説明

ポリアニリン複合体、その組成物及び成形体

【課題】高電導でありながら優れた耐熱性を示す成形体を与えるポリアニリン複合体及びその組成物を提供する。
【解決手段】下記式(I)で示される化合物でプロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体。


{式中、Xは、酸性基であり、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリアニリン複合体、その導電性組成物及びそれから得られる成形体に関し、特に耐熱性に優れる導電性ポリアニリン組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリンは、導電性高分子の1つとして周知の材料である。ポリアニリンは、その電気的な特性に加え、安価なアニリンから比較的簡便に合成でき、且つ導電性を示す状態で、空気等に対して優れた安定性を示すという利点及び特性を有する。
【0003】
ポリアニリンの製造方法としては、アニリン又はアニリン誘導体を電解酸化重合する方法又は化学酸化重合する方法が知られている。
【0004】
電解酸化重合では、電気的特性等に優れたフィルムが得られるが、一般に、化学酸化重合に比べて製造コストが高く、大量生産には適しておらず、複雑な形状の成形体を得ることも困難である。
【0005】
一方、化学酸化重合によって導電性のアニリン又はアニリン誘導体の重合体を得るためには、一般に、非導電性塩基状態(いわゆるエメラルディン塩基状態)で得られるポリアニリンにドーパント(ドーピング剤)を加えてプロトネーションする工程を必要とする。しかしながら、非導電性塩基状態のポリアニリンは大部分の有機溶剤に殆ど溶解しないため、工業的な製造に適するものではない。さらに、プロトネーション後に生成する導電性のポリアニリン(いわゆるエメラルディン塩状態)は、実質的に不溶不融であり、導電性の複合材料及びその成形体を簡便に製造することは難しい。
【0006】
上記の問題に対し、本発明者らは、製造や取り扱いが容易な可溶性の導電性ポリアニリン複合体及びその組成物を開発している(特許文献1)。しかもこのポリアニリン組成物は高い電導度を有している。
【特許文献1】国際公開第2005/052058パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のポリアニリン複合体及びその組成物は優れた性質を有するものであるが、得られる成形体の耐熱性は必ずしも高いとは言えず、例えば、160℃程度の高温下に1日程度曝すと電導度が低下する傾向があった。
従って、本発明は、高電導でありながら、優れた耐熱性を示す成形体を与えるポリアニリン複合体及びその組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下のポリアニリン複合体及びその組成物等が提供される。
1.下記式(I)で示される化合物でプロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体。
【化2】

{式中、Xは、酸性基であり、Rは、それぞれ独立して、−R、−OR、−COR、−COOR、−CO(COR)、又は−CO(COOR)[ここで、Rは、炭素数が4以上の置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、−(RO)x−R基、又は−(OSiR)x−OR基(Rはアルキレン基であり、Rはそれぞれ同一でも異なってもいてもよい炭化水素基であり、xは1以上の整数である)である]であり、任意のR同士が結合し環を形成していてもよい。nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。}
2.実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、1記載の置換又は未置換ポリアニリン複合体、及び
フェノール性水酸基を有する化合物
を含む導電性ポリアニリン組成物。
3.前記フェノール性水酸基を有する化合物が、芳香環を2個以上含む化合物である2記載の導電性ポリアニリン組成物。
4.実質的に水と混和しない有機溶剤中、前記式(I)で示される化合物の存在下で、置換又は未置換アニリンを化学酸化重合させる1記載の置換又は未置換ポリアニリン複合体の製造方法。
5.1記載の置換又は未置換ポリアニリン複合体に、フェノール性水酸基を有する化合物を添加する導電性ポリアニリン組成物の製造方法。
6.2又は3に記載の導電性ポリアニリン組成物から得られる導電性成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高電導であり優れた耐熱性を示す成形体を与えるポリアニリン複合体及びその組成物を提供できる。
【0010】
本発明のポリアニリン複合体は、上記式(I)に示されるプロトン酸をプロトネーションさせることで、高い耐熱性を示す。また、この複合体に少量のフェノール性水酸基を有する化合物を添加した組成物から得られる成形体は、電導度等の電気的特性が向上する。さらに、フェノール性水酸基を有する化合物を芳香族環を2個以上含む化合物とした場合、得られる成形体は、導電性が高く、かつ熱による導電性の低下が少なく、その均一性故に、透明性の高い導電性物品となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の置換又は未置換ポリアニリン複合体(単にポリアニリン複合体ともいう)は、置換又は未置換ポリアニリン(単にポリアニリンともいう)が下記式(I)で示される化合物でプロトネーションされた複合体である。
【化3】

{式中、Xは、酸性基であり、Rは、それぞれ独立して、−R、−OR、−COR、−COOR、−CO(COR)、又は−CO(COOR)[ここで、Rは、炭素数が4以上の置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、−(RO)x−R基、又は−(OSiR)x−OR基(Rはアルキレン基であり、Rはそれぞれ同一でも異なってもいてもよい炭化水素基であり、xは1以上の整数である)である]であり、任意のR同士が結合し環を形成していてもよい。nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。}
【0012】
本発明の導電性ポリアニリン組成物は、実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、上記のポリアニリン複合体、及びフェノール性水酸基を有する化合物(以下、フェノール性化合物という)を含む。
【0013】
本発明のポリアニリン複合体、その組成物及びそれらから得られる成形品は、ポリアニリン複合体に、上記式(I)に示されるプロトン酸をプロトネーションさせることで、高い耐熱性を示す。
【0014】
さらに、フェノール性化合物として、芳香族環を2個以上含むフェノール性化合物を用いると、熱による電導度の低下が抑制される。電導度で、熱分解温度が高く、熱による電導度(導電性)の低下が小さい高耐熱性の導電性材料が得られる。
【0015】
本発明のポリアニリン複合体における、置換又は未置換ポリアニリンは、重量平均分子量が10,000g/mol以上の高分子量体であることが好ましい。これにより組成物から得られる導電性物品の強度や延伸性を向上することができる。重量平均分子量の上限値は特に存在せず、重量平均分子量が数百万g/mol程度のポリアニリンも製造可能であり、本発明の導電性ポリアニリン組成物も製造できる。しかし、溶解の観点から、重量平均分子量は10,000,000程度以下であることが好ましい。
尚、ポリアニリンの分子量は、ゲルパーミェションクロマトグラフィ(GPC)により測定したものである。
置換ポリアニリンの置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分岐の炭化水素基、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシル基、アリーロキシ基、CF基等の含ハロゲン炭化水素基等が挙げられる。
【0016】
本発明のポリアニリン複合体では、下記式(I)で示される化合物が、ポリアニリンにプロトネーションしている。
【化4】

上記式において、Xは、酸性基であり、例えば、−SO基、−PO2−基、−PO(OH)基、−OPO2−基、−OPO(OH)基、−COO基等が挙げられる。これらの中では、酸性度が高く、ドープし易い点で−SO基が好ましい。
【0017】
Rは、それぞれ独立して、−R、−OR1、−COR、−COOR、−CO(COR)、又は−CO(COOR)である。ここで、Rは炭素数が4以上の置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、−(R2O)x−R基、又は−(OSiR)x−OR基(Rはアルキレン基であり、Rはそれぞれ同一でも異なってもいてもよい炭化水素基であり、xは1以上の整数である)である。Rが炭化水素基である場合の例としては、直鎖若しくは分岐のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、エイコサニル基等が挙げられる。
【0018】
nは1以上の整数であり、好ましくは1〜2の整数である。mは0以上の整数であり、好ましくは0〜1の整数である。
【0019】
式(I)で示される化合物は好ましくは下記式(II)で示される化合物である。
【化5】

(式中、Xは、酸性基であり、R10,R11はそれぞれ炭素数4〜24の直鎖又は分岐状のアルキル基、−(R2O)x−R基、又は−(OSiR)x−OR基(Rは炭素数2〜4のアルキレン基であり、Rはそれぞれ炭素数2〜10の炭化水素基であり、xは1〜4の整数である)である。pは0又は1である。)
10及びR11は好ましくは炭素数4〜24の直鎖又は分岐状のアルキル基又は−(R2O)x−R基であり、より好ましくは炭素数4〜24の直鎖又は分岐状のアルキル基である。具体例としては、直鎖又は分岐状のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
【0020】
式(I)で示される有機プロトン酸は、ポリアニリンをプロトネーションする機能を有し、ポリアニリン複合体中においては、ドーパント(カウンターアニオン)として存在している。即ち、本発明の組成物においては、有機プロトン酸、及びフェノール性化合物の2種類の化合物がドーパントとして機能する。
【0021】
ポリアニリン複合体において、ポリアニリンと式(I)で示される化合物との組成比については特に限定されないが、ポリアニリンのモノマーユニット/式(I)で示される化合物のモル比は、高い導電性を得るという観点から、通常2〜4、好ましくは2〜2.5である。
【0022】
ポリアニリン複合体は、化学酸化重合法や電解重合法により製造できる。
好ましくは、実質的に水と混和しない有機溶剤中、上記式(I)で示される有機プロトン酸又はその塩の存在下で、置換又は未置換アニリンを化学酸化重合させる。
化学酸化重合法や電解重合法の具体的な製造条件については、上述した国際公開第2005/052058を参照できる。
【0023】
本発明で用いる上記式(I)で示される有機プロトン酸又はその塩は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、ノルボルネンジカルボン酸無水物誘導体と所望のアルコールとの反応により、対応するノルボルネンエステル誘導体を得ることができる。これを亜硫酸水素ナトリウム等でヒドロスルホニル化することによって、対応するノルボルネンエステルのスルホン酸誘導体を得ることができる。
【0024】
本発明の組成物で用いるフェノール性化合物は、特に限定されず、ArOH(ここで、Arはアリール基又は置換アリール基である)で示される化合物である。具体的には、フェノール、o−,m−若しくはp−クレゾール、o−,m−若しくはp−エチルフェノール、o−,m−若しくはp−プロピルフェノール、o−,m−若しくはp−ブチルフェノール、o−,m−若しくはp−クロロフェノール、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフタレン等の置換フェノール類;カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール性化合物;及びフェノール樹脂、ポリフェノール、ポリ(ヒドロキシスチレン)等の高分子化合物等を例示することができる。
【0025】
本発明の組成物において、フェノール性化合物は、溶媒ではなく、ドーパントとして存在している。フェノール性化合物がドーパントであることは、フェノール性化合物を添加した本発明の組成物から製造した成形体は、これを添加しない成形体に比べて電導度が非常に高いこと(実施例及び比較例参照)、及び有機溶剤を除去した後の、フェノール性化合物を含む本発明の導電性ポリアニリン組成物から得られる成形体とフェノール性化合物を含まないポリアニリン複合体から得られる成形体とが、異なるUV−vis(紫外可視)スペクトルを示すことによって裏付けられ、有機溶剤を除去した後の成形体中にフェノール性化合物が残存していることは明らかである。すなわち、フェノール性化合物が単なる溶剤であれば、成形体を形成するときに、熱を加えることによって容易に揮発して除去される。しかしながら、ドーパントとして存在しているときには帯電しており、そのためポリアニリンから除去するには、大きなエネルギーを必要とし、揮発させる程度の加熱では除去されないのである。
【0026】
本発明の組成物におけるフェノール性化合物の添加量は、プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体に対して、通常0.01〜1000質量%、好ましくは0.5〜500質量%の範囲である。
また、組成物全体ではフェノール性化合物のモル数濃度が、0.01mol/L〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。この化合物の添加量が少なすぎると、電導度の改善効果が得られないおそれがある。また、多すぎる場合にも、組成物の均一性が損なわれたり、揮発除去する際に多大な熱や時間等の労力を必要とし、結果として、透明性や電気特性が損なわれた材料となるおそれがある。
【0027】
耐熱性の観点から、フェノール性化合物は、好ましくは芳香環を2個以上有し、より好ましくは芳香環を2個有することが好ましい。芳香環を2個以上有するフェノール性化合物としては芳香族性を有していれば特に制限は無く、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピリジン環、ピロール環等の芳香環を2つ以上有し、かつフェノール性水酸基を1つ以上有するものが使用できる。
このような化合物として、下記式(III)で表されるものが好ましく使用できる。
【0028】
Ar−X−Ar’ (III)
[式中、Xは単結合、酸素原子、窒素原子を含む基、又は炭素原子を含む基であり、Ar及びAr’は芳香環基であり、両者は同一でも異なってもよい。Ar及び/又はAr’は、少なくとも一つの水酸基を有する。ArとAr’は、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、シアノ基及びカルボニル基からなる群から選択される置換基を1つ以上有してもよい。]
【0029】
Xとしては、単結合、酸素原子、−NH−、−NHCO−、−COO−、−CO−、−COCH−、−OCO−、−CH−、−C−、−C−等が挙げられる。耐熱性と高い導電性を得るという観点から、好ましいXとして、酸素原子を挙げることができる。
Xは、フェノール性化合物中に1個又は2個存在させることができる。2個存在する場合、2つのXは同一でも異なっていてもよい。このようなものとして、例えば、Xとして単結合と−CH−を有するフルオレン構造が挙げられる。
【0030】
Ar、Ar’上の置換基のうち、炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
また、Ar、Ar’のその他の置換基としては、ハロゲン、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ニトリル基、カルボニル基等が挙げられる。
また、Ar又はAr’上の複数の置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。環構造としては、例えば、シクロヘキシル環、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピリジン環、ピロール環等が挙げられる。
【0031】
また、2個の芳香環がXを介して結合している式(III)化合物以外の好ましいフェノール性化合物として、ナフタレン環やアントラセン環のような多環芳香環に水酸基が付加したフェノール性化合物が挙げられる。このような化合物は、耐熱性と高い導電性が発現する点で好ましい。このような化合物として、例えば、α−ナフトールやβ−ナフトールが挙げられる。
【0032】
芳香族環を2個以上含むフェノール性化合物は、融点が室温以上又は、室温での沸点が200℃以上のフェノール性化合物が好ましい。特に好ましくは、2−、3−、又は4−ヒドロキシビフェニル、2−、3−、又は4−フェノキシフェノール、1−又は2−ナフトール等が挙げられる。
【0033】
本発明の組成物で用いる実質的に水と混和しない有機溶剤(水不混和性有機溶剤)としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等の含ハロゲン系用剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。これらの中では、ポリアニリン複合体の溶解性に優れる点でトルエン、キシレン、クロロホルム、トリクロロエタン、酢酸エチルが好ましい。
【0034】
本発明のポリアニリン組成物は、水不混和性有機溶剤に溶解した状態のポリアニリン複合体に、フェノール性化合物を添加することで製造できる。
水不混和性有機溶剤中のポリアニリン複合体の割合は、水不混和性有機溶剤の種類によるが、通常、900g/L以下であり、好ましくは0.01〜300g/L以下の範囲である。ポリアニリン複合体の含有量が多すぎると、溶液状態が保持できなくなり、成形体を成形する際の取り扱いが困難になり、成形体の均一性が損なわれ、ひいては成形体の電気特性や機械的強度、透明性の低下を生じる恐れがある。一方、ポリアニリン複合体の含有量が少なすぎると、後述する方法により成膜したとき、非常に薄い膜しか製造できず、均一な導電性膜の製造が難しくなる恐れがある。
【0035】
ポリアニリン複合体を水不混和性有機溶剤に溶解させた溶液に、フェノール性化合物を添加する。具体的には、フェノール性化合物を、固体状態又は液状で加えても、水不混和性溶剤中に溶解又は懸濁した状態で添加してもよい。好ましくは、添加後も溶解した状態になるように適切な溶剤添加法を選択する。
ポリアニリン組成物の全体に占めるフェノール性化合物のモル濃度は、0.01mol/L〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。この範囲で特に優れた導電性が得られる。特に、0.2mol/L〜2mol/Lの範囲であることが好ましい。
【0036】
本発明のポリアニリン組成物には、目的に応じて他の樹脂材料、無機材料、硬化剤、又は可塑剤等を添加してもよい。
他の樹脂材料は、例えば、バインダー基材や可塑剤、マトリックス基材等の目的で添加され、その具体例としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。本発明の組成物は、他の樹脂材料を含む場合には、本発明の組成物は導電性複合材料となる。
【0037】
無機材料は、例えば、強度、表面硬度、寸法安定性その他の機械的物性の向上等の目的で添加され、その具体例としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、チタニア(酸化チタン)、アルミナ(酸化アルミニウム)等が挙げられる。
【0038】
硬化剤は、例えば、強度、表面硬度、寸法安定性その他の機械的物性の向上等の目的で添加され、その具体例としては、例えば、フェノール樹脂等の熱硬化剤、アクリレート系モノマーと光重合性開始剤による光硬化剤等が挙げられる。
【0039】
可塑剤は、例えば、引張強度や曲げ強度等の機械的特性の向上等の目的で添加され、その具体例としては、例えば、フタル酸エステル類やリン酸エステル類等が挙げられる。
【0040】
本発明のポリアニリン組成物から導電性成形体が得られる。具体的には、本発明のポリアニリン組成物を乾燥し、有機溶剤を除去することにより、導電性成形体が得られる。
例えば、所望の形状を有するガラスや樹脂フィルム、シート等の基材に塗布し、有機溶剤を除去することによって導電性膜を製造できる。
【0041】
本発明の組成物を基材に塗布する方法としては、キャスト法、スプレー法、ディップコート法、ドクターブレード法、バーコード法、スピンコート法、スクリーン印刷、グラビア印刷法等、公知の一般的な方法を用いることができる。
【0042】
水不混和性有機溶剤を除去するには、加熱して有機溶剤を揮発させればよい。水不混和性有機溶剤を揮発させる方法としては、例えば、空気気流下250℃以下、好ましくは50〜200℃の温度で加熱し、さらに、必要に応じて、減圧下に加熱する。なお、加熱温度及び加熱時間は、特に制限されず、用いる材料に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
また、基材を有しない自己支持型成形体とすることもできる。自己支持型成形体とする場合には、好ましくは、本発明の組成物に上述した他の樹脂材料を添加すると、所望の機械的強度を有する成形体を得ることができる。
【0044】
本発明の成形体が膜又はフィルムである場合、これらの厚さは、通常1mm以下、好ましくは10nm〜50μmの範囲である。この範囲の厚みの膜は、成膜時にひび割れが生じにくく、電気特性が均一である等の利点を有する。
【0045】
これらの成形体は、単一の導電性組成物のみ、即ちポリアニリンベース組成物のみから構成されていても、また、導電性複合体を構成するいくつかのポリマーから構成されていてもよい。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
(1)3,4−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]シクロヘキサンスルホン酸ナトリウムの合成
アルゴンガス気流下、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル(東京化成社製)80gとイソプロピルアルコール900mLを仕込み、亜硫酸水素ナトリウム(和光純薬製)42.3gの水660mL溶液を添加した。この溶液を還流の温度まで加熱し、80〜83℃で16時間攪拌した。この間、還流開始から、1〜5時間後までの1時間毎、その後、9時間後、10時間後に2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(和光純薬製)1.66gをそれぞれ添加した。反応液を室温まで冷却したのち、減圧下に濃縮を行った。濃縮残渣を酢酸エチル/ヘキサン混合溶液に1Lに溶解し、シリカゲル250gを加えて攪拌し、溶液を濾別した。さらに、シリカゲルから1Lの酢酸エチル/ヘキサン溶液で2回抽出を行い、濾液を合せて減圧下に濃縮した。この濃縮液をカラムクロマトグラフィ(シリカゲル1500g、展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、精製物を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶剤を減圧留去することで、3,4−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]シクロヘキサンスルホン酸ナトリウム(下記式に示す化合物AのNa塩)52.4gを得た。
【化6】

【0047】
(2)ポリアニリン複合体の製造
上記(1)で合成した3,4−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]シクロヘキサンスルホン酸ナトリウム8.0gをトルエン200mLに攪拌溶解し、この溶液を、窒素気流下においた2Lのガラス反応器に入れ、さらにこの溶液に、7.2mLのアニリン(和光純薬製)を加え、攪拌溶解した。恒温浴によりフラスコの冷却を開始し、1N塩酸600mLを溶液に添加した。
次に溶液が5℃に冷却された状態で、14.6gの過硫酸アンモニウムを1N塩酸200mLに溶解した溶液を滴下ロートより滴下し、2時間で完了した。滴下開始から20時間の間、溶液内温を5℃に保ったまま攪拌を行った。
【0048】
反応溶液を分液ロートに移し、トルエン200mLを加え、室温で静置した。静置により二相に分離した水相(下相)を抜き出し、粗ポリアニリン複合体トルエン溶液を得た。
さらに、この複合体溶液にイオン交換水200mLを加え攪拌した後、静置し、水相を分離した。この操作を2回行った後、1N塩酸水溶液200mLで同様に複合体溶液を洗浄し、静置後、酸性水溶液を分離して、ポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。
【0049】
この複合体溶液に含まれる不溶物を濾紙により除去し、トルエンに可溶なポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。この溶液をエバポレーターに移し、40℃〜70℃の湯浴で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、10.5gのポリアニリン複合体を得た。
【0050】
(3)ポリアニリン複合体の特性
上記(2)で得られたポリアニリン複合体から、揮発分を実質的に取り除いた後、元素分析した。結果を以下に示す。
炭素:63.8重量%、水素:7.9重量%、窒素:4.6重量%、硫黄:4.1重量%
【0051】
アニリン原料に基づく窒素重量%と3,4−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]シクロヘキサンスルホン酸に基づく硫黄重量%の比率から、本複合体中の3,4−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]シクロヘキサンスルホン酸/アニリンモノマーユニットのモル分率は、0.39であった。また、このポリアニリン複合体中のポリアニリン骨格の重量平均分子量は、112,000g/molであった。
【0052】
尚、分子量は、ゲルパーミェションクロマトグラフィ(GPC)により決定した。具体的には、カラムとしてTOSOH TSK−GEL GMHHR−Hを使用し、0.01MのLiBr/N−メチルピロリドン溶液を使用し、60℃、流速0.35ml/分で測定を行った。試料は、0.2g/L溶液を100μL注入し、260nmのUVにて検出した。標準として、PS(ポリスチレン)換算法にて平均分子量を算出した。
【0053】
本ポリアニリン複合体の空気雰囲気下での熱重量減少曲線を求めた。その結果、35℃から600℃まで20℃/分で昇温した場合の4.8%重量減少温度(熱分解温度)は、271℃であった。
【0054】
(4)ポリアニリン成形体の製造
上記(2)で得た、ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一なポリアニリン複合体溶液を調製した。この溶液約1mlを、ガラス基板上、17mm×50mmの範囲に展開し、空気気流下80℃で60分間乾燥し、厚さ32μmの塗布膜を作製し、ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて電導度を測定した。得られた塗布膜の電導度は、0.87S/cmであった。
【0055】
<実施例2>
(1)導電性ポリアニリン組成物の調製
実施例1(2)で得た、ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一なポリアニリン複合体溶液を調製し、さらに、m−クレゾール19mmolを添加して、m−クレゾール濃度が約0.86mol/Lの導電性ポリアニリン組成物を得た。
【0056】
(2)導電性ポリアニリン成形体の製造
上記(1)で得た導電性ポリアニリン組成物約1mlを、ガラス基板上、17mm×51mmの範囲に展開し、空気気流下80℃で60分間乾燥し、厚さ27μmの導電性塗布膜を作製し、ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて電導度を測定した。得られた塗布膜の電導度は、149S/cmであった。
【0057】
(3)導電性ポリアニリン成形体の熱分解温度
上記(2)で得られた導電性ポリアニリン組成物の成形体をガラス基板から剥離し、自立性フィルムを得た。このフィルム3.07mgを実施例1(3)と同様に、空気雰囲気下35℃から600℃まで20℃/分で昇温した場合の重量減少を調べたところ、5%重量減少温度(熱分解温度)は268℃であった。m−クレゾールを含む導電性ポリアニリン組成物から得られる成形品でも、高い熱分解温度を示した。
【0058】
<実施例3>
(1)5,6−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−スルフォン酸ナトリウムの合成
アルゴンガス気流下、ディーンスターク装置を付けた容器に、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(東京化成製)50g、p−トルエンスルフォン酸一水和物(和光純薬製)1.83g、2−エチルヘキサノール(東京化成製)79.3g、乾燥ジオキサン196mL、乾燥トルエン653mLを入れ、106〜109℃に加熱還流し、22時間反応させた。
反応液を室温まで冷却し、減圧下に溶剤を留去、濃縮した。この濃縮残渣をジイソプロピルエーテル1250mLに溶解し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液500mLで1回、ついで0.1N水酸化ナトリウム水溶液500mLで3回、さらにイオン交換水500mLで3回洗浄し、得られた溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶剤を留去した。
【0059】
得られた濃縮残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル1650g、展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン)により精製して、5,6−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]ビシクロ[2,2,1]ヘプテン94.0gを得た。
アルゴン気流下に、この5,6−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]ビシクロ[2,2,1]ヘプテン82.5gをイソプロピルアルコール900mLに溶解し、亜硫酸水素ナトリウム(和光純薬製)42.3gの水660mL水溶液を添加した。
【0060】
この溶液を加熱し、83℃で3時間攪拌した。また、還流開始から、1時間後に2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(和光純薬製)1.66gを添加した。
反応液を室温まで冷却し、減圧下に揮発分を留去濃縮した。この濃縮液を酢酸/ヘキサンの混合溶液1Lに溶解し、シリカゲル200gを加えて攪拌し、溶液を濾過した。さらに、このシリカゲルに酢酸エチル/ヘキサンの混合溶媒各500mLを加え、6回可溶分を抽出し、濾別した。
【0061】
濾液をあわせて、減圧下に濃縮し、濃縮残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル2kg、展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン)により精製した。
溶液から、揮発分を減圧留去し、再度、クロロホルム750mLに溶解して、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、揮発分を減圧留去し、5,6−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−スルフォン酸ナトリウム(下記式に示す化合物BのNa塩)93gを得た。
【化7】

【0062】
(2)ポリアニリン複合体の製造
上記(1)で合成した5,6−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−スルフォン酸ナトリウム8.17gをトルエン200mLに攪拌溶解し、この溶液を、窒素気流下においた2Lのガラス反応器に入れ、さらにこの溶液に、7.2mLのアニリン(和光純薬製)を加え、攪拌溶解した。恒温浴によりフラスコの冷却を開始し、1N塩酸600mLを溶液に添加した。
【0063】
次に溶液が5℃に冷却された状態で、14.6gの過硫酸アンモニウムを1N塩酸200mLに溶解した溶液を滴下ロートより滴下し、2時間で完了した。滴下開始から20時間の間、溶液内温を5℃に保ったまま攪拌を行った。
反応溶液を分液ロートに移し、トルエン200mLを加え、室温で静置した。静置により二相に分離した水相(下相)を抜き出し、粗ポリアニリン複合体トルエン溶液を得た。
【0064】
さらに、この複合体溶液にイオン交換水200mLを加え攪拌した後、静置し、水相を分離した。この操作を2回行った後、1N塩酸水溶液200mLで同様に複合体溶液を洗浄し、静置後、酸性水溶液を分離して、ポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。
この複合体溶液に含まれる不溶物を濾紙により除去し、トルエンに可溶なポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。この溶液をエバポレーターに移し、40℃〜70℃の湯浴で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、10.7gのポリアニリン複合体を得た。
【0065】
(3)ポリアニリン複合体の特性
上記(2)で得られたポリアニリン複合体から、揮発分を実質的に取り除いた後、元素分析した。その結果を以下に示す。
炭素:63.6重量%、水素:8.0重量%、窒素:3.7重量%、硫黄:4.3重量%
【0066】
アニリン原料に基づく窒素重量%と5,6−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−スルフォン酸に基づく硫黄重量%の比率から、本複合体中の5,6−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−スルフォン酸/アニリンモノマーユニットのモル分率は、0.51であった。また、このポリアニリン複合体中のポリアニリン骨格の重量平均分子量は、55,500g/molであった。
【0067】
本ポリアニリン複合体を空気雰囲気下、35℃から600℃まで20℃/分で昇温した場合の熱重量減少曲線を求めた。これにより、4.5%重量減少温度(熱分解温度)は、241℃であった。
【0068】
(4)ポリアニリン成形体の製造
上記(2)で得た、ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一なポリアニリン複合体溶液を調製した。この溶液約1mlを、ガラス基板上、16mm×50mmの範囲に展開し、空気気流下80℃で60分間乾燥し、厚さ32μmの導電性塗布膜を作製し、ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて電導度を測定した。得られた塗布膜の電導度は、4.38×10−2S/cmであった。
【0069】
<実施例4>
(1)導電性ポリアニリン組成物の調製
実施例3(2)で得た、ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一なポリアニリン複合体溶液を調製し、さらに、m−クレゾール19mmolを添加して、m−クレゾール濃度が約0.86mol/Lの均一な導電性ポリアニリン組成物を得た。
【0070】
(2)導電性ポリアニリン成形体の製造
上記(1)で得た導電性ポリアニリン組成物約1mlを、ガラス基板上、17mm×51mmの範囲に展開し、空気気流下80℃で60分間乾燥し、厚さ24μmの導電性塗布膜を作製し、ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて電導度を測定した。得られた塗布膜の電導度は、285S/cmであった。
【0071】
(3)導電性ポリアニリン成形体の熱分解温度
上記(2)で得られた導電性ポリアニリン組成物の成形体をガラス基板から剥離し、自立性フィルムを得た。このフィルム3.06mgを実施例3(3)と同様に、空気雰囲気下35℃から600℃まで20℃/分で昇温した場合の重量減少を調べたところ、5%重量減少温度は238℃であった。m−クレゾールを含む導電性ポリアニリン組成物から得られる成形品でも、高い熱分解温度を示した。
【0072】
<比較例1>
(1)ポリアニリン複合体の製造
ナトリウムジ(2−エチルヘキシル)スルホサクシネート(東京化成製)(下記式に示す化合物XのNa塩)3.6gをトルエン100mLに攪拌溶解し、窒素気流下においた1Lのガラス反応器に、溶液を入れ、さらにこの溶液に、3.6mLのアニリン(和光純薬製)を加え、攪拌溶解した。恒温浴によりフラスコの冷却を開始し、1N塩酸300mLを溶液に添加した。
【化8】

【0073】
次に溶液が5℃に冷却された状態で、5.36gの過硫酸アンモニウムを1N塩酸100mLに溶解した溶液を滴下ロートより滴下し、2時間で完了した。滴下開始から20時間の間、溶液内温を5℃に保ったまま攪拌を行った。
反応溶液を分液ロートに移し、トルエン100mLを加え、室温で静置した。静置により二相に分離した水相(下相)を抜き出し、粗ポリアニリン複合体トルエン溶液を得た。
さらに、この複合体溶液にイオン交換水100mLを加え攪拌した後、静置し、水相を分離した。この操作を2回行った後、1N塩酸水溶液100mLで同様に複合体溶液を洗浄し、静置後、酸性水溶液を分離して、ポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。
この複合体溶液に含まれる不溶物を濾紙により除去し、トルエンに可溶なポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。この溶液をエバポレーターに移し、40℃〜70℃の湯浴で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、2.4gのポリアニリン複合体を得た。
【0074】
(2)ポリアニリン複合体の特性
上記(1)で得られたポリアニリン複合体から、揮発分を実質的に取り除いた後、元素分析した。その結果を以下に示す。
炭素:61.5重量%、水素:8.5重量%、窒素:3.5重量%、硫黄:5.6重量%
【0075】
アニリン原料に基づく窒素重量%とジ(2−エチルヘキシル)スルホサクシネートに基づく硫黄重量%の比率から、本複合体中のジ(2−エチルヘキシル)スルホサクシネート/アニリンモノマーユニットのモル分率は、0.69であった。また、このポリアニリン複合体中のポリアニリン骨格の重量平均分子量は、306,000g/molであった。
【0076】
本ポリアニリン複合体を空気雰囲気下、35℃から600℃まで20℃/分で昇温した場合の熱重量減少曲線を求めた。これにより、5.0%重量減少温度(熱分解温度)は、210℃であった。
【0077】
<比較例2>
(1)導電性ポリアニリン組成物の調製
比較例1(1)で得た、ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一なポリアニリン複合体溶液を調製し、さらに、m−クレゾール8mmolを添加して、m−クレゾール濃度が約0.43mol/Lの均一な導電性ポリアニリン組成物を得た。
【0078】
(2)導電性ポリアニリン成形体の製造
上記(1)で得た導電性ポリアニリン組成物約1mlを、ガラス基板上、16mm×51mmの範囲に展開し、空気気流下80℃で60分間乾燥し、厚さ30μmの導電性塗布膜を作製し、ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて電導度を測定した。得られた塗布膜の電導度は、250S/cmであった。
【0079】
(3)導電性ポリアニリン成形体の熱分解温度
上記(2)で得られた導電性ポリアニリン組成物の成形体をガラス基板から剥離し、自立性フィルムを得た。このフィルムを比較例1(2)と同様に、空気雰囲気下35℃〜600℃まで、20℃/分で昇温した場合の重量減少を調べたところ、5%重量減少温度は205℃であった。m−クレゾールを含む導電性ポリアニリン組成物から得られる成形品でも、熱分解温度は低かった。
【0080】
【表1】

【0081】
<実施例6>
(1)導電性ポリアニリン組成物の調製
実施例1(2)で得た、ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一なポリアニリン複合体溶液を調製し、さらに、3−フェノキシフェノール12mmolを添加して、3−フェノキシフェノール濃度が約0.56mol/Lの均一な導電性ポリアニリン組成物を得た。
【0082】
(2)導電性ポリアニリン薄膜の製造
上記(1)で得た導電性ポリアニリン組成物約1mlを、30mm×30mm角のガラス基板上に展開し、3,000rpmで1分間スピンコートした。これを空気気流下80℃で1分間乾燥し、ガラス基板上に透明で均質な薄膜を形成した。ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて表面の抵抗を測定したところ、表面の抵抗値は、505Ω/□であった。
【0083】
(3)導電性ポリアニリン成形体の耐熱性試験
上記(2)で得た導電性ポリアニリン組成物の薄膜をガラス基板のまま、窒素気流下160℃で、50時間放置した後の表面抵抗値は、626Ω/□であり、殆ど変化が見られなかった。
【0084】
<実施例7>
(1)導電性ポリアニリン組成物の調製
実施例3(2)で得た、ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一なポリアニリン複合体溶液を調製し、さらに、3−フェノキシフェノール12mmolを添加して、3−フェノキシフェノール濃度が約0.56mol/Lの均一な導電性ポリアニリン組成物を得た。
【0085】
(2)導電性ポリアニリン薄膜の製造
上記(1)で得た導電性ポリアニリン組成物約1mlを、30mm×30mm角のガラス基板上に展開し、3,000rpmで1分間スピンコートした。これを空気気流下80℃で1分間乾燥し、ガラス基板上に透明で均質な薄膜を形成した。ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて表面の抵抗を測定したところ、表面の抵抗値は、922Ω/□であった。
【0086】
(3)導電性ポリアニリン成形体の耐熱性試験
上記(2)で得た導電性ポリアニリン組成物の薄膜をガラス基板のまま、窒素気流下160℃で、50時間放置した後の表面抵抗値は、1150Ω/□であり、殆ど変化が見られなかった。
【0087】
<比較例3>
(1)導電性ポリアニリン組成物の調製
実施例5(1)で得た、ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一なポリアニリン複合体溶液を調製し、さらに、m−クレゾール19mmolを添加して、m−クレゾール濃度が約0.86mol/Lの均一な導電性ポリアニリン組成物を得た。
【0088】
(2)導電性ポリアニリン薄膜の製造
上記(1)で得た導電性ポリアニリン組成物約1mlを、30mm×30mm角のガラス基板上に展開し、3,000rpmで1分間スピンコートした。これを空気気流下80℃で1分間乾燥し、ガラス基板上に透明で均質な薄膜を形成した。ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて表面の抵抗を測定したところ、表面の抵抗値は、115Ω/□であった。
【0089】
(3)導電性ポリアニリン成形体の耐熱性試験
上記(2)で得た導電性ポリアニリン組成物の薄膜をガラス基板のまま、窒素気流下160℃で、5時間放置した後の表面抵抗値は、252Ω/□であり、抵抗値が2倍に上昇した。
【0090】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のポリアニリン複合体、導電性ポリアニリン組成物、成形体はパワーエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス分野において、静電・帯電防止材料、透明電極や導電性フィルム材料、エレクトロルミネッセンス素子の材料、回路材料、コンデンサの誘電体・電解質、太陽電池や二次電池の極材料、燃料電池セパレータ材料等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示される化合物でプロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体。
【化1】

{式中、Xは、酸性基であり、Rは、それぞれ独立して、−R、−OR、−COR、−COOR、−CO(COR)、又は−CO(COOR)[ここで、Rは、炭素数が4以上の置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、−(RO)x−R基、又は−(OSiR)x−OR基(Rはアルキレン基であり、Rはそれぞれ同一でも異なってもいてもよい炭化水素基であり、xは1以上の整数である)である]であり、任意のR同士が結合し環を形成していてもよい。nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。}
【請求項2】
実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、請求項1記載の置換又は未置換ポリアニリン複合体、及び
フェノール性水酸基を有する化合物
を含む導電性ポリアニリン組成物。
【請求項3】
前記フェノール性水酸基を有する化合物が、芳香環を2個以上含む化合物である請求項2記載の導電性ポリアニリン組成物。
【請求項4】
実質的に水と混和しない有機溶剤中、前記式(I)で示される化合物の存在下で、置換又は未置換アニリンを化学酸化重合させる請求項1記載の置換又は未置換ポリアニリン複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の置換又は未置換ポリアニリン複合体に、フェノール性水酸基を有する化合物を添加する導電性ポリアニリン組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の導電性ポリアニリン組成物から得られる導電性成形体。

【公開番号】特開2009−120762(P2009−120762A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297987(P2007−297987)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】