説明

ポリイミドフィルムの製造方法

【課題】本発明は、ポリイミドフィルムの製造工程での粘着ロールの粘着力の変化が発生しにくいポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
【解決手段】ポリアミド酸溶液を支持体上にフィルム状に連続的に押し出しまたは塗布したゲルフィルムを、剥離、延伸、乾燥、熱処理して巻き取る製造工程において、乾燥以降の工程に粘着ロールを配置して走行フィルムを接触させ、かつその粘着ロール周りの雰囲気中の溶媒濃度を1ppm以下に保つことによりフィルム表面の異物を除去することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、乾燥以降の工程に粘着ロールを配置し、その粘着ロールの周囲の環境を制御することにより、粘着ロールの粘着ムラ等の経時変化を防止し、長時間にわたってフィルム上の異物を除去し続けるポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド酸溶液を支持体の上にフィルム状に連続的に押し出しまたは塗布したゲルフィルムからポリイミドフィルムを得る製造工程において、フィルムを長手方向に延伸した後、フィルム端部を把持して幅方向の延伸、および乾燥、熱処理を連続的に行うことが一般的になされている(例えば特許文献1、2参照)。このときフィルム端部を把持する方法としてクリップ内のピンでフィルムを刺すピンクリップ方式とクリップ本体で端部をはさむクリップ方法が一般に用いられている。クリップ本体ではさむ場合はフィルムに穴を開けないためフィルム屑や、フィルム端部の裂けが発生し難い利点があるが、クリップの把持部の乾燥が困難と言う問題点がある。一方、フィルムの両端をピンで突き刺すピンクリップ法はフィルム端部まで乾燥が均一に出来、幅方向の延伸時に外れにくいなどの利点がある。しかしながら、ピンクリップ法はフィルム端部に穴を開けるため、ピンからフィルムを剥離する際に、ピン穴部でフィルム屑が発生して、フィルム表面への付着がおこるという問題がある。
【0003】
また、いずれの方法においても乾燥機内外で浮遊している異物が搬送しているフィルムに付着するということも発生する。
【0004】
フィイルム表面に付着する屑や塵埃などの異物を除去する方法として下記に掲げる方法がよく知られている。すなわち、フィルムに不織布あるいはスクレーパーを押しつける事によりフィルム表面の付着異物を不織布あるいはスクレーパーで捕捉する方法、空気ジェットを吹き付けるなどして異物を除去する方法、空気を高速でフィルムにぶつけて、付着塵埃をフィルム表面から剥離させ、吸引する方法などが挙げられる。しかしながら、不織布、あるいはスクレーパーを押しつけて異物を除去する方法ではフィルムに傷が付きやすい。また、空気をフィルムにぶつけて異物を取る方法は比較的大きな異物に対しては効果があるものの、小さな付着塵埃や付着力の強い異物に対しては除去効果が少ないという問題がある。
【0005】
一方で、ポリイミドフィルムの小さな付着塵埃や付着力の強い異物除去に関しては、粘着ロールの使用が提案されている(例えば特許文献3参照)。この方法はフィルムに衝撃を与えないという点で好ましい方法である。しかし、ポリイミドフィルムの製造工程は、ポリアミド酸の溶媒が蒸気となって浮遊している環境が多く、ここで粘着ロールを使用すると粘着ロールの表面が短時間で犯され、ロールの粘着力の経時変化が大きく、異物除去能力の低下や、搬送安定性の低下が発生し、ロールの交換頻度が多くなり、コスト増大の大きな原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−163493号公報
【特許文献2】特開平11−180606号公報
【特許文献3】特開2003−181945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。したがって、本発明の課題は、ポリイミドフィルムの製造工程での粘着ロールの粘着力の経時変化が起こりにくい、粘着ロールを用いたポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアミド酸溶液を支持体上にフィルム状に連続的に押し出しまたは塗布したゲルフィルムを、剥離、延伸、乾燥、熱処理して巻き取る製造工程において、乾燥以降の工程に粘着ロールを配置して走行フィルムを接触させ、かつその粘着ロール周りの雰囲気中の溶媒濃度を1ppm以下に保つことによりフィルム表面の異物を除去することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法である。
【0009】
また、本発明において、粘着ロールを配置する個所が、乾燥機直後であること、粘着ロールの主たる成分がポリウレタンで構成されること、粘着ロールの周りをしきいで囲い、その中に有機成分濃度が0.1ppm以下である空気を、毎分当たりしきい内の容積の2倍以上供給することはいずれも好ましい態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリイミドフィルムの製造工程での粘着ロールの粘着力の経時変化抑制することができるので、粘着ロールを長時間交換することなく、フィルム表面上の異物が少ないポリイミドフィルムを製造し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フィルム内の残存溶媒を測定するための抽出機器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のポリイミドフィルムの製造方法について具体的に説明する。
【0013】
本発明においては、粘着ロール周りの雰囲気中の溶媒濃度を1ppm以下に制御することが必要であり、より好ましくは0.6ppm以下、さらに好ましくは0.3ppm以下に保つことである。ポリイミドフィルムの製造は、ポリアミック酸溶液をイミド化し、乾燥させて行う。乾燥により発生する有機物が1ppmよりも雰囲気中に存在すると、粘着ロール表面を犯して変質させ、粘着力を変化させる。粘着力が低下すると異物除去能力が低下し、上昇すると搬送系のグリップ力のバランスが崩れて、フィルム表面にキズ欠点等を発生させる。
【0014】
本発明において、「異物」とは綿棒でこすることでフィルム表面上から除去できる、もしくは付着位置が変化するものをいう。粘着ロールで除去できる異物は、フィルム表面に付着している異物のみであり、内部にある固形物や、表面に強固に接着している固形物は本発明の「異物」の対象外となる。
【0015】
本発明において、粘着ロールの配置場所は乾燥工程以降の工程であり、乾燥機直後、あるいは最終製品の巻き取り直前の工程が好ましいが、異物が付着したまま一旦巻き取ることによる凹凸の転写を防ぐ意味で乾燥機直後が好ましい。本発明において乾燥機とは、フィルムの残存溶媒量を1%よりも多い状態から1%以下まで低下させる加熱処理機のことをさす。ポリイミドフィルムの残存溶媒量が1%よりも多く含まれるポリイミドフィルムに対して、粘着ロール処理を実施した場合、表面にブリードアウトした溶媒成分により、粘着ロール表面を変質させる可能性が考えられるので、本発明においては乾燥工程以降に粘着ロールを設置する。
【0016】
本発明において乾燥機直後とは、フィルムが乾燥機を出てからロール状に巻き取られる工程よりも前の間を指す。また、本発明のロール状とは、フィルムの表面にフィルムが接触した状態をいう。フィルム表面に付着した異物は、フィルムがロール状に巻き取られる際にフィルム表面に微細な凹凸を転写させる。そのため、付着異物を後の工程で除去したとしても、この凹凸が起点となって、最終製品ロール表面に凸状の欠陥を形成しやすくなるために生産工程でも製品不合格率が高くなり、収率を低下させる原因となる可能性が考えられるためである。
【0017】
本発明において、粘着ロールの周りを「しきい」で囲い、その中に有機成分濃度が0.1ppm以下である空気を、しきい内の容積の2倍以上、さらに好ましくは5倍以上の量を毎分あたりに供給することが好ましい。溶媒濃度が少ない空気を供給することで、粘着ロール周りの雰囲気の溶媒濃度をより効率的に低下させることが出来る。なお、有機成分とは有機物成分の意味で、有機物はいずれでもよいが、現実的にはほとんどがポリアミド酸の溶媒である。
【0018】
本発明でいう「しきい」とは、走行するフィルムと接触する粘着ロール実効部、すなわち走行フィルム幅に亘るロール全表面をトンネル状に覆う幌のようなものである。幌の屋根部とロール表面の距離は約1〜5cm離れて設置されるが、幌の両端部ではロールの表面に接触しない程度にできるだけ接近させて空気の漏れを防ぐことが好ましい。幌を伏せた裾部は走行フィルムとの間にクリアランスを取るが、そのクリアランスが15mm以下であることが好ましい。クリアランスが広いと、周りの環境からの空気の流入が多くなり、しきい内に供給した溶媒濃度の少ない空気の効果が少なくなるためである。
【0019】
「しきい」の幌は通常アルミなどの金属で構成されるが、裾部はフィルム表面とのクリアランスを調節するために、幌本体とは別体のフッ素樹脂板を可動自在に設けることができる。しきい内には空気導入管を挿通し、有機成分が0.1ppm以下の空気を導入することが好ましい。空気導入量は毎分当たり「しきい」内の容量の2倍以上、10倍以下が好ましい。強制的に導入された空気はロール表面に沿って流れ、しきいの幌裾部のクリアランスから外部に吹き出される。こうすることにより、粘着ロール周りの雰囲気中の溶媒濃度を1ppm以下に保つことができ、その結果粘着ロールの粘着力を長時間維持することが可能となる。
【0020】
本発明におけるポリイミドフィルムとは、有機溶媒中に溶解したポリイミド酸を用いてフィルムをイミド化して作られる物であり、有機溶媒溶液中のポリイミド酸は、部分的にイミド化していてもよく、また少量の無機化合物を含有していてもよい。
本発明における先駆体であるポリアミド酸とは、好ましくは芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類からなり、次の化学式[I]示される繰り返し単位で構成されることが好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
上式においてR1は少なくとも1個の芳香族環を有する4価の有機基でその炭素数は25以下であり、R2は少なくとも1個の芳香族環を有する2価の有機基でその炭素数は25以下である。
【0023】
本発明において、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とは、それぞれのモル数が大略等しくなる割合で重合されるが、その一方で10モル%、好ましくは5モル%の範囲内で、他方に対して過剰に重合されてもよい。
【0024】
上記の芳香族テトラカルボン酸類の具体例としてはピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸またはその酸無水物、あるいはその酸のエステル化合物またはハロゲン化物から誘導される芳香族テトラカルボン酸類が挙げられる。
上記の芳香族ジアミン類の具体例としてはパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンジジン、パラキシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジニフェニルエタノール、3,4’−ジアミノジフェニルエタノール、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメトキシベンジジン、1,4−ビス(3−メチル−5−アミノフェニル)ベンゼンおよびこれらの誘導体が挙げられる。
【0025】
本発明の方法におけるポリイミドに特に適合する芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分の組み合わせとしてはピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエタノールおよび3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの組み合わせが挙げられ、さらにこれらの共重合および/又はパラフェニレンジアミンの共重合が好ましい。本発明を阻害しない範囲で製膜時に多層体で成形することも出来る。ポリイミドの固有粘度(25℃硫酸中で測定)は0.2〜3.0が好ましく、より好ましくは0.8〜2.0の範囲である。
【0026】
本発明において、ポリアミド酸溶液を形成するために使用される有機溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミドやN,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドンなどの有機極性アミド系溶媒が挙げられ、これらの有機溶媒は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用されるが、ベンゼン、トルエンおよびキシレンのような非溶媒と組み合わせて使用してもよい。また、本発明において、ポリアミド酸溶液を形成するために使用される有機溶媒は、加水分解してアミンを形成する溶媒を使用することで、残留溶媒を測定することができる。
【0027】
本発明で用いるアミド酸の有機溶媒溶液は、固形分を好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%を含有するものであって、またその粘度はブルックフィールド粘度計による測定で10〜2000Pa・s、好ましくは100〜1000Pa・sのものが、安定した送液が可能であることから好ましい。重合反応は、有機溶媒中で攪拌および/または混合しながら、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して進められるが、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。
【0028】
この場合に、両反応体の添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸類を添加するのが好ましい。
【0029】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリイミド酸の有機溶媒溶液を製造するのに有効な方法である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封鎖剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。
【0030】
本発明で使用される閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミンおよびイソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどの複素環式第3級アミンなどが挙げられるが、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンを使用するのが好ましい。
【0031】
本発明で使用される脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられるが、無水酢酸および/または無水安息香酸が好ましい。
【0032】
ポリイミド酸に対する閉環触媒の含有量は、閉環触媒の含有量(モル)/ポリアミド酸の含有量(モル)が0.5〜8.0となる範囲が好ましい。
【0033】
また、ポリアミド酸に対する脱水剤の含有量は、脱水剤の含有量(モル)/ポリアミド酸の含有量(モル)が0.1〜4.0となる範囲が好ましい。尚、この場合には、アセチルアセトンなどのゲル化遅延剤を併用してもよい。
【0034】
本発明のポリイミドフィルムは、ポリアミド酸溶液を回転する支持体にフィルム状に連続的に押出し又は塗布したゲルフィルムを、前記支持体から剥離し、延伸、乾燥、熱処理することにより製造されることが好ましいが、ポリアミド酸の有機溶媒からポリイミドフィルムを製造する代表的な方法としては、閉環触媒および脱水剤を含有しないポリイミド酸の有機溶媒溶液をスリット付き口金から支持体上に流延してフィルムに成形し、支持体上で加熱乾燥することにより自己支持性を有するゲルフィルムにした後、支持体よりフィルムを剥離し、更に高温下で乾燥熱処理することによりイミド化する熱閉環法、および閉環触媒および脱水剤を含有せしめたポリアミド酸の有機溶媒をスリット付き口金から支持体上に流延してフィルム状に成形し、支持体上でイミド化を一部進行させて自己支持性を有するフィルムとした後、支持体よりフィルムを剥離し、加熱乾燥/イミド化し、熱処理を行う化学閉環法が挙げられる。
【0035】
本発明は、上記のいずれかの閉環方法を採用してもよいが、化学閉環法はポリアミド酸の有機溶媒溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させる設備が必要とするものの、自己保持性を有するゲルフィルムを短時間で得られる点で、より好ましい方法といえる。
【0036】
本発明における粘着ロールとは、ロール表面が粘着性を有する回転可能な弾性ロールであり、このロール表面をフィルムに接触させ、該弾性ロールの表面が有する粘着力により、連続走行するポリイミドフィルムの表面に付着している異物をロール表面に付着させて除去する物であり、具体的にはゴム硬度20°〜50°の粘着ロールである。
【0037】
本発明における粘着ロールの材質は特に指定しないが、天然ゴム、ニトリルゴム、エチレンゴムフッ素ゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、ブチルゴムなどが挙げられる。形状は特に規制しないが、フラット、ラジアルクラウン、テーパークラウン、逆クラウンなどが挙げられる。好ましくはフラットロールである。また、「粘着」とは異物等を付着する効果のあるものであり、通常、付着されたものは剥離が可能であり、接着とは区別される機能である。また、単なる弾性ロールは多少の異物を付着させる能力があるとしても本発明の「粘着ロール」の範疇には入らない。
【0038】
次に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
また、上記の記述および以下の実施例で述べる各特性の評価方法および評価基準は次のとおりである。
【0040】
(1)粘着ロール処理部(しきい内)の環境濃度
溶媒抽出用ORBOチューブ(ORBO-101)を使用して、粘着ロールの処理部の中心において、粘着ロールから5cm離れた位置から1L/minの条件で30分間ガスの捕集を行ったのち、二流化炭素で溶媒抽出し、その溶液をGC−MSで分析することで、雰囲気中の有機溶剤濃度を測定した。
【0041】
(2)フィルムの残存溶媒量
図1に示したような様な装置を組み、まずポリイミドフィルムを秤量して、東京化成株式会社製の水酸化ナトリウム水溶液 (1mol/L水溶液)500mlに投入し、この混合物1を反応フラスコ2に入れて溶解するまで攪拌する。一方、受け側フラスコ4に、和光純薬工業株式会社製の0.01mol/L硫酸3を100mL採取しておき、1次冷却器5と2次冷却器6に冷却水を流した状態で、ポリイミドフィルムが入った水酸化ナトリウム水溶液の混合物1を全環流状態で沸騰加熱を5時間実施し、フィルムと残留溶媒を加水分解する。一次冷却器5の冷却水を止めて、溶液を硫酸が入った受け側フラスコ4に300mL以上留出させて、加熱を止める。冷却後、留出液にフェノールフタレイン液を数滴加える。その後、留出液がピンク色に発色するまで和光純薬工業株式会社製の0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え、中和に要する量を測定する。また、0.01mol/L硫酸を100mLの中和に必要な水酸化ナトリウム水溶液量も、同じように滴定分析をおこなう。なお、残留溶媒量は下記計算式で求める。
残留溶媒(%)=[{(TB−T)×0.1×F}/1000]×(M/S)×100
TB:0.01mol/L硫酸100mLを中和したNaOHの滴定量(mL)
T:留出液を中和したNaOHの滴定量(mL)
F:0.1mol/LNaOHのF値
S:ポリイミドフィルム重量(g)
M:溶媒の分子量(g)
【0042】
(3)フィルム傷
光を遮断した暗室内で、フィルムに対してPolarion社のライト(NP−1)を照射し、目視で粘着ロール起因の傷の有無を観察した。傷発生までに使用できた時間を下記基準で判断し、△以上を合格範囲とした。
◎:48時間以上
○:36時間以上48時間未満
△:24時間以上36時間未満
×:24時間未満
【0043】
(4)フィルム表面上の付着異物密度
白熱光をフィルム表面に当て、市販のフィルム検査装置(ヒューテック社製PMAX)を用いてフィルムを走行させ、100mの表面上に存在する長径0.5mm以上の欠点を表面検査装置で検出させ、検出された欠点に対して綿棒でこすって、付着異物であることを確認できたものを欠点の個数とし、欠点密度を計算した。なお、欠点の発生密度の評価として、100mの欠点密度が0.50個以上になるまでの時間を下記基準で判断し、△以上を合格範囲とした。
◎:48時間以上
○:36時間以上48時間未満
△:24時間以上36時間未満
×:24時間未満
【0044】
[実施例1]
撹拌機を備えた重合装置に、乾燥したN、N−ジメチルアセトアミド1900.6kgを入れ、その中に4,4’−ジアミノジフェニルエーテル200.024kg(1kmol)を撹拌溶解した。続いて、ピロメリット酸二無水物218.12kg(1kmol)を少量ずつ投入した。投入完了後、1時間撹拌し続けて、透明なポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、20℃で3400ポイスの粘度であった。
【0045】
このポリアミド酸溶液に、乾燥したN、N−ジメチルアセトアミド250.0kg、無水酢酸をポリアミド酸単位に対して2.5mol、ピリジンをポリアミド酸単位に対して2.0mol混合して、ポリアミド酸溶液を調整した。
【0046】
このポリアミド酸溶液を口金スリット幅2.5mm、長さ1600mmのTダイから押し出し、60℃の金属エンドレスベルト上に流延して自己支持性のあるゲルフィルムを得た。
【0047】
このゲルフィルムを65℃の室内で1.150倍に長手方向に延伸しながら搬送した。ゲルフィルムの両端をローラーで押さえながらチェーン上のピンプレートに連続で突き刺してゲルフィルムを固定した。ついで、ピンプレート上に両端をピンで固定されたゲルフィルムを1.200倍に幅方向に延伸した後、150℃の熱風を10m/秒の風速で0.6分、200℃の熱風を15m/秒の風速で0.6分、260℃の熱風を20m/秒の風速で1.8分間乾燥し、更に400℃で3分間熱処理して、冷却ゾーンでリラックスさせながら1.2分間冷却し、フィルムの端部のエッジをカットした後に、前述の「しきい」で周囲を覆ったポリウレタン製粘着ロールに走行させながら接触させて付着異物を除去した。その後、フィルムはロール状に巻きとり、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。粘着ロールの周りには、外とのクリアランスを15mmで設置したしきい内に、有機成分濃度が0.0ppmのエアーをしきい内容積の2.2倍の量を毎分あたり供給した。その結果粘着ロール処理部の環境濃度は0.5ppmに維持されていた。得られたフィルムの溶媒濃度は0.6%であった。また、フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は39時間であった。一方で、粘着ロール使用直後の付着異物密度は0.44個、48時間処理した後の付着異物密度は0.22個であった。
【0048】
[実施例2]
しきい内に供給したエアーの量が、毎分あたりしきい容積の5.5倍に変更して、粘着ロール処理部の環境濃度は0.2ppmに変わったこと以外は全て実施例1と同様の操作を行うことにより、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は52時間であった。一方で、52時間処理した後の付着異物密度は0.31個であった。
【0049】
[比較例1]
粘着ロールを取り外し、しきい内に供給していたエアーも止めること以外、全て実施例1と同様の操作を行うことにより、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。粘着ロール処理をおこなっていない時の付着異物密度は1.04個であった。
【0050】
[比較例2]
しきいを取り外し、しきい内に供給していたエアーを止めることで、粘着ロール処理部の環境濃度が3.0ppmに変わったこと以外は全て実施例1と同様の操作を行うことにより、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は14時間であった。一方で、48時間処理した後の付着異物密度は0.12個であった。
【0051】
[比較例3]
しきい内に供給したエアーの量が、毎分あたりしきい容積の1.2倍に変更して、粘着ロール処理部の環境濃度は1.2ppmに変わったこと以外は全て実施例1と同様の操作を行うことにより、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は22時間であった。一方で、48時間処理した後の付着異物密度は0.21個であった。
【0052】
[実施例3]
粘着ロールを設置している部屋の換気率を4倍にしたことにより、粘着ロール処理部の環境濃度が0.9ppmに変わったこと以外は、比較例2と同様の操作をおこなうことで、15μmのポリイミドフィルムを得た。フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は32時間であった。一方で、48時間処理した後の付着異物密度は0.36個であった。
【0053】
[実施例4]
ピンプレート上に両端をピンで固定されたゲルフィルムを1.200倍に幅方向に延伸した後、150℃の熱風を8m/秒の風速で0.6分、200℃の熱風を12m/秒の風速で0.6分、260℃の熱風を16m/秒の風速で1.8分間乾燥したこと以外、全て実施例1と同様の操作を行うことにより、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。なお、粘着ロール処理部の環境濃度は1.0ppm、得られたフィルムの溶媒濃度は1.5%であった。また、フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は25時間であった。一方で、粘着ロール使用直後の付着異物密度は0.40個、48時間処理した後の付着異物密度は0.14個であった。
【0054】
[比較例4]
粘着ロールを取り外し、しきい内に供給していたエアーも止めること以外、全て実施例4と同様の操作を行うことにより、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。粘着ロール処理をおこなっていない時の付着異物密度は0.85個であった。
【0055】
[実施例5]
使用する粘着ロールを、ポリブチレンを主成分とする粘着ロールに変更したこと以外、全て実施例3と同様の操作を行うことにより、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。粘着ロール使用直後の付着異物密度は0.43個であったが、26時間処理した後に0.5個以上となった。一方で、48時間処理した後も、粘着ロール起因のキズの発生は確認できなかった。
【0056】
[比較例5]
使用する粘着ロールを、ポリブチレンを主成分とする粘着ロールに変更したこと以外、全て比較例3と同様の操作を行うことにより、15μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。付着異物が0.5個以上となるまでの処理時間は20時間であった。一方で、48時間処理した後も、粘着ロール起因のキズの発生は確認できなかった。
【0057】
[実施例6]
撹拌機を備えた重合装置に、乾燥したN,N−ジメチルホルムアミド1594.9kgを入れ、その中にパラフェニレンジアミン12.43kg(0.115kmol)を攪拌溶解した。続いて、ピロメリット酸二無水物24.45kg(0.112kmol)を少量ずつ投入し、投入完了後から1時間撹拌し続けた。その後、4,4’ジアミノジフェニルエーテル169.17kg(0.845kmol)を投入して均一になるまで攪拌したあと、3,3’−4,4’ジフェニルテトラカルボン酸二無水物56.49(0.192kmol)を添加して、1時間反応させた。続いてここにピロメリット酸二無水物143.09kg(0.656kmol)を添加して、さらに1時間反応させてポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、20℃で3200ポイスの粘度であった。
【0058】
このポリアミド酸溶液に、N,N−ジメチルホルムアミド209.8kg、無水酢酸をポリアミド酸単位に対して2.5mol、ピリジンをポリアミド酸単位に対して2.0mol混合して、ポリアミド酸溶液を調整した。
【0059】
このポリアミド酸溶液を口金スリット幅2.5mm、長さ1600mmのTダイから押し出し、70℃の金属エンドレスベルト上に流延して自己支持性のあるゲルフィルムを得た。このゲルフィルムを60℃の室内で1.150倍に長手方向に延伸しながら搬送した。ゲルフィルムの両端をローラーで押さえながらチェーン上のピンプレートに連続で突き刺してゲルフィルムを固定した。ついで、ピンプレート上に両端をピンで固定されたゲルフィルムを1.200倍に幅方向に延伸した後、150℃の熱風を10m/秒の風速で0.6分、200℃の熱風を15m/秒の風速で0.6分、250℃の熱風を20m/秒の風速で1.8分間乾燥し、更に340℃で3分間熱処理して、冷却ゾーンでリラックスさせながら1.2分間冷却し、フィルムの端部のエッジをカットした後に、ポリウレタンを主成分とする粘着ロールを接触させて付着異物を除去した。その後、フィルムはロール状に巻きとり、14μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。粘着ロールの周りには、外とのクリアランスを15mmで設置したしきい内に、有機成分濃度が0.0ppmのエアーをしきい内容積の2.5倍の量を毎分あたり供給した。粘着ロール処理部の環境濃度は0.7ppmであった。得られたフィルムの溶媒濃度は0.4%であった。また、フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は29時間であった。一方で、粘着ロール使用直後の付着異物密度は0.40個、48時間処理した後の付着異物密度は0.20個であった。
【0060】
[実施例7]
しきい内に供給したエアーの量が、毎分あたりしきい容積の5.2倍に変更して、粘着ロール処理部の環境濃度は0.2ppmに変わったこと以外は全て実施例6と同様の操作を行うことにより、14μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は55時間であった。一方で、55時間処理した後の付着異物密度は0.22個であった。
【0061】
[比較例6]
しきい内に供給したエアーの量が、毎分あたりしきい容積の1.0倍に変更して、粘着ロール処理部の環境濃度は1.5ppmに変わったこと以外は全て実施例6と同様の操作を行うことにより、14μmの厚みのポリイミドフィルムを得た。フィルムに粘着ロールの表面変化によるキズが発生するまでの時間は20時間であった。一方で、48時間処理した後の付着異物密度は0.25個であった。
【0062】
以上の結果を表1にまとめて示した。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明で得られたポリイミドフィルムは、表面に付着した異物、凹凸などの欠点がないため、金属箔または金属薄膜が積層された電気配線板の支持体、フレキシブルプリント回路保護用カバーレイフィルム、ワイヤまたはケーブルの絶縁フィルムおよびフィルム表面接着剤をコーティングした粘着テープなどの用途に対して好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:混合物
2:反応フラスコ
3:硫酸
4:受け側フラスコ
5:1次冷却器
6:2次冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸溶液を支持体上にフィルム状に連続的に押し出しまたは塗布したゲルフィルムを、剥離、延伸、乾燥、熱処理して巻き取る製造工程において、乾燥以降の工程に粘着ロールを配置して走行フィルムを接触させ、かつその粘着ロール周りの雰囲気中の溶媒濃度を1ppm以下に保つことによりフィルム表面の異物を除去することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
粘着ロールを配置する個所が、乾燥機直後であることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
粘着ロールの主たる成分がポリウレタンで構成される請求項1または2記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
粘着ロールの周りをしきいで囲い、その中に有機成分濃度が0.1ppm以下である空気を、毎分当たりしきい内の容積の2倍以上供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−210778(P2012−210778A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78069(P2011−78069)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】