説明

ボールジョイント及びボールジョイント装置

【課題】構成を複雑化することなく小型化が可能であるとともに、システム異常を確実に検知できるボールジョイント装置を提供する。
【解決手段】導電部18とボールスタッド17のスタッド部42との間に摩耗検出部12を電気的に接続する。ボールシート16が所定量以上摩耗すると、ボール部41と導電部18とが離間して導電部18とスタッド部42とが電気的に遮断する。断線したときに導電部18あるいはスタッド部42に対して摩耗検出部12が電気的に遮断する。構成を複雑化することなく小型化が可能であるとともに、ボールシート16の所定量以上の摩耗及び断線などのシステム異常を摩耗検出部12によって確実に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベアリングシートの摩耗を検出可能なボールジョイント及びこれを備えたボールジョイント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車などの車両の懸架装置、あるいは操舵装置などに用いられるこの種のボールジョイントは、有底円筒状のソケットと、このソケットの内部に収容された円筒状のベアリングシートであるボールシートと、このボールシートの内部の摺動面に摺動可能に保持されたボール部及びこのボール部に突設されたスタッド部を有するボールスタッドとを備えている。
【0003】
このようなボールジョイントは、ボール部の摺動に伴いボールシートが徐々に摩耗するため、ボールシートが所定量以上摩耗した場合には、交換などが必要となる。そこで、このようなボールシートの摩耗を検出するために、ボールシートの内部に埋め込んだ電極、あるいは導電性を有するソケットと、導電性を有するボールスタッドとの間に、摩耗検出部を電気的に接続した構成が知られている(例えば、特許文献1または2参照。)。これら構成では、ボール部の摺動によりボールシートが所定量以上摩耗すると、ボール部と、電極あるいはソケットとが接触することにより回路が閉成され、摩耗検出部によってボールシートの摩耗を検出可能となっている。
【0004】
しかしながら、このような構成の場合、例えば回路内に何らかの原因により断線などが発生している場合、ボールシートが所定量以上摩耗しても回路が開成されたままの状態であるので、ボールシートが所定量以上摩耗したかどうか、すなわち異常であるかどうかを観測者が判断できないおそれがあるという問題がある。
【0005】
そこで、ソケットの内部に、ボール部と接触する導電性のばねシートと、このばねシートを介してボール部を上方へと付勢するコイルばねとをそれぞれ配置するとともに、ばねシートの中央部に導電部材を取り付け、この導電部材の下端部に、ソケットの底部の点検用端子に接触可能な接点を、ばねを介して取り付け、かつ、ソケットの底部と点検用端子との間にテスタを電気的に接続した構成が知られている(例えば、特許文献3参照。)。そして、この構成では、ボール部が所定量以上摩耗すると、コイルばねによって接点がソケットの底部から離間されることにより回路が開成され、テスタに電流が流れなくなることによってボール部の摩耗を検出可能となっている。したがって、この構成では、例えば回路中に断線などが発生した場合でも、検出可能である。
【0006】
しかしながら、このような構成の場合、ボールジョイントの構成が複雑化するとともに、ソケットの内部にコイルばねの可動用の空間を確保しなければならず、小型化が容易でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−6911号公報(第2頁、図面)
【特許文献2】特表2003−525404号公報(第5−7頁、図1)
【特許文献3】実開昭58−58114号公報(第3−7頁、第2図−第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ボールシートあるいはボール部の摩耗及び断線などを含むシステム異常を確実に検知でき、構成が簡単で小型化可能なボールジョイント装置が望まれている。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、構成を複雑化することなく小型化が可能であるとともに、システム異常を確実に検知できるボールジョイント及びこれを備えたボールジョイント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のボールジョイントは、筒状のソケットと、摺動面を内部に有し、前記ソケットの内部に収容された筒状のベアリングシートと、導電性を有し、前記ベアリングシートの前記摺動面に外周面が摺動可能に保持された球状のボール部、及び、導電性を有し、前記ボール部に突設され前記ベアリングシート及び前記ソケットから外部に突出する軸状のスタッド部を備えたボールスタッドと、導電性を有し、前記ベアリングシートの前記摺動面にて前記ボールスタッドに加わる荷重方向に対して反対側の位置に前記ボール部に接触可能に配置され、前記ボールスタッドに加わる荷重による前記ベアリングシートの所定量以上の摩耗によって前記ボール部に対して離間される導電部とを具備したものである。
【0011】
請求項2記載のボールジョイントは、請求項1記載のボールジョイントにおいて、ボールスタッドは、スタッド部がボール部に対して上方に向けて突出し、下方に向けて圧縮荷重が加えられ、導電部は、ベアリングシートの摺動面にて上側の位置に配置されているものである。
【0012】
請求項3記載のボールジョイントは、請求項1記載のボールジョイントにおいて、ボールスタッドは、スタッド部がボール部に対して下方に向けて突出し、下方に向けて引っ張り荷重が加えられ、導電部は、ベアリングシートの摺動面にて上側の位置に配置されているものである。
【0013】
請求項4記載のボールジョイント装置は、請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントと、このボールジョイントのスタッド部と導電部との間に電気的に接続され、これらの間での前記ボールジョイントのボール部を介する導通の有無を検出する摩耗検出部とを具備したものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のボールジョイントによれば、導電部とボールスタッドのスタッド部との間に摩耗検出部を電気的に接続すると、ベアリングシートが所定量以上摩耗したときに、ボール部と導電部とが離間してこの導電部とスタッド部とが電気的に遮断され、また、断線したときに導電部あるいはスタッド部に対して摩耗検出部が電気的に遮断されるので、構成を複雑化することなく小型化が可能であるとともに、ベアリングシートの所定量以上の摩耗及び断線などのシステム異常を摩耗検出部によって確実に検出できる。
【0015】
請求項2記載のボールジョイントによれば、請求項1記載のボールジョイントの効果に加えて、スタッド部がボール部に対して上方に向けて突出したボールスタッドに下方に向けて圧縮荷重が加えられる圧縮型のボールジョイントに対して、導電部をベアリングシートの摺動面にて上側の位置に配置することにより対応できる。
【0016】
請求項3記載のボールジョイントによれば、請求項1記載のボールジョイントの効果に加えて、スタッド部がボール部に対して下方に向けて突出したボールスタッドに下方に向けて引っ張り荷重が加えられる引っ張り型のボールジョイントに対して、導電部をベアリングシートの摺動面にて上側の位置に配置することにより対応できる。
【0017】
請求項4記載のボールジョイント装置によれば、請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントのスタッド部と導電部との間に摩耗検出部を電気的に接続することにより、構成を複雑化することなく小型化が可能であるとともに、ベアリングシートの所定量以上の摩耗及び断線などのシステム異常を摩耗検出部によって確実に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態のボールジョイントを備えたボールジョイント装置を示し、(a)は全体の縦断面図、(b)は一部を拡大した断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態のボールジョイントを備えたボールジョイント装置を示し、(a)は全体の縦断面図、(b)は一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1の実施の形態の構成を、図1を参照して説明する。
【0020】
図1(a)において、10はボールジョイント装置を示し、このボールジョイント装置10は、ボールジョイント11と、このボールジョイント11に電気的に接続される摩耗検出部12とを備えている。
【0021】
ボールジョイント11は、いわゆる圧縮(コンプレッション)型のものであり、ハウジングであるソケット15と、このソケット15の内部に収容されたベアリングシートであるボールシート16と、このボールシート16に一部が摺動(回動)可能に保持されたボールスタッド17と、ボールシート16に一体的に取り付けられた導電部18と、ソケット15の外周面からボールスタッド17の外周面に亘って配置されたダストカバー19とを有している。
【0022】
ソケット15は、金属製などの有底円筒状のソケット本体21と、このソケット本体21に一体的に固定される金属製などの円環状のプラグ22とを有している。
【0023】
ソケット本体21は、ボールシート16を収容する内室24を内部に備えているとともに、上端部に、この内室24をソケット本体21の外部と連通する挿通開口部としてのソケット開口部25を備え、下端部に、内室24を閉塞する底部26を備えている。また、このソケット本体21は、上端側の外周面に、ダストカバー19の端部を固定するカバー固定溝28が周方向に形成されている。さらに、ソケット本体21は、ソケット開口部25の周縁部に、プラグ22が載置される保持部31が段差状に形成されているとともに、この保持部31の周囲に、かしめ変形されることによってプラグ22を固定することによりボールシート16及びボールスタッド17をソケット15に固定するための固定部であるかしめ固定部32が形成されている。なお、ソケット本体21は、例えば(冷間)鍛造、あるいは鋳造などにより形成されている。
【0024】
また、プラグ22は、ソケット開口部25の周縁部に、このソケット開口部25と連通した状態でかしめ固定部32によりかしめ固定されている。
【0025】
ボールシート16は、例えばポリエステル、ポリアセタール(POM)、ポリウレタン(PU)、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリエーテルケトン(PEK)、あるいはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの、耐摩耗性に優れ弾性率が高い合成樹脂製などであり、ソケット本体21の内室24の内部に嵌着可能な円筒状に形成されている。すなわち、このボールシート16は、内部に球面状の摺動面35を備えているとともに、上端部に、この摺動面35と連続してソケット本体21のソケット開口部25及びプラグ22と同軸状に連通するシート挿通開口部としての一方のシート開口部である第1シート開口部36を備え、さらに、下端部に、摺動面35と連続してソケット本体21の底部26に対向する他方のシート開口部である第2シート開口部37を備えている。さらに、このボールシート16は、上端側よりも下端側の方が縮径されており、第2シート開口部37は第1シート開口部36と同軸で、かつ、この第1シート開口部36よりも開口面積が狭く形成されている。なお、ボールシート16は、1つの部材によって形成してもよいし、例えば互いに特性が異なる合成樹脂などにより形成された複数の部材を組み合わせて構成してもよい。
【0026】
ボールスタッド17は、ボールシート16よりも硬質の、例えば鋼鉄製などであり、導電性を有する球状のボール部41と、このボール部41に連結された導電性を有する軸状のスタッド部42とを一体に備えている。
【0027】
ボール部41は、その赤道E1(最大径位置)を含む例えば2/3程度の外周面がボールシート16の摺動面35に摺動(回動)可能に保持されている。すなわち、ボール部41は、ボールシート16とともにソケット15の内室24に収容されている。また、ボール部41は、赤道E1の外径寸法、すなわち最大外径寸法が、ボールシート16の摺動面35の最大内径寸法と略等しく形成されている。すなわち、ボール部41の外周面の形状は、ボールシート16の摺動面35の形状と略一致している。さらに、このボール部41の外周面とボールシート16の摺動面35との間には、図示しないが、例えば潤滑剤(グリース)が保持されている。また、このボール部41の中心である球心は、ソケット本体21(ソケット15)の中心軸上に位置し、かつ、摺動面35と同心に配置されている。
【0028】
スタッド部42は、外部からの圧縮荷重が矢印A1方向(下方向)に向けて加わる部分であり、ボール部41に対して上方に向けて突出している。また、このスタッド部42は、ボール部41の外周面に、このボール部41の球心と同軸に連結されている。このため、スタッド部42の軸方向、すなわち軸心は、無負荷状態でソケット本体21(ソケット15)の中心軸に沿っており、ボール部41の赤道E1に対して正面視で直交(交差)している。また、このスタッド部42の上端側の外周面には、図示しない被取付部材にねじ止め固定されるねじ部44が形成されている。さらに、このスタッド部42は、各開口部36,25及びプラグ22に挿通されてボールシート16及びソケット15から上方へと突出している。なお、このスタッド部42は、ボール部41と一体に成形してもよいし、ボール部41と別体で成形した後、ボール部41に溶接などにより一体化してもよい。
【0029】
また、導電部18は、例えば導電性の合成樹脂などにより円環状に形成された電極であり、ボールシート16の摺動面35にて、ボールスタッド17に加わる荷重方向(矢印A1方向)に対して反対側の位置、すなわち上側の位置に配置されている。さらに、この導電部18は、内周側が摺動面35と略面一となっており、この摺動面35の一部を構成している。したがって、この導電部18の内周側は、通常状態、すなわちボールシート16が予め設定された所定量以上(所定厚み以上)摩耗していない状態で、ボール部41の赤道E1よりもスタッド部42側(上側)の外周面と接触(電気的に接続)可能となっている。なお、この導電部18は、例えば2色成形などによってボールシート16と一体的に成形してもよいし、ボールシート16と別体で成形したものをボールシート16に対して一体的に貼着してもよい。
【0030】
ダストカバー19は、ダストシール、あるいはブーツなどとも呼ばれるもので、例えば軟質ゴム、あるいは軟質合成樹脂などにより扁平な(軸方向よりも径方向の寸法が大きい)円筒状に形成され、軸方向の中間部分が外方へと膨出している。このダストカバー19は、上端側がスタッド部42の外周に中心軸方向へと圧接されるように取り付け固定され、下端側がソケット15のカバー固定溝28に取り付け固定されている。したがって、このダストカバー19は、ボールスタッド17の揺動に拘らずソケット15のソケット開口部25(ボールシート16の第1シート開口部36)を覆い、ソケット15あるいはボールシート16の内部への塵埃などの侵入を阻止している。
【0031】
一方、摩耗検出部12は、電源部である直流電源部48と、この直流電源部48に電気的に接続された検出器49とを有している。
【0032】
直流電源部48は、例えば高圧側がボールスタッド17のスタッド部42のねじ部44よりも下側の外周面に電気的に接続可能となっており、低圧側が検出器49を介して、ソケット15(ソケット本体21)の内部へと挿入されて導電部18に電気的に接続可能となっている。したがって、この直流電源部48の高圧側から、ボールスタッド17のスタッド部42、ボール部41、導電部18及び検出器49を介して摩耗検出回路C1が構成されている。なお、導電部18は、ソケット15の外部へと突出し直流電源部48の低圧側に検出器49を介して電気的に接続される図示しない端子などと電気的に接続されていてもよい。
【0033】
検出器49は、摩耗検出回路C1に流れる電流を検出する例えばランプなどの負荷であり、摩耗検出回路C1が閉成されている状態で直流電源部48からの給電により稼働(点灯)するとともに、例えばボールシート16の摩耗に起因する導電部18とボール部41との離間、あるいは断線などによって摩耗検出回路C1が開成されている状態で稼働が停止する(消灯する)。
【0034】
次に、上記第1の実施の形態の動作を説明する。
【0035】
ボールジョイント装置10を使用する際には、ボールジョイント11の導電部18とボールスタッド17のスタッド部42との間に、摩耗検出部12を電気的に接続する。
【0036】
ボールジョイント11のボールシート16が所定量以上摩耗していないとき、直流電源部48、スタッド部42、ボール部41、導電部18及び検出器49により構成される摩耗検出回路C1が閉成されているため、この摩耗検出回路C1に電流が流れ、この電流が検出器49により検出される。
【0037】
ボールジョイント11のボールシート16は、ボール部41との摩擦によって経時的に摩耗する。特に、ボールシート16の摺動面35は、ボールスタッド17に加わる荷重方向(矢印A1方向)側が他の位置よりも相対的に大きく摩耗する。そのため、摩耗が進行するに従い、ボール部41は、図1(b)の想像線に示すように、ボールシート16の摺動面35に対してがたつきが生じ、この摺動面35内で、ボールスタッド17に加わる荷重方向(矢印A1方向)側に次第に偏倚することとなり、ボールシート16の摩耗が所定量以上に達したとき、ボールスタッド17に加わる荷重方向(矢印A1方向)と反対側に位置する導電部18に対してボール部41の外周面が離間される。したがって、摩耗検出回路C1が開成され、検出器49において電流が検出されなくなる。同様に、摩耗検出回路C1内で断線が生じている場合なども、摩耗検出回路C1が開成され、検出器49において電流が検出されなくなる。
【0038】
この結果、観測者が、ボールシート16が所定量以上摩耗した、あるいは断線が生じたなどのシステム異常が発生したことを検出できる。
【0039】
このようなシステム異常を検出した場合には、ボールジョイント11を交換したり、断線部分を電気的に接続したりして対応する。
【0040】
上述したように、上記第1の実施の形態では、導電部18とボールスタッド17のスタッド部42との間に摩耗検出部12を電気的に接続すると、ボールシート16が所定量以上摩耗したときに、ボール部41と導電部18とが離間してこの導電部18とスタッド部42とが電気的に遮断され、また、断線したときに導電部18あるいはスタッド部42に対して摩耗検出部12が電気的に遮断される。このため、例えばボールシートを圧縮荷重に対向する方向に向けて付勢するコイルばね及びボールシートをソケットに接触させる接点などを要する従来の構成のように構成を複雑化することなくボールジョイント11(ボールジョイント装置10)の小型化が可能であるとともに、ボールシート16の所定量以上の摩耗及び断線などのシステム異常を摩耗検出部12によって確実に検出できる。
【0041】
すなわち、ボールシートの所定量以上の摩耗などにより閉成されて通電することで異常を検出する従来の通電確認型の回路では、仮にボールシートの摩耗前に何らかの原因により断線などが発生した場合、回路が開成されるため、ボールシートの摩耗あるいは断線などの異常を検出することができないのに対して、上記第1の実施の形態では、直流電源部48、スタッド部42、ボール部41、導電部18及び検出器49により構成される摩耗検出回路C1を、ボールシート16の所定量以上の摩耗などにより開成されることで異常を検出する絶縁確認型の回路とすることにより、ボールシート16の摩耗だけでなく、摩耗検出回路C1を開成させる他の電気的な故障などのシステム異常に対しても確実な検出が可能になり、より安全性が高く信頼性に優れた構成を提供できる。
【0042】
また、例えば導電部をボールスタッドに加わる荷重方向と同側に配置した場合には、ボールシートが仮に所定量以上摩耗した場合でも、ボールスタッドに加わる荷重によってボール部が導電部に押し付けられることにより摩耗検出回路が開成せず、ボールシートの所定量以上の摩耗を検出することが容易でないのに対して、上記第1の実施の形態では、ボールスタッド17に加わる荷重方向(矢印A1方向)に対して反対側に導電部18を配置しているので、ボールシート16に所定量以上の摩耗が生じた際には、ボール部41が直ちに導電部18に対して離間されて摩耗検出回路C1が開成されるので、ボールシート16の摩耗を摩耗検出部12にて確実に検出可能となる。
【0043】
具体的に、スタッド部42がボール部41に対して上方に向けて突出したボールスタッド17に下方に向けて圧縮荷重が加えられる圧縮型のボールジョイント11に対して、導電部18をボールシート16の摺動面35にて上側の位置に配置することにより対応できる。
【0044】
次に、第2の実施の形態を、図2を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0045】
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態のボールジョイント11に代えて、いわゆる引っ張り(テンション)型のボールジョイント51を備えるものである。
【0046】
すなわち、ボールジョイント51は、図2(a)に示すように、ハウジングであるソケット55と、このソケット55の内部に収容されたベアリングシートであるボールシート56と、このボールシート56に一部が摺動(回動)可能に保持されたボールスタッド57と、ボールシート56に一体的に取り付けられた導電部58と、ソケット55の外周面からボールスタッド57の外周面に亘って配置されたダストカバー59とを有している。
【0047】
ソケット55は、金属製などの円筒状のソケット本体61と、このソケット本体61に一体的に固定される金属製などの円板状のプラグ62とを有している。
【0048】
ソケット本体61は、ボールシート56を収容する内室64を内部に備えているとともに、下端部に、この内室64をソケット本体61の外部と連通する挿通開口部としての一方の開口部である第1ソケット開口部65を備え、上端部に、内室64をソケット本体61の外部と連通する連通開口部としての他方の開口部である第2ソケット開口部66を備えている。また、このソケット本体61は、下端側の外周面に、ダストカバー59の端部を固定するカバー固定溝68が周方向に形成されている。さらに、ソケット本体61は、内室64と第2ソケット開口部66との連続部に、プラグ62が載置される保持部71が段差状に形成されているとともに、この保持部71の周囲に、かしめ変形されることによってプラグ62を固定することによりボールシート56及びボールスタッド57をソケット55に固定するための固定部であるかしめ固定部72が形成されている。なお、ソケット本体61は、例えば(冷間)鍛造、あるいは鋳造などにより形成されている。
【0049】
第1ソケット開口部65は、内室64側から下端側に向けて、徐々に拡径状に形成されている。
【0050】
また、プラグ62は、保持部71に周縁部が保持された状態でかしめ固定部72によりかしめ固定されることにより、内室64の上端側、すなわち第2ソケット開口部66を閉塞するものである。
【0051】
ボールシート56は、例えばポリエステル、ポリアセタール(POM)、ポリウレタン(PU)、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリエーテルケトン(PEK)、あるいはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの、耐摩耗性に優れ弾性率が高い合成樹脂製などであり、ソケット本体61の内室64の内部に嵌着可能な円筒状に形成されている。すなわち、このボールシート16は、内部に球面状の摺動面75を備えているとともに、下端部に、この摺動面75と連続してソケット本体61の第1ソケット開口部65と連通するシート挿通開口部としての一方のシート開口部である第1シート開口部76を備え、さらに、上端部に、摺動面75と連続してソケット本体61の第2ソケット開口部66に連通するシート連通開口部としての他方のシート開口部である第2シート開口部77を備えている。なお、ボールシート56は、1つの部材によって形成してもよいし、例えば互いに特性が異なる合成樹脂などにより形成された複数の部材を組み合わせて構成してもよい。
【0052】
ボールスタッド57は、例えば鋼鉄製などであり、導電性を有する球状のボール部81と、このボール部81に連結された導電性を有する軸状のスタッド部82とを一体に備えている。
【0053】
ボール部81は、その赤道E2(最大径位置)を含む例えば2/3程度の外周面がボールシート56の摺動面75に摺動(回動)可能に保持されている。すなわち、ボール部81は、ボールシート56とともにソケット55の内室24に収容されている。また、ボール部81は、赤道E2の外径寸法、すなわち最大外径寸法が、ボールシート56の摺動面75の最大内径寸法と略等しく形成されている。すなわち、ボール部81の外周面の形状は、ボールシート56の摺動面75の形状と略一致している。さらに、このボール部81の外周面とボールシート56の摺動面75との間には、図示しないが、例えば潤滑剤(グリース)が保持されている。また、このボール部81の中心である球心は、ソケット本体61(ソケット55)の中心軸上に位置し、かつ、摺動面75と同心に配置されている。
【0054】
スタッド部82は、外部からの引っ張り荷重が矢印A2方向(下方向)に加わる部分であり、丸軸状のスタッド部本体85と、このスタッド部本体85の外周に一体的に固定された円板状の鍔部86とを備えている。なお、このスタッド部82は、ボール部81と一体に成形してもよいし、ボール部81と別体で成形した後、ボール部81に溶接などにより一体化してもよい。
【0055】
スタッド部本体85は、ボール部81の外周面に、このボール部81の球心と同軸に連結されている。このため、スタッド部本体85(スタッド部82)の軸方向、すなわち軸心は、無負荷状態でソケット本体61(ソケット55)の中心軸に沿っており、ボール部81の赤道E2に対して正面視で直交(交差)している。また、このスタッド部本体85の鍔部86よりも下端側の外周面には、図示しない被取付部材にねじ止め固定されるねじ部88が形成されている。さらに、このスタッド部本体85は、各開口部76,65に挿通されてボールシート56及びソケット55から下方へと突出している。
【0056】
鍔部86は、ねじ部88を被取付部材にねじ止め固定した際に、この被取付部材と接触する座面を形成するものであり、スタッド部本体85よりも大きい径寸法を有している。
【0057】
また、導電部58は、例えば導電性の合成樹脂などにより円環状に形成された電極であり、ボールシート56の摺動面75にて、ボールスタッド57に加わる荷重方向(矢印A2方向)に対して反対側の位置、すなわち上側の位置に配置されている。さらに、この導電部58は、内周側が摺動面75と略面一となっており、この摺動面75の一部を構成している。したがって、この導電部58の内周側は、通常状態、すなわちボールシート56が予め設定された所定量以上(所定厚み以上)摩耗していない状態で、ボール部81の赤道E2よりもスタッド部82側(上側)の外周面と接触(電気的に接続)可能となっている。なお、この導電部58は、例えば2色成形などによってボールシート56と一体的に成形してもよいし、ボールシート56と別体で成形したものをボールシート56に対して一体的に貼着してもよい。
【0058】
ダストカバー59は、ダストシール、あるいはブーツなどとも呼ばれるもので、例えば軟質ゴム、あるいは軟質合成樹脂などにより扁平な(軸方向よりも径方向の寸法が大きい)円筒状に形成され、軸方向の中間部分が外方へと膨出している。このダストカバー59は、下端側がスタッド部82の外周に中心軸方向へと圧接されるように取り付け固定され、上端側がソケット55のカバー固定溝68に取り付け固定されている。したがって、このダストカバー59は、ボールスタッド57の揺動に拘らずソケット55の第1ソケット開口部65(ボールシート56の第1シート開口部76)を覆い、ソケット55あるいはボールシート56の内部への塵埃などの侵入を阻止している。
【0059】
一方、摩耗検出部12は、例えば直流電源部48の高圧側がソケット55(ソケット本体61)の内部へと挿入されて導電部58に電気的に接続可能となっており、例えば直流電源部48の低圧側が、検出器49を介して、ボールスタッド57のスタッド部82の鍔部86近傍の外周面に電気的に接続可能となっている。したがって、この直流電源部48の高圧側から、ボールスタッド57の導電部58、ボール部81、スタッド部82及び検出器49を介して摩耗検出回路C2が構成されている。このため、検出器49は、摩耗検出回路C2が閉成されている状態で直流電源部48からの給電により稼働(点灯)するとともに、例えばボールシート56の摩耗に起因する導電部58とボール部81との離間、あるいは断線などによって摩耗検出回路C2が開成されている状態で稼働が停止する(消灯する)。
【0060】
すなわち、上記第2の実施の形態において、ボールジョイント装置10を使用する際には、ボールジョイント51の導電部58とボールスタッド57のスタッド部82との間に、摩耗検出部12を電気的に接続する。
【0061】
ボールジョイント51のボールシート56が所定量以上摩耗していないとき、直流電源部48、導電部58、ボール部81、スタッド部82及び検出器49により構成される摩耗検出回路C2が閉成されているため、この摩耗検出回路C2に電流が流れ、この電流が検出器49により検出される。
【0062】
ボールジョイント51のボールシート56は、ボール部81との摩擦によって経時的に摩耗する。特に、ボールシート56の摺動面75は、ボールスタッド57に加わる荷重方向(矢印A2方向)側が他の位置よりも相対的に大きく摩耗する。そのため、摩耗が進行するに従い、ボール部81は、図2(b)の想像線に示すように、ボールシート56の摺動面75に対してがたつきが生じ、この摺動面75内で、ボールスタッド57に加わる荷重方向(矢印A2方向)側に次第に偏倚することとなり、ボールシート56の摩耗が所定量以上に達したとき、ボールスタッド57に加わる荷重方向(矢印A2方向)と反対側に位置する導電部58に対してボール部81の外周面が離間される。したがって、摩耗検出回路C2が開成され、検出器49において電流が検出されなくなる。同様に、摩耗検出回路C2内で断線が生じている場合なども、摩耗検出回路C2が開成され、検出器49において電流が検出されなくなる。
【0063】
この結果、観測者が、ボールシート56が所定量以上摩耗した、あるいは断線が生じたなどのシステム異常が発生したことを検出できる。
【0064】
このようなシステム異常を検出した場合には、ボールジョイント51を交換したり、断線部分を電気的に接続したりして対応する。
【0065】
上述したように、上記第2の実施の形態によれば、導電部58とボールスタッド57のスタッド部82との間に摩耗検出部12を電気的に接続すると、ボールシート56が所定量以上摩耗したときに、ボール部81と導電部58とが離間してこの導電部58とスタッド部82とが電気的に遮断され、また、断線したときに導電部58あるいはスタッド部82に対して摩耗検出部12が電気的に遮断される。このため、例えばボールシートを荷重に沿って付勢するコイルばね及びボールシートをソケットに接触させる接点などを要する従来の構成のように構成を複雑化することなくボールジョイント51(ボールジョイント装置10)の小型化が可能であるとともに、ボールシート56の所定量以上の摩耗及び断線などのシステム異常を摩耗検出部12によって確実に検出できる。
【0066】
すなわち、ボールシートの所定量以上の摩耗などにより閉成されて通電することで異常を検出する従来の通電確認型の回路では、仮にボールシートの摩耗前に何らかの原因により断線などが発生した場合、回路が開成されるため、ボールシートの摩耗あるいは断線などの異常を検出することができないのに対して、上記第2の実施の形態では、直流電源部48、導電部58、ボール部81、スタッド部82及び検出器49により構成される摩耗検出回路C2を、ボールシート56の所定量以上の摩耗などにより開成されることで異常を検出する絶縁確認型の回路とすることにより、ボールシート56の摩耗だけでなく、摩耗検出回路C2を開成させる他の電気的な故障などのシステム異常に対しても確実な検出が可能になり、より安全性が高く信頼性に優れた構成を提供できる。
【0067】
また、例えば導電部をボールスタッドに加わる荷重方向と同側に配置した場合には、ボールシートが仮に所定量以上摩耗した場合でも、ボールスタッドに加わる荷重によってボール部が導電部に押し付けられることにより摩耗検出回路が開成せず、ボールシートの所定量以上の摩耗を検出することが容易でないのに対して、上記第2の実施の形態では、ボールスタッド57に加わる荷重方向(矢印A2方向)に対して反対側に導電部58を配置しているので、ボールシート56に所定量以上の摩耗が生じた際には、ボール部81が直ちに導電部58に対して離間されて摩耗検出回路C2が開成されるので、ボールシート56の摩耗を摩耗検出部12にて確実な検出可能となる。
【0068】
具体的に、スタッド部82がボール部81に対して下方に向けて突出したボールスタッド57に下方に向けて引っ張り荷重が加えられる引っ張り型のボールジョイント51に対して、導電部58をボールシート56の摺動面75にて上側の位置に配置することにより対応できる。
【0069】
なお、上記第2の実施の形態において、導電部58は、ソケット55の外部へと突出し直流電源部48の高圧側に電気的に接続される図示しない端子などと電気的に接続されていてもよい。
【0070】
また、上記各実施の形態において、ボールジョイント11,51の細部は、上記構成に限定されるものではない。
【0071】
さらに、摩耗検出部12は、スタッド部42と導電部18との間でのボールジョイント11のボール部41を介する導通の有無を検出できれば、任意の構成を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 ボールジョイント装置
11,51 ボールジョイント
12 摩耗検出部
15,55 ソケット
16,56 ベアリングシートであるボールシート
17,57 ボールスタッド
18,58 導電部
35,75 摺動面
41,81 ボール部
42,82 スタッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のソケットと、
摺動面を内部に有し、前記ソケットの内部に収容された筒状のベアリングシートと、
導電性を有し、前記ベアリングシートの前記摺動面に外周面が摺動可能に保持された球状のボール部、及び、導電性を有し、前記ボール部に突設され前記ベアリングシート及び前記ソケットから外部に突出する軸状のスタッド部を備えたボールスタッドと、
導電性を有し、前記ベアリングシートの前記摺動面にて前記ボールスタッドに加わる荷重方向に対して反対側の位置に前記ボール部に接触可能に配置され、前記ボールスタッドに加わる荷重による前記ベアリングシートの所定量以上の摩耗によって前記ボール部に対して離間される導電部と
を具備したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
ボールスタッドは、スタッド部がボール部に対して上方に向けて突出し、下方に向けて圧縮荷重が加えられ、
導電部は、ベアリングシートの摺動面にて上側の位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント。
【請求項3】
ボールスタッドは、スタッド部がボール部に対して下方に向けて突出し、下方に向けて引っ張り荷重が加えられ、
導電部は、ベアリングシートの摺動面にて上側の位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントと、
このボールジョイントのスタッド部と導電部との間に電気的に接続され、これらの間での導通の有無を検出する摩耗検出部と
を具備したことを特徴とするボールジョイント装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−158057(P2011−158057A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21862(P2010−21862)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】