ボールスプライン
【課題】 昇温時に保持器に大きな圧縮変形が生じることを防止して、しかも、スプラインのストロークを円滑にすることができるボールスプラインを提供する。
【解決手段】 外筒本体21と保持器22とは、径方向外方から外筒本体21に挿入された位置決め部材23の先端部が保持器22外周面に設けられた位置決め用凹部32に嵌め入れられることで位置決めされている。位置決め部材23と位置決め用凹部32との間に、金属製外筒本体21と合成樹脂製保持器22との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間が形成されている。
【解決手段】 外筒本体21と保持器22とは、径方向外方から外筒本体21に挿入された位置決め部材23の先端部が保持器22外周面に設けられた位置決め用凹部32に嵌め入れられることで位置決めされている。位置決め部材23と位置決め用凹部32との間に、金属製外筒本体21と合成樹脂製保持器22との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールスプラインに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールスプラインとして、スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、軸のスプライン軌道に対応して主通路を形成するスプライン軌道を有する外筒本体と、外筒本体の内周に嵌め入れられて主通路に連通する戻し通路を外筒本体との間に形成する保持器とを有しているものが知られており、特許文献1には、外筒本体に保持器を嵌合して、止め輪によって保持器の軸方向移動を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−208464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなボールスプラインでは、外筒本体を金属製として、保持器を合成樹脂とすることが好ましく、この場合、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いを考慮して、昇温時に保持器に極端な圧縮変形が生じないように、保持器と止め輪との間に、軸方向隙間が設定される。しかしながら、このような軸方向隙間が存在していると、保持器と外筒本体の軸方向中心にずれが発生する可能性があり、これにより、戻し通路と主通路との位置関係に偏りが生じて、戻し通路と主通路との連通部分が一端側で広く、他端側で狭くなり、狭くなった側では、保持器がボールの動きを抑制するために、ボール詰まりによるスプラインの摺動抵抗が増加して、スプラインのストロークが円滑でないようになるという問題が生じる。
【0005】
この発明の目的は、昇温時に保持器に大きな圧縮変形が生じることを防止して、しかも、スプラインのストロークを円滑にすることができるボールスプラインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるボールスプラインは、スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、軸のスプライン軌道に対応して主通路を形成するスプライン軌道を有する金属製外筒本体と、外筒本体の内周に嵌め入れられて主通路に連通する戻し通路を外筒本体との間に形成する合成樹脂製保持器とを有しているボールスプラインにおいて、外筒本体と保持器とは、径方向外方から外筒本体に挿入された位置決め部材の先端部が保持器外周面に設けられた位置決め用凹部に嵌め入れられることで位置決めされており、位置決め部材と位置決め用凹部との間に、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
外筒本体は、例えばS45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製などとされるが、これに限定されるものではない。保持器は、例えばPEEK製とされるが、これに限定されるものではない。位置決め部材の材料は、特に限定されるものではないが、寸法精度の良いものが適しており、金属製であることがより好ましい。
【0008】
スプライン軌道は、時計方向の回転を受けるものと反時計方向の回転を受けるものとが対とされて、これが複数対設けられる。例えば、軸の外周に複数(例えば3つ)のボール受け部が設けられ、このボール受け部の時計方向側および反時計方向側に、それぞれスプライン軌道が形成される。これに対応して、外筒本体の内周には、ボール受け部の時計方向側のスプライン軌道に時計方向側から対向するスプライン軌道と、ボール受け部の反時計方向側のスプライン軌道に反時計方向側から対向するスプライン軌道とがそれぞれ形成される。
【0009】
保持器は、例えば、戻し通路が形成されておりかつ外筒本体の内周に嵌め合わされた略円筒状の保持器本体と、保持器本体の戻し通路と主通路とを連通する連通路が形成されており保持器本体に一端側から突き合わされた保持器蓋とからなるものとされる。この場合、ボールは、軸に形成されたスプライン軌道と外筒本体に形成されたスプライン軌道との間(主通路)を転動し、保持器本体の戻し通路および保持器蓋の連通路を経て、再び主通路に戻される(循環する)。保持器は、保持器本体および保持器蓋からなる分割品ではなく、一体品であってもよい。
【0010】
位置決め用凹部および位置決め部材は、それぞれ少なくとも1つあればよいが、複数設けてもよい。スプライン軌道が3対設けられている場合、保持器には、対となっているスプライン軌道の隣り合うもの同士の間に、戻し通路が形成されている厚肉部が3カ所存在することになり、この3カ所全てに位置決め用凹部を形成することで、周方向等間隔の3カ所で位置決めされることがより好ましい。
【0011】
位置決めに際しては、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いを考慮して、昇温時に保持器に極端な圧縮変形が生じないように、常温時では、位置決め用凹部と位置決め部材との間に、所定の大きさの隙間(熱膨張許容のための隙間)が設定される。「金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間」は、通常使用時の最高温度に達したときに無くなる程度の大きさの隙間が常温時に設定されていることを意味する。
【0012】
位置決め用凹部の形状は、例えば、円形とされるが、方形であっても、長円形であってもよい。位置決め部材は、例えば、円柱状本体と、円柱状本体の先端側に設けられて位置決め用凹部に挿入される挿入部と、円柱状本体の基端側に設けられて外筒本体に設けられた段差面で受けられるフランジ部とからなるものとされる。挿入部は、円柱状本体と同一の断面形状であってもよく、位置決め用凹部の形状に対応させて、円柱状本体と異なる断面形状とされてもよい。外筒本体には、これを貫通する位置決め部材挿入孔が設けられ、該孔は、例えば、位置決め部材の円柱状本体が挿入される内径側の小径円周面と、位置決め部材のフランジ部が挿入される外径側の大径円周面と、小径円周面と大径円周面との間にあって位置決め部材のフランジ部を受ける段差面とを有しているものとされる。
【0013】
保持器は、従来、その両端に配置された1対の止め輪によって外筒本体に支持されていた。この場合、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いを考慮して、昇温時に保持器に極端な圧縮変形が生じないようにするための軸方向隙間は、金属製外筒本体および合成樹脂製保持器の全長×線膨張係数を考慮する必要があったが、この発明のボールスプラインによると、位置決め用凹部と位置決め部材との隙間として、位置決め用凹部および位置決め部材の径×線膨張係数を考慮すればよいので、隙間を小さくすることができる。したがって、保持器の極端な圧縮変形を防止するために必要な保持器と外筒本体との軸方向のずれについて、従来のものより大幅に小さくすることができ、ボールの循環が円滑になり、スプラインのストロークが円滑になる。しかも、止め輪を廃止することで、軸方向短縮化が可能となる。
【0014】
位置決め部材の先端面と位置決め用凹部の底面との間の隙間は、位置決め部材の先端部外周面と位置決め用凹部の周面との間の隙間よりも大きくなされていることが好ましい。すなわち、位置決め用凹部の周面と位置決め部材の先端部の外周面との隙間は、昇温時に接触する程度の大きさとされているのに対し、位置決め用凹部の底面と位置決め部材の先端面とは、昇温時であっても接触しない大きさとされていることが好ましい。このようにすると、昇温時において、軸方向および周方向に関しては、拘束されるが、径方向に関しては、拘束されないものとなり、ボールの円滑な循環を妨げる径方向の力がボールに作用することはない。
【0015】
ボールスプラインは、好ましくは、ボールねじと組み合わされて、ボールねじ軌道および軸方向にのびるスプライン軌道が設けられたねじ軸と、ねじ軸のボールねじ軌道にボールを介してねじ合わされた回転自在のボールねじナットと、スプライン軌道にボールを介して嵌め合わされてねじ軸の軸方向直線運動を案内するボールスプライン外筒とからなるものとされる。
【0016】
このようなボールスプライン付きボールねじでは、ボールスプラインは、ボールスプライン外筒がキーなどの回り止め部によってハウジングに対して回り止めされ、ねじ軸の回転を防止して、ボールねじナットで発生するトルクの反力を受ける。
【0017】
この発明によるボールスプラインは、ボールねじと組み合わされて、アクチュエータ(モータによってボールねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ボールねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。
【0018】
アクチュエータや緩衝器で使用される場合には、例えば、ボールスプライン付きボールねじと、ボールねじナットに一体化された中空軸と、軸受を介して中空軸を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒を支持するハウジングと、中空軸に固定されたモータロータおよびハウジング内径に固定されたモータステータからなるモータとを備えているものとされる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のボールスプラインによると、外筒本体と保持器とは、径方向外方から外筒本体に挿入された位置決め部材の先端部が保持器外周面に設けられた位置決め用凹部に嵌め入れられることで位置決めされており、位置決め部材と位置決め用凹部との間に、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間が形成されているので、昇温時に保持器に大きな圧縮変形が生じることが防止され、また、そのための隙間を小さいものとすることができるので、ボールの循環が円滑になり、スプラインのストロークが円滑になる。しかも、止め輪を廃止できるので、軸方向短縮化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、この発明によるボールスプラインが使用されたボールねじ装置を示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明によるボールスプラインの1実施形態を示す縦断面図である。
【図3】図3は、同横断面図(図2のIII-III線に沿う断面図)である。
【図4】図4は、要部の拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図1の上下をいうものとする。
【0022】
図1は、この発明によるボールスプラインを使用したモータ付きボールねじ装置を示している。
【0023】
モータ付きボールねじ装置(1)は、ボールねじ軌道(2a)および上下方向にのびるスプライン軌道(2b)が設けられた上下にのびる鋼製ねじ軸(2)と、ねじ軸(2)のボールねじ軌道(2a)にボールを介してねじ合わされた回転自在の鋼製ボールねじナット(3)と、ねじ軸(2)の下端部側においてスプライン軌道(2b)にボールを介して嵌め合わされてねじ軸(2)の上下方向(軸方向)直線運動を案内するボールスプライン外筒(4)と、ボールねじナット(3)に一体化されて上方にのびる中空軸(5)と、軸受(7)を介して中空軸(5)を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒(4)を支持するハウジング(6)と、中空軸(5)に固定された円筒状のモータロータ(9)およびハウジング(6)内径に固定された円筒状のモータステータ(10)からなるモータ(8)とを備えている。
【0024】
モータ(8)は、永久磁石型三相同期モータとされており、モータロータ(9)が永久磁石とされて、モータステータ(10)にU相、V相およびW相の三相のコイル(10a)が巻かれている。
【0025】
ねじ軸(2)と中空軸(5)とは、同心状に配置されており、ボールねじ装置(1)は、ボールねじナット(3)、中空軸(5)およびモータロータ(9)を回転させて、ねじ軸(2)を直線移動させる形態で使用される。
【0026】
中空軸(5)は、ねじ軸(2)を案内する小径部(11)と、内周面がボールねじナット(3)の外周面に固定されかつ外周面に軸受(7)を保持する大径部(12)とからなる。
【0027】
ボールスプライン外筒(4)は、ねじ軸(2)の回転を防止してその上下移動を案内するために、回り止め部(例えばキー)(13)によってハウジング(6)に対して回り止めされる。
【0028】
図2から図4までは、この発明によるボールスプラインの実施形態を示している。
【0029】
図2から図4までに示すように、ボールスプライン外筒(4)は、略円筒状の金属製外筒本体(21)と、外筒本体(21)の内周に嵌め合わされて固定された略円筒状の保持器(22)と、両者(21)(22)の相対移動を規制する位置決め部材(23)とを備えている。
【0030】
保持器(22)は、合成樹脂製で、図2に示すように、保持器本体(24)および保持器蓋(25)からなる。
【0031】
図3に示すように、ねじ軸(2)の外周には、3つのボール受け部(26)が周方向に等間隔で設けられており、このボール受け部(26)の時計方向側肩部および反時計方向側肩部に、それぞれスプライン軌道(2b)(2c)が形成されている。そして、外筒本体(21)には、ねじ軸(2)のスプライン軌道(2b)(2c)に所定の接触角で対向するように、スプライン軌道(4a)(4b)が形成されている。これにより、ねじ軸(2)が時計方向に回転しようとしたときにそのトルクを負荷するスプライン軌道(2b)(4a)と、ねじ軸(2)が反時計方向に回転しようとしたときにそのトルクを負荷するスプライン軌道(2c)(4b)とが対とされて、これが3対設けられている。
【0032】
外筒本体(21)のスプライン軌道(4a)(4b)に対応する保持器(22)の部分に、両スプライン軌道(2b)(2c)(4a)(4b)間を転動するボール(14)を保持するポケット(27)が形成されている。ポケット(27)を介して対向する両スプライン軌道(2b)(2c)(4a)(4b)間の空間が、ボール(14)が転動する主通路(28)となっている。
【0033】
保持器(22)には、主通路(28)の左右両端部と連通する戻し通路(29)が外筒本体(21)との間に形成されている。各戻し通路(29)は、対となっている主通路(28)を周方向の両側から挟むように設けられている。ボール(14)は、主通路(28)および戻し通路(29)内に配設され、主通路(28)を転動するボール(14)がねじ軸(2)とボールスプライン外筒(4)の相対直線運動を案内するようになっている。
【0034】
保持器(22)は、従来、外筒本体の両端部に嵌め止められた1対の止め輪によって、支持(位置決め)されていたのに対し、このボールスプラインでは、この止め輪が廃止されており、外筒本体(21)に、これを径方向に貫通する位置決め部材挿入孔(31)が形成されて、外筒本体(21)と保持器(22)とは、径方向外方から外筒本体(21)に挿入された位置決め部材(23)の先端部が保持器(22)外周面に設けられた位置決め用凹部(32)に嵌め入れられることで位置決めされている。
【0035】
保持器(22)には、図2に示すように、対となっているスプライン軌道(2b)(2c)(4a)(4b)の隣り合うもの同士の間に、戻し通路(29)が形成されている厚肉部が3カ所あり、この3カ所全てに位置決め用凹部(32)が形成されている。そして、各位置決め用凹部(32)に対応して位置決め部材挿入孔(31)が形成され、各位置決め用凹部(32)に位置決め部材(23)の先端部がそれぞれ嵌め入れられている。
【0036】
図4に示すように、位置決め部材(23)は、円柱状本体(41)と、円柱状本体(41)の先端側(ボールスプラインの径方向内方側)に設けられて位置決め用凹部(32)に挿入される挿入部(42)と、円柱状本体(41)の基端側(ボールスプラインの径方向外方側)に設けられたフランジ部(43)とからなる。ここで、挿入部(42)は、円柱状本体(41)と同一の断面形状とされている。
【0037】
外筒本体(21)の位置決め部材挿入孔(31)は、位置決め部材(23)の円柱状本体(41)が挿入される内径側の小径円周面(44)と、位置決め部材(23)のフランジ部(43)が挿入される外径側の大径円周面(45)と、小径円周面(44)と大径円周面(45)との間にあって位置決め部材(23)のフランジ部(43)の内周面を受け止める段差面(46)とを有している。
【0038】
図4において、位置決め部材(23)と位置決め用凹部(32)との間には、金属製外筒本体(21)と合成樹脂製保持器(22)との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間(G1)(G2)が形成されている。この図4は、常温時の状態を示すもので、位置決め部材(23)の先端面(挿入部(42)の先端面(42b))と位置決め用凹部(32)の底面(32b)との間の隙間(G2)は、位置決め部材(23)の先端部外周面(挿入部(42)の外周面(42a))と位置決め用凹部(32)の周面(32a)との間の隙間(G1)よりも大きくなされている。
【0039】
昇温時には、金属製外筒本体(21)および合成樹脂製保持器(22)が熱膨張し、隙間(G1)(G2)はいずれも小さくなる。これらの隙間(G1)(G2)は、金属製外筒本体(21)と合成樹脂製保持器(22)との線膨張係数の違いを考慮して、昇温時に保持器(22)に極端な圧縮変形が生じないようにするために設けられたもので、位置決め用凹部(32)の径×合成樹脂の線膨張係数×温度変化と位置決め部材(31)の径×金属の線膨張係数×温度変化とを比較することで、その大きさが設定されている。止め輪を使用する従来のボールスプラインでは、外筒本体の全長および保持器の全長を考慮する必要があったため、隙間が大きく設定されていたのに対し、このボールスプラインでは、位置決め用凹部(32)の径および位置決め部材(31)の径を考慮すればよいので、隙間を小さくすることができる。したがって、保持器(22)の極端な圧縮変形を防止するために必要な保持器(22)と外筒本体(21)との軸方向のずれについて、従来のものより大幅に小さくすることができ、ボール(14)の循環が円滑になり、スプラインのストロークが円滑になる。しかも、止め輪を廃止することで、軸方向短縮化が可能となる。
【0040】
位置決め部材(23)の先端部外周面と位置決め用凹部(32)の周面(32a)との間の隙間(G1)は、外筒本体(21)と保持器(22)との相対的な軸方向の移動と周方向の移動(回転)とを所定範囲に規制するものであり、この隙間(G1)の常温時における大きさは、通常使用時の最高温度に達したときに隙間(G1)が無くなるように設定されている。位置決め部材(23)の先端面と位置決め用凹部(32)の底面(32b)との間の隙間(G2)は、これより大きくなされているため、その常温時の隙間(G2)の大きさは、通常使用時の最高温度に達したときでも隙間(G2)が残るように設定されている。したがって、外筒本体(21)と保持器(22)とは、昇温時において、軸方向および周方向に関しては、拘束されるが、径方向に関しては、拘束されないものとなり、ボール(14)の円滑な循環を妨げる径方向の力がボール(14)に作用することはない。
【0041】
上記のモータ付きボールねじ装置(1)は、例えば、自動車の電磁緩衝器用として使用するのに適している。電磁緩衝器は、タイヤから伝わる外力によってねじ軸(2)が軸方向に直線移動し、これに伴って、ボールねじナット(3)および中空軸(5)が回転し、この回転運動をモータ(8)に取り込んで、モータ(8)で発生する電磁力を減衰力として利用するようになっている。
【0042】
このモータ付きボールねじ装置(1)は、電磁緩衝器用に限られるものではなく、電動アクチュエータとして使用することもできる。この場合、モータ(8)の回転駆動力をボールねじナット(3)を介してねじ軸(2)の軸方向推力に変換し、推力の軸方向反力を軸受(7)で支持してねじ軸(2)を直線運動させ、ねじ軸(2)に作用する軸方向荷重をボールねじナット(3)で負荷するとともに、トルクをボールスプライン外筒(4)で支持した形態での使用となる。
【符号の説明】
【0043】
(2) ねじ軸(軸)
(2b)(2c) スプライン軌道
(4) ボールスプライン外筒
(14) ボール
(21) 外筒本体
(22) 保持器
(23) 位置決め部材
(28) 主通路
(29) 戻し通路
(32) 位置決め用凹部
(32a) 周面
(32b) 底面
(42a) 挿入部の外周面(位置決め部材の先端部外周面)
(42b) 挿入部の先端面(位置決め部材の先端面)
(G1)(G2) 隙間
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールスプラインに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールスプラインとして、スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、軸のスプライン軌道に対応して主通路を形成するスプライン軌道を有する外筒本体と、外筒本体の内周に嵌め入れられて主通路に連通する戻し通路を外筒本体との間に形成する保持器とを有しているものが知られており、特許文献1には、外筒本体に保持器を嵌合して、止め輪によって保持器の軸方向移動を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−208464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなボールスプラインでは、外筒本体を金属製として、保持器を合成樹脂とすることが好ましく、この場合、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いを考慮して、昇温時に保持器に極端な圧縮変形が生じないように、保持器と止め輪との間に、軸方向隙間が設定される。しかしながら、このような軸方向隙間が存在していると、保持器と外筒本体の軸方向中心にずれが発生する可能性があり、これにより、戻し通路と主通路との位置関係に偏りが生じて、戻し通路と主通路との連通部分が一端側で広く、他端側で狭くなり、狭くなった側では、保持器がボールの動きを抑制するために、ボール詰まりによるスプラインの摺動抵抗が増加して、スプラインのストロークが円滑でないようになるという問題が生じる。
【0005】
この発明の目的は、昇温時に保持器に大きな圧縮変形が生じることを防止して、しかも、スプラインのストロークを円滑にすることができるボールスプラインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるボールスプラインは、スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、軸のスプライン軌道に対応して主通路を形成するスプライン軌道を有する金属製外筒本体と、外筒本体の内周に嵌め入れられて主通路に連通する戻し通路を外筒本体との間に形成する合成樹脂製保持器とを有しているボールスプラインにおいて、外筒本体と保持器とは、径方向外方から外筒本体に挿入された位置決め部材の先端部が保持器外周面に設けられた位置決め用凹部に嵌め入れられることで位置決めされており、位置決め部材と位置決め用凹部との間に、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
外筒本体は、例えばS45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製などとされるが、これに限定されるものではない。保持器は、例えばPEEK製とされるが、これに限定されるものではない。位置決め部材の材料は、特に限定されるものではないが、寸法精度の良いものが適しており、金属製であることがより好ましい。
【0008】
スプライン軌道は、時計方向の回転を受けるものと反時計方向の回転を受けるものとが対とされて、これが複数対設けられる。例えば、軸の外周に複数(例えば3つ)のボール受け部が設けられ、このボール受け部の時計方向側および反時計方向側に、それぞれスプライン軌道が形成される。これに対応して、外筒本体の内周には、ボール受け部の時計方向側のスプライン軌道に時計方向側から対向するスプライン軌道と、ボール受け部の反時計方向側のスプライン軌道に反時計方向側から対向するスプライン軌道とがそれぞれ形成される。
【0009】
保持器は、例えば、戻し通路が形成されておりかつ外筒本体の内周に嵌め合わされた略円筒状の保持器本体と、保持器本体の戻し通路と主通路とを連通する連通路が形成されており保持器本体に一端側から突き合わされた保持器蓋とからなるものとされる。この場合、ボールは、軸に形成されたスプライン軌道と外筒本体に形成されたスプライン軌道との間(主通路)を転動し、保持器本体の戻し通路および保持器蓋の連通路を経て、再び主通路に戻される(循環する)。保持器は、保持器本体および保持器蓋からなる分割品ではなく、一体品であってもよい。
【0010】
位置決め用凹部および位置決め部材は、それぞれ少なくとも1つあればよいが、複数設けてもよい。スプライン軌道が3対設けられている場合、保持器には、対となっているスプライン軌道の隣り合うもの同士の間に、戻し通路が形成されている厚肉部が3カ所存在することになり、この3カ所全てに位置決め用凹部を形成することで、周方向等間隔の3カ所で位置決めされることがより好ましい。
【0011】
位置決めに際しては、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いを考慮して、昇温時に保持器に極端な圧縮変形が生じないように、常温時では、位置決め用凹部と位置決め部材との間に、所定の大きさの隙間(熱膨張許容のための隙間)が設定される。「金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間」は、通常使用時の最高温度に達したときに無くなる程度の大きさの隙間が常温時に設定されていることを意味する。
【0012】
位置決め用凹部の形状は、例えば、円形とされるが、方形であっても、長円形であってもよい。位置決め部材は、例えば、円柱状本体と、円柱状本体の先端側に設けられて位置決め用凹部に挿入される挿入部と、円柱状本体の基端側に設けられて外筒本体に設けられた段差面で受けられるフランジ部とからなるものとされる。挿入部は、円柱状本体と同一の断面形状であってもよく、位置決め用凹部の形状に対応させて、円柱状本体と異なる断面形状とされてもよい。外筒本体には、これを貫通する位置決め部材挿入孔が設けられ、該孔は、例えば、位置決め部材の円柱状本体が挿入される内径側の小径円周面と、位置決め部材のフランジ部が挿入される外径側の大径円周面と、小径円周面と大径円周面との間にあって位置決め部材のフランジ部を受ける段差面とを有しているものとされる。
【0013】
保持器は、従来、その両端に配置された1対の止め輪によって外筒本体に支持されていた。この場合、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いを考慮して、昇温時に保持器に極端な圧縮変形が生じないようにするための軸方向隙間は、金属製外筒本体および合成樹脂製保持器の全長×線膨張係数を考慮する必要があったが、この発明のボールスプラインによると、位置決め用凹部と位置決め部材との隙間として、位置決め用凹部および位置決め部材の径×線膨張係数を考慮すればよいので、隙間を小さくすることができる。したがって、保持器の極端な圧縮変形を防止するために必要な保持器と外筒本体との軸方向のずれについて、従来のものより大幅に小さくすることができ、ボールの循環が円滑になり、スプラインのストロークが円滑になる。しかも、止め輪を廃止することで、軸方向短縮化が可能となる。
【0014】
位置決め部材の先端面と位置決め用凹部の底面との間の隙間は、位置決め部材の先端部外周面と位置決め用凹部の周面との間の隙間よりも大きくなされていることが好ましい。すなわち、位置決め用凹部の周面と位置決め部材の先端部の外周面との隙間は、昇温時に接触する程度の大きさとされているのに対し、位置決め用凹部の底面と位置決め部材の先端面とは、昇温時であっても接触しない大きさとされていることが好ましい。このようにすると、昇温時において、軸方向および周方向に関しては、拘束されるが、径方向に関しては、拘束されないものとなり、ボールの円滑な循環を妨げる径方向の力がボールに作用することはない。
【0015】
ボールスプラインは、好ましくは、ボールねじと組み合わされて、ボールねじ軌道および軸方向にのびるスプライン軌道が設けられたねじ軸と、ねじ軸のボールねじ軌道にボールを介してねじ合わされた回転自在のボールねじナットと、スプライン軌道にボールを介して嵌め合わされてねじ軸の軸方向直線運動を案内するボールスプライン外筒とからなるものとされる。
【0016】
このようなボールスプライン付きボールねじでは、ボールスプラインは、ボールスプライン外筒がキーなどの回り止め部によってハウジングに対して回り止めされ、ねじ軸の回転を防止して、ボールねじナットで発生するトルクの反力を受ける。
【0017】
この発明によるボールスプラインは、ボールねじと組み合わされて、アクチュエータ(モータによってボールねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ボールねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。
【0018】
アクチュエータや緩衝器で使用される場合には、例えば、ボールスプライン付きボールねじと、ボールねじナットに一体化された中空軸と、軸受を介して中空軸を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒を支持するハウジングと、中空軸に固定されたモータロータおよびハウジング内径に固定されたモータステータからなるモータとを備えているものとされる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のボールスプラインによると、外筒本体と保持器とは、径方向外方から外筒本体に挿入された位置決め部材の先端部が保持器外周面に設けられた位置決め用凹部に嵌め入れられることで位置決めされており、位置決め部材と位置決め用凹部との間に、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間が形成されているので、昇温時に保持器に大きな圧縮変形が生じることが防止され、また、そのための隙間を小さいものとすることができるので、ボールの循環が円滑になり、スプラインのストロークが円滑になる。しかも、止め輪を廃止できるので、軸方向短縮化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、この発明によるボールスプラインが使用されたボールねじ装置を示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明によるボールスプラインの1実施形態を示す縦断面図である。
【図3】図3は、同横断面図(図2のIII-III線に沿う断面図)である。
【図4】図4は、要部の拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図1の上下をいうものとする。
【0022】
図1は、この発明によるボールスプラインを使用したモータ付きボールねじ装置を示している。
【0023】
モータ付きボールねじ装置(1)は、ボールねじ軌道(2a)および上下方向にのびるスプライン軌道(2b)が設けられた上下にのびる鋼製ねじ軸(2)と、ねじ軸(2)のボールねじ軌道(2a)にボールを介してねじ合わされた回転自在の鋼製ボールねじナット(3)と、ねじ軸(2)の下端部側においてスプライン軌道(2b)にボールを介して嵌め合わされてねじ軸(2)の上下方向(軸方向)直線運動を案内するボールスプライン外筒(4)と、ボールねじナット(3)に一体化されて上方にのびる中空軸(5)と、軸受(7)を介して中空軸(5)を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒(4)を支持するハウジング(6)と、中空軸(5)に固定された円筒状のモータロータ(9)およびハウジング(6)内径に固定された円筒状のモータステータ(10)からなるモータ(8)とを備えている。
【0024】
モータ(8)は、永久磁石型三相同期モータとされており、モータロータ(9)が永久磁石とされて、モータステータ(10)にU相、V相およびW相の三相のコイル(10a)が巻かれている。
【0025】
ねじ軸(2)と中空軸(5)とは、同心状に配置されており、ボールねじ装置(1)は、ボールねじナット(3)、中空軸(5)およびモータロータ(9)を回転させて、ねじ軸(2)を直線移動させる形態で使用される。
【0026】
中空軸(5)は、ねじ軸(2)を案内する小径部(11)と、内周面がボールねじナット(3)の外周面に固定されかつ外周面に軸受(7)を保持する大径部(12)とからなる。
【0027】
ボールスプライン外筒(4)は、ねじ軸(2)の回転を防止してその上下移動を案内するために、回り止め部(例えばキー)(13)によってハウジング(6)に対して回り止めされる。
【0028】
図2から図4までは、この発明によるボールスプラインの実施形態を示している。
【0029】
図2から図4までに示すように、ボールスプライン外筒(4)は、略円筒状の金属製外筒本体(21)と、外筒本体(21)の内周に嵌め合わされて固定された略円筒状の保持器(22)と、両者(21)(22)の相対移動を規制する位置決め部材(23)とを備えている。
【0030】
保持器(22)は、合成樹脂製で、図2に示すように、保持器本体(24)および保持器蓋(25)からなる。
【0031】
図3に示すように、ねじ軸(2)の外周には、3つのボール受け部(26)が周方向に等間隔で設けられており、このボール受け部(26)の時計方向側肩部および反時計方向側肩部に、それぞれスプライン軌道(2b)(2c)が形成されている。そして、外筒本体(21)には、ねじ軸(2)のスプライン軌道(2b)(2c)に所定の接触角で対向するように、スプライン軌道(4a)(4b)が形成されている。これにより、ねじ軸(2)が時計方向に回転しようとしたときにそのトルクを負荷するスプライン軌道(2b)(4a)と、ねじ軸(2)が反時計方向に回転しようとしたときにそのトルクを負荷するスプライン軌道(2c)(4b)とが対とされて、これが3対設けられている。
【0032】
外筒本体(21)のスプライン軌道(4a)(4b)に対応する保持器(22)の部分に、両スプライン軌道(2b)(2c)(4a)(4b)間を転動するボール(14)を保持するポケット(27)が形成されている。ポケット(27)を介して対向する両スプライン軌道(2b)(2c)(4a)(4b)間の空間が、ボール(14)が転動する主通路(28)となっている。
【0033】
保持器(22)には、主通路(28)の左右両端部と連通する戻し通路(29)が外筒本体(21)との間に形成されている。各戻し通路(29)は、対となっている主通路(28)を周方向の両側から挟むように設けられている。ボール(14)は、主通路(28)および戻し通路(29)内に配設され、主通路(28)を転動するボール(14)がねじ軸(2)とボールスプライン外筒(4)の相対直線運動を案内するようになっている。
【0034】
保持器(22)は、従来、外筒本体の両端部に嵌め止められた1対の止め輪によって、支持(位置決め)されていたのに対し、このボールスプラインでは、この止め輪が廃止されており、外筒本体(21)に、これを径方向に貫通する位置決め部材挿入孔(31)が形成されて、外筒本体(21)と保持器(22)とは、径方向外方から外筒本体(21)に挿入された位置決め部材(23)の先端部が保持器(22)外周面に設けられた位置決め用凹部(32)に嵌め入れられることで位置決めされている。
【0035】
保持器(22)には、図2に示すように、対となっているスプライン軌道(2b)(2c)(4a)(4b)の隣り合うもの同士の間に、戻し通路(29)が形成されている厚肉部が3カ所あり、この3カ所全てに位置決め用凹部(32)が形成されている。そして、各位置決め用凹部(32)に対応して位置決め部材挿入孔(31)が形成され、各位置決め用凹部(32)に位置決め部材(23)の先端部がそれぞれ嵌め入れられている。
【0036】
図4に示すように、位置決め部材(23)は、円柱状本体(41)と、円柱状本体(41)の先端側(ボールスプラインの径方向内方側)に設けられて位置決め用凹部(32)に挿入される挿入部(42)と、円柱状本体(41)の基端側(ボールスプラインの径方向外方側)に設けられたフランジ部(43)とからなる。ここで、挿入部(42)は、円柱状本体(41)と同一の断面形状とされている。
【0037】
外筒本体(21)の位置決め部材挿入孔(31)は、位置決め部材(23)の円柱状本体(41)が挿入される内径側の小径円周面(44)と、位置決め部材(23)のフランジ部(43)が挿入される外径側の大径円周面(45)と、小径円周面(44)と大径円周面(45)との間にあって位置決め部材(23)のフランジ部(43)の内周面を受け止める段差面(46)とを有している。
【0038】
図4において、位置決め部材(23)と位置決め用凹部(32)との間には、金属製外筒本体(21)と合成樹脂製保持器(22)との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間(G1)(G2)が形成されている。この図4は、常温時の状態を示すもので、位置決め部材(23)の先端面(挿入部(42)の先端面(42b))と位置決め用凹部(32)の底面(32b)との間の隙間(G2)は、位置決め部材(23)の先端部外周面(挿入部(42)の外周面(42a))と位置決め用凹部(32)の周面(32a)との間の隙間(G1)よりも大きくなされている。
【0039】
昇温時には、金属製外筒本体(21)および合成樹脂製保持器(22)が熱膨張し、隙間(G1)(G2)はいずれも小さくなる。これらの隙間(G1)(G2)は、金属製外筒本体(21)と合成樹脂製保持器(22)との線膨張係数の違いを考慮して、昇温時に保持器(22)に極端な圧縮変形が生じないようにするために設けられたもので、位置決め用凹部(32)の径×合成樹脂の線膨張係数×温度変化と位置決め部材(31)の径×金属の線膨張係数×温度変化とを比較することで、その大きさが設定されている。止め輪を使用する従来のボールスプラインでは、外筒本体の全長および保持器の全長を考慮する必要があったため、隙間が大きく設定されていたのに対し、このボールスプラインでは、位置決め用凹部(32)の径および位置決め部材(31)の径を考慮すればよいので、隙間を小さくすることができる。したがって、保持器(22)の極端な圧縮変形を防止するために必要な保持器(22)と外筒本体(21)との軸方向のずれについて、従来のものより大幅に小さくすることができ、ボール(14)の循環が円滑になり、スプラインのストロークが円滑になる。しかも、止め輪を廃止することで、軸方向短縮化が可能となる。
【0040】
位置決め部材(23)の先端部外周面と位置決め用凹部(32)の周面(32a)との間の隙間(G1)は、外筒本体(21)と保持器(22)との相対的な軸方向の移動と周方向の移動(回転)とを所定範囲に規制するものであり、この隙間(G1)の常温時における大きさは、通常使用時の最高温度に達したときに隙間(G1)が無くなるように設定されている。位置決め部材(23)の先端面と位置決め用凹部(32)の底面(32b)との間の隙間(G2)は、これより大きくなされているため、その常温時の隙間(G2)の大きさは、通常使用時の最高温度に達したときでも隙間(G2)が残るように設定されている。したがって、外筒本体(21)と保持器(22)とは、昇温時において、軸方向および周方向に関しては、拘束されるが、径方向に関しては、拘束されないものとなり、ボール(14)の円滑な循環を妨げる径方向の力がボール(14)に作用することはない。
【0041】
上記のモータ付きボールねじ装置(1)は、例えば、自動車の電磁緩衝器用として使用するのに適している。電磁緩衝器は、タイヤから伝わる外力によってねじ軸(2)が軸方向に直線移動し、これに伴って、ボールねじナット(3)および中空軸(5)が回転し、この回転運動をモータ(8)に取り込んで、モータ(8)で発生する電磁力を減衰力として利用するようになっている。
【0042】
このモータ付きボールねじ装置(1)は、電磁緩衝器用に限られるものではなく、電動アクチュエータとして使用することもできる。この場合、モータ(8)の回転駆動力をボールねじナット(3)を介してねじ軸(2)の軸方向推力に変換し、推力の軸方向反力を軸受(7)で支持してねじ軸(2)を直線運動させ、ねじ軸(2)に作用する軸方向荷重をボールねじナット(3)で負荷するとともに、トルクをボールスプライン外筒(4)で支持した形態での使用となる。
【符号の説明】
【0043】
(2) ねじ軸(軸)
(2b)(2c) スプライン軌道
(4) ボールスプライン外筒
(14) ボール
(21) 外筒本体
(22) 保持器
(23) 位置決め部材
(28) 主通路
(29) 戻し通路
(32) 位置決め用凹部
(32a) 周面
(32b) 底面
(42a) 挿入部の外周面(位置決め部材の先端部外周面)
(42b) 挿入部の先端面(位置決め部材の先端面)
(G1)(G2) 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、軸のスプライン軌道に対応して主通路を形成するスプライン軌道を有する金属製外筒本体と、外筒本体の内周に嵌め入れられて主通路に連通する戻し通路を外筒本体との間に形成する合成樹脂製保持器とを有しているボールスプラインにおいて、
外筒本体と保持器とは、径方向外方から外筒本体に挿入された位置決め部材の先端部が保持器外周面に設けられた位置決め用凹部に嵌め入れられることで位置決めされており、位置決め部材と位置決め用凹部との間に、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間が形成されていることを特徴とするボールスプライン。
【請求項2】
位置決め部材の先端面と位置決め用凹部の底面との間の隙間は、位置決め部材の先端部外周面と位置決め用凹部の周面との間の隙間よりも大きくなされていることを特徴とする請求項1のボールスプライン。
【請求項1】
スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、軸のスプライン軌道に対応して主通路を形成するスプライン軌道を有する金属製外筒本体と、外筒本体の内周に嵌め入れられて主通路に連通する戻し通路を外筒本体との間に形成する合成樹脂製保持器とを有しているボールスプラインにおいて、
外筒本体と保持器とは、径方向外方から外筒本体に挿入された位置決め部材の先端部が保持器外周面に設けられた位置決め用凹部に嵌め入れられることで位置決めされており、位置決め部材と位置決め用凹部との間に、金属製外筒本体と合成樹脂製保持器との線膨張係数の違いに対応する所定の大きさの隙間が形成されていることを特徴とするボールスプライン。
【請求項2】
位置決め部材の先端面と位置決め用凹部の底面との間の隙間は、位置決め部材の先端部外周面と位置決め用凹部の周面との間の隙間よりも大きくなされていることを特徴とする請求項1のボールスプライン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−2284(P2012−2284A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137894(P2010−137894)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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