説明

ポリアミド膜形成用組成物及び透明ポリアミド膜

【解決手段】(i)窒素原子に結合する水素原子の一部がアルコキシメチル基で置換されたN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂と、(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物と、(iii)アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物と、(iv)有機溶剤とを含むことを特徴とするポリアミド膜形成用組成物。
【効果】本発明の組成物は、マトリックスとして強度の高いポリアミドからなり、これに酸性基を有する有機ケイ素化合物とアルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物との反応物を含むものであり、帯電防止性のような導電性と透明性と強度のバランスに優れている膜を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈曲疲労性や引っ張り強度等の機械的性質に優れ、ガスバリヤ性、及び透明性に優れることはもとより、埃が静電付着し難く、湿度依存性が小さく、長期に亘り持続する帯電防止性が付与され、かつ成形性に優れたポリアミド膜を形成することができるポリアミド膜形成用組成物及びこれを硬化(架橋・不溶化)してなる透明ポリアミド膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド膜は、引っ張り強度、耐屈曲疲労性等の良好な機械的性質を持つ膜として知られている。しかし、ポリアミド膜は、電気抵抗率が高く、帯電し易く、帯電した電気を漏洩することができないため、表面への粉体や塵埃等の付着や充填時のトラブルや印刷時のヒケ等、静電気に起因する種々の障害が発生することが知られている。特に近年、この膜を用いた表面被覆成形物のような二次加工製品の加工速度の高速化に伴い、帯電防止性不足による問題が顕在化しており、改善が望まれていた。
【0003】
従来、各種材料の帯電防止方法として、帯電防止材を素材に練り込んでから成形する方法と素材表面に成形する方法とが行われていた。前法では、界面活性剤などの親水性材料を素材に練り込んでから成形する方法、カーボンブラックなどの導電性材料を素材に練り込んで成形する方法、後法では、材料表面に光触媒能塗料の皮膜を形成し紫外線によって該皮膜を親水化する方法などが用いられている。
【0004】
界面活性剤型の帯電防止剤は、練り込んだ成形物表面への帯電防止剤のブリード現象を利用する機構であるため、成形物に対する布拭きや水洗などにより帯電防止皮膜が失われ、帯電防止機能の耐久性がないという問題があった。また、導電性カーボンブラックを用いた場合は、練り込んだ成形物は黒色に着色されるため透明性が低くなるという問題が生じていた。光触媒により皮膜を親水化・帯電防止する方法では、光触媒作用のある酸化チタンなどに紫外線が当たることで、水に濡れ易くし空気中の水分を表面に吸着させて帯電防止を発現させる機構のため、紫外線の当たり難い場所では効果を発揮するのに長い時間が必要であり、紫外線の当たり易い用途に限定されるなどの問題もあった。
更に、界面活性剤等の帯電防止剤は、導電性を上げようと添加量を増加させると、練り込んだ成形物の強度を大きく損なうという問題点もあった。
【0005】
なお、本発明に関連する公知文献としては、下記のものがある。
【特許文献1】特開昭61−83106号公報
【非特許文献1】高分子添加剤の開発技術 第11章 CMC出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、機械的性質に優れ、帯電防止性に優れるポリアミド膜を与えるポリアミド膜形成用組成物、及びこの組成物を架橋・不溶化して得られる透明ポリアミド膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、溶剤可溶性のN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂に、帯電防止性を担う酸性基を有する有機ケイ素化合物と、膜強度の向上と接着性の改良のためのアルコキシシラン又はその(部分)加水分解縮合物とを用いたポリアミド膜形成用組成物から得られる膜が、実質的に、N−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂と、酸性基を有する有機ケイ素化合物とアルコキシシラン又はその(部分)加水分解縮合物の複合体(反応物)によって構成されているため、機械的性質に優れ、帯電防止性に優れるポリアミド膜を与えることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、下記に示すポリアミド膜形成用組成物及び透明ポリアミド膜を提供する。
請求項1:
(i)窒素原子に結合する水素原子の一部がアルコキシメチル基で置換されたN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂と、(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物と、(iii)アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物と、(iv)有機溶剤とを含むことを特徴とするポリアミド膜形成用組成物。
請求項2:
(i)窒素原子に結合する水素原子の一部がアルコキシメチル基で置換されたN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂と、(v)(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物と(iii)アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物との反応物と、(iv)有機溶剤とを含むことを特徴とするポリアミド膜形成用組成物。
請求項3:
N−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するN−メトキシメチル化アミド樹脂である請求項1又は2記載のポリアミド膜形成用組成物。
【化1】


(式中、R1、R2は非置換又は置換のアルキレン基を表し、m及びnはそれぞれ正の整数で、100×m/(m+n)=10〜90である。)
請求項4:
(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物が、硫黄原子含有基を酸化反応によりスルホン酸基に転換した有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のポリアミド膜形成用組成物。
請求項5:
(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物が、フィチン酸をエポキシ基を有するオルガノオキシシラン、シロキサン又はその(部分)加水分解縮合物と反応させて得られた有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のポリアミド膜形成用組成物。
請求項6:
(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物の含有量が、(i)〜(iii)成分の合計量の1〜30質量%である請求項1〜5のいずれか1項記載のポリアミド膜形成用組成物。
請求項7:
(iii)アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物の含有量が、(i)〜(iii)成分の合計量の1〜30質量%の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリアミド膜形成用組成物。
請求項8:
請求項1〜7のいずれか1項記載のポリアミド膜形成用組成物の硬化物からなることを特徴とする透明ポリアミド膜。
【0009】
この組成物は、これを基材に塗布して溶剤を蒸発させることで膜を形成することができる。また、40℃以上120℃以下の温度で加熱することにより、溶剤の揮散を加速させ、架橋・不溶化を促進し、塗布する基材を選択することにより自立性及び透明性のある膜を得ることができる。更に、本発明が提供するポリアミド膜形成用組成物を、ゴム、エラストマーなどの伸縮性材料の表面に塗布することで、ポリアミドの被覆膜を形成することもできる。
【0010】
本発明によれば、ポリアミドの利点である引っ張り強度、耐屈曲疲労性等の機械的性質を損なうことなく、塵埃等の静電付着の起きにくい透明ポリアミド膜等の成形物、及び基材の表面に透明ポリアミド膜を形成してなるポリアミド被覆物品を優れた連続生産性を持って与えることができるポリアミド膜形成用組成物を提供することができ、機械的強度が良好で、透明性と長期に亘り持続する帯電防止性を付与したポリアミド膜を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、マトリックスとして強度の高いポリアミドからなり、これに酸性基を有する有機ケイ素化合物とアルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物との反応物を含むものであり、帯電防止性のような導電性と透明性と強度のバランスに優れている膜を提供することができる。
【0012】
従って、この組成物から容易に作製できるポリアミド膜は、高透明で、柔軟性と機械的強度に優れ、帯電防止性を有する膜とすることができる。このような透明ポリアミド膜を形成した基材を表示装置の前面板として用いれば、帯電防止性能に優れると共に、透明性、反射防止性、耐久性、耐水性等に優れた表示装置を提供することができるほか、本組成物は、添加用材料として、帯電防止剤、防曇材料、紙・パルプ用改質剤、塗料、コーティング剤等の各種用途などに好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るポリアミド膜形成用組成物は、
(i)窒素原子に結合する水素原子の一部がアルコキシメチル基で置換されたN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂と、
(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物と、
(iii)アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物と、
(iv)有機溶剤
を含むものである。この場合、(ii)成分と(iii)成分とは、これらを予め反応させた反応物(オルガノポリシロキサン)として配合することが好ましい。
【0014】
本発明の(i)成分は、窒素原子に結合した水素原子の一部がアルコキシメチル基で置換されたN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂であり、好ましく用いることのできるN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂としては、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するN−メトキシメチル化ポリアミド樹脂である。
【化2】


(式中、R1、R2は非置換又は置換のアルキレン基を表し、m及びnはそれぞれ正の整数で、100×m/(m+n)=10〜90を満足する数である。)
【0015】
式(1)中、m及びnは、それぞれ正の整数であり、m/(m+n)はアミド基の窒素原子に結合する水素原子をメトキシメチル化した割合を表し、α(置換率)=100×m/(m+n)=10〜90である。置換率αが10未満であると、溶剤への溶解性が悪くなるため、組成物を調製することが困難になる場合があり、置換率αが90を超える場合は、製造するためにホルマリンを多量に必要とし、また膜を形成したとき有毒なホルマリンガスの発生や黄変が起こり易くなるおそれがある。通常は、上記置換率αが20〜40のものを好適に用いることができる。
【0016】
上記ポリアミド樹脂は、アルコールのような有機溶剤に対する溶解性を有するものであり、溶解性と強度のバランスから、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量は1,000〜1,000,000であることが好ましく、2,000〜500,000であることがより好ましく、5,000〜150,000であることが更に好ましい。
【0017】
一般式(1)のポリアミド樹脂の具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、共重合ポリアミド等をメトキシメチル化したものが挙げられるが、好ましくはポリアミド6又はポリアミド66のN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂類である。商品としては帝国化学産業(株)から販売されているトレジンF30K、トレジンMF−30、トレジンEF−30T、(株)鉛市から販売されているファインレジンFR101、ファインレジンFR104、ファインレジンFR105、ファインレジンFR301等が挙げられる。
【0018】
本発明の(ii)成分は、酸性基を有する有機ケイ素化合物であり、酸性基を有する有機ケイ素化合物としては、メルカプト基等の酸化によりスルホン酸基に転換可能な硫黄原子含有基を有するオルガノオキシシランの該硫黄原子含有基を酸化反応させて硫黄原子含有基をスルホン酸基に転換した有機ケイ素化合物、又はフィチン酸をエポキシ基を有するオルガノオキシシラン、シロキサン又はその(部分)加水分解縮合物のエポキシ基と反応させて得られた有機ケイ素化合物のいずれか1種又は2種以上の化合物を使用することが好ましい。
【0019】
フィチン酸基を有する有機ケイ素化合物は、エポキシ基を持つオルガノオキシシラン、シロキサン又はその(部分)加水分解縮合物とフィチン酸を、スルホン酸基を有する有機ケイ素化合物は、硫黄原子含有基を持つオルガノオキシシランと過酸化水素水を、それぞれ有機溶媒存在下に十分混合した後、加熱撹拌して反応させることで容易に製造でき、有機溶剤の溶液として得られる。以下にその方法を説明する。
【0020】
(1)フィチン酸基を有する有機ケイ素化合物
フィチン酸基を有する有機ケイ素化合物は、フィチン酸とエポキシ基を有するオルガノオキシシラン、シロキサン又はその(部分)加水分解縮合物とを原料として反応させて得ることができる。なお、本発明において、(部分)加水分解縮合物とは、部分加水分解縮合物又は全加水分解縮合物であることを示す。
【0021】
フィチン酸は、1分子内に6つのホスホン酸基を有しているプロトン含有量18mmol/gと非常に高い値を持つ固体ホモポリ酸であり、吸湿性が高いため、通常はAldrich社等の試薬メーカーから50質量%水溶液の形態で安価に容易に入手できる。物性等については、Merck 13版, P7471に詳細な記載がある。
【0022】
エポキシ基を有するオルガノオキシシラン又はシロキサンは、下記一般式(I)で表されるものが例示できる。
Y−SiXn3-n (I)
(式中、Xはアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルケニロキシ基又はアリーロキシ基、Yはエポキシ基含有基、Rは1価の有機基、nは1〜3の整数を表す。)
【0023】
式(I)中、Yはエポキシ基含有基であり、具体的には、以下の(A)又は(B)である。
【化3】


(但し、xは0又は1、yは1〜3の整数を示す。)
【化4】


(但し、zは1〜3の整数を示す。)
【0024】
Rは1価の有機基であり、該有機基の炭素数は、通常6以下、好ましくは3以下、特には1である。有機基の種類としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基や、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基などのアルコキシアルキル基が挙げられ、メチル基が最も好ましい。また、トリメチルシロキシ基などのトリアルキルシロキシ基であってもよい。
【0025】
Xはアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルケニロキシ基又はアリーロキシ基であり、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルケニロキシ基の炭素数は、通常1以上10以下であって、好ましくは6以下、より好ましくは4以下であり、アリーロキシ基の炭素数は、6以上12以下である。アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルケニロキシ基、アリーロキシ基の炭素数が大きいと、加水分解生成物の分子量が大きくなり、加水分解生成物の除去が困難になり、溶媒として水を用いた場合には水との相溶性が悪くなるため、炭素数は少ない方が好ましい。
アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、アルコキシアルコキシ基としては、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基等が挙げられ、アルケニロキシ基としては、イソプロペノキシ基等が挙げられ、アリーロキシ基の具体例としては、フェノキシ基等が挙げられる。これらの中でもアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基等が好ましい。
【0026】
上記式(I)の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリ(2−メトキシエトキシ)シラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン、3−グリシドキシプロピルジブトキシメチルシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルプロポキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピル−ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、3−グリシドキシプロピルメチル−ジ−イソプロペノキシシラン、3−グリシドキシプロピルペンタメチルジシロキサンが挙げられる。また、これらの(部分)加水分解縮合物であってもよい。
最も好ましい具体例として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−403)や、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−402)が挙げられる。
【0027】
フィチン酸基を有する有機ケイ素化合物の調製方法は、上記エポキシ基を持つシラン、シロキサン又はこれらの(部分)加水分解縮合物とフィチン酸を、有機溶媒存在下に十分混合した後、加熱する。
【0028】
エポキシ基を持つシラン、シロキサン又はこれらの(部分)加水分解縮合物とフィチン酸との使用割合は、モル比として前者:後者=9:1〜1:9、特に9:1〜5:5が好ましい。エポキシ基を持つシラン、シロキサン又はこれらの(部分)加水分解縮合物の割合が少なすぎると、水溶性のフィチン酸の量が高くなり膜からフィチン酸が溶出してしまうおそれがあり、多すぎると、酸性基の量が相対的に少なくなるので、プロトン伝導性が低下するおそれがある。
【0029】
反応は、例えば式(I)の化合物の有機溶剤溶液にフィチン酸水溶液を滴下する方法が採用し得る。この場合、エポキシ基とフィチン酸との反応が生じると共に、Xの加水分解性基の加水分解・(部分)縮合反応が生じる。なお、この際の水の量は、最終生成物中できるだけ少ないことが好ましいため、市販のフィチン酸の水溶液に含まれる水を使用して加水分解することが好ましい。
【0030】
反応条件は、通常25℃以上、好ましくは50℃以上150℃以下の温度、より好ましくは60℃以上120℃以下の温度で加熱する。反応時間は、通常0.1〜500時間、特に0.5〜100時間である。
【0031】
(2)スルホン酸基を有する有機ケイ素化合物
スルホン酸基を有する有機ケイ素化合物は、酸化によりスルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基を有するオルガノシラン又はその(部分)加水分解縮合物と酸化剤とを溶媒存在下に接触させて、該硫黄原子含有基を酸化した後に、又は酸化と同時に、それを縮合させることによって得られる。
【0032】
酸化によりスルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基を有するシランとしては、下記一般式(II)で表されるオルガノオキシシランを用いることができる。
Z−(R’)−SiXnR”3-n (II)
(式中、Xは上記式(I)の定義と同様であり、Zは酸化によりスルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基、R’は2価の炭化水素基又は単結合、R”は1価の炭化水素基、nは1〜3の整数を表す。)
【0033】
式(II)中、Zは酸化によりスルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基である。通常、硫黄の酸化数が5以下の硫黄原子を含む官能基を含む置換基であり、具体的には、メルカプト基、亜硫酸基等を含む置換基が挙げられ、このうちメルカプト基を含む置換基が好ましい。
この硫黄原子の数は何個でもよいが、通常1個である。
nの数は1〜3であるが、nが小さいと、プロトン伝導体の強度が上がらない可能性があるので、より好ましくは2又は3である。nが複数の場合、加水分解性の置換基の種類は、同一であっても異なった種類のものであってもよい。
【0034】
R’は2価の炭化水素基又は単結合であり、上述のメルカプト基、亜硫酸基等の官能基とケイ素を繋ぎ、酸化剤や溶媒に対する反応性の低い基が用いられる。該炭化水素基の炭素数は、通常12以下、好ましくは6以下、より好ましくは4以下、最も好ましくは3以下で、1以上である。
炭化水素基の種類としては、アルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基が挙げられ、これらの基は硫黄原子の酸化反応に影響を及ぼさない置換基を含んでいてもよい。アルキレン基としては炭素数4以下が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基等が挙げられる。アリーレン基としては炭素数9以下が好ましく、フェニレン基、メチルフェニレン基及びジメチルフェニレン基等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルキレン基及びアリーレン基であり、アルキレン基が最も好ましい。
【0035】
Z−(R’)−の好ましい基としては、メルカプトアルキル基、メルカプトアリール基、メルカプト基が挙げられる。メルカプトアルキル基としては、メルカプトメチル基、2−メルカプトエチル基、3−メルカプトプロピル基等が挙げられ、メルカプトアリール基としては、メルカプトフェニル基や、メチル基、エチル基等がベンゼン環に置換したアルキルメルカプトフェニル基等が挙げられる。これらの中でも、メルカプトアルキル基が特に好ましい。
【0036】
Xとしては、式(I)と同様のものが例示でき、炭素数が少ないアルコキシ基の方が好ましく、中でもメトキシ基、エトキシ基等が好ましい。
R”は1価の炭化水素基である。該炭化水素基の炭素数は、通常6以下、好ましくは3以下、特には1である。炭化水素基の種類としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基が挙げられ、メチル基が最も好ましい。
【0037】
上記式(II)の最も好ましい具体例として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−803)や、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−802)が挙げられる。
【0038】
上記シラン又はその(部分)加水分解縮合物に接触させる酸化剤としては、硫黄原子含有基をスルホン酸基に酸化できるものであれば特に限定されないが、アルコール、水といった溶媒に可溶な酸化剤が好ましく、特には過酸化水素水が好ましい。
酸化剤として過酸化水素を、溶媒として水又はアルコールを含む溶媒を、そしてオルガノオキシシランとして上述のアルコキシシラン類を用いた場合は、アルコキシシラン中のメルカプト基等の硫黄原子含有基がスルホン酸基に酸化されると同時に、アルコキシシラン類の加水分解縮合反応も進行する。
【0039】
酸化剤の量は、オルガノオキシシラン又はその(部分)加水分解縮合物中の硫黄原子含有基1モルに対して、酸化物当量として3モル当量以上であることが好ましい。酸化剤が少ないと、スルホン酸までの酸化が進行しづらい等の問題が生ずるおそれがある。酸化剤の量の上限は特に制限はないが、オルガノオキシシラン又はその(部分)加水分解縮合物中の硫黄原子含有基1モルに対して酸化剤当量として、通常5モル当量以下、好ましくは4モル当量以下である。酸化剤が多すぎると、経済性が悪くなったり、後工程で使用する中和剤まで酸化されたりといった好ましくない酸化反応が起こることがある。
【0040】
加水分解・縮合に使用する水の量は、オルガノオキシシラン又はその(部分)加水分解縮合物の全オルガノオキシ量1モルに対し、1モル以上、特に1.5モル以上とすることが好ましい。なお、その上限は適宜選定されるが、10モル以下、特に5モル以下が好ましい。また、上記有機溶媒の量は、撹拌可能で、均一な溶液にできる必要量使用すればよい。
【0041】
本反応において、オルガノオキシシラン又はその(部分)加水分解縮合物と酸化剤とを接触させる温度・時間は、特に制限されないが、通常0〜100℃、2時間から3日で行う。均一な溶液になるまでの時間、保持又は撹拌することが好ましいが、条件によっては、接触させるべき所定量の酸化剤のうち、全部もしくはその一部分を接触させた段階で、溶液が固化、ゲル化により固体が析出する場合がある。そのような場合でも所定量の酸化剤を全て接触させた上で、溶媒が蒸発しないような状況下で保持することにより、スルホン酸基含有有機ケイ素化合物の均一な溶液を得ることができる。
【0042】
(3)酸性基含有有機ケイ素化合物溶液
エポキシ基を持つ式(I)の化合物とフィチン酸、あるいは硫黄原子含有基を持つ式(II)の化合物と過酸化水素を、有機溶媒存在下に十分混合して反応させて製造する。
【0043】
製造時に使用する有機溶媒としては、アルコール類、あるいはグリコール誘導体、ケトン類、エーテル類等のうちの1種又は2種以上を混合し使用する。有機溶媒は、通常炭素数1以上10以下であって、8以下が好ましく、6以下がより好ましい。
【0044】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブチルアルコール、オクタノール、n−プロピルアルコール、アセチルアセトンアルコール等が挙げられる。グリコール誘導体としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0045】
これらの有機溶媒のうち、ポリアミド樹脂並びに酸性基含有有機ケイ素化合物に対する溶解性が高く、また水と相分離しづらいため、アルコール類が好ましい。アルコール類の炭素数は、水との相溶性や、溶媒を除去するときの除去のし易さの観点から、炭素数は1以上6以下が好ましく、4以下がより好ましく、2以下が更に好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが好ましく、中でもメタノールやエタノールが好ましい。
【0046】
溶液中の酸性基含有有機ケイ素化合物の濃度は、通常10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上であり、通常90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。有機ケイ素化合物が溶解する範囲で高濃度である方が好ましい。溶液中のケイ素化合物の濃度や有機ケイ素化合物由来のケイ素濃度は、必要に応じて上述した水及び/又は有機溶媒を加えたり、減圧蒸留等により溶媒のみを除去することによって所定の濃度に調節できる。
【0047】
次に、本発明の(iii)成分は、アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物であり、アルコキシシランとしては、下記一般式で示される少なくとも一種のアルコキシシランが挙げられる。
1pSi(OR24-p
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、ビニル基、及びエポキシ官能性有機基よりなる群から選択された1価の有機基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基であり、そしてpは1〜3の値を有する整数である。)
【0048】
なお、エポキシ官能性有機基としては、上述した式(A)又は(B)で示される基が挙げられる。
【0049】
具体的な例としては、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランが挙げられる。アルコキシシランの具体例は、テトラアルコキシシランとして、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリアルコキシシランとして、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、グリシドキシトリメトキシシラン、ジアルコキシシランとして、ジメチルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、及びメチルアリルジメトキシシラン等が挙げられる。これらは所望により2種類以上用いることができる。
とりわけ、テトラアルコキシシラン、あるいは、メチルトリメトキシシランであることが最も好ましい。
【0050】
ここで、上記(ii)成分と(iii)成分とは、予めこれらを反応させて得られた反応物(オルガノポリシロキサン)[(v)成分]として配合することができる。
【0051】
また、エポキシ基含有シラン、シロキサン又はその(部分)加水分解縮合物とフィチン酸を反応させるフィチン酸基含有有機ケイ素化合物の製造時に、(iii)成分であるアルコキシシラン又はその(部分)加水分解縮合物を共存させたり、メルカプト基を有するシラン又はその(部分)加水分解縮合物と過酸化水素水とを反応させると同時に、(iii)成分であるアルコキシシラン又はその(部分)加水分解縮合物を共加水分解して得ることもできる。なお、その反応の一例を示すと以下の通りである。
【0052】
【化5】


(Meはメチル基、R1、R2は上記の通りであり、
【化6】

である。)
【0053】
なお、上記(ii)、(iii)成分の反応物(ポリシロキサン)の製造方法としては、以下の方法が例示され、適時これを組み合せればよい。
(1)アルコキシシランに対して、メルカプト基を有するシランを縮合させて、メルカプト基を有するシロキサンを得た後、該メルカプト基を酸化してスルホン酸基を有するシロキサンを製造する方法。
(2)メルカプト基を有するシランを酸化してスルホン酸基を有するシロキサンを得た後、これとアルコキシシランとを縮合させて、スルホン酸基を有するシロキサンを製造する方法。
(3)アルコキシシランに対して、エポキシ基を有するシランを縮合させて、エポキシ基を有するシロキサンを得た後、該エポキシ基をフィチン酸と反応させてフィチン酸基を有するシロキサンを製造する方法。
(4)エポキシ基を有するシランのエポキシ基とフィチン酸を反応させて、フィチン酸基を有するシランを得た後、これとアルコキシシランを縮合させてフィチン酸基を有するシロキサンを製造する方法。
このシロキサンは、通常酸性基を有する含ケイ素ポリマー又はオリゴマーである。
【0054】
なお、(iii)成分のアルコキシシランは、例えば、水−アルコール混合溶媒中で酸触媒の存在下、加水分解することによって得ることができる部分加水分解物、あるいは、加水分解物の縮重合物を用いてよい。
【0055】
上記反応物(酸性基含有シロキサン)の分子構造は特に限定されず、具体的には、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐状、網状が例示され、好ましくは直鎖状、分岐状である。また、粘度は特に限定されず、例えば、25℃における粘度(水−アルコール混合溶液10〜50質量%)の値が1〜50,000mPa・sの範囲であることが好ましく、更に3〜1,000mPa・sの範囲であることが好ましい。なお、本発明において、粘度は回転式粘度計による値である。
【0056】
本発明の反応物(酸性基含有シロキサン)は、酸性基が炭化水素基等の酸化剤や溶媒に対する反応性の低い基を介して、ケイ素原子に化学的に結合している。従って、水等の溶媒に均一に溶解させた場合でも、酸性基が遊離しない。また、N−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂のN−アルコキシメチル基が酸により水素に置換されると、メタノールに不溶となり、生成した膜の耐溶剤性や強度が向上する。
【0057】
本発明の(iv)成分の有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶剤が挙げられる。
これらは単独で使用してもよく、また2種以上混合して使用してもよいが、ポリアミド樹脂の溶解性が高く沸点が低いため、製膜し易いメタノールを最も好適に用いることができる。
【0058】
本発明においては、(i)〜(iv)成分、又は(i)、(v)、(iv)成分の割合は、加工性を含めた組成物の形成に重要であり、固形分として(i)〜(iii)成分又は(i)及び(v)成分の割合は、膜の特性発現のために必要である。ポリアミド樹脂が少ない組成物から得られる膜は、脆くなり自立膜ができなくなる場合があり、酸性基含有有機ケイ素化合物が少ない組成物から得られる膜は、導電性が悪くなる場合があり、アルコキシシランが少ない組成物から得られる膜は、十分な膜強度が得られなくなる場合がある。このため、(i)N−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂成分の割合が、(i)〜(iii)成分の合計量の40〜98質量%の範囲にあり、また、(ii)成分の含有量が、(i)〜(iii)成分の合計量の1〜30質量%の範囲にあり、(iii)成分の含有量が、(i)〜(iii)成分の合計量の1〜30質量%であることが必要である。
【0059】
更により望ましい特性のためには、本発明の組成物中の(i)成分の含有量が(i)〜(iii)成分の合計量の50〜90質量%の範囲にあることが好ましく、(ii)成分の割合が(i)〜(iii)成分の合計量の3〜20質量%、更には5〜15質量%の範囲にあることが好ましい。また、(ii)成分と(iii)成分との合計の割合が、(i)〜(iii)成分の合計量の10〜50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0060】
また、この導電性膜形成用組成物は、更にシリカを含有させてもよく、速やかな製膜工程、膜強度特性の改善のためにシリカゾルを加えることができる。その含有量は(i)〜(iii)成分の合計量に対し0〜20質量%が好ましい。20質量%を超えると、膜の柔軟性が不十分となり、膜に割れが起こり、自立膜ができにくくなるおそれがある。なお、シリカを配合する場合は1質量%以上とすることが好ましい。
【0061】
本発明に係る組成物の実際の使用にあたっては、その扱い易さを考慮すると、25℃における粘度が10,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5,000Pa・sであることが好ましい。
【0062】
なお、本発明の組成物を製造するに際し、酸性基含有有機ケイ素化合物は酸性であるため、アルコキシシラン化合物と混合するだけで雰囲気に存在する水分を利用して加水分解が進行する。このものは、(ii)あるいは(iii)成分を単独で(i)成分の有機溶剤溶液と混合しようとするよりも、容易に均一溶液を形成できる。従って、(i)〜(iv)成分を混合する順序は、特に限定するものではないが、(i)成分と(iv)成分とを混合したもの、及び(ii)成分と(iii)成分を十分に混合したもの又は(ii)成分と(iii)成分とを予め反応させたものをつくり、これらを最後に混合することが最も望ましい。
【0063】
このとき使用する(iv)成分の有機溶剤は、希釈により本発明組成物の混和・作業性の向上、塗布性の改善、膜の膜厚調整のためのもので、メタノール等の上述した溶剤を用いることができる。
【0064】
次に、本発明に係る透明ポリアミド膜を形成させる方法について具体的に説明する。
膜は、本発明の組成物をディッピング法、スピナー法、スプレー法、ロールコーター法、フレキソ印刷法などの湿式薄膜形成方法により塗布し、その後溶剤を気化・乾燥させることで形成される。ガラス、プラスチック、セラミックなどからなるフィルム、シートあるいはその他の成形体などの基材上に、該膜を該組成物から形成できる。また、基材としてPET(ポリエチレンテレフタレート)膜、ポリエチレン膜、含フッ素膜(例えば、ポリテトラフルオロエチレン板、フッ素系被覆膜としては、アフレックス(旭硝子(株)製))を選択したり、フッ素系離型材で被覆した膜基材上に塗布後、乾燥・架橋・不溶化して製膜した後、膜基材より剥離することにより、透明性の高い自立膜を形成することができる。
【0065】
本発明の組成物の構成要素において、(i)成分のN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂は、酸触媒により架橋してメタノール不溶性になり、(ii)成分の酸性基含有有機ケイ素化合物は、酸性でありかつ加水分解しにくいSi−C結合と加水分解し易いSi−O結合をもち、(iii)成分のアルコキシシランは、加水分解性のアルコキシ基を持つ。このため組成物を基材に塗布して形成した膜を、40℃以上120℃以下の温度で加熱することにより、架橋・不溶化することで導電性ポリアミド膜を形成でき、基材上に上記導電性ポリアミド膜形成用組成物を塗布して形成した膜を、架橋・不溶化して製膜し、基材より剥離すれば帯電防止性自立膜を得ることができる。
【0066】
具体的には、この組成物を塗布した基板は、例えば空気循環式のオーブン等を用いて乾燥時又は乾燥後に、40℃以上120℃以下の温度で、より好ましくは60℃以上80℃以下の温度で10分間〜4時間加熱するのが好ましい。
【0067】
加熱することで不溶化し、メタノール等の溶剤に溶解しなくなるので耐溶剤性が向上する。この方法は、縮合反応が併用されるので、架橋密度が上がり、膜強度を高めることが可能である。
【0068】
膜の厚さは1,000μm以下、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜100μmとすることができる。
【0069】
本発明の膜は、(1)ポリアミド樹脂が造膜性に優れること、(2)ポリアミド樹脂の中で、酸性基含有有機ケイ素化合物とアルコキシシラン化合物とが縮合反応することにより得られた反応物(ポリシロキサン)がポリアミド樹脂と均一に分散した膜ができること、(3)(ii)、(iii)成分の加水分解性基が加水分解することでゾルゲル反応により生成するシラノール基間の会合により、見かけの架橋が生成すること等が、膜強度の大きな向上に寄与しているものと考えられる。特にポリアミド樹脂としてN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂を用いることにより、(ii)成分の酸性基が、N−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂の脱アルコキシアルキル化触媒として作用し、ポリアミド樹脂が溶剤不溶となり、また酸性基含有有機ケイ素化合物とアルコキシシランの間で生成するSi−O−Si結合に起因する架橋密度が高いことも効果を奏しているものと考えられる。
【実施例】
【0070】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0071】
この組成物の調製のための原料として、以下のものを用いた。
N−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂として、(株)鉛市製のファインレジンFR105(FR105と略記する場合がある。)を用いた。
アルコキシシランとして、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランは、信越化学工業(株)製のKBM−403、KBM−13、KBE−04を用いた。
酸性基を有する有機ケイ素化合物として、合成実施例1によるフィチン酸をKBM−403等と反応させた有機ケイ素化合物及び合成実施例2,3によるKBE−04/KBM−13と共存させたメルカプト基含有シラン(KBM−803)の過酸化水素水による酸化により合成したスルホン酸基を有する有機ケイ素化合物を用いた。また、比較のため、アルコキシシランを全く用いないスルホン酸基を有する有機ケイ素化合物として、合成比較例1によるKBM−803の酸化により合成したスルホン酸基を有する有機ケイ素化合物を用いた。
また、有機溶剤としてメタノールを用いた。
【0072】
[合成実施例1]
(1)フィチン酸基含有オルガノポリシロキサンの合成
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM−403)14.2g(0.06mol)とエタノール60gの混合溶液中に、激しく撹拌しながら褐色のフィチン酸50質量%水溶液66g(有効成分33g;0.05mol)を滴下すると、一時的に白濁したのち透明な溶液に変化し、反応液の温度は反応熱により21℃から29℃になった。オイルバスにより徐々に反応温度を70℃まで加温し、その状態で1時間撹拌した。この溶液を、25℃まで冷却した後、激しく撹拌しながらテトラエトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBE−04)10.4g(0.05mol)とエタノール10gの混合溶液を滴下した。反応液の温度は反応熱により25℃から28℃になった。1時間撹拌した後、オイルバスにより徐々に反応温度を70℃まで加温し、その状態で4時間撹拌した。これにより、前記式(C−1)で示されるやや粘稠な微黄色透明な溶液157gを得た。
この溶液の不揮発分を105℃,3時間乾燥機中で保持することによって定量したところ、不揮発分36.4%であった。この溶液1gを塩化ナトリウム飽和水25gに溶解し、フェノールフタレインを指示薬として0.1N NaOH水溶液(f=1.004)で滴定によりホスホン酸基の含有量を求めると、9.67mmol/gであった。
【0073】
[合成実施例2]
(2)スルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1の合成
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM−803)156.8g(0.8mol)とテトラエトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBE−04)166.4g(0.8mol)に対して、エタノール260g、蒸留水40gを室温で加えて溶解させた。これに、30%過酸化水素水溶液288g(2.54mol)を3時間かけて撹拌しながら滴下すると、徐々に温度が65℃まで上昇すると同時に粘度が上昇し、メルカプト基の酸化とアルコキシシリル基の加水分解が同時に進行し、ゲル状物になった。ゲル状物は、オイルバスを用いて80℃で加熱を続けると再溶解が起こり、80℃で3時間加熱撹拌を行ったところ、低粘度の均一な透明溶液が得られた。この溶液を更に80℃で3時間加熱撹拌を行って無色透明の均一溶液840gを得た。
溶液の不揮発分を105℃,3時間乾燥機中で保持することによって定量したところ、25.9%であった。この溶液1gを塩化ナトリウム飽和水25gに溶解し、フェノールフタレインを指示薬として0.1N NaOH水溶液(f=1.004)で滴定によりスルホン酸基の含有量を求めると、4.83mmol/gであった。この均一な溶液を、スルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1と表記する。
【0074】
[合成実施例3]
(3)スルホン酸基含有オルガノポリシロキサン2の合成
合成実施例2のテトラエトキシシラン166.4g(0.8mol)の替わりに、メチルトリメトキシシラン108.8g(0.8mol)を用いる以外は同様に操作して、無色透明の均一溶液790gを得た。この均一な溶液を、スルホン酸基含有オルガノポリシロキサン2と表記する。
【0075】
[合成比較例1]
(4)スルホン酸基含有有機ケイ素化合物3の合成
合成実施例2のテトラエトキシシランを全く使用しない以外は同様に操作して、無色透明の均一溶液340gを得た。この均一な溶液を、スルホン酸基含有有機ケイ素化合物3と表記する。
(1)〜(4)の溶液は、不揮発分(105℃,3時間)、屈折率、pH、酸基H+の含有量を測定した。また、これらの溶液にガラス板を浸漬し、引き上げ、乾燥機中で保持することによって製膜し、水接触角、水跡、膜鉛筆硬度、表面抵抗率を測定した。表面抵抗率は、三菱化学(株)製:表面抵抗器(Hiresta−UP MCP−HT450)にて、印加電圧10Vで定量した。また、水跡については、水接触角測定時の水滴を膜表面で風乾し、その時にできた膜表面の観察により判断した。
結果は、表1にまとめた。
【0076】
【化7】

【0077】
【表1】

但し、式(C−2)−1は、式(C−2)においてR1がエチル基、式(C−2)−2は、式(C−2)においてR1がメチル基である。
【0078】
表1の通り、合成実施例1〜3で得られたフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン、スルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1,2は、製膜性と膜の表面抵抗率が共に良好であったが、合成比較例1で得られたスルホン酸基含有有機ケイ素化合物3は、製膜性が悪いという結果であった。
【0079】
[実施例1]導電性膜用組成物の調製とその評価
N−メトキシメチル化ポリアミド樹脂であるファインレジンFR105 10gをメタノール90gに加え、撹拌しながら70℃に加熱して溶解させ、10%メタノール溶液を得た。このメタノール溶液100g(N−メトキシメチル化ポリアミド樹脂成分として10g)に、撹拌下に合成実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサンのメタノール溶液5.5g(不揮発分:36.3%;2g)を添加し、十分撹拌した後、PETフィルム上に塗布し、室温で1時間風乾してメタノールを除いた。これを50℃のオーブン中に1時間入れ、フィルム化した後、PETフィルムから剥離して自立膜を作製した。これは、膜厚が58μmの透明で柔軟性のある膜であった。
この膜は、10×30mmに切り出し、電気抵抗測定用の試料片とした。電気抵抗は、電気抵抗計(SolartronSI1260/SI1287東陽テクニカ(株)製:インピーダンスアナライザー:Sweep1−100KHz,DCPotential3V)を用いて、25℃の環境下で、交流インピーダンス法で測定した。白金線を各0.3cm離して等間隔に貼り付けた25×40mmのガラス板上に、導電性膜の試料片を圧着させ、うち2本の白金間に交流を加えて電気抵抗を測定し、電極間距離と比抵抗の関係から、膜の面方向の導電率を評価したところ、導電率は1.2×10-7S/cmであった。
また、この溶液にガラス板を浸漬し、引き上げ、乾燥機中で保持することによって製膜した膜の表面抵抗率は、三菱化学(株)製:表面抵抗器(Hiresta−UP MCP−HT450)にて印加電圧10Vで定量したところ、表面抵抗率は7.1×107Ω/□であった。
更に、この膜の強度を引っ張り試験機で測定したところ、125kgf/cm2であった。また、80℃のオーブン中に2時間入れたフィルムは、引っ張り強度は299kgf/cm2と大きく向上した。
【0080】
[比較例1]
比較のために、フィチン酸基含有オルガノポリシロキサンを全く用いずに、実施例1と同様の操作を行ったところ、得られた膜の導電率は非常に低く、表面抵抗率は高い値を示していた。
【0081】
[比較例2]
実施例1との比較において、KBM−403/KBE−04を使用しない系を検討するため、実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン溶液の替わりにフィチン酸水溶液を用いて同一質量のフィチン酸を混合した。それ以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、白色の不均一な膜しか得られなかった。これからは、引っ張り試験機で測定できるだけの強度のある均一な膜は得られなかった。
【0082】
実施例2〜7
実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン溶液をスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1,2に替え、種々の量でポリアミド溶液と混合させた。これ以外は全く実施例1と同様にして操作を行った。オーブン架橋した後、PETフィルムから剥離して自立膜を作製したところ、いずれも透明で柔軟性のある均一な膜が得られた。詳細は以下に記載し、結果を表2に示した。
【0083】
[実施例2]
実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン溶液をスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1に替え、ポリアミド樹脂とスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1の量比を(不揮発分換算で)10/2w/w%から10/1w/w%に変えた量を用いて、これ以外は全く実施例1と同様の操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0084】
[実施例3]
実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン溶液をスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1に替えた以外は全く実施例1と同様の操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0085】
[実施例4]
実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン溶液をスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1に替え、ポリアミド樹脂とスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1の量比を(不揮発分換算で)10/2w/w%から10/4w/w%に変えた量を用いて、これ以外は全く実施例1と同様の操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0086】
[実施例5]
実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン溶液をスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン2に替え、ポリアミド樹脂とスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン2の量比を(不揮発分換算で)10/2w/w%から10/1w/w%に変えた量を用いて、これ以外は全く実施例1と同様の操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0087】
[実施例6]
実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン溶液をスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン2に替えた以外は全く実施例1と同様の操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0088】
[実施例7]
実施例1のフィチン酸基含有オルガノポリシロキサン溶液をスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン2に替え、ポリアミド樹脂とスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン2の量比を(不揮発分換算で)10/2w/w%から10/4w/w%に変えた量を用いて、これ以外は全く実施例1と同様の操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0089】
[比較例3]
実施例2との比較において、アルコキシシランを全く使用しない系を検討するため、実施例2のスルホン酸基含有オルガノポリシロキサン1の替わりにスルホン酸基含有有機ケイ素化合物3を用いて、それ以外は、実施例2と同様の操作を行ったところ、得られた膜の導電率は高いものの、硬く脆くなるため、引っ張り試験機で測定できる均一な膜は得られなかった。
こうした比較例1〜3については、表3に結果をまとめた。
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
以上、まとめると、酸性基含有オルガノポリシロキサンとアルコキシシランを用いない単なるポリアミド膜では、十分な導電性は得られず、アルコキシシランがないものは、硬く脆くなり十分な強度は得られず、酸性基含有オルガノポリシロキサンではなくフィチン酸を用いたものは、白濁し十分な可とう性がある自立膜は得られず、いずれも実用的に使用できるものにはならなかった。
とりわけ、ポリアミド樹脂と酸性基含有オルガノポリシロキサンの組成比が、膜の物性に大きく影響を与えており、酸性基含有オルガノポリシロキサンを多量に用いた系の場合では、導電率が大きく向上するものの、膜強度が低下する傾向にあり、酸性基含有オルガノポリシロキサンの少ない系の場合では、膜強度が大きく向上するものの、導電率がやや低下する傾向にあることがわかった。
このように、表2の実施例と表3の比較例を対比することにより、本発明の膜組成物から、透明性と帯電防止性と膜強度に優れたポリアミド膜が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)窒素原子に結合する水素原子の一部がアルコキシメチル基で置換されたN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂と、(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物と、(iii)アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物と、(iv)有機溶剤とを含むことを特徴とするポリアミド膜形成用組成物。
【請求項2】
(i)窒素原子に結合する水素原子の一部がアルコキシメチル基で置換されたN−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂と、(v)(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物と(iii)アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物との反応物と、(iv)有機溶剤とを含むことを特徴とするポリアミド膜形成用組成物。
【請求項3】
N−アルコキシメチル化ポリアミド樹脂が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するN−メトキシメチル化アミド樹脂である請求項1又は2記載のポリアミド膜形成用組成物。
【化1】


(式中、R1、R2は非置換又は置換のアルキレン基を表し、m及びnはそれぞれ正の整数で、100×m/(m+n)=10〜90である。)
【請求項4】
(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物が、硫黄原子含有基を酸化反応によりスルホン酸基に転換した有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のポリアミド膜形成用組成物。
【請求項5】
(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物が、フィチン酸をエポキシ基を有するオルガノオキシシラン、シロキサン又はその(部分)加水分解縮合物と反応させて得られた有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のポリアミド膜形成用組成物。
【請求項6】
(ii)酸性基を有する有機ケイ素化合物の含有量が、(i)〜(iii)成分の合計量の1〜30質量%である請求項1〜5のいずれか1項記載のポリアミド膜形成用組成物。
【請求項7】
(iii)アルコキシシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物の含有量が、(i)〜(iii)成分の合計量の1〜30質量%の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリアミド膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のポリアミド膜形成用組成物の硬化物からなることを特徴とする透明ポリアミド膜。

【公開番号】特開2009−144084(P2009−144084A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324235(P2007−324235)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】