説明

ボンド磁石用の磁性材料の製造方法及びこの磁性材料を用いて作製した希土類ボンド磁石

【課題】 高磁気特性及び強い耐食性、耐候性を有するボンド磁石用の磁性材料の製造方法及びこの磁性材料を用いて作製したボンド磁石を提供する。
【解決手段】 希土類元素及び鉄を含有する原料の表面に、Dy、Tb、Ho、Er、Tm、Gd、Nd、Sm、Pr、Ce、La、Y、Zr、Cr、Mo、V、Ga、Zn、Cu、Mg、Li、Al、Mn、Nb、Tiの中から選択される少なくとも1種を含有する金属蒸発材料を付着させる処理工程を実施する。処理工程は、この処理工程を実施する処理室を加熱し、この処理室内に予め配置した金属蒸発材料を蒸発させて金属蒸気雰囲気を処理室内に形成する第一工程と、処理室内の温度より低く保持した原料をこの処理室に投入し、この処理室内で原料を移動させながら、処理室内と原料との間の温度差によって、原料表面に金属蒸発材料を選択的に付着させる第二工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石用の磁性材料の製造方法及びこの磁性材料を用いて作製した希土類ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、粉末状の磁性材料と樹脂バインダーとを混合し、圧縮成形機や射出成形機を用いて製作されることから、薄い形状や複雑な形状などに製造でき、しかも、寸法精度が高いなど焼結磁石にはない優れた特長を有する。このため、自動車やエレクトロニクス等の各種の分野の製品に利用され、需要は年々拡大している。ここで、Nd−Fe−B系ボンド磁石、Sm−Fe−N系ボンド磁石など、代表的な希土類ボンド磁石の磁性材料は、希土類元素及び鉄を成分するため、大気にふれると酸化され易く、使用環境によっては磁気特性が徐々に低下するという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、原料を溶解してロール急冷法で急冷して得た原料片をさらに粉砕して得た原料粉末の表面を、酸化アルミニウム膜等の酸化膜で覆って、ボンド磁石用の磁性材料を得ることが知られている(特許文献1、特許文献2)。そして、このように製作した磁性材料を、樹脂バインダーと共に成形して希土類ボンド磁石を作製している。
【特許文献1】特開2002−363607号公報(例えば、特許請求の範囲の記載参照)
【特許文献2】特開2004−31761号公報(例えば、特許請求の範囲の記載参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のものでは、原料の表面を酸化膜で覆うことで、磁気特性の低下が防止されると共に、耐食性、耐候性を向上させることができるものの、近年では、希土類ボンド磁石利用製品自体の小型、軽量化や小電力化等をさらに図ることが要請されているこから、上記従来技術のように、使用環境による磁気特性の低下を防止するだけでは十分とは言えず、一層高い磁気特性を有するボンド磁石の開発が望まれている。
【0005】
そこで、上記点に鑑み、本発明の目的は、高磁気特性及び強い耐食性、耐候性を有するボンド磁石用の磁性材料の製造方法及びこの磁性材料を用いて作製したボンド磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のボンド磁石用の磁性材料の製造方法は、希土類元素及び鉄を含有する粉末状の原料の表面に、Dy、Tb、Ho、Er、Tm、Gd、Nd、Sm、Pr、Ce、La、Y、Zr、Cr、Mo、V、Ga、Zn、Cu、Mg、Li、Al、Mn、Nb、Tiの中から選択される少なくとも1種を含有する金属蒸発材料を付着させる処理工程を含むボンド磁石用の磁性材料の製造方法であって、前記処理工程は、この処理工程を実施する処理室を加熱し、この処理室内に予め配置した前記金属蒸発材料を蒸発させて金属蒸気雰囲気を処理室内に形成する第一工程と、処理室内の温度より低く保持した原料をこの処理室に投入し、この処理室内で原料を移動させながら、処理室内と原料との間の温度差によって、原料表面に前記金属蒸発材料を選択的に付着させる第二工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
これによれば、処理室内に金属蒸発材料を配置した後、処理室を加熱して金属蒸気雰囲気を形成し、次いで、処理室内の温度より低く保持した原料を処理室に投入する。例えば常温の原料が高温に加熱された処理室内に投入されると、原料表面にのみ選択的に金属蒸気雰囲気中の金属原子が高速で付着して堆積する。その際、処理室内で原料を移動させながら所定時間保持すると、原料の表面全体に亘って金属蒸発材料の薄膜が形成され、さらには、高温の処理室に投入することで輻射熱により加熱された原料の表面に付着した金属原子の一部がその結晶粒界に拡散する。
【0008】
上記方法で得た磁性材料は、その表面だけでなく、結晶粒界にもDy等の金属蒸発材料が拡散しているため、この磁性材料を用いて希土類ボンドを作製したとき、減磁曲線の角形性が向上し、磁気特性を示す最大エネルギー積(BHmax)、残留磁束密度(Br)が格段に向上し、併せて、保磁力も向上することで、高磁気特性のものとなる。また、保磁力が向上することで耐熱性が向上すると共に、原料表面及び結晶粒界にDy等の金属蒸発材料が存することで強い耐食性、耐候性を有する。さらに、上記方法を用いると、金属蒸発材料が高速で付着堆積することで生産性が向上すると共に、原料表面にのみ選択的に金属蒸発材料が付着するため、資源的に乏しく高価なDy、Tbなどの希土類金属を用いるときでも、金属蒸発材料を有効に利用でき、ひいては製造コストを低減できる。
【0009】
前記金属蒸気雰囲気が前記処理室内で飽和状態であれば、金属蒸発材料を原料表面に高速で成膜できてよい。
【0010】
また、前記処理工程を実施した後、原料表面の金属原子の結晶粒界への拡散をさらに促進させるため、必要に応じて、前記処理工程を実施した後、所定温度下で表面に金属蒸発材料が付着した原料を加熱する第一の熱処理工程を含むことが好ましい。
【0011】
この場合、前記第一の熱処理工程を実施した後、この第一の熱処理工程での熱処理温度より低い温度で表面に金属蒸発材料が付着した原料を加熱する第二の熱処理工程を含むものとすれば、磁性材料の歪が除去されて保磁力を一層高めることができる。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の希土類ボンド磁石は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の製造方法で得た磁性材料を、樹脂バインダーと共に成形してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のボンド磁石用の磁性材料の製造方法及びこの磁性材料を用いたボンド磁石は、高い生産性の下、高磁気特性及び強い耐食性、耐候性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1を参照して説明すれば、1は、希土類元素及び鉄を含有する原料の表面に選択的にDyやTbなどの金属蒸発材料Mを高速で付着堆積させ、さらには、表面に付着した金属原子を結晶粒界に拡散させてボンド磁石用の磁性材料を作製するのに適した処理装置である。処理装置1は、処理室10を構成する断面略六角形の真空チャンバ11を有する。真空チャンバ11は、床面に設置される台座21と、所定の間隔を置いて台座21に対し直角に設けた支持板22a、22bとから構成される支持手段2に取付けられている。
【0015】
支持板22a、22bの台座21から所定の高さ位置には、支持板22a、22bの内側に向かってそれぞれ突出させかつ同一水平線上に位置させて、回転軸23a、23bが軸受(図示せず)を介して回転自在に設けられ、冷却手段231を有する各回転軸23a、23bの一端が真空チャンバ11の側壁11a、11bにそれぞれ連結されている。一方の支持板22aから突出した一方の回転軸23aの他端にはプーリ24が設けられ、このプーリー24と、台座21上に設けたモータ3の回転軸31に設けたプーリー32との間にはベルトVが掛架されている。これにより、モータ3を作動させて回転軸23a、23bを回転させると、真空チャンバ11が所定の回転数(例えば、1rpm)で回転軸23a、23bを中心として回転自在となる。
【0016】
真空チャンバ11の外周には、その略全体を覆うように内側に反射面を備えたステンレス製の断熱材41が着脱自在に設けられ、この断熱材41の内側には、ニクロム製のフィラメントを有する電気加熱ヒータ42が配置され、加熱手段4を構成する。
そして、後述するように真空チャンバ11を減圧した後、この真空チャンバ11を加熱手段4で加熱することで、処理室10を略均等に所定温度(例えば、600℃〜1700℃)に加熱できる。
【0017】
真空チャンバ11の上面及び下面には開口がそれぞれ設けられ、各開口には開閉弁5a、5bがそれぞれ取付けられている。各開閉弁5a、5bは、例えば公知の構造を有するバタフライバルブであり、真空チャンバ11の上面及び下面の開口にそれぞれ取付けた弁本体51を有する。弁本体51内には、回動自在な円形の弁体と、この弁体が着座する弁座とが設けられている。そして、弁本体51に設けた駆動軸(図示せず)を手動または電動で操作して、弁体が弁座に着座する閉弁位置と弁体が弁座から離間した開弁位置との間で弁体を回動させることで開閉自在となる。
【0018】
各弁本体51の真空チャンバ11と背向する側には、一端にカップリング(図示せず)を設けた排気管6またはホッパー7が着脱自在に取付けられる。蛇腹状の排気管6の他端は、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、拡散ポンプやロータリポンプなどから構成される真空排気手段61に接続されている。そして、両開閉弁5a、5bの閉弁位置で一方の開閉板5bの弁本体51に排気管6を接続し、真空排気手段61を作動させると共に開閉弁5bを開弁すると、処理室10が所定圧力(例えば1×10−5Pa)に減圧できる。
【0019】
他方、ホッパー7は、その内部が密閉可能な金属製であり、その内部が準備室70を構成する。ホッパー7下側のシュート部71には、回動自在な円形の弁体とこの弁体が着座する弁座とからなる他の開閉弁72が設けられ、開閉弁72を閉弁位置で準備室70が密閉されるようになっている。処理室10に後述する原料を投入する場合には、ホッパー70内に原料を収納した後、シュート部71の先端に図示しない排気管を接続し、真空排気手段を作動させると共に開閉弁72を開弁させて、準備室70を所定圧力(例えば1×10−3Pa)に減圧する。
【0020】
原料は、希土類等方性ボンド磁石、希土類異方性ボンド磁石に用いられる公知のものであり、Nd、Sm等の希土類元素および鉄を含む粉末状のものが用いられる。例えば、Nd、Sm等の希土類元素および鉄を含む原料を所定の組成比で混合して一旦溶解させ、次いで、原料の溶湯をロール急冷法により急冷することで原料薄片を得て、次いで、原料薄片を粉砕して微細な粉末としたものを原料として用いる。
【0021】
他方、金属蒸発材料Mは、各回転軸23a、23bの同一線上に位置させて真空チャンバ11の内壁に設けた収納室12内に収納される。収納室12は、筒状の部材から構成され、真空チャンバ11内側に開口した面には、その開口の一部を覆うように庇部12aが設けられている。これにより、真空チャンバ11を回転させたとき、庇部12aによって、収納室12に配置した金属蒸発材料Mが処理室10に飛び出すことが防止できる。収納室12は、その真空チャンバ11の内壁において周方向で等間隔に少なくとも2個配置されるが、開閉弁5a、5bを通って処理室10に投入される原料の周囲を囲って金属蒸発材料Mが配置されるように、真空チャンバ12の内壁面全体に亘る環状に形成してもよい。
【0022】
金属蒸発材料Mは、高磁気特性及び強い耐食性、耐候性を有するボンド磁石を作製できるものであって、例えば、Dy、Tb、Ho、Er、Tm、Gd、Nd、Sm、Pr、Ce、La、Y、Zr、Cr、Mo、V、Ga、Zn、Cu、Mg、Li、Al、Mn、Nb、Tiの中から選択される少なくとも1種を含有するものであり、例えば顆粒状または塊状のものが収納室12に収納される。
【0023】
ところで、例えば真空チャンバ11の材料として、一般の真空装置でよく用いられるAlを用いると、例えば金属蒸発材料MをDyとした場合、処理室10内に金属蒸気雰囲気を形成すると、金属蒸気雰囲気中のDyとAlが反応してその表面に反応生成物を形成されると共に、Al原子がDy蒸気雰囲気中に侵入する虞がある。このため、真空チャンバ11、開閉弁5a、5bの構成部品を、金属蒸発材料Mと反応しない材料から作製するか、または処理室10を構成する真空チャンバ11の内壁等にこれらの材料を内張膜として成膜したものから作製する(金属蒸発材料MがDyのとき、例えば、Mo、W、V、Taまたはこれらの合金やCaO、Y、或いは希土類酸化物から作製する)。
【0024】
次に、本処理装置1を用いたボンド磁石用の磁性材料の作製及びこの磁性材料を用いたボンド磁石の作製について説明する。先ず、断熱材41を取外した状態で、真空チャンバ11に側面に形成した開口部(図示せず)を介して、収納室12内に顆粒状の金属蒸発材料Mを収納する。金属蒸発材料Mの粒径は、その種類に応じて適宜選択され、例えば金属蒸発材料MがDyやTbである場合、DyやTbの粒径が10〜1000μmの範囲することが望ましい。10μm以下では、発火性を有するDy、Tbの粒の取扱いが困難であり、他方で、1000μmを超えると、蒸発に時間を要する。また、収納室12に収納する金属蒸発材料Mの総量は、金属蒸発材料Mの収率が高くなるように、原料表面に所定の膜厚で金属蒸発材料Mが成膜できるのに必要な時間だけ、真空チャンバ11内で金属蒸気雰囲気を継続させるのに必要なものとする。
【0025】
次いで、断熱材41を再度取付けた後、各開閉弁5a、5bの閉弁状態で下側の他方の開閉弁5bの弁本体51に排気管6を接続した後、真空排気手段61を作動させると共に駆動軸を操作して他方の開閉弁5bを開弁する。そして、収納室12に収納した金属蒸発材料Mの種類に応じて、処理室10を所定圧力(例えば1 〜10−5Pa)まで減圧した後、加熱手段4を作動させて所定温度(例えば600〜1700℃)に処理室10を加熱する。例えば、金属蒸発材料MがDyである場合、処理室10を一旦例えば1×10−5Paまで減圧した後、1000℃〜1700℃の範囲で処理室10を加熱する。1000℃より低い温度では、真空チャンバ11に投入された原料表面に高速でDyを付着堆積できる蒸気圧まで達しない。他方、1700℃を超えた温度では、原料への付着堆積時間が極端に短くなり過ぎる。
【0026】
処理室10が所定温度に達すると、処理室10に所定の蒸気圧を持つ金属蒸気雰囲気(Dyの場合、例えば1300℃で10Paの蒸気圧)が形成される。処理室10に金属蒸気雰囲気を形成する間、ホッパー7の準備室70では、上述のように作製した原料を収納した後、シュート部71の先端に、図示しない排気管を接続し、真空排気手段を作動させると共にた開閉弁72を開弁させ、準備室70が所定圧力(例えば1×10−5Pa)まで減圧する工程が行われる。尚、準備室に収納される原料は、塊状、薄片状または粉末状のものいずれかであってもよい。
【0027】
また、準備室70では、減圧下において、例えば原料表面の酸化膜や水分を除去するクリーニングの前処理を行ってもよい。クリーニングの前処理は、準備室70の圧力が所定値(例えば、10×10−5Pa)に達した後、準備室70を所定温度に加熱する工程、または、図示しないガス導入手段を介してAr等の不活性ガスを導入し、高周波電源を作動させて準備室70でプラズマを発生させ、準備室70内で原料を移動させながらプラズマによるクリーニングを行う工程である。クリーニングの前処理が終了したとき、原料が室温〜200℃の温度となるようにする。
【0028】
次いで、処理室10での金属蒸気雰囲気の形成と、準備室70の減圧(原料のクリーニングを含む)とが終了すると、開閉弁72を閉弁し、シュート部71の先端から排気管を取外す。そして、処理室10と準備室70との間で2桁以上の圧力差が生じるように、図示しないガス導入手段を介してAr等の不活性ガスを導入し、準備室70の圧力を所定値(例えば、1000Pa)にする。
【0029】
この状態で、ホッパー7のシュート部71の先端を、上側に位置する一方の開閉弁5aの弁本体51に接続した後、開閉弁5a、72をそれぞれ開弁すると、準備室70内の原料が、その自重で各開閉弁72、5aを通って処理室10に投入される。この場合、処理室10と準備室70との間に圧力差をつけているので、準備室70から処理室10に不活性ガスが処理室10に侵入し、処理室10の圧力が高くなることで、一旦蒸発が停止するが(加熱手段4の作動は停止しない)、金属蒸発雰囲気中の金属原子が準備室70側に入り込むことが防止できる。
【0030】
次いで、処理室10への原料の投入が終了すると、開閉弁5a、72をそれぞれ閉弁して処理室10及び準備室70を相互に隔絶した後、ホッパー7を取り外す。そして、真空排気手段を介して排気されている真空チャンバ11の圧力が再度所定値(例えば、10×10−2Pa)に達すると、金属蒸発材料Mが再蒸発して処理室10に金属蒸気雰囲気が形成される。金属蒸気雰囲気が形成されると、開閉弁5bを閉弁し、排気管6を取り外した後、モータ3を作動させて所定の回転数で真空チャンバ11を回転させながら、所定時間保持する。
【0031】
この場合、処理室10内温度より低い原料と処理室10との温度差によって、原料表面に金属蒸気雰囲気中の金属原子が高速かつ選択的に付着して堆積する。そして、真空チャンバ11を回転させて処理室10で原料を移動させることで、原料の全表面に亘って金属蒸発材料が成膜される。その際、原料は、高温の処理室に投入されたことで輻射熱により所定温度まで加熱され、その結果、原料の表面に付着した金属原子の一部がその結晶粒界に拡散される(処理工程)。
【0032】
次いで、所定時間保持した後、加熱手段4を停止させると共に、図示しないガス導入手段を介してAr等の不活性ガスを導入して処理室10をベントすると共に、図示しない回収容器を、下側位置する開閉弁5bの弁本体51に連結し、この開閉弁5bを開弁すると、回収容器に、原料の表面が金属蒸発材料Mの膜で覆われ、ひいてはその結晶粒界に拡散されたボンド磁石用の磁性材料が回収される。
【0033】
尚、原料のサイズ(粒度)によっては、上記処理の際、高温の処理室10に投入しても所定温度まで昇温せず、表面に付着した金属原子の結晶粒界への拡散が不十分になる虞がある。この場合、処理室10内での金属蒸気雰囲気の形成を停止した後、再度、下側の他方の開閉弁5bの弁本体51に排気管6を接続し、真空排気手段61を作動させる共に他方の開閉弁5bを開弁して、所定圧力(10×10−3Pa)まで処理室10を再度減圧する。
【0034】
次いで、加熱手段4を再度作動させて、所定温度(例えば、400℃〜1000℃)下で所定時間だけ、金属蒸発材料Mが成膜されたものに対し熱処理を施し、結晶粒界への拡散を促進させてもよい(第一の拡散工程)。第一の熱処理に引き続き、その熱処理より低い所定温度(例えば、350℃〜700℃)下で所定時間(例えば、30分)だけ歪を除去する熱処理を施すことが好ましい(第二の熱処理工程)。これにより、全表面に亘って金属蒸発材料が成膜されると共に、表面に付着した金属原子を結晶粒界に拡散させて均一に行き渡らせた磁性材料が得られる。
【0035】
次いで、上記処理により得られた粉末状の磁性材料の種類に応じて、そのままの状態でまたは適宜5〜300μmの粒径に微粉砕した後、PPS等の樹脂バインダーとを混合し、公知の構造を有する圧縮成形機や射出成形機を用いて所定形状の希土類ボンド磁石に成形される。この場合、希土類ボンド磁石は、大気にふれると酸化され易く、使用環境によっては磁気特性が徐々に低下するという問題があったが、極めて高い耐食性、耐候性を有するDyやTbなどの金属蒸発材料が表面及び結晶粒界に存在することで強い耐食性、耐候性を有するものとなる。
【0036】
また、上記方法で得た磁性材料は、その表面だけでなく、結晶粒界にもDy等の金属蒸発材料が拡散しているため、この磁性材料を用いて希土類ボンドを作製したとき、減磁曲線の角形性が向上し、磁気特性を示す最大エネルギー積(BHmax)、残留磁束密度(Br)が格段に向上し、併せて、保磁力も向上することで、高磁気特性のものとなる。尚、塊状の原料に上記処理を実施した後に適宜所定の粒径に微粉砕した磁性材料を用いて、希土類ボンドを作製しても、結晶粒界相に耐食性のよいDy、Tb等のリッチ相が多く存在するため、磁気特性が劣化することはない。
【実施例1】
【0037】
(試料1)先ず、以下のように公知の方法で、希土類等方性ボンド磁石用の磁性材料を試料1として得る。この場合、出発材料である原料粉末は、Nd−Fe−B系超急冷等方性ボンド磁石用のものであり、組成(at%)がNd13Fe84Coのものを、真空溶解後に、水冷銅ロールで急冷した後、粉砕して得た。この原料粉末の粒度は10〜60μmであった。
【0038】
次に、上記処理装置1を用い、上記方法によって原料表面に金属蒸発材料を付着堆積させた。この場合、金属蒸発材料Mとして、Dy、Nd、Ce、Zr、Cr、Al、Nbを1:1:0.5:1:1:1:1の組成比で混合して得た合金を用い、顆粒状のものを収納室12に収納した。また、処理室10を、10−3Paまで真空排気すると共に、加熱手段4による処理室10の加熱温度1000℃に設定して、1分間処理を実施した。この場合、処理室の温度が600℃に到達した後、0.2rpmの回転速度で真空チャンバ11を回転させることとした。
【0039】
次いで、原料粉末表面に、金属蒸発材料Mが成膜処理されたものを、800℃の温度で30分間、第一の熱処理を実施し、引き続き、600℃の温度で20分間、第二の熱処理(アニール処理)を実施して、上記磁性材料を得た。
【0040】
(試料2)先ず、以下のように公知の方法で、希土類等方性ボンド磁石用の磁性材料を試料2として得る。この場合、出発材料である原料粉末は、Nd−Fe−B系交換スプリング系等方性ボンド磁石用の原料粉末であり、組成(at%)がNdFe7620のものを、真空溶解した後、水冷銅ロールで超急冷後のリボンを粉砕して得た。この原料粉末の粒度は5〜20μmであった。
【0041】
次に、上記処理装置1を用い、上記方法によって原料表面に金属蒸発材料を付着堆積させた。この場合、金属蒸発材料Mとして、Dy、Tb、Pr、La、Mo、V、Gaを1:1:1:0.2:0.2:0.2:0.2の組成比で混合して得た合金を用い、顆粒状のものを収納室12に収納した。また、処理室10を、10−8Paまで真空排気すると共に、加熱手段4による処理室10の加熱温度1200℃に設定して、2分間処理を実施した。この場合、処理室の温度が800℃に到達した後、0.5rpmの回転速度で真空チャンバ11を回転させることとした。
【0042】
次いで、原料粉末表面に、金属蒸発材料Mが成膜処理されたものを、600℃の温度で60分間、第一の熱処理を実施し、引き続き、500℃の温度で5分間、第二の熱処理(アニール処理)を実施して、上記磁性材料(試料2)を得た。
【0043】
(試料3)先ず、以下のように公知の方法で、希土類異方性ボンド磁石用の磁性材料を試料2として得る。この場合、出発材料である原料粉末は、Nd−Fe−B系HDDR異方性ボンド磁石用のものであり、組成(at%)がNdFe14のインゴットを、真空高周波誘導溶解炉を用いて、炉内温度1100℃、12時間、溶体化処理を施した後、インゴットに対し、800℃でHDDR処理を施して得た。この原料粉末の粒度は20〜80μmであった。
【0044】
次に、上記処理装置1を用い、上記方法によって原料表面に金属蒸発材料を付着堆積させた。この場合、金属蒸発材料Mとして、Dy、Tb、Y、Cu、Znを1:1:1:1:1の組成比で混合して得た合金を用い、顆粒状のものを収納室12に収納した。また、処理室10を、10−6Paまで真空排気すると共に、加熱手段4による処理室10の加熱温度1000℃に設定して、5分間処理を実施した。この場合、処理室の温度が900℃に到達した後、0.3rpmの回転速度で真空チャンバ11を回転させることとした。
【0045】
次いで、原料粉末表面に、金属蒸発材料Mが成膜処理されたものを、800℃の温度で60分間、第一の熱処理を実施し、引き続き、600℃の温度で30分間、第二の熱処理(アニール処理)を実施して、上記磁性材料(試料3)を得た。
【0046】
(試料4)先ず、以下のように公知の方法で、希土類等方性ボンド磁石用の磁性材料を試料4として得る。この場合、出発材料である原料粉末は、Sm−Fe−N系等方性ボンド磁石用のものであり、組成(at%)がSmZr0.2Fe16Mnのものを、真空溶解後に、超急冷法でフレークを作製した後、600℃で窒化処理した後に粉砕して得た。この原料粉末の粒度は10〜50μmであった。
【0047】
次に、上記処理装置1を用い、上記方法によって原料表面に金属蒸発材料を付着堆積させた。この場合、金属蒸発材料Mとして、Ho、Er、Sm、Mg、Znを1:1:1:1:1の組成比で混合して得た合金を用い、顆粒状のものを収納室12に収納した。また、処理室10を、10−5Paまで真空排気すると共に、加熱手段4による処理室10の加熱温度800℃に設定して、5分間処理を実施した。この場合、処理室の温度が550℃に到達した後、1rpmの回転速度で真空チャンバ11を回転させることとした。
【0048】
次いで、原料粉末表面に、金属蒸発材料Mが成膜処理されたものを、550℃の温度で180分間、第一の熱処理を実施し、引き続き、400℃の温度で60分間、第二の熱処理(アニール処理)を実施して、上記磁性材料(試料4)を得た。
【0049】
(試料5)先ず、以下のように公知の方法で、希土類異方性ボンド磁石用の磁性材料を試料5として得る。この場合、出発材料である原料粉末は、Sm−Fe−N系異方性ボンド磁石用のものであり、組成(at%)がSmTi0.2Fe16Coのものを、真空溶解後、ストリップキャスティング法で急冷後のフレークを、600℃で窒化処理後に微粉砕して得た。この原料粉末の粒度は5〜20μmであった。
【0050】
次に、上記処理装置1を用い、上記方法によって原料表面に金属蒸発材料を付着堆積させた。この場合、金属蒸発材料Mとして、Tm、Gd、Li、Ti、Zn、Sm、Mnを1:1:1:1:1:1:1の組成比で混合して得た合金を用い、顆粒状のものを収納室12に収納した。また、処理室10を、10−4Paまで真空排気すると共に、加熱手段4による処理室10の加熱温度900℃に設定して、1分間処理を実施した。この場合、処理室の温度が580℃に到達した後、2rpmの回転速度で真空チャンバ11を回転させることとした。
【0051】
次いで、原料粉末表面に、金属蒸発材料Mが成膜処理されたものを、550℃の温度で120分間、第一の熱処理を実施し、引き続き、450℃の温度で20分間、第二の熱処理(アニール処理)を実施して、上記磁性材料(試料5)を得た。
【0052】
そして、上記のように得た試料1乃至試料5に、1〜5重量%の割合で12ナイロンを混合した後、公知の射出成形機で射出成形して希土類等方性ボンド磁石、希土類異方性ボンド磁石を得た。
【0053】
図2は、上記のように作製した希土類等方性ボンド磁石、希土類異方性ボンド磁石の磁気特性及び耐熱温度を示す表である。この場合、各原料に金属蒸発材料Mの成膜、拡散処理を行わずに、上記手順で希土類等方性ボンド磁石、希土類異方性ボンド磁石をそれぞれ得たときの磁気特性及び耐熱温度を比較例として併せて示す。耐熱温度は、フラックスロス法によるパーミアンスを5として得たときのものである。
【0054】
これによれば、実施例1では、金属蒸発材料Mの各金属元素が結晶粒界に効率よく拡散していることで、角形性が向上したため、最大エネルギー積が10MG0e以上の希土類等方性ボンド磁石、最大エネルギー積15MG0e希土類異方性ボンド磁石が得られていることが判る。つまり、実施例1では、比較例のものと比較して格段に最大エネルギー積及び残留磁束密度が向上していることが判る。また、実施例1のものでは、14k0e以上の高い保磁力を有することで、耐熱温度が、比較例のものと比較して倍以上になっていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の処理装置の構成を概略的に説明する図。
【図2】実施例1で得たボンド磁石の磁気特性を示す表。
【符号の説明】
【0056】
1 処理装置
10 処理室
11 真空チャンバ
12 収納室
M 金属磁性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素及び鉄を含有する粉末状の原料の表面に、Dy、Tb、Ho、Er、Tm、Gd、Nd、Sm、Pr、Ce、La、Y、Zr、Cr、Mo、V、Ga、Zn、Cu、Mg、Li、Al、Mn、Nb、Tiの中から選択される少なくとも1種を含有する金属蒸発材料を付着させる処理工程を含むボンド磁石用の磁性材料の製造方法であって、前記処理工程は、この処理工程を実施する処理室を加熱し、この処理室内に予め配置した前記金属蒸発材料を蒸発させて金属蒸気雰囲気を処理室内に形成する第一工程と、処理室内の温度より低く保持した原料をこの処理室に投入し、この処理室内で原料を移動させながら、処理室内と原料との間の温度差によって、原料表面に前記金属蒸発材料を選択的に付着させる第二工程とを含むことを特徴とするボンド磁石用の磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記金属蒸気雰囲気が、前記処理室内で飽和状態であることを特徴とする請求項1記載のボンド磁石用の磁性材料の製造方法。
【請求項3】
前記処理工程を実施した後、所定温度下で表面に金属蒸発材料が付着した原料を加熱する第一の熱処理工程を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のボンド磁石用の磁性材料の製造方法。
【請求項4】
前記第一の熱処理工程を実施した後、この第一の熱処理工程での熱処理温度より低い温度で表面に金属蒸発材料が付着した原料を加熱する第二の熱処理工程を含むことを特徴とする請求項3記載のボンド磁石用の磁性材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の製造方法で得た磁性材料を、樹脂バインダーと共に成形してなることを特徴とする希土類ボンド磁石。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−69415(P2008−69415A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249826(P2006−249826)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】