説明

ポリウレタン弾性繊維

【課題】空気中の窒素酸化物(NOx)や燃焼ガスによる着色変化に対して安定化され、かつ光による変色や脆化に対しても安定化されたポリウレタン弾性繊維を提供する。
【解決手段】特定の三種類の化合物(分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物と、亜リン酸エステル系酸化防止剤と、フェノール系酸化防止剤)を組み合わせて使用したポリウレタン弾性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン弾性繊維に関する。さらに詳しくは、空気中の窒素酸化物(NOx)や燃焼ガスによる着色変化に対して安定化され、かつ光や洗濯、皮脂等による変色や脆化に対しても安定化されたポリウレタン弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維は、その優れた伸縮特性からポリアミド繊維、ポリエステル繊維やセルロース繊維等と混用されてレッグ衣料、インナー衣料、スポーツ衣料などに幅広く使用されている。
ポリウレタン弾性繊維を使用した商品に対しては、劣化や着色に対して十分な安定性が要求されている。従来から、その目的のために、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物、ベンゾトリアゾール系またはベンゾフェノン系またはサルチル酸系の紫外線吸収剤、さらには酸ヒドラジド化合物など種々の化合物を添加することも提案されているが、十分に満足するものはなかった。
【0003】
ある程度の効果を示す化合物、たとえば、分子量の高いフェノール系化合物(特許文献1)は、ポリウレタンとの相溶性が良好で、ドライクリーニングにも安定であり耐劣化、及び耐着色に優れていると記載されているが、NOxガスによる着色安定性に対しては十分満足できるものではなかった。このフェノール系酸化防止剤と脂肪族第三級アミノ基を分子内にもつウレタン化合物との併用についても記載されているが、亜リン酸系酸化防止剤との組合せについての記載はない。
また、分子内に3級窒素とセミカルバジド基を有する化合物(特許文献2)に関しては、分子量が高く、かつ分子量分布が狭いことにより、スカム生成を防ぎ、かつ耐光脆化性を大幅に改善することが記載されているが、十分に満足できるものではなかった。この特許の中で、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤との相乗効果についても記載されているが、亜リン酸エステル系酸化防止剤についての記載はない。
【0004】
また、置換フェノール化合物と亜リン酸エステル系の相乗効果(特許文献3)について述べられているが、紫外線やガスによる変色に対する安定化効果は十分満足できるレベルではなく。この特許には、分子内に3級窒素とセミカルバジド基を有する化合物についての記載はない。
また、フェノール系酸化防止剤と、亜リン酸エステル系酸化防止剤と、ヒンダードアミン化合物を配合したポリウレタン組成物(特許文献4)は、NOxによる変色劣化に対して十分に安定化されていると記載されているが、これらの組成では、耐塩素性が低下してしまい、洗濯時に放置され長時間水道水に晒された時に水中の塩素によって着色、脆化するという問題点があった。
【特許文献1】特公平5−24246号公報
【特許文献2】特公平2−34985号公報
【特許文献3】特公昭46−26873号公報
【特許文献4】特開2000−239519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、NOxや燃焼ガスなどによる変色、および光による変色や脆化を抑制し、かつ洗濯や皮脂による脆化、黄変などの一般的な消費状況において問題を起こさないポリウレタン弾性繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、本発明をなすに至った。すなわち、特定の三種類の化合物を組み合わせて使用することで、NOxや燃焼ガスなどによる変色、および光による変色や脆化を抑制し、かつ洗濯や皮脂による脆化、黄変などの一般的な消費状況において問題を起こさないポリウレタン弾性繊維を得られる事を見出し、本発明に至った。本発明は下記の通りである。
分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物と、亜リン酸エステル系酸化防止剤と、フェノール系酸化防止剤を含有させてなることを特徴とするポリウレタン弾性繊維であり、分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数づつ個含有する化合物が、下記
一般式(1);
【0007】
【化1】

【0008】
[但し、上記一般式中Xは下記式(2);
【0009】
【化2】

【0010】
又は下記式(3);
【0011】
【化3】

【0012】
で示される基であり、Y、Y、Y、Yのうち少なくとも3つは一般式(4);
【0013】
【化4】

【0014】
{但し、式中R、Rはアルキル基であって、R、Rのうち少なくとも1つは一級炭素により(4)式の窒素原子と結合しており、R、Rの炭素数の合計は4以上であるものとする。また、Zは一般式(5);
【0015】
【化5】

【0016】
(但し、式中R、Rは同一または相異なる炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
で示される基である。但し、化合物(1)中には一般式(5)で示される基が少なくとも3個存在するものとする。}
で示される基であり、他の基が存在する場合にはこの基はグリシジル誘導体基である。]
で表される、分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物と、亜リン酸エステル系酸化防止剤と、フェノール系酸化防止剤を含有させてなることを特徴とするポリウレタン弾性繊維であり、
並びに、亜リン酸系酸化防止剤が下記一般式(6);
【0017】
【化6】

【0018】
で表される構造を含む水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマーであるポリウレタン弾性繊維であり、
並びに、フェノール系酸化防止剤が下記一般式(7);
【0019】
【化7】

【0020】
(但し、式中R1は、炭素原子数1〜6のアルキル基、R2は炭素原子数4から9のアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基、R3、R4は、水素原子又はメチル基を示し、nは繰返し単位の数で、5〜20の正の整数を示す。)
で表されるポリウレタン弾性繊維であり、
並びに、分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個含有する化合物の含有量が0.1〜10重量%、亜リン酸エステル系酸化防止剤の含有量が0.1〜5重量%、フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1〜5重量%であるポリウレタン弾性繊維である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるポリウレタン弾性繊維は、優れた耐変色性を有しており、白や淡色で使用されることが多く、耐変色性が要求されるインナー分野やポリウレタン弾性繊維が表面から見え易いレース分野などに特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明は、分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物と、亜リン酸エステル系酸化防止剤と、フェノール系酸化防止剤を含有させてなることを特徴とする。
分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物を製造する手段を例示すると、N,N,N’,N’−テトラグリシジルメタキシリレンジアミン(以下、TGXと記す)あるいは1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(以下、TGHと記す)と、そのエポキシに当量のジアルキルアミン類を反応させた化合物を得る。次いで、この化合物の二級アルコール基の当量とモル量で対応するイソホロンジイソシアネートを、即ち、イソホロンジイソシアネートにある2種のイソシアネート基のうちより反応性の高いイソシアネートを反応せしめて、下記一般式(8);
【0023】
【化8】

【0024】
(ここで、X、R1、R2は、式(2)、(3)、(4)で説明した基と同一のものを表す。)
で表される化合物を得る。次いで、一般式(8)で示す化合物のイソシアネート基に当量のN,N−ジアルキルヒドラジンを反応させて、本発明の化合物を得る。
【0025】
本発明で用いられる4官能のエポキシ化合物であるTGX、TGHは、それぞれ、メタキシリレンジアミンとエピクロルヒドリン、あるいは1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとエピクロルヒドリンとの反応で得られる。他の脂肪族ジアミン、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)エーテルパラキシリレンジアミン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等のジアミンとエピクロルヒドリンとの反応で4官能のエポキシ化合物を得ることができ、TGX、TGHと同様に本発明の原料である4官能エポキシ化合物として用い得る。ジアルキルアミンとしては、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、N−メチル−N−iso−ブチルアミン、ジメタクリルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ジベンジルアミン、N−メチル−N−ラウリルアミン等の二級アミンが例示される。
【0026】
ジイソシアネートとしては、2種のイソシアネート基間の反応性の差が大きいものであることが必要であり、そのようなものとして一般に容易に入手できるのは、イソホロンジイソシアネートである。N,N−ジアルキルヒドラジンとしては、N,N−ジメチルヒドラジン、N,N−ジエチルヒドラジン、N,N−ジイソプロピルヒドラジン、N−メチル−N−エチルヒドラジン等が例示されるが、アルキル基は炭素数が1以上であれば少ない方が好ましく、4以下の炭素数のアルキル基が好ましい。特に好ましいのは、N,N−ジメチルヒドラジンである。これらのN,N−ジアルキルヒドラジンは混合して使用されても良い。
【0027】
亜リン酸エステル系酸化防止剤としては、任意の公知の化合物を用いることができる。ポリウレタンへの相溶性などを考慮して、適当なものを選択することができる。亜リン酸エステル系の化合物としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス[2,4ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスファイト、テトラ(C12〜C15アルキル)−4,4’−イソプロピリデンフェニルフォスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルフォスファイト)、トリステアリルフォスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールフォスファイトポリマー、水添ビスフェノールA・フォスファイトポリマー、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリクレジルフォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)フォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリラウリルフォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、トリオレイルフォスファイト、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)フォスファイト、ジフェニルモノデシルフォスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)フォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、ジエチルハイドロゲンフォスファイト、ジラウリルハイドロゲンフォスファイト、ジオレイルハイドロゲンフォスファイト、ジフェニルハイドロゲンフォスファイトなどが挙げられる。なかでも、式(6)で表される構造を含む水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールフォスファイトポリマーが好ましい。
【0028】
フェノール系酸化防止剤としては、任意の公知の化合物を用いることができる。ポリウレタンへの相溶性などを考慮して、適当なものを選択することができる。フォノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]や、以下商品名で示す、イルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ)、イルガノックス1076(チバスペシャリティケミカルズ)、イルガノックス565(チバスペシャリティケミカルズ)、イルガノックス1035(チバスペシャリティケミカルズ)、イルガノックス1330(チバスペシャリティケミカルズ)、スミライザーGA−80(住友化学)、サイアノックス2246(サイテック)、サイアノックス1790(サイテック)、ロウイノックスCPL(グレートレイク)、ロウイノックスGP−45(グレートレイク)、ロウイノックスHD−98(グレートレイク)、下記一般式(7);
【0029】
【化9】

【0030】
(但し、式中R1は、炭素原子数1〜6のアルキル基、R2は炭素原子数4から9のアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基、R3、R4は、水素原子又はメチル基を示し、nは繰返し単位の数で、5〜20の正の整数を示す。)に示される化合物などが挙げられる。なかでも、上記一般式(7)で示される化合物が好ましい。この化合物の一般的な合成方法については、特公平5−24246号公報に開示されている。
【0031】
本発明における安定剤のポリウレタンへの添加量は、NOxや燃焼ガスなどによる変色、および光による変色や脆化を抑制するために必要な量であれば良く、必要以上の存在は副作用を引起したりするので好ましくない。分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物の含有量は0.1〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%がさらに好ましい。亜リン酸エステル系酸化防止剤の含有量は0.1〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%がさらに好ましい。フェノール系酸化防止剤の含有量は0.1〜10重量%であることが好ましく、0.1〜5重量%がさらに好ましい。
【0032】
本発明に用いられるポリウレタンは、例えば、数平均分子量が600〜5000であるポリマーグリコールと有機ジイソシアネートを反応させてソフトセグメントとなるウレタン中間重合体を合成後、鎖延長剤でハードセグメントを重合するといった公知の技術を用いることができる。鎖延長剤として、低分子ジオールを用いるとハードセグメントがウレタン結合からなるポリウレタン重合体となり、また、2官能性アミンを用いるとハードセグメントがウレア結合からなるポリウレタンウレア重合体を得ることができる。末端停止剤としては、1官能性アミン、モノアルコールのうちいずれも使用でき、鎖延長剤と混ぜて使用しても、別々に使用してもよい。
【0033】
ポリマーグリコールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール等のホモポリエーテルジオール、又は炭素原子数2から6の2種以上のオキシアルキレンから構成される共重合ポリエーテルジオール、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸、マロン酸等の二塩基酸の一種または二種以上とエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール,1,3−プロピレングリコール,2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール,1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロヘキサン等のグリコールの一種または二種以上とから得られたポリエステルジオール、又は、ポリエステルアミドジオール、ポリエステルエーテルジオール、又はポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール等のポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリチオエステルジオール、又はこれらジオールの共重合物、混合物等が挙げられる。
【0034】
有機ジイソシアネートとしては、例えば、メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)、メチレン−ビス(3−メチル−4−フェニルイソシアネート)、2,4−トリレンジイソシアネート、2、6−トリレンジイソシアネート、m−及びp−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、m−及びp−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジメチル−1,3−キシリレンジイソシアネート、1−アルキルフェニレン−2,4及び2,6−ジイソシアネート、3−(α−イソシアネートエチル)フェニルイソシアネート、2,6−ジエチルフェニレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニル−ジメチルメタン−4,4−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−及び1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
多官能性活性水素原子を有する鎖延長剤としては、例えば、ヒドラジン、ポリヒドラジン、炭素原子数2〜10の直鎖または分岐した脂肪族、脂環族、芳香族の活性水素を有するアミノ基を持つ化合物で例えばエチレンジアミン、1,2プロピレンジアミン、特開平5−155841号公報に記載されているウレア基を有するジアミン類等のジアミン、ヒドロキシルアミン、水等、また低分子量のグリコール、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロヘキサン等を用いることが出来る。好ましくは、エチレンジアミン、1,2プロピレンジアミンである。
【0036】
単官能性活性水素原子を有する末端停止剤としては、例えば、ジエチルアミンのようなジアルキルアミン等やエタノールのようなアルキルアルコール等が用いられる。これらの鎖伸長剤、末端停止剤は、単独又は、2種以上混合して用いても良い。
このポリウレタンには、本発明のポリアミド微粒子以外に、ポリウレタン弾性繊維に通常用いられる他の化合物、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、艶消し剤、充填剤等を添加してもよい。
このようにして得られたポリウレタンは、公知の乾式紡糸、湿式紡糸、溶融紡糸等で繊維状に成形し、ポリウレタン弾性繊維を製造することができる。
【0037】
本発明の繊維を得るための化合物のポリウレタンへの配合は、ポリウレタンを製造する任意の段階で添加して行うことができるが、ポリウレタン重合終了後、脱泡、紡糸工程の前に混合するのが好ましい。
得られたポリウレタン弾性繊維に、ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性シリコン、ポリエーテル変性シリコン、アミノ変性シリコン、鉱物油、鉱物性微粒子、例えばシリカ、コロイダルアルミナ、タルク等、高級脂肪酸金属塩粉末、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等、高級脂肪族カルボン酸、高級脂肪族アルコール、パラフィン、ポリエチレン等の常温で固形状ワックス等の油剤を単独、又は必要に応じて任意に組合わせて付与してもよい。
【0038】
本発明のポリウレタン弾性繊維が含有された布帛は、レッグ衣料、インナー衣料、スポーツ衣料、アウター衣料等に好適に用いられる。レッグ衣料としては、パンティストッキング、タイツ、膝上ストッキング、ハイソックス、ショートソックスなど、インナー衣料としては、肌着、ショーツ、ガードル、ボディーファーなど、スポーツ衣料としては、水着、スパッツ、レオタードなど、アウター衣料としては、ストレッチパンツ、ジーンズなど、おしゃれを目的に使用されるものであれば、空気中の窒素酸化物(NOx)や燃焼ガスによる着色変化に対して安定化され、かつ光による変色や脆化に対しても安定化された外観品位の優れた衣料品を得ることができ、特に好ましい。
【実施例】
【0039】
本発明について、以下具体的に説明する。本発明を実施例で更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例等における測定値は、下記の測定法により求めたものである。
[NOxガスによる変色]
Ph4.2の水で30分ボイル処理した繊維のかせを、NOxガスによる変色試験に使用した。JIS L 0855−2005に準じて3ユニット、5ユニットの強試験を行った。着色度は、1級・・・褐色、2級・・・黄褐色、3級・・・黄色、4級・・・淡黄色、5級・・・無着色の5ランクに分けて目視判別した。ただし、色相が各級の中間にある場合には、上の級から0.5級を減じる方法で表示した。
【0040】
[燃焼ガスによる変色]
Ph4.2の水で30分ボイル処理した繊維のかせを燃焼ガスによる変色試験に使用した。AATCC−23に準じて試験を行った。着色度は、1級・・・褐色、2級・・・黄褐色、3級・・・黄色、4級・・・淡黄色、5級・・・無着色の5ランクに分けて目視判別した。ただし、色相が各級の中間にある場合には、上の級から0.5級を減じる方法で表示した。
【0041】
[光による変色]
Ph4.2の水で30分ボイル処理した繊維のかせを光による変色試験に使用した。フェードメーター(スガ試験機製、U48AU−B型)にて紫外線を24時間照射した。着色度は、1級・・・褐色、2級・・・黄褐色、3級・・・黄色、4級・・・淡黄色、5級・・・無着色の5ランクに分けて目視判別した。ただし、色相が各級の中間にある場合には、上の級から0.5級を減じる方法で表示した。
【0042】
(分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物の合成)
分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物の合成については、特公平2−34985号公報に記載の方法で合成した。N,N,N’,N’−テトラグリシジルメタキシリレンジアミンと、そのエポキシ当量にあたるジベンジルアミンを反応させた。この反応生成物に、反応生成物に中に生成した二級アルコール当量と、モル量で等しいイソホロンジイソシアナーとを添加し反応させた。この化合物をNN−ジメチルアセトアミドに溶解した。次に、この化合物溶液に、N、N−ジメチルヒドランジンの40%NN−ジメチルアセトアミド溶液を添加反応させ、所望の化合物(特公平2−34985に記載のNo.A−6)を得た。
【0043】
(フェノール系酸化防止剤の合成)
フェノール系酸化防止剤の合成方法については、特公平5−24246号公報に記載の方法で合成した。ジシクロペンタジエン1モルに対して、パラクレゾールを1.2モル加え、さらにBF・(COを、ジシクロペンタジエンとパラクレゾールの総重量和の7〜3重量%だけ加え、窒素ガス中攪拌下に昇温し、約90℃から約150℃で5時間保った後、トルエンに50%濃度で溶解する。その後、非対称ジメチルヒドラジンを加えBFを充分取り除いた後、酸性イオン交換樹脂を加える。この混合物を、約60℃から80℃に加熱し、イソブチレンガスを徐々に、イソブチレンが反応しなくなるまで加える。これに、NaFおよび珪藻土を加え酸性イオン交換樹脂を濾別する。その後、反応溶液の温度を徐々に下げると紛体が析出する。それを濾収し、乾燥することにより目的とする特公平5−24246号公報に記載のフェノール系化合物No.A−3を得た。
【0044】
(ポリウレタン溶液の製造)
平均分子量1,800のポリテトラメチレンエーテルグリコール1,500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート312gを、窒素ガス気流下60℃において90分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを室温まで冷却した後、ジメチルアセトアミド2,700gを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。
エチレンジアミン23.4gおよびジエチルアミン3.7gを乾燥ジメチルアセトアミド1,570gに溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温で添加して、粘度2,200ポイズ(30℃)のポリウレタン溶液を得た。
【0045】
[実施例1]
上記の方法で製造されたポリウレタン溶液に、上記の方法で合成された分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物、および、上記の方法で合成されたフェノール系酸化防止剤、および、亜リン酸エステル系酸化防止剤として、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー(城北化学社製、JPH3800)を加えて、攪拌混合後、溶液中の気泡を抜くため真空脱泡を行い所望のポリウレタン溶液を得た。次いで、この溶液をホールオリフィスから約200℃の雰囲気中に吐出させて、紡糸、乾燥、仮撚り、オイリングを行い、500m/分で巻き取って44デシテックス、4フィラメントの繊維を得た。3種類の化合物の添加量を変えて、5種類の試験繊維を作り、その性能を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
[比較例1]
実施例1と同様にして、4種類の試験繊維を作り、その性能を評価した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
[比較例2]
実施例1と同様にして、上記の方法で合成されたフェノール系酸化防止剤を1重量%および水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー(城北化学社製、JPH3800)を2重量%、ヒンダードアミン安定剤であるLOWILITE62(グレートレーク社製)を3重量%添加し、上記と同様に試験繊維を作った。Ph4.2の水で30分ボイル処理した繊維のかせを、水道水流水中に3日間浸漬したところ、明らかに変色及び強度が低下し、手でしごくと繊維の切れが見られた。実施例1の5種類の試験繊維には問題は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、優れた耐変色性を有しており、白や淡色で使用されることが多く、耐変色性が要求されるインナー分野やポリウレタン弾性繊維が表面から見え易いレース分野などに特に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

[但し、上記一般式中Xは下記式(2);
【化2】

又は下記式(3);
【化3】

で示される基であり、Y、Y、Y、Yのうち少なくとも3つは一般式(4);
【化4】

{但し、式中R、Rはアルキル基であって、R、Rのうち少なくとも1つは一級炭素により(4)式の窒素原子と結合しており、R、Rの炭素数の合計は4以上であるものとする。また、Zは一般式(5);
【化5】

(但し、式中R、Rは同一または相異なる炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
で示される基である。但し、化合物(1)中には一般式(5)で示される基が少なくとも3個存在するものとする。}
で示される基であり、他の基が存在する場合にはこの基はグリシジル誘導体基である。]で表される、分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物と、亜リン酸エステル系酸化防止剤と、フェノール系酸化防止剤を含有させてなることを特徴とするポリウレタン弾性繊維。
【請求項2】
亜リン酸系酸化防止剤が下記一般式(6);
【化6】

で表される構造を含む水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項3】
フェノール系酸化防止剤が下記一般式(7);
【化7】

(但し、式中R1は、炭素原子数1〜6のアルキル基、R2は炭素原子数4から9のアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基、R3、R4は、水素原子又はメチル基を示し、nは繰返し単位の数で、5〜20の正の整数を示す。)
で表されることを特徴とする請求項1または2に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項4】
分子中に3級窒素とセミカルバジド基を複数個づつ含有する化合物の含有量が0.1〜10重量%、亜リン酸エステル系酸化防止剤の含有量が0.1〜10重量%、フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。

【公開番号】特開2007−239157(P2007−239157A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66287(P2006−66287)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】