説明

ポリウレタン樹脂の水分散液、ポリウレタン樹脂の水分散液の製造方法および印刷インキ用バインダー

【課題】 ポリウレタン樹脂特有の柔軟性を有し、しかもポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等のプラスチックに対しても優れた密着性を有し、かつ耐水性に優れたポリウレタン樹脂の水分散液を提供すること。
【解決手段】 数平均分子量が500〜10000のポリオール、ポリイソシアネート化合物、鎖伸長剤および鎖長停止剤を含有した重合成分を反応させて得られるポリウレタン樹脂であって、前記鎖長停止剤が活性水素を有する官能基とオキサゾリジン骨格とを有する化合物を含有することを特徴とするポリウレタン樹脂を、水に分散させてなる、ポリウレタン樹脂の水分散液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂の水分散液、ポリウレタン樹脂の水分散液の製造方法および印刷インキ用バインダーに関する。さらに詳しくは、ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等のプラスチックに対しても優れた密着性を有し、耐水性にも優れたポリウレタン樹脂の水分散液および当該ポリウレタン樹脂の水分散液を含有してなる印刷インキ用バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バインダー、コーティング剤や接着剤には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が用いられている。これらの中で、ポリウレタン樹脂は、柔軟性に優れているため、種々の材質に対する密着性に優れており、近年多く用いられるようになってきてはいるが、材質がポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等であるプラスチックに対しては密着性が低く、また耐水性に劣るという問題を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ポリウレタン樹脂特有の柔軟性を有し、しかもポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等のプラスチックに対しても優れた密着性を有し、かつ耐水性に優れる、ポリウレタン樹脂の水分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の化合物を鎖長停止剤として使用することにより得られるポリウレタン樹脂の水分散液が、前記課題をことごとく解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、数平均分子量が500〜10000であるポリオール(以下、高分子量ポリオールという)、ポリイソシアネート化合物、鎖伸長剤および鎖長停止剤を含有した重合成分を反応させて得られるポリウレタン樹脂であって、前記鎖長停止剤が活性水素を有する官能基とオキサゾリジン骨格とを有する化合物(以下、オキサゾリジン系化合物という)を含有することを特徴とするポリウレタン樹脂を水に分散させてなる、ポリウレタン樹脂の水分散液、に関する。また、数平均分子量が500〜10000のポリオール、ポリイソシアネート化合物、鎖伸長剤および鎖長停止剤を含有した重合成分を反応させるポリウレタン樹脂であって、前記鎖長停止剤が活性水素を有する官能基とオキサゾリジン骨格とを有する化合物を含有するポリウレタン樹脂を水に分散させることを特徴とする、ポリウレタン樹脂の水分散液の製造方法に関する。さらに、本発明は、当該ポリウレタン樹脂の水分散液を含有してなる印刷インキバインダーに関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、ポリウレタン樹脂としての柔軟性を保有しながら、密着性、耐水性に優れ、バインダー、コーティング剤、接着剤等として好適に用いることができ、しかもポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等のプラスチックに対しても優れた密着性を示し、かつ耐水性に優れる、ポリウレタン樹脂の水分散液を、容易に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係るポリウレタン樹脂は、前記したように、鎖長停止剤の全量または一部に、オキサゾリジン系化合物を使用することを特徴とする。当該ポリウレタン樹脂は、前記鎖長停止剤としてオキサゾリジン系化合物を使用することにより、その分子末端にオキサゾリジン骨格が導入されたものであり、当該オキサゾリジン骨格は、通常、水分により開環して、1級または2級アミノ基および水酸基を生じる。
【0007】
前記オキサゾリジン系化合物としては、活性水素を有する官能基とオキサゾリジン骨格とを有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。
【0008】
一般式(1):
【0009】
【化4】

【0010】
(RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表し、RとR
は共有結合により結ばれていてもよい。Rは炭素数2または3の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0011】
一般式(1)で表されるオキサゾリジン系化合物の具体例としては、N−(2−ヒドロキシエチル)オキサゾリジン、2−(2−イソプロピル−1,3−オキサゾリジン−3−イル)エタノ−ル、3−(2−イソプロピル−5−メチル−1,3−オキサゾリジン−3−イル)−2−プロパノ−ル、1−オキサ−4−アザスピロ[4.5]デカン−4−エタノ−ル等が挙げられる。
【0012】
一般式(2):
【0013】
【化5】

【0014】
(RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表し、RとRは共有結合により結ばれていてもよい。Rは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0015】
一般式(2)で表されるオキサゾリジン化合物の具体例としては、3−メチルオキサゾリジン−5−メタノ−ル、3−エチルオキサゾリジン−5−メタノ−ル、3−(1,1−ジメチルエチル)オキサゾリジン−5−メタノ−ル等が挙げられる。
【0016】
一般式(3):
【0017】
【化6】

【0018】
(RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表し、RとRは共有結合により結ばれていてもよい。同じくRおよびR10はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表し、RとR10は共有結合により結ばれていてもよい。)
【0019】
一般式(3)で表されるオキサゾリジン系化合物の具体例としては、5−ヒドロキシメチル−1−アザ−3,7−ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン等が挙げられる。
【0020】
また、本発明においては、前記活性水素を有する官能基として、水酸基とともにアミノ基が好ましく挙げられ、例えば、前記一般式(1)〜(3)における活性水素を有する官能基がアミノ基である化合物も好ましく用いることができる。
【0021】
前記オキサゾリジン系化合物は、通常、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、前記オキサゾリジン系化合物の使用量は鎖長停止剤の5〜100重量%であることが好ましい。5重量%未満の場合は、密着性等の改善の効果が小さくなる傾向がある。
【0022】
また、本発明では前記オキサゾリジン系化合物の他に、必要に応じて通常用いられている鎖長停止剤を使用してもよい。かかる鎖長停止剤としては、例えば、ジ−n−ブチルアミン等のジアルキルアミン類;エタノール、イソプロパノール等の一価アルコール等が挙げられる。
【0023】
本発明における鎖長停止剤の配合量は、特に限定がないが、鎖伸長反応の制御を容易にするためには、前記高分子量ポリオールとポリイソシアネート化合物との合計量の好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.3重量%以上とすることが望ましく、良好な機械的強度を付与するためには、前記高分子量ポリオールとポリイソシアネート化合物との合計量の好ましくは5重量%以下、特に好ましくは2重量%以下とすることが望ましい。
【0024】
次に本発明に係るポリウレタン樹脂における他の構成成分について説明する。
【0025】
高分子量ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィングリコール等が挙げられる。
【0026】
前記ポリエーテルポリオールの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0027】
前記ポリエステルポリオールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチンジオール、ジプロピレングリコール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA等の低分子量グリコールと、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の二塩基酸やこれらの酸無水物とを脱水縮合させて得られる脱水縮合系ポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等のラクトンを開環重合させて得られる開環重合系ポリエステルポリオール等が挙げられる。なお、前記低分子量グリコールには、かかる低分子量グリコールの配合量の5モル%以下の範囲内において、3価以上のポリオールを用いることができる。かかる3価以上のポリオールの具体例としては、例えばグリセリン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール;ペンタエリスリトール等の4価アルコール;ソルビトール等の6価アルコール等が挙げられる。
【0028】
前記ポリカーボネートポリオールの具体例としては、例えば1,6−ヘキサンジオール等の前記低分子量グリコールと、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等の低分子量カーボネートを、エステル交換して得られた各種ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0029】
前記ポリオレフィングリコールの具体例としては、例えばポリブタジエングリコール、ポリイソプレングリコール、ポリクロロプレングリコール、ポリブタジエングリコールの水素化物、ポリイソプレングリコールの水素化物等が挙げられる。
【0030】
なお、これらの高分子量ポリオールは、通常単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0031】
該高分子量ポリオールの数平均分子量は、あまりにも低いばあいには、得られるポリウレタン樹脂の皮膜が硬くなる傾向があるので、好ましくは700以上であることが望ましく、またあまりにも高いばあいには、乾燥性が低下する傾向があるので、好ましくは6000以下であることが望ましい。
【0032】
前記ポリイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート化合物等があげられ、そのなかでは、鎖状脂肪族ジイソシアネート、環状脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、アミノ酸誘導体から得られるジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
前記鎖状脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸が有するカルボキシル基をイソシアネート基に置き換えたダイマージイソシアネート等が挙げられる。
【0034】
前記環状脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4´−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0035】
前記芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4´−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート等のジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルテトラメチルメタンジイソシアネート等のテトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジベンジルイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0036】
前記芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0037】
前記アミノ酸誘導体から得られるジイソシアネートの具体例としては、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0038】
これらのジイソシアネート化合物をはじめとする前記ポリイソシアネート化合物は、通常単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0039】
前記高分子量ポリオールとポリイソシアネート化合物との配合割合は、特に限定がないが、得られるポリウレタン樹脂の機械的強度の観点から、高分子量ポリオールに含まれるOH基1当量に対してポリイソシアネート化合物に含まれるNCO基が1.1当量以上、好ましくは1.3当量以上とすることが望ましく、また、得られるポリウレタン樹脂の溶液安定性の観点から、前記OH基1当量に対して前記NCO基が5当量以下、好ましくは4当量以下とすることが望ましい。
【0040】
前記重合成分の1つである前記鎖伸長剤としては、前記低分子量グリコール;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4´−ジアミン等のアミン化合物;2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン化合物;ダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に置き換えたダイマージアミン;水等が挙げられる。
【0041】
前記鎖伸長剤の配合量は、特に限定がないが、得られるポリウレタン樹脂の機械的強度の観点から、前記高分子量ポリオールとポリイソシアネート化合物との合計量の2重量%以上、好ましくは3重量%以上とすることが望ましく、得られるポリウレタン樹脂の溶液安定性の観点から、前記高分子量ポリオールとポリイソシアネート化合物との合計量の20重量%以下、好ましくは15重量%以下とすることが望ましい。
【0042】
本発明に係るポリウレタン樹脂は、前記高分子量ポリオール、ポリイソシアネート化合物、鎖伸長剤および鎖長停止剤を含有した重合成分を共重合させることにより得ることができる。当該ポリウレタン樹脂を水に分散させることで、本発明のポリウレタン樹脂の水分散液を得ることができる。
【0043】
当該ポリウレタン樹脂の水分散液の製造方法としては、水溶性の原料を用いて得られたポリウレタン樹脂を水に分散させる方法、イオン性基をポリウレタン樹脂に導入する方法、乳化剤を用いる方法等が挙げられる。
【0044】
前記水溶性の原料を用いる方法としては、例えば、(i)水溶性ポリオールを含有した高分子量ポリオール、ポリイソシアネート化合物、鎖伸長剤および前記オキサゾリジン系化合物を含有する鎖長停止剤を適当な有機溶剤中で一度に混合させ、NCO基が消失するまで反応させたのち、得られた反応生成物を水に分散させ、有機溶剤を除去する方法、(ii)水溶性ポリオールを含有した高分子量ポリオールとポリイソシアネート化合物とを、NCO基が過剰となる条件で反応させて、分子の末端にNCO基を有するプレポリマーを生成させ、かかるプレポリマーを適当な有機溶剤に加えて調製した溶液を水に分散させ、かかる溶液中に鎖伸長剤および前記オキサゾリジン系化合物を含有する鎖長停止剤を加えて反応をさせた後、有機溶剤を除去する方法等が挙げられる。これら2つの方法のなかで、前記(ii)の方法では、プレポリマーとオキサゾリジン系化合物の活性水素を有する官能基が反応すると同時に、水に分散させた際にオキサゾリジン骨格が開環してアルデヒド化合物またはケトン化合物でブロックされていたアミノ基と水酸基が生じ、これがプレポリマーと反応するおそれがあるので、前記(i)の方法が好ましい。該水溶性ポリオールの配合量には特に限定がなく、用いられる水溶性ポリオールの種類等によって適宜調整すればよい。例えば、ポリオキシエチレングリコールを用いるばあいには、得られるポリウレタン樹脂の樹脂固形分の20〜80重量%となるように調整することが、水分散性および耐水性を両立させるという観点から好ましい。なお、前記水溶性ポリオールの配合量が20重量%未満では、水分散性が低下し、また80重量%をこえるばあいには、耐水性が低下する傾向がある。前記有機溶剤の種類には特に限定がなく、通常用いられているものであればよい。具体的には、前記有機溶剤に溶解されてなるポリウレタン樹脂溶液の製造方法において記載した各種有機溶剤のうちの適当なものを用いることができる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0045】
前記イオン性基をポリウレタン樹脂に導入する方法は、塩基性チッ素やカルボキシル基を有する鎖伸長剤を用いることによって、得られるポリウレタン樹脂に4級アミノ塩基やカルボン酸塩基等のイオン性基を導入し、乳化剤等を加えることなく水に分散させる方法である。
【0046】
前記塩基性チッ素を有する鎖伸長剤は、4級アミノ塩基をポリウレタン樹脂に導入する際に用いられ、その具体例としては、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−イソプロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N−イソブチルジエタノールアミン、N−オレイルジエタノールアミン、N−ステアリルジエタノールアミン、エトキシ化椰子油アミン、N−アリルジエタノールアミン、N−メチルジイソプロパノールアミン、N−エチルジイソプロパノールアミン、N−プロピルジイソプロパノールアミン、N−ブチルジイソプロパノールアミン、ジメチルジエトキシヒドラジン、プロポキシメチルジエタノールアミン、N−(3−アミノプロピル)−N−メチルエタノールアミン、N,N´−ビス(オキシエチル)プロピレンジアミン、ジエタノールアミノアセトアミド、ジエタノールアミノプロピオンアミド、N,N−ビス(オキシメチル)セミカルバジド、N−メチル−N,N−ビス(3−アミノプロピル)アミン、N−(3−アミノプロピル)−N,N´−ジメチルエチレンジアミン、N,N´−ビス(3−アミノプロピル)−N,N´−ジメチルエチレンジアミン等の鎖状脂肪族アミン;N−シクロヘキシルジイソプロパノールアミン等の環状脂肪族アミン;N,N−ジエトキシアニリン、N,N−ジエトキシトルイジン、N,N−ジエトキシ−1−アミノピリジン、N,N´−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N,N´−ジエチルヘキサヒドロ−p−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、p,p´−ビス−アミノメチルジベンジルメチルアミン等の芳香族アミン;、N,N´−ジエトキシピペラジン、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン、N,N´−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン等の複素環アミン等があげられ、これらの鎖伸長剤は、単独でまたは2種以上を混合して用いられる。また、かかる鎖伸長剤が有する塩基性チッ素は、塩化物イオン、硫酸塩イオン、有機カルボン酸のアニオン等の4級化剤を用いて4級化される。また、かかる鎖伸長剤は前記重合成分を水に分散させる前または水に分散させた後に用いることができるが、本発明においては水に分散させる前に用いるのが好ましい。
【0047】
前記カルボキシル基を有する鎖伸長剤は、カルボン酸塩基をポリウレタン樹脂に導入する際に用いられ、その具体例としては、グリセリン酸、ジオキシマレイン酸、ジオキシフマル酸、酒石酸、ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)吉草酸、4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)酪酸等の脂肪族カルボン酸;2,6−ジオキシ安息香酸等の芳香族カルボン酸等があげられ、これらの鎖伸長剤は、単独でまたは2種以上を混合して用いられる。また、かかる鎖伸長剤が有するカルボキシル基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンやN−エチルジエタノールアミンをはじめとするN−アルキルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンやN,N−ジエチルエタノールアミンをはじめとするN,N−ジアルキルエタノールアミン、2−ジメチルアミノメチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール等の3級アミン等の中和剤を用いて中和される。また、かかる鎖伸長剤は前記重合成分を水に分散させる前または水に分散させた後に用いることができるが、本発明においては水に分散させる前に用いるのが好ましい。なお、前記イオン性基を有する鎖伸長剤は、前記グリコールの一部として用いることができる。
【0048】
前記イオン性基を有する鎖伸長剤の配合量は、特に限定がないが、前記塩基性チッ素を有する鎖伸長剤としては、かかる塩基性チッ素を有するポリウレタン樹脂中の塩基性チッ素が、該ポリウレタン樹脂の樹脂固形分1gに対して0.3×10-4グラム当量〜18×10-4グラム当量程度となるようにすることが好ましい。また、前記カルボキシル基を有する鎖伸長剤としては、かかるカルボキシル基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基が、該ポリウレタン樹脂の樹脂固形分1gに対して0.3×10-4グラム当量〜18×10-4グラム当量程度となるようにすることが好ましい。
【0049】
前記イオン性基を導入する方法の具体例としては、例えば、(i)高分子量ポリオールとポリイソシアネート化合物とをOH基に対してNCO基が過剰となる条件で反応させて分子の末端にNCO基を有するプレポリマーを生成させ、かかるプレポリマーを適当な有機溶剤の溶液とし、該有機溶剤溶液に前記イオン性基を有する鎖伸長剤および必要に応じてその他の鎖伸長剤、ならびに前記オキサゾリジン系化合物を含有する鎖長停止剤を加えて反応させて得られる反応生成物を前記4級化剤または中和剤を用いて4級化または中和し、さらに水に分散させたのちに有機溶剤を除去する方法、(ii)高分子量ポリオール、ポリイソシアネート化合物、前記イオン性基を有する鎖伸長剤および必要に応じてその他の鎖伸長剤、ならびに前記オキサゾリジン系化合物を含有する鎖長停止剤を適当な有機溶剤中で一度に反応させたのち、前記4級化剤または中和剤を用いて4級化または中和を行ない、ついで水に分散させてから有機溶剤を除去する方法、(iii)高分子量リオール、ポリイソシアネート化合物および前記イオン性基を有する鎖伸長剤を、OH基に対してNCO基が過剰となる条件で適当な有機溶剤中で反応させて分子の末端にNCO基を有するプレポリマーを生成させ、前記4級化剤または中和剤を用いて4級化または中和を行なったのち、水に分散させ、ついで前記イオン性基を有する鎖伸長剤および必要に応じてその他の鎖伸長剤、ならびに前記オキサゾリジン系化合物を含有する鎖長停止剤を加えて反応させ、有機溶剤を除去する方法等が挙げられる。これらの方法のなかでは、前記(iii)の方法は、プレポリマーとオキサゾリジン系化合物の活性水素を有する官能基が反応すると同時に、水に分散させた際に、オキサゾリジン骨格が開環してアルデヒド化合物またはケトン化合物でブロックされていたアミノ基と水酸基が生じ、プレポリマーと反応するおそれがあるので、前記(i)または(ii)の方法で行なうことが好ましい。
【0050】
前記乳化剤を用いる方法は、前記イオン性基をポリウレタン樹脂に導入するかわりに、乳化剤を用いてポリウレタン樹脂を水に分散させる方法である。かかる乳化剤としては、特に限定がないが、長鎖アルコールのポリオキシエチレングリコールエーテル、アルキル化フェノールのポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロック共重合体等のノニオン型乳化剤;長鎖脂肪酸の硫酸エステル、アルキルアリルスルホン酸、長鎖脂肪酸等の有機酸のアルカリ金属塩、該有機酸のアンモニウム塩、該有機酸の3級アミン塩等のアニオン型乳化剤;4級アンモニウム塩等のカチオン型乳化剤が挙げられる。また前記乳化剤の配合量は、特に限定がないが、ポリウレタン樹脂の樹脂固形分に対して3〜30重量%とすることが、水分散性および耐水性を両立させる観点から好ましい。前記乳化剤の配合量が3重量%未満では、水分散性が低下し、30重量%をこえるばあいには、耐水性が低下する傾向がある。
【0051】
前記乳化剤を用いる方法の具体例としては、(i)適当な有機溶剤中で、高分子量ポリオール、ポリイソシアネート化合物、鎖伸長剤および前記オキサゾリジン系化合物を含有する鎖長停止剤を、NCO基が消失するまで反応させ、得られた反応生成物に水と乳化剤を加えて機械的せん断力で水に分散させたのち、有機溶剤を除去する方法、(ii)高分子量ポリオールとポリイソシアネート化合物とを、OH基に対してNCO基が過剰となる条件で反応させて分子の末端にNCO基を有するプレポリマーを生成させ、オキシム、フェノール等のブロック化剤および前記オキサゾリジン系化合物を含有する鎖長停止剤を加えてNCO基を封鎖したのち、乳化剤と水とを加え、機械的せん断力によって水に分散させる方法、(iii)前記(ii)で得られたプレポリマーに乳化剤、鎖伸長剤、前記オキサゾリジン系化合物を含有する鎖長停止剤および水を混合し、一度に反応させる方法等が挙げられる。これらの方法のなかでは、前記(iii)の方法では、プレポリマーとオキサゾリジン系化合物の活性水素を有する官能基とが反応すると同時に、水に分散させた際にオキサゾリジン骨格が開環してアルデヒドまたはケトン化合物でブロックされていたアミノ基と水酸基が生じ、かかるプレポリマーと反応するおそれがあるので、前記(i)または(ii)の方法で行なうことが好ましい。
【0052】
前記水に分散されてなるポリウレタン樹脂の水分散液の中では、分散安定性や耐水性等に優れることから、イオン性基を導入する方法により得られるポリウレタン樹脂の水分散液が好ましい。
【0053】
本発明のポリウレタン樹脂の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、通常、5000〜100000の範囲内である。
【0054】
また、本発明のポリウレタン樹脂の水分散液は、磁性塗料等の塗料、印刷インキ等に用いられるバインダー;人工皮革、プラスチック、ガラス、金属、木、紙、コンクリート、ゴム、織布、不織布等の種々の材質に対するコーティング剤や接着剤等に好適に用いることができる。
【0055】
前記バインダー、コーティング剤、接着剤等は、本発明のポリウレタン樹脂に、水、有機溶剤、必要に応じて、従来公知の樹脂(例えば、本発明のポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル酸エステル系共重合体、スチレン−マレイン酸系共重合体等のポリマー等);ブロッキング防止剤や可塑剤等の添加剤;顔料等を加えることにより容易に得ることができるとともに、該バインダー、コーティング剤、接着剤に前記ポリウレタン樹脂が有する密着性や耐水性を充分に付与することができる。
【0056】
なお、本発明におけるポリウレタン樹脂の水分散液が上記効果を発現する理由は定かではないが、アミノ基と水酸基が同時に分子中に定量的に導入されていることに基づくものと考えられる。
【実施例】
【0057】
つぎに、本発明を実施例にもとづいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお、部および%は特記しない限りいずれも重量基準である。
【0058】
実施例1
撹拌機、温度計、冷却管およびチッ素ガス導入管を備えた反応容器に、ジメチロールプロピオン酸4.5部、数平均分子量3300のポリテトラメチレンエーテルグリコール100部(OH基0.06モル部)、イソホロンジイソシアネート21.3部(NCO基0.19モル部)およびメチルエチルケトン83.9部を仕込み、チッ素気流下で80℃で6時間反応を行ない、末端にNCO基を有するプレポリマー溶液をえた。このプレポリマー溶液209.7部にトリエチルアミン3.4部とメチルエチルケトン206.2部を加えたのち、これにイソホロンジアミン4.3部およびN−(2−ヒドロキシエチル)オキサゾリジン1.6部を添加し、攪拌下で70℃で5時間反応させた。反応終了後、系内に水391.7部を添加し、撹拌して乳化させた後、メチルエチルケトンを加熱減圧下に留去し、ポリウレタン樹脂の水分散液Aをえた。該水分散液Aは、固形分25重量%、数平均分子量20000、粘度130cP(25℃)、pH8.5を有するものであった。
【0059】
実施例2
実施例1で得られたプレポリマー溶液209.7部にトリエチルアミン3.4部とメチルエチルケトン206.2部を加えたのち、これにイソホロンジアミン4.3部、3−メチルオキサゾリジン−5−メタノール0.2部およびジブチルアミン1.5部を添加し、攪拌下で70℃で5時間反応させた。反応終了後、系内に水392.0部を添加し、撹拌して乳化させた後、メチルエチルケトンを加熱減圧下に留去し、ポリウレタン樹脂の水分散液Bをえた。該水分散液Bは、固形分25重量%、数平均分子量20000、粘度200cP(25℃)、pH8.0を有するものであった。
【0060】
比較例1
実施例1で得られたプレポリマー溶液209.7部にトリエチルアミン3.4部とメチルエチルケトン206.2部を加えたのち、イソホロンジアミン4.3部とジブチルアミン1.7部を添加し、撹拌下で70℃で5時間反応させた。反応終了後、系内に水392.0部を添加し、撹拌して乳化させたのち、メチルエチルケトンを加熱減圧下に留去し、ポリウレタン樹脂の水分散液Cをえた。該水分散液Cは固形分25重量%、数平均分子量20000、粘度210cP(25℃)、pH7.6を有するものであった。
【0061】
(水系インキの調製)
チタン白(ルチル型) 30部
ポリウレタン樹脂水分散液A、BまたはC 50部
水 10部
イソプロピルアルコール 10部
前記インキ組成物をそれぞれペイントシェーカーで1時間練肉し、各種の白色印刷インキを調製した。これらの白色印刷インキをNo.8のバーコーターで、コロナ放電処理延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)の放電処理面およびコロナ放電処理ポリエチレンテレフタレート(PET)の放電処理面にそれぞれ塗工し、40〜50℃で乾燥し、印刷フィルムをえた。得られた印刷フィルムを以下の試験に供した。
【0062】
(密着性)
得られた印刷フィルムを24時間放置後、印刷面にセロハン粘着テープを貼り付け、ついで剥離し、印刷フィルムの外観を観察し、以下の評価基準にもとづいて評価した。その結果を表1に示す。
【0063】
(評価基準)
○:インキ皮膜の80%以上がフィルム側に残った。
△:インキ皮膜の50〜80%がフィルム側に残った。
×:インキ皮膜の50%以下しかフィルム側に残らなかった。
【0064】
(耐水性)
前記印刷フィルムを24時間放置した後、該フィルムを水に24時間浸漬した。この浸漬フィルム表面に付着した水を脱脂綿でふき取り、印刷面にセロハン粘着テープを貼り付け、ついで剥離し、印刷フィルムの外観を観察し、前記密着性の評価基準と同様の評価基準にて評価した。その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示された結果から、実施例1〜2で得られた水系インキおよび溶剤系インキは、いずれも、ポリプロピレンフィルムおよびポリエステルフィルムに対する密着性および耐水性に優れたものであることがわかる。





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が500〜10000のポリオール、ポリイソシアネート化合物、鎖伸長剤および鎖長停止剤を含有した重合成分を反応させて得られるポリウレタン樹脂であって、前記鎖長停止剤が活性水素を有する官能基とオキサゾリジン骨格とを有する化合物を含有するポリウレタン樹脂を、水に分散させてなることを特徴とする、ポリウレタン樹脂の水分散液。
【請求項2】
前記数平均分子量が500〜10000のポリオールとポリイソシアネート化合物との配合割合が該ポリオールに含まれるOH基1当量に対してポリイソシアネート化合物に含まれるNCO基1.1〜5当量、鎖伸長剤の配合量が該ポリオールとポリイソシアネート化合物との合計量の2〜20重量%、鎖長停止剤の配合量が該ポリオールとポリイソシアネート化合物との合計量の0.1〜5重量%である、請求項1記載のポリウレタン樹脂の水分散液。
【請求項3】
ポリウレタン樹脂の数平均分子量が5000〜100000である請求項1または2記載のポリウレタン樹脂の水分散液。
【請求項4】
前記活性水素を有する官能基とオキサゾリジン骨格とを有する化合物が、一般式(1):
【化1】

(RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表し、RとRは共有結合により結ばれていてもよい。Rは炭素数2または3の脂肪族炭化水素基を表す。)で表される化合物、一般式(2):
【化2】

(RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表し、RとRは共有結合により結ばれていてもよい。Rは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表す。)で表される化合物および一般式(3):
【化3】

(RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表し、RとRは共有結合により結ばれていてもよい。同じくRおよびR10はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を表し、RとR10は共有結合により結ばれていてもよい。)で表される化合物からなる群より選ばれるいずれか1種以上の化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン樹脂の水分散液。
【請求項5】
前記活性水素を有する官能基とオキサゾリジン骨格とを有する化合物の配合量が鎖長停止剤の5〜100重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリウレタン樹脂の水分散液。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂の分子末端にアミノ基および水酸基が導入されてなる請求項1〜5のいずれかに記載のポリウレタン樹脂の水分散液。
【請求項7】
数平均分子量が500〜10000のポリオール、ポリイソシアネート化合物、鎖伸長剤および鎖長停止剤を含有した重合成分を反応させるポリウレタン樹脂であって、前記鎖長停止剤が活性水素を有する官能基とオキサゾリジン骨格とを有する化合物を含有するポリウレタン樹脂を水に分散させることを特徴とする、ポリウレタン樹脂の水分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリウレタン樹脂の水分散液を含有してなる、印刷インキ用バインダー。
【請求項9】
請求項7の製造方法で得られたポリウレタン樹脂の水分散液を含有してなる、印刷インキ用バインダー。



【公開番号】特開2006−193748(P2006−193748A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26066(P2006−26066)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【分割の表示】特願平9−49716の分割
【原出願日】平成9年2月17日(1997.2.17)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】