説明

ポリウレタン分解物,ポリウレタン及びポリウレタン形成方法

【課題】ポリウレタン分解物中の一級アミンを二級アミンに変換させるとともに、ポリウレタン分解物を用いた再形成ポリウレタンの圧縮強度を向上させる。
【解決手段】廃ポリウレタンのグリコール分解物中に含まれるメチレンジアニリンをトリメリット酸無水物と反応させ、下記化合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタンを形成するポリオールに含有されるアミンの改質の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化,オゾン層破壊などの地球環境問題への意識の高まりとともに、近年廃棄物処理技術、特に廃プラスチックのリサイクル技術の研究開発が急速に進められている。廃プラスチックのリサイクル技術として化学的処理により原料として再生するケミカルリサイクルは資源の循環利用の観点から有用である。
【0003】
ポリウレタンのケミカルリサイクル技術の一つとしてグリコール分解法が知られている(特許文献1)。グリコール分解法は、廃ポリウレタンを過剰のジオール中で加熱混合することにより分解し、ポリオールを生成回収する方法である。このグリコール分解法においてはポリオール化合物とともに一級アミンを有する化合物、例えば、芳香族ジアミン類であるトルエンジアミン(TDA)およびメチレンジアニリン(MDA)等が生成する。
【0004】
グリコール分解法により得られた分解物(ポリオール)をポリウレタンの原料の一部としてポリウレタンを再形成する場合、分解物中の一級アミン類の量が重要になる。アミン類、例えばTDAおよびMDAはポリウレタンを形成する際の発泡,硬化速度に影響を及ぼすため、ウレタン原料中の量を一定にする必要がある。しかし、ウレタンを分解する際に生じるアミンは分解する廃棄ウレタンや分解条件,乾燥条件により生成する量が異なる。
【0005】
そこで、ポリウレタン分解物中の芳香族ジアミン類であるトルエンジアミン(TDA)およびメチレンジアニリン(MDA)をポリオールに変換する方法として、特許文献2〜3にアルキレンオキシドをアミンと反応させることによりアミンをポリオールに変換する方法が示されている。TDAは2つイソシアネート基と反応し、二級のアミノ基を2つ有する化合物に変換される。特許文献2によるとグリコール分解法により得られた分解混合物中の一級アミンをアルキレンオキシドと反応させ、ポリオールに変換することが記載されている。例えば、トルエンジアミンと反応させる場合、生成するアルコールは分子内に二級アミノ基を2つとアルコール性水酸基を2つ有している。このTDAがアルキレンオキシドと反応して形成される化合物は2つのイソシアネート基と反応し、二級のアミノ基を2つ有する化合物に変換される。すなわち、TDAもアルキレンオキシドとの反応により得られる化合物も同量のイソシアネート基と反応するため、反応点は増加していない。
【0006】
一方、回収ポリウレタングリコール分解法により得られる分解物はさまざまな回収ポリウレタンからなり、ポリウレタンの原料である未使用のポリオールと混合してイソシアネートと反応させることによりポリウレタンを形成することができる。しかしながら、回収ポリウレタングリコール分解法により得られる分解物を混合することにより、生成するポリオールの強度低下が生じてしまう等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭53−029359号公報
【特許文献2】特開平7−309816号公報
【特許文献3】特開平7−224141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ポリウレタン分解物中の一級アミンを二級アミンに変換させるとともに、ポリウレタン分解物を用いた再形成ポリウレタンの圧縮強度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリウレタンは、式1に示す構造を含むことを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
また、本発明のポリウレタン分解物は、ポリウレタンのグリコール分解物中に含まれるアミン類、例えば、トルエンジアミン及び/またはメチレンジアニリンを分子中にカルボン酸無水物とカルビキシル基または水酸基を有する化合物と反応させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリウレタン分解物中の一級アミンを二級アミンに変換させることができるとともに、本発明のポリウレタン分解物をもちいてポリウレタンを再形成する際に、ポリウレタン分解物を用いた再形成ポリウレタンの圧縮強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は4点注入により硬質ポリウレタンフォームを充填する外箱鉄板と内箱樹脂壁から成る冷蔵庫箱体及び、特性評価用に採取したフォームの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明は、ポリウレタンをグリコールにより分解し、得られた分解液を用いて再度形成するポリウレタンに関する。
【0016】
ポリウレタン分解剤には各種のグリコールを用いることができる。例えば、ジエチレングリコール,エチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール,ポリオキシエチレングリコール,ポリオキシプロピレングリコール等の二価アルコール、1,2,6−ヘキサントリオール,グリセリン等の三価アルコール、及び、ポリエチレングリコール等の重合体が挙げられる。
【0017】
ポリウレタンの分解に用いる分解剤の量はポリウレタンを液状化することができれば良く、ポリウレタンの重量に対し、30〜200%を用いることができる。用いる分解剤の量が多いと、再形成するポリウレタン中のポリウレタン分解物の量が少なくなってしまう。また、分解剤の量が少ないとポリウレタンを充分に液体に分解することができない。
【0018】
ポリウレタンのグリコール分解の際には、ポリウレタン及び分解剤のグリコール中に含まれる水による加水分解、あるいは熱分解によりトルエンジアミン(TDA)やメチレンジアニリン(MDA)等の一級アミン類が生成する。本発明のポリウレタン分解物はポリウレタンのグリコール分解物中に含まれる一級アミン類、例えば、TDA及び/またはMDAを分子中にカルボキシル基または水酸基とカルボン酸無水物を有する化合物と反応させることを特徴とする。アミン類、例えば、TDAは分子中にカルボキシル基とカルボン酸無水物を有する化合物、例えば、トリメリット酸無水物と反応することにより式2に示す化合物を生成する。式2に示す化合物は分子内に3つのカルボキシル基を有しており、TDAに比べイソシアネートと反応する部分を多く存在している。同様に、アミン類、例えば、MDAは分子中にカルボキシル基とカルボン酸無水物を有する化合物、例えば、トリメリット酸無水物と反応することにより式2に示す化合物を生成する。
【0019】
【化2】

【0020】
式2に示す化合物は分子内に3つのカルボキシル基を有しており、トルエンジアミンに比べイソシアネートと反応する部分を多く存在している。イソシアネートと反応する部分が増えることにより、形成されたポリウレタンの圧縮強度を増加させることができる。
【0021】
分解液中のアミン類反応させるカルボキシル基を有するカルボン酸無水物は分子内にカルボキシル基と酸無水物を有する化合物であれば良く、例えば、トリメリット酸無水物を用いることができる。トリメリット酸無水物の場合、融点が160℃以上の固体であるが、分解剤であるグリコール、例えばジエチレングリコールに可溶であるので、分解液中に溶解させ、分解液中のアミン類と反応させることができる。
【0022】
分解液中の一級アミン類とカルボキシル基または水酸基とカルボン酸無水物を有する化合物を反応させる場合、反応温度は100℃以下が望ましい。反応温度が高いとカルボキシル基とアミノ基の縮合やポリウレタンの分解剤であるアルコールと酸無水物が反応してしまうので好ましくない。また、反応温度が低いとアミン類と酸無水物が充分に反応せず、充分な効果が期待できない。
【0023】
分解液中の一級アミン類とカルボキシル基または水酸基を有するカルボン酸無水物を反応させる量はポリウレタン分解液中に含まれる一級アミノ基と同量であることが望ましいが、過剰にカルボキシル基を有する酸無水物を加えると、生成した二級アミンとの反応やポリウレタンを再形成する際に使用するアミン系触媒との反応等が予測され望ましくはないが、分解液に過剰にカルボキシル基を有するカルボン酸無水物化合物を加えた場合でもカルボキシル基及び酸無水物はポリウレタン再形成の際に添加されるイソシアネートと容易に反応し、樹脂を形成する。
【0024】
分解液中の一級アミン類の量は分解液に添加するカルボキシル基または水酸基を有するカルボン酸無水物の量により制御できるが、分解液に添加するカルボキシル基または水酸基を有するカルボン酸無水物の量を分解液中の一級アミンの量よりも過剰に添加した場合でも、アミンとの反応後、溶液の温度を上げ、酸無水物を二級アミンや水酸基と反応させて消費した後、再度、TDAやMDA等の一級アミンを添加することによりポリウレタン原料中の一級アミン量を制御できる。
【0025】
分解液を用いてポリウレタンを再形成する場合、一級アミン類、例えば、TDAを分子中にカルボキシル基または水酸基とカルボン酸無水物を有する化合物、例えば、トリメリット酸無水物と反応させて得られた分解液はイソシアネートと反応させることにより式1に示す構造を有するポリウレタンを形成することができる。
【0026】
【化3】

【0027】
この際に分解物を任意の割合で分解物以外のポリオールと混合しイソシアネートと反応させても良い。
【0028】
用いることのできる分解物以外のポリオールは分子内に水酸基を2つ以上有する化合物であれば特に限定されない。例えば、エチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール,テトラメチレングリコール,グリセリン,ソルビトール,蔗糖,ビスフェノールA等の多官能アルコールを用いることができる。
【0029】
分解液中の一級アミン類とカルボキシル基または水酸基を有するカルボン酸無水物を反応させることにより得られる分解液を用いて再形成したポリウレタンは分解液中のアミン類を除かずに用いて再形成したポリウレタンに比べて圧縮強度が高くなっている。これは、カルボキシル基を有する酸無水物とアミン類を反応させることにより、架橋点が増えたことによる効果である。
【0030】
ポリウレタンの分解剤の一部または全部にアミンを用いた場合にも本発明は有効である。分解剤にアミン化合物が含まれる場合、分解剤に含まれるアミン化合物ともカルボキシル基を有する酸無水物は反応し、アミン化合物がイソシアネートと反応する部分を増やすことができる。
【0031】
[実施例]
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0032】
以下、試料1について、その作製方法と、物性値の測定方法を説明する。
【0033】
廃棄冷蔵庫より分別回収したポリウレタン30gにジエチレングリコール30gを加え、180℃に加熱し、5時間撹拌することにより、ポリウレタンのグリコール分解溶液60gを得た。GCにて分析したところ得られた分解液中には1.5wt%の4,4−メチレンジアニリンが含まれていた。得られたポリウレタン分解溶液をろ過し、トリメリット酸無水物を1.2g添加して、80℃にて30分撹拌した。得られた溶液は液体クロマトグラフ質量分析法(LC−MS)にて式3の化合物の生成を確認した。
【0034】
【化4】

【0035】
ついで、トリレンジアミン系ポリエーテルポリオールとトリエタノールアミン系ポリエーテルポリオール及びビスフェノールA系ポリエーテル等を適量混合したポリオールにポリウレタン分解溶液を10wt%加え200gとした後、発泡剤としてシクロペンタン,シリコーン系整泡剤,触媒を混合したものに補助発泡剤に水を適量混合したポリオールプレミックス液とした。ポリオールプレミックス液にポリメチレンポリフェニルジイソシアネート(MDI)系イソシアネートを加え、高圧発泡機によって図1に示す外箱鉄板と内箱樹脂壁から成る冷蔵庫箱体に充填し、断熱箱体を得た。その際、自由発泡時のポリウレタンフォーム量に対して110%の混合液を40℃に加熱し、発泡した。図1に4点注入により硬質ポリウレタンフォームを充填する外箱鉄板と内箱樹脂壁から成る冷蔵庫箱体及び、特性評価用に採取したフォームの模式図を示す。
【0036】
形成したポリウレタンの圧縮強度はウレタン注入口から少なくとも500mm以上離れたウレタン充填された断熱材部分から、50mm×50mm×35(t)mmのフォームを送り速度5mm/minで負荷し、10%変形時の応力で測定した。
【0037】
試料2〜5の作製方法は、以下の通りである。
【0038】
試料2:試料1で使用したトリメリット酸無水物の1/2倍の量を使用して、試料1と同様にポリウレタン分解液をトリメリット酸無水物で処理し、試料1と同様の方法により、ポリウレタンを再形成し、試料2を得た。
【0039】
試料3:試料1で使用したトリメリット酸無水物の2倍の量を使用して、試料1と同様にポリウレタン分解液をトリメリット酸無水物で処理し、試料1と同様の方法により、ポリウレタンを再形成し、試料3を得た。
【0040】
試料4:試料1と同様の方法によりポリウレタン分解物を形成した後、ポリウレタン分解物にトリメリット酸無水物を加えて加熱する際、120℃に加熱して、試料1と同様の方法によりポリウレタンを再形成し、試料4を得た。
【0041】
試料5:試料1と同様の方法によりポリウレタン分解物を形成し、ポリウレタン分解物にトリメリット酸無水物を加えて加熱した後、トリレンジアミン系ポリエーテルポリオールとトリエタノールアミン系ポリエーテルポリオール及びビスフェノールA系ポリエーテル等を適量混合したポリオールにポリウレタン分解溶液を20wt%加え、試料1と同様の方法によりポリウレタンを再形成し、試料5を得た。
【0042】
[比較例1]
以下、試料6と7について、その作製方法および物性値の測定方法を説明する。
【0043】
試料6:実施例1と同様の方法によりポリウレタン分解物を形成した後、トリメリット酸無水物を加えずに実施例1と同様の方法によりポリウレタンを再形成した。
【0044】
試料7:実施例1と同様の方法によりポリウレタン分解物を形成した後、ポリウレタン分解物にトリメリット酸無水物を加えて加熱する際、180℃に加熱して、実施例1と同様の方法によりポリウレタンを再形成した。
【0045】
【表1】

【0046】
試料1〜7を用いて形成したポリウレタンの圧縮応力を比較すると、実施例1の試料1〜5のいずれの試料においても、比較例1の試料6に示したトリメリット酸無水物による処理を行わなかった分解液を用いて形成したポリウレタンに比べ高い圧縮応力であった。
また、120℃及び80℃でトリメリット酸無水物のよる処理を行った分解液を用いて形成した実施例1のいずれの試料においても、比較例1の試料7に示した180℃でトリメリット酸無水物のよる処理を行った分解液を用いて形成したポリウレタンに比べ高い圧縮応力であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のポリウレタンは、例えば、冷蔵庫用の断熱材に適用することができ、冷蔵庫用ポリウレタンのリサイクル利用に好適である。
【符号の説明】
【0048】
1 ウレタン注入ヘッド
2 ウレタン注入口
3 断熱箱体
4 外箱鉄板
5 内箱樹脂壁
6 特性評価サンプル採取位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1に示す構造を含むことを特徴とするポリウレタン。
【化1】

【請求項2】
式2に示す化合物を含むことを特徴とするポリウレタンのグリコール分解物。
【化2】

【請求項3】
ポリウレタンのグリコール分解物中に含まれるトルエンジアミン及び/またはメチレンジアニリンを、分子中にカルボン酸無水物または水酸基とカルボキシル基を有する化合物と反応させることを特徴とするポリウレタン分解物。
【請求項4】
請求項3で得られた分解液を用いて形成することを特徴とするポリウレタン。
【請求項5】
請求項4に記載のポリウレタンを用いたことを特徴とする冷蔵庫用断熱材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72280(P2012−72280A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218062(P2010−218062)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】