説明

ホース用樹脂マンドレル

【課題】耐久性に優れ、寸法精度よくゴムホースを製造することができるホース用樹脂マンドレルを提供する。
【解決手段】樹脂マンドレル1を形成する熱可塑性樹脂の吸水率を0.05%以下にしたので、加硫する際の加熱スチームが充満する環境下においても、水分を吸収しにくくなり、製造工程で繰返し使用されても早期に微小な欠けが生じる等の劣化を防止でき、線膨張係数を6.0×10−5/K以下にしたので、加硫する際の加熱によって生じる温度変化による膨張収縮が小さくなり、ゴムホースの寸法精度に対する悪影響を抑制してゴムホースを製造することができ、曲げ強度を40MPa以上120MPa以下にしたので、製造工程において繰返し屈曲されて使用されても折れることなく、取扱い易い適度な曲げ剛性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムホースを製造する際に用いる樹脂マンドレルに関し、さらに詳しくは、耐久性に優れ、寸法精度よくゴムホースを製造することができるホース用樹脂マンドレルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にゴムホース製造においては、マンドレルの外周面にゴム層を形成するゴム部材や補強層を形成する補強部材等の種々の構成部材を順次積層して成形した成形品の最外周面に、外型として機能する被覆材を被覆し、これを加硫装置により加圧・加熱して加硫を行なう。加硫の後は、被覆材を除去し、マンドレルをゴムホースから引抜くことによりゴムホースが完成する。引抜かれたマンドレルは、新たにその外周面に構成部材が積層されて上記製造工程で繰返し使用される。
【0003】
マンドレルは、その材質により鉄マンドレルと樹脂マンドレルに大別できるが、従来、樹脂マンドレルは、ナイロン樹脂等を主原料にしたものが用いられていた(例えば、特許文献1参照)。ナイロン樹脂は、適度な曲げ剛性と優れた靭性を有しているが、吸水率が高いため、加硫装置内の加熱スチームによって多量の水分を含むことになり、上記製造工程で繰返し使用されるに連れて、早期に微小な欠けが生じる等の劣化が進行し、耐久性に劣るという問題があった。また、ナイロン樹脂の温度変化による膨張収縮の影響により、寸法精度を向上させてゴムホースを製造するには限界があった。
【特許文献1】特開昭61−135723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐久性に優れ、寸法精度よくゴムホースを製造することができるホース用樹脂マンドレルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明のホース用樹脂マンドレルは、熱可塑性樹脂により形成されたホース用樹脂マンドレルにおいて、前記熱可塑性樹脂の吸水率が0.05%以下、線膨張係数が6.0×10−5/K以下、曲げ強度が40MPa以上120MPa以下であることを特徴とするものである。
【0006】
ここで、前記熱可塑性樹脂として、例えば、ポリフェニレンスルフィドを用いることができる。また、樹脂マンドレルの外径は、例えば、3mm以上12mm以下にする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のホース用樹脂マンドレルによれば、樹脂マンドレルを形成する熱可塑性樹脂の吸水率が0.05%以下であるので、加硫する際の加熱スチームが充満する環境下においても、水分を吸収しにくくなる。これにより、製造工程で繰返し使用されても、早期に微小な欠けが生じる等の劣化を防止でき、耐久性を向上させることができる。
【0008】
また、この熱可塑性樹脂の線膨張係数が6.0×10−5/K以下であるので、加硫する際の加熱によって生じる温度変化による膨張収縮が小さくなり、ゴムホースの寸法精度に対する悪影響を抑制してゴムホースを製造することができる。
【0009】
さらに、この熱可塑性樹脂の曲げ強度が40MPa以上120MPa以下であるので、製造工程において繰返し屈曲されて使用されても折れることなく、取扱い易い適度な曲げ剛性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のホース用樹脂マンドレルを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1、図2に示すように、ゴムホース2を製造する際には、円柱状に形成された本発明の樹脂マンドレル1を芯材として、その外周面に内面ゴム層3を形成するゴム部材、補強層4を形成する補強部材、外面ゴム層5を形成するゴム部材を順に積層して成形体を成形する。このように、構造部材を積層した成形体の最外周面には、外型として機能する被覆材6を積層する。被覆材6の材質は例えば、樹脂(4−メチルペンテン−1をベースとするポリオレフィン)等である。ゴムホース2の構成部材の種類や数は、上記に例示したものに限定されずに、ゴムホース2の仕様に対応した各種構成部材が樹脂マンドレル1の外周に積層される。
【0012】
樹脂マンドレル1は、熱可塑性樹脂により形成されており、その熱可塑性樹脂の吸水率は0.05%以下、線膨張係数は6.0×10−5/K以下、曲げ強度は40MPa以上120MPa以下になっている。吸水率は、試験片を23℃、24時間蒸留水中に完全浸漬した条件下でASTM−D570に準拠した測定により得られる値である。線膨張係数は、マイナス30℃〜プラス90℃の条件下でASTM−D696に準拠した測定により得られる値である。曲げ強度の値は、ASTM−D790に準拠した測定により得られる値である。
【0013】
上記3つの特性を満足する熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を例示することができる。尚、上記3つの特性を満足する範囲内で、ポリフェニレンスルフィドを主原料にして、他の原料を付加した熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0014】
成形した成形体は、図3に例示するようにリール7に巻回されて加硫装置8の内部に配置され、所定の加圧下で所定の温度に加熱されて加硫される。加硫方法によっては加圧せずに常圧で加熱して加硫を行なう。加硫の際の加熱温度は例えば、140℃〜160℃程度で、加硫時間は40分〜90分程度である。
【0015】
加硫を行なう際は、加熱スチームを加硫装置8の内部に充満させるようにしてゴムホース2を加熱する。このように加熱スチームが充満する環境下においても、樹脂マンドレル1を形成する熱可塑性樹脂の吸水率が0.05%以下であるので、従来のナイロン製のマンドレルに比べて遥かに水分を吸収しにくくなる。
【0016】
加硫された後のゴムホース2からは被覆材6が除去され、ゴムホース2の内部、即ち、樹脂マンドレル1が存在している部分に水圧をかける等によって樹脂マンドレル1が引抜かれて、ゴムホース2の製造が完了する。引抜かれた樹脂マンドレル1は、新たにその外周面に構成部材が積層されて上記製造工程で繰返し使用される。
【0017】
この樹脂マンドレル1は、上述したように、従来のナイロン製のマンドレルに比べて遥かに水分を吸収しにくくなるので、吸水状態で過度に柔らかくなることがない。そのため、製造工程で繰返し使用されても、早期に微小な欠けが生じる等の劣化を防止でき、耐久性を向上させることが可能になる。
【0018】
また、線膨張係数が6.0×10−5/K以下であるので、製造工程における温度変化による樹脂マンドレル1の膨張収縮量が小さくなる。特に、加硫する際に加熱され、加硫後に常温まで温度が低下することによって生じる収縮変化量が、従来のナイロン製マンドレルと比較して小さくなるので、ゴムホース2の寸法精度に対する悪影響を抑制して寸法精度よく、ゴムホース2を製造することができる。
【0019】
製造工程では、取り回しやリール7に巻回する場合に樹脂マンドレル1が屈曲されるが、曲げ強度が40MPa以上120MPa以下の適度な曲げ剛性を有する熱可塑性樹脂を用いているので、繰返し屈曲されて使用されても折れることなく取扱い性も良好となる。
【0020】
また、樹脂マンドレル1をポリフェニレンスルフィド(PPS)で形成した場合は、化学的に安定した樹脂材料であるので、上記した効果に加え、熱変形性、耐水性、耐酸・アルカリ性、耐有機溶剤性を向上させることが可能になる。
【0021】
本発明の樹脂マンドレル1は、強度等を考慮して、例えば、外径が3mm以上12mm以下、即ち、概ね3mm以上12mm以下の内径のゴムホース2を製造する際に用いることが好ましい。
【実施例】
【0022】
樹脂マンドレルを形成する樹脂として、表1に示す3種類の樹脂(実施例1、実施例2、比較例)を用意して、吸水率、線膨張係数、曲げ強度を測定した。また、この3種類の樹脂により形成した樹脂マンドレルをゴムホースの製造に繰返し使用してその耐久性、製造したゴムホースの寸法精度、ゴムホースを製造する際の取扱い性を確認した。その結果を表1に示す。
【0023】
実施例1と実施例2は、樹脂の種類がポリフェニレンスルフィド(PPS)であり、曲げ強度のグレードが異なるものである。吸水率、線膨張係数、曲げ強度の測定は、上述した方法で行った。
【0024】
[耐久性]
それぞれの樹脂により外径8mmの樹脂マンドレルを作製し、加硫温度142℃、加硫時間90分で同じ仕様のゴムホースを製造する工程を20回繰り返し、繰返し使用する毎に樹脂マンドレルの損傷の有無を確認した。
【0025】
[寸法精度]
それぞれの樹脂マンドレルを用いて製造したゴムホースの内径寸法と設計値との差異を測定し、ナイロン樹脂製マンドレルを用いて製造した場合を基準(○)にして相対評価した。表1の◎は、基準よりも寸法精度が良好であることを示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果から、比較例よりも吸水率が小さい実施例1および実施例2は、耐久性が優れることが確認できた。また、比較例よりも線膨張係数が小さい実施例1および実施例2は、製造するゴムホースの寸法精度に優れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のマンドレルを用いて成形されたゴムホースを例示する断面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1に例示したゴムホースを加硫する工程を例示する説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 樹脂マンドレル
2 ゴムホース
3 内面ゴム層
4 補強層
5 外面ゴム層
6 被覆材
7 リール
8 加硫装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂により形成されたホース用樹脂マンドレルにおいて、前記熱可塑性樹脂の吸水率が0.05%以下、線膨張係数が6.0×10−5/K以下、曲げ強度が40MPa以上120MPa以下であるホース用樹脂マンドレル。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリフェニレンスルフィドである請求項1に記載のホース用樹脂マンドレル。
【請求項3】
外径が3mm以上12mm以下である請求項1または2に記載のホース用樹脂マンドレル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−78388(P2009−78388A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247919(P2007−247919)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】