説明

ポリアミド樹脂

【課題】従来のポリアミド92と比較して十分な高分子量化が達成され、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、さらに、脂肪族直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、従来の脂肪族ポリアミド樹脂に比較して、低エタノール吸収性、耐薬品性、耐加水分解性などにも優れたポリアミド樹脂を提供すること。
【解決手段】ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ、前記2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル数は、前記1,9−ノナンジアミンのモル数以上であり、前記ジカルボン酸成分と前記ジアミン成分とを縮合させて得られるポリアミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリアミド樹脂に関する。詳しくは、ジカルボン酸成分が蓚酸であるポリアミド樹脂であって、成形可能温度幅が広く、成形加工性に優れ、かつ低吸水性、低エタノール吸収性、耐薬品性、耐加水分解性などにも優れたポリアミド樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66などに代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているが、一方では吸水による物性変化、酸、高温のアルコール、熱水中での劣化などの問題点も指摘されており、より寸法安定性、耐薬品性に優れたポリアミドへの要求が高まっている。
【0003】
一方、ジカルボン酸成分として蓚酸を用いるポリアミド樹脂はポリオキサミド樹脂と呼ばれ、同じアミノ基濃度の他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと、吸水率が低いことが知られ(特許文献1)、吸水による物性変化が問題となっていた従来のポリアミドが使用困難な分野での活用が期待される。
【0004】
これまでに、ジアミン成分として種々の脂肪族直鎖ジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。しかしながら、例えば、ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂は融点(約320℃)が熱分解温度(窒素中の1%重量減少温度;約310℃)より高いため(非特許文献1)、溶融重合、溶融成形が困難であり実用に耐えうるものではなかった。
【0005】
ジアミン成分が1,9−ノナンジアミンであるポリオキサミド樹脂(以後、PA92と略称する)については、L. Francoらが蓚酸源として蓚酸ジエチルを用いた場合の製造法とその結晶構造を開示している(非特許文献2)。ここで得られるPA92は固有粘度が0.97dL/g、融点が246℃のポリマーであるが、強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていない。また、特表平5−506466号公報には、ジカルボン酸エステルとして蓚酸ジブチルを用いた場合について、固有粘度が0.99dL/g、融点が248℃のPA92を製造したことが示されている(特許文献2)。この場合も強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていないという問題点がある。
先行文献においてはジアミン成分として1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンの2種のジアミンを特定の比率で用いたポリオキサミド樹脂の具体的な開示はない。
【非特許文献1】S. W. Shalaby., J. Polym. Sci., 11, 1(1973)
【非特許文献2】L. Franco et al., Macromolecules., 31, 3912(1988)
【特許文献1】特開2006−57033
【特許文献2】特表平5−506466
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来のPA92と比較して十分な高分子量化が達成され、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、さらに、脂肪族直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、従来の脂肪族ポリアミド樹脂に比較して、低エタノール吸収性、耐薬品性、耐加水分解性などに優れたポリアミド樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、蓚酸源として蓚酸ジエステルを用い、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94〜50:50でである混合物を用いることにより、高分子量で、融点と熱分解温度の差が大きく溶融成形性に優れ、さらに直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、従来のポリアミドに比較して低エタノール吸収性、耐薬品性ならびに耐加水分解性に優れるポリアミド樹脂が得られることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド樹脂は、溶融重合による高分子量化が可能であり、成形可能温度幅が90℃以上と広く、溶融成形性に優れ、さらに低吸水性、低エタノール吸収性、耐薬品性、耐加水分解性にも優れており、例えば燃料チューブ、エアチューブ、燃料補助タンク、ベーパーキャニスタ、クイックコネクタ、ファン、クリップ、ファスナー、エンジンカバー、ラジエタータンク、エアダクトホース、アームレスト、ギアなどの自動車部材に使用できる。また、従来ポリアミド成形物が用いられてきた各種成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維、容器等として、自動車部材、コンピューター及び関連機器、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品などの成形材料として広範に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)ポリアミド樹脂の構成成分
本発明のポリアミドは、ジカルボン酸成分が蓚酸であり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94〜50:50あるジアミン混合物であるポリアミド樹脂である。
【0010】
本発明のポリアミドの製造に用いられる蓚酸源としては、蓚酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(またはi−)プロピル、蓚酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
【0011】
上記の蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルが好ましく、その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルが特に好ましい。
【0012】
ジアミン成分としては1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物を用いる。さらに、1,9−ノナンジアミン成分と2−メチル−1,8−オクタンジアミン成分のモル比は、6:94〜50:50モル%であり、好ましくは6:94〜40:60モル%、より好ましくは6:94〜30:70モル%である。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを上記の特定量共重合することにより、成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、かつ低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性などにも優れたポリアミドが得られる。
【0013】
(2)ポリアミド樹脂の製造
本発明のポリアミド樹脂は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。本発明者らの研究によれば、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で重縮合反応させることにより得ることができる。具体的には、以下の操作で示されるような、(i)前重縮合工程、(ii)後重縮合工程の順で行うのが好ましい。
【0014】
(i)前重縮合工程:まず反応器内を窒素置換した後、ジアミン(ジアミン成分)及び蓚酸ジエステル(蓚酸源)を混合する。混合する場合にジアミン及び蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン成分及び蓚酸源が共に可溶な溶媒としては、特に制限されないが、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノールなどを用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)である。
【0015】
このように仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素バブリングしながら、常圧下で昇温する。反応温度は、最終到達温度が80〜150℃、好ましくは100〜140℃の範囲になるように制御するのが好ましい。最終到達温度での反応時間は3時間〜6時間である。
【0016】
(ii)後重縮合工程:更に高分子量化を図るために、前重縮合工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度、すなわち80〜150℃から、最終的に220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下、更に好ましくは240℃以上270℃以下の温度範囲にまで到達させる。昇温時間を含めて1〜8時間、好ましくは2〜6時間保持して反応を行うことが好ましい。さらに後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa未満〜13.3Paである。
【0017】
(3)ポリアミド樹脂の性状及び物性
本発明から得られるポリアミド樹脂の分子量に特別の制限はないが、ポリアミド樹脂濃度が1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが1.8〜6.0の範囲内である。好ましくは2.0〜5.5であり、2.5〜4.5が特に好ましい。ηrが1.8より低いと成形物が脆くなり物性が低下する。一方、ηrが6.0より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる。
【0018】
本発明のポリアミド樹脂は、カルボン酸成分として蓚酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共重合することで、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて、上記相対粘度を増加させること、すなわち分子量を増加させることが可能である。また、実質的な熱分解の指標である1%重量減少温度(以下、Tdと略す)と融点(以下、Tmと略す)の差(Td−Tm)で表される成形可能温度範囲が、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて拡大し、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であることができ、さらには90℃以上も可能である。本発明のポリアミド樹脂は、Tdが好ましくは300℃以上、さらに好ましくは320℃以上であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。
【0019】
(4)ポリアミド樹脂に配合できる成分
本発明により得られるポリアミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で他のジカルボン酸成分を混合する事が出来る。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸、また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。
【0020】
また、本発明から得られるポリアミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事が出来る。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
【0021】
また、本発明には本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリオキサミドや、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどポリアミド類を混合することが可能である。更に、ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー、エラストマー、フィラーや、補強繊維、各種添加剤を同様に配合することができる。
【0022】
さらに、本発明により得られるポリアミド樹脂には必要に応じて、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維、可塑剤、潤滑剤などを重縮合反応時、またはその後に添加することもできる。
【0023】
(5)ポリアミド樹脂の成形加工
本発明により得られるポリアミド樹脂の成形方法としては、射出、押出、中空、プレス、ロール、発泡、真空・圧空、延伸などポリアミドに適用できる公知の成形加工法はすべて可能であり、これらの成形法によってフィルム、シート、成形品、繊維などに加工することができる。
【0024】
(6)ポリアミド成形物の用途
本発明によって得られるポリアミドの成形物は、従来ポリアミド成形物が用いられてきた各種成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維、容器等として自動車部材、コンピューター及び関連機器、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途に使用できる。
【実施例】
【0025】
[物性測定、成形、評価方法]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例中の相対粘度、融点、結晶化温度、1%重量減少温度、溶融粘度及び飽和吸水率の測定、耐薬品性、耐加水分解性の評価、フィルム成形及び引張強度、引張伸び、曲げ強度、曲げ弾性率、耐衝撃強度、熱変形温度の測定は以下の方法により行った。
【0026】
(1)相対粘度(ηr)
ηrはポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を使用してオストワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0027】
(2)融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)
Tm及びTcは、PerkinELmer社製PYRIS Diamond DSC用いて窒素雰囲気下で測定した。30℃から270℃まで10℃/分の速度で昇温し(昇温ファーストランと呼ぶ)、270℃で3分保持したのち、−100℃まで10℃/分の速度で降温し(降温ファーストランと呼ぶ)、次に270℃まで10℃/分の速度で昇温した(昇温セカンドランと呼ぶ)。得られたDSCチャートから降温ファーストランの発熱ピーク温度をTc、昇温セカンドランの吸熱ピーク温度をTmとした。
【0028】
(3)1%重量減少温度(Td)
Tdは島津製作所社製THERMOGRAVIMETRIC ANALYZER TGA−50を用い、熱重量分析(TGA)により測定した。20ml/分の窒素気流下室温から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、Tdを測定した。
【0029】
(4)フィルム成形
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いてフィルム成形を行った。500〜700Paの減圧雰囲気下260℃で5分間加熱溶融させた後、5MPaで1分間プレスを行いフィルム成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却結晶化させてフィルムを得た。
【0030】
(5)飽和吸水率
ポリアミド樹脂を(4)の条件で成形したフィルム(寸法:20mm×10mm、厚さ0.25mm;重量約0.05g)を23℃のイオン交換水に浸漬し、所定時間ごとにフィルムを取り出し、フィルムの重量を測定した。フィルム重量の増加率が0.2%の範囲で3回続いた場合にポリアミド樹脂フィルムへの水分の吸収が飽和に達したと判断して、水に浸漬する前のフィルムの重量(Xg)と飽和に達した時のフィルムの重量(Yg)から式(1)により飽和吸水率(%)を算出した。
【0031】
【数1】

【0032】
(6)シート成形
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いて、直径約50mm、厚さ約2mmの円盤を成形した。500〜700Paの減圧雰囲気下260℃で5分間加熱溶融させた後、5MPaで1分間プレスを行い成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち145℃、5MPaで1分間冷却結晶化させて試料を得た。
【0033】
(7)飽和エタノール吸収率
ポリアミド樹脂を(6)の条件で成形した円盤状の試料(寸法:直径約50mm、厚さ約2mm;重量約3.54g)を25℃の試薬特級エタノールに浸漬し、所定時間ごとに試料を取り出し、重量を測定した。試料重量の増加率が0.2%の範囲で3回続いた場合にポリアミド樹脂へのエタノールの吸収が飽和に達したと判断して、エタノールに浸漬する前の試料の重量(Xg)と飽和に達した時の試料の重量(Yg)から式(2)により飽和エタノール吸収率(%)を算出した。
【0034】
【数2】

【0035】
(8)機械的物性
以下に示す〔1〕〜〔3〕の測定は、下記の試験片を樹脂温度260℃、金型温度80℃の射出成形により成形し、これを用いて行った。
〔1〕 引張試験(引張降伏点強さ及び引張破断伸び):ASTM D638に記載のTypeIの試験片を用いてASTM D638に準拠し、23℃で測定した。
〔2〕 曲げ試験(曲げ強さ及び曲げ弾性率):試験片寸法129mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D790に準拠し、23℃で測定した。
〔3〕 衝撃強度(アイゾットノッチ付):試験片寸法63.5mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D256に準拠し、23℃で測定した。
【0036】
[実施例1]
(i)前重縮合工程:撹拌機、還流冷却器、窒素導入管、原料投入口を備えた内容積が500mlのセパラブルフラスコの内部を純度が99.9999%の窒素ガスで置換し、脱水済みトルエン200ml、1,9−ノナンジアミン 16.1129g(0.1018モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン16.1129g(0.1018モル)を仕込んだ。このセパラブルフラスコをオイルバス中に設置して50℃に昇温した後、蓚酸ジブチル 41.1761g(0.2036モル)を仕込んだ。次にオイルバスの温度を130℃まで昇温し、還流下、5時間反応を行った。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は50ml/分の窒素気流下で行った。
【0037】
(ii)後重縮合工程:上記操作によって得られた前重合物を撹拌機、空冷管、窒素導入管を備えた直径約35mmφのガラス製反応管に仕込み、反応管内を13.3Pa以下の減圧下に保ち、次に常圧まで窒素ガスを導入する操作を5回繰り返した後、50ml/分の窒素気流下210℃に保った塩浴に移し、直ちに昇温を開始した。1時間かけて塩浴の温度を260℃とした後、容器内を約66.5Paまで減圧し、さらに2時間反応させた。続いて常圧まで窒素ガスを導入したのち、塩浴から取り出し50ml/分の窒素気流下で室温まで冷却してポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであった。
【0038】
[実施例2]
前重合工程において、1,9−ノナンジアミン 9.6677g(0.0611モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン22.5581g(0.1425モル)を仕込んだ以外は実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであった。
【0039】
[実施例3]
前重合工程において、1,9−ノナンジアミン 1.9335g(0.122モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン30.2923g(0.1914モル)を仕込んだ以外は実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであった。
【0040】
[実施例4]
(i)前重縮合工程:攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、放圧口、ポリマー取出口、および直径1/8インチのSUS316製配管によって原料フィードポンプを直結させた原料投入口を備えた1Lの耐圧容器に、シュウ酸ジブチル224.12g(1.1083モル)を仕込み、耐圧容器内を純度が99.9999%の窒素ガスで3.0MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、封圧下、40℃において1,9−ノナンジアミン10.59g(0.06687モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン165.83g(1.0477モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を原料フィードポンプにより流速200ml/分で1分間かけて反応容器内に注入した。注入直後の耐圧容器内の温度は137℃まで上昇した。
(ii)後重縮合工程:その後、40ml/分の窒素気流下において昇温を開始し、5.5時間かけて内部温度を260℃にした後に2時間反応させた。次に、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して10分間静置した後、重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであった。相対粘度は3.47であった。
【0041】
[実施例5]
(i)前重縮合工程:攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、放圧口、ポリマー取出口、および直径1/8インチのSUS316製配管によって原料フィードポンプを直結させた原料投入口を備えた5Lの耐圧容器に、シュウ酸ジブチル1048.87g(5.18616モル)を仕込み、耐圧容器内を純度が99.9999%の窒素ガスで3.0MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、封圧下、系内を昇温した。20分間かけて内部温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン49.26g(0.3112モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン771.74g(4.8756モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を原料フィードポンプにより流速13ml/分で17分間かけて反応容器内に注入すると同時に昇温した。全量注入直後の耐圧容器内の内圧は、重縮合反応により生成した1−ブタノールによって0.35MPaまで上昇し、内部温度は168℃まで上昇した。
(ii)後重縮合工程:注入直後から生成したブタノールの留去を開始し、内圧を0.25MPaに保持したまま、2時間かけて内部温度を235℃にした。内部温度が235℃に達した直後から放圧口より重縮合反応によって生成した1−ブタノールを20分間かけて抜き出した。放圧後、260ml/分の窒素気流下において昇温を開始し、1時間かけて内部温度を260℃にし、260℃において0.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で3MPaに加圧して10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであった。相対粘度は4.00であった。
【0042】
[比較例1]
(i)前重縮合工程:撹拌機、還流冷却器、窒素導入管、原料投入口を備えた内容積が1Lのセパラブルフラスコの内部を純度が99.9999%の窒素ガスで置換し、脱水済みトルエン500ml、1,9−ノナンジアミン68.3091g(0.4316モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン12.0545g(0.0762モル)を仕込んだ。このセパラブルフラスコをオイルバス中に設置して50℃に昇温した後、蓚酸ジブチル102.1956g(0.5053モル)を仕込んだ。次にオイルバスの温度を130℃まで昇温し、還流下、5時間反応を行った。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は50ml/分の窒素気流下で行った。
【0043】
(ii)後重縮合工程:上記操作によって得られた前重合物を撹拌機、空冷管、窒素導入管を備えた直径約35mmφのガラス製反応管に仕込み、反応管内を13.3Pa以下の減圧下に保ち、次に常圧まで窒素ガスを導入する操作を5回繰り返した後、50ml/分の窒素気流下210℃に保った塩浴に移し、直ちに昇温を開始した。1時間かけて塩浴の温度を260℃とした後、容器内を約66.5Paまで減圧し、さらに2時間反応させた。続いて常圧まで窒素ガスを導入したのち、塩浴から取り出し50ml/分の窒素気流下で室温まで冷却してポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであった。
【0044】
[比較例2]
前重合工程において容積が500mlのセパラブルフラスコを使用し、脱水済みトルエン200ml、1,9−ノナンジアミン18.9835g(0.1199モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン4.7459g(0.0300モル)、蓚酸ジブチル30.1957g(0.1493モル)を仕込んだほかは、実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであった。このポリアミドから成形したフィルムは無色透明の強靭なフィルムであった。
【0045】
[比較例3]
(i)前重縮合工程:撹拌機、空冷管、窒素導入管、原料投入口を備えた内容積が5リットルのセパラブルフラスコの内部を純度が99.9999%の窒素ガスで置換し、蓚酸ジブチル1211g(5.9871モル)を仕込んだ。この容器を20℃に保ち、攪拌しながら1,9−ノナンジアミン807.6g(5.102モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン142.5g(0.9004モル)を加え、重縮合反応を行った。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は200ml/分の窒素気流下で行った。
【0046】
(ii)後重縮合工程:上記操作によって得られた前重合物を攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口及びポリマー取り出し口を備えた5Lの圧力容器に仕込み、圧力容器内を3.0MPa以上の加圧下に保ち、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、窒素気流及び常圧下、系内を昇温した。1.5時間かけて内部温度を120℃にした。この時、ブタノールの留出を確認した。ブタノールを留出させながら5時間かけて260℃まで昇温し、2時間反応させた。その後、系内を250℃に降温し、攪拌を止め25分間静置した後に系内を窒素で3.5MPaに加圧し、重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであった。次に、このポリアミドを、シリンダ温度260℃、金型温度80℃、射出ピーク圧力140MPaで射出成形し、得られた成形品の各種物性値を測定した。得られた結果を下記の表5に示す。
【0047】
[比較例4]
前重合工程において300ミリLの容積を持つセパラブルフラスコを使用し、脱水済みトルエン100ml、1,9−ノナンジアミン21.2125g(0.1340モル)、蓚酸ジブチル27.0852g(0.1339モル)を仕込み、後重合工程において常圧で重合を行ったほかは、実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは黄色のポリマーであった。
【0048】
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4により得られたポリアミドのジアミン組成、ηr、融点(Tm)、結晶化温度(Tc)、1%重量減少温度(Td)、Td−Tm及び溶融粘度を表1に示す。実施例1、2及び3により得られるポリアミドのTd−Tmは比較例1、2、3及び4により得られるポリアミドのそれより大きく成形加工温度範囲が広い。また、実施例1、2及び3により得られるポリアミドのTdは比較例1、2、3及び4のTdよりも高く耐熱性に優れている。
【0049】
【表1】

【0050】
[比較例5]
本発明で得られるポリアミド樹脂に替えてナイロン6(宇部興産製、UBEナイロン 1015B)を用いてフィルムを成形した。得られたナイロン6のフィルムは無色透明の強靭なフィルムであった。このフィルムの飽和吸水率を評価した。結果を表2に示す。
【0051】
[比較例6]
本発明で得られるポリアミド樹脂に替えてナイロン12(宇部興産製、UBESTA 3014U)を用いてフィルムを成形した。得られたナイロン12のフィルムは無色透明の強靭なフィルムであった。このフィルムの飽和吸水率を評価した。結果を表2に示す。
【0052】
表2に実施例4、比較例2、比較例5及び比較例6で得られたポリアミド樹脂の飽和吸水率を示す。また、表3に実施例5と比較例3で得られたポリアミド樹脂の飽和エタノール吸収率を示す。表2から、本発明のポリアミド樹脂は、ナイロン6や12と比較して低吸水である。また表3から、本発明のポリアミド樹脂は、2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル数が1,9−ノナンジアミンのモル数未満である場合と比較して、低吸水であり、低エタノール吸収である。
【0053】
実施例5と比較例3で得られたポリアミド樹脂の射出成形物の機械的物性を表4に示す。
【0054】
【表2】

飽和吸水率
【0055】
【表3】


飽和エタノール吸収率
【0056】
【表4】


機械的物性
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリアミドは、低吸水性、低エタノール吸収性、耐薬品性、耐加水分解性などに優れ、溶融成形加工性に優れたポリオキサミド樹脂である。自動車部材、コンピューター及び関連機器、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品などの成形材料として好適に使用することができる。例えば燃料チューブ、エアチューブ、燃料補助タンク、ベーパーキャニスタ、クイックコネクタ、ファン、クリップ、ファスナー、エンジンカバー、ラジエタータンク、エアダクトホース、アームレスト、ギアなどの自動車部材に使用できる。また、従来ポリアミド成形物が用いられてきた各種成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維、容器等として、自動車部材、コンピューター及び関連機器、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品などの成形材料として広範に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ、前記2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル数は、前記1,9−ノナンジアミンのモル数以上であり、前記ジカルボン酸成分と前記ジアミン成分とを縮合させて得られるポリアミド樹脂。
【請求項2】
96%硫酸水溶液を溶媒とし、濃度が1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液の96%硫酸水溶液との相対粘度(ηr)が、25℃において、1.8〜6.0である請求項1に記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】
窒素雰囲気下にて10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と、窒素雰囲気下にて10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が50℃以上である請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂。
【請求項4】
ジカルボン酸成分とジアミン成分とを縮合させて得られるポリアミド樹脂の製造方法であって、前記ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、前記ジアミン成分は1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ、前記2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル数は、前記1,9−ノナンジアミンのモル数以上であることを特徴とするポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂を成形してなる成形品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂を成形してなるエタノール含有燃料用部品。

【公開番号】特開2009−235225(P2009−235225A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82611(P2008−82611)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】