説明

ボールジョイント

【課題】ブーツ外へのグリース漏れを確実に防止することができるボールジョイントを提供すること。
【解決手段】ハウジング2の開口端6aの外周には、その周方向に延び、ブーツ5の下端5bが差し込まれる環状溝14が形成されている。環状溝14は円筒面17、上内壁面18および下内壁面19によって区画されている。クリップ13を、下端5bの円筒部21に外嵌することにより、円筒部21が円筒面17に押し付けられるとともに、内端部20および折返部22がそれぞれ上内壁面18および下内壁面19に押し付けられる。円筒面17の表面は、上内壁面18の表面および下内壁面19の表面に比べて粗く設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、懸架装置のナックルアームと操舵装置との接続部分には、ナックルアームを、転舵や上下動可能に支持するボールジョイント(いわゆるアウターボールジョイント)が備えられている。このようなボールジョイントには、軸部の基端に球頭部が設けられた金属製のボールスタッドと、軸部を開口から突出させた状態で球頭部をその内部で保持する有底円筒状のハウジングと、ハウジングと球頭部との間に介在する合成樹脂製の樹脂シートと、ハウジングに取り付けられた筒状のゴム製のブーツ(ダストブーツ)とを備えるものがある(たとえば下記特許文献1参照)。ボールスタッドは、球頭部を中心としてハウジングに対して揺動可能であり、また、その軸部の中心軸線まわりに回転可能である。
【0003】
ブーツはハウジングの開口を覆っており、ナックルアームと操舵装置との接続部分において、ハウジング内に泥や水が浸入するのを防止するためのブーツである。ブーツの一端および他端が、それぞれ、ハウジングの開口端(開口が形成された側の端部)および軸部の途中部に外嵌されている。樹脂シートと球頭部との間にはグリースが充填されており、そのため、ブーツ内にはグリースが封入されている。
【0004】
下記特許文献1では、ハウジングの開口端の外周にブーツ装着用の環状溝が形成されており、この環状溝にブーツの一端が入り込んでいる。さらに、ブーツの一端には円環状のクリップが巻き付けられており、このクリップによって、ブーツの一端がハウジングに固定されている。環状溝は、その長手方向に直交する断面が略矩形にされている。
【特許文献1】特開2004−36700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブーツ外へのグリース漏れを防止するために、ブーツの一端および他端と、ハウジングの端部および軸部の途中部との間の密着性は、それぞれ高いことが望ましい。ブーツの一端とハウジングの端部との間の密着性を向上させるために、たとえば環状溝の底面および一対の側面の表面粗さはいずれも比較的細かく(たとえば算術平均粗さRaが12.5(μm)以上に)設定することが考えられる。
【0006】
ところで、このようなボールジョイントにおいて、ボールスタッドが球頭部を支点としてハウジングに対して揺動すると、ブーツの他端(軸部の途中部に外嵌されたブーツの端部)は、ボールスタッドの揺動に伴って軸部とともに移動する。したがって、ボールスタッドが大きく揺動すると、軸部が倒れる側に位置するブーツは圧縮されるとともに、軸部が倒れる側と反対側に位置するブーツは他端側に引っ張られる。そのため、ボールスタッドの揺動に伴いブーツの一端(ハウジングの開口端に外嵌されたブーツの端部)に、環状溝内で移動させるような荷重が作用する。環状溝内に差し込まれているブーツの一端が移動すると、ブーツに封入されているグリースをこのブーツの一端が巻き込み、これにより、環状溝において,ブーツ内のグリースがブーツ外に漏れるおそれがある。この場合におけるブーツ外へのグリース漏れは、ブーツの一端が環状溝内で容易に移動することが原因であるから、ブーツ外へのグリース漏れを確実に防止するには、ブーツの一端のハウジング外周に対する固定力を高めることが望ましい。
【0007】
とくに寒冷地では、グリースの粘度がさらに向上し、ボールスタッドおよびブーツを傾倒させるために非常に大きな荷重が必要になる。そのため、ボールスタッドの揺動時にブーツの一端に作用する荷重が非常に大きくなり、ブーツの一端の移動量も大きくなる。したがって、寒冷地では、ブーツからのグリース漏れの問題が顕在化するおそれもある。
本願発明者らは、環状溝の内壁面の全てでその表面粗さを粗くすることにより、ブーツの一端と環状溝の各内壁面との間の摩擦抵抗を高め、これにより、ブーツの一端のハウジング外周に対する固定力を高めることを検討している。これにより、ブーツの一端が環状溝内で動くのを抑制することができる。
【0008】
しかしながら、環状溝の内壁面の表面粗さが粗いと、当該内壁面とブーツの一端との間に微小隙間が形成されるおそれがある。したがって、環状溝の内壁面の全てで表面粗さを粗くしたのでは、内壁面とブーツの一端との間の微小隙間を通ってグリースがブーツ外に漏れるおそれがある。
そこで、この発明の目的は、ブーツ外へのグリース漏れを確実に防止することができるボールジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、軸部(12)および前記軸部の一端に設けられた球頭部(11)を有するボールスタッド(4)と、開口を有し、その開口から前記軸部を突出させた状態で前記球頭部をその内部で保持する筒状のハウジング(2)と、一端(5b)および他端(5a)が前記ハウジングの端部(6a)および前記軸部の途中部にそれぞれ外嵌され、前記開口を覆う弾性を有する筒状のブーツ(5)と、前記ブーツの一端に外嵌され、当該一端を縮径方向に締め付けて前記ハウジングの端部に固定するための固定リング(13)とを含み、前記ハウジングの前記端部の外周には、前記ハウジングの周方向に延び、前記ブーツの一端が差し込まれる環状溝(14)が形成されており、前記環状溝は、円筒状の底面(17)と、前記底面における、前記ハウジングの軸方向他端と外周とを接続する円環状の第1側面(18)とを有しており、前記ブーツの一端は、前記底面に対向する第1部分(21)および前記第1側面に対向する第2部分(20)を有する環状に形成されており、前記固定リングを前記第1部分に外嵌することにより、前記第1部分が前記底面に押し付けられるとともに、前記第2部分が前記第1側面に押し付けられるようになっており、前記底面の表面の少なくとも一部は、前記第1側面の表面に比べて粗く設けられている、ボールジョイント(1)である。
【0010】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、この項において同じ。
この構成によれば、環状溝の底面の表面が比較的粗く設けられており、かつ環状溝の第1側面が比較的細かく設けられている。ブーツの一端の第1部分に固定リングが外嵌させられて、この固定リングが当該第1部分を縮径方向に締め付ける。これにより、環状溝の底面に第1部分が押し付けられるとともに、第2部分が第1側面に押し付けられる。
【0011】
固定リングの締付け力が主として作用する環状溝の底面の表面が粗く設けられているので、第1部分と環状溝の底面との間に生じる摩擦力は比較的大きい。その結果、ハウジングの外周に対するブーツの一端の固定力を高めることができる。そのため、ブーツの一端の移動を抑制または防止することができるので、ブーツの一端によるグリースの巻込みを抑制または防止することができる。これにより、ブーツの一端の移動に伴うグリースの漏出を防止することができる。
【0012】
また、環状溝の第1側面の表面が細かく設けられているので、ブーツの一端の第2部分と環状溝の第1側面との間の密着性が高い。前述のように、環状溝の底面の表面が比較的粗く設けられているので、環状溝の底面とブーツの一端の第1部分との間にグリースが存在していると、環状溝の底面と第1部分との間を通ってグリースがブーツ外に漏れるおそれがあるのであるが、第2部分が環状溝の第1側面と密着しているので、ブーツ内のグリースが、環状溝の底面と第1部分との間に達するおそれがない。したがって、環状溝の底面の表面を粗面にした場合であっても、それに伴うグリースの漏出を防止することができる。
【0013】
以上により、ブーツ外へのグリース漏れを確実に防止することができる。
請求項2記載の発明は、前記環状溝は、前記底面における、前記ハウジングの軸方向一端と外周とを接続する円環状の第2側面(19)とを有しており、前記ブーツの一端は、前記第1部分、前記第2部分、および前記第2側面に対向する第3部分(22)を有する断面コ字環状に形成されており、前記第1部分、前記第2部分および前記第3部分によって区画される配置空間(S1)に前記固定リングが配置されており、前記底面の少なくとも一部は、第1および第2側面の双方に比べてその表面粗さが粗い、請求項1記載のボールジョイントである。
【0014】
この構成によれば、配置空間に固定リングを配置することにより、第2部分および第3部分がそれぞれ、互いに離反する方向に押し拡げられる。これにより、第2部分が環状溝の第1側面に押し付けられるとともに、第3部分が環状溝の第2側面に押し付けられる。ゆえに、簡単な構成で、第2部分を環状溝の第1側面に押し付けることができる。
また、ブーツの一端と環状溝の第2側面との間の密着性が高い。そのため、泥水などがブーツ内に進入するのを確実に防止することができる。
【0015】
また、請求項3に記載のように、前記底面の表面の少なくとも一部の算術平均粗さ(中心線平均粗さ)Raが、12.5(μm)を超えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るボールジョイントの構成を示す部分断面図である。
【図2】図1に示すボールジョイントの一部を拡大して示す断面図である。
【図3】図1に示すボールジョイントの組立ての途中工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るボールジョイント1の構成を示す部分断面図である。ボールジョイント1は、たとえば懸架装置用のナックルアーム(図示しない)と操舵装置との接続部分に備えられ、アウターボールジョイントとして機能している。ボールジョイント1は、ナックルアームを、転舵や上下動可能に支持している。ボールジョイント1は、筒状のハウジング2と、このハウジング2の内部に保持された樹脂シート3およびボールスタッド4と、ハウジング2に取り付けられた筒状のブーツ5とを備えている。ハウジング2は、樹脂シート3がその内側に配置された筒状部材6と、この筒状部材6の下端を塞ぐように当該下端に固定されたプラグ板7とを含む。筒状部材6は、その上端が開口端(端部)6aになっている。
【0018】
樹脂シート3はカップ状をなしており、筒状の周壁部8と、この周壁部8の下端に設けられた底部9とを含む。樹脂シート3は、周壁部8が筒状部材6の内周面に沿い、底部9がプラグ板7に対向するように配置されている。樹脂シート3は、開口端6aに設けられた環状の鍔部10とプラグ板7との間で保持されている。鍔部10の内径は、ボールスタッド4の一部(後述する球頭部11)の外径よりも小径にされており、ボールスタッド4の一部および樹脂シート3は、開口端6aによって筒状部材6から抜け止めされている。
【0019】
ボールスタッド4は球面状の外周面を有する球頭部11と、この球頭部11から上方(ハウジング2の軸方向D2に沿う方向の他方)へ突出する軸部12とが一体的に形成された金属製の部材である。球頭部11は、その中心が軸部12の中心軸線上に位置するように配置されている。軸部12の先端には、ナックルアームにねじ締結するための雄ねじ部31が形成されている。球頭部11は、筒状部材6内において樹脂シート3に覆われており、軸部12は、筒状部材6の開口端6aから突出している。球頭部11は、軸部12寄りの部分を除くその大部分が樹脂シート3によって覆われている。球頭部11は、樹脂シート3を介してハウジング2に保持されている。
【0020】
また、樹脂シート3の内周面は、球頭部11の外周面に沿う形状になっている。樹脂シート3と球頭部11との間には、グリースが充填されている。グリースは、常温では半固体性を呈し、流動性がほとんどない。球頭部11は、樹脂シート3に対して摺動可能となっており、ボールスタッド4は、球頭部11を支点としてハウジング2に対して揺動可能となっている。さらに、ボールスタッド4は、軸部12の軸まわりに回転可能である。
【0021】
ブーツ5は、上端(他端)5aが下端(一端)5bよりも小径にされ、中間部分が下端5bよりも外方に膨らんだ筒状に形成されている。ブーツ5は、弾性を有する部材(たとえば、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム等。)を用いて形成されている。ブーツ5の内部には、前記のグリースが封入されている。ブーツ5の上端5aは、軸部12の途中部に外嵌しており、ブーツ5の下端5bは、筒状部材6の開口端6aに外嵌している。ブーツ5の下端5bは、当該下端5bに取り付けられたクリップ(固定部材)13によって筒状部材6に固定されている。開口端6aの内側に形成された開口は、ブーツ5によって覆われており、これによって、水や埃などの異物がボールジョイント1内に侵入することが防止されている。
【0022】
ブーツ5の上端5aは、球頭部11を支点とするボールスタッド4の揺動に伴って軸部12とともに移動する。したがって、ボールスタッド4が大きく揺動すると、軸部12が倒れる側と反対側に位置するブーツ5の一部(周方向の一部分)がブーツ5の上端5a側に引っ張られる。そのため、ブーツ5の一部とともに、ブーツ5の下端5bの一部がブーツ5の上端5a側に引っ張られ、ブーツ5の下端5bを筒状部材6から外れさせるような荷重がブーツ5に作用するようになる。
【0023】
図2は、ボールジョイント1におけるハウジング2の開口端6a周辺を拡大して示す断面図である。図1および図2を参照して、ハウジング2の開口端6aへのブーツ5の装着構造を説明する。
ハウジング2の開口端6aの外周には、ブーツ装着用の環状溝14が形成されている。環状溝14は、開口端6a外周の周方向に延びている。また、ハウジング2は、その周方向に延びる環状突起15を有している。環状溝14は、鉛直方向(筒状部材6の中心軸線の延びる方向)に沿う円筒面(底面)17と、円筒面17の上端(ハウジング2の軸方向D2に沿う方向の他端)とハウジング2外周とを接続する環状の上内壁面(第1側面)18と、円筒面17の下端(ハウジング2の軸方向D2に沿う方向の一端)とハウジング2外周とを接続する環状の下内壁面(第2側面)19とによって区画されている。上内壁面18は、外方に向かうに従って上に向かう傾斜面に形成されている。下内壁面19は、ハウジング2の径方向D1に沿っている。
【0024】
円筒面17の算術平均粗さRaは、12.5(μm)以上100(μm)未満の所定の値(たとえば12.5(μm)程度)である。上内壁面18の算術平均粗さRa(μm)は、12.5(μm)未満の所定の値(たとえば3(μm)程度)であり、下内壁面19の算術平均粗さRaは、12.5未満の所定の値(たとえば3(μm)程度)である。換言すると、円筒面17は、上内壁面18や下内壁面19よりも粗い。このとき、たとえば、環状溝14の各内壁面17,18,19の仕上げ加工時における機械の送り速度を変えることにより、環状溝14の各内壁面17,18,19の表面粗さを異ならせることができるようになっている。
【0025】
環状突起15は、開口端6aからハウジング2の径方向D1に沿って外方に突出している。環状溝14は環状突起15の下方に形成されている。また、ハウジング2の径方向D1に関して、環状突起15の外周縁は、ハウジング2の外周よりも内側に位置している。
また、ブーツ5の下端5bは、円筒面17、上内壁面18および下内壁面19の全体に密着した状態で環状溝14に差し込まれている。ブーツ5の下端5bは、ブーツ5の筒状の中間部分の下短である内端部(第2部分)20と、内端部20の内端(先端)に連続して設けられた円筒部(第1部分)21と、この円筒部21の先端から径方向D1外方に広がるように円筒部21側(図1および図2では上側)に折り返された環状の折返部(第3部分)22とを含む。円筒部21は、軸長が円筒面17とほぼ同じ大きさにされており、その内周面が円筒面17に密着した状態で環状溝14内に配置されている。また、内端部20は、環状突起15の内側に位置しており、その上面20a(図2参照)が上内壁面18に密着した状態で環状溝14内に配置されている。また、折返部22の下面22a(図2参照)が下内壁面19に密着した状態で環状溝14内に配置されている。内端部20、円筒部21および折返部22の全体形状が断面コ字環状に形成されており、また、内端部20と折返部22との間には、断面略矩形の環状の配置空間S1が形成されている。自由状態(荷重が与えられていない状態)での円筒部21の内径は、円筒面17の外径よりも小さくされている。
【0026】
クリップ13はたとえば平面視円環状をなす2重巻きの鋼製のばね部材である。クリップ13は断面矩形状に形成されている。クリップ13は、環状溝14内において配置空間S1に配置されており、円筒部21を外嵌している。この状態で、クリップ13は円筒部21を縮径方向に締め付け、円筒部21の内面21aが円筒面17に押し付けられている。これにより、該円筒部21が筒状部材6に固定される。また、配置空間S1に配置されるクリップ13により、内端部20および折返部22が互いに離反する方向に押し広げられる。これにより、内端部20の上面20aが上内壁面18に押し付けられるとともに、折返部22の下面22aが下内壁面19に押し付けられる。
【0027】
図3は、ボールジョイント1の組立ての途中工程を示す図である。
ハウジング2にブーツ5を装着させるときは、ブーツ5の下端5b(円筒部21)を外側に押し広げた状態で環状突起15に外嵌させる。そして、ブーツ5の下端5bを下方に移動させて、内端部20、円筒部21および折返部22を環状溝14に入り込ませる。円筒部21全体が環状溝14に入り込むと、ブーツ5の弾性による復元力によって円筒部21の直径が小さくなる。これにより、図3に示すように、円筒部21が環状突起15の下方に入り込み、円筒部21の内周面が円筒面17に密着する。また、折返部22全体が環状溝14に入り込むと、ブーツ5の弾性による復元力によって折返部22が外方に広がって、円筒部21と折返部22との間の間隔が広がる。これにより、内端部20、円筒部21および折返部22によって、クリップ13を配置させるための配置空間S1が区画形成される。したがって、図3に示すように、ブーツ5の下端5bが差し込まれた状態の環状溝14の入口からその内部にクリップ13を入り込ませて、配置空間S1にクリップ13を配置することができる。
【0028】
これにより、円筒部21にクリップ13を外嵌させて、円筒部21の内周面21aを円筒面17に押し付けることができ、これにより、ブーツ5の下端5bを筒状部材6の開口端6aに固定することができる。また、配置空間S1に配置されるクリップ13により、内端部20および折返部22を互いに離反する方向に押し広げることができる。したがって、ボールスタッド4が大きく揺動して、ブーツ5の下端5bを環状溝14から抜け出させる荷重がブーツ5に作用しても、ブーツ5がハウジング2から外れることを確実に防止することができる。
【0029】
以上によりこの実施形態によれば、円筒面17の表面が粗く設けられており、かつ上内壁面18および下内壁面19の表面が細かく設けられている。環状溝14に差し込まれたブーツ5の下端5bの配置空間S1にクリップ13を配置して、円筒部21にクリップ13を外嵌させる。このクリップ13が当該一端部を縮径方向に締め付ける。これにより、円筒部21の内周面21aを円筒面17に押し付けることができる。また、配置空間S1に配置されるクリップ13により、内端部20および折返部22がそれぞれ互いに離反する方向に押し広げられて、内端部20の上面20aおよび折返部22の下面22aがそれぞれ上内壁面18および下内壁面19に押し付けられる。
【0030】
クリップ13の締付け力が主として作用する円筒面17の表面が粗く設けられている。そのため、ブーツ5の下端5bと円筒面17との間に比較的大きい摩擦力が作用する。その結果、ハウジング2の外周に対するブーツ5の下端5bの固定力を高めることができる。
そのため、ブーツ5の下端5bの移動を抑制または防止することができるので、ブーツ5の下端5bによるグリースの巻込みを抑制または防止することができる。これにより、ブーツ5の下端5bの移動に伴うグリースの漏出を防止することができる。
【0031】
また、上内壁面18の表面が細かく設けられているので、ブーツ5の下端5bの内端部20と、上内壁面18との間の密着性が高い。前述のように、円筒面17の表面が比較的粗く設けられているので、円筒面17と円筒部21との間にグリースが存在していると、円筒面17と円筒部21との間を通ってグリースがブーツ5外に漏れるおそれがあるのであるが、ブーツ5の内端部20が上内壁面18と密着しているので、ブーツ5内のグリースが円筒面17と円筒部21との間に達するおそれがない。したがって、円筒面17を粗面にしても、それに伴うグリースの漏出を防止することができる。
【0032】
以上により、ブーツ5外へのグリース漏れを確実に防止することができる。
さらに、下内壁面19の表面が細かく設けられているので、ブーツ5の下端5bの折返部22と下内壁面19との間の密着性が高い。そのため、泥水などがブーツ5内に進入するのを確実に防止することができる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は他の形態で実施することもできる。
【0033】
すなわち、円筒面17における径方向の一部において、その表面が粗い部分が設けられており、その他の部分では、その表面が細かく形成されていてもよい。ただし、この場合であっても、円筒面17の周方向の全域に、前記の表面の粗い部分が形成されていることが望ましい。
また、2重巻きで断面矩形状のクリップ13を例に挙げて説明したが、クリップ13は1重巻きまたは3重巻きであってもよいし、断面円形あるいは断面楕円形であってもよい。
【0034】
また、上内壁面18を傾斜面であるとして説明したが、上内壁面18がハウジング2の径方向D1に沿う面であってもよい。下内壁面19が、テーパ面であってもよい。
また、前述の実施形態では、ボールジョイント1が、懸架装置用のナックルアームに取り付けられる場合を例に挙げて説明したが、ステアリング用のナックルアームに対して取り付けられるボールジョイント1にこの発明を適用することができる。
【0035】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…ボールジョイント、2…ハウジング、4…ボールスタッド、5…ブーツ、5a…上端部(他端)、5b…下端(一端)、6a…開口端(端部)、11…球頭部、12…軸部、13…固定リング、14…環状溝、17…円筒面(底面)、18…上内壁面(第1側面)、19…下内壁面(第2側面)、20…内端部(第2部分)、21…円筒部(第1部分)、22…折返部(第3部分)、S1…配置空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部および前記軸部の一端に設けられた球頭部を有するボールスタッドと、
開口を有し、その開口から前記軸部を突出させた状態で前記球頭部をその内部で保持する筒状のハウジングと、
一端および他端が前記ハウジングの端部および前記軸部の途中部にそれぞれ外嵌され、前記開口を覆う弾性を有する筒状のブーツと、
前記ブーツの一端に外嵌され、当該一端を縮径方向に締め付けて前記ハウジングの端部に固定するための固定リングとを含み、
前記ハウジングの前記端部の外周には、前記ハウジングの周方向に延び、前記ブーツの一端が差し込まれる環状溝が形成されており、
前記環状溝は、円筒状の底面と、前記底面における、前記ハウジングの軸方向他端と外周とを接続する円環状の第1側面とを有しており、
前記ブーツの一端は、前記底面に対向する第1部分および前記第1側面に対向する第2部分を有する環状に形成されており、前記固定リングを前記第1部分に外嵌することにより、前記第1部分が前記底面に押し付けられるとともに、前記第2部分が前記第1側面に押し付けられるようになっており、
前記底面の表面の少なくとも一部は、前記第1側面の表面に比べて粗く設けられている、ボールジョイント。
【請求項2】
前記環状溝は、前記底面における、前記ハウジングの軸方向一端と外周とを接続する円環状の第2側面とを有しており、
前記ブーツの一端は、前記第1部分、前記第2部分、および前記第2側面に対向する第3部分を有する断面コ字環状に形成されており、前記第1部分、前記第2部分および前記第3部分によって区画される配置空間に前記固定リングが配置されており、
前記底面の少なくとも一部は、第1および第2側面の双方に比べてその表面粗さが粗い、請求項1記載のボールジョイント。
【請求項3】
前記底面の表面の少なくとも一部の算術平均粗さRaが、12.5(μm)を超えている、請求項1または2記載のボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−104527(P2013−104527A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250588(P2011−250588)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】