が続けて行われた後のホログラムは、第1の2次元画像データと第2の2次元画像データとのXOR演算が行われた結果を示していることになる。
【0027】
したがって、上記のように、第1の2次元画像に基づくホログラム記録と、第2の2次元画像に基づくホログラム記録とで、ビームスプリッタに対する光の入射方向を切り替えるだけで、両者の干渉縞の位相をπだけ変位させることが可能となる。よって、従来の技術のような、電子的あるいは機械的に位相を変異させる移相器の類を設ける必要をなくすことができる。よって、2次元画像の光演算を実現する構成の小型化を図ることができるとともに、装置コストも低減することが可能となる。
【0028】
また、上記の構成および方法のように、光路を変化させることによって干渉縞の位相を変位させる場合、位相の変位量が経時変化などによって狂ってくるようなことは生じないことになる。よって、誤差の少ない高精度な光学的な2次元画像演算を実現できる。
【0029】
また、本発明に係るホログラム記録装置は、上記の構成において、上記制御手段が、上記第1または第2の2次元画像情報として、全ての画素が明部となっている2次元画像を用いてホログラムの記録を行わせることによって、上記光演算結果画像を上記第2または第1の2次元画像のNOT演算結果画像とする構成としてもよい。
【0030】
上記の構成によれば、第1および第2の2次元画像のどちらかを、全ての画素が明部となっている2次元画像とすることによって、2次元画像のNOT演算結果を得ることが可能となる。すなわち、2次元画像のNOT演算を行う装置を、精度良く、かつ簡素な構成によって実現することができる。
【0031】
また、本発明に係るホログラム記録装置は、上記の構成において、上記制御手段が、上記第2の2次元画像情報として、上記第1の2次元画像情報を暗号化するための暗号鍵画像を用いてホログラムの記録を行わせることによって、上記光演算結果画像を上記第1の2次元画像の暗号化画像とする構成としてもよい。
【0032】
上記の構成によれば、第2の2次元画像を暗号鍵画像とすることによって、2次元画像の暗号化を行うことが可能となる。すなわち、2次元画像の暗号化を行う装置を、精度良く、かつ簡素な構成によって実現することができる。
【0033】
また、本発明に係るホログラム記録装置は、上記の構成において、上記制御手段が、上記暗号化画像としての光演算結果画像が記録されたホログラムに対して、さらに、上記第1の方向からの光を用いて上記暗号鍵画像を上書き記録させることによって、上記ホログラム記録媒質に復号化画像としてのホログラムを形成する構成としてもよい。
【0034】
上記の構成によれば、第1の方向からの光、すなわち、暗号鍵画像を記録した際の光の方向とは異なる方向からビームスプリッタに光を照射した状態で上記暗号鍵画像を上書き記録させることによって、暗号化された2次元画像を復号化することができる。すなわち、上記のように暗号化された2次元画像の復号化を行う装置を、精度良く、かつ簡素な構成によって実現することができる。
【0035】
また、本発明に係るホログラム記録装置は、上記の構成において、上記参照光または上記物体光に対して変調を加えることによって、ホログラムの多重記録を行う多重記録制御手段をさらに備え、上記制御手段が、上記第1の2次元画像と第2の2次元画像との光演算を行わせる際に、上記第1の2次元画像のホログラム記録と、上記第2の2次元画像のホログラム記録とで、上記多重記録制御手段における変調条件を同じにする構成としてもよい。
【0036】
上記の構成によれば、ホログラムの多重記録を行う場合においても、特定のホログラムに対してのみ、光演算を行うための2次元画像の上書き記録を行うことが可能となる。すなわち、多重記録されたホログラムに対して、それぞれ独立に光演算を行うことが可能となる。
【0037】
上記した各本発明のホログラムメモリ装置において、上記ホログラムメモリとしては、例えば、フォトリフラクティブ媒質を含んでいるものを用いることができる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明に係るホログラム記録装置は、上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して物体光として照射するように導光する第1導光手段と、上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して参照光として照射するように導光する第2導光手段と、上記物体光に対して2次元画像情報に基づく空間変調を施す光変調手段と、上記光変調手段、および上記光源の動作を制御する制御手段とを備え、上記制御手段が、第1の2次元画像情報に基づいて上記光変調手段を動作させて、上記第1の方向からの光によってホログラム記録を行わせ、その後、第2の2次元画像情報に基づいて上記光変調手段を動作させて、上記第2の方向からの光によってホログラム記録を行わせることによって、第1および第2の2次元画像の光演算結果画像を上記ホログラム記録媒質にホログラムとして記録させる構成である。
【0039】
これにより、2次元画像の光演算を実現する構成の小型化を図ることができるとともに、装置コストも低減することが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の一実施形態について、図1ないし図8に基づいて説明すると以下の通りである。
【0041】
本実施形態に係るホログラムメモリ装置(ホログラム記録装置)は、ビームスプリッタおよびミラーを備えた2重マッハツェンダ−干渉光学系を備えた構成となっている。まず、図2を参照しながら、2重マッハツェンダ−干渉光学系について説明する。この2重マッハツェンダ−干渉光学系は、通常のマッハツェンダ−干渉光学系と異なり、ビームスプリッタ5の両面からの入射光を利用する構造となっている。
【0042】
該光学系において、第1ポート1から入射された光波(実線にて示す)10は、ビームスプリッタ5の一方の面に入射し、第2ポート2から入射された光波(実線にて示す)11は、ビームスプリッタ5の他方の面に入射する。これら光波10・11は、それぞれビームスプリッタ5にて、光波10a・10b、光波11a・11bにそれぞれ分波される。光波10aは第2ミラー4で反射される一方、光波10bは第1ミラー3で反射され、反射された光波10aと光波10bとが交差するようになっている。同様に、光波11aは第1ミラー3で反射される一方、光波11bは第2ミラー4で反射され、反射された光波11aと光波11bとが交差するようになっている。反射された光波10aと光波10bとが交差する交差領域と、反射された光波11aと光波11bとが交差する交差領域とは、ほぼ同一の位置に配置される。
【0043】
第1ポート1から入射された光波10が分波された光波10a・10bが交差領域に形成する干渉縞(実線にて示す)6と、第2ポート2から入射された光波11が分波された光波11a・11bが交差領域に形成する干渉縞(破線にて示す)7との間には、空間的にπの位相差があることが知られている(例えば、非特許文献6参照)。
【0044】
本願発明者らは、このような特性に着目し、上記交差領域にフォトリフラクティブ媒質を配置し、上記位相差により、片方のポートからの入射光により記録されたホログラムを、異なるポートからの入射光により形成される干渉縞で上書きすることにより、光学的な2次元画像演算を行うことができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0045】
図1に、2重マッハツェンダ−干渉光学系を利用した、本発明の実施の一形態に係るホログラムメモリ装置の概略構成を示す。基本構成は、第1の光源12および第2の光源13と、2重マッハツェンダ−干渉光学系を構成する第1ミラー(第1導光手段)16および第2ミラー(第2導光手段)17並びにビームスプリッタ(図中:BS)14と、ホログラムメモリであるフォトリフラクティブ媒質(ホログラム記録媒質)11と、シャッター15と、空間光変調器としてのSLM(光変調手段)18と、光検出器(光検出手段)23と、制御部(制御手段)25を備えている。
【0046】
ここで、上記第1および第2の2つの光源12・13は、図2で示した2重マッハツェンダ−干渉光学系における第1および第2の2つの入力ポート1・2の位置関係を満足するように、2重マッハツェンダ−干渉光学系に対して配置されている。
【0047】
制御部25は、ホログラムメモリ装置における動作を統括的に制御する。具体的には、制御部25は、第1の光源12および第2の光源13、シャッター15、SLM18、および光検出器23の動作を制御する。以下に示すホログラムの記録・再生処理は、制御部25の制御に基づいて行われる。
【0048】
なお、図1に示す構成では、ホログラムを多重記録する構成については考慮されていないが、このような構成を備えていてもよい。例えば、ホログラムの多重記録手法の一例として、ホログラムごとに参照光の波面を変えるスペックル多重記録手法を用いる場合には、後述する参照光の光路上にすりガラスを配置する構成としてもよい。また、ホログラムごとに参照光の波長を変える波長多重記録手法や、ホログラムごとに参照光の角度を変える角度多重記録法、ホログラムごとに参照光の位相を変化させる位相コード多重記録法、参照光として球面波を用い、ホログラムごとに記録媒質(ホログラムメモリ)を微小距離移動する球面参照光シフト多重記録法など他のホログラム多重記録手法を用いてもよい。
【0049】
以下、図3〜図5を参照しながら、本ホログラムメモリ装置における光学的な2次元画像演算、特に、XOR演算の各手順について説明する。なお、これらの図中において、物体光19および出力光22における2次元画像において、白い部分は明部、黒い部分は暗部に対応している。ここで、明部とは、光の強度がほぼ最大となっている部分を示しており、暗部とは、光の強度がほぼ0となっている部分を示している。なお、基本的には、明部と暗部とで光の強度差が生じていればよい。
【0050】
また、フォトリフラクティブ媒質11内のホログラム21において、白い部分はホログラムが存在する場所、黒い部分はホログラムが存在しない場所に対応している。
【0051】
まず、図3を参照しながら、演算対象となる2つの2次元画像データのうち、一方の2次元画像データ(第1の2次元画像データ)をホログラム21としてフォトリフラクティブ媒質11に記録する処理について説明する。まず第1光源12からの光波のみをビームスプリッタ14に入射させる。ビームスプリッタ14により、この光波が2つに分波され、片方は物体光19として、片方は参照光20として、フォトリフラクティブ媒質11に照射される。この際に、物体光19の光路上に配されたシャッター15は開かれた状態となっている。
【0052】
これらの物体光19および参照光20は、フォトリフラクティブ媒質11中で干渉し、この干渉縞によってフォトリフラクティブ媒質11内にホログラム21が記録される。ここで、2次元画像によって表される記録データはSLM18により物体光19に与えられる。
【0053】
次に、図4を参照しながら、演算対象となる2つの2次元画像データのうち、他方の2次元画像データ(第2の2次元画像データ)をホログラム21としてフォトリフラクティブ媒質11に記録する処理について説明する。まず第2光源13からの光波のみをビームスプリッタ14に入射させる。ビームスプリッタ14により、この光波が2つに分波され、片方は物体光19として、片方は参照光20として、フォトリフラクティブ媒質11に照射される。この際に、物体光19の光路上に配されたシャッター15は開かれた状態となっている。
【0054】
これらの物体光19および参照光20は、フォトリフラクティブ媒質11中で干渉し、この干渉縞によってフォトリフラクティブ媒質11内にホログラム21が記録される。ここで、2次元画像によって表される記録データはSLM18により物体光19に与えられる。
【0055】
ここで記録されるホログラム21は、第1の2次元画像データが記録された際の干渉縞とはπだけ位相が変移した干渉縞によって形成されることになる。これにより、第1の2次元画像データにおける明部と、第2の2次元画像データの明部とが共通している部分、および、第1の2次元画像データにおける暗部と、第2の2次元画像データの暗部とが共通している部分は、互いに打ち消し合うことによって選択的に消去され、暗部としてホログラム21に記録されることになる。一方、第1の2次元画像データにおける明部と、第2の2次元画像データの明部とが共通していない部分、および、第1の2次元画像データにおける暗部と、第2の2次元画像データの暗部とが共通していない部分は、どちらか一方の明部による記録が残されることによって、明部としてホログラム21に記録されることになる。すなわち、第1の2次元画像データおよび第2の2次元画像データの記録が続けて行われた後のホログラム21は、第1の2次元画像データと第2の2次元画像データとのXOR演算が行われた結果を示していることになる。
【0056】
次に、図5を参照しながら、演算結果を示すホログラム21を再生する処理について説明する。まず、第1光源12からの光波のみをビームスプリッタ14に入射させる。そして、物体光19の光路上の配されたシャッター15は光が透過しないように閉じられる。すなわち、フォトリフラクティブ媒質11に対しては、参照光20のみが入射されることになる。参照光20のみがフォトリフラクティブ媒質11に照射されると、XOR演算結果を示すホログラムから回折光が発生し、これが出力光22として光検出器23で検出される。光検出器23は、第1の2次元画像データと第2の2次元画像データとのXOR演算結果としての2次元画像を検出することによって、演算結果の再生を行う。
【0057】
なお、以上の手順において、第1光源12と第2光源13との用途は可換である。つまり、第2光源13からの光波により第1の2次元画像データの記録および演算結果の再生を行い、第1光源12からの光波により第2の2次元画像データの記録を行うことも可能である。
【0058】
また、第1の2次元画像データの記録と第2の2次元画像データの記録とは、互いに異なる光源からの光波で行う必要があるが、再生についてはいずれの光源からの光波でも行うことが可能である。したがって、ここでは第1光源12からの光波により再生を行うようにしたが、第2光源13からの光波により再生を行うようにしてもよい。
【0059】
さらに、図1に示すホログラムメモリ装置では、第1および第2の光源12・13として光源を2つ設けたが、一つの光源からの光波を2本に分波し、これを第1光源12および第2光源13として用いることも可能である。
【0060】
また、上記第1の2次元画像データおよび第2の2次元画像データのうち、どちらか一方を、全ての画素が明部となっている画像データとし、他方を演算対象となる2次元画像データとすると、上記の処理の結果、フォトリフラクティブ媒質11内に形成されるホログラム21は、演算対象となる2次元画像データの反転画像、つまりNOT演算結果となる。
【0061】
以上のように、本実施の形態のホログラムメモリ装置では、ビームスプリッタの第1の面から入射された光波が分波されて交差領域に形成する干渉縞と、ビームスプリッタの第2の面から入射した光波が、上記第1の面からの入射光が分波された光波と同一光路を伝搬して交差領域に形成する干渉縞との間には、空間的にπの位相差があるといった特性を有する2重マッハツェンダ−干渉光学系を利用し、該光学系にて参照光と物体光とをフォトリフラクティブ媒質11に照射するようになっている。
【0062】
したがって、参照光と物体光となる光波の入射を、記録時と選択的消去時とで切り換えることで、参照光あるいは物体光の光路上に、光学的な2次元画像演算および暗号化処理時の光波の位相を変位させるための移相器を別途配置する必要がなくなる。すなわち、移相器として液晶位相変調器やピエゾミラーを配置し、電子的あるいは機械的制御を介して行っていた構成に比して、非常に小型・簡易かつ安価な光学系で光学的な2次元画像演算および暗号化処理が可能となる。
【0063】
また、ピエゾミラーを用いた場合のバックラッシュや、液晶位相変調器を用いた場合の電圧誤差等、従来の移相器を用いる構成では、光学的な2次元画像演算および暗号化処理の性能が劣化する可能性があるという問題があった。これに対して、本発明において光学的な2次元画像演算および暗号化処理時の位相変位に用いる素子はビームスプリッタのみであり、誤差の少ない高精度な光学的な2次元画像演算および暗号化処理を実現でき、また、経時劣化も起こらない。
【0064】
しかも、2重マッハツェンダ−干渉光学系による干渉縞の位相変位は、光学的な2次元画像演算および暗号化処理に不必要である連続的な中間値を採り得ない。よって、移相量の誤差が発生しないので、誤差の少ない高精度な光学的な2次元画像演算および暗号化処理を実現できる。
【0065】
そして、上述したように、本発明における多重ホログラムの暗号化処理手法は角度多重記録法や球面参照光シフト多重記録法、位相コード多重記録法等、他の多重記録手法にも適用することが可能である。そして、多重記録されたホログラムをそれぞれ独立に暗号化することが可能となっている。
【0066】
また、既にフォトリフラクティブ媒質11内に記録されているホログラム21に対し、後から暗号化処理を施すことが可能である。
【0067】
また、本発明におけるホログラムの暗号化手法は、2重ランダム位相暗号化手法等の他の光学的暗号化手法と併用することも可能である。(例えば、非特許文献8参照)
なお、ホログラムの記録媒質は無機フォトリフラクティブ結晶に限定されるものではなく、有機フォトリフラクティブポリマーや液晶等を用いても構わない。
【0068】
以下、実施例にて本発明をさらに説明する。
【0069】
〔実施例1〕
まず、図2に示した2重マッハツェンダ−干渉光学系を用いて、多重ホログラム記録が行われている状態で光学的2次元画像演算および暗号化処理を行うことが可能であることを実験的に確認した実施例について記載する。
【0070】
図6に、図2における光波10a・10b、および、光波11a・11bの交差領域に、フォトリフラクティブ媒質として、鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO:Fe)結晶を配置し、第1ポート1からの入射光による干渉縞6で記録されたホログラムを、第2ポート2からの入射光による干渉縞7で上書きした場合の規格化回折効率を示す。
【0071】
ここでは、ホログラム記録光の1/10程度の強度の光波により、ホログラムを位相共役再生し回折効率を測定している。位相共役再生とは参照光と対向伝搬する光波によりホログラムを通常の反対側から再生することであり、これにより記録過程にあるホログラムの回折効率の動的な振る舞いを観測することが可能である。また、比較のために第2ポート2からの入射光と同一強度のインコヒーレント消去光を結晶に照射した場合の規格化回折効率もプロットしている。
【0072】
図6より、第2ポート2からの入射光(選択的消去光)によるホログラム消去(選択的消去)は、インコヒーレント消去と比較して格段に高速であることが分かる。また、選択的消去光は他の多重ホログラムに対しインコヒーレント消去光として働くため、この性質がホログラムの選択的消去を可能とする。図6中、選択的消去の場合にはおよそ260秒程度で、規格化回折効率が極小値をとっている。規格化回折効率が極小値をとるときに第2ポート2からの光波による干渉縞7の上書きを終了することで、ホログラムの選択的消去が実現される。また、これにより、特定のホログラムに対して光学的2次元画像演算および暗号化処理を行うことが可能となる。
【0073】
〔実施例2〕
次に、フォトリフラクティブ媒質11として、鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO:Fe)結晶を用い、この結晶中に実際にホログラムを多重記録し、多重ホログラムのうちの一枚を選択的に消去できることを、実験的に確認した実施例について記載する。
【0074】
図7に実験に用いた系を示す。ここでM1〜M4はミラーを示しており、HWPは半波長板を示しており、PBSは偏光ビームスプリッタを示しており、L1・L2はレンズを示しており、S1・S2はシャッターを示しており、BEはビームエキスパンダを示している。なお、レンズL1・L2、およびビームエキスパンダBEは、フォトリフラクティブ媒質11に入射される物体光および参照光の光路形状を調整するために設けられている。その他の構成については、図1において示した部材と同様である。本実験ではフォトリフラクティブ媒質11として、7×7×5[mm]の鉄を不純物として含むリチウムニオブ酸(LiNbO:Fe)結晶を用い、光源32として波長514nmのArレーザを用いた。
【0075】
また、参照光の光路上に設けられているすりガラス31は、後述する暗号化処理の際に、ホログラムのスペックル多重記録を行うために配置されている。スペックル多重記録とは、ホログラム毎にすりガラス31の位置を変化させ、互いに相関の低いスペックルパターンをホログラム多重記録時の参照光とする方式である(例えば、非特許文献7参照)。なお、このすりガラス31の位置の移動は、図示しないすりガラス移動手段によって行われ、すりガラス移動手段の動作制御は、前記した制御部25によって行われる。
【0076】
Arレーザからのレーザ光は、ミラーM1、半波長板HWP1を介して偏光ビームスプリッタPBS1で2つに分割される。分割された光のうち一方の光がミラーM2、ミラーM3を介して、ビームスプリッタ14に図1における第1光源12からの光波として導かれる。この第1光源12からの光波として導かれる光波経路を第1ポートと称することにする。また、分割された光のうち他方の光が半波長板HWP2、偏光ビームスプリッタPBS2、ミラーM4を介して、ビームスプリッタ14に図1における第2光源13からの光波として導かれる。この第2光源13からの光波として導かれる光波経路を第2ポートと称することにする。なお、シャッターS1およびシャッターS2は、第1ポートからの光波、および、第2ポートからの光波のビームスプリッタ14に対する入射を選択的に制御するためのものである。
【0077】
このような実験系を用いて、光学的な2次元画像演算および暗号化処理に関する実験を行った。
【0078】
図8(a)ないし図8(f)は、光学的な2次元画像演算に用いる2次元画像および演算結果画像の実験結果を示している。まず、第1ポートから光波を入射し、これをビームスプリッタ14により分波してそれぞれ物体光、参照光として、フォトリフラクティブ媒質11中にホログラム21を形成した。詳細には、ビームスプリッタ14からの分波光のうち、第1ミラー16に照射された方は、物体光として、SLM18によって図8(a)に示す第1の2次元画像データが付加され、レンズL1を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。また、第2ミラー17に照射された方は、参照光として、すりガラス31を経てレンズL2を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。以上によってフォトリフラクティブ媒質11中に生じた干渉縞によってホログラムが形成される。
【0079】
次に、第2ポートから光波を入射し、これをビームスプリッタ14により分波してそれぞれ物体光、参照光として、フォトリフラクティブ媒質11中にホログラム21を形成した。詳細には、ビームスプリッタ14からの分波光のうち、第1ミラー16に照射された方は、物体光として、SLM18によって図8(b)に示す第2の2次元画像データが付加され、レンズL1を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。また、第2ミラー17に照射された方は、参照光として、すりガラス31を経てレンズL2を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。以上によってフォトリフラクティブ媒質11中に生じた干渉縞によってホログラムが上書きされる。ここで、第2の2次元画像データを上書きする際の記録時間は、図6に示す記録特性に基づいて、第1の2次元画像データと第2の2次元画像データとの共通部位のホログラムが消去され、その部位の回折効率が極小になるように設定した。
【0080】
以上のようなホログラム記録処理が行われた結果、フォトリフラクティブ媒質11中に記録されている結果ホログラムの状態を図8(c)に示す。この結果ホログラムは、図8(a)に示す2次元画像と図8(b)に示す2次元画像とのXOR演算が行われた2次元画像を示していることがわかる。なお、この例では、図8(a)に示す2次元画像は、実質的に全ての画像領域が明部となっている画像データであるので、図8(c)に示す結果画像は、図8(b)に示す2次元画像のNOT演算結果となっている。
【0081】
また、図8(d)、図8(e)、および図8(f)は、それぞれ第1の2次元画像データ、第2の2次元画像データ、および結果ホログラム画像を示している。この例では、結果ホログラム画像は、第1の2次元画像データと第2の2次元画像データとのXOR演算結果となっていることがわかる。
【0082】
次に、上記と同じ実験系によって、フォトリフラクティブ媒質11内に多重に記録されているホログラムのうち、1つのホログラムに対してXOR演算を行うことによって暗号化処理を行った実験結果を示す。図9(a)は、暗号鍵として用いられる2次元画像を示しており、図9(b)は、第1のホログラムおよび第2のホログラムにおける、最初の記録時、暗号化処理時、および復号化処理時の画像の状態を示している。ここで、第1および第2のホログラムは、フォトリフラクティブ媒質11に多重記録されているホログラムを示しており、第2のホログラムに対して暗号化処理が行われている。
【0083】
まず、第1ポートから光波を入射し、これをビームスプリッタ14により分波してそれぞれ物体光、参照光として、フォトリフラクティブ媒質11中にホログラム21を形成した。詳細には、ビームスプリッタ14からの分波光のうち、第1ミラー16に照射された方は、物体光として、SLM18によって図9(b)において記録画像として示される2次元画像データが付加され、レンズL1を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。また、第2ミラー17に照射された方は、参照光として、すりガラス31を経てレンズL2を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。以上によってフォトリフラクティブ媒質11中に生じた干渉縞によってホログラムが形成される。
【0084】
ここで、本実験では、2枚の第1および第2のホログラムを、参照光路上のすりガラス31を水平方向に移動させてスペックル多重記録を行うことによって形成している。図9(b)において記録画像として示される2次元画像のうち、左側の画像が第1のホログラムとして記録される画像、右側の画像が第2のホログラムとして記録される画像を示している。
【0085】
次に、第2ポートから光波を入射し、これをビームスプリッタ14により分波してそれぞれ物体光、参照光として、フォトリフラクティブ媒質11中にホログラム21を形成した。詳細には、ビームスプリッタ14からの分波光のうち、第1ミラー16に照射された方は、物体光として、SLM18によって図9(a)に示す暗号鍵としての2次元画像データが付加され、レンズL1を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。また、第2ミラー17に照射された方は、参照光として、すりガラス31を経てレンズL2を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。以上によってフォトリフラクティブ媒質11中に生じた干渉縞によってホログラムが上書きされる。
【0086】
ここで、暗号鍵としての2次元画像データを上書きする際の記録時間は、図6に示す記録特性に基づいて、暗号化対象となる画像としての2次元画像と暗号鍵としての2次元画像との共通部位のホログラムが消去され、その部位の回折効率が極小になるように設定した。
【0087】
また、すりガラス31は、第2のホログラムの記録時と同じ位置に配置した状態で、暗号鍵としての2次元画像データの記録が行われている。これにより、暗号鍵としての2次元画像は、第2のホログラムに対してのみ上書きされることになる。この状態を、図9(b)において暗号画像として示される2つの画像に示す。この図に示すように、第1のホログラムでは、暗号化処理が行われずに、元の画像の状態が維持されている一方、第2のホログラムでは、暗号鍵としての画像が上書きされることにより元の画像の状態が崩れており、暗号化が実現されていることがわかる。
【0088】
次に、第1ポートから光波を入射し、これをビームスプリッタ14により分波してそれぞれ物体光、参照光として、フォトリフラクティブ媒質11中にホログラム21を形成した。詳細には、ビームスプリッタ14からの分波光のうち、第1ミラー16に照射された方は、物体光として、SLM18によって図9(a)に示す暗号鍵としての2次元画像データ、すなわち暗号化処理時と同じ2次元画像データが付加され、レンズL1を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。また、第2ミラー17に照射された方は、参照光として、すりガラス31を経てレンズL2を介してフォトリフラクティブ媒質11中に集光される。以上によってフォトリフラクティブ媒質11中に生じた干渉縞によってホログラムが上書きされる。
【0089】
ここで、暗号鍵としての2次元画像データを上書きする際の記録時間は、図6に示す記録特性に基づいて、暗号化処理時に記録された暗号鍵としての2次元画像と、復号に用いる暗号鍵としての2次元画像との共通部位のホログラムが消去され、その部位の回折効率が極小になるように設定した。
【0090】
また、すりガラス31は、暗号化処理時に暗号鍵としての2次元画像データを第2のホログラムに上書きした時と同じ位置に配置した状態で、復号に用いる暗号鍵としての2次元画像データの記録が行われている。これにより、復号に用いる暗号鍵としての2次元画像は、第2のホログラムに対してのみ上書きされることになる。この状態を、図9(b)において復号画像として示される2つの画像に示す。この図に示すように、第1のホログラムでは、上書き処理が行われずに、元の画像の状態が維持されている一方、第2のホログラムでは、復号に用いる暗号鍵としての画像が上書きされることにより、元の画像が復元されていることがわかる。
【0091】
なお、実際には、暗号鍵としての画像として、今回のような文字画像ではなく、よりランダム性の高い画像を用いることによって、暗号画像は記録画像とはまったく異なるものとすることができる。この場合、暗号画像のみを用いて記録画像を推測することは極めて困難となり、暗号化強度の強い暗号化処理を実現することができる。
【0092】
なお、上記した具体的な実施の形態と実施例とは、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求の範囲に記載した範囲内で、種々変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明に係るホログラムメモリ装置は、2次元画像の光学的な論理演算を行う演算装置や、情報の暗号化・復号化を行う情報記録再生装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施の一形態を示すものであり、ホログラムメモリ装置の要部構成を示す図である。
【図2】2重マッハツェンダ−干渉光学系の構成を示す図である。
【図3】上記ホログラムメモリ装置における第1の2次元画像データの記録時の手順を示す図である。
【図4】上記ホログラムメモリ装置における第2の2次元画像データの記録時の手順を示す図である。
【図5】上記ホログラムメモリ装置における演算結果を示すホログラムの再生時の手順を示す図である。
【図6】本発明の一実施例を示すものであり、上記2重マッハツェンダ−干渉光学系における交差領域に、フォトリフラクティブ媒質としてLiNbO:Fe結晶を配置し、第1ポートからの入射光による干渉縞で記録されたホログラムを、第2ポートからの入射光による干渉縞で上書きした場合の規格化回折効率を示す図である。
【図7】上記ホログラムメモリ装置の実施例としての実験系の概略構成を示す図である。
【図8】同図(a)ないし同図(f)は、光学的な2次元画像演算に用いる2次元画像および演算結果画像の実験結果を示す図である。
【図9】同図(a)は、暗号鍵として用いられる2次元画像を示しており、同図(b)は、第1のホログラムおよび第2のホログラムにおける、最初の記録時、暗号化処理時、および復号化処理時の画像の状態を示す図である。
【図10】2次元XOR演算による暗号化処理の概念図である。
【図11】従来の移相器を用いて記録時の干渉縞と空間的にπだけ位相の変位した干渉縞を生成して該干渉縞を上書きすることによる多重ホログラムの選択的消去を説明する図である。
【符号の説明】
【0095】
11 フォトリフラクティブ媒質(ホログラムメモリ)
12 第1光源
13 第2光源
14 ビームスプリッタ
15 シャッター
16 第1ミラー
17 第2ミラー
18 SLM
19 物体光
20 参照光
23 光検出器
25 制御部
31 すりガラス
32 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラム記録媒質に対して物体光と参照光とを照射し、これらの干渉縞によってホログラムを記録するホログラム記録装置であって、
入射光を2つの方向に分離して出射させるビームスプリッタと、
上記ビームスプリッタに対して、第1の方向および第2の方向から光を照射する光源と、
上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して物体光として照射するように導光する第1導光手段と、
上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して参照光として照射するように導光する第2導光手段と、
上記物体光に対して2次元画像情報に基づく空間変調を施す光変調手段と、
上記光変調手段、および上記光源の動作を制御する制御手段とを備え、
上記制御手段が、第1の2次元画像情報に基づいて上記光変調手段を動作させて、上記第1の方向からの光によってホログラム記録を行わせ、その後、第2の2次元画像情報に基づいて上記光変調手段を動作させて、上記第2の方向からの光によってホログラム記録を行わせることによって、第1および第2の2次元画像の光演算結果画像を上記ホログラム記録媒質にホログラムとして記録させることを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項2】
上記制御手段が、上記第1または第2の2次元画像情報として、全ての画素が明部となっている2次元画像を用いてホログラムの記録を行わせることによって、上記光演算結果画像を上記第2または第1の2次元画像のNOT演算結果画像とすることを特徴とする請求項1記載のホログラム記録装置。
【請求項3】
上記制御手段が、上記第2の2次元画像情報として、上記第1の2次元画像情報を暗号化するための暗号鍵画像を用いてホログラムの記録を行わせることによって、上記光演算結果画像を上記第1の2次元画像の暗号化画像とすることを特徴とする請求項1記載のホログラム記録装置。
【請求項4】
上記制御手段が、上記暗号化画像としての光演算結果画像が記録されたホログラムに対して、さらに、上記第1の方向からの光を用いて上記暗号鍵画像を上書き記録させることによって、上記ホログラム記録媒質に復号化画像としてのホログラムを形成することを特徴とする請求項3記載のホログラム記録装置。
【請求項5】
上記参照光または上記物体光に対して変調を加えることによって、ホログラムの多重記録を行う多重記録制御手段をさらに備え、
上記制御手段が、上記第1の2次元画像と第2の2次元画像との光演算を行わせる際に、上記第1の2次元画像のホログラム記録と、上記第2の2次元画像のホログラム記録とで、上記多重記録制御手段における変調条件を同じにすることを特徴とする請求項1記載のホログラム記録装置。
【請求項6】
ホログラム記録媒質に対して物体光と参照光とを照射し、これらの干渉縞によってホログラムを記録するホログラム記録方法であって、
入射光を2つの方向に分離して出射させるビームスプリッタに対して、第1の方向および第2の方向から光を照射し、
上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの一方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して物体光として照射し、
上記第1の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光、および、上記第2の方向からの光が上記ビームスプリッタによって分離された2つの光のうちの他方の光を、上記ホログラム記録媒質に対して同一光路を介して参照光として照射し、
第1の2次元画像情報に基づいて、上記第1の方向からの光によってホログラム記録を行わせ、その後、第2の2次元画像情報に基づいて、上記第2の方向からの光によってホログラム記録を行わせることによって、第1および第2の2次元画像の光演算結果画像を上記ホログラム記録媒質にホログラムとして記録することを特徴とするホログラム記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−184570(P2006−184570A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378190(P2004−378190)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】