ポジトロン標識タンパク質の合成方法
【課題】
比放射能の低下や、タンパク質の活性・構造変化をもたらすことのない、新規なタンパク質ポジトロン標識法を確立すること。
【解決手段】
ポジトロン標識アミノ酸を用いて、細胞から抽出精製されたタンパク質合成に関与する因子によって再構成された無細胞タンパク質合成系を用いて、ポジトロン標識タンパク質を合成する。
なし
比放射能の低下や、タンパク質の活性・構造変化をもたらすことのない、新規なタンパク質ポジトロン標識法を確立すること。
【解決手段】
ポジトロン標識アミノ酸を用いて、細胞から抽出精製されたタンパク質合成に関与する因子によって再構成された無細胞タンパク質合成系を用いて、ポジトロン標識タンパク質を合成する。
なし
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポジトロン核種によるタンパク質標識方法に関する。より詳細には、再構成された無細胞タンパク質合成系を利用したポジトロン標識アミノ酸によるタンパク質標識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Positron Emission Tomography(PET)による画像診断、薬剤の体内動態の評価が盛んに行なわれている。PETは、陽電子放射断層撮影の意味で、X線CTのような装置でポジトロンを検出することで、心臓や脳などのはたらきを断層画像としてとらえ、病気の原因や状態を的確に診断する。
【0003】
PET診断ではポジトロンを放出する核種が組み込まれた放射性薬剤を、静脈注射あるいは吸入により投与する。投与された薬剤はポジトロンを放出し、電子との対消滅によりその場で互いに逆向きに2本の消滅放射線を放出する。この2本の放射線を円形の検出器で同時計測することで放射性薬剤の位置を特定する。
【0004】
PET診断では経時的に薬剤の体内分布を画像化できるため、非侵襲的に生体機能の評価を行うことができる。このことから診断薬としてだけでなく、新薬の体内動態の評価のような創薬研究の分野でも用いられてきている。
【0005】
PET診断に使われるポジトロン核種としては、11C、13N、15O、18Fがあり、これらの半減期はそれぞれ20.4分、9.97分、2.04分、109.8分と非常に短い。短半減期であるという特徴は、保存がきかずその場で合成する必要があること、また短時間で合成できなければならないというデメリットも有する。しかしながら、生体の被曝を低く抑えられる、また高比放射能であるため極微量の核種で診断が可能になるという大きなメリットがある。また、C、N、Oといったポジトロン核種は、生体内に存在する分子を構成する元素の同位元素であるため、修飾することなく生体内の分子をトレーサーとして利用することができるというメリットもある。
【0006】
これまで標的部位に特異的に集積するイメージングプローブとして、ペプチドやタンパク質が多く研究されてきている。特に抗体医薬の発展に伴い、抗体を標識しその動態を評価することでその有用性を測ることができることから、タンパク質の標識は魅力のあるものとなってきている。
【0007】
現在タンパク質標識に用いられている代表的な方法としては、放射性ヨウ素のチロシン残基、ヒスチジン残基への直接標識法、Bolton-Hunter試薬などを用いたヨウ素の間接標識法等がある。また、タンパク質との結合部位と99mTc、111In、67Gaなどの放射性金属とキレートを形成する部位を持つ二官能性キレート化合物を用いた標識法がある(図1参照)。そのほか、ポジトロン放出核種である18Fを接合団を用いて結合させる標識法も少数ながら報告されている(非特許文献1及び2)。
【0008】
しかしながら、これら従来法には次のような欠点がある。まず1点目として、原料のタンパク質と標識タンパク質との分離が困難であることから比放射能が低くなることがある。2点目として、標識タンパク質に化合物が結合するため元のタンパク質とは異なる物質となり、活性を失ったり、体内の挙動が変化する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Robert R.Flavell,Paresh Kothari,Maya Bar-Dagan,Michael Synan,Shankar Vallabhajosula,Jeffrey M.Friedman,Tom W.Muir,andGiovanni Ceccarini, Journal of American Chemical Society 130,9106-9112(2008)
【非特許文献2】Mohammad Namaviri,Omayra Padilla De Jesus,Zhen Cheng,Abhijit DeErnest Kovacs,Jelena Levi,Rong Zhang,Joshua K.Hoerner,Hans Grade,Faisal A.Syud,and Sanjiv S.Gambhir, Molecular Imaging Biology 10:177-181(2008)
【非特許文献3】Chantal P.Bleeker-Rovers,Huub J.J.M.Rennen,Otto C.Boerman,Ate B.Wymenga,Eric P.Visser,Johannes H.Bakker,JoesW.Mvan der Meer,Frans H.M.Corstens,and Wim J.G.Oyen, The Journal of Nuclear Medicine 48;337-343(2007)
【非特許文献4】Milton D.Gross,Brahm Shapiro,LorraineM.Fig,Robert Steventon,Richard W.S.Skinner,and Rick V.Hay, The Journal of Nuclear Medicine 42;1656-1659(2001)
【非特許文献5】James Lee, Grace Cacalano, Tom Camerato, Karen Toy, Mark W.Moore, and William I.Wood, The Journal of Immunology 155;2158-2164(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来技術の問題点である比放射能の低下や、タンパク質の活性・構造変化をもたらすことのない、新規なタンパク質ポジトロン標識法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、発明者らはモデルタンパク質としてインターロイキン8(IL-8)を取り上げ、無細胞タンパク質合成系であるPURESYSTEM(登録商標)にL-[11C]メチオニンを加えて、[11C]IL-8の合成を試みた。タンパク質合成系には多くの物質が混在しているため、製剤化のためにはタンパク質合成後にこれを精製する必要があるが、11Cは半減期が20.4分と短いため、短時間の精製方法を検討した。
【0012】
かくして、発明者らはPURESYSTEM(登録商標)に代表される再構成された無細胞タンパク質合成系を利用してポジトロン標識タンパク質を合成することに成功した。また、合成されたポジトロン標識タンパク質をそのまま臨床応用するために、これを短時間で精製する手段も確立した。合成されたポジトロン標識タンパク質は、比放射能の低下や、タンパク質の活性・構造変化もなく、目的とする課題を満たすものであった。さらに、発明者らは、ポジトロン標識アミノ酸の合成からポジトロン標識タンパク質の合成、そして精製までを自動化したシステムを構築した。
【0013】
すなわち、本発明は、ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いて、無細胞タンパク質合成系により、ポジトロン標識タンパク質を合成する方法であって、前記無細胞タンパク質合成系が、細胞から抽出精製されたタンパク質合成に関与する因子によって再構成された系である方法に関する。
【0014】
前記方法において、標識に用いるポジトロン核種としては、例えば、11C、又は18Fを挙げることができる。
【0015】
また、ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体としては、例えば、[11C]メチオニン、[11C]メチオニン誘導体、[18F] フロロエチオニン、[18F]プロリン、又は[18F]プロリン誘導体を挙げることができる。
【0016】
1つの実施態様において、無細胞タンパク質合成系を構成するタンパク質成分である、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素が、相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされており、他方の物質が吸着体として翻訳終了後に該ラベルされたタンパク質成分を捕捉するために使用される。
【0017】
転写/翻訳のための因子・酵素としては、開始因子、延長因子、終結因子、アミノアシルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ及びRNAポリメラーゼを挙げることができる。また、反応系においてエネルギーを再生するための酵素としては、クレアチニンキナーゼ、ミヨキナーゼ及びヌクレオシドジフォスフェートキナーゼを、転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素としては、無機ピロフォスファターゼを挙げることができる。
【0018】
相互に付着し合う関係にある物質の例としては、タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せ、抗原と抗体との組合せ、タンパク質とタンパク質又はペプチド断片との組合せ、タンパク質と特定のアミノ酸、DNA、色素、ビタミン、レクチン等の低分子化合物との組合せ、タンパク質と糖との組合せ、タンパク質又はペプチド断片とイオン交換樹脂との組合せ、磁力により付着し合う関係にある物質の組合せを挙げることができる。
【0019】
前記タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せの好適な例としては、ヒスチジンタグとニッケル錯体又はコバルト錯体を挙げることができる。
【0020】
本発明の方法においては、相互に付着し合う関係にある物質を利用して、合成されたポジトロン標識タンパク質を精製することができる。
【0021】
本発明はまた、以下の構成要素を含む、ポジトロン標識タンパク質合成用キットも提供する。前記キットは、必須の構成要素として、以下の1)〜3)を含む:
1)(a)ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体、(b)ポジトロン核種と標識用アミノ酸前駆体化合物、あるいは(c)標識用アミノ酸前駆体化合物
2)非標識体標品アミノ酸
3)相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされている、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素。
上記ポジトロン標識核種の好適な例としては、半減期が比較的長い18Fを挙げることができる。
【0022】
また本発明は、ポジトロン標識タンパク質酸合成装置も提供する。前記装置は、アミノ酸又はその誘導体をポジトロン核種でラベルする手段と、ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いて再構成された無細胞タンパク質合成系によりポジトロン標識タンパク質を合成する手段と、合成されたポジトロン各種標識タンパク質を精製する手段と、を有することを特徴とする。
さらに本発明は、本発明の方法を利用したPET診断用薬剤あるいは試験用薬剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法では合成溶液中のアミノ酸群から標識アミノ酸に対応したアミノ酸を除いた溶液を用いることで簡便にポジトロン標識タンパク質を合成することができる。これにより合成タンパク質には標識アミノ酸が必ず含まれることになり、高比放射能となることが期待できる。また、本発明の方法では、タンパク質の構造を維持や活性を維持したままポジトロン標識ができる。さらに、本発明の方法は、系の自由度が高く、他の精製、分析手段と合わせて、臨床現場でポジトロン標識試薬を簡便に自動合成できるシステムとして構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、従来のタンパク質標識法であるヨウ素直接標識法と二官能性キレート化合物による標識法を示す。
【図2】図2は、従来法と本発明の方法の比較を示す。
【図3】図3は、ヒトIL-8アミノ酸配列を示す。
【図4】図4は、SDS-PAGEによるIL-8確認結果を示す。
【図5】図5は、ウエスタンブロッティングによるIL-8合成確認結果を示す。
【図6】図6は、SDS-PAGEオートラジオグラフィーでの[11C]IL-8合成確認結果を示す。
【図7】図7は、L-[11C]メチオニンを用いて[11C]IL-8を合成したときの、各合成時間における[11C]IL-8の放射線量の予測結果を示す。
【図8】図8は、L-[11C]メチオニンを用いた[11C]IL-8の合成時間を示す。
【図9】図9は、L-[11C]メチオニン及び[18F]プロリンの合成方法を示す。
【図10】図10は、[11C]IL-8のNiアフィニティー精製結果を示す。
【図11】図11は、[11C]IL-8の強陽イオン交換スピンカラム精製結果(蛍光検出)を示す。
【図12】図12は、[11C]IL-8の陽イオン交換スピンカラム精製結果(オートラジオグラフィー)を示す。
【図13】図13は、ポジトロン標識タンパク質合成・精製トータルシステムを示す。
【図14】図14は、[19F]プロリンによるIL-8の合成結果(DTTの違いによる合成の検討)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、ポジトロン標識アミノ酸を用いて、再構成された無細胞タンパク質合成系により、ポジトロン標識タンパク質を合成する方法に関する。
【0026】
1. ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体
(1)ポジトロン核種
ポジトロンとは、正電荷をもった電子のことで、このポジトロンを放出する元素(放射性同位元素)のことを、「ポジトロン核種」と言う。ポジトロン核種としては、11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、82Rb等がある。これらのうち、一般的に後述するPET診断に用いられるのは、11C、13N、15O、18Fであり、いずれも半減期が極めて短いため通常は利用施設内のサイクロトロン装置で製造されるが、18Fについては、利用施設とは異なる施設のサイクロトロンで製造し、利用施設にデリバリーされることもある。
【0027】
(2)ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体
本発明では、上記ポジトロン核種で標識したアミノ酸あるいはアミノ酸誘導体を用いる。本発明で用いられるポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体は、11C、13N、15O、18F等のポジトロン核種を用いて標識されたアミノ酸又はその誘導体であれば、特に限定されないが、半減期の長さを考慮した場合、一般的にPET用標識薬剤合成で汎用される、11Cあるいは18F標識アミノ酸が好ましい。具体的には、11C標識アラニン、11C標識メチオニン等が挙げられる。
【0028】
アミノ酸誘導体としては、本発明の目的を損なわない限り特に限定されず、アシル化RCH(NH2)CO-、アミド化RCH(NH2)CONH2、エステル化RCH(NH2)CH2OH、アミノアルデヒドRCH(NH2)CHO、メチル化、エチル化RCH(COOH)NH-あるいはRCH(NH2)COO-、フッ素化、フロロアルキル化等を挙げることができる。具体的には、18F標識フロロエチオニン、18F標識プロリン等を挙げることができる。
【0029】
【化1】
【0030】
上記ポジトロン標識アミノ酸は、市販のものを用いてもよいし、常法にしたがい調製してもよいが、半減期が短いため使用現場で用事調製することが望ましい。メチオニン誘導体(S-(2-[18F]fluoroethyl)-L-Homocysteine)の合成については、Ganghua Tang,et al., “Fully automated synthesis module for preparation of S-(2-[18F]fluoroethyl)-L-methionine by direct nucleophilic exchange on a quaternary 4-aminopyridinium resin”, Nuclear Medicine and Biology (2003), 30, 509-512.を参照することができる。また、プロリン誘導体(cis-4-Fluoro-L-proline、trans-4-Fluoro-L-proline)については、Kurt Hamacher, “Synthesis of N.C.A. cis- and trans-4-[18F]fluoro-l-proline, radiotracers for PET-investigation of disordered matrix protein synthesis”, Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals (1999), 42, 1135-1144.を参照することができる。
【0031】
2. 無細胞タンパク質合成系
(1)再構成された無細胞タンパク質合成系
無細胞タンパク質合成系とは、生物を用いた組換えタンパク質発現とは異なり、細胞を使用せずに試験管内で転写・翻訳という一連のタンパク質合成の流れを行う合成系である。無細胞タンパク質合成系は、細胞にとって毒性となるタンパク質を生産できるという利点がある。
【0032】
通常の無細胞タンパク質合成系では、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球などを破砕し、膜成分を遠心分離で除いた細胞抽出液を使用する。しかし、これらの無細胞のタンパク質合成系には、ATPを加水分解する酵素などの混在によりタンパク質合成以外に無駄に消費されるエネルギー量が多く、エネルギー効率が悪い、細胞抽出液中に存在するプロテアーゼやヌクレアーゼなどの阻害因子によりンパク質合成の効率が低下するという問題点がある。
【0033】
本発明で用いられる「再構成された無細胞タンパク質合成系」とは、粗抽出液を用いることなく、タンパク質合成に関与するすべての因子を精製し、それらをリボソーム、ATP、tRNA、アミノ酸などとともに再構成して作成された無細胞タンパク質合成系である。そのため、細胞抽出液中に存在するような阻害的要因の問題がなく、また構成成分を自由に操作することができるため、目的や標的タンパク質に応じた自由なシステム設計が可能である。また系の自由度が高いことから、反応系を微小化したり、自動化装置と組み合わせてハイスループットにすることが可能である。
【0034】
つまり、「再構成された無細胞タンパク質合成系」では、通常のアミノ酸に替えてポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いるだけで、高い合成効率でポジトロン標識タンパク質を得ることができる。
【0035】
無細胞タンパク質合成系を構成するタンパク質成分、例えば、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素、転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素は、それぞれタグを付けて(ラベルして)別々に調製されることが好ましい。そして、各タンパク質成分は、相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされ、他方の物質を吸着体として用いることにより、翻訳終了後に当該タンパク質成分を捕捉できるようになっていることが好ましい。これにより、目的とするポジトロン標識タンパク質合成後、系のタンパク質成分はアフィニティークロマトグラフィー等により除去することができる(特開2003-102495参照)。
【0036】
相互に付着し合う関係にある物質としては、タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せ、抗原と抗体との組合せ、タンパク質とタンパク質又はペプチド断片との組合せ、タンパク質と特定のアミノ酸、DNA、色素、ビタミン、レクチン等の低分子化合物との組合せ、タンパク質と糖との組合せ、タンパク質又はペプチド断片とイオン交換樹脂との組合せ等を挙げることができる。上記したタンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せとしては、ヒスチジンタグとニッケル錯体又はコバルト錯体を挙げることができる。また、相互に付着し合う関係にある物質は、磁力により付着し合う関係にあってもよい。
【0037】
転写/翻訳のための因子・酵素としては、開始因子、延長因子、終結因子、アミノアシルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ及びRNAポリメラーゼ等を挙げることができる。また、反応系においてエネルギーを再生するための酵素としては、クレアチニンキナーゼ、ミヨキナーゼ及びヌクレオシドジフォスフェートキナーゼ等を挙げることができる。転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素としては、無機ピロフォスファターゼ等を挙げることができる。
【0038】
「再構成された無細胞タンパク質合成系」の一例としてPURESYSTEM(登録商標)を挙げることができる。PURESYSTEM(登録商標)は大腸菌の抽出精製されたリボソーム、アミノ酸、NTP、転写/翻訳のための因子・酵素から再構成されている。PURESYSTEM(登録商標)では、リボソームタンパク質以外のすべてのタンパク質成分がヒスチジンタグで別々にタグ付けされている。合成終了後、リボソームタンパク質は限外濾過により除去され、他のタンパク質成分はヒスチジンタグ付加因子を利用して、アフィニティークロマトグラフィーにより除去される。
【0039】
PURESYSTEM(登録商標)は大腸菌から再構成されているが、無細胞タンパク質合成系で用いられる他の公知の細胞、昆虫細胞、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球のいずれを用いても、同様の系は構成可能である。
【0040】
3. 無細胞タンパク質合成系によるポジトロン標識タンパク質の合成
(1)標識アミノ酸又はその誘導体の合成
まず、ポジトロン標識アミノ酸やその誘導体を合成する。図9に、L-[11C]メチオニンと、[18F]プロリンの合成例を示した。理論的には、同様にして、公知の方法にしたがい、他のポジトロン標識アミノ酸やその誘導体も合成することができる。また、L-[11C]メチオニンの合成例に示すよう、いくつかの可能な方法のうち、より合成効率(標識率)の高い方法を用いることが望ましい。
【0041】
標識アミノ酸やその誘導体の合成は、後述するポジトロン標識タンパク質自動合成システム構築のため、自動化することが望ましい。
【0042】
(2)無細胞タンパク質合成系によるポジトロン標識タンパク質の合成
本発明で用いられる再構成された無細胞タンパク質合成系では、系の構成成分を自由に操作することができる。したがって、理論的には、通常のアミノ酸に代えてポジトロン標識されたアミノ酸やその誘導体を系に添加するたけで、ポジトロン標識タンパク質の合成が可能である。
【0043】
後述する実施例では、PURESYSTEM(登録商標)を用いて、目的とするポジトロン標識タンパク質が合成可能であることを、L-11Cメチオニンと19Fプロリンを用いて示した。なお、[19F]プロリンの19Fは安定同位体であるが、同一化学構造で19Fが18Fに置き換わった[18F]プロリン(ポジトロン標識アミノ酸)の合成方法は公知となっており、その合成に使用する標識前駆体も市販されるなど、[18F]プロリンは容易に合成できる環境にあるため、実施例で成功している[19F]プロリンを用いたIL-8合成の場合と同様に、[18F]プロリンを用いたIL-8の合成も容易に達成できる(図9、Kurt Hamacher前掲参照)。
【0044】
(3)ポジトロン標識タンパク質の精製
ポジトロン核種はいずれも半減期が短いため、精製は短時間で行う必要がある。精製手段は、合成されたポジトロン標識タンパク質、ポジトロン標識に用いるアミノ酸やその誘導体に応じて、適宜公知の方法から選択される。
【0045】
IL-8のようにアルカリ側に等電点を持つタンパク質の場合は、後述するように、無細胞タンパク質合成溶液に含まれるタンパク質の多くは等電点(pI値)が酸性側に傾いているため、陽イオン交換カラムを用いて好適に精製される。イオン交換カラムを用いた精製方法は、活性を維持した状態でタンパク質を安全に精製できるという点で、望ましい方法である。
【0046】
用いられる陽イオン交換樹脂は、ポジトロン標識に用いるアミノ酸やその誘導体、合成されるタンパク質に応じて適宜選択され、強陽イオン交換樹脂であっても、弱陽イオン交換樹脂であってもよい。陽イオン交換樹脂に使用される固体マトリクスとしては、Source(登録商標)S(Pharmacia Biotech)、Sepharose(登録商標)SP-Fast Flow、Sepharose(登録商標)SP-High Performance、Sp Sepharose(登録商標)XL(Pharmacia Biotech)、Fractogel(登録商標)S(Merck,Darmstadt)、Mustang(登録商標)S(Pall Corporate)、CM Sepharose(登録商標)FF(Pharmacia Biotech)、Dowex(登録商標)、Bio-Rad(登録商標)AG(Bio-Rad)、Poros(登録商標)S(PerSeptive Biosystems)、Shodex(登録商標)-S、Toyopearl(登録商標)SP(Tosohass)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0047】
無細胞タンパク質合成系で用いられるタンパク質成分は、相互に付着し合う関係にある物質によってラベルされているため、これを利用して、アフィニティーカラムによる精製も可能である。但し、被曝量が少なく短時間で処理できるように配慮しなければならない。
【0048】
上記した方法のほか、抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィー、分子排除クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等も、本発明の目的と効果を損なわない範囲において、合成されたポジトロン標識タンパク質の特性に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0049】
後述するIL-8のジトロン標識については、アフィニティークロマトグラフィーよりも、陽イオン交換カラムを用いたHPLCのほうが好適な結果を示したが、精製方法は目的とするタンパク質に応じて適宜最適なものを選択すればよい。
【0050】
4. ポジトロン標識タンパク質合成用キット
本発明では、ポジトロン標識タンパク質合成用キットも提供する。キットは、必須の構成要素として、ポジトロン標識アミノ酸合成のための標識用前駆体化合物(標識用アミノ酸合成用前駆体化合物)を含み、その標識用前駆体化合物の標識化に適したポジトロン核種も一緒に含んでいても良い。標識用前駆体化合物としては、例えば18F標識アミノ酸の場合、アミノ酸の官能基の一部に保護基を付加し、脱離基を構築したもの([化2]参照)などが挙げられるが、ポジトロン核種標識アミノ酸又はその誘導体合成のための前駆体となる化合物であればとくに限定されない。例えば18F標識用前駆体化合物(N-Boc-trans-4-tosyloxy-L-proline methyl ester(cis-4-Fluoro-L-prolineの標識前駆体)、N-Boc-cis-4-tosyloxy-L-proline methyl ester(trans-4-Fluoro-L-prolineの標識前駆体):[化2]及びKurt Hamacher前掲参照))と18Fを、標識用前駆体化合物とポジトロン核種としてキットは含むことができる。上記に代えて、キットはあらかじめ標識されたアミノ酸、例えば、[18F]プロリンを含んでいてもよい。
【0051】
【化2】
【0052】
本発明のキットは、さらに非標識体標品アミノ酸(標識されていないアミノ酸)、及び相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされている、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素を含む。
【0053】
ここで、転写/翻訳のための因子・酵素としては、開始因子、延長因子、終結因子、アミノアシルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ及びRNAポリメラーゼを挙げることができる。また、反応系においてエネルギーを再生するための酵素としては、クレアチニンキナーゼ、ミヨキナーゼ及びヌクレオシドジフォスフェートキナーゼを挙げることができる。さらに、転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素としては、無機ピロフォスファターゼを挙げることができる。
【0054】
本発明のキットは、上記した構成要素のほか、ポジトロン標識タンパク質合成と精製に必要な他の成分、例えば、リボソーム、ATP、tRNA、緩衝液、その他必要な試薬等を適宜含んでいてもよい。
【0055】
5. ポジトロン標識タンパク質合成用システム
本発明はまた、ポジトロン標識タンパク質合成用システムも提供する。このシステムは、アミノ酸をポジトロン核種でラベルする手段と、ポジトロン標識アミノ酸を用いて再構成された無細胞タンパク質合成系によりポジトロン標識タンパク質を合成する手段と、合成されたポジトロン各種標識タンパク質を精製する手段とを有する。
【0056】
本発明のシステムの一例を、図13に示した。装置は、合成者が被爆することがないよう、自動合成システムとして構築される。システムでは、ポジトロン標識アミノ酸合成装置でポジトロン標識アミノ酸を合成して、無細胞タンパク質合成装置でPCR産物あるいはプラスミドを用いてポジトロン標識タンパク質に変換させる。その後簡易精製装置とHPLCを組み合わせて、ヒトに投与可能な精製されたポジトロン標識タンパク質を自動合成する。
【0057】
6. PETへの応用
PET診断ではポジトロンを放出する核種が組み込まれた放射性薬剤を、静脈注射あるいは吸入により投与し、放出される放射線を検出することで、薬剤の体内分布を経時的に画像化する。この方法は、診断のみならず、新薬の体内動態評価といった創薬研究の分野にも利用可能である。
【0058】
本発明の方法を用いれば、比放射能の高い診断薬や新薬を、注射剤として利用可能な精製された状態で、簡便に自動合成することができる。したがって、本発明の方法は、そのようなPET診断用薬剤あるいは試験用薬剤の製造方法として利用できる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1:L-[11C]メチオニン標識IL-8の合成
本実施例で合成したタンパク質はヒトIL-8である。IL-8は分泌タンパク質であり、シグナルペプチドと呼ばれるN末端からのアミノ酸配列を切り離して小胞体から分泌される。今回用いたテンプレートDNAはシグナルペプチドを除き、このN末端に開始アミノ酸であるメチオニンを加えたIL-8が合成されるように設計されたものを用いた。このアミノ酸配列を図3と配列表の配列番号1に示す。今回合成したIL-8にはL-メチオニンが一つ含まれており、ここにL-[11C]メチオニンが組み込まれることにより標識される。
【0061】
本実施例では、まずタンパク質合成溶液に非標識L-メチオニンを加えて合成を行い、IL-8が合成できているかポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウエスタンブロッティングで確認した。その後L-[11C]メチオニンを加えた合成を行い、[11C]IL-8が合成できているかSDS-PAGE、オートラジオグラフィーにより確認した。その後合成時間の検討を行った。
【0062】
<方法及び材料>
1.溶液調製
1 M Tris-HCl(pH 6.8):
Tris 60.57 gを蒸留水300 mlに加え、HClでpH 6.8に調製し、500 mlにメスアップした。
【0063】
2×sample buffer:
10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)4 ml、glycerol2 ml、1 M Tris-HCl(pH 6.8)、1%bromo phenol blue 0.2 ml、蒸留水1.55 mlを混合した。
【0064】
2×sample buffer(+2-ME):
2×sample buffer 190 μlと2-mercapto ethanol 10 μlを混合した。(用時調製)
【0065】
running buffer (0.1 %SDS):
tris 3 g、Glycine 14.4 g、SDS 1 gをとり、1000 mlにメスアップした。
【0066】
25 mM HEPESバッファー(pH7.6):
HEPES 0.596 gを蒸留水50 mlに溶解し、0.1 M NaOH 約15 mlを加えpH 7.6とした。蒸留水を加え100 mlにメスアップした。
【0067】
2.L-[11C]メチオニン合成
以下の二つの方法でL-[11C]メチオニンを合成した。
(1)L-ホモシステインチオラクトン塩酸塩を前駆体とした合成
1 MNaOH:EtOH=1:1の溶液1 mlにL-ホモシステインチオラクトン塩酸塩 15 mgを加えて溶解し、この0.4 mlをSep-Pac Plus C18カートリッジ(waters)に注入した。ここに11Cヨウ化メチルを通し捕集した。0.5%酢酸でカートリッジから洗い出し、エバポレーターで減圧乾固した。ここに滅菌蒸留水を加え溶解させ、L-[11C]メチオニン溶液とした。
【0068】
(2)L-ホモシステインを前駆体とした合成
L-ホモシステイン1 mgに0.2 M NaOH 60 μlを加え溶解した。この54 μlを合成容器に取り、ここに[11C]メチルトリフレートをバブリングした。0.2 M Na2HPO4 71 μlで中和しL-[11C]メチオニン溶液とした。
【0069】
3.[11C] IL-8合成確認
(1)IL-8合成確認
1.5 mlチューブに以下の表のように溶液を混合した(単位は全てμl)。
【表1】
【0070】
混合液を37 ℃、1時間インキュベーションし、その後それぞれの混合液に50 mg/mlのRNase(QIAGEN)0.4 μlを加えた。それぞれの混合液50 μlを限外ろ過膜YM-100(MILLIPORE)にロードし、10,000×g、5分遠心した。
【0071】
YM-100ろ液10 μlと、マーカーであるPrecision Plus Dual color(Bio-Rad)10μlをとり、それぞれに2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gel(Perfect NT Gel 20 well:DRC)にロードし、300 V、500 mAで50分泳動した。泳動後、7.5%酢酸100 mlにSYPROred(Invitrogen)20 μlを加え、ここにゲルを浸して40分振とうした。その後7.5%酢酸でゲルをゆすぎ、FLA-2000で蛍光検出した。ゲルをCoomassie Brilliant Blue溶液に浸し20分振とうし、洗浄液で10分振とうを2回行い、2.5% glycerolに浸し1日振とうした。その後ゲルをOHPシートにはさみスキャナーで読み取った。
【0072】
(2)ウエスタンブロッティング
1.5 mlチューブに以下の表のように溶液を混合した(単位は全てμl)。
【表2】
【0073】
混合液を37℃、1時間インキュベーションし、その後それぞれの混合液に50 mg/mlRNase(QIAGEN)0.4 μlを加えた。
【0074】
それぞれの混合液10 μlとマーカー10 μlをとり、それぞれに2×sample buffer(+2-ME) 10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDSgradient gel、300 V、500 mAの条件で50分泳動した。ゲルをtransfer bufferに浸し15分振とうした。メタノール、transfer bufferに浸したPVDF膜にゲルを重ね、これをろ紙で挟んで25 V、400 mAで30分transferした。PVDF膜をTBS-Tで5分洗浄を2回行い、0.3%スキムミルクに浸して30分ブロッキングした。IL-8一次抗体(MBL)20 μlを0.3%スキムミルク20 mlで希釈し、ここにPVDF膜を1時間浸した。TBS-Tで10分洗浄を3回行い、スキムミルク40 mlで希釈したHRP抱合抗ラビット二次抗体(PIERCE)に40分浸した。TBS-Tで5分洗浄を5回行い、HRP基質(MILLIPORE)に浸した後、化学発光をLAS-1000で検出した。
【0075】
(3)L-[11C]メチオニンを用いた[11C]IL-8合成
L-ホモシステインチオラクトンを前駆体としてL-[11C]メチオニンを合成した。
次に1.5 mlチューブに以下の表のように溶液を混合した(単位は全てμl)。
【表3】
【0076】
混合液を37℃、1時間インキュベーションし、その後それぞれの混合液に50 mg/ml RNase 0.4 μlを加えた。それぞれの混合液38 μlをYM-100にロードし、10,000×g、5分遠心した。
【0077】
残った混合液、YM-100ろ液、マーカーをそれぞれ10μlをとり、それぞれに2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gelを用い、300 V、500 mAの条件で50分泳動した。
【0078】
11Cメチオニン溶液の1、2、4、8、16倍の希釈系列を調製し、その1 μlをゲルにスポットした。マーカーをL-[11C]メチオニン溶液でなぞり、ゲルをイメージングプレート(FUJIFILM)に30分コンタクトさせた後、BAS-5000で検出した。その後SYPROred染色し、FLA-2000で検出した。
【0079】
(4)IL-8合成時間検討
滅菌蒸留水10.67 μl、Sol.A 25 μl、Sol.B 10 μl、10 mM L-メチオニン1.5 μl、Lys 0.33 μl、IL-8plasmid 2.5 μl(計50 μl)を1.5 mlチューブに混合し、これを6本用意した。これらを37℃でインキュベーションし、10分、20分、30分、40分、50分、60分毎に1本のチューブにRNase 0.4 μlを加え反応を終了させた。
【0080】
それぞれの合成液10 μlに2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gel、300 V、500 mAの条件で45分泳動した。
【0081】
泳動後のゲルをFLA-2000で蛍光検出し、IL-8由来のバンドをimageJで関心領域を設定し定量した。
【0082】
(5)[11C]IL-8合成時間検討
Sol.A 200 μl、Sol.B 80 μl、 L-[11C]メチオニン100 μl、IL-8plasmid 20 μl(計400 μl)を1.5 mlチューブに混合し、これを6本用意した。これらを37℃でインキュベーションし、反応時間10分、20分、30分、40分、50分、60分でRNase 4 μlを加えることで反応を終了させた。
【0083】
各合成液400 μlを実施例2の「3.[11C]IL-8精製(図12)」と同様の条件で強陽イオン交換スピンカラムにロードし精製後、この溶液の放射線量をガンマカウンタで測定した。この値を精製時間30分とした場合の精製終了時に減衰補正した。
【0084】
(6)L-[11C]メチオニン合成法による[11C]IL-8合成への影響
L-ホモシステイン、L-ホモシステインチオラクトン塩酸塩によりL-[11C]メチオニンを合成した。これらの溶液から[11C]IL-8を合成し、実施例2の「3.[11C]IL-8精製(図12)」と同様の条件で合成液400 μlを強陽イオン交換スピンカラムにロードし精製後、精製溶液の放射線量をガンマカウンタにより測定した。
【0085】
それぞれの合成液、精製液を電気泳動し、このイメージングプレート検出結果から強陽イオン交換スピンカラム回収率を関心領域をとりデンシトメトリーにより求めた。これとガンマカウンタ測定値より合成液400 μl中全[11C]IL-8放射線量を求めた。この値と合成液に加えたL-[11C]メチオニンの放射線量から標識率を求めた。
【0086】
<実験及び結果>
1.IL-8の合成と合成確認
まずPURESYSTEM(登録商標)(ポストゲノム研究所:特開2003-102495号参照)を用いて、L-メチオニンを用い、テンプレートDNAを加えてタンパク質合成を行い、SDS-PAGEによりIL-8を確認した(図4)。ジヒドロ葉酸還元酵素DHFRは以前にPURESYSTEM(登録商標)での合成が確認されており、ポジティブコントロールとして合成した。
【0087】
図4の1,2レーンの10 kDaにバンドが見られ、5〜8レーンにはこの位置にバンドが見られなかったことから、分子量と合わせてこのバンドがIL-8であると考えられた。このことを確かめるためにウエスタンブロッティングを行った(図5)。
【0088】
plasmid、PCR産物での合成において、どちらも図4で見られた約10 kDaのバンドを確認でき、そのバンドがIL-8であることが確認できた。またウエスタンブロッティングではPCR産物でもIL-8が合成されていることが確認できた。PCR産物ではIL-8の合成量が低くCBB染色での検出限界に達せず、バンドが確認できなかったと思われた。
【0089】
2.[11C]IL-8の合成と合成確認
次にL-メチオニンの代わりにL-[11C]メチオニンを用いて、IL-8テンプレートDNAをタンパク質合成溶液に加えて、[11C]IL-8が合成できるか確認した。合成後の溶液をSDS-PAGEで泳動し、オートラジオグラフィーで放射性物質を検出した(図6)。
レーン1,2の10 kDa付近にバンドが確認でき、ウエスタンブロッティングの結果と合わせて、[11C]IL-8が合成されていることが確認できた。
【0090】
3.合成時間の検討
ポジトロン放出核種を用いることから、最も高い放射能を得るために合成時間と合成収率の関係を知る必要がある。そこで、L-メチオニンからIL-8を合成し、10分毎にRNaseを加えて合成を終了させそれぞれの合成量を算出することで、最適な合成時間を検討した。
【0091】
(1)IL-8合成時間検討
IL-8合成量はSDS-PAGEにより泳動したゲルを蛍光検出し、バンドの濃さをデンシトメトリーで解析することで求めた。求めた合成量から合成時間分の[11C]の減衰を補正し、それぞれの合成時間における[11C]IL-8の放射線量を予測した(図7)。合成量は相対値で示した。
【0092】
その結果、[11C] IL-8放射能のグラフより、L-[11C]メチオニンを用いた合成では合成時間20分で最も多く放射能量を得られることが予測された。
【0093】
(2)[11C]IL-8合成時間検討
次にL-[11C]メチオニンを用いて実際に[11C]IL-8合成時間を検討した。
6本の合成液を用意し、合成開始から10分毎に1本の合成溶液にRNaseを加え反応を終了させ、60分までこれを行った。陽イオン交換スピンカラム精製後の溶液をガンマカウンタで測定した。放射能量は精製30分としたときの精製後の値である(図8)。
【0094】
図8より、合成20分において最も高い放射能量を得られる(6.61 MBq/400μl合成液)ことがわかった。
【0095】
4. L-[11C]メチオニン合成法の[11C]IL-8合成量への影響
本実施例では、2種類の合成法でL-[11C]メチオニンを用意し[11C]IL-8を合成した。合成方法の概略を図9と下記に示す。
【0096】
【化3】
【0097】
上の反応は、臨床用にL-[11C]メチオニンを供給する際の自動合成装置を用いた合成法であり、まずこの方法でL-[11C]メチオニンを合成した。しかしこの合成法ではL-[11C]メチオニン合成後溶液中にClイオンが含まれることとなる。タンパク質合成の際、Clイオンの混入は合成量の低下を招くため、Clイオンが混入しないような合成法として、下の合成法を試みた。
【0098】
また、上の合成法では、反応終了後溶液を乾固し、これを約1 mlの滅菌蒸留水に溶解させる。これに対し、下の合成法では、60 μlの0.2 M NaOH水溶液に溶解させた前駆体に[11C]メチルトリフレートをバブリングさせることでL-[11C]メチオニンを合成する。後者は溶媒が少量のため、前者を用いた合成よりも濃度の高いL-[11C]メチオニン溶液を用意することができる。
【0099】
2種類の[11C]メチオニン合成法での[11C]IL-8標識合成の結果を比較した(表4)。ホモシステインチオラクトンについては同様の実験を2回実施した。表4に示されるように、ホモシステインチオラクトンを前駆体とするほうが、標識率は高かった。
【表4】
【0100】
実施例2:[11C]IL-8の精製
合成後の溶液中には合成されたタンパク質の他に無細胞タンパク質合成溶液由来の夾雑物が多く含まれている。トレーサーとして本標識法で得た標識タンパク質を用いる場合、夾雑物の混入が合成タンパク質の動態に影響を与える可能性があるため、これらを除去する必要がある。また、標識タンパク質以外に放射性物質が含まれている場合、イメージングの際どの物質由来の放射能かわからなくなるため、放射化学的純度が高いことが必要となる。さらに今回は半減期20.4分の11Cを用いることから、迅速な精製が求められる。
【0101】
本実施例では、1.Niアフィニティー樹脂による精製、2.陽イオン交換スピンカラムによる精製法を検討した。
【0102】
<方法及び材料>
1.Niアフィニティー樹脂による精製
・Niアフィニティー樹脂:Ni-NTA Agarose(QIAGEN)
滅菌蒸留水106.7 μl、Sol.A 250 μl、Sol.B 100 μl、10 mM L-メチオニン15 μl、Lys 3.3 μl、IL-8 plasmid 25 μlを1.5 mlチューブに混合し、37℃、1時間インキュベーションし、ここに50 mg/ml RNase 4 μlを加えた。4本のYM-100それぞれに合成終了溶液50 μlをロードし、10,000×g、5分遠心した。3本の2 ml丸底チューブそれぞれにこのろ液40 μlを移し、下のような条件でNiアフィニティー精製を行った。
【表5】
【0103】
吸着後の溶液をそれぞれエンプティーカラムにロードし、1500×g、1分遠心し、この10 μlを泳動サンプルとした。
合成液、YM-100ろ液、マーカー各々10 μlに対し2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gel、300 V、500 mAの条件で45分泳動した。
泳動後、7.5%酢酸100 mlにSYPROred 20 μlを加え、ここにゲルを浸して40分振とうした後、FLA-2000で蛍光検出した。
【0104】
2.強陽イオン交換スピンカラム精製(図11)
・強陽イオン交換スピンカラム:Vivapure S Mini H(Vivascience)
滅菌蒸留水220 μl、Sol.A 500 μl、Sol.B 200 μl、10 mM L-メチオニン30 μl、IL-8 plasmid 50 μlを1.5 mlチューブに混合し、37℃、1時間インキュベーションした。
【0105】
強陽イオン交換カラムにpH 7.6のHEPESバッファー400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し、平衡化した。ここに合成液400 μlをロードし、1500×g、5分遠心した(泳動サンプル-flow-through)。0.1 M NaCl HEPESバッファー 400μlをロードし、1500×g、5分遠心し(泳動サンプル-wash)、その後0.5 M NaCl HEPESバッファー 400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し吸着タンパク質を溶出させた(泳動サンプル-elution)。
【0106】
合成液、強陽イオン交換スピンカラム泳動サンプル、マーカー各々10 μlに対し2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95 ℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gelを用い、300 V、500 mAの条件で45分泳動した。
泳動後、7.5%酢酸100 mlにSYPRO red 20 μlを加え、ここにゲルを浸して40分振とうした後、FLA-2000で蛍光検出した。
【0107】
3.[11C]IL-8精製(図12)
L-ホモシステインを前駆体としてL-[11C]メチオニンを合成した。
滅菌蒸留水137.5 μl、Sol.A 375 μl、Sol.B 150 μl、L- [11C]メチオニン50 μl、IL-8 plasmid 37.5 μlを1.5 mlチューブに混合し、37℃、20分インキュベーションした。
【0108】
強陽イオン交換カラムにpH 7.6のHEPESバッファー400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し、平衡化した。ここに合成液400 μlをロードし、1500×g、5分遠心した(泳動サンプル-flow-through)。0.1 M NaCl HEPESバッファー 400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し(泳動サンプル-wash)、その後0.5 M NaCl HEPESバッファー 400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し吸着タンパク質を溶出させた(泳動サンプル-elution)。溶出液390 μlを限外ろ過膜YM-50(Millipore)にロードし10000×g、8分遠心し、膜を逆さにして10000×g、30秒遠心し残渣を回収した(泳動サンプル-限外ろ過)。
【0109】
合成液、泳動サンプル、マーカーそれぞれ10 μlをとり、それぞれに2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDSgradient gel、300 V、500 mAの条件で45分泳動した。
【0110】
マーカーの各バンドをL-[11C]メチオニン溶液でなぞり、ゲルをイメージングプレートに60分間コンタクトさせた後、BAS-5000で検出した。陽イオン交換スピンカラム精製後、限外ろ過YM-50精製後各々のレーンにおいて[11C]IL-8、L-[11C]メチオニン、合成ミス[11C]IL-8のバンドに関心領域をとりデンシトメトリーで測定し、放射化学的純度を求めた。
※放射化学的純度=100×[11C]IL-8 /([11C]IL-8+ L-[11C]メチオニン+合成ミス[11C]IL-8)
【0111】
<実験及び結果>
1.Niアフィニティー樹脂による精製
PURESYSTEM(登録商標)の特徴として、転写、翻訳及びエネルギー生成に必要なタンパク質因子全てにヒスチジンタグがついていることが挙げられる。よってNiアフィニティー樹脂にヒスチジンタグが吸着することで、系内に大量に含まれているヒスチジンタグつきタンパク質を取り除くことができる。
【0112】
ただし、リボソームにヒスチジンタグはついておらず、またアミノ酸はNi樹脂に吸着しないため、これらをNiアフィニティー精製とは別の方法で精製する必要がある。
そこでリボソームを限外ろ過で膜にトラップさせ、その後Niアフィニティー精製によりタグ付タンパク質を取り除くことにした(図10)。
【0113】
レーン3、4、5がNiアフィニティー精製後の溶液を泳動した結果である。それぞれのレーンは精製の方法を変えており、レーン3がNi樹脂と1時間インキュベーションした結果、レーン4、5はNi樹脂と5分間ボルテックスし続けて精製した結果である。3レーンのどれも他のバンドが見られるが、IL-8の精製はほぼできていることがわかった。しかし、それぞれの方法の問題として、レーン3の方法では時間がかかってしまうこと、レーン4、5の方法ではチューブを手で持って5分間ボルテックスを行わなければならず、被曝量が多くなってしまうことがある。従ってポジトロン放出核種を用いた標識合成においてNiアフィニティー精製を行うことはできなかった。
【0114】
2.強陽イオン交換スピンカラムによる精製
IL-8は等電点が8.6であり、対して無細胞タンパク質合成溶液に含まれるタンパク質の多くは等電点が酸性側に傾いている。この違いを利用して、陽イオン交換スピンカラムによる精製を検討することにした。
【0115】
本実施例で使用したpH 7.6のHEPESバッファー中ではIL-8はプラスに帯電している。よってIL-8はカラムにトラップされ、等電点の低いタンパク質は溶出される。溶出バッファーとして0.5 M NaCl HEPESバッファーを通すことによりトラップされたIL-8を溶出した。精製の確認をSDS-PAGEにより行った(図11)。
【0116】
4レーンが精製後の溶液を泳動した結果である。IL-8の他にも若干タンパク質が見られるが、合成液を泳動したレーンと比べれば大方の精製ができたといえる。弱陽イオン交換スピンカラムでも試しており、ほぼ同様の精製結果を得ている。
【0117】
次に、[11C]メチオニンでの[11C]IL-8合成後、強陽イオン交換スピンカラムを用いた精製による放射化学的純度を求めた。合成液の中には放射性物質として、[11C]メチオニン、未完成[11C]IL-8、[11C]IL-8が存在しており、この中から[11C]IL-8のみを精製しなければならない。今回は陽イオン交換スピンカラム精製の後、さらに[11C]メチオニンを取り除くために限外ろ過精製を行った。SDS-PAGE、オートラジオグラフィーの結果を図12に示す。
【0118】
陽イオン交換スピンカラムのみでの精製では、87.6-90.5%、陽イオン交換スピンカラムの後、さらに限外ろ過精製を行うことで96.6-97.6%の放射化学的純度を得ることができた。
【0119】
実施例3:[19F]プロリンを用いた[19F]IL-8合成
1.[19F]プロリンの入手:
[19F]IL-8合成で使用する[19F]プロリンについては、市販品(ABX社製、cis-4-Fluoro-L-proline)を購入して使用した。
【0120】
2.[19F]プロリンによるIL-8タンパク質合成:
非標識プロリンを除いた無細胞系合成キット(ポストゲノム社製)でプロリン(Lane 1, 4)、[19F]プロリン(Lane 2, 5)を加えて合成した。IL-8の合成を確認できた。Lane 3, 6は非標識メチオニンを除去した無細胞系合成キットでメチオニンを添加して合成した。IL-8はプラスミド、PCR産物を用いている。
【0121】
結果を図14に示す(レーン1:Pro+IL-8(plasmid)、レーン2:F-Pro+IL-8(plasmid)、レーン3:Met+IL-8(plasmid)、レーン4:Pro+IL-8(PCR)、レーン5:F-Pro+IL-8(PCR)、レーン6:Met+IL-8(PCR)、レーン7:Pro+temp(-)、レーン8: F-Pro+temp(-)、9: Met+temp(-)、10:Pro+IL-8(plasmid)、レーン1,2,4,5,7,8,10:Pro-キット、レーン3,6,9:Met-キット(Pro-キット(非標識プロリンを除いた無細胞系合成キット)、Met-キット(非標識メチオニンを除去した無細胞系合成キット))。レーン1〜9は新たに調製したDTT、レーン10はこれまで使っていたDTT(二度解凍、再凍結)を用いた。レーン1〜3でIL-8の合成が確認できたが、レーン10では合成できなかった。これは、溶解再凍結によってDTTの還元力が低下したためと思われた。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、比放射能の低下やタンパク質の活性・構造変化を生じることなく、ポジトロン標識タンパク質を簡便に合成することができる。本発明の方法によって得られるポジトロン標識タンパク質は、PETを利用した診断や新薬の体内動態評価といった創薬研究の分野において有用である。特に高非放射能ポジトロンタンパク質が必要とされるマイクロドーズ臨床試験等においてきわめて有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明はポジトロン核種によるタンパク質標識方法に関する。より詳細には、再構成された無細胞タンパク質合成系を利用したポジトロン標識アミノ酸によるタンパク質標識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Positron Emission Tomography(PET)による画像診断、薬剤の体内動態の評価が盛んに行なわれている。PETは、陽電子放射断層撮影の意味で、X線CTのような装置でポジトロンを検出することで、心臓や脳などのはたらきを断層画像としてとらえ、病気の原因や状態を的確に診断する。
【0003】
PET診断ではポジトロンを放出する核種が組み込まれた放射性薬剤を、静脈注射あるいは吸入により投与する。投与された薬剤はポジトロンを放出し、電子との対消滅によりその場で互いに逆向きに2本の消滅放射線を放出する。この2本の放射線を円形の検出器で同時計測することで放射性薬剤の位置を特定する。
【0004】
PET診断では経時的に薬剤の体内分布を画像化できるため、非侵襲的に生体機能の評価を行うことができる。このことから診断薬としてだけでなく、新薬の体内動態の評価のような創薬研究の分野でも用いられてきている。
【0005】
PET診断に使われるポジトロン核種としては、11C、13N、15O、18Fがあり、これらの半減期はそれぞれ20.4分、9.97分、2.04分、109.8分と非常に短い。短半減期であるという特徴は、保存がきかずその場で合成する必要があること、また短時間で合成できなければならないというデメリットも有する。しかしながら、生体の被曝を低く抑えられる、また高比放射能であるため極微量の核種で診断が可能になるという大きなメリットがある。また、C、N、Oといったポジトロン核種は、生体内に存在する分子を構成する元素の同位元素であるため、修飾することなく生体内の分子をトレーサーとして利用することができるというメリットもある。
【0006】
これまで標的部位に特異的に集積するイメージングプローブとして、ペプチドやタンパク質が多く研究されてきている。特に抗体医薬の発展に伴い、抗体を標識しその動態を評価することでその有用性を測ることができることから、タンパク質の標識は魅力のあるものとなってきている。
【0007】
現在タンパク質標識に用いられている代表的な方法としては、放射性ヨウ素のチロシン残基、ヒスチジン残基への直接標識法、Bolton-Hunter試薬などを用いたヨウ素の間接標識法等がある。また、タンパク質との結合部位と99mTc、111In、67Gaなどの放射性金属とキレートを形成する部位を持つ二官能性キレート化合物を用いた標識法がある(図1参照)。そのほか、ポジトロン放出核種である18Fを接合団を用いて結合させる標識法も少数ながら報告されている(非特許文献1及び2)。
【0008】
しかしながら、これら従来法には次のような欠点がある。まず1点目として、原料のタンパク質と標識タンパク質との分離が困難であることから比放射能が低くなることがある。2点目として、標識タンパク質に化合物が結合するため元のタンパク質とは異なる物質となり、活性を失ったり、体内の挙動が変化する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Robert R.Flavell,Paresh Kothari,Maya Bar-Dagan,Michael Synan,Shankar Vallabhajosula,Jeffrey M.Friedman,Tom W.Muir,andGiovanni Ceccarini, Journal of American Chemical Society 130,9106-9112(2008)
【非特許文献2】Mohammad Namaviri,Omayra Padilla De Jesus,Zhen Cheng,Abhijit DeErnest Kovacs,Jelena Levi,Rong Zhang,Joshua K.Hoerner,Hans Grade,Faisal A.Syud,and Sanjiv S.Gambhir, Molecular Imaging Biology 10:177-181(2008)
【非特許文献3】Chantal P.Bleeker-Rovers,Huub J.J.M.Rennen,Otto C.Boerman,Ate B.Wymenga,Eric P.Visser,Johannes H.Bakker,JoesW.Mvan der Meer,Frans H.M.Corstens,and Wim J.G.Oyen, The Journal of Nuclear Medicine 48;337-343(2007)
【非特許文献4】Milton D.Gross,Brahm Shapiro,LorraineM.Fig,Robert Steventon,Richard W.S.Skinner,and Rick V.Hay, The Journal of Nuclear Medicine 42;1656-1659(2001)
【非特許文献5】James Lee, Grace Cacalano, Tom Camerato, Karen Toy, Mark W.Moore, and William I.Wood, The Journal of Immunology 155;2158-2164(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来技術の問題点である比放射能の低下や、タンパク質の活性・構造変化をもたらすことのない、新規なタンパク質ポジトロン標識法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、発明者らはモデルタンパク質としてインターロイキン8(IL-8)を取り上げ、無細胞タンパク質合成系であるPURESYSTEM(登録商標)にL-[11C]メチオニンを加えて、[11C]IL-8の合成を試みた。タンパク質合成系には多くの物質が混在しているため、製剤化のためにはタンパク質合成後にこれを精製する必要があるが、11Cは半減期が20.4分と短いため、短時間の精製方法を検討した。
【0012】
かくして、発明者らはPURESYSTEM(登録商標)に代表される再構成された無細胞タンパク質合成系を利用してポジトロン標識タンパク質を合成することに成功した。また、合成されたポジトロン標識タンパク質をそのまま臨床応用するために、これを短時間で精製する手段も確立した。合成されたポジトロン標識タンパク質は、比放射能の低下や、タンパク質の活性・構造変化もなく、目的とする課題を満たすものであった。さらに、発明者らは、ポジトロン標識アミノ酸の合成からポジトロン標識タンパク質の合成、そして精製までを自動化したシステムを構築した。
【0013】
すなわち、本発明は、ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いて、無細胞タンパク質合成系により、ポジトロン標識タンパク質を合成する方法であって、前記無細胞タンパク質合成系が、細胞から抽出精製されたタンパク質合成に関与する因子によって再構成された系である方法に関する。
【0014】
前記方法において、標識に用いるポジトロン核種としては、例えば、11C、又は18Fを挙げることができる。
【0015】
また、ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体としては、例えば、[11C]メチオニン、[11C]メチオニン誘導体、[18F] フロロエチオニン、[18F]プロリン、又は[18F]プロリン誘導体を挙げることができる。
【0016】
1つの実施態様において、無細胞タンパク質合成系を構成するタンパク質成分である、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素が、相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされており、他方の物質が吸着体として翻訳終了後に該ラベルされたタンパク質成分を捕捉するために使用される。
【0017】
転写/翻訳のための因子・酵素としては、開始因子、延長因子、終結因子、アミノアシルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ及びRNAポリメラーゼを挙げることができる。また、反応系においてエネルギーを再生するための酵素としては、クレアチニンキナーゼ、ミヨキナーゼ及びヌクレオシドジフォスフェートキナーゼを、転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素としては、無機ピロフォスファターゼを挙げることができる。
【0018】
相互に付着し合う関係にある物質の例としては、タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せ、抗原と抗体との組合せ、タンパク質とタンパク質又はペプチド断片との組合せ、タンパク質と特定のアミノ酸、DNA、色素、ビタミン、レクチン等の低分子化合物との組合せ、タンパク質と糖との組合せ、タンパク質又はペプチド断片とイオン交換樹脂との組合せ、磁力により付着し合う関係にある物質の組合せを挙げることができる。
【0019】
前記タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せの好適な例としては、ヒスチジンタグとニッケル錯体又はコバルト錯体を挙げることができる。
【0020】
本発明の方法においては、相互に付着し合う関係にある物質を利用して、合成されたポジトロン標識タンパク質を精製することができる。
【0021】
本発明はまた、以下の構成要素を含む、ポジトロン標識タンパク質合成用キットも提供する。前記キットは、必須の構成要素として、以下の1)〜3)を含む:
1)(a)ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体、(b)ポジトロン核種と標識用アミノ酸前駆体化合物、あるいは(c)標識用アミノ酸前駆体化合物
2)非標識体標品アミノ酸
3)相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされている、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素。
上記ポジトロン標識核種の好適な例としては、半減期が比較的長い18Fを挙げることができる。
【0022】
また本発明は、ポジトロン標識タンパク質酸合成装置も提供する。前記装置は、アミノ酸又はその誘導体をポジトロン核種でラベルする手段と、ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いて再構成された無細胞タンパク質合成系によりポジトロン標識タンパク質を合成する手段と、合成されたポジトロン各種標識タンパク質を精製する手段と、を有することを特徴とする。
さらに本発明は、本発明の方法を利用したPET診断用薬剤あるいは試験用薬剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法では合成溶液中のアミノ酸群から標識アミノ酸に対応したアミノ酸を除いた溶液を用いることで簡便にポジトロン標識タンパク質を合成することができる。これにより合成タンパク質には標識アミノ酸が必ず含まれることになり、高比放射能となることが期待できる。また、本発明の方法では、タンパク質の構造を維持や活性を維持したままポジトロン標識ができる。さらに、本発明の方法は、系の自由度が高く、他の精製、分析手段と合わせて、臨床現場でポジトロン標識試薬を簡便に自動合成できるシステムとして構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、従来のタンパク質標識法であるヨウ素直接標識法と二官能性キレート化合物による標識法を示す。
【図2】図2は、従来法と本発明の方法の比較を示す。
【図3】図3は、ヒトIL-8アミノ酸配列を示す。
【図4】図4は、SDS-PAGEによるIL-8確認結果を示す。
【図5】図5は、ウエスタンブロッティングによるIL-8合成確認結果を示す。
【図6】図6は、SDS-PAGEオートラジオグラフィーでの[11C]IL-8合成確認結果を示す。
【図7】図7は、L-[11C]メチオニンを用いて[11C]IL-8を合成したときの、各合成時間における[11C]IL-8の放射線量の予測結果を示す。
【図8】図8は、L-[11C]メチオニンを用いた[11C]IL-8の合成時間を示す。
【図9】図9は、L-[11C]メチオニン及び[18F]プロリンの合成方法を示す。
【図10】図10は、[11C]IL-8のNiアフィニティー精製結果を示す。
【図11】図11は、[11C]IL-8の強陽イオン交換スピンカラム精製結果(蛍光検出)を示す。
【図12】図12は、[11C]IL-8の陽イオン交換スピンカラム精製結果(オートラジオグラフィー)を示す。
【図13】図13は、ポジトロン標識タンパク質合成・精製トータルシステムを示す。
【図14】図14は、[19F]プロリンによるIL-8の合成結果(DTTの違いによる合成の検討)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、ポジトロン標識アミノ酸を用いて、再構成された無細胞タンパク質合成系により、ポジトロン標識タンパク質を合成する方法に関する。
【0026】
1. ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体
(1)ポジトロン核種
ポジトロンとは、正電荷をもった電子のことで、このポジトロンを放出する元素(放射性同位元素)のことを、「ポジトロン核種」と言う。ポジトロン核種としては、11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、82Rb等がある。これらのうち、一般的に後述するPET診断に用いられるのは、11C、13N、15O、18Fであり、いずれも半減期が極めて短いため通常は利用施設内のサイクロトロン装置で製造されるが、18Fについては、利用施設とは異なる施設のサイクロトロンで製造し、利用施設にデリバリーされることもある。
【0027】
(2)ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体
本発明では、上記ポジトロン核種で標識したアミノ酸あるいはアミノ酸誘導体を用いる。本発明で用いられるポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体は、11C、13N、15O、18F等のポジトロン核種を用いて標識されたアミノ酸又はその誘導体であれば、特に限定されないが、半減期の長さを考慮した場合、一般的にPET用標識薬剤合成で汎用される、11Cあるいは18F標識アミノ酸が好ましい。具体的には、11C標識アラニン、11C標識メチオニン等が挙げられる。
【0028】
アミノ酸誘導体としては、本発明の目的を損なわない限り特に限定されず、アシル化RCH(NH2)CO-、アミド化RCH(NH2)CONH2、エステル化RCH(NH2)CH2OH、アミノアルデヒドRCH(NH2)CHO、メチル化、エチル化RCH(COOH)NH-あるいはRCH(NH2)COO-、フッ素化、フロロアルキル化等を挙げることができる。具体的には、18F標識フロロエチオニン、18F標識プロリン等を挙げることができる。
【0029】
【化1】
【0030】
上記ポジトロン標識アミノ酸は、市販のものを用いてもよいし、常法にしたがい調製してもよいが、半減期が短いため使用現場で用事調製することが望ましい。メチオニン誘導体(S-(2-[18F]fluoroethyl)-L-Homocysteine)の合成については、Ganghua Tang,et al., “Fully automated synthesis module for preparation of S-(2-[18F]fluoroethyl)-L-methionine by direct nucleophilic exchange on a quaternary 4-aminopyridinium resin”, Nuclear Medicine and Biology (2003), 30, 509-512.を参照することができる。また、プロリン誘導体(cis-4-Fluoro-L-proline、trans-4-Fluoro-L-proline)については、Kurt Hamacher, “Synthesis of N.C.A. cis- and trans-4-[18F]fluoro-l-proline, radiotracers for PET-investigation of disordered matrix protein synthesis”, Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals (1999), 42, 1135-1144.を参照することができる。
【0031】
2. 無細胞タンパク質合成系
(1)再構成された無細胞タンパク質合成系
無細胞タンパク質合成系とは、生物を用いた組換えタンパク質発現とは異なり、細胞を使用せずに試験管内で転写・翻訳という一連のタンパク質合成の流れを行う合成系である。無細胞タンパク質合成系は、細胞にとって毒性となるタンパク質を生産できるという利点がある。
【0032】
通常の無細胞タンパク質合成系では、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球などを破砕し、膜成分を遠心分離で除いた細胞抽出液を使用する。しかし、これらの無細胞のタンパク質合成系には、ATPを加水分解する酵素などの混在によりタンパク質合成以外に無駄に消費されるエネルギー量が多く、エネルギー効率が悪い、細胞抽出液中に存在するプロテアーゼやヌクレアーゼなどの阻害因子によりンパク質合成の効率が低下するという問題点がある。
【0033】
本発明で用いられる「再構成された無細胞タンパク質合成系」とは、粗抽出液を用いることなく、タンパク質合成に関与するすべての因子を精製し、それらをリボソーム、ATP、tRNA、アミノ酸などとともに再構成して作成された無細胞タンパク質合成系である。そのため、細胞抽出液中に存在するような阻害的要因の問題がなく、また構成成分を自由に操作することができるため、目的や標的タンパク質に応じた自由なシステム設計が可能である。また系の自由度が高いことから、反応系を微小化したり、自動化装置と組み合わせてハイスループットにすることが可能である。
【0034】
つまり、「再構成された無細胞タンパク質合成系」では、通常のアミノ酸に替えてポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いるだけで、高い合成効率でポジトロン標識タンパク質を得ることができる。
【0035】
無細胞タンパク質合成系を構成するタンパク質成分、例えば、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素、転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素は、それぞれタグを付けて(ラベルして)別々に調製されることが好ましい。そして、各タンパク質成分は、相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされ、他方の物質を吸着体として用いることにより、翻訳終了後に当該タンパク質成分を捕捉できるようになっていることが好ましい。これにより、目的とするポジトロン標識タンパク質合成後、系のタンパク質成分はアフィニティークロマトグラフィー等により除去することができる(特開2003-102495参照)。
【0036】
相互に付着し合う関係にある物質としては、タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せ、抗原と抗体との組合せ、タンパク質とタンパク質又はペプチド断片との組合せ、タンパク質と特定のアミノ酸、DNA、色素、ビタミン、レクチン等の低分子化合物との組合せ、タンパク質と糖との組合せ、タンパク質又はペプチド断片とイオン交換樹脂との組合せ等を挙げることができる。上記したタンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せとしては、ヒスチジンタグとニッケル錯体又はコバルト錯体を挙げることができる。また、相互に付着し合う関係にある物質は、磁力により付着し合う関係にあってもよい。
【0037】
転写/翻訳のための因子・酵素としては、開始因子、延長因子、終結因子、アミノアシルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ及びRNAポリメラーゼ等を挙げることができる。また、反応系においてエネルギーを再生するための酵素としては、クレアチニンキナーゼ、ミヨキナーゼ及びヌクレオシドジフォスフェートキナーゼ等を挙げることができる。転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素としては、無機ピロフォスファターゼ等を挙げることができる。
【0038】
「再構成された無細胞タンパク質合成系」の一例としてPURESYSTEM(登録商標)を挙げることができる。PURESYSTEM(登録商標)は大腸菌の抽出精製されたリボソーム、アミノ酸、NTP、転写/翻訳のための因子・酵素から再構成されている。PURESYSTEM(登録商標)では、リボソームタンパク質以外のすべてのタンパク質成分がヒスチジンタグで別々にタグ付けされている。合成終了後、リボソームタンパク質は限外濾過により除去され、他のタンパク質成分はヒスチジンタグ付加因子を利用して、アフィニティークロマトグラフィーにより除去される。
【0039】
PURESYSTEM(登録商標)は大腸菌から再構成されているが、無細胞タンパク質合成系で用いられる他の公知の細胞、昆虫細胞、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球のいずれを用いても、同様の系は構成可能である。
【0040】
3. 無細胞タンパク質合成系によるポジトロン標識タンパク質の合成
(1)標識アミノ酸又はその誘導体の合成
まず、ポジトロン標識アミノ酸やその誘導体を合成する。図9に、L-[11C]メチオニンと、[18F]プロリンの合成例を示した。理論的には、同様にして、公知の方法にしたがい、他のポジトロン標識アミノ酸やその誘導体も合成することができる。また、L-[11C]メチオニンの合成例に示すよう、いくつかの可能な方法のうち、より合成効率(標識率)の高い方法を用いることが望ましい。
【0041】
標識アミノ酸やその誘導体の合成は、後述するポジトロン標識タンパク質自動合成システム構築のため、自動化することが望ましい。
【0042】
(2)無細胞タンパク質合成系によるポジトロン標識タンパク質の合成
本発明で用いられる再構成された無細胞タンパク質合成系では、系の構成成分を自由に操作することができる。したがって、理論的には、通常のアミノ酸に代えてポジトロン標識されたアミノ酸やその誘導体を系に添加するたけで、ポジトロン標識タンパク質の合成が可能である。
【0043】
後述する実施例では、PURESYSTEM(登録商標)を用いて、目的とするポジトロン標識タンパク質が合成可能であることを、L-11Cメチオニンと19Fプロリンを用いて示した。なお、[19F]プロリンの19Fは安定同位体であるが、同一化学構造で19Fが18Fに置き換わった[18F]プロリン(ポジトロン標識アミノ酸)の合成方法は公知となっており、その合成に使用する標識前駆体も市販されるなど、[18F]プロリンは容易に合成できる環境にあるため、実施例で成功している[19F]プロリンを用いたIL-8合成の場合と同様に、[18F]プロリンを用いたIL-8の合成も容易に達成できる(図9、Kurt Hamacher前掲参照)。
【0044】
(3)ポジトロン標識タンパク質の精製
ポジトロン核種はいずれも半減期が短いため、精製は短時間で行う必要がある。精製手段は、合成されたポジトロン標識タンパク質、ポジトロン標識に用いるアミノ酸やその誘導体に応じて、適宜公知の方法から選択される。
【0045】
IL-8のようにアルカリ側に等電点を持つタンパク質の場合は、後述するように、無細胞タンパク質合成溶液に含まれるタンパク質の多くは等電点(pI値)が酸性側に傾いているため、陽イオン交換カラムを用いて好適に精製される。イオン交換カラムを用いた精製方法は、活性を維持した状態でタンパク質を安全に精製できるという点で、望ましい方法である。
【0046】
用いられる陽イオン交換樹脂は、ポジトロン標識に用いるアミノ酸やその誘導体、合成されるタンパク質に応じて適宜選択され、強陽イオン交換樹脂であっても、弱陽イオン交換樹脂であってもよい。陽イオン交換樹脂に使用される固体マトリクスとしては、Source(登録商標)S(Pharmacia Biotech)、Sepharose(登録商標)SP-Fast Flow、Sepharose(登録商標)SP-High Performance、Sp Sepharose(登録商標)XL(Pharmacia Biotech)、Fractogel(登録商標)S(Merck,Darmstadt)、Mustang(登録商標)S(Pall Corporate)、CM Sepharose(登録商標)FF(Pharmacia Biotech)、Dowex(登録商標)、Bio-Rad(登録商標)AG(Bio-Rad)、Poros(登録商標)S(PerSeptive Biosystems)、Shodex(登録商標)-S、Toyopearl(登録商標)SP(Tosohass)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0047】
無細胞タンパク質合成系で用いられるタンパク質成分は、相互に付着し合う関係にある物質によってラベルされているため、これを利用して、アフィニティーカラムによる精製も可能である。但し、被曝量が少なく短時間で処理できるように配慮しなければならない。
【0048】
上記した方法のほか、抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィー、分子排除クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等も、本発明の目的と効果を損なわない範囲において、合成されたポジトロン標識タンパク質の特性に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0049】
後述するIL-8のジトロン標識については、アフィニティークロマトグラフィーよりも、陽イオン交換カラムを用いたHPLCのほうが好適な結果を示したが、精製方法は目的とするタンパク質に応じて適宜最適なものを選択すればよい。
【0050】
4. ポジトロン標識タンパク質合成用キット
本発明では、ポジトロン標識タンパク質合成用キットも提供する。キットは、必須の構成要素として、ポジトロン標識アミノ酸合成のための標識用前駆体化合物(標識用アミノ酸合成用前駆体化合物)を含み、その標識用前駆体化合物の標識化に適したポジトロン核種も一緒に含んでいても良い。標識用前駆体化合物としては、例えば18F標識アミノ酸の場合、アミノ酸の官能基の一部に保護基を付加し、脱離基を構築したもの([化2]参照)などが挙げられるが、ポジトロン核種標識アミノ酸又はその誘導体合成のための前駆体となる化合物であればとくに限定されない。例えば18F標識用前駆体化合物(N-Boc-trans-4-tosyloxy-L-proline methyl ester(cis-4-Fluoro-L-prolineの標識前駆体)、N-Boc-cis-4-tosyloxy-L-proline methyl ester(trans-4-Fluoro-L-prolineの標識前駆体):[化2]及びKurt Hamacher前掲参照))と18Fを、標識用前駆体化合物とポジトロン核種としてキットは含むことができる。上記に代えて、キットはあらかじめ標識されたアミノ酸、例えば、[18F]プロリンを含んでいてもよい。
【0051】
【化2】
【0052】
本発明のキットは、さらに非標識体標品アミノ酸(標識されていないアミノ酸)、及び相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされている、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素を含む。
【0053】
ここで、転写/翻訳のための因子・酵素としては、開始因子、延長因子、終結因子、アミノアシルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ及びRNAポリメラーゼを挙げることができる。また、反応系においてエネルギーを再生するための酵素としては、クレアチニンキナーゼ、ミヨキナーゼ及びヌクレオシドジフォスフェートキナーゼを挙げることができる。さらに、転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素としては、無機ピロフォスファターゼを挙げることができる。
【0054】
本発明のキットは、上記した構成要素のほか、ポジトロン標識タンパク質合成と精製に必要な他の成分、例えば、リボソーム、ATP、tRNA、緩衝液、その他必要な試薬等を適宜含んでいてもよい。
【0055】
5. ポジトロン標識タンパク質合成用システム
本発明はまた、ポジトロン標識タンパク質合成用システムも提供する。このシステムは、アミノ酸をポジトロン核種でラベルする手段と、ポジトロン標識アミノ酸を用いて再構成された無細胞タンパク質合成系によりポジトロン標識タンパク質を合成する手段と、合成されたポジトロン各種標識タンパク質を精製する手段とを有する。
【0056】
本発明のシステムの一例を、図13に示した。装置は、合成者が被爆することがないよう、自動合成システムとして構築される。システムでは、ポジトロン標識アミノ酸合成装置でポジトロン標識アミノ酸を合成して、無細胞タンパク質合成装置でPCR産物あるいはプラスミドを用いてポジトロン標識タンパク質に変換させる。その後簡易精製装置とHPLCを組み合わせて、ヒトに投与可能な精製されたポジトロン標識タンパク質を自動合成する。
【0057】
6. PETへの応用
PET診断ではポジトロンを放出する核種が組み込まれた放射性薬剤を、静脈注射あるいは吸入により投与し、放出される放射線を検出することで、薬剤の体内分布を経時的に画像化する。この方法は、診断のみならず、新薬の体内動態評価といった創薬研究の分野にも利用可能である。
【0058】
本発明の方法を用いれば、比放射能の高い診断薬や新薬を、注射剤として利用可能な精製された状態で、簡便に自動合成することができる。したがって、本発明の方法は、そのようなPET診断用薬剤あるいは試験用薬剤の製造方法として利用できる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1:L-[11C]メチオニン標識IL-8の合成
本実施例で合成したタンパク質はヒトIL-8である。IL-8は分泌タンパク質であり、シグナルペプチドと呼ばれるN末端からのアミノ酸配列を切り離して小胞体から分泌される。今回用いたテンプレートDNAはシグナルペプチドを除き、このN末端に開始アミノ酸であるメチオニンを加えたIL-8が合成されるように設計されたものを用いた。このアミノ酸配列を図3と配列表の配列番号1に示す。今回合成したIL-8にはL-メチオニンが一つ含まれており、ここにL-[11C]メチオニンが組み込まれることにより標識される。
【0061】
本実施例では、まずタンパク質合成溶液に非標識L-メチオニンを加えて合成を行い、IL-8が合成できているかポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウエスタンブロッティングで確認した。その後L-[11C]メチオニンを加えた合成を行い、[11C]IL-8が合成できているかSDS-PAGE、オートラジオグラフィーにより確認した。その後合成時間の検討を行った。
【0062】
<方法及び材料>
1.溶液調製
1 M Tris-HCl(pH 6.8):
Tris 60.57 gを蒸留水300 mlに加え、HClでpH 6.8に調製し、500 mlにメスアップした。
【0063】
2×sample buffer:
10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)4 ml、glycerol2 ml、1 M Tris-HCl(pH 6.8)、1%bromo phenol blue 0.2 ml、蒸留水1.55 mlを混合した。
【0064】
2×sample buffer(+2-ME):
2×sample buffer 190 μlと2-mercapto ethanol 10 μlを混合した。(用時調製)
【0065】
running buffer (0.1 %SDS):
tris 3 g、Glycine 14.4 g、SDS 1 gをとり、1000 mlにメスアップした。
【0066】
25 mM HEPESバッファー(pH7.6):
HEPES 0.596 gを蒸留水50 mlに溶解し、0.1 M NaOH 約15 mlを加えpH 7.6とした。蒸留水を加え100 mlにメスアップした。
【0067】
2.L-[11C]メチオニン合成
以下の二つの方法でL-[11C]メチオニンを合成した。
(1)L-ホモシステインチオラクトン塩酸塩を前駆体とした合成
1 MNaOH:EtOH=1:1の溶液1 mlにL-ホモシステインチオラクトン塩酸塩 15 mgを加えて溶解し、この0.4 mlをSep-Pac Plus C18カートリッジ(waters)に注入した。ここに11Cヨウ化メチルを通し捕集した。0.5%酢酸でカートリッジから洗い出し、エバポレーターで減圧乾固した。ここに滅菌蒸留水を加え溶解させ、L-[11C]メチオニン溶液とした。
【0068】
(2)L-ホモシステインを前駆体とした合成
L-ホモシステイン1 mgに0.2 M NaOH 60 μlを加え溶解した。この54 μlを合成容器に取り、ここに[11C]メチルトリフレートをバブリングした。0.2 M Na2HPO4 71 μlで中和しL-[11C]メチオニン溶液とした。
【0069】
3.[11C] IL-8合成確認
(1)IL-8合成確認
1.5 mlチューブに以下の表のように溶液を混合した(単位は全てμl)。
【表1】
【0070】
混合液を37 ℃、1時間インキュベーションし、その後それぞれの混合液に50 mg/mlのRNase(QIAGEN)0.4 μlを加えた。それぞれの混合液50 μlを限外ろ過膜YM-100(MILLIPORE)にロードし、10,000×g、5分遠心した。
【0071】
YM-100ろ液10 μlと、マーカーであるPrecision Plus Dual color(Bio-Rad)10μlをとり、それぞれに2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gel(Perfect NT Gel 20 well:DRC)にロードし、300 V、500 mAで50分泳動した。泳動後、7.5%酢酸100 mlにSYPROred(Invitrogen)20 μlを加え、ここにゲルを浸して40分振とうした。その後7.5%酢酸でゲルをゆすぎ、FLA-2000で蛍光検出した。ゲルをCoomassie Brilliant Blue溶液に浸し20分振とうし、洗浄液で10分振とうを2回行い、2.5% glycerolに浸し1日振とうした。その後ゲルをOHPシートにはさみスキャナーで読み取った。
【0072】
(2)ウエスタンブロッティング
1.5 mlチューブに以下の表のように溶液を混合した(単位は全てμl)。
【表2】
【0073】
混合液を37℃、1時間インキュベーションし、その後それぞれの混合液に50 mg/mlRNase(QIAGEN)0.4 μlを加えた。
【0074】
それぞれの混合液10 μlとマーカー10 μlをとり、それぞれに2×sample buffer(+2-ME) 10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDSgradient gel、300 V、500 mAの条件で50分泳動した。ゲルをtransfer bufferに浸し15分振とうした。メタノール、transfer bufferに浸したPVDF膜にゲルを重ね、これをろ紙で挟んで25 V、400 mAで30分transferした。PVDF膜をTBS-Tで5分洗浄を2回行い、0.3%スキムミルクに浸して30分ブロッキングした。IL-8一次抗体(MBL)20 μlを0.3%スキムミルク20 mlで希釈し、ここにPVDF膜を1時間浸した。TBS-Tで10分洗浄を3回行い、スキムミルク40 mlで希釈したHRP抱合抗ラビット二次抗体(PIERCE)に40分浸した。TBS-Tで5分洗浄を5回行い、HRP基質(MILLIPORE)に浸した後、化学発光をLAS-1000で検出した。
【0075】
(3)L-[11C]メチオニンを用いた[11C]IL-8合成
L-ホモシステインチオラクトンを前駆体としてL-[11C]メチオニンを合成した。
次に1.5 mlチューブに以下の表のように溶液を混合した(単位は全てμl)。
【表3】
【0076】
混合液を37℃、1時間インキュベーションし、その後それぞれの混合液に50 mg/ml RNase 0.4 μlを加えた。それぞれの混合液38 μlをYM-100にロードし、10,000×g、5分遠心した。
【0077】
残った混合液、YM-100ろ液、マーカーをそれぞれ10μlをとり、それぞれに2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gelを用い、300 V、500 mAの条件で50分泳動した。
【0078】
11Cメチオニン溶液の1、2、4、8、16倍の希釈系列を調製し、その1 μlをゲルにスポットした。マーカーをL-[11C]メチオニン溶液でなぞり、ゲルをイメージングプレート(FUJIFILM)に30分コンタクトさせた後、BAS-5000で検出した。その後SYPROred染色し、FLA-2000で検出した。
【0079】
(4)IL-8合成時間検討
滅菌蒸留水10.67 μl、Sol.A 25 μl、Sol.B 10 μl、10 mM L-メチオニン1.5 μl、Lys 0.33 μl、IL-8plasmid 2.5 μl(計50 μl)を1.5 mlチューブに混合し、これを6本用意した。これらを37℃でインキュベーションし、10分、20分、30分、40分、50分、60分毎に1本のチューブにRNase 0.4 μlを加え反応を終了させた。
【0080】
それぞれの合成液10 μlに2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gel、300 V、500 mAの条件で45分泳動した。
【0081】
泳動後のゲルをFLA-2000で蛍光検出し、IL-8由来のバンドをimageJで関心領域を設定し定量した。
【0082】
(5)[11C]IL-8合成時間検討
Sol.A 200 μl、Sol.B 80 μl、 L-[11C]メチオニン100 μl、IL-8plasmid 20 μl(計400 μl)を1.5 mlチューブに混合し、これを6本用意した。これらを37℃でインキュベーションし、反応時間10分、20分、30分、40分、50分、60分でRNase 4 μlを加えることで反応を終了させた。
【0083】
各合成液400 μlを実施例2の「3.[11C]IL-8精製(図12)」と同様の条件で強陽イオン交換スピンカラムにロードし精製後、この溶液の放射線量をガンマカウンタで測定した。この値を精製時間30分とした場合の精製終了時に減衰補正した。
【0084】
(6)L-[11C]メチオニン合成法による[11C]IL-8合成への影響
L-ホモシステイン、L-ホモシステインチオラクトン塩酸塩によりL-[11C]メチオニンを合成した。これらの溶液から[11C]IL-8を合成し、実施例2の「3.[11C]IL-8精製(図12)」と同様の条件で合成液400 μlを強陽イオン交換スピンカラムにロードし精製後、精製溶液の放射線量をガンマカウンタにより測定した。
【0085】
それぞれの合成液、精製液を電気泳動し、このイメージングプレート検出結果から強陽イオン交換スピンカラム回収率を関心領域をとりデンシトメトリーにより求めた。これとガンマカウンタ測定値より合成液400 μl中全[11C]IL-8放射線量を求めた。この値と合成液に加えたL-[11C]メチオニンの放射線量から標識率を求めた。
【0086】
<実験及び結果>
1.IL-8の合成と合成確認
まずPURESYSTEM(登録商標)(ポストゲノム研究所:特開2003-102495号参照)を用いて、L-メチオニンを用い、テンプレートDNAを加えてタンパク質合成を行い、SDS-PAGEによりIL-8を確認した(図4)。ジヒドロ葉酸還元酵素DHFRは以前にPURESYSTEM(登録商標)での合成が確認されており、ポジティブコントロールとして合成した。
【0087】
図4の1,2レーンの10 kDaにバンドが見られ、5〜8レーンにはこの位置にバンドが見られなかったことから、分子量と合わせてこのバンドがIL-8であると考えられた。このことを確かめるためにウエスタンブロッティングを行った(図5)。
【0088】
plasmid、PCR産物での合成において、どちらも図4で見られた約10 kDaのバンドを確認でき、そのバンドがIL-8であることが確認できた。またウエスタンブロッティングではPCR産物でもIL-8が合成されていることが確認できた。PCR産物ではIL-8の合成量が低くCBB染色での検出限界に達せず、バンドが確認できなかったと思われた。
【0089】
2.[11C]IL-8の合成と合成確認
次にL-メチオニンの代わりにL-[11C]メチオニンを用いて、IL-8テンプレートDNAをタンパク質合成溶液に加えて、[11C]IL-8が合成できるか確認した。合成後の溶液をSDS-PAGEで泳動し、オートラジオグラフィーで放射性物質を検出した(図6)。
レーン1,2の10 kDa付近にバンドが確認でき、ウエスタンブロッティングの結果と合わせて、[11C]IL-8が合成されていることが確認できた。
【0090】
3.合成時間の検討
ポジトロン放出核種を用いることから、最も高い放射能を得るために合成時間と合成収率の関係を知る必要がある。そこで、L-メチオニンからIL-8を合成し、10分毎にRNaseを加えて合成を終了させそれぞれの合成量を算出することで、最適な合成時間を検討した。
【0091】
(1)IL-8合成時間検討
IL-8合成量はSDS-PAGEにより泳動したゲルを蛍光検出し、バンドの濃さをデンシトメトリーで解析することで求めた。求めた合成量から合成時間分の[11C]の減衰を補正し、それぞれの合成時間における[11C]IL-8の放射線量を予測した(図7)。合成量は相対値で示した。
【0092】
その結果、[11C] IL-8放射能のグラフより、L-[11C]メチオニンを用いた合成では合成時間20分で最も多く放射能量を得られることが予測された。
【0093】
(2)[11C]IL-8合成時間検討
次にL-[11C]メチオニンを用いて実際に[11C]IL-8合成時間を検討した。
6本の合成液を用意し、合成開始から10分毎に1本の合成溶液にRNaseを加え反応を終了させ、60分までこれを行った。陽イオン交換スピンカラム精製後の溶液をガンマカウンタで測定した。放射能量は精製30分としたときの精製後の値である(図8)。
【0094】
図8より、合成20分において最も高い放射能量を得られる(6.61 MBq/400μl合成液)ことがわかった。
【0095】
4. L-[11C]メチオニン合成法の[11C]IL-8合成量への影響
本実施例では、2種類の合成法でL-[11C]メチオニンを用意し[11C]IL-8を合成した。合成方法の概略を図9と下記に示す。
【0096】
【化3】
【0097】
上の反応は、臨床用にL-[11C]メチオニンを供給する際の自動合成装置を用いた合成法であり、まずこの方法でL-[11C]メチオニンを合成した。しかしこの合成法ではL-[11C]メチオニン合成後溶液中にClイオンが含まれることとなる。タンパク質合成の際、Clイオンの混入は合成量の低下を招くため、Clイオンが混入しないような合成法として、下の合成法を試みた。
【0098】
また、上の合成法では、反応終了後溶液を乾固し、これを約1 mlの滅菌蒸留水に溶解させる。これに対し、下の合成法では、60 μlの0.2 M NaOH水溶液に溶解させた前駆体に[11C]メチルトリフレートをバブリングさせることでL-[11C]メチオニンを合成する。後者は溶媒が少量のため、前者を用いた合成よりも濃度の高いL-[11C]メチオニン溶液を用意することができる。
【0099】
2種類の[11C]メチオニン合成法での[11C]IL-8標識合成の結果を比較した(表4)。ホモシステインチオラクトンについては同様の実験を2回実施した。表4に示されるように、ホモシステインチオラクトンを前駆体とするほうが、標識率は高かった。
【表4】
【0100】
実施例2:[11C]IL-8の精製
合成後の溶液中には合成されたタンパク質の他に無細胞タンパク質合成溶液由来の夾雑物が多く含まれている。トレーサーとして本標識法で得た標識タンパク質を用いる場合、夾雑物の混入が合成タンパク質の動態に影響を与える可能性があるため、これらを除去する必要がある。また、標識タンパク質以外に放射性物質が含まれている場合、イメージングの際どの物質由来の放射能かわからなくなるため、放射化学的純度が高いことが必要となる。さらに今回は半減期20.4分の11Cを用いることから、迅速な精製が求められる。
【0101】
本実施例では、1.Niアフィニティー樹脂による精製、2.陽イオン交換スピンカラムによる精製法を検討した。
【0102】
<方法及び材料>
1.Niアフィニティー樹脂による精製
・Niアフィニティー樹脂:Ni-NTA Agarose(QIAGEN)
滅菌蒸留水106.7 μl、Sol.A 250 μl、Sol.B 100 μl、10 mM L-メチオニン15 μl、Lys 3.3 μl、IL-8 plasmid 25 μlを1.5 mlチューブに混合し、37℃、1時間インキュベーションし、ここに50 mg/ml RNase 4 μlを加えた。4本のYM-100それぞれに合成終了溶液50 μlをロードし、10,000×g、5分遠心した。3本の2 ml丸底チューブそれぞれにこのろ液40 μlを移し、下のような条件でNiアフィニティー精製を行った。
【表5】
【0103】
吸着後の溶液をそれぞれエンプティーカラムにロードし、1500×g、1分遠心し、この10 μlを泳動サンプルとした。
合成液、YM-100ろ液、マーカー各々10 μlに対し2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gel、300 V、500 mAの条件で45分泳動した。
泳動後、7.5%酢酸100 mlにSYPROred 20 μlを加え、ここにゲルを浸して40分振とうした後、FLA-2000で蛍光検出した。
【0104】
2.強陽イオン交換スピンカラム精製(図11)
・強陽イオン交換スピンカラム:Vivapure S Mini H(Vivascience)
滅菌蒸留水220 μl、Sol.A 500 μl、Sol.B 200 μl、10 mM L-メチオニン30 μl、IL-8 plasmid 50 μlを1.5 mlチューブに混合し、37℃、1時間インキュベーションした。
【0105】
強陽イオン交換カラムにpH 7.6のHEPESバッファー400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し、平衡化した。ここに合成液400 μlをロードし、1500×g、5分遠心した(泳動サンプル-flow-through)。0.1 M NaCl HEPESバッファー 400μlをロードし、1500×g、5分遠心し(泳動サンプル-wash)、その後0.5 M NaCl HEPESバッファー 400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し吸着タンパク質を溶出させた(泳動サンプル-elution)。
【0106】
合成液、強陽イオン交換スピンカラム泳動サンプル、マーカー各々10 μlに対し2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95 ℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDS gradient gelを用い、300 V、500 mAの条件で45分泳動した。
泳動後、7.5%酢酸100 mlにSYPRO red 20 μlを加え、ここにゲルを浸して40分振とうした後、FLA-2000で蛍光検出した。
【0107】
3.[11C]IL-8精製(図12)
L-ホモシステインを前駆体としてL-[11C]メチオニンを合成した。
滅菌蒸留水137.5 μl、Sol.A 375 μl、Sol.B 150 μl、L- [11C]メチオニン50 μl、IL-8 plasmid 37.5 μlを1.5 mlチューブに混合し、37℃、20分インキュベーションした。
【0108】
強陽イオン交換カラムにpH 7.6のHEPESバッファー400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し、平衡化した。ここに合成液400 μlをロードし、1500×g、5分遠心した(泳動サンプル-flow-through)。0.1 M NaCl HEPESバッファー 400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し(泳動サンプル-wash)、その後0.5 M NaCl HEPESバッファー 400 μlをロードし、1500×g、5分遠心し吸着タンパク質を溶出させた(泳動サンプル-elution)。溶出液390 μlを限外ろ過膜YM-50(Millipore)にロードし10000×g、8分遠心し、膜を逆さにして10000×g、30秒遠心し残渣を回収した(泳動サンプル-限外ろ過)。
【0109】
合成液、泳動サンプル、マーカーそれぞれ10 μlをとり、それぞれに2×sample buffer(+2-ME)10 μlを加え、95℃、5分インキュベーションした。これらの20 μlを15-25%SDSgradient gel、300 V、500 mAの条件で45分泳動した。
【0110】
マーカーの各バンドをL-[11C]メチオニン溶液でなぞり、ゲルをイメージングプレートに60分間コンタクトさせた後、BAS-5000で検出した。陽イオン交換スピンカラム精製後、限外ろ過YM-50精製後各々のレーンにおいて[11C]IL-8、L-[11C]メチオニン、合成ミス[11C]IL-8のバンドに関心領域をとりデンシトメトリーで測定し、放射化学的純度を求めた。
※放射化学的純度=100×[11C]IL-8 /([11C]IL-8+ L-[11C]メチオニン+合成ミス[11C]IL-8)
【0111】
<実験及び結果>
1.Niアフィニティー樹脂による精製
PURESYSTEM(登録商標)の特徴として、転写、翻訳及びエネルギー生成に必要なタンパク質因子全てにヒスチジンタグがついていることが挙げられる。よってNiアフィニティー樹脂にヒスチジンタグが吸着することで、系内に大量に含まれているヒスチジンタグつきタンパク質を取り除くことができる。
【0112】
ただし、リボソームにヒスチジンタグはついておらず、またアミノ酸はNi樹脂に吸着しないため、これらをNiアフィニティー精製とは別の方法で精製する必要がある。
そこでリボソームを限外ろ過で膜にトラップさせ、その後Niアフィニティー精製によりタグ付タンパク質を取り除くことにした(図10)。
【0113】
レーン3、4、5がNiアフィニティー精製後の溶液を泳動した結果である。それぞれのレーンは精製の方法を変えており、レーン3がNi樹脂と1時間インキュベーションした結果、レーン4、5はNi樹脂と5分間ボルテックスし続けて精製した結果である。3レーンのどれも他のバンドが見られるが、IL-8の精製はほぼできていることがわかった。しかし、それぞれの方法の問題として、レーン3の方法では時間がかかってしまうこと、レーン4、5の方法ではチューブを手で持って5分間ボルテックスを行わなければならず、被曝量が多くなってしまうことがある。従ってポジトロン放出核種を用いた標識合成においてNiアフィニティー精製を行うことはできなかった。
【0114】
2.強陽イオン交換スピンカラムによる精製
IL-8は等電点が8.6であり、対して無細胞タンパク質合成溶液に含まれるタンパク質の多くは等電点が酸性側に傾いている。この違いを利用して、陽イオン交換スピンカラムによる精製を検討することにした。
【0115】
本実施例で使用したpH 7.6のHEPESバッファー中ではIL-8はプラスに帯電している。よってIL-8はカラムにトラップされ、等電点の低いタンパク質は溶出される。溶出バッファーとして0.5 M NaCl HEPESバッファーを通すことによりトラップされたIL-8を溶出した。精製の確認をSDS-PAGEにより行った(図11)。
【0116】
4レーンが精製後の溶液を泳動した結果である。IL-8の他にも若干タンパク質が見られるが、合成液を泳動したレーンと比べれば大方の精製ができたといえる。弱陽イオン交換スピンカラムでも試しており、ほぼ同様の精製結果を得ている。
【0117】
次に、[11C]メチオニンでの[11C]IL-8合成後、強陽イオン交換スピンカラムを用いた精製による放射化学的純度を求めた。合成液の中には放射性物質として、[11C]メチオニン、未完成[11C]IL-8、[11C]IL-8が存在しており、この中から[11C]IL-8のみを精製しなければならない。今回は陽イオン交換スピンカラム精製の後、さらに[11C]メチオニンを取り除くために限外ろ過精製を行った。SDS-PAGE、オートラジオグラフィーの結果を図12に示す。
【0118】
陽イオン交換スピンカラムのみでの精製では、87.6-90.5%、陽イオン交換スピンカラムの後、さらに限外ろ過精製を行うことで96.6-97.6%の放射化学的純度を得ることができた。
【0119】
実施例3:[19F]プロリンを用いた[19F]IL-8合成
1.[19F]プロリンの入手:
[19F]IL-8合成で使用する[19F]プロリンについては、市販品(ABX社製、cis-4-Fluoro-L-proline)を購入して使用した。
【0120】
2.[19F]プロリンによるIL-8タンパク質合成:
非標識プロリンを除いた無細胞系合成キット(ポストゲノム社製)でプロリン(Lane 1, 4)、[19F]プロリン(Lane 2, 5)を加えて合成した。IL-8の合成を確認できた。Lane 3, 6は非標識メチオニンを除去した無細胞系合成キットでメチオニンを添加して合成した。IL-8はプラスミド、PCR産物を用いている。
【0121】
結果を図14に示す(レーン1:Pro+IL-8(plasmid)、レーン2:F-Pro+IL-8(plasmid)、レーン3:Met+IL-8(plasmid)、レーン4:Pro+IL-8(PCR)、レーン5:F-Pro+IL-8(PCR)、レーン6:Met+IL-8(PCR)、レーン7:Pro+temp(-)、レーン8: F-Pro+temp(-)、9: Met+temp(-)、10:Pro+IL-8(plasmid)、レーン1,2,4,5,7,8,10:Pro-キット、レーン3,6,9:Met-キット(Pro-キット(非標識プロリンを除いた無細胞系合成キット)、Met-キット(非標識メチオニンを除去した無細胞系合成キット))。レーン1〜9は新たに調製したDTT、レーン10はこれまで使っていたDTT(二度解凍、再凍結)を用いた。レーン1〜3でIL-8の合成が確認できたが、レーン10では合成できなかった。これは、溶解再凍結によってDTTの還元力が低下したためと思われた。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、比放射能の低下やタンパク質の活性・構造変化を生じることなく、ポジトロン標識タンパク質を簡便に合成することができる。本発明の方法によって得られるポジトロン標識タンパク質は、PETを利用した診断や新薬の体内動態評価といった創薬研究の分野において有用である。特に高非放射能ポジトロンタンパク質が必要とされるマイクロドーズ臨床試験等においてきわめて有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いて、無細胞タンパク質合成系により、ポジトロン標識タンパク質を合成する方法であって、前記無細胞タンパク質合成系が、細胞から抽出精製されたタンパク質合成に関与する因子によって再構成された系である前記方法。
【請求項2】
標識に用いるポジトロン核種が11C、又は18Fである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体が[11C]メチオニン、[11C]メチオニン誘導体、[18F]プロリン、[18F]フロロエチオニン、又は[18F]プロリン誘導体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
無細胞タンパク質合成系を構成するタンパク質成分である、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素が、相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされており、他方の物質が吸着体として翻訳終了後に該ラベルされたタンパク質成分を捕捉するために使用されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
転写/翻訳のための因子・酵素が、開始因子、延長因子、終結因子、アミノアシルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ及びRNAポリメラーゼよりなる群から選ばれ、
反応系においてエネルギーを再生するための酵素が、クレアチニンキナーゼ、ミヨキナーゼ及びヌクレオシドジフォスフェートキナーゼよりなる群から選ばれ、
転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素が、無機ピロフォスファターゼである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
相互に付着し合う関係にある物質が、タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せ、抗原と抗体との組合せ、タンパク質とタンパク質又はペプチド断片との組合せ、タンパク質と特定のアミノ酸、DNA、色素、ビタミン、レクチン等の低分子化合物との組合せ、タンパク質と糖との組合せ、タンパク質又はペプチド断片とイオン交換樹脂との組合せ、磁力により付着し合う関係にある物質の組合せから選ばれることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せが、ヒスチジンタグとニッケル錯体又はコバルト錯体であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
相互に付着し合う関係にある物質を利用して、合成されたポジトロン標識タンパク質を精製することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
以下の構成要素を含む、ポジトロン標識タンパク質合成用キット:
1)(a)ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体、(b)ポジトロン核種と標識用アミノ酸前駆体化合物、あるいは(c)標識用アミノ酸前駆体化合物
2)非標識体標品アミノ酸
3)相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされている、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素。
【請求項10】
ポジトロン標識核種が18Fである、請求項9記載のキット。
【請求項11】
アミノ酸又はその誘導体をポジトロン核種でラベルする手段と、
ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いて再構成された無細胞タンパク質合成系によりポジトロン標識タンパク質を合成する手段と、
合成されたポジトロン各種標識タンパク質を精製する手段と、を有することを特徴とする、ポジトロン標識タンパク質酸合成装置。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法を利用したPET診断用薬剤あるいは試験用薬剤の製造方法。
【請求項1】
ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いて、無細胞タンパク質合成系により、ポジトロン標識タンパク質を合成する方法であって、前記無細胞タンパク質合成系が、細胞から抽出精製されたタンパク質合成に関与する因子によって再構成された系である前記方法。
【請求項2】
標識に用いるポジトロン核種が11C、又は18Fである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体が[11C]メチオニン、[11C]メチオニン誘導体、[18F]プロリン、[18F]フロロエチオニン、又は[18F]プロリン誘導体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
無細胞タンパク質合成系を構成するタンパク質成分である、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素が、相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされており、他方の物質が吸着体として翻訳終了後に該ラベルされたタンパク質成分を捕捉するために使用されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
転写/翻訳のための因子・酵素が、開始因子、延長因子、終結因子、アミノアシルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ及びRNAポリメラーゼよりなる群から選ばれ、
反応系においてエネルギーを再生するための酵素が、クレアチニンキナーゼ、ミヨキナーゼ及びヌクレオシドジフォスフェートキナーゼよりなる群から選ばれ、
転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素が、無機ピロフォスファターゼである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
相互に付着し合う関係にある物質が、タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せ、抗原と抗体との組合せ、タンパク質とタンパク質又はペプチド断片との組合せ、タンパク質と特定のアミノ酸、DNA、色素、ビタミン、レクチン等の低分子化合物との組合せ、タンパク質と糖との組合せ、タンパク質又はペプチド断片とイオン交換樹脂との組合せ、磁力により付着し合う関係にある物質の組合せから選ばれることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質又はペプチド断片と金属イオンとの組合せが、ヒスチジンタグとニッケル錯体又はコバルト錯体であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
相互に付着し合う関係にある物質を利用して、合成されたポジトロン標識タンパク質を精製することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
以下の構成要素を含む、ポジトロン標識タンパク質合成用キット:
1)(a)ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体、(b)ポジトロン核種と標識用アミノ酸前駆体化合物、あるいは(c)標識用アミノ酸前駆体化合物
2)非標識体標品アミノ酸
3)相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされている、転写/翻訳のための因子・酵素、反応系においてエネルギーを再生するための酵素及び転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素よりなる群から選ばれる因子・酵素。
【請求項10】
ポジトロン標識核種が18Fである、請求項9記載のキット。
【請求項11】
アミノ酸又はその誘導体をポジトロン核種でラベルする手段と、
ポジトロン標識アミノ酸又はその誘導体を用いて再構成された無細胞タンパク質合成系によりポジトロン標識タンパク質を合成する手段と、
合成されたポジトロン各種標識タンパク質を精製する手段と、を有することを特徴とする、ポジトロン標識タンパク質酸合成装置。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法を利用したPET診断用薬剤あるいは試験用薬剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図11】
【図12】
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【図14】
【公開番号】特開2010−263809(P2010−263809A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116379(P2009−116379)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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