説明

ホーニング用研削工具

【課題】真円度、円筒度及び研削能率を向上させる配置の砥石を有する研削工具を提供する。
【解決手段】複数スリットを有する円柱状ホルダと、ホルダと同軸的に内包されるテーパコーンと、コーンに支承され複数スリットの各々に内包されるシューと、シューに取り付けられホルダから突出する砥石を備え、コーンの軸方向の進退によりシューが進退自在な研削工具で、ホルダは、ホルダ内部にクーラントを供給する流入口と、ホルダ内に流入したクーラントを排出するスリットに形成された複数の排出溝とを備え、隣接する砥石がなす角のうち少なくとも一箇所は角度が大きく、それ以外の箇所は角度が小さくなるようホルダの回転軸を中心とする円周上に砥石が配置され、砥石数は6枚であり、そのうち4枚の砥石は、回転軸に関して向かい合う90度以上の二領域を区画するように配置され、残りの2枚の砥石は、各々90度以上の領域以外の領域に1枚ずつ配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、諸特性が改善されたホーニング用研削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内燃機関のシリンダボア等の、凹部油溜り溝を有する部材の研削に際して、ホーニングホルダと呼ばれる研削工具が使用されている。この研削工具は、回転可能なホーニングホルダ本体に形成されたスリットに、回転軸から放射状をなす保持具(砥石シュー)を介して複数の砥石を取り付け、ホルダ本体に回転運動および軸方向への往復運動をさせることにより、被加工物内周面の研削を行っている。
【0003】
従来のホーニングホルダにおいては、被加工物の真円度および円筒度を良好に保つため、粗砥石および仕上げ砥石は、円周方向において等分に配置されるのが一般的であった。
【0004】
しかしながら、砥石を等分に配置してホルダ本体を高速回転させると、回転数によっては共鳴現象を生じやすく、研削工程における騒音の原因となっていた。特に、被加工物の外壁が薄い場合、振動が生じ易く、騒音が顕著であった。
【0005】
この問題に対して、砥石を円周方向に不等分に配置して共鳴現象の生起を防止し、騒音の発生を抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実昭62−58157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、単に砥石を不等分に配置することにより共鳴現象に起因する騒音は抑制することができるものの、砥石を不等分に配置することによる他の影響、すなわち被加工物の真円度や円筒度、研削能率に与える影響については検討されていない。
【0008】
本願発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、被加工物の良好な真円度および円筒度、ならびに高い研削能率を両立することができるような不等分配置の砥石を有する研削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、周方向に複数のスリットを有する円柱状のホルダ本体と、ホルダ本体と同軸的に内包されるテーパコーンと、テーパコーンに支承され、複数のスリットのそれぞれに内包される砥石シューと、砥石シューに取り付けられ、ホルダ本体から半径方向に突出する砥石とを備え、テーパコーンの軸方向への進退により砥石シューが半径方向に進退自在である研削工具であって、ホルダ本体は、ホルダ本体内部にクーラントを供給するクーラント流入口と、ホルダ本体内に流入したクーラントを排出するスリットに形成された複数の排出溝とを備え、隣接する砥石どうしがなす角のうち少なくとも一箇所は相対的に角度が大きく、それ以外の少なくとも複数の箇所は相対的に角度が小さくなるように、ホルダ本体の回転軸を中心とする円周上に前記砥石が配置され、砥石の数は6枚であり、そのうち4枚の砥石は、回転軸に関して向かい合う90度以上の二つの領域を区画するように配置され、残りの2枚の砥石は、それぞれ90度以上の領域以外の領域に1枚ずつ配置されることを特徴としている。
【0010】
本発明においては、前記4枚の砥石は、回転軸に関して向かい合う90度の二つの領域を区画するように配置され、残りの2枚の砥石は、それぞれ90度の領域以外の領域に1枚ずつ配置されることを好ましい態様としている。
【0011】
本発明においては、前記2枚の砥石は、45度の四つの領域を区画するように配置されることを好ましい態様としている。
【0012】
本発明においては、不等分に配置される複数の砥石は、粗砥石であり、さらに、粗砥石間に、仕上げ砥石が互いになす角度が等分になるよう配置されることを好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、砥石間の角度が相対的に大きい箇所を少なくとも一つ設けているので、被加工物にかかる砥石圧により被加工物が不均等に変形し、回転方向前方の砥石との間隔が広い箇所、すなわち砥石間の角度が大きい箇所に配置された砥石にかかる反力が大きくなる。これにより砥石の加工面への食い込みが大きくなる事で、より多くの研削を行うことができ、加工能率が向上するという効果を奏する。
【0014】
また、砥石間の角度が相対的に大きい箇所を、回転軸に関して向かい合う90度以上の領域、好ましくは90度の領域とすることによって、研削能率と、真円度および円筒度といった加工精度とを向上させ、かつバランスを良好に維持することができるという効果を奏する。
【0015】
また、粗砥石を不等分に、仕上げ砥石を等分に配置しているので、限られたホルダのスペースに多くの砥石を入れることが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態における研削工具を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における研削工具のホルダ本体を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態における研削工具の外側テーパコーンを示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態における研削工具の内側テーパコーンを示す斜視図である。
【図5】図1におけるA−A線断面図である。
【図6】本発明の一実施形態における研削工具のホルダ本体を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態における研削工具の外側テーパコーンを示す断面図であり、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【図8】本発明の一実施形態における研削工具の内側テーパコーンを示す断面図であり、(b)は(a)のD−D線断面図である。
【図9】本発明の一実施形態における研削工具の砥石配置を示す図である。
【図10】本発明の実施例および従来例の研削工具の砥石配置を示す図である。
【図11】本発明の実施例および従来例の研削工具における、砥石の配置と被加工部材の円筒度との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例および従来例の研削工具における、砥石の配置と被加工部材の真円度との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例および従来例の研削工具における、砥石の配置と研削能率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
第1実施形態の構成
図1は、本発明の第1実施形態の研削工具Hの斜視図を示し、図2〜4は、各部材(ホルダ本体、外側テーパコーン、内側テーパコーン)の詳細な拡大図であり、図6〜8は、それらの断面図である。さらに、図5は、これらが組み立てられた状態の透視図である。
【0018】
研削工具Hは、研削を行う円柱状のヘッドを有するホルダ本体10と、ホルダ本体10の内部に同軸的に内包される外側テーパコーン20と、外側テーパコーン20の内部に同軸的に内包される内側テーパコーン30とを有する。ホルダ本体10の円柱状部15には、周方向に複数のスリット11aおよび11bが形成されており、その各々に、砥石部40および41が、僅かに半径方向に突出するように内包されている。ホルダ本体10の基端部側16は、図示しない公知の回転機構に接続されて、ホルダ本体10自体を回転させることによって被加工物の研削を行う。
【0019】
砥石部には、粗研削を行う粗砥石部40と、仕上げを行う仕上げ砥石部41とがあり、それぞれ、粗砥石40aおよび仕上げ砥石41aが、砥石シュー40bおよび41bに支持されている(以下、符号のみで区別し単に「砥石部40、41」、「砥石40a、41a」と略称する場合がある)。なお、図2では、一部の砥石部を代表させて図示しているが、実際には、符号で示すように全てのスリット11aおよび11bに、砥石部40および41がそれぞれ内包される。
【0020】
半径方向の断面で見ると、図2(および図9)に示すように、砥石部41は十文字に配置され、砥石部40は、砥石部41の両隣あるいは一方の隣に隣接するように配置されている。しかしながら、本発明における粗砥石と仕上げ砥石の配置は、この順番に限定されない。
【0021】
これら砥石のうち、砥石部40は、相対的に短い脚の砥石シュー40bを有し、砥石シュー40bは、ホルダ本体10のスリット11aを貫通し、外側テーパコーン20のテーパ部22aおよび22bによって底部を支持され、砥石シュー係合部40cが外側テーパコーン20の係合部26に係合して、スリット11aからの脱落を防止している。
【0022】
また、砥石部41は、相対的に長い脚の砥石シュー41bを有し、砥石シュー41bは、ホルダ本体10のスリット11bを貫通し、さらに外側テーパコーン20の貫通孔21を貫通し、内側テーパコーン30のテーパ部31aおよび31bによって底部を支持され、砥石シュー係合部41cが内側テーパコーン30の係合部34に係合して、スリット11bからの脱落を防止している。
【0023】
図7(a)および図8(a)に示すように、砥石シュー40bは、外側テーパコーン20のテーパ部22aおよび22bに当接しており、砥石シュー41bは、内側テーパコーン30のテーパ部31aおよび31bに当接している。さらに、砥石シュー40bおよび41bは、スリット11aおよび11bに嵌合することによって、半径方向へは自由であるものの、軸方向への動きが拘束されている。
【0024】
したがって、外側テーパコーン20および/または内側テーパコーン30を軸方向に摺動させると、テーパ部と砥石シュー底部との摺動により、砥石部を半径方向に進退自在に移動させることができる。具体的には、砥石部は、テーパコーンを図面上方向に摺動させた場合は半径方向外側に、テーパコーンを図面下方向に摺動させた場合は半径方向内側に、移動させることができる。これにより、砥石部の半径方向への突出量を調整することができる。
【0025】
また、ホルダ本体10、外側テーパコーン20および内側テーパコーン30は相互に独立しているので、外側テーパコーン20のみを摺動させることにより粗砥石部40のみを、内側テーパコーン30のみを摺動させることにより仕上げ砥石部41のみを、それぞれ独立して移動させることができる。
【0026】
図5に示すホルダ本体10の内周面14と図9に示す外側テーパコーン20の外周面24とは、また、外側テーパコーン20の内周面25と図10に示す内側テーパコーン30の外周面33とは、それぞれ組み立てられた状態において両者の間に空隙が形成されるように、内径および外径が調整されている。
【0027】
図6に示すように、ホルダ本体10のフランジ部には、クーラント流入口13が形成されており、また、スリット11aおよび11bには、排出溝12aおよび12bがそれぞれ形成されている。供給されるクーラントは、クーラント流入口13を経由して、後述のとおりホルダ本体10内部を通り、砥石が内包されているスリット11aおよび11bの排出溝12aおよび12bからホルダ本体10外部に吐出される。
【0028】
本発明においては、隣接する砥石どうしがなす角のうち少なくとも一箇所は相対的に角度が大きく、それ以外の少なくとも複数の箇所は相対的に角度が小さくなるように、ホルダ本体の回転軸を中心とする円周上に前記砥石が配置されることを特徴としているが、この状況を示すのが図9および図10である。本実施形態においては、図9に示すような配置で粗砥石部40と仕上げ砥石部41が配置されているが、このうち粗砥石部40にのみ着目して簡略図示したのが図10(d)である。
【0029】
図9(d)に示すように、本実施形態では、6枚の砥石のうちの4枚によって、相対的に角度が大きい部分として90度の領域が回転軸に関して向かい合って区画されるように配置されており、残りの2枚の砥石によって、45度の領域が4箇所区画されるように配置されている。
【0030】
第2実施形態の構成
本発明の第2実施形態の研削工具は、上述の第1実施形態と主要構成要素は共通であり、砥石の配置のみが異なっている。第2実施形態における砥石の配置を、図10(e)に示す。図に示すように、本実施形態では、6枚の砥石のうちの4枚によって、相対的に角度が大きい部分として90度の領域が回転軸に関して向かい合って区画されるように配置されており、残りの2枚の砥石によって、30度の領域と60度の領域が2箇所ずつ区画されるように配置されている。
【0031】
第3実施形態の構成
本発明の第3実施形態の研削工具は、上述の第1および第2実施形態と主要構成要素は共通であり、砥石の配置のみが異なっている。第3実施形態における砥石の配置を、図10(f)に示す。図に示すように、本実施形態では、6枚の砥石のうちの4枚によって、相対的に角度が大きい部分として120度の領域が回転軸に関して向かい合って区画されるように配置されており、残りの2枚の砥石によって、30度の領域が4箇所区画されるように配置されている。
【0032】
各実施形態の研削工具の動作
研削工具Hは、使用時には、図5の透視図に示すように、ホルダ本体10の内部に外側テーパコーン20が、外側テーパコーン20の内部に内側テーパコーン30が、それぞれ同軸的に内包される。図示しないクーラント供給源からクーラントの供給を開始するとともに研削工具Hを回転させて、被加工部材の研削を開始する。粗研削を行う際は外側テーパコーン20を摺動させることによって粗砥石部40のみを、また、仕上げを行う際は内側テーパコーン30を摺動させることによって仕上げ砥石部41のみを、あるいは必要であればこれらの両方を同時に、所定量突出させて、加工を行う。
【0033】
供給されたクーラントは、クーラント流入口13より流入し、図5において破線の矢印で示す流通経路XおよびYにて、ホルダ本体10内を流通する。なお、ここで、符号Xは外側のクーラント流通経路、符号Yは内側のクーラント流通経路であるが、図の右半分においては流通経路Xを省略して流通経路Yのみを図示し、図の左半分においては流通経路Yを省略して流通経路Xのみを図示しているが、これは図示の簡略化のためで、実際には流通経路XおよびYの両者は、同軸的な円筒状の流通経路を構成している。
【0034】
クーラント流入口13より流入したクーラントは、外側流通経路Xへ向かうクーラントと、内側流通経路Yへ向かうクーラントとに分岐させられる。外側流通経路Xへ向うクーラントは、まず、ホルダ本体10の内周面14と、外側テーパコーン24との径の差異によって形成された円筒状の流通経路を通過する。
【0035】
続いて、クーラントは、研削工具Hの先端側へ流れ、テーパ部22aに到達するが、テーパ部22aには砥石シュー40bの脚部が当接しているため、一部のクーラントは、流通を妨げられてここで分岐させられ、スリット11aに形成された排出溝12aへ流れ、外部へ排出される(流通経路X)。
【0036】
残りのクーラントは、砥石シュー40bの脚部が当接する図3に示す複数領域に分割されたテーパ部22aの間に形成された溝部23を通過して、さらに研削工具Hの先端側へ流通し、スリット11aに形成された排出溝12bから排出される(流通経路XおよびX)。
【0037】
なお、図3においては、複数に分割されたテーパ部22aの間には、溝部23の他に貫通孔21が図示されているが、ここには前述のとおり内側テーパコーン30に支持される砥石シュー41bが貫通して設けられており流通を妨げられるため、クーラントは溝部23上のみを流通する。
【0038】
クーラント流入口13より流入したクーラントのうち、外側流通経路Xへ向かうクーラントから分岐させられ、内側流通経路Yへ向かうクーラントは、まず、外側テーパコーン20に形成された孔部を通過して、外側テーパコーン20の内部へ流入する。続いて、外側テーパコーン20の内周面25と、内側テーパコーン外周面33との径の差異によって形成された円筒状の流通経路を通過する。
【0039】
続いて、クーラントは、研削工具Hの先端側へ流れ、テーパ部31aに到達するが、テーパ部31aには砥石シュー41bの脚部が当接しているため、一部のクーラントは、流通を妨げられてここで分岐させられ、スリット11bに形成された排出溝12bへ流れ、外部へ排出される(流通経路Y)。
【0040】
残りのクーラントは、砥石シュー41bの脚部が当接する図6に示す複数領域に分割されたテーパ部31aの間に形成された溝部32を通過して、さらに研削工具Hの先端側へ流通し、スリット11bに形成された排出溝12bから排出される(流通経路YおよびY)。
【0041】
以上のようにしてホルダ本体10の外部へ排出されるクーラントは、各スリット11aおよび11bに排出溝12aおよび12bが刻設されていることにより、研削工具が方向Bに回転して被加工物の研削を行った場合、研削された直後の摩擦熱により温度が上昇している被加工物の加工面に対して速やかにクーラントを供給するとともに、スリットからホルダ内部に侵入する研削粉を外部に排出することができる。
【0042】
また、本発明のように砥石を不等分に配置することで、砥石1つあたりにかかる圧力が変化する。具体的には、回転方向前方の砥石との間隔が広い砥石への圧力が大きくなり、被加工物への食い込み量が増加して、研削能率(単位時間当たりの加工量)を向上させる事ができる。また、続いて、大きく切り込まれた加工面に対して、間隔が狭い複数の領域の砥石によって研削を行うことで、真円度および円筒度といった加工精度を向上することができる。なお、不等分の砥石の配置による効果の詳細は、実施例により後述する。
【0043】
他の好ましい態様
本発明においては、クーラント流入口13の断面積と比較して、排出溝12aおよび12bの断面積の総和が小さいことが好ましい。このような態様とすることで、クーラント流入口13から流入したクーラントの排出溝12aおよび12bにおける流速を増大させることができる。
【0044】
本発明においては、粗砥石部40が収納されているスリット11aにおける排出溝12aと、仕上げ砥石部41が収納されているスリット11bにおける排出溝12bとのそれぞれの断面積に差異を設けることが好ましい。
【0045】
このような態様とすることで、加工面において要求される冷却熱量や、スリットから排出させる研削粉の物性に関して両者で差異がある場合は、それぞれ個別に排出流量を調整することができるという効果を奏する。例えば仕上げと比較して粗研削における加工面の発熱が大きい場合、粗砥石部40が収納されている方の排出溝12aの断面積をより大きく取り、ここからのクーラント排出量を増加させることで、粗研削の加工面の冷却効果を向上させることができる。
【0046】
なお、排出溝12aおよび12bの断面積を増加(あるいは減少)させるには、溝を深く(浅く)刻設するか、刻設する溝の本数を増加(減少)させることにより、達成することができる。
【0047】
本発明においては、溝部23の形成工程において断面積を調整することにより、テーパ部22aより基端側の流通経路Xと、先端側の流通経路XおよびXのクーラント排出流量の比率を自由に調整することができ、好ましくは、均一になるように調整される。
【0048】
本発明においては、溝部32の形成工程において断面積を調整することにより、テーパ部31aより基端側の流通経路Yと、先端側の流通経路YおよびYのクーラント排出流量の比率を自由に調整することができ、好ましくは、均一になるように調整される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および従来例により本願発明の効果をより詳細に検証する。
図1に示す研削工具Hにおいて、粗砥石を図10に示すように配置したものをそれぞれ作製した。(a)〜(c)は、砥石3〜6枚を等分に配置した従来例であり、(d)〜(f)は、本発明の実施例であり、上述した第1〜第3実施形態に相当する。
【0050】
円筒度
上記各実施例および従来例の研削工具にて、試験用のシリンダボアの粗研削を行い、円筒度の測定を行った。その結果を図11のグラフに示す。図に示すように、3枚等分から6枚等分までは、砥石枚数が増加することで加工精度が向上し、6枚等分では円筒度は5μmの誤差であった。不等分配置である実施例では、(d)および(e)は良好な円筒度を維持できたものの、(f)で少々悪化した。なお、実施例(d)〜(f)はいずれも本試験の要件は12μm以下を満たすものであった。
【0051】
真円度
同様に、粗研削の後に真円度の測定を行い、その結果を図12のグラフに示す。図に示すように、3枚等分から6枚等分までは、砥石枚数が増加することで加工精度が向上し、6枚等分では円筒度は5μmの誤差であった。不等分配置である本発明の実施例では、(d)〜(f)のいずれも良好な真円度を維持することができた。
【0052】
研削能率
同様に、粗研削において研削能率の測定を行った。研削能率は、単位時間あたりの試験片の研削量(内径の拡大量μm)である。その結果を図13のグラフに示す。図に示すように、3枚等分から6枚等分までは、砥石枚数が増加することで加工量が向上し、6枚等分では1.9μm/secに達した。また、不等分配置である実施例では、(d)および(e)で2.7μm/secにまで向上し、さらに(f)では3.4μm/secに到達した。
【0053】
このメカニズムとしては、下記のように考えられる。図10(c)〜(f)に、研削面を示す円と、各砥石を結ぶ多角形との差の面積、すなわち研削面積を網掛けで図示し、この面積比を等分配置の従来例(c)を1.00として計算すると、(d):1.34、(e):1.43、(f):2.35となる。
【0054】
このように、不等分の度合いが大きくなると、研削工具回転方向前方の砥石との間隔が広い箇所、すなわち砥石間の角度が大きく網掛けの研削面積の大きい箇所に配置された砥石にかかる反力がより大きくなり、その研削面積に相当する相対的に多量の研削が行われるものと考えられる。これにより、(f)、(e)、(d)の順で研削能率が向上すると考えられる。
【0055】
本実施例により、不等分配置(d)および(e)が真円度および円筒度と、研削能率とを両立させ、特に好ましいことが分かった。
【0056】
以上のように、本発明においては、上述したように砥石を不等分配置とすることにより、真円度および円筒度は要求される精度を維持しつつ、研削能率を大幅に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
研削工具による加工精度および研削能率の改善により、自動車内燃機関のシリンダボア等の凹部油溜り溝を有する部材の研削に有用である。
【符号の説明】
【0058】
H…研削工具、
10…ホルダ本体、
11a、11b…スリット
12a、12b…排出溝、
13…クーラント流入口
14…ホルダ本体内周面、
15…円柱状部、
16…基端部側、
20…外側テーパコーン、
21…貫通孔、
22a、22b…テーパ部、
23…溝部、
24…外側テーパコーン外周面、
25…外側テーパコーン内周面、
26…係合部、
30…内側テーパコーン、
31a、31b…テーパ部、
32…溝部、
33…内側テーパコーン外周面、
34…係合部、
40…粗砥石部、
40a…粗砥石、
40b…砥石シュー、
40c…砥石シュー係合部、
41…仕上げ砥石部、
41a…仕上げ砥石、
41b…砥石シュー、
41c…砥石シュー係合部、
X、X〜X…クーラント流通経路(外側)、
Y、Y〜Y…クーラント流通経路(内側)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数のスリットを有する円柱状のホルダ本体と、前記ホルダ本体と同軸的に内包されるテーパコーンと、前記テーパコーンに支承され、前記複数のスリットのそれぞれに内包される砥石シューと、前記砥石シューに取り付けられ、前記ホルダ本体から半径方向に突出する砥石とを備え、
前記テーパコーンの軸方向への進退により前記砥石シューが半径方向に進退自在である研削工具であって、
前記ホルダ本体は、ホルダ本体内部にクーラントを供給するクーラント流入口と、ホルダ本体内に流入したクーラントを排出する前記スリットに形成された複数の排出溝とを備え、
隣接する砥石どうしがなす角のうち少なくとも一箇所は相対的に角度が大きく、それ以外の少なくとも複数の箇所は相対的に角度が小さくなるように、前記ホルダ本体の回転軸を中心とする円周上に前記砥石が配置され、
前記砥石の数は6枚であり、
そのうち4枚の砥石は、前記回転軸に関して向かい合う90度以上の二つの領域を区画するように配置され、
残りの2枚の砥石は、それぞれ前記90度以上の領域以外の領域に1枚ずつ配置されることを特徴とする研削工具。
【請求項2】
前記4枚の砥石は、前記回転軸に関して向かい合う90度の二つの領域を区画するように配置され、
残りの2枚の砥石は、それぞれ前記90度の領域以外の領域に1枚ずつ配置されることを特徴とする請求項1に記載の研削工具。
【請求項3】
前記2枚の砥石は、45度の四つの領域を区画するように配置されることを特徴とする請求項2に記載の研削工具。
【請求項4】
不等分に配置される前記複数の砥石は、粗砥石であり、さらに、前記粗砥石間に、仕上げ砥石が互いになす角度が等分になるよう配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の研削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−187686(P2012−187686A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54673(P2011−54673)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】