説明

ポリアミドプレポリマーおよびポリアミドの連続製造方法ならびに製造装置

【課題】ポリアミドの連続製造方法において、工程が簡素化され、短時間処理でエネルギー使用量が少なく、ゲルの少ない高品質なポリアミドを長期間連続して、効率的かつ安定的に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】水分率0〜60質量%の溶融状態またはスラリー状態のジカルボン酸成分と、水分率0〜40質量%の溶融状態のジアミン成分を反応器に連続的に供給してポリアミドプレポリマーを連続重合する際に、ジカルボン酸成分とジアミン成分を反応器内に設置されたポットで接触混合させ、かつその時の温度を180〜220℃に保持しながらポリアミドプレポリマーを連続重合し、次いでポリアミドプレポリマーを第2の反応器に連続供給して高重合度化することを特徴とするポリアミドの連続製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸成分とジアミン成分からポリアミドを連続的に製造する方法に関する。さらに詳しくは、ジカルボン酸成分とジアミン成分を事前に塩調整することなく反応器に直接連続供給してポリアミドプレポリマーを連続重合し、次いで該ポリアミドプレポリマーを第2の反応器で連続高重合度化する、経済的かつ品質的に優れたポリアミドの連続製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からナイロン6,ナイロン66,ナイロン610などに代表される脂肪族ポリアミドは、その優れた特性を活かして衣料用,産業用繊維をはじめ、自動車分野,電気・電子分野、さらにはフィルムやモノフィラメントといった押出成形品などに広く使われている。一般的にナイロン66のようなジカルボン酸とジアミンとからなるポリアミドの製造方法は、次のようなプロセスを経て製造される。まず、ジカルボン酸とジアミンを水中で反応させて塩を形成させ、ポリアミドの原料である66塩水溶液を作る。次いでその塩を加熱して水分を蒸発させ、ある濃度にまで濃縮する。濃縮された66塩水溶液は重合容器に移送され、重合によりさらに加熱され、濃縮後に残存する水および重合により生じる縮合水をさらに蒸発させてポリアミドを得る。このような方法でポリアミドを得るためには、濃縮から重合までの過程で大量の水を蒸発により除去しなければならない。それにより多くのエネルギーと設備を必要とするため、コスト的に不利益である。
【0003】
原料としてナイロン塩水溶液を用いずにポリアミドを製造する試みとして、ジカルボン酸成分とジアミン成分をそれぞれ溶融させて反応器に供給する方法がある。例えば、特許文献1には、本質的に乾燥しているジカルボン酸およびジアミンを溶融して等モル量混合し、溶融した反応混合物を生成させ、通気しない反応容器でポリアミドおよび重合水を含む第1生成物流を形成し、通気された容器を通って重合水が除去され、ポリアミドを含む第2生成物流を生成させる。ここで、第2生成物流の一部は通気された容器へ再循環される。第2生成物流は最終製品のポリマー分子量とするために、第2反応器に供給してさらに重合するというポリアミドの製造方法が提案されている。
【0004】
この特許文献1における方法は、事前に原料調整をしないこと、原料に水分を添加していないという点で設備的に簡略化され、また水を蒸発させるエネルギーを極小できる点からみても非常に有利ではあるが、ナイロンの製造において最も懸念される品質悪化という問題が生じる。
【0005】
本発明者らの研究結果において、特許文献1の方法によれば、本質的に乾燥している溶融状態のジカルボン酸と、本質的に乾燥している溶融状態のジアミンを混合した場合、瞬時に生じる熱エネルギーによって、一部のジアミン同士が反応し、2級アミンを形成しやすくなる。この2級アミンがジカルボン酸と反応することによってポリマー主鎖が三次元化を起こし、この三次元化がさらに進むと溶融粘度の上昇、最終的にはゲルを生じる不溶不融物となる。ナイロン66は他のナイロンに比べ最も熱劣化、ゲル化しやすいポリマーであり、これを抑制し高品質のポリマーを製造することがプロセスを設計する上で重要となる。かくして、水を含まないモノマーから直接ポリアミドを製造することは、水分蒸発エネルギーの低減、設備の簡略化という点で有利である反面、ポリマーの品質を悪化させるという問題が残る。
【0006】
さらに、ジカルボン酸成分が主として芳香族ジカルボン酸からなる芳香族ポリアミドは、ナイロン66のような脂肪族ポリアミドに比べて、高耐熱性,低吸水性に優れているが、その融点が高いため、ポリマーの製造条件が高温となり、熱分解しやすいといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−516366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1のような方法では、原料調整を必要としないため設備の簡略化、エネルギー使用量の低減という点で優れてはいるが、ポリマーの熱劣化の度合いが大きく、品質面で十分に満足できるものではなかった。本発明の目的は、原料調製工程を必要としない設備の簡略化かつ省エネルギーなプロセスを提供するとともに、熱劣化・ゲル化を抑制できる高品質なポリアミド製品を、効率的かつ安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるポリアミドの連続製造方法は、水分率0〜60質量%の溶融状態またはスラリー状態のジカルボン酸成分と、水分率0〜40質量%の溶融状態のジアミン成分を反応器に直接連続供給してポリアミドプレポリマーを連続重合する際に、反応器内に設置されるポットにおいてジカルボン酸成分とジアミン成分を一定時間混合させることが重要であり、かつポットの温度を180〜220℃に保持することが好ましい。ポットの温度を調節する方法としては、原料に添加する水分の蒸発潜熱を利用する方法、ポットに具備する温度調節器を用いる方法が挙げられる。本発明の方法により、ゲル化の要因となる2級アミンの生成を抑制することができ、高品質なポリアミドを連続的に安定して製造することができる。
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
(1)水分率0〜60質量%の溶融状態またはスラリー状態のジカルボン酸成分と水分率0〜40質量%の溶融状態のジアミン成分を反応器に連続的に供給してポリアミドプレポリマーを連続重合する際に、連続供給されたジカルボン酸成分とジアミン成分を反応器内に設置されたポットで混合することを特徴とするポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(2)前記ポットに供給されたジカルボン酸成分とジアミン成分が、滞留時間1秒〜60秒で、ポット底部に設けた孔より流出することを特徴とする(1)記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(3)ポット内の温度が180〜220℃であることを特徴とする(1)〜(2)いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(4)ポット内での温度を調節するための温度制御装置を具備することを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(5)ポリアミドプレポリマー重合時の圧力が0.8〜3.5MPaであることを特徴とする(1)〜(4)いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(6)ポリアミドプレポリマー重合時の温度が230〜300℃であることを特徴とする(1)〜(5)いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(7)ポリアミドプレポリマー重合時の時間が10〜40分であることを特徴とする(1)〜(6)いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(8)脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分を供給する際に、溶融した脂肪族ジカルボン酸に芳香族ジカルボン酸をスラリー状態にして連続供給することを特徴とする(1)〜(7)いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(9)芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸および/またはイソフタル酸であり、脂肪族ジカルボン酸成分がアジピン酸および/またはセバシン酸である(8)記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(10)ジアミン成分がヘキサメチレンジアミンであることを特徴とする(1)〜(9)いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
(11)(1)〜10いずれかの方法で得られたポリアミドプレポリマーを第2の反応器に供給し連続高重合度化することを特徴とするポリアミドの連続製造方法。
(12)第2の反応器が2軸押出機であり、連続高重合度化が得られるポリアミドの融点+5〜+40℃の温度で、重縮合により発生する水を除去しながら連続高重合度化することを特徴とする(11)記載のポリアミドの連続製造方法。
(13)反応器の内部に、水分率0〜60質量%の溶融状態またはスラリー状態のジカルボン酸成分と水分率0〜40質量%の溶融状態のジアミン成分を混合するポットを具備するポアリアミドプレポリマー製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によって、原料調製工程をなくし、直接モノマー原料からポリアミドを連続的に製造することができ、従来のポリアミド製造方法と比べ、工程の簡素化とエネルギー使用量の大幅な低減を実現できる。さらには、本発明によれば、ポリアミドの熱劣化・ゲル化を抑制できるため、高品質なポリアミドを連続的に安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のポリアミド連続製造プロセスの一例を示す概略図である。
【図2】本発明のポット1の温度制御装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明のポット1の詳細を示す図である。
【図4】本発明のポット1の好ましい形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明に用いられるポリアミド連続重合装置の一例を概略的に示す。
【0014】
本発明によれば、水分率0〜60質量%の溶融状態またはスラリー状態のジカルボン酸成分と、水分率0〜40質量%の溶融状態のジアミン成分を、ポット1を有する反応器2に直接連続供給してポリアミドプレポリマーを連続重合する際に、連続供給されるジカルボン酸成分とジアミン成分は、まず反応器2の内部に設置されたポット1に流入し、一定時間混合した後、該ポット1底部に設けた混合液流出用のノズル部1cから流出し、反応器2の液相部で重合反応が開始される。
【0015】
ここで、ジカルボン酸成分とジアミン成分がポット1で混合されている時の温度を180〜220℃の範囲に保持することが好ましく、より好ましくは190〜200℃の範囲である。この時、ポット1の温度が220℃を超えると、供給したジアミン成分の副反応が進行しやすくなり、結果としてポリアミドの品質劣化を招く。また、温度が180℃より低くなると、ポット内で原料の固化を招く恐れがあり好ましくない。
【0016】
本発明によると、ジカルボン酸成分とジアミン成分がポット1で混合している時の温度を、ジカルボン酸成分もしくはジアミン成分に添加する水の蒸発潜熱を利用して調節することができる。
【0017】
例えば、ナイロン66の場合、実質的に水分を含まない溶融したアジピン酸と、実質的に水分を含まない溶融したヘキサメチレンジアミンを連続供給した場合、ポット1の温度は、塩反応に生じる熱エネルギーによって瞬時に260℃以上に達し、ジアミン成分の副反応に起因するポリマー主鎖の3次元化が起こりやすくなる。ここで、ジカルボン酸成分またはジアミン成分のどちらかの原料または両方の原料に、一定量の水分を含有させて供給することによって、ポット1の温度を180〜220℃の範囲に調節することができる。すなわち、塩反応による熱エネルギーを、水の蒸発潜熱に利用することによって、ポット1の急激な温度上昇を抑制することができる。
【0018】
原料に添加する水は、ジカルボン酸成分またはジアミン成分のどちらか一方の成分に添加すればよいが、場合によっては両方の成分に添加することもできる。例えば、ポリアミド66のような脂肪族ポリアミドの場合では、ジアミン成分に水を添加することが好ましい。一方、原料にテレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸成分を含むポリアミドのような場合では、ジカルボン酸成分に水を添加することが好ましい。
【0019】
原料に添加する水分量について、ジカルボン酸成分に添加する水分量は0〜60質量%であり、ジアミン成分に添加する水分量は0〜40質量%である。ここで、ポット1を有する反応器2に供給するジアミン成分とジカルボン酸成分の全体の水分率を5〜50質量%にするのが好ましく、より好ましくは10〜45質量%である。
【0020】
本発明においては、ポット1の温度を制御することで、ジアミン成分の副反応を抑制することができる。ポット1の温度を調節する方法として、ポット1に温度調節装置を取り付けることができる。例えば、ポット1を必要に応じて冷却もしくは加熱できるように、図2(A)に示すように、ポット1全体をジャケットにして、ポット1全体を冷却もしくは加熱してもよいし、図2(B)に示すように、ポット1の内部にコイル状の管を導入し、ポット1の内部から冷却または加熱してもよい。また、これらのジャケットと、内部に導入するコイル状の管を併用することもできるが、これらの構成に限定されるものではなく、ジャケットをさらに複数個に分けることも可能である。
【0021】
本発明におけるポット1は、ジカルボン酸成分とジアミン成分をポット1で接触混合させることが目的であり、必要以上の重合反応が進行しないようにする必要がある。よって、ポット1における、ジカルボン酸成分とジアミン成分と滞留時間は1秒〜60秒の範囲内であり、より好ましくは10秒〜50秒の範囲、さらに好ましくは5〜20秒である。この滞留時間内において、ジカルボン酸成分とジアミン成分が接触混合し、瞬時的に塩反応が進行し、それによって、反応器2での重合反応を効率よく進行させることができる。ポット1における滞留時間が短すぎると、ジカルボン酸成分とジアミン成分の接触による塩反応が充分に達成されないまま重合反応が開始される結果、多くの未反応モノマー成分を含有したポリアミドプレポリマーが得られることになる。逆にポット1での滞留時間が長すぎると、ポット1で必要以上の重合反応が進行してしまう結果、ポット1での流動性が悪くなり、ポット1の底部に設けた混合液流出用のノズル部が閉塞するなどのトラブルが発生する恐れがある。
【0022】
本発明においてポット1の形状は図3に示すように、円筒状の本体部分1aを上部に形成すると供に、逆円錐状の錘状部1bを下部に形成することが好ましい。錘状部1bの容積は、ポット1の全容積の少なくとも10%が好ましく、かつその半頂角Aを60〜120℃の角度にすることが好ましい。ここで半頂角とは、図3に示す角度Aのことをいう。逆円錐状の錘状部1bの先端部には、混合液を流出させるための円筒状のノズル部1cが形成されており、ノズル部1cの長さはポット1の垂直方向の全長hに対して1〜5%の長さを有している。ポット1の下部をこのような形状にすることによって、ポット1を流通する混合液の流れを円滑にし、かつ混合液に整流効果をもたせて流出させることができる。
【0023】
本発明において、ポット1の形状は、1aの部分が円筒状もしくは多角形筒状のいずれであってもよく、同時に錘状部1bの部分が、円錐状、角錐状のいずれであっても良い。また、円筒状のポット1の底部に錘状部が組み合わされた図4(c)のような形状であってもよい。
【0024】
錘状部1bのポット1に占める容積は、ポット1の全容積の少なくとも10%が好ましく、さらに好ましくは20%以上にするのがよい。また、錘状部1bの容積は、図4(A)に示すように、必要によりポット1全容積の100%であってもよい。すなわち、100%とは、ポット1の全体の形状を上部から下部にかけて徐々に径を減少させて錘状に形成したものである。また、図4(B)に示すようにポット1の下部を球状にし、その先端部分に原料流出用のノズル部1cを形成してもよい。
【0025】
本発明において、定量ポンプにより連続供給されるジカルボン酸成分及びジアミン成分は、反応器2上部の原料供給口6a ,7aから反応器2内に入り、原料供給口6a ,7aの直下に位置するポット1で一定時間の滞留を経て、ポット1底部のノズル部1cから流出し、反応器2で重合反応が進行する。そのため、反応器2におけるポット1の垂直方向の設置位置については、原料供給口6a ,7aの直下に設ければよく、反応器2におけるポット1の水平方向の設置位置については、原料供給口6a ,7aの位置に応じて移動させてもよい。
【0026】
ポット1の開口面積は、ポット1径(d)と反応器2径(D)との比(d/D)として、0.43<d/D<0.50の範囲になるように決定することが好ましく、ポット1の開口面積を適切にすることによって、ポット1内部での突沸を抑制でき、同時に原料の混合効果を高めることができる。
【0027】
本発明において、ポット1を有する反応器2の形状については特に制限はないが、不必要な対流が起きないよう、縦型円筒状で内部を多孔板などで仕切られた反応器が好ましく用いられる。さらに、ポット1を有する反応器2の頭部には圧力調整時に縮合水とともにジアミン成分が留出して原料組成比がずれないように精留塔5などを設置し、ジアミン成分の留出を防止することができる。
【0028】
本発明において、ジカルボン酸成分とジアミン成分は、定量供給可能なポンプを用いて、それぞれ単独でポット1を有する反応器2に連続的に供給され、ポット1で混合された後に重合反応してポリアミドプレポリマーとなる。ここで、ポリアミドプレポリマーとは、ジカルボン酸成分とジアミン成分との加熱処理によって得られる組成物であり、ポリアミドプレポリマー、未反応モノマー、原料に添加した水、重縮合によって生成する水を含む混合物を言う。
【0029】
本発明の反応器2におけるポリアミドプレポリマーの重合温度は、通常230〜300℃であり、好ましくは240〜295℃、より好ましくは250〜290℃である。重合時間を短縮するために、重合温度は230℃以上が好ましい。また、熱分解やゲル化物の生成を抑制するため、重合温度は300℃以下が好ましく、より好ましくは290℃以下である。
【0030】
本発明の反応器2におけるポリアミドプレポリマーの重合圧力は、通常0.8〜3.5MPa、好ましくは0.8〜3MPa、より好ましくは0.9〜1.5MPa、さらに好ましくは1.0〜1.2MPaに保つように操作される。圧力が0.8MPa以下の条件で供給した場合、揮発したジアミン成分が縮合水とともに系外に多量に留出し、それにより反応器2の頭部に設けた精留塔5が閉塞する問題や、供給される原料のモルバランスがずれ、ポリアミドプレポリマーのアミノ末端基濃度とカルボキシル末端基濃度のバランスが大きく解離し、それによってポリアミドの品質に悪影響を及ぼす問題も生じる。逆に、重合圧力が3.5MPaよりも高い条件下ではポリアミドプレポリマーの重合反応が進行しにくくなるため、ポリアミドプレポリマーの重合反応に長時間を要し、好ましくない。
【0031】
本発明のポリアミドプレポリマーの重合時間は、通常10〜40分であり、好ましくは15〜35分、より好ましくは20〜30分である。得られるポリアミドプレポリマーの粘度が低いと、第2の反応器でさらに重合反応させる際に組成比がずれたり、重合度が上がりにくいことから、重合時間は10分以上が好ましい。また、熱分解やゲル化物の生成、異常滞留を防止するために、重合時間は40分以下が好ましい。
【0032】
本発明において、原料に使用されるジカルボン酸成分およびジアミン成分は、ポリアミドを構成する芳香族アミド単位、脂肪族アミド単位を形成するものであればよく、具体的には、次のようなものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などがあり、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を形成しうるテレフタル酸が好ましく用いられる。脂肪族ジカルボン酸成分としては、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸などの炭素数2〜18の脂肪族ジカルボン酸があり、ヘキサメチレンジアジパミド単位を形成しうるアジピン酸が好ましく用いられる。また、脂肪族ジアミン成分としては、ヘキサメチレンジアミン(1,6−ジアミノヘキサン)、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカンなどの炭素数4〜14の脂肪族ジアミンがあり、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位やヘキサメチレンジアジパミド単位を形成しうるヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。好ましい組合せとして、テレフタル酸とヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミン、アジピン酸とヘキサメチレンジアミン、セバシン酸とヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。
【0033】
本発明において、原料への水分添加については、ジカルボン酸成分とジアミン成分の両方の成分に添加するか、もしくは、一方の成分にのみ水分を添加することができる。例えば、ジカルボン酸成分にのみ水分を添加する場合において、アジピン酸のように水に溶解する性質を持つ成分だけであれば、水に溶解させた水溶液として供給することができる。一方、テレフタル酸のように水に溶解しない成分を含む場合、水に分散させたスラリーとして供給することもできる。
【0034】
上述したように、一方の成分にだけ水分を添加して、他方の成分には水分を添加しないケースにおいて、水分を添加しない成分に対しては、その成分の融点以上の温度に加熱して、溶融させた状態で供給することが好ましい。そのような場合において、酸素による着色および熱劣化を防止する目的で、加熱前に原料または原料タンクなどから酸素を除去することが好ましい。酸素を除去する方法については、特に制限はなく、バッチ式で真空にして窒素などの不活性ガスで置換する方法や窒素などの不活性ガスをブローする方法など、公知の方法で酸素を除去すればよい。また、原料の溶融方法についても、特に制限がなく、溶解缶や押出機などを使用して溶解すればよいが、酸による腐食を考慮した材質の選定が必要である。
【0035】
本発明においては、得られるポリアミドプレポリマーの相対粘度(ηr)は通常1.0〜2.0であり、好ましくは1.2〜1.8の範囲である。第2の反応器8で高重合度化する際に、組成比のずれを防止したり、高重合度化しやすいように、相対粘度(ηr)は1.2以上が好ましい。また、反応器2での異常滞留によるゲル化物の生成を防止するため、相対粘度は1.8以下が好ましい。ここで、相対粘度(ηr)は、JIS K6810に従って、試料を98%硫酸に0.01g/ml濃度で溶解し、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定した値である。
【0036】
本発明のポリアミドプレポリマーの製造においては、重合度調節を容易にするため、重合度調節剤の添加が有効であり、原料であるジカルボン酸成分またはジアミン成分と一緒にポット1を有する反応器2に供給することができる。重合度調節剤としては、有機酸および/または有機塩基を使用する。有機酸としては、好ましくは安息香酸、酢酸、ステアリン酸であり、より好ましくは安息香酸が用いられる。また、有機塩基は原料であるジアミン成分同様の炭素数4〜14の脂肪族ジアミンが用いられ、ヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。重合度調節剤の添加量は、原料であるジカルボン酸成分およびジアミン成分のトータルモル数に対して0〜0.1倍モル、好ましくは0.0001〜0.05倍モル用いられる。
【0037】
本発明のポリアミドプレポリマーの製造においては、リン酸触媒も用いることができる。リン系触媒は、重合反応の触媒機能を有するものであり、具体的には、リン酸、リン酸塩、次亜リン酸塩、酸性リン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステルである。次亜リン酸塩を例示すると、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸バナジウム、次亜リン酸マンガン、次亜リン酸ニッケル、次亜リン酸コバルトなどが挙げられる。酸性リン酸エステルを例示すると、モノメチルリン酸エステル、ジメチルリン酸エステル、モノエチルリン酸エステル、ジエチルリン酸エステル、プロピルリン酸エステル、イソプロピルリン酸エステル、ジプロピルリン酸エステル、ジイソプロピルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル、イソブチルリン酸エステル、ジブチルリン酸エステル、ジイソブチルリン酸エステル、モノフェニルリン酸エステル、ジフェニルリン酸エステルなどが挙げられる。リン酸エステルを例示すると、トリメチルリン酸、トリエチルリン酸、トリ−n−プロピルリン酸、トリ−i−プロピルリン酸、トリ−n−ブチルリン酸、トリ−i−ブチルリン酸、トリフェニルリン酸、トリ−n−ヘキシルリン酸、トリ−n−オクチルリン酸、トリ(2−エチルヘキシル)リン酸、トリデシルリン酸などが挙げられる。これらの中で好ましいのは次亜リン酸塩であり、特に好ましいのは次亜リン酸ナトリウムである。リン系触媒を添加する場合、その添加量としては、ポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.001〜5重量部が用いられ、0.01〜1重量部が好ましい。また、添加方法は原料であるジカルボン酸成分またはジアミン成分と一緒にポット1を有する反応器2に供給すればよく、第2の反応器8で追添加することもできる。
【0038】
本発明において、ポット1を有する反応器2から連続して安定的かつ定量的にポリアミドプレポリマーを吐出するには、ギヤポンプ、ボールバルブなどの排出装置を使用し、反応器2に直結した第2の反応器8に連続的に供給して高重合度化する。第2の反応器としては2軸押出機が好ましい。
【0039】
本発明において、第2の反応器8である2軸押出機に供給されたポリアミドプレポリマーは、最終的に得られるポリアミドの融点+5〜+40℃、好ましくは融点+10〜+40℃の範囲で溶融混練され、重縮合によりポリアミドを得る。重合反応速度が遅く、粘度が上がりにくいことから、温度は融点+5℃以上が好ましい。また、熱分解やゲル化物の生成を防止するため、温度は融点+40℃以下が好ましい。ここで、2軸押出機にはポリアミドプレポリマーと水分が同時に連続供給されるため、水分は2軸押出機の供給口付近に設置されたリヤベントまたは第1ベントから連続的に除去することにより、より安定したポリアミドの重縮合反応が可能となり、好ましく用いられる。また、上記以外にも少なくとも1つ以上のベント口を設置し、重縮合により発生する水と、ごく少量の未反応モノマーなどを系外に排出することにより、重縮合反応を進め、高重合度化されたポリアミドを製造する。なお、ベントでの排気は、通常ナッシュポンプなど公知の減圧・真空装置を用いて、減圧下で行なわれることが好ましいが、特に圧力に制限はなく、常圧下でも行なうことができる。
【0040】
本発明において、得られるポリアミドポリマーの相対粘度(ηr)は通常2.0〜3.5の範囲であり、好ましくは2.3〜3.0の範囲である。
【0041】
本発明において、2軸押出機での重合時間に特に制限はないが、長時間滞留によるポリアミドの熱劣化やゲル化を防止するため、好ましくは1〜10分である。
【0042】
本発明においては、ジアミン成分の副反応によって生じ、ポリアミドのゲル化の要因となる2級アミンを定量的に測定することよって、最終的に得られるポリアミドのゲル化度合いを評価することができる。例えば、ジアミン成分がヘキサメチレンジアミンであるポリアミド66やポリアミド610のようなポリアミド場合、ヘキサメチレンジアミンの2級化によって、下記構造式(1)
N−(CH−NH−(CH−NH ・・・・・(1)
で示されるビスヘキサメチレントリアミン(以下、トリアミンと呼ぶ)が生成し、このトリアミンがジカルボン酸成分と反応することによって、ポリマー主鎖が3分岐化する。
【0043】
本発明において、ポリアミドプレポリマー製造工程、2軸押出機によるポリアミド製造工程またはコンパウンド工程などで、必要に応じて触媒、耐熱安定剤、耐候性安定剤、酸化防止剤、可塑剤、離型剤、滑剤、結晶核剤、顔料、染料、他の重合体などを添加することもできる。添加剤をコンパウンドする場合は、生産性の点から、2軸押出機での重縮合と同時あるいは連続で行なうのがより好ましい。ポリアミドの色調改善には、酸化防止剤の添加が有効であり、特に次亜リン酸ナトリウムおよびヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加が好ましい。
【0044】
本発明において得られるポリアミド樹脂はトリアミンが少ないために、溶融滞留時のゲル化に伴う急激な粘度増加を示さず、滞留安定性に優れる。ここで滞留安定性に優れる条件として、不活性ガス雰囲気下、融点+20℃の温度で30分間滞留させた場合の硫酸相対粘度の保持率が、90%〜160%であることが好ましい。ここで、硫酸相対粘度とは、98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定したときの粘度である。また、硫酸相対粘度保持率とは、溶融滞留させる前のポリアミド樹脂の硫酸相対粘度を100%とした場合に、溶融滞留させた後の硫酸相対粘度が何%保持されているかを表す。硫酸相対粘度の保持率が90%未満の場合は、ポリアミド樹脂の分解が促進されているため好ましくなく、160%を超える場合、ゲル化を引き起こしている可能性があるため好ましくない。
【0045】
本発明の製造方法によって得られたポリアミドは、従来のポリアミドと同様に、通常の成形方法によって成形品とすることができる。成形方法に関しては特に制限はなく、射出成形、押出成形、吹き込み成形、プレス成形など公知の成形方法が利用できる。ここでいう成形品とは射出成形などによる成形品の他、繊維、フィルム、シート、チューブ、モノフィラメント等の賦形物も含む。
【実施例】
【0046】
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、特許請求の範囲、明細書本文および実施例、比較例に記した特性値の定義および測定方法は以下のとおりである。
(1)相対粘度(ηr):JIS K6810に従って、試料を98%硫酸に、0.01g/ml濃度で溶解し、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定した。
(2)融点(Tm):DSC(PERKIN−ELMER製)を用い、試料8〜10mgを昇温速度20℃/分で測定して、得られた溶融曲線の最大値を示す温度を融点とした。
(3)ビスヘキサメチレントリアミン(トリアミン):試料約0.06gを臭化水素酸水溶液にて150℃の条件下で3時間加水分解を行い、得られた処理液に、40%水酸化ナトリウム水溶液、トルエンを加え、次いでクロロギ酸エチルを添加して攪拌を行う。上澄みのトルエン溶液を抽出し測定溶液とする。定量はビスヘキサメチレントリアミン標準溶液を用いる。
<GC条件>
装置:島津GC−14A
カラム:NB−1(GLサイエンス社製)60m×0.25mm
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
オーブン温度:150℃から330℃まで10℃/分で昇温
試料注入部温度:250℃
検出部温度:330℃
キャリアガス:He
試料注入量:3.0μl
(4)滞留熱安定性:試験管に試料約5mgを仕込み、窒素雰囲気下、融点+20℃の温度のシリコンバスに浸漬し、試料が完全に溶解してから30分間放置した後、試料を回収して相対粘度測定を行った。
【0047】
実施例1
実質的に水分を含まないアジピン酸10kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、170℃の温度でアジピン酸を溶解した。また、容器入りの実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン10kgを室温60℃に設定された温調室で溶融状態にしたものを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにアジピン酸溶液中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、アジピン酸溶液を2.32kg/hr、ヘキサメチレンジアミン溶液を1.86kg/hrの供給速度で、図1に示すようなポット1、多孔板3、ギヤポンプ4、精留塔5を設けた全容量2Lの反応器2に連続供給し、表1記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。ポット1での混合時間は45秒であり、ポット1の温度は260℃を示した。ポット1を有する反応器2に直結したφ30mmの2軸押出機(反応器8)に供給される直前にサンプリングしたポリアミドプレポリマーの相対粘度は1.54であった。このポリアミドプレポリマーを、ポット1を有する反応器2での重合時間が20分となるようにギアポンプ4で2軸押出機に連続供給し、リヤベントからフラッシュした水分を除去するとともに、表1記載の条件で連続高重合度化を行った。得られたポリアミドの相対粘度(ηr)は2.62、融点262℃であり、測定されたトリアミン量は0.17質量%であった。
【0048】
実施例2
実質的に水分を含まないアジピン酸7.10kgと、実質的に水分を含まないテレフタル酸6.06kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、170℃の温度でアジピン酸を溶解した。アジピン酸溶解後に溶解缶に設置された撹拌機で内部の撹拌を開始し、均一なジカルボン酸スラリーを作製した。また、容器入りの実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン10kgを室温60℃に設定された温調室で溶融状態にしたものを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにジカルボン酸スラリー中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、ジカルボン酸スラリーを3.29kg/hr、ヘキサメチレンジアミン溶液を2.55kg/hrの供給速度で反応器2に連続供給し、表1記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。ポット1を有する反応器2については、実施例1と同じものを使用した。ポット1での混合時間は45秒であり、ポット1の温度は263℃を示した。ポット1を有する反応器2に直結したφ30mmの2軸押出機(反応器8)に供給される直前にサンプリングしたポリアミドプレポリマーの相対粘度は1.42であった。このポリアミドプレポリマーを、ポット1を有する反応器2での重合時間が20分となるようにギアポンプ4で2軸押出機に連続供給し、リヤベントからフラッシュした水分を除去するとともに、表1記載の条件で連続高重合度化を行った。得られたポリアミドの相対粘度(ηr)は2.42、融点287℃であり、測定されたトリアミン量は0.24質量%であった。
【0049】
実施例3
実質的に水分を含まないアジピン酸5.82kgと、実質的に水分を含まないテレフタル酸7.42kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、170℃の温度でアジピン酸を溶解した。アジピン酸溶解後に溶解缶に設置された撹拌機で内部の撹拌を開始し、均一なジカルボン酸スラリーを作製した。また、容器入りの実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン10kgを室温60℃に設定された温調室で溶融状態にしたものを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにジカルボン酸スラリー中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、ジカルボン酸スラリーを3.31kg/hr、ヘキサメチレンジアミン溶液を2.53kg/hrの供給速度で、反応器2に連続供給し、表1記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。ポット1での混合時間は45秒であり、ポット1の温度は265℃を示した。ポット1を有する反応器2に直結したφ30mmの2軸押出機(反応器8)に供給される直前にサンプリングしたポリアミドプレポリマーの相対粘度は1.35であった。このポリアミドプレポリマーを、ポット1を有する反応器2での重合時間が20分となるようにギアポンプ4で2軸押出機に連続供給し、リヤベントからフラッシュした水分を除去するとともに、表1記載の条件で連続高重合度化を行った。得られたポリアミドの相対粘度(ηr)は2.22、融点305℃であり、測定されたトリアミン量は0.21質量%であった。
【0050】
実施例4
実施例1において、ポット1を有する反応器2内での重合時間を15分に変更する以外は、同様の操作を行なった。得られたポリアミドの相対粘度は2.54、融点263℃であり、測定されたトリアミン量は0.16質量%であった。
【0051】
比較例1
実質的に水分を含まないアジピン酸10kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、170℃の温度でアジピン酸を溶解した。また、容器入りの実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン10kgを室温60℃に設定された温調室で溶融状態にしたものを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにアジピン酸溶液中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、アジピン酸溶液を2.32kg/hr、ヘキサメチレンジアミン溶液を1.86kg/hrの供給速度で、ポット1を有しない反応器2に連続供給し、表2記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。反応器2は内部に多孔板3を有し、上部に精留塔5を有した装置を用いた。しかしながら、反応器2から排出されるポリアミドプレポリマーはほとんど重合が進行しておらず、未反応のモノマー成分が多量に排出されたため、2軸押出機での連続高重合度化を断念した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例5
実質的に水分を含まないアジピン酸10kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、170℃の温度でアジピン酸を溶解した。また、水分率38質量%のヘキサメチレンジアミン水溶液10kgを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを、重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにアジピン酸溶液中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、アジピン酸溶液を2.32kg/hr、ヘキサメチレンジアミン水溶液を3.00kg/hrの供給速度で、図1に示すようなポット1、多孔板3、ギヤポンプ4、精留塔5を設けた全容量2Lの反応器2に連続供給し、表3記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。ポット1での滞留時間は45秒であり、この時のポット1の温度は193℃であった。反応器2に直結したφ30mmの2軸押出機(反応器8)に供給される直前にサンプリングしたポリアミドプレポリマーの相対粘度は1.25であり、このポリアミドプレポリマーを、反応器2での重合時間が20分となるように、ギアポンプで反応器8に連続供給し、リヤベントからフラッシュした水分を除去するとともに、表3記載の条件で連続高重合度化を行った。得られたポリアミドの相対粘度は2.39、融点265℃であり、測定されたトリアミン量は0.05質量%であった。トリアミン量は実施例1〜4と比べて半分以下まで減少した。
【0055】
実施例6
実質的に水分を含まないアジピン酸10kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、170℃の温度でアジピン酸を溶解した。また、水分率20質量%のヘキサメチレンジアミン水溶液10kgを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを、重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにアジピン酸溶液中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、アジピン酸溶液を2.32kg/hr、ヘキサメチレンジアミン水溶液を2.32kg/hrの供給速度で、図1に示すようなポット1、多孔板3、ギヤポンプ4、精留塔5を設けた全容量2Lの反応器2に連続供給し、表3記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。この時、ポット1内部に取り付けたU字管には、一定量のエアーが流れるように調節した。ポット1での滞留時間は45秒であり、ポット1の温度は198℃を示した。反応器2に直結したφ30mmの2軸押出機(反応器8)に供給される直前にサンプリングしたポリアミドプレポリマーの相対粘度は1.32であり、このポリアミドプレポリマーを、反応器2での重合時間が20分となるように、ギアポンプ4で反応器8に連続供給し、リヤベントからフラッシュした水分を除去するとともに、表3記載の条件で連続高重合度化を行った。得られたポリアミドの相対粘度は2.52、融点265℃であり、測定されたトリアミン量は0.06質量%であった。
【0056】
実施例7
実質的に水分を含まないアジピン酸3.99kgと、水8.01kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、85℃の温度でアジピン酸を溶解した。続いて、実質的に水分を含まないテレフタル酸5.10kgを投入し、溶解缶に設置された撹拌機で内部の撹拌を開始し、均一なジカルボン酸スラリーを作製した。また、容器入りの実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン6.75kgを室温60℃に設定された温調室で溶融状態にしたものを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにジカルボン酸スラリー中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、ジカルボン酸スラリーを5.70kg/hr、ヘキサメチレンジアミン溶液を2.25kg/hrの供給速度で反応器2に連続供給し、表3記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。この時、ポット1内部に取り付けたU字管には何も流さずにいた。ポット1での滞留時間は45秒であり、この時のポット1の温度は191℃を示した。反応器2に直結したφ30mmの2軸押出機(反応器8)に供給される直前にサンプリングしたポリアミドプレポリマーの相対粘度は1.23であり、このポリアミドプレポリマーを、反応器2での重合時間が20分となるように、ギアポンプ4で反応器8に連続供給し、リヤベントからフラッシュした水分を除去するとともに、表3記載の条件で連続高重合度化を行った。得られたポリアミドの相対粘度は2.32、融点309℃であり、測定されたトリアミン量は0.06質量%であった。
【0057】
実施例8
実質的に水分を含まないアジピン酸4.44kgと、水8.88kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、85℃の温度でアジピン酸を溶解した。続いて、実質的に水分を含まないテレフタル酸3.78kgを投入し、溶解缶に設置された撹拌機で内部の撹拌を開始し、均一なジカルボン酸スラリーを作製した。また、容器入りの実質的に水分を含まないヘキサメチレンジアミン6.2kgを室温60℃に設定された温調室で溶融状態にしたものを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにジカルボン酸スラリー中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、ジカルボン酸スラリーを5.70kg/hr、ヘキサメチレンジアミン溶液を2.06kg/hrの供給速度で反応器2に連続供給し、表3記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。この時、ポット1内部に取り付けたU字管には、一定量のスチームが流れるように調節した。ポット1での滞留時間は45秒であり、この時のポット1の温度は195℃を示した。反応器2に直結したφ30mmの2軸押出機(反応器8)に供給される直前にサンプリングしたポリアミドプレポリマーの相対粘度は1.35であり、このポリアミドプレポリマーを、反応器2での重合時間が20分となるように、ギアポンプ4で反応器8に連続供給し、リヤベントからフラッシュした水分を除去するとともに、表3記載の条件で連続高重合度化を行った。得られたポリアミドの相対粘度は2.45、融点292℃であり、測定されたトリアミン量は0.05質量%であった。
【0058】
実施例9
実質的に水分を含まないアジピン酸10kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、170℃の温度でアジピン酸を溶解した。また、水分率5質量%のヘキサメチレンジアミン水溶液11kgを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを、重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにアジピン酸溶液中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、アジピン酸溶液を2.32kg/hr、ヘキサメチレンジアミン水溶液を1.95kg/hrの供給速度で、反応器2に連続供給し、表3記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。この時、ポット1内部に取り付けたU字管には、何も流さない状態でいた。ポット1での滞留時間は45秒であり、ポット1の温度は255℃を示した。反応器2に直結したφ30mmの2軸押出機(反応器8)に供給される直前にサンプリングしたポリアミドプレポリマーの相対粘度は1.52であり、このポリアミドプレポリマーを、反応器2での重合時間が20分となるように、ギアポンプ4で反応器8に連続供給し、リヤベントからフラッシュした水分を除去するとともに、表3記載の条件で連続高重合度化を行った。得られたポリアミドの相対粘度は2.78、融点263℃であり、測定されたトリアミン量は0.13質量%となりトリアミン量が増加した。
【0059】
比較例2
実質的に水分を含まないアジピン酸10kgを容量30Lの溶解缶に投入し、窒素置換を行なった後、170℃の温度でアジピン酸を溶解した。また、水分率60質量%のヘキサメチレンジアミン水溶液25kgを原料タンクに投入し、窒素置換を行なった後、タンクを60℃で保温した。なお、重合触媒として、次亜リン酸ナトリウムを、重合後に得られるポリアミドプレポリマー100重量部に対して0.05重量%になるようにアジピン酸溶液中に混合して添加した。準備した原料はそれぞれプランジャーポンプを用いて、アジピン酸溶液を2.32kg/hr、ヘキサメチレンジアミン水溶液を4.65kg/hrの供給速度で、図1に示すようなポット1、多孔板3、ギヤポンプ4、精留塔5を設けた全容量2Lの反応器2に連続供給し、表4記載の条件でポリアミドプレポリマーを連続重合した。この時、ポット1内部に取り付けたU字管には、何も流さない状態でいた。
【0060】
ポット1での滞留時間は40秒であり、ポット1の温度は160℃を示したが、ポリアミドプレポリマーの連続重合を開始してからすぐに、ポット1の内部で原料固化が起きた。これにより、反応器2から排出されるポリアミドプレポリマーは殆ど重合が進行しておらず、未反応のモノマー成分が多量に排出されたため、反応器8での高重合度化を断念した。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の方法によって、ポリアミド連続製造方法において、工程が簡素化され、短時間処理でエネルギー使用量が少なく、ゲルの少ない高品質なポリアミドを長期間連続して、効率的かつ安定的に製造することができる。
【符号の説明】
【0064】
1・・ポット
1a・・ポット1上部胴体部
1b・・ポット1下部錘状部
1c・・混合液流出用ノズル部
2・・ポット1を有する反応器
3・・多孔板
4・・プレポリマー排出用ギヤポンプ
5・・精留塔
6・・ジカルボン酸供給槽
6a・・原料供給口(ジカルボン酸成分)
7・・ジアミン供給槽
7a・・原料供給口(ジアミン成分)
8・・第2の反応器(2軸押出機)
9・・ポット1の温度調節に用いるU字管
d・・ポット1の径
h・・ポット1の垂直方向の全長
A・・ポット1下部錘状部1bの半頂角
D・・反応器2の径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分率0〜60質量%の溶融状態またはスラリー状態のジカルボン酸成分と水分率0〜40質量%の溶融状態のジアミン成分を反応器に連続的に供給してポリアミドプレポリマーを連続重合する際に、連続供給されたジカルボン酸成分とジアミン成分を反応器内に設置されたポットで混合することを特徴とするポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項2】
前記ポットに供給されたジカルボン酸成分とジアミン成分が、滞留時間1秒〜60秒で、ポット底部に設けた孔より流出することを特徴とする請求項1記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項3】
ポット内の温度が180〜220℃であることを特徴とする請求項1〜2いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項4】
ポット内での温度を調節するための温度制御装置を具備することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項5】
ポリアミドプレポリマー重合時の圧力が0.8〜3.5MPaであることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項6】
ポリアミドプレポリマー重合時の温度が230〜300℃であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項7】
ポリアミドプレポリマー重合時の時間が10〜40分であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項8】
脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分を供給する際に、溶融した脂肪族ジカルボン酸に芳香族ジカルボン酸をスラリー状態にして連続供給することを特徴とする請求項1〜7いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項9】
芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸および/またはイソフタル酸であり、脂肪族ジカルボン酸成分がアジピン酸および/またはセバシン酸である請求項8記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項10】
ジアミン成分がヘキサメチレンジアミンであることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載のポリアミドプレポリマーの連続製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10いずれかの方法で得られたポリアミドプレポリマーを第2の反応器に供給し連続高重合度化することを特徴とするポリアミドの連続製造方法。
【請求項12】
第2の反応器が2軸押出機であり、連続高重合度化が得られるポリアミドの融点+5〜+40℃の温度で、重縮合により発生する水を除去しながら連続高重合度化することを特徴とする請求項11記載のポリアミドの連続製造方法。
【請求項13】
反応器の内部に、水分率0〜60質量%の溶融状態またはスラリー状態のジカルボン酸成分と水分率0〜40質量%の溶融状態のジアミン成分を混合するポットを具備するポアリアミドプレポリマー製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−53359(P2010−53359A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178850(P2009−178850)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】