説明

ボルトの引張試験方法

【課題】試験対象となるボルトWのねじ部Waを螺合させる第1治具3と、ボルトの頭部Wbを受ける第2治具6とを具備する引張試験機を用い、第1治具に対し第2治具をボルトの軸方向に離れるように相対移動させ、ボルトに作用する引張荷重とボルトの伸びとを計測するボルトの引張試験方法において、ボルトの伸びを正確に計測できるようにして、ボルトの機械的性質の測定精度を向上させる。
【解決手段】ボルトWの伸びを第1治具3と第2治具6との間に配置する伸び計7を用いて計測する。伸び計7は、第1治具3の第2治具6に対向する面に着座する、ボルトWを挿通する孔73dが形成された第1着座部73と、第2治具6の第1治具3に対向する面に着座する、ボルトWを挿通する孔74dが形成された第2着座部74とを備え、第1着座部73に対する第2着座部74のボルトの軸方向変位を検出するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトの引張試験方法に関し、特に、ボルトの伸びを正確に計測できるようにした方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトの引張試験は、ISO898−1やJIS B 1051「炭素鋼及び合金鋼製締結部品の機械的性質―第1部:ねじ及び植込みボルト」で規格化されている。現状において、製品の状態で行うボルトの引張試験は最大荷重を測定するだけであるが、より高いレベルでの品質保証を実現すべきとの観点から、降伏特性及び延性を調べるためのボルト製品による引張試験方法を追加するための改正が進められており、現在委員会原案(CD)が作成され、技術的実現性について議論が行われている段階である。
【0003】
ISO/CD898−1で規定される新しいボルトの引張試験では、図4(a)に示すように、試験対象となるボルトWのねじ部Waを螺合させる第1治具Aと、ボルトWの頭部Wbを受ける第2治具Bとを具備する引張試験機を用い、遊びねじ部Wa´(ねじ部Waのうち第1治具Aに螺合しない部分)の長さがボルトWの呼び径d以上、例えば、1.2dになるようにボルトWをセットし、第1治具Aに対し第2治具BをボルトWの軸方向に相対移動させ、ボルトWに引張荷重を作用させる。
【0004】
ここで、第1治具と第2治具とは夫々試験機本体とクロスヘッドとにユニバーサルジョイントを介して連結され、クロスヘッドの動きで第2治具が第1治具に対し相対移動される。そして、クロスヘッドに作用する荷重とクロスヘッドの変位とを記録する機能を持つ万能試験機を用いることにより図4(b)に示すようなボルトに作用する引張荷重Fとボルトの伸びΔLとの関係を示す荷重―伸び曲線を作成すれば、この荷重―伸び曲線からボルトの呼び引張強さRmf、0.4%耐力Rpf、破断伸びAf等のボルトの降伏特性及び延性を含む機械的性質を現す値を求めることができる。尚、Rmfは最大荷重Fmtをボルトの有効断面積で除した値であり、Rpfは0.4%の永久伸びを生ずる荷重Fptをボルトの有効断面積で除した値であり、Afは破断時の永久伸びΔLpを遊びねじ部Wa´の長さ(=1.2d)で除した値である。また、Fptは、荷重―伸び曲線の弾性域に当てはめた直線L1に対し0.4%の伸び分(=0.0048d)だけ平行にオフセットした直線L2と荷重―伸び曲線との交点の荷重であり、ΔLpは破断点を通る直線L1に平行な直線L3と直線L1との間の伸び量である。また、直線L1は、荷重―伸び曲線の弾性域における上基準点と下基準点とを通る直線であり、上基準点と下基準点は、ISO898−1で規定する保証荷重をFpとして、夫々、荷重―伸び曲線上の荷重が0.7Fpになる点と荷重が0.4Fpになる点に設定されている。
【0005】
ところで、万能試験機により作成した荷重―伸び曲線では、治具の連結部等の影響により弾性域における非線形性が生じ、直線L1の当てはめ精度が悪くなる。即ち、直線L1の当てはめ精度を高めるには、下基準点の荷重を0.2Fp程度に低くすることが望まれるが、このような低荷重では荷重―伸び曲線が非線形となるため、上記の如く下基準点の荷重を0.4Fpと高く設定せざるを得ず、直線L1の当てはめ精度が悪くなる。また、試験機本体及び治具等の変形が重畳されて、弾性域での傾きが緩やかになり、直線L2と荷重―伸び曲線との交点における交差角が小さくなって、Fptの読取誤差を生じやすくなり、直線L1の当てはめ精度が悪くなることと相俟ってボルトの機械的性質を高精度で求めることが困難になる。
【0006】
かかる不具合を解消するために、図5に示す如く、第2治具Bの外側面にストローク式の伸び計Cを取付け、伸び計CのロッドC1を第1治具Aに取付けた当て板C2に当接させて、第1治具Aに対する第2治具Bのボルト軸方向の変位を伸び計Cにより計測し、これに基づいてボルトWの伸びを求めることも考えられる。この方法で作成される荷重―伸び曲線は図3にb線で示す通りになり、同図にc線で示す万能試験機による荷重―伸び曲線に比し弾性域での傾きが急峻になる。然し、この方法では、ボルトWに対し伸び計Cが側方に離れているため、各治具A,Bの傾きや撓み等により伸び計Cと当て板C2との間の距離が変化し、ボルトWの伸びを正確に計測できなくなる。例えば、b線で示されているように、試験開始直後に伸びがマイナス方向に振れることがある。
【0007】
また、一般的な引張試験方法として、試験片にセットした伸び計で試験片の伸びを計測する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この伸び計は、先鋭な先端部を持つ一対のアームと、両アーム間の距離変化を検出する検出手段とを備えており、両アームの先端部を試験片の2箇所の標点に突き当てるようにして試験片に伸び計をセットし、試験体の標点間の伸びを計測する。ボルトの引張試験でもこのような伸び計をボルトにセットすることが考えられる。ここで、ボルトの引張試験で伸びる部分は大半が遊びねじ部であり、遊びねじ部の伸びを計測するには、伸び計をその一方のアームの先端部が第1治具の表面に合致する遊びねじ部の部分に突き当たるようにセットすることが必要になる。然し、第1治具に対する干渉を回避する上で、アームの先端部は第1治具の表面から離れた遊びねじ部の部分に突き当てざるを得ず、遊びねじ部の伸び、即ち、ボルトの伸びを正確に計測することはできない。また、ボルトに伸び計をセットするのに時間がかかり、更に、アームの先端部をボルトに突き当てることでボルトに傷が付くことがあり、また、ボルト破断時にボルトにセットした伸び計の損傷を生ずる可能性もある。
【特許文献1】特開平11−83419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、ボルトの伸びを正確に計測できるようにして、ボルトの機械的性質の測定精度を向上させたボルトの引張試験方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、試験対象となるボルトのねじ部を螺合させる第1治具と、ボルトの頭部を受ける第2治具とを具備する引張試験機を用い、第1治具に対し第2治具をボルトの軸方向に相対移動させ、ボルトに作用する引張荷重とボルトの伸びとを計測するボルトの引張試験方法において、ボルトの伸びを第1治具と第2治具との間に配置する伸び計を用いて計測するようにし、この伸び計は、第1治具の第2治具に対向する面に着座する、ボルトを挿通する孔が形成された第1着座部と、第2治具の第1治具に対向する面に着座する、ボルトを挿通する孔が形成された第2着座部とを備え、第1着座部に対する第2着座部のボルトの軸方向変位を検出するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、第1と第2の各着座部の孔にボルトが挿通されるため、各着座部が第1と第2の各治具にボルトとほぼ同心的に着座することになる。従って、第1治具と第2治具との間に位置する遊びねじ部を含むボルトの部分の伸びを各治具の傾きや撓み更には試験機本体の変形等の影響を受けずに正確に計測できる。その結果、荷重―伸び曲線の弾性域における直線性が確保されると共に、弾性域における勾配が急峻になり、荷重―伸び曲線からボルトの機械的性質を現す各種値を高精度で求めることができる。
【0011】
また、ボルトに伸び計をセットする必要がないため、効率良く引張試験を行うことができ、更に、ボルトに傷を付けたり、ボルト破断時に伸び計の損傷を生じたりする虞もない。
【0012】
尚、第1着座部に対する第2着座部の変位は、レーザー等により非接触で検出することも可能であるが、コスト的には、第1と第2の両着座部に連結される起歪体を設け、起歪体の歪みを歪みゲージ等の検出手段で検出することにより、第1着座部に対する第2着座部の変位を求める方式が有利である。特に、伸び計は、ボルトの軸方向に直交する方向を長軸方向とする長円の環状に形成された起歪体と、起歪体の長軸方向両側の湾曲部の歪みを検出する検出手段とを備え、起歪体の長軸方向に沿う一対の長辺部の一方の中央部と他方の中央部とに夫々第1着座部と第2着座部とが設けられていることが望ましい。これによれば、各治具の傾き等で起歪体の長軸方向一側の湾曲部の歪みと他側の湾曲部の歪みとが相違しても、両側の湾曲部の歪みを平均することによりボルトの伸びを正確に計測することができる。
【0013】
また、上記起歪体が、一対の長辺部間の間隔を広げる方向の弾性力を持ち、この弾性力により第1と第2の各着座部が第1と第2の各治具に押し付けられるようにしておけば、各着座部を各治具にねじ等で固定しておく必要がなく、伸び計のセット作業が容易になって能率アップを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1を参照して、1は引張試験機の本体であり、この試験機本体1の下端部にユニバーサルジョイント2を介して第1治具3が連結され、また、試験機本体1に上下方向に移動自在に支持されるクロスヘッド4にユニバーサルジョイント5を介して第2治具6が連結されている。
【0015】
第1治具3は、方形の枠状に形成された治具本体31と、治具本体31の上辺部に下方から着脱自在に嵌合されるアダプタ32とで構成され、第2治具6は、方形の枠状に形成された治具本体61と、治具本体61の下辺部に上方から着脱自在に嵌合されるアダプタ62とで構成される。図2に示されているように、第1治具3のアダプタ32には、試験対象となるボルトWのねじ部Waを螺合させる上下方向に長手のねじ孔32aが形成され、また、第2治具6のアダプタ62には、ボルトWの頭部Wbを受ける水平の座面62aと、座面62aから下方にのびるボルトWの軸部を挿通する挿通孔62bとが形成されている。
【0016】
ボルトWの引張試験に際しては、第2治具6のアダプタ62の挿通孔62bに上方からボルトWを挿入して、ボルトWの頭部Wbをアダプタ62の座面62aに着座させると共に、ボルトWのねじ部WaをボルトWの呼び径の1.2倍の長さの遊びねじ部Wa´を生ずるように第1治具3のアダプタ32のねじ孔32aに螺合させる。このようにしてボルトWを試験機にセットした後、クロスヘッド4を上動させて、第2治具6を第1治具3に対しボルトWの軸方向に離れる方向、即ち、上方に移動させ、第2治具6のアダプタ62を介してボルトWに引張荷重を作用させる。
【0017】
ここで、第1治具3と第2治具6との間には、ボルトWの伸びを計測するための伸び計7が配置されている。この伸び計7は、図2に明示されているように、ボルトWの軸方向(上下方向)に直交する方向を長軸方向とする長円の環状に形成された起歪体71と、起歪体71の長軸方向両側の湾曲部71a,71aの歪みを検出する一対の検出手段72,72とを備えている。尚、各検出手段72は、各湾曲部71aの表裏に貼り付けた歪みゲージ72aで構成されている。
【0018】
起歪体71の長軸方向に沿う下側の長辺部71bの中央部には、第1治具3の第2治具6に対向する面に着座する第1着座部73が設けられ、起歪体71の長軸方向に沿う上側の長辺部71bの中央部には、第2治具6の第1治具3に対向する面に着座する第2着座部74が設けられている。第1と第2の各着座部73,74は、起歪体71の各長辺部71bの中央部にねじ止めされる上下2枚の板から成る固定ブロック73a,74aと、固定ブロック73a,74aに形成したねじ孔73b,74bに螺着されるカラー73c,74cとで構成され、カラー73c,74cの内周の孔73d,74dにボルトWが挿通されるようにしている。かくして、第1着座部73は、カラー73cの下端において第1治具3のアダプタ32の上端面にボルトWと同心的に着座し、第2着座部74は、カラー74cの上端において第2治具6のアダプタ62の下端面にボルトWと同心的に着座する。ここで、カラー73c,74cは、ボルトWの径に合わせて交換される。また、起歪体71の各長辺部71bの中央部にはカラー73c,74cを挿通する孔が形成されている。尚、起歪体71を長辺部71bの中央部分で分断し、起歪体71の長軸方向一方の半部と他方の半部とを固定ブロック73a,74aを介して連結し、全体として長円環状の起歪体71を構成することも可能である。
【0019】
ところで、第1と第2の各着座部73,74を第1と第2の各治具3,6にねじで締結しても良いが、これでは、伸び計7のセット作業に手間がかかる。そこで、本実施形態では、起歪体71を、上下の長辺部71b,71b間の間隔を広げる方向の弾性力を持つようにばね板で形成し、この弾性力で第1と第2の各着座部73,74が第1と第2の各治具3,6に押し付けられるようにしている。これによれば、伸び計7のセット作業に手間がかからず、引張試験の能率アップを図ることができる。
【0020】
本実施形態によれば、伸び計7の第1と第2の各着座部73,74が上記の如く第1と第2の各治具3,6にボルトWとほぼ同心的に着座することになる。そのため、伸び計7の検出手段72により検出される起歪体71の長軸方向両側の湾曲部71aの歪みから計測される第1着座部73に対する第2着座部74のボルトWの軸方向変位は、第1治具3と第2治具6との間に位置する遊びねじ部Wa´を含むボルトWの部分の伸びを正確に表すことになる。従って、各治具3,6の傾きや撓み更には試験機本体1の変形等の影響を受けずにボルトWの伸びを正確に計測できる。尚、各治具3,6の傾き等で起歪体71の長軸方向一側の湾曲部71aの歪みと他側の湾曲部71aの歪みとが相違しても、両側の湾曲部71a,71aの歪みを平均することによりボルトWの伸びを正確に計測することができる。
【0021】
そして、第1着座部73に対する第2着座部74のボルトWの軸方向変位に基づいて作成される荷重―伸び曲線は図3のa線で示す通りになり、荷重―伸び曲線の弾性域における線形性が確保されると共に、弾性域における勾配が急峻になる。従って、荷重―伸び曲線の弾性域に当てはめる直線(図4(b)の直線L1)を決定するための下基準点の荷重を低くすることができて、直線L1の当てはめ精度が向上し、また、直線L1の勾配が急になるため、直線L1に対し0.4%の伸び分だけオフセットした直線L2と荷重―伸び曲線との交点の交差角が大きくなって、この交点の読取精度も向上する。その結果、ボルトWの機械的性質を現す呼び引張強さRmf、0.4%耐力Rpf、破断伸びAfといった各種値を高精度で求めることができる。
【0022】
また、ボルト以外の試験片の引張試験で用いる伸び計と異なり、本実施形態の伸び計7はボルトWにセットするものではないため、効率良く引張試験を行うことができ、更に、ボルトWに傷を付けたり、ボルトWの破断時に伸び計7の損傷を生したりする虞もない。
【0023】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1着座部73に対する第2着座部74の変位をレーザー等により非接触で検出するように伸び計7を構成することも可能である。また、上記実施形態では、第2治具6を移動させているが、第1治具3を移動させるようにしても良く、要は、第1治具3に対し第2治具6をボルトWの軸方向に離れるように相対移動させれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明方法の実施に用いる引張試験機の実施形態を示す全体正面図。
【図2】図1の引張試験機の要部の切断正面図。
【図3】ボルトの荷重―伸び曲線を示すグラフ。
【図4】(a)ISO/CD898−1で規定されるボルトの引張試験の概要を示す図、(b)ボルトの荷重―伸び曲線に基づくボルトの機械的性質の求め方を示す図。
【図5】ストローク式伸び計を用いたボルトの引張試験の概要を示す図。
【符号の説明】
【0025】
W…ボルト、Wa…ねじ部、Wb…頭部、3…第1治具、6…第2治具、7…伸び計、71…起歪体、71a…湾曲部、71b…長辺部、72…検出手段、73…第1着座部、74…第2着座部、73d,74d…ボルトを挿通する孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象となるボルトのねじ部を螺合させる第1治具と、ボルトの頭部を受ける第2治具とを具備する引張試験機を用い、第1治具に対し第2治具をボルトの軸方向に相対移動させ、ボルトに作用する引張荷重とボルトの伸びとを計測するボルトの引張試験方法において、
ボルトの伸びを第1治具と第2治具との間に配置する伸び計を用いて計測するようにし、この伸び計は、第1治具の第2治具に対向する面に着座する、ボルトを挿通する孔が形成された第1着座部と、第2治具の第1治具に対向する面に着座する、ボルトを挿通する孔が形成された第2着座部とを備え、第1着座部に対する第2着座部のボルトの軸方向変位を検出するように構成されていることを特徴とするボルトの引張試験方法。
【請求項2】
前記伸び計は、ボルトの軸方向に直交する方向を長軸方向とする長円の環状に形成された起歪体と、起歪体の長軸方向両側の湾曲部の歪みを検出する検出手段とを備え、起歪体の長軸方向に沿う一対の長辺部の一方の中央部と他方の中央部とに夫々前記第1着座部と前記第2着座部とが設けられていることを特徴とする請求項1記載のボルトの引張試験方法。
【請求項3】
前記起歪体は、前記一対の長辺部間の間隔を広げる方向の弾性力を持ち、この弾性力により前記第1と第2の各着座部が前記第1と第2の各治具に押し付けられることを特徴とする請求項2記載のボルトの引張試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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