説明

ポリイミド樹脂表面の無機薄膜形成方法

【課題】アルカリ金属でポリイミド樹脂が分解されるようなおそれなく、簡便に効率良く無機薄膜を形成することができるポリイミド樹脂表面の無機薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】(1)ポリイミド樹脂の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を接触させることによって、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂してカルボキシル基及びアミド結合を生成させる工程、(2)前記カルボキシル基及びアミド結合を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成させる工程、(3)前記金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程。これらの工程から、アルカリ金属を用いることなく、ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムなどポリイミド樹脂で形成される基材の表面に回路パターンを形成する方法として、各種方法が提案されている。その中で、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセスが、密着信頼性に優れた微細な回路パターンを良好に形成することが可能な方法として知られているが、これらの方法は高価な装置を必要とし、しかも同時に生産性が低く、高コストであるという問題を有する。
【0003】
そこで現在、最も一般的な回路パターン形成方法としては、予めポリイミド樹脂の基材の表面全体を金属皮膜で被覆して金属被覆材を作製し、フォトリソグラフ法により不必要な部位の金属皮膜をエッチング処理して除去するサブトラクティブ法が広く採用されている。金属被覆材におけるポリイミド樹脂基材と金属皮膜との間の密着力は、基材の表面を粗化することに伴うアンカー効果、もしくは接着剤により確保されている。このサブトラクティブ法は、生産性に優れ、比較的簡便に回路パターンを形成するのに有用な方法であるが、回路パターンを作製する際に多量の金属皮膜を除去する必要があるため、金属材料の無駄が多く発生するという問題がある。それに加え、近年、電子回路基板の高密度化に伴ってより一層微細な回路パターンが要求されているが、サブトラクティブ法では、オーバーエッチングの発生や基材の表面の粗化による凹凸や接着剤の存在などにより、要求される微細回路パターン形成に対応することが困難であるという問題もある。
【0004】
このため、サブトラクティブ法に代わる回路パターン形成法が盛んに研究されている。例えばフォトリソグラフ法の一種であるアディティブ法は、基材の表面の回路形成部位以外を光硬化性樹脂などのマスクで被覆し、無電解めっき法を用いて基材の表面に回路パターンを直接形成する方法である。無電解めっき法は溶液内の酸化還元反応を利用し、めっき触媒核が付与された基材表面に金属皮膜を形成する方法である。このアディティブ法は、前記のドライプロセスに比べて優れた生産性を有し、またサブトラクティブ法に比べて微細な回路パターン形成が可能であるが、ポリイミド樹脂基材と金属皮膜間の密着力を確保することが難しいため、密着信頼性に劣るといった問題点がある。また、アディティブ法は工程が複雑である上、微細な回路パターンを形成するためには高価な生産設備を必要とし、高コストになるという問題もある。
【0005】
さらに、微細な回路パターンを簡便かつ安価に形成する方法として、インクジェット方式が注目されている。インクジェット方式は、基材の表面に金属ナノ粒子から構成されるインキをインクジェットノズルよりパターン形状に噴霧して、塗布した後、アニーリング処理して微細な金属皮膜からなる回路パターンを形成するようにしたものである。しかし、インクジェット方式で金属ナノ粒子を噴霧、塗布する際に、基材の表面の単位面積あたりの金属ナノ粒子数が不十分であると、アニーリング時の金属ナノ粒子間の焼結に伴う収縮により、得られる金属皮膜が断線する可能性があり、逆に金属ナノ粒子数が過剰であると、アニーリング後形成する金属皮膜の表面平滑性が失われる可能性があり、基材上への金属ナノ粒子の塗布量の制御が極めてシビアであるという問題点がある。また、基材と金属ナノ粒子の金属成分はその物性上、十分な密着信頼性を得ることが難しく、さらに、アニーリング時の金属ナノ粒子間の焼結に伴う収縮により寸法精度にも問題を有するものである。
【0006】
そして近年、優れた密着信頼性を有する回路パターン形成技術として、ポリイミド樹脂の基材表面をアルカリ水溶液で処理してカルボキシル基を生成させ、該カルボキシル基に金属イオンを配位させてカルボキシル基の金属塩を形成したのち、フォトマスクを介して紫外線を該ポリイミド樹脂基材上に照射することによって、選択的に金属イオンを還元して金属皮膜を析出させ、必要に応じてめっき法により金属皮膜を増膜するようにした技術が提案されている(例えば特許文献1等参照)。この方法で形成された金属皮膜はその一部がポリイミド樹脂中に埋包されており、ポリイミド樹脂の基材表面に対する金属皮膜の密着信頼性を高く得ることができるのである。
【0007】
ここで、ポリイミド樹脂の表面にカルボキシル基を生成させるアルカリ水溶液としては、特許文献1では水酸化カリウムや水酸化ナトリウムの水溶液といったアルカリ金属を含む水溶液が使用されている。またこのアルカリ水溶液としてエチレンジアミンを用いることも知られている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−073159号公報
【特許文献2】特開2005−045236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アルカリ水溶液としてアルカリ金属水溶液を用いる場合、ポリイミド樹脂内にアルカリ金属イオンが残留し、熱が加わった際にポリイミド樹脂が分解して、ポリイミド樹脂本来の特性が損なわれてしまうおそれがあるということが判明した。
【0009】
一方、エチレンジアミンはアルカリ金属を含まないために、このような問題は起こらないが、カルボキシル基を生成させる効果が十分ではなく、このため無機薄膜の形成効率が悪いという問題を有するものであった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、アルカリ金属でポリイミド樹脂が分解されるようなおそれなく、簡便に効率良く無機薄膜を形成することができるポリイミド樹脂表面の無機薄膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係るポリイミド樹脂表面の無機薄膜形成方法は、ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成するにあたって、(1)ポリイミド樹脂の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を接触させることによって、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂してカルボキシル基及びアミド結合を生成させる工程、(2)前記カルボキシル基及びアミド結合を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成させる工程、(3)前記金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程、とを有することを特徴とするものである。
【0012】
このようにポリイミド樹脂の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を接触させ、さらに金属イオン含有溶液を接触させることによって、金属酸化物或いは半導体として析出させて無機薄膜をポリイミド樹脂表面に形成することができるものであり、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属を含む水溶液を用いる必要なく無機薄膜を形成することができ、アルカリ金属でポリイミド樹脂が分解されるようなおそれなく、簡便に効率良く無機薄膜を形成することができるものである。
【0013】
また請求項2の発明は、請求項1において、(4)ポリイミド樹脂を加熱処理して、カルボキシル基とアミド結合とを反応させて閉環する工程を有することを特徴とするものである。
【0014】
このようにカルボキシル基とアミド結合とを反応させて閉環させ、イミド化することによって、ポイリミド樹脂基材の絶縁信頼性が高まるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリイミド樹脂の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を接触させ、さらに金属イオン含有溶液を接触させることによって、金属酸化物或いは半導体として析出させて無機薄膜をポリイミド樹脂表面に形成することができるものであり、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属を含む水溶液を用いる必要なく無機薄膜を形成することができ、アルカリ金属でポリイミド樹脂が分解されるようなおそれなく、簡便に効率良く無機薄膜を形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
ポリイミド樹脂は、主鎖に環状イミド構造を持ったポリマーであって、例えばポリアミック酸をイミド化することにより得られるものであり、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、難燃性、電気絶縁性等に優れた熱硬化性樹脂である。本発明ではこのポリイミド樹脂のフィルムや成形板などを基材として用いることができ、特に形態上の制限はない。
【0018】
そして本発明は、まず(1)工程で、このポリイミド樹脂の基材の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を接触させる。水酸化テトラアルキルアンモニウムのアルキル(R)としては、特に限定されるものではないが、炭素数1〜4のメチル、エチル、プロピル、ブチルが好ましい。アルキルの炭素数が5以上になると、水酸化テトラアルキルアンモニウムは水に溶解し難くなり、濃度調整が困難になって好ましくないものである。また水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液のアルカリ濃度は0.01〜4Mが好ましく、より好ましくは0.5〜3Mである。
【0019】
このようにポリイミド樹脂基材の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を接触させると、[化1]の反応式にみられるようなポリイミド樹脂の分子構造中のイミド環の開裂により、カルボキシル基(−COON(R):カルボン酸のテトラアルキルアンモニウム塩)とアミド結合(−CONH−)が生成される。
【0020】
【化1】

【0021】
ポリイミド樹脂基材の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を接触させるにあたっては、ポリイミド樹脂基材の全面に接触させるようにしても、表面の一部に選択的に接触させるようにしても、いずれでもよい。全面に接触させる場合は、ポリイミド樹脂基材を水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液に浸漬させる浸漬法などを採用することができ、また一部に選択的に接触させる場合は、所望のパターンでポリイミド樹脂基材の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を塗布することができるインクジェット法や、転写法などを採用することができる。
【0022】
上記のようにポリイミド樹脂基材1の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液2を接触させることによって、ポリイミド樹脂のイミド環が開裂してカルボキシル基が生成された改質層3が、ポリイミド樹脂基材1の表層に形成されるものであり、図1(a)のようにポリイミド樹脂基材1の表面の全面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液2を接触させると、図1(b)のようにポリイミド樹脂基材1の全面に改質層3が形成され、図2(a)のようにポリイミド樹脂基材1の表面の一部に選択的に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液2を接触させると、図2(b)のようにポリイミド樹脂基材1の表面にパターン形状で改質層3が形成されるものである。
【0023】
ここで、上記のようにポリイミド樹脂基材1の表面に接触した水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液2がポリイミド樹脂基材1に浸透するに従って、カルボキシル基を生成させるポリイミド樹脂の改質が進行するものであり、従って、水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液2との接触時間を長くしたり、ポリイミド樹脂基材1を加熱処理したりすることによって改質層3の厚みを増大させることができるものである。水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液2をポリイミド樹脂基材1の表面に塗布する際の処理温度は10〜80℃が好ましく、より好ましくは15〜60℃である。また処理時間は5〜1800秒が好ましく、より好ましくは30〜600秒である。
【0024】
上記のように(1)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面にカルボキシル基を生成させる改質層3を形成した後、(2)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面を金属イオン含有溶液で処理する。金属イオン含有溶液において、金属イオンとしては、金イオン、銀イオン、銅イオン、白金アンミン錯体、パラジウムアンミン錯体、タングステンイオン、タンタルイオン、チタンイオン、錫イオン、インジウムイオン、カドミウムイオン、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、そして亜鉛イオンから選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。これらの金属イオンのうち、白金アンミン錯体、パラジウムアンミン錯体はアルカリ溶液の状態で、それ以外の金属イオンは酸性溶液の状態で使用されるものである。
【0025】
そして、このようにポリイミド樹脂基材1の表面を金属イオン含有溶液で処理して、上記のようにカルボキシル基を生成させた改質層3に金属イオン含有溶液を接触させることによって、例えば
−COO…M2+OOC−
のようにカルボキシル基に金属イオン(M2+)を配位させてカルボキシル基の金属塩(カルボン酸の金属塩)を生成させることができるものであり、図1(c)や図2(c)のように改質層3の箇所に金属イオン含有改質層4を形成させることができるものである。ここで、ポリイミド樹脂に生成させたカルボキシル基中の水酸基と、テトラアルキルアンモニウムイオンと、金属イオンとの間の配位子交換を進行させるために、水酸基やテトラアルキルアンモニウムイオンの解離度を増加させる必要がある。このためにはポリイミド樹脂基材1を酸性状態に保つことが必要であり、従ってこの場合には金属イオン含有溶液として金属イオン含有酸性溶液を用いるのが好ましい。
【0026】
また、金属イオン含有溶液中の金属イオン濃度は、ポリイミド樹脂に生成させたカルボキシル基中の水酸基と、テトラアルキルアンモニウムイオンと、金属イオンとの配位子置換反応に密接な相関を示す。金属イオン種により異なるが、金属イオン濃度は1〜1000mMが好ましく、より好ましくは10〜500mMである。金属イオン濃度が低くなると、配位子置換の反応が平衡に達するまでの時間がかかるため好ましくない。ポリイミド樹脂基材1の表面への金属イオン含有溶液の接触時間は10〜600秒が好ましく、より好ましくは30〜420秒である。
【0027】
上記のように(2)の工程で、ポリイミド樹脂基材1の改質層3に金属イオン含有溶液を接触させ、カルボキシル基の金属塩を生成させた金属イオン含有改質層4を形成した後、水もしくはアルコールでポリイミド樹脂基材1の表面を洗浄し、不要な金属イオンを除去する。そして次に、(3)の工程で、金属イオン含有改質層4の金属塩を、金属として析出させ、もしくは金属酸化物或いは半導体として析出させ、ポリイミド樹脂基材1の金属イオン含有改質層4の表面に図1(d)や図2(d)に示すように、金属からなる無機薄膜5、もしくは金属酸化物或いは半導体からなる無機薄膜5を形成することができるものである。
【0028】
金属イオン含有改質層4に金属塩を金属として析出させる場合には、金属塩を還元処理することによって行なうことができる。還元処理は、例えば、還元剤を含む溶液でポリイミド樹脂基材1の表面を処理したり、還元ガスや不活性ガス雰囲気下でポリイミド樹脂基材1を熱処理したりすることによって行なうことができる。還元条件は金属イオン種により異なるが、還元剤を含む溶液で処理する場合、還元剤として、例えば水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸及びその塩、ジメチルアミンボラン等を使用することができる。また還元ガスで処理する場合、還元ガスとして、例えば水素及びその混合ガス、ボラン−窒素混合ガス等を使用することができ、不活性ガスで処理する場合、不活性ガスとして、例えば窒素ガス、アルゴンガス等を使用することができる。
【0029】
また、金属イオン含有改質層4の金属塩を金属酸化物或いは半導体として析出させる場合には、金属塩を活性ガスで処理することによって行なうことができる。処理条件は金属イオン種により異なるが、活性ガスとして、例えば酸素及びその混合ガス、窒素及びその混合ガス、硫黄及びその混合ガス等を使用し、ポリイミド樹脂基材1の表面を活性ガスと接触させることによって、処理を行なうことができる。
【0030】
ここで、金属酸化物としては、例えば酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、インジウム−錫複合酸化物、ニッケル−鉄複合酸化物、コバルト−鉄複合酸化物、などを挙げることができるものであり、このように金属酸化物からなる無機薄膜5をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することによって、例えば、コンデンサー、透明導電膜、放熱材、磁気記録材料、エレクトロクロミズム素子、センサー、触媒、発光材料などとして使用することができるものである。
【0031】
また半導体としては、例えば硫化カドミウム、テルル化カドミウム、セレン化カドミウム、硫化銀、硫化銅、リン化インジウム、などを挙げることができるものであり、このように半導体からなる無機薄膜5をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することによって、例えば、発光材料、トランジスタ、メモリー材料、などとして使用することができるものである。
【0032】
上記のように(3)の工程で形成される無機薄膜5を構成する金属、もしくは金属酸化物或いは半導体は、粒径2〜100nmのナノ粒子で構成されている。この無機ナノ粒子は、その極めて高い表面エネルギーのため容易に凝集され、無機ナノ粒子の集合体として存在するものである。そしてこのとき、上記の金属イオン濃度、還元剤濃度、雰囲気温度、活性ガス濃度の条件などにより程度は異なるものの、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂基材1の樹脂内で安定化しており、すなわち、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂の表層部内に埋包された状態となり、この際のアンカーロッキング効果によって、ポリイミド樹脂基材1と無機ナノ粒子の集合体からなる無機薄膜5とを強固に密着させることができるものである。特に、基材表面を化学的、もしくは物理的に粗化することにより得られる一般的なアンカーロッキング効果では、その表面粗さがμmオーダーであるが、本発明におけるような無機ナノ粒子とポリイミド樹脂とのアンカーロッキング効果は、表面粗さがナノスケールで優れた密着特性を得ることができるものであり、高周波領域の電子信号を伝達するための配線材料に適しているものである。
【0033】
上記のようにしてポリイミド樹脂基材1の表面に無機薄膜5を形成することができるものであり、図1(d)のようにポリイミド樹脂基材1の表面の全面に無機薄膜5を形成することができる他、図2(d)のように無機薄膜5をポリイミド樹脂基材1の表面の一部に選択的に形成することができるものである。ここで、図2(d)のように無機薄膜5を回路パターン形状に形成することによって、無機薄膜5で回路を形成することができ、ポリイミド樹脂基材1を電子回路基板などの電子部品として加工することができるものである。
【0034】
上記のようにポリイミド樹脂のイミド環状を開裂してこの部分に無機薄膜5を形成することができるが、(4)の工程で、ポリイミド樹脂基材1を加熱処理することによって、カルボキシル基とアミド結合を反応させて閉環することができる。このように、上記の(1)工程で生成したカルボキシル基とアミド結合を反応させて閉環し、イミド化することによって、ポリイミド樹脂基材1の電気絶縁の信頼性を高めることができるものである。この(4)工程における加熱処理条件は、カルボキシル基とアミド結合が反応して閉環できるものであれば限定されないが、具体的には、処理温度を100〜450℃程度、処理時間を1〜4時間程度に設定するのが好ましい。尚、(4)の加熱処理の工程は、(3)の工程に引き続いて行なうのが一般的であるが、後述の(5)工程の後であってもよい。さらに、(3)の工程が加熱処理を伴なうものであれば、(4)の加熱処理の工程を兼用させることもできるものである。
【0035】
ここで、上記の(3)の工程で形成される無機薄膜5は膜厚が10〜500nm程度である。一方、電子回路基板において回路は概ねμm単位の膜厚が必要である。このために、電子回路基板として使用する場合には、無機薄膜5に増膜を施して、回路の膜厚を厚く形成することが好ましい。すなわち、(3)あるいは(4)の工程の後に、(5)の工程で、ポリイミド樹脂基材1に設けた無機薄膜5の表面に無電解めっきを行ない、無機薄膜5の膜厚を無電解めっきで厚くすることができるものである。
【0036】
無電解めっきは、例えば、無電解めっき浴にポリイミド樹脂基材1を浸漬することによって行なうことができるものであり、無機薄膜5を形成する上記の無機ナノ粒子集合体をめっきの析出核として、無機薄膜5の表面に図1(e)や図2(e)のように無電解めっき膜6を析出させることができるものである。すなわち、無機ナノ粒子の集合体は、極めて広大な比表面積を有するので、優れた触媒活性を示すものであり、無電解めっき膜6を析出させるための析出核として利用する場合、多くの点から均一にめっき膜の析出が始まるため、良好な密着性と電気特性を示す無電解めっき膜6を得ることができるものである。尚、無電解めっき浴は、ポリイミド樹脂基材1の再改質を防ぐため、中性もしくは弱アルカリ性無電解めっき浴であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0038】
(実施例1)
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、商品名「カプトン200−H」)をエタノール溶液に浸漬し、5分間超音波洗浄を施したのち、オーブン中で100℃、60分間乾燥することにより、ポリイミドフィルムの表面を清浄化した。
【0039】
一方、2.85Mの濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を50℃に保ち、これにポリイミドフィルムを5分間浸漬させることによって、改質層を形成した(図1(b)参照)。この後、蒸留水で洗浄した。
【0040】
次に、金属イオン含有酸性溶液として50mMの濃度のCuSO水溶液を用い、この水溶液中にポリイミドフィルムを5分間浸漬し、改質層にCuイオンを配位して、金属イオン含有改質層を形成した(図1(c)参照)。この後、蒸留水で余分なCuSOを除去した。
【0041】
次に、還元溶液として0.5M濃度のジメチルアミンボラン水溶液を用い、この水溶液を50℃に保ち、ポリイミドフィルムを5分間浸漬した。その後、蒸留水で洗浄したところ、金属イオン含有改質層の表面部に銅薄膜の析出が確認された(図1(d)参照)。銅薄膜の厚みは300nm、銅薄膜の電気抵抗は5×10−3Ωcmであった。
【0042】
この後、窒素雰囲気下、300℃で1時間、加熱処理することにより、イミド化を行なった。
【0043】
さらに、ポリイミドフィルムを、50℃に温度調整した次の浴組成の中性無電解銅めっき浴に3時間浸漬した。
【0044】
CuCl :0.05M
エチレンジアミン :0.60M
Co(NO :0.15M
アスコルビン酸 :0.01M
2,2’−ビピリジル :20ppm
pH :6.75
そして無電解銅めっき膜が銅薄膜の上に析出し、膜厚が4μmの均一な銅めっき膜が得られた(図1(e)参照)。銅めっき膜の電気抵抗は3×10−5Ωcmであった。
【0045】
(実施例2)
実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にポリイミドフィルムを浸漬して改質層を形成した(図1(b)参照)。
【0046】
次に、0.1M濃度の硫酸インジウム水溶液と0.1M濃度の硫酸錫水溶液を混合し、インジウムイオンと錫イオンのモル比がインジウム/錫=15/85からなる金属イオン含有酸性水溶液を調製し、この金属イオン含有水溶液中にポリイミドフィルムを20分間浸漬し、改質層にインジウムイオンと錫イオンを配位させて、金属イオン含有改質層を形成した(図1(c)参照)。この後、蒸留水で余分な金属イオンを除去した。
【0047】
次にこのポリイミドフィルムを水素雰囲気下で350℃、3時間熱処理を行い、インジウム−錫合金からなるナノ粒子集合体を得た。この時、ナノ粒子集合体の膜厚は200nmであった。この後、ポリイミドフィルムを空気雰囲気下で300℃、6時間の条件で熱処理を行って、インジウム−錫合金を酸素と反応させることによって、ITO薄膜を形成させた(図1(d)参照)。このITO薄膜のシート抵抗は0.7Ω/□であった。
【0048】
(実施例3)
2.85M濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液100質量部に、増粘剤としてポリビニルピロリドン35質量部とグリセリン25質量部を加え、これを撹拌して溶解させた。
【0049】
次に、プリント・ヘッドのインクカートリッジに、この水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を充填し、サーマル方式のインクジェット印刷装置を用いて、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムの表面に線幅10μmの回路パターンを描画し、50℃で10分間熱処理した。その後、ポリイミドフィルムを1−プロパノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行ない、100℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図2(b)参照)。
【0050】
次に、50mM濃度の硝酸カドミウム水溶液からなる金属イオン含有酸性水溶液中にポリイミドフィルムを3分間浸漬し、改質層にカドミウム(II)イオンを配位させて、金属イオン含有改質層を形成した(図2(c)参照)。この後、蒸留水で余分な硝酸カドミウムを除去した。
【0051】
次に100ppm濃度の硫化ナトリウム、5mM濃度のリン酸水素二ナトリウム、5mM濃度のリン酸二水素カリウムの組成からなる水溶液を30℃に保ち、ポリイミドフィルムを20分間浸漬して硫化処理を行い、硫化カドミウムのナノ粒子集合体を得た。そして上記の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液による処理以降の処理を5回繰り返すことにより、硫化カドミウムのナノ粒子集合体の濃度を増加させた。
【0052】
この後、大気雰囲気下で300℃、5時間の条件で熱処理を行うことにより、硫化カドミウム薄膜を形成させた(図2(d)参照)。この硫化カドミムウム薄膜の膜厚は1.0μm、線幅は10μmであった。
【0053】
(比較試験)
次に、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とエチレンジアミン水溶液との改質効果の比較を行った。
【0054】
2.85M濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液と、5M濃度のエチレンジアミン水溶液を各々50℃に保持し、ポリイミドフィルムをそれぞれの水溶液に5分間浸漬させて改質層を形成し、蒸留水で洗浄した。次に、各ポリイミドフィルムを0.05M濃度の硝酸銀水溶液に5分間浸漬して、洗浄することによって、改質層に銀イオンを配位させた。そしてこれらの銀イオン含有ポリイミドフィルムを5質量%硝酸水溶液に浸漬することによって、ポリイミドフィルム中の銀イオンを取り出し、ICP発光分析装置により濃度測定を行った。
【0055】
この結果、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液により改質したポリイミドフィルムからは、約2800nmol/cm濃度の銀イオンが取り出され、エチレンジアミン水溶液により改質したポリイミドフィルムからは、約10nmol/cm濃度の銀イオンが取り出された。このように、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いるほうが銀イオンの配位が高く、効率的に無機薄膜を形成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、電子部品、機械部品、特にフレキシブル回路板、フレックスリジッド回路板、TAB用キャリアなどの回路板の製造に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)乃至(e)はそれぞれ概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、(a)乃至(e)はそれぞれ概略断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ポリイミド樹脂基材
2 水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液
3 改質層
4 金属イオン含有改質層
5 無機薄膜
6 無電解めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成するにあたって、(1)ポリイミド樹脂の表面に水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を接触させることによって、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂してカルボキシル基及びアミド結合を生成させる工程、(2)前記カルボキシル基及びアミド結合を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成させる工程、(3)前記金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程、とを有することを特徴とするポリイミド樹脂表面の無機薄膜形成方法。
【請求項2】
(4)ポリイミド樹脂を加熱処理して、カルボキシル基とアミド結合とを反応させて閉環する工程、を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド樹脂表面の無機薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−91456(P2008−91456A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268306(P2006−268306)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】