説明

ボツリヌス毒素中毒症を治療するための救出薬剤

本発明は、毒素中毒症−例えば、ボツリヌス菌中毒症の治療で用いるための救出薬剤に関し、これは食中毒、生物テロの活動または処置の経過における誤った過剰摂取から生じうる。いくつかの態様において、救出薬剤は少なくとも不活性なボツリヌス毒素のうちの1つ、および修飾型非毒性非赤血球凝集素を含む。本発明はまた、グリコシル化された活性および不活性な毒素およびその使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、哺乳動物のボツリヌス毒素中毒症を救出薬剤(rescue agent)を用いて治療する方法に関する。救出薬剤としては、不活性ボツリヌス毒素(inactive botulinum toxin)および/または非毒性非赤血球凝集素(nontoxic nonhemagglutinin)が挙げられる。本発明はまた、グリコシル化ボツリヌス毒素の作製および使用方法に関する。さらに、本発明はまた、二本鎖ボツリヌス毒素の製造方法にも関する。
【0002】
発明の背景
ボツリヌス毒素は、骨格筋の活動過多によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素複合体は、眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を処置するために1989年に米国食品医薬品局によって承認された。その後、A型ボツリヌス毒素は頸部ジストニアの処置および眉間しわの処置のためにもFDAによって承認され、B型ボツリヌス毒素は頸部ジストニアの処置のために承認された。非A型ボツリヌス毒素血清型は、A型ボツリヌス毒素と比較して、効力が弱く、および/または活性持続時間が短いようである。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症状緩和の典型的な持続時間は平均約3ヶ月であるが、顕著により長い処置活性期間も報告されている。
【0003】
A型ボツリヌス毒素は下記のような臨床設定において使用されることが報告されている:
(1)頸部ジストニアを処置するために筋肉内注射(複数の筋肉)あたりBOTOX(登録商標)約75単位〜125単位;
(2)眉間のしわ(額のしわ)を処置するために筋肉内注射あたりBOTOX(登録商標)約5〜10単位(5単位を鼻根筋に筋肉内注射し、10単位をそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射する);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射により便秘を治療するためにBOTOX(登録商標)約30単位〜80単位;
(4)上まぶたの外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋への注射により眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたりBOTOX(登録商標)筋肉内注射を約1単位〜5単位;
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、BOTOX(登録商標)を約1単位〜5単位で筋肉内注射する。この場合、注射量は、注射する筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望する視度矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)を筋肉内注射する:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋(flexor digitorum sublims):7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。
上記5個の筋肉それぞれには同じ処置セッション時に注射するので、患者には、各処置セッション時に90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)を90U〜360Uで筋肉内注射で投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、BOTOX(登録商標) 25Uを頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する)と、偏頭痛頻度、最大重症度、関連嘔吐および急性投薬使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与えた。
【0004】
さらに、筋肉内ボツリヌス毒素は、パーキンソン病の患者の振せんの治療にも使用されているが、結果は顕著でないことが報告されている。Marjama-Jyons,J.ら、Tremor-Predominant Parkinson's Disease,Drugs & Aging 16(4), 273-278, 2000。
【0005】
A型ボツリヌス毒素は、最大12ヶ月の間、有効性を有し(European J.Neurology 6(Supp 4), S111-S1150, 1999)、ある場合には27ヶ月間もの長さにわたることが既知である(The Laryngoscope 109, 1344-1346, 1999)。しかし、BOTOX(登録商標)筋肉注射の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。
【0006】
種々の臨床症状の治療におけるA型ボツリヌス毒素の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。市販の2つのヒト用A型ボツリヌス毒素調製物は、BOTOX(登録商標)(Allergan, Inc.製、 Irvine, California)およびDysport(登録商標)(Beaufour Ipsen製、Porton Down, England)である。B型ボツリヌス毒素の調製物(MyoBloc、登録商標)は、カリフォルニア、サンフランシスコのElan Pharmaceuticalsから入手できる。
【0007】
末梢部位における薬理作用を有する他に、ボツリヌス毒素は、中枢神経系における阻害作用も有しうる。Weigandら(Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1976, 292,161-165)およびHabermann(Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1974, 281,47-56)の研究は、ボツリヌス毒素が逆行性輸送によって脊髄領域へ上行しうることを示している。従って、末梢部位(例えば筋肉内)に注射されたボツリヌス毒素は、脊髄に逆行輸送されるかもしれない。
【0008】
ボツリヌス毒素は、次のような状態の処置にも提案されている:鼻漏、多汗(hyperhydrosis)、および自律神経系によって仲介される他の障害(米国特許第5,766,605号)、緊張頭痛(米国特許第6,458,365号)、片頭痛(米国特許第5,714,468号)、術後痛および内臓痛(米国特許第6,464,986号)、脊髄内毒素投与による痛みの処置(米国特許第6,113,915号)、頭蓋内毒素投与によるパーキンソン病および運動障害成分を有する他の障害の処置(米国特許第6,306,403号)、毛髪の成長および維持(米国特許第6,299,893号)、乾癬および皮膚炎(米国特許第5,670,484号)、筋肉傷害(米国特許第6,423,319号)、種々の癌(米国特許第6,139,845号)、膵臓疾患(米国特許第6,143,306号)、平滑筋障害(米国特許第5,437,291号、上部および下部食道、幽門および肛門括約筋へのボツリヌス毒素注射を包含する)、前立腺障害(米国特許第6,365,164号)、炎症、関節炎および痛風(米国特許第6,063,768号)、若年性脳性麻痺(米国特許第6,395,277号)、内耳障害(米国特許第6,265,379号)、甲状腺障害(米国特許第6,358,513号)、副甲状腺障害(米国特許第6,328,977号)。更に、制御放出毒素インプラントが知られている(例えば米国特許第6,306,423号および第6,312,708号参照)。
【0009】
概して、7種類の免疫学的に異なるボツリヌス神経毒素が特徴付けられている:ボツリヌス神経毒血清型A、B、C、D、E、FおよびGである。これらの血清型は、型特異的抗体での中和により区別される。ボツリヌス毒素の異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価した場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。さらに、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。Jankovic, J.ら編、「Therapy With Botulinum Toxin」(1994)(Mercel Dekker, Inc.)の第71-85頁、第6章の、Moyer Eら、Botulinum Toxin Type B: Experimental and Clinical Experience。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリン放出を阻止するようである。
【0010】
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(H)は、毒素を細胞表面に指向させるのにおそらく重要である。
【0011】
第2段階において、毒素は、冒した細胞の形質膜を横切る。初めに、毒素は受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この段階は、約5.5以下のpHに反応して毒素の構造変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(H)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。構造上のシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素(または少なくともその軽鎖)が、エンドソーム膜を通って細胞質に移動する。
【0012】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)を結合するジスルフィド結合の還元をおそらく伴う。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の、形質膜の細胞質表面との認識およびドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。A型およびE型ボツリヌス毒素はSNAP-25を開裂する。C1血清型ボツリヌス毒素は、はじめはシンタキシンを開裂すると考えられたが、シンタキシンおよびSNAP-25を開裂することがわかった。各ボツリヌス毒素は異なる結合を特異的に開裂するが、ただし、B型ボツリヌス毒素(および破傷風毒素)は同じ結合を開裂する。
【0013】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、異なる神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型およびE型ボツリヌス毒素はいずれも、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、それぞれ異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。ボツリヌス毒素の基質は、多様な細胞型で見出すことができることは明らかである。例えばBiochem, J 1;339(pt 1): 159-65: 1999およびMov Disord, 10(3):376:1995を参照(膵島B細胞は少なくともSNAP-25およびシナプトブレビンを含有する)。
【0014】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。それゆえ、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形でクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は700kDまたは500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒性赤血球凝集素タンパク質と、非毒素かつ非毒性の非赤血球凝集素タンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用し得る。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度の低下を生じ得ると考えられる。
【0015】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン(Habermann E.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neurochem 51(2); 522-527: 1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタメート(Sanchez-Prieto, J.ら、Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165; 675-681: 1897)のそれぞれの放出を阻害することが報告されている。すなわち、充分な濃度を用いれば、大部分の神経伝達物質の刺激により誘発される放出はボツリヌス毒素によってブロックされる。例えば、Pearce, L.B., Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine, Toxicon 35(9); 1373-1412の1393; Bigalke H.ら, Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture, Brain Research 360; 318-324; 1985; Habermann E., Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate, Experientia 44; 224-226: 1988, Bigalke H.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters, as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord, Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316; 244-251: 1981, および;Jankovic J.ら, Therapy With Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc. (1994), 第5頁参照。
【0016】
A型ボツリヌス毒素は、既知の手順に従って、培養槽におけるクロストリジウム属ボツリヌス菌の培養を樹立して、生育させ、その後、発酵混合物を集め、精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニックを入れられなければならない不活性な一本鎖タンパク質として最初に合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養物から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B血清型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。ニック型分子と非ニック型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0017】
クロストリジウム属ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×10U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型クロストリジウム属ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80−99(1992)に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でクロストリジウム属A型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去する際に、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
【0018】
ボツリヌス毒素および/またはボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories,Inc.(Campbell, California);the Centre for Applied Microbiology and Research(Porton Down , U.K.);Wako(日本、大阪);Metabiologics(Madison, Wisconsin);およびSigma Chemicals(St Louis, Missouri)から入手し得る。純粋なボツリヌス毒素を医薬組成物の製造に使用することもできる。
【0019】
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。毒素含有医薬組成物を製造した後、何ヶ月も、または何年も経過してから毒素を使用することもあるので、毒素をアルブミンおよびゼラチンのような安定剤で安定化することができる。
【0020】
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(Allergan,Inc.Irvine, Californiaから入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N−Zアミンおよび酵母抽出物を含有する培地中で増殖させたクロストリジウム属ボツリヌス菌のHall株の培養物から作製する。このA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合赤血球凝集素タンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、生理食塩水およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。減圧乾燥生成物は、-5℃またはそれ以下の冷凍庫内で保存する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌生理食塩水で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型クロストリジウム属ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。
【0021】
減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射液)を使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性するかもしれないので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。滅菌性の理由から、BOTOX(登録商標)は、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成した後4時間以内に投与することが好ましい。その4時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(約2〜8℃)内で保管しうる。再構成し冷蔵したBOTOX(登録商標)は、その効力を少なくとも約2週間維持することが報告されている(Neurology, 48:249-53:1997)。
【0022】
ボツリヌス中毒症またはボツリヌス毒素中毒症は、通常はクロストリジウム属ボツリヌス菌により産生される神経毒素タンパク質のうちの特定の血清型により引き起こされる致死性の可能性のある疾患である。5個の異なる形態のボツリヌス中毒症が知られている:1)汚染された食品の摂取により引き起こされる食餌性ボツリヌス中毒症、2)創傷の感染により引き起こされ、静注薬物使用者で観察されることが増えている、創傷ボツリヌス中毒症、3)クロストリジウム属ボツリヌス菌の摂取およびその腸内でのコロニー形成から生じる最も頻繁な形態である、乳児ボツリヌス中毒症、4)腸に異常がある成人における潜在的ボツリヌス中毒症、ならびに5)運動障害の処置後の不慮の(inadvertant)ボツリヌス中毒症。さらに、ボツリヌス中毒症は、テロリストの計画的な行為により罹患するかもしれない。ボツリヌス毒素中毒症の症状は、通常は暴露後12〜72時間以内に示される、顕著な球麻痺を伴う急性の対称下行性弛緩性麻痺が挙げられる。
【0023】
現在、A〜Eの血清型の活性BoNTに対して防御する五価のワクチンおよびF血清型の活性BoNTに対して防御する別個の1価のワクチンを、研究新薬として入手することができる。しかし、トキソイドワクチンと関連した多数の欠点がある。例えば、アナフィラキシーのような抗毒素に対する深刻な反対反応がレシピエントの2%で生じることが報告されている。
【0024】
ボツリヌス菌中毒症に効果がある他の方法は開発中である−これらのほとんどは毒素に対する抗体産生のための抗原投与に関するものである。例えば、Simpsonらは、哺乳動物体内での抗体産生を刺激するために経口投与することができる不活性BoNTを報告している。米国特許第6,051,239号を参照(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。これらの方法は抗体の産生をあてにするものであり、毒素で中毒になる前に哺乳動物をワクチン接種する必要があるので、あまり実用的なものではない。例えば、予防接種をしてない哺乳動物がボツリヌス毒素で中毒になった場合、活性BoNTに対する抗体産生を刺激するための抗原(例えば、不活性BoNT)投与は効果がない。なぜならば、約12〜72時間のうちに生じる哺乳動物による抗体の産生は、活性なBoNTの悪影響を防ぐために充分時期が適したものではないからである。
【0025】
さらに、ボツリヌス毒素の使用が、例えば、治療用として、より一般的かつ頻度が高いものになるにつれて、より安全かつ有効な毒素を有することが重要になる。例えば、抗原性が低く、循環系を迅速に排泄し得る毒素を有することが都合がよい。
【0026】
従って、ボツリヌス中毒症の治療により有効な薬物および方法を見出す必要性が継続している。さらに、より安全で、より有効なボツリヌス毒素に対する必要性も継続している。本発明はこのような改善を提供する。
【0027】
発明の要旨
本発明は、ボツリヌス菌中毒症の有効な治療方法を提供する。ある態様において、哺乳動物におけるボツリヌス毒素中毒症の治療方法は、哺乳動物に救出薬剤を有効量で投与することを含む。ある態様において、救出薬剤は、哺乳動物が活性なボツリヌス菌により中毒になった後に哺乳動物に投与するとボツリヌス菌中毒症の治療に有効である。ある態様において、救出薬剤は、不活性なボツリヌス毒素(「iBoNT」)、修飾型非毒性非赤血球凝集素(「NTNH」)またはそれらの組合せの少なくとも1つを含有する。ある態様において、iBoNTは、例えば、グリコシル化により抗原性が減少している。ある態様において、修飾型NTNHは、NTNHに共有結合した標的化部分を含む。
【0028】
本発明はまた、グリコシル化ボツリヌス毒素およびその使用方法を提供する。ある態様において、グリコシル化ボツリヌス毒素はグリコシル化されていない同じボツリヌス毒素よりも早く循環から排泄される。ある態様において、グリコシル化ボツリヌス毒素は筋疾患、自律神経系障害および/または疼痛を治療するために利用することができる。
【0029】
本発明はまた、二本鎖ボツリヌス毒素の製造方法を提供する。ある態様において、この方法は、一本鎖ボツリヌス毒素およびNTNHを非クロストリジウム属ボツリヌス菌細胞中で発現させ、これにより、NTNHは一本鎖毒素を二本鎖毒素へと容易にニックを入れることを含む。
【0030】
本明細書中に記載の任意の特徴又は特徴の組合せは、このような任意の組合せに含まれる特徴が互いに文脈、本出願の明細書および当業者の知識から明らかな事項と互いに不一致ではない限り、本発明の範囲内に含まれる。
【0031】
本発明のさらなる利点および局面は、発明の詳細な説明および請求の範囲において明らかである。
【0032】
定義
用語「救出薬剤(rescue agent)」は活性なボツリヌス毒素と(直接的又は間接的に)競合することにより、活性なボツリヌス毒素の中毒作用を中和するために有効である任意の分子を意味する。例えば、救出薬剤は、神経終末の受容体部位で活性なボツリヌス毒素と競合して活性なボツリヌス毒素が神経終末に入ることを防ぐことができるiBoNTを含みうる。iBoNTを含む救出薬剤は抗原性が低下しており、例えばiBoNTは抗原性が低下している。本発明によると、抗原性が低下していないiBoNTを含む救出薬剤は、哺乳動物がボツリヌス毒素中毒症に曝された後に、治療のために哺乳動物に投与されるべきである。用語「救出薬剤」はまた、活性なボツリヌス毒素に結合し、循環系からの除去を容易にし得る任意の分子を意味する。例えば、救出薬剤は活性なボツリヌス毒素に結合して複合体を形成し、これにより複合体が肝臓および/または腎臓により排泄され得る修飾型NTNHを含みうる。本明細書中で用いる「救出薬剤」は、ボツリヌス毒素中毒症の前に投与される抗原性iBoNT、ボツリヌス毒素に対する抗体/抗毒素、γグロブリン、ヒト高力価免疫グロブリン、メタロプロテアーゼインヒビター(例えば、BABIM)、3,4−ジアミノピリジン(3,4−DAP)は除く。除いた救出薬剤は本発明の一部ではない。なぜならば、それらはあまり有効ではないからである(例えば、ボツリヌス毒素を非常にゆっくりと中和する、毒素に対する親和性が低い、および/または毒素の排泄を有効に容易にしない)。
【0033】
用語「ボツリヌス毒素中毒症」は、通常はクロストリジウム属ボツリヌス菌により産生される活性なボツリヌス毒素の7個の血清型の1以上により引き起こされる状態を意味する。ボツリヌス毒素中毒症の症状には、顕著な球麻痺を伴う急性の対称下行性弛緩性麻痺が挙げられ、これは通常、暴露後12〜72時間のうちに提示される。ボツリヌス毒素中毒症は、適切に処置されない場合、命に関わるかもしれない。
【0034】
用語「ボツリヌス毒素」(「BoNT」)は、不活性ボツリヌス毒素(「iBoNT」)または活性BoNTと具体的に示されない限り、活性または不活性のボツリヌス毒素を意味する。用語「ボツリヌス毒素」はまた、特記しない限り、一本鎖ボツリヌス毒素または二本鎖ボツリヌス毒素を意味する。
【0035】
用語「一本鎖ボツリヌス毒素」は、1本のペプチド内に軽鎖及び重鎖を有するボツリヌス毒素を意味する。
【0036】
用語「二本鎖ボツリヌス毒素」は、軽鎖があるペプチド上にあり、重鎖は別のペプチド上にあるボツリヌス毒素を意味し、ここで軽鎖および重鎖はジスルフィド結合により連結されている。
【0037】
用語「重鎖」は、ボツリヌス毒素の重鎖を意味する。約100kDaの分子量を有し、本明細書中、重鎖またはHと称し得る。
【0038】
用語「H」は、ボツリヌス毒素の重鎖に由来するフラグメント(分子量約50kDa)を意味し、重鎖のアミノ末端セグメントにほぼ等しいか、またはインタクトな重鎖のそのフラグメントに対応する部分にほぼ等しい。細胞内エンドソーム膜を横切っての軽鎖の転移に関連する天然型または野生型のボツリヌス毒素の部分を含むと考えられる。
【0039】
用語「H」は、重鎖のカルボキシ末端セグメントにほぼ等しいボツリヌス毒素重鎖由来のフラグメント(約50kDa)、またはインタクトな重鎖中のフラグメントに対応する部分を意味する。免疫原性であり、かつ天然または野生型のボツリヌス毒素の、種々のニューロン(運動ニューロンを含む)および他のタイプの標的細胞に結合する親和性の高さに関連する部分を含むと考えられる。
【0040】
用語「軽鎖」は、ボツリヌス毒素の軽鎖を意味する。これは、約50kDaの分子量を有し、軽鎖、Lまたはボツリヌス毒素のタンパク質分解性ドメイン(アミノ酸配列)と称することができる。軽鎖が標的細胞の細胞質中に存在する場合、軽鎖はエクソサイトーシスのインヒビターとして(例えば、神経伝達物質(すなわち、アセチルコリン)遊離のインヒビターを含む)有効であると考えられている。
【0041】
用語「活性(な)ボツリヌス毒素(active botulinum toxin)」は、神経終末または細胞からの神経伝達物質の遊離を実質的に阻害し得るボツリヌス毒素を意味する。ある態様において、活性なボツリヌス毒素は二本鎖であり、ジスルフィド結合により連結されている軽鎖および重鎖を有する。
【0042】
用語「不活性(な)ボツリヌス毒素(inactive botulinum toxin)」(「iBoNT」)は、細胞に対して毒性ではないボツリヌス毒素を意味する。例えば、iBoNTは細胞または神経終末からの神経伝達物質遊離を干渉する能力が最小限であるか、またはそのような能力を有さない。ある態様において、iBoNTは、活性な同一のBoNTの神経毒性作用(例えば、神経伝達物質の遊離を阻害する能力)の約50%未満の作用を有する。例えば、iBoNT/Aは活性な同一のBoNT/Aの神経毒性作用の約50%未満の作用を有する。ある態様において、iBoNTは活性な同一のBoNT/Aの神経毒性作用の約25%未満の作用を有する。ある態様において、iBoNTは活性な同一のBoNT/Aの神経毒性作用の約10%未満の作用を有する。ある態様において、iBoNTは活性な同一のBoNT/Aの神経毒性作用の約5%未満の作用を有する。不活性ボツリヌス毒素は当業者に周知である。例えば、米国特許第6,051,239号(Simpsonら)参照。ある態様において、iBoNTは重鎖および軽鎖を含み、軽鎖は細胞または神経終末からの神経伝達物質の遊離を干渉する能力が最小限であるか、または無いように変異されている。ある態様において、重鎖は抗原性が低下するように修飾されている。ある態様において、iBoNTは一本鎖ペプチドである。
【0043】
用語「免疫原性が低下(低下した免疫原性)(reduced antigenicity)」とは、哺乳動物において抗体産生を誘発しうる能力が最小限であるか、または存在しないことを意味する。例えば、哺乳動物での抗体産生に対する免疫反応を誘発する能力が最小限であるか、または無いために、グリコシル化されている分子は免疫原性が低下している。また、分子上のエピトープ領域が哺乳動物における抗体誘導の原因である。従って、変異した、または欠失したエピトープ領域を有する分子は、抗体産生を刺激するための分子上にこれらの領域がもはや存在しないので、抗原性が低下している。例えば、カルボキシ末端の重鎖(Hc)内に変異型または欠失型エピトープを含むiBoNTは、抗原性が低下している(以下に検討する)。ある態様において、グリコシル化BoNTを哺乳動物に投与すると、グリコシル化されていない同一のBoNTを投与した場合と比較して、約2分の1、好ましくは4分の1、より好ましくは8分の1よりも抗体産生の誘発が低い。
【0044】
用語「標的化部分」は、肝臓および/または腎臓中のトランスポーターにより認識され、そしてそれらに結合する分子を意味し、このトランスポーターは分子を循環系の外に輸送する。
【0045】
本明細書中で用いる用語「哺乳動物」は、例えば、ヒト、ラット、ウサギ、マウスおよびイヌを含む。
【0046】
用語「局所投与」は、罹患部位、障害部位または痛みが感知される部位、又はその周辺での非全身性の経路による直接投与を意味する。
【0047】
実施態様の説明
本発明は、毒素中毒症−例えば、食中毒、生物テロの活動または処置の経過における誤った過剰摂取から生じうるボツリヌス菌中毒症の治療で用いる救出薬剤に関する。
【0048】
ある態様において、1種以上の救出薬剤は、毒素に曝された後に投与してもよい。ある態様において、救出薬剤は治療効果を与える抗体産生に頼るものではない。このように、救出薬剤は中毒症の直前に投与することができ、そして活性なボツリヌス毒素の有害な影響を中和するためになおも有効であり得る。
【0049】
ある態様において、救出薬剤はiBoNTを含む。iBoNTは、任意の不活性毒素であり得る。ある態様において、iBoNTとしては、不活性なA型、B型、C型、D型、E型、F型、G型のボツリヌス毒素および/またはそれらのフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。本発明に関して用いるiBoNTは、細胞または神経終末からの神経伝達物質の遊離の干渉が最小限であるか、またはそのような能力がない。ある態様において、iBoNTは重鎖および軽鎖を含み、ここで軽鎖は細胞または神経終末からの神経伝達物質の遊離の干渉が最小になるか、またはそのような能力が無いように変異されている。ある態様において、iBoNTは一本鎖である。ある態様において、iBoNTは二本鎖である。ある態様において、iBoNTは配列番号4のアミノ酸を有するiBoNT/Aである(図10)。
【0050】
ある態様において、iBoNTは、抗原性が低下しているか、または抗原性がない。抗原性の低下は多数の方法により達成することができる。このような毒素は、例えば、Hc領域が修飾されているか、または欠失している。Hc領域の抗原性は、Atassiら、Crit. Rev. Immunol., 1999, 19, 219-260に報告されている(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。抗原性に重要または必須であると考えられるアミノ酸は、抗原性を減少または排除するために置換されているか、または欠失されていても良い。抗原性を低下させる、または排除するための別の方法はグリコシル化を介するものであり、これは以下により詳細に議論する。
【0051】
好ましくは、iBoNTは、活性なボツリヌス毒素により哺乳動物の中毒を予防することに関し、活性なボツリヌス毒素と有効に競合する。ある態様において、iBoNTは配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。
【0052】
非毒性の非赤血球凝集素(NTNH)は130-kDaのペプチドであり、これはボツリヌス毒素が嫌気性クロストリジウム属ボツリヌス菌中で発現された後、ボツリヌス毒素と複合体を形成する。BoNT/A-Hallに関しては、NTNHは138kDaであってもよい。例えば、Zhang、Lin、LiおよびAoki、Complete DNA sequences o the botulinum neurotoxin complex of Clostridium botulinum type A-Hall (Allergan) strain,Gene 351(2003): 21-32(2003年4月5日受領、2003年6月24日受理)を参照。本発明を任意の理論または作用メカニズムに限定することを意図するわけではないが、修飾型NTNHは、哺乳動物を中毒化させる活性ボツリヌス毒素に結合し、これを肝臓および/または腎臓に送り届けて、修飾型NTNH/活性BoNT複合体を体外に排泄することにより救出薬剤として作用し得ると考えられる。ある態様において、修飾型NTNHは標的化部分に共有結合したNTNHを含む。標的化部分の非限定的な例としては、これら分子を循環系の外に輸送しうる腎臓および/または肝臓中のトランスポーターにより認識される分子が挙げられる。このようなトランスポーターとしては、P-gp、MRP2、BSEPおよびABCトランスポーターが挙げられる。
【0053】
ある態様において、標的化部分としてはABCトランスポーターにより認識される分子が挙げられる。ABCトランスポーター標的化部分の非限定的な例としては、ベラパミル、シクロスポリンA、タモキシフェン、バルスポダール(valspodar)、ビリコダール(biricodar)、タリキダール(tariquidar)、ゾスキダール(zosuquidar)、ラニキダール(laniquidar)、ONT-093、ジゴキシン、ジギタリスまたはジギタリス配糖体(例えば、ジギトキシン、α−メチルジゴキシン、β−アセチルジゴキシンおよびウアバインおよびそれらの混合物)が挙げられる。
【0054】
ある態様において、NTNHは当該分野において一般的に公知の化学的技術を用いて標的化部分に共有結合されている。例えば、実施例16および米国特許第6,203,794号(Dollyら)を参照(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。ある態様において、NTNHおよび標的化部分は、当業者に公知の技術を用いて融合タンパク質として発現される。
【0055】
HA70およびHA34は、各々、NTNHのようにBoNTに結合し得るという点で、NTNHに類似するタンパク質である。従って、HA70またはHA34は、それぞれ、標的化部分に連結して修飾型HA70または修飾型HA34を形成し得る。ある態様において、修飾型HA70および/または修飾型HA34は、修飾型NTNHに類似の様式で救出薬剤として用いることができる。
【0056】
ある態様において、NTNHは救出薬剤として用いることができる。例えば、BoNTを消化し得るプロテアーゼ部位(ネイティブまたは非ネイティブ)を含むNTNHを、本発明において救出薬剤として用いることができる。
【0057】
ある態様において、哺乳動物のボツリヌス毒素中毒症を治療する方法は、哺乳動物にiBoNT、修飾型NTNHまたはそれらの組合せを有効量で投与することを含む。
【0058】
ある態様において、iBoNTおよび修飾型NTNHの両方を哺乳動物に投与する。ある態様において、修飾型NTNHは活性なボツリヌス毒素に特異的に結合し、iBoNTには結合しないか、または結合性が低下している。このように、iBoNTは活性BoNTとは異なるべきであり(iBoNTの特定の領域の欠失);活性BoNTは修飾型NTNHによってのみ認識される配列/ドメインを有し;修飾型活性BoNTは修飾型NTNHによってのみ認識される配列/ドメインを有し(毒素過剰投与の治療用);NTNHは活性BoNTに結合し、そして活性BoNTを切断するプロテアーゼ活性を有し;NTNHはBoNTを肝臓および腎臓クリアランスへと隔離する隔離ドメインを有する。
【0059】
iBoNT、修飾型NTNHまたはこれらの組合せは、経口投与または静脈内投与することができる。ある態様において、iBoNT、修飾型NTNHまたはこれらの組合せは、注射により局所投与することができる。ある態様において、iBoNTおよび/または修飾型NTNHは、当該分野に公知の方法により経口製剤として調製することができる。例えば、CA 02415712(2003-01-10)Frevertを参照のこと(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。
【0060】
熟練した医療従事者は、最適な臨床結果を達成するためのiBoNTおよび/または修飾型NTNHの適切な用量および投与頻度を決定することができる。すなわち、医療分野の当業者であれば、BoNT中毒症を効率よく予防または治療するために、iBoNTおよび/またはNTNHを適当な量で、適当な時間に投与することができるだろう。
【0061】
ある態様において、治療される哺乳動物をさらに精密呼吸監視(close respiratory monitoring)に供し、経腸チューブまたは非経口栄養法により栄養を与え、集中治療、機械的人工換気法および/または二次感染の治療に供する。
【0062】
グリコシル化毒素:
本発明はまた、グリコシル化されているボツリヌス毒素またはそのフラグメントに関する。本明細書中以下、グリコシル化BoNTを「gBoNT」と称する。g-BoNTのフラグメントには、g-BoNTの軽鎖(LC)または重鎖(HC)が挙げられる。ある態様において、g-BoNTとしては、A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型の活性g-BoNTおよび/またはそれらのフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。ある態様において、g-BoNTとしては、A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型のg-BoNTおよび/またはそれらのフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、グリコシル化されているかもしれない活性または不活性の毒素としては、米国特許出願番号10/163,106に開示の毒素が挙げられる(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。グリコシル化されているかもしれないiBoNTとしては、米国特許番号6,051,239に開示されているiBoNTが挙げられる(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。
【0063】
広範な態様において、g-BoNTは生物学的に産生される。例えば、毒素をコードする核酸配列はベクターに挿入することができ、ここでこのベクターを発現用宿主細胞に移されている。従って、活性BoNTおよび/またはiBoNTをコードする核酸配列は、それぞれ、活性g-BoNTおよび/またはg-iBoNTで発現されうる。ある態様において、活性BoNT/Aおよび/またはiBoNT/Aをコードする核酸配列は、それぞれ、活性g-BoNT/Aおよび/またはg-iBoNT/Aで発現されうる。iBoNTをコードする核酸配列の非限定的な例としては、軽鎖中の亜鉛結合モチーフをコードする領域に変異を有するものが挙げられる。例えば、亜鉛結合モチーフHis-Glu-x-x-His(配列番号1)をコードする配列を含む野生型核酸配列はGly-Thr-x-x-Asn(配列番号2)を発現するように変異しているかもしれない(ここで、xは任意のアミノ酸である)。米国特許番号6,051,239を参照のこと(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。
【0064】
発現された毒素をグリコシル化する生物学的機構を宿主細胞が有する限り、本発明において任意の宿主細胞を使用することができる。ある態様において、宿主細胞は発現した毒素を、N−アセチルグルコサミン、マンノース、グルコース、ガラクトース、フコース、シアリン酸および/または特定の単糖類2つ以上を含むオリゴ糖のうちの少なくとも1つを用いてグリコシル化することができる。ある態様において、真核生物系を用いてg-BoNTまたはそのフラグメントを産生することができる。例えば、酵母を用いて大量の糖タンパク質を低コストで発現することができる。しかし、酵母の使用が尻込みされる主な理由は、N−およびO−グリコシル化機構は両方とも高等真核生物の機構と異なるという点である。ある態様において、哺乳動物細胞を高等真核生物から得られた発現遺伝子用の宿主として用いる。なぜなら、これらタンパク質の合成、プロセシング、および分泌のシグナルは、通常、細胞により認識されるからである。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、真核細胞のタンパク質または糖タンパク質の産生用に非常によく知られている。なぜなら、これらの細胞は表面付着型または懸濁培養のいずれでも増殖することができ、血清非存在下での増殖にも良好に適応するからである。研究者らはグリコシル化変異を1種以上有するCHO変異細胞株を複数開発した。Stanley, P., Molecular and Cellular Biology, 9(2):377-383 (1989)。これらの変異細胞株は、レクチン耐性に関して「Lec」と称される。Stanley, P.ら、Cell, 6: 121-128 (1975)。これら細胞株は、グリコシル化経路に関連する鍵となる酵素を1種以上欠損し、その結果として、規定の構造および不均質性が最小限である炭水化物を有する糖タンパク質の産生を生じる。Lec-1は、鍵となる酵素であるN−アセチルグルコサミントランスフェラーゼ−1を欠損するような細胞株である。この酵素を欠損すると、炭水化物がMan(2)GlcNAc(2)へと縮小された後のグリコシル化経路の阻害が生じ、これにより、減少するが、均一なグリコシル化の産生を導く(Man=マンノースおよびGlcNAc=n-アセチルグルコサミン)。
【0065】
ある態様において、本発明のg-BoNTは昆虫細胞中で発現することができる。例えば、バキュロウィルスベースの発現系により、昆虫細胞系は糖タンパク質の高レベルでの一過性の発現に理想的な系となる。脊椎動物細胞でN−グリコシル化されるタンパク質はまた、通常、昆虫細胞中でグリコシル化されている。昆虫細胞中でのN−グリコシル化の最初の工程は、脊椎動物での場合と同様である。通常、Man(9)GlcNaC(2)部分は昆虫細胞および脊椎動物の両方で、より短いオリゴ糖構造であるMan(3)GlcNAc(2)へとトリミングされている。脊椎動物では、これらのより短い核構造が複雑なオリゴ糖合成の骨組みとして働くが、他方、昆虫細胞では、この追加の複雑なオリゴ糖合成は多くの場合、おそらく生じていないので、不均一なグリコシル化は制限され、より少なくなる。
【0066】
ある態様において、バキュロウィルスを含む昆虫細胞をg-BoNTまたはg-iBoNTを発現するために使用する。いくつかの態様において、バキュロウィルスを含む昆虫細胞を使用して活性g-BoNT/A、活性g-BoNT/A-LC、活性g-BoNT/A-HC、g-iBoNT/A、g-iBoNT/A-LCおよび/またはg-iBoNT/A-HCを発現する。
【0067】
昆虫細胞における天然のグリコシル化系がタンパク質治療薬の複雑なグリコシル化の要件を満たさないかもしれないこともしばしばある。このような場合、昆虫細胞での複雑な糖タンパク質の高レベルでの発現用に、Mimic Sf9昆虫細胞(Invitrogen,Carlsbad, CA, USAから入手)のような特別な細胞株を用いてもよい。Hollister, J.ら、Biochemistry, 41:15093-15104 (2002);Hollister, J.ら、Glycobiology 11:1-9 (2001);Hollister, J.ら、Glycobiology, 8:473-480 (1998);Jarvis, D.ら、Curr Opin Biotechnol, 9:528-533 (1998)およびSeo, N.S.ら、Protein Expr Purif, 22:234-241。簡単に説明すると、哺乳動物細胞は、他の宿主での発現と比較して、高価な培地補充物を必要とし、発現レベルがかなり低い。昆虫細胞は、哺乳動物細胞を超える利点をいくつか有する−室温での増殖、低コストの培地、および高レベルでの組換えタンパク質の産生。昆虫細胞を用いる欠点は、産生したタンパク質の大部分が、哺乳動物細胞で見られる複雑なグリコシル化を示さないことである。これは、タンパク質の機能、構造、抗原性および安定性に影響を与えうる。Mimic Sf9昆虫細胞株は、安定に一体化されている哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼを含み、これは二分岐のN−グリカン(glycan)の産生を生じる。Mimic Sf9昆虫細胞により、哺乳動物中で産生されるタンパク質と類似のタンパク質の発現が可能となり、これにより本発明のタンパク質の産生に適切となる。
【0068】
ある態様において、g-BoNTはボツリヌス毒素のN−グリコシル化部位の1ヶ所以上でグリコシル化されている。例えば、N−グリコシル化部位としては、コンセンサスパターンであるAsn-Xaa-Ser/Thrが挙げられる。しかし、タンパク質のフォールディングがN−グリコシル化の調節に重要な役割を果たすという事実から、コンセンサストリペプチドの存在がアスパラギン残基がグリコシル化されていると結論づけるには充分ではないという点に留意すべきである。AsnとSer/Thrとの間のプロリンの存在により、N-グリコシル化が阻害されることが示されている。グリコシル化部位の近年の統計上の分析によりこのことは確認されており、これはまた、Ser/Thrに対してプロリンC末端を有する部位の約50%がグリコシル化されていないことを示す。Asn-Xaa-Cysパターンを有するグリコシル化部位の場合が、少数報告されていることにもまた留意のこと。
【0069】
ある態様において、公知のグリコシル化部位を欠失または変異させて所望のグリコシル化パターンをg-BoNT上に作製しても良い。種々の変異技術が公知であり、本発明に従って使用することができる。例えば、部位特異的変異誘発法を用いて、N−グリコシル化部位を変更することができる。Asn-X-Ser/Thr(N−グリコシル化部位に対するコンセンサス配列)のAsnをGlnに変更することができる。なぜならば、Glnは構造上、Asnに類似しており、また、1つの負の荷電を有するからである。グリコシル化の単一変異体、二重変異体および三重変異体を作製して、タンパク質発現および機能に対する特定のグリコシル化阻害の影響を試験することができる。
【0070】
例えば、部位特的変異誘発法は当業者であれば単独塩基対に特異的に変異を生じさせることができる有用な技術であり、これによりアミノ酸に変化(例えば、グリコシル化部位)を導くことができ、酵素機能またはタンパク質機能に対する影響を試験することができる。タンパク質分子量の変化は、その特定の部位でのグリコシル化についての情報を提供する。タンパク質が1以上のグリコシル化部位を有する場合、どのオリゴ糖構造がどのグリコシル化部位上に存在するかを決定する手助けとなる。これらの試験の助けにより、どのグリコシル化部位がタンパク質の活性に最も重要であるかを解明し、これによりタンパク質のリガンド結合部位についての情報を提供することができた。これら試験のうちのいくつかとして、例えば、Chiangら、Archives of Biochemistry and Biophysics, 352(2):207-213 (1998)(これは、トロンボキサン(thrombane)A2レセプターのいずれかの部位でのグリコシル化はリガンド認識に充分であるが、両方の部位でグルコシル化が結合親和性および特異性の維持に必要であることを報告している)が挙げられる。Planquartら、European Journal of Biochemistry, 262:644-651 (1999)はHGLの4つのグリコシル化部位のうちの1つのみが酵素活性に有意に影響を与え、HGL上での炭水化物の存在は胃を消化酵素から保護するかもしれないことを報告している。Fanら、European Journal of Biochemistry 246:243-251 (1997)は、3個のN−グリコシル化変異体は半減期が減少しており、そのN−グリカンのプロセシングの阻害の程度が異なっていることを観察した。また、これらは、ある特定の部位の変異が酵素活性を駄目にし、細胞表面での発現を排除し、DPPIVタンパク質の二量体化を防ぐことを報告した。別の報告では、タンパク質CIPの溶解度が、結合した炭水化物残基の数に依存して線形であることが見出された。また、Tamsら、Biochimica et Biophysica Act 1432:214-221 (1999)を参照。
【0071】
ある態様において、g-BoNTはO−グリコシル化部位の1ヶ所以上でグリコシル化されている。通常、O−グリコシル化部位は、βシート構造中では一般的ではないことを意味する、らせん状セグメント中で見出される。現在、O−グリコシル化部位に一致したパターンは知られていない。
【0072】
BoNT/A-Allerganの結晶構造により、以下のような表面上でのN−グリコシル化の可能性のある部位が示される:173-NLTR、382-NYTI、411-NFTK、417-NFTG、971-NNSG、1010-NISD、1198-NASQ、1221-NLSQ。ある態様において、g-BoNT/A(g-iBoNT/Aを含む)は、173-NLTR、382-NYTI、411-NFTK、417-NFTG、971-NNSG、1010-NISD、1198-NASQおよび/または1221-NLSQでグリコシル化されている。BoNT/Eに関してN−グリコシル化される可能性のある部位は、以下の通りである:97-NLSG、138-NGSG、161-NSSN、164-NISL、365-NDSI、および370-NISE。ある態様において、g-BoNT/E(g-iBoNT/Eを含む)は97-NLSG、138-NGSG、161-NSSN、164-NISL、365-NDSI、および/または370-NISEでグリコシル化されている。
【0073】
ある態様において、BEVS-昆虫細胞は、小胞体(ER)中のタンパク質を、ERおよびゴルジ複合体中で見出されるオリゴサッカリルトランスフェラーゼ(oligosaccharyltransferase)により適切な状況で認識されるそのコンセンサス(Asn-X-Ser/Thr)上でグリコシル化することができる。ほとんどの真核生物ERと同様に、昆虫ER酵素は少なくともGlcManGlcNAc(分子量約2600ダルトン)を結合させることができる。GlcManGlcNAcは複雑なオリゴ糖合成(さらに、GlcNAc、Galまたはシアル酸付加を含む)の骨組みとして働く核となる構造である。
【0074】
ある態様において、本発明のg-BoNT(g-iBoNTを含む)は、GlcManGlcNAcを1つ以上、例えば、5〜20個のGlcManGlcNAcを含む。ある態様において、グリコシル化はg-BoNT(g-iBoNTを含む)の約2重量%より多くを構成する。ある態様において、グリコシル化はg-BoNT(g-iBoNTを含む)の約5重量%より多くを構成する。ある態様において、グリコシル化はg-BoNT(g-iBoNTを含む)の約10重量%より多くを構成する。
【0075】
ある態様において、g-BoNT/Aまたはg-iBoNT/Aは約150kDaであり、グリコシル化によりタンパク質に約20〜30kDaを追加する。ある態様において、g-BoNT/Aまたはg-iBoNT/Aは、約8〜12個のGlcManGlcNAc(分子量約2600ダルトン)を有する。ある態様において、g-BoNT/Aまたはg-iBoNT/Aは、GlcManGlcNAcで、173-NLTR、382-NYTI、411-NFTK、417-NFTG、971-NNSG、1010-NISD、1198-NASQ、1221-NLSQの位置でグリコシル化されている。
【0076】
ある態様において、毒素を化学的にグリコシル化してg-BoNTを形成してもよい。当業者であれば、本発明の毒素を化学的にグリコシル化するための指針として以下の参考文献を参照しうる:Sofia, M.J., 1:27-34 (1996);Meldal, M., 4:710-718 (1994); Meldal, M.ら、41:250-260 (1993); Vetter, D.ら、34: 60-63 (1995); Chan, T.-Y.ら、「Abstracts of Papers」, 211th National Meeting of the American Chemical Society, New Orleans, LA, March, 1996; American Chemical Society: Washington, D.C., 1996; MED 198; Allanson, N.ら、「Abstracts of Papers」, 211th National Meeting of the American Chemical Society, New Orleans, LA, March, 1996; American Chemical Society: Washington, D.C., 1996; MED 199。
【0077】
ある態様において、サッカリド単位の結合は、毒素の直接グリコシル化、または糖と毒素サブユニットとの間に非グリコシド結合を構築することのいずれかにより、達成することができる。固相上でのグリコペプチドコンジュゲートの構築は、コンビナトリアル構築に適用するための最も先進の結合ストラテジーである。事実、グリコペプチドライブラリーの構築がいくつか報告されている。ライブラリー作製のために良好に実行されているアプローチの2つは、「ビルディングブロック(building blocks)」および「収束(convergent)」ストラテジーである。
【0078】
「ビルディングブロック」アプローチは予め形成したグリコシル化アミノ酸を使用し、各アミノ酸間でのペプチド結合の形成に基づく。このアプローチにより、グリコシル化アミノ酸の性質を変化させることにより、標準的なペプチドコンビナトリアルライブラリーの作製と類似した様式で多様性を導入することができる。ビルディングブロックストラテジーを用いたグリコペプチドライブラリーの構築が報告されている。
【0079】
グリコペプチド構築用「収束」アプローチの良好な実施としては、アミド結合構築物を介して糖単位をペプチドに結合させることが挙げられる。これらの実証には、固体支持体に結合したペプチドまたはサッカリドのいずれかを有する。ポリマー結合型ペプチドの部位特異的グリコシル化を必要とする別のアプローチは、ペプチド結合体の形成に関して良好に実証されている。
【0080】
当業者であれば、糖タンパク質およびそれらの模倣物を製造するために新しい化学的グリコ結合/グリコPEG化技術を利用して、再度グリカンを介して異なる分子をBoNTに結合させることができる。
【0081】
グリコシル化およびクリアランス:
ある態様において、従来の毒素を用いて処理することができる種々の状態をg-BoNTを用いて治療する。例えば、活性g-BoNTを用いて、筋疾患、自律神経系障害および疼痛を治療することができる。修飾型神経毒を用いて処置することができる神経筋障害の非限定的な例としては、斜視、眼瞼けいれん、痙性斜頸(頸部ジストニア)、口腔下顎(oromandibular)ジストニアおよびけいれん性発声障害(喉頭(largyngeal)ジストニア)が挙げられる。自律神経系障害の非限定的な例として、鼻漏、中耳炎、唾液分泌過剰、ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過剰な胃酸分泌、けいれん性大腸炎および多汗が挙げられる。本発明に従い処置することができる疼痛の非限定的な例としては、筋けいれんと関連した片頭痛、血管障害、神経痛、ニューロパシーおよび炎症に関連した疼痛が挙げられる。
【0082】
従来の毒素を用いる場合、活性g-BoNTを局所投与(例えば、筋肉内投与)して局所的な効果を与える。しかし、局所投与された活性毒素または活性g-BoNTが誤って循環系に入った場合、比較的迅速に循環系から消失するという点(これにより全身毒性の可能性が最小になる)で、活性非グリコシル化毒素よりも活性g-BoNTが有益である。ある態様において、活性g-BoNTは同一の活性非グリコシル化毒素よりも、約2倍、好ましくは4倍、より好ましくは8倍以上速く循環系から消失する。ある態様において、活性g-BoNTは同一の活性非グリコシル化BoNTよりも、約2倍、好ましくは4倍、より好ましくは8倍以上速く循環系から消失する。ある態様において、活性A型g-BoNTは同一の活性非グリコシル化A型BoNTよりも、2倍、好ましくは4倍、より好ましくは8倍以上速く循環系から消失する。
【0083】
グリコシル化は抗原性を低下させる:
いずれの理論または作用メカニズムにも本発明を拘束することは望まないが、タンパク質中にグリコシル化がない場合、凝集体の形成が導かれ、この凝集体が免疫原性を上昇させる。従って、グリコシル化が存在すると凝集を減少させて免疫原性の低下が生じるとさらに考えられる。Schellekens, H., Nat Rev Drug Discov 1, 457-462 (2002)およびSchellekens, H., Clin Ther 24, 1720-1740 (2002)。
【0084】
従って、非グリコシル化毒素の反復使用により免疫反応(これは、最終的には反応性無し(non-responsiveness)を引き起こす)が誘発されるので、病院で用いるためにはg-BoNTは同一の非グリコシル化毒素よりも有益である(ここで、g-BoNTは抗原性が低下しており、その使用は免疫反応を実質的に誘発しない)。結果として、g-BoNTは、より頻繁に、長期間使用することができる。ある態様において、g-BoNTを哺乳動物に投与すると、グリコシル化されていない同一の毒素の投与と比較して、約1/2、好ましくは1/4、より好ましくは1/8未満しか抗体産生を誘発しない。ある態様において、活性g-BoNTを哺乳動物に投与すると、グリコシル化されていない同一の活性BoNTの投与と比較して、約1/2、好ましくは1/4、より好ましくは1/8未満しか抗体産生を誘発しない。ある態様において、活性g-BoNT/Aを哺乳動物に投与すると、グリコシル化されていない同一の活性BoNT/Aの投与と比較して、約1/2、好ましくは1/4、より好ましくは1/8未満しか抗体産生を誘発しない。
【0085】
ある態様において、活性BoNTおよび活性g-BoNTを治療薬として同時に(連続または同時に)投与する。例えば、活性g-BoNT/Aおよび活性g-BoNT/Aは、上記の状態のいずれかを治療するために同時に(連続または同時に)投与することができる。
【0086】
当然のことながら、熟練した医療従事者であれば、適当な投与用量および投与頻度を決定して最適な臨床結果を達成することができる。すなわち、医学分野の当業者であれば、活性g-BoNTを適切な量で、適切な時点に投与して状態を有効に治療することができる。投与するg-BoNTの用量は、状態の重篤度を含む種々の因子に依存する。本発明で用いるg-BoNTの用量は、本明細書中に記載される本発明で用いるBOTOX(登録商標)の用量と当量であり得る。本発明の種々の方法では、約0.1U/kg〜約15U/kgのBOTOX(登録商標)に等しい用量のg-BoNT(例えば、A型ボツリヌス毒素)を、治療薬として有効に投与することができる。ある態様において、約1U/kg〜約20U/kgのBOTOX(登録商標)に等しい用量のg-BoNTを、治療薬として有効に投与することができる。
【0087】
不活性であるg-BoNTもまた、活性毒素の中毒作用を予防または治療するために投与することができる。毒素を中和するためにg-iBoNTを用いることは、抗体産生に頼るものではない。g-iBoNTはすぐに毒素と競合し、毒素を中和するので有益であり、ここで、哺乳動物に投与した後に抗体産生を誘発して毒素を不活性化するためには長い時間がかかるだろう。例えば、診療室での治療の間に医師が誤って過剰な毒素を投与した場合、g-iBoNTを(解毒剤として)投与して過剰量の毒素をすぐに中和することが有益であろう。
【0088】
ある態様において、g-iBoNTを(解毒剤として)投与して活性BoNTの中毒作用を予防または治療する。例えば、不活性なg-iBoNT/Aを、投与(例えば、全身投与)して、活性BoNT/Aの中毒作用を予防または治療することができる。ある態様において、複数のg-iBoNT型を同時投与して、活性BoNTの中毒作用を予防または治療する。例えば、不活性なg-iBoNT/A、B、C、D、E、Fおよび/またはGの組合せを、例えば、全身的に投与して、活性BoNTの中毒作用を予防または治療することができる。主に、3タイプの主要な型のBoNT中毒がある:食餌性ボツリヌス中毒症、乳児ボツリヌス中毒症および創傷ボツリヌス中毒症。不幸なことに、第4の型のBoNT中毒がある:バイオテロリズム。数時間〜数日の内に疾病を導く、既に形成されている毒素をヒトが摂取した場合に、食餌性ボツリヌス中毒症が生じる。食餌性ボツリヌス中毒症は、汚染された食品を患者以外のヒトがなおも摂取する可能性があるので、公衆衛生の非常事態である。食餌性ボツリヌス中毒症では、症状は、毒素で汚染された食品を食べた後、6時間〜2週間の間にはじまる(最も一般的には、12〜36時間の間である)。ボツリヌス中毒症の症状には、複視、視覚低下、眼瞼下垂、不明瞭な発語、嚥下障害、口渇、筋脱力(これは常に体を下向きに進行する:最初に肩、次いで上腕部、前腕部、大腿部、ふくらはぎなどが罹患する)が挙げられる。呼吸筋の麻痺により、呼吸の補助(機械的人工換気)が提供されない限り、ヒトの呼吸停止および死が引き起こされ得る。乳児ボツリヌス中毒症は、腸管にクロストリジウム属ボツリヌス菌を有している感受性乳児で、毎年少数で生じている。創傷ボツリヌス中毒症は、創傷に毒素を分泌するクロストリジウム属ボツリヌス菌が感染した場合に生じる。計画的なバイオテロリズムのBoNT中毒は、以下の特徴を有するかもしれない:顕著な球麻痺を伴う多数の急性弛緩性麻痺の症例の勃発;珍しいボツリヌス毒素型(水産食品からは採取されない、例えば、C型、D型、F型、G型またはE型毒素)の勃発;症例間で地理的要因(例えば、空港)は共通するが、食事暴露は共通していない、勃発(例えば、エアロゾルでの襲撃を連想させる特徴);および原因が共通しない、複数の同時勃発。バイオテロリズム中毒の症例の場合、効率的な解毒を確実にするために、複数の型のg-iBoNTを投与することが有益である。
【0089】
熟練した医療従事者であれば、最適な臨床結果を達成するために適した投与用量および投与頻度を決定することができる。すなわち、医学分野における当業者であれば、BoNT中毒症を有効に予防または治療するために適した時点で適当な量のg-iBoNTを投与することができる。
【0090】
グリコシル化により半減期が増加する:
いかなる理論または作用メカニズムにも本発明を限定する意図はないが、タンパク質のグリコシル化により半減期の増加が導かれると考えられる(例えば、循環系中の化合物の安定化)。例えば、臨床上認可されているタンパク質治療薬であるAranespTMの産生には、オリゴ糖の使用を含む。AranespTMは、食品医薬品局(FDA)により米国で認可されている赤血球(RBC)産生を刺激する赤血球生成促進タンパク質である。AranespTMは、非骨髄性悪性腫瘍の患者での化学療法誘発性貧血の治療用に認可され(2002年7月)、透析中の患者および透析中ではない患者を含む慢性腎不全に関連した貧血の治療用に認可されている(2001年9月)。酸素輸送RBCの産生を刺激することによりAranespTMは働く。AranespTMは、米国の既存の標準的な治療であるエポエチン・アルファ(貧血性透析患者用EPOGEN(登録商標)i、および化学療法を受けている癌患者および他の全ての適応用のProcrit(登録商標)iiとして販売)よりも約3倍長い半減期を有する。構造上、AranespTMは、さらに2個のN−連結型シアル酸含有炭水化物鎖を有するという点でエポエチン・アルファと異なる。これにより、半減期の約3倍の延長が生じ、より優れた生物学的活性およびさらなるRBCの産生が長期にわたり生じる。この、AranespTMの効力の上昇および半減期の延長により、エポエチン・アルファと比較して、有効性を犠牲にすることなく、投薬頻度がより少なくなる。投薬頻度がより少なくなると患者に対する注射がより少なくなる。患者および介護者が注射用の訪問を計画に入れるために費やす時間をより少なくすることができ、医師および看護師が他の患者の世話および作業活動をできるように自由にする。
【0091】
上記のように、g-iBoNTを(救出薬剤として)投与して活性BoNTの中毒作用を予防または治療することができる。例えば、不活性g-iBoNT/Aを、例えば、全身的に投与して活性BoNT/Aの中毒作用を予防または治療することができる。g-iBoNTのこのような使用は、g-iBoNTはグリコシル化されていない同じiBoNTと比較して半減期が増加しているのでさらに有益である。従って、g-iBoNTは、循環系においてより長く、活性BoNTの中毒作用(intoxicating active BoNT)と競合する。ある態様において、g-iBoNTは、例えば、肝臓または腎臓を介して全身(system)からのクリアランスを促進する部位でグリコシル化されていない。ある態様において、g-iBoNTは、iBoNTよりも約2倍、好ましくは約4倍、より好ましくは8倍以上の半減期を有する。
【0092】
熟練した医療従事者であれば、適当な投与用量および頻度を決定して最適な臨床結果を達成することができる。すなわち、医学分野の当業者は適当な量のg-iBoNTを適当な時点で投与するしてBoNT中毒症を有効に予防または治療することができるだろう。
【0093】
投与経路および用量の例を示すが、適切な投与経路および用量は通常、一件一件、担当の医師により決定される。このような決定は当業者にとって日常的である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine (1998)、Anthony Fauciら編、第14版、McGraw Hillにより発行)。
【0094】
本発明はまた、本明細書中に開示する組成物(例えば、iBoNT、修飾型NTNH、活性g-BoNT、g-iBoNT等)の少なくとも1種を含有する製剤を包含する。ある態様において、製剤は、iBoNT、修飾型NTNH、活性g-BoNTおよびg-iBoNTの内の少なくとも1つを、薬理学的に許容されるキャリア(例えば、滅菌生理食塩水、0.1%ゼラチン含有滅菌生理食塩水または1.0mg/mlウシ血清アルブミン含有滅菌生理食塩水)中に含む。
【0095】
上記方法で用いるBoNT(例えば、活性g-BoNT、g-iBoNTおよびiBoNT)は、一本鎖毒素または二本鎖毒素であり得る。本発明はまた、二本鎖BoNT(例えば、二本鎖g-BoNT、二本鎖g-iBoNTまたは二本鎖iBoNT)を作製する方法を提供する。BoNTは、最初に一本鎖毒素として合成され、次いでニックが入れられるか、または切断されて二本鎖毒素を形成する。ボツリヌス毒素を産生する細菌であるクロストリジウム属ボツリヌス菌細菌は、一本鎖毒素にニックを入れて二本鎖毒素を形成する内因性プロテアーゼを有する。例えば、活性BoNT血清A型、B型、F型およびG型を作製する細菌株は、一本鎖毒素にニックを入れることができる内因性プロテアーゼを有する。当該分野の研究者もまた、一本鎖にニックを入れるために種々のプロテアーゼを利用してきた。例えば、一本鎖毒素は、固定TPCK-トリプシン(Pierce, Rockford, Ill)を用いてニックを入れて二本鎖を作製することができる。例えば、Simpsonら、米国特許番号6,051,239を参照(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。
【0096】
Saganeらは、近年、NTNHはそれら自身を切断できることを報告した(Biochem Biophys Res Commun. 2002 Mar 29;292(2):434-40)。さらに具体的には、Saganeらは、NTNHが、単離型および神経毒/NTNHA複合体型の両方で、クロストリジウム属ボツリヌス菌D型株4947により産生された毒素複合体からプロテアーゼ不含で調製されることを報告した。両方の調製物において、NTNHは、長期間のインキュベーションの間にいくつかの特定の部位のアミノ酸残基で切断されて、自然にニック型NTNH型に変換されて15および115kDaのフラグメントとなることがSDS-PAGEで見出されたが、他方、神経毒/NTNH/血球凝集素複合体型におけるものでは、同じ条件下でニックの入っていない一本鎖ポリペプチドのままであった。NTNH調製物が少量のニック型NTNHAを含み、トリプシンの添加が切断を促進することを考慮すると、精製後にニック型のNTNHが残っているか、および/またはNTNHA自体がインタクトなNTNHAの切断を触媒すると推測された。
【0097】
驚くべきことに、本明細書中においてNTNHはペプチダーゼM27モチーフを含むことが発見された。また、驚くべきことに、本明細書中において、NTNHが一本鎖ボツリヌス毒素にニックを入れて、ジスルフィド結合により連結されている重鎖および軽鎖を含む二本鎖ボツリヌス毒素を形成することを容易化し得ることも発見された。従って、本発明は、クロストリジウム属ボツリヌス菌細菌を用いることなく二本鎖ボツリヌス毒素を作成する方法を提供する。ある態様において、形成された二本鎖毒素は活性ボツリヌス毒素であり得る。例えば、本発明により形成される二本鎖毒素は、A型、B型、C型、D型、E型、F型および/またはG型の活性なBoNTであり得る。ある態様において、形成される二本鎖毒素は活性g-BoNTであり得る。
【0098】
ある態様において、形成した二本鎖毒素はiBoNTかもしれない。ある態様において、本発明で形成した二本鎖毒素は、A型、B型、C型、D型、E型、F型および/またはG型iBoNTであり得る。ある態様において、形成した二本鎖毒素はg-iBoNTでありうる。例えば、本発明で形成した二本鎖毒素は、A型、B型、C型、D型、E型、F型および/またはG型iBoNTであり得る。
【0099】
ある態様において、この方法は、一本鎖ボツリヌス毒素およびNTNHを非クロストリジウム属ボツリヌス菌細胞中で発現することによりNTNHが一本鎖毒素を二本鎖毒素へとニックを入れることを容易化する工程を含む。ある態様において、NTNHが一本鎖毒素を直接切断することにより一本鎖にニックを入れて二本鎖を形成することを容易にする。ある態様において、NTNHは、別のペプチダーゼが一本鎖を切断して二本鎖を形成するのを引き起こすことにより一本鎖毒素のニッキングを容易にする。
【0100】
ある態様において、一本鎖ボツリヌス毒素およびNTNHは、一本鎖毒素をコードするヌクレオチド配列を動作可能に保有するベクターおよびNTNHをコードするヌクレオチド配列を動作可能に保有するベクターを含む細胞中で発現される。ある態様において、一本鎖毒素をコードするヌクレオチド配列を動作可能に保有するベクターはまた、NTNHをコードするヌクレオチド配列もまた動作可能に保有する。任意のベクター系を本発明で用いることができる。ある態様において、ベクターはバキュロウィルスであり得る。本発明で用いるかもしれない他の系としては以下のものが挙げられる:任意の原核生物および真核生物発現ベクター:pET、GST融合物、Hisタグ、mycタグ、GFP融合物、BFP融合物、または酵母、植物発現ベクター。
【0101】
発現された一本鎖毒素は、当該分野において公知の、任意の一本鎖ボツリヌス毒素であり得る。例えば、発現された一本鎖ボツリヌス毒素は米国特許番号6,051,239(Simpsonら)により報告されうる(その全開示を本明細書中に参照して組み込む)。ある態様において、一本鎖ボツリヌス毒素はHall株由来のBoNT/Aである。
【0102】
クロストリジウム属ボツリヌス菌細胞を除き、任意の細胞を、二本鎖毒素を形成するために本発明で用いることができる。例えば、原核生物細胞または真核生物細胞を用いることができる。ある態様において、本発明で用いることができる真核生物細胞としては、PC12細胞、SHSY-5Y細胞、HIT-T15細胞、HeLa細胞およびHEK293細胞、Neo2細胞、CHO細胞、酵母および植物が挙げられるが、これらに限定されない。ある態様において、真核生物細胞により製造された二本鎖BoNTはグリコシル化されている。例えば、昆虫細胞により製造された二本鎖BoNTはグリコシル化されている。ある態様において、昆虫細胞により製造された活性二本鎖BoNTはグリコシル化されている。ある態様において、昆虫細胞により製造された二本鎖iBoNTはグリコシル化されている。
【0103】
細胞中で発現された一本鎖毒素のニッキングを容易にするために発現型NTNHを用いる方法により、軽鎖および重鎖を含む二本鎖を正確な分子量で産生することができる。さらに、この方法は非常に効率がよい。ある態様において、細胞内で発現された一本鎖毒素の約25%より多くにニックが入れられる。ある態様において、発現された一本鎖毒素の約50%より多くにニックが入れられる。ある態様において、発現された一本鎖毒素の約75%より多くにニックが入れられる。ある態様において、一本鎖毒素の約90%より多く、例えば95%にニックが入れられる。
【0104】
本発明はまた、無細胞系において二本鎖ボツリヌス毒素を製造することを特徴とする。この方法は、培地中で一本鎖ボツリヌス毒素をNTNHと接触させることにより、NTNHが一本鎖毒素を二本鎖毒素にニッキングすることを容易にする工程を含む。一本鎖ボツリヌス毒素およびNTNHはまた、任意の供給源から得ることができる。例えば、一本鎖毒素および/またはNTNHを細胞中で発現させ、従来的な方法(例えば、毒素および/またはNTNHを得るために細胞を溶解すること)により細胞から単離する。
【0105】
ある態様において、一本鎖毒素ペプチドおよびNTNHを培地に入れると、NTNHにより一本鎖毒素のニッキングが容易になる。ある態様において、培地は生理溶液である。例えば、培地は以下を含有し得る(ミリモル):NaCl(137)、KCl(5)、CaCl(1.8)、MgSO4(1.0)、NaHCO(24)、NaHPO(1)、D−グルコース(11)。任意の他の処方の生理溶液も本発明の範囲内にある。ある態様において、一本鎖毒素およびNTNHを培地中で30〜90分間インキュベートする。ある態様において、一本鎖毒素およびNTNHを培地中、約25℃〜約35℃でインキュベートする。
【0106】
一本鎖毒素から形成した二本鎖毒素は、従来的な技術により精製することができる。例えば、発現した一本鎖は、14個の追加のアミノ酸(Arg-Gly-Ser-His-His-His-His-His-His-Gly-Ser-Gly-Thr(配列番号3))をアミノ末端に含むかもしれない。これらの追加のアミノ酸はまた、二本鎖毒素の内の1本のアミノ末端の一部でもある。この14個のアミノ酸セグメント内の6×His配列を、合成したタンパク質の精製および続いての測定に用いることができる。例えば、これらのアミノ酸を有する二本鎖は、6×His親和性タグを用いるNi-NTA樹脂上での親和性クロマトグラフィーにより精製することができる。ある態様において、特異的に結合した二本鎖を低いpHで溶離し(溶離緩衝液pH4.5)、SDS-PAGEで分析することができる。ある態様において、二本鎖が約50%以上均一になるまで精製することができる。ある態様において、二本鎖が約75%以上均一になるまで精製することができる。ある態様において、二本鎖が約90%、例えば95%以上均一になるまで精製することができる。
【0107】
ある態様において、NTNHは一本鎖BoNTを二本鎖BoNTに切断しうるプロテアーゼを含む。例えば、本発明のNTNHはトリプシンを含むかもしれない。ある態様において、NTNHを、エンドキナーゼ(endokinase)またはTevプロテアーゼ触媒ドメインを有するように遺伝子操作する。このように遺伝子操作したNTNHは、エンドキナーゼまたはTevプロテアーゼによる切断部位を含むように遺伝子操作したBoNTにニックを入れることができる。
【0108】
本明細書中に開示する発明がよりよく理解されるために、以下に実施例を提供する。これら実施例は単なる例示目的としてのみであり、いかなる様式においても本発明を限定するとは解釈されない。この実施例を通じて、分子クローニング反応および他の標準的組換えDNA技術は、Maniatisら、Molecular Cloning - A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Press (1989)に記載の方法に従って、特記した場合を除いて市販の試薬を用いて行った。
【0109】
実施例
実施例1:バキュロウィルス発現系を用いた昆虫細胞でのBoNT/A-LCの発現
方法:pBAC-1およびpBACgus-1は、昆虫細胞における標的遺伝子の簡単なクローニングおよび発現のために設計したバキュロウィルス移入ベクターである。これら2個の移入ベクターは両方とも、標的タンパク質の簡単な精製用の最適なC末端Hisタグ融合配列をコードする。pBACgus-1はまた、組換えウィルスを確認するためのレポーターとして働くβ−グルクロニダーゼをコードするgus遺伝子を保有する。
【0110】
全長iBoNT/A、LC、iLCをpBAC-1またはpBACgus-1ベクターにサブクローニングした。不活性なLCおよび不活性なBoNT/Aの構築のために、LC活性を無効にするためにBoNT/AのLCでの点突然変異H227Yを示した。従って、不活性な全長BoNT/Aを製造するために、本発明者らは、部位特異的変異誘発QuickChange XLキット(Stratagene, CA)を用いてPCRにより突然変異H227Yを導入した。変異原性オリゴヌクレオチドプライマーは所望の変異に従って個々に設計した。センスプライマーは5’-GTA ACA TTA GCA CAT GAA CTT ATA TAT GCT GGA CAT AGA TTA TAT GGA ATA GCA ATT-3’である。アンチセンスプライマーは5’-AAT TGC TAT TCC ATA TAA TCT ATG TCC AGC ATA TAT AAG TTC ATG TGC TAA TGT TAC-3’である。ポジティブクローンを選択し、制限酵素消化およびDNA配列決定により確認した。
【0111】
BEVS中でのBoNT/A-LCの発現
(1)バキュロウィルス発現型BoNT/A-LCの作製用組換えバキュロウィルスをインビボで産生するための移入プラスミドを用いるAcNPVの同時トランスフェクション
各移入ベクターは、相同組換えを容易にするためのサブクローニング領域に隣接するAcNPV配列の大型トラクト(tract)を含む。移入組換えプラスミドおよびAutographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)DNAの昆虫Sf9細胞への同時トランスフェクションにより、ベクター由来の非相同遺伝子をAcNPV DNAに移す相同部位間での組換えが可能となる。Sf9細胞のAcNPV感染により宿主遺伝子の発現の遮断を生じ、これにより高い割合での組換えmRNAおよびタンパク質産生を可能とする。
【0112】
各トランスフェクションについて、1.25×10の、指数関数的に増殖しているSf9細胞を播種した。細胞を20分間プレートに接着させた。この20分間のインキュベーションの間に、トランスフェクション混合物を調製した。移入プラスミドLC/A遺伝子(500ng、野生型または変異型のいずれか)、線状AcNPV(100ng)およびEufectin(5μg)をそれぞれ滅菌ポリスチレンチューブ中で混合した。このDNA/Eufectin混合物を室温で15分間インキュベートした。ネガティブコントロールとして、プラスミドDNAの代わりに培地を用いた。DNA/Eufectinの15分間のインキュベーションを完了した後、室温の培地0.45ml(抗生物質又は血清無し)をDNA/Eufectin混合物に加えた。この混合物全体0.5mlを、プレート中の細胞を覆う培地1mlに加えた。27℃で1時間インキュベーションした後、5%血清を含有する培地6mlおよび抗生物質を添加し、得られたものを27℃で5日間インキュベートした(1回目の試行)。トランスフェクションサンプルを表1に列挙した。
【0113】
(2)組換えバキュロウィルスの増幅
高力価組換えウィルスは、標的タンパク質の発現に重要である。1回目の試行のトランスフェクションインキュベーションの最後に、組換えウィルスを含有する培地を各60mmディッシュから回収し、ウィルス含有培地全てを新しいネイティブな細胞を感染させるために用いた。新しい培地を用いて感染1時間後のウィルスストックを置き換え、細胞をさらに27℃で5〜7日間インキュベートした(2回目の試行増幅)。組換えウィルスの力価が標的タンパク質を検出可能な程度まで高く発現するまで、上記工程を反復した。ウィルスストックをPCRに用いてLC/A遺伝子の存在を確認した。高力価のウィルスを用いて昆虫Sf21細胞を感染させ、細胞溶解物を用いてLC/Aタンパク質の存在を測定した。
【0114】
(3)レポーター遺伝子アッセイ(β−グルクロニダーゼ酵素活性アッセイ)による組換えバキュロウィルスの測定
移入ベクターであるpBACgus-1は、後期塩基性タンパク質プロモーター(P6,9)の制御下で酵素β−グルクロニダーゼをコードするgus遺伝子を保有し、これはレポーターとして働いて基質としてX-Glucを用いる酵素反応を使用することにより組換えウィルスを検証する。各試行のトランスフェクションの約5日後、各ディッシュの培地100μlのサンプルを採取し、基質であるX-Gluc5μl(20mg/ml)と合わせた。2〜3時間、または一晩(低力価のウィルスの場合)インキュベーションした後、β−グルクロニダーゼを発現する組換えpBACgus含有ウィルスは青色の染色により示される(図1)。
【0115】
(4)SDS-PAGE、抗LC/A抗体によるウェスタンブロッティングおよび抗His-タグ(LC/A遺伝子上でのタグ化)モノクローナル抗体によるrBoNT/A-LC の測定
a)SDS-PAGEおよびクーマシーブルー染色により示されるrLC/Aの発現
BoNT/A-LCの発現は、全細胞抽出物のSDS-PAGEを用いての分離、続いてクーマシーブルー染色により評価した(図3)。的確な分子量(50kDa)で移動する標的タンパク質候補は、BoNT/A-LC(レーン1-4、図3)の組換えバキュロウィルスを保有する細胞の存在下でのみ示され、これは組換えバキュロウィルスを有しない細胞(ベクター単独、レーン5、図3)または細胞単独(細胞単独のコントロール、レーン6、図3)では存在しない。pBACgus-1/LC/A保有細胞中においてのみ存在するが、pBAC-1/LC/Aまたはベクター単独を有する細胞、または細胞のみでは存在しない、62kDaとして移動するタンパク質はおそらくレポーターであるβ−グルクロニダーゼであることに留意のこと。
【0116】
方法:2×10細胞(全サンプルに関して等しい細胞数)を、TE緩衝液(100μl、10mM Tris-HCl、pH8.0、1mM EDTA)中で再懸濁した。還元剤およびプロテイナーゼインヒビターを含む、2×溶解緩衝液(100μl)を細胞懸濁液と混合した。混合物を95℃で5分間加熱し、すぐに上記サンプル20μlをプレキャストゲルシステム(4〜12%SDS-PAGE Nupage、Invitrogen)の各レーンにのせた。全レーンにつき、当量のタンパク質をのせることに留意のこと。
【0117】
実施例2:バキュロウィルス発現系を有する昆虫細胞内でのBoNT/A-LCの発現(BoNT/A-LCは、抗BoNT/A-LC pAbおよびHisタグmAbの両方により特異的に認識される)
rLC/Aの発現を、特異的抗LC/Aポリクローナル抗体および特異的抗Hisタグ(C末端LC/A遺伝子上でタグ化)モノクローナル抗体を用いてSDS-PAGE及びウェスタンブロッティングにより確認した。
【0118】
組換えLC/Aの発現を、ウェスタンブロット分析用の特異的抗LC/Aポリクローナル抗体(pAb)を用いてさらに測定した。2個の複製タンパク質ブロットを、抗LCポリクローナル抗体(図4A)または抗Hisタグモノクローナル抗体(図4B)のいずれかを用いてプロービングした。両方の抗体はrLC/A含有細胞においてのみ、50kDaタンパク質を特異的に認識し(レーン1〜4)、ベクター単独または細胞単独コントロールにおいては認識しなかった(レーン5および6、図3)。
【0119】
本発明者らが、BEVSにおいて野生型及び不活性変異型rBoNT/A-LCの両方を首尾よく発現させたことがデータにより明瞭に示された。また、実験により、組換えBoNT/A-LCの発現は昆虫細胞に対して毒性ではなく、BEVSは活性毒素を発現するためにふさわしい系であることが示された。
【0120】
実施例3:バキュロウィルス発現系を用いて昆虫細胞中で発現されるBoNT/A-LC(BoNT/A-LCは、GFP-SNAP25切断アッセイにより示されるように、LC/A特異的基質であるSNAP25を特異的に切断する)
BEVS中で発現されるrBoNT/A-LCのエンドペプチダーゼ酵素活性(野生型および不活性変異体の両方)の評価
野生型および変異型の両方のrBoNT/A-LCエンドペプチダーゼ酵素活性を、GFP-SNAP切断アッセイにより測定した。原則として、これがボツリヌス菌神経毒のプロテアーゼ活性を定量するためのインビトロ蛍光遊離アッセイである。組換え基質の簡単さと単純さを蛍光シグナルを用いて得られる感受性と組み合わせる。ピコモルもの低い濃度で、BoNT/Aの活性を測定することができる。
【0121】
簡単に説明すると、三回目の試行由来の野生型LC/Aまたは不活性変異型LC/Aのいずれかを含む高力価の組換えウィルスを用いて昆虫Sf21細胞を感染させた。感染3日後、細胞を回収した。各感染由来の細胞(1.2×10)をペレット化させ、反応緩衝液(100μl、50mM HEPES、pH7.4、10μM ZnCl、0.1%(v/v)Tween-20、DTT無し、プロテアーゼインヒビターカクテル)中に再懸濁した。細胞を氷上で45分間溶解させた。14,000rpmで10分間、4℃で細胞細片をスピンダウンさせた後、上清を回収し、BCAアッセイによりタンパク質濃度を分析した。各組換えLC/A溶解物について、5μl(3μg)および20μl(12μg)を毒素反応緩衝液で希釈し、黒色のv底96ウェルプレート(Whatman)に25μlのアリコートで加えた。試薬:2×毒素反応(Rxn)緩衝液(100mM HEPES、pH7.2、0.2%(v/v)TWEEN-20、20μM ZnCl、20mM DTT)。
アッセイリンス緩衝液(50mM HEPES、pH7.4)、8M塩酸グアニジン(Pierce)、Co2+樹脂(Talon Superflow Metal Affinity Resin from BD Biosciences)、GFP-SNAP25(134-206)融合タンパク質基質(精製型)。
【0122】
ポジティブコントロールとしてのLC/Aの手順:100μLの反応液(Rxn)(50mM Hepes、pH7.4、10mM DTT、10μM ZnCl、0.1mg/mL BSA、60μg GFP-SNAP-His、0.0001-1.0μg/mL rLC/A)を1時間インキュベーション、8M塩酸グアニジン(最終濃度1M)で終止、Co2+樹脂(100μL)を加え、15分間インキュベートした後、スピンさせ、樹脂を除くことを2回行う。溶離したサンプルをアッセイして、イノベイティブマイクロプレートリーダーの吸光度により蛍光単位を測定した。
【0123】
バキュロウィルス発現型組換えLC/Aのエンドペプチダーゼ酵素活性を図5に示す。野生型LC/A(移入ベクターであるpBAC-1およびpBACgus-1の両方にトランスフェクト)は、有意に高い活性を示した。3μgと12μgのサンプル間で顕著な差異はなく、これは、溶解物3μg中のLC/Aの活性が最大値に達成していることを示した。他方、不活性変異型LC/A、ベクター単独コントロール、細胞単独コントロールおよび基質単独コントロール中で示された活性はほとんどなく、これはGFP-SNAP25切断アッセイはLC/A野生型を特異的に検出することを示す。これらを元に、バキュロウィルスにより発現されたLC/Aを用いるGFP-SNAPアッセイのデータにより、活性なLC/Aが良好にBEVS中で発現されることを実証した。このように、BEVS中で発現される野生型LC/Aはエンドペプチダーゼ酵素活性であると同時に、不活性な変異型LCは活性ではないことを実証した。
【0124】
実施例4:グリコシル化されている生理学的に不活性または活性A型ボツリヌス毒素を昆虫細胞中で発現しうる組換えバキュロウィルスを製造するための例示的方法
グリコシル化アミノ酸のような翻訳後修飾を有する組換えタンパク質の高レベルでの発現のために、昆虫細胞を目的の遺伝子(ここでは、生理学的に不活性な形態のA型ボツリヌス毒素(iBoNT/A))をコードする組換えバキュロウィルスで感染させることができ、そして昆虫細胞は増殖して、目的の組換えタンパク質を培養培地中に直接分泌する。従って、組換えグリコシル化タンパク質を昆虫細胞上清から回収することにより、組換えタンパク質の精製の際の時間とお金を節約することができる。
【0125】
組換えDNA技術を用いて、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞を感染させるためにバキュロウィルスと共に用いる移入ベクターを、目的の遺伝子を含むように構築する(iBoNT/A cDNA)。最終的に、iBoNT/A cDNAを、組換えバキュロウィルスで感染させた昆虫細胞でのタンパク質の発現に必須の調節エレメントに機能的に連結させる。iBoNT/A cDNAを、バキュロウィルスのポリヘドリン遺伝子のプロモーターの制御下に置く。このような目的で、組換えバキュロウィルスを得るために目的の遺伝子を含む移入ベクター構築物とウィルスDNAとの間で組換えが生じる必要がある。種々の制限を有するポリリンカーから上流および下流のポリヘドリンの調節領域を含む移入ベクターpVL1392(Invitrogen Corporation)を用いる。最初に、適切に間隔を開けた制限エンドヌクレアーゼ部位をコードするオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、PCRによりiBoNT/A cDNAを増幅し、移入ベクターpVL1392へのクローニングを容易にするための制限部位を作製する。次に、この移入ベクター構築物を、天然のバキュロウィルスAcMNPV(Autographa californica 多重核多核体病ウィルス)と共にヨトウガ細胞に同時にトランスフェクトする。移入ベクターはiBoNT/Aタンパク質をコードする配列をバキュロウィルスゲノムに導入することができるので、組換えバキュロウィルスを産生する。それゆえ、得られた組換えバキュロウィルス(これはポリヘドリンプロモーターの制御下にiBoNT/A cDNA、およびその合成に関連する全ての配列を含む)を精製および増幅した後、異種タンパク質を発現させるためにヨトウガの細胞を感染させるために用いる。
【0126】
バキュロウィルスによる感染のために昆虫細胞を培養する方法は、当該分野で働く当業者に周知である。これらの培養手段は、以下の文献に開示されている。Summers, M. D.ら、1987、欧州公開公報番号127 839およびSmith G. E.、米国特許番号4,745,051。本発明の目的のために、単層または懸濁液で増殖させることができるヨトウガSf9細胞を用いる。ヨトウガSf21細胞もまた用いることができる。Sf9細胞単層を27℃でインキュベートし、コンフルエントに達したときに、週に2〜3回分離する。懸濁培養に必要な条件は、培養培地および培養体積に依存する。
【0127】
組換えウィルスを単離するために採用した方法の詳細は当業者に周知である。通常、iBoNT/A をコードするDNAを保有する移入ベクターDNA(2μg)およびAcMNPVウィルスDNA(1μg)をヨトウガ単層細胞に同時にトランスフェクトする。3〜4日後、細胞はウィルス封入を示し、細胞の10〜50%が感染する。ウィルスは約10〜10の力価で培養培地を通過し、このうち、0.1〜0.5%が組換えウィルスである。一旦、上清を入手すれば、組換えウィルスの精製を開始することができる。この方法は、ドット−ブロットハイブリダイゼーションを用いる限界希釈物の会合工程からなる。細胞を、ウェルあたり2×10細胞の濃度で96ウェルディッシュに播種し、10−1〜10−8の系列希釈のバキュロウィルス含有昆虫細胞上清で感染させた。ディッシュを27℃でインキュベートし、感染をモニターした。8〜10日間後、上清を別のディッシュに移し、細胞を溶解した。各ウェルからのDNAをドットブロット装置を用いてナイロンメンブレン(Hybond-N)に移し、次いで紫外線で3分間固定した。一旦固定した後に、iBoNT/A cDNAを示すフラグメントは従来的な技術に従ってハイブリダイゼーションにより検出する。
【0128】
ポジティブクローンに対応するウィルス上清を、この手順に1回以上かける。通常、3サイクルの処置により純粋な組換えウィルスを得、これはもはやポリヘドリン分子を産生せず、組換えタンパク質のみを産生する。一旦、iBoNT/AをコードするDNAを含む組換えウィルスが得られれば、増幅され、産生が始まり、そして大量のグリコシル化iBoNT/Aタンパク質を昆虫細胞の大量培養物から回収することができる。
【0129】
感染細胞から得られたタンパク質を、ポリアクリルアミドゲルでの電気泳動、ならびにA型ボツリヌス毒素タンパク質配列内の特異的なアミノ酸配列を認識するためのポリクローナル抗体および/またはHisタグ抗体、またはiBoNT/Aが実際に、ヨトウガ細胞内でプロセシングされ、そしてグリコシル化されていることを確認するためのエピトープタグを用いるウェスタンブロッティングにより分析する。
【0130】
さらに、発現した組換えタンパク質の生物学的活性用のアッセイ(例えば、酵素切断アッセイ)もまた、行うことができる。さらに、当業者であれば、このプロトコルを活性なg-BoNTの製造に適合させることができる。
【0131】
実施例5:昆虫細胞内でNTNHおよび活性またはiBoNTを同時に発現する例示的方法
NTNH遺伝子を発現する第2のバキュロウィルス構築物を用いて実施例10の系を同時に感染させ、組換えA型ボツリヌス毒素およびNTNHタンパク質の高レベルでの発現を同時に発現させる。ある態様において、細胞を一本鎖BoNTを発現する構築物およびNTNHを発現する構築物で同時に感染させてもよい。ある態様において、細胞を一本鎖BoNTを発現する構築物およびNTNHを発現する構築物で連続して感染させてもよく、一本鎖BoNTを発現する構築物を、NTNHを発現する構築物の前、又はその後に感染させてもよい。
【0132】
再度、組換えDNA技術を用いて、ヨトウガ細胞を感染させるためにバキュロウィルスと共に用いるための移入ベクターを、目的の遺伝子(この場合、NTNH遺伝子をコードする遺伝子[Genbank登録番号U63808の残基963-4556])を含むように構築する。バキュロウィルスのポリヘドリン遺伝子用のプロモーターの制御下にNTNH遺伝子を有する組換えバキュロウィルスを、実施例10に記載される様式と同じ様式での組換えにより得る。従って、得られたNTNH遺伝子を発現する組換えバキュロウィルスを、iBoNT/A cDNAを発現する組換えバキュロウィルスと共に精製かつ増幅し、次いで、両方の組換えバキュロウィルスベクターを用いてヨトウガの細胞を感染させて両方の異種タンパク質を発現させる。昆虫細胞中での2種類のタンパク質を同時に発現させることにより、正確にニックの入ったiBoNT/Aタンパク質を産生するはずである。
【0133】
一旦発現されると、NTNHタンパク質は細胞内で同時に発現されたボツリヌス毒素にニックを入れることができる。さらに、昆虫細胞を増殖させ、プロセシングした目的の二本鎖ボツリヌス毒素を培養培地に直接分泌することができる。
【0134】
実施例6:筋障害と関連する疼痛を活性なg-BoNTを用いて処置するための例示的方法
ある不幸な女性(36歳)は15年間、顎関節疾患、そして咬筋および側頭筋に沿っての慢性の疼痛に悩んでいた。評価を行う前の15年は、彼女は顎の開閉に痛みを伴いながら顎の硬直が強くなり、顔の両側に沿って圧痛があることに気づいていた。元々、左側は、右側よりも悪かったと考えられる。彼女は関節の不全脱臼を伴う顎関節(TMJ)機能不全であると診断され、整形外科的な手術での関節切除(surgical orthoplasty meniscusectomy)および関節丘切除により処置を受けている。
【0135】
外科手術後も彼女は顎の開閉が困難であり、このため、数年後、両側を人工関節に置き換える外科手法を行った。外科的手法の後、進行性のけいれんおよび顎のはずれが続いておきている。さらに、最初の手術に続いて外科的補正を行って人工関節のゆるみを校正している。これらの外科手術の後も、関節はかなりの疼痛および硬直を示し続けている。TMJは依然として圧痛があり、筋肉自体も同様である。顎関節上の触ると痛い点、および筋肉全体における張り(tone)は存在する。彼女は外科手術後の筋筋膜疼痛症候群であると診断される。活性なg-BoNT(好ましくは、活性なg-BoNT/A)を咬筋および側頭筋に7U/kgで注射する。
【0136】
注射の数日後、彼女は痛みの実質的な改善に気づき、顎がゆるんでいるのを感じると報告している。これは、2〜3週間にわたって段階的に改善されており、この間、彼女は顎を開ける能力が改善され、痛みが小さくなっていることに気づいている。この患者は、ここ4年間のどの時点よりも痛みが良くなっていると記載している。改変型神経毒の最初の注射後、状態の改善は最大27ヶ月持続する。
【0137】
実施例7:g-BoNTを用いることにより、循環からの迅速なクリアランスが示される
近年の研究により、グリコシル化タンパク質は、非グリコシル化対応物よりも速く循環系を通過できることが示されている。例えば、Lucoreらは、組織型プラスミノーゲンのグリコシル化によりクリアランスが容易になることを報告している(Biochemical determinants of clearance of tissue-type plasminogen activator from the circulation, Circulation, 77:906-914 (1988))。具体的には、Lucoreらは、酵素により処理したt-PAを用いてクリアランスに対するグリコシル化の影響を研究した。この研究では、特定のグリコプロテインレセプターに対してt-PAと競合する選択したネオグリコプロテインの同時投与を用いてクリアランスを評価した。t-PAのプロテアーゼインヒビター(PPACK)での前処理有りおよび無しでのクリアランスの差分により反映される、インタクトな活性触媒部位の役割もまた定義した。これらの結果は、活性部位の阻害によりクリアランスが変更されること、そして同様に、グリコシル化の性質および程度がクリアランスに影響を与えることを示す。これらの知見は、肝臓網内系細胞で発現されるマンノース/N-アセチルグルコサミン特異的グリコプロテインレセプターはt-PAの循環からのクリアランスに関与するが、ガラクトース特異的グリコプロテインレセプターはおそらく関与しないことを示唆する。
【0138】
典型的なシナリオとして、ある女性(46歳)は、「肩手症候群」の特徴である、肩手症候群型疼痛を有している。この疼痛は三角筋部に特に集中している。患者を、BOTOX(登録商標)と活性g-BoNTの混合物(約0.05U/kg〜約2U/kg)の肩へのボーラス皮下注射により処置する。誤って医師は注射針でそばの動脈を傷つけてしまい、そのためBOTOX(登録商標)と活性g-BoNTの混合物が循環系に入る。治療上有効な用量の活性g-iBoNTを投与してBOTOX(登録商標)と活性g-BoNTの効果を中和する。BOTOX(登録商標)および活性g-BoNTの血中レベルもモニターする。試験結果により、活性g-BoNTがBOTOX(登録商標)よりも迅速に循環系から消えることが示されている。
【0139】
実施例8:ヘルペス後神経痛の治療における誤った過剰投薬−g-iBoNTの解毒剤としての使用
嫌気性グラム陽性細菌であるクロストリジウム属ボツリヌス菌は、強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス毒素は、ヒトおよび動物においてボツリヌス中毒症と呼ばれる神経麻痺疾患を引き起こす。クロストリジウム属ボツリヌス菌の胞子は土壌中で見出され、そして適切に滅菌されていない自宅用缶詰(home based canneries)の密封食品容器中で増殖することができ、これがボツリヌス中毒症の症例の多くの原因である。ボツリヌス中毒症の影響は、通常、クロストリジウム属ボツリヌス菌培養物または胞子で感染されている食料品を食べた18〜36時間後に出現する。ボツリヌス毒素は、おそらく、減弱されずに胃腸管の裏層を通過し、末梢運動ニューロンを攻撃することができる。ボツリヌス毒素中毒症の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から呼吸筋の麻痺および死へと進行するかもしれない。
【0140】
A型ボツリヌス毒素は、ヒトに対して公知の最も致死性の生物学的天然因子である。市販のA型ボツリヌス毒素、約50ピコグラム(精製型神経毒複合体)(Allergan, Inc.、Irvine, Californiaから、商標BOTOX(登録商標)で100単位バイアルで入手可能)は、マウスでのLD50である(すなわち、1単位)。BOTOX(登録商標)1単位はA型ボツリヌス毒素複合体約50ピコグラム(約56アトモル)を含む。興味深いことに、モルに基づく場合、A型ボツリヌス毒素はジフテリアよりも約18億倍致死性であり、シアン化ナトリウムよりも約6億倍致死性であり、コブラ毒よりも約3000万倍致死性であり、コレラよりも約1200万倍致死性である(Singh, Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、63-84頁(chapter 4)、Natural Toxins II、B.R. Singhら編、Plenum Press, New York (1976))。ここで、記載の1Uに等しいA型ボツリヌス毒素のLD50の0.3ngは、BOTOX(登録商標)の約0.5ngが1Uに等しいという事実に関して校正している)。ボツリヌス毒素1ユニット(U)は、各々体重18〜20グラムの雌性Swiss Websterマウスに腹腔内注射の際のLD50として規定する。
【0141】
ヘルペス後神経痛は、慢性疼痛の問題の中でも最も手におえないものの1つである。この絶えがたい痛みを伴うプロセスに罹患した患者は高齢者が多く、衰弱性疾患を有しており、主要な介入手順に適していない。ヘルペスが治癒した病変の外見及び間者の病歴により簡単に診断される。痛みはきわめて強く、感情的に疲労困憊する。ヘルペス後神経痛はいずれの部位でも生じ得るが、最も多いのは胸部である。
【0142】
典型的なシナリオとして、ヘルペス後型疼痛を有する患者(76歳)の例がある。この痛みは腹部領域に局在している。患者に腹部にBOTOX(登録商標)を約0.05U/kg〜約2U/kgで経皮的にボーラス注射して治療する。治療する医師は誤って過剰量のBOTOX(登録商標)を投与する。間違いに気づいた際に、医師は同じ部位に治療上有効な用量のg-iBoNTを投与する。投与するg-iBoNTの具体的な用量および頻度は、治療する医師の技量の範囲内にある種々の因子に依存する。BOTOX(登録商標) および是正措置のg-iBoNT投与を行った1〜7日後の内に、患者の痛みは実質的に軽減される。
【0143】
実施例9:g-iBoNTでの解毒
BoNTをエアロゾルで分布させると、ボツリヌス中毒症の症状が生じ得る。例えば、五価(ABCDE)ボツリヌス菌トキソイドは疾病対策予防センターから入手可能であるが、その使用は免疫力が付与され得る前にレシピエント中で抗体が惹起される事を待つ必要があるので、予防としては適していないかもしれない。
【0144】
従って、解毒という点で、または治療を受けた後、トキソイドは、数ヶ月に渡り免疫を誘発するので実行不可能である。即時免疫は、ウマ(equinine)ボツリヌス菌抗毒素の受動的投与により、または特定のヒト高力価免疫グロブリンにより提供する事ができる。しかし、これらの解毒手段はあまり有効ではない。例えば、集団の一部が、ウマ(equinine)ボツリヌス菌抗毒素の投与でのウマ血清過敏症に罹患している事が知られている。
【0145】
g-iBoNTは、活性なBoNTで汚染された個体の解毒において重要な役割を果たし得る。臨床時または緊急時に、被害者にg-iBoNTを注射することにより、活性なBoNTとの十分な競合阻害を提供してその効果を最小限にすることができる。ある態様において、g-iBoNTを丸剤に処方して、安全で迅速かつ簡単に大きい患者集団に提供しても良い。重要なことに、g-iBoNTは、抗原性が低下しているので過敏症を誘発しないと予測される。
【0146】
実施例10:g-iBoNTは抗原性が低下している:
通常、免疫原性の発生は、免疫原の特性、その分子サイズ及び溶解性、ならびに製剤中で用いられるアジュバント/担体により影響を受ける。さらに、遺伝子型および免疫異常調節と関連する共存する疾患、交差反応性を引き起こすかもしれない他の治療用タンパク質への以前の暴露を含む宿主の因子もまた、一部で役割を果たすかもしれない。投与経路は宿主の免疫反応を改変するかもしれない。静脈内、腹腔内、経口またはエアロゾル経路は寛容を助けるかもしれないが、他方、皮下投与または皮内投与は活性な免疫付与に似た症状を呈するかもしれない。抗原の反復投与は、一回限りの処置と比較して強い免疫反応の可能性を高める。さらに、グリコシル化と免疫原性との間の相関関係を示す良好にコントロールされた試験がいくつかある。
【0147】
例示的な実験では、g-iBoNT/Aをアカゲザル2群(各群4匹)に投与する。A群のサルには皮下注射を行い、B群のサルには静脈内ボーラス投与を行う。コントロール群(サル2匹)には、活性なBoNTを静脈内投与する(3ユニット/kg、これはA群およびB群のサルに与えたg-iBoNTの用量と等しい)。
【0148】
24時間後、実験群(A群およびB群)のサル全てに、神経機能の問題(distress)または障害の徴候はない。コントロール群のサルはだるそうであり、典型的なボツリヌス中毒症の徴候を示す。
【0149】
4週間後、血液サンプルを各群のサルから採取し、活性なBoNTまたはg-iBoNTに対する抗体の存在について分析する。A群およびB群のサルからの血液サンプルには、注射したg-iBoNTに対する抗体は含まれていない。しかし、コントロール群からの血液サンプルは、活性なBoNTに対する抗体の痕跡を示す。
【0150】
実施例11:NTNHを標的化部分に連結する例示的方法
NTNH分子は1193アミノ酸長である(GenPept登録番号AAM75960)。本発明によると、NTNHを標的化部分に結合させて修飾化NTNHを形成する。標的化部分がその上に結合しているNTNHは、他の結合を有していなくても良いし、またはすでに別の標的化部分に結合していても良い。化学的化合物をタンパク質鎖に連結するための多数のアプローチが知られている。
【0151】
標的化部分のような、基質または結合分子として作用する分子のほとんどは、立体障害に対して感受性ではない位置を有することが知られている。また、連結プロセスは標的化部分にキラリティーをを導入するべきではない。さらに、リンカーおよび標的化部分は、共有結合を介して連結されるべきである。NTNHと標的化部分との距離は、スペーサー成分を挿入する事により調節する事ができる。好ましいスペーサーは、リンカー、標的化部分およびNTNHに結合することができ、そしてそれらを結合するために働き得る官能基を有する。好ましいスペーサー成分としては以下が挙げられる:
1)HOOC−(CH−COOH(ここで、n=1〜12。標的化部分上のリンカーと結合するためにペプチドのアミノ末端での挿入に適している)
2)HO−(CH−COOH(ここで、n>10。標的化部分上のリンカーとL鎖連結するペプチドのアミノ末端への結合に適している)
3)(C(ここで、n>2。これは標的化部分上のリンカーとNTNHを連結する結合に適している)。ベンゼン環は標的化部分とNTNHとの間の堅いスペーサーを提供する。当然のことながら、例えば、以下のXにより同定されるような適当な官能基がベンゼン環上に存在して薬物およびNTNHを連結するかもしれない。
【0152】
種々のリンカー型が想定される。例えば、ある型では、標的化部分−リンカー−NTNH分子は、循環系に入った後もインタクトなままである。
【0153】
ある態様において、システイン残基は、当該分野において周知の方法によりNTNH分子の末端に結合される。例えば、NTNHタンパク質を発現する遺伝子構築物を変異させて、そのタンパク質のN末端部分にシステインが存在するように発現させてもよい。次いで、マレイミドリンカーを周知の方法によりシステイン残基に連結させる。
【0154】
ある態様においては、リンカーを標的化部分に直接結合させる。標的化部分−X部分は、以下の基を有しても良い(式中、XはOH、SH、NH、CONH、CONH、COOH、COOR30であり得るが、これらに限定されず、ここでR30はアルキル基である)。当然のことながら、適当な基は活性部位に存在しないか、または立体障害を受けている。以下は、標的化部分−Xをリンカー分子に連結させる反応例である。
【化1】

一旦、標的化部分が結合したリンカーを有すると、以下の反応を用いて標的化部分をNTNHに連結する事ができる。この反応では、NTNH、好ましくは、標的化部分への結合点として用いる利用しやすいリジン基を有するNTNH。本明細書中に記載するように、余分なアミノ酸(例えば、リジン)はNTNH遺伝子のN末端部分に簡単に付加する事ができ、標的化部分に対する結合点として用いる事ができる。以下の反応では、シアノボロ水素ナトリウム(sodium cyanoborohydride)を用いてリンカーをNTNH分子上のリジン基に結合させる。
【化2】

【0155】
本発明での使用に関して想定される標的化部分としては、遊離の-XH基を有するもの、および肝臓および/または腎臓のトランスポーターに結合しうるものが挙げられる。
【0156】
本発明の種々の改変は、本明細書中の記載に加えて、上記記載より当業者に明らかである。このような修飾もまた、添付の請求の範囲に入ると意図される。本出願において援用される各文献を、それらの全てを本明細書中に参照して組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】図1は、A型ボツリヌス毒素のグリコシル化が可能な領域を示す(N−結合型オリゴ糖)。グリコシル化用の糖としては、ヘキソース(例えば、man.、gal.)、hexNAc(例えば、GlcNAc、GalNAc)、デオキシヘキソース(例えば、フコース)、NeuAc、NeuGc、ペントース(例えば、キシロース)、KDNおよびHexA(例えば、グルクロン酸)が挙げられる。
【図2】図2は、A型ボツリヌス毒素のグリコシル化が可能な領域を示す(O−結合型オリゴ糖)。グリコシル化用の糖としては、ヘキソース(例えば、man.、gal.)、hexNAc(例えば、GlcNAc、GalNAc)、デオキシヘキソース(例えば、フコース)、NeuAc、NeuGc、ペントース(例えば、キシロース)、KDNおよびHexA(例えば、グルクロン酸)が挙げられる。
【図3】図3は、バキュロウィルス発現系、SDS-PAGE:クマシーブルー染色を用いた昆虫細胞におけるBoNT/A-LCの発現を示す。
【図4】図4は、バキュロウィルス発現系を用いた昆虫細胞におけるBoNT/A-LCの発現を示し、ここでBoNT/A-LCは抗BoNT/A-LC pAbおよびHisタグmAbの両方により特異的に認識される。上方のパネル:抗HisタグmAb;下方のパネル:抗LC/A pAb。
【図5】図5は、バキュロウィルス発現系を用いて昆虫細胞で発現されるBoNT/A-LCを示し、ここで、BoNT/A-LCは、GFP-SNAP25切断アッセイにより示されるように、LC/A特異的基質であるSNAP25を特異的に切断し、これは昆虫細胞がLC発現を用いて生存するかもしれないことを示す。
【図6】図6は、バキュロウィルス発現系を用いて昆虫細胞で発現される不活性な全長BoNT/A(iBoNT/A)を示す。iBoNT/Aは抗BoNT/A-LC pAbおよび抗毒素/A pAbの両方により特異的に認識され、このことはBEVSが全長BoNTを発現する能力を有することを示す。
【図7】図7は、バキュロウィルス発現系で発現されたBoNT/A-HCが、抗毒素pAbまたは抗hisタグmAbのいずれかにより特異的に認識されることを示す。
【図8】図8は、バキュロウィルス発現系において発現されたBoNT/A-LCまたはiBoNT/Aを示し、ここでBoNT/A-LCおよびiBoNT/Aは、それぞれ、抗毒素LC pAbまたは抗毒素A pAbのいずれかにより特異的に認識されることを示す。
【図9】図9は、GFP-SNAP25切断酵素活性アッセイにより示されるように、iBoNT/AおよびiBoNT/A-LCが不活性であることを示す。
【図10】図10は、iBoNT/A-Hall (Allergan) (H227Y)-His6バキュロウィルス発現ベクター系(rec-iBoNT/A(H227Y)-His6)用のアミノ酸配列を示す。このrec-iBoNT/Aは抗毒素ポリクローナル抗体により認識される。
【図11】図11は、BEVS発現型rec-iBoNT/A (H227Y)-His6はネイティブなクロストリジウム属産生型BoNT/A純粋A型(pure A)とは異なる移動度を有し、これはBEVS発現型rec-iBoNT/A (H227Y)-His6は昆虫細胞においてグリコシル化されていることを示しうる。
【図1−1】

【図1−2】

【図2−1】

【図2−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの救出薬剤を有効量で哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物におけるボツリヌス毒素中毒症の治療方法。
【請求項2】
救出薬剤が不活性ボツリヌス毒素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
救出薬剤が修飾型非毒性非赤血球凝集素、修飾型HA70およびHA34からなる群から選択される化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
救出薬剤が不活性ボツリヌス毒素および修飾型非毒性非赤血球凝集素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
不活性ボツリヌス毒素が配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
不活性ボツリヌス毒素の抗原性が低下されている、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
不活性ボツリヌス毒素が変異型Hc領域を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
不活性ボツリヌス毒素がグリコシル化されている、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
不活性ボツリヌス毒素が化学的にグリコシル化されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
真核生物発現系での不活性ボツリヌス毒素の発現により、不活性ボツリヌス毒素がグリコシル化されている、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
真核生物発現系がバキュロウィルス発現系である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
修飾型非毒性非赤血球凝集素が非毒性非赤血球凝集素および標的化部分を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
標的化部分が肝臓および/または腎臓のトランスポーターにより認識され、そしてこれらに結合する分子を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
トランスポーターがP-gp、MRP2、BSEP、ABCトランスポーターおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
標的化部分がベラパミル、シクロスポリンA、タモキシフェン、バルスポダール、ビリコダール、タリキダール、ゾスキダール、ラニキダール、ONT-093、ジゴキシン、ジギタリスまたはジギタリス配糖体(例えば、ジギトキシン、α−メチルジゴキシン、β−アセチルジゴキシンおよびウアバインおよびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの分子を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
標的化部分が修飾型非毒性非赤血球凝集素に化学的に連結されている、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
救出薬剤が不活性ボツリヌス毒素および非毒性非赤血球凝集素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
救出薬剤が経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
救出薬剤が静脈内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
救出薬剤が局所投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
哺乳動物がボツリヌス毒素で中毒になった後に救出薬剤が投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
グリコシル化されているボツリヌス毒素。
【請求項23】
真核細胞系により産生される、請求項22に記載のボツリヌス毒素。
【請求項24】
真核細胞系が昆虫細胞を含む、請求項23に記載の毒素。
【請求項25】
昆虫細胞がベクターを含む、請求項24に記載の毒素。
【請求項26】
ベクターがバキュロウィルスを含む、請求項25に記載の毒素。
【請求項27】
毒素のAsn-xaa-Ser/Thr領域の少なくとも1つがグリコシル化されている、請求項22に記載の毒素。
【請求項28】
毒素のAsn-Xaa-Cys領域の少なくとも1つがグリコシル化されている、請求項22に記載の毒素。
【請求項29】
抗原性が低下している、請求項22に記載の毒素。
【請求項30】
毒素が不活性である、請求項22または29に記載の毒素。
【請求項31】
毒素が不活性A型ボツリヌス毒素である、請求項30に記載の毒素。
【請求項32】
毒素の軽鎖の亜鉛結合モチーフが修飾されている、請求項30に記載の毒素。
【請求項33】
亜鉛結合モチーフが配列His-Glu-x-x-His(配列番号1)(式中、xは任意のアミノ酸である)を含む、請求項32に記載の毒素。
【請求項34】
修飾型亜鉛結合モチーフがGly-Thr-x-x-Asn(配列番号2)を含む、請求項32に記載の毒素。
【請求項35】
毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項22または29に記載の毒素。
【請求項36】
請求項22〜29、または31〜35に記載の毒素のいずれかを筋肉状態、自律神経系障害および/または疼痛の治療を必要とする哺乳動物に投与することを含む、筋肉状態、自律神経系障害および/または疼痛を治療する方法。
【請求項37】
抗原性が低下している、ボツリヌス毒素。
【請求項38】
真核細胞系により産生される、請求項37に記載の毒素。
【請求項39】
真核細胞系が昆虫細胞を含む、請求項38に記載の毒素。
【請求項40】
昆虫細胞がベクターを含む、請求項39に記載の毒素。
【請求項41】
ベクターがバキュロウィルスを含む、請求項40に記載の毒素。
【請求項42】
グリコシル化されている、請求項37に記載の毒素。
【請求項43】
毒素のAsn-xaa-Ser/Thr領域の少なくとも1つがグリコシル化されている、請求項37に記載の毒素。
【請求項44】
毒素のAsn-Xaa-Cys領域の少なくとも1つがグリコシル化されている、請求項37に記載の毒素。
【請求項45】
毒素が不活性であるように修飾されている、請求項37に記載の毒素。
【請求項46】
毒素が不活性なA型ボツリヌス毒素である、請求項45に記載の毒素。
【請求項47】
毒素の軽鎖の亜鉛結合モチーフが修飾されている、請求項45に記載の毒素。
【請求項48】
亜鉛結合モチーフが配列His-Glu-x-x-His(配列番号1)(式中、xは任意のアミノ酸である)を含む、請求項47に記載の毒素。
【請求項49】
修飾型亜鉛結合モチーフがGly-Thr-x-x-Asn(配列番号2)を含む、請求項47に記載の毒素。
【請求項50】
毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項37〜49のいずれか1項に記載の毒素。
【請求項51】
抗原性が低下し、不活性であるボツリヌス毒素。
【請求項52】
非毒性非赤血球凝集素および標的化部分を含む修飾型非毒性非赤血球凝集素。
【請求項53】
標的化部分が肝臓および/または腎臓のトランスポーターにより認識され、そしてこれらに結合する分子を含む、請求項52に記載の非毒性非赤血球凝集素。
【請求項54】
トランスポーターがP-gp、MRP2、BSEP、ABCトランスポーターまたはこれらの混合物からなる群から選択される、請求項53に記載の非毒性非赤血球凝集素。
【請求項55】
標的化部分が、ベラパミル、シクロスポリンA、タモキシフェン、バルスポダール、ビリコダール、タリキダール、ゾスキダール、ラニキダール、ONT-093、ジゴキシン、ジギタリスまたはジギタリス配糖体(例えば、ジギトキシン、α−メチルジゴキシン、β−アセチルジゴキシンおよびウアバインおよびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの分子を含む、請求項52に記載の非毒性非赤血球凝集素。
【請求項56】
標的化部分が修飾型非毒性非赤血球凝集素に化学的に連結されている、請求項52に記載の非毒性非赤血球凝集素。
【請求項57】
非クロストリジウム属ボツリヌス菌細胞内で二本鎖ボツリヌス毒素を製造する方法であって、非クロストリジウム属ボツリヌス菌細胞内で一本鎖ボツリヌス毒素および非毒性非赤血球凝集素を発現し、それにより非毒性非赤血球凝集素が一本鎖毒素を二本鎖毒素にニックを入れるのを容易にすることを含む方法。
【請求項58】
細胞が、一本鎖毒素をコードするヌクレオチド配列を動作可能に保有するベクター、および非毒性非赤血球凝集素をコードするヌクレオチド配列を動作可能に保有するベクターを含んでいる、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
一本鎖毒素をコードするヌクレオチド配列を保有するベクターが非毒性非赤血球凝集素をコードするヌクレオチド配列をも保有している、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
ベクターがバキュロウィルス発現系である、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
細胞が真核生物細胞である、請求項57の方法。
【請求項62】
細胞がPC12細胞、SHSY-5Y細胞、HIT-T15細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、CHO細胞、Neo2細胞、酵母細胞および植物細胞からなる群から選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
二本鎖ボツリヌス毒素が活性ボツリヌス毒素である、請求項57に記載の方法。
【請求項64】
二本鎖ボツリヌス毒素が不活性ボツリヌス毒素である、請求項57に記載の方法。
【請求項65】
無細胞系で二本鎖ボツリヌス毒素を作製する方法であって、培地中で一本鎖ボツリヌス毒素を非毒性非赤血球凝集素に接触させて非毒性非赤血球凝集素が一本鎖毒素を二本鎖毒素へとニックを入れるのを容易にする工程を含む、方法。
【請求項66】
一本鎖ボツリヌス毒素をコードするヌクレオチド配列を動作可能に保有するベクター、および非毒性非赤血球凝集素をコードするヌクレオチド配列を動作可能に保有するベクターを含む、非クロストリジウム属ボツリヌス菌細胞。
【請求項67】
細胞がPC12細胞、SHSY-5Y細胞、HIT-T15細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、CHO細胞、Neo2細胞、酵母細胞および植物細胞からなる群から選択される、請求項66に記載の細胞。
【請求項68】
一本鎖ボツリヌス毒素をコードするヌクレオチドを保有するベクターが、非毒性非赤血球凝集素をコードするヌクレオチド配列をも保有する、請求項66に記載の細胞。
【請求項69】
ベクターがバキュロウィルス発現系である、請求項66に記載の細胞。
【請求項70】
毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項22に記載の毒素。
【請求項71】
毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項29に記載の毒素。
【請求項72】
請求項30に記載の毒素のいずれかを必要とする哺乳動物に投与することを含む、筋肉状態、自律神経系障害および/または疼痛を治療する方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−511609(P2007−511609A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541315(P2006−541315)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/038320
【国際公開番号】WO2005/048949
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】