説明

ボールねじアクチュエータ機構

【課題】低コストでナットの回り止め機能を実現できるボールねじアクチュエータ機構を提供する。
【解決手段】案内部材13を設けることで、ハウジング1の本体1aの内周を単純円形とでき、またナット3にも突起を設ける必要がなく、低コストでありながら有効な回り止め機能を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般産業用機械に組付けられたり、或いは自動車に使用されたりするボールねじアクチュエータ機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の省力化が進み、例えば自動車のトランスミッションやパーキングブレーキなどを手動でなく、電動モータの力により行うシステムが開発されている。そのような用途に用いる電動アクチュエータには、電動モータから伝達される回転運動を高効率で軸線方向運動に変換するために、ボールねじ機構が用いられる場合がある。
【0003】
特許文献1には、電動モータから取り出された回転運動を、ボールねじ機構を介して直線運動に変換する電動アクチュエータが開示されている。特許文献1のアクチュエータにおいては,ナットの回転止めとして、べース(ハウジング)内周にナット回転止めの為の溝が成形され、更にナットに突起形状を成形し、ナットの回転を抑止している。
【特許文献1】特開2002−130419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ボールねじ機構を備え、そのナットをハウジングに内包するように構成された電動アクチュエータにおいて、ナットの回転を抑止する為の回り止めを設けるには、ハウジング内周に回り止め用の溝を設けたり、或いは内周を異形(非円筒)形状にする必要がある。しかるに、機械加工によって、ハウジング内周に溝を形成したり、異形形状を成形しようとする場合、細長いハウジングに対する加工は困難であることから、ハウジング全長が制限され、その結果アクチュエータのストロークを長く確保することができないという問題がある。これに対し、型を用いた成形加工よって、ハウジング内周に溝を形成したり、異形形状を成形しようとすることも考えられるが、型が複雑となり、コスト高を招くという問題がある。加えて、ハウジング内周溝にナットを係合させるためには、ナットに突起を設ける必要が生じ、同様にナットのコスト高が避けられないという問題がある。さらには、ハウジング内周、ナット形状とも複雑な形状にせざるを得ず、ひいてはアクチュエータの大型化を誘発することとなっている。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、低コストでナットの回り止め機能を実現できるボールねじアクチュエータ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のボールねじアクチュエータ機構は、
ハウジングと、
外周面に雄ねじ溝を形成したねじ軸と、
前記ハウジングに対して軸線方向に移動可能となっており、前記ねじ軸を包囲するように配置され且つ内周面に雌ねじ溝を形成したナットと、
対向する両ねじ溝間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールと、
前記ハウジングの内周面に沿って延在する案内部と、前記ハウジングに係合する係合部とを有する案内部材と、を有し、
前記ナットは、前記案内部材の案内部に係合する溝を形成しており、前記案内部に沿って移動自在となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のボールねじアクチュエータ機構によれば、前記案内部材が、前記ハウジングの内周面に沿って延在する案内部と、前記ハウジングに係合する係合部とを有し、前記ナットは、前記案内部材の案内部に係合する溝を形成しており、前記案内部に沿って移動自在となっているので、前記ハウジング内周を単純円形とでき、また前記ナットにも突起を設ける必要がなく、低コストでありながら回り止め機能を実現できる。
【0008】
前記案内部材の一端において、前記案内部に対して前記係合部が角度付けして形成されており、前記案内部材の他端は、前記ハウジングに取り付けられた部材(例えばブッシュや軸受等)に係合していると、組付けが容易になるので好ましい。
【0009】
前記案内部材は、板材をプレスすることで形成されていると、より低コストで形成できるので好ましい。
【0010】
前記案内部に低摩擦皮膜処理を施すと、案内時の摩擦が低減されるため好ましい。回り止めは、ハウジング内周、ナット軸線溝、ハウジングに嵌合される軸受間座、ハウジングに嵌合される軸受ブッシュに囲まれた空間に挟持するだけとすると好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態にかかるボールねじ機構を備えたボールねじアクチュエータ機構の外観図である。図2は、図2は、図1の構成をII-II線で切断して矢印方向に見た図である。図3は、図1の構成をIII-III線で切断して矢印方向に見た図である。図4は、図3の構成をIV-IV線で切断して矢印方向に見た図である。図5は、図3の構成をV-V線で切断して矢印方向に見た図である。
【0012】
図3において、ハウジング1は、略中空円筒状の本体1aと、本体1aの一端を閉止するように固定されるカップ状の蓋部材1bとからなる。単純な円筒形状の内周を持つ本体1aの内部には、被駆動部材である円筒状の出力軸2と、出力軸2に連結されたナット3とが配置されている。出力軸2は、図で左端を本体2から突出させており、図で右端には袋孔2aが形成されている。出力軸2の外周は、本体1aに対してブッシュ4により摺動可能に支持されている。ブッシュ4に隣接してシール部材5が配置され、出力軸2aと本体1aとの間をシールすることで、外部から塵埃等が侵入することを抑制している。
【0013】
ねじ軸6が、ナット3の内部を貫通し、出力軸2の袋孔2aに対して出入り自在に侵入している。ねじ軸6の外周面には、雄ねじ溝6aが形成されている。一方、ねじ軸6を包囲するように配置されたナット3は、その外周下面に軸線方向に沿って溝3bを形成しており、且つ内周面に雌ねじ溝3aを形成している。対向する両ねじ溝6a、3a間に形成された転走路に沿って、複数のボール7が転動自在に配置されている。チューブ式のボール循環部材を有するナット3,ねじ軸6,ボール7及び後述する案内部材13とでボールねじ機構を構成する。
【0014】
本体1aの端部に、軸受間座8を介して玉軸受9が配置され、ねじ軸6を回転自在に支持している。玉軸受6の外輪は、固定部材10により軸受間座8に対して固定されている。一方、玉軸受6の内輪は、止め輪11により出力軸2に対して固定されている。従って、出力軸2は、本体1aに対して回転のみ可能となっている。出力軸2の図で右端には、ギヤ12がセレーションにより一体的に回転するように連結されている。
【0015】
図2において、蓋部材1bの内側にモータ16が取り付けられている。モータ16の回転軸16aに連結されたピニオン14は、中間ギヤ15に噛合している。中間ギヤ15は、ギヤ12に噛合している。図2において、中間ギヤ15と、ギヤ12の歯は図示を省略している。
【0016】
図3において、金属板材をプレスして形成された案内部材13は、ナット3の溝3aに係合してなる直線状の案内部13aと、図で右端において案内部13aに対して直角に折り曲げられた係合部13bとを有している。更に、本体1aの図3で右端面には、溝状の凹部1cが形成されており、係合部13bは、それと同じ幅の凹部1cに係合している。略環状のブッシュ4は、周方向の一部に切欠4aを形成しており(図5参照)、案内部13aの図3で左端は、切欠4aに係合している。又、図5に示すように、ブッシュ4の外周には、突起4bが3カ所形成され、本体1aの内周面に形成された対応するくぼみ1dに係合している。従って、ブッシュ4は、本体1aに対して相対回転しないようになっている。
【0017】
案内部13aの表面には、低摩擦化のための表面処理を施しても良い。かかる処理としては、皮膜処理、表面硬化処理等が考えられる。皮膜処理としては、例えばリン酸マンガン塩やリン酸亜鉛の皮膜形成、二酸化モリブデンによるコーティング、ベーキングによる焼成膜の形成、スズ、亜鉛、銀、クロム(硬質クロム)その他の金属のメッキ等が考えられる。また、表面硬化処理としては、例えば浸硫窒化、浸硫、液体窒化、レーザビーム焼入れ、高周波焼入れ、浸炭焼入れ、ショットピーニング等が考えられる。
【0018】
操作者が不図示のスイッチを操作すると、モータ16の回転軸16aが回転し、ピニオン14,中間ギヤ15を介して動力が伝達され、それによりギヤ12が回転駆動されるので、それと共にねじ軸6が回転する。ここで、ナット3は、回り止め機能を発揮する案内部材13により、軸線方向にのみスムーズに案内されるようになっているため、ねじ軸6の回転運動は、ナット3の軸線運動に効率よく変換され、それによりナット3が連結された出力軸2を軸線方向に移動させることができる。
【0019】
組み付け時には、ブッシュ4を組み付けた本体1aの右端から案内部材13を差し込み、案内部13aの先端を切り欠き4aに挿入すると共に、折り曲げた係合部13bを本体1aの凹部1cに係合させる。かかる構成によれば、特殊な工具を用いることなく、案内部材13を本体1aに容易に取り付けることができる。その後、溝3bに案内部13aが係合するようにして、ナット3と出力軸2を本体1a内に挿入し、ねじ軸6等を組み付ければよい。
【0020】
特に、案内部13aが長尺であった場合、案内部材13が片方のみ支持されていると、支持されていない側で案内部材13のねじりが生じ、回り止め機能が不足する恐れがある。これに対し、本実施の形態によれば、案内部13aの先端をブッシュ4の切欠4aに係合させており、これにより案内部材13の両端を本体1aに固定することができるので、案内部13aが長尺であっても、そのねじれを抑制し有効な回り止め機能を実現できる。
【0021】
本実施の形態によれば、案内部材13を設けることで、ハウジング1の本体1aの内周を単純円形とでき、またナット3にも突起を設ける必要がなく、低コストでありながら有効な回り止め機能を実現できる。
【0022】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態にかかるボールねじ機構を備えたボールねじアクチュエータ機構の外観図である。
【図2】図1の構成をII-II線で切断して矢印方向に見た図である。
【図3】図1の構成をIII-III線で切断して矢印方向に見た図である。
【図4】図3の構成をIV-IV線で切断して矢印方向に見た図である。
【図5】図3の構成をV-V線で切断して矢印方向に見た図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ハウジング
1a 本体
1b 蓋部材
1c 凹部
2 出力軸
2a 袋孔
3 ナット
3a 雌ねじ溝
3b 溝
4 ブッシュ
4a 切欠
4b 突起
5 シール部材
6 ねじ軸
6a 雄ねじ溝
7 ボール
8 軸受間座
9 玉軸受
10 固定部材
11 止め輪
12 ギヤ
13 案内部材
13a 案内部
13b 係合部
14 ピニオン
15 中間ギヤ
16 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
外周面に雄ねじ溝を形成したねじ軸と、
前記ハウジングに対して軸線方向に移動可能となっており、前記ねじ軸を包囲するように配置され且つ内周面に雌ねじ溝を形成したナットと、
対向する両ねじ溝間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールと、
前記ハウジングの内周面に沿って延在する案内部と、前記ハウジングに係合する係合部とを有する案内部材と、を有し、
前記ナットは、前記案内部材の案内部に係合する溝を形成しており、前記案内部に沿って移動自在となっていることを特徴とするボールねじアクチュエータ機構。
【請求項2】
前記案内部材の一端において、前記案内部に対して前記係合部が角度付けして形成されており、前記案内部材の他端は、前記ハウジングに取り付けられた部材に係合していることを特徴とする請求項1に記載のボールねじアクチュエータ機構。
【請求項3】
前記案内部材は、板材をプレスすることで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじアクチュエータ機構。
【請求項4】
前記案内部に低摩擦皮膜処理を施したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のボールねじアクチュエータ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−232338(P2008−232338A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74597(P2007−74597)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】