説明

ホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法

【課題】ホームゲートウェイ装置におけるホームゲートウェイ装置同士のP2Pネットワークの構築に際して、ホームゲートウェイ装置の出荷時にグループIDを設定することなくP2Pネットワークを構築可能にしてファームウェアの配信を行うファームウェア管理方法を得る。
【解決手段】ホームゲートウェイ装置が設置される地域を複数のサブネットに分割し、前記サブネット内において各ホームゲートウェイ装置に連続したIPアドレスを割り当てる(処理X)ことでホームゲートウェイ装置1同士のP2Pオーバレイネットワーク5を構築し、配信サーバ3から複数のホームゲートウェイ装置にファームウェア配信(配信処理A)が行われるとともに、他のホームゲートウェイ装置は、前記サブネット内で構築されたP2Pネットワークを介してファームウェア配信(配信処理B)が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法に関し、特に、ホームゲートウェイ装置のファームウェアを更新する場合に、複数のホームゲートウェイ同士のP2P通信によりファームウェアの配信を行うファームウェア管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワークにおけるブロードバンド市場が拡大し、モデム経由、ルータ経由、セットトップ・ボックス経由、IP電話経由など、さまざまなインターネットアクセスの可能性が広がっている。それと同時に、これらの機器の設定が複雑化し、エンドユーザにとっては、機器の設定操作が煩雑になる現象が生じている。
このような問題に対処するため、機器における様々な種類のアクセスに関する設定が統一的に実現できるプロトコルとして、TR-069(Technical Report 069)が開発されている。
【0003】
TR-069は、非特許文献1に示されるように、DSLフォーラムで策定された技術仕様(CWMP: Customer premises equipment WAN Management Protocol)であり、エンドユーザ機器の遠隔管理のためのアプリケーション層のプロトコルを定義している。TR-069は、SOAP/HTTP に基づく双方向のプロトコルであり、ホームゲートウェイ装置としてのCPE(広域ネットワーク(WAN) と顧客のネットワークとを接続する機器)と自動設定サーバとしてのACS( Auto Configuration Servers)との間の通信を規定している。統合的なフレームワークに基づいて、セキュアな自動設定と他のCPE管理機能の制御を規定している。
【0004】
以下、ホームゲートウェイ装置CPEと自動設定サーバACSとの間でのTR-069によるファームウェア管理機能について説明する。
ホームゲートウェイ装置CPEは任意のタイミングで自動設定サーバACSにアクセスし、ファームウェアの更新要求を出し、ファームウェアのダウンロードを実行する。自動設定サーバACSはホームゲートウェイ装置CPEからのダウンロード要求メッセージを受けて、ファームウェアを転送する処理を実行する。TR-069プロトコルのファームウェアの転送における動作手順を図8の(R1)〜(R13)に示す。
【0005】
(R1)先ず、ホームゲートウェイ装置CPEと自動設定サーバACSとの間でTCPセッションが確立される。
(R2)次に、SSL接続が開始される。
(R3)HTTP postにより、ファームウェアのダウンロード要求を自動設定サーバACSに送信する。
(R4)自動設定サーバACSはホームゲートウェイ装置CPEに対して、以降リクエスト要求を出さないように、HoldRequestsをtrueにするように命令する。
(R5)ホームゲートウェイ装置CPEはこれ以上、要求メッセージがないことを知らせるempty HTTP postを自動設定サーバACSに送信する。
(R6)そのメッセージを受けて、自動設定サーバACSは新しいファームウェアの送信をホームゲートウェイ装置CPEに対して送信する。
(R7)ホームゲートウェイ装置CPEはファームウェアのダウンロードが終了すると、その事をHTTP postにより通知する。
(R8)自動設定サーバACSはホームゲートウェイ装置CPEに、以後リクエスト要求を出してもいいように、empty HTTP response をホームゲートウェイ装置CPEに対して送信する。
(R9)ホームゲートウェイ装置CPEはファームウェアのダウンロードが成功したかどうかをACSに通知する。
(R10)自動設定サーバACSは、ホームゲートウェイ装置CPEがファームウェアを完全なダウンロードに成功かどうかの有無を認識したことを、ホームゲートウェイ装置CPEに送信する。
(R11)ホームゲートウェイ装置CPEは、これ以上自動設定サーバACSに要求メッセージがないことを知らせるempty HTTP postを自動設定サーバACSに送信する。
(R12)自動設定サーバACSも同様に、ホームゲートウェイ装置CPEに対して送信メッセージがないことを知らせるempty HTTP response を送信する。
(R13)最後にホームゲートウェイ装置CPEのほうから、TCPセッションを終了させる。
【0006】
上述したTR-069によるファームウェア管理によれば、ホームゲートウェイ装置CPEがファームウェアの更新を定期的に行う際、ホームゲートウェイ装置CPEの方から自動設定サーバACS(センタ側)に対して、ファームウェアの更新の有無を確認することが行われる。
しかしながら、TR-069ではホームゲートウェイ装置CPEからの要求が任意のタイミングで行われるために、図7に示すように、ユーザ側における多数のホームゲートウェイ装置1からインターネット2を介してファームウェアの更新要求がある場合、ホームゲートウェイ装置1の数が膨大であるために、センタ側の配信サーバ3にアクセスが集中して多大な負荷がかかるという問題がある。
【0007】
今後益々インターネットサービスを利用するユーザが増加するにあたり、その分だけホームゲートウェイ装置からのアクセス数に対応できるように回線を高帯域にするという対策も可能であるが、回線構築コストが高くなるという問題がある。
例えば、一般的に使用されているサーバ製品では同時に接続できる最大のセッション数は30万セッションである。このとき、ブロードバンド契約者が300万と仮定すると、その全てのユーザが所有するホームゲートウェイ装置からファームウェアの更新要求が来た場合には、センタサーバ側に大きな負荷がかかることが懸念される。
【0008】
この問題を解決するため、ホームゲートウェイ装置同士のピュアP2Pによる構造化オーバレイを利用して、ビデオストリーミングを分散配信する方法が例えば非特許文献2に開示されている。
【0009】
P2P通信とは、多数の端末間で通信を行う際のアーキテクチャのひとつで、対等の装置(ピア)同士が通信をする通信方式である。
P2P通信を行う場合、IPアドレスさえ分かっていれば相手方のピアに到達でき、ピア同士の通信が可能となる。したがってP2Pでは、どのように相手方のIPアドレスを入手するかが重要となり、実際のP2Pでは、コンテンツのタイトルや検索キーワード、放送局のチャンネル名等、何らかの意味のある文言である「キー」を使用することで通信相手を特定して、通信ができるようになっている。
【0010】
すなわち、P2P通信を行う場合、一般化には「キー」を手かがりにし、「キーに対応するデータを持つ者」を検索し、その相手(装置)と通信をすることが行われる。「キー」と「データ」のペアは、インデックス情報として「データ」を持つ装置のIPアドレスとして記憶されている。
【0011】
非特許文献2に記載の技術によれば、マルチキャストツリーを識別子で管理することによって、一つのホームゲートウェイ装置で複数の構造化ツリーを持つことができ、それぞれの構造化ツリーに識別子を付与し、ツリー毎にQoS設定を持たせることができる。P2P通信によれば、各装置(ピア)がクライアント機能とサーバ機能を併せ持つよう動作するので、端末数が膨大になっても回線帯域などに余裕がある限り通信が可能となり、端末数の増加による通信品質の劣化を防止できる。
P2Pネットワークを構築する場合、ホームゲートウェイ装置は、出荷時においてP2Pネットワークを構成するグループIDの情報を予め設定しておく。ホームゲートウェイ装置は初めてネットワークに参加する際、そのグループIDを利用して、P2Pネットワークを探索するように構成されている。
【0012】
非特許文献2で構造化オーバレイを利用している理由としては、データがオーバレイを流れる前に流路(配信木)が定まっているため、データがあるノードに到達するまでの時間(遅延)と、遅延の揺らぎ(ジッタ)を低く抑えやすいという利点と、配信木の形状がデータの流路となるので、配信木の構築を通してデータの流路を厳密に制御できるという利点が考えられる。また、帯域幅の狭い経路、不安定な経路を明示的に避けるといったことも容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Bernstein, J. and Spets. T. ,ed. , "DSL Forum TR-069: CPE WAN Management Protocol", Technical Report, DSL Forum, May 2004.
【非特許文献2】J Garcia-Reinoso, A Bikfalvi, I Vidal, F Valera "FLaCoSt: A Novel Peer to Peer Architecture for Video Streaming in a Next Generation Network" The First International Conference on Advances in P2P Systems. AP2PS 2009. 11-16 October 2009, (Sliema, Malta)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、非特許文献2に記載の技術では、ホームゲートウェイ装置にP2P通信を導入するにあたり、ホームゲートウェイ装置がグループIDを認識することでP2Pネットワークを探索するので、P2Pを構成するグループIDを管理し,各ホームゲートウェイ装置をお客様宅へ出荷する際に予め設定しておく必要があった。このグループIDは、固有の値であり動的に変化するものでない。そのため、運用者はIPアドレスに加えグループIDを別途管理する必要があり、管理対象が増加するという問題があった。
【0015】
また、上述したホームゲートウェイ装置同士のピュアP2Pは、構造化オーバレイなので、親のノードに障害が発生した時や、日常的に起こる突然の離脱などには、ツリー構造を再度構成し直す機構を盛り込む必要があり、ノードに問題が生じると配信の失敗に繋がる現象が生じる。故障や離脱したノードが配信木の根に近かった場合、その影響は大きいものとなる。そのため、ホームゲートウェイ装置を構成する要素は複雑になり、必然と高価になってしまうという問題があった。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みて提案されたもので、ホームネットワーク内のホームデバイスのネットワーク接続設定やインターネットサービス中継の役割を有するホームゲートウェイ装置におけるホームゲートウェイ装置同士のP2Pネットワークの構築に際して、ホームゲートウェイ装置の出荷時にグループIDを設定することなくP2Pネットワークを構築可能にしてホームゲートウェイのファームウェア配信を行うファームウェア管理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため本発明のホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法は、ホームネットワーク内のホームデバイスのネットワーク接続設定やインターネットサービス中継の役割を有するホームゲートウェイ装置において、地域毎に分割されたサブネット内でホームゲートウェイ装置同士がP2Pネットワークを構成することによりファームウェア配信を行うことを特徴としている。
【0018】
すなわち、請求項1は、複数のホームゲートウェイ装置に対して配信サーバからファームウェア配信を行うホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法において、
前記ホームゲートウェイ装置が設置される地域を複数のサブネットに分割し、前記サブネット内において各ホームゲートウェイ装置に連続したIPアドレスを割り当てることでホームゲートウェイ装置同士のP2Pネットワークを構築し、
前記配信サーバから全てのサブネットにおいて、少なくとも1つ以上は最新のファームウェアを持つようにホームゲートウェイ装置にファームウェア配信が行われるとともに、他のホームゲートウェイ装置は、前記サブネット内で構築されたP2Pネットワークを介してファームウェア配信が行われることを特徴としている。
【0019】
請求項2は、請求項1のホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法において、前記サブネット内で構築されたP2Pネットワークを介したファームウェア配信は、ファームウェア配信元となるホームゲートウェイ装置のIP アドレスを検索する際に、ファームウェア配信先のホームゲートウェイ装置のIPアドレスからシーケンシャルに検索することで配信元のIPアドレスを決定することを特徴としている。
【0020】
請求項3は、請求項1のホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法において、前記サブネット内で構築されたP2Pネットワークを介したファームウェア配信は、ファームウェア配信元となるホームゲートウェイ装置のIP アドレスを検索する際に、ファームウェア配信先のホームゲートウェイ装置のIPアドレスからブロードキャストでサブネット内の各ホームゲートウェイ装置に問い合わせることで配信元のIPアドレスを決定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明方法によれば、ホームゲートウェイ装置同士のP2Pネットワークを構築するに際して、前記サブネット内において各ホームゲートウェイ装置に連続したIPアドレスを割り当てるようにしたので、ホームゲートウェイ装置の出荷時に予め独自に識別子(グループID)を設ける必要がなく、配信サーバがファームウェア配信を行う場合にグループIDを管理する必要がないので、運用者の負担軽減を図ることができる。
【0022】
また、ファームウェア配信元のホームゲートウェイ装置のIPアドレスを配信先のホームゲートウェイ装置のIPアドレスからシーケンシャルに検索、若しくは、ブロードキャストにより問い合わせるので、P2Pネットワークを構築する他のホームゲートウェイ装置のIPアドレスを知らなくとも接続先(配信元)を決定することができる。
【0023】
また、ファームウェア配信が行われた複数のホームゲートウェイ装置以外のホームゲートウェイ装置については、P2Pネットワークを介してファームウェア配信が行わるので、配信サーバが自らファームウェア配信を行うホームゲートウェイ装置の数を指定でき、セッション数を制限することで配信サーバ側の負荷軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のファームウェア管理方法が適用される一般的なインターネットサービスの接続環境を示すモデル図である。
【図2】本発明のファームウェア管理方法が適用されるP2Pオーバレイネットワーク構成例を示すモデル図である。
【図3】本発明のファームウェア管理方法が適用されるP2Pオーバレイネットワークによるファームウェア配信を説明するためのモデル図である。
【図4】本発明のファームウェア管理方法が適用されるホームゲートウェイ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図5】本発明のファームウェア管理方法が適用されるP2Pオーバレイネットワークを利用したファームウェア配信動作を示すシーケンス図である。
【図6】本発明のファームウェア管理方法が適用されるP2Pオーバレイネットワークを利用したファームウェア配信動作の他の例を示すシーケンス図である。
【図7】従来例におけるホームゲートウェイ装置によるファームウェア更新動作を示すモデル図である。
【図8】TR-069プロトコルのファームウェアの転送動作を説明するシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。
本発明のホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法は、ホームゲートウェイ装置同士のP2Pネットワークを利用したファームウェア配信によりファームウェア管理を行うものである。
【0026】
先ず、本発明方法が適用される複数のホームゲートウェイ装置が設置される接続環境について説明する。ホームゲートウェイ装置が設置される接続環境は、図1に示すような一般的なインターネットサービス環境を想定している。すなわち、ユーザは、ホームゲートウェイ装置1を介してインターネット2に接続し各種サービスを利用する。
ユーザの利用端末の管理を行うセンタ側では、インターネット2に接続され新しいファームウェアを配信するための配信サーバ(センタサーバ)3が設置されている。ユーザのホームゲートウェイ装置1に対しては、ハードウェアの基本的な制御を行なう場合の初期設定や機能更新を行うに際して、インターネット2を介して配信サーバ3からファームウェアが配信することが行われる。
【0027】
本発明方法が適用される複数のホームゲートウェイ装置は、図2に示すように、各ルータ4に接続された複数のホームゲートウェイ装置1から構成される複数のホームゲートウェイ装置群において、ホームゲートウェイ装置1同士の間でP2Pオーバレイネットワーク5が構成されている。すなわち、通常のIPネットワークの上に、P2P方式での通信網としてもう一層別のネットワーク(Overlay Network)が構築されている。
ルータ4は、複数のホームゲートウェイ装置1に接続され,複数のルータ4と網目状に接続しているとともに、各ホームゲートウェイ装置1と配信サーバ3との接続を管理するものである。
【0028】
また、図3に示されるように、P2Pオーバレイネットワーク5を構成する各ホームゲートウェイ装置1へは、JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンタ)からある程度まとまった単位で与えられたIPアドレス(例えば「10.10.10.0」〜「10.10.20.254」)を自分たち(ISP:Internet Service Provider)が管理するネットワーク機器であるDHCPサーバ6から各ホームゲートウェイ装置1に割り当てるに際して、日本の地域を分割し各地域でサブネットを構成し、それぞれのサブネット内の配下に、ある連続したIPアドレスを割り当てる(図3中に点線で示す処理X)ことでサブネット毎にP2Pオーバレイネットワーク5を構成する。また、各サブネットは、サブネットマスク(例えば「255.255.255.0」)を利用することで区別され、DHCPサーバ6により管理される。各ホームゲートウェイ装置1は、DHCPサーバ6によりIPアドレス(例えば「10.10.10.1」)とサブネットマスク(例えば「255.255.255.0」)が設定され、各サブネット(例えば、「10.10.10.0/24」)に所属する。
例えば、図3の例では、サブネットに分割されたネットワークアドレスグループC(関東)に設置された複数のホームゲートウェイ装置1が存在する場合、ネットワークアドレスグループCを構成する一つのサブネット(例えば、「10.10.10.0/24」)に属する各ホームゲートウェイ装置1はネットワークに参加する設定を行うに際して、ルータ4のIPアドレスが「10.10.10.0」である場合には、DHCPサーバ6からその配下の連続したIPアドレス「10.10.10.1」、「10.10.10.2」…「10.10.10.253」、「10.10.10.254」が割り当てられる。
【0029】
上述のようにサブネット内に存在する各ホームゲートウェイ装置1に対して、連続するIPアドレスを割り振ると、インターネットサービスを提供する上で,経路をまとめることができる。例えば、あるルータ4の傘下にある地域が「10.10.0.0」〜「10.10.255.255」までのアドレスを持っているとすると、この地域内のホームゲートウェイ装置1にアクセスしたかった場合,インターネット上の他のルータは「10.10.0.0/16」の情報だけを基にルーティングを実施すればよい。このように、サブネットごとにある程度連続したアドレスを割り当てたほうが、コアネットワーク部分のルーティングにおいて,各ルータのルーティングテーブルが少なくて済むので,ルータの負担を抑えることができる。
【0030】
P2Pオーバレイネットワーク5(P2P方式での通信網)を介して各ホームゲートウェイ装置1に送信したファームウェア更新データは、P2Pオーバレイネットワーク5の全てのサブネットの少なくとも1つ以上のホームゲートウェイ装置1に同じ更新データが分散して配置されている。この更新データは、ファームウェアデータが更新された際に、配信サーバ3が選択した複数のホームゲートウェイ装置1にサーバブッシュによるファームウェア配信が行われる(例えば、図3におけるルータ4を介したホームゲートウェイ装置1aへの配信処理A)。
そして、配信サーバ3に選択されなかった各ホームゲートウェイ装置1には、サブネット内に構築されたP2Pオーバレイネットワーク5を利用することで、例えばホームゲートウェイ装置1aからホームゲートウェイ装置1bに、ホームゲートウェイ装置1bからホームゲートウェイ装置1cにそれぞれP2P通信により配信される(図3における配信処理B)。
【0031】
続いて、ファームウェア管理が行われるホームゲートウェイ装置1の構成について、図4を参照しながら説明する。
ホームゲートウェイ装置1は、ホームネットワークに対するLAN側通信インターフェース10と、広域ネットワークに対するWAN側通信インターフェース11と、ファームウェア部12と、ファームウェアのバージョンを管理するバージョン管理部13と、自身のIPアドレスを記憶するIPアドレス部14と、P2P通信の宛先を管理する宛先管理部15と、ファームウェアの更新要求を送信する更新要求送信部16と、ファームウェアの更新処理を管理する更新処理管理部17と、ファームウェアの更新間隔を管理する更新タイマー部18と、データを中継するデータ中継部19を備えて構成されている。
【0032】
LAN側通信インターフェース10は、利用者端末側のホームネットワークに対して接続を行うためのインターフェースである。WAN側通信インターフェース11は、配信サーバ側の広域ネットワークに対して接続を行うためのインターフェースである。
【0033】
ファームウェア部12は、ハードウェアの基本的な制御を行うためのソフトウェア(ファームウェアそのもの)が保持される部分である。ファームウェア部12のファームウェア情報は、新しいバージョンのファームウェアが配信された場合は、書き換えられる。
バージョン管理部13は、ファームウェア部12に保持されているファームウェアのバージョン情報を管理するもので、ファームウェアの更新要求送信部16からの更新要求バージョン情報の送信要求信号、及び、更新処理管理部17からの更新処理完了後のバージョン情報信号を受信するように構成されている。
【0034】
IPアドレス部14は、サブネットに設定されているサブネットマスクとともに自身のIPアドレスを格納するもので、インターネットに接続した際に、DHCPサーバ6から割り当てられて記録される。
宛先管理部15は、IPアドレス部14に接続されるとともに、更新要求送信部16からファームウェアの更新要求を受信することでP2P通信の宛先を管理している。
【0035】
更新要求送信部16は、WAN側通信インターフェース11を介して配信サーバ側にファームウェアの更新要求を送信する。
更新処理管理部17は、WAN側通信インターフェース11を介して受信した配信サーバからのファームウェアをホームゲートウェイに適用させる更新処理を管理する(ファームウェア部12を新しいファームウェアに書き換える)。また、バージョン管理部13へ更新ファームウェア情報のバージョン情報を送信する。バージョン管理部13は、次回更新要求を出すべきバージョン情報として、受け取ったバージョン情報にプラス1し保持しておく。
【0036】
更新タイマー部18は、ファームウェアの更新間隔を管理し、一定時間経過毎に更新要求送信部16に対して配信サーバへファームウェアの更新要求を行うように管理する。
データ中継部19は、LAN側通信インターフェース10とWAN側通信インターフェース11との間でホームネットワーク側からの通信要求信号とそれに対するWAN側からの応答信号を中継するものである。
【0037】
次に、本発明のファームウェア管理方法により、各ホームゲートウェイ装置1におけるファームウェアを更新する手順(動作例1)について、図5を参照しながら説明する。図5の動作例1は、P2P通信によるファームウェアの配信に際して、P2Pネットワークを構成するIPアドレスを検索する時、自身のIPアドレスからシーケンシャルに宛先を決定する方法である。
【0038】
先ず、ホームゲートウェイ装置1がインターネット2を介してサービスに参加すると、DHCPサーバ6からホームゲートウェイ装置1に対して上述したサブネット内において順次IPアドレスが割り当てられる(S1)。割り当てられたIPアドレスは、IPアドレス部4に記憶される。
ファームウェア配信サーバ3は、ファームウェアの更新があると、全てのサブネットにおいて、現在ネットワーク上に割り当てているホームゲートウェイ装置1のIPアドレスから1つ以上選択し、そのIPアドレスのホームゲートウェイ装置1に対してファームウェアの更新情報をマルチキャストして送信する(S2)。
【0039】
ファームウェアの更新情報を受け取ったホームゲートウェイ装置は、自身でファームウェアの更新要求を出すことなく、ファームウェアの更新が完了する(S3)。
その他のホームゲートウェイ装置1(S2で選択されなかったホームゲートウェイ装置)は、更新要求送信部16により任意のタイミングでファームウェアの更新確認動作が実行される(S4)。
続いてホームゲートウェイ装置1は、自身に設定されているIPアドレスとサブネットマスクを確認する(S5)。これは、次述するファームウェアの配信要求を求める相手先を決定する際に必要な情報となる。
【0040】
ホームゲートウェイ装置はそのIPアドレスとサブネットマスクから、自身が所属するネットワークの範囲(サブネット)において、自身に割り当てられているIPアドレスから後ろに一つずつホスト部の数値をずらしたIP アドレスに対して、P2Pを利用してファームウェアの新しいバージョン情報をキーに更新要求を送信する。
例えば、自身のIPアドレスが「10.10.10.253」だった場合には、ホスト部からプラス「1」をしたアドレス「10.10.10.254」を宛先となる配信元のIPアドレスとしてファームウェア更新要求を送信する(S6)。
【0041】
ファームウェア更新要求を受け取ったホームゲートウェイ装置は、要求があった新しいファームウェアのバージョンを所持していれば、配信元のIPアドレスが決定され、このIPアドレスから要求があったIPアドレスに対してファームウェアを配信する(S7)。
要求を出したホームゲートウェイ装置は、新しいファームウェアを受け取り、更新動作を実行する(S8)。
要求を受けたホームゲートウェイ装置が、新しいファームウェアのバージョンを所持していなければ、所持していないことを知らせるメッセージを逆送信する。P2Pによるネットワークの輻輳を避けるために、ファームウェア更新要求は他へ転送しないこととする(S9)。
【0042】
要求を出したホームゲートウェイ装置から、「ファームウェア更新情報無し」のメッセージを受け取ったホームゲートウェイ装置は、一定時間後に自身のIPアドレスのホスト部からさらにプラス「1」をしたアドレス(図5の例では「10.10.10.1」)に要求を送信する(S10)。すなわち、自身が所属するサブネットのネットワークの限界値の範囲に達した場合は、最初のIPアドレスに戻る。
例えば、自身が所属するサブネットのサブネットマスクが「255.255.255.0」だった場合には、「10.10.10.1」〜「10.10.10.254」のIPアドレス範囲内で、ファームウェアの更新確認要求を送信する相手を一つずつプラスしていく。この例の場合、自身のIPアドレス「10.10.10.253」から「1」ずつプラスしていき、「255」に達した場合は、また、最初の「10.10.10.1」からプラスしていくことになる。新しいファームウェアを所持するホームゲートウェイ装置に当たるまでこれを繰り返す(S11)。
新しいバージョンのファームウェアを受信し、更新を終了したホームゲートウェイ装置は、バージョン管理部における問い合わせバージョン番号を現在のバージョン番号のプラス「1」とする(S12)。
【0043】
ファームウェアの更新を完了したホームゲートウェイは、そのことを知らせる通知をファームウェア配信サーバへ送信する。通知内容は、IPアドレスと、ホームゲートウェイ装置を一意に認識するためのMACアドレス、ファームウェアのバージョン情報、完了日時等が含まれる(S13)。
【0044】
一定期間後に再び(S6)から繰り返すものとする(S14)。
更新要求を送信するためのIPアドレスがネットワーク上に存在しなかった場合には、何の応答も返信されないので、そのときのために更新要求の応答が返ってくるまでのタイムアウト時間を設定する。タイムアウト時間が経過した場合は、次の宛先IPアドレスに更新要求を出すこととする(S14)。
【0045】
自身が所属するサブネット内の宛先IPアドレスに更新されたファームウェアが見つからなかった場合(宛先IPアドレスが一周した場合)には、ファームウェアの更新自体がないか、もしくは、ファームウェア配信サーバが最初にファームウェアを配信する相手の数を制限しているため、そのサブネット内のホームゲートウェイ装置には更新されたファームウェアが配信されなかった可能性のどちらかが考えられる。そのために、自身が所属するサブネット内に更新ファームウェアが見当たらなかった場合には、IPアドレス体系で隣接している他のサブネットに更新要求を送信することとする。
【0046】
例えば上述の例では、「10.10.11.1」に更新要求を送信し、その後同様にシーケンシャルに「10.10.11.2」、「10.10.11.3」…と問い合わせを繰り返していく。そのサブネットにおいても、見つからなかった場合には、さらに隣接のサブネットに問い合わせの要求を出す。すなわち、「10.10.12.1」に問い合わせを出すこととなる。そのサブネット内で更にシーケンシャルに問い合わせを実施する。複数のサブネットに問い合わせても見つからなければ、初めてファームウェアの更新がないことと判断する。
【0047】
また、IPアドレス体系で隣接するサブネット自体が存在しない場合には、いくら要求を出しても全く応答が返ってこないことが予想されるので、その場合にはサブネットに該当するIPアドレスの半分の数だけ応答がなければ、そのサブネットは存在しないと判断し、逆のシーケンシャル方向に問い合わせを出すようにする。
例えば、「10.10.11.1」から始めて「10.10.11.148」のIPアドレスに達しても応答が返ってこなかった場合には、「10.10.9.254」に対して要求を出し、逆の方向に宛先の問い合わせを進めるようにする。
【0048】
続いて、本発明のファームウェア管理方法により、各ホームゲートウェイ装置1におけるファームウェアを更新する他の手順について、図6を参照しながら説明する。
図5の動作例1では、基本的にシーケンシャルに問い合わせ先を変化させる方法であるため、更新されたファームウェアを所持するホームゲートウェイ装置に到達するまでに時間がかかることが予想される。
そこで図6の動作例2では、ブロードキャストによるファームウェアの更新要求を送信する。動作例2では、ファームウェアの更新要求を送信する宛先を決める際に、動作例1によるシーケンシャルな検索ではなく、ブロードキャストでサブネット内の各ホームゲートウェイ装置に問い合わせを行うようにする。
【0049】
ホームゲートウェイ装置がインターネットサービスに参加すると、DHCPサーバ6からIPアドレスが割り当てられる(T1)。
ファームウェア配信サーバは、ファームウェアの更新があると、全てのサブネットにおいて、現在ネットワーク上に割り当てているIPアドレスから1つ以上選択し、そのIPアドレスに対してファームウェアをマルチキャストする(T2)。
ファームウェアの更新情報を受け取ったホームゲートウェイ装置は、自身でファームウェアの更新要求を出すことなく、ファームウェアの更新が完了する(T3)。
以上は図5の動作例1と同じである。
【0050】
その他のホームゲートウェイ装置は任意のタイミングで、ファームウェアの更新確認動作が実行される。本動作例では、ブロードキャストを利用して自身のサブネット内に更新要求を送信する。例えば、自身のIPアドレスが「10.10.10.253」で、サブネットマスクが「255.255.255.0」だった場合には、「10.10.10.255」に対して、ファームウェアの更新要求を送信する(T4)。
新しいファームウェアの更新情報を持たないホームゲートウェイ装置は、更新要求メッセージを受けると、何も返信しない(T5)。
【0051】
新しいファームウェアを持ったホームゲートウェイ装置が、更新要求メッセージを受け取ると、配信元のIPアドレスが決定され、このIPアドレスから要求があったIPアドレスのホームゲートウェイ装置に新しいファームウェアを配信する(T6)。
新しいファームウェアを受信した当該ホームゲートウェイ装置は、自身のファームウェアを更新する(T7)。
【0052】
次回の問い合わせ時に利用されるファームウェアのバージョン情報をプラス「1」にし、保持しておく(T8)。
ファームウェアの更新を完了したホームゲートウェイ装置は、ファームウェア配信サーバに対して、更新完了のメッセージを送信する(T9)。
その後、ある一定期間経過したのちに、再び(T4)から繰り返す(T10)。
【0053】
動作例2においても、自身が所属するサブネット内のどのホームゲートウェイ装置からも応答がない場合が考えられる。そのときには、動作例1と同様に、応答時間の制限を設けて、一定時間待っても応答がなかった場合には、そのサブネット内には新しいファームウェアを持ったホームゲートウェイ装置がないと判断し、別のサブネットに対してブロードキャストを行う。そのサブネットからも返ってこなかった場合には、さらに別のサブネットにブロードキャスト送信というように複数回繰り返し、それでも応答がなかった場合には、初めてファームウェアの更新がないことを判断する。その後、一定期間待った後に、再度自身が所属するサブネット内に対してファームウェア装置の更新要求メッセージをブロードキャストする(T10)。
【0054】
上述したホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法によれば、ホームゲートウェイ装置が設置される地域に基づいてP2Pオーバレイネットワーク5を構成するグループ(サブネット)内で、ホームゲートウェイ装置1のIPアドレスを順次割り当てるようにしたので、グループ内に独自に識別子を設ける必要がない。そのため、運用側ではDHCP程度のIPアドレス管理機能があれば、サブネット内のホームゲートウェイ装置1に対してIPアドレスの割り当てを行うことが可能であるので、運用側の負担軽減を図ることができる。
【0055】
また、P2Pオーバレイネットワーク5において、更新ファームウェア情報を取得するホームゲートウェイ装置1は任意の数が存在するので、基本的に非構造化オーバレイを構成することになり、あるホームゲートウェイ装置1に故障が発生したり、電源をOFFにしたりした場合であっても、複雑な処理を施す必要なく更新ファームウェア情報が配信可能となるので、ホームゲートウェイ装置自体を安価に構成することができる。
【0056】
また、ファームウェア配信元のホームゲートウェイ装置のIPアドレスを配信先のホームゲートウェイ装置のIPアドレスからシーケンシャルに検索(動作例1)、若しくは、ブロードキャストにより問い合わせる(動作例2)ので、P2Pネットワークを構築する他のホームゲートウェイ装置のIPアドレスを知らなくとも接続先(配信元)を決定し、更新ファームウェア情報を配信可能とすることができる。
【0057】
また、ファームウェア配信サーバ3が自らファームウェアを配信させるホームゲートウェイ装置1の数を指定できるので、ファームウェア配信サーバ側において、ネットワークの負荷及びサーバの負荷を軽減することができる。
その結果、サーバの低スペック化を実現し、更には回線容量の低減化を図ることで、全体的なネットワークコスト削減を実現することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…ホームゲートウェイ装置、 2…インターネット、 3…配信サーバ、 4…ルータ、 5…P2Pオーバレイネットワーク、 6…DHCPサーバ、 10…LAN側通信インターフェース、 11…WAN側通信インターフェース、 12…ファームウェア部、 13…バージョン管理部、 14…IPアドレス部 15…宛先管理部、 16…更新要求送信部、 17…更新処理管理部、 18…更新タイマー部、19…データ中継部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のホームゲートウェイ装置に対して配信サーバからファームウェア配信を行うホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法において、
前記ホームゲートウェイ装置が設置される地域を複数のサブネットに分割し、前記サブネット内において各ホームゲートウェイ装置に連続したIPアドレスを割り当てることでホームゲートウェイ装置同士のP2Pネットワークを構築し、
前記配信サーバから全てのサブネットにおいて、少なくとも1つ以上は最新のファームウェアを持つようにホームゲートウェイ装置にファームウェア配信が行われるとともに、他のホームゲートウェイ装置は、前記サブネット内で構築されたP2Pネットワークを介してファームウェア配信が行われる
ことを特徴とするホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法。
【請求項2】
前記サブネット内で構築されたP2Pネットワークを介したファームウェア配信は、ファームウェア配信元となるホームゲートウェイ装置のIPアドレスを検索する際に、
ファームウェア配信先のホームゲートウェイ装置のIPアドレスからシーケンシャルに検索することで配信元のIPアドレスを決定する
請求項1に記載のホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法。
【請求項3】
前記サブネット内で構築されたP2Pネットワークを介したファームウェア配信は、ファームウェア配信元となるホームゲートウェイ装置のIPアドレスを検索する際に、
ファームウェア配信先のホームゲートウェイ装置のIPアドレスからブロードキャストでサブネット内の各ホームゲートウェイ装置に問い合わせることで配信元のIPアドレスを決定する
請求項1に記載のホームゲートウェイ装置におけるファームウェア管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−175425(P2011−175425A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38598(P2010−38598)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】