説明

ポリアニリン系塗料および防錆剤ならびに積層体

【課題】本発明は、金属との密着性に優れ、防錆性にも優れる塗膜を得ることができるポリアニリン系塗料を提供する。
【解決手段】ポリアニリン類(A)と、リン酸基と重合性基とをそれぞれ少なくとも1つ有する化合物(B)とを含有するポリアニリン系塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアニリン系塗料および防錆剤ならびに積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の防錆方法としては、一般に金属表面に高分子化合物またはクロム化合物等からなる塗膜を形成する方法が採られている。
しかしながら、高分子化合物を塗布する方法では、塗膜が欠損しやすく、欠損部から腐食が進行するという欠点がある。また、クロム化合物を塗布する方法は優れた防錆効果を示すものの、環境面および健康面への影響が問題となる。
【0003】
また、金属の電位を一定に制御する方法も優れた防錆効果を有することが知られている。しかしながら、この方法では外部電源、対極、電位制御のための装置が必要となり、技術的、経済的にその適用範囲は限定されるという問題がある。
【0004】
そこで、電気活性な化合物を被覆して電位を一定に制御する方法が提案されている。例えば、導電性ポリマーであるポリアニリンからなる塗膜を金属表面に形成する方法が知られている。
非特許文献1には、ポリアニリンによる防食メカニズムが図1に示すような3段階ステップである旨が記載されている。具体的には、「まずポリアニリン(Emeraldine salt)の貴金属的性質(高いRedox電位)によって、FeがFe2+に酸化(イオン化)され、その時放出される電子で自分自身は還元されてLeuco型のEmeraldineとなる(First step)。ついで、皮膜を透過してきた酸素をこのLeuco型のEmeraldineが還元すること(OH-イオンの生成)で、自身は酸化されてEmeraldine saltに戻る(Second step)。更にFe2+がFe3+に酸化する時放出する電子で酸素が還元されて、生成したOH-イオン並びにEmeraldine saltによる酸素還元で発生したOH-イオンとがそれぞれFe3+と反応して最終的にFe23・H2Oを生成する(Third step)。すなわちポリアニリンのRedox触媒反応が不動態皮膜の形成に重要な役割を果たすと考えられている。」と記載されている。
しかしながら、ポリアニリンと金属との密着性は十分ではなく、塗膜の欠損部から金属の腐食が進行するという問題があった。
【0005】
特許文献1には、ポリアニリンの金属に対する密着性等を向上することを目的とした防食塗料として、「少なくともポリアニリンもしくはポリアニリンの誘導体を含んでなる防食塗料であって、該防食塗料を構成する固形分中にリン酸が添加されたことを特徴とする防食塗料」が記載されている。
【0006】
【非特許文献1】導電性高分子の最新応用技術、シーエムシー出版、2004年4月30日、p.174−175
【特許文献1】特開平11−21505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の防食塗料は、リン酸を添加しない塗料と比べればポリアニリン塗膜と金属との密着性は向上するものの十分な密着性のレベルには達していないため、過酷な環境下で長期間使用した場合には塗膜に欠損を生じて金属が腐食するおそれが高くなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、金属との密着性に優れ、防錆性にも優れる塗膜を得ることができるポリアニリン系塗料を提供することを目的とする。
また、本発明は、優れた防錆性を有する防錆剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、防錆性に優れる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、ポリアニリン類(A)と、リン酸基と重合性基とをそれぞれ少なくとも1つ有する化合物(B)とを含有する場合に、金属との密着性に優れ、防錆性にも優れる塗膜を得ることができるポリアニリン系塗料となることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、下記(1)〜(6)を提供する。
(1)ポリアニリン類(A)と、リン酸基と重合性基とをそれぞれ少なくとも1つ有する化合物(B)とを含有するポリアニリン系塗料。
(2)前記化合物(B)が、リン酸エステル(メタ)アクリレートおよび/またはリン酸エステル(メタ)アクリレートの塩である上記(1)に記載のポリアニリン系塗料。
(3)前記ポリアニリン類(A)を構成するアニリン単位および/またはアニリン誘導体単位と、前記化合物(B)のリン酸基とのモル比が、1/0.2〜1/20である上記(1)または(2)に記載のポリアニリン系塗料。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアニリン系塗料からなる防錆剤。
(5)金属基材と、前記金属基材の表面に上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアニリン系塗料を塗布して硬化させて形成された塗膜とを有する積層体。
(6)前記塗膜の表面に上塗り塗膜を有する上記(5)に記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアニリン系塗料は、金属との密着性に優れ、防錆性にも優れる塗膜を得ることができる。また、本発明の防錆剤は、優れた防錆性を有する。
また、本発明の積層体は、防錆性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のポリアニリン系塗料は、ポリアニリン類(A)と、リン酸基と重合性基とをそれぞれ少なくとも1つ有する化合物(B)とを含有する。
【0013】
本発明のポリアニリン系塗料に用いられるポリアニリン類(A)は、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体およびこれらの混合物であり、具体的には、下記式(1)で表される化合物の重合体が好適に挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
上記式(1)中、nは0〜5の整数を表す。
1は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルカノイル基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、アルキルスルフィニル基、アルキルチオアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、シアノ基、ハロアルキル基、ニトロアルキル基またはシアノアルキル基である。複数のR1は、同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
上記式(1)で表される化合物としては、具体的には、例えば、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、o−エチルアニリン、m−エチルアニリン、o−エトキシアニリン、m−ブチルアニリン、m−ヘキシルアニリン、m−オクチルアニリン、2,3−ジメチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,5−ジメトキシアニリン、o−シアノアニリン、2,5−ジクロロアニリン、2−ブロモアニリン、5−クロロ−2−メトキシアニリン、3−フェノキシアニリン等が挙げられる。
上記ポリアニリン類(A)は、これらのモノマーの1種を用いた重合体であってもよく、2種以上を用いた共重合体であってもよい。また、上記ポリアニリン類(A)には、上記モノマーの他に、更に他のモノマーを本発明の目的を損なわない範囲で用いてもよい。
【0017】
上記ポリアニリン類(A)としては、具体的には、例えば、ポリアニリン、ポリ(メチルアニリン)、ポリ(ジメチルアニリン)、ポリ(エチルアニリン)、ポリ(アニリンスルホン酸)が好適に挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記ポリアニリン類(A)の製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を用いることができる。通常は、プロトン酸の存在下で、アニリン塩酸塩の水溶液中に過硫酸アンモニウム等の化学酸化剤溶液を滴下することにより、黒緑色の粉体として得られる。高分子化する方法として、非常に低温(−10℃以下)の状態で長時間(48時間程度)に渡って重合を行うことが良いとされている。
【0019】
上記方法で得られたポリアニリンをアルカリ水溶液中で脱ドープし、水洗、溶剤洗浄後、乾燥すると、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に可溶なポリアニリンとなる。このポリアニリン/NMP溶液にドーパントを加えることで導電性を持たせることができる。
【0020】
上記ドーパントは、密着性に優れた塗膜が得られる点から上記化合物(B)であることが好ましい。上記ドーパントとして、上記化合物(B)と他のドーパントを併用することもできる。
【0021】
他のドーパントとしては、具体的には、例えば、ヨウ素、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン化合物;硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸;これらプロトン酸の各種塩;三塩化アルミニウム、三塩化鉄、塩化モリブデン、塩化アンチモン、五フッ化ヒ素、五フッ化アンチモン等のルイス酸;酢酸、トリフルオロ酢酸、ポリエチレンカルボン酸、ギ酸、安息香酸等の有機カルボン酸;これら有機カルボン酸の各種塩;フェノール、ニトロフェノール、シアノフェノール等のフェノール類;これらフェノール類の各種塩;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、p−ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アルキルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、樟脳スルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸、銅フタロシアニンテトラスルホン酸、ポルフィリンテトラスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸縮合物等の有機スルホン酸;これら有機スルホン酸の各種塩;ポリアクリル酸等の高分子酸;プロピルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル、ヘキシルリン酸エステル、ポリエチレンオキシドドデシルエーテルリン酸エステル、ポリエチレンオキシドアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル;これらリン酸エステルの各種塩;ラウリル硫酸エステル、セチル硫酸エステル、ステアリル硫酸エステル、ラウリルエーテル硫酸エステル等の硫酸エステル;これら硫酸エステルの各種塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記ドーパントの添加量は、モノマーとドーパントとのモル比(モノマー/ドーパント)で、1/0.2〜1/20となる量であるのが好ましく、1/0.5〜1/10となる量であるのがより好ましい。
【0023】
本発明のポリアニリン系塗料に用いられる化合物(B)は、リン酸基と重合性基とをそれぞれ少なくとも1つ有する化合物である。化合物(B)は、化合物(B)の塩であってもよい。化合物(B)の塩としては、アミン塩や亜鉛、鉄、コバルト、カルシウム、アルミニウム等の金属塩等が挙げられる。
化合物(B)は、リン酸基を有するためポリアニリン類(A)のドーパントになると同時に、化合物(B)のリン酸基が金属と不動態化して強固な結合を形成することができる。
【0024】
ところで、ポリアニリンにリン酸を添加した従来の塗料は、金属基材とポリアニリン塗膜とが一体化されていないため密着性が低かった。
これに対し、本発明のポリアニリン系塗料は、化合物(B)を重合させることによって、高分子化した化合物(B)を介して金属基材とポリアニリン類(A)とが結合されて一体化される。そのため、基材と塗膜との密着性を向上でき、防錆性に優れる塗膜を得ることができるのである。
【0025】
上記重合性基は、リン酸基以外の化合物(B)を高分子化させ得る反応性基であり、具体的には、例えば、(メタ)アクリル基、ビニル基、エポキシ基、ウレタン基、カルボキシ基等が挙げられる。上記化合物(B)は分子中にこれらの重合性基の1種のみを有していてもよく、2種以上を有していてもよい。
これらの重合性基の中でも、高反応性、安定性という点から(メタ)アクリル基が好ましい。
【0026】
上記化合物(B)としては、具体的には、例えば、リン酸エステル(メタ)アクリレートおよびこれらの塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、リン酸エステル(メタ)アクリレートおよび/またはリン酸エステル(メタ)アクリレートの塩であるのが好ましい。
リン酸エステル(メタ)アクリレートとしては、下記式(2)〜(5)で表される化合物が好適に挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
上記式中、mは4または5であり、sは5または6である。
【0029】
リン酸エステル(メタ)アクリレートの塩としては、アミン塩が好適に挙げられ、下記式(6)〜(10)で表される化合物がより好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
上記式中、tは4または5であり、uは5または6であり、xは4または5であり、yは5または6である。
【0032】
上記リン酸エステル(メタ)アクリレートとしては、市販品を用いることもできる。具体的には、Phosmer M、Phosmer CL、Phosmer MH、Phosmer PE、Phosmer PEH、Phosmer PPH、Phosmer PEDM、PhosmerPPDM(いずれもユニケミカル社製)等が挙げられる。
【0033】
上記化合物(B)の含有量は、ポリアニリン類(A)を構成するアニリン単位および/またはアニリン誘導体単位と、化合物(B)のリン酸基とのモル比(アニリン単位およびアニリン誘導体単位の合計/リン酸基)が、1/0.2〜1/20となる量であるのが好ましく、1/0.5〜1/10となる量であるのがより好ましい。化合物(B)の含有量がこの範囲であると、金属との密着性に優れ、防錆性にも優れる塗膜が得られる。
なお、化合物(B)が塩である場合、上記モル比におけるリン酸基には塩の形成に関わったリン酸基も含まれる。
【0034】
本発明のポリアニリン系塗料は、上述したポリアニリン類(A)および化合物(B)の他に、必要に応じて、架橋剤を含有することができる。
上記架橋剤は、化合物(B)の重合性基に作用して化合物(B)を高分子化できる化合物であり、重合性基の種類等に応じて公知の重合開始剤、硬化剤、硬化触媒等の中から適宜選択することができる。
【0035】
化合物(B)の重合性基が(メタ)アクリル基である場合、上記架橋剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、クメンヒドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化物系開始剤、アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルパレロニトニル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)、ジメチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系開始剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記架橋剤の含有量は、使用する架橋剤の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、化合物(B)の重合性基が(メタ)アクリル基である場合の上記架橋剤の含有量は、化合物(B)100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜2質量部がより好ましい。
【0037】
本発明のポリアニリン系塗料は、更に、溶剤を含有するのが好ましい。
上記溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明のポリアニリン系塗料は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤等の各種添加剤等を含有することができる。
【0039】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;ケイソウ土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの脂肪酸処理物、樹脂酸処理物、ウレタン化合物処理物、脂肪酸エステル処理物が挙げられる。
【0040】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
【0041】
顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料等が挙げられる。
【0042】
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、アエロジル(日本アエロジル(株)製)、ディスパロン(楠本化成(株)製)等が挙げられる。
接着付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
【0043】
本発明のポリアニリン系塗料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記ポリアニリン類(A)、上記化合物(B)、必要に応じて、架橋剤、溶剤、その他の添加剤を入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法を用いることができる。
【0044】
上述した本発明のポリアニリン系塗料は、金属との密着性に優れ、防錆性にも優れる塗膜を得ることができる。そのため、本発明のポリアニリン系塗料は、特に防錆剤として有用である。また、本発明のポリアニリン系塗料は、帯電防止剤としても好適に使用できる。
【0045】
本発明の防錆剤は、上述した本発明のポリアニリン系塗料からなる。
したがって、本発明の防錆剤は、金属との密着性に優れ、防錆性にも優れる塗膜を得ることができる。
【0046】
次に、本発明の積層体について詳細に説明する。
本発明の積層体は、金属基材と、上記金属基材の表面に上述した本発明のポリアニリン系塗料を塗布して硬化させて形成された塗膜とを有する積層体である。
【0047】
上記金属基材は、表面の少なくとも一部が金属からなる基材であり、表面の少なくとも一部を構成する金属としては、例えば、鋼、鉄、アルミ等が挙げられる。
表面の少なくとも一部が金属からなる基材としては、自動車、電化製品外板、自転車、屋根、公園遊具、金具類等があり、これらの表面コートとして有効に利用できる。
【0048】
本発明のポリアニリン系塗料は、通常採用されている塗布方法、例えば、ハケ塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法等を用いて上記金属基材の表面に塗布でき、必要に応じて、加熱または光照射等の手段を用いて硬化させて、塗膜を形成できる。
塗膜の厚さは、特に限定されないが、防錆性に優れる点から0.1〜100μmが好ましく、0.5〜10μmがより好ましい。
【0049】
本発明の積層体は、上記塗膜の表面に上塗り塗膜を有するのが好ましい態様の1つである。上塗り塗膜は、例えば、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料等を上記塗膜の表面に塗布して硬化させて形成することができる。
上塗り塗膜の厚さは、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。
【0050】
本発明の積層体は、金属基材の表面に優れた密着性を有する塗膜が形成されているため、防錆性に優れ、過酷な環境下に長期間放置された場合でも金属基材の腐食を防止できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(合成例1)
アニリン15g、蒸留水300gおよび濃塩酸36gを混合し、0℃に保ちながら過硫酸アンモニウム24.5gを蒸留水100gに溶解した溶液を加え、約4時間撹拌し、ろ過した。
ろ過後、残渣を500gの水に分散し、それに3%のアンモニア水500gを加え、よく撹拌した後、再度ろ過した。
残渣を更に水、メタノールで洗浄し、60℃で真空乾燥して脱ドープ状態のポリアニリン粉末を作製した。
【0052】
(実施例1〜5)
下記第1表に示す各成分を、第1表に示す組成(質量部)で、かくはん機を用いて混合し、第1表に示される実施例1〜5の各塗料を得た。
メチルエチルケトンを用いて脱脂した鋼板の表面に、得られた各塗料を塗布し、150℃のオーブンで5分間乾燥した後、UV照射装置を用いて重合を行い、厚さ5μmの塗膜を形成した。
【0053】
(比較例1〜4)
下記第1表に示す各成分を、第1表に示す組成(質量部)で、かくはん機を用いて混合し、第1表に示される比較例1〜4の各塗料を得た。
メチルエチルケトンを用いて脱脂した鋼板の表面に得られた各塗料を塗布し、150℃のオーブンで5分間乾燥して、厚さ5μmの塗膜を形成した。
【0054】
(実施例6)
ポリテトラメチレングリコール(PTMG2000、三洋化成社製)10g、トリレンジイソシアネート(TDI80、三井武田ケミカル社製)0.96gおよびメチルエチルケトン(MEK)50gを混合し、これを実施例1の硬化塗膜上に塗布し、更に80℃で3時間硬化させて厚さ5μmの上塗り塗膜を形成した。
【0055】
(防錆性評価)
得られた各積層体の塗膜にクロスカットを入れ、JIS Z2371−2000に準じて、35℃の塩水噴霧試験を実施した。
試験開始から24時間後の塗装部の状態、100時間後の塗装部の状態およびクロスカット部の状態を目視で観察した。
異常のないものを「○」、一部に錆びが発生してきたものを「△」、大部分に錆びが発生してきたものを「×」とした。
結果を下記第1表に示す。
【0056】
【表1】


【0057】
上記第1表に示す各成分は、下記のとおりである。
・化合物(B−1):上記式(2)で表される化合物、Phosmer M、ユニケミカル社製、重量平均分子量210
・化合物(B−2):上記式(3)で表される化合物、Phosmer CL、ユニケミカル社製、重量平均分子量258.5
・N−メチル−2−ピロリドン:試薬、アルドリッチ社製
・ドデシルベンゼンスルホン酸:テイカパワーB121、テイカ社製
・ポリエステル樹脂:バイロン200、東洋紡績社製
・リン酸:試薬、アルドリッチ社製
・架橋剤:1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、イルガキュア184、チバスペシャリティケミカルズ社製
【0058】
上記第1表に示す結果から明らかなように、化合物(B)を含有していない塗料を用いた積層体(比較例1〜3)は、防錆性が十分ではなかった。また、ポリアニリンを含有していない塗料を用いた積層体(比較例4)は、防錆性が十分ではなかった。
一方、実施例1〜5の積層体は、塗膜と鋼板との密着性が優れているため、優れた防錆性を有していた。また、実施例1の硬化塗膜上に更に上塗り塗膜を形成させた実施例6の積層体は、実施例1と比較して防錆性が向上していた。
【0059】
(実施例7)
トルエン50gに、化合物(B−1)2.26g、グリシジルメタクリレート(ブレンマーG、日本油脂社製)1.42gおよびアゾビスイソブチロニトリル(試薬、アルドリッチ社製)0.03gを加え、密閉後、撹拌しながら80℃で8時間重合を行った。
次に、合成例1のポリアニリン粉末を50gのN−メチル−2ピロリドンに溶解し、これに上記トルエン溶液を加えて、30分間撹拌すると初期に青色だった溶液が緑色に変化して、リン酸部分がポリアニリンと結合し、ドープ状態となったことが確認できた(モル比:1/1)。
この溶液に更にエポキシ硬化剤(テトラヒドロ無水フタル酸、リカシッドTH、新日本理化社製)1.52g添加し、溶解させた後、メチルエチルケトンを用いて脱脂した鋼板の表面に塗布し、150℃のオーブンで5分間乾燥した後、更に130℃のオーブンで5分間乾燥した後、更に130℃のオーブンで1時間エポキシ樹脂を硬化させ、厚さ5μmの塗膜を形成した。
その後、上記と同様に防錆性の評価を行った。
その結果、100時間後においても塗装部およびクロスカット部に異常が見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、ポリアニリンによる鉄表面の触媒的不動態化による防食メカニズムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニリン類(A)と、リン酸基と重合性基とをそれぞれ少なくとも1つ有する化合物(B)とを含有するポリアニリン系塗料。
【請求項2】
前記化合物(B)が、リン酸エステル(メタ)アクリレートおよび/またはリン酸エステル(メタ)アクリレートの塩である請求項1に記載のポリアニリン系塗料。
【請求項3】
前記ポリアニリン類(A)を構成するアニリン単位および/またはアニリン誘導体単位と、前記化合物(B)のリン酸基とのモル比が、1/0.2〜1/20である請求項1または2に記載のポリアニリン系塗料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアニリン系塗料からなる防錆剤。
【請求項5】
金属基材と、前記金属基材の表面に請求項1〜3のいずれかに記載のポリアニリン系塗料を塗布して硬化させて形成された塗膜とを有する積層体。
【請求項6】
前記塗膜の表面に上塗り塗膜を有する請求項5に記載の積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−195812(P2008−195812A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31778(P2007−31778)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】