説明

ポリイミドフィルムの製造方法

【課題】 キャスト法による薄膜のポリイミドフィルムの製造において、ポリイミド樹脂製支持基材とポリイミドフィルムとの剥離性を良好にする。
【解決手段】 ポリイミドフィルムの製造方法は、ポリイミド樹脂製支持基材の上に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥し、ポリアミド酸層を形成する工程、ポリアミド酸層を熱処理してイミド化し、支持基材の上に、ポリイミドフィルム層を積層形成する工程、及び、ポリイミドフィルム層を支持基材から剥離してポリイミドフィルムを形成する工程、を備え、支持基材のガラス転移温度Tgとポリイミドフィルムのガラス転移温度Tgとの関係を、Tg≦Tg≦Tg+30℃とし、かつ、イミド化の際の熱処理温度の上限Tmaxを、Tg≦Tmax≦Tg+30℃とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路配線基板などに使用されるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、優れた耐熱性、機械特性、電気特性を持つ樹脂である。このポリイミド樹脂を使用したポリイミドフィルムは、フレキシブルプリント配線板に代表される回路配線基板の基材などの用途に利用が拡大している。
【0003】
ポリイミドフィルムを製造する代表的方法として、テンター法およびキャスト法が挙げられる。テンター法は、回転ドラムにポリアミド酸溶液を流延し、ポリアミド酸のゲルフィルムの状態で回転ドラムから剥離し、テンター炉で加熱・硬化させてポリイミドフィルムとする方法である(例えば、特許文献1)。キャスト法は、任意の支持基材にポリアミド酸溶液を塗布し、熱処理して硬化させた後、支持基材からポリイミド樹脂層を剥離してポリイミドフィルムとする方法である(例えば特許文献2)。
【0004】
近年、電子機器の小型化が進み、電子部品に使用されるポリイミドフィルムも薄膜化への対応が強く求められている。従来のテンター法では、製造されるポリイミドフィルムの膜厚が薄くなると、自己支持性が低下するため、ポリアミド酸のゲルフィルムを回転ドラムから剥離する段階、またはテンター炉で延伸、硬化させる段階で破断する確率が高くなる。このため、テンター法で工業的に製造できるポリイミドフィルムの厚みは、約7.5μm程度が限界と考えられている。
【0005】
一方、キャスト法は、支持基材上にポリアミド酸溶液を塗工し、硬化させた後に剥離するため、自己支持性の低い前駆体の段階では支持基材による補強が可能であり、薄膜化への対応という側面ではテンター法よりも有利であると考えられる。キャスト法における支持基材としては、例えば銅箔、SUS箔などの金属箔や、銅張積層体(CCL)などの金属箔―樹脂積層体のほか、ポリイミドなどの樹脂フィルムが使用されてきた。支持基材には、高い耐熱性、耐溶剤性が必須であることに加え、硬化後のポリイミドフィルムを容易に剥離できること(剥離性)、低コストであることなどの特性が求められる。製造されるポリイミドフィルムが薄膜化するほど、上記特性の中でも特に剥離性が重要になってくる。ポリイミドフィルムと支持基材とが必要以上に強く接着していると、剥離時にポリイミドフィルムに皺や、割れ、裂けなどが生じて製品価値が損なわれ、歩留りが大幅に低下してしまうからである。
【0006】
上記特許文献2では、キャスト法における支持基材として、CCLを使用しており、製造されるポリイミドフィルムとCCLのポリイミド層の少なくとも一方の層を、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニルを40モル%以上含むジアミン化合物とテトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミド樹脂とすることにより、支持基材からのポリイミドフィルムの剥離性を改善できることが提案されている。
【0007】
また、特許文献3では、非熱可塑性ポリイミドフィルムなどの離型フィルム上に、熱可塑性ポリイミドワニスを直接流延塗布し、乾燥して離型フィルム付きの熱可塑性ポリイミドフィルムを得る方法が提案されている。しかし、この特許文献3の技術では、製造された離型フィルム付きの熱可塑性ポリイミドフィルムを他の被着物に加熱圧着させることが前提となっており、その後、離型フィルムを機械的に剥離することによって熱可塑性ポリイミドフィルムの転写が行われる。つまり、熱可塑性ポリイミドフィルムと離型フィルムとを分離する際には、熱可塑性ポリイミドフィルムは、被着物に接着して支持された状態となっており、熱可塑性ポリイミドフィルムを単体で離型フィルムから剥離する工程は想定されていない。そのため、特許文献3では、熱可塑性ポリイミドフィルムを剥離する際の皺、割れ、裂けなどの問題については一切注意が払われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−191806号公報
【特許文献2】特開2004−322441号公報
【特許文献3】特開平11−10664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、キャスト法による成膜においては、ポリイミドフィルムが薄膜化するほど、ポリイミドフィルムと支持基材との剥離性が良好であることが求められる。しかし、ポリイミドフィルムと支持基材との剥離性は、支持基材の側の表面自由エネルギーや、ポリイミドフィルムと支持基材の双方の水蒸気透過率などの要因、さらには環境温度や環境湿度などの外部要因によっても変動するため、一定の剥離強度で安定的に剥離を行うことは難しく、製品のポリイミドフィルムに皺や、割れ、裂けなどが発生する原因となっていた。特にポリイミド樹脂製の支持基材を使用し、キャスト法によって数μm程度の薄膜のポリイミドフィルムを製造する場合には、上記諸要因による影響が顕著に発現しやすく、その解決が求められていた。
【0010】
従って、本発明は、キャスト法による薄膜のポリイミドフィルムの製造において、ポリイミド樹脂製支持基材とポリイミドフィルムとの剥離性を良好にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、キャスト法においてポリアミド酸溶液を塗布する支持基材としてポリイミド樹脂を用いる上でそのガラス転移温度Tgと、成膜されるポリイミドフィルムのガラス転移温度Tgとの関係に着目した。そして、支持基材のガラス転移温度Tgが成膜されるポリイミドフィルムのガラス転移温度Tg以下である場合に、イミド化温度を特定の範囲内に制御することによって、剥離性を著しく向上させ得ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、
a)ポリイミド樹脂製支持基材の上に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥し、ポリアミド酸層を形成する工程、
b)前記ポリアミド酸層を熱処理することによってイミド化し、前記支持基材の上に、ポリイミドフィルム層を積層形成する工程、及び、
c)前記ポリイミドフィルム層を前記支持基材から剥離してポリイミドフィルムを形成する工程、
を備え、
前記支持基材のガラス転移温度Tgと、前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度Tgとの関係を、Tg≦Tg≦Tg+30℃とし、かつ、前記イミド化の際の熱処理温度の上限Tmaxを、Tg≦Tmax≦Tg+30℃とする。
【0013】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法では、前記Tgが300℃以上であることが好ましい。また、前記成膜フィルムの厚さが1μm以上5μm以下の範囲内であることが好ましい。更に、前記支持基材の透湿度が0.5g/m・24hr以上30g/m・24hr以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のポリイミドフィルムの製造方法では、前記支持基材が長尺のフィルム状に形成されており、前記各工程をロール・トウ・ロール方式で行ってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法によれば、ポリイミド樹脂製支持基材のガラス転移温度Tgと、ポリイミドフィルムのガラス転移温度Tgとの関係を、Tg≦Tg≦Tg+30℃とし、かつ、イミド化の際の熱処理温度の上限TmaxをTg≦Tmax≦Tg+30℃とすることによって、ポリイミド樹脂製支持基材とポリイミドフィルムとの剥離性を大幅に改善できる。その結果、工程cでは、ポリイミド樹脂製支持基材とポリイミドフィルムとを一定の力で安定して剥離できる。特にポリイミドフィルムの厚みが4μm以下の薄膜においても、良好な剥離性を維持できるため、ポリイミドフィルム単体での剥離が可能であり、皺、割れ、裂けなどの不具合を発生させることなく外観も良好な極薄のポリイミドフィルムを製造できる。従って、本発明方法によれば、例えばロール・トウ・ロール方式などの連続生産において高い歩留りでポリイミドフィルムの製造が可能であり、工業的に利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態のポリイミドフィルムの製造方法の概要を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態にかかるポリイミドフィルムの製造方法について説明する。まず、本発明方法により製造されるポリイミドフィルムの材質であるポリイミド樹脂について概略を説明する。本発明方法は、製造対象がポリイミドフィルムであるとともに、支持基材にもポリイミドフィルムを使用することから、以下のポリイミド樹脂についての説明は適宜支持基材についても適用される。
【0018】
ポリイミド樹脂としては、いわゆるポリイミドを含めて、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等に代表されるように、その構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂が挙げられる。
【0019】
ポリイミド樹脂は、公知のジアミンと酸無水物とを溶媒の存在下で反応させて製造することができる。用いられるジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2’−メトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。
【0020】
また、上記以外のジアミンとして、例えば、2,2−ビス−[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1−(4−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1−(3−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'−(4−アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'−(3−アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス−[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4'−メチレンジ−o−トルイジン、4,4'−メチレンジ−2,6−キシリジン、4,4'−メチレン−2,6−ジエチルアニリン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、3,3'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルエタン、3,3'−ジアミノジフェニルエタン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメトキシベンジジン、4,4''−ジアミノ−p−テルフェニル、3,3''−ジアミノ−p−テルフェニル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、2,4−ジアミノトルエン、m−キシレン−2,5−ジアミン、p−キシレン−2,5−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、ピペラジン等を使用することもできる。
【0021】
また、酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物等が挙げられる。
【0022】
また、上記以外の酸無水物として、例えば、2,2',3,3'−、2,3,3',4'−又は3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物等が好ましく挙げられる。また、3,3'',4,4''−、2,3,3'',4''−又は2,2'',3,3''−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)−プロパン二無水物、ビス(2,3−又は3.4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8−、1,2,6,7−又は1,2,9,10−フェナンスレン−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6−シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,6−又は2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−(又は1,4,5,8−)テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−(又は2,3,6,7−)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9−、3,4,9,10−、4,5,10,11−又は5,6,11,12−ペリレン−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、4,4'−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等を使用することもできる。
【0023】
ジアミン、酸無水物は、それぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用することもできる。なお、ポリイミド樹脂は、上記ジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
【0024】
また、ジアミンと酸無水物との反応は有機溶媒中で行わせることが好ましく、このような有機溶媒としては特に限定されないが、具体的には、例えばジメチルスルフォキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルムアミド、フェノール、クレゾール、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、これらは単独で、又は混合して用いることができる。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応よって得られるポリアミド酸の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0025】
また、このような溶媒を用いた反応において、ジアミンと酸無水物との配合割合は、全ジアミンに対して酸無水物のモル比が0.95から1.05の割合で使用することが好ましい。
【0026】
ジアミンと酸無水物は、0℃から60℃の範囲内の温度条件で1〜24時間反応させることが好ましい。このような温度条件で反応させることで効率的にポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸の樹脂溶液を得ることができる。温度条件が前記下限(0℃)未満では、反応速度が遅くなって分子量の増加が進まない傾向にあり、他方、前記上限(60℃)を超えるとイミド化が進行して反応溶液がゲル化し易くなる傾向にある。
【0027】
合成されたポリアミド酸は溶液として使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、溶液としての使用が容易である。
【0028】
図1に、本実施の形態のポリイミドフィルムの製造方法の概要を示した。図1中、符号1はポリイミド樹脂製支持基材(以下、単に「支持基材」と記すことがある)、符号3はポリアミド酸層、符号5はポリイミドフィルム層、符号7は目的のポリイミドフィルムである。本実施の形態のポリイミドフィルムの製造方法は、以下の工程a〜工程cを備えている。各工程の内容について、順に説明する。
【0029】
工程a)支持基材1の上に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥し、ポリアミド酸層を形成する工程:
本発明で用いられる支持基材1は、キャスト法によってポリアミド酸溶液の塗布を行う際の支持体としての機能と、ポリアミド酸層3を補強する機能と、を有する。支持基材1はカットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの種々の形状で使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状のフィルムの形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。特に、支持基材1は長尺に形成されたロール状のフィルムが好ましく、工程a〜工程cまでをロール・トウ・ロール方式で連続的に行うことが好ましい。
【0030】
支持基材1は複数のポリイミド樹脂層が積層された構造であってもよいが、単層がより有利である。ポリイミド樹脂としては、非熱可塑性のポリイミド樹脂が好ましく使用される。非熱可塑性のポリイミド樹脂の中でも、低接着性であって、低膨張性のポリイミド樹脂で構成されるものを好適に用いることができる。具体的には、線熱膨張係数(CTE)が1×10−6〜30×10−6(1/K)、好ましくは10×10−6〜25×10−6(1/K)である低熱膨張性のポリイミド樹脂である。このようなポリイミド樹脂を適用することで、ポリイミドフィルム製造時の熱処理による寸法変化を抑制することができる。また、支持基材1に適用されるポリイミド樹脂のガラス転移温度Tgは、300℃以上が好ましく、320℃以上であることがより好ましい。このようなポリイミド樹脂を用いることで、高い耐熱性を保持することができる。なお、ガラス転移温度の測定は、後記実施例で規定する方法で行うことができる。
【0031】
支持基材1としては、市販のポリイミドフィルムを好適に使用できる。例えば東レ・デュポン株式会社製のカプトンEN、カプトンH、カプトンV(いずれも商品名)、鐘淵化学株式会社製のアピカルNPI(商品名)、宇部興産株式会社製のユーピレックスS(商品名)等を使用可能である。なお、支持基材1として銅箔、SUS箔などの金属箔を用いると、ポリイミドフィルム7との接着性が強くなりすぎ、良好な剥離性が得られない。また、支持基材1として金属箔とポリイミドフィルムとが積層された積層体を用いることは、積層体とするための製造工程を複数必要とし、生産コストも高くなるので好ましくない。また、ポリイミドフィルムを支持基材とする場合には、該フィルムの両面を剥離面として使用でき、複数回の使用が可能となるので、特に有利である。
【0032】
剛性面を考慮すると、支持基材1の厚みは、10μm〜250μmの範囲内であることが好ましく、25μm〜75μmの範囲内であることがより好ましい。支持基材1の厚みが10μm未満では、十分な剛性が得られず支持体としての機能が不十分となり、250μmを超えると、製品のポリイミドフィルム7との分離(剥離)が困難になる場合がある。この支持基材1の厚さは、後述する透湿度とも密接な相関性があり、その厚さが大きいものほど透湿度が低下する傾向になる。従って、支持基材1の厚さの上限は、支持基材1の透湿度の下限値を下回らないような厚さに制御することが望ましい。
【0033】
支持基材1の透湿度は、厚さ以外にも、支持基材1を構成するポリイミド樹脂が有する配向性の度合いと相関があると考えられる。すなわち、ポリイミド樹脂の配向性が高く、緻密な構造を有するポリイミド樹脂を支持基材1に適用した場合、支持基材1の透湿度が小さいため、ポリイミドフィルム製造の乾燥・イミド化工程における有機溶剤及びイミド化進行に伴う水分が支持基材1とポリイミドフィルム層5との界面に集中し、双方の密着を阻害する。そのことが、製品のポリイミドフィルム7の剥離を容易にする要因となっているものと考えられる。
【0034】
以上のような観点から、支持基材1の透湿度の上限は、30g/m・24hr以下とすることが好ましい。支持基材1の透湿度が30g/m・24hrを超えると支持基材1とポリイミドフィルム7との剥離性が低下するが、透湿度が30g/m・24hr以下であれば、上記理由によって良好な剥離性を維持できる。一方、支持基材1の透湿度は、0.5g/m・24hr以上とすることが好ましい。透湿度が0.5g/m・24hr未満になると、ポリイミドフィルム製造の乾燥・イミド化工程における有機溶剤及びイミド化進行に伴う水分が抜けきれず、製造段階でポリイミドフィルム層5の浮き(ポリイミドフィルム層5の部分剥離)が生じる傾向がある。なお、透湿度の測定は、後記実施例で規定する方法で行うことができる。
【0035】
工程aでは、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸の溶液を支持基材1の上に直接塗布した後に乾燥することによって、ポリアミド酸層3を形成する。ポリアミド酸は、熱可塑性ポリイミドまたは非熱可塑性ポリイミドのどちらの前駆体でもよい。ポリイミドフィルム製造の乾燥・イミド化工程における溶剤及びイミド化進行に伴う水分は、支持基材1とポリイミドフィルム7との剥離性に関与する。本発明者らは、支持基材1のガラス転移温度Tg、イミド化後のポリイミドフィルム7のガラス転移温度Tg及びイミド化の際の熱処理温度に着目し、これらの因子を適正に制御することによって、支持基材1とポリイミドフィルム層5との界面に溶剤及びイミド化水を適正に滞留させ、その結果として、ポリイミドフィルム7の良好な剥離性を維持できることを見出した。本実施の形態では、使用するポリアミド酸を選定する基準として、イミド化後のポリイミドフィルム7のガラス転移温度Tgと、支持基材1を構成するポリイミドフィルムのガラス転移温度Tgとの間に、Tg≦Tg≦Tg+30℃の関係が成り立つようにする。つまり、成膜されるポリイミドフィルム7のガラス転移温度Tgが支持基材1のポリイミドフィルムのガラス転移温度Tg以上であって、その差分(Tg−Tg)が30℃以下になるようにする。剥離性に関与する上記3つの因子を適正に制御するために、先ずTg及びTgとの関係を上記のような範囲とすることによって、イミド化における熱処理温度がTgを基準にして容易に制御できるようになる。イミド化における熱処理温度においては後で説明する。
【0036】
同様に、イミド化温度の制御による剥離性の改善効果を十分に得る観点から、Tgは300℃以上であることが好ましく、さらに、TgとTgの両方が300℃以上であることがより好ましい。
【0037】
ポリアミド酸の溶液を支持基材1に塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0038】
ポリアミド酸溶液としては、市販品も好適に使用可能であり、例えば宇部興産株式会社製の非熱可塑性ポリアミド酸ワニスであるU-ワニス-S(商品名)、新日鐵化学株式会社製の熱可塑性ポリアミド酸ワニスSPI−200N(商品名)、同SPI−300N(商品名)、東レ株式会社製のトレニース#3000(商品名)、日立化成工業株式会社製のPIQ(商品名)、新日本理化株式会社のリカコートSN−20(商品名)等が挙げられる。
【0039】
なお、ポリアミド酸溶液は、ポリアミド酸及び溶媒以外に、例えばシリカ、アルミナ、窒化ホウ素、酸化チタン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどのフィラーや粘土鉱物などを含有することができる。
【0040】
支持基材1に塗布されたポリアミド酸層3を乾燥する際は、ポリアミド酸の脱水閉環の進行によるイミド化を完結させないように温度を制御する。ポリアミド酸層3を乾燥させる方法としては、特に制限されず、例えば、60℃〜200℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間をかけて乾燥を行うことがよいが、好ましくは、60℃〜150℃の範囲内の温度条件で乾燥を行うことがよい。乾燥後のポリアミド酸層3は、前駆体の構造の一部がイミド化していても差し支えないが、イミド化率は50%以下、より好ましくは20%以下として前駆体の構造を50%以上残すことが好ましい。なお、前駆体のイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品として、例えば日本分光製FT/IR620)を用い、透過法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1,000cm−1のベンゼン環炭素水素結合を基準とし、1,710cm−1のイミド基由来の吸光度から算出される。
【0041】
ポリアミド酸層3の厚み(乾燥後)は、イミド化後のポリイミドフィルム層5の厚みが例えば5μm以下、好ましくは1μm以上5μm以下の範囲内、より好ましくは1μm以上4μm以下の範囲内となるように調節する。ポリアミド酸層3を厚く形成すれば、製品のポリイミドフィルム7も厚くなるため、剥離時の皺、割れ、裂け等が発生しにくくなる。しかし、本発明方法では、剥離性の改善によって薄膜フィルムへの対応が可能であり、ポリイミドフィルム層5を5μm以下まで薄く形成することができる。
【0042】
なお、ポリアミド酸層3は単層であることが工業上有利であるが、支持基材1上でポリアミド酸溶液の塗工と乾燥を繰り返し、種類や性質の異なるポリアミド酸からなる複数層が積層された構造のポリアミド酸層を形成することも可能である。
【0043】
工程b)ポリアミド酸層3を熱処理することによってイミド化し、支持基材1の上に、ポリイミドフィルム層5を積層形成する工程:
イミド化は、熱処理によってポリアミド酸の脱水閉環を進行させてポリイミドを形成する工程である。イミド化のための熱処理は、熱処理温度の上限Tmaxが、Tg≦Tmax≦Tg+30℃の関係を満たすように設定する。ここで、Tg≦Tmaxとする理由は、支持基材1とポリイミドフィルム層5との界面に、ポリアミド酸溶液の溶剤及びポリイミド酸をイミド化する際に発生するイミド化水を過剰に滞留させないようにするためである。支持基材1とポリイミドフィルム層5との界面に溶剤やイミド化水が過剰に滞留した状態にあると、ポリイミドフィルムの製造段階における発泡や浮きを引き起こす原因になるからである。Tg≦Tmaxとすることによって、溶剤やイミド化水が支持基材1中を経由して系外へ適正に放出されるようになると考えられる。
【0044】
また、Tmax≦Tg+30℃とする理由は、支持基材1とポリイミドフィルム層5との界面に、ポリイミド酸溶液の溶剤及びポリアミド酸のイミド化の際に発生するイミド化水を適正な量で滞留させるためである。支持基材1とポリイミドフィルム層5との界面の液分(溶剤や水分)が完全に取り去られると、支持基材1とポリイミドフィルム層5との密着性が強固になり、剥離不良の原因になるものと考えられる。Tmax≦Tg+30℃、好ましくはTmax≦Tg+25℃とすることによって、溶剤やイミド化水が支持基材1中を経由して系外へ過剰に放出されることを抑制し、支持基材1とポリイミドフィルム層5との界面に少量の溶剤及び/又は水分を適正に滞留させることが可能となるので、支持基材1とポリイミドフィルム層5との剥離強度を低減し、剥離を容易にすることができる。ここで、Tmaxが400℃を超えると支持基材1とポリイミドフィルム層5との界面の液分が滞留しにくい傾向となるので、Tmaxは400℃以下とすることが好ましく、370℃以下とすることがより好ましい。
【0045】
このイミド化の際の熱処理に使用する加熱装置には特に制限はなく、例えば遠赤外線や紫外線、マイクロ波などの電磁波を利用した非接触型の加熱方式や、温度制御可能なジャケットロールなどの接触型の加熱方式を採用した加熱装置を使用して行うことが可能である。熱処理は、例えば加熱炉の中に、所定時間かけて支持基材1とポリイミドフィルム層5との積層体を通過させることにより実施できる。
【0046】
工程c)ポリイミドフィルム層5を支持基材1から剥離してポリイミドフィルム7を形成する工程:
支持基材1からポリイミドフィルム層5を剥離してポリイミドフィルム7を形成する方法は特に問われるものではなく、例えば、ポリイミドフィルム7を被着物に転写させる方法でも、ポリイミドフィルム7を単体として支持基材1から剥離する方法でもよい。もっとも、本実施の形態では、支持基材1とポリイミドフィルム7との剥離性が改善されているため、被着物にポリイミドフィルム7を転写させる方法によらず、ポリイミドフィルム7を単体で支持基材1からに容易に剥離することができる。従って、例えばロール・トウ・ロール方式のように、長尺な支持基材1と長尺なポリイミドフィルム7を、それぞれロールに巻き取ることにより剥離する方法が好ましく採用される。
【0047】
以上のように、本発明方法では、Tg≦Tg≦Tg+30℃、かつ、Tg≦Tmax≦Tg+30℃とすることによって、工程cにおけるポリイミドフィルム7と支持基材1との剥離性を向上させ、ポリイミドフィルム7単体でも支持基材1から一定の力で安定して剥離することができる。従って、剥離時に製品のポリイミドフィルム7に割れや裂け、皺などが発生することを防止し、歩留りを改善できる。特に、例えばロール・トウ・ロール方式などの連続生産において高い歩留りでの製造が可能であり、工業的に利用価値が高い。また、従来技術のテンター法では製造が困難であった薄膜、例えば5μm以下の厚みの極薄フィルムの製造も可能である。
【0048】
なお、以上の説明では、本発明方法の特徴的工程のみを説明したが、上記以外の工程を含むことを妨げるものではなく、任意の工程を含めることができ、それらは常法に従い行うことができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明の実施例において特にことわりない限り、各種測定、評価は下記によるものである。
【0050】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ガラス転移温度は、粘弾性アナライザ(レオメトリックサイエンスエフィー株式会社製RSA−II)を使って、10mm幅のサンプルを用いて、1Hzの振動を与えながら、室温から400℃まで10℃/分の速度で昇温した際の、損失正接(Tanδ)の極大から求めた。
【0051】
[剥離強度の評価]
剥離強度は、東洋精機製作所社製、ストログラフR−1を用いて、幅10mmの短冊状に切断したサンプルについて、T字剥離試験法によるピール強度を測定することにより評価した。なお、剥離強度が5N/m以下である場合を剥離性が「極めて良好」とし、5N/m超15N/m以下を剥離性が「良好」(実用可能な範囲)とし、15N/m超を剥離性が「不良」と評価した。
【0052】
[線熱膨張係数の測定]
線熱膨張係数は、サーモメカニカルアナライザー(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、サンプルを250℃まで昇温し、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、240℃から100℃までの平均線熱膨張係数(CTE)を求めることにより評価した。
【0053】
[透湿度の測定]
透湿度は、JIS Z0208に準拠したカップ法により測定した。透過面積2.826×10−3のアルミニウム製の透湿カップに吸湿剤/塩化カルシウム(無水)を封入し、40℃、90RH%の試験条件下で24時間毎の秤量操作を繰り返し、カップの質量増加を水蒸気の透過量として評価した。
【0054】
合成例1
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながら20gの4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメチルビフェニル(DADMB)(0.094モル)及び2gの1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3-BAB)(0.007モル)を255gのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で5gの3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)(0.017モル)及び18gの無水ピロメリット酸(PMDA)(0.083モル)を加えた。その後、約3時間撹拌を続けて重合反応を行い、固形分濃度15重量%、溶液粘度が200ポイズ[20Pa・s]のポリアミド酸溶液S1を得た。なお、この樹脂溶液をイミド化して得られるポリイミド樹脂のTgは364℃であった。
【0055】
合成例2
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながら21.5gの4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメチルビフェニル(DADMB)(0.107モル)を255gのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で23.5gの無水ピロメリット酸(PMDA)(0.107モル)を加えた。その後、約3時間撹拌を続けて重合反応を行い、固形分濃度15重量%、溶液粘度が100ポイズ[10Pa・s]のポリアミド酸溶液Sを得た。なお、この樹脂溶液をイミド化して得られるポリイミド樹脂のTgは393℃であった。
【0056】
実施例1
支持基材として、厚さ25μmの長尺ポリイミドフィルム(ユーピレックスS;商品名、宇部興産社製、CTE12×10−6/K、Tg336℃、透湿度1.7g/m・24hr)を用いた。
【0057】
次に、支持基材の片側の面に、合成例1で得たポリアミド酸溶液S1を均一に塗布し、100℃以下の温度で加熱乾燥して過剰な溶剤分を除去した。次に、最高温度360℃の連続加熱炉で10分間熱処理を行い、イミド化を完結させた後、常温まで冷却し、支持基材より剥離することで厚み4μmのポリイミドフィルム(成膜フィルム)を得た。このときの支持基材からの成膜フィルムの剥離強度は4.7N/m以下であり、剥離が容易であった。得られた成膜フィルムには、皺、割れ、裂け等の外観上の不良は認められなかった。
【0058】
実施例2
支持基材として、厚さ25μmの長尺ポリイミドフィルム(ユーピレックスS;商品名、宇部興産社製、CTE12×10−6/K、Tg336℃、透湿度1.7g/m・24hr)を使用し、実施例1において、最高温度360℃、10分間の熱処理の代わりに、最高温度366℃、10分間の熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして厚み4μmのポリイミドフィルム(成膜フィルム)を得た。このときの支持基材からの成膜フィルムの剥離強度は10.5N/m以下であり、剥離が容易であった。得られた成膜フィルムには、皺、割れ、裂け等の外観上の不良は認められなかった。
【0059】
実施例3
支持基材として、厚さ25μmの長尺ポリイミドフィルム(カプトンEN;商品名、東レ・デュポン社製、CTE16×10−6/K、Tg364℃、透湿度22g/m・24hr)を使用し、実施例1において、最高温度360℃、10分間の熱処理の代わりに、最高温度370℃、10分間の熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして厚み4μmのポリイミドフィルム(成膜フィルム)を得た。このときの支持基材からの成膜フィルムの剥離強度は8.5N/m以下であり、剥離が容易であった。得られた成膜フィルムには、皺、割れ、裂け等の外観上の不良は認められなかった。
【0060】
実施例4
支持基材として、厚さ25μmの長尺ポリイミドフィルム(カプトンEN;商品名、東レ・デュポン社製、CTE16×10−6/K、Tg364℃、透湿度22g/m・24hr)を使用し、実施例1において、最高温度360℃、10分間の熱処理の代わりに、最高温度380℃、10分間の熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして厚み4μmのポリイミドフィルム(成膜フィルム)を得た。このときの支持基材からの成膜フィルムの剥離強度は14.8N/m以下であり、剥離が容易であった。得られた成膜フィルムには、皺、割れ、裂け等の外観上の不良は認められなかった。
【0061】
実施例5
支持基材として、厚さ25μmの長尺ポリイミドフィルム(カプトンEN;商品名、東レ・デュポン社製、CTE16×10−6/K、Tg364℃、透湿度22g/m・24hr)を用いた。
【0062】
次に、支持基材の片側の面に、合成例2で得たポリアミド酸溶液Sを均一に塗布し、100℃以下の温度で加熱乾燥して過剰な溶剤分を除去した。次に、最高温度394℃の連続加熱炉で10分間熱処理を行い、イミド化を完結させた後、常温まで冷却し、支持基材より剥離することで厚み4μmのポリイミドフィルム(成膜フィルム)を得た。このときの支持基材からの成膜フィルムの剥離強度は15.0N/m以下であり、剥離が容易であった。得られた成膜フィルムには、皺、割れ、裂け等の外観上の不良は認められなかった。
【0063】
比較例1
支持基材として、厚さ25μmの長尺ポリイミドフィルム(ユーピレックスS;商品名、宇部興産社製、CTE12×10−6/K、Tg336℃、透湿度1.7g/m・24hr)を使用し、実施例1において、最高温度360℃、10分間の熱処理の代わりに、最高温度400℃、10分間の熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして厚み4μmのポリイミドフィルム(成膜フィルム)を得たが、支持基材からは剥離できなかった。
【0064】
比較例2
支持基材として、厚さ25μmの長尺ポリイミドフィルム(カプトンEN;商品名、東レ・デュポン社製、CTE16×10−6/K、Tg364℃、透湿度22g/m・24hr)を使用し、実施例1において、最高温度360℃、10分間の熱処理の代わりに、最高温度400℃、10分間の熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして厚み4μmのポリイミドフィルム(成膜フィルム)を得たが、支持基材からは剥離できなかった。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果から、支持基材と成膜フィルムのガラス転移温度がTg≦Tg≦Tg+30℃の関係にあり、かつ、イミド化の最高温度を、Tg≦Tmax≦Tg+30℃の条件で行った実施例1〜5は、いずれも優れた剥離性を示し外観も良好であった。一方、Tg≦Tmax≦Tg+30℃の関係を満たしていない比較例1、2は剥離不能であった。
【0067】
以上、本発明の実施の形態を述べたが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく種々の変形が可能であり、そのような変形は本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
1…支持基材、3…ポリアミド酸層、5…ポリイミドフィルム層、7…ポリイミドフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリイミド樹脂製支持基材の上に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥し、ポリアミド酸層を形成する工程、
b)前記ポリアミド酸層を熱処理することによってイミド化し、前記支持基材の上に、ポリイミドフィルム層を積層形成する工程、及び、
c)前記ポリイミドフィルム層を前記支持基材から剥離してポリイミドフィルムを形成する工程、
を備え、
前記支持基材のガラス転移温度Tgと、前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度Tgとの関係を、Tg≦Tg≦Tg+30℃とし、かつ、前記イミド化の際の熱処理温度の上限Tmaxを、Tg≦Tmax≦Tg+30℃とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記Tgが300℃以上である請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記成膜フィルムの厚さが1μm以上5μm以下の範囲内である請求項1又は2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記支持基材の透湿度が0.5g/m・24hr以上30g/m・24hr以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミド樹脂製支持基材が長尺に形成されており、前記各工程をロール・トウ・ロール方式で行う請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−56824(P2011−56824A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210029(P2009−210029)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】