説明

ホールスライドイメージ作成装置

【課題】病理診断の速度や精度を高めることができるホールスライドイメージ作成装置を提供する。
【解決手段】病理標本を基本倍率で撮影する撮影手段16と、前記撮影手段により基本倍率で撮影された病理標本の画像データに基づいて前記病理標本に関する関心領域を特定する関心領域特定手段4と、前記関心領域特定手段により特定された前記関心領域の詳細撮影を行なう詳細撮影手段16と、前記病理標本の識別情報に対応させて、前記撮影手段により撮影された病理標本の画像データ及び前記詳細撮影手段により撮影された前記関心領域の詳細画像データを記憶する記憶手段26とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理標本が封入されたスライドガラス(プレパラート)全体を撮影してデジタル画像データを生成し、生成したデジタル画像データに基づいて病理診断を行うことを可能とするホールスライドイメージ作成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、病理学の分野等において、光学顕微鏡によって観察される画像をデジタルデータ化し、ディスプレイ上で観察する装置が用いられている。現在、このような装置としては、デジタル顕微鏡、遠隔顕微鏡、及びホールスライドイメージ作成装置が存在し、がん対策における先端技術として注目されはじめている。
【0003】
ここで、デジタル顕微鏡は、病理標本をデジタルカメラを介してディスプレイで観察できるようにした光学顕微鏡である。また、遠隔顕微鏡は、従来の光学顕微鏡にデジタルカメラと電動ステージを追加し、遠隔操作で顕微鏡観察ができるようにしたものである。また、ホールスライドイメージ作成装置は、病理標本が封入されたスライドガラス(プレパラート)において病理標本全体を撮影し、デジタル画像データを生成する装置であり、画像全体がデジタル化されてハードディスクやDVD等に蓄積される。
【0004】
ホールスライドイメージ作成装置の具体例としては、例えば、特許文献1に記載されたスライド画像データ作成装置が知られている。このスライド画像作成装置は、病理標本を載置した可動フレームを順次移動させながら複数の画像を高倍率で撮影するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−20329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このスライド画像作成装置においては、病理標本を載置したステージを順次移動させながら複数の画像を高倍率で撮影するため、特に病理標本が多数存在する場合、スライド画像データを生成するのに膨大な時間がかかるという問題があった。
【0007】
更に、病理標本の全ての領域が高倍率で撮影されている場合には、病理標本の観察に長時間が必要となり病理診断を高速で行うことができなかった。また、全ての領域が低倍率で撮影されている場合には、病理診断を高精度で行うことができなかった。
【0008】
本発明の目的は、病理診断の速度や精度を高めることができるホールスライドイメージ作成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載のホールスライドイメージ作成装置は、病理標本を基本倍率で撮影する撮影手段と、前記撮影手段により基本倍率で撮影された病理標本の画像データに基づいて前記病理標本に関する関心領域を特定する関心領域特定手段と、前記関心領域特定手段により特定された前記関心領域の詳細撮影を行なう詳細撮影手段と、前記病理標本の識別情報に対応させて、前記撮影手段により撮影された病理標本の画像データ及び前記詳細撮影手段により撮影された前記関心領域の詳細画像データを記憶する記憶手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2記載のホールスライドイメージ作成装置は、前記詳細撮影手段が、前記基本倍率よりも高い倍率で前記関心領域の撮影を行なうことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3記載のホールスライドイメージ作成装置は、前記詳細撮影手段が、前記撮影手段の焦点位置を変化させて、複数の異なる焦点位置で前記関心領域の撮影を行なうことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4記載のホールスライドイメージ作成装置は、前記関心領域特定手段が、前記基本倍率で撮影された病理標本の画像データに現れている粒子の密度、形状及び分布の状態の中の少なくとも1つに基づいて前記関心領域を特定することを特徴とする。
【0013】
また、請求項5記載のホールスライドイメージ作成装置は、前記関心領域特定手段が、前記基本倍率で撮影された病理標本の画像データに現れている粒子の画像と、予め記憶されている粒子の標準的な画像とのパターンマッチングを行なうことにより前記関心領域を特定することを特徴とする。
【0014】
また、請求項6記載のホールスライドイメージ作成装置は、前記関心領域特定手段が、前記基本倍率で撮影された、複数の異なる特殊染色を行なった病理標本の画像データの画像差に基づいて前記関心領域を特定することを特徴とする。
【0015】
また、請求項7記載のホールスライドイメージ作成装置は、閲覧機能を有する端末装置からの画像データ送信要求を受信する受信手段と、前記受信手段により受信した画像データ送信要求に基づいて前記記憶手段に記憶されている画像データの中から送信する画像データを特定する画像データ特定手段と前記画像データ特定手段により特定された画像データを前記端末装置に送信する送信手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8記載のホールスライドイメージ作成装置は、前記画像データ送信要求が、前記病理標本の識別情報、画像データの位置情報及び画像データの倍率の情報を含むことを特徴とする。
【0017】
また、請求項9記載のホールスライドイメージ作成装置は、前記送信手段により送信した画像データ、画像データの送信先及び送信日時を記憶する記憶手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のホールスライドイメージ作成装置によれば、病理診断の速度や精度を高めることができる。また、病理標本に病理医師が診たい領域を詳細観察することが可能である。また、病理医師が診たい領域を複数の異なる焦点位置で観察することができ通常の光学顕微鏡観察に近い運用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置を含むシステム全体の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置において用いるプレパラートを示す図である。
【図3】実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置の撮影処理を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置において用いるプレパラートに含まれる関心領域を示す図である。
【図5】実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置において画像データを外部端末に送信する処理を示すフローチャートである。
【図6】実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置において用いる染色処理が施された病理標本を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置について説明する。図1は、実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置2を含むシステム全体の構成を示すブロック図である。ホールスライドイメージ作成装置2は、病院の病理検査室に備えられているものであり、ホールスライドイメージ作成装置2の各部を統括的に制御する制御部4を備えている。制御部4には、プレパラート6を載置するステージ8を移動させるステージ制御部10、プレパラート6を観察するための対物レンズ12の駆動制御を行うレンズ駆動部14、対物レンズ12により撮像面上に結像された被写体像を撮像するCCD等により構成される撮像素子16、プレパラート6の全領域を含む全体画像を撮影するデジタルカメラ20、撮像素子16やデジタルカメラ20により撮影された画像データを一時的に記憶する画像記憶部21、撮像素子16により撮像された画像データに基づく画像等を表示する表示部22、一連の撮影処理を開始する開始ボタン(不図示)等を備える操作部24、撮像素子16やデジタルカメラ20により撮像された画像データを記憶するデータベース26、データベース26に記憶されている複数の画像データに基づいて一つの画像の画像データを生成する等の画像処理を行う画像処理部27、インターネット28を介した外部端末30からの画像データ送信要求の受信及びその要求に対応する画像データの送信を行う通信部32、インターネット28を介して外部端末30に送信した画像データに関する情報等をログデータとして記憶する情報記憶部34が接続されている。
【0021】
ホールスライドイメージ作成装置2は、対物レンズ12として、基本倍率(例えば対物10倍)で病理標本40(図2参照)を観察する対物レンズ12a、及び基本倍率よりも高い倍率(例えば対物40倍)で病理標本40を観察する対物レンズ12bを備えている。また、外部端末30は、病理医師が病理診断を行う診療所に備えられている。外部端末30に含まれる外部端末30a、外部端末30bは、データベース26に記憶された画像データに基づく画像を観察するためのビューア機能を有しており、ビューア機能により画像を表示する表示部(不図示)、カーソルを操作するマウス(不図示)等を備えている。
【0022】
図2は、実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置2において用いるプレパラート6を示す図である。プレパラート6は、病院において患者から採取された組織切片等の病理標本40を封入したスライドガラス42により構成される。
【0023】
図3は、実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置2の撮影処理を示すフローチャートである。まず、プレパラート6がステージ8上の所定の位置にセットされ(ステップS1)、開始ボタンが操作されると、制御部4は、撮影処理を開始する(ステップS2)。即ち、制御部4は、ステージ制御部10を制御し、プレパラート6がデジタルカメラ20の直下に位置するようにステージ8を移動させる。
【0024】
次に、制御部4は、デジタルカメラ20によりプレパラート6の全領域を含む全体画像を撮影し(ステップS3)、撮影された画像の画像データを画像記憶部21に記憶する。次に、制御部4は、画像記憶部21から画像データを読み出し、画像データに基づいて、プレパラート6(図2参照)において病理標本40が封入されている領域(以下、標本領域という。)を特定する(ステップS4)。
【0025】
次に、制御部4は、対物レンズ12aを用いて基本倍率で病理標本40を撮影する準備として、標本領域を複数の正方形の領域(以下、区分領域という。)に格子状に区分し、標本領域における各区分領域の位置を認識する。例えば、標本領域の上側縁部の最左端に位置する区分領域の位置を位置「1,1」として認識し、標本領域の上側縁部の最左端の右隣に位置する区分領域の位置を位置「1,2」として認識する。そして、標本領域の下側縁部の最右端に位置する区分領域の位置を位置「M,N」として認識するまで同様の処理を繰り返す。
【0026】
次に、制御部4は、レンズ駆動部14を制御し、基本倍率で病理標本40を撮影できるように対物レンズ12aに切換える。次に、ステージ制御部10を制御し、標本領域において最初に撮影する位置「1,1」の区分領域が対物レンズ12aの直下に位置するようにステージ8を移動させ、更にステージ8を垂直方向に移動させて位置「1,1」の区分領域における所定の焦点位置(以下、基準面という。)に焦点を合わせる。次に、位置「1,1」の区分領域について対物10倍の基本倍率で撮影し(ステップS5)、画像データに位置情報を付加して画像記憶部21に記憶する。同様にして、制御部4は、順次ステージ8を移動させて位置「1,2」から位置「M,N」までの区分領域を基本倍率で撮影し、区分領域の画像の画像データに位置情報を付加して画像記憶部21に記憶する。
【0027】
次に、制御部4は、画像記憶部21から基本倍率で撮影した各区分領域の画像の画像データを読み出し、画像処理部27において、画像データに付加された位置情報に基づいて、全ての区分領域をつなぎ合わせた病理標本40の全体の画像データを生成する。次に、制御部4は、生成した画像データを用いて、図4に示すように、病理標本40において病変部を含む可能性の高い関心領域44を特定する(ステップS6)。例えば、画像データから病理標本40の粒子(細胞)の密度を認識し、他の領域と比較して粒子の密度が高い領域を関心領域44として特定する。
【0028】
次に、制御部4は、対物レンズ12bを用いて高倍率で関心領域44を撮影する準備として、関心領域44を更に複数の正方形の領域(以下、詳細区分領域という。)に格子状に区分し、関心領域44における各詳細区分領域の位置を区分領域の位置と関連付けて認識する。
【0029】
例えば、関心領域44が位置「4,6」の区分領域に存在する場合、制御部4は、上側縁部の最左端の詳細区分領域の位置を位置「i,i(4,6)」として認識し、上側縁部の最左端の右隣に位置する詳細区分領域の位置を位置「i,ii(4,6)」として認識する。そして、下側縁部の最右端に位置する詳細区分領域の位置を位置「m,n(4,6)」として認識するまで同様の処理を繰り返す。
【0030】
なお、関心領域44が位置「4,6」の区分領域と位置「4,7」の区分領域とに亘って存在する場合、制御部4は、まず、位置「4,6」の区分領域に存在する関心領域44において、位置「i,i(4,6)」から位置「m,n(4,6)」までの認識を行い、次に、位置「4,7」の区分領域に存在する関心領域44において、位置「i,i(4,7)」から位置「m,n(4,7)」までの認識を行う。
【0031】
次に、制御部4は、レンズ駆動部14を制御し、高倍率で関心領域44を撮影できるように対物レンズ12bに切換える。次に、ステージ制御部10を制御し、関心領域44において最初に撮影する位置の詳細区分領域が対物レンズ12bの直下に位置するようにステージ8を移動させる。例えば、関心領域44が位置「4,6」の区分領域に存在する場合、「i,i(4,6)」の詳細区分領域が対物レンズ12bの直下に位置するようにステージ8を移動させる。次に、制御部4は、更にステージ8を垂直方向に移動させて位置「i,i(4,6)」の詳細区分領域における基準面に焦点を合わせる。そして、次に、位置「i,i(4,6)」の詳細区分領域について対物40倍の基本倍率で撮影し(ステップS7)、画像データに位置情報を付加して画像記憶部21に記憶する。同様にして、制御部4は、順次ステージ8を移動させ、位置「i,ii(4,6)」から位置「m,n(4,6)」までの詳細区分領域を対物40倍の高倍率で詳細撮影し、詳細区分領域の画像の画像データに位置情報を付加して画像記憶部21に記憶する。
【0032】
次に、制御部4は、レンズ駆動部14を制御し、再び基本倍率で撮影ができるように対物レンズ12aに切換える。次に、ステージ制御部10を制御し、関心領域44を含む区分領域のうち、最初に撮影する区分領域が対物レンズ12aの直下に位置するようにステージ8を移動させる。例えば、関心領域44を含む区分領域が位置「4,6」の区分領域である場合、位置「4,6」の区分領域が対物レンズ12aの直下に位置するようにステージ8を移動させる。
【0033】
次に、制御部4は、例えば、上下に0.5μmずつステージ8をステップ移動させて、基準面を中心とする複数の異なる焦点位置で位置「4,6」の区分領域を基本倍率で撮影する(ステップS8)。次に、制御部4は、複数の異なる焦点位置で撮影した位置「4,6」の区分領域の画像の画像データに位置情報及び焦点位置情報を付加して画像記憶部21に記憶する。
【0034】
次に、制御部4は、全体画像の画像データ、基本倍率で撮影された各区分領域の画像の画像データ、高倍率で詳細撮影された各詳細区分領域の画像の画像データ、及び異なる焦点位置で撮影された各区分領域の画像の画像データを画像記憶部21から読み出し、プレパラート6の識別番号に対応させてデータベース26に記憶する(ステップS9)。
【0035】
図5は、実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置2において画像データを外部端末30に送信する処理を示すフローチャートである。ここでは、病理医師が外部端末30aを用いて病理診断を行う際のホールスライドイメージ作成装置2との通信を例に説明する。
【0036】
まず、外部端末30aにおいて、病理医師が患者名やプレパラート6(図4参照)の識別番号等を入力すると、入力された内容の情報を含む画像データ送信要求がインターネット28を介してホールスライドイメージ作成装置2に対して送信される。制御部4は、インターネット28及び通信部32を介して画像データ送信要求を受信する(ステップS11)。
【0037】
次に、制御部4は、画像データ送信要求に含まれる患者名やプレパラート6の識別番号等に基づいて、データベース26に記憶されている画像データの中から、外部端末30aに送信する画像データを特定する(ステップS12)。次に、特定した画像データのうち、基準面に焦点を合わせて基本倍率で撮影された全ての区分領域の画像の画像データ、即ち、位置「1,1」から位置「M,N」までの区分領域の画像の画像データをデータベース26から読み出す。
【0038】
次に、制御部4は、画像処理部27を制御して、画像データに付加された位置情報に基づいて、全ての区分領域をつなぎ合わせた病理標本40の全体の縮小画像(例えば対物1.4倍)の画像データを生成する(ステップS13)。
【0039】
次に、制御部4は、縮小画像の画像データを、通信部32及びインターネット28を介して外部端末30aに対して送信する(ステップS14)。ここで、制御部4は、送信した縮小画像の画像データ名、画像データの送信先である外部端末30aの通信アドレス、及び送信日時をログデータとして情報記憶部34に記憶させる。
【0040】
外部端末30aは、インターネット28を介して縮小画像の画像データを受信すると、画像データに基づいて、病理標本40の全体の縮小画像をビューア機能を用いて表示部において表示する。病理医師は、表示部に表示された画像を診て病理標本40の全領域の状況を把握すると共に、病理標本40における関心領域44の位置を認識する。そして、病理医師は、マウスを操作して表示部に表示されたカーソルを病理標本40上の位置、例えば関心領域44の上に移動させ、関心領域44をクリックする。
【0041】
関心領域44がクリックされると、クリックされた位置に関する情報含む画像データ送信要求がインターネット28を介してホールスライドイメージ作成装置2に対して送信される。制御部4は、インターネット28及び通信部32を介してクリックされた位置に関する情報含む画像データ送信要求を受信する(ステップS15)。
【0042】
次に、制御部4は、クリックされた位置に対応する、例えば、基準面に焦点を合わせて基本倍率で撮影された位置「4,6」の区分領域の画像の画像データをデータベース26から読み出し、通信部32及びインターネット28を介して外部端末30aに対して送信し(ステップS16)、ログデータを情報記憶部34に記憶する。
【0043】
外部端末30aは、インターネット28を介して画像データを受信すると、画像データに基づいて、位置「4,6」の区分領域の画像を基本倍率で表示部において表示する。ここで、病理医師は、マウスを操作して表示部に表示されている画像をスクロールすることができる。例えば、位置「4,6」の区分領域の画像が表示部において表示されている場合、マウスを操作して画像を右側にスクロールさせる指示を行うと、位置「4,7」の区分領域の画像の画像データ送信要求がインターネット28を介してホールスライドイメージ作成装置2に対して送信される。制御部4は、インターネット28及び通信部32を介して画像データ送信要求を受信すると、位置「4,7」の区分領域の画像の画像データをデータベース26から読み出し、通信部32及びインターネット28を介して外部端末30aに対して送信し、ログデータを情報記憶部34に記憶する。
【0044】
外部端末30aは、ホールスライドイメージ作成装置2から位置「4,7」の区分領域の画像の画像データを受信すると、位置「4,6」及び位置「4,7」の区分領域の画像をつなぎ合わせた画像をビューア機能を用いて作成し、表示部において表示する。さらにマウスを操作して画像を右側にスクロールさせる指示を行うと、外部端末30aは、位置「4,7」の区分領域の画像を表示部において表示する。この際に、マウス操作によるスクロール指示の履歴が操作情報として外部端末30aに記憶される。
【0045】
ここで、病理医師は、焦点位置を変更した画像及び高倍率で撮影された画像を表示部において診ることができる。焦点位置を変更した画像を診たい場合、病理医師は、表示部に表示された位置「4,6」の区分領域の画像、即ち、関心領域44の画像を診ながら焦点位置の指定を行う。例えば、表示部に表示されている画像よりも0.5μm上側(下側)の位置に焦点を合わせて関心領域44を観察したい場合、病理医師は、外部端末30aにおいて+0.5(−0.5)等の焦点位置情報を入力する。
【0046】
焦点位置の指定が行われると、表示部に表示されている区分領域の画像の位置情報及び入力された焦点位置情報を含む画像データ送信要求がインターネット28を介してホールスライドイメージ作成装置2に対して送信される。制御部4は、インターネット28及び通信部32を介して、表示部に表示されている区分領域の画像の位置情報及び入力された焦点位置情報を含む画像データ送信要求を受信する(ステップS17)。
【0047】
次に、制御部4は、画像データ送信要求に含まれる位置情報及び焦点位置情報に対応する画像データをデータベース26から読み出し、通信部32及びインターネット28を介して外部端末30aに対して送信する(ステップS18)。例えば、受信した画像データ送信要求に位置「4,6」という位置情報、及び+0.5(−0.5)という焦点位置情報が含まれる場合、制御部4は、基準面よりも0.5μm上側(下側)の位置に焦点を合わせて撮影された位置「4,6」の区分領域の画像の画像データを送信する。ここで、制御部4は、焦点位置情報を含むログデータを情報記憶部34に記憶する。
【0048】
外部端末30aは、インターネット28を介して画像データを受信すると、基準面よりも0.5μm上側(下側)を焦点位置とする位置「4,6」の区分領域の画像を表示部において表示する。なお、表示部に表示された画像が所望の位置に焦点が合った画像でない場合、病理医師により再度焦点位置情報の入力が行われ、ステップS17及びS18で説明した処理が繰り返される。これにより、病理医師は、表示部に表示された区分領域の画像を診て関心領域44を所望の焦点位置で観察することができる。
【0049】
また、高倍率で撮影された画像を診たい場合、病理医師は、マウスを操作してカーソルを移動させ、関心領域44において更に詳細に観察したい領域をクリックすると共に画像倍率を入力する。領域のクリック及び画像倍率を入力が行われると、クリックされた位置に関する情報と画像倍率の情報を含む画像データ送信要求がインターネット28を介してホールスライドイメージ作成装置2に対して送信される。制御部4は、インターネット28及び通信部32を介してクリックされた位置に関する情報と画像倍率の情報を含む画像データ送信要求を受信する(ステップS19)。
【0050】
次に、制御部4は、クリックされた位置及び入力された画像倍率に対応する区分領域の画像の画像データをデータベース26から読み出し、通信部32及びインターネット28を介して外部端末30aに対して送信する(ステップS20)。例えば、受信した画像データ送信要求に位置「i,ii(4,6)」という位置情報、及び×40という画像倍率の情報が含まれる場合、制御部4は、対物40倍で詳細撮影された位置「i,ii(4,6)」の詳細区分領域の画像の画像データを送信し、ログデータを情報記憶部34に記憶する。
【0051】
外部端末30aは、インターネット28を介して画像データを受信すると、病理医師が更に詳細に観察したい領域である、位置「i,ii(4,6)」の詳細区分領域の画像を対物40倍の高倍率で表示部に表示する。なお、病理医師は、マウスを操作することにより、表示部に表示されている画像をスクロールすることができる。病理医師は、表示部に表示された画像を診て病理診断を行う。
【0052】
次に、病理医師が病理診断結果を入力すると、病理診断結果に関する情報、及びマウス操作等の記録である操作情報がインターネット28を介してホールスライドイメージ作成装置2に対して送信される。制御部4は、インターネット28及び通信部32を介して病理診断結果に関する情報及び操作情報を受信する(ステップS21)。
【0053】
次に、制御部4は、病理診断結果に関する情報をプレパラート6の識別番号に対応させてデータベース26に記憶し、操作情報をログデータとして情報記憶部34に記憶する。また、データベース26に記憶されている画像データ及び病理診断結果に関する情報を患者の電子カルテと関連付ける処理を行う。
【0054】
この実施の形態に係るホールスライドイメージ作成装置によれば、関心領域についてのみ高倍率で詳細撮影を行うため、詳細撮影を早く終わらせることができると共に関心領域について詳細な観察を行うことができ、病理診断の速度や精度を高めることができる。また、データベースに記憶する画像データの容量を少なくすることができるため、画像データの蓄積に要する費用を低減させることができる。
【0055】
また、病理医師は、基本倍率で撮影された画像を外部端末30の表示部で観察して関心領域を認識し、関心領域について高倍率で詳細に観察するため、通常の光学顕微鏡観察に近い運用が可能である。また、関心領域を複数の異なる焦点位置で観察することができるため、通常の光学顕微鏡観察と同等の診断可能率で病理診断を行うことができる。
【0056】
また、手術中に摘出された病変組織の病理標本を遠隔地から病理医師が診断することができるため、病理医師が不在の病院において手術中において迅速に病理診断結果を得ることが可能となる。例えば、胃癌の内視鏡手術はリンパ節転移有無評価に迅速診断は欠かせないとされるが、手術中において迅速に病理診断を行うことができれば、病理医不在病院(100-200床の中小病院等)での早期胃癌等の内視鏡手術が可能になる。また、これにより、医療費を削減することができる。
【0057】
また、患者の病変部の顕微鏡像をディスプレイに表示することが可能になるため、病変部の顕微鏡像をディスプレイに表示し、患者に自分の病変部を観察させながら病理検査の説明を行うことができる。また、患者が自分の病変部の画像データのコピー(DVD等)を入手して病理診断科の病理専門医に病変部の説明を求めることもできる。
【0058】
また、病理標本を撮影した画像を画像データとして記憶するため、プレパラートの管理で問題になる病理標本の破損、紛失、劣化等の心配がなく、いつでも同じ画像データに基づく画像を観察することができる。また、プレパラートを専門家に輸送する必要がないため、病理診断を行うまでの日数を早めることができ、患者が不安な気持ちで診断結果を待つ時間を短くすることができる。また、病理診断科の病理専門医が診断困難な事例や特殊・稀少病変等について、画像データを用いて迅速にスペシャリティー領域の病理医師に病理診断の確認・裏づけをとることができる。また、大量の画像データをデータベース26に記憶させてライブラリーを構築し、いつでも必要なプレパラートの画像を外部端末30の表示部で閲覧することができる。
【0059】
また、外部端末に対して送信した画像データの画像データ名、画像データに付加された位置情報、外部端末の通信アドレス、及び送信日時等をログデータとして情報記憶部34に記憶するため、どの病理医師が何時どのような画像を観察して病理診断を行ったかを証跡として残すことができ、病理診断業務の品質を高めることができる。
【0060】
また、インターネット28を介して受信した画像データを外部端末30の表示部で観察することができるため、複数の病理医師が同一の画像を同時に診ながらディスカッションを行うことができる。
【0061】
なお、上述の実施の形態においては、病理標本40の粒子の密度を認識することにより関心領域44を特定する場合を例に説明しているが(図3、ステップS6参照)、他の方法を用いて関心領域44を特定してもよい。例えば、病理標本40の粒子の分布状況を認識し、病理標本40において異常な形状の粒子を含む領域を関心領域44として特定してもよい。具体的には、病理標本40において円形状の粒子の中に楕円形状の粒子が存在する場合、楕円形状の粒子を含む領域を関心領域44として特定してもよい。また、病理標本40において特定の配列を有する粒子の中に配列の異なる粒子が存在する場合、配列の異なる粒子を含む領域を関心領域44として特定してもよい。また、基本倍率で撮影された病理標本40の画像データに現れている粒子の画像と、予めホールスライドイメージ作成装置2において記憶されている粒子の標準的な画像とのパターンマッチングを行なうことにより関心領域44を特定してもよい。
【0062】
また、基本倍率で撮影された、複数の異なる特殊染色を行なった病理標本の画像データを比較し、画像データの画像差に基づいて関心領域44を特定してもよい。例えば、まず、連続して薄切りされた組織切片を3つ用意する。次に、一つ目の組織切片に基本染色Aを施して一つ目のプレパラートを作成し、二つ目の組織切片に特殊染色Bを施して二つ目のプレパラートを作成し、三つ目の組織切片に特殊染色Cを施して三つ目のプレパラートを作成する。次に、これらのプレパラートについて、上述の実施の形態におけるステップS1〜5の処理(図3参照)を行い、組織切片(病理標本)を基本倍率で撮影した画像の画像データを取得する。
【0063】
ここで、図6(a)は、一つ目の組織切片に基本染色Aを施して撮影した病理標本の画像、二つ目の組織切片に特殊染色Bを施して撮影した病理標本の画像、三つ目の組織切片に特殊染色Cを施して撮影した病理標本の画像を示す図である。図6(a)に示す画像において、基本染色Aを施した場合に染色された腺管は、特殊染色Bを施した場合には全て染色されるが、特殊染色Cを施した場合には一部が染色されない。このように、特殊染色を施した場合における画像に画像差が認められる場合、図6(b)に示すように、基本染色Aを施した病理標本の画像において、特殊染色Bを施した場合には染色されるが特殊染色Cを施した場合には染色されない腺管を含む領域を関心領域44として特定してもよい。
【0064】
また、上述の実施の形態において、詳細区分領域について複数の異なる焦点位置で高倍率の撮影を行うようにしてもよい。これにより、病理医師は、表示部に表示された関心領域44の詳細な画像について焦点位置の指定を行うことができ、更に精度の高い病理診断を行うことができる。
【0065】
また、上述の実施の形態においては、対物10倍の基本倍率で撮影して関心領域44を特定し、対物40倍の高倍率で関心領域44を詳細撮影する場合を例に説明しているが、撮影倍率は上述の実施の形態で用いた倍率に限定されない。例えば、対物4倍の基本倍率で撮影して関心領域44を特定し、対物40倍の高倍率で関心領域44を詳細撮影するようにしてもよい。これにより、画像データの容量を小さくすることができる。
【0066】
また、上述の実施の形態において、情報記憶部34に記憶されたログデータに基づいて、データベース26から順次画像データを読み出し、画像データに基づく画像を表示部22において表示するようにしてもよい。これにより、病理診断時に外部端末30の表示部に表示された画像と同じ画像をビデオ再生のようにして表示部22に表示することができる。また、情報記憶部34に記憶されたマウス操作等の操作情報のログデータを用いることにより、表示部22にビデオ再生のようにして表示する画像を更に病理診断時に外部端末30の表示部に表示された画像に近づけることができる。
【0067】
また、上述の実施の形態において、外部端末30に録音部を備え、病理医師が表示部を診ながら読み上げる病理診断時の音声を音声データとして録音部に録音するようにしてもよい。そして、この音声データをホールスライドイメージ作成装置2に送信し、情報記憶部34においてログデータとして記憶するようにしてもよい。これにより、病理診断業務の品質を更に高めることができる。
【0068】
また、上述の実施の形態において、対物レンズ12を用いて撮影した画像の画像データを電子カルテに組み込んでデータベース26に記憶するようにしてもよい。例えば、電子カルテ上の画像イメージ表示部分に画像データをリンクさせるようにしてもよい。このデータを外部端末30に送信することにより、病理医師は、表示部において電子カルテを参照しながら病理標本の画像を観察することができ、画像データの検索時間を大幅に削減することができる。
【0069】
また、上述の実施の形態においては、ステージ制御部10によりステージ8を移動させてプレパラートの撮影を行う場合を例に説明しているが、撮像素子16やデジタルカメラ20を移動させるカメラ駆動部を備え、カメラ駆動部により撮像素子16やデジタルカメラ20を移動させてプレパラートの撮影を行うようにしてもよい。
【0070】
また、上述の実施の形態においては、順次区分領域を撮影し、全ての区分領域をつなぎ合わせた画像を生成する方式を例に説明しているが、スキャナーにより帯状の領域をスキャンし、スキャンした画像を合成して病理標本全体の画像を生成する方式を用いてもよい。
【符号の説明】
【0071】
2…ホールスライドイメージ作成装置、4…制御部、6…プレパラート、8…ステージ、10…ステージ制御部、12…対物レンズ、14…レンズ駆動部、16…撮像素子、20…デジタルカメラ、21…画像記憶部、22…表示部、24…操作部、26…データベース、27…画像処理部、28…インターネット、30…外部端末、32…通信部、34…情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病理標本を基本倍率で撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により基本倍率で撮影された病理標本の画像データに基づいて前記病理標本に関する関心領域を特定する関心領域特定手段と、
前記関心領域特定手段により特定された前記関心領域の詳細撮影を行なう詳細撮影手段と、
前記病理標本の識別情報に対応させて、前記撮影手段により撮影された病理標本の画像データ及び前記詳細撮影手段により撮影された前記関心領域の詳細画像データを記憶する記憶手段と
を備えることを特徴とするホールスライドイメージ作成装置。
【請求項2】
前記詳細撮影手段は、前記基本倍率よりも高い倍率で前記関心領域の撮影を行なうことを特徴とする請求項1記載のホールスライドイメージ作成装置。
【請求項3】
前記詳細撮影手段は、前記撮影手段の焦点位置を変化させて、複数の異なる焦点位置で前記関心領域の撮影を行なうことを特徴とする請求項1または2記載のホールスライドイメージ作成装置。
【請求項4】
前記関心領域特定手段は、前記基本倍率で撮影された病理標本の画像データに現れている粒子の密度、形状及び分布の状態の中の少なくとも1つに基づいて前記関心領域を特定することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のホールスライドイメージ作成装置。
【請求項5】
前記関心領域特定手段は、前記基本倍率で撮影された病理標本の画像データに現れている粒子の画像と、予め記憶されている粒子の標準的な画像とのパターンマッチングを行なうことにより前記関心領域を特定することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のホールスライドイメージ作成装置。
【請求項6】
前記関心領域特定手段は、前記基本倍率で撮影された、複数の異なる特殊染色を行なった病理標本の画像データの画像差に基づいて前記関心領域を特定することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のホールスライドイメージ作成装置。
【請求項7】
閲覧機能を有する端末装置からの画像データ送信要求を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信した画像データ送信要求に基づいて前記記憶手段に記憶されている画像データの中から送信する画像データを特定する画像データ特定手段と
前記画像データ特定手段により特定された画像データを前記端末装置に送信する送信手段と
を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のホールスライドイメージ作成装置。
【請求項8】
前記画像データ送信要求は、前記病理標本の識別情報、画像データの位置情報及び画像データの倍率の情報を含むことを特徴とする請求項7記載のホールスライドイメージ作成装置。
【請求項9】
前記送信手段により送信した画像データに関する情報、画像データの送信先及び送信日時を記憶する記憶手段を備えることを特徴とする請求項7または8記載のホールスライドイメージ作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−54083(P2013−54083A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190287(P2011−190287)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(511213926)
【Fターム(参考)】