ボルト・ナット締付機及びネジ締め工法
【課題】 1台の締付機で、仮締めと本締めの切替えを可能にする。
【解決手段】 モータ1の回転を減速機構2を含む回転伝達経路を介して締付ソケット8に伝達してボルト・ナットの締付けを行うボルト・ナット締付機において、回転伝達経路に高速・低トルク運転と、低速・高トルク運転に手動で切り替える変速装置4を設けた。締め付けるべき複数のネジに対して、先ず、高速・低トルク運転で全てのネジを仮締めしてから、全てのネジについて、低速・高トルク運転で本締めする。締付トルクにバラツキは生じない。
【解決手段】 モータ1の回転を減速機構2を含む回転伝達経路を介して締付ソケット8に伝達してボルト・ナットの締付けを行うボルト・ナット締付機において、回転伝達経路に高速・低トルク運転と、低速・高トルク運転に手動で切り替える変速装置4を設けた。締め付けるべき複数のネジに対して、先ず、高速・低トルク運転で全てのネジを仮締めしてから、全てのネジについて、低速・高トルク運転で本締めする。締付トルクにバラツキは生じない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ締結において、高速・低トルクの仮締め運転と、低速・高トルクの本締め運転の切替えができるボルト・ナット締付機及びネジ締め工法に関する。
【背景技術】
【0002】
フランジのネジ締結、自動車ホィールのネジ締結では、ボルト・ナットを対角順に仮締めし、次に同じく対角順に本締めして均等締めすることが要求される。
これらネジ締結に用いられる一般のボルト・ナット締付機は、1回の締付けでボルト・ナットに規定のトルクが導入されるから、仮締めと本締めの使い分けは出来ない。
自動変速機構を有する締付機が存在する(特許文献1)が、これはボルト・ナットの締付け途上で、負荷の変化を検知して高速・低トルク運転から低速・高トルク運転に切り替わるだけであり、1回の締付けによって低速・高トルクによる規定のトルクで締付けが成されてしまう。従って、ボルト・ナットを対角順に仮締めし、次に同じく対角順に本締めする様な使い方はできない。
そこで、従来は、仮締め用の高速・低トルクの締付機と、本締め用の低速・高トルの締付機を準備して、夫々を使い分けることで前記均等締めを実現している。この場合、高価な締付機を2台必要とする。トラック等の大型自動車のホィールのボルト・ナット締付機は、機長も長く、重量も嵩むので、締付機を吊り上げた状態で使用することが多いが、仮締めと本締めで、締付機を吊り替えるのに手間が掛かって、作業能率が悪い。
【0003】
【特許文献1】特開平9−295278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、締付機の運転を高速・低トルク運転から、低速・高トルク運転に手動で切り替え可能とすることにより、上記問題を解決できるボルト・ナット締付機及び均等締めができるネジ締め工法を明らかにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1のボルト・ナット締付機は、モータの回転を減速機構(2)を含む回転伝達経路を介して締付ソケット(8)に伝達し、ボルト・ナットの締付けを行うボルト・ナット締付機において、ソケット(8)の回転速度を複数段に手動で切替え可能な変速装置(4)を回転伝達経路に設ける。
【0006】
請求項2は、請求項1のボルト・ナット締付機において、変速装置(4)は、モータによって定位置で回転する駆動軸(40)上に大径の第1歯車(41)と、小径の第2歯車(42)を設け、第1歯車(41)に噛合し内面に突条(43a)を有する小径の第3歯車(43)と、第2歯車(42)に噛合し内面に突条(44a)を有する大径の第4歯車(44)を夫々回転自由に具えた従動軸(5)の軸芯にガイド孔(51)を開設して該ガイド孔にスプール(53)をスライド可能に嵌め、該スプールに開設した周溝(54)にボール(55)を嵌めて、該ボールを従動軸(5)の内外を貫通する長孔(52)に対して従動軸(5)の軸方向に余裕のある状態に且つ従動軸(5)の外側に臨出する様に収容し、手動切替え手段(6)で、スプール(53)をスライドさせることによって、ボール(55)の位置を第3歯車(43)側或いは第4歯車(44)側に切り替えて対応する歯車内面の(43a)又は(44a)に係合させることにより、第3歯車(43)とボール(55)を介して駆動軸(40)の回転を従動軸(5)に伝達する高速・低トルク運転と、第4歯車(44)とボール(55)を介して駆動軸(40)の回転を従動軸(5)に伝達する低速・高トルク運転に選択的に切替え可能である。
【0007】
請求項3は、請求項1又は2に記載のボルト・ナット締付機において、手動切替え手段(6)は、スプール(53)の従動軸(5)から突出した部分に配備され該スプールとは回転自由であるが軸方向にはスプールと一体に移動し半径方向に外向き突軸(63)を具えたスプールホルダー(61)と、該スプールホルダーの軸心を中心に定位置にて回転可能に配備されスプールホルダー(61)上の突軸(63)を貫通させ回転によって該突軸に推力を付与する斜め溝孔(65)及び手動切替えハンドル(66)を有する切替え部材(64)と、スプールホルダー(61)上の突軸(63)をスプール(53)の軸心に沿う方向に移動案内を行う案内部材(67)とによって構成される。
【0008】
請求項4は、請求項1乃至3の何れかに記載のボルト・ナット締付機において、モータは電気モータ(1)であって、高速・低トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(7)の2つのボリュームが切替え可能に連繋されている。
【0009】
請求項5は、請求項4に記載のボルト・ナット締付機において、手動切替え手段(6)による運転の切替えで、切り替えた方の運転に対応するボリューム(7)又は(71)が自動的に選択される様に構成されている。
【0010】
請求項6のネジ締め工法は、請求項1乃至5に記載のボルト・ナット締付機を用いて、先ず高速・低トルク運転によって全てのネジを仮締めし、次に低速・高トルク運転によって全てのネジを本締めする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の締付機は、先ず、締付け対象の全てのボルト・ナットに対して、高速・低トルク運転で仮締めを行なう。ソケットは高速で回転してネジ締めを行うから、ナットを短時間で着座させることができ、作業性がよい。
次に、手動で低速・高トルク運転に切り替えて、全てのネジに本締めを行う。ネジは予め均一トルクで仮締めされているから、各々のネジに導入トルクにバラツキが生じることはなく、均等締めが可能となる。
仮締めは、高速回転で短時間で済むから、結果的に本締め完了までの時間を短縮できる。
1台の締付機で、仮締めと本締めを使い分けできるから、高価な締付機を仮締め用と、本締め用の2台準備する必要はない。又、締付機を吊り下げ支持して使用する場合、2台の締付機を吊り替える必要はなく、作業能率を向上できる。
【0012】
請求項2の締付機の変速装置(4)は、手動でスプール(53)をスライド移動させて、歯車回転伝達経路を切り替えて、高速・低トルク運転と低速・高トルク運転の切替えを行うため、構成の簡素と嵩張りを抑えることができる。
【0013】
請求項3の締付機は、運転切替えハンドル(66)を手動で回転させて、スプール(53)をスライド移動させることができ、運転の切替え操作性がよい。
【0014】
請求項4の締付機は、高速・低トルクの仮締め運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルクの本締め運転時のトルク調整を行うボリューム(7)が切替え可能に連繋されているから、仮締めのトルクと、本締めのトルクを夫々のボリューム(7)又は(71)で設定できる。
【0015】
請求項5の締付機は、手動切替え手段(6)による切替えで、電気モータ(1)は対応する方のボリュームに自動的に切り替わるから、設定すべき側のボリュームを間違う虞れはない。
【0016】
請求項6のネジ締め工法は、請求項1乃至5に記載のボルト・ナット締付機を用いて、先ず高速・低トルク運転によって全てのネジを仮締めし、次に低速・高トルク運転によって全てのネジを本締めできるから、例えば円周上に配備された複数のネジを対角順に仮締めし、又、対角順に本締めすることにより、均等締めできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1、図2に示す如く、ボルト・ナット締付機は駆動源である電気モータ(1)(以下、単に「モータ」と呼ぶ)、減速機構(2)、減速機構(2)に接続された延長筒軸(3)、該延長筒軸(3)に取り付けられた反力受けアーム(37)を有している。
以下の説明で、「前」とは反力受けアーム(37)側、「後」とはモータ(1)側である。
図13は、トラック等の大型車輌のタイヤ(9)のホィール(90)のボルト・ナットを締付ける状態を示しており、締付機をバランス式吊り具(100)にて吊り下げ支持し、ソケット(8)をボルト(91)上のナット(92)に係合し、反力受けアーム(37)を隣り合うナット(92a)等の突出物に当て、モータ(1)の回転を減速機構(2)を含む回転伝達経路を介して締付ソケット(8)に伝達してナット(92)の締め付けを行う。
バランス式吊り具(100)は、揺動アーム(101)にガス式、エアー式等のダンパー(図示せず)を連繋した公知の構成であり、締付機とダンバーをバランスさせて、締付機を吊り下げ支持する。
【0018】
図1、図2、図5に示す如く、減速機構(2)のケーシング(21)の後端面にモータ(1)のケーシング(11)がネジ止め固定され、モータ軸(12)は減速機構ケーシング(21)内に侵入している。
減速機構ケーシング(21)の後端面の左右にモータ(1)を挟んで、斜め後方上向に支持アーム(14)(14)が突設され、支持アーム(14)(14)の先端間に手持ちハンドル(15)が設けられる。
支持アーム(14)(14)の内、右側(図1の平面図において、上側)の支持アーム(14)には、トリガー(10)が上向きに設けられている。
トリガー(10)を押圧してる間は、締付機の運転がなされる。
前記減速機構ケーシング(21)内に変速装置(4)が配備され、該変速装置(4)に連繋された多段遊星歯車減速機構(23)の一部が、減速機構ケーシング(21)の前方に突出している。
【0019】
図5、図7、図8に示す如く、変速装置(4)は、モータ軸(12)と平行に、駆動軸(40)と従動軸(5)を配備し、モータ軸(12)と駆動軸(40)の後端を歯車列(46)で減速回転伝達する様に連繋し、駆動軸(40)と従動軸(5)を回転速度切替え可能に連繋する。
【0020】
駆動軸(40)と従動軸(5)の該連繋は、駆動軸(40)の前部に大径の第1歯車(41)と小径の第2歯車(42)を夫々駆動軸(40)と一体回転可能に設ける。
従動軸(5)には該軸に対して夫々回転自由に小径の第3歯車(43)と、大径の第4歯車(44)を設け、第3歯車(43)と前記第1歯車(41)、第4歯車(44)と前記第2歯車(42)を噛合する。
第3歯車(43)と第4歯車(44)の内周面の一部には、夫々ベアリング(43b)(44b)が嵌まっており、他の部分には周方向に等間隔に複数(実施例では4つ)の突条(43a)(44a)が軸心に沿う方向に等間隔に突設されている。
第3歯車(43)と第4歯車(44)との間には、互いの回転を干渉しない様にスラストベアリング(45)が介装されている。
【0021】
従動軸(5)には、前端に歯車(50)が形成され、軸心には後端に開口するガイド孔(51)が開設される。従動軸(5)のガイド孔(51)部分の周壁には、内外面に貫通する複数の長孔(52)が開設される。長孔(52)は、従動軸(5)の軸心に沿う方向に長く、前記第3歯車(43)、第4歯車(44)の突条(43a)(44a)の周方向の間隔に対応して周方向に等間隔に開設されている。
従動軸(5)のガイド孔(51)にスプール(53)をスライド可能に嵌合する。
スプール(53)に周溝(54)を開設し、該周溝(54)に複数のボール(55)を嵌め、各ボール(55)を従動軸(5)の長孔(52)から外部に臨出させ、前記第3歯車(43)、第4歯車(44)のどちらかの突条(43a)、(44a)と噛み合い可能となす。
【0022】
尚、図7、図8では、モータ軸(12)と駆動軸(40)を連繋する歯車列(46)の噛合関係を分かり易くしたため、モータ軸(12)と従動軸(5)の軸心はずれている様に表されているが、実際は、図5に示す如く、モータ軸(12)と従動軸(5)は同一直線上に位置している。
【0023】
上記スプール(53)に、スプール(53)をスライドさせて前記ボール(55)の位置を、第3歯車(43)側或いは第4歯車(44)に手動で切り替える手動切替え手段(6)が連繋される。
手動切替え手段(6)は、スプール(53)に接続され外向きに突軸(63)を有するスプールホルダー(61)と、運転切替えハンドル(66)を具え該ハンドルの回転によって、前記突軸(63)を押してスプール(53)をスライドさせる切替え部材(64)とによって構成される。
【0024】
スプールホルダー(61)は、前後面が開口した横向き短筒体であって、スプール(53)に対してベアリング(62)を介して回転自由に、且つ軸方向にはスプールと一体に移動する様にスプール(53)に接続され、半径方向外向きに突軸(63)を突設している。
【0025】
切替え部材(64)は底部がモータ(1)側に向き、従動軸(5)側が開口した横向き筒体であって、定位置にて回転可能に支持されている。
切替え部材(64)の周壁には切替え部材(64)の軸心に対して螺旋方向に斜め溝孔(65)が貫通開設されている。又、切替え部材(64)には、減速機構ケーシング(21)の天井壁を貫通して外部に突出する運転切替えハンドル(66)が突設されている。
切替え部材(64)は、前記スプールホルダー(61)を回転可能に収容して、スプールホルダー(61)上の突軸(63)を、斜め溝孔(65)をスライド可能に貫通して外部に臨出させている。
図5に示す如く、切替え部材(64)は案内部材(67)に包囲され、該案内部材(67)にスプール(53)の軸心に沿う方向に開設されたガイド溝(67a)に、前記突軸(63)の先端がスライド可能に嵌まっている。
【0026】
運転切替えハンドル(66)を回転操作して切替え部材(64)を回転させると、切替え部材(64)の斜め溝孔(65)の孔縁に推力が生じて突軸(63)をガイド溝(67a)に沿って移動させ、即ち、スプール(53)を従動軸(5)内でスライド移動させて、ボール(55)の位置を第3歯車(43)側、又は第4歯車(44)側に切り替えできる。ボール(55)は、切り替わった方の歯車(43)又は(44)の突条(43a)又は突条(44a)に噛合って、歯車(43)又は(44)の回転を歯車(50)に伝達する。
第3歯車(43)の回転は、第4歯車(44)の回転よりも速いから、ボール(55)が第3歯車(43)側に位置しているときが、仮締め用の高速・低トルク運転、第4歯車(44)側に位置しているときが、本締め用の低速・高トルク運転となる。
【0027】
図10に示す如く、減速機構ケーシング(21)の天井壁の外面には、ハンドル(66)の運転切替えの方向を示す表示板(26)、後記する出力軸(32)の右回転運転(右ネジに対して締付け運転)と、左回転運転(右ネジに対しては緩め運転)の切替え用スイッチ(19)及び後記するボリューム(7)が設けられている。
更に、図3、図4に示す如く、減速機構ケーシング(21)の天井壁には、前記バランス式吊り具(100)によって締付機を吊るための吊り板(16)が上向きに突設され、該吊り板(16)には吊り孔(17)が開設されている。
【0028】
図5、図6に示す如く、減速機構ケーシング(21)の前部には前方に突出する遊星歯車ケーシング(22)が回転可能に設けられ、該遊星歯車ケーシング(22)内に多段遊星歯車減速機構(23)が配備され、前記従動軸(5)先端の歯車(50)が最上流の遊星歯車機構の太陽歯車として連繋されている。
遊星歯車ケーシング(22)には、延長軸(3)が遊星歯車ケーシング(22)に対して着脱可能にセットされる。
延長軸(3)は、繋ぎ筒(27)を介して遊星歯車ケーシング(22)と一体回転可能に接続される筒状の反力受け軸(35)と、該反力受け軸(35)に回転可能に嵌まった出力軸(32)とによって構成される。
【0029】
反力受け軸(35)の前部外周に反力受けアーム(37)の基端部がスライド可能に嵌まり、反力受けアーム(37)は、反力受け軸(35)に形成したスプライン溝(31)に噛合して、反力受け軸(35)と一体回転可能である。
反力受けアーム(37)は、反力受け軸(35)の前端に設けた環状の係止部材(30)によって抜止めが図られ、反力受け軸(35)に嵌めたバネ(39)によって前方に付勢されている。
【0030】
出力軸(32)は、軽量化のため前端部を除いて筒体に形成され、前端部に反力受け軸(35)から突出して角軸(32a)が形成されている。該角軸(32a)には、口径サイズの異なるソケット(8)が交換可能に取り付けられる。
出力軸(32)の後部は拡大して、延長筒軸(3)の内面段部(33)に当たって前方への抜け止めが図られる。
出力軸(32)の後部は、中間筒(28)を介して前記多段遊星歯車機構(23)の最下流側の遊星歯車支持枠(24)と一体回転可能に連繋される。
出力軸(32)と反力受け軸(35)の回転方向は逆である。
上記延長軸(3)は、ネジ締めの用途、作業環境に応じて、長さの異なるものと交換可能であり。延長軸(3)を構成する出力軸(32)と反力受け軸(35)は、長さが対応するものがセットで用いられ、セットで交換される。
【0031】
実施例では、モータ(1)には、図10に示す如く、高速・低トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(7)の2つのボリュームが切替え可能に連繋されており、夫々の運転において、モータ(1)に流れる電流値を制限してトルクを調整できる。
実施例では、図11に示す如く、高速・低トルク運転時はボリューム(71)によって、400N・m未満、実施例で200N・m未満を設定範囲とした。図12に示す低速・高トルク運転時は、ボリューム(7)によって、400N・mから900N・mを設定範囲とした。
2つのボリューム(7)(71)は、前記手動切替え手段(6)による切替えで、モータ(1)は切り替えた方の運転に対応する方のボリューム(7)又は(71)に自動的に切り替わる様になっている。これは、手動切替え手段(6)の運転切替えハンドル(66)の切り替えによって、回路の切替え接点(図示せず)をメカ的に切り替える等、手段は問わない。
又、実施例では、高速・低トルク側のボリューム(71)は、減速機構ケーシング(21)内に配備され、減速機構ケーシング(21)の蓋(20)を開かないと調整できない様になっており、製品出荷前にメーカ側でボリューム値を設定しておく。
【0032】
次に図13に示す如く、大型トラックのタイヤ(9)のホィール(90)を締め付ける手順を説明する。
先ず、締め付けるべき全てのボルト(91)に、ナット(92)を手で螺合する。ナット(92)が着座するまで螺合する必要はない。
締付機をバランス式吊り具(100)で吊り下げ支持すると共に、手持ちハンドル(15)を右手で逆手に掴む。
運転切替えハンドル(66)を操作して、高速・低トルク運転に切り替える。
締め付けるべきナット(92)の高さにソケット(8)が対応する様に、締付機の高さを調整し、ソケット(8)を該ナット(92)に係合すると共に、反力受けアーム(37)の先端を、該ナット(92)の近傍のナット(92a)に当接可能に接近させておく。
【0033】
手持ちハンドル(15)を握っている右手親指でトリガー(10)を押して運転を開始する。
ソケット(8)は高速で回転して、ナット(92)を締め付ける。締付け反力は、反力受けアーム(37)を介して隣りのナット(92a)及び該ナットが螺合したネジ軸(91a)で受けられる。
ナット(92)を短時間で着座させることができる。更に、高速・低トルク用のボリューム(71)で設定したトルクで仮締めができる。
最初のナット(92)から、対角順に全てのナットについて仮締めを行なった後、運転切替えハンドル(66)を、手動で低速・高トルクの本締め側に切り替える。
前記同様にして、全てのナットに対して、対角順に本締めを行う。
【0034】
ナットは予め均一トルクで仮締めされているから、本締めの際のネジの導入トルクにバラツキが生じることはなく、均等締めが可能となる。
仮締めは、ソケット(8)が高速回転して短時間で済むから、結果的に本締め完了までの時間を短縮できる。
1台の締付機で、仮締めと本締めを使い分けできるから、高価な締付機を、仮締め用と、本締め用の2台準備する必要はない。又、締付機を吊り下げ支持して使用する場合、2台の締付機を吊り替える必要はなく、作業能率を向上できる。
【0035】
実施例の締付機の変速装置(4)は、手動でスプール(53)をスライド移動させて、歯車回転伝達経路を切り替えて、高速・低トルク運転と低速・高トルク運転の切替えを行うため、構成の簡素化と嵩張りを抑えることができる。
又、締付機は、運転切替えハンドル(66)を手動で回転させて、スプール(53)をスライド移動させることができ、運転の切替え操作性がよい。
又、実施例の締付機は、高速・低トルクの仮締め運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルクの本締め運転時のトルク調整を行うボリューム(7)が切替え可能に連繋されているから、仮締めのトルクと、本締めのトルクを夫々のボリュームで設定範囲内で任意に設定できる。
特に、実施例では、本締めのトルクを調整するボリューム(7)は、減速機構ケーシング(21)の外側に位置しており、作業者がボルト・ナットの口径に合わせて、最適に調整でき便利である。
又、実施例の締付機は、手動切替え手段(6)による切替えで、モータ(1)は対応する方のボリューム(7)又は(71)に自動的に切り替わるから、設定すべき側のボリュームを間違う虞れはない。
【0036】
尚、上記実施例は、電気モータを駆動源とするものであるが、エアーモータを駆動源とする締付機において、前記手動切替え式の変速装置(4)を組み込むことによって、1台の締付機で、高速・低トルクの仮締め運転と低速・高トルク運転の本締め運転を実現できる。
【0037】
上記実施例の変速装置(4)は2段切替えであるが、 図14は、3段に変速可能な変速装置(4)の実施例を示している。
駆動軸(40)上には、前記第1歯車(41)、第2歯車(42)に加えて、第1歯車(41)よりも更に大径の第5歯車(48)を設け、スプール(53)側には、該第5歯車(48)と噛合する第6歯車(49)を設ける。スプール(53)のスライドストロークは、ボール(55)が、第4歯車(44)の突条(44a)に係合する位置から第6歯車(49)の突条(49a)に係合する位置まで移動する距離である。
円筒状の切替え部材(64)に開設される斜め溝孔(65)は、両端及び中央部に突軸(63)の停止用屈曲部(65b)(65c)(65d)が形成され、前部の屈曲部(65c)に突軸(63)が嵌まった状態でボール(55)は第4歯車(44)に、中央分の屈曲部(65d)に突軸(63)が嵌まった状態でボール(55)は第3歯車(43)に、後部の屈曲部(65d)に突軸(63)が嵌まった状態でボール(55)は第6歯車(49)に係合する。
運転切替えハンドル(66)の操作で切替え部材(64)を回転させて突軸(63)を斜め溝孔(65)内を相対的に移動させて、3段に変速の切り替えができる。
大トルクで締付けが必要な場合、3段階のトルクに分けて締付けができ、均等締めをより実現しやすい。
更に、必要に応じて、3段階以上の変速が可能に設計できるのは勿論である。
【0038】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0039】
例えば、実施例では反力受けを設けた場合を挙げているが、反力受けが存在しない締付機にも本発明を実施できるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】締付機の平面図である。
【図2】締付機の正面図であ。
【図3】締付機の左側面図である。
【図4】締付機の右側面図である。
【図5】減速機構の断面図である。
【図6】延長筒軸部分の断面図である。
【図7】仮締め時の変速装置の断面図である。
【図8】本締め時の変速装置の断面図である。
【図9】変速装置の分解斜視図である。
【図10】減速機構ケーシング近傍の一部を断面で表した平面図である。
【図11】仮締め運転の際のトルク設定領域の一例を示す説明図である。
【図12】本締め運転の際のトルク設定領域の一例を示す説明図である。
【図13】締付機の使用例を示す説明図である。
【図14】3段変速の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 電気モータ
2 減速機構
3 延長筒軸
32 出力軸
4 変速装置
5 従動軸
6 手動切替え手段
7 ボリューム
71 ボリューム
8 ソケット
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ締結において、高速・低トルクの仮締め運転と、低速・高トルクの本締め運転の切替えができるボルト・ナット締付機及びネジ締め工法に関する。
【背景技術】
【0002】
フランジのネジ締結、自動車ホィールのネジ締結では、ボルト・ナットを対角順に仮締めし、次に同じく対角順に本締めして均等締めすることが要求される。
これらネジ締結に用いられる一般のボルト・ナット締付機は、1回の締付けでボルト・ナットに規定のトルクが導入されるから、仮締めと本締めの使い分けは出来ない。
自動変速機構を有する締付機が存在する(特許文献1)が、これはボルト・ナットの締付け途上で、負荷の変化を検知して高速・低トルク運転から低速・高トルク運転に切り替わるだけであり、1回の締付けによって低速・高トルクによる規定のトルクで締付けが成されてしまう。従って、ボルト・ナットを対角順に仮締めし、次に同じく対角順に本締めする様な使い方はできない。
そこで、従来は、仮締め用の高速・低トルクの締付機と、本締め用の低速・高トルの締付機を準備して、夫々を使い分けることで前記均等締めを実現している。この場合、高価な締付機を2台必要とする。トラック等の大型自動車のホィールのボルト・ナット締付機は、機長も長く、重量も嵩むので、締付機を吊り上げた状態で使用することが多いが、仮締めと本締めで、締付機を吊り替えるのに手間が掛かって、作業能率が悪い。
【0003】
【特許文献1】特開平9−295278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、締付機の運転を高速・低トルク運転から、低速・高トルク運転に手動で切り替え可能とすることにより、上記問題を解決できるボルト・ナット締付機及び均等締めができるネジ締め工法を明らかにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1のボルト・ナット締付機は、モータの回転を減速機構(2)を含む回転伝達経路を介して締付ソケット(8)に伝達し、ボルト・ナットの締付けを行うボルト・ナット締付機において、ソケット(8)の回転速度を複数段に手動で切替え可能な変速装置(4)を回転伝達経路に設ける。
【0006】
請求項2は、請求項1のボルト・ナット締付機において、変速装置(4)は、モータによって定位置で回転する駆動軸(40)上に大径の第1歯車(41)と、小径の第2歯車(42)を設け、第1歯車(41)に噛合し内面に突条(43a)を有する小径の第3歯車(43)と、第2歯車(42)に噛合し内面に突条(44a)を有する大径の第4歯車(44)を夫々回転自由に具えた従動軸(5)の軸芯にガイド孔(51)を開設して該ガイド孔にスプール(53)をスライド可能に嵌め、該スプールに開設した周溝(54)にボール(55)を嵌めて、該ボールを従動軸(5)の内外を貫通する長孔(52)に対して従動軸(5)の軸方向に余裕のある状態に且つ従動軸(5)の外側に臨出する様に収容し、手動切替え手段(6)で、スプール(53)をスライドさせることによって、ボール(55)の位置を第3歯車(43)側或いは第4歯車(44)側に切り替えて対応する歯車内面の(43a)又は(44a)に係合させることにより、第3歯車(43)とボール(55)を介して駆動軸(40)の回転を従動軸(5)に伝達する高速・低トルク運転と、第4歯車(44)とボール(55)を介して駆動軸(40)の回転を従動軸(5)に伝達する低速・高トルク運転に選択的に切替え可能である。
【0007】
請求項3は、請求項1又は2に記載のボルト・ナット締付機において、手動切替え手段(6)は、スプール(53)の従動軸(5)から突出した部分に配備され該スプールとは回転自由であるが軸方向にはスプールと一体に移動し半径方向に外向き突軸(63)を具えたスプールホルダー(61)と、該スプールホルダーの軸心を中心に定位置にて回転可能に配備されスプールホルダー(61)上の突軸(63)を貫通させ回転によって該突軸に推力を付与する斜め溝孔(65)及び手動切替えハンドル(66)を有する切替え部材(64)と、スプールホルダー(61)上の突軸(63)をスプール(53)の軸心に沿う方向に移動案内を行う案内部材(67)とによって構成される。
【0008】
請求項4は、請求項1乃至3の何れかに記載のボルト・ナット締付機において、モータは電気モータ(1)であって、高速・低トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(7)の2つのボリュームが切替え可能に連繋されている。
【0009】
請求項5は、請求項4に記載のボルト・ナット締付機において、手動切替え手段(6)による運転の切替えで、切り替えた方の運転に対応するボリューム(7)又は(71)が自動的に選択される様に構成されている。
【0010】
請求項6のネジ締め工法は、請求項1乃至5に記載のボルト・ナット締付機を用いて、先ず高速・低トルク運転によって全てのネジを仮締めし、次に低速・高トルク運転によって全てのネジを本締めする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の締付機は、先ず、締付け対象の全てのボルト・ナットに対して、高速・低トルク運転で仮締めを行なう。ソケットは高速で回転してネジ締めを行うから、ナットを短時間で着座させることができ、作業性がよい。
次に、手動で低速・高トルク運転に切り替えて、全てのネジに本締めを行う。ネジは予め均一トルクで仮締めされているから、各々のネジに導入トルクにバラツキが生じることはなく、均等締めが可能となる。
仮締めは、高速回転で短時間で済むから、結果的に本締め完了までの時間を短縮できる。
1台の締付機で、仮締めと本締めを使い分けできるから、高価な締付機を仮締め用と、本締め用の2台準備する必要はない。又、締付機を吊り下げ支持して使用する場合、2台の締付機を吊り替える必要はなく、作業能率を向上できる。
【0012】
請求項2の締付機の変速装置(4)は、手動でスプール(53)をスライド移動させて、歯車回転伝達経路を切り替えて、高速・低トルク運転と低速・高トルク運転の切替えを行うため、構成の簡素と嵩張りを抑えることができる。
【0013】
請求項3の締付機は、運転切替えハンドル(66)を手動で回転させて、スプール(53)をスライド移動させることができ、運転の切替え操作性がよい。
【0014】
請求項4の締付機は、高速・低トルクの仮締め運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルクの本締め運転時のトルク調整を行うボリューム(7)が切替え可能に連繋されているから、仮締めのトルクと、本締めのトルクを夫々のボリューム(7)又は(71)で設定できる。
【0015】
請求項5の締付機は、手動切替え手段(6)による切替えで、電気モータ(1)は対応する方のボリュームに自動的に切り替わるから、設定すべき側のボリュームを間違う虞れはない。
【0016】
請求項6のネジ締め工法は、請求項1乃至5に記載のボルト・ナット締付機を用いて、先ず高速・低トルク運転によって全てのネジを仮締めし、次に低速・高トルク運転によって全てのネジを本締めできるから、例えば円周上に配備された複数のネジを対角順に仮締めし、又、対角順に本締めすることにより、均等締めできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1、図2に示す如く、ボルト・ナット締付機は駆動源である電気モータ(1)(以下、単に「モータ」と呼ぶ)、減速機構(2)、減速機構(2)に接続された延長筒軸(3)、該延長筒軸(3)に取り付けられた反力受けアーム(37)を有している。
以下の説明で、「前」とは反力受けアーム(37)側、「後」とはモータ(1)側である。
図13は、トラック等の大型車輌のタイヤ(9)のホィール(90)のボルト・ナットを締付ける状態を示しており、締付機をバランス式吊り具(100)にて吊り下げ支持し、ソケット(8)をボルト(91)上のナット(92)に係合し、反力受けアーム(37)を隣り合うナット(92a)等の突出物に当て、モータ(1)の回転を減速機構(2)を含む回転伝達経路を介して締付ソケット(8)に伝達してナット(92)の締め付けを行う。
バランス式吊り具(100)は、揺動アーム(101)にガス式、エアー式等のダンパー(図示せず)を連繋した公知の構成であり、締付機とダンバーをバランスさせて、締付機を吊り下げ支持する。
【0018】
図1、図2、図5に示す如く、減速機構(2)のケーシング(21)の後端面にモータ(1)のケーシング(11)がネジ止め固定され、モータ軸(12)は減速機構ケーシング(21)内に侵入している。
減速機構ケーシング(21)の後端面の左右にモータ(1)を挟んで、斜め後方上向に支持アーム(14)(14)が突設され、支持アーム(14)(14)の先端間に手持ちハンドル(15)が設けられる。
支持アーム(14)(14)の内、右側(図1の平面図において、上側)の支持アーム(14)には、トリガー(10)が上向きに設けられている。
トリガー(10)を押圧してる間は、締付機の運転がなされる。
前記減速機構ケーシング(21)内に変速装置(4)が配備され、該変速装置(4)に連繋された多段遊星歯車減速機構(23)の一部が、減速機構ケーシング(21)の前方に突出している。
【0019】
図5、図7、図8に示す如く、変速装置(4)は、モータ軸(12)と平行に、駆動軸(40)と従動軸(5)を配備し、モータ軸(12)と駆動軸(40)の後端を歯車列(46)で減速回転伝達する様に連繋し、駆動軸(40)と従動軸(5)を回転速度切替え可能に連繋する。
【0020】
駆動軸(40)と従動軸(5)の該連繋は、駆動軸(40)の前部に大径の第1歯車(41)と小径の第2歯車(42)を夫々駆動軸(40)と一体回転可能に設ける。
従動軸(5)には該軸に対して夫々回転自由に小径の第3歯車(43)と、大径の第4歯車(44)を設け、第3歯車(43)と前記第1歯車(41)、第4歯車(44)と前記第2歯車(42)を噛合する。
第3歯車(43)と第4歯車(44)の内周面の一部には、夫々ベアリング(43b)(44b)が嵌まっており、他の部分には周方向に等間隔に複数(実施例では4つ)の突条(43a)(44a)が軸心に沿う方向に等間隔に突設されている。
第3歯車(43)と第4歯車(44)との間には、互いの回転を干渉しない様にスラストベアリング(45)が介装されている。
【0021】
従動軸(5)には、前端に歯車(50)が形成され、軸心には後端に開口するガイド孔(51)が開設される。従動軸(5)のガイド孔(51)部分の周壁には、内外面に貫通する複数の長孔(52)が開設される。長孔(52)は、従動軸(5)の軸心に沿う方向に長く、前記第3歯車(43)、第4歯車(44)の突条(43a)(44a)の周方向の間隔に対応して周方向に等間隔に開設されている。
従動軸(5)のガイド孔(51)にスプール(53)をスライド可能に嵌合する。
スプール(53)に周溝(54)を開設し、該周溝(54)に複数のボール(55)を嵌め、各ボール(55)を従動軸(5)の長孔(52)から外部に臨出させ、前記第3歯車(43)、第4歯車(44)のどちらかの突条(43a)、(44a)と噛み合い可能となす。
【0022】
尚、図7、図8では、モータ軸(12)と駆動軸(40)を連繋する歯車列(46)の噛合関係を分かり易くしたため、モータ軸(12)と従動軸(5)の軸心はずれている様に表されているが、実際は、図5に示す如く、モータ軸(12)と従動軸(5)は同一直線上に位置している。
【0023】
上記スプール(53)に、スプール(53)をスライドさせて前記ボール(55)の位置を、第3歯車(43)側或いは第4歯車(44)に手動で切り替える手動切替え手段(6)が連繋される。
手動切替え手段(6)は、スプール(53)に接続され外向きに突軸(63)を有するスプールホルダー(61)と、運転切替えハンドル(66)を具え該ハンドルの回転によって、前記突軸(63)を押してスプール(53)をスライドさせる切替え部材(64)とによって構成される。
【0024】
スプールホルダー(61)は、前後面が開口した横向き短筒体であって、スプール(53)に対してベアリング(62)を介して回転自由に、且つ軸方向にはスプールと一体に移動する様にスプール(53)に接続され、半径方向外向きに突軸(63)を突設している。
【0025】
切替え部材(64)は底部がモータ(1)側に向き、従動軸(5)側が開口した横向き筒体であって、定位置にて回転可能に支持されている。
切替え部材(64)の周壁には切替え部材(64)の軸心に対して螺旋方向に斜め溝孔(65)が貫通開設されている。又、切替え部材(64)には、減速機構ケーシング(21)の天井壁を貫通して外部に突出する運転切替えハンドル(66)が突設されている。
切替え部材(64)は、前記スプールホルダー(61)を回転可能に収容して、スプールホルダー(61)上の突軸(63)を、斜め溝孔(65)をスライド可能に貫通して外部に臨出させている。
図5に示す如く、切替え部材(64)は案内部材(67)に包囲され、該案内部材(67)にスプール(53)の軸心に沿う方向に開設されたガイド溝(67a)に、前記突軸(63)の先端がスライド可能に嵌まっている。
【0026】
運転切替えハンドル(66)を回転操作して切替え部材(64)を回転させると、切替え部材(64)の斜め溝孔(65)の孔縁に推力が生じて突軸(63)をガイド溝(67a)に沿って移動させ、即ち、スプール(53)を従動軸(5)内でスライド移動させて、ボール(55)の位置を第3歯車(43)側、又は第4歯車(44)側に切り替えできる。ボール(55)は、切り替わった方の歯車(43)又は(44)の突条(43a)又は突条(44a)に噛合って、歯車(43)又は(44)の回転を歯車(50)に伝達する。
第3歯車(43)の回転は、第4歯車(44)の回転よりも速いから、ボール(55)が第3歯車(43)側に位置しているときが、仮締め用の高速・低トルク運転、第4歯車(44)側に位置しているときが、本締め用の低速・高トルク運転となる。
【0027】
図10に示す如く、減速機構ケーシング(21)の天井壁の外面には、ハンドル(66)の運転切替えの方向を示す表示板(26)、後記する出力軸(32)の右回転運転(右ネジに対して締付け運転)と、左回転運転(右ネジに対しては緩め運転)の切替え用スイッチ(19)及び後記するボリューム(7)が設けられている。
更に、図3、図4に示す如く、減速機構ケーシング(21)の天井壁には、前記バランス式吊り具(100)によって締付機を吊るための吊り板(16)が上向きに突設され、該吊り板(16)には吊り孔(17)が開設されている。
【0028】
図5、図6に示す如く、減速機構ケーシング(21)の前部には前方に突出する遊星歯車ケーシング(22)が回転可能に設けられ、該遊星歯車ケーシング(22)内に多段遊星歯車減速機構(23)が配備され、前記従動軸(5)先端の歯車(50)が最上流の遊星歯車機構の太陽歯車として連繋されている。
遊星歯車ケーシング(22)には、延長軸(3)が遊星歯車ケーシング(22)に対して着脱可能にセットされる。
延長軸(3)は、繋ぎ筒(27)を介して遊星歯車ケーシング(22)と一体回転可能に接続される筒状の反力受け軸(35)と、該反力受け軸(35)に回転可能に嵌まった出力軸(32)とによって構成される。
【0029】
反力受け軸(35)の前部外周に反力受けアーム(37)の基端部がスライド可能に嵌まり、反力受けアーム(37)は、反力受け軸(35)に形成したスプライン溝(31)に噛合して、反力受け軸(35)と一体回転可能である。
反力受けアーム(37)は、反力受け軸(35)の前端に設けた環状の係止部材(30)によって抜止めが図られ、反力受け軸(35)に嵌めたバネ(39)によって前方に付勢されている。
【0030】
出力軸(32)は、軽量化のため前端部を除いて筒体に形成され、前端部に反力受け軸(35)から突出して角軸(32a)が形成されている。該角軸(32a)には、口径サイズの異なるソケット(8)が交換可能に取り付けられる。
出力軸(32)の後部は拡大して、延長筒軸(3)の内面段部(33)に当たって前方への抜け止めが図られる。
出力軸(32)の後部は、中間筒(28)を介して前記多段遊星歯車機構(23)の最下流側の遊星歯車支持枠(24)と一体回転可能に連繋される。
出力軸(32)と反力受け軸(35)の回転方向は逆である。
上記延長軸(3)は、ネジ締めの用途、作業環境に応じて、長さの異なるものと交換可能であり。延長軸(3)を構成する出力軸(32)と反力受け軸(35)は、長さが対応するものがセットで用いられ、セットで交換される。
【0031】
実施例では、モータ(1)には、図10に示す如く、高速・低トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(7)の2つのボリュームが切替え可能に連繋されており、夫々の運転において、モータ(1)に流れる電流値を制限してトルクを調整できる。
実施例では、図11に示す如く、高速・低トルク運転時はボリューム(71)によって、400N・m未満、実施例で200N・m未満を設定範囲とした。図12に示す低速・高トルク運転時は、ボリューム(7)によって、400N・mから900N・mを設定範囲とした。
2つのボリューム(7)(71)は、前記手動切替え手段(6)による切替えで、モータ(1)は切り替えた方の運転に対応する方のボリューム(7)又は(71)に自動的に切り替わる様になっている。これは、手動切替え手段(6)の運転切替えハンドル(66)の切り替えによって、回路の切替え接点(図示せず)をメカ的に切り替える等、手段は問わない。
又、実施例では、高速・低トルク側のボリューム(71)は、減速機構ケーシング(21)内に配備され、減速機構ケーシング(21)の蓋(20)を開かないと調整できない様になっており、製品出荷前にメーカ側でボリューム値を設定しておく。
【0032】
次に図13に示す如く、大型トラックのタイヤ(9)のホィール(90)を締め付ける手順を説明する。
先ず、締め付けるべき全てのボルト(91)に、ナット(92)を手で螺合する。ナット(92)が着座するまで螺合する必要はない。
締付機をバランス式吊り具(100)で吊り下げ支持すると共に、手持ちハンドル(15)を右手で逆手に掴む。
運転切替えハンドル(66)を操作して、高速・低トルク運転に切り替える。
締め付けるべきナット(92)の高さにソケット(8)が対応する様に、締付機の高さを調整し、ソケット(8)を該ナット(92)に係合すると共に、反力受けアーム(37)の先端を、該ナット(92)の近傍のナット(92a)に当接可能に接近させておく。
【0033】
手持ちハンドル(15)を握っている右手親指でトリガー(10)を押して運転を開始する。
ソケット(8)は高速で回転して、ナット(92)を締め付ける。締付け反力は、反力受けアーム(37)を介して隣りのナット(92a)及び該ナットが螺合したネジ軸(91a)で受けられる。
ナット(92)を短時間で着座させることができる。更に、高速・低トルク用のボリューム(71)で設定したトルクで仮締めができる。
最初のナット(92)から、対角順に全てのナットについて仮締めを行なった後、運転切替えハンドル(66)を、手動で低速・高トルクの本締め側に切り替える。
前記同様にして、全てのナットに対して、対角順に本締めを行う。
【0034】
ナットは予め均一トルクで仮締めされているから、本締めの際のネジの導入トルクにバラツキが生じることはなく、均等締めが可能となる。
仮締めは、ソケット(8)が高速回転して短時間で済むから、結果的に本締め完了までの時間を短縮できる。
1台の締付機で、仮締めと本締めを使い分けできるから、高価な締付機を、仮締め用と、本締め用の2台準備する必要はない。又、締付機を吊り下げ支持して使用する場合、2台の締付機を吊り替える必要はなく、作業能率を向上できる。
【0035】
実施例の締付機の変速装置(4)は、手動でスプール(53)をスライド移動させて、歯車回転伝達経路を切り替えて、高速・低トルク運転と低速・高トルク運転の切替えを行うため、構成の簡素化と嵩張りを抑えることができる。
又、締付機は、運転切替えハンドル(66)を手動で回転させて、スプール(53)をスライド移動させることができ、運転の切替え操作性がよい。
又、実施例の締付機は、高速・低トルクの仮締め運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルクの本締め運転時のトルク調整を行うボリューム(7)が切替え可能に連繋されているから、仮締めのトルクと、本締めのトルクを夫々のボリュームで設定範囲内で任意に設定できる。
特に、実施例では、本締めのトルクを調整するボリューム(7)は、減速機構ケーシング(21)の外側に位置しており、作業者がボルト・ナットの口径に合わせて、最適に調整でき便利である。
又、実施例の締付機は、手動切替え手段(6)による切替えで、モータ(1)は対応する方のボリューム(7)又は(71)に自動的に切り替わるから、設定すべき側のボリュームを間違う虞れはない。
【0036】
尚、上記実施例は、電気モータを駆動源とするものであるが、エアーモータを駆動源とする締付機において、前記手動切替え式の変速装置(4)を組み込むことによって、1台の締付機で、高速・低トルクの仮締め運転と低速・高トルク運転の本締め運転を実現できる。
【0037】
上記実施例の変速装置(4)は2段切替えであるが、 図14は、3段に変速可能な変速装置(4)の実施例を示している。
駆動軸(40)上には、前記第1歯車(41)、第2歯車(42)に加えて、第1歯車(41)よりも更に大径の第5歯車(48)を設け、スプール(53)側には、該第5歯車(48)と噛合する第6歯車(49)を設ける。スプール(53)のスライドストロークは、ボール(55)が、第4歯車(44)の突条(44a)に係合する位置から第6歯車(49)の突条(49a)に係合する位置まで移動する距離である。
円筒状の切替え部材(64)に開設される斜め溝孔(65)は、両端及び中央部に突軸(63)の停止用屈曲部(65b)(65c)(65d)が形成され、前部の屈曲部(65c)に突軸(63)が嵌まった状態でボール(55)は第4歯車(44)に、中央分の屈曲部(65d)に突軸(63)が嵌まった状態でボール(55)は第3歯車(43)に、後部の屈曲部(65d)に突軸(63)が嵌まった状態でボール(55)は第6歯車(49)に係合する。
運転切替えハンドル(66)の操作で切替え部材(64)を回転させて突軸(63)を斜め溝孔(65)内を相対的に移動させて、3段に変速の切り替えができる。
大トルクで締付けが必要な場合、3段階のトルクに分けて締付けができ、均等締めをより実現しやすい。
更に、必要に応じて、3段階以上の変速が可能に設計できるのは勿論である。
【0038】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0039】
例えば、実施例では反力受けを設けた場合を挙げているが、反力受けが存在しない締付機にも本発明を実施できるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】締付機の平面図である。
【図2】締付機の正面図であ。
【図3】締付機の左側面図である。
【図4】締付機の右側面図である。
【図5】減速機構の断面図である。
【図6】延長筒軸部分の断面図である。
【図7】仮締め時の変速装置の断面図である。
【図8】本締め時の変速装置の断面図である。
【図9】変速装置の分解斜視図である。
【図10】減速機構ケーシング近傍の一部を断面で表した平面図である。
【図11】仮締め運転の際のトルク設定領域の一例を示す説明図である。
【図12】本締め運転の際のトルク設定領域の一例を示す説明図である。
【図13】締付機の使用例を示す説明図である。
【図14】3段変速の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 電気モータ
2 減速機構
3 延長筒軸
32 出力軸
4 変速装置
5 従動軸
6 手動切替え手段
7 ボリューム
71 ボリューム
8 ソケット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転を減速機構(2)を含む回転伝達経路を介して締付ソケット(8)に伝達し、ボルト・ナットの締付けを行うボルト・ナット締付機において、ソケット(8)の回転速度を複数段に手動で切替え可能な変速装置(4)を回転伝達経路に設けたボルト・ナット締付機。
【請求項2】
変速装置(4)は、モータによって定位置で回転する駆動軸(40)上に、大径の第1歯車(41)と小径の第2歯車(42)を設け、第1歯車(41)に噛合し内面に突条(43a)を有する小径の第3歯車(43)と、第2歯車(42)に噛合し内面に突条(44a)を有する大径の第4歯車(44)を夫々回転自由に具えた従動軸(5)の軸芯にガイド孔(51)を開設して該ガイド孔にスプール(53)をスライド可能に嵌め、該スプールに開設した周溝(54)にボール(55)を嵌めて、該ボールを従動軸(5)の内外を貫通する長孔(52)に対して従動軸(5)の軸方向に余裕のある状態に且つ従動軸(5)の外側に臨出する様に収容し、手動切替え手段(6)で、スプール(53)をスライドさせることによって、ボール(55)の位置を第3歯車(43)側或いは第4歯車(44)側に切り替えて対応する歯車内面の突条(43a)又は(44a)に係合させることにより、第3歯車(43)とボール(55)を介して駆動軸(40)の回転を従動軸(5)に伝達する高速・低トルク運転と、第4歯車(44)とボール(55)を介して駆動軸(40)の回転を従動軸(5)に伝達する低速・高トルク運転の2段階に切替え可能な請求項1に記載のボルト・ナット締付機。
【請求項3】
手動切替え手段(6)は、スプール(53)の従動軸(5)から突出した部分に配備され該スプールとは回転自由であるが軸方向にはスプールと一体に移動し半径方向に外向き突軸(63)を具えたスプールホルダー(61)と、該スプールホルダーの軸心を中心に定位置にて回転可能に配備されスプールホルダー(61)上の突軸(63)を貫通させ回転によって該突軸に推力を付与する斜め溝孔(65)及び運転切替えハンドル(66)を有する切替え部材(64)と、スプールホルダー(61)上の突軸(63)をスプール(53)の軸心に沿う方向に移動案内を行う案内部材(67)とによって構成される請求項2に記載のボルト・ナット締付機。
【請求項4】
モータは電気モータ(1)であって、高速・低トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(7)が切替え可能に連繋されている請求項1乃至3の何れかに記載のボルト・ナット締付機。
【請求項5】
手動切替え手段(6)による運転の切替えで、切り替えた方の運転に対応するボリューム(7)又は(71)が自動的に選択される請求項4に記載のボルト・ナット締付機。
【請求項6】
1つの物品を複数箇所のネジ締めによって固定するネジ締め工法において、請求項1乃至5に記載のボルト・ナット締付機を用いて、先ず高速・低トルク運転によって全てのネジを仮締めし、次に低速・高トルク運転によって全てのネジを本締めするネジ締め工法。
【請求項1】
モータの回転を減速機構(2)を含む回転伝達経路を介して締付ソケット(8)に伝達し、ボルト・ナットの締付けを行うボルト・ナット締付機において、ソケット(8)の回転速度を複数段に手動で切替え可能な変速装置(4)を回転伝達経路に設けたボルト・ナット締付機。
【請求項2】
変速装置(4)は、モータによって定位置で回転する駆動軸(40)上に、大径の第1歯車(41)と小径の第2歯車(42)を設け、第1歯車(41)に噛合し内面に突条(43a)を有する小径の第3歯車(43)と、第2歯車(42)に噛合し内面に突条(44a)を有する大径の第4歯車(44)を夫々回転自由に具えた従動軸(5)の軸芯にガイド孔(51)を開設して該ガイド孔にスプール(53)をスライド可能に嵌め、該スプールに開設した周溝(54)にボール(55)を嵌めて、該ボールを従動軸(5)の内外を貫通する長孔(52)に対して従動軸(5)の軸方向に余裕のある状態に且つ従動軸(5)の外側に臨出する様に収容し、手動切替え手段(6)で、スプール(53)をスライドさせることによって、ボール(55)の位置を第3歯車(43)側或いは第4歯車(44)側に切り替えて対応する歯車内面の突条(43a)又は(44a)に係合させることにより、第3歯車(43)とボール(55)を介して駆動軸(40)の回転を従動軸(5)に伝達する高速・低トルク運転と、第4歯車(44)とボール(55)を介して駆動軸(40)の回転を従動軸(5)に伝達する低速・高トルク運転の2段階に切替え可能な請求項1に記載のボルト・ナット締付機。
【請求項3】
手動切替え手段(6)は、スプール(53)の従動軸(5)から突出した部分に配備され該スプールとは回転自由であるが軸方向にはスプールと一体に移動し半径方向に外向き突軸(63)を具えたスプールホルダー(61)と、該スプールホルダーの軸心を中心に定位置にて回転可能に配備されスプールホルダー(61)上の突軸(63)を貫通させ回転によって該突軸に推力を付与する斜め溝孔(65)及び運転切替えハンドル(66)を有する切替え部材(64)と、スプールホルダー(61)上の突軸(63)をスプール(53)の軸心に沿う方向に移動案内を行う案内部材(67)とによって構成される請求項2に記載のボルト・ナット締付機。
【請求項4】
モータは電気モータ(1)であって、高速・低トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(71)と、低速・高トルク運転時のトルク調整を行うボリューム(7)が切替え可能に連繋されている請求項1乃至3の何れかに記載のボルト・ナット締付機。
【請求項5】
手動切替え手段(6)による運転の切替えで、切り替えた方の運転に対応するボリューム(7)又は(71)が自動的に選択される請求項4に記載のボルト・ナット締付機。
【請求項6】
1つの物品を複数箇所のネジ締めによって固定するネジ締め工法において、請求項1乃至5に記載のボルト・ナット締付機を用いて、先ず高速・低トルク運転によって全てのネジを仮締めし、次に低速・高トルク運転によって全てのネジを本締めするネジ締め工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−346810(P2006−346810A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175875(P2005−175875)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000201467)前田金属工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000201467)前田金属工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]