説明

ポリエステルからポリエステルモノマーを製造する方法

【課題】ポリエステルからその構成モノマーを高収率、低エネルギー負荷にて安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】工程(a):ポリエチレンテレフタレートを含有するポリエステルと直接、または多価アルコールにて解重合した後、一価アルコールを反応させて反応生成物を得る工程、工程(b):上記反応生成物から液成分を固液分離する工程、工程(c):上記液成分から、多価アルコール及び一価アルコールを回収する工程、工程(d):工程(c)の残留物と一価アルコールとを反応させる工程、工程(e):該反応生成物から固体成分のポリエステル構成モノマーと液成分を固液分離する工程、工程(f):工程(e)の液成分から多価アルコール及び一価アルコールを回収する工程、を順次行い、工程(f)の残渣を工程(a)〜(e)に再投入する量を残渣総量の50重量パーセント未満とする、ポリエステルを構成するモノマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル、好ましくはポリエステル廃棄物からポリエステルを構成するモノマーを高収率、低エネルギー負荷にて安定して製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートはその重合工程、あるいは糸状、フィルム状に成形する過程において不良品、屑等が発生しやすいことなどから、これらの不良品や屑、さらには使用後の製品(これらを総称して、単にポリエステル廃棄物と略称することもある。)を回収し、再利用することが経済的に好ましく、さらには地球環境対策上の観点から必要である。これら回収したポリエステル廃棄物の中には染料、難燃剤、一般ゴミおよび他のプラスチックが混入しており、そのまま溶融成形し再利用することは困難なことが多い。このため、これら回収したポリエステル廃棄物から該ポリエステルの原料である、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートなどの原料モノマーを分別回収することが好ましい。ポリエステル廃棄物から、その原料を製造する方法としては、ポリエステルをエチレングリコール(以下、EGと略称することもある。)で解重合してビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートを含む組成物を得た後、これをメタノールと反応させてテレフタル酸ジメチル(以下、DMTと略称することもある。)を製造する方法(例えば、特許文献1、2参照。)やポリエステルをメタノールと反応させてテレフタル酸ジメチルを製造する方法(例えば、特許文献3、4参照。)が知られている。これらの検討プロセスでは、反応生成物はスラリー性状となることから、回収されるポリエステルを構成するモノマー(例えば、DMT)は、溶媒(例えば、メタノールやEG)と固液分離して固体側に回収する工程が必要となる。しかしながら一方で、固液分離した後の液体(以下、反応ろ液と略称することもある。)側にも溶解度分のモノマーや反応中間体といった有効成分が混入し、収率低下の原因となる。そればかりでなく、反応ろ液からは溶媒を回収することがコスト面から好ましいが、既知の方法では、反応ろ液から溶媒を回収すると有効成分や触媒成分が濃縮され且つ回収操作により比較的高温になるので、重縮合反応が進行する結果反応ろ液の粘度が上昇して操作性が悪化する、有効成分の析出や付着により熱交換器の伝熱効率が低下するといった様々な問題を生じ、溶媒の回収率を低減せざるを得ない。また、反応ろ液中の不要成分を系外へ排出する必要があるのでこれに伴って、多量の有効成分も系外へ排出せざるを得ないといった様々な課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−302443号公報
【特許文献2】特許第4065657号公報
【特許文献3】特許第4008214号公報
【特許文献4】特許第4183548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景技術を鑑みなされたもので、その目的は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからポリエチレンテレフタレートを構成するモノマーを高収率、低エネルギー負荷にて安定して製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らの研究によれば、「ポリエチレンテレフタレートを含有するポリエステルからポリエチレンテレフタレートを構成するモノマーを製造するに際し、下記工程(a)〜(f):
工程(a):前記ポリエステルを多価アルコールにて解重合させた物質を一価アルコールと反応させ反応生成物を得る工程または前記ポリエステルを一価アルコールと反応させ反応生成物を得る工程、のいずれかひとつの反応工程
工程(b):工程(a)での反応生成物を固体成分と液成分とに固液分離する工程
工程(c):工程(b)の固液分離で回収した液成分から、多価アルコールならびに一価アルコールの一部または全部を回収する工程
工程(d):工程(b)の固液分離で回収した液成分から、多価アルコールならびに一価アルコールの一部または全部を回収した後の残渣と一価アルコールとを反応させる工程
工程(e):工程(d)での反応生成物を固体成分と液成分とに固液分離する工程
工程(f):工程(e)の固液分離で回収した液成分から、多価アルコールならびに一価アルコールの一部または全部を回収する工程
に順次供することを含み、
工程(f)の固液分離で回収した液成分から、多価アルコールならびに一価アルコールの一部または全部を回収した後に残存した残渣を工程(a)〜(e)に再投入する総量が、残存した残渣の50重量パーセント未満であることを特徴とするポリエステルを原料としたポリエチレンテレフタレートを構成するモノマーの製造方法。」により、従来廃棄していたエステル交換反応ろ液から溶剤を回収した後の残渣からの有効成分製造が可能となり、上記目的が達成できることが見出された。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエステルを原料としたポリエステルを構成するモノマーの製造方法によれば、有効成分を低エネルギー負荷にて製造して収率を向上させるだけでなく、反応ろ液中に含有している不純物の濃縮が可能となる。これらの効果により、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからポリエステルを構成するモノマーを高収率、低エネルギー負荷かつ廃棄物発生量を抑制しつつ製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について1例を用いて説明するが、本発明は、この例に限定されるものではない。本発明に従う製造方法を実行するためには、まず、ポリエチレンテレフタレートを主成分として含有するポリエステルを多価アルコールにて解重合させた物質を一価アルコールとエステル交換反応させる、もしくは、前記ポリエステルを一価アルコールとエステル交換反応させる必要がある(工程(a))。ここで、ポリエチレンテレフタレートを主成分として含有するとは、ポリエステル全重量に対するポリエチレンテレフタレートの重量の比率が80重量%以上であることが好ましい、ということである。より好ましくはポリエステルの全重量に対するポリエチレンテレフタレートの含有量が90重量%であることである。また、ポリエステルについては、製造工程、或いは市場において使用済みのポリエステル成形品を回収して得られたポリエステルを含んでいても構わない。なお、解重合反応条件、エステル交換反応条件としては反応が進行すれば、公知の条件のいずれを採用してもかまわないが、多価アルコールとしては、ポリエチレンテレフタレートの原料であるエチレングリコールを用いることが、溶剤回収の観点から好ましい。必要に応じて1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール(テトラメチレングリコール)を併用またはこれらの化合物を単独で用いても良い。一価アルコールとしては、一価の炭素数1〜6までの低級のアルコールを用いることが好ましく、メタノール、エタノール若しくはプロパノールを用いることがより好ましく、モノマーとして分離精製が容易であり経済的にも価値の高いDMTを生産するという観点からメタノールを用いることが最も好ましい。
【0008】
さらに、解重合反応触媒として、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の酢酸塩、アルカリ金属のアルコキシド、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の酢酸塩、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のアルコキシドおよびアルカリ土類金属の水酸化物からなる群より選ばれた少なくとも1種の物質を添加することが、解重合反応速度の促進、解重合反応生成物の収率向上の観点から好ましい。すなわち、常圧の反応条件でも活性を持つ触媒種を選択することが設備投資ならびに操作性の観点から好ましい。また安価で容易に入手することができ、且つ副反応等の懸念点が少なく上述の目的を高い数値レベルで達成することが出来ることからアルカリ金属の炭酸塩を用いることが好ましい。また更にエステル交換反応を行う際にもエステル交換反応触媒を用いることが反応速度を高め、収率を向上させるために好ましい。エステル交換反応触媒においても、安価で容易に入手することができ、且つ副反応等の懸念点が少なく上述の目的を高い数値レベルで達成可能な観点から、アルカリ金属の炭酸塩を用いることが好ましい。
【0009】
次に、上述の操作により得られた一価アルコールとのエステル交換反応により得られた反応生成物を固体成分と液成分とに固液分離する(工程(b))。固液分離の方法としては、固体成分と液成分に分離できれば公知の条件のいずれを採用してもかまわない。固液分離操作の例としては、例えばろ過操作や遠心分離操作などが挙げられる。固液分離により得られた反応ろ液成分には、解重合反応およびエステル交換反応で使用した余剰の一価アルコールや多価アルコール、ならびに解重合反応で生成した多価アルコールが含まれているので、これらの溶媒を回収することがコスト的に好ましい(工程(c))。また多価アルコールはポリエステルの原料として使用することも可能である。回収の方法としては、膜分離や蒸留などが挙げられるが、リサイクル工程には雑多な不純物が混入することが多いので蒸留操作を行うことが好ましい。また、反応ろ液から溶媒を回収した残渣には、系外へ排出(廃棄)が必要な不要成分のほかに、モノマー成分や解重合反応やエステル交換反応における反応中間体といった有効成分が含まれていることから、これらの残渣から有効成分を回収することが好ましい。具体的には、これらの残渣を一価アルコールと反応させて、モノマー成分を生成させる(工程(d))。これらの残渣中の有効成分(反応中間体等)は一価アルコールと良好な反応性を示すので、一価アルコールと混合するだけでモノマーを生成するが、反応平衡の観点から、残渣1重量部に対して0.5重量部以上の一価アルコールと混合・反応させることが好ましく、より好ましくは1重量部以上である。また、設備面より当該反応は常圧で行うことが好ましく、反応の温度としては50℃以上とすることが反応速度の観点から好ましい。さらに反応促進の観点から、反応触媒として、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の酢酸塩、アルカリ金属のアルコキシド、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の酢酸塩、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のアルコキシドおよびアルカリ土類金属の水酸化物からなる群より選ばれた少なくとも1種の物質を添加することが好ましい。
【0010】
触媒の添加方法として特に好ましくは、新たな触媒の添加による金属塩などの不要物(廃棄物)の増加を回避する観点から、工程(b)にて分離された液成分である反応ろ液を当該残渣とを混合し、反応ろ液中に残存している失活していない触媒の作用にて当該反応を促進させることである。この反応にて生成した反応生成物はスラリー性状であり、固体の主成分はDMTである。そこで、この反応生成物を固液分離して、DMTを回収することが好ましい(工程(e))。この固液分離操作の例としては、例えばろ過操作や遠心分離操作などが挙げられる。また固液分離後の母液成分には一価アルコールや多価アルコールといった溶媒成分と触媒残渣等の金属塩などの不要物が存在する。そこで、当該母液成分より溶媒成分の一部または全部を回収することが好ましい(工程(f))。これらの溶媒はその前の工程で使用した若しくは生成した一価アルコールや多価アルコールであり、これらの溶媒を回収することがコスト的に好ましい。また多価アルコールはポリエステルの原料として使用することも可能である。回収の方法としては、膜分離や蒸留などが挙げられる。また、溶媒を回収した後の残渣には、少量の有効成分も含まれているが、本報の効果により不要物が濃縮されているので、製品品質保持や反応性確保の観点より、残渣の一部または全部を系外へ除去し、廃棄とすることが好ましい。すなわち、工程(a)〜(f)のいずれかに再投入する残渣総量を、発生した残渣の50重量パーセント未満にすることが好ましく、特に好ましくは30重量パーセント未満である。また、これらの残渣の全量を系外へ除去しても問題は無い。ここで、残渣総量とは、例えば工程(a)に2重量部、工程(b)に3重量部再投入する場合、5重量部ということである。
【実施例】
【0011】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0012】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記することもある)チップ200gに、EG:800g、炭酸ナトリウム4gを加え、攪拌付きセパラブルフラスコにて190〜200℃、常圧の条件下、4時間反応させプロダクト(ア)を得た。反応終了後、40.0kPa(300mmHg)まで減圧しこの反応プロダクト(ア)からEGを主成分とする軽沸点成分(イ)を602g留去した。次に、プロダクト(ア)から軽沸点成分(イ)を留去した残渣(ウ)にメタノール400gを徐々に投入した。さらに、触媒として、炭酸ナトリウム1.4gを加えた後、70〜80℃、常圧の条件下、1.0時間反応させた。該反応終了後、放冷してエステル交換反応プロダクト(エ)の温度を40℃とした。この40℃となったプロダクト(エ)をろ過により固液分離し、固体(ケーク)と濾液(オ)とをそれぞれ得た。その後、濾液(オ)400gを採取し、理論段数10段の蒸留装置にて、常圧の条件下、塔底温度が180℃になるまで加熱し、メタノールを主成分とする第一留分262gを回収した。さらに、塔底温度を120℃まで冷却した後、圧力を13.3kPa(100mmHg)とし、再度加熱を開始し、メタノールならびにエチレングリコールを主成分とする第二留分32.2gを回収した。さらに加熱を続け、エチレングリコールを主成分とする第三留分128gを回収した。ここで、塔底に残った残渣(カ)から20gを採取し、これにメタノール20gならびに触媒として、炭酸ナトリウム0.2gを加えた後、70〜80℃、常圧の条件下、1.0時間反応させた。反応終了後、放冷してエステル交換反応プロダクト(キ)の温度を40℃とした。この40℃となったプロダクト(キ)をろ過により固液分離し、ケーク(ク)と濾液とをそれぞれ得た。ケーク(ク)を90〜100℃のスチーム乾燥機にて1日乾燥させたところ、DMTを2.1g回収できた。
【0013】
[実施例2]
実施例1において、回収した残渣(カ)から20gを採取し、これに実施例1において回収した濾液(オ)50gを加えた後、75〜85℃、常圧の条件下、1.0時間反応させた。反応終了後、放冷してエステル交換反応プロダクト(キ)の温度を40℃とした。この40℃となったプロダクト(ク)をろ過により固液分離し、ケーク(ケ)と濾液とをそれぞれ得た。ケーク(ケ)を90〜100℃のスチーム乾燥機にて1日乾燥させたところ、DMTを2.9g回収できた。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明のポリエステルからポリエチレンテレフタレートを構成するモノマーを製造する方法によれば、モノマー成分を低エネルギー負荷で回収して収率を向上させることができる。さらにそれだけでなく、反応濾液中に含有している不純物の濃縮が可能となる。これらの効果により、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからポリエステルを構成するモノマーを高収率、低エネルギー負荷にて、廃棄物発生量を抑制しつつ回収することができる。この点において工業面で非常に有意義である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを含有するポリエステルからポリエチレンテレフタレートを構成するモノマーを製造するに際し、下記工程(a)〜(f):
工程(a):前記ポリエステルを多価アルコールにて解重合させた物質を一価アルコールと反応させ反応生成物を得る工程または前記ポリエステルを一価アルコールと反応させ反応生成物を得る工程、のいずれかひとつの反応工程
工程(b):工程(a)での反応生成物を固体成分と液成分とに固液分離する工程
工程(c):工程(b)の固液分離で回収した液成分から、多価アルコールならびに一価アルコールの一部または全部を回収する工程
工程(d):工程(b)の固液分離で回収した液成分から、多価アルコールならびに一価アルコールの一部または全部を回収した後の残渣と一価アルコールとを反応させる工程
工程(e):工程(d)での反応生成物を固体成分と液成分とに固液分離する工程
工程(f):工程(e)の固液分離で回収した液成分から、多価アルコールならびに一価アルコールの一部または全部を回収する工程
に順次供することを含み、
工程(f)の固液分離で回収した液成分から、多価アルコールならびに一価アルコールの一部または全部を回収した後に残存した残渣を工程(a)〜(e)に再投入する総量が、残存した残渣の50重量パーセント未満であることを特徴とするポリエステルを原料としたポリエチレンテレフタレートを構成するモノマーの製造方法。
【請求項2】
工程(d)で残渣と反応させる一価アルコールの一部または全部が、工程(b)にて分離された液成分であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルを原料としたポリエチレンテレフタレートを構成するモノマーの製造方法。

【公開番号】特開2012−116779(P2012−116779A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266540(P2010−266540)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】