説明

ポリイミドおよびそれを用いた光学フィルム

【課題】 高温での各種機能層を設置することが可能な優れた耐熱性と低線熱膨張性を有し光学特性に優れた光学フィルムを提供すること。
【解決手段】 下記式で表される繰り返し単位を有するポリイミドを含む光学フィルム。
【化1】


[Aは、単環式もしくは縮合多環式の芳香族基、または、単環式もしくは縮合多環式の脂肪族基を含有する基(炭素原子数4〜30);X1、X2はハロゲン原子で、少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる原子;Y1、Y2、R1、R2はハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基;j、kは0、1または2]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性、光学特性、低線熱膨張性に優れたポリイミドおよび光学フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子、有機EL素子等のフラットパネルディスプレイ分野において、耐破損性の向上、軽量化、薄型化の要望から、基板をガラスからプラスチックに置き換えることが検討されている。特に、携帯電話や、電子手帳、ラップトップ型パソコンなど携帯情報端末などの移動型情報通信機器用表示装置では、特にその要望が強い。
このプラスチック基板は導電性を必要とする。このため、プラスチックフィルム上に、酸化インジウム、酸化錫、あるいは錫−インジウム合金の酸化物等の半導体膜、金、銀、パラジウム合金の酸化膜等の金属膜、該半導体膜と該金属膜とを組み合わせて形成された膜を透明導電層として設けた透明導電性基板を表示素子の電極基板として用いることが検討されている。
【0003】
この目的に使用されるプラスチックとしては、耐熱性の非晶ポリマー、例えば変性ポリカーボネート(例えば、特許文献1参照)、ポリエーテルスルホン(例えば、特許文献2参照)、シクロオレフィンコポリマー(例えば、特許文献3参照)に透明導電層、ガスバリア層を積層したものが知られている。
しかし、このような耐熱性プラスチックを用いても、プラスチック基板として十分な耐熱性が得られなかった。すなわち、これら耐熱性プラスチックを用いたプラスチック基板に導電層を形成させた後、配向膜などの付与のため150℃以上の温度にさらすと導電性、ガスバリア性が大きく低下するという問題があった。また、アクティブマトリクス型画像素子作製時のTFTを設置する際には、更なる耐熱性が要求される。
【0004】
特許文献4には、SiH4を含むガスをプラズマ分解することにより300℃もしくはそれ以下の温度で多結晶シリコン膜を形成する方法が記載されている。特許文献5にはエネルギービームを照射して高分子基板上にアモルファスシリコンと多結晶シリコンが混合された半導体層を形成する方法が記載されている。特許文献6には、熱的バッファ層を設け、パルスレーザビームを照射してプラスチック基板上に多結晶シリコン半導体層を形成する方法が記載されている。これらのように300℃以下でTFT用多結晶シリコン膜を形成する方法は、種々提案されているが、構成や装置が複雑なものであり、製造コストも高い。このため、300℃ないし350℃以上の耐熱性が、プラスチック基板に求められている。
【0005】
特許文献7には、脂肪族テトラカルボン酸無水物から誘導されるポリイミドを用いた薄膜トランジスタ基板について記載されている。このポリイミドフィルムは透明性の点では良好であるが、線熱膨張が不十分であり、また、耐熱性が高品質のTFT用多結晶シリコン膜を形成させるには十分とは言えなかった。一方、透明性に優れ、耐熱性の高いポリイミドとしては、フッ素を置換基に有する芳香族ジアミンを用いる方法(例えば、特許文献8参照)があるが、原料が著しく高価になったり、透明性を増すためにフッ素置換基数を増やすと重合性が悪くなったりするなどの問題点を有していた。
【特許文献1】特開2000−227603号公報(全頁)
【特許文献2】特開2000−284717号公報(全頁)
【特許文献3】特開2001−150584号公報(全頁)
【特許文献4】特開平7−81919号公報(全頁)
【特許文献5】特表平10−512104号公報(全頁)
【特許文献6】特開平11−102867号公報(全頁)
【特許文献7】特開2003−168800号公報(全頁)
【特許文献8】特開平11−35684号公報(全頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高温での各種機能層を設置することが可能な優れた耐熱性と低線熱膨張性を有し光学特性に優れた光学フィルム、およびそれに最適なポリイミドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下に記載する手段によって達成された。
[1] 一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを含む光学フィルム。
一般式(1)
【化1】

[一般式(1)中、Aは、単環式もしくは縮合多環式の芳香族基、または、単環式もしくは縮合多環式の脂肪族基を含有する基であり、かつ構成する炭素原子数が4〜30である基を表し、X1およびX2はそれぞれ独立にハロゲン原子を表し、少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる原子である。Y1、Y2、R1およびR2はそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、jおよびkはそれぞれ独立に0、1または2を表す。]
[2] 一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドのガラス転移温度が300℃以上である[1]に記載の光学フィルム。
[3] 線熱膨張係数が50ppm/℃以下である[1]または[2]に記載の光学フィルム。
[4] 厚さが50μmの場合における波長420nmの光線透過率が30%以上である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[5] 一般式(1)のAが単環式もしくは縮合多環式の芳香族基を含有する基であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の光学フィルム。
[6] 一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
一般式(2)
【化2】

[一般式(2)中、Aは、単環式もしくは縮合多環式の芳香族基、または、単環式もしくは縮合多環式の脂肪族基を含有する基であり、かつ構成する炭素原子数が4〜30である基を表し、Y1、Y2、R1およびR2はそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、jおよびkはそれぞれ独立に0、1または2を表す。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の光学フィルムは、優れた耐熱性と低線熱膨張性を有し、かつ光学特性にも優れている。このため、高温で各種機能層を設置したり、表示品位に優れている画像表示装置を製造したりすることが可能である。本発明のポリイミドは、このような光学フィルムの製造に好ましく使用することができる。
【発明の実施の形態】
【0009】
以下において、本発明の光学フィルム等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本発明の光学フィルムは、一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを含む光学フィルムである。
【0011】
以下において、本発明に用いる一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドについて説明する。
一般式(1)
【化3】

一般式(1)中、Aは、単環式もしくは縮合多環式の芳香族基、または、単環式もしくは縮合多環式の脂肪族基を含有する基であり、かつ構成する炭素原子数が4〜30である基を表す。
【0012】
好ましいAは、芳香族基を含有し、構成する炭素原子数が6〜28である基、あるいは、単環式もしくは縮合多環式の脂肪族基を含有し、構成する炭素原子数が4〜20である基であり、さらに好ましくは、芳香族基を含有し、構成する炭素原子数が7〜28である基、あるいは、単環式脂肪族基を含有し、構成する炭素原子数が4〜10である基、縮合多環式脂肪族基を含有し、構成する炭素原子数が7〜20である基、であり、特に好ましくは、2個以上の芳香族基を含有し、かつ、1つの芳香族基にイミド結合となるカルボニル基が4つ結合していない、構成する炭素原子数が12〜28である基である。
芳香族基の環構造の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環などが挙げられ、中でもベンゼン環、ナフタレン環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。脂肪族基の環構造の例としては、シクロブタン環、シクロヘキサン環、ビシクロヘプタン環、ビシクロオクタン環、アダマンタン環、ジアダマンタン環などが挙げられ、中でもシクロブタン環、ビシクロヘプタン環、ビシクロオクタン環が好ましい。
【0013】
ポリイミドの着色を減らすためにはCT相互作用を減らすことが望ましい。Aの構造としては、脂肪族基であればいかなる置換基を有していても着色に及ぼす影響が小さいために好ましい。また、芳香族基の場合には重合基以外の置換基がないか置換基を有する場合には電子供与性基であることが好ましい。置換基の電子求引性や電子供与性の尺度であるハメットの置換基定数σ値を用いて説明すると、アルキル基、アリール基、アルコキシ基のようにσ値が小さい置換基を導入することにより着色を減らすることができると言える。
【0014】
Aの具体的な構造をテトラカルボン酸の名称で示すと、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸、ジ(フェニル)ピロメリット酸、ペンタフルオロエチルピロメリット酸、ビス〔3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ〕ピロメリット酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテル、2,3’,3,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルメタン、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルスルホン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、5,5’−ビス(トリフルオロメチル)−3,3’,4,4’−テトラカルボキシビフェニル、2,2’,5,5’−テトラキス(トリフルオロメチル)−3,3’,4,4’−テトラカルボキシビフェニル、5,5’−ビス(トリフルオロメチル)−3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテル、5,5’−ビス(トリフルオロメチル)−3,3’,4,4’−テトラカルボキシベンゾフェノン、ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸、2,2−ビス〔4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン、シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、2,2−ビス(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラメチルジシロキサン、ジフルオロピロメリット酸、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ−2,3,5,6−テトラカルボン酸などが挙げられる。
【0015】
ポリイミドの着色を減らすためのジアミンの構造としては、脂肪族基であればいかなる置換基を有していても着色に及ぼす影響が小さいために好ましいが、塩基性が強いために重合反応時に塩形成しやすく、シリル化剤などの併用が一般に必要となったり、強度のあるフィルムを得ることが難しいなどの問題点を有していた。芳香族基の場合には重合反応が進行し易く、優れた強度のフィルムを得られやすい反面、CT相互作用に由来する着色が大きかった。CT相互作用を減らすためにはジアミンの芳香族基に電子求引性の置換基(前記ハメットの置換基定数σ値を用いれば、σ値が大きいもの)を導入すれば良く、フッ素を置換基とする分子設計が一般的であるが、原料が著しく高価になったり、透明性を増すためにフッ素置換基の数を増やすと重合性が悪くなったりするなどの問題点を有していた。本発明者らが鋭意検討した結果、ビフェニルの連結部位のオルト位にフッ素以外のハロゲン原子を少なくとも1つ導入することで、ハロゲン原子による電子的な効果とビフェニル構造のベンゼン環同士のねじれ角が大きくなる効果によって、安価で、耐熱性、透明性、低線熱膨張性に優れるポリイミドを提供しうることを見出すにいたった。
【0016】
以上の観点から、X1およびX2はハロゲン原子を表し、少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる原子である。好ましいX1、X2は塩素原子である。
1、Y2、R1およびR2は、それぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。
アルキル基は、炭素数1〜8の基が好ましく、炭素数1〜3の基がさらに好ましい。アルコキシ基は、炭素数1〜8の基が好ましく、炭素数1〜3の基がさらに好ましい。アリール基は、炭素数6〜12の基が好ましく、炭素数6の基がさらに好ましい。
置換基の例としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子およびヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子または臭素原子である。)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などである。)、アシル基(例えば、アセチル基などである。)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基などである。)、アルキルアミノカルボニル基(例えば、アミノカルボニル基などである。)などが挙げられ、ハロゲン原子が特に好ましい。
好ましいY1、Y2、R1、R2は、フッ素原子、塩素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、メトキシ基、トリフルオロメトキシ基であり、さらに好ましくは、フッ素原子、塩素原子、メチル基、トリフルオロメチル基である。
jおよびkは0、1または2であり、0または1が好ましく、0が特に好ましい。
【0017】
一般式(1)のなかでも、下記一般式(1−2)で表される繰り返し単位を有するポリイミドがより好ましく、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミドがより好ましい。
一般式(1−2)
【化4】

一般式(1−2)中、A、X1、X2、Y1、Y2、R1、R2、jおよびkは一般式(1)と同義であり、好ましい構造あるいは数値も同様である。
【0018】
一般式(2)
【化5】

一般式(2)中、A、Y1、Y2、R1、R2、j、kは一般式(1)と同義であり、好ましい構造あるいは数値も同様である。
【0019】
以下に一般式(1)および(2)に記載のジアミン部分の具体例をジアミンの形態で挙げるが、本発明で採用することができるジアミン部分はこれらに限定されるものではない。
4,4’−ジアミノ−2,2’−ジクロロ−6,6’−ジフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’,6,6’−テトラクロロビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジクロロ−6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジクロロ−6,6’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジブロモ−6,6’−ジクロロビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジクロロ−3,3’,5,5’,6,6’−ヘキサフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラクロロ−6,6’−ジメチビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’,6,6’−テトラクロロ−3,3’,5,5’−テトラフルオロビフェニル、3,4’−ジアミノ−2,2’−ジクロロ−6,6’−ジフルオロビフェニル、5,4’−ジアミノ−2,2’−ジクロロ−6,6’−ジフルオロビフェニル、2,4’−ジアミノ−4,2’,6,6’−テトラクロロビフェニル、3,3’−ジアミノ−2,2’,6,6’−テトラクロロビフェニル、4,4’−ジアミノ−2−クロロ−2’,6,6’−トリフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,6,6’−トリクロロ−2’−フルオロビフェニル等が挙げられる。
【0020】
本発明に好適な一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドは、Aの骨格を含むテトラカルボン酸並びにその誘導体としての酸無水物、酸塩化物、エステル化物等(以降、テトラカルボン酸類と記す)と、芳香族ジアミンを用いて製造される。耐熱性や透明性などの特性を調整するためにテトラカルボン酸類やジアミンを複数用いても良い。
更には、一般式(1)で表されるジアミン以外の構造のもの(以降、その他のジアミン類と記す)を本発明の効果を損ねない範囲で共重合してもよい。その他のジアミン類を共重合する場合の割合は、ジアミン全体を100モル%とした場合、0〜50モル%が好ましく、0〜30モル%がより好ましく、0〜15モル%がさらに好ましい。
【0021】
その他のジアミン類としては次のようなものが挙げられる。p−フェニレンジアミン、ベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、オクタフルオロベンジジン、4,4‘‘−ジアミノ−p−ターフェニル、4,4’−ジアミノ−ジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−ジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノ−ジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノ−ジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−ジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−ジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−ビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノ−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−ベンジジン、4,4’−ジアミノ−p−テルフェニル、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノ−ナフタレン、2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、2,2−ジメチル−プロピレンジアミン、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0022】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドはポリイミド前駆体を経る公知の方法によって製造される。すなわち、
1)有機溶剤中でポリイミド前駆体を合成し、溶剤を減圧蒸留等の手法を用いて低温下に除去するか、得られたポリイミド前駆体溶液を貧溶剤に排出する方法によりポリイミド前駆体を単離した後、これを加熱してイミド化を行いポリイミドを得る方法。
2)1)と同様にしてポリイミド前駆体溶液を調製した後、無水酢酸に代表される脱水剤を加え、また必要に応じて触媒を加えて化学的にイミド化を行った後、公知の方法によりポリイミドを単離し必要に応じて洗浄、乾燥を行う方法。
3)1)と同様にしてポリイミド前駆体溶液を得た後、減圧もしくは加熱処理により溶剤を除去すると同時に熱的にイミド化を行う方法。
4)有機溶剤中に原料を装入後、加熱しポリイミド前駆体の合成とイミド化反応を同時に行い、必要に応じて触媒や共沸剤、脱水剤を共存させる方法などが挙げられる。
【0023】
ポリイミド前駆体とは、加熱、または、化学的作用により閉環してポリイミドとなる有機化合物(例えばポリアミド酸、ポリイソイミド、ポリアミド酸エステルなど)をいう。ここで、閉環とはイミド環が形成されることをいう。ポリイミド前駆体溶液とは、ポリイミド前駆体が溶剤に溶解しているものである。ここで溶剤とは、25℃で液状の化合物をいう。
【0024】
ポリイミド前駆体溶液は、溶剤中にジアミンを溶解した後、ジアミン1モルに対しテトラカルボン酸類を0.95〜1.05モル加えることによって製造することができる。ここでは、好ましい例として、テトラカルボン酸類としてテトラカルボン酸無水物を用いた方法について述べる。
【0025】
まず、ジアミンを、溶剤に溶解させた後、得られたジアミン溶液にテトラカルボン酸無水物を添加する。反応温度は、−30〜200℃が好ましく、−20〜150℃がより好ましく、10〜120℃が特に好ましい。ポリイミド前駆体の粘度がほぼ一定になった時点を反応終点とする。酸無水物とジアミンの種類によるが通常3〜24時間で終了することができる。溶質濃度は5〜60%が好ましく、10〜50%が更に好ましく、15〜40%が特に好ましい。
【0026】
ポリイミド前駆体あるいはポリイミド合成の際には、分子量の調整や着色防止のために、ジカルボン酸類やモノアミンを併用することができ、ジカルボン酸無水物を添加するのが好ましい。
【0027】
溶剤はジアミンとテトラカルボン酸類および、生じたポリイミド前駆体を溶解させる溶剤であればいかなる溶剤も用いることができる。溶剤の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、クロロフェノール、アニソール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール等が挙げられる。溶剤は単独で、もしくは二種以上を混合して用いることができる。
【0028】
本発明に用いることのできる一般式(1)および一般式(2)で表される構造を有するポリマーの分子量は重量平均分子量で1万〜50万が好ましく、1万〜30万がより好ましく、2万〜20万が特に好ましい。分子量が低すぎる場合、フィルム成形が難しかったり、力学特性が低下したりする。分子量が高すぎる場合、合成上分子量のコントロールが難しかったり、溶液の粘度が高すぎて取扱いが難しくなったりする。なお、分子量はポリイミド溶液あるいはポリイミド前駆体溶液の粘度を目安にすることができる。溶液の粘度は、500〜20万が好ましく、2000〜10万がより好ましく、1万〜6万mPa・sが特に好ましい。
【0029】
以下に一般式(1)および一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミドの好ましい具体例を挙げるが、本発明で用いることができるポリイミドはこれらに限定されるものではない。括弧右下の数字はコポリマーの場合のモル比を表している。
【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
次に、本発明の光学フィルムの作成方法について説明する。ポリイミドが溶液となる場合には、ポリイミド溶液を基体上に塗工し、剥離するとポリイミドフィルムが得られ、ポリイミド前駆体溶液を用いる場合には、ポリイミド前駆体溶液を基体上に塗工し、加熱してイミド化すると、ポリイミド塗膜が得られ、さらにポリイミド塗膜を基体から剥離するとポリイミドフィルムが得られる。例えば、ポリイミド前駆体溶液を従来公知のスピンコート法、スプレイコート法等や、スリット状ノズルから押し出したり、バーコーター等により基体上に塗工し、乾燥して溶媒をある程度除去し、剥離可能になった状態で、膜を基体から剥離し、更に加熱することでポリイミドフィルムが得られる。この際の加熱条件の最大温度は200〜400℃が好ましく、250〜350℃がより好ましい。200〜400℃の範囲外ではイミド化が不十分であったり、熱により塗膜の変形、劣化をきたすことがある。
【0035】
本発明におけるポリイミド前駆体溶液のポリイミド前駆体の濃度は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。20質量%未満では、塗工の際の生産性を高める効果が薄くなることがある。上限は70質量%が好ましく、80質量%を超えると溶解が不十分となることがある。また、ポリイミド前駆体溶液の粘度は、100ポイズ以下が好ましく、85ポイズ以下がより好ましく、60ポイズ以下がさらに好ましい。100ポイズを超えると塗工が困難になることがある。
【0036】
本発明の光学フィルムの厚みは10μm〜700μmであり、好ましくは20μm〜200μm、より好ましくは40μm〜150μmである。
フィルム光線透過率は、厚さ50μmの場合において、波長420nmの光線透過率が30%以上であり、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。波長550nmの光線透過率が70%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。ヘイズは3%以下が好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0037】
本発明の光学フィルムの耐熱温度は高い方が好ましく、DSC測定あるいはTMAの熱変形開始温度から求めるガラス転移温度を目安にすることができる。この場合、好ましいガラス転移温度は300℃以上、さらに好ましくは350℃以上、特に好ましくは380℃以上である。
【0038】
本発明の光学フィルムの線熱膨張係数は小さい値が好ましく、厚さ50〜100μmのフィルムの場合で線熱膨張の測定範囲を100〜200℃とした場合の好ましい線熱膨張係数は50ppm/℃以下、より好ましくは40ppm/℃以下、さらに好ましくは30ppm/℃以下、特に好ましくは20ppm/℃以下である。
【0039】
本発明の光学フィルムの表面には用途に応じて他の層、あるいは部品との密着性を高めるためにフィルム基板表面上にケン化、コロナ処理、火炎処理、グロー放電処理等の処理を行うことができる。さらに、フィルム表面に接着層、アンカー層を設けてもよい。また、表面平滑化のため平滑化層、耐傷性付与のためのハードコート層、耐光性を高めるための紫外線吸収層、フィルムの搬送性を改良させるための表面粗面化層など目的に応じて種々の公知の機能性層を付与することができる。
【0040】
本発明の光学フィルムには透明導電層を設置することができる。透明導電層としては、公知の金属膜、金属酸化物膜等が適用できるが、中でも、透明性、導電性、機械的特性の点から、金属酸化物膜が好ましい。例えば、不純物としてスズ、テルル、カドミウム、モリブテン、タングステン、フッ素、亜鉛、ゲルマニウム等を添加した酸化インジウム、酸化カドミウムおよび酸化スズ、不純物としてアルミニウムを添加した酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物膜が挙げられる。中でも酸化スズから主としてなり、酸化亜鉛を2〜15重量%含有した酸化インジウムの薄膜が、透明性、導電性が優れており、好ましく用いられる。
これら透明導電層の成膜方法は、目的の薄膜を形成できる方法であれば、いかなる方法でも良いが、例えばスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等の気相中より材料を堆積させて膜形成する気相堆積法などが適しており、特許第3400324号、特開2002−322561号、特開2002−361774号各公報記載の方法で成膜する事ができる。
中でも、特に優れた導電性・透明性が得られるという観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0041】
このようなスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法の好ましい真空度は0.133mPa〜6.65Pa、より好ましくは0.665mPa〜1.33Paである。このような透明導電層を設ける前に、プラズマ処理(逆スパッタ)、コロナ処理のように基材フィルムに表面処理を加えることが好ましい。また透明導電層を設けている間に50℃〜200℃に昇温しても良い。
このようにして得た透明導電層の膜厚は、好ましくは20nm〜500nmであり、より好ましくは30nm〜400nmであり、さらに好ましくは50nm〜300nmである。
また、このようにして得た透明導電層の、25℃・相対湿度60%で測定した表面電気抵抗は、好ましくは0.1Ω/□〜200Ω/□であり、より好ましくは0.1Ω/□〜100Ω/□であり、さらに好ましくは0.5Ω/□〜60Ω/□である。さらに光透過性は80%以上、より好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上である。
【0042】
本発明の光学フィルムはガス透過性を抑制するために、ガスバリア層を設けることも好ましい。好ましいガスバリア層としては、例えば珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウム、チタン、イットリウム、タンタルからなる群から選ばれる1種または2種以上の金属を主成分とする金属酸化物、珪素、アルミニウム、ホウ素の金属窒化物またはこれらの混合物を挙げることができる。この中でも、ガスバリア性、透明性、表面平滑性、屈曲性、膜応力、コスト等の点から珪素原子数に対する酸素原子数の割合が1.5〜2.0の珪素酸化物を主成分とする金属酸化物が良好である。これら無機のガスバリア層は例えばスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等の気相中より材料を堆積させて膜形成する気相堆積法により作製することができる。なかでも、特に優れたガスバリア性が得られるという観点から、スパッタリング法が好ましい。またガスバリア層を設けている間に50℃〜200℃に昇温しても良い。
【0043】
このようにして得た無機ガスバリア層の膜厚は、好ましくは10nm〜300nmであり、より好ましくは30nm〜200nmである。
このようなガスバリア層は透明導電層と同じ側、反対側いずれに設けても良いが、反対側に設けるほうがより好ましい。
このようにして得たガスバリアフィルムのバリア性は、40℃・相対湿度90%で測定した水蒸気透過度が5g/m2・day以下が好ましく、より好ましくは1g/m2・day以下、さらに好ましくは0.5g/m2・day以下である。40℃・相対湿度90%で測定した酸素透過度は1ml/m2・day以下が好ましく、より好ましくは0.7ml/m2・day以下であり、さらに好ましくは0.5ml/m2・day以下である。
【0044】
バリア性を向上させる目的で、これと隣接して欠陥補償層を設けるのが特に望ましい。欠陥補償層としては、(1)米国特許第6171663号明細書、特開2003−94572号公報記載のようにゾルゲル法を用いて作成した無機酸化物層を利用する方法、(2)米国特許第6413645,64163645号各明細書記載のように有機物層を利用する方法、また、これらの補償層は、記載のように真空か下で蒸着後、紫外線または電子線で硬化させる方法、あるいは、塗布した後、加熱、電子線、紫外線等で硬化させる事で作成することができる。
塗布方式で作成する場合には、従来用いられる種々の塗布方法、例えば、スプレーコート、スピンコート、バーコート等の方法を用いることができる。
【0045】
本発明の光学フィルムは薄膜トランジスタ(TFT)表示素子用基板として用いることができる。TFTアレイの作成方法は特表平10−512104号公報に記載の方法等が挙げられる。さらにこれらの基板はカラー表示のためのカラーフィルターを有していても良い。カラーフィルターはいかなる方法を用いて作成されてもよいが、好ましくはフォトリソグラフィー手法が好ましい。
【0046】
本発明の光学フィルムには必要に応じて各種機能層を設けた上で画像表示装置に用いることができる。ここで、画像表示装置としては特に限定されず、従来知られているものを用いることができる。また、本発明の光学フィルムを用いて表示品質に優れたフラットパネルディスプレイを作成できる。フラットパネルディスプレイとしては液晶、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンス(EL)、蛍光表示管、発光ダイオードなどが挙げられ、これら以外にも従来ガラス基板が用いられてきたディスプレイ方式のガラス基板に代わる基板として用いることができる。さらに、本発明の光学フィルムは太陽電池、タッチパネルなどの用途にも利用可能である。タッチパネルは、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のものに応用することができる。
【0047】
本発明の光学フィルムを液晶表示用途などに使用する場合には、光学的均一性を達成するために非晶性ポリマーであることが好ましい。また、複屈折が小さい方が好ましく、特に面内レタデーション(Re)が50nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以下、更に好ましくは15nm以下である。
【0048】
反射型液晶表示装置に用いる場合は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる。このうち本発明の光学フィルムは光学特性の調節によりλ/4板、偏光膜用保護フィルムとして用いても良いが、その耐熱性の観点から基板としての利用が好ましく、さらには透明性の観点から透明電極および配向膜付上基板として使用することが好ましい。また、必要に応じてガスバリア層、TFTなどを設けることもできる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。
透過型液晶表示装置に用いる場合は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる。このうち本発明の光学フィルムは光学特性の調節によりλ/4板、偏光膜用保護フィルムとして用いても良いが、その耐熱性の観点から基板としての利用が好ましく、透明電極および配向膜付基板として使用することが好ましい。また、必要に応じてガスバリア層、TFTなどを設けることもできる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。
【0049】
液晶セルは特に限定されないが、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−P1ane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crysta1)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optica1ly Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およぴ、HAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。本発明の光学フィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。
【0050】
これらは特開平2−176625号公報、特公平7−69536号公報、MVA(SID97,Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845)、SID99, Digest of tech. Papers (予稿集)30(1999)206、特開平11−258605号公報、SURVAIVAL(月刊ディスプレイ、第6巻、第3号(1999)14)、PVA(Asia Display 98,Proc. of the−18th−Inter. Display res. Conf.(予稿集)(1998)383)、Para−A(LCD/PDP Iternational`99)、DDVA(SID98, Digest of tech. Papers(予稿集)29(1998)838)、EOC(SID98, Digest of tech. Papers(予稿集)29(1998)319)、PSHA(SID98, Digest of tech. Papers(予稿集)29(1998)1081)、RFFMH(Asia Display 98, Proc. of the−18th−Inter. Display res. Conf. (予稿集)(1998)375)、HMD(SID98, Digest of tech. Papers (予稿集)29(1998)702)、特開平10−123478号公報、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報、および国際公開第00/65384号パンフレット等に記載されている。
【0051】
本発明の光学フィルムは必要に応じてガスバリア層、TFTを設け、透明電極付基板として有機EL表示用途に使用できる。
有機EL表示素子としての具体的な層構成としては、陽極/発光層/透明陰極、陽極/発光層/電子輸送層/透明陰極、陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/透明陰極、陽極/正孔輸送層/発光層/透明陰極、陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/透明陰極、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/透明陰極等が挙げられる。
【0052】
本発明の光学フィルムが使用できる有機EL素子は、前記陽極と前記陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜40ボルト)、または直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
これら発光素子の駆動については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号各公報、米国特許5828429号、同6023308号各明細書、日本特許第2784615号公報等に記載の方法を利用することができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0054】
<実施例1> ポリイミドの合成
(ポリマーP−101の合成)
窒素下で、4,4’−ジアミノ−2,2’,6,6’−テトラクロロビフェニル 7.89gをジメチルアセトアミド 60.5gに溶解させた後、20℃の温度で、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物 7.21gを徐々に添加した。40℃で2時間、60℃で10時間、80℃で5時間反応させたところ透明な溶液が得られた。さらにこの溶液をバーコーターでガラス板上塗布し、窒素雰囲気下、100℃で1時間、150℃で30分間、250℃で30分間、350℃で1時間加熱し、イミド化を行った。得られたポリイミド塗膜をガラス板上から剥離して、ポリマーP−101を得た。ポリマーP−101のIRスペクトルを図1に示す。
図1より、前駆体の波長1650cm-1付近のピークが無くなり、ポリイミドの波長1780cm-1付近にピークが見られるため、ポリマーP−101がポリイミドであることが分かる。
【0055】
(ポリマーP−105、115、116、120の合成)
ポリマーP−105、115、116、120を、ポリマーP−101と同様の方法で作製した。
【0056】
(ポリマーC−1の合成)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物と4,4’−ジアミノ−2,2’,6,6’−テトラメチルビフェニルから製造されるポリイミド(ポリマーC−1)をポリマーP−101と同様の方法で作製した。
【0057】
(ポリマーC−2の合成)
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから製造されるポリイミド(ポリマーC−2)を、特開平2003−168800号公報の実施例に従って作製した。すなわち、ポリイミド前駆体を合成し、ポリイミド前駆体溶液をスピンコーターでガラス板上塗布し、窒素雰囲気下、100℃で1時間、150℃で30分間、250℃で30分間、350℃で1時間加熱し、イミド化を行った。得られたポリイミド塗膜をガラス板上から剥離して、ポリマーC−2を得た。
【0058】
(評価)
作製した各ポリマーの特性値を以下の方法で測定した結果を表1に示す。
1)光透過性
紫外可視分光光度計(島津製作所(株)製、UV−3100PC)により波長420nmでの透過率を測定した。参考として吸光度が膜厚に比例するとして、膜厚が50μmの場合の光透過性の換算値を示した。
2)ガラス転移温度(Tg)
DSC(窒素中、昇温温度10℃/分)により測定した(セイコー(株)製、DSC6200)。
3)線熱膨張係数(CTE)
TMA(窒素中、昇温温度10℃/分)により測定し、100〜200℃の膨張から求めた(島津(株)製、TMA50)。
【0059】
【表1】

【0060】
P−101、P−115、P−116、P−120すべてがフレキシブルで折り曲げても割れない良好なフィルムであり、透過率、Tg、CTEの何れも優れていた。テトラカルボン酸部位が脂肪族のP−116は透明性が優れるものの、CTEが芳香族のP−101よりは大きな値であるため、低線熱膨張の特性を重要視する場合にはテトラカルボン酸部位が芳香族のものの方が好ましい。一般式(1)のX1、X2、Y1、Y2が塩素、塩素、メチル基、メチル基のP−120はテトラカルボン酸の構造が同じでジアミンのX1、X2、Y1、Y2の全てが塩素であるP−101と比べて光透過性が低く、本発明の中では一般式(1)のX1、X2、Y1、Y2が4つともハロゲンであるものが好ましいといえる。一方、C−1はガラス転移温度と低線熱膨張性は良好であるが、光透過性が著しく劣っていた。C−2はガラス転移温度が315℃と低くかつ線熱膨張係数も50以上と悪い値であった。表1より、本発明によって、耐熱性、光学特性、低線熱膨張性に優れた光学フィルムが得られることがわかる。
【0061】
<実施例2> 有機EL素子試料F−1の作製
(ガスバリア層の設置)
光学フィルムP−101の両面にDCマグネトロンスパッタリング法により、Siをターゲットとし500Paの真空下で、Ar雰囲気下、酸素を導入し、圧力を0.1Paとして出力5kWでスパッタリングした。得られたガスバリア層の膜厚は60nmであった。ガスバリア層を形成した光学フィルム試料の40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度は0.1g/m2・day以下であり、40℃、相対湿度90%における酸素透過度は0.1ml/m2・day以下であった。
【0062】
(透明導電層の設置)
ガスバリア層を設置した光学フィルム試料を100℃に加熱しながら、ITO(In23 95質量%、Sn02 5質量%)をターゲットとしDCマグネトロンスパッタリング法により、0.665Paの真空下で、Ar雰囲気下、出力5kWで140nmの厚みのITO膜からなる透明導電層を、片面に設けた。透明導電層を設置した光学フィルム試料の25℃、相対湿度60%における表面電気抵抗は30Ω/□であった。
【0063】
(透明導電層付光学フィルムの加熱処理)
上記で得られた透明導電層を設置した光学フィルム試料に対して、TFT設置を想定して300℃で1時間の加熱処理を行った。
【0064】
(有機EL素子の作成)
上記で加熱処理を行った透明導電層を設置した光学フィルム試料の透明電極層より、アルミニウムのリ−ド線を結線し、積層構造体を形成した。
透明電極の表面に、ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホン酸の水性分散液(BAYER社製、Baytron P:固形分1.3質量%)をスピンコートした後、150℃で2時間真空乾燥し、厚さ100nmのホール輸送性有機薄膜層を形成した。これを基板Xとする。
一方、厚さ188μmのポリエーテルスルホン(住友ベークライト(株)製スミライトFS−1300)からなる仮支持体の片面上に、下記組成を有する発光性有機薄膜層用塗布液を、スピンコーターを用いて塗布し、室温で乾燥することにより、厚さ13nmの発光性有機薄膜層を仮支持体上に形成した。これを転写材料Yとする。
【0065】
ポリビニルカルバゾール(Mw=63000 、アルドリッチ社製) 40質量部
トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体
(オルトメタル化錯体) 1質量部
ジクロロエタン 3200質量部
【0066】
基板Xの有機薄膜層の上面に転写材料Yの発光性有機薄膜層側を重ね、一対の熱ローラーを用い160℃、0.3MPa、0.05m/minで加熱・加圧し、仮支持体を引き剥がすことにより、基板Xの上面に発光性有機薄膜層を形成した。これを基板XYとした。
【0067】
また、25mm角に裁断した厚さ50μmのポリイミドフィルム(UPILEX−50S、宇部興産(株)製)片面上に、パターニングした蒸着用のマスク(発光面積が5mm×5mmとなるマスク)を設置し、約0.1mPaの減圧雰囲気中でAlを蒸着し、膜厚0.3μmの電極を形成した。Al23ターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリングにより、Al23をAl層と同パターンで蒸着し、膜厚3nmとした。Al電極よりアルミニウムのリード線を結線し、積層構造体を形成した。得られた積層構造体の上に下記組成を有する電子輸送性有機薄膜層用塗布液をスピンコーター塗布機を用いて塗布し、80℃で2時間真空乾燥することにより、厚さ15nmの電子輸送性有機薄膜層を形成した。これを基板Zとした。
【0068】
ポリビニルブチラール2000L(Mw=2000、電気化学工業社製) 10質量部
1−ブタノール 3500質量部
下記構造を有する電子輸送性化合物 20質量部
【0069】
【化10】

【0070】
基板XYと基板Zを用い、電極同士が発光性有機薄膜層を挟んで対面するように重ね合せ、一対の熱ローラーを用い160℃、0.3MPa、0.05m/minで加熱・加圧し、貼り合せ、有機EL素子試料F−1を得た。
【0071】
得られた有機EL素子試料F−1をソースメジャーユニット2400型(東洋テクニカ(株)製)を用いて、直流電圧を有機EL素子に印加した。本発明の試料F−1は、発光することを確認した。
【0072】
上記実施例より、本発明の光学フィルムは、フッ素を含まず安価であり、かつ耐熱性、透明性、低線熱膨張に優れていることが明らかとなった。また、ガスバリア層、透明導電層を積層可能でTFT工程を想定した加熱処理を行っても有機EL素子用基板フィルムとして機能することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の光学フィルムは、優れた耐熱性と低線熱膨張性を有し、かつ光学特性にも優れている。このため、高温での各種機能層を設置することが可能であり、さまざまな機能を有する光学部材を提供することができ、また、表示品位に優れている画像表示装置も提供することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】ポリマーP−101のIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを含む光学フィルム。
一般式(1)
【化1】

[一般式(1)中、Aは、単環式もしくは縮合多環式の芳香族基、または、単環式もしくは縮合多環式の脂肪族基を含有する基であり、かつ構成する炭素原子数が4〜30である基を表し、X1およびX2はそれぞれ独立にハロゲン原子を表し、少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる原子である。Y1、Y2、R1およびR2はそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、jおよびkはそれぞれ独立に0、1または2を表す。]
【請求項2】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドのガラス転移温度が300℃以上である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
線熱膨張係数が50ppm/℃以下である請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
厚さが50μmの場合における波長420nmの光線透過率が30%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
一般式(1)のAが単環式もしくは縮合多環式の芳香族基を含有する基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
一般式(2)
【化2】

[一般式(2)中、Aは、単環式もしくは縮合多環式の芳香族基、または、単環式もしくは縮合多環式の脂肪族基を含有する基であり、かつ構成する炭素原子数が4〜30である基を表し、Y1、Y2、R1およびR2はそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、jおよびkはそれぞれ独立に0、1または2を表す。]

【図1】
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【公開番号】特開2006−249116(P2006−249116A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63374(P2005−63374)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】