説明

ボール用表皮材

【課題】手の汗の状態に関わらず良好なグリップ感や高いハンドリング性を有するボール用表皮材を提供すること。
【解決手段】繊維と高分子からなる基体層の表面にコート層が存在するボール用表皮材であって、コート層の最表面に位置するA層が粒径1〜50nmの微粒子シリカとゴム成分(A)を含有し、A層と接する次の層であるB層がゴム成分(B)を含み、B層に存在する微粒子シリカの存在量がA層における存在量よりも少ないか全く存在せず、かつコート層の一部分においてはB層が最表面に露出していることを特徴とする本発明のボール用表皮材。さらには、表面に高低差0.1mm以上の凹凸が存在することや、最表面に露出している(A層の面積)/(B層の面積)の比A/Bが、凹部のA/Bの値よりも凸部のA/Bの値が大きいこと、B層と基体層の間に、多孔質コート層が存在することが好ましい。また、A層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力が2〜5MPaであり、B層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力が0.1〜1MPaであることが好ましい。さらに、微粒子シリカがフュームドシリカであることや、A層に含有しているゴム成分(A)が液状ゴムであり、B層に含有しているゴム成分(B)がゴムラテックスであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボール用表皮材に関し、さらに詳しくは手で扱うことが多い球技用ボールとして特に適したボール用表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
球技用ボールの表皮材としては、古くから天然皮革が用いられてきたが、近年取り扱いの容易さなどから繊維と高分子弾性体からなるいわゆる人工皮革が広く用いられるようになってきている。しかし、耐摩耗性や汚れの付着を防止するために、人工皮革の表面には高分子弾性体からなる表皮層が一面に形成されているためにすべり易く、特に手で扱うことが多い球技において手に汗が発生した場合には、すべりが発生しやすく、ハンドリング性が変化するという問題があった。
【0003】
そこで各種の表面処理方法が提案されており、例えば特許文献1には、表面のコート層に開孔を有し、そのコート層を浸透剤で処理することで、吸汗性を与えてグリップ感を向上させる方法が開示されている。また、特許文献2では、基体層の表面に凹凸が存在し、その凸部側面の開孔を制御することにより、汗によるグリップ性の低下を防止する方法が開示されている。
【0004】
しかし、このような方法では汗によるグリップ性の低下を防止することはある程度可能ではあるものの、汗の多少によってグリップ感やハンドリング性が変化するという問題があった。特に競技中に高いコントロール性が要求される、例えばバスケット、バレー、ラグビー、アメリカンフットボールなどの手で扱うことが多い球技において、より最適なグリップ感やハンドリング性を求める要求があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−328465号公報
【特許文献2】特開2004−277961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、手の汗の状態に関わらず良好なグリップ感や高いハンドリング性を有するボール用表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のボール用表皮材は、繊維と高分子からなる基体層の表面にコート層が存在するボール用表皮材であって、コート層の最表面に位置するA層が粒径1〜50nmの微粒子シリカとゴム成分(A)を含有し、A層と接する次の層であるB層がゴム成分(B)を含み、B層に存在する微粒子シリカの存在量がA層における存在量よりも少ないか全く存在せず、かつコート層の一部分においてはB層が最表面に露出していることを特徴とする。
【0008】
さらには、表面に高低差0.1mm以上の凹凸が存在することや、最表面に露出している(A層の面積)/(B層の面積)の比A/Bが、凹部のA/Bの値よりも凸部のA/Bの値が大きいこと、B層と基体層の間に、多孔質コート層が存在することが好ましい。また、A層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力が2〜5MPaであり、B層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力が0.1〜1MPaであることが好ましい。さらに、微粒子シリカがフュームドシリカであることや、A層に含有しているゴム成分(A)が液状ゴムであり、B層に含有しているゴム成分(B)がゴムラテックスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、手の汗の状態に関わらず良好なグリップ感や高いハンドリング性を有するボール用表皮材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のボール用表皮材は、繊維と高分子からなる基体層の表面にコート層が存在するものである。
ここでこの繊維と高分子からなる基体は、繊維から構成された繊維質基材に高分子弾性体を含浸・凝固するなどして得られる基体である。そして基体を構成する繊維質基材に用いられる繊維としては、ポリアミド、ポリエステルなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの再生繊維、あるいは天然繊維などの単独または混合した繊維を挙げることができる。さらに好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド繊維や、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維を挙げることができる。
【0011】
この繊維質基材は、このような繊維をカード、ウェバー、レーヤー、ニードルパンチングなどの公知の手段で作成した絡合繊維不織布であることが好ましく、特に0.2dtex以下の極細繊維から成るものが好ましい。そのような極細繊維を得る方法としては、例えば溶剤溶解性の異なる2成分以上の繊維形成性高分子重合体からなる複合繊維または混合紡糸繊維を作成し、絡合繊維不織布を作成し、1成分を抽出除去して極細繊維絡合繊維質基材とすることができる。
【0012】
このとき繊維質基材とともに基体層に好適に用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリエステルエラストマー、合成ゴムなどを挙げることが出来るが、中でもポリウレタン系エラストマーであることが好ましい。また基体に用いられる高分子弾性体の100%伸長応力としては、8〜10MPaであることが好ましい。さらには基体層の高分子弾性体は多孔質であることが好ましく、DMF溶解性の湿式凝固用ポリウレタンなどが好ましく用いられる。
【0013】
このような本発明の基体層は、繊維質基材に高分子弾性体を処理して得ることができ、例えば繊維質基材に高分子弾性体の有機溶剤の溶液を含浸した後に湿式凝固させる方法によって得ることができる。
【0014】
本発明のボール用表皮材は、上記のような繊維と高分子からなる基体層の表面にコート層が存在するものであり、このコート層の最表面にはA層が、そのA層の最表面と反対側の基体層側には、A層と接する次の層であるB層が存在する。そして本発明のボール用表皮材は、そのA層が粒径1〜50nmの微粒子シリカとゴム成分(A)を含有し、次の層であるB層がゴム成分(B)を含み、A層に含有されるゴム成分(A)とB層に含有されるゴム成分(B)は同じでも異なっていても良く、B層にはA層に含有される粒径1〜50nmの微粒子シリカを含有しても含有しなくても良いが、含有する場合にはそのB層に含有される微粒子シリカの存在量がA層における存在量よりも少ないか全く存在せず、かつコート層の一部分においてはB層が最表面に露出していることを特徴とする。
【0015】
また本発明のボール用表皮材には、基体層の表面に存在するコート層として、上記のA層、B層以外に多孔質コート層が含まれていることが好ましい。B層と基体層の間に多孔質コート層が存在することにより、コート層の強度が増すばかりではなく、触感に優れたものとなる。
【0016】
このような多孔質コート層は、主に高分子弾性体からなるものであり、好ましくは基体層で用いられるものと同じく、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリエステルエラストマー、合成ゴムなどを挙げることが出来るが、中でもポリウレタン系エラストマーであることが好ましい。そしてコート層を構成する高分子弾性体の100%伸長応力としては、8〜10MPaであることが好ましい。
【0017】
本発明の基体層や好ましくは存在する多孔質コート層には、高分子弾性体としてポリウレタン系エラストマーが好ましく用いられる。その具体例としては、例えば分子量800〜4000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等の単独又は混合ジオ−ルと、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネートを主とする有機ジイソシアネート、及び低分子ジオール、ジアミン、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体などからなる鎖伸長剤とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0018】
このような本発明の基体層を作成する場合には、その表面に多孔質コート層を同時に得ることも好ましい。例えば繊維質基材に高分子弾性体の有機溶剤の溶液を含浸し、さらにその表面に高分子弾性体の溶液を被覆し、引き続き各種方法で凝固させることによって得ることができる。特にこの時の凝固方法としては、高分子弾性体を多孔質状に凝固させる方法を用いることが好ましく、そのような方法としては、例えば繊維質基材に高分子弾性体の有機溶剤の溶液を含浸及び/又は被覆した後に、高分子弾性体の非溶剤中に浸漬し高分子弾性体を凝固させる湿式凝固法や、あるいは高分子弾性体の有機溶剤溶液に、高分子弾性体の非溶剤を混合した乳濁液を作成し、その後溶剤を蒸発除去する特殊乾式凝固方法などを挙げることができる。
【0019】
中でもこれらの高分子弾性体を、風合いと物性に優れた円錐状多孔構造とするためには、湿式凝固法を採用することが最適である。その際には、湿式凝固させる高分子弾性体の溶剤溶液中に多孔調整剤としてアニオン系、又はノニオン系、カチオン系の親水基を持つ界面活性剤を添加することが有効である。界面活性剤としては、スルホン酸ナトリウムジアルキルサクシネート、ポリオキシエチレン変性シリコン、ポリオキシエチレン変性アルキルフェニル等が好ましく挙げられる。
【0020】
さて、本発明のボール用表皮材は、上記のような繊維と高分子からなる基体層や、好ましくはその基体層の上にさらに多孔質コート層が存在するシート状物の表面に、基体層および/または多孔層の上にB層とA層が順に存在するものである。このようなA層、B層のようなコート層もまた、高分子弾性体を主成分とするものであることが好ましい。
【0021】
本発明のボール用表皮材において必須とされる最表面に位置するA層は、粒径1〜50nmの微粒子シリカとゴム成分(A)とを含有するものである。また、そのA層の支持体としては高分子弾性体であることが好ましく、例えばポリエステル系、ポリエーテル系またはポリカーボネート系のポリウレタンエラストマーなどを挙げることができる。この高分子弾性体の100%伸長応力としては、2〜15MPaであることが好ましい。
【0022】
本発明のボール用表皮材はこのA層の存在により、グリップ性が調整されているものである。ここで最表面の被覆層であるA層は、表皮材の全面を被覆する必要はなく、表面のグリップ感を十分に与えるためには、シート面積の30%以上を被覆するものであることが好ましい。さらには50%以上を被覆するものであることが好ましい。そしてこのようなA層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力としては2〜5MPaであることが好ましい。
【0023】
また、最表面のA層の必須成分である粒径1〜50nmの微粒子シリカとしては、具体的にはナノサイズのシリカ(二酸化ケイ素)であり、湿式シリカおよび乾式シリカ、コロイダルシリカなどが例示される。さらには微粒子シリカの粒径は、10nm〜30nmの大きさが好ましく、シリカの含有量は微粒子シリカを含む層における全体の固形分重量に対して5〜30%であることが好ましい。微粒子シリカの粒径がこのような範囲内であることにより、ゴム成分によるタック効果を有効に発現させ、また、手に汗をかいた状況において、樹脂と指の間に水が介在し滑り易くなる状態を低減する効果がみられる。また、このような固形分濃度が最適であり、例えば濃度が少なすぎると手に汗をかいた状況で滑り易くなり、多すぎるとゴム成分を加えることによって得られたタック感を逆に減少させることになる。
【0024】
本発明に好ましく用いられるこのような微粒子シリカとしては、湿式シリカ((株)トクヤマのトクシールなど)、乾式シリカ(日本アエロジル(株)のAEROSILなど)、およびコロイダルシリカ(日産化学工業(株)のスノーテックなど)を用いることができる。特には、乾式シリカ、中でもフュームドシリカであることが好ましい。フュームドシリカとは、ケイ素塩化物を気化し高温の炎中において気相状態で酸化され生成するシリカであってその表面のシラノール基を化学的に疎水化したシリカである。このようなシリカを用いた場合、手に汗をかいた状況でのグリップへの向上効果に極めて優れるものとなる。
【0025】
最表面のA層のもう一つの必須成分であるゴム成分(A)としては、グリッピー性を向上させる成分であり、ロジン樹脂や液状ゴムなどが挙げられ、単独または混合して用いることができる。なかでも液状ゴムである分子量1000〜4000の低分子量合成ゴムが好ましく、低分子量ポリブタジエン、低分子量アクリロニトリル・ブタジエン共重合物、低分子量ポリジシクロペンタジエンなどが好ましく、特には分子量1000〜4000のブタジエンゴムであることが最適である。また、ゴム成分の含有量は、A層における全体の固形分に対して10〜50%であることが好ましく、添加量は要求される触感、グリップ感のレベルで最適量を決める必要があるが、添加量が多すぎる場合にはタックが強くなり過ぎ、ハンドリングが劣ることがある。
【0026】
本発明のボール用表皮材はそのコート層として、上記A層の下に、A層と接する次の層であるB層が存在することが必須である。また、このB層の支持体としてはA層と同じく高分子弾性体であることが好ましい。ここでB層を構成する高分子弾性体としては、ポリエステル系、ポリエーテル系またはポリカーボネート系のポリウレタンエラストマーのうち耐摩耗強度を得るために、ポリウレタンエラストマーのうち100%伸長応力が2〜15MPaのものを用いることが好まれる。
【0027】
また本発明のボール用表皮材では、その最表面に露出している層の一部はA層では無く、つまりコート層の一部分においてはA層ではなくB層が最表面に露出していることが必要である。下の被覆層であるB層は、その一部が表面にでていて、手に触れることができる状態であることが必要であり、最表面層であるA層の被覆面積を抑えることにより、A層の効果である手に汗をかいた状況での滑り難い効果と、B層のタックの強さを両立したグリップ感を、より良く達成することができるのである。そしてこのようなB層を構成する全成分により得られるフィルムの100%伸長応力としては、0.1〜1MPaの範囲であることが好ましい。
【0028】
またB層はその必須成分としてゴム成分(B)を含有し、このB層の存在によって、よりタックの強いグリップを有する表皮材となる。ここでB層のゴム成分(B)は、グリッピー性を向上させる剤であれば良く、A層のゴム成分(A)と同じでも良いが、好ましくはよりタックの強いゴム成分であることが好ましい。
【0029】
このようなゴム成分(B)としては、先のゴム成分(A)にて列挙した剤の他、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを主体に共重合し、必要に応じてスチレン等や機能性モノマーなどを共重合したポリマーエマルジョンであるアクリル系ラテックスであることが好ましい。このグリップ調整層としてのB層は、ゴム成分(B)をB層全体の固形分濃度の50%以上、さらには50%〜90%含むことが好ましい。また、ゴム成分の組み合わせとしては、A層に含有しているゴム成分(A)が液状ゴムであり、B層に含有しているゴム成分(B)がポリマーエマルジョンであるゴムラテックスであることが好ましい。特にはA層に含有しているゴム成分(A)が分子量1000〜4000のブタジエンゴムであり、B層に含有しているゴム成分(B)がアクリレート系ゴムラテックスであることが好ましい。
【0030】
またB層には、A層に含有されるのと同様の微粒子シリカを含有しても良いが、そのB層における微粒子シリカの存在量は、A層における微粒子シリカの存在量よりも少ないか全く存在しないことが好ましい。微粒子シリカの存在が多すぎるとゴム成分(B)によるタック効果が低下してしまうからである。
【0031】
さらにA層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力が2〜5MPaであり、B層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力が0.1〜1MPaであることが好ましい。
【0032】
また、本発明のボール用表皮材は、その表面に高低差0.1mm以上の凹凸が存在することが好ましい。さらには0.15〜0.3mmの凹凸を有することが好ましい。このような凹凸によりボールを保持しやすくなると共に、汗などが凸部の頂点から凹部に流れることにより、すべりを防止することができるからである。そして表面に凸凹柄が存在する場合においては、最表面に露出している(A層の面積)/(B層の面積)の比A/Bが、凹部のA/Bの値よりも凸部のA/Bの値が大きいことが好ましい。またB層が全表面積の80%以上、さらに好ましくは90%以上を被覆し、A層がB層よりは少ないが凸部の全面積の50%以上を被覆していることが好ましい。特に凹部が、凸部に対してA層の被覆が少ない場合、A層の効果である手に汗をかいた状況で滑り難い効果と、B層のタックの強さを両立したグリップ感を高いレベルで両立させることができるのである。
【0033】
このような凹凸を本発明のボール用表皮材に付与するためには、例えば多孔質コート層が付与された、あるいは付与されていない繊維と高分子弾性体からなる基体を凹凸を有する金属ロールによってエンボス加工することによって得ることができる。その後B層とA層を順にグラビア加工等により付与することによって、凹部と凸部のA層、B層の被覆率の差を有したボール用表皮材を得ることができる。またA層、B層を付与する前に、他の層を追加することにより、耐摩耗性や意匠性をさらに高めることも好ましい方法である。例えば凸部の頂上部のみに着色された樹脂層をコートすることにより、いわゆる山汚しされた表皮材を得ることができ、その上にB層、A層を付与することにより本発明のボール用表皮材とすることができる。
【実施例】
【0034】
本発明をより具体的に説明するために実施例を以下に記す。ただし本発明の範囲は実施例に限定するものではない。なお、各測定値は下記の方法により得たものである。
【0035】
(1)微粒子シリカの平均粒子径
透過電子顕微鏡(TEM)を用いて30個の粒径を測定し、その平均値を微粒子シリカの平均粒子径とした。
【0036】
(2)伸張応力
JIS K 6301 2号型ダンベル試験片の厚さ5mmのフィルムを試料とし、恒速伸長試験機で伸長速度100%/minの条件で測定した。
【0037】
[参考例1]
<基体層の作成>
ナイロン6と低密度ポリエチレンを50/50で混合、エクストルダーで溶融、混合し290℃で混合紡糸し、延伸、油剤を処理しカットし5.5dtex、51mmの繊維を得た。これをカード、クロスラッパー、ニードルロッカー、カレンダーの工程を通し、重さ570g/m、厚さ2.4mm、見掛け密度0.24g/cmの絡合繊維質基材を得た。
【0038】
得られた絡合繊維質基材に、100%モジュラスが10MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタンの10%濃度のジメチルホルムアミド(以下DMFと略称する)溶液に茶系顔料5部、凝固調節剤としてポリオキシエチレン変性シリコン、及び低分子ポリブデンを添加したものを含浸し、基材厚さの90%でスクイズした後、基材の圧縮が回復する前に、100%モジュラスが8MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタンの20%濃度のDMF溶液に、茶系顔料5部、及び同上の凝固調節剤を添加したものを、目付け1300g/mとなるように塗布し、10%のジメチルホルムアミドを含有する40℃の水中で高分子弾性体を湿式凝固させ、水洗、乾燥を行った。
【0039】
乾燥後、得られたシートを90℃の熱トルエン中で圧縮、緩和を繰り返し、繊維中のポリエチレン成分を抽出除去し、0.003dtexの極細繊維を繊維質基材とする多孔質高分子弾性体コート層を有するシート状物を得た。このシートは、厚さは、1.65mm、目付け580g/mであった。
【0040】
次いで、100%モジュラスが8MPaの無黄変ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を、メチルエチルケトン:イソプロピルアルコール;ジメチルホルムアミドの混合溶剤で溶解し、樹脂9%濃度にしたものに、茶系顔料及びマット剤を混合し、バスケットボールの下地の着色用の塗布液を作成した。この下地の着色用の塗布液を、先のシート状物のコート層側の表面に、110メッシュのグラビアロールを、塗布間隙をシートの厚さの70%に調整し4回塗布した。この塗布液の付着量は、60g/mであった。
【0041】
次に、シート状物の表面を、バスケットボール用の柄のエンボスロールを装着したエンボス装置で、エンボスロールの表面温度175℃でプレスし、独立した台形上の凸部を有するシート状物を得た。この独立した台形上の凸部の個数は22個/cm、頂上部の直径は1.7mm、高さは0.2mmであった。
【0042】
次いで、100%モジュラスが6MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタンを、メチルエチルケトン:ジメチルホルムアミドの混合溶剤で溶解し、樹脂10%濃度にしたものに、先の下地より濃い色の茶系顔料及びマット剤を混合し、バスケットボール用の柄の凸部頂上部の着色用の塗布液を作成した。この凸部頂上部の着色用の塗布液を、先の凸部を有するシート状物の凸部頂上部に塗れるように、110メッシュのグラビアロールにて、塗布間隙をシートの厚さの85%に調整し2回塗布し、バスケットボール用に凸部と凹部の異なる色をもったシート状物を得た。この塗布液の付着量は30g/mであった。
【0043】
次いで、耐摩耗性点から、このシート状物の表面に、100%モジュラスが6MPaの無黄変ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を、メチルエチルケトン:イソプロピルアルコール:ジメチルホルムアミドの混合溶剤で溶解し、樹脂9%濃度にした塗布液を、110メッシュのグラビアロールにて、塗布間隙をシートの厚さの70%に調整し、2回塗布し、耐摩耗樹脂をもつシート状物、すなわち凹凸を有する多孔質コート層が付与された基体層を得た。この塗布液の付着量は、35g/mであった。
【0044】
[実施例1]
参考例1で得られた凹凸を有する多孔質コート層が付与された基体層の上にB層を付与した。
【0045】
<基体層上へのB層の付与>
まずB層用として、次の配合のゴム成分が固形分濃度76%、シリカの固形分濃度4%である被覆層(B層)用の塗布液を作成した。この被覆層(B層)用の塗布液を、110メッシュのグラビアロールにて、塗布間隙をシートの厚さの60%に調整し、3回塗布した。この時の塗布液の付着量は、45g/mであった。また、B層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力は、0.4MPaであった。
アクリル系ラテックス(ゴム成分、固形分濃度 40%);76部
ポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度;30%、100%モジュラス;2MPa);12部
ポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度;35%、100%モジュラス;8.5MPa);12部
水分散シリカ(固形分濃度;20%);4部
増粘剤(固形分濃度;40%);1部
【0046】
<基体層上へのA層の付与>
次いで、被覆層(A層)として、100%モジュラスが5MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂100部、分子量2000のポリブタジエン(ゴム成分)50部、粒径16nmのフュームドシリカ20部を、ジメチルホルムアミド:テトラヒドロフラン:トルエンの混合溶剤で溶解し、ゴム成分が固形分濃度29%、フュームドシリカの固形分濃度12%である被覆層A層用の塗布液を作成した。このA層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力は2.5MPaであった。
この被覆層A層用の塗布液を、110メッシュのグラビアロールにて、塗布間隙をシートの厚さの75%に調整し、3回塗布し、バスケットボール用表皮材を得た。この時の塗布液の付着量は、45g/mであった。得られたバスケットボール用表皮材を観察すると、被覆層(A層)の樹脂は、凸凹を有する表面の90%を被覆していた。
また得られたボール用表皮材の凸部の(A層の面積)/(B層の面積)の比、A/B比は100/100、凹部のA/B比は50/80であった。
【0047】
<ボール用表皮材>
得られたバスケットボール用の表皮材を使用してバスケットボールを作製し、実用テストで、乾燥時、湿潤時(汗等で手の表面が濡れてきた手が湿潤状態の時)のタック性、ハンドリング性、指の滑り難さ等を総合評価しグリップ感を5段階(良5→1悪)評価したところ、乾燥時のグリップ感は、評価4で良好。また湿潤時のグリップ感は、評価5で、汗等で手の表面が濡れても指が滑り難くグリップ感が良好であった。
【0048】
[実施例2]
<基体層上へのB層の付与>
参考例1で得られた凹凸を有する多孔質コート層が付与された基体層の上に、実施例1と同様にしてB層を付与した。この時の塗布液の付着量は実施例1と同じく45g/mであった。
【0049】
<基体層上へのA層の付与>
次いで、被覆層(A層)として実施例1と同じ被覆層A層用の塗布液を、グラビアロールの塗布間隙をシートの厚さの75%に調整し、塗布回数を3回から1回に変更した以外は、実施例1と同様に塗布し、バスケットボール用表皮材を得た。この時の塗布液の付着量は、15g/mであった。
得られたバスケットボール用表皮材を観察すると、被覆層(B)の樹脂は、凸凹を有する表面の全面を被覆し、また被覆層(A)は凸部の面積の80%のみ被覆し、凹部は、凸部に対して被覆が少なくなっていた。得られたボール用表皮材の凸部の(A層の面積)/(B層の面積)の比、A/B比は70/100、凹部のA/B比は30/80であった。
【0050】
<ボール用表皮材>
得られたバスケットボール用の表皮材を使用してバスケットボールを作製し、実用テストで、乾燥時、湿潤時(汗等で手の表面が濡れてきた手が湿潤状態の時)のタック性、ハンドリング性、指に掛かる感覚等を総合評価しグリップ感を5段階(良5→1悪)で評価したところ、乾燥時のグリップ感は、評価4でタック感が適度にあり実施例1のボールよりも良好なものであった。また湿潤時のグリップ感は、評価5で、汗等で手の表面が濡れている状態であっても、そのグリップ感が良好であった。
【0051】
[比較例1]
被覆層(A層)用の塗布液から、ゴム成分であるポリブタジエンのみを除いて塗布液を作成した以外は、実施例2と同様に処理をして、バスケットボール用表皮材を得た。
このバスケットボール用表皮材を使用してバスケットボールを作製し、実用テストをしたところ、乾燥時のグリップ感は、評価2でタックが少な過ぎる感じのグリップであった。また湿潤時のグリップ感は、評価3であった。
【0052】
[比較例2]
被覆層(A層)用の塗布液中の、フュームドシリカの添加量を20部から4部に変更し、シリカの固形分濃度を2.6%となる塗布液を作成した以外は、実施例2と同様に処理をして、バスケットボール用表皮材を得た。このもののB層におけるシリカは実施例1の通り固形分濃度4%で、A層のシリカの固形分濃度2.6%よりも多いものであった。
このバスケットボール用表皮材を使用してバスケットボールを作製し、実用テストをしたところ、乾燥時のグリップ感は、評価3で少しタックが強過ぎる感じのグリップであった。また湿潤時のグリップ感は、評価2で、指に掛かる感覚が少なく滑り易いものであった。
【0053】
[比較例3]
被覆層(A層)用の塗布液中の、シリカを平均粒子径16nmの微粒子シリカから平均粒子径5μmの通常シリカに変更し、併せて添加量を20部から13部に変更し、シリカの固形分濃度を8%となる塗布液を作成した以外は、実施例1と同様に処理をして、バスケットボール用表皮材を得た。
このバスケットボール用表皮材を使用してバスケットボールを作製し、実用テストをしたところ、乾燥時のグリップ感は、評価3。また湿潤時のグリップ感は、評価3で、いずれも実施例1に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のボール用表皮材は、例えば圧力空気を入れ膨らませたボディーに張り合わせるボール用表皮材に用いることができ、特に球技用ボールであるバスケットボール、バレーボール、ラグビーボール、アメリカンフットボール、ハンドボール、等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と高分子からなる基体層の表面にコート層が存在するボール用表皮材であって、コート層の最表面に位置するA層が粒径1〜50nmの微粒子シリカとゴム成分(A)を含有し、A層と接する次の層であるB層がゴム成分(B)を含み、B層に存在する微粒子シリカの存在量がA層における存在量よりも少ないか全く存在せず、かつコート層の一部分においてはB層が最表面に露出していることを特徴とするボール用表皮材。
【請求項2】
表面に高低差0.1mm以上の凹凸が存在する請求項1記載のボール用表皮材。
【請求項3】
最表面に露出している(A層の面積)/(B層の面積)の比A/Bが、凹部のA/Bの値よりも凸部のA/Bの値が大きい請求項2記載のボール用表皮材。
【請求項4】
B層と基体層の間に、多孔質コート層が存在する請求項1〜3のいずれか1項記載のボール用表皮材。
【請求項5】
A層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力が2〜5MPaであり、B層を構成する全成分からなるフィルムの100%伸長応力が0.1〜1MPaである請求項1〜4のいずれか1項記載のボール用表皮材。
【請求項6】
微粒子シリカがフュームドシリカである請求項1〜5のいずれか1項記載のボール用表皮材。
【請求項7】
A層に含有しているゴム成分(A)が液状ゴムであり、B層に含有しているゴム成分(B)がゴムラテックスである請求項1〜6のいずれか1項記載のボール用表皮材。

【公開番号】特開2010−284328(P2010−284328A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140259(P2009−140259)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】