説明

ポリイミドフィルムおよび該フィルムの製造方法

【課題】低線膨張化に起因する耐薬品性の低下を補い、低線膨張と耐薬品性を両立したポリイミドフィルムを提供する。耐薬品性が良好となるので、ガラス代替用途として好適に用いることができる。
【解決手段】有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、及び特定構造を有する芳香族化合物を混合したドープ液をイミド化して得られる事を特徴とするポリイミドフィルムである。耐薬品性が良好となる。例えばアセトンに23℃で1分間浸漬した後もフィルムの変形が3mm以下であるフィルムとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低着色で低線膨張のポリイミドフィルムに関する。特に、適切な添加剤を使用することにより、低線膨張化に起因する耐薬品性の低下を抑えることができ、耐熱性、低着色と共に耐薬品性に対する要求が高い製品又は部材を形成するための材料(例えば、表示装置ガラス代替など)として好適に利用できるポリイミドフィルムとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶や有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されるようになってきた。これらのデバイスにはガラス板上に様々な電子素子、例えば、薄型トランジスタや透明電極等が形成されているが、このガラス材料をフィルム材料に変えることにより、パネル自体のフレキシブル化、薄型化や軽量化が図れる。本用途に使用するフィルム材料には、電子素子の形成プロセスにおける耐熱性が要求される。
【0003】
耐熱性に優れる一般的なフィルム材料としてはポリイミドフィルムが挙げられる。ポリイミドフィルムはその耐熱性、絶縁性を生かし、フレキシブルプリント配線板を代表とする電子機器・半導体用途に広く利用されている。しかしながらポリイミドフィルムは一般的に黄色、褐色に着色しており、またガラスなどと比較して線膨張係数が高いため、ガラス代替として使用するためには透明性の向上、低線膨張係数の実現が課題であった。
【0004】
これら課題を解決するための試みは従来からなされており、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから得られるポリイミドは、耐熱性や線膨張係数に加えて透明性にも優れており、これまでいくつかの報告例がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記ポリイミドのように低線膨張かつ低着色のものは、フィルム化時の条件(焼成温度設定、イミド化促進剤の使用有無と組成比など)によって得られるフィルムの線膨張係数が変化する。ここで、線膨張係数が比較的大きい(およそ20ppm/℃以上)場合は、通常のポリイミドと同様に高い耐薬品性を示す。しかし、ガラス代替用途として要求される10ppm/℃未満にすると、一部の溶剤に対する耐性が大きく低下してしまう。特にアセトンは汎用溶剤として広く使用されており、実用上問題ないアセトン耐性を確保することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−46054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、低線膨張と低着色を維持したままアセトンに対する耐性を向上させたポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムの製膜時に芳香族化合物を用いることにより、得られるフィルムのアセトン耐性を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0009】
1)有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られる下記式一般(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、及び下記式一般(2)で表される芳香族化合物を混合したドープ液をイミド化した、アセトンに23℃で1分間浸漬後の変化が3mm以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中Rは4価の有機基を、Rは2価の有機基を示す。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中Xは直接結合、アミド結合、エステル結合、カルボニル結合、エーテル結合のいずれかを示す。Y、Y、Yは水素原子、ハロゲン、アルキル基のいずれかを示す。)。
【0014】
2)Rは下記一般式(3)から選択される4価の有機基であることを特徴とする、1)記載のポリイミドフィルム。
【0015】
【化3】

【0016】
3)Rは下記一般式(4)から選択される2価のビフェニレン基であることを特徴とする、1)または2)に記載のポリイミドフィルム。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rは炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のハロゲン化アルキル基、あるいはハロゲンを示す。)
4)芳香族化合物におけるXは直接結合またはアミド結合であることを特徴とする、1)〜3)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0019】
5)芳香族化合物をポリアミド酸の固形分量に対して0.5〜20重量%の割合で添加することを特徴とする、1)〜4)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0020】
6)有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、及び芳香族化合物を混合したドープ液を得、該ドープ液をイミド化することを特徴とする1)〜5)のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により得られるポリイミドフィルムは、芳香族化合物を添加することで低線膨張と低着色を維持したまま耐薬品性が向上しており、ガラス代替用途として好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、以下に説明する。
<ポリアミド酸>
本発明に係るポリイミドフィルムは、有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られる下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸をイミド化して得られる。
【0023】
【化5】

【0024】
(式中Rは4価の有機基を、Rは2価の有機基を示す。)
ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができる。通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンを実質的等モル量で有機溶媒中に溶解させ、得られる混合溶液を制御された温度条件下で上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで撹拌することによって製造される。
【0025】
式(1)中のRは、下記一般式(3)から選択される4価の有機基であることが好ましい。式(3)に挙げる4価の有機基のうち、特にベンゼンもしくはビフェニル骨格が好ましい。ベンゼンもしくはビフェニル骨格を有する具体的化合物としてはそれぞれ、ピロメリット酸二無水物、および、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を挙げることができるが、中でも3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。式(3)に挙げる4価の有機基を有する酸二無水物は単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いることもできる。
【0026】
【化6】

【0027】
式(1)中のRは、下記一般式(4)から選択される2価のビフェニレン基であることが好ましい。
【0028】
【化7】

【0029】
(式中、Rは炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のハロゲン化アルキル基、あるいはハロゲンを示す。)。
【0030】
は得られるポリイミドの透明性、耐熱性、及び寸法安定性から、ハロゲンやハロゲン化アルキルなどの電子吸引基が好ましく、ハロゲンやハロゲン化アルキルのハロゲンとしてはフッ素が好ましく、中でもフッ素原子もしくはトリフルオロメチル基、特にはトリフルオロメチル基が好ましい。式(4)に挙げる2価の有機基を有するジアミンは単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いることもできる。
【0031】
ポリアミド酸の重合に使用する溶剤としては従来公知の有機溶剤を使用可能であるが、原料ならびに生成するポリアミド酸の溶解性を考慮すると、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドといったアミド系溶剤が好適に用いられ得る。
【0032】
合成時のポリアミド酸溶液の濃度については、濃度が低い方がポリアミド酸溶液に含まれる溶媒量が多くなり、イミド化促進剤との混合性が向上するため好ましい。しかし、濃度が低すぎると、厚めのフィルムを作製することが困難となる。ポリアミド酸溶液の濃度は、5〜30wt%が好ましく、10〜20wt%がより好ましい。
【0033】
また、ポリアミド酸溶液の粘度については、低い方がイミド化促進剤との混合性が向上するため好ましい。しかし、粘度を低くすることはポリアミド酸の分子量を低下させることに繋がるため、得られるフィルムが所望の機械強度を発現しなくなる場合がある。混合性とフィルム強度確保の両立を考えた場合、ポリアミド酸溶液の粘度は、1000〜3500ポイズが好ましく、1500〜3000ポイズがより好ましい。一方、ポリアミド酸の粘度は濃度にも左右され、同じ分子量ならば、濃度が低い方が粘度も低くなる。そのため、所望の粘度となるようにポリアミド酸の濃度を調整して対応しても良い。但し、十分な強度を有するフィルムを得るためには、ポリアミド酸の重量平均分子量は最低でも10万以上にしておくことが好ましい。
【0034】
<イミド化促進剤>
本発明に係るポリイミドフィルムは、上記ポリアミド酸に三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤を混合したイミド化促進剤を添加することにより得られる。上記イミド化促進剤を添加せず加熱のみでイミド化する方法もあるが、得られるフィルムの線膨張係数やヒステリシスが悪化する傾向にあり、また生産性にも劣るため適さない。イミド化触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の第三級アミンが好適に用いられ得る。中でも、触媒能力とのバランスから、β−ピコリン、イソキノリン、3,5−ジエチルピリジンのいずれかを使用することが好ましい。これら触媒は、単独で、あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0035】
脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、およびフタル酸無水物などの芳香族酸無水物などが挙げられる。これら脱水剤は、単独で、あるいは混合して使用することが好ましい。中でもコスト、入手のし易さ、溶解性などの点から脂肪族酸無水物が好ましい。
【0036】
イミド化触媒ならびに脱水剤の添加量については、量を増やすことにより得られるフィルムの線膨張係数が若干低くなる傾向にある。また、イミド化に要する時間が短くなるため生産性が向上する。しかし、過剰量ではイミド化の進行速度が速くなり過ぎて長時間の連続的なキャストが困難となる場合がある。逆に過少量では所望のフィルム特性が得られない、またはイミド化が進みにくくなり生産性が低下する場合がある。イミド化促進剤の添加量については、得られるフィルムの特性と生産条件を考慮して適宜設定すれば良い。
【0037】
脱水剤とイミド化触媒の量をあえて例示すれば、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01が好ましく、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01が好ましい。更に好ましくは、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.5が好ましく、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.5が好ましい。
【0038】
<芳香族化合物>
本発明者らは鋭意検討を行った結果、下記一般式(2)で表される芳香族化合物を添加することで、得られるポリイミドの耐薬品性を改善できることを見出した。
【0039】
【化8】

【0040】
(式中Xは直接結合、アミド結合、エステル結合、カルボニル結合、エーテル結合のいずれかを示す。Y、Y、Yは水素原子、ハロゲン、アルキル基のいずれかを示す。)
上記化学式に該当する具体的な化合物としては、ビフェニル、ベンズアニリド、安息香酸フェニル、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。これら芳香族化合物の添加量については、少なすぎると耐薬品性の改善効果が不十分となる可能性があり、逆に多すぎると焼成後のフィルム中に多く残留し、フィルムの機械強度や透明性を低下させる場合がある。添加量としてはポリアミド酸の固形分重量に対して0.5〜20重量%の割合で添加することが好ましく、1.0〜10.0重量%の割合で添加することが更に好ましく、特には1.0〜6重量%が好ましい。
【0041】
また、出来るだけ剛直な構造を使用した方が耐薬品性が改善しやすい傾向にある。従って、式中Xが直接結合もしくはアミド結合である芳香族化合物を使用することが好ましい。この場合、添加量を0.7〜4.5重量%さらには1.0〜4重量%とすることでより変形量を小さく保つことが可能である。Y、Y、Yは水素原子、ハロゲン、アルキル基のいずれかであれば良いが、大きい置換基では置換基自体の立体障害の影響も無視できなくなる場合がある。そのため、Y、Y、Yは水素であることが好ましい。
【0042】
ポリアミド酸とイミド化促進剤、芳香族化合物の混合方法としては従来公知の装置・方式を使用すれば良いが、反応系内の温度が高いとイミド化反応が急激に進みすぎてフィルム化が困難となるため、反応系内全体を冷却しながら混合することが好ましい。また、三成分をそれぞれ単独で調製して最後に混合しても良いし、芳香族化合物をポリアミド酸もしくはイミド化促進剤のどちらかと先に混合しておいても良い。
【0043】
<フィルム化>
ポリアミド酸、イミド化促進剤、芳香族化合物を混合して得られるドープ液をフィルム状に成形することにより、本発明のポリイミドフィルムが得られる。成形方法としては従来公知の装置・方式が使用可能である。好適な例を挙げると、回転しているドラム、エンドレスベルト等の支持体上に、上記ドープ液をTダイ等から押し出してキャストする。キャストしたポリアミド酸溶液を支持体上で加熱して、溶剤を揮発させると共に、ある程度イミド化を進行させ、自己支持性を持ったゲルフィルムを得ることができる。
【0044】
このゲルフィルムを支持体から引き剥がし、幅方向の両端を固定した状態で加熱炉を通し、残っている溶剤の除去ならびにイミド化を完了させることにより、ポリイミドフィルムが得られる。ゲルフィルムの状態での溶剤残存率ならびにイミド化の程度、加熱炉の温度設定、加熱時間については、ポリアミド酸の種類、得られるポリイミドフィルムの厚み、物性ばらつき等を鑑みて、適宜調整すれば良い。
【0045】
本発明に係るポリイミドフィルムには、長尺での搬送性や巻き取り時のブロッキングを防ぐため、アンチブロッキング材として無機粒子を添加しても良い。無機粒子の材質は特に限定されないが、粒子径の大きい無機粒子を添加すると透過光を散乱してフィルムのヘイズが高くなるため、無機粒子のサイズは100nm以下であることが好ましい。無機粒子の添加量は得られるフィルムのヘイズを勘案しながら適宜選択し得る。添加方法についてもポリアミド酸の重合時にポリアミド酸溶液に添加しても良いし、イミド化促進剤の調合時にイミド化促進剤に添加しても良いし、ポリアミド酸とイミド化促進剤と芳香族化合物の混合時に添加しても良い。
【0046】
本発明のポリイミドフィルムは上記手段により、低線膨張係数と低着色を維持したまま耐薬品性、特にアセトンに対する耐性が改善することが可能である。具体的には、フィルムを23℃で1分間4cm角のフィルムをアセトンに浸漬して取り出した後、ならびに取り出したフィルムを乾燥させてアセトンを揮発させた後もフィルムの変形が、4cm角のフィルムの四隅の反りを測定した場合に3mm以下と成すことが可能である。また、2.5mm以下と成すこと、場合によっては2mm未満となることも可能である。
【0047】
本発明に係るポリイミドフィルムは、耐熱性、絶縁性等のポリイミド本来の特性に加えて、高い透明性と寸法安定性を有することから、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、無機薄膜や無機微細構造物を表面に有するフィルム部材、例えば、シリコン、もしくは金属酸化物、もしくは有機物から形成される薄膜トランジスター用フィルム、カラーフィルターフィルム、透明電極付きフィルム、ガスバリアフィルム、無機ガラスもしくは有機ガラスを積層したフィルムなどに適応できる。これらの部材は、例えば、液晶ディスプレイ用フィルム、有機EL等フィルム、電子ペーパー用フィルム、太陽電池用フィルム、タッチパネル用フィルムなどに用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例におけるポリイミドフィルムのアセトン耐性、YI、ヘイズ、線膨張係数、ポリアミド酸分子量の評価法は次の通りである。
【0049】
<アセトン耐性>
フィルムのアセトン耐性は、ミツトヨ製デジマチックハイトゲージ ABSOLUTEを用いて以下の手順で測定した。
1)フィルムを4cm角にカットし、23℃、55%R.H.の環境で12時間以上静置。
2)静置後のフィルム四隅の反り量をハイトゲージで測定。
3)23℃の環境下でフィルムをアセトンに1分間浸漬。
4)浸漬後フィルムを取り出し、表面のアセトンをペーパータオルで吸い取った後、23℃、55%R.H.の環境で10分静置してから四隅の反りをハイトゲージで測定。
5)測定後のフィルムを120℃で10分間乾燥させてアセトンを除去した後、23℃、55%R.H.の環境で12時間以上静置。
6)静置後のフィルム四隅の反り量をハイトゲージで測定。
ここで、2)で測定した反り量を初期値とし、4)ならびに6)で測定した反り量から初期値を引いた値をそれぞれアセトン浸漬後、乾燥後の反り量とした。
【0050】
<YI>
フィルムのYIは日本電色工業株式会社製HANDY COLORIMETER NR−3000を用い測定した。測定は18cm角サイズのサンプルについて位置を変えて五箇所測定し、平均値をフィルムの測定値とした。
【0051】
<ヘイズ>
フィルムのヘイズは日本電色工業株式会社製ヘイズメーターNDH5000を用いて実施した。測定は18cm角サイズのサンプルについて位置を変えて五箇所測定し、平均値をフィルムの測定値とした。
【0052】
<線膨張係数>
フィルムの線膨張係数は、SIIナノテクノロジー社製熱機械的分析装置、商品名:TMA/SS6100を使用し、0℃〜250℃まで一旦昇温させた後、10℃まで冷却し、さらに昇温させて2回目の昇温時の100〜200℃の範囲内の平均値を求めた。なお、測定はフィルムの長手方向に対して行った。
・サンプル形状;幅3mm、長さ10mm
・荷重;59.8mN
・測定温度範囲;0〜250℃
・昇温速度;10℃/min
<ポリアミド酸分子量>
ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は、Waters製GPCを用いて次の条件で測定した:(カラム:Shodex製 KD−806M 2本、温度60℃、検出器:RI、流量:1ml/分、展開液:DMF(臭化リチウム0.03M、リン酸0.03M)、試料濃度:0.2wt%、注入量:20μl、基準物質:ポリエチレンオキサイド)。
【0053】
(合成例1;ポリアミド酸溶液の合成)
窒素雰囲気下、20℃に保持した反応器中にN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)758.5gを添加し、撹拌しながら3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAという)95.8gを添加した。撹拌を続けながら2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBという)83.4gを添加した。2時間撹拌を続け、溶け残りがなくなったことを目視で確認してからTFMBを17.7g添加し、更に1時間撹拌した。TFMBが固形分7wt%の濃度でDMAcに溶解した溶液を別途調製し、この溶液41.6gを反応系に徐々に全量添加した。添加終了後、40時間撹拌を続け、粘度2000ポイズのポリアミド酸溶液を得た。ポリアミド酸の重量平均分子量は12万であった。
【0054】
(実施例1)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/β−ピコリン/DMF(重量比35/7/8)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%、ベンズアニリドをポリアミド酸(ポリアミド酸溶液の固形分、以下同じ)に対して重量比2%添加し、連続的にミキサーで撹拌しつつTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を80℃×360秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、150℃、200℃、250℃、300℃で各5分ずつ乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0055】
(実施例2)
ベンズアニリドの割合を5%にする以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0056】
(実施例3)
ベンズアニリドの代わりにビフェニルを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0057】
(比較例1)
ベンズアニリドを添加しない以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0058】
(比較例2)
ベンズアニリドの代わりにフルオレンを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0059】
(比較例3)
ベンズアニリドの代わりにフタル酸ジフェニルを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0060】
(比較例4)
ベンズアニリドの代わりにサリチル酸オクチルフェニルを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0061】
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。フィルム作製時に芳香族化合物を添加した実施例のフィルムは、添加しない比較例1と同等のYI、ヘイズ、線膨張係数を示しつつ、アセトン浸漬後ならびに乾燥後の反り(変化)はいずれも3mm以下に抑えられている。本願発明に係る特定化合物を配合しない比較例1のフィルムはアセトン浸漬時に反りが10mmを超えるほど大きく変形し、乾燥後も良化しなかった。
【0062】
また、特定化合物以外の化合物を用いた比較例2〜4のフィルムの反りは比較例1と同様に大きい結果となった。芳香族化合物であれば何でも良いというわけではなく、本願発明に係る特定化合物を用いることでアセトン耐性が良好になることが判る。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られる下記式一般(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、及び下記式一般(2)で表される芳香族化合物を混合したドープ液をイミド化した、アセトンに23℃で1分間浸漬後の変化が3mm以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

(式中Rは4価の有機基を、Rは2価の有機基を示す。)
【化2】

(式中Xは直接結合、アミド結合、エステル結合、カルボニル結合、エーテル結合のいずれかを示す。Y、Y、Yは水素原子、ハロゲン、アルキル基のいずれかを示す。)
【請求項2】
は下記一般式(3)から選択される4価の有機基であることを特徴とする、請求項1記載のポリイミドフィルム。
【化3】

【請求項3】
は下記一般式(4)から選択される2価のビフェニレン基であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のハロゲン化アルキル基、あるいはハロゲンを示す。)
【請求項4】
芳香族化合物におけるXは直接結合またはアミド結合であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
芳香族化合物をポリアミド酸の固形分量に対して0.5〜20重量%の割合で添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、及び芳香族化合物を混合したドープ液を得、該ドープ液をイミド化することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−72239(P2012−72239A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217081(P2010−217081)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】