説明

ポリアセタール樹脂成形品への印刷・塗装方法

【課題】 ポリアセタール樹脂成形品自体に表面加工処理を施すことにより、ポリアセタール樹脂成形品の表面に高品質の印刷や塗装を行うことができ、使用できるインキや塗料の種類も特に限定されない印刷・塗装方法を提供する。
【解決手段】 ポリアセタール樹脂成形品の表面を粗化する表面粗化工程と、粗化されたポリアセタール樹脂成形品の表面に二酸化珪素の被膜を形成する被膜形成工程と、二酸化珪素被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布する塗布工程とを経ることにより、ポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布するポリアセタール樹脂成形品への印刷・塗装方法に関し、特に、インキまたは塗料の塗布前にポリアセタール樹脂成形品の表面に対して施される前処理に特徴を有する印刷・塗装方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、良好な機械的性質を有し、特に耐疲労性に優れているほか、優れた熱的特性や電気的特性を持ち、また、成形性なども良好であるため、電気・電子機器、事務用機器、自動車等の部品や構造材料などとして広く使用されている。ところが、ポリアセタール樹脂は、化学薬品に対する安定性が良好であるために、一般的な印刷方法や塗装方法により基材表面にインキや塗料を塗布しようとしても、高品質の印刷体や塗装品を得ることができずに、基材表面から印刷や塗膜が容易に剥離してしまう、といった問題点がある。そこで、ポリアセタール樹脂成形品の表面に高品質の印刷や塗装を行うための方法が種々開発され提案されている。
【0003】
例えば、インキ・塗料に脂肪族ポリエーテル系樹脂などを添加することにより、ポリアセタール樹脂成形品の表面に対するインキ・塗料の密着性を向上させるとともに、印刷・塗装前にポリアセタール樹脂成形品に対して短波長紫外線照射処理やコロナ放電処理などの表面活性化処理を施す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリアセタール樹脂組成物に脂肪族ポリエーテル系樹脂などを配合して成形することにより、インキや塗料との接着性に優れた表面を有するポリアセタール樹脂成形品を得るとともに、印刷・塗装前にポリアセタール樹脂成形品に対して短波長紫外線照射処理やコロナ放電処理などの表面活性化処理を施す方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、ポリアセタール樹脂成形品の表面に熱プレス法によりポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを熱接着して、ポリアセタール樹脂成形品の表面に樹脂フィルム層を形成し、その樹脂フィルム層の表面に印刷等の装飾を施す方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平8−60057号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開平8−59861号公報(第3−4頁)
【特許文献3】特開平10−7813号公報(第3−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インキ・塗料に脂肪族ポリエーテル系樹脂などを添加することによりポリアセタール樹脂成形品の表面に対するインキ・塗料の密着性を向上させる方法は、インキや塗料のメーカにおける技術開発に係る事項であり、また、ポリアセタール樹脂組成物に脂肪族ポリエーテル系樹脂などを配合して成形することによりインキや塗料との接着性に優れた表面を有するポリアセタール樹脂成形品を得る方法は、プラスチックメーカ側での技術開発に係る事項であって、ポリアセタール樹脂成形品のユーザ、例えばプラスチック素材に対し印刷や塗装などによりコーティングを施して素材に機能性を付与する加工技術の分野においては、ポリアセタール樹脂成形品の表面に高品質の印刷や塗装を行うための方法は、従来、特に開発されていなかった。また、ポリアセタール樹脂成形品の表面に熱プレス法によりポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを熱接着する方法は、ポリアセタール樹脂成形品に樹脂フィルムを載せて加熱成形したり、金型キャビティに樹脂フィルムをセットして、ポリアセタール樹脂をキャビティ内にインジェクション成形したりするものであり、この方法も、プラスチックメーカ側での技術開発に係る事項である。さらに、インキ・塗料に脂肪族ポリエーテル系樹脂などを添加する方法では、インキや塗料が特殊なものとなり、加工業者側で自由にインキや塗料を選定することができない、といった問題点がある。
【0005】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、ポリアセタール樹脂成形品自体に表面加工処理を施すことにより、ポリアセタール樹脂成形品の表面に高品質の印刷や塗装を行うことができ、使用することのできるインキや塗料の種類も特に限定されることがないポリアセタール樹脂成形品への印刷・塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、ポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布する、ポリアセタール樹脂成形品への印刷・塗装方法において、ポリアセタール樹脂成形品の表面を粗化する表面粗化工程と、粗化されたポリアセタール樹脂成形品の表面に二酸化珪素の被膜を形成する被膜形成工程と、二酸化珪素被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布する塗布工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の、ポリアセタール樹脂成形品への印刷・塗装方法において、前記被膜形成工程の後に、二酸化珪素被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にエポキシ系プライマーを塗布してプライマー層を形成する下層形成工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明の印刷・塗装方法によると、インキ・塗料を改良したりポリアセタール樹脂素材を改質したりポリアセタール樹脂成形品の表面に樹脂フィルムを熱接着したりして、ポリアセタール樹脂成形品の表面とインキ・塗料との密着性を向上させる、といった方法によらずに、ポリアセタール樹脂成形品の表面に高品質の印刷や塗装を行うことができ、使用することのできるインキや塗料の種類も特に限定されることがない。
【0009】
請求項2に係る発明の印刷・塗装方法では、ポリアセタール樹脂成形品の表面に対するインキ・塗料の密着性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の最良の実施形態について説明する。
この発明に係る印刷・塗装方法は、ポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布する前に、ポリアセタール樹脂成形品の表面に対して施される前処理方法に特徴を有するものである。すなわち、第1の工程として、ポリアセタール樹脂成形品の表面を粗化し、その後、第2の工程として、粗化されたポリアセタール樹脂成形品の表面に二酸化珪素(SiO)の被膜を形成する。これらの工程により、ポリアセタール樹脂成形品の表面とインキまたは塗料との密着性が大幅に向上することとなる。そして、SiO被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布して、印刷または塗装によりコーティングされたポリアセタール樹脂成形品を得る。また、前記第2の工程の後に、第3の工程として、SiO被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にエポキシ系プライマーを塗布し、印刷または塗膜の下層となるプライマー層を形成するようにしてもよい。このように、プライマー層が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布することにより、ポリアセタール樹脂成形品の表面とインキ・塗料との密着性をより向上させることができる。
【0011】
印刷・塗装が施される基材となるポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基を主たる重合単位として含む高分子化合物であって、単一重合体(ホモポリマー)であるか共重合体(コポリマー)であるかを問わない。また、ポリアセタール樹脂の重合度についても特に限定されないし、また、分子形態も線状、分岐状、架橋状などを問わない。さらに、熱安定剤、充填剤、耐電防止剤、酸化防止剤、滑剤等の各種補助材料が添加されたポリアセタール樹脂を基材として使用することもできる。
【0012】
印刷・塗装の前処理として実施される第1の工程において、ポリアセタール樹脂成形品の表面を粗化する方法は、機械的方法であってもよいし化学的方法であってもよい。例えば、サンドブラスト処理、火炎処理、プラズマ処理、化成処理などによりポリアセタール樹脂成形品の表面を粗化すればよいが、表面粗化方法は特に限定されない。粗化処理後のポリアセタール樹脂成形品の表面粗さは、特に限定されないが、例えばRa=0.1mm以下とすることが好ましく、より好ましくはRa=0.03mm〜0.001mm程度とする。
【0013】
印刷・塗装の前処理として実施される第2の工程において、粗化されたポリアセタール樹脂成形品の表面にSiO被膜を形成する方法としては、例えば、CCVD法(触媒化学気相成長法)、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法、スパッタリング法、真空蒸着法、ディッピング法(引上げ速度:例えば50mm/分〜400mm/分)、ゾル−ゲル法、シランカップリング剤を用いた方法などを利用することができる。ポリアセタール樹脂成形品の表面に形成されるSiO被膜の厚みは、特に限定されないが、例えば3μm以下とすることが好ましく、より好ましくは1μm以下の膜厚とするとよい。
【0014】
SiO被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にインキを塗布する方法としては、オフセット印刷、スクリーン印刷、ホットスタンピング印刷などの一般的な方法を使用すればよいが、特にそれらに限定されるものではない。また、ポリアセタール樹脂成形品の表面に形成されたSiO被膜上に塗料を塗布する方法としては、スプレー、刷毛等を用いた通常の塗装法を用いればよいが、特に限定されない。インキや塗料は、特殊なものを使用する必要は無く、一般に市販されているエポキシ系、メラミン系、アクリル・シリコン系、ウレタン系などのインキや塗料を使用することができるが、その種類は特に限定されない。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
ポリアセタール樹脂成形品(ポリプラスチック(株)製、製品名:ジュラコン白色)の表面をサンドブラスト処理して粗化し、続いて、粗化されたポリアセタール樹脂成形品の表面に、CCVD法によりSiOの被膜を形成した。その後に、SiO被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面に、水系の塗料(アイカ工業(株)製、商品名:銀銅)をスプレー塗装により塗布した。
【0016】
サンドブラスト処理による表面粗化には、ホワイトアルミナ(99%)#120((株)不二製作所製)を使用し、サンドブラスト機により樹脂成形品の表面を粗化した。粗化処理後のポリアセタール樹脂成形品の表面粗さは、約10μm〜20μm(Ra≒15μm)とした。また、CCVD法によるSiO被膜の形成は、CCVD処理機((株)イシマット・ジャパン製)を使用して、SiOを気化させた気体をガスの炎中に注入しながら樹脂成形品の表面にSiOを定着させることにより行った。ポリアセタール樹脂成形品の表面に形成されるSiO被膜の厚みは、約0.06μmとした。
【0017】
[実施例2]
上記実施例1と同様の条件および方法により、使用する塗料だけをアクリル・シリコン系の塗料(大橋化学(株)製、商品名:ネオポリナール)に変更して、ポリアセタール樹脂成形品の表面に塗装した。
【0018】
[実施例3]
上記実施例1と同様の条件および方法により、使用する塗料をウレタン系の塗料(大橋化学(株)製、商品名:ハイセーム)に変更し、また、SiO被膜形成工程の後に、樹脂成形品の表面にエポキシ系プライマー(神東塗料(株)製、商品名:ネオゴーセー#2300)を塗布してプライマー層を形成し、プライマー層を介してポリアセタール樹脂成形品の表面にスプレー塗装した。
【0019】
[比較例1]
上記実施例1、2および3として示した条件および方法において、粗化されたポリアセタール樹脂成形品の表面に対するCCVD法によるSiO被膜の形成を行わないで、粗化された樹脂成形品の表面に塗料をスプレー塗装により塗布し、それぞれを比較例1−1、1−2および1−3とした。
【0020】
[比較例2]
上記実施例1、2および3として示した条件および方法において、サンドブラスト処理によるポリアセタール樹脂成形品の表面粗化を行わないで、樹脂成形品の表面にCCVD法によりSiOの被膜を形成し、SiO被膜が形成された樹脂成形品の表面に塗料をスプレー塗装により塗布し、それぞれを比較例2−1、2−2および2−3とした。
【0021】
[比較例3]
上記実施例1、2および3として示した条件および方法において、サンドブラスト処理によるポリアセタール樹脂成形品の表面粗化、および、CCVD法によるSiO被膜の形成を行わないで、樹脂成形品の表面に塗料をスプレー塗装により塗布し、それぞれを比較例3−1、3−2および3−3とした。
【0022】
[評価方法]
ポリアセタール樹脂成形品の表面に対する塗料の密着性の評価は、粘着テープ剥離テストおよびクロスカット剥離テストによって行った。粘着テープ剥離テストは、試験片上の塗装部に透明粘着テープを貼り付け、そのテープの上から塗装部を強く擦って透明粘着テープを試験片に密着させた後、透明粘着テープの一端部を指で摘んで一気にテープを試験片上から引き剥がし、塗装部の剥離状況を観察することにより行った。塗料の密着性の評価は、10点(全く剥離せず)〜0点(著しい剥離)の判定基準に基づいて行った。また、クロスカット剥離テスト(碁盤目試験)は、JISK5400に準じ、カッターナイフを用いて試験片上の塗装面に直交する縦・横11本ずつの平行線を1mmの間隔で刻線して、1cmの面積中に100個の升目を形成し、碁盤目の部分に粘着テープを密着させて一気に引き剥がし、残った升目を数えることにより行った。判定は、全く剥離がなければ10とし、全ての升目が剥離したときは0として、剥離せずに残った升目の割合を記録することにより行った。
【0023】
[評価の結果]
評価の結果を表1に示す。
【表1】

【0024】
表1に示した結果から分かるように、この発明に係る塗装方法により、塗料の種類を問わずポリアセタール樹脂成形品の表面に高品質の塗装を行うことができた。
【0025】
[実施例4]
上記実施例1と同様の条件および方法により、使用する塗料をアクリル・ウレタン系の塗料(藤倉化成(株)製、商品名:#78 レクラック0A−61)に変更し、また、CCVD法に代えてディッピング法により、粗化されたポリアセタール樹脂成形品の表面にSiOの被膜を形成して、ポリアセタール樹脂成形品の表面に塗装した。ディッピングによるSiO被膜の形成は、SiOを含有する溶液((株)日本ダクロシャムロック製、商品名:ソルガードNP720)中に樹脂成形品を浸漬させた後、300mm/分の速度で溶液中から樹脂成形品を引き上げ、その後に、室温、湿度50%以下の大気中で約5分間、塗布液膜を自然乾燥させることにより行った。ポリアセタール樹脂成形品の表面に形成されるSiO被膜の厚みは、約3μmとした。
【0026】
クロスカット剥離テストにより、ポリアセタール樹脂成形品の表面に対する塗料の密着性の評価を行った結果、数値は8〜10であった。なお、樹脂成形品の表面に対する塗料の密着力は、樹脂成形品の表面に形成されるSiO被膜の膜厚によって変化し、SiO被膜の膜厚は、1μm以下とすることが望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布する、ポリアセタール樹脂成形品への印刷・塗装方法において、
ポリアセタール樹脂成形品の表面を粗化する表面粗化工程と、
粗化されたポリアセタール樹脂成形品の表面に二酸化珪素の被膜を形成する被膜形成工程と、
二酸化珪素被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にインキまたは塗料を塗布する塗布工程と、
を含むことを特徴とする、ポリアセタール樹脂成形品への印刷・塗装方法。
【請求項2】
前記被膜形成工程の後に、二酸化珪素被膜が形成されたポリアセタール樹脂成形品の表面にエポキシ系プライマーを塗布してプライマー層を形成する下層形成工程を含む請求項1記載のポリアセタール樹脂成形品への印刷・塗装方法。

【公開番号】特開2006−167507(P2006−167507A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359603(P2004−359603)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(301035677)プラスコート株式会社 (2)
【Fターム(参考)】