ボールねじ機構及びこれを使用した電動パワーステアリング装置
【課題】転動体循環部材の軸方向の移動を、ナットに固定された部品とねじ軸に設けられた部品とが接触することなく規制できるボールねじ機構を提供する。
【解決手段】外周面に螺旋状のねじ溝9aを形成したねじ軸9と、該ねじ軸9のねじ溝9aに対応するねじ溝15aを内周面に形成するとともに、軸方向に貫通する転動体戻し通路32を形成したナット15と、前記ねじ軸9及び前記ナット15のねじ溝間及び前記転動体戻し通路32内に介装された多数の転動体14と、前記ねじ軸9のねじ溝及び前記ナット15のねじ溝間の転動体14を前記転動体戻し通路32に案内する転動体循環路33fを形成して前記ナットの両端面に配置される転動体循環部材33とを備えたボールねじ機構11であって、前記ナット15のねじ溝15aに係合し、前記転動体循環部材33と連結される固定部材35を備えている。
【解決手段】外周面に螺旋状のねじ溝9aを形成したねじ軸9と、該ねじ軸9のねじ溝9aに対応するねじ溝15aを内周面に形成するとともに、軸方向に貫通する転動体戻し通路32を形成したナット15と、前記ねじ軸9及び前記ナット15のねじ溝間及び前記転動体戻し通路32内に介装された多数の転動体14と、前記ねじ軸9のねじ溝及び前記ナット15のねじ溝間の転動体14を前記転動体戻し通路32に案内する転動体循環路33fを形成して前記ナットの両端面に配置される転動体循環部材33とを備えたボールねじ機構11であって、前記ナット15のねじ溝15aに係合し、前記転動体循環部材33と連結される固定部材35を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸に転動体を介してナットを螺合させたボールねじ機構及びこれを使用した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のラックピニオン式ステアリング装置では、ステアリングホイールを操舵したときの操舵回転力がピニオン軸に伝達され、このピニオン軸に螺合するラック軸で直線運動に変換されて、ラック軸の両端に連結されたタイロッドを介して転舵輪に伝達され、この転舵輪が転舵される。
このラック軸を電動モータで駆動されるボールねじ機構に連結することにより、電動パワーステアリング装置を構成することができる。
【0003】
このボールねじ機構としては、例えば、スピンドルと、このスピンドルを包囲するナットよりなる回転部材ウォーム駆動装置であって、螺旋状回転部材ねじ通路がスピンドル及びナット間に画成され、回転部材ねじ通路はナットに含まれた軸方向の回転部材戻り通路と協働し、閉鎖した回転部材循環通路を成し、この回転部材循環通路内では無端状に列を成した回転部材が走行し、回転部材ねじ通路及び回転部材戻り通路へ、また回転部材戻り通路及び回転部材ねじ通路間で回転部材を移動させるべく2つの回転部材転向要素がナットに配設されて、回転部材転向要素の少なくとも1つが、ばねリングによりナットに保持された回転部材ウォーム駆動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載の従来例にあっては、回転部材転向要素が軸方向に脱落することを防止するためにばねリングを使用して軸方向の移動を規制するようにしている。このため、回転部材転向要素の軸方向の移動を規制するために、別途ばねリングを必要とするとともに、ばねリングを装着するための溝加工も必要となり、部品点数が増加するとともに、加工工数が増加し、さらに、回転部材転向要素の軸方向外側にばねリングを装着するので、この分ナットの全長が長くなるという問題点がある。
【0005】
この問題点を解決するために、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ溝に対応するねじ溝を内周面に有するとともに、軸方向に貫通する転動体戻し通路を有して前記ねじ軸に遊嵌されるナットと、前記両ねじ溝間と前記転動体戻し通路とを連通させる転動体循環路を有して前記ナットの両端面に配置される循環こまと、前記両ねじ溝間、前記転動体戻し通路および前記転動体循環路を転動しつつ循環可能に介装された多数の転動体とを備えたねじ送り装置において、循環こまの転動体を掬い上げるタング部を前記ねじ軸のねじ溝に沿って嵌め込んで該ねじ溝に接触させるようにしたねじ送り装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3034052号公報
【特許文献2】特開2003−301915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献2に記載の従来例にあっては、循環こまの転動体を掬い上げるタング部をねじ軸のねじ溝に沿って嵌め込んでねじ溝に接触させるようにしているので、他部材を使用することなく循環こまの軸方向の移動を規制することはできるが、ねじ送り装置は、ねじ軸又はナットの何れか一方が回転運動を行い、他方が直線運動を行う運動変換機構であり、ナットに固定された部品と、ねじ軸に設けられた部品とが接触すると、両者間に摺動が発生することになり、運動伝達効率の低下やタング部の磨耗といった懸念が生じるという未解決の課題がある。
【0008】
また、ねじ軸として転造軸のようにリード精度が劣るものや、隙間で組まれたボールねじなどでは、タング部とねじ溝との接触を均一に保つことは非常に困難であるという未解決の課題もある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、転動体循環部材の軸方向の移動を、ナットに固定された部品とねじ軸に設けられた部品とが接触することなく規制して、運動伝達効率の低下や磨耗等の問題を解消することができるボールねじ機構及びこれを使用した電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を解決するために、本発明の第1の形態に係るボールねじ機構は、外周面に螺旋状のねじ溝を形成したねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対応するねじ溝を内周面に形成するとともに、軸方向に貫通する転動体戻し通路を形成したナットと、前記ねじ軸及び前記ナットのねじ溝間及び前記転動体戻し通路内に介装された多数の転動体と、前記ねじ軸のねじ溝及び前記ナットのねじ溝間の転動体を前記転動体戻し通路に案内する転動体循環路を形成して前記ナットの両端面に配置される転動体循環部材とを備えたボールねじ機構であって、前記ナットのねじ溝に係合し、前記転動体循環部材と連結される固定部材を備えている。
【0010】
また、本発明の第2の形態に係るボールねじ機構は、前記固定部材が、前記転動体循環部材に円周方向と交差する方向に摺動可能に連結され、前記ナットのねじ溝の軸方向外側面に係合して当該循環部材本体の軸方向の移動を規制するアーム部を備えている。
また、本発明の第3の形態に係るボールねじ機構は、前記アーム部の螺旋中心軌道が、前記ナットのねじ溝の螺旋中心軌道に対して軸方向外側にオフセットされている。
【0011】
また、本発明の第4の形態に係るボールねじ機構は、前記固定部材の前記アーム部及び前記転動体循環部材の連結部の一方に、円周方向と交差する方向に延長する係合溝を形成し、他方に前記係合溝に係合する係合凸部を形成するようにしている。
また、本発明の第5の形態に係るボールねじ機構は、前記係合溝が蟻溝で構成され、前記係合凸部が前記蟻溝に係合する蟻溝係合凸部で構成されている。
【0012】
また、本発明の第6の形態に係るボールねじ機構は、前記係合溝が、前記転動体循環部材側に形成されている。
また、本発明の第7の形態に係るボールねじ機構は、前記固定部材が、前記係合凸部を前記係合溝に嵌合させた状態で前記転動体循環部材に融着されて固定されている。
また、本発明の第8の形態に係るボールねじ機構は、前記固定部材のアーム部と前記ねじ軸のねじ溝との間のクリアランスが、前記係合溝と係合凸部との係合長さより短く設定されている。
【0013】
また、本発明の第9の形態に係るボールねじ機構は、前記転動体循環部材と前記固定部材とが異なる素材で形成されている。
また、本発明の第10の形態に係るボールねじ機構は、前記ナットのねじ溝における軸方向外側面が研磨加工されている。
また、本発明の第11の形態に係る電動パワーステアリング装置は、上記第1〜第10の形態に係るボールねじ機構のねじ軸を、ステアリング機構を構成するピニオン軸に螺合するラック軸に連結するとともに、当該ボールねじ機構のナットを回転駆動する電動モータを設けている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナットの軸方向端面に装着される転動体循環部材にナットのねじ溝に係合する固定部材を連結したので、転動体循環部材の軸方向の移動をねじ軸のねじ溝と接触することなく規制することができ、運動伝達効率の低下や磨耗等を生じることなく転動体循環部材を保持することができる。このため、転動体循環部材の固定を簡素化して、ボールねじ機構の低コスト化、組立作業性の向上及び小形化を図ることができる。
また、上記効果を有するボールねじ機構を使用して電動パワーステアリング装置を構成することにより、運動伝達効率の低下や磨耗等を生じることなく、円滑な操舵補助動作を行うことができ、低コストで、組立作業性がよく、小形化できる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の電動パワーステアリング装置に適用し得るラック軸を示す正面図である。
【図3】電動パワーステアリング装置の要部を示す拡大断面図である。
【図4】ボールねじナットの転動体戻し路を示す図であって、(a)は内周面側の斜視図であり、(b)は側面図である。
【図5】転動体循環部材及び固定部材をボールねじナットに装着した状態を示す図であって、(a)は断面図であり、(b)は側面図である。
【図6】転動体循環部材に固定部材を組付けた状態を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は正面図であり、(c)は側面図である。
【図7】転動体循環部材に対する固定部材の嵌合長さの説明に供する図であって、(a)は転動体循環部材をボールねじナットに装着した状態を示す図であり、(b)は固定部材をボールねじナットに装着した状態を示す図である。
【図8】固定部材に係合溝を形成した場合の転動体循環部材に対する嵌合長さの説明に供する側面図である。
【図9】ボールねじナットへ転動体循環部材を装着する前の状態を示す斜視図である。
【図10】ボールねじナットへ転動体循環部材を装着した状態を示す斜視図である。
【図11】ボールねじナットへ転動体循環部材及び固定部材を装着した状態を示す斜視図である。
【図12】ボールねじナットへの固定部材の装着過程を示す説明図である。
【図13】ボールねじナット及びボールねじ軸のボールねじ溝と固定部材の装着状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の主要部を示す正面図であり、図2は、ラック軸を示す正面図である。
図中、1は操舵ギヤ機構であって、この操舵ギヤ機構1は、ピニオン機構2とラック機構3とを備えている。
【0017】
ピニオン機構2はピニオンハウジング4に回転自在に支持されたピニオン軸5を備えている。このピニオン軸5は、図示しないステアリングシャフト等を介してステアリングホイールに連結されている。ラック機構3はラックハウジング6に摺動可能に支持されたラック軸7を備えている。ピニオン軸5とラック軸7は噛合しており、ピニオン軸5に伝達される回転力がラック軸7によって直動力に変換される。
ラック軸7は、図2に示すように、ピニオン軸5が噛合するラック部8と、このラック部8の右方に形成された螺旋状のゴシックアーク断面形状のボールねじ溝9aを有するボールねじ軸9とを備えている。
【0018】
そして、ラック軸7の右端側に電動パワーステアリング装置10が配置されている。この電動パワーステアリング装置10は、本発明に係るボールねじ機構11と、操舵補助用電動モータ12と、ボールねじ機構としてのボールねじ機構11と電動モータ12との間を連結する減速機構13とで構成されている。
ボールねじ機構11は、図3に示すように、ラック軸7のボールねじ軸9のボールねじ溝9aに転動体としてのボール14を介して螺合するボールねじナット15を備えている。このボールねじナット15は、ラックハウジング6における図1の右端部に形成された軸受収容部16に収容された転がり軸受17によって回転自在に支持されている。この転がり軸受17は、内輪17aがボールねじナット15と一体に形成された内輪17aと、この内輪17aにボール17bを介して連結され軸受け収容部16に固定支持された外輪17cとで構成されている。
【0019】
また、操舵補助用電動モータ12は、ラックハウジング6の軸受収容部16の半径方向外方に一体に形成されたモータ支持部18のピニオン機構2側に固定支持され、その回転軸12aがモータ支持部18に形成された貫通孔18aを通じて反対側に突出されている。この操舵補助用電動モータ12は、図1に示すように、モータ制御装置30によって回転駆動される。このモータ制御装置30は、ステアリングホイール(図示せず)に入力される操舵トルクを検出するトルクセンサ30aと、車速を検出する車速センサ30bとを有し、トルクセンサ30aで検出した操舵トルク及び車速センサ30bで検出した車速に基づいて操舵補助トルク指令値を算出し、算出した操舵補助トルク指令値に基づいて操舵補助用電動モータ12で必要な操舵補助トルクを発生させるモータ駆動電流を求め、このモータ駆動電流を操舵補助用電動モータ12に出力する。
【0020】
さらに、減速機構13は、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aの先端に取付けられた小径プーリ19と、前述したボールねじナット15の半径方向外方に一体に形成された大径プーリ20と、小径プーリ19及び大径プーリ20との間に巻装されたタイミングベルト21とで構成されている。
【0021】
そして、小径プーリ19と、大径プーリ20、及びボールねじ溝9aを覆うようにカバー22が軸受収容部16及びモータ支持部18に例えばボルト締めされている。
この電動パワーステアリング装置10では、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを図3の左方から見て時計方向に回転駆動することにより、小径プーリ19及び大径プーリ20がタイミングベルト21によってそれぞれ時計方向に回転駆動され、これに応じてボールねじナット15が時計方向に回転駆動されるので、ボールねじ軸9すなわちラック軸7が左方に移動され、逆に操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを左方から見て反時計方向に回転駆動することによりラック軸7が右方に移動される。
【0022】
そして、ラック軸7のラック部8の左端部及びボールねじ軸9の右端部がそれぞれコンロッド22を介して図示しない転舵輪に連結されている。
そして、ボールねじ機構11のボールねじナット15には、図4に示すように、内周面に螺旋状にボール14が転動するゴシックアーク断面形状のボールねじ溝15aが形成されている。また、ボールねじナット15の軸方向の左右両端部にはそれぞれ軸方向最外側のボールねじ溝15aの一部を切り欠いて形成された転動体循環部材装着部31A及び31Bを備えている。また、ボールねじナット15には、内周面のボールねじ溝15aと外周面との間を軸方向に通って両端の転動体循環部材装着部31A及び31B間を連通する転動体戻し通路32が形成されている。
【0023】
右端側の転動体循環部材装着部31Aは、ボールねじナット15の軸方向の両端のボールねじ溝15aの溝底部に連続して接線方向に転動体戻し通路32の下面まで延長し、ボールねじナット15の中心軸と平行な平坦面31aと、この平坦面31aの前端側に連続してボールねじ溝15aの両側の内周面に湾曲延長する湾曲面31b及び31cと、平坦面31aの後端側に連続し転動体戻し通路32の直径より大きい直径の半円筒面31dと、この半円筒面31dの上端からボールねじ溝15aの両側の内周面まで平坦面31aと平行に延長する上面31eとを有し、ボールねじナット15の軸方向端面に開口する切欠凹部で構成されている。そして、半円筒面31dの上面31eに近い位置に半円筒面31dより深さの浅い抜け止め凹部31fがボールねじ溝15aに沿うように突出形成されている。
【0024】
また、左端側の転動体循環部材装着部31Bは、右端側の転動体循環部材装着部31Aとは転動体戻し通路32の中心軸の中心点を挟んで点対称形状に形成されていることを除いては転動体循環部材装着部31Aと同一の構成を有し、対応部分には同一部号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0025】
そして、ボールねじナット15の転動体循環部材装着部31A及び31Bにはそれぞれ、例えば合成樹脂材で一体成型された転動体循環部材33が装着されている。この転動体循環部材33は、図5、図6及び図9に示すように、転動体循環部材装着部31A及び31Bの湾曲面31b及び31c、平坦面31a及び半円筒面31d及び上面31eに対応する側面形状を有する一対の転動体案内側板部33a及び33bと、これら転動体案内側板部33a及び33bの上下方向の中間部から上方側を連結する連結板部33cとで正面から見て門形に形成されている。
【0026】
そして、転動体案内側板部33a及び33bの先端部は上面側がボールねじ溝15aの欠落部の稜線に沿うように先細形状とされている。また、転動体案内側板部33aの後端上部側には抜け止め凹部31fに係合する抜け止め凸部33dが形成されている。また、連結板部33cの下面側はボールねじ軸9のボールねじ溝9a内に非接触状態で挿入されてボール14を接線方向に掬い取るタング部33eが形成されている。このタング部33eの先端位置は、転動体循環部材装着部31Aの平坦面31aと湾曲面31b及び31cとの境界位置より半円筒面31d側となるように設定されている。このため、タング部33eで掬い取ったボール14はボールねじ溝15aから離脱してボールねじ溝15aの底面より外周側となる転動体案内側板部33a及び33b間の平坦面31aに接触することになり、タング部33eをボールねじ軸9のボールねじ溝9aに非接触状態で、ボール14を掬い取ることができる。
【0027】
そして、タング部33eと転動体案内側板部33a及び33bとで囲まれて転動体戻し通路32にボール14を案内する平面から見て略逆L字状に湾曲し、転動体戻し通路32と対向する位置で開口する転動体循環路33fが形成されている。また、連結板部33cのタング部33eに対応する上面には、前端面側から上面31e及び平坦面31aと平行でボールねじ溝15aの接線方向に延長する蟻溝で構成される係合溝33gが形成されている。
【0028】
そして、転動体循環部材33の係合溝33gに例えば合成樹脂材製の固定部材35が係合されている。この固定部材35は、転動体循環部材33の軸方向外側への抜け出しを防止するもので、図5、図6及び図10に示すように、ボールねじナット15のボールを掬い取った後のボールねじ溝15aに係合するようにボールねじ溝15aの螺旋形状に合わせた形状のアーム部36と、このアーム部36の下端側に形成された転動体循環部材33の係合溝33gに係合する蟻溝係合凸部で構成される係合凸部37とを備えている。
【0029】
ここで、アーム部36の断面形状は、図12に示すように、ボールねじナット15のボールねじ溝15aに係合する上部側は、図12(c)に示すようにボールねじ溝15aのゴシックアークに2箇所で線接触するボール14の直径と等しい円筒面36aとされ、この円筒面36aの中心点oを通る水平線Lhより所定距離上方側が円筒面36aの直径より狭い幅の二面幅36bとされ、水平線Lhより下側が二面幅36bの幅と等しい直径の円筒面36cとされている。
【0030】
また、アーム部36は、図12(a)に示すように、左右方向の中心線である螺旋中心軌道Raがボールねじナット15のボールねじ溝15aの中心を通る垂線である螺旋中心軌道Rgに対して軸方向外側に僅かな距離ΔL分だけオフセットされている。さらに、係合凸部37は、図7(b)に示すように、転動体循環部材装着部31Aの上面31eに沿って転動体循環部材装着部31Aの内方の半円筒面31dの近傍まで突出延長されている。
【0031】
そして、ボールねじナット15の軸方向両端に形成された転動体循環部材装着部31Aへの転動体循環部材33の装着は以下のようにして行う。
すなわち、先ず、図9に示すように、転動体循環部材装着部31Aの軸方向外側に転動体循環部材33を対向させ、この状態で、転動体案内側板部33b側からボールねじナット15の軸方向に左側に移動させて、平坦面31a、湾曲面31b,31c、半円筒面31d及び上面31eで構成される切欠凹部内に挿入する。そして、最後に抜け止め凸部33dを抜け止め凹部31f内に係合させて、図10に示すように、転動体循環部材33の転動体案内側板部33aの軸方向端面をボールねじナット15の軸方向端面と面一とする。
【0032】
その後、図10に示すように、固定部材35のアーム部36の円筒面36aをボールねじナット15のボールねじ溝15aに対向させるとともに、係合凸部37を転動体循環部材33の係合溝33gに対向させる。この状態を保って、固定部材35の係合凸部37を転動体循環部材33の係合溝33gに係合させて押し込む。
このとき、前述したように、固定部材35のアーム部36の螺旋中心軌道Raが、図12(a)に示すように、ボールねじナット15のボールねじ溝15aの螺旋中心軌道Rgに対してボールねじナット15の軸方向外側に距離ΔLだけオフセットされている。このため、固定部材35をボールねじ溝15a側に押し込むと、先ず、図12(b)に示すように、固定部材35のアーム部36の円筒面36aがボールねじ溝15aの軸方向外側のゴシックアーク面に接触する。
【0033】
この状態で、さらに固定部材35を押し込むと、アーム部36がボールねじ溝15aに倣って弾性変形して、図12(c)に示すように、円筒面36aがボールねじ溝15aの双方のゴシックアーク面に接触することになり、アーム部36の螺旋中心軌道Raとボールねじ溝15aの螺旋中心軌道Rgとが一致する状態となる。このため、アーム部36の弾性変形の反力によって固定部材35の軸方向への移動が規制される。このとき、固定部材35と転動体循環部材33とは係合凸部37及び係合溝33gが係合しているので、転動体循環部材33の軸方向移動も規制され、転動体循環部材33の軸方向外側への抜け出しが確実に阻止される。
【0034】
しかも、係合溝33gが蟻溝とされ、係合凸部が蟻溝係合凸部とされているので、転動体循環部材33に対する固定部材35のボールねじ溝15aの螺旋方向へ移動が規制されるので、固定部材35が転動体循環部材33から螺旋方向に分離することが阻止される。
さらに、転動体循環部材33には抜け止め凸部33dが形成され、この抜け止め凸部33dが転動体循環部材装着部31Aの抜け止め凹部31fに係合しているので、抜け止め凸部33dと固定部材35とでボールねじナット15の一部を挟持することになり、転動体循環部材33のボールねじ軸9側への抜け出し及び回動が確実に阻止される。
【0035】
このため、転動体循環部材33が転動体循環部材装着部31Aにあらゆる方向の移動が阻止されて保持されることになり、この状態で、転動体循環部材33と固定部材との接触面を融着や接着等の固定手段で一体化することにより、転動体循環部材33を転動体循環部材装着部31Aに抜け出し不能に保持することができる。
そして、この転動体循環部材33を転動体循環部材装着部31Aへ装着して固定部材35で固定した状態では、固定部材35のアーム部36の円筒面36cとボールねじ軸9のボールねじ溝9aとは、図13に示すように、円筒面36cがボールねじ溝9aに対してクリアランスΔxを生じて非接触状態となる。
【0036】
したがって、ボールねじナット15が回転しても固定部材35がボールねじ軸9のボールねじ溝9aに摺接することはないので、摩擦抵抗による運動伝達効率の低下や磨耗を生じることがなく、回転運動を直線運動に円滑に変換することができるとともに、転造軸のようにリード精度の劣るボールねじ軸や隙間で組まれたボールねじなどを適用しても不都合を生じることはない。
【0037】
また、固定部材35のアーム部36の円筒面36cとボールねじ軸9のボールねじ溝9aとのクリアランスΔxを転動体循環部材33の係合溝33gと固定部材35の係合凸部37との係合長さより小さく設定することにより、何らかの原因で転動体循環部材33から固定部材35が離脱した場合に、固定部材35のアーム部36の円筒面36cがボールねじ軸9のボールねじ溝9aに接触することにより、固定部材35の脱落を防止することができる。
【0038】
また、転動体循環部材33側に係合溝33gを形成し、固定部材35側に係合凸部37を形成するようにしているので、図7(b)に示すように、係合凸部37の長さを転動体循環部材装着部31Aの上面31eに沿わせて内方に延長させることができ、係合溝33gと係合凸部37との係合長さを長くとることが可能となり、固定部材35と転動体循環部材33との結合強度を十分に高めることができる。
【0039】
因みに、図8に示すように、転動体循環部材33側に係合凸部33hを形成する場合には、転動体循環部材33の転動体循環部材装着部31Aへの装着の邪魔にならないようにする必要があり、ボールねじ軸9のボールねじ溝9aとこれに対向するボールねじナット15のボールねじ溝15aとで形成される空間内に収めざるを得ず、係合凸部33hの長さに大幅な制限があり、転動体循環部材33と固定部材35との結合強度が低下してしまう。したがって、転動体循環部材33と固定部材35との結合強度を高めるには、係合凸部を固定部材35側に形成することが望ましいことになる。
【0040】
また、転動体循環部材装着部31Bへの転動体循環部材33の装着も、上記と同様に、転動体循環部材33を転動体循環部材装着部31Bに装着した後に、固定部材35の係合凸部37を転動体循環部材33の係合溝33gに係合させながらボールねじナット15のボールねじ溝15aに接触させることにより、転動体循環部材33を転動体循環部材装着部31Bに抜け出しを防止しながら確実に保持させることができる。
このように、転動体循環部材装着部31A及び31Bのそれぞれに転動体循環部材33を装着し、これら転動体循環部材33を固定部材35で固定することにより、エンドデフレクタ方式のボール14の循環路が形成される。
【0041】
すなわち、ボールねじナット15を正転(又は逆転)させることにより、例えば転動体循環部材装着部31A(又は31B)に装着された転動体循環部材33によってボールねじ軸9のボールねじ溝9aとボールねじナット15のボールねじ溝15a間に介挿されたボール14が転動体循環部材33のタング部33eによって掬い取られて転動体循環部材33の転動体循環路33fを通って転動体戻し通路32に送られる。
この転動体戻し通路32へ送られたボール14は、反対側の転動体循環部材装着部31B(又は31A)に装着された転動体循環部材33の転動体循環路33fを通ってボールねじナット15の先端側(又は後端側)のボールねじ軸9のボールねじ溝9a及びボールねじナット15のボールねじ溝15a間に戻される。
【0042】
次に、上記実施形態における電動パワーステアリング装置の動作を説明する。
今、ステアリングホイール(図示せず)に操舵トルクが入力されていない非操舵状態では、トルクセンサ30aで検出される操舵トルクが零であるので、モータ制御装置30で演算される操舵補助トルク指令値も零となり、モータ駆動電流も零となり、操舵補助用電動モータ12は停止状態となっている。
【0043】
この非操舵状態から、ステアリングホイール(図示せず)を例えば右(又は左)操舵することにより、トルクセンサ30aで操舵トルクが検出されると、モータ制御装置30で、操舵トルクと車速センサ30bで検出した車速とに基づいて操舵補助トルク指令値が算出され、この操舵補助トルク指令値に基づいて正転(又は)逆転のモータ電流が決定され、このモータ電流が操舵補助用電動モータ12に供給されることにより、この操舵補助用電動モータ12が必要な操舵補助トルクを発生するように回転駆動される。
【0044】
この操舵補助用電動モータ12の回転力は、減速機構13を介してボールねじ機構11のボールねじナット15に伝達されて、このボールねじナット15を図3の右側面から見て反時計(又は時計)方向に回転駆動し、これによってボールねじ軸9すなわちラック軸7を左動(又は右動)させてステアリングホイール(図示せず)からピニオン軸5に伝達される操舵トルクを補助する。したがって、ステアリングホイール(図示せず)を軽い操舵力で操舵することができる。
【0045】
このように電動パワーステアリング装置10のボールねじナット15が操舵補助用電動モータ12によって回転駆動されると、これに応じた前述したように、ボールねじナット15の転動体循環部材装着部31A及び31Bのそれぞれに装着した転動体循環部材33とボールねじナット15に形成した転動体戻し通路32とによって、ボールねじナット15の回転に伴うボール14の循環をスムーズに行うことができる。
【0046】
このとき、前述したように、ボールねじナット15の軸方向両端に設けた転動体循環部材装着部31A及び31Bのそれぞれに転動体循環部材33が装着され、装着された転動体循環部材33に、ボールねじナット15のボールねじ溝15aに係合する固定部材35を結合するので、ボールねじ軸9と非接触で転動体循環部材33の軸方向の移動を確実に防止することができる。
したがって、電動パワーステアリング装置10自体の運動伝達効率も向上させることができるとともに、磨耗の発生を防止し、操舵補助制御を円滑に行うことができる。
【0047】
なお、上記実施形態において、固定部材35のアーム部36の断面形状は、上述した円筒面36a、二面幅36b及び円筒面36cで形成する場合に限るものではなく、ボールねじナット15のボールねじ溝15aのゴシックアーク断面形状に倣った断面形状としてボールねじ溝15aに面接触させることもでき、さらには左右で非対称の例えばD字断面形状とすることにより、ボールねじ溝15aの軸方向外側面にのみ接触させることができる。これらの断面形状の選択は、固定部材35に求められる強度や、バネ定数、アーム部36の成型精度等を考慮して決定することが好ましい。
【0048】
また、上記実施形態においては、転動体循環部材33に係合溝33gを形成し、固定部材35に係合凸部37を形成した場合について説明したが、転動体循環部材33及び固定部材35間に大きな連結強度を要求されない場合には、転動体循環部材33に係合凸部を形成し、固定部材35に係合溝を形成するようにしてもよい。さらに、係合溝33gと係合凸部37を嵌合させる場合には、転動体循環部材33及び固定部材35の融着を省略することもでき、溶着に代えて加締めるようにしてもよく、要は転動体循環部材33と固定部材35とが一体に連結されればよいものであり、両者の固定方法については限定されるものではない。
【0049】
また、上記実施形態においては、減速機構13を小径プーリ19、大径プーリ20及びタイミングベルト21で構成した場合について説明したが、タイミングベルト21に代えて通常のベルトを適用することもでき、さらに減速ギヤ機構を適用することもでき、任意の減速機構を採用することができる。
また、上記実施形態においては、本発明に係るボールねじ機構を電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、本発明に係るボールねじ機構は工作機械やアクチュエータなどの他の任意の産業機械に適用することができる。この場合、ボールねじナット15を回転する場合に代えて、ボールねじ軸9を回転させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…操舵ギヤ機構、2…ピニオン機構、3…ラック機構、5…ピニオン軸、7…ラック軸、8…ラック部、9…ボールねじ軸、9a…ボールねじ溝、10…電動パワーステアリング装置、11…ボールねじ機構、12…操舵補助用電動モータ、13…減速機構、14…ボール、15…ボールねじナット、15a…ボールねじ溝、31A,31B…転動体循環部材装着部、31a…平坦面、31b,31c…湾曲面、31d…半円筒面、31e…上面、31f…抜け止め凹部、32…転動体戻し通路、33…転動体循環部材、33a,33b…転動体案内側板部、33c…連結部、33d…抜け止め凸部、33e…タング部、33f…転動体循環路、33g…係合溝、35…固定部材、36…アーム部、37…係合凸部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸に転動体を介してナットを螺合させたボールねじ機構及びこれを使用した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のラックピニオン式ステアリング装置では、ステアリングホイールを操舵したときの操舵回転力がピニオン軸に伝達され、このピニオン軸に螺合するラック軸で直線運動に変換されて、ラック軸の両端に連結されたタイロッドを介して転舵輪に伝達され、この転舵輪が転舵される。
このラック軸を電動モータで駆動されるボールねじ機構に連結することにより、電動パワーステアリング装置を構成することができる。
【0003】
このボールねじ機構としては、例えば、スピンドルと、このスピンドルを包囲するナットよりなる回転部材ウォーム駆動装置であって、螺旋状回転部材ねじ通路がスピンドル及びナット間に画成され、回転部材ねじ通路はナットに含まれた軸方向の回転部材戻り通路と協働し、閉鎖した回転部材循環通路を成し、この回転部材循環通路内では無端状に列を成した回転部材が走行し、回転部材ねじ通路及び回転部材戻り通路へ、また回転部材戻り通路及び回転部材ねじ通路間で回転部材を移動させるべく2つの回転部材転向要素がナットに配設されて、回転部材転向要素の少なくとも1つが、ばねリングによりナットに保持された回転部材ウォーム駆動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載の従来例にあっては、回転部材転向要素が軸方向に脱落することを防止するためにばねリングを使用して軸方向の移動を規制するようにしている。このため、回転部材転向要素の軸方向の移動を規制するために、別途ばねリングを必要とするとともに、ばねリングを装着するための溝加工も必要となり、部品点数が増加するとともに、加工工数が増加し、さらに、回転部材転向要素の軸方向外側にばねリングを装着するので、この分ナットの全長が長くなるという問題点がある。
【0005】
この問題点を解決するために、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ溝に対応するねじ溝を内周面に有するとともに、軸方向に貫通する転動体戻し通路を有して前記ねじ軸に遊嵌されるナットと、前記両ねじ溝間と前記転動体戻し通路とを連通させる転動体循環路を有して前記ナットの両端面に配置される循環こまと、前記両ねじ溝間、前記転動体戻し通路および前記転動体循環路を転動しつつ循環可能に介装された多数の転動体とを備えたねじ送り装置において、循環こまの転動体を掬い上げるタング部を前記ねじ軸のねじ溝に沿って嵌め込んで該ねじ溝に接触させるようにしたねじ送り装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3034052号公報
【特許文献2】特開2003−301915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献2に記載の従来例にあっては、循環こまの転動体を掬い上げるタング部をねじ軸のねじ溝に沿って嵌め込んでねじ溝に接触させるようにしているので、他部材を使用することなく循環こまの軸方向の移動を規制することはできるが、ねじ送り装置は、ねじ軸又はナットの何れか一方が回転運動を行い、他方が直線運動を行う運動変換機構であり、ナットに固定された部品と、ねじ軸に設けられた部品とが接触すると、両者間に摺動が発生することになり、運動伝達効率の低下やタング部の磨耗といった懸念が生じるという未解決の課題がある。
【0008】
また、ねじ軸として転造軸のようにリード精度が劣るものや、隙間で組まれたボールねじなどでは、タング部とねじ溝との接触を均一に保つことは非常に困難であるという未解決の課題もある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、転動体循環部材の軸方向の移動を、ナットに固定された部品とねじ軸に設けられた部品とが接触することなく規制して、運動伝達効率の低下や磨耗等の問題を解消することができるボールねじ機構及びこれを使用した電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を解決するために、本発明の第1の形態に係るボールねじ機構は、外周面に螺旋状のねじ溝を形成したねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対応するねじ溝を内周面に形成するとともに、軸方向に貫通する転動体戻し通路を形成したナットと、前記ねじ軸及び前記ナットのねじ溝間及び前記転動体戻し通路内に介装された多数の転動体と、前記ねじ軸のねじ溝及び前記ナットのねじ溝間の転動体を前記転動体戻し通路に案内する転動体循環路を形成して前記ナットの両端面に配置される転動体循環部材とを備えたボールねじ機構であって、前記ナットのねじ溝に係合し、前記転動体循環部材と連結される固定部材を備えている。
【0010】
また、本発明の第2の形態に係るボールねじ機構は、前記固定部材が、前記転動体循環部材に円周方向と交差する方向に摺動可能に連結され、前記ナットのねじ溝の軸方向外側面に係合して当該循環部材本体の軸方向の移動を規制するアーム部を備えている。
また、本発明の第3の形態に係るボールねじ機構は、前記アーム部の螺旋中心軌道が、前記ナットのねじ溝の螺旋中心軌道に対して軸方向外側にオフセットされている。
【0011】
また、本発明の第4の形態に係るボールねじ機構は、前記固定部材の前記アーム部及び前記転動体循環部材の連結部の一方に、円周方向と交差する方向に延長する係合溝を形成し、他方に前記係合溝に係合する係合凸部を形成するようにしている。
また、本発明の第5の形態に係るボールねじ機構は、前記係合溝が蟻溝で構成され、前記係合凸部が前記蟻溝に係合する蟻溝係合凸部で構成されている。
【0012】
また、本発明の第6の形態に係るボールねじ機構は、前記係合溝が、前記転動体循環部材側に形成されている。
また、本発明の第7の形態に係るボールねじ機構は、前記固定部材が、前記係合凸部を前記係合溝に嵌合させた状態で前記転動体循環部材に融着されて固定されている。
また、本発明の第8の形態に係るボールねじ機構は、前記固定部材のアーム部と前記ねじ軸のねじ溝との間のクリアランスが、前記係合溝と係合凸部との係合長さより短く設定されている。
【0013】
また、本発明の第9の形態に係るボールねじ機構は、前記転動体循環部材と前記固定部材とが異なる素材で形成されている。
また、本発明の第10の形態に係るボールねじ機構は、前記ナットのねじ溝における軸方向外側面が研磨加工されている。
また、本発明の第11の形態に係る電動パワーステアリング装置は、上記第1〜第10の形態に係るボールねじ機構のねじ軸を、ステアリング機構を構成するピニオン軸に螺合するラック軸に連結するとともに、当該ボールねじ機構のナットを回転駆動する電動モータを設けている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナットの軸方向端面に装着される転動体循環部材にナットのねじ溝に係合する固定部材を連結したので、転動体循環部材の軸方向の移動をねじ軸のねじ溝と接触することなく規制することができ、運動伝達効率の低下や磨耗等を生じることなく転動体循環部材を保持することができる。このため、転動体循環部材の固定を簡素化して、ボールねじ機構の低コスト化、組立作業性の向上及び小形化を図ることができる。
また、上記効果を有するボールねじ機構を使用して電動パワーステアリング装置を構成することにより、運動伝達効率の低下や磨耗等を生じることなく、円滑な操舵補助動作を行うことができ、低コストで、組立作業性がよく、小形化できる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の電動パワーステアリング装置に適用し得るラック軸を示す正面図である。
【図3】電動パワーステアリング装置の要部を示す拡大断面図である。
【図4】ボールねじナットの転動体戻し路を示す図であって、(a)は内周面側の斜視図であり、(b)は側面図である。
【図5】転動体循環部材及び固定部材をボールねじナットに装着した状態を示す図であって、(a)は断面図であり、(b)は側面図である。
【図6】転動体循環部材に固定部材を組付けた状態を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は正面図であり、(c)は側面図である。
【図7】転動体循環部材に対する固定部材の嵌合長さの説明に供する図であって、(a)は転動体循環部材をボールねじナットに装着した状態を示す図であり、(b)は固定部材をボールねじナットに装着した状態を示す図である。
【図8】固定部材に係合溝を形成した場合の転動体循環部材に対する嵌合長さの説明に供する側面図である。
【図9】ボールねじナットへ転動体循環部材を装着する前の状態を示す斜視図である。
【図10】ボールねじナットへ転動体循環部材を装着した状態を示す斜視図である。
【図11】ボールねじナットへ転動体循環部材及び固定部材を装着した状態を示す斜視図である。
【図12】ボールねじナットへの固定部材の装着過程を示す説明図である。
【図13】ボールねじナット及びボールねじ軸のボールねじ溝と固定部材の装着状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の主要部を示す正面図であり、図2は、ラック軸を示す正面図である。
図中、1は操舵ギヤ機構であって、この操舵ギヤ機構1は、ピニオン機構2とラック機構3とを備えている。
【0017】
ピニオン機構2はピニオンハウジング4に回転自在に支持されたピニオン軸5を備えている。このピニオン軸5は、図示しないステアリングシャフト等を介してステアリングホイールに連結されている。ラック機構3はラックハウジング6に摺動可能に支持されたラック軸7を備えている。ピニオン軸5とラック軸7は噛合しており、ピニオン軸5に伝達される回転力がラック軸7によって直動力に変換される。
ラック軸7は、図2に示すように、ピニオン軸5が噛合するラック部8と、このラック部8の右方に形成された螺旋状のゴシックアーク断面形状のボールねじ溝9aを有するボールねじ軸9とを備えている。
【0018】
そして、ラック軸7の右端側に電動パワーステアリング装置10が配置されている。この電動パワーステアリング装置10は、本発明に係るボールねじ機構11と、操舵補助用電動モータ12と、ボールねじ機構としてのボールねじ機構11と電動モータ12との間を連結する減速機構13とで構成されている。
ボールねじ機構11は、図3に示すように、ラック軸7のボールねじ軸9のボールねじ溝9aに転動体としてのボール14を介して螺合するボールねじナット15を備えている。このボールねじナット15は、ラックハウジング6における図1の右端部に形成された軸受収容部16に収容された転がり軸受17によって回転自在に支持されている。この転がり軸受17は、内輪17aがボールねじナット15と一体に形成された内輪17aと、この内輪17aにボール17bを介して連結され軸受け収容部16に固定支持された外輪17cとで構成されている。
【0019】
また、操舵補助用電動モータ12は、ラックハウジング6の軸受収容部16の半径方向外方に一体に形成されたモータ支持部18のピニオン機構2側に固定支持され、その回転軸12aがモータ支持部18に形成された貫通孔18aを通じて反対側に突出されている。この操舵補助用電動モータ12は、図1に示すように、モータ制御装置30によって回転駆動される。このモータ制御装置30は、ステアリングホイール(図示せず)に入力される操舵トルクを検出するトルクセンサ30aと、車速を検出する車速センサ30bとを有し、トルクセンサ30aで検出した操舵トルク及び車速センサ30bで検出した車速に基づいて操舵補助トルク指令値を算出し、算出した操舵補助トルク指令値に基づいて操舵補助用電動モータ12で必要な操舵補助トルクを発生させるモータ駆動電流を求め、このモータ駆動電流を操舵補助用電動モータ12に出力する。
【0020】
さらに、減速機構13は、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aの先端に取付けられた小径プーリ19と、前述したボールねじナット15の半径方向外方に一体に形成された大径プーリ20と、小径プーリ19及び大径プーリ20との間に巻装されたタイミングベルト21とで構成されている。
【0021】
そして、小径プーリ19と、大径プーリ20、及びボールねじ溝9aを覆うようにカバー22が軸受収容部16及びモータ支持部18に例えばボルト締めされている。
この電動パワーステアリング装置10では、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを図3の左方から見て時計方向に回転駆動することにより、小径プーリ19及び大径プーリ20がタイミングベルト21によってそれぞれ時計方向に回転駆動され、これに応じてボールねじナット15が時計方向に回転駆動されるので、ボールねじ軸9すなわちラック軸7が左方に移動され、逆に操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを左方から見て反時計方向に回転駆動することによりラック軸7が右方に移動される。
【0022】
そして、ラック軸7のラック部8の左端部及びボールねじ軸9の右端部がそれぞれコンロッド22を介して図示しない転舵輪に連結されている。
そして、ボールねじ機構11のボールねじナット15には、図4に示すように、内周面に螺旋状にボール14が転動するゴシックアーク断面形状のボールねじ溝15aが形成されている。また、ボールねじナット15の軸方向の左右両端部にはそれぞれ軸方向最外側のボールねじ溝15aの一部を切り欠いて形成された転動体循環部材装着部31A及び31Bを備えている。また、ボールねじナット15には、内周面のボールねじ溝15aと外周面との間を軸方向に通って両端の転動体循環部材装着部31A及び31B間を連通する転動体戻し通路32が形成されている。
【0023】
右端側の転動体循環部材装着部31Aは、ボールねじナット15の軸方向の両端のボールねじ溝15aの溝底部に連続して接線方向に転動体戻し通路32の下面まで延長し、ボールねじナット15の中心軸と平行な平坦面31aと、この平坦面31aの前端側に連続してボールねじ溝15aの両側の内周面に湾曲延長する湾曲面31b及び31cと、平坦面31aの後端側に連続し転動体戻し通路32の直径より大きい直径の半円筒面31dと、この半円筒面31dの上端からボールねじ溝15aの両側の内周面まで平坦面31aと平行に延長する上面31eとを有し、ボールねじナット15の軸方向端面に開口する切欠凹部で構成されている。そして、半円筒面31dの上面31eに近い位置に半円筒面31dより深さの浅い抜け止め凹部31fがボールねじ溝15aに沿うように突出形成されている。
【0024】
また、左端側の転動体循環部材装着部31Bは、右端側の転動体循環部材装着部31Aとは転動体戻し通路32の中心軸の中心点を挟んで点対称形状に形成されていることを除いては転動体循環部材装着部31Aと同一の構成を有し、対応部分には同一部号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0025】
そして、ボールねじナット15の転動体循環部材装着部31A及び31Bにはそれぞれ、例えば合成樹脂材で一体成型された転動体循環部材33が装着されている。この転動体循環部材33は、図5、図6及び図9に示すように、転動体循環部材装着部31A及び31Bの湾曲面31b及び31c、平坦面31a及び半円筒面31d及び上面31eに対応する側面形状を有する一対の転動体案内側板部33a及び33bと、これら転動体案内側板部33a及び33bの上下方向の中間部から上方側を連結する連結板部33cとで正面から見て門形に形成されている。
【0026】
そして、転動体案内側板部33a及び33bの先端部は上面側がボールねじ溝15aの欠落部の稜線に沿うように先細形状とされている。また、転動体案内側板部33aの後端上部側には抜け止め凹部31fに係合する抜け止め凸部33dが形成されている。また、連結板部33cの下面側はボールねじ軸9のボールねじ溝9a内に非接触状態で挿入されてボール14を接線方向に掬い取るタング部33eが形成されている。このタング部33eの先端位置は、転動体循環部材装着部31Aの平坦面31aと湾曲面31b及び31cとの境界位置より半円筒面31d側となるように設定されている。このため、タング部33eで掬い取ったボール14はボールねじ溝15aから離脱してボールねじ溝15aの底面より外周側となる転動体案内側板部33a及び33b間の平坦面31aに接触することになり、タング部33eをボールねじ軸9のボールねじ溝9aに非接触状態で、ボール14を掬い取ることができる。
【0027】
そして、タング部33eと転動体案内側板部33a及び33bとで囲まれて転動体戻し通路32にボール14を案内する平面から見て略逆L字状に湾曲し、転動体戻し通路32と対向する位置で開口する転動体循環路33fが形成されている。また、連結板部33cのタング部33eに対応する上面には、前端面側から上面31e及び平坦面31aと平行でボールねじ溝15aの接線方向に延長する蟻溝で構成される係合溝33gが形成されている。
【0028】
そして、転動体循環部材33の係合溝33gに例えば合成樹脂材製の固定部材35が係合されている。この固定部材35は、転動体循環部材33の軸方向外側への抜け出しを防止するもので、図5、図6及び図10に示すように、ボールねじナット15のボールを掬い取った後のボールねじ溝15aに係合するようにボールねじ溝15aの螺旋形状に合わせた形状のアーム部36と、このアーム部36の下端側に形成された転動体循環部材33の係合溝33gに係合する蟻溝係合凸部で構成される係合凸部37とを備えている。
【0029】
ここで、アーム部36の断面形状は、図12に示すように、ボールねじナット15のボールねじ溝15aに係合する上部側は、図12(c)に示すようにボールねじ溝15aのゴシックアークに2箇所で線接触するボール14の直径と等しい円筒面36aとされ、この円筒面36aの中心点oを通る水平線Lhより所定距離上方側が円筒面36aの直径より狭い幅の二面幅36bとされ、水平線Lhより下側が二面幅36bの幅と等しい直径の円筒面36cとされている。
【0030】
また、アーム部36は、図12(a)に示すように、左右方向の中心線である螺旋中心軌道Raがボールねじナット15のボールねじ溝15aの中心を通る垂線である螺旋中心軌道Rgに対して軸方向外側に僅かな距離ΔL分だけオフセットされている。さらに、係合凸部37は、図7(b)に示すように、転動体循環部材装着部31Aの上面31eに沿って転動体循環部材装着部31Aの内方の半円筒面31dの近傍まで突出延長されている。
【0031】
そして、ボールねじナット15の軸方向両端に形成された転動体循環部材装着部31Aへの転動体循環部材33の装着は以下のようにして行う。
すなわち、先ず、図9に示すように、転動体循環部材装着部31Aの軸方向外側に転動体循環部材33を対向させ、この状態で、転動体案内側板部33b側からボールねじナット15の軸方向に左側に移動させて、平坦面31a、湾曲面31b,31c、半円筒面31d及び上面31eで構成される切欠凹部内に挿入する。そして、最後に抜け止め凸部33dを抜け止め凹部31f内に係合させて、図10に示すように、転動体循環部材33の転動体案内側板部33aの軸方向端面をボールねじナット15の軸方向端面と面一とする。
【0032】
その後、図10に示すように、固定部材35のアーム部36の円筒面36aをボールねじナット15のボールねじ溝15aに対向させるとともに、係合凸部37を転動体循環部材33の係合溝33gに対向させる。この状態を保って、固定部材35の係合凸部37を転動体循環部材33の係合溝33gに係合させて押し込む。
このとき、前述したように、固定部材35のアーム部36の螺旋中心軌道Raが、図12(a)に示すように、ボールねじナット15のボールねじ溝15aの螺旋中心軌道Rgに対してボールねじナット15の軸方向外側に距離ΔLだけオフセットされている。このため、固定部材35をボールねじ溝15a側に押し込むと、先ず、図12(b)に示すように、固定部材35のアーム部36の円筒面36aがボールねじ溝15aの軸方向外側のゴシックアーク面に接触する。
【0033】
この状態で、さらに固定部材35を押し込むと、アーム部36がボールねじ溝15aに倣って弾性変形して、図12(c)に示すように、円筒面36aがボールねじ溝15aの双方のゴシックアーク面に接触することになり、アーム部36の螺旋中心軌道Raとボールねじ溝15aの螺旋中心軌道Rgとが一致する状態となる。このため、アーム部36の弾性変形の反力によって固定部材35の軸方向への移動が規制される。このとき、固定部材35と転動体循環部材33とは係合凸部37及び係合溝33gが係合しているので、転動体循環部材33の軸方向移動も規制され、転動体循環部材33の軸方向外側への抜け出しが確実に阻止される。
【0034】
しかも、係合溝33gが蟻溝とされ、係合凸部が蟻溝係合凸部とされているので、転動体循環部材33に対する固定部材35のボールねじ溝15aの螺旋方向へ移動が規制されるので、固定部材35が転動体循環部材33から螺旋方向に分離することが阻止される。
さらに、転動体循環部材33には抜け止め凸部33dが形成され、この抜け止め凸部33dが転動体循環部材装着部31Aの抜け止め凹部31fに係合しているので、抜け止め凸部33dと固定部材35とでボールねじナット15の一部を挟持することになり、転動体循環部材33のボールねじ軸9側への抜け出し及び回動が確実に阻止される。
【0035】
このため、転動体循環部材33が転動体循環部材装着部31Aにあらゆる方向の移動が阻止されて保持されることになり、この状態で、転動体循環部材33と固定部材との接触面を融着や接着等の固定手段で一体化することにより、転動体循環部材33を転動体循環部材装着部31Aに抜け出し不能に保持することができる。
そして、この転動体循環部材33を転動体循環部材装着部31Aへ装着して固定部材35で固定した状態では、固定部材35のアーム部36の円筒面36cとボールねじ軸9のボールねじ溝9aとは、図13に示すように、円筒面36cがボールねじ溝9aに対してクリアランスΔxを生じて非接触状態となる。
【0036】
したがって、ボールねじナット15が回転しても固定部材35がボールねじ軸9のボールねじ溝9aに摺接することはないので、摩擦抵抗による運動伝達効率の低下や磨耗を生じることがなく、回転運動を直線運動に円滑に変換することができるとともに、転造軸のようにリード精度の劣るボールねじ軸や隙間で組まれたボールねじなどを適用しても不都合を生じることはない。
【0037】
また、固定部材35のアーム部36の円筒面36cとボールねじ軸9のボールねじ溝9aとのクリアランスΔxを転動体循環部材33の係合溝33gと固定部材35の係合凸部37との係合長さより小さく設定することにより、何らかの原因で転動体循環部材33から固定部材35が離脱した場合に、固定部材35のアーム部36の円筒面36cがボールねじ軸9のボールねじ溝9aに接触することにより、固定部材35の脱落を防止することができる。
【0038】
また、転動体循環部材33側に係合溝33gを形成し、固定部材35側に係合凸部37を形成するようにしているので、図7(b)に示すように、係合凸部37の長さを転動体循環部材装着部31Aの上面31eに沿わせて内方に延長させることができ、係合溝33gと係合凸部37との係合長さを長くとることが可能となり、固定部材35と転動体循環部材33との結合強度を十分に高めることができる。
【0039】
因みに、図8に示すように、転動体循環部材33側に係合凸部33hを形成する場合には、転動体循環部材33の転動体循環部材装着部31Aへの装着の邪魔にならないようにする必要があり、ボールねじ軸9のボールねじ溝9aとこれに対向するボールねじナット15のボールねじ溝15aとで形成される空間内に収めざるを得ず、係合凸部33hの長さに大幅な制限があり、転動体循環部材33と固定部材35との結合強度が低下してしまう。したがって、転動体循環部材33と固定部材35との結合強度を高めるには、係合凸部を固定部材35側に形成することが望ましいことになる。
【0040】
また、転動体循環部材装着部31Bへの転動体循環部材33の装着も、上記と同様に、転動体循環部材33を転動体循環部材装着部31Bに装着した後に、固定部材35の係合凸部37を転動体循環部材33の係合溝33gに係合させながらボールねじナット15のボールねじ溝15aに接触させることにより、転動体循環部材33を転動体循環部材装着部31Bに抜け出しを防止しながら確実に保持させることができる。
このように、転動体循環部材装着部31A及び31Bのそれぞれに転動体循環部材33を装着し、これら転動体循環部材33を固定部材35で固定することにより、エンドデフレクタ方式のボール14の循環路が形成される。
【0041】
すなわち、ボールねじナット15を正転(又は逆転)させることにより、例えば転動体循環部材装着部31A(又は31B)に装着された転動体循環部材33によってボールねじ軸9のボールねじ溝9aとボールねじナット15のボールねじ溝15a間に介挿されたボール14が転動体循環部材33のタング部33eによって掬い取られて転動体循環部材33の転動体循環路33fを通って転動体戻し通路32に送られる。
この転動体戻し通路32へ送られたボール14は、反対側の転動体循環部材装着部31B(又は31A)に装着された転動体循環部材33の転動体循環路33fを通ってボールねじナット15の先端側(又は後端側)のボールねじ軸9のボールねじ溝9a及びボールねじナット15のボールねじ溝15a間に戻される。
【0042】
次に、上記実施形態における電動パワーステアリング装置の動作を説明する。
今、ステアリングホイール(図示せず)に操舵トルクが入力されていない非操舵状態では、トルクセンサ30aで検出される操舵トルクが零であるので、モータ制御装置30で演算される操舵補助トルク指令値も零となり、モータ駆動電流も零となり、操舵補助用電動モータ12は停止状態となっている。
【0043】
この非操舵状態から、ステアリングホイール(図示せず)を例えば右(又は左)操舵することにより、トルクセンサ30aで操舵トルクが検出されると、モータ制御装置30で、操舵トルクと車速センサ30bで検出した車速とに基づいて操舵補助トルク指令値が算出され、この操舵補助トルク指令値に基づいて正転(又は)逆転のモータ電流が決定され、このモータ電流が操舵補助用電動モータ12に供給されることにより、この操舵補助用電動モータ12が必要な操舵補助トルクを発生するように回転駆動される。
【0044】
この操舵補助用電動モータ12の回転力は、減速機構13を介してボールねじ機構11のボールねじナット15に伝達されて、このボールねじナット15を図3の右側面から見て反時計(又は時計)方向に回転駆動し、これによってボールねじ軸9すなわちラック軸7を左動(又は右動)させてステアリングホイール(図示せず)からピニオン軸5に伝達される操舵トルクを補助する。したがって、ステアリングホイール(図示せず)を軽い操舵力で操舵することができる。
【0045】
このように電動パワーステアリング装置10のボールねじナット15が操舵補助用電動モータ12によって回転駆動されると、これに応じた前述したように、ボールねじナット15の転動体循環部材装着部31A及び31Bのそれぞれに装着した転動体循環部材33とボールねじナット15に形成した転動体戻し通路32とによって、ボールねじナット15の回転に伴うボール14の循環をスムーズに行うことができる。
【0046】
このとき、前述したように、ボールねじナット15の軸方向両端に設けた転動体循環部材装着部31A及び31Bのそれぞれに転動体循環部材33が装着され、装着された転動体循環部材33に、ボールねじナット15のボールねじ溝15aに係合する固定部材35を結合するので、ボールねじ軸9と非接触で転動体循環部材33の軸方向の移動を確実に防止することができる。
したがって、電動パワーステアリング装置10自体の運動伝達効率も向上させることができるとともに、磨耗の発生を防止し、操舵補助制御を円滑に行うことができる。
【0047】
なお、上記実施形態において、固定部材35のアーム部36の断面形状は、上述した円筒面36a、二面幅36b及び円筒面36cで形成する場合に限るものではなく、ボールねじナット15のボールねじ溝15aのゴシックアーク断面形状に倣った断面形状としてボールねじ溝15aに面接触させることもでき、さらには左右で非対称の例えばD字断面形状とすることにより、ボールねじ溝15aの軸方向外側面にのみ接触させることができる。これらの断面形状の選択は、固定部材35に求められる強度や、バネ定数、アーム部36の成型精度等を考慮して決定することが好ましい。
【0048】
また、上記実施形態においては、転動体循環部材33に係合溝33gを形成し、固定部材35に係合凸部37を形成した場合について説明したが、転動体循環部材33及び固定部材35間に大きな連結強度を要求されない場合には、転動体循環部材33に係合凸部を形成し、固定部材35に係合溝を形成するようにしてもよい。さらに、係合溝33gと係合凸部37を嵌合させる場合には、転動体循環部材33及び固定部材35の融着を省略することもでき、溶着に代えて加締めるようにしてもよく、要は転動体循環部材33と固定部材35とが一体に連結されればよいものであり、両者の固定方法については限定されるものではない。
【0049】
また、上記実施形態においては、減速機構13を小径プーリ19、大径プーリ20及びタイミングベルト21で構成した場合について説明したが、タイミングベルト21に代えて通常のベルトを適用することもでき、さらに減速ギヤ機構を適用することもでき、任意の減速機構を採用することができる。
また、上記実施形態においては、本発明に係るボールねじ機構を電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、本発明に係るボールねじ機構は工作機械やアクチュエータなどの他の任意の産業機械に適用することができる。この場合、ボールねじナット15を回転する場合に代えて、ボールねじ軸9を回転させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…操舵ギヤ機構、2…ピニオン機構、3…ラック機構、5…ピニオン軸、7…ラック軸、8…ラック部、9…ボールねじ軸、9a…ボールねじ溝、10…電動パワーステアリング装置、11…ボールねじ機構、12…操舵補助用電動モータ、13…減速機構、14…ボール、15…ボールねじナット、15a…ボールねじ溝、31A,31B…転動体循環部材装着部、31a…平坦面、31b,31c…湾曲面、31d…半円筒面、31e…上面、31f…抜け止め凹部、32…転動体戻し通路、33…転動体循環部材、33a,33b…転動体案内側板部、33c…連結部、33d…抜け止め凸部、33e…タング部、33f…転動体循環路、33g…係合溝、35…固定部材、36…アーム部、37…係合凸部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を形成したねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対応するねじ溝を内周面に形成するとともに、軸方向に貫通する転動体戻し通路を形成したナットと、前記ねじ軸及び前記ナットのねじ溝間及び前記転動体戻し通路内に介装された多数の転動体と、前記ねじ軸のねじ溝及び前記ナットのねじ溝間の転動体を前記転動体戻し通路に案内する転動体循環路を形成して前記ナットの両端面に配置される転動体循環部材とを備えたボールねじ機構であって、
前記ナットのねじ溝に係合し、前記転動体循環部材と連結される固定部材を備えたことを特徴とするボールねじ機構。
【請求項2】
前記固定部材は、前記転動体循環部材に円周方向と交差する方向に摺動可能に連結され、前記ナットのねじ溝の軸方向外側面に係合して当該循環部材本体の軸方向の移動を規制するアーム部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ機構。
【請求項3】
前記アーム部の螺旋中心軌道は、前記ナットのねじ溝の螺旋中心軌道に対して軸方向外側にオフセットされていることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ機構。
【請求項4】
前記固定部材の前記アーム部及び前記転動体循環部材の連結部の一方に、円周方向と交差する方向に延長する係合溝を形成し、他方に前記係合溝に係合する係合凸部を形成したことを特徴とする請求項2又は3に記載のボールねじ機構。
【請求項5】
前記係合溝は蟻溝で構成され、前記係合凸部は前記蟻溝に係合する蟻溝係合凸部で構成されていることを特徴とする請求項4に記載のボールねじ機構。
【請求項6】
前記係合溝は、前記転動体循環部材側に形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のボールねじ機構。
【請求項7】
前記固定部材は、前記係合凸部を前記係合溝に嵌合させた状態で前記転動体循環部材に融着されて固定されていることを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項8】
前記固定部材のアーム部と前記ねじ軸のねじ溝との間のクリアランスは、前記係合溝と係合凸部との係合長さより短く設定されていることを特徴とする請求項2乃至7の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項9】
前記転動体循環部材と前記固定部材とは異なる素材で形成されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項10】
前記ナットのねじ溝における軸方向外側面は研磨加工されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載のボールねじ機構のねじ軸を、ステアリング機構を構成するピニオン軸に螺合するラック軸に連結するとともに、当該ボールねじ機構のナットを回転駆動する電動モータを設けたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を形成したねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対応するねじ溝を内周面に形成するとともに、軸方向に貫通する転動体戻し通路を形成したナットと、前記ねじ軸及び前記ナットのねじ溝間及び前記転動体戻し通路内に介装された多数の転動体と、前記ねじ軸のねじ溝及び前記ナットのねじ溝間の転動体を前記転動体戻し通路に案内する転動体循環路を形成して前記ナットの両端面に配置される転動体循環部材とを備えたボールねじ機構であって、
前記ナットのねじ溝に係合し、前記転動体循環部材と連結される固定部材を備えたことを特徴とするボールねじ機構。
【請求項2】
前記固定部材は、前記転動体循環部材に円周方向と交差する方向に摺動可能に連結され、前記ナットのねじ溝の軸方向外側面に係合して当該循環部材本体の軸方向の移動を規制するアーム部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ機構。
【請求項3】
前記アーム部の螺旋中心軌道は、前記ナットのねじ溝の螺旋中心軌道に対して軸方向外側にオフセットされていることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ機構。
【請求項4】
前記固定部材の前記アーム部及び前記転動体循環部材の連結部の一方に、円周方向と交差する方向に延長する係合溝を形成し、他方に前記係合溝に係合する係合凸部を形成したことを特徴とする請求項2又は3に記載のボールねじ機構。
【請求項5】
前記係合溝は蟻溝で構成され、前記係合凸部は前記蟻溝に係合する蟻溝係合凸部で構成されていることを特徴とする請求項4に記載のボールねじ機構。
【請求項6】
前記係合溝は、前記転動体循環部材側に形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のボールねじ機構。
【請求項7】
前記固定部材は、前記係合凸部を前記係合溝に嵌合させた状態で前記転動体循環部材に融着されて固定されていることを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項8】
前記固定部材のアーム部と前記ねじ軸のねじ溝との間のクリアランスは、前記係合溝と係合凸部との係合長さより短く設定されていることを特徴とする請求項2乃至7の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項9】
前記転動体循環部材と前記固定部材とは異なる素材で形成されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項10】
前記ナットのねじ溝における軸方向外側面は研磨加工されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載のボールねじ機構のねじ軸を、ステアリング機構を構成するピニオン軸に螺合するラック軸に連結するとともに、当該ボールねじ機構のナットを回転駆動する電動モータを設けたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−24321(P2013−24321A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159244(P2011−159244)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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