説明

ポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜

【目的】耐熱性、機械的強度、電気特性(低誘電率)、透過・分離特性に優れ、成形性(製膜性)の良好な工業的に優位な低誘電絶縁材料および高効率分離膜を提供する。
【構成】芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応によって得られる分子内に多分岐構造を有する多分岐ポリイミドからなる低誘電絶縁材料および高効率分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気特性や物質の透過、分離選択性に優れた低誘電絶縁材料および高効率分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは耐熱性、機械的強度、電気特性、耐薬品性、気体分離特性や成形特性(プロセス特性)など多くの優れた特性を有することから、電気・電子材料、成形材料、フィルムなど高機能材料として広く工業的に使用されている。これらの多くは無水ピロメリット酸やビフェニルテトラカルボン酸二無水物の芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンとから得られる直鎖(線状)高分子である。しかしながら、これらのポリイミドは電気特性としては誘電率が高いという欠点がある。また、気体分離膜として分離選択性は高いが、透過速度が小さいという欠点がある。
【特許文献1】特開昭57−15819号公報
【特許文献2】特開昭60−82103号公報
【特許文献3】特開昭60−257805号公報 これらの中でポリイミドは耐熱性、機械的強度、製膜性に優れ、高い分離選択性を有することから工業的にも使用されている代表的な高分 子膜である。気体の分離に利用されているポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物と芳香族ジアミンとから得られるポリイミド膜、 ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとから得られるポリイミド膜、脂肪族系酸二無水物と芳香族ジアミンとから得られ るポリイミド膜、シロキサン変性芳香族ポリイミド等が知られている(特開昭 57-15,819号、特開昭 60-82,103号、特開昭 60-257,805号 及び特開平2-86820の各公報)。
【特許文献1】特開昭57−15819号公報
【特許文献2】特開昭60−82103号公報
【特許文献3】特開昭60−257805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ポリイミドは高い耐熱性に加え機械的強度、電気特性、プロセス特性などの諸特性にも優れ、成形材料やフィルムとして工業的に広く使用されている高分子材料である。しかしながら、電気特性の中でも誘電率が高く、集積度が高い半導体用絶縁膜などの用途には不十分であり、さらに低い誘電率を持つポリイミドの開発が望まれている。
また、分離膜としても高い耐熱性と分離特性を有することから優れた分離膜として工業的にも使用されている。しかしながら、透過速度が遅く、分離装置の小型化など物質の処理速度を高め、工業的にさらに優れた分離膜の開発が望まれている。
本発明は、かかる観点に鑑みて創案されたもので、従来のポリイミドの耐熱性、機械的強度、耐薬品性や成形特性(プロセス特性)を維持しつつ、誘電率などの電気特性や気体透過性などの機能を高め、工業的に優位なポリイミドを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、ポリイミドの優れた諸特性を維持しつつ、上記誘電率や透過速度を高めた工業的に優位なポリイミドの開発について鋭意検討を重ねた結果、
分子内に多分岐構造を有する得意な構造を持ったポリイミドが、ポリイミドが有する耐熱性、機械的強度、耐薬品性、成型性(プロセス特性)に低誘電率や高い気体透過特性を付与させた工業的にさらに優れたポリイミドとなることを見出し、本発明を達成するに至った。すなわち、本発明は芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応によって得られる多分岐ポリイミドからなる低誘電材料および高効率分離膜に関するものである。本発明によって得られる多分岐ポリイミドは、分子内に多分岐構造を有し、そのため分子内に多くの空隙を持ち、この空隙が誘電率の低下と物質の透過速度の向上という特性を与えている。これらの特性はポリイミドの特異な構造、すなわち、多分岐構造によって得られるものである。
本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜は多分岐ポリイミドからなるものであるが、さらに詳述すれば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応によって得られる多分岐ポリイミドからなるものである。
本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜は種々の製造法によって得られるが、基本的には芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応によって得られる。すなわち、芳香族テトラカルボン酸二無水物および/または芳香族トリアミンが可溶な有機溶媒中、室温程度の温和な条件で反応させて得られる反応性生物(ポリアミド酸:ポリイミド前駆体)をガラス、高分子フィルムや基板上にコーティング後、熱処理してイミド化しフィルムあるいは薄膜を調整するか、あるいは、得られたポリアミド酸溶液を熱処理(熱イミド化)するか、または、触媒で処理(化学イミド化)して多分岐ポリイミドを得、得られた溶液(ワニス)をガラス、高分子フィルムや基板上にコーティングしてフィルムあるいは薄膜を調整する方法が挙げられる。
本発明で使用されるポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜は基本的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応によって得られる分子内に多分岐構造を有する多分岐ポリイミドからなるものであれば良いが、芳香族トリアミンに芳香族ジアミンあるいはシロキサンジアミンを適当量併用して使用し、共重合しても差し支えない。
【0005】
本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜は多分岐ポリイミド分子中に多くの空隙(自由体積またはミクロボイド)を有し、電気特性(誘電率)の向上や気体の透過特性や分離特性を高めるのに有効であり、かつ、重要な役割を果たしている。したがって、本発明で製造されるポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜は半導体用電子材料、コーティング材料、塗料、分離膜などの工業材料として使用が可能である。
本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜を製造するために使用される化合物としては下記のような化合物が挙げられる。
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)2,2’−ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)などの化合物が挙げられる。これらの中で特に、4,4’−(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)が誘電率を低下させ、物質の透過速度を高めるのに優れており望ましい。
芳香族トリアミンとしては基本的には分子内に3個のアミノ基を有する化合物が使用される。これらの化合物としては、1,3,5−トリアミノベンゼン、トリス(4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)トリアジンなどが挙げられる。これらの化合物の中で1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)トリアジンが耐熱性の観点から特に望ましい。
また、芳香族トリアミンに共重合して使用しても差し支えない芳香族ジアミンあるいはシロキサンジアミンとしては、基本的には分子内に2個のアミノ基を有する化合物が使用される。これらの化合物としては、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニール、ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−アミノフェノキシフェニル]スルホン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフロロプロパン、ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−[フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフロロプロパン、9,9−ビス(アミノフェニル)フルオレンおよびビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ビス(アミノフェノキシ)ジメチルシランやビス(3−アミノプロピル)ポリメチルジシロキサンのジアミノシロキサン化合物が挙げられる。
さらに、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族トリアミンおよび芳香族ジアミンは上記化合物の炭化水素基(アルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基など)ハロゲン基、アルコキシ基、アセチル基、スルホン基などの置換基を有する誘導体も含まれる。
本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜の製造に使用される上記化合物は単独で使用しても良いが、2種以上の化合物を混合して使用しても差し支えない。
【0006】
また、本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜の製造に使用される反応溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチルスルホン、ヘキサメチルフォスホアミド等の非プロトン性極性溶媒や、m-クレゾール、o-クレゾール、m-クロロフェノール、o-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒などを挙げることができ、これらは単独又は2種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0007】
本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜を製造する反応は、比較的低温、例えば100℃以下の温度、好ましくは50℃以下の温度で行うのが良い。また、ポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜を製造する反応において使用される芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応は、芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分の反応モル比が1:0.3〜1:1.2、望ましくは1:0.4〜1:1.1の範囲で行うのが良い。
【0008】
本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜はフィルム、コーティング剤、分離膜など工業的に使用される。例えば,フィルム、コーティング剤、分離膜などに使用する場合の薄膜の製造方法としては、一般にポリイミドなどの高分子材料の場合と同様に下記の方法で製造することができる。すなわち、
(1)反応溶液をガラス、高分子フィルム等の基盤上に流延した後、加熱乾燥、熱処理する方法、
(2)反応溶液をガラス、高分子フィルム等基盤上にキャストした後、水、アルコール、ヘキサン等の受溶媒に浸漬し、ゲル化させた後、加熱乾燥、熱処理する方法、
(3)反応溶液を熱処理等の方法で予めイミド化させた後、溶液をキャスト法により製膜し乾燥する方法、
(4)反応溶液を熱処理等の方法で予めイミド化させた後、溶液を基板上にキャストした後、上記(2)と同様にポリマーの受溶媒に浸漬し、ゲル化させた後、加熱乾燥、熱処理する方法、
等が挙げられ、いずれの方法も用いることができる。
【0009】
本発明のポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜を使用する場合、上記の多分岐ポリイミドの他に、他の樹脂、特に他のポリイミド等を配合することができるほか、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、充填剤等を配合することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリイミド系低誘電絶縁材料および高効率分離膜は多分岐ポリイミドからなるものであり、分子内に多分岐構造を付与することによって直鎖状ポリイミドが有する耐熱性、機械的強度、成型性などの諸特性を損なうことなく、さらに低誘電率などの電気特性や物質の透過特性を向上させることが出来る。この特性から、多分岐ポリイミドからなるフィルム、薄膜やコーティング膜は低誘電絶縁材料や分離膜として優れた工業材料となる。特に、半導体用電子材料用の絶縁膜や気体分離膜、例えば、空気中の酸素/窒素分離膜や天然ガス中の炭酸ガス/メタン分離膜として優れた特性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、もとより本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
攪拌機、窒素導入管、塩化カルシウム管および温度計を備えた100mlの三つロブラスコにN-メチル-2-ピロリドン(NMP) 25mlを加え,1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TAPOB)1.0g(2.5ミリモル)を溶解させた。この溶液を窒素気流下に攪拌しながら、25mlに溶解させた4,4’−(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)1.1g(2.5 ミリモル)を徐々に加えた後、さらに25℃で3時間攪拌し、多分岐ポリアミド酸を合成した。得られた多分岐ポリアミド酸のNMP溶液をポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で2時間乾燥し多分岐ポリアミド酸フィルムを調整した。このフィルムを窒素雰囲気下に、100℃で1時間、200℃で1時間さらに300℃で1時間加熱処理し、多分岐ポリイミドフィルムを得た。
【0013】
この多分岐ポリイミドフィルムを窒素ガス中、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定(DSC)および熱重量測定(TGA)したところ、ガラス転移温度は297℃、熱分解温度(5%重量減少温度)は510℃であった。また、比誘電率(1MHz)は2.8と極めて低い値が得られた。
【0014】
さらに、この多分岐ポリイミドフィルムの赤外吸収スペクトル(FT−IR)を測定したところ、ポリアミド酸のカルボニル基に由来する1650cm−1の吸収は見られず、ポリイミドのカルボニル基に特徴的な1780cm−1、1720cm−1、1380cm−1および725cm−1の吸収が見られた。この結果より、多分岐ポリイミドフィルムが得られたことが確認できた。
この多分岐ポリイミドフィルムの気体透過測定を25℃で定容法(JIS規格試験法:JIS Z 1707)により行った。結果を表1に示す。
【0015】
実施例2および3
芳香族テトラカルボン酸二無水物として無水ピロメリット酸(PMDA)0.55g(2.5ミリモル)および2,2’−ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)1.3g(2.5ミリモル)を使用した以外は実施例1と同様にして多分岐ポリイミドフィルムを得た。これらの多分岐ポリイミドフィルムもFT−IRから多分岐ポリイミドフィルムが得られたことが確認できた。
この多分岐ポリイミドフィルムの気体透過測定結果を表1に、物性を表2まとめた。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】


【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明で製造されるポリイミド系低誘電材料および高効率分離膜は半導体用電子材料、コーティング材料、塗料、分離膜などの工業材料として使用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応によって得られる多分岐ポリイミドからなる低誘電材料。
【請求項2】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応によって得られる多分岐ポリイミドからなる分離膜。
【請求項3】
芳香族テトラカルボン酸二無水物が4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の低誘電材料および第2項記載の分離膜。
【請求項4】
芳香族トリアミンが1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)トリアジンであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の低誘電材料および第2項記載の分離膜。

【公開番号】特開2006−131706(P2006−131706A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320460(P2004−320460)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻1号」に発表
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】