説明

ボールねじのボールナット

【課題】ボールねじのボールナットを改良して、内輪を簡単な形式で適切にボールナットに位置決めする。
【解決手段】支持リングが、材料変形によって軸方向の支持方向で形状接続的にボールナット6に配置されるようにするため、ボールナット6にローラバニシング加工過程で固着されており、該ローラバニシング加工過程によって、支持リングの変形させられた材料が、ボールナット6の、特に溝によって形成された切欠き内に押し込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじのボールナットであって、該ボールナットの内周面に、ボールを転動させるための、長手方向軸線を中心として螺旋状に形成されたボール溝が設けられており、ボールナットの外周面に、該ボールナットを回転可能に支承するための転がり軸受けが配置されており、該転がり軸受けが、内輪を有しており、該内輪が、ボールナットに配置された支持リングによって軸方向の支持方向で支持されている形式のものに関する。
【0002】
さらに、本発明は、ボールナットを製作するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ボールねじは、回転運動を並進運動に変換するために使用される。ボールねじは、ねじスピンドルに配置されたボールナットを有している。この場合、ボールは、ボールナットとねじスピンドルとの、螺旋状に形成されたボール溝に沿ってねじスピンドルとボールナットとの間の相対回動下で転動する。
【0004】
DE10193475T1に基づき、自動車に用いられる電気的に駆動されるパワーステアリング装置が公知である。この公知のパワーステアリング装置では、ラックバーが、ねじスピンドルとして形成された区分を有している。DE10193475T1の図2には、ラック式ステアリングの部分縦断面図が示してある。この場合、ボールナットは、ボールの介在下でねじスピンドルに回転可能に支承されている。ねじスピンドルに対する区分を備えたラックバーはハウジング内に収納されている。ボールナットは深溝玉軸受けを介してハウジングに回転可能に支承されている。深溝玉軸受けは外輪と内輪とを有している。深溝玉軸受けの内輪は、一方でボールナットの肩部に軸方向で支持されていて、他方で支持リングに軸方向で支持されている。こうして、内輪が両軸方向で適切にボールナットにひいてはボールナットが適切にハウジング内に位置決めされていると共に保持されている。支持リングはその内周面にねじ山区分を有している。ボールナットはその自由端部の外周面に別のねじ山区分を有しており、これによって、支持リングをボールナットにねじ被せることができる。深溝玉軸受けの内輪はボールナットの肩部と支持リングとの間に軸方向で緊締されているかまたは適切に位置決めされている。
【0005】
特にこのような形式のステアリング装置では、ボールナットが両軸方向で適切に保持されていることが確保されていなければならない。ねじ被せられた支持リングの場合には、振動に基づき、支持リングの調整された位置が変化させられ、これによって、内輪が軸方向に望ましくない形式で遊びを随伴する可能性がある。支持リングのこのような望ましくない位置変化を回避するために、変更された螺合が行われてもよい。しかし、この螺合は、高められた製造手間を要求する。択一的には、軸用位置固定リングが設けられてもよい。この軸用位置固定リングは、ボールナットの周方向溝内に係合する。しかし、この解決手段では、場合により必要となる、軸用位置固定リングと内輪との間の軸方向のプリロードをほとんど実現することができないことが不利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE10193475T1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、請求項1の上位概念部の特徴によるボールねじのボールナットを改良して、内輪を簡単な形式で適切にボールナットに位置決めすることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために本発明のボールナットでは、支持リングが、材料変形によって軸方向の支持方向で形状接続的にボールナットに配置されているようにした。
【0009】
本発明のボールナットの有利な態様によれば、支持リングが、ボールナットにローラバニシング加工過程で固着されており、該ローラバニシング加工過程によって、支持リングの変形させられた材料が、ボールナットの、特に溝によって形成された切欠き内に押し込まれている。
【0010】
本発明のボールナットの有利な態様によれば、支持リングが、ボールナットに縁曲げ加工過程で固着されており、該縁曲げ加工過程によって、支持リングの変形させられた材料が、ボールナットの、特に溝によって形成された切欠き内に押し込まれている。
【0011】
本発明のボールナットの有利な態様によれば、内輪が分割されており、一方の内輪部分が、ボールナットの、一体に成形された肩部によって形成されており、他方の内輪部分が形成されている。
【0012】
本発明のボールナットの有利な態様によれば、変形させられた材料が、肩部、隆起部または縁部として形成されている。
【0013】
本発明のボールナットの有利な態様によれば、支持リングが、内輪に対する支持部としての、内輪に向けられた肩区分と、該肩区分に続く、変形工具によって変形させるための、肩区分に比べて先細りにされた変形区分とを有している。
【0014】
さらに、前述した課題を解決するために本発明の方法では、内輪と支持リングとをボールナットに配置し、ローラバニシング加工によって、支持リングの材料を塑性変形させるようにした。
【0015】
さらに、前述した課題を解決するために本発明の別の方法では、内輪と支持リングとをボールナットに配置し、縁曲げ加工によって、支持リングの材料を塑性変形させるようにした。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、支持リングを適切な変形加工法、有利には縁曲げ加工またはローラバニシング加工によって塑性変形させることができ、これによって、支持リングが、場合により所望される軸方向のプリロード下で内輪に圧着されていて、さらに、別の手段なしに適切にボールナットに配置されている。
【0017】
「形状接続的」とは、支持リングの変形させられた材料が、半径方向でボールナットの少なくとも一区分に重畳して配置されていることを意味している。また、「形状接続的」とは、ボールナットの変形させられた材料が、半径方向で支持リングの少なくとも一区分に重畳して配置されていることも意味している。
【0018】
本発明による簡単な構成では、ボールナットが、たとえば、周方向に延びる1つの溝を備えていてよい。この溝内には、支持リングの変形させられた材料が係合し、これによって、支持リングが軸方向で適切に保持されている、1つの溝の代わりに、ただ1つの肩部がボールナットに設けられていてもよい。この場合、支持リングの変形させられた材料がこの肩部に一方の軸方向の支持方向で接触している。他方の軸方向では、支持リングをボールナットの別の肩部に支持することができる。
【0019】
本発明によるボールナットの特別な利点は、特に分割された内輪の場合に必要となるように、場合により所望される、支持リングと内輪との間の軸方向のプリロードが問題なく調整可能であることに見ることができる。転がり軸受けが、たとえば深溝玉軸受けとして形成されている場合には、分割された内輪が、ボールナットに一体に成形された内輪部分と、別の別個の内輪部分とを有することができる。この事例では、玉に対する転動のための玉溝が両内輪部分に一緒に形成されている。このような形式の分割された内輪では、両内輪部分が相互にしばしば軸方向のプリロード下で配置されている。支持リングは、この支持リングと内輪との間ひいては両内輪部分の間の所望の軸方向のプリロードが調整されるまで、ボールナットに被せ嵌めることができる。いま、簡単に支持リングの材料をボールナットの1つまたはそれ以上の切欠き内に押込み成形することができ、これによって、支持リングが支持方向で形状接続的に保持されていると共に支持されている。
【0020】
本発明による有利な構成では、支持リングがボールナットに1回のローラバニシング加工過程で固着される。この場合、このローラバニシング加工過程によって、支持リングの変形させられた材料が、ボールナットの、特に溝によって形成された切欠き内に押し込まれる。ローラバニシング加工過程時には、支持リングがボールナットにガイドされて被せ嵌められ、その後、適切なローラバニシング加工工具が支持リングに突き当てられ、最終的にローラバニシング加工工具によるローラバニシング加工によって支持リングの材料が塑性変形させられる。
【0021】
ローラバニシング加工工具は、支持リングの全周にわたって分配された配置された複数のローラを有していてよい。これらのローラは支持リングの半径方向の負荷下でボールナットの外周面において転動する。この場合、半径方向の負荷下で支持リングの材料が塑性変形させられる。
【0022】
本発明による別の有利な構成では、支持リングがボールナットに1回の縁曲げ加工過程で圧着される。この場合、この縁曲げ加工過程によって、支持リングの変形させられた材料が、ボールナットの、特に溝によって形成された切欠き内に押し込まれる。
【0023】
1回の縁曲げ加工過程では、場合により複数の部材から成る工具が支持リングの外周面に当て付けられる。この場合、半径方向のかつ場合により軸方向の負荷下でしか、支持リングの材料が塑性変形させられない。その後、この塑性変形されられた材料が、スピンドルナットの準備された切欠き内に形状接続的に係合することができる。
【0024】
材料変形に基づき、支持リングに肩部または縁部が形成することができる。この場合、この肩部または縁部は形状接続的に軸方向の支持方向でボールナットの一区分に支持されている。
【0025】
支持リングは、内輪に対する支持部としての、内輪に向けられた肩区分と、この肩区分に続く、変形工具によって変形させるための、肩区分に比べて先細りにされた変形区分とを有していてよい。この変形区分は、1つには、適切な変形が保証されているものの、この場合、もう1つには、軸方向の支持方向での十分な安定した形状接続的な支持が保証されているように寸法設定された厚さを有している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるボールナットを備えた電気機械的に操舵補助される自動車のラック式ステアリングの一部を示す図である。
【図2】本発明による支持リングの詳細図である。
【図3】図1に示したボールナットの断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を実施するための形態を図面につき詳しく説明する。
【0028】
図1には、電気機械的に操舵補助される自動車のラック式ステアリングの一部が示してある。ラックバーは、歯列2を備えた第1の区分1と、ねじスピンドル4として形成された第2の区分3とを有している。自体公知のボールねじ5が設けられている。このボールねじ5は本発明によるボールナット6を有している。このボールナット6には、ベルトプーリ7が相対回動不能に配置されている。歯付きベルト8がベルトプーリ7に巻き掛かっていて、ボールナット6を駆動する。
【0029】
このボールナット6は軸方向の一方の端部に転がり軸受け9を備えている。この転がり軸受け9は、図3に明確に示してある。
【0030】
図3には、本発明によるボールナット6の部分拡大図が示してある。この図から知ることができるように、ボールナット6はその内周面に、ボール(図示せず)のための螺旋状に形成されたボール溝6aを備えている。ボールはボールナット6とねじスピンドル4とに係合しており、これによって、ボールナット6の回転下でこのボールナット6に対するラックバーの軸方向の移動が行われる。
【0031】
ボールナット6はハウジング(図示せず)内に、深溝玉軸受け10として形成された転がり軸受け9を介して半径方向で支承されている。この深溝玉軸受け10を介して、本発明によるボールナット6が適切に両軸方向で位置決めされていると共に保持されている。
【0032】
深溝玉軸受け10は、2つの部分から成る内輪11を有している。この内輪11の一方の内輪部分12は、ボールナット6に一体に成形された肩部13によって形成されている。他方の内輪部分14はボールナット6に配置されていて、肩部13と一緒に玉16のための玉溝15を形成している。さらに、深溝玉軸受け10は外輪17を有している。この外輪17はその内周面に玉16のための別の玉溝18を備えている。
【0033】
内輪部分14は、一方でボールナット6の肩部19に軸方向で支持されていて、他方で支持リング20に軸方向で支持されている。内輪部分14は軸方向で遊びなしに支持リング20と肩部19との間に保持されている。
【0034】
支持リング20は、内輪部分14に向けられた肩区分21を有している。この肩区分21には、内輪部分14が軸方向で支持されている。さらに、支持リング20は、肩区分21に続く、この肩区分21に比べて先細りにされた変形区分22を有している。この場合、この変形区分22の塑性変形によって形成された全周にわたって延びる隆起部23が、ボールナット6の溝24内に形状接続的に係合している。この溝24内への、塑性変形によって形成された隆起部23の形状接続的な係合は、軸方向の支持方向での、すなわち、内輪部分14から離れる方向での支持リング20の適切な保持を保証していて、場合により、付加的に逆の軸方向での支持リング20の適切な保持も保証している。溝24内への隆起部23の押込み成形は、内輪11の所望の軸方向のプリロード(予備荷重)が調整されている場合に行われる。
【0035】
図2には、支持リング20が塑性変形前の状態で、すなわち、材料変形が実施される前の状態で示してある。図2から明確に知ることができるように、変形区分22はまだ図3に示したような隆起部23を備えていない。支持リング20は、図3に示したように、ボールナット6に被せ嵌められ、内輪部分14に当て付けられる。いま、支持リング20の所望の軸方向の位置で変形区分22が塑性変形させられ、これによって、材料変形により材料が半径方向内向きに押し退けられる。
【0036】
変形は、図示の構成では、ローラバニシング加工によって行われている。この目的のためには、ローラバニシング加工工具(図示せず)が、すでに組み付けられた支持リング20に装着されている。ローラバニシング加工工具は、通常、全周にわたって分配されて配置された1つまたはそれ以上のローラを有している。これらのローラは半径方向の負荷下でボールナット6の周面において転動し、最終的に変形区分22の材料を塑性変形させ、これによって、隆起部23が形成されている。
【符号の説明】
【0037】
1 第1の区分
2 歯列
3 第2の区分
4 ねじスピンドル
5 ボールねじ
6 ボールナット
6a ボール溝
7 ベルトプーリ
8 歯付きベルト
9 転がり軸受け
10 深溝玉軸受け
11 内輪
12 内輪部分
13 肩部
14 内輪部分
15 玉溝
16 玉
17 外輪
18 玉溝
19 肩部
20 支持リング
21 肩区分
22 変形区分
23 隆起部
24 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ(5)のボールナット(6)であって、該ボールナット(6)の内周面に、ボールを転動させるための、長手方向軸線を中心として螺旋状に形成されたボール溝(6a)が設けられており、ボールナット(6)の外周面に、該ボールナット(6)を回転可能に支承するための転がり軸受け(9)が配置されており、該転がり軸受け(9)が、内輪(11)を有しており、該内輪(11)が、ボールナット(6)に配置された支持リング(20)によって軸方向の支持方向で支持されている形式のものにおいて、支持リング(20)が、材料変形によって軸方向の支持方向で形状接続的にボールナット(6)に配置されていることを特徴とする、ボールねじのボールナット。
【請求項2】
支持リング(20)が、ボールナット(6)にローラバニシング加工過程で固着されており、該ローラバニシング加工過程によって、支持リング(20)の変形させられた材料が、ボールナット(6)の、特に溝(24)によって形成された切欠き内に押し込まれている、請求項1記載のボールナット。
【請求項3】
支持リング(20)が、ボールナット(6)に縁曲げ加工過程で固着されており、該縁曲げ加工過程によって、支持リング(20)の変形させられた材料が、ボールナット(6)の、特に溝(24)によって形成された切欠き内に押し込まれている、請求項1記載のボールナット。
【請求項4】
内輪(11)が分割されており、一方の内輪部分(12)が、ボールナット(6)の、一体に成形された肩部(13)によって形成されており、他方の内輪部分(14)が形成されている、請求項1記載のボールナット。
【請求項5】
変形させられた材料が、肩部、隆起部(23)または縁部として形成されている、請求項1記載のボールナット。
【請求項6】
支持リング(20)が、内輪(11)に対する支持部としての、内輪(11)に向けられた肩区分(21)と、該肩区分(21)に続く、変形工具によって変形させるための、肩区分(21)に比べて先細りにされた変形区分(22)とを有している、請求項1記載のボールナット。
【請求項7】
請求項1記載のボールナット(6)を製作するための方法において、内輪(11)と支持リング(20)とをボールナット(6)に配置し、ローラバニシング加工によって、支持リング(20)の材料を塑性変形させることを特徴とする、ボールナットを製作するための方法。
【請求項8】
請求項1記載のボールナット(6)を製作するための方法において、内輪(11)と支持リング(20)とをボールナット(6)に配置し、縁曲げ加工によって、支持リング(20)の材料を塑性変形させることを特徴とする、ボールナットを製作するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−12812(P2011−12812A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152693(P2010−152693)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(510068035)シェフラー テクノロジーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (69)
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1−3, D−91074 Herzogenaurach, Germany
【Fターム(参考)】