説明

ポリエステルの製造方法及びポリエステルの製造装置

【課題】本発明の課題は、光学異性体化と熱分解が少ないラクチド等の環式縮合物を得られる事を通して、高品質のポリ乳酸等のポリマーを得ることである。
【解決手段】ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を反応槽内において重合触媒の存在下で、解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合するステップを含むポリエステルの製造方法である。上記反応槽内における上記縮合物溶融物の滞留量を測定しながら上記縮合物溶融物を連続供給し、外力を用いて前記縮合物溶融物を薄層化して解重合することを特徴とするポリエステルの製造方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融状態のポリマー原料からポリマーを合成するためのポリマー合成方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリマーの合成においては、温度履歴の長時間化に伴い、原料あるいはポリマーが一部熱分解するなどして、最終ポリマーの品質劣化が問題となることがある。また、ポリマーのうち、原料の分子中に不斉炭素が存在する場合は温度履歴に伴い一部光学異性体化が起こり、最終ポリマーの品質劣化が問題となることがある。
【0003】
開環重合反応により合成されるポリマーの1つであるポリ乳酸は、ヒドロキシカルボン酸の一つである乳酸を原料として作られるポリエステルである。乳酸からポリ乳酸を合成する方法の一つに、乳酸を縮合してオリゴマーを生成させ、これに2−エチルヘキサン酸スズ、酸化アンチモン等の触媒を添加して減圧環境下で解重合反応を起こさせル方法がある。この方法により環状縮合物であるラクチド(乳酸の二量体)を生成させ、ラクチドにオクチル酸スズ等の触媒を添加して開環重合する方法がある。この場合においても、各工程の熱履歴による熱分解の可能性があり、同様なことは例えば、グリコール酸を環状二量体であるグリコリドに変換してこれを開環重合して合成するポリグリコール酸等、他のヒドロキシカルボン酸のポリマーについても当てはまる。熱分解物の混入は、製品ポリマーの着色等、物性低下の原因となりうるため望ましくない。
【0004】
ポリ乳酸の場合はさらに、ポリマー骨格となる乳酸分子に不斉炭素が含まれるため、解重合工程の熱履歴により、エノール化反応を通して一部光学異性体化(D−乳酸)が起きる場合がある(図1)。ポリ乳酸では通常L−乳酸を原料としたホモポリマーを合成する場合が多い。これはポリ乳酸を構成する乳酸骨格の一部が光学異性体化すると、その量に応じてポリマーの結晶性が低下するため、融点低下、耐加水分解性の低下等、ポリマー物性が劣化するためである。
【0005】
このため、特許文献1に記載される発明では、減圧環境下のタンク式反応槽内においてオリゴマーと触媒を接触させて解重合を行う。これにより生成した粗ラクチドから沸点の違いを利用してメソラクチド(L−乳酸とD−乳酸でできたラクチド)を蒸留により分離し、LL−ラクチドの純度を上げる精製工程を設置している。精製の方法には、この他、融点の違いを利用するメルト晶析、溶媒への溶解度の違いを利用する溶媒晶析等がある。しかしながら、いずれの方法にしても精製工程では生成した熱分解物やメソラクチドを除去するため、LL−ラクチドの一部がロスされる。このため、原料の収率が低下し、製品ポリマーの価格上昇の一因となっており、解重合工程での熱分解、光学異性体化を抑制する技術の開発が必要とされている。また、特許文献2に記載される発明では、解重合反応を短時間で終了させて光学異性体化を抑制するため、反応槽に薄膜蒸発装置を適用している。しかしながら、本発明では解重合反応の時間と光学異性体化の関係が明記されておらず、また、光学異性体化を抑制する観点から薄膜蒸発装置をどのように利用するのが適切か、記載されていない。このため、解重合時における光学異性体化の抑制は困難な状態であった。
【0006】
【特許文献1】特許3258324号公報
【特許文献2】特開平10−168077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、溶融状態の原料からポリマーを合成するに際し、高品質のポリマーを高収率で合成することができるポリエステル合成方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を反応槽内において重合触媒の存在下で、解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合するステップを含むポリエステルの製造方法であって、
上記反応槽内における上記縮合物溶融物の滞留量を測定し、それに基づいて上記縮合物溶融物を連続供給し、外力を用いて前記縮合物溶融物を薄層化して解重合することを特徴とするポリエステルの製造方法を発明するに至った。
【0009】
また本発明は、反応槽と、該反応槽にヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を供給する手段と、該反応槽に重合触媒を供給する手段と、これにより該反応槽内において触媒との接触による解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリエステルを製造する装置であって、
上記縮合物溶融物の滞留量を測定する機器を設けた薄膜蒸発装置を有し、これにより縮合物溶融物の薄層化、解重合を実施することを特徴とするポリエステル製造装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高品質のポリマーを高収率で合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
乳酸の縮合物溶融物をラクチドに変換する解重合工程には、縮合物溶融物からラクチドを生成する解重合反応その逆の化学反応、及び生成したラクチドの蒸発反応が含まれる。
【0012】
解重合反応は触媒の添加濃度の4/3乗に比例して早くなり、これを増やすことで加速する一方、図1に示す光学異性体化反応も同様に加速することを見出した。また、解重合温度を低下させる方法は光学異性体化反応と共に解重合反応自体も鈍化させプロセスの運転効率を低下させるので望ましくない。そこで、縮合物溶融物の連続供給と生成した粗ラクチドの連続排出、連続供給する縮合物溶融物への解重合前の触媒添加・分散及び反応槽中の縮合物溶融物の滞留量一定化の少なくとも1つにより、縮合物溶融物中の触媒濃度を一定化する。それと共に、縮合物溶融物の液の高さ又は深さを低くして気相との界面積を増大させ、生成したラクチドの蒸発を加速(液深さの1/2乗に比例して滞留時間が増大)させることで解重合工程での熱履歴時間を短縮し、光学異性体化反応が起きる回数を低下させる方法を見出した。そして、本発明方法により熱分解も低減できる事を見出した。
【0013】
本発明の一実施形態は、ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を触媒との接触による解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリエステルを製造する方法である。この方法においては、上記縮合物溶融物を減圧環境の上記反応槽内に滞留量を測定しながら連続供給し、外力を用いて薄層化して解重合することができる。
【0014】
別の実施形態は、ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を触媒との接触による解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリエステルを製造する方法である。この方法によれば、上記縮合物溶融物に触媒を添加、分散した後、これを減圧環境の上記反応槽内に連続供給し、外力を用いて薄層化して解重合することができる。
【0015】
別の実施形態は、ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を減圧環境に連続供給し、外力を用いて薄層化して解重合を行うことで環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリエステルを製造する方法である。この方法によれば、上記薄層化に用いる外力として重力及び遠心力の少なくとも一つを含むポリエステル合成が実施できる。
【0016】
別の実施形態は、ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を触媒との接触による解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリエステルを製造する装置である。この装置によれば、縮合物溶融物の薄層化、解重合を滞留量の測定装置を設けた薄膜蒸発装置により実施することができる。薄膜蒸発装置としては横型の遠心薄膜蒸発装置が特に好ましい。
【0017】
別の実施形態は、ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を触媒との接触による解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリエステルを製造する装置である。事前に触媒を縮合物溶融物に添加・分散させた後、これを減圧環境下に設置された構造物外面に沿って流下させることで薄層化、解重合を実施することができる。
【0018】
本発明のポリマー合成方法及び装置は、開環重合反応によって生成するポリマーの重合に好適に用いられる。開環重合反応によって生成するポリマーについては、環式縮合物のポリマー原料、特に環式二量体の開環重合反応によって合成されるポリマー、特にポリエステルの重合反応に好適に用いられる。例えば、ポリ乳酸、乳酸を主成分とする共重合体、ポリグリコール酸、グリコール酸を主成分とする共重合体等、ヒドロキシカルボン酸のホモポリマー、これらを含む共重合体が挙げられる。
【0019】
本発明の方法及び装置は、ラクチドの開環重合によるポリ乳酸、グリコリドの開環重合によるポリグリコール酸の合成に特に好適に使用される。ここで、ポリ乳酸の原料として使用されるラクチドは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。
【0020】
また、グリコリドはグリコール酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリグリコール酸は、グリコール酸を主成分とする重合体を意味し、他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリグリコール酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。乳酸、グリコール酸以外のヒドロキシカルボン酸の例としては、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸など、ラクトンの例としては、ブチロラクトン、カプロラクトンなど、ジカルボン酸の例としては炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸がある。
【0021】
ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールがあげられる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどポリアルキレンエーテルのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。
【0022】
同様にポリアルキレンカーボネートのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。添加物の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分及び添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸又は乳酸由来のもので、共重合成分及び添加剤は50重量%以下、特に30%以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明のポリマー合成方法及び装置は、原料の縮合物を溶融状態で中間原料である環式縮合物に変換するためのものであり、溶融状態にある縮合物を連続的に供給し、加熱しつつ触媒と接触させて減圧環境下に置くことで解重合を行うものである。原料とは、重合するポリマーの骨格構成要素となるモノマーを意味する。ポリ乳酸の場合では乳酸、ポリグリコール酸ではグリコール酸である。原料の縮合物とは原料分子自身が縮合反応で複数個直鎖状にエステル結合した低分子量ポリマーの集合体であり、以下、オリゴマーと呼ぶ。
【0024】
オリゴマーには通常、重合度1以上で複数の重合度の低分子量ポリマーが含まれる。環式縮合物とは原料分子自身が複数個環状にエステル結合した低分子量ポリマーであり、開環重合のための中間原料である。ポリ乳酸、ポリグリコール酸の場合ではそれぞれ環状二量体であるラクチド、グリコリドである。本明細書において、反応液とは溶融したオリゴマー、オリゴマーと触媒の混合物、オリゴマー、触媒、環状縮合物の混合物など、合成工程で流通する溶融物や生成物などを全て包含するものとする。
【0025】
本発明において、連続的に合成するとは、当該技術分野において通常用いられる意味を有する。従って、原料等の供給と生成物や反応液等の排出を行う時間帯が少なくとも一部重なる場合や、原料等の供給を連続的に行い、生成物や反応液等を連続的に排出する場合を含むものである。
【0026】
オリゴマーが溶融状態にあるためには、加熱温度がオリゴマーの融点以上である必要がある。融点はオリゴマーの重合度分布や原料モノマーの種類、配合率等によって変化するが、通常100〜250℃、好ましくは180〜220℃である。
【0027】
重合反応のための触媒としては、当業者であれば、合成するポリマーによって好適なものを適宜選択できる。例えば、乳酸やグリコール酸のオリゴマーの解重合に用いられる触媒としては、従来公知のポリ乳酸、ポリグリコール酸の開環重合用触媒を用いることができ、例えば、周期表IA族、IVA族、IVB族及びVA族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は金属化合物を含む触媒を用いることができる。
【0028】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、2−エチルヘキサン酸スズ等)、及び粉末スズ等が挙げられる。IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等が挙げられる。IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等が挙げられる。VA族に属するものとしては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、有機スズ系触媒又はスズ化合物が活性の点から特に好ましい。
【0029】
触媒は液体、または粉末状の固体のものであれば、当該技術分野で通常用いられる触媒添加装置により溶融オリゴマーに添加してから混合液を解重合装置に連続供給し解重合後の残液を連続排出する方法、及び解重合装置に直接添加する。または連続供給されてきた溶融オリゴマーと解重合装置内で接触させる方法のいずれも可能である。しかしながら、触媒は所定の寿命の間(触媒活性を有する期間)、溶融オリゴマーを解重合させることが可能なので、後者の方法を取って、触媒活性が低下してきた段階で残液を排出し、新しい触媒を添加する方法が効率的である。この他、触媒が固体の場合には解重合装置内の機器、構造物で溶融オリゴマーと接触する面の少なくとも一部に担持させる方法がある。本方法では触媒の添加装置が不要となる反面、上記方法と比べて溶融オリゴマーとの実際の接触面積が低下するので解重合反応が遅くなる、触媒活性低下のたびに解重合装置内の機器、構造物をメンテナンスする必要がある等の短所がある。
【0030】
本発明において、遠心薄膜蒸発装置とは、図2(a)に示すように、装置内に供給された被濃縮液を遠心力により装置ケーシング内面に被濃縮液を当てて液膜を形成し、装置ケーシング外面からの加熱により蒸発を促すものである。遠心力は固定された装置ケーシング内に翼が設置された回転子を設置し、回転する翼を通して被濃縮液に与えられる。本方式では設備規模をコンパクトにできる、翼とケーシングの間のギャップ幅及び翼の回転制御により液膜厚さを制御できる等の長所がある。また、被濃縮液を減圧環境下に設置された構造物外面に沿って流下させることで薄層化・蒸発させる装置として、上から被濃縮液を管群、板群等の構造物の外面に注ぎ、外面形状に沿った液膜を形成することで蒸発を促進させるものである(水平管下降膜型蒸発装置〔図2(b)〕又は垂直長管下降膜型蒸発装置〔図2(c)〕)。管群、板群等の構造物について、その内部に熱源を有する場合、液膜を加熱させることができる。本方式では動力を用いなくとも重力に伴う液膜の流れにより薄膜を形成させることができる長所がある。
【0031】
さらに、遠心薄膜蒸発装置と下降膜型蒸発装置の両方の性格を持つ装置として、構造物内面に沿って被濃縮液を上から注ぎ、構造物内部に設置された翼付の回転子を回転により、所定の厚さ以上の液膜を翼で掻き取り、構造物外面からの加熱で蒸発を促進する攪拌膜型蒸発装置〔図2(d)〕などがある。本方式では動力を用いなくとも重力に伴う液膜の流れにより薄膜を形成させつつ、翼とケーシングの間のギャップ幅により液膜厚さを制御できる長所がある。これらの装置はいずれも本発明における溶融オリゴマーの連続解重合装置に適用することが可能である。これらのうち、重力により構造物外面に沿って流れ液膜を形成する装置の場合、流れの途中で触媒を添加分散することができないので、事前に触媒を添加・分散することが必要となる。また、装置下端に到達した流れについては装置内に滞留しないよう連続排出することが望ましい。これは装置下端に到達した流れには触媒が高濃度で含まれ、その残存は光学異性体化を増大させる場合があることに起因する。
【0032】
一方、横型の遠心薄膜蒸発装置〔図2(a)〕については装置内に触媒を滞留させ、回転子、翼の稼動により触媒を溶融オリゴマーに分散させることが可能である。従って、装置の一端から溶融オリゴマーを連続供給しても、それが環状二量体蒸気の排出量に見合っていれば滞留量を一定に保てるので、他端から連続排出を行うことは必ずしも必要でない。触媒活性の低下に伴う解重合反応の効率低下や溶融オリゴマーの解重合後の残渣蓄積により滞留量が増大してきた時、断続的に装置内の液を排出し、新規に触媒を装置内に添加して運転を再開すればよい。
【0033】
以下に、解重合反応のための方法、及び装置の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は全て図3に示す、原料モノマーからポリマーを合成する一連の工程のうちで、解重合工程に関するものである。図4の全工程は原料モノマーの濃縮工程、濃縮物の縮合工程、オリゴマーの解重合工程、環状縮合物の精製工程、開環重合工程、残存モノマーの処理離工程、ポリマーの乾燥工程から構成される。これらはポリマーの性状、プロセスの必要性に応じて省略したり、途中で他工程を追加しても良い。また、残存モノマーの処理工程には、減圧環境下におけるモノマーの脱離・除去、融点以下の温度における固相重合等の方式から選択できる。
【0034】
本発明の一実施形態においては、解重合装置として遠心薄膜蒸発装置を用いる。遠心薄膜蒸発装置内は環式縮合物凝縮器、不純物凝縮器を経由して設置されている真空ポンプにより減圧されており、断続的に触媒が添加される。原料モノマーの濃縮・縮合で得られた溶融オリゴマーは連続的に遠心薄膜蒸発装置内に供給される。溶融オリゴマーの装置内滞留量は滞留量測定器により計測され、一定となるよう供給量は調節される。遠心薄膜蒸発装置内には液体触媒が添加されており、回転子の翼の回転により溶融オリゴマーと液体触媒は混合されると共に遠心力で装置ケーシング内面に押しつけられ、内面の形状に沿って液膜を形成する。装置ケーシング外面は熱媒等で加熱されており、これにより液膜は加熱され、触媒との接触により生成した環式縮合物の蒸発が促進される。環式縮合物を含む蒸気は遠心薄膜蒸発装置の外に排出され、環式縮合物凝縮器に供給される。
【0035】
ここで環式縮合物は凝縮して回収され、精製工程に移送される。環式縮合物凝縮器を出た蒸気は不純物凝縮器に入り、ここで液化される。凝縮した不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物凝縮器を出たガスは真空ポンプを経由して、系外に放出される。
【0036】
遠心薄膜蒸発装置について、上記の方式は固定された装置ケーシング内で翼を回転させて遠心力を与える方式であり、翼は通常回転軸に平行な板状のもので回転軸から放射状に設置される場合が多い。その他上記翼にねじれを加えスクリュー状にした物を用いる場合もある。遠心薄膜蒸発装置は回転軸が地面に水平なもの、垂直なもの、その中間の角度のもの、いずれでも良い。また、滞留量測定器については液ヘッド、溶融オリゴマーの誘電率、差圧等を利用した液面計などが適用可能である。
【0037】
触媒の添加については、遠心薄膜蒸発装置の外に排出された物質重量が低下してきた場合、あるいは滞留量が時間と共に増大してきた場合には触媒活性が低下してきたものとみなす。そして、一度装置ドレンから内部反応液を排出した後、所定量の溶融オリゴマーと触媒を添加し混合後、装置運転を再開し、溶融オリゴマーの連続供給、環式縮合物蒸気の連続排出を開始する。なお、固体触媒をケーシング内面等に設置する場合については、触媒の供給操作・装置は不要となる。
【0038】
環式縮合物凝縮器、及び不純物凝縮器については、金属管を隔てて上記と冷媒が間接的に接触する表面凝縮器が望ましい。これは環式縮合物が水を含む冷媒と直接接触すると分解して酸を生成するためである。これは酸触媒として開環重合反応の進捗を阻害する上、凝縮器等の材料腐食を引き起こす可能性がある。不純物凝縮物には融点が低い光学異性体成分が含まれる場合があり、これも水と接触すると酸を生成するので同様に腐食を引き起こす可能性がある。冷媒として環式縮合物に対し不活性なものを用いる場合は上記の限りではないが、その場合、冷媒を十分乾燥させ湿分を低減する必要がある。
【0039】
本発明の他の一実施形態においては、解重合装置として攪拌膜型蒸発装置を用いる。攪拌膜型蒸発装置内は環式縮合物凝縮器、不純物凝縮器を経由して設置されている真空ポンプにより減圧されており、断続的に触媒が添加される。原料モノマーの濃縮・縮合で得られた溶融オリゴマーには液体触媒が添加される。添加された触媒は分散装置により溶融オリゴマー中に分散される。そして触媒を分散した溶融オリゴマーは連続的に攪拌膜型蒸発装置上部から供給され、ケーシング内面に沿って流下する。攪拌膜型蒸発装置内では回転翼により液膜の余分な厚さ部分を除去し、熱媒等で加熱されている装置ケーシング外面からの伝熱による環式縮合物の生成・蒸発を促進させる。
【0040】
翼の回転は必要に応じて止めることができる。この場合は、下降膜型蒸発装置として実質的に機能することになる。環式縮合物を含む蒸気は攪拌膜型蒸発装置の外に排出され、環式縮合物凝縮器に供給される。ここで環式縮合物は凝縮して回収され、精製工程に移送される。環式縮合物凝縮器を出た蒸気は不純物凝縮器に入り、ここで液化される。凝縮した不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物凝縮器を出たガスは真空ポンプを経由して、系外に放出される。
【0041】
攪拌膜型蒸発装置について、ケーシング内面での反応液の流れを均質化する観点から、回転軸が地面に垂直なものが望ましい。また、攪拌膜型蒸発装置の代わりに各種の下降膜型蒸発装置を適用することもできる。形状、地面に対する設置角度等、様々なものが考えられる。反応液の流れを均質化するため、構造物の外面、すなわち蒸発面に沿って溶融オリゴマーの流れが広がるような工夫する。例えば構造物の外面に沿って溶融オリゴマー供給口を複数個設置する、といった方法を採用することが望ましい。
【0042】
触媒の添加・分散については、溶融オリゴマーに対して連続的に供給し、蒸発装置に供給される前にスタティックミキサー等を用いて混合しておくことが望ましい。これは不均質なまま解重合を行うと、局所的に高濃度の触媒領域では光学異性体化が多くなり、反対に低濃度の領域では解重合反応が遅延する場合があるためである。蒸発面を流れ落ちた反応液は装置ドレンから排出される。排出液にはまだ活性が残っている触媒が高濃度で存在するため、廃棄せずに溶融オリゴマー供給系に戻し再利用することも可能である。なお、固体触媒をケーシング内面等に設置する場合については、触媒の供給操作・装置は不要となる。環式縮合物凝縮器、及び不純物凝縮器については、同様に表面凝縮器が望ましい。
【0043】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
図4に、本発明のポリマー合成装置における連続解重合工程の一実施例として、遠心薄膜蒸発装置を連続解重合装置に適用した乳酸オリゴマーの解重合工程の実施例を示す。本実施例では、オリゴマー供給槽1、触媒供給槽2、連続解重合装置3、ドレン回収槽4、ラクチド凝縮器5、ラクチド回収槽6、不純物凝縮器7、不純物回収槽8、真空ポンプ9、送液ポンプ10〜15、バルブ16〜26、液面計36を備える装置によってラクチドの合成を行う。本実施例のラクチド凝縮器5、不純物凝縮器7については必要に応じてそれぞれ複数段を用意し、かつ直列、並列いずれの設置も可能である。また、オリゴマー供給槽1、送液ポンプ10〜15、バルブ16〜26については必要に応じて省略することができる。
【0045】
バルブ16を開き、送液ポンプ10を稼動させて、溶融オリゴマーをオリゴマー供給槽1から連続解重合装置3に連続供給する。連続解重合装置3へは触媒供給槽2から必要に応じて、バルブ17を開き、送液ポンプ11を稼動させて触媒が供給される。連続解重合装置3では内部の翼29が回転し、これにより溶融オリゴマーと触媒が混合されると共に混合液は遠心力を受け、ケーシング30の内面に押し付けられて液膜を形成する。連続解重合装置3内の溶融オリゴマー滞留量は液面計36により測定され、一定となるよう送液ポンプ10を調節する。液膜部分には熱電対27が設置されており、液膜温度を測定できる。熱電対27の出力は温度調節器28に送られる。ケーシング30外面は熱媒加熱装置32を有する熱媒ジャケット33で混合液温度が200℃となるように、温度調節器28の制御を受けて加熱される。上記加熱を受け、触媒との接触により溶融オリゴマーが解重合して生成したラクチドは液膜から蒸発する。バルブ22〜26を開くと、蒸気排気口34から蒸気が排出される。
【0046】
排出された蒸気はラクチド凝縮器5に供給される。ここでラクチドは融点95〜98℃に近い温度まで冷却されて凝縮しラクチド回収槽6に流下して回収された後、バルブ19を開き、送液ポンプ13を稼動させて、精製工程に移送される。ラクチド凝縮器5を出た蒸気は不純物凝縮器7に入り、不純物はメソラクチドの融点53℃に近い温度まで冷却されて凝縮し不純物回収槽8で回収される。不純物凝縮物はバルブ20を開き、送液ポンプ14を稼動させて、系外に排出される。不純物凝縮器7を出たガスは真空ポンプ9を経由して、系外に放出される。連続解重合装置3の外に排出された物質重量が低下してきたら触媒活性が低下してきたものとみなし、送液ポンプ10を一度停止した後、バルブ18を開き、送液ポンプ12を用いて、装置ドレン口35から内部反応液をドレン回収槽4に排出する。
【0047】
ドレン液はバルブ21を開き、送液ポンプ15を稼動させて、系外に排出される。その後、送液ポンプ10を稼動させて溶融オリゴマーの供給を開始すると共に、バルブ17を開き、送液ポンプ11を稼動させて所定量の触媒を添加し、装置運転を再開する。
【0048】
実施例1で示した装置によって粗ラクチドを合成した。本実験で用いたオリゴマーは数平均分子量630であった。連続解重合装置3におけるオリゴマーの滞留時間5h、液膜厚さ5cm、触媒(2−エチルヘキサン酸スズ)濃度0.7kg/mの時、解重合工程での光学異性体化率の増加は1%であった。ここでオリゴマーの滞留時間は溶融オリゴマーの供給流量と蒸気排気口34から排出される蒸気の凝縮物流量が等しく、液膜厚さが安定化した時の溶融オリゴマー供給流量/連続解重合装置3における溶融オリゴマー滞留量で定義した。また、本ラクチドを用いて開環重合したポリ乳酸の着色はb値で2.5であり、解重合時の熱分解の影響は小さいと考える。
【0049】
(実施例2)
図5に、本発明のポリマー合成装置における連続解重合工程の一実施例として、攪拌膜型蒸発装置を連続解重合装置に適用した乳酸オリゴマーの解重合工程の実施例を示す。本実施例では、オリゴマー供給槽1、触媒供給槽2、連続解重合装置3、ドレン回収槽4、ラクチド凝縮器5、ラクチド回収槽6、不純物凝縮器7、不純物回収槽8、真空ポンプ9、送液ポンプ10〜15、バルブ16〜26、スタティックミキサー37を備える装置によってラクチドの合成を行う。本実施例のラクチド凝縮器5、不純物凝縮器7については必要に応じてそれぞれ複数段を用意し、かつ直列、並列いずれの設置も可能である。また、オリゴマー供給槽1、送液ポンプ10〜15、バルブ16〜26については必要に応じて省略することができる。
【0050】
バルブ16を開き、送液ポンプ10を稼動させて、溶融オリゴマーをオリゴマー供給槽1から連続解重合装置3に連続供給する。溶融オリゴマーには連続解重合装置3に到達する前に、バルブ17を開き触媒供給槽2から送液ポンプ11を稼動させて触媒が供給され、スタティックミキサー37により溶融オリゴマー中に分散される。連続解重合装置3では上部からケーシング30の内面に沿って溶融オリゴマーと触媒の混合液が注がれる。連続解重合装置3の翼29が回転し、混合液の液膜の余分な厚さの部分が除去され、均一厚さの液膜を形成する。液膜部分には熱電対27が設置されており、液膜温度を測定できる。熱電対27の出力は温度調節器28に送られる。
【0051】
ケーシング30外面は熱媒加熱装置32を有する熱媒ジャケット33で混合液温度が200℃となるように、温度調節器28の制御を受けて加熱される。上記加熱を受け、溶融オリゴマーの解重合で生成したラクチドは液膜から蒸発する。バルブ22〜26を開くと、蒸気排気口34から蒸気が排出される。排出された蒸気はラクチド凝縮器5に供給される。ここでラクチドは融点95〜98℃に近い温度まで冷却されて凝縮しラクチド回収槽6に流下して回収された後、バルブ19を開き、送液ポンプ13を稼動させて、精製工程に移送される。ラクチド凝縮器5を出た蒸気は不純物凝縮器7に入り、不純物はメソラクチドの融点53℃に近い温度まで冷却されて凝縮し不純物回収槽8で回収される。不純物凝縮物はバルブ20を開き、送液ポンプ14を稼動させて、系外に排出される。不純物凝縮器7を出たガスは真空ポンプ9を経由して、系外に放出される。
【0052】
連続解重合装置3の底部に到達した混合液はバルブ18を開き、送液ポンプ12を用いて、装置ドレン口35から内部反応液をドレン回収槽4に排出する。ドレン液はバルブ21を開き、送液ポンプ15を稼動させて、系外に排出されるか、必要に応じて触媒供給槽2に戻され、溶融ラクチドに供給される。
【0053】
実施例2で示した装置によって粗ラクチドを合成した。オリゴマーは実施例1と同じものを用いた。連続解重合装置3におけるオリゴマーの滞留時間5h、液膜厚さ5cm、触媒(2−エチルヘキサン酸スズ)濃度0.7kg/mの時、解重合工程での光学異性体化率の増加、本ラクチドを用いて開環重合したポリ乳酸の着色は実施例1と同程度であった。
【0054】
(比較例)
実施例1と同じオリゴマーを用いて、従来のタンク式反応槽でバッチ方式による解重合を行った。解重合時間10h、初期液面高さ80cm、初期触媒濃度5kg/mの条件で実施した。その結果、生成したラクチドについて、解重合工程での光学異性体化率の増加は9%、本ラクチドを用いて開環重合したポリ乳酸の着色はb値で4.4であった。
【0055】
以上から、本発明の方法により、光学異性体化と熱分解が少ないラクチド等の環式縮合物を得られる事を通して、高品質のポリ乳酸等のポリマーが得られることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明で対象とする、乳酸の光学異性体化反応を説明する図である。
【図2】本発明の連続解重合装置で用いることができる蒸発装置を示す断面図である。
【図3】本発明を用いるポリマー合成装置の全体工程を示すフロー図である。
【図4】本発明の連続解重合装置の一実施例を示す概略線図である。
【図5】本発明の連続解重合装置の他の一実施例を示す概略線図である。
【符号の説明】
【0057】
1…オリゴマー供給槽、2…触媒供給槽、3…連続解重合装置、4…ドレン回収槽、5…ラクチド凝縮器、6…ラクチド回収槽、7…不純物凝縮器、8…不純物回収槽、9…真空ポンプ、10〜15…送液ポンプ、16〜26…バルブ、27…熱電対、28…温度調節器、29…翼、30…ケーシング、31…熱媒循環ポンプ、32…熱媒加熱装置、33…熱媒ジャケット、34…蒸気排気口、35…装置ドレン口、36…液面計、37…スタティックミキサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を反応槽内において重合触媒の存在下で、解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合するステップを含むポリエステルの製造方法であって、
上記反応槽内における上記縮合物溶融物の滞留量を測定し、それに基づいて上記縮合物溶融物を連続供給し、外力を用いて前記縮合物溶融物を薄層化して解重合することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記縮合物溶融物に重合触媒を添加、分散した後、これを前記反応槽に連続供給し、外力を用いて前記縮合物溶融物を薄層化して解重合することを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
縮合物溶融物の薄層化に用いる外力が、重力及び/又は遠心力を含むことを特徴とする、請求項1又は2項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
反応槽と、該反応槽にヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を供給する手段と、該反応槽に重合触媒を供給する手段と、これにより該反応槽内において触媒との接触による解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリエステルを製造する装置であって、
上記縮合物溶融物の滞留量を測定する機器を設けた薄膜蒸発装置を有し、これにより縮合物溶融物の薄層化、解重合を実施することを特徴とするポリエステル製造装置。
【請求項5】
前記薄膜蒸発装置は横型の遠心薄膜蒸発装置であることを特徴とする請求項4記載のポリエステル製造装置。
【請求項6】
前記縮合物溶融物に触媒を添加、分散する装置、及び液体を構造物表面に沿って流下させることで薄層化させる装置を有し、これにより縮合物溶融物の解重合を実施することを特徴とする請求項4記載のポリエステルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−100011(P2007−100011A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294558(P2005−294558)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】