説明

ポリイミド樹脂

【課題】
高い透明性、溶剤溶解性、耐熱性、保存安定性を持つポリイミド樹脂を提供する。
【解決手段】
ジアミン成分として特定のフェニレンジアミン誘導体の塩を使用し、酸成分として脂環族テトラカルボン酸二無水物を使用し、これらの成分を−0.20Volt以上、0.34Volt以下の標準酸化還元電位を有する還元剤の存在下でイミド化反応させることによって得られるポリイミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニレンジアミン誘導体の塩と脂環族テトラカルボン酸二無水物から製造される、透明性、溶剤溶解性、耐熱性、保存安定性に優れたポリイミド樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは一般的に、高純度のテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を等モル量混合して、極性溶媒中で低温縮重合反応を行わせ、高分子量のポリアミック酸を生成させ、次いで、ポリアミック酸溶液をキャスト成形して、加熱または無水酢酸添加による化学処理によって脱水閉環反応を行わせることによって製造される。ポリイミドは、熱安定性が極めて高く、例えば電気絶縁材料、耐熱性被覆膜材料、高性能プリント回路基板材料などに有用な高分子物質である。
【0003】
上記ポリイミドの製造方法において、中間体として生成するポリアミック酸溶液は、常温の保存安定性に劣り、さらに熱に対して極めて不安定であるため、製品形態として安定なポリイミドの形が望まれる。しかしながら、ポリイミドは一般的に、溶解性が悪いため加工性に劣る問題である。さらに、ポリイミドは、光吸収が可視光領域の長波長まで延びているため透明性が悪い。
【0004】
フェノール基及びチオフェノール基を有するポリイミドは、優れた溶解性を持つため、半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜、バッファーコートなどの分野に有用な耐熱性と電気特性、機械特性等を併せ持つ材料として期待されている。また、近年、折り曲げ可能なペーパーライクディスプレイなどの開発に伴い、透明な耐熱性フィルムの必要性が増加している。有機ELや太陽電池分野でも現行のガラス基板に代わる透明な耐熱性フィルム基板が期待されている。
【0005】
一般に耐熱性に優れたポリイミドを無色透明化するために、脂環族モノマー成分を用いることにより、着色の原因となる分子内及び分子間での電荷移動錯体の形成を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。しかしながら、これらの方法によるポリイミドは、溶解性が乏しく、しかも高温加工が必要であるため、生産性が低下したり、高価な設備が必要となり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
また、特許文献3では、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオール、1,2,4,5−テトラアミノベンゼンなどのフェニレンジアミン誘導体の塩を、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸と縮重合反応させることによって、優れた耐熱性、寸法安定性及び強度を持つ、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾールなどのポリベンゾアゾールを製造する方法が提案されている。しかしながら、これらのフェニレンジアミン誘導体の塩とカルボン酸無水物を縮重合反応させるポリイミドの合成に関する研究は極めて少ない。
【0007】
上述したフェニレンジアミン誘導体の塩を出発原料として得られるポリイミドは、その製造が極めて困難である。その理由の一つとして、フェニレンジアミン誘導体が極めて酸化され易いという欠点が挙げられる。例えば、4,6−ジアミノレソルシンは酸化を防ぐため、通常は安定な無機酸塩の形で供給される。しかし、酸無水物と反応させて重合させる際に、4,6−ジアミノレソルシンの形に戻さなければならない。その場合、4,6−ジアミノレソルシンはすぐ酸化され、薄いピンクから赤、黒までに変色してしまい、高分子量のポリマーの合成が困難である上に、重合系の着色が大きくなり、得られたポリマーの透明性をはじめ諸物性に悪影響をもたらすことが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−161136号公報
【特許文献2】特開平7−10993号公報
【特許文献3】特開平11−60546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題に鑑み創案されたものであり、その目的は、高い透明性、溶剤溶解性、耐熱性、保存安定性を持つポリイミド樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意研究を続けた結果、特定の還元剤の存在下で酸化を抑制しながらフェニレンジアミン誘導体と脂環族テトラカルボン酸二無水物を反応させることにより、高い透明性と溶剤溶解性を有する高分子量のポリイミド樹脂が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)の構成を有するものである。
(1)ジアミン成分として下記一般式[I]又は一般式[II]で表されるフェニレンジアミン誘導体の塩を使用し、酸成分として脂環族テトラカルボン酸二無水物を使用し、これらの成分を−0.20Volt以上、0.34Volt以下の標準酸化還元電位を有する還元剤の存在下でイミド化反応させることによって得られることを特徴とするポリイミド樹脂:
【化1】

【化2】

式中、Rは一価の有機基であり、Xは一価の無機アニオンであり、Yは二価の無機アニオンである。
(2)前記ポリイミド樹脂を乾燥膜厚12.5μmのフィルムにした場合の波長500nmにおける前記ポリイミド樹脂の光線透過率が75%以上であることを特徴とする(1)に記載のポリイミド樹脂。
(3)ラクトン系重合触媒をさらに存在させてイミド化反応させることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリイミド樹脂。
(4)前記還元剤が塩化スズ(II)であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
(5)前記ラクトン系重合触媒がγ−バレロラクトンであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリイミド樹脂を含むことを特徴とするポリイミド形成体。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイミド樹脂は、特定の還元剤の存在下で酸化を抑制しながらフェニレンジアミン誘導体の塩と脂環族テトラカルボン酸二無水物とをイミド化反応させているので、高い透明性、溶剤溶解性を有しながら、耐熱性、保存安定性に優れた高分子量のポリイミド樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリイミド樹脂は、酸成分として脂環族構造を有するテトラカルボン酸無水物を使用し、ジアミン成分として特定のフェノール性水酸基を有するジアミン化合物の塩を使用し、これらを特定の還元剤の存在下でイミド化反応させることによって得られるものであり、高い透明性、溶剤溶解性、耐熱性、保存安定性を持つことを特徴とする。
【0014】
一般にポリイミド樹脂は有機溶剤に不溶であるため、可溶性を示す前駆体の状態で使用し、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドを形成することが必要である。この場合、350℃以上の高温プロセスを要するため、半導体用ワニスとして用いる場合には半導体装置の熱劣化を招く恐れがある。それに対して、本発明のポリイミド樹脂は、脱水閉環反応を経た後のポリイミド樹脂においても、優れた溶剤溶解性を示す。
【0015】
ここで溶剤溶解性とは、少なくとも1種の有機溶剤にポリイミド樹脂が30℃で1質量%以上溶解することを言う。有機溶媒の例としては、沸点が350℃以下のものが挙げられ、好ましい例としては、沸点300℃以下のものが挙げられ、さらに好ましい例としては、沸点250℃以下のものが挙げられる。具体例としては、p−クロロフェノール、m−クレゾールなどのフェノール系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、またはγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−プチロラクトン等の環状エステル溶媒などが挙げられる。
【0016】
本発明のポリイミド樹脂の酸成分に用いる脂環族テトラカルボン酸二無水物は、脂環族構造の導入により、分子内及び分子間での電荷移動錯体の形成を抑制すると同時に、分子内の共役結合を切断することにより、ポリイミド樹脂に高い透明性を与える。脂環族テトラカルボン酸二無水物は、ポリイミド樹脂の全酸成分を100モル%とした場合に、好ましくは50%モル以上、より好ましくは75%モル以上を占めることが好ましい。上記下限値未満では、得られたポリイミド樹脂の透明性が低下する傾向にある。
【0017】
脂環族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタン−1r,2c,4c−トリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、シクロへキサン−cis−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物,シクロへキサン−cis−1,2−trans−3,4−テトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,5−シクロオクタジン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−カルボキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,6−トリカルボン酸2,3:5,6−二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸2,3:5,6−二無水物、1−メチル−ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、7,8−ジフェニルビシクロ[2.2.2]オクタ−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4,6,7−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジフェニル−1,5−ジアザビシクロ[3.3.0]オクタン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[4.3.0]ノナン−3,4,7,9−テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ−7−エン−3,4,7,8−テトラカルボン酸二無水物、9−オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸二無水物、9、14−ジオキソペンタシクロ[8.2.11,11.14,7.02,10.03,8]テトラデカン−5,6,12,14−テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3,5,8,9−テトラカルボン酸二無水物、8−カルボキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3,5,9−トリカルボン酸二無水物、4−カルボキシメチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカン−5,9,10−トリカルボン酸二無水物、ペンタシクロ[9.2.1.18,11.05,13.07,12]ペンタデカン−2,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1α,4α:5β,8β−ジメタノデカリン−2β,3β,6β,7β−テトラカルボン酸2,3:6,7−二無水物、スピロ環構造を有するメタンテトラ酢酸二無水物、2,8−ジオキサスピロ[4.5]デカン−1,3,7,9−テロトン、rel−[1S,5R,6R]−3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、2,1’:5,6−(2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン)テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−デカメチレンジオキシビス(3,4−シクロヘキサンジカルボン酸無水物)、チオビス(2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物)、スルホニルビス(2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物)、5,5’−エチレンジオキシビス(2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物)などが挙げられる。
【0018】
一般に、脂肪族テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分によってポリイミドを重合する際に、中間生成物であるポリアミド酸とジアミンが強固な錯体を形成するために高分子量化しにくい。そのため、錯体の溶解性が比較的高い溶剤、例えばクレゾールなどを用いることが必要になる。しかし、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物及び1,2,4,5−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物をはじめとする脂環族テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分の場合には、ポリアミド酸とジアミンの錯体が比較的弱い結合で結ばれているので、高分子量化が比較的容易で、フレキシブルなフィルムを得ることができる。
【0019】
なお、本発明のポリイミド樹脂は、重合反応性、要求特性を損なわない範囲で、芳香族系テトラカルボン酸二無水物、芳香族系トリカルボン酸無水物、脂肪族系テトラカルボン酸二無水物などを共重合しても良い。
【0020】
本発明のポリイミド樹脂のジアミン成分に用いるフェニレンジアミン誘導体は、下記一般式[I]及び一般式[II]に示すようなフェノール性水酸基を有するフェニレンジアミン誘導体の塩である。このジアミン成分により、本発明のポリイミド樹脂は高い溶剤溶解性を示す。
【化1】

【化2】

式中、Rは一価の有機基であり、例えばアルキル基、水酸基、ハロゲン原子などが含まれる。Xは一価の無機アニオンであり、Yは二価の無機アニオンである。
【0021】
一般式[I]及び一般式[II]のフェニレンジアミン誘導体は、ポリイミド樹脂の全ジアミン成分を100モル%とした場合に、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上を占めることが好ましい。上記下限値未満では、ポリイミドの溶解性が悪くなるという恐れがある。
【0022】
フェニレンジアミン誘導体としては、アミドール、2,4−ジアミノフェノール硫酸塩、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩などを使用することができる。特に4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩が好ましい。
【0023】
なお、本発明のポリイミド樹脂は、重合反応性、要求特性を損なわない範囲で、一般式[I]や一般式[II]以外の芳香族系ジアミン成分、脂肪族系ジアミン成分を共重合しても良い。
【0024】
上記のポリイミド樹脂を製造する方法は、特定の還元剤を使用すること以外は、従来公知の方法を適宜採用することができる。例えば、ポリイミド樹脂は、上記の一般式[I]または一般式[II]で表されるフェニレンジアミン誘導体の塩を含むジアミン成分を、脱水した重合溶媒に溶解し、これに脂環族テトラカルボン酸二無水物を含む酸成分を添加し、窒素雰囲気で攪拌することによって製造することができる。
【0025】
本発明のポリイミド樹脂を合成する際の酸成分/ジアミン成分の混合比(モル比)は、好ましくは0.800〜1.200/1.200〜0.800、より好ましくは0.900〜1.100/1.100〜0.900、更に好ましくは0.950〜1.150/1.150〜0.950である。
【0026】
また、ポリイミド樹脂の分子末端封鎖のためにジカルボン酸無水物、トリカルボン酸無水物、アニリン誘導体などの末端封止剤を用いることができる。好ましい末端封止剤としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、エチニルアニリンが挙げられ、無水マレイン酸が特に好ましい。末端封止剤の使用量は、モノマー成分1モル当たり0.001〜1.0モル比である。
【0027】
本発明では、酸成分とジアミン成分のイミド化反応時に−0.20Volt以上、0.34Volt以下の標準酸化還元電位を有する還元剤を存在させることが極めて重要である。ここでの還元剤は、フェニレンジアミン誘導体の塩の酸化を防ぎ、ポリイミド樹脂を着色させない効果を持つ。フェニレンジアミン誘導体の塩の標準酸化還元電位は約0.35Voltであるため、この値以上の標準酸化還元電位を有する還元剤は酸化を抑制する効果が小さい。また、−0.20Volt未満の標準酸化還元電位を有する還元剤は、フェニレンジアミン誘導体塩酸塩を初め、反応物の副反応を招く恐れがあるので好ましくない。還元剤の具体例としては、TiCl、CuCl、SnCl(塩化スズ(II))などの金属塩、次亜燐酸、チオ硫酸ナトリウム等のリンまたは硫黄の還元性酸化物が挙げられる。この中で、特にTiCl、CuCl、SnClなどの金属塩化物が少量で効果が大きいので好ましい。特にSnCl及びその水和物は有機溶媒に可溶で、無色であるので最も好ましい。標準酸化還元電位の値は「化学便覧」日本化学会編、基礎編II、第1版を参照することができる。標準酸化還元電位は、標準電極電位とも言われ、水素圧が1気圧で溶液中の水素イオン単位活量である水素電極を基準電極として用いる電極電位であり、サイクリックボルタンメトリーにより測定することができる。なお、本発明における標準酸化還元電位とは、水中、25℃での値である。
【0028】
還元剤の使用量は、その種類により変動するが、0.01%以上(還元剤重量/フェニレンジアミン誘導体の塩の重量)含有していることが必要であり、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.5%以上含有することが好ましい。上記値未満の使用量では、還元剤による安定化の効果が充分でなく好ましくない。10%以上の使用量では、酸化防止効果は充分であるが、ポリマーの精製や廃液処理にコストの上昇を招くので、好ましくない。
【0029】
ポリイミド樹脂の合成時には重合触媒を使用することができる。重合触媒としては、例えば、γ−バレロラクトン、γ−ブチルラクトンあるいはγ−テトロン酸などが挙げられる。重合触媒の使用量は、フェニレンジアミン誘導体の塩の重量を基準として、0.001〜0.5重量%であることが好ましい。
【0030】
ポリイミド樹脂の合成時にはフェニレンジアミン誘導体の塩からフェニレンジアミン誘導体を生成するために塩基性化合物を使用することができる。塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムイオンの水酸化物又は炭酸塩、アミン化合物などが挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水などの無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンなどの第三アミン類、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニルムヒドロキシドなどの第四級アンモニウム塩アルカリ類などが挙げられる。特に塩基性及び後処理の観点から、トリエチルアミンの使用が好ましい。塩基性化合物の使用量は、塩基性化合物のモル数/フェニレンジアミン誘導体の塩のモル数で表わすと、好ましくは1.6〜2.4/1.2〜0.8、より好ましくは1.8〜2.2/1.1〜0.9、更に好ましくは1.9〜2.3/2.3〜1.9である。
【0031】
ポリイミド樹脂の合成時に使用する有機溶剤としては、原料モノマーおよび中間生成物であるポリアミド酸、生成物であるポリイミド樹脂のいずれにも溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等が挙げられる。これらの溶剤は、単独あるいは混合して使用することができる。有機溶剤の使用量は、仕込みモノマーを溶解するのに十分な量であればよい。モノマーの濃度は通常1〜50重量%であり、好ましくは5〜30重量%である。
【0032】
重合反応は、有機溶剤中で撹拌および/又は混合しながら、室温から60〜250℃の温度範囲まで、10分〜30時間連続して進めた後、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させても構わない。この場合に、酸成分とジアミン成分の添加順序には特に制限はないが、ジアミン成分の溶液中に酸成分を添加するのが好ましい。
【0033】
合成時には脱水剤を使用することができる。脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられる。脱水剤の含有量は、脱水剤の含有量(モル数)/ポリアミド酸の含有量(モル数)が0.01〜10.00となる範囲が好ましい。また、水を共沸させるために共溶媒を使用することができる。共溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0034】
さらに、ポリイミド樹脂の性能向上を目的として、例えば、機械的特性、電気的特性、滑り性、難燃性などを改良する目的で、ポリイミド樹脂溶液に、他の樹脂や有機化合物、及び無機化合物を混合させたり、あるいは反応させてもよい。これらの添加物は、その目的によって様々なものを採用することができ、特に限定されるものではない。また、添加方法、添加時期においても特に限定されるものではない。
【0035】
重合反応によって得られたポリイミド樹脂は、適当な貧溶媒を用いて反応溶液から再沈殿させても良い。貧溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、水などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。また、再沈殿した後の残存反応溶媒を除去する溶媒についても特に限定されないが、再沈殿させた際に用いた溶媒を使用することが好ましい。
【0036】
本発明では、反応溶液をそのままポリイミド樹脂溶液として利用しても良いし、反応溶液から上記手法で再沈殿させたポリイミド樹脂を再び溶媒に溶解させてポリイミド樹脂溶液を得てもよい。後者の場合、前述の有機溶剤を使用することができる。
【0037】
ポリイミド樹脂の分子量は、N−メチル−2−ピロリドン中(ポリマー濃度0.5g/dl)、30℃での対数粘度で、0.5から2.5dl/gに相当する分子量を有するものが好ましく、より好ましくは0.6から2.3dl/gに相当する分子量を有するものであり、さらに好ましくは0.7から2.0dl/gに相当する分子量を有するものである。対数粘度が上記範囲未満では、機械的特性が不十分となる場合があり、また上記範囲を超えると溶液粘度が高くなるため、成型加工が困難となることがあるので好ましくない。この対数粘度のコントロールは、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分のモル比を調整することにより達成できる。
【0038】
本発明のポリイミド成形体は、本発明のポリイミド樹脂溶液をキャスト法などにより成形加工することにより得ることができる。また、ポリイミド成形体は、使用用途・目的により、膜状、フィルム状、シート状、板状などの形態の樹脂成形体を得るために有用である。本発明のポリイミド成形体の製造方法は、低温成形することができることが特徴である。本発明のポリイミド樹脂を加熱圧縮することで所望の形のポリイミド形成体とすることもできる。また、一旦単離したポリイミドを、例えば重合の際に使用した溶媒に再溶解することもできる。
【実施例】
【0039】
本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の各特性は以下の方法で測定した。
【0040】
(1)光透過率
島津製作所(株)製紫外可視分光光度計(UV−2450)を用い、ポリイミド(膜厚約12.5μm)の可視・紫外線透過率を300nmから800nmの範囲で測定し、500nmにおける光透過率(%)を求めた。光透過率は75%以上であることが好ましい。
【0041】
(2)対数粘度
ポリマー濃度が0.5g/dlとなるようにN−メチルー2−ピロリドンに溶解し、その溶液の溶液粘度及び溶媒粘度を30℃でウベローデ型の粘度管により測定して下記の式で計算した。
対数粘度(dl/g)=[ln(V1/V2)]/V3
式中、V1はウベローデ型粘度管により測定した溶液粘度であり、V2はウベローデ型粘度管により測定した溶媒粘度であるが、V1及びV2はポリマー溶液及び溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)が粘度管のキャピラリーを通過する時間から求めた。また、V3は、ポリマー濃度(g/dl)である。
【0042】
(3)Tg
TMA(熱機械分析/理学電子株式会社製)引張荷重法によりポリイミドフィルムのガラス転移点(Tg)を以下の条件で測定した。なお、フィルムは、窒素中、昇温速度10℃/分でいったん変曲点まで昇温し、その後室温まで冷却したフィルムについて測定を行った。
荷重 :5g
サンプルサイズ:4(幅)×20(長さ)mm
昇温速度 :10℃/分
雰囲気 :窒素
【0043】
(4)溶剤溶解性
ポリイミド樹脂を30℃のNMP溶剤に浸漬した。ポリイミド樹脂が1重量%以上溶解する場合を可溶とした。
【0044】
(実施例1)
攪拌機を取り付けた100mLのセパラブル3つ口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取り付けることによって反応槽を構成し、この反応槽に、4,6−ジアミノレゾルシノール塩酸塩(DAR)2.13g、塩化スズ(II)0.20g、トリエチルアミン2.08g、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物2.24g、γ−バレロラクトン0.2g、ピリジン0.16g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)25mL及びトルエン8mLを入れ、室温及び窒素ガス雰囲気において攪拌機で10分間攪拌した。
【0045】
次いで、反応槽の内容物を180℃に加熱昇温させて5時間攪拌した。反応溶液は透明で均一であった。その後、室温まで冷却した。なお、反応中に生成した水は、シリコンコックより外部へ排除した。
【0046】
次に、得られた反応液にNMP20mLを添加して希釈した後、これを大量のメタノール中に投入することによって生成沈殿物を分離し、これに、粉砕、ろ過、洗清及び減圧乾燥処理を順に施すことによって白色のポリマーを採取した。このポリマーの赤外吸収スペクトルを測定したところ、1,715cm−1及び1,785cm−1の吸収帯において明確なイミド環の特性吸収が認められ、ポリイミドであることが示唆された。更に、ポリマーのH−NMRスペクトル(測定の際の溶媒はDMSO−d6)を測定したところ、10.1ppm付近でフェノール由来のピークが確認され、アミドNH由来のピークが消失したため、できたポリマーはポリイミドであることが確認された。
【0047】
次いで、得られたポリイミドをNMP溶液に溶かし(約13wt%)、シリコンウエハにキャストしてから、250℃の温度で1時間熱処理を行い、厚さ12.5μm付近のポリマーのフィルムを作製した。実施例1の評価結果を表1に示す。
【0048】
(実施例2)
4,6−ジアミノレゾルシノール塩酸塩の代わりに4,6−ジアミノレゾルシノール硫酸塩を使用し、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物の代わりに1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂を得た。また、実施例1と同様の方法でポリマーフィルムを得た。実施例2の評価結果を表1に示す。
【0049】
(実施例3,4)
塩化スズ(II)の代わりにそれぞれ塩化チタン、塩化銅を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂を得た。また、実施例1と同様の方法でポリマーフィルムを得た。ポリイミドの生成はIR及びNMRにより確認できた。実施例3,4の評価結果を表1に示す。
【0050】
(比較例1)
塩化スズ(II)を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして重合反応を行ったが、反応開始後まもなく重合系は着色して濁り、しばらくして真っ黒になった。反応終了後、黒いポリマーが得られた。また、実施例1と同様の方法でポリマーフィルムを得た。比較例1の評価結果を表1に示す。
【0051】
(比較例2)
塩化スズ(II)の代わりにPdを用いたこと以外は実施例1と同様にして重合反応を行ったが、反応進行とともに、重合系の着色が著しく、できたポリマーの色も濃かった。また、実施例1と同様の方法でポリマーフィルムを得た。比較例2の評価結果を表1に示す。
【0052】
(比較例3)
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物の代わりにピロメリット酸無水物を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂を得た。このポリイミド樹脂は黄色であった。また、実施例1と同様の方法でポリマーフィルムを得た。比較例3の評価結果を表1に示す。
【0053】
(比較例4)
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物の代わりにオキシジフタル酸無水物を用い、塩化スズ(II)の代わりに塩化チタンを用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂を得た。このポリイミド樹脂は薄黄色であった。また、実施例1と同様の方法でポリマーフィルムを得た。比較例4の評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例5)
4,6−ジアミノレゾルシノール塩酸塩の代わりにm−フェニレンジアミンを用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂を得た。反応系にポリイミドと見られる不溶物が確認された。比較例5の評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1〜4は、光透過率、溶剤溶解性に優れていたが、還元剤を使用しない比較例1、本発明の範囲外の還元剤を使用する比較例2、本発明と異なる酸成分を使用する比較例3,4、本発明と異なるジアミン成分を使用する比較例5はいずれも所望の特性を達成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリイミド樹脂は、透明性、溶剤溶解性、耐熱性、保存安定性に優れるので、半導体デバイスなどの製造における電気、電子絶縁材料として、特にICやLSIなどの半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜などに極めて有用である。さらに、折り曲げ可能なペーパーライクディスプレイや有機ELや太陽電池分野でも現行のガラス基板に代わる透明耐熱フィルム基板などに極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン成分として下記一般式[I]又は一般式[II]で表されるフェニレンジアミン誘導体の塩を使用し、酸成分として脂環族テトラカルボン酸二無水物を使用し、これらの成分を−0.20Volt以上、0.34Volt以下の標準酸化還元電位を有する還元剤の存在下でイミド化反応させることによって得られることを特徴とするポリイミド樹脂:
【化1】

【化2】

式中、Rは一価の有機基であり、Xは一価の無機アニオンであり、Yは二価の無機アニオンである。
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂を乾燥膜厚12.5μmのフィルムにした場合の波長500nmにおける前記ポリイミド樹脂の光線透過率が75%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【請求項3】
ラクトン系重合触媒をさらに存在させてイミド化反応させることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂。
【請求項4】
前記還元剤が塩化スズ(II)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
前記ラクトン系重合触媒がγ−バレロラクトンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド樹脂を含むことを特徴とするポリイミド形成体。

【公開番号】特開2011−219672(P2011−219672A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92166(P2010−92166)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】