説明

ボールねじ及び射出成形機

【課題】高速且つ高荷重条件下で使用されても長寿命なボールねじ及び射出成形機を提供する。
【解決手段】
ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転動路7に転動自在に装填された複数のボール9と、隣接するボール9の間に配されたセパレータ11と、を備えている。ねじ軸3及びナット5は鋼、ボール9はセラミック、セパレータ11は樹脂でそれぞれ構成されている。そして、ねじ軸3及びナット5には浸炭等の熱処理が施されており、ねじ溝3a,5aの表層部に含まれる残留オーステナイト量は15体積%以上40体積%以下とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールねじ及び射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動射出成形機やプレス機械等で使用されるボールねじは、比較的大型で且つ高荷重が負荷される。一方、近年、射出成形機は、成形品(例えば導光板やピックアップレンズのような精密部品)の薄肉化や射出成形機の電動化等に伴って、射出速度(射出成形機のスクリューの駆動速度)が高速化している。電動射出成形機の射出速度を高速化する方法としては、電動モータの回転運動をスクリューの直線運動に変換するボールねじのねじ軸の回転速度を高くする高Dn化(Dnは、ボールの中心径(単位はmm)と回転速度(単位はmin-1)との積である)と、線速度を高くするためのボールねじの大リード化が考えられる。
【0003】
しかしながら、ボールねじの大リード化は、その分だけナットの長さが長くなるので、ボールねじが組み込まれた電動射出成形機が大きくなるという問題がある。
また、ボールねじの高Dn化のためには、ボールねじの許容回転速度を高くする必要がある。特許文献1,2には、ボールをセラミックで構成するとともに、隣接するボール間にセパレータを介在させることにより、ボールの耐久性を確保して許容回転速度を高くしたボールねじが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−64123号公報
【特許文献2】特開2007−177951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セラミックは鋼と比較してヤング率が高いために、ねじ軸,ナットのねじ溝とボールとの間の接触面圧が高くなる傾向がある。よって、特許文献1,2に記載のボールねじは、高速条件で使用される場合には問題ないが、高荷重条件で使用される場合には、ねじ溝が早期に損傷するおそれがあった。
特に、ボールねじが電動射出成形機に使用される場合には、ボールねじの内部に異物が混入しやすく、異物混入下で且つ高面圧で使用されることとなるため、表面起点剥離等の損傷が発生しやすかった。
【0006】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高速且つ高荷重条件下で使用されても長寿命なボールねじ及び射出成形機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明のボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、隣接する前記ボールの間に配されたセパレータと、を備えるボールねじにおいて、前記ねじ軸及び前記ナットを鋼、前記ボールをセラミック、前記セパレータを樹脂でそれぞれ構成するとともに、前記ねじ軸及び前記ナットの少なくとも一方のねじ溝の表層部に含まれる残留オーステナイト量を15体積%以上40体積%以下としたことを特徴とする。
【0008】
本発明のボールねじは、前記ボールを前記ボール転動路の終点で掬い上げて始点へ送り前記ボールを循環させるボール戻し路を備え、前記ボール戻し路の両端部のうち前記ボールを掬い上げる側の端部が、前記ボール転動路の終点における前記ボール転動路の接線方向又は略接線方向に沿って配されていて、前記ボール転動路から前記ボール戻し路への前記ボールの移動が前記接線方向又は前記略接線方向に沿って行われるようになっていることが好ましい。
【0009】
また、前記ボール戻し路の両端部のうち前記ボールを掬い上げる側の端部を樹脂で構成することが好ましい。
さらに、前記ボール転動路の終点近傍部分に形成された角部には、クラウニングが施されていることが好ましい。
さらに、本発明の射出成形機は、上記のようなボールねじを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のボールねじは、高速且つ高荷重条件下で使用されても長寿命である。また、本発明の射出成形機は、高射出速度で使用可能で且つ長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るボールねじの一実施形態の平面図である。
【図2】図1のボールねじのA−A断面図である。
【図3】セパレータの断面図である。
【図4】循環方式が従来(非接線掬い上げ)のリターンチューブ方式であるボールねじの構造を示す断面図である。
【図5】循環方式が接線掬い上げのリターンチューブ方式であるボールねじの構造を示す断面図である。
【図6】ボール転動路の終点とチューブの端部との境界部を拡大して示した要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るボールねじの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態であるボールねじの平面図であり、図2は図1のボールねじのA−A断面図である。
図1及び図2に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転動路7に転動自在に装填された複数のボール9と、隣接するボール9の間に配されたセパレータ11と、を備えている。
【0013】
そして、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。なお、ねじ軸3及びナット5は鋼で、ボール9はセラミックで、セパレータ11は樹脂で、それぞれ構成されている。また、ねじ溝3a,5aの断面形状は、円弧状でもよいしゴシックアーク状でもよい。
【0014】
ナット5の外周面の一部は、切り欠かれて平面部13が形成されている。そして、ボール転動路7の始点と終点とを連通させて無端状のボール循環路を形成するチューブ15(本発明の構成要件であるボール戻し路に相当する)が、チューブ押え17によって平面部13に固定されている。ボール9は、ボール転動路7内を移動しつつねじ軸3の回りを複数回回ってボール転動路7の終点に至ると、チューブ15の一方の端部から掬い上げられてチューブ15内を通り、チューブ15の他方の端部からボール転動路7の始点に戻される。このように、ボール転動路7内を転動するボール9がチューブ15により無限に循環されるようになっているので、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
【0015】
また、ボール9がセラミックで構成されているので、ボールねじ1を高速回転で使用しても、ボール9に損傷が生じにくい。しかも、隣接するボール9の間にはボール9同士の接触を防ぐ樹脂製のセパレータ11が介装されているので、ボール9同士の競り合いが解消され、ボール9の移動がより円滑に行われるとともに、ボール9の早期損傷が生じにくい。よって、ボール9の循環性能やボールねじ1の送り精度が優れ、騒音や振動の発生もより一層抑制される。
【0016】
セラミックの種類は特に限定されるものではないが、例えば窒化ケイ素,炭化ケイ素,ジルコニア,アルミナが好ましい。
また、セパレータ11の形状は特に限定されるものではないが、例えば図3の断面図のような略円柱状があげられる。すなわち、円柱の2つの底面に、ボール9の転動面に対面する凹面11a,11aがそれぞれ形成されている。凹面11aの形状としては、例えば球面,円すい面があげられる。また、2個の円弧を中間部で交差させて形成される、所謂ゴシックアーチ形の凹面でもよい。なお、このセパレータ11には、図3に示すように、円柱の中心軸に沿った貫通穴11bを設けてもよい。この貫通穴内には、潤滑剤を保持させてボール9との接触抵抗を低減させるようにしてもよい。
【0017】
さらに、セパレータ11の材質は、樹脂であれば特に限定されるものではないが、樹脂の例としては、ナイロン(例えば66ナイロン),ポリアセタール,フッ素樹脂があげられる。また、潤滑油を含浸させたポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン,ポリプロピレン)も使用可能である。
さらに、チューブ15の形状は特に限定されるものではないが、略U字状が好ましい。また、チューブ15の材質は特に限定されるものではなく、金属でも差し支えないが、樹脂が好ましい。少なくとも、チューブ15の両端部のうちボール9を掬い上げる側の端部については、樹脂で構成されていることが好ましい。樹脂の種類は特に限定されるものではないが、ナイロン(例えば66ナイロン),ポリアセタール,フッ素樹脂があげられる。
【0018】
さらに、両ねじ溝3a,5aには、例えば浸炭,焼入れ,焼戻しのような熱処理により、残留オーステナイト量を15体積%以上40体積%以下含む表層部が形成されている。セラミック製のボール9により両ねじ溝3a,5aに高面圧が負荷されるが、残留オーステナイトによる応力集中の緩和作用のため、両ねじ溝3a,5aには早期損傷が生じにくい。よって、ボールねじ1は、高速且つ高荷重条件下で使用されても長寿命である。両ねじ溝3a,5aのうち一方のみに前記表層部を形成しても上記効果を得ることができるが、両方に形成した方がより高い効果を得ることができる。
【0019】
残留オーステナイト量が15体積%未満であると、応力集中の緩和作用が不十分となる場合がある。また、靱性が不十分となるため圧痕が発生しやすくなり、特に、異物混入下で且つ高面圧で使用される場合にその傾向が顕著である。その圧痕縁はシャープエッジとなるので、そこから剥離に至り短寿命となる可能性が高い。特に、セラミック製のボールを使用した場合には、鋼製のボールの場合よりも高面圧となるため、シャープエッジである圧痕縁に負荷される面圧も極めて大きくなり、早期損傷が生じやすい。
【0020】
また、ボールねじの場合は転がり軸受とは異なり、リード方向にも滑り成分を有するので、接線力も非常に大きくなる。そのため、転がり軸受の場合よりも大きな接線力が前記シャープエッジに発生することとなり、前記シャープエッジを起点とするクラックの伝播により、ねじ溝3a,5aに表面起点剥離が生じやすくなる。
一方、40体積%超過であると、両ねじ溝3a,5aの表面硬さが不十分となるため、耐摩耗性や耐転がり疲労性が損なわれ、早期損傷が生じるおそれがある。このような不都合がより生じにくくするためには、表層部の残留オーステナイト量は20体積%以上30体積%以下であることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明における表層部とは、ねじ溝の表面から剪断応力が最大となる深さ位置までの部分を意味する。剪断応力が最大となる深さ位置は、例えば、ボールの直径の2%に相当する長さだけねじ溝の表面から内部に入った位置である。
ここで、ねじ軸3及びナット5への前記熱処理の一例を以下に示す。鋼(例えばSCM420H)製の素材を所定の形状に旋削加工した後に、ガス雰囲気中920〜980℃で6〜20時間ガス浸炭を行う。この際には、最表面層の安定化のために拡散期を設けてもよい。次に、800〜900℃に数時間保持した後、水又は油で急冷することにより焼入れを行う。そして、160〜200℃で数時間保持することにより焼戻しを行う。最後に仕上げ加工を施して完成する。なお、仕上げ加工後のねじ溝3a,5aの表面硬さHvは、680以上750以下であることが好ましい。また、表層部の炭素濃度は、0.8質量%以上1.1質量%以下であることが好ましい。
【0022】
このようなボールねじ1は、高速且つ高荷重条件下で使用されても長寿命であるので、例えば、射出成形機,プレス装置に組み込まれた型締装置の型締機構に使用されるボールねじ(電動モータでボールねじを駆動することにより型締装置の型締めを行う型締機構におけるボールねじ)や、射出成形機においてスクリューを駆動するボールねじとして好適である。ボールねじ1を備える射出成形機は、高射出速度で使用可能で且つ長寿命である。ただし、本発明のボールねじは、上記のような比較的大型で且つ高荷重が負荷される用途に好適であるが、上記の用途に限定されるものではない。
【0023】
なお、ボールねじ1においては、ボール転動路7の終点に至ったボール9は、チューブ15に接線掬い上げされるようになっていることが好ましい。図4,5を参照しながら、以下に詳細に説明する。図4,5の(a)は、ボールねじ1を軸方向に直交する平面で破断した断面図であり、(b)は軸方向に沿う平面で破断した断面図である。
【0024】
ボール転動路7の終点に至ったボール9は、チューブ15の端部に形成されているタング部によってチューブ15内に掬い上げられるが、ボール転動路7内を移動するボール9の移動方向と、ボール転動路7の終点においてボール9が掬い上げられる方向とが同一方向でない場合(図4を参照)は、タング部にボール9が衝突するため、ボール9がセラミック製であったとしてもタング部に損傷が生じやすい。また、ボール9の衝突音による騒音も生じる。そのため、ボールねじ1をより高速条件で使用することが難しい場合があり得る。
【0025】
そこで、チューブ15の端部のうちボール9を掬い上げる側の端部を、ボール転動路7の終点におけるボール転動路7の接線方向又は略接線方向に沿って配することが好ましい(図5を参照)。そうすれば、ボール転動路7からチューブ15へのボール9の移動が、前記接線方向又は前記略接線方向に沿って行われるようになる。そのため、ボール9はタング部に衝突せず、タング部に損傷が生じにくい上、ボール9の衝突音による騒音も生じにくい。その結果、ボールねじ1をより高速条件で回転させることが可能となる。なお、チューブ15の両端部を、ボール転動路7の終点又は始点におけるボール転動路7の接線方向又は略接線方向に沿って配しても差し支えない。
【0026】
また、ボールねじ1において、ボール転動路7の終点とチューブ15の端部との境界部に段差(軸方向に直交する平面で破断した断面図である図6のB位置)が存在すると、ボール転動路7内で負荷を受けていたボール9は、掬い上げられて無負荷圏(チューブ15内)に入る際に急激な荷重変動が生じ、この位置で千鳥が生じる。その結果、ボール9に損傷が生じる場合がある。この現象は、ボール9が無負荷圏から負荷圏に戻る際にも同様に生じる。
【0027】
そこで、この段差の角部20にクラウニングを施して、角部20を面取りすることが好ましい。そうすれば、前述の急激な荷重変動が生じにくいので、ボール9に損傷が生じにくい。クラウニングの方法は特に限定されるものではなく、慣用の方法を問題なく採用することができる。例えば、研削加工によりクラウニングを施してもよいし、砥粒の流動による加工や手加工でクラウニングを施してもよい。
【0028】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、ボール転動路7内には、両ねじ溝3a,5aの溝面及びボール9の表面を潤滑する潤滑剤(例えば潤滑油,グリース)を配してもよい。さらに、ナット5の両端には、エラストマー,プラスチック等のような樹脂製のダストシール19を配してもよい。そうすれば、異物が外部からナット5内部に侵入することが防止される。
【0029】
また、本実施形態においては、ボール戻し路によるボールの循環方式として、チューブ15をボール戻し路とするリターンチューブ方式を採用したが、これに限定されるものではなく、ナットに設けた貫通孔をボール戻し路とするデフレクタ方式を採用してもよい。デフレクタ方式について、以下に例をあげて詳細に説明する。まず、ボール転動路内のボールを掬い上げてボール戻し路に送る部分又はボール戻し路からボール転動路にボールを戻す部分に用いられるデフレクタと呼ばれるボール案内部材を、ナットの軸方向端部に設ける方式について説明する。なお、これ以降は、この方式において使用されるデフレクタをエンドデフレクタと称する。
【0030】
ナットには、軸方向に延びる孔からなるボール戻し路が形成されており、このボール戻し路の両端は、ボール転動路の始点及び終点の近傍にそれぞれ配されている。ボール転動路の終点においては、ボール転動路からボール戻し路へボールが移動し、ボール転動路の始点においては、ボール戻し路からボール転動路へボールが移動するが、このボールの移動を円滑に行うために、ボール転動路の終点及び始点には、ボールの移動を案内するエンドデフレクタがそれぞれ配されている。このエンドデフレクタは、ナットの軸方向に向けて形成した凹部に、ナットの軸方向に沿って差し込むようにして取付けられている。
【0031】
次に、デフレクタを、ナットの軸方向中央部に設ける方式について説明する。なお、これ以降は、この方式において使用されるデフレクタをミドルデフレクタと称する。
この方式では、ミドルデフレクタを用いることにより、ボール戻し路を複数形成することができる。すなわち、ナットの軸方向端部には前述のエンドデフレクタを取り付け、軸方向中央部にはミドルデフレクタを取り付ける。
【0032】
2つのボール戻し路のうち、ナットの軸方向中央部でボール転動路からボールを掬い上げる部分又はボール転動路にボールを戻す部分には、エンドデフレクタとほぼ同様の機能を有するミドルデフレクタが取付けられている。このミドルデフレクタは、ナットの径方向に向けて形成された凹部に、ナットの径方向に沿って差し込むようにして取り付けられている。すなわち、ナットの軸方向端部でのボール戻し路のボール循環方式と、ナットの軸方向中央部でのボール戻し路のボール循環方式とが異なる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。前述したボールねじ1とほぼ同様の構成を有する日本精工株式会社製のボールねじBS6316−10.5(呼び:JIS B1192 63×16×300−Ct7)を、日本精工株式会社製のボールねじ耐久試験機に装着して、耐久試験を行った。
このボールねじの仕様は、以下の通りである。
【0034】
・ねじ軸の外径:63mm
・リード :16mm
・ボールの直径:12.7mm
・試験荷重 :300kN
・最高回転速度:3200min-1(Dn20万)
・ねじ軸,ナットの材質:SCM420H
・セパレータの材質:66ナイロン
・循環方式 :リターンチューブ方式(接線掬い上げ)
・潤滑剤 :リューベ株式会社製のYS2グリース
【0035】
なお、ねじ軸,ナットには、前述とほぼ同様の熱処理を施してある。そして、熱処理条件を種々変更することにより、両ねじ溝の表層部の残留オーステナイト量γR を表1に示すように変化させた。また、ボール転動路の終点とリターンチューブの端部との境界部に存在した段差の角部は、クラウニングを施すことにより面取りした。
【0036】
【表1】

【0037】
次に、ボールねじの耐久試験の方法について説明する。ボールねじを、日本精工株式会社製のボールねじ耐久寿命試験機に装着して回転させ、ねじ軸のねじ溝,ナットのねじ溝,若しくはボールに剥離が生じるか、又は、リターンチューブのタング部等の循環部品が損傷しボールねじに機能不全が生じるまでの走行距離をボールねじの寿命とした。試験結果を表1に示す。なお、表1における寿命の値は、一般的なボールねじである比較例1のボールねじの寿命を1とした場合の相対値で示してある。
【0038】
実施例1〜6のボールねじは、高速且つ高荷重条件下で使用されても、ねじ溝やボールに剥離が生じにくく長寿命であった。特に、ねじ溝の表層部の残留オーステナイト量が20〜30体積%のものは、より長寿命であった。
一方、比較例2は、ボールが鋼製であるため循環部品に損傷が生じ、短寿命であった。また、比較例3は、セパレータを備えていないため、ボール同士の競り合いによりボールに早期損傷が生じた。
【0039】
さらに、比較例4,5は、ねじ溝の表層部の残留オーステナイト量が少なすぎてねじ溝の表層部の靱性が不十分であるため、ねじ溝に剥離が生じた。さらに、比較例6は、ねじ溝の表層部の残留オーステナイト量が多すぎてねじ溝の表層部の硬さが不十分であるため、ねじ溝に剥離が生じた。
【符号の説明】
【0040】
1 ボールねじ
3 ねじ軸
3a ねじ溝
5 ナット
5a ねじ溝
7 ボール転動路
9 ボール
11 セパレータ
11a 凹面
15 チューブ
20 角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、隣接する前記ボールの間に配されたセパレータと、を備えるボールねじにおいて、前記ねじ軸及び前記ナットを鋼、前記ボールをセラミック、前記セパレータを樹脂でそれぞれ構成するとともに、前記ねじ軸及び前記ナットの少なくとも一方のねじ溝の表層部に含まれる残留オーステナイト量を15体積%以上40体積%以下としたことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記ボールを前記ボール転動路の終点で掬い上げて始点へ送り前記ボールを循環させるボール戻し路を備え、前記ボール戻し路の両端部のうち前記ボールを掬い上げる側の端部が、前記ボール転動路の終点における前記ボール転動路の接線方向又は略接線方向に沿って配されていて、前記ボール転動路から前記ボール戻し路への前記ボールの移動が前記接線方向又は前記略接線方向に沿って行われるようになっていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記ボール戻し路の両端部のうち前記ボールを掬い上げる側の端部を樹脂で構成したことを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記ボール転動路の終点近傍部分に形成された角部に、クラウニングが施されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のボールねじ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のボールねじを備えることを特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−180985(P2010−180985A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26295(P2009−26295)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】